説明

オフセット追従制御装置及びオフセット追従制御方法

【課題】追従中の遅れ時間ができるだけ小さくなるようにオフセットを追従させることができるオフセット追従制御装置及びオフセット追従制御方法を提供する。
【解決手段】各交差点13のサイクル長、スプリット、オフセットの組合せを生成する制御パラメータ組合せ生成部101と、制御パラメータ組合せ生成部101で生成された制御パラメータに基づいて遅れ時間を算出する遅れ時間算出部102と、遅れ時間算出部102で算出された遅れ時間の大きさに基づいて各交差点13の追従過程でのオフセットを生成するオフセット生成部103とを備え、オフセット追従過程における遅れ時間を最小化する時系列のオフセット列を生成する。これにより、追従中において交通流の十分な円滑化が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブエリア単位で信号機群を同期して動作させる信号制御システムにおいて、隣り合う信号機の青開始の時間差であるオフセットの変更に際して、目標となるオフセットに向けて値を段階的に変化させるオフセット追従制御装置及びオフセット追従制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路網に設置された信号機群を同期して動作させる信号制御システムでは、信号機間のオフセットを変更する場合、目標となるオフセットに向けて段階的に調整を行うオフセット追従の動作が必要となる。従来、この追従の回数をできるだけ減らして目標値に早く到達させる方法や、オフセットがサイクル長の2分の1となり、車両の流れを妨げるオフセット反転を極力発生させない方法(例えば特許文献1参照)が提案されている。特許文献1では、オフセットの変更方向をプラスとマイナスに分け、目標となるオフセットに対して追従の回数とその過程の反転数を最小化する組合せ最適化問題とし、線形計画法に帰着させて追従方向の組合せを求めるようにしている。
【0003】
一方、従来、交通量変動に応じて制御パタンを切り替えるパタン選択型の制御方法が提案されている(例えば非特許文献1参照)。非特許文献1では、パタンの切り替え時に発生するオフセット追従の動作を取り入れた交通流シミュレーションによって系統方向の総遅れ時間を算出して、この遅れ時間が最小となるようにパタンの切り替えタイミングを決定するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−20882号公報
【非特許文献1】2003年7月、土木学会論文集No.737/IV−60、115−124、2003.7、「系統交通信号の高度化を意図したパタン切り替え制御の最適化の効果とその限界」(久井守、山本耕作)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の信号制御方法においては、次のような問題がある。すなわち、特許文献1で開示された方法においては、できるだけ早く追従が完了するようにオフセットを変更するようにしているものの、この過程の値は、サイクル長とスプリットとの組合せを考慮していないこともあって、交通流の十分な円滑化に寄与していない。しかし、交通状況に応じてサイクル長、スプリット、オフセットの組合せを決定しても、追従が完了するまでの間の組合せが交通状況に合っているとは限らないため、それだけでは交通流の十分な円滑化に寄与することは困難である。また、オフセット反転の発生を回避するようにしても、一般的に、反転時のオフセットによる交通流への影響は交差点間の距離や混雑状況に依存するので、オフセット反転を回避させるようにしても、必ずしも追従中の交通状況が良くなるとは限らない。
【0006】
また、非特許文献1で開示された方法においては、交通流シミュレーションによってオフセット追従処理を再現し、オフセット追従中に発生する遅れ時間を計算するようにしているが、この過程において、オフセットが目標値となるまでその方向に変更されるので、遅れ時間に応じて追従中のオフセットを決定することはできない。
【0007】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、追従中の遅れ時間ができるだけ小さくなるようにオフセットを追従させることができるオフセット追従制御装置及びオフセット追従制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は下記構成又は方法により達成される。
(1) 隣り合う信号機の青開始の時間差であるオフセットの変更に際して、目標オフセットに向けて現在のオフセットの値を段階的に変化させるオフセット追従制御装置において、現在のオフセットの値を前記目標オフセットに向けて段階的に変化させる追従過程にて前記オフセットの追従し得る増減方向の各値及び動作周期であるサイクル長及び青時間の比率であるスプリットの組合せを生成する制御パラメータ組合せ生成手段と、前記制御パラメータ組合せ生成手段で生成されたパラメータに基づいて交通流の推移を再現し、再現した車両の速度や交通量から車両の遅れ時間を算出する遅れ時間算出手段と、前記オフセットの各増減方向に対する遅れ時間から、オフセット追従過程の総遅れ時間を最小化するオフセット値を決定して時系列のオフセット列を生成するオフセット生成手段と、を備える。
【0009】
(2) 信号制御システムにおいて、上記(1)に記載のオフセット追従制御装置を備える。
【0010】
(3) 隣り合う信号機の青開始の時間差であるオフセットの変更に際して、目標オフセットに向けて現在のオフセットの値を段階的に変化させるオフセット追従制御方法において、現在のオフセットの値を前記目標オフセットに向けて段階的に変化させる追従過程にて前記オフセットの追従し得る増減方向の各値及び動作周期であるサイクル長及び青時間の比率であるスプリットの組合せを生成する工程と、生成したパラメータに基づいて交通流の推移を再現し、再現した車両の速度や交通量から車両の遅れ時間を算出する工程と、前記オフセットの各増減方向に対する遅れ時間から、オフセット追従過程の総遅れ時間を最小化するオフセット値を決定して時系列のオフセット列を生成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
上記(1)に記載のオフセット追従制御装置では、オフセット追従過程における遅れ時間を最小化する時系列のオフセット列を生成するので、追従中の交通流の十分な円滑化に寄与する。
【0012】
上記(2)に記載の信号制御システムでは、上記(1)に記載のオフセット追従制御装置を備えるので、追従中の交通流の十分な円滑化が可能となる。
【0013】
上記(3)に記載のオフセット追従制御方法では、オフセット追従過程における遅れ時間を最小化する時系列のオフセット列を生成するので、追従中の交通流の十分な円滑化に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態に係るオフセット追従制御装置の概略構成を示すブロック図である。この図において、本実施の形態のオフセット追従制御装置10は、道路網のサブエリア単位で設けられ、サブエリア20内の複数の信号機11を制御する。サブエリア20は、複数の信号機11を同じサイクル長で同期させる領域である。なお、図1では、サブエリア20内の信号機11は3機であるが、この数に限定はなく任意である。信号機11は、道路12上の各交差点13に設置される。各信号機11の車両通行方向(図中矢印Aで示す方向)の手前には、超音波を利用して車両(図示略)を感知するための感知器14が設置される。
【0016】
オフセット追従制御装置10は、制御パラメータ組合せ生成部101と、遅れ時間算出部102と、オフセット生成部103と、データベース104とを備えて構成され、オフセット追従過程における遅れ時間を最小化するオフセットの値を生成する。オフセット追従制御装置10は、各信号機11及び各感知器14と通信回線で接続されており、感知器データや予め用意されたパタンなどから選択した追従前後の制御パラメータをメモリ(図示略)に格納している。制御パラメータ組合せ生成部101は、各交差点13の「サイクル長」、「スプリット」、「オフセット」の組合せを生成する。遅れ時間算出部102は、制御パラメータ(C,S,O)に基づいて遅れ時間を算出する。オフセット生成部103は、遅れ時間の大きさに基づいて各交差点13の追従過程のオフセットを生成する。オフセット生成部103で生成されたオフセット値は、データベース104に格納される。
【0017】
次に、上記構成のオフセット追従制御装置10の動作について説明する。この場合、制御パラメータ組合せ生成部101、遅れ時間算出部102及びオフセット生成部103の夫々について個別に説明する。
【0018】
〔制御パラメータ組合せ生成部101の動作〕
図2は、制御パラメータ組合せ生成部101の動作を示すフロー図である。また、図3は制御パラメータ組合せ生成部101の動作概念図である。
【0019】
図2及び図3において、制御パラメータ組合せ生成部101は、まず各交差点13、13、…、13について、サイクル長(C)と、スプリット(S)と、オフセット(O)とからなる組合せ(C,S,O)、(C,S,O)、…、(C,S,O)を生成する(ステップS100)。次いで、オフセットを現在値から+ΔO及び−ΔOのみ変更したパラメータ侯補を生成する。本実施の形態では、ΔOを、サイクル長に対して12.5%とする。なお、現在値と目標値との差がサイクル長の12.5%以下の場合は、その差分をΔOとすれば良い。また、既にオフセットが目標値へ到達している交差点については、現在値を侯補とする(ステップS101)。最後に全ての侯補をメモリ(図示略)に格納して終了する(ステップS102)。
【0020】
〔遅れ時間算出部102の動作〕
図4は、遅れ時間算出部102の動作を示すフロー図である。また、図5は遅れ時間算出部102の動作概念図である。
【0021】
図4及び図5において、遅れ時間算出部102は、まず上述したメモリから制御パラメータ組合せの侯補を読み込み(ステップS200)、感知器14から得られる感知器データからサブエリア20内の交通量と速度データを抽出する(ステップS201)。次いで、図5の交通流シミュレーションモデル40を用い、交通量と速度を該モデル40への入力情報として適用し、各侯補に対する車両(または車群)の推移を計算する(ステップS202)。このとき、侯補以外の交差点についてはC、S、Oの初期値を用いる。上記の計算から各侯補に対するサブエリア全体の遅れ時間PIを求め、上述したメモリに格納する(ステップS203)。
【0022】
〔オフセット生成部103の動作〕
図6は、オフセット生成部103の動作を示すフロー図である。また、図7はオフセット生成部103の動作概念図である。
【0023】
図6において、オフセット生成部103は、まず各交差点13、13、…、13について、追従前のオフセットO、O、…、Oを含むパラメータ初期値(C,S,O)、(C,S,O)、…、(C,S,O)と、目標オフセットO,O,…,Oを上述したメモリから読み込み(ステップS300)、制御パラメータ組合せ生成部101を呼び出して、初期値からパラメータ侯補を生成する。ここで、各交差点の侯補は、オフセット増減方向の各2通り、交差点数nに対しては2のn乗となる。本実施の形態では、交差点数が少なくて実用的な処理時間で計算可能な場合は全侯補、それ以外は乱数等を用いて無作為に抽出した侯補を用いる(ステップS301)。次いで、遅れ時間算出部102を用いて最も遅れ時間の小さい侯補と、その侯補を含む交差点を選択する(ステップS302)。選択した交差点のオフセットが目標オフセットと一致する場合は、それ以上侯補を生成しないものとし、残りの交差点について新たに侯補を生成する(ステップS303)。
【0024】
ステップS302とステップS303を、全交差点13のオフセットが目標値に達するまで繰り返し(ステップS304)、目標値に至るまでのオフセット値(O,O,…,O)、(O,O,…,O)、…、(O,O,…,O)をデータベース104に保存する(ステップS305)。なお、遅れ時間の代わりに、目標値に達するまでの追従の累積回数や、同過程においてオフセット反転が発生する回数を最小化するように侯補を選択しても良い。さらに、遅れ時間、追従回数、オフセット反転数の中から任意の指標を組合せて、これらを同時に最小化するように侯補を選択しても良いものとする。
【0025】
このように本実施の形態のオフセット追従制御装置10によれば、各交差点13のサイクル長、スプリット、オフセットの組合せを生成する制御パラメータ組合せ生成部101と、制御パラメータ組合せ生成部101で生成された制御パラメータに基づいて遅れ時間を算出する遅れ時間算出部102と、遅れ時間算出部102で算出された遅れ時間の大きさに基づいて各交差点13の追従過程でのオフセットを生成するオフセット生成部103とを備え、オフセット追従過程における遅れ時間を最小化する時系列のオフセット列を生成するので、追従中において交通流の十分な円滑化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、遅れ時間を最小化する追従過程のオフセットを得ることができるといった効果を有し、信号制御システム等への適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態に係るオフセット追従制御装置の概略構成を示すブロック図
【図2】図1の制御パラメータ組合せ生成部の動作を説明するためのフロー図
【図3】図1の制御パラメータ組合せ生成部の動作概念図
【図4】図1の遅れ時間算出部の動作を説明するためのフロー図
【図5】図1の遅れ時間算出部の動作概念図
【図6】図1のオフセット生成部の動作を説明するためのフロー図
【図7】図1のオフセット生成部の動作概念図
【符号の説明】
【0028】
10 オフセット追従制御装置
11 信号機
12 道路
13 交差点
14 感知器
20 サブエリア
101 制御パラメータ組合せ生成部
102 遅れ時間算出部
103 オフセット生成部
104 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合う信号機の青開始の時間差であるオフセットの変更に際して、目標オフセットに向けて現在のオフセットの値を段階的に変化させるオフセット追従制御装置において、
現在のオフセットの値を前記目標オフセットに向けて段階的に変化させる追従過程にて前記オフセットの追従し得る増減方向の各値及び動作周期であるサイクル長及び青時間の比率であるスプリットの組合せを生成する制御パラメータ組合せ生成手段と、
前記制御パラメータ組合せ生成手段で生成されたパラメータに基づいて交通流の推移を再現し、再現した車両の速度や交通量から車両の遅れ時間を算出する遅れ時間算出手段と、
前記オフセットの各増減方向に対する遅れ時間から、オフセット追従過程の総遅れ時間を最小化するオフセット値を決定して時系列のオフセット列を生成するオフセット生成手段と、
を備えるオフセット追従制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のオフセット追従制御装置を備える信号制御システム。
【請求項3】
隣り合う信号機の青開始の時間差であるオフセットの変更に際して、目標オフセットに向けて現在のオフセットの値を段階的に変化させるオフセット追従制御方法において、
現在のオフセットの値を前記目標オフセットに向けて段階的に変化させる追従過程にて前記オフセットの追従し得る増減方向の各値及び動作周期であるサイクル長及び青時間の比率であるスプリットの組合せを生成する工程と、
生成したパラメータに基づいて交通流の推移を再現し、再現した車両の速度や交通量から車両の遅れ時間を算出する工程と、
前記オフセットの各増減方向に対する遅れ時間から、オフセット追従過程の総遅れ時間を最小化するオフセット値を決定して時系列のオフセット列を生成する工程と、
を備えるオフセット追従制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−66174(P2007−66174A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253557(P2005−253557)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】