説明

オゾン濃度計及び該オゾン濃度計を備えたオゾン濃度監視用キット

【課題】大気中のオゾン濃度を高精度に、かつ短時間で再現性良く測定できるだけではなく、利便性、経済性及びメンテナンス性を有するオゾン濃度計を提供する。
【解決手段】オゾン吸収スペクトルにおいてオゾン吸光度を示す波長領域内の所定の波長をλ1としたときに、前記のλ1に発光ピークを有するLED1と、該LED1からの発光に対するオゾン吸光度の1/2以下となるオゾン吸光度を示す波長λ2に発光ピークを有するLED2とからなる複数の光源と、試料空気を収納する試料測定用セルと、LED1の光源1とLED2の光源2からの光強度を、試料測定用セルに入射する前及び通過した後でそれぞれ測定するための検出器1と検出器2とからなる複数の検出器とを有し、検出器1及び検出器2によって測定されるLED1とLED2との光強度比を用いて、差分吸光法によってオゾン濃度を求めることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気環境中のオゾン・オキシダント濃度の測定、及びコピー機やプリンタ等の各種装置から排出されるオゾン濃度の測定、消毒・殺菌・漂白・脱臭等の目的でオゾンを生成する装置からのオゾン濃度を測定するために使用される光吸収式オゾン濃度計、特に光源として異なる複数波長域の光を出す発光ダイオード(LED)等固体発光素子を使用した差分吸光式オゾン濃度計及び各種雰囲気中のオゾン濃度を監視するための小型、軽量のオゾン濃度監視用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
大気中のオゾン及びオゾンを主成分とするオキシダントは、その酸化作用のため人体の健康及び農作物や森林を含む植物の生育に悪影響を及ぼす物質であり、かつ強い温室効果を持ち気候変動をもたらすため、その濃度は大気環境保全のため常時監視されている。また、放電や強い光を使用する各種装置で発生するオゾン濃度も許容濃度以下に抑える必要があり、そのためにオゾン濃度の測定が行われている。同時に、オゾンはその酸化力のため、消毒・殺菌・漂白・脱臭等の効果を有し、水の処理・浄化をはじめ、様々な目的や分野で利用されている。オゾンを使用する作業場では、オゾン発生量を制御するためやオゾンが許容濃度以下となるように監視するために、オゾン濃度の測定が必要である。そして、オゾン濃度の測定を行う濃度計や測定装置に対しては、高精度やデータの再現性という性能面だけではなく、簡便性や迅速な測定性等の優れた操作性が求められている。さらに、これらの濃度計や測定装置は、メンテナンスが容易であることも重要である。
【0003】
従来、オゾン濃度の測定方法として、光(紫外線)吸収法が最も広く使用されており、オゾンが紫外線領域の250nm付近において最大吸収帯を持つことを利用して、オゾン濃度を求めることができる。このようなオゾン濃度計として、特許文献1及び特許文献2に開示されているように低圧水銀ランプを使用したオゾン濃度計があり、また、このオゾン濃度計は市販され、広く普及している。
【0004】
図7に、従来のオゾン濃度計の構成についてその一例を示す。大気採取口1から導入された試料空気は、試料側空気流路2を流れて直接、あるいはゼロ較正側空気流路3を通ってオゾン分解器4でオゾンがすべて分解されてから、三方電磁弁5で一方が選択され、試料セル6に入る。試料セルを通過した試料空気は、排気流路7に入り流量計8を通過する際に流量を確認し、ポンプ9で排出口10から排気される。試料セルには、光源11からの紫外光(例えば、254nm)が導入される。光源11から放射される光の強度は参照用光検出器12でモニタし、その変化を補正する。試料セル6を通過した光強度は(セル)透過光強度検出器13で検出される。試料大気中のオゾンによる光吸収量は、三方電磁弁で流路3が選択されているときに(セル)透過光強度検出器13で検出された光強度と、流路2が選択されているときに(セル)透過光強度検出器13で検出された光強度の比から求められ、それぞれの光強度信号は信号処理電気系14により増幅され、オゾンによる光吸収量が演算され、オゾン濃度に換算される。
【0005】
図7に示すオゾン濃度計は、光源11として低圧水銀ランプから放射される254nmの単一波長のみを利用するものであり、オゾンによる紫外線の吸収を検出するために、試料セルに測定対象であるオゾンを含む空気と、オゾン分解器を通して作製した参照用のオゾンを含まない空気を数秒程度の短い間隔で交互に切り替えて導入し、両者におけるセルを通過した紫外線強度の比からオゾン濃度を求めていた。そのため、試料セル中の空気交換に要する時間及びオゾンを含まない空気を測定している時間はオゾン測定が行われない問題があった。さらに、この切替時間の間に試料中のオゾン濃度が変化したり、また周囲温度変動等によるランプ光強度変動や光学系の微小な変位・歪みが発生したりすることで無視できない誤差が発生することがある。
【0006】
また、低圧水銀ランプを使用したオゾン濃度計では、オゾンを含む空気と参照用のオゾンを含まない空気との切り替え及び参照用空気作成のために使用される電磁弁ダイヤフラムやオゾン分解器等は、連続使用の場合に1年程度で交換が必要となり、メンテナンス費用と手間が発生する問題があった。加えて、ランプ光強度変動や光学系の熱膨張変化を最小とするため、ランプ付近を50℃等常温より高い温度に調節しており、これにより消費電力が大きくなるという問題もあった。
【0007】
さらに、低圧水銀ランプを光源として使用したオゾン濃度計は、水銀ランプが連続測定の場合1年ほどで寿命を迎えるため、その交換費用が発生するとともに環境に有害な水銀を含む廃棄物が発生することになり、その処理が環境負荷となる問題がある。
【0008】
上記のような低圧水銀ランプを使用したオゾン濃度計が有する技術課題を解決するために、紫外線を発生する固体発光素子を光源として用いる光吸収式オゾン濃度計が特許文献3に提案されている。特許文献3に記載の光吸収式オゾン濃度計は、特許文献1に記載されているものと同じ原理に基づいて、試料セルに測定対象であるオゾンを含む空気と、オゾン分解器にてオゾンを除去したオゾンフリーの参照用試料ガスを切り替えて導入し、両者におけるセルを通過した紫外線強度の比からオゾン濃度を求めるものである。
【0009】
また、特許文献4には、水中のオゾン濃度測定装置であるものの、波長200〜300nmにおいてオゾンの紫外線吸収スペクトルがピークを呈する範囲内の少なくとも3点の吸光度において、230nmと290nmの第2及び第3の波長での吸光度の平均値を算出し、その値と260nmの第1の波長での吸光度の差分値に基づいてオゾン濃度を算出するオゾン濃度測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−172743号公報
【特許文献2】特開2007−225549号公報
【特許文献3】特開2002−5826号公報
【特許文献4】特開2004−279339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記の特許文献3に記載の光吸収式オゾン濃度計は、測定精度を高めるために、オゾンを除去した参照用試料ガスを標準ガスとして用いて、測定の度に光吸光度の補正を行う必要がある。特許文献3には、小型化のために、オゾンを分解していない試料ガスを標準ガスとして使用して補正するための切り替え電磁弁、オゾン分解器及び吸引ポンプ等が省略されたオゾン濃度計も開示されているが、この濃度計は測定精度の点ではやや劣ることが記載されている(段落[0057]参照)。このように、従来技術では、測定光源として固体発光素子を用いるものであっても、高精度測定を短時間に行うことができ、利便性・経済性・メンテナンス性を同時に兼ね備えるオゾン濃度計はまだ得られていない。
【0012】
また、上記の特許文献4に記載の濃度測定方法は、オゾンと有機汚濁物質や過酸化水素等とが同時に含まれる試料液を1回の紫外線吸光度測定によって測定したときに、オゾン濃度だけを求めるための簡易的な算出手段が開示されている。すなわち、オゾンによる吸光度は有機汚濁物質及び過酸化水素による吸光度と重なり合うため、有機汚濁物質及び過酸化水素の妨害成分による影響を排除するために、第2及び第3の波長での吸光度の平均値と第1の波長での吸光度の差分値に基づいてオゾン濃度を算出する方法である。この測定装置では、測定に応じた波長の紫外線は、1つの光源からの出射光を干渉フィルタによって離散的なスペクトルにするか、又はグレーテイングにより紫外線の波長を変化させることによって、紫外線連続スペクトルとして吸光度が測定される。しかし、特許文献4に記載の濃度測定装置は大気中のオゾン濃度を測定するものではないため、その装置で用いられているオゾンの算出方法が、大気中のオゾン濃度が非常に小さい場合に行われる迅速で高精度を要求される測定に対しても適用できるものなのか否かについては全く開示や示唆がされておらず、不明である。また、この濃度測定装置は光学系が複雑であるため、利便性・経済性・メンテナンスを備える大気中のオゾン濃度計として適用することが困難である。
【0013】
本発明の課題は、大気中のオゾン濃度を高精度に、かつ短時間で再現性良く測定できるだけではなく、利便性、経済性及びメンテナンス性に優れ、環境に有害な廃棄物を減少させることができるオゾン濃度計を提供することにある。さらに、該オゾン濃度計を備えることによって、小型で取り扱い性に優れたオゾン濃度監視用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の構成を有するオゾン濃度計及び該オゾン濃度計を備えたオゾン濃度監視用キットを適用する。
【0015】
請求項1に記載の発明は、少なくとも、オゾン吸収スペクトルにおいてオゾン吸光度を示す波長領域内の所定の波長をλ1としたときに、前記の波長λ1に発光ピークを有する固体発光素子(LED)1と、前記LED1からの発光に対するオゾン吸光度の1/2以下となるオゾン吸光度を示す波長λ2に発光ピークを有する固体発光素子(LED)2とからなる複数波長の光源と、試料空気を収納する試料測定用セルと、前記LED1の光源1と前記LED2の光源2からの光強度を、前記試料測定用セルに入射する前及び前記試料測定用セルを通過した後で、それぞれ測定するための検出器1と検出器2とからなる複数の検出器とを有し、前記の検出器1によって測定される前記LED1と前記LED2との光強度比及び前記検出器2によって測定される前記LED1と前記LED2との光強度比を用いて、差分吸光法によってオゾン濃度を求めることを特徴とするオゾン濃度計を提供する。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記の検出器1によって測定される前記LED1と前記LED2との光強度の比を(Ia1/Ia2)とし、前記検出器2によって測定される前記LED1と前記LED2との光強度比を(Ib1/Ib2)としたときに、前記試料測定用セル中にオゾンを含まない状態で測定して求めた両者の比T(ここで、T=(Ib1/Ib2)/(Ia1/Ia2)である。)を用いて、前記LED1と前記LED2の光源位置や波長の違いに起因する光強度信号の違いを補正することによって、オゾンを含む前記試料測定用セル中のオゾン濃度を求めることを特徴とする請求項1に記載のオゾン濃度計を提供する。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記の波長λ2に発光ピークを有するLED2からの発光に対するオゾン吸光度が、前記の波長λ1に発光ピークを有するLED1からの発光に対するオゾン吸光度の1/5以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオゾン濃度計を提供する。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記の波長λ1が、オゾン吸収スペクトルにおいてオゾン吸光度の極大値を示す波長(λ0)の±20nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のオゾン濃度計を提供する。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記の波長λ1に発光ピークを有するLED1と波長λ2に発光ピークを有するLED2とをそれぞれ単数または複数組み合わせた光源を、1つの光源として具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオゾン濃度計を提供する。
【0020】
請求項6に記載の発明は、前記の波長λ1に発光ピークを有するLED素子1と波長λ2に発光ピークを有するLED素子2をそれぞれ単数または複数搭載したLEDパッケージを、1つの光源として具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオゾン濃度計を提供する。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載のオゾン濃度計において、前記LED1とLED2又は前記LED素子1とLED素子2は、同じ波長に発光ピークを有するLED又はLED素子を同じ一つの群として、それぞれの群を交互点灯型にすることによって、点灯時間の差を利用して複数波長の光強度を区別して検出することを特徴とするオゾン濃度計を提供する。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項5又は6に記載のオゾン濃度計において、前記LED1とLED2又は前記LED素子1とLED素子2は、同じ波長を有するLED又はLED素子を同じ一つの群として、それぞれの群を1〜0.001秒の範囲にある所定の周期で交互に点灯させる交互点灯型にすることによって、点灯時間の差を利用して複数波長の光強度を区別して検出することを特徴とするオゾン濃度計を提供する。
【0023】
請求項9に記載の発明は、前記の波長λ1に発光ピークを有するLED1と波長λ2に発光ピークを有するLED2とからなる複数の光源を、同時点灯型にすることによって、同時に複数波長の光強度を検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオゾン濃度計を提供する。
【0024】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれかに記載のオゾン濃度計、前記検出器1及び前記検出器2によって測定されたデータを取り込んでオゾン濃度を求める解析装置、及び前記のオゾン濃度を表示する表示装置からなり、必要に応じて前記解析装置によって求めたオゾン濃度が許容値に近づいたとき又は許容値を超えたときの警告及び/又は表示を行う装置を有することを特徴とするオゾン濃度監視用キットを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、光吸収式オゾン濃度計において、オゾンによる吸収が大きい波長λ1及びオゾンによる吸収が小さい波長λ2にそれぞれ発光ピークを有する固体発光素子(LED)からなる複数の光源と、前記複数の光源からの光強度を試料測定用セルに入射する前及び試料測定用セルを通過した後で、それぞれ測定するための複数の検出器とを有し、前記複数の光検出器を用いて測定される光強度の比を比較する差分吸光法を適用することによって、大気中のオゾン濃度を高精度に、かつ短時間で再現性良く測定できる。また、前記の複数の光源の光源位置や波長の違いに起因する光強度信号の違いは、試料測定用セル中にオゾンを含まない状態で求めた光強度の比を用いて補正することによって、試料空気中のオゾン濃度をより高精度に測定することができる。本発明によれば、試料測定用セル中にオゾンを含まない状態での光強度の測定をオゾン濃度測定の度に行う必要がなく、測定前又は測定中においても長い時間間隔で行うことで対応できるため、オゾン測定を簡便化できるだけでなく、測定時間の短縮化を図ることができる。
【0026】
本発明によれば、複数の光源を組み合わせて1つの光源系又はLEDパッケージにすることによって、光源を簡略化や小型化することができ、オゾン濃度計を小型化できる。その際、光源の形態に応じて、前記光源の点灯方式を交互点灯型又は同時点灯型等に最適化することによって、高精度で迅速なオゾン濃度測定を行うことでできる。そして、本発明では、水銀を用い寿命が短い低圧水銀ランプの代わりに、固体発光素子(LED)を光源として使用するため、使用時の光源の出力安定性の向上及び水銀廃棄物並びに消費電力の低減にも効果がある。
【0027】
本発明によるオゾン濃度計は、高性能で、短時間測定が可能であるため、該オゾン濃度計を有するオゾン濃度監視用キットは、オゾン濃度監視用として十分な性能と機能を有するだけではなく、取扱性に優れ、小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係るオゾン濃度計の構成を示す図である。
【図2】オゾンの吸収スペクトルの模式図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る複数のLEDを組み合わせた1つの光源の断面及び該複数のLEDを組み合わせた1つの光源を有するオゾン濃度計の構成を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るLEDパッケージ光源の断面及び該LEDパッケージを光源として有するオゾン濃度計の構成を示す図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る複数のLEDを光源として用いたときの光結合方法と該複数のLEDを光源として有するオゾン濃度計の構成を示す図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係るオゾン濃度監視用キットの構成を示す図である。
【図7】従来のオゾン濃度計の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
図1は、本発明によるオゾン濃度計の一実施の形態の概略構成図である。図1において光源15は異なる波長を有する複数の固体発光ダイオード(LED)からなり、それ以外の1〜10及び12〜14の構成は図7に示す従来のオゾン濃度計と同じである。
【0031】
図1に示す光源15としては、従来の低圧水銀ランプの代わりにオゾンによる吸収が大きい波長λ1及びオゾンによる吸収が小さい波長λ2を選択し、それぞれの波長に発光ピークを有する固体発光素子(LED)からなる複数波長の光源を用いる。波長λ1に発光ピークを有するLED1及び波長λ2に発光ピークを有するLED2からの光強度は、試料測定用セル6に入射する前及び試料測定用セル6を通過した後で、それぞれ参照用光検出器12及び光強度の(セル)透過光強度検出器13によって測定され、参照用光検出器12によって測定されるLED1とLED2との光強度比及び光強度の(セル)透過光強度検出器13によって測定されるLED1とLED2との光強度比を用いて、差分吸光法によってオゾン濃度を求めるオゾン濃度計である。ここで、試料測定用セル6におけるLED1とLED2からの発光に対するオゾン吸光度の比を大きくすることによって、試料測定用セル6中のオゾン濃度を高精度に測定することができる。そのため、本発明では、LED2の発光(ピークを示す波長λ2)に対するオゾン吸光度が、LED1の発光(ピークを示す波長λ1)に対するオゾン吸光度の1/2以下、好ましくは1/5以下となるような波長λ1及び波長λ2にそれぞれ発光ピークを有する複数のLEDを用いる。波長λ1と波長λ2がこのような関係にあるLED1とLED2の組合せであれば、本発明において波長λ1と波長λ2の値は特に限定されない。
【0032】
一方、オゾンの吸収スペクトルは、上記の特許文献3の図4にも示されているように、200〜340nmの範囲に吸光度を有することが知られている。波長λ1と波長λ2とオゾン吸光度の差を大きくするためには、大きいオゾン吸光度を示す波長を波長λ1として設定する方が、容易に高いオゾン濃度測定精度が得られる。そのため、本発明では波長λ1を200〜340nmの波長域にある所定の波長に設定し、この波長範囲に発光ピークを有するLED1を用いるのが好適である。また、LED2の発光ピークを示す波長λ2としては、波長λ1に発光ピークを有するLED1を用いて測定されるλ1における光吸光度よりも十分に小さい吸光度を示す波長が選択される。
【0033】
波長λ1と波長λ2との関係を、図2に示すオゾンの吸収スペクトルの模式図を用いて説明する。波長λ1は、オゾンの吸収スペクトルにおいて大きな吸光度を示す200〜340nmの波長範囲内で設定される。最も大きな吸光度を示すのは、極大値を示す波長はλ0(例えば、252nm)であり、波長λ1は、極大値を示す波長λ0を同じか、又はλ0に近い波長に設定することが好ましい。しかし、λ0と全く同じ波長に発光ピークを有するLED1を入手することは、LEDの量産性とコストの点を考慮すると困難な場合がある。その場合は、λ0±20nmの範囲内にある所定の波長に発光ピークを有するLED1を用いることによって、本願発明の効果を奏する光源を得ることができる。発光ピークを示す波長がλ0±20nmの範囲内にあるLED1を用いることによって、オゾンの高精度測定という本発明の目的を達成することができる。
【0034】
本発明のLED2は、λ1に発光ピークを有するLED1の吸光度(吸光断面積)の1
/2以下、好ましくは1/5以下となるような吸光度を示すλ2に発光ピークを有するものを使用する。本発明においてLED1とLED2との組合せは、例えば次のようにして選択することができる。図2には、模式的に、LED2の吸光度A1又はA2が、LED1の吸光度(A0)の1/2又は1/5となる波長をそれぞれλ2a又はλ2bで示している。ここで、LED2の候補として、λ2a又はλ2bよりも長波長側に発光ピークを有するLED選択した後、このLED2を用いて実測したオゾン吸光度(吸光断面積)が、LED1を用いて実測したオゾン吸光度(吸光断面積)よりも1/2以下、好ましくは1/5以下となることを確認する。確認の結果、両者のオゾン吸光度の比が1/2以下、好ましくは1/5以下の関係を満たしていれば、候補として選択したLED2をそのまま本発明のオゾン濃度計の光源のひとつとして用いる。仮に、所望の値が得られなかった場合は、再度、より長波長に発光ピークを有するLED2を選択して、上記と同様にしてオゾン吸光度の比を確認することによって、LED1に対する最適なLED2の組み合わせと用いる。図2には、λ1よりも長波長側の場合を示しているが、この場合に限らず、本発明ではλ1よりも短波長側に発光ピークを有するLEDを使用しても差し支えない。しかし、吸光度がゼロに近くなるようなλ2を選択してLED1とLED2との波長の差を大きくした場合は、逆に、波長の差に起因する光強度信号の誤差が大きくなる。例えば、λ2として長波長側の可視領域を選択したときに、測定試料中に可視光の吸収を有する物質が含まれている場合に光強度の測定値に誤差が生じる。また、可視光は測定中に周囲から試料測定用セル6中へ侵入しやすいために同様の問題が発生して、高精度のオゾン濃度測定を行うことが困難になる。そのため、本発明は、LED1とLED2との発光強度及び波長の両者の差を考慮して波長λ2を選択する必要があり、本発明では、波長λ1と波長λ2との差が、10nm以上100nm以下、好ましくは15nm以上80nm以下となるようなLED1とLED2の組合せとすることが好適である。
【0035】
本発明では、前記のλ1として主に200〜340nmの紫外領域に含まれる波長が一般的に採用されるが、オゾンの吸光度の極大値は、それ以外の波長域、具体的には550〜650nmの可視域にも現れる。550〜650nmの可視域に現れる光吸光度は紫外域の場合より小さいが、可視域のLEDは紫外域のLEDよりも製造が簡単であり安価に得ることができるため、本発明のオゾン濃度計は550〜650nmの可視域に含まれる波長をλ1として採用することができる。本発明は、200〜340nmの紫外線域又は550〜650nmの可視域に、それぞれ発光ピークを有する複数のLED光源を独立して別個に用いるだけではなく、両者のLED光源を組み合わせて、それぞれの波長域で同時に測定したオゾン濃度値を対比する方法を採用することによって、データの信憑性を検証することができる。
【0036】
図1に示す光源15を構成する波長の異なる複数の固体発光素子(LED)としては、オゾン濃度計の光学系を簡略化及び小型化するために、前記の波長λ1に発光ピークを有するLED1と前記の波長λ2に発光ピークを有するLED2を複数組み合わせて1つの光源として用いることができる。その場合、LED1とLED2は、図3に示すように、複数のLEDの発光面をどれも同じ面となるように配置して組み合わせることによって得られる。図3には、LED1とLED2が、2個ずつ配置されたものが示されているが、本発明はこの個数に限らない。個数は、LED1とLED2の大きさと感度及びオゾン濃度計の試料測定用セル6の断面積等に応じて決められ、それぞれ1個又は3個以上で構成することもできる。
【0037】
また、本発明は、図4に示すように、1つのLEDパッケージ中に、前記の波長λ1に発光ピークを有するLED素子1と前記の波長λ2に発光ピークを有するLED素子2を複数組み合わせて同一基板に搭載して1つの光源としたものを用いることができる。LEDパッケージは、複数個のLED素子1とLED素子2を1つの基板に同時搭載して集積化するという周知の半導体パッケージの製造方法で作製されることから、高集積で、かつ小型、軽量、低コストの光源を得ることができる。加えて、LED素子1とLED素子2は近接して配置できることから、両者のLED発光が試料測定用セルを透過するときの光路長の差を無視できる程度に小さくできるため、本発明の光源としては好適である。
【0038】
図1に示す光源15の別の構成としては、LED1とLED2をそれぞれ独立した光源として配置するものが挙げられる。本発明では、異なる波長の発光を試料測定用セル6中に導入できるように、LED1とLED2の発光面を同一面として試料測定用セル6の断面に対して並列で配置することができる。LED1とLED2の並列配置の際の位置合わせが困難であったり、試料測定用セル6の断面積とLEDの形状との関係で並列配置ができなかったり、又は試料測定用セル6中でのLED1とLED2の光路の違いによる悪影響がある場合には、図5に示すように、LED1からの光とLED2からの光をビームコンバイナー及びバンドパスフィルターやダイクロックミラー等の波長の異なる光束を合流又は分離する光学素子を用いて、試料測定用セル6中に両者の光をまとめて通過させるような方法を採用することができる。
【0039】
本発明は、図1に示す光源15の構成として、波長の異なる2種類のLEDを使用するだけではなく、波長の異なる3波長に対応した3種類以上のLEDを採用することもできる。例えば、図2において、前記の波長λ1、λ1よりも10〜30nm離れた波長λ2a、及びλ2aよりもさらに10〜30nm離れた波長λ2bに、それぞれ発光ピークを有する3種類のLEDを採用することによって、λ1とλ2a及びλ1とλ2bのそれぞれ2つの波長間の差分吸光法によって求めたオゾン濃度を比較検証することによって、測定データの信憑性をチェックできるだけではなく、高精度のオゾン測定が可能となる。また、波長の異なる4波長に対応した4種類以上のLEDを用いることによって、上記で述べたように、紫外光域と可視光域の両者に存在するオゾン吸光度の極大値について、それぞれオゾン濃度を測定することができるため、両者のオゾン濃度のデータを比較検討することによって、データの信憑性の点検とともに、より高精度のオゾン測定を行うことができる。このように、本発明は、波長の異なる光源を少なくとも2個、必要に応じて3個以上使用することによって、高精度で高信頼性を有するオゾン濃度計とすることができる。
【0040】
上記の波長の異なる2種類以上のLEDを複数用いて点灯する方法としては、本発明は交互点灯型と同時点灯型の両者を採用する。
【0041】
交互点灯型は、同じ波長に発光ピークを有するLED又はLED素子を同じ一つの群として、それぞれの群を交互に点灯する方法である。交互点灯は、周期を決めないでランダムに行う方法もあるが、データの再現性を得るために、所定の周期で行う。交互点灯型の周期としては、測定毎のデータのバラツキを抑えるために短い方が好ましく、1.0〜0.001秒の範囲にある所定のものを採用する。周期が1秒を超えると測定データの変動が大きくなるだけではなく、短時間測定という本発明の目的に合致しない。逆に、0.001秒未満では、装置の応答やデータ処理が対応できなくなるため、測定値の正確さが問題となる場合がある。交互点灯型は、本発明において図3又は図4に示す構成を有する光源を使用する場合に、主に採用される。しかし、これらの光源を使用する場合だけに限らない。
【0042】
同時点灯型は、本発明において、LED1とLED2をそれぞれ独立した光源として配置するものを光源として使用する場合に、主に採用される。同時点灯型では、図5に示すように、LED1からの光とLED2からの光を、ビームコンバイナーやダイクロミックミラー等の波長の異なる光束を合流させる光学素子を用いることによって実質上一つの光束としてまとめて試料測定用セル6中を通過させ、その前後ではバンドパスフィルターやダイクロミックミラー等の波長の異なる光束を分離する光学素子を用いることで、LED1からの光とLED2からの光をそれぞれ測定するような方法を用いる。この場合、LEDの連続点灯によって安定した発光を行うことができることから、特に有用である。
【0043】
本発明において、図1に示す光源15を構成する前記LED1と前記LED2からの光強度は、試料測定用セル6を通過した後で検出器13によって測定されるだけではなく、試料測定用セル6に入射する前に検出器12によって測定される。これは、それぞれのLEDの光強度が使用中の外部環境条件によって変動しやすいことから、その変動の影響を排除する補正を行うためである。本発明において使用する検出器は、それぞれのLEDの波長に対して光強度を高感度に検出して測定できるものを用いる。この検出器としては、一つの波長の光に対してだけ感受するものだけでなく、検出器の個数を減らして光学系を簡素化するために、λ1およびλ2を含む所定の幅を有する波長領域に対して光検出感度を有するものを使用することができる。
【0044】
次に、本発明によるオゾン濃度計を用いて、オゾン濃度を求める方法を説明する。
【0045】
図1において、参照用検出器12で検出される光源であるLED1及びLED2からの光強度信号はそれぞれ、
Ia1=Sa1(LED1に対する検出器12の感度)×Fa1(LED1からの光のうち検出器12に検出される割合)×∫I1(λ)dλ ――――(1)
(LED1からの光強度をその発光波長範囲で積分したもの)
Ia2=Sa2(LED2に対する検出器12の感度)×Fa2(LED2からの光のうち検出器12によって検出される割合)×∫I2(λ)dλ ――――(2)
(LED2からの光強度をその発光波長範囲で積分したもの)
信号検出器13で検出されるLED1及びLED2からの光強度信号は、流路2が選択されている時、それぞれ試料セル中のオゾンによる吸収を受けて減少する。
Ib1=Sb1(LED1に対する検出器13の感度)×Fb1(LED1からの光のうち検出器13に検出される割合)×∫I1(λ)・exp(−σ(λ)・[O]・L)dλ ――――(3)
(試料測定用セル6中でオゾン吸収を受けたLED1からの光強度をその発光波長範囲で積分したもの。ここで、σ(λ)および[O]とLは、それぞれオゾンの波長λにおける光吸収断面積および試料測定用セル6中のオゾン濃度と試料測定用セル6の長さを意味する。)
Ib2=Sb2(LED2に対する検出器13の感度)×Fb2(LED2からの光のうち検出器13に検出される割合)×∫I2(λ)・exp(−σ(λ)・[O]・L)dλ ―――(4)
(試料測定用セル6中でオゾン吸収を受けたLED2からの光強度をその発光波長範囲で積分したもの。)
【0046】
なお、Ia1とIa2及びIb1とIb2を区別して測定するには、LED1とLED2を交互に点灯する方法、バンドパスフィルターやダイクロックミラー等で波長を分離して測定する方法等がある。
【0047】
ここで、Sa1、Sa2、Sb1、Sb2は安定であり、時間的な変化は小さい。また、Fa1、Fa2、Fb1、Fb2は温度変化等の周囲条件により変化するが、それらの比Ra=Fa1/Fa2及びRb=Fb1/Fb2は、光がほぼ同一経路を通るのでやはり安定であり、時間的変化は小さい。LED1及びLED2の光強度I1(λ)及びI2(λ)を、それぞれ波長に関しピークとなる光強度Ip1、Ip2と光強度の波長変化成分w1(λ)、w2(λ)の積
I1(λ)dλ=Ip1・∫w1(λ)dλ、
I2(λ)dλ=Ip2・∫w2(λ)dλ
で表すことができ、Ip1、Ip2は時間変化するが、w1、w2の時間変化は小さいと考えられる。
w1、w2をあらかじめ測定しておくことで、W1=∫w1(λ)dλ、W2=∫w2(λ)dλ及びS1=∫w1(λ)・σ(λ)dλ、S2=∫w2(λ)・σ(λ)dλが得られる。
すると上記の(1)〜(4)の式は、それぞれ
Ia1=Sa1・Fa1・Ip1・W1
Ia2=Sa2・Fa2・Ip2・W2
Ib1=Sb1・Fb1・Ip1・∫w1(λ)・exp(−σ(λ)・[O]・L)dλ
Ib2=Sb2・Fb2・Ip2・∫w2(λ)・exp(−σ(λ)・[O]・L)dλ
となり、オゾンによる吸収量は0.1%のオーダーと小さい値なので、テイラー展開の1次の項までで十分な精度で、
w1(λ)・exp(−σ(λ)・ [O]・L)dλ≒∫w1(λ)dλ−[O]・L・∫w1(λ)・σ(λ)dλ
と近似することができる。したがって、
Ib1=Sb1・Fb1・Ip1・(W1−S1・[O]・L)
Ib2=Sb2・Fb2・Ip2・(W2−S2・[O]・L)
とすることができる。
よって、各信号の比T=(Ib1/Ib2)/(Ia1/Ia2)をとると、
T=(Ib1/Ib2)/(Ia1/Ia2)=(Sb1/Sb2)・(Fb1/Fb2)・(Ip1/Ip2)・{(W1−S1・[O]・L)/(W2−S2・[O]・L)}/[(Sa1/Sa2)・(Fa1/Fa2)・(Ip1/Ip2)・(W1/W2)]=(Sb1/Sb2)・Rb・{(W1−S1・[O]・L)/(W2−S2・[O]・L)}/[(Sa1/Sa2)・Ra・(W1/W2)]
ここで、測定前又は測定中においてRa、Rb等の時間変化が無視できる程度の時間間隔で、流路をゼロ較正側空気流路3に切り替えてオゾンを含まない空気を試料測定用セルに満たし、そのときのIa1、Ia2、Ib1、Ib2を測定することで、下記の式(5)によって定数Cが求められる。これは周囲の温度条件等が変化しても変化の小さい量である。
C=[(Sb1/Sb2)・Rb]/[(Sa1/Sa2)・Ra] ――― (5)
(5)式で表される定数Cを代入し、
T=C・(W1−S1・[O]・L)/(W2−S2・[O]・L)/(W1/W2)
となるので、この式を整理した次の式で、オゾン濃度を求めることができる。
[O]=(T−C)・W1・W2/{L・(T・W1・S2−C・W2・S1)}
【0048】
本発明は、高精度のオゾン濃度を測定できるように、オゾンを含まない空気を満たした試料測定用セルを用いて、上記(5)式で表される定数Cを求めるが、オゾン濃度計の小型化と軽量化を図るために、図1に示すゼロ較正側空気流路3及びオゾン分解器4を省略しても良い。そのような構成は、LEDの波長や位置の違いに起因して測定される光強度信号の違いを完全に補正できる構成を有するオゾン濃度計よりも測定精度がやや劣るものの、光源として1つのLEDだけからなるオゾン濃度計と比べると、オゾン濃度測定の精度と再現性が高くなるため、有用性が高い。
【0049】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0050】
[第1の実施の形態]
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る複数のLEDを組み合わせた1つの光源の断面及び該複数のLEDを組み合わせた1つの光源を有するオゾン濃度計の構成を示す図である。
【0051】
図3に示すオゾン濃度計は、光源が波長250nmに発光ピークを有するLED1(図3の16)と波長280nmに発光ピークを有するLED2(図3の17)を複数組み合わせて図3に示す断面構造で1つの光源としたものであり、LED1とLED2のそれぞれ2個が一つの群として分けられ、それぞれの群を交互に点灯する交互点灯型である。ここで、LED1として、オゾンの吸収ピークの波長約252nmに近接した波長250nmに発光ピークを有するものを使用した。また、波長280nmに吸光ピークを有するLED2によるオゾン吸収度(オゾン吸収断面積)は、波長250nmに吸光ピークを有するLED1によるオゾン吸収度(オゾン吸収断面積)の0.36倍である。検出器12及び13は、LED1及びLED2からの光が試料測定用セル6に入射する前及び試料測定用セル6を通過した後に、それぞれ1個配置され、点灯時間の差を利用して複数波長の光強度を区別して検出する。本実施においては、点灯時間の差として、0.08秒の短い周期を設定することによって、周期間のオゾン濃度や光学系の変位などは無視できるような装置の構成になっている。
【0052】
図3に示すオゾン濃度計を用いて、オゾン濃度の異なる気体についてオゾン濃度を求めた。その際、波長の違いに起因して測定される光強度信号の誤差を較正するための上記(5)式で表される定数Cは、ゼロ較正側空気流路3及びオゾン分解器4を経由してオゾンを含まない空気を満たした試料測定用セルを用いて、測定中1時間に1回の割合で求めた。このようにして求めたオゾン濃度を、オゾン標準ガス発生器で求めたオゾン真値と対比した結果、その差は3%以下と非常に小さいものであった。
【0053】
また、図3に示すオゾン濃度計において、LED2として波長280nmに発光ピークを有するLEDに代えて、波長290nmに発光ピークを有するLEDを使用した。ここで、波長290nmに吸光ピークを有するLED2によるオゾン吸収度(オゾン吸収断面積)は、波長250nmに吸光ピークを有するLED1によるオゾン吸収度(オゾン吸収断面積)の0.2以下であった。波長250nmの発光ピークを有するLED1と波長290nmに発光ピークを有するLED2とを用いて、点灯時間の周期を0.08秒に設定して上記と同じ方法で、オゾン濃度の異なる気体についてオゾン濃度を求めた。測定したオゾン濃度をオゾン標準ガス発生器で求めたオゾン濃度と対比した結果、その差は2.5%以下と非常に小さくなり、上記のLED1(波長250nm)とLED2(波長280nm)との組合せの場合と比べると、その誤差は小さくなる傾向にあり、オゾン濃度測定をより高精度に行うことができることが分かった。LED1(波長250nm)とLED2(波長290nm)との組合せにおいて、より高精度の測定が可能となったのは、LED2のLED1に対するオゾン吸光度の比が0.2以下と小さいためである。
【0054】
次に、本実施形態の変形例として、ゼロ較正側空気流路3及びオゾン分解器4を省略したオゾン測定装置を用いる以外は、図3に示すものと同じ構成を有するオゾン濃度計によってオゾン濃度を測定した。LED1とLED2としては、それぞれ波長250nm及び波長280nmに発光ピークを有するものを使用した、また、上記(5)式で表される定数Cは、オゾン濃度の測定を行う前に、オゾンを含まない気体を用いて求めた。このようにして得られたCの値を実際のオゾン濃度の算出に適用すると、測定データとして得られたオゾン濃度とオゾン標準ガス発生器で求めたオゾン真値との誤差は上記の誤差値よりも相対的にやや大きくなるが、実用上では問題のないことが分かった。
【0055】
図3に示す本願発明のオゾン濃度計は、図7において光源として波長254nmに発光ピークを有する低圧水銀ランプだけを適用する従来のオゾン濃度計又は250nmに発光ピークを有する1個のLEDだけを適用するオゾン濃度計と比べて、測定されたオゾン濃度とオゾン標準ガス発生器で求めたオゾン真値との誤差が小さくなることが確認された。また、ゼロ較正側空気流路3及びオゾン分解器4を省略したときのオゾン濃度計についても、複数の固体発光素子LEDを用いた場合は、低圧水銀ランプだけを用いた場合又は250nmに発光ピークを有する1個のLEDだけを適用する場合よりも、オゾン真値との誤差が小さくなることを確認できた。
【0056】
[第2の実施の形態]
図4は、本発明の第2の実施の形態に係るLEDパッケージ光源の断面及び該LEDパッケージを光源として有するオゾン濃度計の構成を示す図である。
【0057】
図4に示すオゾン濃度計は、光源として図4に示す断面構造を有するLEDパッケージを使用する以外は、図3に示すものと同じ構成を有する。LEDパッケージは、波長250nmに発光ピークを有するLED素子1(図4の20)を5個と波長280nmに発光ピークを有するLED素子2(図4の21)を4個とを同一基板上の同時搭載したものであり、本実施の形態において1つの光源を構成するものである。図4の(a)に示すLEDパッケージにおいて、5個のLED素子1及び4個のLED素子2はそれぞれ同じ一つの群として分けられ、それぞれの群を周期0.05秒で交互に点灯させて発光を行う方式によってオゾン濃度を測定する。
【0058】
図4に示すオゾン濃度計によって、実施の形態1と同じ方法でオゾン濃度の異なる気体についてオゾン濃度を測定した。また、上記(5)式で表される定数Cについても、実施の形態1と同じ方法で求めた。その結果、測定したオゾン濃度と、オゾン標準ガス発生器で求めたオゾン真値との誤差は3%以下と非常に小さいものであった。
【0059】
[第3の実施の形態]
図5は、本発明の第3の実施の形態に係る複数のLEDを光源として用いたときの光結合方法と該複数のLEDを光源として有するオゾン濃度計の構成を示す図である。
【0060】
図5に示すオゾン濃度計は、波長250nm及び波長280nmに発光ピークを有するLED1及びLED2を用いて、同時点灯する光源を使用する。両者のLEDは、ダイクロミックミラー22によって2つの異なる波長の光が合流又は分離されている。また、検出器は、LED1に相当する16とLED2に相当する17からの発光が試料測定用セル6に入射する前のそれぞれの光強度を測定する参照用光検出器121と122、及び両者の光源からの発光が試料測定用セル6を通過した後でそれぞれの光強度を測定する(セル)透過光強度検出器131と132から構成される。
【0061】
図5に示すオゾン濃度計によって、実施の形態1と同じ方法でオゾン濃度の異なる気体についてオゾン濃度を測定した。また、また、上記(5)式で表される定数Cについても、実施の形態1と同じ方法で求めた。その結果、測定したオゾン濃度と、オゾン標準ガス発生器で求めたオゾン真値との誤差は3%以下と非常に小さいものであった。
【0062】
このように、本発明によるオゾン濃度計は、図7に示す低圧水銀ランプを光源として用いた従来のオゾン濃度計又は1個のLEDだけを光源として用いた時のオゾン濃度計と比べて、同等以上の高精度のオゾン濃度測定を行うことができる。特に、オゾン濃度変化がある時には、より高精度の測定結果を得ることができる。また、本発明では、複数波長によるLED光源を用いたときに生じる光強度信号の誤差の補正をオゾン測定毎に行う必要が無いために、1個のLEDだけを光源として用いた時のオゾン濃度計と比べて短時間で迅速な測定を行うことができる。その際に、図1に示す試料側流路2からゼロ較正側空気流路3への切り替え操作及びオゾン分解器4の使用を頻繁に行う必要が無くなるため、オゾン濃度計の寿命が延びると共に、メンテナンス費用を低減することができる。加えて、図3及び図4に示すような複数波長のLED光源を組合せて1つ又は1パッケージの光源とする本発明のオゾン濃度計によれば、1つのLED光源だけを用いるオゾン濃度計と同じように、光源の簡素化及び小型化が可能となる。そして、本願発明は、水銀を用い寿命が短い低圧水銀ランプに代わりに、固体発光素子(LED)を光源として使用するため、使用時の光源の出力安定性の向上及び消費電力の低減にも効果があり、低圧水銀ランプの廃棄という環境の面での問題も解決できる。
【0063】
[第4の実施の形態]
図6は、本発明の第4の実施の形態に係るオゾン濃度監視用キットの構成を示す図である。本発明のオゾン濃度監視用キットは、上記第1〜3のいずれかの本実施の形態で得られたオゾン濃度計を用いて、各検出器12と13によって検出された光強度信号の入出力装置23、気体流量、気体流路の切り替え、オゾン分解器の稼動状況、ポンプの開閉等の各種測定条件を制御するための制御装置24、及び取り込んだ光信号強度の増幅回路と光信号強度の比と該光信号強度の比からオゾン濃度を算出するための中央演算処理ユニット(CPU)を含む解析装置25から構成される。さらに、本発明のオゾン濃度監視用キットは、解析装置25と電気的に接続したオゾン濃度を表示するための表示部分と、必要に応じてオゾン濃度が許容値に近づいたとき又は許容値を超えたときに警告及び/又は表示を行う装置26を有する。
【0064】
本発明のオゾン濃度監視用キットは、短時間で高精度の測定が可能であるばかりではなく、簡素化された光学系を有するオゾン濃度計から構成されているため、十分な性能と機能を有するだけではなく、取扱性に優れ小型化が可能となり、有用性が極めて高い。
【符号の説明】
【0065】
1・・・大気採取口、2・・・試料側空気流路、3・・・ゼロ較正側空気流路、4・・・オゾン分解器、5・・・三方電磁弁、6・・・試料測定用セル、7・・・排気流路、8・・・流量計、9・・・ポンプ、10・・・試料ガス排出口、11・・・低圧水銀ランプ、12・・・参照用光検出器、13・・・(セル)透過光強度検出器、14・・・信号処理電気系、15・・・複数波長の固体発光素子(LED)、16・・・波長λ1のLED、17・・・波長λ2のLED、18・・・試料セル入口流路、19・・・ビームスプリッター、20・・・波長λ1のLED素子、21・・・波長λ2のLED素子、22・・・2波長の光を合流又は分離するための光学素子、23・・・光強度信号の入出力装置、24・・・測定条件の制御装置、25・・・解析装置、26・・・表示及び/又は警告装置、121・・・波長λ1用参照用検出器、122・・・波長λ2用参照用検出器、131・・・波長λ1用透過光検出器、132・・・波長λ2用透過光検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、オゾン吸収スペクトルにおいてオゾン吸光度を示す波長領域内の所定の波長をλ1としたときに、前記のλ1に発光ピークを有する固体発光素子(LED)1と、前記LED1からの発光に対するオゾン吸光度の1/2以下となるオゾン吸光度を示す波長λ2に発光ピークを有する固体発光素子(LED)2とからなる複数の光源と、試料空気を収納する試料測定用セルと、前記LED1の光源1と前記LED2の光源2からの光強度を、前記試料測定用セルに入射する前及び前記試料測定用セルを通過した後で、それぞれ測定するための検出器1と検出器2とからなる複数の検出器とを有し、前記の検出器1によって測定される前記LED1と前記LED2との光強度比及び前記検出器2によって測定される前記LED1と前記LED2との光強度比を用いて、差分吸光法によってオゾン濃度を求めることを特徴とするオゾン濃度計。
【請求項2】
前記の検出器1によって測定される前記LED1と前記LED2との光強度の比を(Ia1/Ia2)とし、前記検出器2によって測定される前記LED1と前記LED2との光強度比を(Ib1/Ib2)としたときに、前記試料測定用セル中にオゾンを含まない状態で測定して求めた両者の比T(ここで、T=(Ib1/Ib2)/(Ia1/Ia2)である)を用いて、前記LED1と前記LED2の光源位置や波長の違いに起因する光強度信号の違いを補正することによって、オゾンを含む前記試料測定用セル中のオゾン濃度を求めることを特徴とする請求項1に記載のオゾン濃度計。
【請求項3】
前記の波長λ2に発光ピークを有するLED2からの発光に対するオゾン吸光度が、前記の波長λ1に発光ピークを有するLED1からの発光に対するオゾン吸光度の1/5以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のオゾン濃度計。
【請求項4】
前記の波長λ1が、オゾン吸収スペクトルにおいてオゾン吸光度の極大値を示す波長(λ0)の±20nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のオゾン濃度計。
【請求項5】
前記の波長λ1に発光ピークを有するLED1と波長λ2に発光ピークを有するLED2とをそれぞれ単数又は複数組み合わせた光源を、1つの光源として具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオゾン濃度計。
【請求項6】
前記の波長λ1に発光ピークを有するLED素子1と波長λ2に発光ピークを有するLED素子2をそれぞれ単数又は複数搭載したLEDパッケージを、1つの光源として具備することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオゾン濃度計。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のオゾン濃度計において、前記LED1とLED2又は前記LED素子1とLED素子2は、同じ波長に発光ピークを有するLED又はLED素子を同じ一つの群として、それぞれの群を交互点灯型にすることによって、点灯時間の差を利用して複数波長の光強度を区別して検出することを特徴とするオゾン濃度計。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のオゾン濃度計において、前記LED1とLED2又は前記LED素子1とLED素子2は、同じ波長を有するLED又はLED素子を同じ一つの群として、それぞれの群を1〜0.001秒の範囲にある所定の周期で交互に点灯させる交互点灯型にすることによって、点灯時間の差を利用して複数波長の光強度を区別して検出することを特徴とするオゾン濃度計。
【請求項9】
前記の波長λ1に発光ピークを有するLED1と波長λ2に発光ピークを有するLED2とからなる複数の光源を、同時点灯型にすることによって、同時に複数波長の光強度を検出することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のオゾン濃度計。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のオゾン濃度計、前記検出器1及び前記検出器2によって測定されたデータを取り込んでオゾン濃度を求める解析装置、及び前記のオゾン濃度を表示する表示装置からなり、必要に応じて前記解析装置によって求めたオゾン濃度が許容値に近づいたとき又は許容値を超えたときの警告及び/又は表示を行う装置を有することを特徴とするオゾン濃度監視用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−13573(P2012−13573A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151212(P2010−151212)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【Fターム(参考)】