説明

オゾン水製造方法、オゾン水製造装置、およびこれらに使用される洗浄剤

【課題】取り扱いが容易でかつ維持管理コストおよびイニシャルコストを削減することが可能な、固定電解質膜を用いた水中電解法による、オゾン水製造方法、オゾン水製造装置、ならびにこれらに使用される洗浄剤を提供することを目的とする。
【解決手段】有機酸を含むとともに固形状に成型された洗浄剤を徐々に溶出させることで洗浄液を生成する。生成された洗浄液により、固定電解質膜で陽極室と陰極室に区画された電解槽における陰極室内に配置されている陰極電極を洗浄し、難溶性の塩の析出を防止して水中電解法によりオゾン水を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定電解質膜を用いる水中電解法によるオゾン水製造方法、オゾン水製造装置、およびこれらに使用される洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンは、殺菌、脱臭、脱色などの効果から食品関係、下水道、し尿処理、浴室、病院、老人施設、畜産、水産関係など種々の分野で利用と効果が期待されている。従来、オゾンが溶解した水であるオゾン水を製造する方法の一つとして、固体電解質膜と電極を利用して水中において水を電気分解することによりオゾン水を直接発生させる製造装置が用いられている。この装置は、固体電解質膜で陽極室と陰極室に区画された電解槽における陽極室側から水の分解により酸素とともにオゾンが発生し、陰極室側では水素ガスの発生とともに液がアルカリ性となる。また、陰極室側には、Na+イオン、Ca2+イオン、Mg2+イオン、などの陽イオンが固体電解質膜を透過してくる。このうち、Ca2+イオン、Mg2+イオンは、アルカリ性において、OH-イオンや空気中の炭酸ガスが溶解した炭酸イオンと結合して難溶性の水酸化物や炭酸塩を生じ、電極に析出して電解性能を著しく低下させることが知られている。
【0003】
このような問題に対し、Ca2+イオン、Mg2+イオンが酸性溶液によく溶けるという性質を利用して陰極室側に酸性洗浄液を循環させて難溶性塩の陰極電極への析出を防止する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、Na型イオン交換樹脂を充填した軟水器をオゾン水製造装置の上流側に設け、水道水中の硬度成分であるCa2+イオン、M2g+イオンをNa+イオンにイオン交換する方法を採用しているものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】「取扱説明書 オゾン水洗浄機FX2000」シルバー精工株式会社
【特許文献1】特許第3269784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載された陰極室側に洗浄液を循環させる方法は、特許文献1に記載されているような原料水の前処理を必要としない優れた方法であるが、洗浄液は、溶解度の高いクエン酸を42%という高濃度に溶解したものを採用している。オゾン水を製造する際には、Ca2+イオンやMg2+イオンを含む原料水が固体電解質膜を透過して陰極室側に移行し陰極室側の洗浄液が薄まっていくため、洗浄液は、ある時点で交換する必要がある。しかし、難溶塩の析出する洗浄液の下限濃度については明らかでなく、例えば非特許文献1のオゾン水製造装置の使用済み洗浄液は、有機酸40%以上の取り扱いの面倒な高濃度の廃液である。また、このオゾン水製造装置の洗浄液交換の目安は、約50時間稼動した時点であり、洗浄液の交換が頻繁に必要で労力とコストがかかるという問題がある。
【0006】
尚、洗浄液に用いる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸なども使用できるが、これらの強酸は危険であるため、クエン酸等の有機酸が好ましい。ただし、固定電解質膜を用いる水中電解法によるオゾン水製造装置のように徐々に原料水の混入により濃度が薄まっていくような装置で、長い期間一定の洗浄液濃度を保とうとすると、クエン酸等の溶解度の高い物質からなる洗浄液を使用する場合は、希釈されてもいいような高濃度の溶液を使用するか、定期的な洗浄液供給装置を別途設けるなどの装置的な工夫が必要である。しかし、不必要に高濃度の溶液を使用すると配管やタンクの腐食の問題があり、かつ使用済みの洗浄液が高濃度の酸を含む取り扱いの面倒な廃液になる。一方、定期的な洗浄液供給装置を別途設ける装置では、タイマー等で定期的に酸溶液を注入する付属装置等により実現できるが、装置が複雑になるうえ、洗浄液の必要下限濃度が明らかでない限り、洗浄液の交換頻度が頻繁であることにかわりはない。
【0007】
一方、特許文献1に記載された原料水の前処理をおこなうオゾン水製造装置は、Na型イオン交換樹脂を充填した軟水器等の付属装置が必要となり装置が複雑になるという問題がある。このような原料水の前処理を行わない場合は、電解槽の陰極室側に供給する原料水に直接洗浄液を供給する方法もあるが、洗浄廃液の濃度が高い場合は処理が面倒であり、また、定期的な洗浄液供給装置を別途設ける必要があり装置が複雑になる。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、取り扱いが容易でかつ維持管理コストおよびイニシャルコストを削減することが可能な、固定電解質膜を用いた水中電解法による、オゾン水製造方法、オゾン水製造装置、ならびにこれらに使用される洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明に係るオゾン水製造方法は、Ca2+イオンおよびMg2+イオンのうちの少なくともいずれかを含む水を原料水として使用し、当該原料水を電気分解することでオゾン水を製造するオゾン水製造方法に関する。そして、本発明に係るオゾン水製造方法は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明のオゾン水製造方法は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係るオゾン水製造方法における第1の特徴は、固定電解質膜で陽極室と陰極室とに区画された電解槽における当該陽極室に前記原料水を供給する原料水供給工程と、前記陰極室に洗浄液を供給して前記陰極室内に配置されている陰極電極を洗浄する洗浄工程と、有機酸を含むとともに固形状に成型された洗浄剤を徐々に溶出させることで、前記洗浄液を生成する溶出工程とを備えることである。
【0011】
この構成によると、原料水供給工程により、陽極室内に配置されている陽極電極からH2Oの電気分解によりオゾンが発生する。溶出工程においては、固形状に成型された洗浄剤がその溶解度分だけ徐々に溶出し、ほぼ一定濃度の洗浄液を生成する。また、原料水が固体電解質膜を透過して陰極室側に移行することにより陰極室側の洗浄液が薄まったとしても、洗浄剤はその溶解度分だけ徐々に溶出していくため、ほぼ一定濃度の洗浄液となる。洗浄工程においては、陰極室に洗浄液が供給されて陰極室内が酸性状態に保たれるため、原料水に含まれるCa2+イオンやMg2+イオンは陰極電極に難溶塩として析出することなく洗浄液中に溶解している状態を維持できる。尚、発明者の鋭意研究の結果、洗浄液の酸濃度は、高濃度である必要がなく低濃度でも洗浄性能を確保することができるため、洗浄廃液の中和処理等が必要であっても、その処理は容易かつ安全に行うことが可能である。
【0012】
また、本発明に係るオゾン水製造方法における第2の特徴は、前記洗浄工程では、前記洗浄液を貯留する洗浄液タンクと前記陰極室との間で循環して用いられる前記洗浄液が前記陰極室に供給されることである。
【0013】
この構成によると、洗浄工程において洗浄液を貯留する洗浄液タンクと陰極室との間で洗浄液を循環させて使用することができる。したがって、洗浄液を繰り返し使用することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係るオゾン水製造方法における第3の特徴は、前記溶出工程では、前記洗浄剤を配置する前記洗浄液タンク内で、前記洗浄剤を前記洗浄液に徐々に溶出させることである。ここで、洗浄剤を配置する方法は、洗浄剤をそのまま洗浄液タンク内の底に沈めておく方法、網などで包んで洗浄液タンク内の底に沈めておく方法、吊り下げ器具をとりつけて洗浄タンク内に吊るしておく方法等が考えられる。
【0015】
この構成によると、洗浄液タンクは、洗浄液を投入する開口を有し、かつ洗浄液を貯留するある程度の容積を有するため、容易に洗浄液タンク内に洗浄剤を配置することが可能である。
【0016】
また、本発明に係るオゾン水製造方法における第4の特徴は、前記原料水は、前記陽極室に供給する陽極室側経路と前記陰極室に供給する陰極室側経路とに分岐する原料水供給経路を介して供給され、前記溶出工程では、前記洗浄剤を配置する前記陰極室側経路中に、前記洗浄剤を前記原料水に徐々に溶出させることである。ここで、洗浄剤を配置する方法は、前記陰極室側経路中に設置するバッファータンクの中に洗浄剤をそのまま沈めておく方法、網などで包んで沈めておく方法、吊り下げ器具をとりつけて吊るしておく方法等が考えられる。
【0017】
この構成によると、Na型イオン交換樹脂を充填した軟水器をオゾン水製造装置の上流側に設けて水道水中の硬度成分であるCa2+イオン、M2g+イオンをNa+イオンにイオン交換する等の原料水の前処理が不要となる。また、固形状の洗浄剤が原料水の中に徐々に溶出していくため、液体の洗浄液を定期的に注入する工程が不要であり、洗浄工程が簡潔、かつ維持管理が容易となる。
【0018】
また、本発明に係るオゾン水製造方法における第5の特徴は、前記洗浄剤に、水の電気伝導度を上げるための強電解質が混合されていることである。ここで、強電解質が混合されているとは、NaCl、Na2SO4、KClおよびK2SO4のうちの少なくともいずれかを含む電解質が混合されていることである。
【0019】
この構成によると、洗浄液の電気伝導度があがり電力効率を向上させることが可能となる。
【0020】
また、本発明に係るオゾン水製造方法における第6の特徴は、前記洗浄剤に、コハク酸およびフマル酸のうちの少なくともいずれかを含んでいることである。
【0021】
この構成によると、コハク酸およびフマル酸は、いずれも溶解度が中程度以下の酸であるため、洗浄剤に溶解速度調整剤を混合することなく、徐々に有機酸を溶解させることが可能となる。これにより、電極洗浄液の寿命を長く持続させることが可能となる。
【0022】
また、本発明に係るオゾン水製造装置は、Ca2+イオンおよびMg2+イオンのうちの少なくともいずれかを含む水を原料水として使用し、当該原料水を電気分解することでオゾン水を製造するオゾン水製造装置に関する。
そして、本発明に係るオゾン水製造装置は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明のオゾン水製造装置は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0023】
本発明に係るオゾン水製造装置における第1の特徴は、固定電解質膜で区画された陽極室と陰極室とを有し、当該陽極室に前記原料水が供給される電解槽と、前記陰極室内に洗浄液を供給して前記陰極室内に配置されている陰極電極を洗浄するための洗浄液供給手段と、有機酸を含むとともに固形状に成型された洗浄剤を徐々に溶出させることで、前記洗浄液を生成する溶出部とを備えていることである。
【0024】
この構成によると、電解槽の陽極室内に配置されている陽極電極からH2Oの電気分解によりオゾンが発生する。溶出部においては、固形状に成型された洗浄剤がその溶解度分だけ徐々に溶出し、ほぼ一定濃度の洗浄液を生成する。また、原料水が固体電解質膜を透過して陰極室側に移行することにより陰極室側の洗浄液が薄まったとしても、洗浄剤はその溶解度分だけ徐々に溶出していくため、ほぼ一定濃度の洗浄液となる。洗浄工程においては、陰極室に洗浄液が供給されて陰極室内が酸性状態に保たれるため、原料水に含まれるCa2+イオンやMg2+イオンは陰極電極に難溶塩として析出することなく洗浄液中に溶解している状態を維持できる。尚、発明者の鋭意研究の結果、洗浄液の酸濃度は、高濃度である必要がなく低濃度でも洗浄性能を確保することができるため、洗浄廃液の中和処理等が必要であっても、その処理は容易かつ安全に行うことが可能である。
【0025】
また、本発明に係るオゾン水製造装置における第2の特徴は、前記洗浄液を貯留する洗浄液タンクを備え、前記洗浄液供給手段は、前記洗浄液タンクと前記陰極室との間で前記洗浄液を循環させて前記陰極室に前記洗浄液を供給することである。
【0026】
この構成によると、洗浄工程において洗浄液を貯留する洗浄液タンクと陰極室との間で洗浄液を循環させて使用することができる。したがって、洗浄液を繰り返し使用することが可能となる。
【0027】
また、本発明に係るオゾン水製造装置における第3の特徴は、前記溶出部は、前記洗浄剤を配置する前記洗浄液タンクの内部として形成されていることである。ここで、洗浄剤の配置手段は、洗浄剤をそのまま洗浄液タンク内の底に沈めておく手段、網などで包んで洗浄液タンク内の底に沈めておく手段、吊り下げ器具をとりつけて洗浄液タンク内に吊るしておく手段等が考えられる。
【0028】
この構成によると、洗浄液タンクは、洗浄液を投入する開口を有し、かつ洗浄液を貯留するある程度の容積を有するため、容易に洗浄液タンク内に洗浄剤を配置することが可能である。
【0029】
また、本発明に係るオゾン水製造装置における第4の特徴は、前記原料水を前記陽極室に供給する陽極室側経路と前記陰極室に供給する陰極室側経路とに分岐する原料水供給経路と、前記陰極室側経路の途中に設けられ前記洗浄剤が配置されるバッファータンクとを備え、前記溶出部は、前記バッファータンクの内部として形成されていることである。ここで、洗浄剤の配置手段は、前記陰極室側経路中に設置するバッファータンクの中に洗浄剤をそのまま沈めておく手段、網などで包んで沈めておく手段、吊り下げ器具をとりつけて吊るしておく手段等が考えられる。
【0030】
この構成によると、Na型イオン交換樹脂を充填した軟水器をオゾン水製造装置の上流側に設けて水道水中の硬度成分であるCa2+イオン、M2g+イオンをNa+イオンにイオン交換する等の原料水の前処理が不要となる。また、固形状の洗浄剤が原料水の中に徐々に溶出していくため、液体の洗浄液を定期的に注入する溶出部が不要であり、溶接部を簡潔に形成でき、かつ維持管理が容易となる。
【0031】
また、本発明に係るオゾン水製造装置における第5の特徴は、前記洗浄剤に、水の電気伝導度を上げるための強電解質が混合されていることである。ここで、強電解質が混合されているとは、NaCl、Na2SO4、KClおよびK2SO4のうちの少なくともいずれかを含む電解質が混合されていることである。
【0032】
この構成によると、洗浄液の電気伝導度があがり電力効率を向上させることが可能となる。
【0033】
また、本発明に係るオゾン水製造装置における第6の特徴は、前記洗浄剤に、コハク酸およびフマル酸のうちの少なくともいずれかを含んでいることである。
【0034】
この構成によると、コハク酸およびフマル酸は、いずれも溶解度が中程度以下の酸であるため、洗浄剤に溶解速度調整剤を混合することなく、徐々に有機酸を溶解させることが可能となる。これにより、電極洗浄液の寿命を長く持続させることが可能となる。
【0035】
また、本発明に係る洗浄剤は、Ca2+イオンおよびMg2+イオンのうちの少なくともいずれかを含む水を原料水として使用し、固定電解質膜で陽極室と陰極室とに区画された電解槽内で当該原料水を電気分解することによりオゾン水を製造するオゾン水製造装置において用いられる洗浄剤に関する。そして、本発明に係る洗浄剤は、上記目的を達成するために以下のような特徴を有している。
【0036】
本発明に係る洗浄剤における特徴は、コハク酸およびフマル酸のうちの少なくともいずれかを含んでいるとともに固形状に成型され、前記陰極室に配置されている陰極電極を洗浄するように前記陰極室内に供給される洗浄液を生成するために徐々に溶出させて使用されることである。
【0037】
この構成によると、コハク酸およびフマル酸は、いずれも溶解度が中程度以下の酸であるため、洗浄剤に溶解速度調整剤を混合することなく、徐々に有機酸を溶解させる洗浄剤を形成することができる。これにより、電極洗浄液の寿命を長く持続させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明に係るオゾン水製造装置を作動させることにより、本発明に係るオゾン水製造方法が実施されるため、本発明に係るオゾン水製造装置の実施形態の説明とともに、本発明に係るオゾン水製造方法の実施形態について説明する。また、オゾン水製造装置の実施形態の説明とともに、適宜これらオゾン水製造装置、オゾン水製造方法において用いられる洗浄剤についても説明する。
【0039】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態のオゾン水製造装置1を示す図である。第1実施形態のオゾン水製造装置1は、固定電解質膜4で陽極室5と陰極室6とに区画された電解槽3と、洗浄液を貯留する洗浄液タンク7と、循環ポンプ8を備える装置である。図1における矢印は、Ca2+イオンおよびMg2+イオンのうちの少なくともいずれかを含む原料水(以下、原料水と記載する)、オゾン水、洗浄液の流れ方向を示す。オゾン水製造装置1は、電解槽3における陽極室5に外部から供給される原料水を電気分解することでオゾン水を製造する装置であり、製造されたオゾン水を陽極室5に接続された経路11から排出する。
【0040】
外部からの原料水が流入する経路10は電解槽3の陽極室5に接続する経路であり、経路10を経由して陽極室5に供給された(原料水供給工程)原料水は、電解槽3の陽極室5と陰極室6に印加される直流電圧により電気分解され、陽極室5側でオゾン水が製造される。このとき、原料水に含まれるCa2+イオン、Mg2+イオンなどの陽イオンや原料水の一部が固定電解質膜4を透過して陰極室6側に移動する。陰極室6内に配置されている陰極電極を洗浄する洗浄工程では、洗浄液タンク7に投入している酸性の洗浄液を、循環ポンプ8により洗浄液タンク7と電解槽3の陰極室6との間を接続する経路12を通じて循環させる。ここで、陰極室6側では、水の電気分解によりOH-イオンが発生し、このOH-イオンと陽極室5側から移動してきたCa2+イオン、Mg2+イオンなどの陽イオンとが難溶性の塩を形成して陰極室6内に配置された陰極電極周辺に析出する可能性がある。しかし、これらの化合物は液が酸性条件化であれば析出することがないため、前記洗浄工程により難溶性の塩が析出することはない。
【0041】
洗浄液の酸濃度は、高濃度である必要はなく、酸としては、塩酸、硝酸、硫酸なども使用できるが、これらの強酸は危険であるため、コハク酸等の有機酸が好ましい。しかし、コハク酸だけでなく、例えば、クエン酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、DLリンゴ酸などの有機酸も使用できる。一方、洗浄液の濃度は、オゾン水の製造過程において原料水の一部が固定電解質膜4を透過して陰極室6側に移動することにより徐々に薄まっていく。ここで、洗浄液を生成する溶出工程では、コハク酸を固形状に成型した洗浄剤9を配置した洗浄液タンク7内で、洗浄剤9をコハク酸の溶解度分だけ洗浄液に徐々に溶出させることにより(溶出工程)、洗浄液の酸の濃度を保持している。
【0042】
尚、洗浄剤9は、コハク酸のみから成型されたものだけでなく、例えば、クエン酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、DLリンゴ酸等の有機酸も使用できる。有機酸を固形状に成型するのは、さまざまな方法で可能であり、例えば、常温において固体で加熱すると融解する有機酸では融点以上に加熱し溶融させて型に流し込み冷却する方法、加熱時に溶解度が高く冷却すると溶解度の下がる有機酸では過飽和溶液から析出させる方法、常温において固体状の有機酸では、その他に乾式で圧力をかけて成型する方法、錠剤成型機などの圧縮加工機を用いて粉体を押し固める方法がある。常温で液体状の有機酸ではシリカやアルミナあるいはゼオライトなどの固体を添加し練り合わせることにより成型する方法などがある。また、有機酸を固形状に成型する際にNaCl等の強電解質を混合して成型した洗浄剤9を洗浄液に溶出させることにより、洗浄液の電気伝導度があがり電力効率を向上させるのに好適である。ここで、強電解質はNaClに限定されず、例えば、Na2SO4、KCl、K2SO4等が挙げられる。
【0043】
尚、溶解度の高い有機酸を洗浄剤9に使用する場合は、溶解速度調整剤を混合したものを固形状にして使用することにより、洗浄剤の溶解速度を減少させ、徐々に有機酸を洗浄液に溶解させることが可能である。これにより洗浄液の寿命を持続させることができる。ここで、溶解速度調整剤としては、例えば、溶解度の低い脂肪酸類、高級アルコール類等の難水溶性物質が挙げられる。洗浄剤9の形状としては、円盤状、ボール状、円柱状、立方体状、直方体状等が考えられる。洗浄剤9を洗浄液タンク7内に配置する方法としては、洗浄剤9をそのまま洗浄液タンク7内の底に沈めておく方法、網などで包んで洗浄液タンク7内の底に沈めておく方法、吊り下げ器具をとりつけて洗浄液タンク7内に吊るしておく方法等が考えられる。一方、洗浄剤9を洗浄液タンク7内に配置する方法だけでなく、洗浄液タンク7と陰極室6間を循環する経路12の中に洗浄剤9を配置する方法を用いてもよい。
【0044】
第1実施形態の実施例として、コハク酸100gを200℃に加熱して溶融させ型に入れたあと冷却し円盤状の固形状に成型した洗浄剤9を用いた。あらかじめ洗浄液タンク7内にコハク酸4%の洗浄液4リットルを投入し、洗浄剤9を洗浄液タンク7内の底に配置した。オゾン水製造条件としてオゾン濃度5ppm、水量3L/minで50時間の運転をおこなった。その結果、運転終了後の洗浄液中のコハク酸濃度は約5%であり、陰極室6内に配置された陰極電極周辺への難溶塩の析出は認められなかった。
【0045】
また、コハク酸100gと塩化ナトリウム100gにポリアクリル酸10gを水20gを加えて練り合わせたあとプレス加工により固形状に成型した洗浄剤9を用いた。オゾン水製造装置1と洗浄液とオゾン水製造条件は前記と同様で、コハク酸4%の洗浄液4リットルを用い運転をおこなった。その結果、前記の塩化ナトリウムを加えていない洗浄剤9を使用した場合と比較して電流値が下がり、使用電力が低減できた。また、陰極室6内に配置された陰極電極周辺への難溶塩の析出は認められなかった。また、比較例として、洗浄剤9を使用せずクエン酸40%、塩化ナトリウム5%の洗浄液4リットルを用いオゾン水製造措置1とオゾン水製造条件は前記と同様で運転をおこなった。その結果、洗浄液中のクエン酸濃度をイオンクロマト法により分析したところクエン酸濃度は約20%に低下していた。
【0046】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態のオゾン水製造装置、オゾン水製造方法、およびこれらに用いられる洗浄剤について説明する。図2に、本発明の第2実施形態に係るオゾン水製造装置2を示す。本発明の第2実施形態のオゾン水製造装置2は、第1実施形態のオゾン水製造装置1における洗浄液タンク7、循環ポンプ8、および洗浄液タンク7と陰極室6との間を循環する経路12を有さないという点で異なる。また、第1実施形態のオゾン水製造装置1は、原料水を陽極室5のみに供給するものであるが、第2実施形態のオゾン水製造装置2は、電解槽3の上流側で原料水を供給する原料水供給経路14を2つに分岐して分岐後の一方の経路15(陽極室側経路)を陽極室5に接続し、他方の経路17(陰極室側経路1)は洗浄剤9を配置するための陰極室6側に経路18(陰極室側経路2)を介して接続するバッファータンク13に接続して原料水を陽極室5とバッファータンク13に供給するものである点で異なる。尚、第1実施形態と同一の部材には同一の符号を付記してその説明を省略する。
【0047】
外部からの原料水が流入する原料水供給経路14の下流側で、経路は陽極室5に接続する経路15と陰極室6側に経路18を介して接続するバッファータンク13に接続する経路17の2つに分岐する。経路15を経由して陽極室5に供給された(原料水供給工程)原料水は、電解槽3の陽極室5と陰極室6に印加される直流電圧により電気分解され、陽極室5側でオゾン水が製造され、製造されたオゾン水は、陽極室5に接続された経路16から排出される。経路17を経由してバッファータンク13に供給された原料水は、バッファータンク13内に配置した第1実施形態で使用するものと同様の洗浄剤9に接触して、洗浄剤9が原料水に徐々に溶出する溶出工程により洗浄液が生成される。
【0048】
洗浄液は、バッファータンク13から経路18を経由して陰極室6に供給され、陰極室6内に配置されている陰極電極間を流れるとともに(洗浄工程)、一部は陰極電極で電気分解され、陰極室6に接続された経路19を経由して洗浄廃液として外部に排出される。このとき、第1実施形態と同様に原料水に含まれるCa2+イオン、Mg2+イオンなどの陽イオンや原料水の一部が固定電解質膜4を透過して陰極室6側に移動するが、陰極室6内は洗浄液により酸性条件下におかれるため、Ca(OH)2やMg(OH)2等の難溶性の塩は析出しない。陰極室6に供給する洗浄液の酸濃度は、低濃度で難溶性塩の析出を防止することができるため、陰極室6から経路19経由で外部に排出される洗浄廃液の酸濃度も低く抑えられ、たとえ中和処理等が必要であっても簡易、かつ容易な処理とすることが可能となる。また、バッファータンク13内に配置された固形状の洗浄剤9を原料水に徐々に溶出させるため(溶出工程)、定期的な洗浄液供給装置を別途設ける必要はなく装置が簡易になる。
【0049】
洗浄剤9をバッファータンク13内に配置する方法としては、洗浄剤9をそのままバッファータンク13内の底に沈めておく方法、網などで包んでバッファータンク13内の底に沈めておく方法、吊り下げ器具をとりつけてバッファータンク13内に吊るしておく方法等が考えられる。洗浄剤9は、第1実施形態と同様、例えば、コハク酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、DLリンゴ酸等の有機酸を使用できる。また、有機酸を固形状に成型するのは、さまざまな方法で可能であり、例えば、常温において固体で加熱すると融解する有機酸では融点以上に加熱し溶融させて型に流し込み冷却する方法、加熱時に溶解度が高く冷却すると溶解度の下がる有機酸では過飽和溶液から析出させる方法、常温において固体状の有機酸では、その他に乾式で圧力をかけて成型する方法、錠剤成型機などの圧縮加工機を用いて粉体を押し固める方法がある。常温で液体状の有機酸ではシリカやアルミナあるいはゼオライトなどの固体を添加し練り合わせることにより成型する方法などがある。
【0050】
また、有機酸を固形状に成型する際にNaCl等の強電解質を混合して成型した洗浄剤9を洗浄液に溶出させることにより、洗浄液の電気伝導度があがり電力効率を向上させるのに好適である。ここで、強電解質はNaClに限定されず、例えば、Na2SO4、KCl、K2SO4等が挙げられる。尚、溶解度の高い有機酸を洗浄剤9に使用する場合は、溶解速度調整剤を混合したものを固形状にして使用することにより、洗浄剤の溶解速度を減少させ、徐々に有機酸を洗浄液に溶解させることが可能である。これにより洗浄液の寿命を持続させることができる。ここで、溶解速度調整剤としては、例えば、溶解度の低い脂肪酸類、高級アルコール類等の難水溶性物質が挙げられる。洗浄剤9の形状としては、円盤状、ボール状、円柱状、立方体状、直方体状等が考えられる。
【0051】
第2実施形態の実施例として、フマル酸をボール状に成型した洗浄剤9を複数、バッファータンク13内に配置して経路17を経由する陰極側流入水がこの洗浄剤9に接触してから陰極室6に供給されるようにした。この条件でオゾン水製造装置2を作動させオゾン水を製造したあとの陰極電極に難溶性の塩の析出は認められなかった。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態に係るオゾン水製造装置を示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係るオゾン水製造装置を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 オゾン水製造装置
3 電解槽
4 固定電解質膜
5 陽極室
6 陰極室
7 洗浄液タンク
8 循環ポンプ
9 洗浄剤
13 バッファータンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca2+イオンおよびMg2+イオンのうちの少なくともいずれかを含む水を原料水として使用し、当該原料水を電気分解することでオゾン水を製造するオゾン水製造方法であって、
固定電解質膜で陽極室と陰極室とに区画された電解槽における当該陽極室に前記原料水を供給する原料水供給工程と、
前記陰極室に洗浄液を供給して前記陰極室内に配置されている陰極電極を洗浄する洗浄工程と、
有機酸を含むとともに固形状に成型された洗浄剤を徐々に溶出させることで、前記洗浄液を生成する溶出工程と、
を備えていることを特徴とするオゾン水製造方法。
【請求項2】
前記洗浄工程では、前記洗浄液を貯留する洗浄液タンクと前記陰極室との間で循環して用いられる前記洗浄液が前記陰極室に供給されることを特徴とする請求項1に記載のオゾン水製造方法。
【請求項3】
前記溶出工程では、前記洗浄剤を配置する前記洗浄液タンク内で、前記洗浄剤を前記洗浄液に徐々に溶出させることを特徴とする請求項2に記載のオゾン水製造方法。
【請求項4】
前記原料水は、前記陽極室に供給する陽極室側経路と前記陰極室に供給する陰極室側経路とに分岐する原料水供給経路を介して供給され、
前記溶出工程では、前記洗浄剤を配置する前記陰極室側経路中に、前記洗浄剤を前記原料水に徐々に溶出させることを特徴とする請求項1に記載のオゾン水製造方法。
【請求項5】
前記洗浄剤に、水の電気伝導度を上げるための強電解質が混合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のオゾン水製造方法。
【請求項6】
前記洗浄剤に、コハク酸およびフマル酸のうちの少なくともいずれかを含んでいることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のオゾン水製造方法。
【請求項7】
Ca2+イオンおよびMg2+イオンのうちの少なくともいずれかを含む水を原料水として使用し、当該原料水を電気分解することでオゾン水を製造するオゾン水製造装置であって、
固定電解質膜で区画された陽極室と陰極室とを有し、当該陽極室に前記原料水が供給される電解槽と、
前記陰極室内に洗浄液を供給して前記陰極室内に配置されている陰極電極を洗浄するための洗浄液供給手段と、
有機酸を含むとともに固形状に成型された洗浄剤を徐々に溶出させることで、前記洗浄液を生成する溶出部と、
を備えていることを特徴とするオゾン水製造装置。
【請求項8】
前記洗浄液を貯留する洗浄液タンクを備え、
前記洗浄液供給手段は、前記洗浄液タンクと前記陰極室との間で前記洗浄液を循環させて前記陰極室に前記洗浄液を供給することを特徴とする請求項7に記載のオゾン水製造装置。
【請求項9】
前記溶出部は、前記洗浄剤を配置する前記洗浄液タンクの内部として形成されていることを特徴とする請求項8に記載のオゾン水製造装置。
【請求項10】
前記原料水を前記陽極室に供給する陽極室側経路と前記陰極室に供給する陰極室側経路とに分岐する原料水供給経路と、
前記陰極室側経路の途中に設けられ前記洗浄剤が配置されるバッファータンクとを備え、
前記溶出部は、前記バッファータンクの内部として形成されていることを特徴とする請求項7に記載のオゾン水製造装置。
【請求項11】
前記洗浄剤に、水の電気伝導度を上げるための強電解質が混合されていることを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載のオゾン水製造装置。
【請求項12】
前記洗浄剤に、コハク酸およびフマル酸のうちの少なくともいずれかを含んでいることを特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれか1項に記載のオゾン水製造装置。
【請求項13】
Ca2+イオンおよびMg2+イオンのうちの少なくともいずれかを含む水を原料水として使用し、固定電解質膜で陽極室と陰極室とに区画された電解槽内で当該原料水を電気分解することによりオゾン水を製造するオゾン水製造装置において用いられる洗浄剤であって、
コハク酸およびフマル酸のうちの少なくともいずれかを含んでいるとともに固形状に成型され、
前記陰極室に配置されている陰極電極を洗浄するように前記陰極室内に供給される洗浄液を生成するために徐々に溶出させて使用されることを特徴とする洗浄剤。































【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−666(P2008−666A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171539(P2006−171539)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】