オシラトリア・プランクトスリックスから得られた抗炎症活性を有する糖脂質混合物
シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックスの細胞から抽出した極性糖脂質の高度に精製した調製物は、1つ又は複数の単位のラムノースを含む、少なくとも1種の高分子量糖脂質の存在を特徴とすることが観察された。核酸混入のレベルが3%未満の(又は3%に等しい)そのような混合物において、細胞外ATPのレベルを低下させ、それによって炎症反応の程度を低下させることができる、ATPシンターゼ(ATP−SX)に対する阻害活性が確認された。この糖脂質混合物は、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、血管炎などの全身性炎症状態或いは神経変性疾患又は喘息などの局所的炎症状態に加えて、虚血刺激、癌又は自己免疫性疾患(多発性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、乾癬、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、全身性紅斑性狼瘡など)によって誘導される炎症において特に有用である。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、シアノバクテリアの細胞から調製した糖脂質混合物に関する。糖脂質混合物の主成分は、抗炎症性及び免疫調節性を有するラムノース含有高分子量糖脂質である。
【0002】
[現状技術]
藍藻とも呼ばれるシアノバクテリアは、特異な性質を有する有効成分の自然源である。
シアノバクテリアからの低分子量糖脂質抽出物は、たとえば、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)、ホスファチジルグリセロール(PG)など、グリセロールの脂肪酸エステル類に属する脂質成分を含有することがよく知られている(Murakamiら、1991、Chem.Pharm.Bull.、39:2277〜81)。
【0003】
様々なシアノバクテリアから調製したそのような組成を有する脂質膜抽出物は、たとえば、EP1571203に記載の抗炎症性、及びShiraashi H.ら、1993、Chem.Pharm.Bull.、41:1664〜66)に記載の抗腫瘍性など、様々なタイプの生物活性を示してきた。シアノバクテリアから抽出したスルホ脂質は、抗HIV活性も示した(Gustafson,J.Natl.Cancer Instit.、1989、81:1254〜1258)。本特許出願の著者らは、オシラトリア・プランクトスリックスの細胞由来の粗抽出物が、微生物病原構造体の認識、及び免疫の認識及び刺激を担う細胞内へのその侵入の主要経路の1つであるTLR4受容体(Rosenberger C.M.ら、2003、Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.4:385〜96)に対するLPSアンタゴニスト活性を含有することを以前記載した(Macagno A.ら、2006、J.Exp.Med.203:1481〜92)。
【0004】
さらに、この抗TLR4活性は、Neisseria MeningitidisのLPSに対しても発揮されることが続いて報告された(Jemmett Kら、2008、Infect.Immun.76:3156〜63)。
【0005】
実際、微生物による炎症促進性刺激は、主として樹状細胞及びマクロファージ上に存在するトール様受容体(Toll−like receptor)を介して作用し、この受容体は核因子NFkBを介して炎症促進性刺激を翻訳し、次いでNFkBは炎症性サイトカインの転写を誘導する。
【0006】
この発見は、細菌LPSがそれ自体の受容体に結合することを阻害して微生物起源の炎症の発症を防ぐのに極めて重要であるが、すでに開始された炎症促進性カスケードの活性化の程度に対する影響は限られたものでしかない。
【0007】
実際よく知られているように、微生物も原因となり得る炎症のプロセス(発赤、熱、腫れ、疼痛を特徴とする)は、外傷性組織損傷に起因する刺激、又は腫瘍、紫外線若しくは低酸素症によって起こる刺激などの様々な刺激が引き金となって起きる。一般に、急性の炎症促進性刺激に対する反応により、シグナル増幅に導く協調的で冗長的な機構を介して、走化性を誘導し、細胞接着に影響を与える毛細血管の透過性を変化させることを含む、様々な影響を及ぼす相異なる細胞内及び細胞外シグナル経路が活性化される。その結果として、炎症は鎮静化することもあり、又は、そのような機構が変性し、周囲組織の慢性炎症及び線維症に導くこともある。
【0008】
一般に用いられている、広域スペクトルの抗炎症治療の中で、副作用として骨粗鬆症及び凝固阻害を伴うグルココルチコイド治療、及びかなり最近合成された抗COX−2化合物を含み、血管のプロスタサイクリン合成を減少させ、そのため明らかに心血管のリスクを高める非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)による治療は、言及するだけの価値がある。
【0009】
サイトカイン特異的な抗炎症戦略(TNFを中和できる抗体などの阻害剤による治療など)にも制限がある。高度に冗長的な炎症促進性反応を全体的に減少させることができないことに加えて、この戦略には、潜伏感染及び日和見感染などの感染のリスク増大、並びに心疾患又は家族性脱髄を有する患者における予測不能の有害作用を含む様々な禁忌がある。
【0010】
したがって、本分野では、炎症促進性反応の初期に活性化される中心的メディエーターに作用できる非ステロイド性抗炎症薬を発見すれば、極めて望ましいであろう。
【0011】
壊死細胞は最も効率的な炎症促進性刺激の1つであり、細胞損傷の際に細胞間隙の水相を効率的に通過して特異的受容体(広範囲にわたる細胞型上に存在するプリン作動性受容体)に結合し、それを活性化する重要なメディエーターであり、650Daの荷電分子である細胞外ATPの放出も、そのような刺激の1つであることが現在よく認識されている。細胞外ATPレベルは、細胞膜上又は細胞外若しくは細胞周辺の環境に存在し、炎症促進性反応を調節する機構に関与する酵素(シンターゼ、エクトヌクレオチダーゼなど)によっても能動的に且つ特異的に調節される。したがって、最も有効な炎症促進性刺激の1つは、細胞損傷に際して細胞外間隙に放出される事前合成形態、及び炎症の初期段階中に周辺組織内で新規に合成された形態の両方の細胞外ATPであるとの仮説が次第に確立されつつある(Di Virgilio F.、2007、Purinergic signal.3:1〜3;La Sala Aら、2003.J.Leukoc.Biol.73:339〜43)。細胞外ATPレベルを調節するように共同する、シンテターゼ及びエクトヌクレオチダーゼなどの酵素は、生体内に基本的に遍在するタンパク質であり、その発現が免疫細胞、内皮細胞、及び脂肪細胞に限定されているトール様受容体とは異なっている。特に、ATPシンターゼ酵素は、肝細胞、神経細胞、星状細胞、線維芽細胞、免疫細胞、内皮細胞などの多くの異なる細胞型上に発現され、腫瘍細胞の細胞膜上に特に高レベルで発現される(Mowery YMら、2008.Cancer Biol.&Ther.7:1836〜38)。
【0012】
したがって、本発明によって精製された混合物による酵素複合体への結合及びATPシンターゼ(ATP−SX)の阻害の検出、並びに以前に観察された抗LPS活性を介してより一般的な炎症反応を低下させる際の相加的又はおそらく相乗的な効果の検出は、微生物の刺激によって炎症が誘発されたものではない疾患(たとえば自己免疫性疾患、喘息、関節リウマチ、乾癬性関節炎、クローン病、多発性硬化症及び全身性の血管炎)において極めて重要である(図1)。
【0013】
アンジオスタチン、リスベラトロール及びピセタノールのような、抗炎症活性を有する分子が、ATP−SX活性を調節できる分子グループに属する(Chavakis T.ら、2005、Blood、105:1036〜43;Ashikawa K.ら、2002、J.Immunol.169:6490〜7)ことに注目することは重要である。
【0014】
本発明の説明で詳細に示すように、オシラトリア・プランクトスリックス由来の糖脂質混合物は、主成分がラムノース含有糖脂質である高分子量糖脂質の存在を特徴とする。分子量が10KDa未満のラムノース含有糖脂質(ラムノリピド)は、文献にすでに記載されていたが、本混合物の糖脂質とは特性及び性質が非常に異なっている。
【0015】
たとえば、ヒトの病原細菌であるPseudomonas aeruginosaの培地から単離されたラムノリピドの知見がある(Yokotaら、Eur.J.Biochem.、1987 167、203〜209)。これらの物質はバイオサーファクタント活性を有し得る(Zhang Y.及びMiller R.Appl.Environ.Microbiol、1994、60:2101〜2106)。さらに、EP 771191には、Pseudomonas aeruginosaの菌株によって培地へ放出され、真核細胞に細胞障害活性を示し、自己免疫性疾患の治療に使用されるラムノリピドの記載がある。
【0016】
[発明の概要]
第1の態様によれば、本発明は、主要脂質成分としてその長さがC14〜C20の間で構成されており、少なくとも1単位のラムノース又はその誘導体を含む糖類と結合している少なくとも1つの主要な脂肪酸を含む極性糖脂質の混合物に関する。この主要な糖脂質成分の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)によって決定され、30KDaより大きい。
【0017】
主要な糖脂質成分は、ステアリン酸(C18:0、オクタデカン酸)及びパルミチン酸(C16:0、ヘキサデカン酸)を含み、前者(C18:0、オクタデカン酸)の量は総脂質部分の50%〜80%の間、より好ましくは65%〜75%の間であり、後者(C16:0、ヘキサデカン酸)の量は15%〜40%の間、より好ましくは20%〜32%の間である。付随する副次的脂質種は、総脂質部分の15%以下の量で存在してもよい。
【0018】
糖脂質混合物の糖類部分は、総糖類成分の少なくとも20%の量がラムノース又はその誘導体からなり、好ましい実施形態によれば、総糖類成分にはグルコース又はその誘導体、及びキシロース、マンノース、ガラクトース、ガラクツロン酸又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1つの追加の糖類又は誘導体が更に含まれる。
【0019】
組成物の形態の下で適切に製剤化したこの混合物には、特異的刺激(たとえば微生物感染)及び非特異的刺激によって誘導される急性及び/又は慢性の炎症状態に有用な広域スペクトルの抗炎症活性及び免疫調節活性がある。しかしながら、この混合物は、非特異的刺激、すなわち虚血イベント、熱傷、重度の外傷、低酸素状態、癌、自己免疫性疾患(多発性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、乾癬、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、全身性紅斑性狼瘡など)と関連した炎症など、明らかな感染源と関連していない刺激によって誘導される炎症において特に有用であり、一般には、酸化ストレス及び/若しくはニトロシル化ストレスと関連した炎症において、又は全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、血管炎などの全身性炎症状態において、又は神経変性疾患若しくは喘息などの局所炎症状態において有用である。
【0020】
さらなる態様によれば、本発明はまた、適切な添加剤及び/又は賦形剤と組み合わせて、有効成分として本発明による糖脂質混合物を含む、獣医学的に使用するための医薬組成物に関する。
【0021】
本発明の特定の1つの態様は、腫瘍及び腫瘍の浸潤促進効果と関連した炎症状態の治療のための組成物に関し、混合物は抗腫瘍剤及び/又は免疫阻害剤からなる第2の有効成分と共に使用される。
【0022】
さらなる態様によれば、本発明は、シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(CCAP番号1459/45)の抽出物からの極性糖脂質の調製のための方法に関し、前記方法が、核酸混入のレベルが総重量の3%以下になるように実施するヌクレアーゼ処理ステップと、カットオフが30KDaである装置を用いて分子を分離し、より大きな分子量を有する極性糖脂質部分を回収するステップとを含むことを特徴とする。
【0023】
[図面の簡単な説明]
[図1]トール様受容体4(TLR4)及びATPシンターゼ(ATP−SX)膜酵素を含む、炎症促進性反応における調節機構の例の概略図である。
[図2a]OPFP1混合物の1D NMRスペクトルを示す図である。[図2b]糖脂質混合物中に検出された糖のクロマトグラム(GC−MS)の例を示す図である。
[図3]本発明による混合物の1次元電気泳動分析(DOC−PAGE)を示す図である。パネルA:レーン1:E.coli LPS(血清型0111:B4)10μg。レーン2:混合物7μg。レーン3:混合物3.5μg。
[図4]神経芽細胞腫株SH−SY5Yの標識化を示す図である。a)蛍光色素アレクサフルオロ(Alexa Fluor)555と結合したOPFP1混合物による標識化。b)蛍光色素FITCと結合したE.coli LPSによる標識化。
[図5]神経芽細胞腫細胞株SH−SY5Yから抽出され、OPFP1混合物と結合した磁気ビーズに結合している細胞膜タンパク質のSDS−PAGEを示す図である。レーン1:分子量標準。レーン2:細胞溶解物+混合物なしのビーズ。レーン3:細胞溶解物+OPFP1混合物と結合したビーズ。矢印はATPシンターゼα、β、γサブユニット及びそれぞれの分子量を示す。
[図6]細胞外ATPの産生を示す図である。SH−SY5Y細胞株における、細胞外ATPの産生に対するOPFP1の効果の測定。(A)様々なプレインキュベーション時間でのATP産生に対する効果の分析。(B)様々な濃度のOPFP1混合物によって誘発された効果の評価(結果は3つの独立した実験の平均である)。
[図7]ヒト単球の細胞株(THP1)における、E.coli LPSが誘導する炎症性サイトカイン産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。
[図8]ヒト単球の細胞株(THP1)における、P.ジンジバリス(P.gingivalis)LPSが誘導する炎症性サイトカイン産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。
[図9]ヒト単球の細胞株(THP1)における、PMAが誘導するTNF−α産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。Macagno A.ら、2006、J.Exp.Med.203:1481〜92に記載のとおりに得られた混合物との比較。
[図10]ヒトのドーパミン作動性細胞株(SH−SY5Y)における、ドーパミンで酸化ストレスを誘導した後の細胞生存率に対するOPFP1混合物の効果を示す図である。シンボルの説明。
【化1】
[図11]OPFP1混合物10μg/ml濃度による、マトリゲル(Matrigel)(登録商標)中の腫瘍浸潤の阻害を示す図。メラノーマ:SKMEL及び9923M。癌腫:HEY4及びHEY3MET7。
[図12]次の細胞株:9923M、HEY4及びHEY3MET7における、OPFP1混合物10μg/ml濃度の存在下でのPMA誘導MMP−9総産生量の阻害を示す図である。灰色バー:10−7M PMA。黒色バー:10−7M PMA+OPFP1 10μg/ml。
【0024】
[発明の詳細な説明]
定義
おそらくは置換されている糖類:グリコシド部分が、荷電したアミノ酸、リン酸基及び硫酸基などアグリコン型の置換基の存在を示してもよい単糖、二糖類、オリゴ糖を含む。
糖脂質:脂質鎖若しくは脂肪酸鎖と結合した、若しくはアミド結合若しくはエステル結合によってそれらと共有結合した、糖類(糖)又はそれらのポリマーを含む炭水化物からなる分子。
脂質鎖(脂肪酸):脂肪族モノカルボン酸。長鎖脂肪酸は、飽和でも、不飽和でも、又はヒドロキシル化されていてもよい。
ラムノリピド:その脂質部分が少なくとも1つの脂肪酸鎖を含み、その糖類部分が少なくとも1単位のラムノース又はその誘導体からなる糖脂質。
【0025】
本出願の発明者らは、シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(CCAP番号1459/45)の細胞から抽出し、本発明の目的ために「OPFP1混合物」と命名した極性糖脂質の高度に精製された調製物が1つ又は複数のラムノース単位を含む少なくとも1つの高分子量糖脂質種の存在を特徴とすることを見出した。たとえばブラッドフォード(Bradford)法で評価した場合、タンパク質の混入物がないことを特徴とし、また核酸混入が3%以下であることを特徴とするそのような混合物内に、ATPシンターゼ(ATP−SX)に対する阻害活性を検出することができた。そのような活性は、それ自体で炎症促進性反応を刺激する特異的なTLR4受容体(Macagno A.ら、2006、J.Exp.Med.203:1481〜92;Jemmet Kら、2008、Infect.Immun.76:3156〜63)を介する細菌LPSの結合に対するアンタゴニスト活性とは別に、炎症反応を減少させることができる。この効果は、たとえば単球、脂肪細胞、又は内皮細胞など、TLR4受容体及び膜ATPシンターゼ活性の両方を有する細胞内で、炎症促進性刺激をシグナル伝達する経路の冗長性及び重複性による相乗的な特徴を示す(図1)。このATPシンターゼ阻害活性は、糖脂質混合物の主成分と関連しており、この糖脂質混合物は、グラム陰性細菌由来のLPSに特徴的な、典型的ケト−デオキシオクツロソン酸(keto−deoxyoctulosonic acid)(KDO)反応性を欠いており、たとえばPAGE及び銀染色法によって検出した場合、30kD以上の分子量を有し、精製された混合物の最大で70〜90%を占める。OPFP1混合物は、主要な糖脂質成分の脂肪酸としてステアリン酸(C18:0、オクタデカン酸)及びパルミチン酸(C16:0、ヘキサデカン酸)を含む。そのような脂肪酸は、飽和型で存在することが好ましく、糖脂質混合物の総脂質部分に対してそれぞれステアリン酸を50%〜80%及びパルミチン酸を15%〜40%(100を総脂質部分とする)それぞれ含む量で存在することが好ましく、これらの脂肪酸がそれぞれ、65〜75%の間、20〜32%の間になる量で存在することがさらにより好ましい。他の脂肪酸鎖は、脂質部分の15%以下の量で存在してもよく、10%以下の量、好ましくは5%以下の量でラウロレイン酸(又はドデセン酸(C12:1))を含むことが好ましい。実験の部で更に説明しているように、脂肪酸の分析は、メタノール−塩酸(HCl 1M/MeOH)により80℃で20時間化合物を加水分解し、ヘキサン相中へメチルエステルとして抽出した後、GC−MSによって実施することができる。上述のように、主要な糖脂質成分は、少なくとも1単位のラムノース又はその誘導体を含み、分子量が30KDaを超え、好ましくは30〜40KDaの間であることを特徴とする。この分子量は、たとえばDOC−PAGE及びそれに続く銀塩による染色によって決定することができる。本発明による糖脂質混合物には、リン脂質及び遊離脂質が含まれていない。これらは抽出処置によって除去される。さらに、本発明による糖脂質混合物には、グリセロールの脂肪酸誘導体(モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG))などの低分子量糖脂質も含まれていない。これらの低分子量糖脂質は、シアノバクテリアのチラコイド膜に通常存在し、一般に1KDa未満の分子量を有し、本発明の処置によって除去される。糖脂質混合物の糖の分析により、糖類成分(100%とする)中では、ラムノースは好ましくは20〜40%、グルコース(Glc)は20〜40%、キシロース(Xyl)は5〜10%、マンノース(Man)は3〜5%、ガラクトース(Gal)は3〜5%、グルコサミン(GlcN)は0.5〜1%、ガラクツロン酸(GalA)は1〜6%であり、これらの糖が、単糖であってもよく、又はより好ましくは複合糖及び/若しくは糖誘導体であることが示される。細菌(グラム陰性)LPSに典型的な2−ケト−3−デオキシオクトン酸(KDO)のような糖は検出されない。糖類残基の定性分析及び定量分析は、メタノール−塩酸(HCl 1M/MeOH)により80℃で20時間糖脂質混合物を加水分解し、ヘキサンに抽出し、ピリジン及び無水酢酸によりアセチル化した後、アセチル化メチルグリコシドをGC−MSで分析すること、及び/又は2Mトリフルオロ酢酸を用いて120℃で1時間処理し、続いて水素化ホウ素ナトリウムを用いて1時間処理し、次にピリジン及び無水酢酸によってアセチル化した後に得られるアルジトールアセテートを分析することにより行うことができる。本発明者らが知る限りでは、シアノバクテリア細胞から抽出され、哺乳動物細胞に対して全く無毒であるラムノースの存在を特徴とする高分子量極性糖脂質の混合物に関する記載はこれまでには存在しない。さらに、上記に定義した非特異的刺激が誘導する炎症も標的にできる抗炎症活性の存在は、公知のラムノリピドにおいて全く確認されなかった。実際、本発明の糖脂質混合物は、特に核酸を除去することによって高い精製度が達成されたために、本発明で初めて確認された機構によって作用する。確かに、核酸の免疫促進活性は、特異的なトール様受容体が媒介するプロセスであり、よく知られている。TLR4−MD2受容体を介して発揮される、既知のLPSアンタゴニスト活性(微生物の成分によって誘導される)と異なり、そのような機構は、糖脂質混合物の主成分と関連した物質であるラムノリピドに対する一次細胞受容体との相互作用によって活性化され、膜ATPシンターゼ酵素の直接阻害に繋がる。したがって、本発明の糖脂質混合物の活性は、微生物刺激及び非特異的刺激の両方によって誘導される炎症を標的とする、広域スペクトルの抗炎症活性として定義される。TLR4陰性細胞(たとえばSH−SY5Y神経芽細胞腫株)並びにTLR4受容体及び高レベルの膜ATP−SXの両方を発現する単球細胞株(THP−1)において精製混合物を用いて実施した結合研究により、そのような混合物は、様々な細胞型の細胞膜上に存在するATPシンターゼF1複合体のサブユニットと相互作用し、それによって細胞外ATPの産生を阻害することがわかった。実際、実験の部で更に詳述するように、糖脂質及びATP−SXサブユニットを含む複合体を「親和性結合」及び電気泳動によって単離し、LC−ESI−MS/MS質量分析によって特徴づけた。本出願の実験の部で更に詳述するように、細胞外ATPが果たす重要な役割のために、OPFP1によるATP−SX活性の調節によって、炎症反応の全体的な低下が起こり、この低下は既知のLPSアンタゴニスト活性を専ら介して得られる低下をはるかに上回る。いかなる理論にも拘わらないが、この発見は、細菌のLPS又はPMAなど、特異的及び非特異的双方の極めて多様な刺激によって活性化される炎症促進性経路が、メディエーター及び調節分子を共有して働くという事実によるものと思われる。したがって、本発明の極性糖脂質の混合物は、二重の機構、すなわちTLR4−MD2受容体複合体との相互作用を介する、グラム陰性細菌のLPSのアンタゴニスト(LPSとの構造類似性を欠くが)としてだけでなく、主に、細胞外ATP産生の阻害を介して免疫反応及び炎症反応を低下させること(TLR4−MD2複合体との相互作用、したがって微生物成分による直接的な細胞刺激とは無関係の機構)によっても作用する。ATP−SX活性を調節できる分子には、たとえばアンジオスタチン、リスベラトロール、及びピセタノールがあり、これらは抗炎症活性を有する(Chavakis T.ら、2005、Blood、105:1036〜43;Ashikawa K.ら、2002、J.Immunol.169:6490〜7)。ヒトの単球細胞株THP−1を使用して、1及び10μg/mlの濃度で混合物を投与すると、ホルボールミリステートアセテート(PMA)などのLPS非特異的な炎症促進性刺激によって活性化される、TNF−αのような炎症性サイトカインの産生を低減できることも観察された。実験の部でさらに詳述するように、そのような活性の検出は、高純度の混合物によって可能になる。細胞外ヌクレオチド、特に細胞外ATPは、一連の炎症類似活性(抗原提示細胞(APC、マクロファージ、樹状細胞)上に存在するプリン作動性受容体とのATPのオートクリン及びパラクリン相互作用によって媒介される)を誘導する「天然アジュバント」として働くので(La Sala A.ら、2003、J.Leukoc.Biol.73:339〜43)、この阻害機構(微生物成分との相互作用とは無関係である)が、免疫反応の調節にとって最重要であることが現在明らかである。
【0026】
細胞外の微小環境中で利用可能なATPの減少は、初期段階に炎症反応を阻害するために重要であり、主として予防的である当該化合物のLPSアンタゴニスト活性に加えて、その化合物の治療有効性に直接関わるものである。純粋なTLR4受容体アンタゴニスト(Manthey C.L.ら、1993、Infect.Immun.61:3518〜26)と異なり、この混合物は、細菌LPSとの1:1の濃度比においても、またLPSを投与した後でも、炎症性サイトカインの産生を阻害することにより作用する。
【0027】
ヒト神経芽細胞腫細胞SH−SY5YのようにTLR4−MD2を欠くインビトロシステムの使用によって評価したとき、最適濃度の10μg/mlで本発明によるOPFP1混合物を投与した後、細胞外ATPのレベルは63%まで低下させることができる。このシステムでは、そのような効果はいかなる混入物もない場合に検出することができる。実施例1に記載したように調製した混合物が、すべてのタイプのLPS、すなわちトール様受容体4(TLR4)を介して専ら作用するLPS、並びにTLR4及びTLR2との相互作用を介して作用するLPSの生物学的効果にアンタゴナイズできること(Darveau RPら、2004、Infect.Immunity 72:5041〜51)、さらに最も重要なことには、そのような混合物が非特異的な炎症促進性刺激を無効にできることを見出した後に、OPFP1混合物は、炎症性サイトカインの産生の誘導に使用される刺激のタイプに関わりなく、それらの産生を阻害できると結論づけることができる。さらに、免疫反応に直接関与する細胞(マクロファージ及び樹状細胞)以外の細胞が関与する炎症過程に、細胞外ATPが重要な役割を果たすという知見も、特に酸化ストレスなどの刺激に反応した細胞死のプロセスの間において神経細胞で実証された。実験の部で示すモデルにおける混合物の有効性(神経細胞中のドーパミンが誘導するアポトーシスのインビトロでの減少、及びカイニン酸が誘導する発作の減少)によって、OPFP1混合物が、神経細胞株においてアポトーシスを阻害し、神経変性の根本的機構を防止できることが確認された。科学文献では、散発性の神経変性疾患と、主要なリスク因子に入ると考えられる、酸化及びニトロシル化ストレス、グリコシル化、炎症機構、並びに高レベルの興奮性神経伝達物質が持続する結果との間に密接な関連が確認されている。現在使用されている治療は、基本的に対症的であり、疾患及び個々の患者の状態に依存して有効性が変化する。そのような適用の有効性は、高レベルの細胞外ATPがドーパミン作動性の神経細胞株の死を誘導するという、最近公表された知見によって更に確認されている(Jun D−Jら、J.Biol.Chem.、2007、282、37350〜8)。とりわけ、かなりの高濃度においてさえ毒性がないことによって、OPFP1混合物は、炎症性疾患、又は炎症反応が優勢な疾患の治療だけでなく、神経変性疾患の治療にも適するようになる。特に、OPFP1混合物及び有効成分としてOPFP1を含む組成物は、特異的刺激(たとえばグラム陽性細菌、グラム陰性細菌、ウイルス、又は酵母若しくは真菌などの寄生生物による微生物感染)によって誘導される急性又は慢性の炎症状態にも、非特異的刺激によって生じる急性又は慢性の炎症状態にも有用である、広域スペクトルの抗炎症活性及び免疫調節活性を有する。しかしながら、本発明の混合物及びその組成物が、非特異的刺激、すなわち判明している感染源と関連しない刺激が誘導する炎症、たとえば虚血イベント(特に脳虚血)、熱傷、重度の外傷、低酸素状態、癌、自己免疫性疾患(多発性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、乾癬、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、全身性紅斑性狼瘡など)と関連した炎症、並びに一般的に、酸化及び/若しくはニトロシル化ストレスに関連した炎症、若しくは全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、血管炎などの全身性炎症状態、又は神経変性疾患若しくは喘息などの局所的炎症状態に特に有用であることが注目される。神経変性疾患の中でも、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、老人性認知症、及びハンチントン舞踏病など、神経細胞死と関連した症候群を治療することが好ましい。さらに、実験データは、OPFP1混合物がタイプ9マトリックスメタロプロティナーゼ(MMP−9)も特異的に阻害できることを示す。したがって、本発明の混合物の使用を、好ましくは適切な抗癌治療と組み合わせて、転移のプロセスを制限するために特許請求する。上述の抗炎症活性に追加された抗転移活性によって、本発明による混合物の使用は重要な炎症成分を伴う浸潤癌の治療に特に有益になる。さらに、本発明による混合物を用いる感染症の治療は、心臓障害又は家族性脱髄を有する、サイトカイン特異的な抗炎症薬による治療(阻害剤、たとえばTNF中和抗体による治療など)が適切ではない患者には特に適応となり得る。化合物の完全な水溶性により、水溶性の賦形剤及び希釈剤を含む医薬組成物にて治療に使用することが可能になる。このことは、特に液剤に関する分野の専門家にはよく知られている。さらなる態様によれば、この混合物は、上述と同じ治療目的で獣医学的に使用するための組成物の調製にも適している。微生物感染(グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、ウイルス、若しくは酵母若しくは真菌などの寄生生物、又はそれらの成分によって起こる)に起因する、又は浸潤癌に起因する獣医学的炎症性疾患の治療が、特に好ましい。さらなる態様によれば、本発明は、主成分が30KDa超の分子量を有し、シアノバクテリア、特にオシラトリア・プランクトスリックスFP1(番号1459/45、CCAP Culture Collection of Algae and Protozoa、SAMS Research Services Ltd.、Dunstaffnage Marine Laboratory、Dunbeg、Argyll、PA37 1QA、UK)に由来する極性糖脂質の混合物を調製する方法に関する。この方法では、有機溶媒及びカオトロピック剤の混合物、たとえばフェノール及びチオシアン酸グアニジンの混合物などの変性剤、並びに除蛋白剤を用いて、細菌ペレットを最初に処理する。この方法は、核酸混入のレベルが総重量の3%以下、好ましくは2%以下に達するまでヌクレアーゼを用いて処理することと、カットオフが30KDaである装置上で分子を分離するステップ、次いで高分子量画分を回収することとを特徴とする。さらなる詳細によれば、培地、たとえばBG−11培地(Sigma−Aldrich、カタログ番号C3061)中で、温度25℃において、光強度5umol.m−2.sec−1の冷白色光下で連続24時間の照射方式で、シアノバクテリアを増殖させる。
【0028】
定常増殖相に達したとき、シアノバクテリアの培養物をたとえば遠心分離によって沈殿させる(ペレット化)。この沈殿物(又はペレット)は、抽出前に凍結してもよいし、凍結乾燥してもよい。解凍又は再水和(凍結乾燥の場合)後に、沈殿物を下記のステップを経て処理する。a)このペレットを、好ましくは1:1〜1:2の間で構成されるある容量の水又は水性溶媒で希釈することによって再懸濁する。b)糖脂質混合物を含む細胞抽出液(上清とも称する)を得るために、再懸濁したペレットを、たとえばChomczynski P.及びMackey(Biotechniques、1995、19(6):942〜5)に記載の変性剤を含む適切な容量の溶液を用いて、上述のように混合する。この変性剤には極性プロトン性有機溶媒、好ましくはフェノール、及びカオトロピック剤(チオシアン酸グアニジンなど)に基づく試薬、たとえばトリ試薬(Trireagent)(登録商標)(Sigma カタログ番号T3934)又はトリゾール(Trizol)(登録商標)(Invitrogen)などの類似の試薬、並びに約1容量のシアノバクテリアの水性懸濁液、2〜4容量、好ましくは約3容量の抽出溶液、及び約0.5〜1容量のクロロホルムの比でクロロホルムなどの非プロトン性有機溶媒を含むことが好ましい。c)この細胞抽出液を、少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間で60分間以下の時間の長さで、室温においてインキュベートする。d)遠心分離、好ましくは約2000×gで遠心分離して、極性糖脂質画分を含む上清(水相)を集める。そのような上清は、たとえば電気泳動及び銀染色法によって、又は単球/マクロファージ由来のTHP1細胞株における、LPS存在下でのTNF−α産生の阻害若しくはATPシンターゼ(ATP−SX)への結合若しくはその活性の阻害のような生物活性アッセイによって、測定することができる。d)の遠心分離によって得たペレットは、水又は水性緩衝液を(集められた容量にほぼ等しい量で)加え、続いてそのサンプルを再び遠心分離することによって再抽出することができる。この第2の上清を前の上清と合わせ、次いでプールしたサンプルを以下のさらなるステップに供する。e)塩、たとえば酢酸ナトリウム(最終5〜20mM)及び約2容量の量の有機溶媒、好ましくはアセトンを添加して沈殿させ、次いで上記と同じ条件下で遠心分離し、水で希釈したエタノール、たとえば70%エタノールを用いて少なくとも1回、好ましくは2回ペレットを洗浄する。f)好ましくは緩衝水溶液、たとえば50mMトリス(TRIS)中にペレットを再懸濁する。次いで、エンドヌクレアーゼ及び/又はエキソヌクレアーゼ(たとえばDNアーゼ及びRNアーゼ)を使用して核酸混入物の酵素処理を実施し、続いてプロテアーゼ、たとえばプロテイナーゼKを、好ましくは100μg/ml用いて十分な時間(37℃で少なくとも1時間)消化することによって、タンパク質混入物を酵素処理する。酵素消化(ステップg)の後に、サンプルを再び遠心分離し、その上清を集め、塩(たとえば酢酸ナトリウム、最終約10mM)及び適切な容量(好ましくは2容量)の有機溶媒、好ましくはアセトンを添加して更に沈殿させる。再び遠心分離し、次いで、少なくとも1つの界面活性剤、好ましくはデオキシコレート(DOC)を含み、更に好ましくはテトラエチルアンモニウムのような陽イオン界面活性剤も含む水又は水溶液の中にペレットを再懸濁する。この物質を、セクションbに述べた(変性性の)抽出溶液を用いて再び抽出し、次いで、上述のように酢酸ナトリウム/アセトンを用いてさらに沈殿させ、70%エタノールで洗浄し、水中又は水溶液中に再懸濁し、カットオフが30KDaであるフィルター(又は他の適切な装置)を使用して分子分離に供し、このようにして、フィルターを通過する物質を除去し、残余分中の高分子量糖脂質画分を水又は緩衝水溶液中に、核酸混入のレベルが3%未満の状態で回収する。
【0029】
さらに、OPFP1混合物に対して実施した元素分析により、炭素(39%)、水素(6.2%)、窒素(5.8%)、硫黄(0.5%)の存在が示された。さらなる態様によれば、本発明は、シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックスFP1(番号1459/45、CCAP)から上述の方法によって得ることができる極性糖脂質混合物を含み、この混合物において、主要な糖脂質成分は、30KDa以上の分子量及び広域スペクトルの抗炎症活性を有するラムノリピドである。
【0030】
[実験の部]
実施例1 シアノバクテリア由来の糖脂質混合物の調製
オシラトリア・プランクトスリックスシアノバクテリアFP1、CCAP保存番号1459/45(the Center for Culture Collection of Algae and Protozoa、Scotland、UKに2008年7月9日に寄託)を、BG−11培地(シアノバクテリアのBG−11淡水溶液 カタログ番号C3061、Sigma Aldrich)から遠心分離によって集めた。集めたシアノバクテリア細胞を凍結し、解凍し、水で1:2に希釈し、3容量のトリ試薬(Tri−reagent)及び1容量のクロロホルムと混合して、室温で10分間インキュベートした。インキュベーション後に、細胞片を2000×gで15分間遠心分離し、活性画分を含む上清(水相)を回収した。水(以前に集めた容量と等しい量)を再添加して、シアノバクテリアの細胞ペレットを更に抽出し、サンプルを再び遠心分離した。集めた上清を、酢酸ナトリウム(最終10mM)及び2容量のアセトンを用いて沈殿させ、遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70%エタノールでペレットを更に洗浄して膜リン脂質を除去した。上清を除去した後、DNアーゼ(20μg/ml)及びRNアーゼ(10μg/ml)を含む50mM トリス及び10mM MgCl2溶液、pH7.5中にペレットを溶解した。このサンプルを40℃で2時間インキュベートした後、プロテイナーゼK(100μg/ml)を添加し37℃で一晩インキュベートした。翌日、サンプルを2000×gで15分間遠心分離した。上清を回収し、酢酸ナトリウム(最終10mM)及び2容量のアセトンを用いて沈殿させた。デオキシコール酸ナトリウム(0.5%)及びテトラエチルアンモニウム(0.2%)を含む溶液中に遠心分離後得られたペレットを再懸濁し、次いで上述の手順に従ってトリ試薬で再抽出した。酢酸ナトリウム/アセトンを用いて沈殿させ、70%エタノール中で洗浄した後、サンプルを水中に再懸濁し、低分子量混入物を除去するために、分子量カットオフが30KDaである限外濾過装置(アミコンウルトラ(Amicon Ultra)15遠心濾過フィルター単位 Millipore カタログ番号UFC 903008)を使用して一連の精製に供し、続いてその後の化学的試験及び生物学的試験のために、最後に水又は緩衝食塩水(PBS)にサンプルを再懸濁した。
【0031】
実施例2 糖脂質混合物の分析
実施例1に記載のように抽出した混合物は、主としてシアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックスFP1から抽出した高分子量極性糖脂質からなる調製物である。70%エタノールによる洗浄ステップを使用する調製手順により、混合物からリン脂質を除去する。
【0032】
遊離脂質が存在しないことは、フォルチ(Folch)分配法(クロロホルム/メタノール/水 3:2:1)によって実証された。
【0033】
モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)、ホスファチジルグリセロール(PG)及びラムノリピド(RL)などの低分子量糖脂質が存在しないことは、これらの糖脂質に特異的な方法であるTLCによって実証された。さらに、この混合物は、ブラッドフォード法によって検出できるタンパク質の混入がないこと及び核酸の混入が3%以下であることを特徴とする。
【0034】
図2aに、OPFP1混合物の1D NMRスペクトルを示す。このスペクトルでは、4.5〜5.5ppmの間の領域で検出されたシグナルは、様々なアノマー糖の存在から生じる。強い高磁場シグナル(1.3ppm)により、混合物中にデオキシ糖の存在が確認される。0.8ppmのピークにより、脂質鎖の末端CH3基の存在が確認される。
【0035】
単糖のGC/MS分析で評価した場合、特徴的な糖である2−ケト−3−デオキシオクトン酸(KDO)が全く存在しないため、精製した糖脂質は、グラム陰性細菌のリポ多糖類(LPS)とは異なる(図2b)。さらに、1D−31P NMRスペクトル解析によって確認されるように、シアノバクテリアから抽出した糖脂質には、グラム陰性細菌からのLPSとは異なり、リン酸基の存在が示されない。糖類残基の定性及び定量分析は、アセチル化メチルグリコシド及びアルジトールアセテートのGC−MS分析によって実施した。同様に、脂肪酸は、クロマトグラフィーのピークの保持時間及び質量スペクトルのフラグメンテーションの分析を介して、メチルエステルの形でGC−MSによって検出した。
【0036】
詳細には、サンプルの一定分量(1mg)を、メタノール−塩酸(HCl 1M/MeOH)を用いて80℃で20時間処理し、続いて乾燥してヘキサンで抽出した。このヘキサン相には、メチルエステルの形で脂肪酸が含まれ、一方メタノール相にはO−メチルグリコシドが含まれる。
【0037】
アセチル化メチルグリコシドは、以下のように調製した。メタノール相を空気流の下で乾燥し、ピリジン50μl及び無水酢酸50μlを用いて100℃で30分間アセチル化した。この混合物を乾燥し、CHCl3に溶解し、このサンプルを精製するために水で数回抽出し、次いで回収して乾燥した。
【0038】
アルジトールアセテートについては、サンプルの等しい一定分量を2M トリフルオロ酢酸を用いて120℃で1時間処理した。この酸を乾燥した後、サンプルを水に溶解し、1スパチュラチップの水素化ホウ素ナトリウムを用いて1時間処理した。過剰の水素化物を酢酸で分解し、その溶液をメタノール及び酢酸で数回乾燥した。最後に、アセチル化メチルグリコシドと同様にアセチル化を実施した。
【0039】
アセチル化メチルグリコシド及びアルジトールアセテートの両方とも、GC−MS(ガスクロマトグラフィー−質量分析)によって分析した。アセチル化メチルグリコシド及びアルジトールアセテートの分析結果は、クロマトグラム中に見ることができる。ここで各誘導体化単糖はそれ自体の保持時間を示し、各ピークに対して、典型的な質量スペクトルが各単糖と関係づけられる。ピーク面積は、混合物中に存在する単糖の量に比例する。アルジトールアセテートの分析により、検出された単糖のパネルを確認し完成することが可能になり、また各単糖に個々のシグナルを割り当てる利点が追加される。次の糖が存在することを見出した(図2b)。ラムノース(Rha)39.4%。グルコース(GLc)38%。キシロース(Xyl)9.6%。マンノース(Man)4.2%。ガラクトース(Gal)3.9%。グルコサミン(GlcN)1%。ガラクツロン酸(GalA)2%。
【0040】
メチルグリコシドから分離するためにメタノール−塩酸で化合物を処理し、ヘキサンで抽出した後に得られた脂質をGC−MSによって分析し、これによって次の脂肪酸組成を得た。C12:1(ラウロレイン酸又はドデセン酸)3.1%。C16:0(パルミチン酸又はヘキサデカン酸)27.4%。C18:0(ステアリン酸又はオクタデカン酸)68.7%。
【0041】
この混合物に関して実施した元素分析により、炭素(39%)、水素(6.2%)、窒素(5.8%)、硫黄(0.5%)の存在が示された。
【0042】
主要な単一バンドは、約30KDaの分子量を有し、電気泳動及び銀染色法によって観察される。この方法は、化合物の電気泳動度を促進し、水溶液中に高濃度の糖脂質が存在するときに形成されるミセル構造の脱凝集を助ける界面活性剤としてデオキシコール酸ナトリウム(DOC−PAGE)を使用する、高分子量糖脂質のディスプレイのための特異的な方法である(図3)。
【0043】
糖脂質サンプルは水に可溶である。溶液は、清澄、無色、無臭、無味である。高度に濃縮された糖脂質は、凝集してミセルを形成する。サンプルは、5分間の沸騰後、又は1回の凍結融解サイクル後でも安定である。
【0044】
実施例3 膜受容体の同定
薬理学的効果を媒介する細胞膜受容体を同定するために、混合物に蛍光染料を結合させ、様々なヒト細胞株を、蛍光顕微鏡法によって検出されるインビトロ標識実験の標的として使用した。特に、ヒトメラノーマ(SKMEL−28)、卵巣癌(HEY4)、神経芽細胞腫(SH−SY5Y)、及び胎生腎上皮細胞株(HEK293)に由来する細胞株を試験した(Molteniら、Cancer Letter、2006、235:75〜83)。糖脂質混合物を過ヨウ素酸ナトリウムで処理し(糖成分を酸化させ、これによってアルデヒド官能基を導入するために)、アレクサ555蛍光色素(分子プローブ)と共に室温で30分間インキュベートし、最後に水素化ホウ素ナトリウム(1mM)と共にインキュベートした。インキュベーションの終わりに、標識された糖脂質混合物を酢酸ナトリウム/アセトンで沈殿させ、最後に水の中に再懸濁した。様々な細胞株での標識実験のために、培養物をスライドガラス上に調製した。固定した後、スライドを、標識された糖脂質混合物と共にインキュベートして洗浄し、FITCフィルターを使用する蛍光顕微鏡法によって視覚化した。
【0045】
結果は、糖脂質混合物が胚起源の細胞(HEK293)以外のすべての細胞を陽性に標識したことを示した。標識例を図4に示す。神経芽細胞腫株SH−SY5Yが、アレクサフルオル555に結合した糖脂質混合物で陽性に標識され、一方、蛍光標識された細菌LPS(LPS−FITC Sigma)を結合しないことが観察できるため、LPS(TLR4−MD2)に対する細胞膜受容体が存在しないことを示す。この特徴のため、SH−SY5Y細胞株は、TLR4−MD2複合体とは異なる代替受容体を同定するために使用した(Molteniら、2006、上記を参照のこと)。ビオチン化した後、表面にストレプトアビジンを担持する磁気ビーズ(Promega カタログ番号Z5481)に混合物を結合させた(磁気ビーズ1.8mlに対してビオチン化混合物0.4mg)。30×106 SH−SY5Y細胞から得られた細胞膜タンパク質を、カルビオケム(Calbiochem)キット、プロテオエクストラクト(ProteoExtract)カタログ番号444810を使用してそれ本来の形で抽出し、そのままの磁気ビーズと共にインキュベートし(生理学的にビオチン化されるタンパク質を除去するため)、次いでOPFP1糖脂質混合物と結合した磁気ビーズと共にインキュベートした。OPFP1結合ビーズに特異的に結合したタンパク質を、変性条件下で一次元電気泳動に供し、クーマシーで染色して、LC−ESI−MS/MSの質量分析によって分析した。
【0046】
シークエンシングデータにより、精製した調製物と特異的に相互作用する細胞膜タンパク質がヒトATPシンターゼ複合体のα、β、γサブユニットであることが明らかとなった(図5)。これらの結果は、TLR4−MD2受容体に加えて、細胞表面上にATPシンターゼ複合体を発現する、ヒト単球株のTHP1でも確認した。
【0047】
混合物はこの酵素複合体に結合するだけでなく、その活性も調節する。陽性対照として、ピセタノール(3,4,3’,5’−テトラヒドロキシ−トランス−スチルベン)を使用した。ピセタノールは、細胞外ATPの産生に対する阻害活性でよく知られているリスベラトロールの代謝産物である。
【0048】
そこで、SH−SY5Y細胞株を、OPFP1混合物(10μg/ml)又はピセタノール(4μM)と共に様々な時間(1分、5分、15分)インビトロでプレインキュベートした。5分後に、ATP合成の最大阻害は、混合物では63%、ピセタノールの存在下では97%であった(図6A)。様々な濃度のOPFP1(0.5、1、10、20μg/ml)で実施したさらなる実験では、阻害が用量依存的で、10μg/ml濃度で最大になることが示された(図6B)。この結果により、精製された物質は膜ATPシンターゼに結合するだけでなく、用量依存的にその活性を阻害することが示される。
【0049】
実施例4 ヒト単球細胞株において様々な刺激によって誘導される炎症性サイトカインの阻害。
実施例1に記載のように調製した混合物を用いて、細胞膜のTLR4−MD2複合体及びATPシンターゼの両方を発現するヒト単球細胞株(THP1)における、炎症性サイトカインの産生に対するインビトロでの効果を研究した。細菌LPS及び非特異的刺激(ホルボールミリステートアセテート、PMAなど)の両方を、細胞活性化のために使用した。
【0050】
その結果から、混合物が培養物中で炎症性サイトカインの産生を刺激しないことが確認され(図7)、サイトカイン産生を刺激する細菌LPS(図7及び8に記載の実験では、それぞれE. coli及びP.ジンジバリス由来)の存在下で、混合物はアンタゴニストとして作用し、それによって腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン1β(IL−1β)、インターロイキン8(IL−8)の産生を用量依存的に阻害することが示された。大腸菌(Escherichia coli)血清型0111:B4由来のLPSによるサイトカイン誘導の阻害を図7のデータで示し、一方ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)由来のLPSを用いた実験で得られた結果を図8に示す。E. coli LPSは純粋なTLR4アゴニストであるが、P.ジンジバリスLPSはTLR4及びTLR2の両方に対するアゴニストであることがよく知られている(Darveau RPら、2004、Infect.Immunity 72:5041〜51)。TNF−α産生の調節をPMA存在下でも研究した。図9に示す結果から、高純度の糖脂質混合物だけが、PMAのような非特異的刺激の存在下でも、TNF−α産生の阻害剤として作用し、したがって、LPSの存在下で活性化される機構とは別個の経路を介して作用することが示される。実際に、記載の方法によって得られた、同じシアノバクテリア由来の粗抽出物の存在下では、阻害は観察されない。
【0051】
したがって、実施例1に記載のように調製した混合物が、非特異的な炎症促進性刺激をアンタゴナイズすることに加えて、すべてのLPSタイプ、すなわち専らTLR4を介して作用するもの及びTLR2との相互作用を介して作用するものをアンタゴナイズできることを観察した後では、OPFP1混合物が、炎症性サイトカインの産生を、その産生を誘導するために使用した刺激のタイプにかかわらず、阻害できると結論することは可能である。
【0052】
E. coli又はP.ジンジバリスのLPSによるTHP1細胞の刺激から得られたデータより、膜ATPシンターゼの阻害及びTLR4受容体レベルでのアンタゴニズムによる、炎症性サイトカイン産生の阻害は、確実に相加的な効果であり、おそらく相乗的な効果であると断定することができる。実際に、我々は、最適未満の濃度(すなわち1μg/ml)の阻害性糖脂質混合物の存在下で、混合物の阻害能力は、E. coli LPSと共にインキュベートした培養物におけるよりも、TLR4に依存した刺激活性及びTLR4とは別個の刺激活性の両方を介して作用するP.ジンジバリスLPSと共にインキュベートした培養物においてはるかに高いことに注目している。それ故に、追加の阻害活性は、TLR4受容体アンタゴニズム以外の効果によるものであり、したがって、膜ATP−SXの阻害に帰するものにちがいない。膜ATP−SXの阻害による炎症性サイトカインの阻害は、以下に示すように、P.ジンジバリスLPS及びE. coli LPSによる阻害率(%)間の差から推定することができる。
【0053】
【表1】
【0054】
TLR4受容体アゴニストに限らないLPS種による、炎症性サイトカイン産生の刺激で得られた結果から、ATP−SX阻害が、相乗的な相互作用の機構によって同調し、炎症性サイトカインの産生を阻害することは明らかである。ATP−SX阻害は、検討した炎症性サイトカインに依存して、全阻害効果に対して30%〜60%の寄与をする。さらに、ATP−SXが果たす役割を十分に評価するために、シアノバクテリアから抽出した糖脂質混合物の存在下でTNF−αの産生が阻害される効率を、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来のLPS(Invivogen)である典型的な純粋TLR4アンタゴニストとインビトロで比較した。その結果から、E. coli LPSより20倍高い濃度で培地に添加したR.スフェロイデスLPSは、TNF−α産生を阻害できないが、シアノバクテリア由来の糖脂質混合物は、E. coli LPSより20倍高い濃度でTNF−α産生をほとんど完全に阻害する(平均阻害97%)ことが示された。PMA刺激で得られた阻害データは、他の膜ATPシンターゼ阻害剤、たとえばこの機構によってLPS及びPMAが誘導する炎症性サイトカイン産生を阻害することがよく知られているピセタノール(Ashikawa K.ら、2002、J.Immunol.169:6490〜7)について示されたデータと一致している。
【0055】
実施例5 SH−SY5Y神経芽細胞腫細胞におけるドーパミン誘導アポトーシスの阻害
神経細胞起源の細胞株における混合物の効果を評価するために、公知のシステムを用いた(Colapinto M.ら、Biochem.Biophys.Res Commun.、2006、349、1294〜300)。このシステムでは、ドーパミン作動性の細胞株(たとえばSH−SY5Y神経芽細胞腫株、図5及び6に示すように、その細胞株の膜ATPシンターゼはOPFP1糖脂質混合物によって調節される)をドーパミンでインビトロ処理して細胞アポトーシスを誘導した。ドーパミンとのインキュベーションにより、その細胞質内レベルを増大させ、それによってドーパミン自体からの解毒中に神経細胞内で産生されるフリーラジカル及び反応性中間体によって生じる細胞損傷を模倣することが可能になる。ドーパミン誘導アポトーシスは、パーキンソン病で観察されるような、ドーパミン作動性神経細胞の変性に関与する現象を研究するために使用されるモデルである。
【0056】
この目的のために、SH−SY5Y神経芽細胞腫細胞株を、最終濃度10及び20μg/mlの精製物質の存在下又は非存在下で、様々な濃度(0.05〜0.1〜0.15mM)のドーパミンを用いて24時間処理した。ドーパミンは用量反応的にアポトーシスを誘導し、平均生存率は、0.05、0.1及び0.15mMのドーパミン濃度でそれぞれ91%、61%、23%であった。
【0057】
細胞生存率の向上が、混合物存在下で観察された。特に、混合物20μg/ml濃度において、細胞生存率は、ドーパミン0.05、0.1、0.15mMの存在下でそれぞれ100%、85%、20%であった(図10)。
【0058】
この神経保護活性は、カイニン酸による誘導によって発作が再現されるマウスモデルにおいてインビボで更に確認した。精製混合物は、てんかん性活動を40%低下させることができた。
【0059】
特定のいかなる理論にも拘わらないが、この実験モデルにおける混合物の有用性は、他の研究グループが行った観察によって明白に確認される。その観察によれば、細胞外ATPは神経変性に関連した炎症過程に基本的な役割を果たす。
【0060】
実施例6 マトリゲル(登録商標)における腫瘍浸潤の阻害及びヒト腫瘍細胞株におけるメタロプロティナーゼ9産生の阻害
アンジオスタチン及びリスベラトロールの誘導体などの膜ATPシンターゼ阻害剤には抗腫瘍効果があることがよく知られている(Tabruyn S.P.ら、2007、Biochem Biophys.Res.Commun.350、1〜8;Kundu J.K.ら、2008、Cancer Lett.269:243〜61)。そのため、本発明による混合物を、最初にインビトロ増殖試験、次いでマトリゲル(登録商標)おける腫瘍細胞浸潤性に対する阻害アッセイで評価した。後者のアッセイでは、原発腫瘍又は転移由来のいくつかのメラノーマ及び癌腫の腫瘍細胞株、特にSKMEL−28(ヒトメラノーマ株)、9923M(リンパ節転移由来のメラノーマ株)、HEY4(卵巣癌株)、HEY3−MET7(Molteniら、Cancer Letter 2006に記載されている、ヌードマウスへの注入後のHEY4に由来する転移性卵巣癌株、上記を参照のこと)を、下部チャンバーから上部チャンバーを分離する隔壁の細孔が、細胞外環境に類似したゼラチン状のタンパク質混合物からなるマトリックスで閉塞されているボイデン(Boyden)チャンバーを使用して、ウシ胎児血清に代表される走化性刺激に供した。このマトリックスは、マトリゲル(登録商標)(QCMEC Matrix Cell Invasion Assay カタログ番号ECM550 Chemicon International)と名付けられている。糖脂質混合物(10μg/ml濃度)の存在下又は非存在下で、ウシ胎仔血清を含まない培地中、上部チャンバーに細胞を播種し、一方下部チャンバーに血清を含む完全培地を加えた。5%CO2の雰囲気中、37℃で24時間インキュベートした後に、マトリゲル(登録商標)の溶解に続き下部チャンバーに浸潤した細胞の数を、クリスタルバイオレット染色によって推定した。図11に示す結果から、実施例1のように精製し、10μg/ml濃度で使用した糖脂質混合物は、基本条件の下で、腫瘍細胞が移動し浸潤する能力を、試験した細胞株に依存して、30%から最大80%まで阻害することが示される。
【0061】
腫瘍浸潤は、細胞外マトリックスを分解し、それによって、腫瘍細胞が血流に達して、原発腫瘍の部位から遠くに移動することを可能にするゼラチナーゼ(MMP−2及びMMP−9)などの酵素の放出が関与する非常に複雑なプロセスである。いくつかの細胞株におけるMMP−9の全放出量に関する研究により、混合物が、MMP−9産生を著しく阻害できるため、マトリゲル(登録商標)中の移動を阻害することが示された。予備的段階では、培地中へのゼラチナーゼの放出は、ある細胞株(SKMEL−28及びHEY4)においてのみ酵素電気泳動法によって定性的に評価し(データ示さず)、その後のMMP−9の定量は、ELISA(MMP−9バイオトラック活性アッセイ(MMP−9 Biotrak activity assay)(登録商標) カタログ番号RPN2634 Amersham Bioscences)によって実施した。SKMEL−28細胞は、基本条件の下でもPMA刺激の後でも、MMP−9を産生せず、MMP−2を構成的に産生するだけであること、またMMP−2レベルもOPFP1糖脂質混合物によって阻害されることを予備的酵素電気泳動法によって見出すことが可能になった。
【0062】
これに対して、HEY4細胞培養上清について実施した酵素電気泳動法によってだけ、MMP−9の存在が示された。そのレベルは、PMAとのインキュベーション後に増大する。
【0063】
図12に、上記細胞株のうちの3株について、10μg/ml濃度でのOPFP1糖脂質混合物の存在下又は非存在下、5%CO2の雰囲気中で37℃、24時間インキュベーション中のPMA10−7MによるMMP−9放出の刺激に関する結果を示す。この結果は、MMP−9産生に対する、本発明の糖脂質混合物の顕著な阻害効果を示す。MMP−9産生は転移プロセスの間の腫瘍細胞移動にとって必須のものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】トール様受容体4(TLR4)及びATPシンターゼ(ATP−SX)膜酵素を含む、炎症促進性反応における調節機構の例の概略図である。
【図2】(a)OPFP1混合物の1D NMRスペクトルを示す図である。(b)糖脂質混合物中に検出された糖のクロマトグラム(GC−MS)の例を示す図である。
【図3】本発明による混合物の1次元電気泳動分析(DOC−PAGE)を示す図である。パネルA:レーン1:大腸菌(E.coli)LPS(血清型0111:B4)10μg。レーン2:混合物7μg。レーン3:混合物3.5μg。
【図4】神経芽細胞腫株SH−SY5Yの標識化を示す図である。a)蛍光色素アレクサフルオル(Alexa Fluor)555と結合したOPFP1混合物による標識化。b)蛍光色素FITCと結合したE.coli LPSによる標識化。
【図5】神経芽細胞腫細胞株SH−SY5Yから抽出され、OPFP1混合物と結合した磁気ビーズに結合している細胞膜タンパク質のSDS−PAGEを示す図である。レーン1:分子量標準。レーン2:細胞溶解物+混合物なしのビーズ。レーン3:細胞溶解物+OPFP1混合物と結合したビーズ。矢印はATPシンターゼα、β、γサブユニット及びそれぞれの分子量を示す。
【図6】細胞外ATPの産生を示す図である。SH−SY5Y細胞株における、細胞外ATPの産生に対するOPFP1の効果の測定。(A)様々なプレインキュベーション時間でのATP産生に対する効果の分析。(B)様々な濃度のOPFP1混合物によって誘発された効果の評価(結果は3つの独立した実験の平均である)。
【図7】ヒト単球の細胞株(THP1)における、E.coli LPSが誘導する炎症性サイトカイン産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。
【図8】ヒト単球の細胞株(THP1)における、P.ジンジバリス(P.gingivalis)LPSが誘導する炎症性サイトカイン産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。
【図9】ヒト単球の細胞株(THP1)における、PMAが誘導するTNF−α産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。Macagno A.ら、2006、J.Exp.Med.203:1481〜92に記載のとおりに得られた混合物との比較。
【図10】ヒトのドーパミン作動性細胞株(SH−SY5Y)における、ドーパミンで酸化ストレスを誘導した後の細胞生存率に対するOPFP1混合物の効果を示す図である。シンボルの説明。
【化2】
【図11】OPFP1混合物10μg/ml濃度による、マトリゲル(Matrigel)(登録商標)中の腫瘍浸潤の阻害を示す図。メラノーマ:SKMEL及び9923M。癌腫:HEY4及びHEY3MET7。
【図12】次の細胞株:9923M、HEY4及びHEY3MET7における、OPFP1混合物10μg/ml濃度の存在下でのPMA誘導MMP−9総産生量の阻害を示す図である。灰色バー:10−7M PMA。黒色バー:10−7M PMA+OPFP1 10μg/ml。
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、シアノバクテリアの細胞から調製した糖脂質混合物に関する。糖脂質混合物の主成分は、抗炎症性及び免疫調節性を有するラムノース含有高分子量糖脂質である。
【0002】
[現状技術]
藍藻とも呼ばれるシアノバクテリアは、特異な性質を有する有効成分の自然源である。
シアノバクテリアからの低分子量糖脂質抽出物は、たとえば、モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)、ホスファチジルグリセロール(PG)など、グリセロールの脂肪酸エステル類に属する脂質成分を含有することがよく知られている(Murakamiら、1991、Chem.Pharm.Bull.、39:2277〜81)。
【0003】
様々なシアノバクテリアから調製したそのような組成を有する脂質膜抽出物は、たとえば、EP1571203に記載の抗炎症性、及びShiraashi H.ら、1993、Chem.Pharm.Bull.、41:1664〜66)に記載の抗腫瘍性など、様々なタイプの生物活性を示してきた。シアノバクテリアから抽出したスルホ脂質は、抗HIV活性も示した(Gustafson,J.Natl.Cancer Instit.、1989、81:1254〜1258)。本特許出願の著者らは、オシラトリア・プランクトスリックスの細胞由来の粗抽出物が、微生物病原構造体の認識、及び免疫の認識及び刺激を担う細胞内へのその侵入の主要経路の1つであるTLR4受容体(Rosenberger C.M.ら、2003、Nat.Rev.Mol.Cell.Biol.4:385〜96)に対するLPSアンタゴニスト活性を含有することを以前記載した(Macagno A.ら、2006、J.Exp.Med.203:1481〜92)。
【0004】
さらに、この抗TLR4活性は、Neisseria MeningitidisのLPSに対しても発揮されることが続いて報告された(Jemmett Kら、2008、Infect.Immun.76:3156〜63)。
【0005】
実際、微生物による炎症促進性刺激は、主として樹状細胞及びマクロファージ上に存在するトール様受容体(Toll−like receptor)を介して作用し、この受容体は核因子NFkBを介して炎症促進性刺激を翻訳し、次いでNFkBは炎症性サイトカインの転写を誘導する。
【0006】
この発見は、細菌LPSがそれ自体の受容体に結合することを阻害して微生物起源の炎症の発症を防ぐのに極めて重要であるが、すでに開始された炎症促進性カスケードの活性化の程度に対する影響は限られたものでしかない。
【0007】
実際よく知られているように、微生物も原因となり得る炎症のプロセス(発赤、熱、腫れ、疼痛を特徴とする)は、外傷性組織損傷に起因する刺激、又は腫瘍、紫外線若しくは低酸素症によって起こる刺激などの様々な刺激が引き金となって起きる。一般に、急性の炎症促進性刺激に対する反応により、シグナル増幅に導く協調的で冗長的な機構を介して、走化性を誘導し、細胞接着に影響を与える毛細血管の透過性を変化させることを含む、様々な影響を及ぼす相異なる細胞内及び細胞外シグナル経路が活性化される。その結果として、炎症は鎮静化することもあり、又は、そのような機構が変性し、周囲組織の慢性炎症及び線維症に導くこともある。
【0008】
一般に用いられている、広域スペクトルの抗炎症治療の中で、副作用として骨粗鬆症及び凝固阻害を伴うグルココルチコイド治療、及びかなり最近合成された抗COX−2化合物を含み、血管のプロスタサイクリン合成を減少させ、そのため明らかに心血管のリスクを高める非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)による治療は、言及するだけの価値がある。
【0009】
サイトカイン特異的な抗炎症戦略(TNFを中和できる抗体などの阻害剤による治療など)にも制限がある。高度に冗長的な炎症促進性反応を全体的に減少させることができないことに加えて、この戦略には、潜伏感染及び日和見感染などの感染のリスク増大、並びに心疾患又は家族性脱髄を有する患者における予測不能の有害作用を含む様々な禁忌がある。
【0010】
したがって、本分野では、炎症促進性反応の初期に活性化される中心的メディエーターに作用できる非ステロイド性抗炎症薬を発見すれば、極めて望ましいであろう。
【0011】
壊死細胞は最も効率的な炎症促進性刺激の1つであり、細胞損傷の際に細胞間隙の水相を効率的に通過して特異的受容体(広範囲にわたる細胞型上に存在するプリン作動性受容体)に結合し、それを活性化する重要なメディエーターであり、650Daの荷電分子である細胞外ATPの放出も、そのような刺激の1つであることが現在よく認識されている。細胞外ATPレベルは、細胞膜上又は細胞外若しくは細胞周辺の環境に存在し、炎症促進性反応を調節する機構に関与する酵素(シンターゼ、エクトヌクレオチダーゼなど)によっても能動的に且つ特異的に調節される。したがって、最も有効な炎症促進性刺激の1つは、細胞損傷に際して細胞外間隙に放出される事前合成形態、及び炎症の初期段階中に周辺組織内で新規に合成された形態の両方の細胞外ATPであるとの仮説が次第に確立されつつある(Di Virgilio F.、2007、Purinergic signal.3:1〜3;La Sala Aら、2003.J.Leukoc.Biol.73:339〜43)。細胞外ATPレベルを調節するように共同する、シンテターゼ及びエクトヌクレオチダーゼなどの酵素は、生体内に基本的に遍在するタンパク質であり、その発現が免疫細胞、内皮細胞、及び脂肪細胞に限定されているトール様受容体とは異なっている。特に、ATPシンターゼ酵素は、肝細胞、神経細胞、星状細胞、線維芽細胞、免疫細胞、内皮細胞などの多くの異なる細胞型上に発現され、腫瘍細胞の細胞膜上に特に高レベルで発現される(Mowery YMら、2008.Cancer Biol.&Ther.7:1836〜38)。
【0012】
したがって、本発明によって精製された混合物による酵素複合体への結合及びATPシンターゼ(ATP−SX)の阻害の検出、並びに以前に観察された抗LPS活性を介してより一般的な炎症反応を低下させる際の相加的又はおそらく相乗的な効果の検出は、微生物の刺激によって炎症が誘発されたものではない疾患(たとえば自己免疫性疾患、喘息、関節リウマチ、乾癬性関節炎、クローン病、多発性硬化症及び全身性の血管炎)において極めて重要である(図1)。
【0013】
アンジオスタチン、リスベラトロール及びピセタノールのような、抗炎症活性を有する分子が、ATP−SX活性を調節できる分子グループに属する(Chavakis T.ら、2005、Blood、105:1036〜43;Ashikawa K.ら、2002、J.Immunol.169:6490〜7)ことに注目することは重要である。
【0014】
本発明の説明で詳細に示すように、オシラトリア・プランクトスリックス由来の糖脂質混合物は、主成分がラムノース含有糖脂質である高分子量糖脂質の存在を特徴とする。分子量が10KDa未満のラムノース含有糖脂質(ラムノリピド)は、文献にすでに記載されていたが、本混合物の糖脂質とは特性及び性質が非常に異なっている。
【0015】
たとえば、ヒトの病原細菌であるPseudomonas aeruginosaの培地から単離されたラムノリピドの知見がある(Yokotaら、Eur.J.Biochem.、1987 167、203〜209)。これらの物質はバイオサーファクタント活性を有し得る(Zhang Y.及びMiller R.Appl.Environ.Microbiol、1994、60:2101〜2106)。さらに、EP 771191には、Pseudomonas aeruginosaの菌株によって培地へ放出され、真核細胞に細胞障害活性を示し、自己免疫性疾患の治療に使用されるラムノリピドの記載がある。
【0016】
[発明の概要]
第1の態様によれば、本発明は、主要脂質成分としてその長さがC14〜C20の間で構成されており、少なくとも1単位のラムノース又はその誘導体を含む糖類と結合している少なくとも1つの主要な脂肪酸を含む極性糖脂質の混合物に関する。この主要な糖脂質成分の分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)によって決定され、30KDaより大きい。
【0017】
主要な糖脂質成分は、ステアリン酸(C18:0、オクタデカン酸)及びパルミチン酸(C16:0、ヘキサデカン酸)を含み、前者(C18:0、オクタデカン酸)の量は総脂質部分の50%〜80%の間、より好ましくは65%〜75%の間であり、後者(C16:0、ヘキサデカン酸)の量は15%〜40%の間、より好ましくは20%〜32%の間である。付随する副次的脂質種は、総脂質部分の15%以下の量で存在してもよい。
【0018】
糖脂質混合物の糖類部分は、総糖類成分の少なくとも20%の量がラムノース又はその誘導体からなり、好ましい実施形態によれば、総糖類成分にはグルコース又はその誘導体、及びキシロース、マンノース、ガラクトース、ガラクツロン酸又はそれらの誘導体から選択される少なくとも1つの追加の糖類又は誘導体が更に含まれる。
【0019】
組成物の形態の下で適切に製剤化したこの混合物には、特異的刺激(たとえば微生物感染)及び非特異的刺激によって誘導される急性及び/又は慢性の炎症状態に有用な広域スペクトルの抗炎症活性及び免疫調節活性がある。しかしながら、この混合物は、非特異的刺激、すなわち虚血イベント、熱傷、重度の外傷、低酸素状態、癌、自己免疫性疾患(多発性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、乾癬、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、全身性紅斑性狼瘡など)と関連した炎症など、明らかな感染源と関連していない刺激によって誘導される炎症において特に有用であり、一般には、酸化ストレス及び/若しくはニトロシル化ストレスと関連した炎症において、又は全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、血管炎などの全身性炎症状態において、又は神経変性疾患若しくは喘息などの局所炎症状態において有用である。
【0020】
さらなる態様によれば、本発明はまた、適切な添加剤及び/又は賦形剤と組み合わせて、有効成分として本発明による糖脂質混合物を含む、獣医学的に使用するための医薬組成物に関する。
【0021】
本発明の特定の1つの態様は、腫瘍及び腫瘍の浸潤促進効果と関連した炎症状態の治療のための組成物に関し、混合物は抗腫瘍剤及び/又は免疫阻害剤からなる第2の有効成分と共に使用される。
【0022】
さらなる態様によれば、本発明は、シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(CCAP番号1459/45)の抽出物からの極性糖脂質の調製のための方法に関し、前記方法が、核酸混入のレベルが総重量の3%以下になるように実施するヌクレアーゼ処理ステップと、カットオフが30KDaである装置を用いて分子を分離し、より大きな分子量を有する極性糖脂質部分を回収するステップとを含むことを特徴とする。
【0023】
[図面の簡単な説明]
[図1]トール様受容体4(TLR4)及びATPシンターゼ(ATP−SX)膜酵素を含む、炎症促進性反応における調節機構の例の概略図である。
[図2a]OPFP1混合物の1D NMRスペクトルを示す図である。[図2b]糖脂質混合物中に検出された糖のクロマトグラム(GC−MS)の例を示す図である。
[図3]本発明による混合物の1次元電気泳動分析(DOC−PAGE)を示す図である。パネルA:レーン1:E.coli LPS(血清型0111:B4)10μg。レーン2:混合物7μg。レーン3:混合物3.5μg。
[図4]神経芽細胞腫株SH−SY5Yの標識化を示す図である。a)蛍光色素アレクサフルオロ(Alexa Fluor)555と結合したOPFP1混合物による標識化。b)蛍光色素FITCと結合したE.coli LPSによる標識化。
[図5]神経芽細胞腫細胞株SH−SY5Yから抽出され、OPFP1混合物と結合した磁気ビーズに結合している細胞膜タンパク質のSDS−PAGEを示す図である。レーン1:分子量標準。レーン2:細胞溶解物+混合物なしのビーズ。レーン3:細胞溶解物+OPFP1混合物と結合したビーズ。矢印はATPシンターゼα、β、γサブユニット及びそれぞれの分子量を示す。
[図6]細胞外ATPの産生を示す図である。SH−SY5Y細胞株における、細胞外ATPの産生に対するOPFP1の効果の測定。(A)様々なプレインキュベーション時間でのATP産生に対する効果の分析。(B)様々な濃度のOPFP1混合物によって誘発された効果の評価(結果は3つの独立した実験の平均である)。
[図7]ヒト単球の細胞株(THP1)における、E.coli LPSが誘導する炎症性サイトカイン産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。
[図8]ヒト単球の細胞株(THP1)における、P.ジンジバリス(P.gingivalis)LPSが誘導する炎症性サイトカイン産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。
[図9]ヒト単球の細胞株(THP1)における、PMAが誘導するTNF−α産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。Macagno A.ら、2006、J.Exp.Med.203:1481〜92に記載のとおりに得られた混合物との比較。
[図10]ヒトのドーパミン作動性細胞株(SH−SY5Y)における、ドーパミンで酸化ストレスを誘導した後の細胞生存率に対するOPFP1混合物の効果を示す図である。シンボルの説明。
【化1】
[図11]OPFP1混合物10μg/ml濃度による、マトリゲル(Matrigel)(登録商標)中の腫瘍浸潤の阻害を示す図。メラノーマ:SKMEL及び9923M。癌腫:HEY4及びHEY3MET7。
[図12]次の細胞株:9923M、HEY4及びHEY3MET7における、OPFP1混合物10μg/ml濃度の存在下でのPMA誘導MMP−9総産生量の阻害を示す図である。灰色バー:10−7M PMA。黒色バー:10−7M PMA+OPFP1 10μg/ml。
【0024】
[発明の詳細な説明]
定義
おそらくは置換されている糖類:グリコシド部分が、荷電したアミノ酸、リン酸基及び硫酸基などアグリコン型の置換基の存在を示してもよい単糖、二糖類、オリゴ糖を含む。
糖脂質:脂質鎖若しくは脂肪酸鎖と結合した、若しくはアミド結合若しくはエステル結合によってそれらと共有結合した、糖類(糖)又はそれらのポリマーを含む炭水化物からなる分子。
脂質鎖(脂肪酸):脂肪族モノカルボン酸。長鎖脂肪酸は、飽和でも、不飽和でも、又はヒドロキシル化されていてもよい。
ラムノリピド:その脂質部分が少なくとも1つの脂肪酸鎖を含み、その糖類部分が少なくとも1単位のラムノース又はその誘導体からなる糖脂質。
【0025】
本出願の発明者らは、シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(CCAP番号1459/45)の細胞から抽出し、本発明の目的ために「OPFP1混合物」と命名した極性糖脂質の高度に精製された調製物が1つ又は複数のラムノース単位を含む少なくとも1つの高分子量糖脂質種の存在を特徴とすることを見出した。たとえばブラッドフォード(Bradford)法で評価した場合、タンパク質の混入物がないことを特徴とし、また核酸混入が3%以下であることを特徴とするそのような混合物内に、ATPシンターゼ(ATP−SX)に対する阻害活性を検出することができた。そのような活性は、それ自体で炎症促進性反応を刺激する特異的なTLR4受容体(Macagno A.ら、2006、J.Exp.Med.203:1481〜92;Jemmet Kら、2008、Infect.Immun.76:3156〜63)を介する細菌LPSの結合に対するアンタゴニスト活性とは別に、炎症反応を減少させることができる。この効果は、たとえば単球、脂肪細胞、又は内皮細胞など、TLR4受容体及び膜ATPシンターゼ活性の両方を有する細胞内で、炎症促進性刺激をシグナル伝達する経路の冗長性及び重複性による相乗的な特徴を示す(図1)。このATPシンターゼ阻害活性は、糖脂質混合物の主成分と関連しており、この糖脂質混合物は、グラム陰性細菌由来のLPSに特徴的な、典型的ケト−デオキシオクツロソン酸(keto−deoxyoctulosonic acid)(KDO)反応性を欠いており、たとえばPAGE及び銀染色法によって検出した場合、30kD以上の分子量を有し、精製された混合物の最大で70〜90%を占める。OPFP1混合物は、主要な糖脂質成分の脂肪酸としてステアリン酸(C18:0、オクタデカン酸)及びパルミチン酸(C16:0、ヘキサデカン酸)を含む。そのような脂肪酸は、飽和型で存在することが好ましく、糖脂質混合物の総脂質部分に対してそれぞれステアリン酸を50%〜80%及びパルミチン酸を15%〜40%(100を総脂質部分とする)それぞれ含む量で存在することが好ましく、これらの脂肪酸がそれぞれ、65〜75%の間、20〜32%の間になる量で存在することがさらにより好ましい。他の脂肪酸鎖は、脂質部分の15%以下の量で存在してもよく、10%以下の量、好ましくは5%以下の量でラウロレイン酸(又はドデセン酸(C12:1))を含むことが好ましい。実験の部で更に説明しているように、脂肪酸の分析は、メタノール−塩酸(HCl 1M/MeOH)により80℃で20時間化合物を加水分解し、ヘキサン相中へメチルエステルとして抽出した後、GC−MSによって実施することができる。上述のように、主要な糖脂質成分は、少なくとも1単位のラムノース又はその誘導体を含み、分子量が30KDaを超え、好ましくは30〜40KDaの間であることを特徴とする。この分子量は、たとえばDOC−PAGE及びそれに続く銀塩による染色によって決定することができる。本発明による糖脂質混合物には、リン脂質及び遊離脂質が含まれていない。これらは抽出処置によって除去される。さらに、本発明による糖脂質混合物には、グリセロールの脂肪酸誘導体(モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG))などの低分子量糖脂質も含まれていない。これらの低分子量糖脂質は、シアノバクテリアのチラコイド膜に通常存在し、一般に1KDa未満の分子量を有し、本発明の処置によって除去される。糖脂質混合物の糖の分析により、糖類成分(100%とする)中では、ラムノースは好ましくは20〜40%、グルコース(Glc)は20〜40%、キシロース(Xyl)は5〜10%、マンノース(Man)は3〜5%、ガラクトース(Gal)は3〜5%、グルコサミン(GlcN)は0.5〜1%、ガラクツロン酸(GalA)は1〜6%であり、これらの糖が、単糖であってもよく、又はより好ましくは複合糖及び/若しくは糖誘導体であることが示される。細菌(グラム陰性)LPSに典型的な2−ケト−3−デオキシオクトン酸(KDO)のような糖は検出されない。糖類残基の定性分析及び定量分析は、メタノール−塩酸(HCl 1M/MeOH)により80℃で20時間糖脂質混合物を加水分解し、ヘキサンに抽出し、ピリジン及び無水酢酸によりアセチル化した後、アセチル化メチルグリコシドをGC−MSで分析すること、及び/又は2Mトリフルオロ酢酸を用いて120℃で1時間処理し、続いて水素化ホウ素ナトリウムを用いて1時間処理し、次にピリジン及び無水酢酸によってアセチル化した後に得られるアルジトールアセテートを分析することにより行うことができる。本発明者らが知る限りでは、シアノバクテリア細胞から抽出され、哺乳動物細胞に対して全く無毒であるラムノースの存在を特徴とする高分子量極性糖脂質の混合物に関する記載はこれまでには存在しない。さらに、上記に定義した非特異的刺激が誘導する炎症も標的にできる抗炎症活性の存在は、公知のラムノリピドにおいて全く確認されなかった。実際、本発明の糖脂質混合物は、特に核酸を除去することによって高い精製度が達成されたために、本発明で初めて確認された機構によって作用する。確かに、核酸の免疫促進活性は、特異的なトール様受容体が媒介するプロセスであり、よく知られている。TLR4−MD2受容体を介して発揮される、既知のLPSアンタゴニスト活性(微生物の成分によって誘導される)と異なり、そのような機構は、糖脂質混合物の主成分と関連した物質であるラムノリピドに対する一次細胞受容体との相互作用によって活性化され、膜ATPシンターゼ酵素の直接阻害に繋がる。したがって、本発明の糖脂質混合物の活性は、微生物刺激及び非特異的刺激の両方によって誘導される炎症を標的とする、広域スペクトルの抗炎症活性として定義される。TLR4陰性細胞(たとえばSH−SY5Y神経芽細胞腫株)並びにTLR4受容体及び高レベルの膜ATP−SXの両方を発現する単球細胞株(THP−1)において精製混合物を用いて実施した結合研究により、そのような混合物は、様々な細胞型の細胞膜上に存在するATPシンターゼF1複合体のサブユニットと相互作用し、それによって細胞外ATPの産生を阻害することがわかった。実際、実験の部で更に詳述するように、糖脂質及びATP−SXサブユニットを含む複合体を「親和性結合」及び電気泳動によって単離し、LC−ESI−MS/MS質量分析によって特徴づけた。本出願の実験の部で更に詳述するように、細胞外ATPが果たす重要な役割のために、OPFP1によるATP−SX活性の調節によって、炎症反応の全体的な低下が起こり、この低下は既知のLPSアンタゴニスト活性を専ら介して得られる低下をはるかに上回る。いかなる理論にも拘わらないが、この発見は、細菌のLPS又はPMAなど、特異的及び非特異的双方の極めて多様な刺激によって活性化される炎症促進性経路が、メディエーター及び調節分子を共有して働くという事実によるものと思われる。したがって、本発明の極性糖脂質の混合物は、二重の機構、すなわちTLR4−MD2受容体複合体との相互作用を介する、グラム陰性細菌のLPSのアンタゴニスト(LPSとの構造類似性を欠くが)としてだけでなく、主に、細胞外ATP産生の阻害を介して免疫反応及び炎症反応を低下させること(TLR4−MD2複合体との相互作用、したがって微生物成分による直接的な細胞刺激とは無関係の機構)によっても作用する。ATP−SX活性を調節できる分子には、たとえばアンジオスタチン、リスベラトロール、及びピセタノールがあり、これらは抗炎症活性を有する(Chavakis T.ら、2005、Blood、105:1036〜43;Ashikawa K.ら、2002、J.Immunol.169:6490〜7)。ヒトの単球細胞株THP−1を使用して、1及び10μg/mlの濃度で混合物を投与すると、ホルボールミリステートアセテート(PMA)などのLPS非特異的な炎症促進性刺激によって活性化される、TNF−αのような炎症性サイトカインの産生を低減できることも観察された。実験の部でさらに詳述するように、そのような活性の検出は、高純度の混合物によって可能になる。細胞外ヌクレオチド、特に細胞外ATPは、一連の炎症類似活性(抗原提示細胞(APC、マクロファージ、樹状細胞)上に存在するプリン作動性受容体とのATPのオートクリン及びパラクリン相互作用によって媒介される)を誘導する「天然アジュバント」として働くので(La Sala A.ら、2003、J.Leukoc.Biol.73:339〜43)、この阻害機構(微生物成分との相互作用とは無関係である)が、免疫反応の調節にとって最重要であることが現在明らかである。
【0026】
細胞外の微小環境中で利用可能なATPの減少は、初期段階に炎症反応を阻害するために重要であり、主として予防的である当該化合物のLPSアンタゴニスト活性に加えて、その化合物の治療有効性に直接関わるものである。純粋なTLR4受容体アンタゴニスト(Manthey C.L.ら、1993、Infect.Immun.61:3518〜26)と異なり、この混合物は、細菌LPSとの1:1の濃度比においても、またLPSを投与した後でも、炎症性サイトカインの産生を阻害することにより作用する。
【0027】
ヒト神経芽細胞腫細胞SH−SY5YのようにTLR4−MD2を欠くインビトロシステムの使用によって評価したとき、最適濃度の10μg/mlで本発明によるOPFP1混合物を投与した後、細胞外ATPのレベルは63%まで低下させることができる。このシステムでは、そのような効果はいかなる混入物もない場合に検出することができる。実施例1に記載したように調製した混合物が、すべてのタイプのLPS、すなわちトール様受容体4(TLR4)を介して専ら作用するLPS、並びにTLR4及びTLR2との相互作用を介して作用するLPSの生物学的効果にアンタゴナイズできること(Darveau RPら、2004、Infect.Immunity 72:5041〜51)、さらに最も重要なことには、そのような混合物が非特異的な炎症促進性刺激を無効にできることを見出した後に、OPFP1混合物は、炎症性サイトカインの産生の誘導に使用される刺激のタイプに関わりなく、それらの産生を阻害できると結論づけることができる。さらに、免疫反応に直接関与する細胞(マクロファージ及び樹状細胞)以外の細胞が関与する炎症過程に、細胞外ATPが重要な役割を果たすという知見も、特に酸化ストレスなどの刺激に反応した細胞死のプロセスの間において神経細胞で実証された。実験の部で示すモデルにおける混合物の有効性(神経細胞中のドーパミンが誘導するアポトーシスのインビトロでの減少、及びカイニン酸が誘導する発作の減少)によって、OPFP1混合物が、神経細胞株においてアポトーシスを阻害し、神経変性の根本的機構を防止できることが確認された。科学文献では、散発性の神経変性疾患と、主要なリスク因子に入ると考えられる、酸化及びニトロシル化ストレス、グリコシル化、炎症機構、並びに高レベルの興奮性神経伝達物質が持続する結果との間に密接な関連が確認されている。現在使用されている治療は、基本的に対症的であり、疾患及び個々の患者の状態に依存して有効性が変化する。そのような適用の有効性は、高レベルの細胞外ATPがドーパミン作動性の神経細胞株の死を誘導するという、最近公表された知見によって更に確認されている(Jun D−Jら、J.Biol.Chem.、2007、282、37350〜8)。とりわけ、かなりの高濃度においてさえ毒性がないことによって、OPFP1混合物は、炎症性疾患、又は炎症反応が優勢な疾患の治療だけでなく、神経変性疾患の治療にも適するようになる。特に、OPFP1混合物及び有効成分としてOPFP1を含む組成物は、特異的刺激(たとえばグラム陽性細菌、グラム陰性細菌、ウイルス、又は酵母若しくは真菌などの寄生生物による微生物感染)によって誘導される急性又は慢性の炎症状態にも、非特異的刺激によって生じる急性又は慢性の炎症状態にも有用である、広域スペクトルの抗炎症活性及び免疫調節活性を有する。しかしながら、本発明の混合物及びその組成物が、非特異的刺激、すなわち判明している感染源と関連しない刺激が誘導する炎症、たとえば虚血イベント(特に脳虚血)、熱傷、重度の外傷、低酸素状態、癌、自己免疫性疾患(多発性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、乾癬、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、全身性紅斑性狼瘡など)と関連した炎症、並びに一般的に、酸化及び/若しくはニトロシル化ストレスに関連した炎症、若しくは全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、血管炎などの全身性炎症状態、又は神経変性疾患若しくは喘息などの局所的炎症状態に特に有用であることが注目される。神経変性疾患の中でも、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、老人性認知症、及びハンチントン舞踏病など、神経細胞死と関連した症候群を治療することが好ましい。さらに、実験データは、OPFP1混合物がタイプ9マトリックスメタロプロティナーゼ(MMP−9)も特異的に阻害できることを示す。したがって、本発明の混合物の使用を、好ましくは適切な抗癌治療と組み合わせて、転移のプロセスを制限するために特許請求する。上述の抗炎症活性に追加された抗転移活性によって、本発明による混合物の使用は重要な炎症成分を伴う浸潤癌の治療に特に有益になる。さらに、本発明による混合物を用いる感染症の治療は、心臓障害又は家族性脱髄を有する、サイトカイン特異的な抗炎症薬による治療(阻害剤、たとえばTNF中和抗体による治療など)が適切ではない患者には特に適応となり得る。化合物の完全な水溶性により、水溶性の賦形剤及び希釈剤を含む医薬組成物にて治療に使用することが可能になる。このことは、特に液剤に関する分野の専門家にはよく知られている。さらなる態様によれば、この混合物は、上述と同じ治療目的で獣医学的に使用するための組成物の調製にも適している。微生物感染(グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、ウイルス、若しくは酵母若しくは真菌などの寄生生物、又はそれらの成分によって起こる)に起因する、又は浸潤癌に起因する獣医学的炎症性疾患の治療が、特に好ましい。さらなる態様によれば、本発明は、主成分が30KDa超の分子量を有し、シアノバクテリア、特にオシラトリア・プランクトスリックスFP1(番号1459/45、CCAP Culture Collection of Algae and Protozoa、SAMS Research Services Ltd.、Dunstaffnage Marine Laboratory、Dunbeg、Argyll、PA37 1QA、UK)に由来する極性糖脂質の混合物を調製する方法に関する。この方法では、有機溶媒及びカオトロピック剤の混合物、たとえばフェノール及びチオシアン酸グアニジンの混合物などの変性剤、並びに除蛋白剤を用いて、細菌ペレットを最初に処理する。この方法は、核酸混入のレベルが総重量の3%以下、好ましくは2%以下に達するまでヌクレアーゼを用いて処理することと、カットオフが30KDaである装置上で分子を分離するステップ、次いで高分子量画分を回収することとを特徴とする。さらなる詳細によれば、培地、たとえばBG−11培地(Sigma−Aldrich、カタログ番号C3061)中で、温度25℃において、光強度5umol.m−2.sec−1の冷白色光下で連続24時間の照射方式で、シアノバクテリアを増殖させる。
【0028】
定常増殖相に達したとき、シアノバクテリアの培養物をたとえば遠心分離によって沈殿させる(ペレット化)。この沈殿物(又はペレット)は、抽出前に凍結してもよいし、凍結乾燥してもよい。解凍又は再水和(凍結乾燥の場合)後に、沈殿物を下記のステップを経て処理する。a)このペレットを、好ましくは1:1〜1:2の間で構成されるある容量の水又は水性溶媒で希釈することによって再懸濁する。b)糖脂質混合物を含む細胞抽出液(上清とも称する)を得るために、再懸濁したペレットを、たとえばChomczynski P.及びMackey(Biotechniques、1995、19(6):942〜5)に記載の変性剤を含む適切な容量の溶液を用いて、上述のように混合する。この変性剤には極性プロトン性有機溶媒、好ましくはフェノール、及びカオトロピック剤(チオシアン酸グアニジンなど)に基づく試薬、たとえばトリ試薬(Trireagent)(登録商標)(Sigma カタログ番号T3934)又はトリゾール(Trizol)(登録商標)(Invitrogen)などの類似の試薬、並びに約1容量のシアノバクテリアの水性懸濁液、2〜4容量、好ましくは約3容量の抽出溶液、及び約0.5〜1容量のクロロホルムの比でクロロホルムなどの非プロトン性有機溶媒を含むことが好ましい。c)この細胞抽出液を、少なくとも5分間、より好ましくは少なくとも10分間で60分間以下の時間の長さで、室温においてインキュベートする。d)遠心分離、好ましくは約2000×gで遠心分離して、極性糖脂質画分を含む上清(水相)を集める。そのような上清は、たとえば電気泳動及び銀染色法によって、又は単球/マクロファージ由来のTHP1細胞株における、LPS存在下でのTNF−α産生の阻害若しくはATPシンターゼ(ATP−SX)への結合若しくはその活性の阻害のような生物活性アッセイによって、測定することができる。d)の遠心分離によって得たペレットは、水又は水性緩衝液を(集められた容量にほぼ等しい量で)加え、続いてそのサンプルを再び遠心分離することによって再抽出することができる。この第2の上清を前の上清と合わせ、次いでプールしたサンプルを以下のさらなるステップに供する。e)塩、たとえば酢酸ナトリウム(最終5〜20mM)及び約2容量の量の有機溶媒、好ましくはアセトンを添加して沈殿させ、次いで上記と同じ条件下で遠心分離し、水で希釈したエタノール、たとえば70%エタノールを用いて少なくとも1回、好ましくは2回ペレットを洗浄する。f)好ましくは緩衝水溶液、たとえば50mMトリス(TRIS)中にペレットを再懸濁する。次いで、エンドヌクレアーゼ及び/又はエキソヌクレアーゼ(たとえばDNアーゼ及びRNアーゼ)を使用して核酸混入物の酵素処理を実施し、続いてプロテアーゼ、たとえばプロテイナーゼKを、好ましくは100μg/ml用いて十分な時間(37℃で少なくとも1時間)消化することによって、タンパク質混入物を酵素処理する。酵素消化(ステップg)の後に、サンプルを再び遠心分離し、その上清を集め、塩(たとえば酢酸ナトリウム、最終約10mM)及び適切な容量(好ましくは2容量)の有機溶媒、好ましくはアセトンを添加して更に沈殿させる。再び遠心分離し、次いで、少なくとも1つの界面活性剤、好ましくはデオキシコレート(DOC)を含み、更に好ましくはテトラエチルアンモニウムのような陽イオン界面活性剤も含む水又は水溶液の中にペレットを再懸濁する。この物質を、セクションbに述べた(変性性の)抽出溶液を用いて再び抽出し、次いで、上述のように酢酸ナトリウム/アセトンを用いてさらに沈殿させ、70%エタノールで洗浄し、水中又は水溶液中に再懸濁し、カットオフが30KDaであるフィルター(又は他の適切な装置)を使用して分子分離に供し、このようにして、フィルターを通過する物質を除去し、残余分中の高分子量糖脂質画分を水又は緩衝水溶液中に、核酸混入のレベルが3%未満の状態で回収する。
【0029】
さらに、OPFP1混合物に対して実施した元素分析により、炭素(39%)、水素(6.2%)、窒素(5.8%)、硫黄(0.5%)の存在が示された。さらなる態様によれば、本発明は、シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックスFP1(番号1459/45、CCAP)から上述の方法によって得ることができる極性糖脂質混合物を含み、この混合物において、主要な糖脂質成分は、30KDa以上の分子量及び広域スペクトルの抗炎症活性を有するラムノリピドである。
【0030】
[実験の部]
実施例1 シアノバクテリア由来の糖脂質混合物の調製
オシラトリア・プランクトスリックスシアノバクテリアFP1、CCAP保存番号1459/45(the Center for Culture Collection of Algae and Protozoa、Scotland、UKに2008年7月9日に寄託)を、BG−11培地(シアノバクテリアのBG−11淡水溶液 カタログ番号C3061、Sigma Aldrich)から遠心分離によって集めた。集めたシアノバクテリア細胞を凍結し、解凍し、水で1:2に希釈し、3容量のトリ試薬(Tri−reagent)及び1容量のクロロホルムと混合して、室温で10分間インキュベートした。インキュベーション後に、細胞片を2000×gで15分間遠心分離し、活性画分を含む上清(水相)を回収した。水(以前に集めた容量と等しい量)を再添加して、シアノバクテリアの細胞ペレットを更に抽出し、サンプルを再び遠心分離した。集めた上清を、酢酸ナトリウム(最終10mM)及び2容量のアセトンを用いて沈殿させ、遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、70%エタノールでペレットを更に洗浄して膜リン脂質を除去した。上清を除去した後、DNアーゼ(20μg/ml)及びRNアーゼ(10μg/ml)を含む50mM トリス及び10mM MgCl2溶液、pH7.5中にペレットを溶解した。このサンプルを40℃で2時間インキュベートした後、プロテイナーゼK(100μg/ml)を添加し37℃で一晩インキュベートした。翌日、サンプルを2000×gで15分間遠心分離した。上清を回収し、酢酸ナトリウム(最終10mM)及び2容量のアセトンを用いて沈殿させた。デオキシコール酸ナトリウム(0.5%)及びテトラエチルアンモニウム(0.2%)を含む溶液中に遠心分離後得られたペレットを再懸濁し、次いで上述の手順に従ってトリ試薬で再抽出した。酢酸ナトリウム/アセトンを用いて沈殿させ、70%エタノール中で洗浄した後、サンプルを水中に再懸濁し、低分子量混入物を除去するために、分子量カットオフが30KDaである限外濾過装置(アミコンウルトラ(Amicon Ultra)15遠心濾過フィルター単位 Millipore カタログ番号UFC 903008)を使用して一連の精製に供し、続いてその後の化学的試験及び生物学的試験のために、最後に水又は緩衝食塩水(PBS)にサンプルを再懸濁した。
【0031】
実施例2 糖脂質混合物の分析
実施例1に記載のように抽出した混合物は、主としてシアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックスFP1から抽出した高分子量極性糖脂質からなる調製物である。70%エタノールによる洗浄ステップを使用する調製手順により、混合物からリン脂質を除去する。
【0032】
遊離脂質が存在しないことは、フォルチ(Folch)分配法(クロロホルム/メタノール/水 3:2:1)によって実証された。
【0033】
モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)、スルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)、ホスファチジルグリセロール(PG)及びラムノリピド(RL)などの低分子量糖脂質が存在しないことは、これらの糖脂質に特異的な方法であるTLCによって実証された。さらに、この混合物は、ブラッドフォード法によって検出できるタンパク質の混入がないこと及び核酸の混入が3%以下であることを特徴とする。
【0034】
図2aに、OPFP1混合物の1D NMRスペクトルを示す。このスペクトルでは、4.5〜5.5ppmの間の領域で検出されたシグナルは、様々なアノマー糖の存在から生じる。強い高磁場シグナル(1.3ppm)により、混合物中にデオキシ糖の存在が確認される。0.8ppmのピークにより、脂質鎖の末端CH3基の存在が確認される。
【0035】
単糖のGC/MS分析で評価した場合、特徴的な糖である2−ケト−3−デオキシオクトン酸(KDO)が全く存在しないため、精製した糖脂質は、グラム陰性細菌のリポ多糖類(LPS)とは異なる(図2b)。さらに、1D−31P NMRスペクトル解析によって確認されるように、シアノバクテリアから抽出した糖脂質には、グラム陰性細菌からのLPSとは異なり、リン酸基の存在が示されない。糖類残基の定性及び定量分析は、アセチル化メチルグリコシド及びアルジトールアセテートのGC−MS分析によって実施した。同様に、脂肪酸は、クロマトグラフィーのピークの保持時間及び質量スペクトルのフラグメンテーションの分析を介して、メチルエステルの形でGC−MSによって検出した。
【0036】
詳細には、サンプルの一定分量(1mg)を、メタノール−塩酸(HCl 1M/MeOH)を用いて80℃で20時間処理し、続いて乾燥してヘキサンで抽出した。このヘキサン相には、メチルエステルの形で脂肪酸が含まれ、一方メタノール相にはO−メチルグリコシドが含まれる。
【0037】
アセチル化メチルグリコシドは、以下のように調製した。メタノール相を空気流の下で乾燥し、ピリジン50μl及び無水酢酸50μlを用いて100℃で30分間アセチル化した。この混合物を乾燥し、CHCl3に溶解し、このサンプルを精製するために水で数回抽出し、次いで回収して乾燥した。
【0038】
アルジトールアセテートについては、サンプルの等しい一定分量を2M トリフルオロ酢酸を用いて120℃で1時間処理した。この酸を乾燥した後、サンプルを水に溶解し、1スパチュラチップの水素化ホウ素ナトリウムを用いて1時間処理した。過剰の水素化物を酢酸で分解し、その溶液をメタノール及び酢酸で数回乾燥した。最後に、アセチル化メチルグリコシドと同様にアセチル化を実施した。
【0039】
アセチル化メチルグリコシド及びアルジトールアセテートの両方とも、GC−MS(ガスクロマトグラフィー−質量分析)によって分析した。アセチル化メチルグリコシド及びアルジトールアセテートの分析結果は、クロマトグラム中に見ることができる。ここで各誘導体化単糖はそれ自体の保持時間を示し、各ピークに対して、典型的な質量スペクトルが各単糖と関係づけられる。ピーク面積は、混合物中に存在する単糖の量に比例する。アルジトールアセテートの分析により、検出された単糖のパネルを確認し完成することが可能になり、また各単糖に個々のシグナルを割り当てる利点が追加される。次の糖が存在することを見出した(図2b)。ラムノース(Rha)39.4%。グルコース(GLc)38%。キシロース(Xyl)9.6%。マンノース(Man)4.2%。ガラクトース(Gal)3.9%。グルコサミン(GlcN)1%。ガラクツロン酸(GalA)2%。
【0040】
メチルグリコシドから分離するためにメタノール−塩酸で化合物を処理し、ヘキサンで抽出した後に得られた脂質をGC−MSによって分析し、これによって次の脂肪酸組成を得た。C12:1(ラウロレイン酸又はドデセン酸)3.1%。C16:0(パルミチン酸又はヘキサデカン酸)27.4%。C18:0(ステアリン酸又はオクタデカン酸)68.7%。
【0041】
この混合物に関して実施した元素分析により、炭素(39%)、水素(6.2%)、窒素(5.8%)、硫黄(0.5%)の存在が示された。
【0042】
主要な単一バンドは、約30KDaの分子量を有し、電気泳動及び銀染色法によって観察される。この方法は、化合物の電気泳動度を促進し、水溶液中に高濃度の糖脂質が存在するときに形成されるミセル構造の脱凝集を助ける界面活性剤としてデオキシコール酸ナトリウム(DOC−PAGE)を使用する、高分子量糖脂質のディスプレイのための特異的な方法である(図3)。
【0043】
糖脂質サンプルは水に可溶である。溶液は、清澄、無色、無臭、無味である。高度に濃縮された糖脂質は、凝集してミセルを形成する。サンプルは、5分間の沸騰後、又は1回の凍結融解サイクル後でも安定である。
【0044】
実施例3 膜受容体の同定
薬理学的効果を媒介する細胞膜受容体を同定するために、混合物に蛍光染料を結合させ、様々なヒト細胞株を、蛍光顕微鏡法によって検出されるインビトロ標識実験の標的として使用した。特に、ヒトメラノーマ(SKMEL−28)、卵巣癌(HEY4)、神経芽細胞腫(SH−SY5Y)、及び胎生腎上皮細胞株(HEK293)に由来する細胞株を試験した(Molteniら、Cancer Letter、2006、235:75〜83)。糖脂質混合物を過ヨウ素酸ナトリウムで処理し(糖成分を酸化させ、これによってアルデヒド官能基を導入するために)、アレクサ555蛍光色素(分子プローブ)と共に室温で30分間インキュベートし、最後に水素化ホウ素ナトリウム(1mM)と共にインキュベートした。インキュベーションの終わりに、標識された糖脂質混合物を酢酸ナトリウム/アセトンで沈殿させ、最後に水の中に再懸濁した。様々な細胞株での標識実験のために、培養物をスライドガラス上に調製した。固定した後、スライドを、標識された糖脂質混合物と共にインキュベートして洗浄し、FITCフィルターを使用する蛍光顕微鏡法によって視覚化した。
【0045】
結果は、糖脂質混合物が胚起源の細胞(HEK293)以外のすべての細胞を陽性に標識したことを示した。標識例を図4に示す。神経芽細胞腫株SH−SY5Yが、アレクサフルオル555に結合した糖脂質混合物で陽性に標識され、一方、蛍光標識された細菌LPS(LPS−FITC Sigma)を結合しないことが観察できるため、LPS(TLR4−MD2)に対する細胞膜受容体が存在しないことを示す。この特徴のため、SH−SY5Y細胞株は、TLR4−MD2複合体とは異なる代替受容体を同定するために使用した(Molteniら、2006、上記を参照のこと)。ビオチン化した後、表面にストレプトアビジンを担持する磁気ビーズ(Promega カタログ番号Z5481)に混合物を結合させた(磁気ビーズ1.8mlに対してビオチン化混合物0.4mg)。30×106 SH−SY5Y細胞から得られた細胞膜タンパク質を、カルビオケム(Calbiochem)キット、プロテオエクストラクト(ProteoExtract)カタログ番号444810を使用してそれ本来の形で抽出し、そのままの磁気ビーズと共にインキュベートし(生理学的にビオチン化されるタンパク質を除去するため)、次いでOPFP1糖脂質混合物と結合した磁気ビーズと共にインキュベートした。OPFP1結合ビーズに特異的に結合したタンパク質を、変性条件下で一次元電気泳動に供し、クーマシーで染色して、LC−ESI−MS/MSの質量分析によって分析した。
【0046】
シークエンシングデータにより、精製した調製物と特異的に相互作用する細胞膜タンパク質がヒトATPシンターゼ複合体のα、β、γサブユニットであることが明らかとなった(図5)。これらの結果は、TLR4−MD2受容体に加えて、細胞表面上にATPシンターゼ複合体を発現する、ヒト単球株のTHP1でも確認した。
【0047】
混合物はこの酵素複合体に結合するだけでなく、その活性も調節する。陽性対照として、ピセタノール(3,4,3’,5’−テトラヒドロキシ−トランス−スチルベン)を使用した。ピセタノールは、細胞外ATPの産生に対する阻害活性でよく知られているリスベラトロールの代謝産物である。
【0048】
そこで、SH−SY5Y細胞株を、OPFP1混合物(10μg/ml)又はピセタノール(4μM)と共に様々な時間(1分、5分、15分)インビトロでプレインキュベートした。5分後に、ATP合成の最大阻害は、混合物では63%、ピセタノールの存在下では97%であった(図6A)。様々な濃度のOPFP1(0.5、1、10、20μg/ml)で実施したさらなる実験では、阻害が用量依存的で、10μg/ml濃度で最大になることが示された(図6B)。この結果により、精製された物質は膜ATPシンターゼに結合するだけでなく、用量依存的にその活性を阻害することが示される。
【0049】
実施例4 ヒト単球細胞株において様々な刺激によって誘導される炎症性サイトカインの阻害。
実施例1に記載のように調製した混合物を用いて、細胞膜のTLR4−MD2複合体及びATPシンターゼの両方を発現するヒト単球細胞株(THP1)における、炎症性サイトカインの産生に対するインビトロでの効果を研究した。細菌LPS及び非特異的刺激(ホルボールミリステートアセテート、PMAなど)の両方を、細胞活性化のために使用した。
【0050】
その結果から、混合物が培養物中で炎症性サイトカインの産生を刺激しないことが確認され(図7)、サイトカイン産生を刺激する細菌LPS(図7及び8に記載の実験では、それぞれE. coli及びP.ジンジバリス由来)の存在下で、混合物はアンタゴニストとして作用し、それによって腫瘍壊死因子α(TNF−α)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン1β(IL−1β)、インターロイキン8(IL−8)の産生を用量依存的に阻害することが示された。大腸菌(Escherichia coli)血清型0111:B4由来のLPSによるサイトカイン誘導の阻害を図7のデータで示し、一方ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)由来のLPSを用いた実験で得られた結果を図8に示す。E. coli LPSは純粋なTLR4アゴニストであるが、P.ジンジバリスLPSはTLR4及びTLR2の両方に対するアゴニストであることがよく知られている(Darveau RPら、2004、Infect.Immunity 72:5041〜51)。TNF−α産生の調節をPMA存在下でも研究した。図9に示す結果から、高純度の糖脂質混合物だけが、PMAのような非特異的刺激の存在下でも、TNF−α産生の阻害剤として作用し、したがって、LPSの存在下で活性化される機構とは別個の経路を介して作用することが示される。実際に、記載の方法によって得られた、同じシアノバクテリア由来の粗抽出物の存在下では、阻害は観察されない。
【0051】
したがって、実施例1に記載のように調製した混合物が、非特異的な炎症促進性刺激をアンタゴナイズすることに加えて、すべてのLPSタイプ、すなわち専らTLR4を介して作用するもの及びTLR2との相互作用を介して作用するものをアンタゴナイズできることを観察した後では、OPFP1混合物が、炎症性サイトカインの産生を、その産生を誘導するために使用した刺激のタイプにかかわらず、阻害できると結論することは可能である。
【0052】
E. coli又はP.ジンジバリスのLPSによるTHP1細胞の刺激から得られたデータより、膜ATPシンターゼの阻害及びTLR4受容体レベルでのアンタゴニズムによる、炎症性サイトカイン産生の阻害は、確実に相加的な効果であり、おそらく相乗的な効果であると断定することができる。実際に、我々は、最適未満の濃度(すなわち1μg/ml)の阻害性糖脂質混合物の存在下で、混合物の阻害能力は、E. coli LPSと共にインキュベートした培養物におけるよりも、TLR4に依存した刺激活性及びTLR4とは別個の刺激活性の両方を介して作用するP.ジンジバリスLPSと共にインキュベートした培養物においてはるかに高いことに注目している。それ故に、追加の阻害活性は、TLR4受容体アンタゴニズム以外の効果によるものであり、したがって、膜ATP−SXの阻害に帰するものにちがいない。膜ATP−SXの阻害による炎症性サイトカインの阻害は、以下に示すように、P.ジンジバリスLPS及びE. coli LPSによる阻害率(%)間の差から推定することができる。
【0053】
【表1】
【0054】
TLR4受容体アゴニストに限らないLPS種による、炎症性サイトカイン産生の刺激で得られた結果から、ATP−SX阻害が、相乗的な相互作用の機構によって同調し、炎症性サイトカインの産生を阻害することは明らかである。ATP−SX阻害は、検討した炎症性サイトカインに依存して、全阻害効果に対して30%〜60%の寄与をする。さらに、ATP−SXが果たす役割を十分に評価するために、シアノバクテリアから抽出した糖脂質混合物の存在下でTNF−αの産生が阻害される効率を、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)由来のLPS(Invivogen)である典型的な純粋TLR4アンタゴニストとインビトロで比較した。その結果から、E. coli LPSより20倍高い濃度で培地に添加したR.スフェロイデスLPSは、TNF−α産生を阻害できないが、シアノバクテリア由来の糖脂質混合物は、E. coli LPSより20倍高い濃度でTNF−α産生をほとんど完全に阻害する(平均阻害97%)ことが示された。PMA刺激で得られた阻害データは、他の膜ATPシンターゼ阻害剤、たとえばこの機構によってLPS及びPMAが誘導する炎症性サイトカイン産生を阻害することがよく知られているピセタノール(Ashikawa K.ら、2002、J.Immunol.169:6490〜7)について示されたデータと一致している。
【0055】
実施例5 SH−SY5Y神経芽細胞腫細胞におけるドーパミン誘導アポトーシスの阻害
神経細胞起源の細胞株における混合物の効果を評価するために、公知のシステムを用いた(Colapinto M.ら、Biochem.Biophys.Res Commun.、2006、349、1294〜300)。このシステムでは、ドーパミン作動性の細胞株(たとえばSH−SY5Y神経芽細胞腫株、図5及び6に示すように、その細胞株の膜ATPシンターゼはOPFP1糖脂質混合物によって調節される)をドーパミンでインビトロ処理して細胞アポトーシスを誘導した。ドーパミンとのインキュベーションにより、その細胞質内レベルを増大させ、それによってドーパミン自体からの解毒中に神経細胞内で産生されるフリーラジカル及び反応性中間体によって生じる細胞損傷を模倣することが可能になる。ドーパミン誘導アポトーシスは、パーキンソン病で観察されるような、ドーパミン作動性神経細胞の変性に関与する現象を研究するために使用されるモデルである。
【0056】
この目的のために、SH−SY5Y神経芽細胞腫細胞株を、最終濃度10及び20μg/mlの精製物質の存在下又は非存在下で、様々な濃度(0.05〜0.1〜0.15mM)のドーパミンを用いて24時間処理した。ドーパミンは用量反応的にアポトーシスを誘導し、平均生存率は、0.05、0.1及び0.15mMのドーパミン濃度でそれぞれ91%、61%、23%であった。
【0057】
細胞生存率の向上が、混合物存在下で観察された。特に、混合物20μg/ml濃度において、細胞生存率は、ドーパミン0.05、0.1、0.15mMの存在下でそれぞれ100%、85%、20%であった(図10)。
【0058】
この神経保護活性は、カイニン酸による誘導によって発作が再現されるマウスモデルにおいてインビボで更に確認した。精製混合物は、てんかん性活動を40%低下させることができた。
【0059】
特定のいかなる理論にも拘わらないが、この実験モデルにおける混合物の有用性は、他の研究グループが行った観察によって明白に確認される。その観察によれば、細胞外ATPは神経変性に関連した炎症過程に基本的な役割を果たす。
【0060】
実施例6 マトリゲル(登録商標)における腫瘍浸潤の阻害及びヒト腫瘍細胞株におけるメタロプロティナーゼ9産生の阻害
アンジオスタチン及びリスベラトロールの誘導体などの膜ATPシンターゼ阻害剤には抗腫瘍効果があることがよく知られている(Tabruyn S.P.ら、2007、Biochem Biophys.Res.Commun.350、1〜8;Kundu J.K.ら、2008、Cancer Lett.269:243〜61)。そのため、本発明による混合物を、最初にインビトロ増殖試験、次いでマトリゲル(登録商標)おける腫瘍細胞浸潤性に対する阻害アッセイで評価した。後者のアッセイでは、原発腫瘍又は転移由来のいくつかのメラノーマ及び癌腫の腫瘍細胞株、特にSKMEL−28(ヒトメラノーマ株)、9923M(リンパ節転移由来のメラノーマ株)、HEY4(卵巣癌株)、HEY3−MET7(Molteniら、Cancer Letter 2006に記載されている、ヌードマウスへの注入後のHEY4に由来する転移性卵巣癌株、上記を参照のこと)を、下部チャンバーから上部チャンバーを分離する隔壁の細孔が、細胞外環境に類似したゼラチン状のタンパク質混合物からなるマトリックスで閉塞されているボイデン(Boyden)チャンバーを使用して、ウシ胎児血清に代表される走化性刺激に供した。このマトリックスは、マトリゲル(登録商標)(QCMEC Matrix Cell Invasion Assay カタログ番号ECM550 Chemicon International)と名付けられている。糖脂質混合物(10μg/ml濃度)の存在下又は非存在下で、ウシ胎仔血清を含まない培地中、上部チャンバーに細胞を播種し、一方下部チャンバーに血清を含む完全培地を加えた。5%CO2の雰囲気中、37℃で24時間インキュベートした後に、マトリゲル(登録商標)の溶解に続き下部チャンバーに浸潤した細胞の数を、クリスタルバイオレット染色によって推定した。図11に示す結果から、実施例1のように精製し、10μg/ml濃度で使用した糖脂質混合物は、基本条件の下で、腫瘍細胞が移動し浸潤する能力を、試験した細胞株に依存して、30%から最大80%まで阻害することが示される。
【0061】
腫瘍浸潤は、細胞外マトリックスを分解し、それによって、腫瘍細胞が血流に達して、原発腫瘍の部位から遠くに移動することを可能にするゼラチナーゼ(MMP−2及びMMP−9)などの酵素の放出が関与する非常に複雑なプロセスである。いくつかの細胞株におけるMMP−9の全放出量に関する研究により、混合物が、MMP−9産生を著しく阻害できるため、マトリゲル(登録商標)中の移動を阻害することが示された。予備的段階では、培地中へのゼラチナーゼの放出は、ある細胞株(SKMEL−28及びHEY4)においてのみ酵素電気泳動法によって定性的に評価し(データ示さず)、その後のMMP−9の定量は、ELISA(MMP−9バイオトラック活性アッセイ(MMP−9 Biotrak activity assay)(登録商標) カタログ番号RPN2634 Amersham Bioscences)によって実施した。SKMEL−28細胞は、基本条件の下でもPMA刺激の後でも、MMP−9を産生せず、MMP−2を構成的に産生するだけであること、またMMP−2レベルもOPFP1糖脂質混合物によって阻害されることを予備的酵素電気泳動法によって見出すことが可能になった。
【0062】
これに対して、HEY4細胞培養上清について実施した酵素電気泳動法によってだけ、MMP−9の存在が示された。そのレベルは、PMAとのインキュベーション後に増大する。
【0063】
図12に、上記細胞株のうちの3株について、10μg/ml濃度でのOPFP1糖脂質混合物の存在下又は非存在下、5%CO2の雰囲気中で37℃、24時間インキュベーション中のPMA10−7MによるMMP−9放出の刺激に関する結果を示す。この結果は、MMP−9産生に対する、本発明の糖脂質混合物の顕著な阻害効果を示す。MMP−9産生は転移プロセスの間の腫瘍細胞移動にとって必須のものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】トール様受容体4(TLR4)及びATPシンターゼ(ATP−SX)膜酵素を含む、炎症促進性反応における調節機構の例の概略図である。
【図2】(a)OPFP1混合物の1D NMRスペクトルを示す図である。(b)糖脂質混合物中に検出された糖のクロマトグラム(GC−MS)の例を示す図である。
【図3】本発明による混合物の1次元電気泳動分析(DOC−PAGE)を示す図である。パネルA:レーン1:大腸菌(E.coli)LPS(血清型0111:B4)10μg。レーン2:混合物7μg。レーン3:混合物3.5μg。
【図4】神経芽細胞腫株SH−SY5Yの標識化を示す図である。a)蛍光色素アレクサフルオル(Alexa Fluor)555と結合したOPFP1混合物による標識化。b)蛍光色素FITCと結合したE.coli LPSによる標識化。
【図5】神経芽細胞腫細胞株SH−SY5Yから抽出され、OPFP1混合物と結合した磁気ビーズに結合している細胞膜タンパク質のSDS−PAGEを示す図である。レーン1:分子量標準。レーン2:細胞溶解物+混合物なしのビーズ。レーン3:細胞溶解物+OPFP1混合物と結合したビーズ。矢印はATPシンターゼα、β、γサブユニット及びそれぞれの分子量を示す。
【図6】細胞外ATPの産生を示す図である。SH−SY5Y細胞株における、細胞外ATPの産生に対するOPFP1の効果の測定。(A)様々なプレインキュベーション時間でのATP産生に対する効果の分析。(B)様々な濃度のOPFP1混合物によって誘発された効果の評価(結果は3つの独立した実験の平均である)。
【図7】ヒト単球の細胞株(THP1)における、E.coli LPSが誘導する炎症性サイトカイン産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。
【図8】ヒト単球の細胞株(THP1)における、P.ジンジバリス(P.gingivalis)LPSが誘導する炎症性サイトカイン産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。
【図9】ヒト単球の細胞株(THP1)における、PMAが誘導するTNF−α産生のOPFP1混合物による阻害を示す図である。Macagno A.ら、2006、J.Exp.Med.203:1481〜92に記載のとおりに得られた混合物との比較。
【図10】ヒトのドーパミン作動性細胞株(SH−SY5Y)における、ドーパミンで酸化ストレスを誘導した後の細胞生存率に対するOPFP1混合物の効果を示す図である。シンボルの説明。
【化2】
【図11】OPFP1混合物10μg/ml濃度による、マトリゲル(Matrigel)(登録商標)中の腫瘍浸潤の阻害を示す図。メラノーマ:SKMEL及び9923M。癌腫:HEY4及びHEY3MET7。
【図12】次の細胞株:9923M、HEY4及びHEY3MET7における、OPFP1混合物10μg/ml濃度の存在下でのPMA誘導MMP−9総産生量の阻害を示す図である。灰色バー:10−7M PMA。黒色バー:10−7M PMA+OPFP1 10μg/ml。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要な糖脂質成分の脂肪酸としてステアリン酸(C18:0、オクタデカン酸)とパルミチン酸(C16:0、ヘキサデカン酸)とを含み、それらのうちの1つが少なくとも1単位のラムノース又はその誘導体を含む糖類と結合している、極性糖脂質の混合物。
【請求項2】
ステアリン酸の量が50%〜80%の間、より好ましくは65%〜75%の間にあり、パルミチン酸(C16:0、ヘキサデカン酸)の量が15%〜40%の間、より好ましくは20%〜32%の間にある、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
前記主要な糖脂質成分が、30KDaより高い分子量を有する、請求項1又は2に記載の混合物。
【請求項4】
脂質部分が、総脂質部分の15%以下の量で、ステアリン酸及びパルミチン酸とは異なる脂肪酸を更に含む、請求項2又は3に記載の混合物。
【請求項5】
ステアリン酸及びパルミチン酸とは異なる前記脂肪酸の少なくとも1つが、ラウロレイン酸(C12:1、ドデセン酸)である、請求項4に記載の混合物。
【請求項6】
ラムノース又はその誘導体が、糖脂質混合物の総糖類成分の少なくとも20%の量で存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項7】
前記総糖類成分が、グルコース又はその誘導体を更に含む、請求項6に記載の混合物。
【請求項8】
前記糖類成分が、キシロース、マンノース、ガラクトース又はこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの糖類を更に含む、請求項6又は7に記載の混合物。
【請求項9】
前記糖類成分が、少なくとも1単位のガラクツロン酸又はその誘導体を更に含む、請求項8に記載の混合物。
【請求項10】
広域スペクトルの抗炎症剤である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項11】
微生物性病因及び/又は非特異的性質を有する、急性及び/又は慢性で、全身性又は臓器特異性の炎症性疾患の治療に使用するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項12】
非特異的性質の前記炎症性疾患が、虚血、熱傷、重度の外傷、低酸素症、癌、酸化及び/又はニトロシル化ストレス、移植片対宿主疾患、全身性又は臓器特異的自己免疫疾患と関連している、請求項11に記載の混合物。
【請求項13】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、乾癬、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、全身性紅斑性狼瘡からなる群から選択される、請求項12に記載の混合物。
【請求項14】
炎症状態が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、神経変性疾患(好ましくは、細胞死と関連した疾患、さらにより好ましくは、パーキンソン病又はアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、老人性認知症、及びハンチントン舞踏病)、全身性血管炎、又は喘息から選択される、請求項11に記載の混合物。
【請求項15】
適切な添加剤及び/又は賦形剤と組み合わせて、請求項1〜14のいずれか一項に記載の混合物を有効成分として含む組成物。
【請求項16】
前記添加剤又は賦形剤が水溶性である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記混合物が、少なくとも第2の有効成分を伴っている、請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項18】
前記追加の有効成分が、抗腫瘍剤及び/又は免疫抑制剤である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
獣医学的に使用するための、請求項15〜18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
核酸混入のレベルが総重量の3%以下に達するまでヌクレアーゼを用いて処理するステップと、カットオフが30KDaである装置上で分子を分離し、次いで高分子量画分を回収するステップとを有する、カオトロピック変性剤で抽出したシアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(CCAP番号1459/45)の細胞から請求項1〜15のいずれか一項に記載の極性糖脂質の混合物を調製するための方法。
【請求項21】
抽出ステップがステップb)に記載のように実施され、ヌクレアーゼ処理がステップg)に記載のように実施され、分子分離がステップk)に記載のように実施され、さらなるステップa)、c)〜f)、h)〜j)、及びl)〜m):
a)凍結乾燥されていてもよいシアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(番号1459/45)の濃縮物を、好ましくは1:1〜1:2の間にある容量比で水溶液に再懸濁するステップと、
b)カオトロピック剤、極性プロトン性有機溶媒、好ましくはフェノール、及びクロロホルムなどの非プロトン性有機溶媒を含む、2〜4容量、好ましくは約3容量の変性溶液とシアノバクテリアの懸濁液を混合するステップと、
c)60分間より短い時間インキュベートするステップと、
d)遠心分離し、上清と名付けられた液相を集めるステップと、
e)塩及び有機溶媒、好ましくはアセトンを前記上清に添加して糖脂質画分を沈殿させ、沈殿物(又はペレット)を水希釈エタノールで洗浄するステップと、
f)前記沈殿物を水溶液、好ましくは緩衝水溶液に再懸濁させるステップと、
g)ヌクレアーゼ、好ましくはエンドンクレアーゼ及び/又はエキソヌクレアーゼで処理し、続いてプロテアーゼ、好ましくはプロテイナーゼKで処理するステップと、
h)塩及び有機溶媒、好ましくはアセトンを添加して、糖脂質相を沈殿させるステップと、
i)ペレットを水希釈エタノールで洗浄し、イオン性界面活性剤、好ましくはデオキシコール酸ナトリウム、及び第四級アンモニウム塩を含む水溶液に再懸濁する任意選択のステップと、
j)ステップb)〜f)に記載のように前記水溶液から再抽出するステップと、
k)カットオフが30KDaである装置上で分子を分離するステップと、
l)高分子量極性糖脂質画分を水又は緩衝水溶液で回収し、核酸又はタンパク質の混入レベルを評価するステップと、
m)核酸混入が3%未満である画分を回収し、使用するステップと
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(番号1459/45)の培養物から請求項20又は21に記載の抽出法によって得られる糖脂質混合物。
【請求項23】
主要な糖脂質成分が、30KDa以上の分子量及び広域スペクトルの抗炎症活性を有するラムノリピドである、請求項22に記載の混合物。
【請求項1】
主要な糖脂質成分の脂肪酸としてステアリン酸(C18:0、オクタデカン酸)とパルミチン酸(C16:0、ヘキサデカン酸)とを含み、それらのうちの1つが少なくとも1単位のラムノース又はその誘導体を含む糖類と結合している、極性糖脂質の混合物。
【請求項2】
ステアリン酸の量が50%〜80%の間、より好ましくは65%〜75%の間にあり、パルミチン酸(C16:0、ヘキサデカン酸)の量が15%〜40%の間、より好ましくは20%〜32%の間にある、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
前記主要な糖脂質成分が、30KDaより高い分子量を有する、請求項1又は2に記載の混合物。
【請求項4】
脂質部分が、総脂質部分の15%以下の量で、ステアリン酸及びパルミチン酸とは異なる脂肪酸を更に含む、請求項2又は3に記載の混合物。
【請求項5】
ステアリン酸及びパルミチン酸とは異なる前記脂肪酸の少なくとも1つが、ラウロレイン酸(C12:1、ドデセン酸)である、請求項4に記載の混合物。
【請求項6】
ラムノース又はその誘導体が、糖脂質混合物の総糖類成分の少なくとも20%の量で存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項7】
前記総糖類成分が、グルコース又はその誘導体を更に含む、請求項6に記載の混合物。
【請求項8】
前記糖類成分が、キシロース、マンノース、ガラクトース又はこれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの糖類を更に含む、請求項6又は7に記載の混合物。
【請求項9】
前記糖類成分が、少なくとも1単位のガラクツロン酸又はその誘導体を更に含む、請求項8に記載の混合物。
【請求項10】
広域スペクトルの抗炎症剤である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項11】
微生物性病因及び/又は非特異的性質を有する、急性及び/又は慢性で、全身性又は臓器特異性の炎症性疾患の治療に使用するための、請求項1〜9のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項12】
非特異的性質の前記炎症性疾患が、虚血、熱傷、重度の外傷、低酸素症、癌、酸化及び/又はニトロシル化ストレス、移植片対宿主疾患、全身性又は臓器特異的自己免疫疾患と関連している、請求項11に記載の混合物。
【請求項13】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、乾癬、関節リウマチ、糖尿病、自己免疫性甲状腺炎、全身性紅斑性狼瘡からなる群から選択される、請求項12に記載の混合物。
【請求項14】
炎症状態が、全身性炎症反応症候群(SIRS)、敗血症、神経変性疾患(好ましくは、細胞死と関連した疾患、さらにより好ましくは、パーキンソン病又はアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、老人性認知症、及びハンチントン舞踏病)、全身性血管炎、又は喘息から選択される、請求項11に記載の混合物。
【請求項15】
適切な添加剤及び/又は賦形剤と組み合わせて、請求項1〜14のいずれか一項に記載の混合物を有効成分として含む組成物。
【請求項16】
前記添加剤又は賦形剤が水溶性である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記混合物が、少なくとも第2の有効成分を伴っている、請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項18】
前記追加の有効成分が、抗腫瘍剤及び/又は免疫抑制剤である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
獣医学的に使用するための、請求項15〜18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
核酸混入のレベルが総重量の3%以下に達するまでヌクレアーゼを用いて処理するステップと、カットオフが30KDaである装置上で分子を分離し、次いで高分子量画分を回収するステップとを有する、カオトロピック変性剤で抽出したシアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(CCAP番号1459/45)の細胞から請求項1〜15のいずれか一項に記載の極性糖脂質の混合物を調製するための方法。
【請求項21】
抽出ステップがステップb)に記載のように実施され、ヌクレアーゼ処理がステップg)に記載のように実施され、分子分離がステップk)に記載のように実施され、さらなるステップa)、c)〜f)、h)〜j)、及びl)〜m):
a)凍結乾燥されていてもよいシアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(番号1459/45)の濃縮物を、好ましくは1:1〜1:2の間にある容量比で水溶液に再懸濁するステップと、
b)カオトロピック剤、極性プロトン性有機溶媒、好ましくはフェノール、及びクロロホルムなどの非プロトン性有機溶媒を含む、2〜4容量、好ましくは約3容量の変性溶液とシアノバクテリアの懸濁液を混合するステップと、
c)60分間より短い時間インキュベートするステップと、
d)遠心分離し、上清と名付けられた液相を集めるステップと、
e)塩及び有機溶媒、好ましくはアセトンを前記上清に添加して糖脂質画分を沈殿させ、沈殿物(又はペレット)を水希釈エタノールで洗浄するステップと、
f)前記沈殿物を水溶液、好ましくは緩衝水溶液に再懸濁させるステップと、
g)ヌクレアーゼ、好ましくはエンドンクレアーゼ及び/又はエキソヌクレアーゼで処理し、続いてプロテアーゼ、好ましくはプロテイナーゼKで処理するステップと、
h)塩及び有機溶媒、好ましくはアセトンを添加して、糖脂質相を沈殿させるステップと、
i)ペレットを水希釈エタノールで洗浄し、イオン性界面活性剤、好ましくはデオキシコール酸ナトリウム、及び第四級アンモニウム塩を含む水溶液に再懸濁する任意選択のステップと、
j)ステップb)〜f)に記載のように前記水溶液から再抽出するステップと、
k)カットオフが30KDaである装置上で分子を分離するステップと、
l)高分子量極性糖脂質画分を水又は緩衝水溶液で回収し、核酸又はタンパク質の混入レベルを評価するステップと、
m)核酸混入が3%未満である画分を回収し、使用するステップと
を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
シアノバクテリアのオシラトリア・プランクトスリックス種(番号1459/45)の培養物から請求項20又は21に記載の抽出法によって得られる糖脂質混合物。
【請求項23】
主要な糖脂質成分が、30KDa以上の分子量及び広域スペクトルの抗炎症活性を有するラムノリピドである、請求項22に記載の混合物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−517985(P2012−517985A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549606(P2011−549606)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051958
【国際公開番号】WO2010/094693
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(511194418)ブルーグリーン バイオテック エス.アール.エル (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051958
【国際公開番号】WO2010/094693
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(511194418)ブルーグリーン バイオテック エス.アール.エル (1)
【Fターム(参考)】
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