説明

オリゴヌクレオチドのスクリーニング方法及びオリゴヌクレオチドライブラリー

【課題】標的遺伝子の発現抑制活性等の生物的活性又は化学的活性を示すオリゴヌクレオチドを効率良く取得するためのオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法の提供。
【解決手段】任意の核酸アナログからなる7merの基本配列に、アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、を1つ又は2つ結合したオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを、各オリゴヌクレオチドプール間で前記基本配列が互いに異なるようして、二以上準備する手順Sと、オリゴヌクレオチドプールの中から、生物的活性又は化学的活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定する手順Sと、を含む、オリゴヌクレオチドのスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチドのスクリーニング方法とオリゴヌクレオチドライブラリー等に関する。より詳しくは、所望の生物的活性又は化学的活性を示す目的オリゴヌクレオチドを取得するためのオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法と、このスクリーニング方法に用いられるオリゴヌクレオチドライブラリー等に関する。
【背景技術】
【0002】
数個〜数十個程度のヌクレオチドがリン酸を介してフォスフォジエステル結合によって鎖状に配列したオリゴヌクレオチド(Oligonucleotide)は、相補的な配列を有するヌクレオチド鎖に対して、塩基対間に形成される水素結合により結合する。この特性を利用して、オリゴヌクレオチドは、従来、研究用試薬や遺伝子診断試薬として広く用いられている。
【0003】
研究用試薬としてのオリゴヌクレオチドは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase chain reaction: PCR)のプライマーに用いられて、特定の遺伝子配列を増幅するために利用されている。あるいは、増幅された遺伝子配列を検出するためのプローブとしても利用される。また、遺伝子診断試薬としては、DNAチップやDNAアレイに固相化されるプローブとして使用されている。
【0004】
近年、オリゴヌクレオチドは、核酸医薬と称される医薬品としての開発が進められている。一例として、標的遺伝子のmRNA(センス鎖)の部分配列に相補的なオリゴヌクレオチド(アンチセンスオリゴヌクレオチド)を細胞内へ導入し、センス鎖のタンパク質への翻訳を選択的に阻害する「アンチセンス法」がある。アンチセンス法では、標的遺伝子のmRNAにアンチセンスオリゴヌクレオチドを結合させ、mRNAへの翻訳因子複合体の結合を阻害することによって、mRNAのタンパク質への翻訳を阻害し、標的遺伝子産物の発現を抑制することができる。
【0005】
核酸医薬としてのオリゴヌクレオチドの一例として、「おとり」として特定の転写因子と結合し、転写因子の機能を阻害する「デコイオリゴヌクレオチド」も挙げられる。転写因子は、ゲノム上のプロモーターやエンハンサーといった転写制御領域に結合して、遺伝子のmRNAへの転写を制御している。デコイオリゴヌクレオチドは、この転写因子におとりとして結合し、転写因子が転写制御領域へ結合するのを競合的に阻害することによって、標的遺伝子mRNAの転写を阻害し、標的遺伝子産物の発現を抑制する。
【0006】
ここで、本発明に関連して「ロックト核酸(LNA: Locked Nucleic Acid)」について説明する。LNAは、「ブリッジド核酸(BNA: Bridged Nucleic Acid)」とも称されている。本発明において、LNA及びBNAは同義に用いるものとする。
【0007】
天然の核酸(DNA及びRNA)中のヌクレオシドは、N型とS型の2種類のコンフォメーションをとっている。このコンフォメーション間の「ゆらぎ」のために、DNA-DNA間、RNA-RNA 間及びDNA-RNA間で形成される二本鎖は熱力学的に必ずしも安定した状態とはなっていない。
【0008】
2'-O,4'-C-methano-bridged nucleic acid (2',4'-BNA)は、リボース(糖)の2’位と4’位を「- O - CH2-」で架橋し、コンフォメーションをN型に固定した人工核酸である。2',4'-BNAはコンフォメーション間のゆらぎがないため、2',4'-BNAを数ユニット組み込んで合成されたオリゴヌクレオチドは、従来の天然の核酸で合成されたオリゴヌクレオチドに比べて、RNAやDNAに対する結合力や配列特異性が極めて高く、かつ、優れた耐熱性とヌクレアーゼ耐性を示す。これまでに、2',4'-BNA以外にも、約10種類のLNAが開発されている(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2002−521310号
【特許文献2】特開平10−304889号
【特許文献3】特開平10−195098号
【特許文献4】国際公開第2005/021570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
核酸医薬として機能するアンチセンスオリゴヌクレオチドやデコイオリゴヌクレオチドを得るためには、翻訳因子複合体の結合領域や転写因子の結合領域に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する必要がある。そのため、アンチセンス法やデコイ法では、翻訳因子複合体や転写因子の結合領域の配列(以下、「ターゲット配列」ともいう)が明らかにされている遺伝子のみが標的となり、これらの結合領域の配列が未知の遺伝子を標的とすることはできない。
【0011】
さらに、翻訳因子複合体や転写因子の結合領域に相補的な配列として合成したオリゴヌクレオチドであっても、必ずしも期待した活性を示さない場合がある。そのため、例えば、アンチセンス法では、標的遺伝子mRNA上の一つの翻訳因子複合体結合領域に対して複数のオリゴヌクレオチドを合成したり、mRNA上の複数の翻訳因子複合体結合領域に対して多数のオリゴヌクレオチドを合成したりして、所望の活性を示すオリゴヌクレオチドをスクリーニングにより見つけ出す必要がある。
【0012】
このような標的遺伝子に関する制約や、標的遺伝子毎に複数のオリゴヌクレオチドをその都度設計してスクリーニングするためのコストは、核酸医薬の開発を進めるにあたって大きな障害となっている。
【0013】
そこで、本発明は、標的遺伝子の発現抑制活性等の生物的活性又は化学的活性を示すオリゴヌクレオチドを効率良く取得するためのオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題解決のため、本発明は、任意の核酸アナログからなる7merの基本配列に、アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、を1つ又は2つ結合したオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを、各オリゴヌクレオチドプール間で前記基本配列が互いに異なるようして、二以上準備する手順と、オリゴヌクレオチドプールの中から、目的オリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定する手順と、を含む、オリゴヌクレオチドのスクリーニング方法を提供する。
このスクリーニング方法は、さらに、同定されたオリゴヌクレオチドプールの中から目的オリゴヌクレオチドを取得する手順を含み得る。
このスクリーニング方法において、基本配列に核酸アナログ又は核酸を1つ結合してオリゴヌクレオチドプールを調製する場合には、基本配列の5´末端又は3´末端のいずれかに、アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、をそれぞれ結合した4種類のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを二以上準備する。
また、このスクリーニング方法において、基本配列に核酸アナログ又は核酸を2つ結合してオリゴヌクレオチドプールを調製する場合には、例えば、基本配列の5´末端及び3´末端に、アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、をそれぞれ結合した16種類のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを二以上準備する。
このスクリーニング方法は、7つの核酸アナログの全ての組み合わせからなる16384(4の7乗)通りの基本配列を準備する手順を含むことが好適となる。16384通りの基本配列を用いて、16384通りのオリゴヌクレオチドプールを調製することにより、理論的に、あらゆる配列のヌクレオチド鎖に対して特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドを用意できる。
本発明に係るスクリーニング方法では、例えば、オリゴヌクレオチドプールの存在下及び非存在下で、mRNAとこのmRNAに結合するmRNA結合タンパク質とを接触させ、mRNAとmRNA結合タンパク質との結合量を測定することにより、mRNAとmRNA結合タンパク質との結合を阻害する活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定することができる。
また、例えば、オリゴヌクレオチドプールを導入した細胞及び導入していない細胞についてタンパク質の発現量を測定することにより、該タンパク質の発現を増強する活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定することもできる。
【0015】
併せて、本発明は、上記のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法に供されるオリゴヌクレオチドライブラリーであって、任意の核酸アナログからなる7merの基本配列に、アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、を1つ又は2つ結合したオリゴヌクレオチドからなる二以上のオリゴヌクレオチドプールから構成され、各オリゴヌクレオチドプール間で前記基本配列が互いに異なるようにされたオリゴヌクレオチドライブラリーをも提供する。
このオリゴヌクレオチドライブラリーは、基本配列が、7つの核酸アナログの全ての組み合わせからなる16384通りとされていることが好適となる。
【0016】
さらに、本発明は、腫瘍壊死因子α mRNAとRC3H1との結合を阻害する活性を示すオリゴヌクレオチドと、低密度リポタンパク質受容体の発現を増強する活性を示すオリゴヌクレオチドをも提供する。
【0017】
ここで、本発明における用語の定義を説明する。
【0018】
「核酸アナログ」とは、天然の核酸(DNA及びRNA)のリボースの化学構造又はホスホジエステル結合の化学構造を人為的に改変して得た人工核酸であって、オリゴヌクレオチドの配列中に少なくとも1つ含まれることにより、天然核酸のみからなるオリゴヌクレオチドに比較して、オリゴヌクレオチドの相補鎖に対する結合親和性及び配列特異性を増大させ得るものをいう。具体的には、リボースの化学構造を改変した「核酸アナログ」は、上述のブリッジド核酸(BNA)又はロックト核酸(LNA)を少なくとも含む。LNAとしては、2'-O,4'-C-methano-bridged nucleic acid (2',4'-BNA)や3’,4’-BNA、これらをさらに改変して得た3’-amino-2',4'-BNAや5’-amino-3’,4’-BNAなどの従来公知のLNAが包含される。また、ホスホジエステル結合の化学構造を改変した「核酸アナログ」には、リン酸基の酸素原子を硫黄原子で置換したホスホロチオエート型人工核酸(S-oligo)などが含まれる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、標的遺伝子の発現抑制活性等の生物的活性又は化学的活性を示す目的オリゴヌクレオチドを効率良く取得するためのオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係るオリゴヌクレオチドライブラリーを説明する図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係るオリゴヌクレオチドライブラリーを説明する図である。
【図3】本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法の手順を説明するフローチャートである。
【図4】TNF‐α mRNAとRC3H1との結合阻害活性を示すオリゴヌクレオチドプールを同定したウェスタンブロットの結果を示す図である(実施例1)。
【図5】オリゴヌクレオチドプールのLDLR発現上昇活性を評価したウェスタンブロットの結果を示す図である(実施例2)。
【図6】オリゴヌクレオチドの、ZFP36L1とLDLR mRNAとの結合阻害活性を評価したウェスタンブロットの結果を示す図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一般に、オリゴヌクレオチドの相補鎖に対する結合親和性及び配列特異性は、オリゴヌクレオチドの長さが短くなるほど減少する。従来の研究用試薬や遺伝子診断試薬、核酸医薬としてのオリゴヌクレオチドは、相補鎖に対する十分な結合親和性と配列特異性を担保するため、通常の場合で10〜40mer、多くの場合は20mer前後の長さとされている。オリゴヌクレオチドの長さが短いために相補鎖に対する十分な結合親和性と配列特異性が発揮されないと、所望のオリゴヌクレオチドの活性を得ることができない。
【0022】
一方、オリゴヌクレオチドは、長さが長くなるほど合成のためのコストが増大する。また、オリゴヌクレオチドの長さが長くなり過ぎると、部分的にのみ相補的な配列を有するヌクレオチド鎖(非相補鎖)への非特異的な結合が生じてしまう。そのため、オリゴヌクレオチドは、相補鎖に対する十分な結合親和性及び配列特異性が発揮されることを条件に、可能な限り短い長さとして合成されることが望ましい。
【0023】
さらに、オリゴヌクレオチドのライブラリーを構築しようとする場合、オリゴヌクレオチドの長さが長くなることによる合成コストの増大は、1mer長くなるごとに4種類のオリゴヌクレオチドを合成する必要があるために、指数関数的なものとなる。そのため、オリゴヌクレオチドのライブラリーを経済的に実現可能なコストで構築するためには、オリゴヌクレオチドの長さは可能な限り短いことが望まれる。
【0024】
本発明者らは、生物的活性又は化学的活性を示すオリゴヌクレオチドを取得するための最小限のオリゴヌクレオチドの長さを検討した結果、核酸アナログ7merに、1mer又は2merの核酸アナログ又は核酸を付加して合成した合計8mer又は9merのオリゴヌクレオチドが必要かつ十分な結合親和性及び配列特異性を発揮し、所望の生物的活性又は化学的活性を発現し得ることを見出した。
【0025】
本発明は、この知見に基づき発明者らによって完成されたものであり、所望の生物的活性又は化学的活性を示す目的オリゴヌクレオチドを効率良く取得するためのオリゴヌクレオチドライブラリーとこのライブラリーを用いたオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法等を提供するものである。
【0026】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0027】
1.オリゴヌクレオチドライブラリー
本発明に係るオリゴヌクレオチドライブラリーは、二以上のオリゴヌクレオチドプールから構成されている。各オリゴヌクレオチドプールは、任意の核酸アナログからなる7merの「基本配列」に、アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、を1つ又は2つ結合したオリゴヌクレオチドからなっている。
【0028】
(1−1)8merオリゴヌクレオチドライブラリー
図1に、本発明の第一実施形態に係るオリゴヌクレオチドライブラリーを模式的に示す。図は、7merの基本配列に核酸アナログ又は核酸を1つ結合したオリゴヌクレオチドによって各オリゴヌクレオチドプールが構成されたオリゴヌクレオチドライブラリーLを示している。
【0029】
図中、「A」はアデニンアナログ、「G」はグアニンアナログ、「T」チミンアナログ、「C」はシトシンアナログを示し、「a」はアデニン、「g」はグアニン、「t」チミン、「c」はシトシンを表す。また、「N」はアデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログを示し、「n」はアデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸を表す。
【0030】
オリゴヌクレオチドライブラリーLは、プール1からプールKの合計K種類のオリゴヌクレオチドライブラリーから構成されている。
【0031】
プール1には、オリゴヌクレオチド11,12,13,14の4種類のオリゴヌクレオチドが含まれている。オリゴヌクレオチド11,12,13,14は、「AGTCAGT」で示される基本配列1を共通して有し、この基本配列1の3´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合した配列とされている。プール1において、オリゴヌクレオチド11,12,13,14は同モル数ずつ含まれていることが望ましいが、各オリゴヌクレオチドの濃度は特に限定されないものとする。以下、プール2、プール3及びプールKについても同様である。
【0032】
プール2には、オリゴヌクレオチド21,22,23,24の4種類のオリゴヌクレオチドが含まれ、オリゴヌクレオチド21,22,23,24は、「AGTGAGT」で示される基本配列2を共通して有し、この基本配列2の3´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合した配列とされている。プール1に含まれるオリゴヌクレオチド11,12,13,14の基本配列1と、プール2に含まれるオリゴヌクレオチド21,22,23,24の基本配列2は、5´末端から4番目の核酸アナログがそれぞれ「C」と「G」とで異なっている。
【0033】
プール3には、オリゴヌクレオチド31,32,33,34の4種類のオリゴヌクレオチドが含まれ、オリゴヌクレオチド31,32,33,34は、「AGTTAGT」で示される基本配列3を共通して有し、この基本配列3の3´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合した配列とされている。プール1に含まれるオリゴヌクレオチド11,12,13,14の基本配列1と、プール3に含まれるオリゴヌクレオチド31,32,33,34の基本配列3は、5´末端から4番目の核酸アナログがそれぞれ「C」と「T」とで異なっている。また、プール2に含まれるオリゴヌクレオチド21,22,23,24の基本配列2と、プール3に含まれるオリゴヌクレオチド31,32,33,34の基本配列3は、5´末端から4番目の核酸アナログがそれぞれ「G」と「T」とで異なっている。
【0034】
プールK(Kは2以上16384以下の整数)には、オリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4の4種類のオリゴヌクレオチドが含まれ、オリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4は、「NNNNNNN」で示される基本配列Kを共通して有し、この基本配列Kの3´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合した配列とされている。プールKに含まれるオリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4の基本配列Kは、プール1〜プール(K−1)に含まれるオリゴヌクレオチドの基本配列1〜K−1と異なる配列とされている。
【0035】
このようにオリゴヌクレオチドライブラリーLは、プール間で異なる配列とされた基本配列にA,G,T又はCの核酸アナログを結合した4種類のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを二以上含んで構成されている。
【0036】
図1では、オリゴヌクレオチドプールKを構成するオリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4を、基本配列Kの3´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合した配列とする場合を説明した。各核酸アナログは、基本配列Kの3´末端又は5´末端のいずれか一方に結合されればよく、オリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4は、基本配列Kの5´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合した配列としてもよい。
【0037】
また、図1では、オリゴヌクレオチドプールKを構成するオリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4を、基本配列Kの末端にそれぞれA,G,T,Cの核酸アナログを結合した配列とする場合を説明した。基本配列の末端には、核酸アナログ又は核酸のいずれか一方が結合されればよく、オリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4は、基本配列Kの末端にそれぞれa,g,t,cの核酸を結合した配列としてもよい。
【0038】
(1−2)9merオリゴヌクレオチドライブラリー
図2に、本発明の第二実施形態に係るオリゴヌクレオチドライブラリーを模式的に示す。図は、7merの基本配列に核酸アナログ又は核酸を2つ結合したオリゴヌクレオチドによって各オリゴヌクレオチドプールが構成されたオリゴヌクレオチドライブラリーLを示している。
【0039】
オリゴヌクレオチドライブラリーLは、プール1からプールKの合計K種類のオリゴヌクレオチドライブラリーから構成されている。
【0040】
プール1には、オリゴヌクレオチド101〜116の16種類のオリゴヌクレオチドが含まれている。オリゴヌクレオチド101〜116は、「AGTCAGT」で示される基本配列1を共通して有し、この基本配列1の5´末端及び3´末端にそれぞれA,G,T,Cのいずれかを結合した配列とされている。プール1において、オリゴヌクレオチド101〜116は同モル数ずつ含まれていることが望ましいが、各オリゴヌクレオチドの濃度は特に限定されないものとする。以下、プール2、プール3及びプールKについても同様である。
【0041】
プール2には、オリゴヌクレオチド201〜216の16種類のオリゴヌクレオチドが含まれ、オリゴヌクレオチド201〜216は、「AGTGAGT」で示される基本配列2を共通して有し、この基本配列2の5´末端及び3´末端にそれぞれA,G,T,Cのいずれかを結合した配列とされている。プール1に含まれるオリゴヌクレオチド101〜116の基本配列1と、プール2に含まれるオリゴヌクレオチド201〜216の基本配列2は、5´末端から4番目の核酸アナログがそれぞれ「C」と「G」とで異なっている。
【0042】
プール3には、オリゴヌクレオチド301〜316の16種類のオリゴヌクレオチドが含まれ、オリゴヌクレオチド301〜316は、「AGTTAGT」で示される基本配列3を共通して有し、この基本配列3の5´末端及び3´末端にそれぞれA,G,T,Cのいずれかを結合した配列とされている。プール1に含まれるオリゴヌクレオチド101〜116の基本配列1と、プール3に含まれるオリゴヌクレオチド301〜316の基本配列3は、5´末端から4番目の核酸アナログがそれぞれ「C」と「T」とで異なっている。また、プール2に含まれるオリゴヌクレオチド201〜216の基本配列2と、プール3に含まれるオリゴヌクレオチド301〜316の基本配列3は、5´末端から4番目の核酸アナログがそれぞれ「G」と「T」とで異なっている。
【0043】
プールK(Kは2以上16384以下の整数)には、オリゴヌクレオチドK01〜K16の16種類のオリゴヌクレオチドが含まれ、オリゴヌクレオチドK01〜K16は、「NNNNNNN」で示される基本配列Kを共通して有し、この基本配列Kの5´末端及び3´末端にそれぞれA,G,T,Cのいずれかを結合した配列とされている。プールKに含まれるオリゴヌクレオチドK01〜K16の基本配列Kは、プール1〜プール(K−1)に含まれるオリゴヌクレオチドの基本配列1〜K−1と異なる配列とされている。
【0044】
このようにオリゴヌクレオチドライブラリーLは、プール間で異なる配列とされた基本配列にA,G,T又はCの核酸アナログを結合した16種類のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを二以上含んで構成されている。
【0045】
図2では、オリゴヌクレオチドプールKを構成するオリゴヌクレオチドK01〜K16を、基本配列Kの5´末端にA,G,T,Cのいずれかを1つ、3´末端にA,G,T,Cのいずれかを1つを結合した配列とする場合を説明した。2つの核酸アナログは、基本配列Kの5´末端及び/又は3´末端に結合されればよく、2つの核酸アナログをともに5´末端又は3´末端に結合して、16種類のオリゴヌクレオチドとしてもよい。
【0046】
また、図2では、オリゴヌクレオチドプールKを構成するオリゴヌクレオチドK01〜K16を、基本配列Kの末端にそれぞれA,G,T,Cの核酸アナログを2つ結合した配列とする場合を説明した。基本配列の末端には、核酸アナログ又は核酸のいずれか一方が結合されればよく、オリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4は、基本配列Kの末端にそれぞれa,g,t,cの核酸を2つ結合した配列としてもよく、あるいは核酸アナログ1つと核酸1つとを結合した配列としてもよい。
【0047】
(1−3)オリゴヌクレオチドプール数
図1及び図2に示したオリゴヌクレオチドライブラリーLは、プール間で異なる配列とされた7merの基本配列にA,G,T又はCの核酸アナログ又は核酸を結合した8mer又は9merのオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを二以上含んで構成されている。上述のように、2',4'-BNA等の核酸アナログ7merに、1mer又は2merの核酸アナログ又は核酸を付加して合成した合計8mer又は9merのオリゴヌクレオチドは、必要かつ十分な結合親和性及び配列特異性を発揮し、所望の生物的活性又は化学的活性を発現し得ることが明らかになっている。
【0048】
従って、オリゴヌクレオチドライブラリーLを、基本配列7merの核酸アナログの全ての組み合わせである16384(4の7乗)通りのオリゴヌクレオチドプールから構成すれば、あらゆる配列のヌクレオチド鎖に対して特異的に結合し得る8mer又は9merのオリゴヌクレオチドが、いずれかのオリゴヌクレオチドプールに必ず含まれるようなオリゴヌクレオチドライブラリーを構築できる。
【0049】
2.オリゴヌクレオチドのスクリーニング方法
次に、本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法について説明する。このスクリーニング方法は、上記のオリゴヌクレオチドライブラリーLを用いて、所望の生物的活性又は化学的活性を示すオリゴヌクレオチドを取得するものである。
【0050】
図3は、本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法の手順を示すフローチャートである。
【0051】
(2−1)基本配列の合成
図3中、符号Sは、任意の核酸アナログからなる7merの基本配列を準備する手順である。
【0052】
基本配列は、従来の公知の手法を用い、核酸アナログを結合することによって合成できる。基本配列の合成は、例えば、公知のDNAシンセサイザーを用いて行う。合成された基本配列は、逆相カラムを用いて精製した後、逆相HPLCやMALDI−TOF−MSで分析することによって確認できる。また、基本配列は、オリゴヌクレオチドの受託合成サービスを利用して入手することもできる。
【0053】
基本配列は、互いに異なる配列とされた二以上を準備する。好適には、基本配列は、7merの核酸アナログの全ての組み合わせである16384(4の7乗)通りを準備する。次に説明する手順Sにおいて、16384通りの基本配列を用いて、16384通りのオリゴヌクレオチドプールを調製することにより、理論的に、あらゆる配列のヌクレオチド鎖に対して特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドを用意できる。
【0054】
(2−2)オリゴヌクレオチドプールの調製
図3中、符号Sは、手順Sで準備した基本配列にそれぞれ核酸アナログ又は核酸を1つ又は2つ結合して、オリゴヌクレオチドプールを調製する手順である。
【0055】
具体的には、オリゴヌクレオチドライブラリーLを、7merの基本配列に核酸アナログ又は核酸を1つ結合したオリゴヌクレオチドによって構成する場合、例えば、プール1〜プール(K−1)に含まれるオリゴヌクレオチドの基本配列1〜K−1と異なる配列とされた基本配列K「NNNNNNN」の3´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合する。これにより、オリゴヌクレオチドK1,K2,K3,K4の4種類のオリゴヌクレオチドを合成し、オリゴヌクレオチドプールK(Kは2以上16384以下の整数)を調製する(図1参照)。
【0056】
また、オリゴヌクレオチドライブラリーLを、7merの基本配列に核酸アナログ又は核酸を2つ結合したオリゴヌクレオチドによって構成する場合、例えば、プール1〜プール(K−1)に含まれるオリゴヌクレオチドの基本配列1〜K−1と異なる配列とされた基本配列K「NNNNNNN」の5´末端及び3´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合する。これにより、オリゴヌクレオチドK01〜K16の16種類のオリゴヌクレオチドを合成し、オリゴヌクレオチドプールK(Kは2以上16384以下の整数)を調製する(図2参照)。
【0057】
オリゴヌクレオチドプールは、互いに異なる配列とされた二以上の基本配列から2以上のプールを準備する。好適には、オリゴヌクレオチドプールは、7merの核酸アナログの全ての組み合わせである16384(4の7乗)通りのプールを調製する。16384通りのオリゴヌクレオチドプールを調製することにより、あらゆる配列のヌクレオチド鎖に対して特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドが必ずいずれかのプールに含まれているオリゴヌクレオチドライブラリーLを調製できる。
【0058】
(2−3)オリゴヌクレオチドプールの同定
図3中、符号Sは、オリゴヌクレオチドライブラリーLを構成するオリゴヌクレオチドプールの中から、所望の生物的活性又は化学的活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定する手順である。
【0059】
各オリゴヌクレオチドプールには、4種類又は16種類のオリゴヌクレオチドが含まれている。本手順では、オリゴヌクレオチドプールの一つひとつについて、その存在下及び非存在下において各種のアッセイを行うことにより、所望の活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプール(目的オリゴヌクレオチドプール)を同定する。
【0060】
ここで、オリゴヌクレオチドの「生物的活性又は化学的活性」とは、実験により定量可能な生物量を意味し、具体的には例えば以下のようなオリゴヌクレオチドの活性を意味するものとする。
【0061】
(1)アンチセンス活性
標的遺伝子のmRNAに相補的に結合し、mRNAへの翻訳因子複合体の結合を阻害する活性、あるいは、mRNAへの翻訳因子複合体の結合を阻害することによって、mRNAのタンパク質への翻訳を阻害し、標的遺伝子産物の発現を抑制する活性。
【0062】
この活性は、翻訳因子複合体以外のmRNA結合タンパク質のmRNAへの結合を阻害する活性、あるいは、mRNA結合タンパク質のmRNAへの結合を阻害することによって、結果として標的遺伝子産物の発現を減少又は上昇させる活性であってもよい。一例として、シスエレメント結合因子のmRNAへの結合を阻害することによって、mRNAを安定化し、標的遺伝子産物の発現を上昇させる活性が挙げられる。さらに、このアンチセンス活性は、micro-RNA(miRNA)等のノンコーディングRNAに相補的に結合し、その機能を阻害又は亢進する活性であってもよい。
【0063】
以下に、「シスエレメント結合因子」について簡単に説明する。「シスエレメント結合因子」は、DNA及びRNAの5´及び3´非翻訳領域に存在する「シスエレメント(cis-element)」と呼ばれる特定配列に結合する。シスエレメントは、そのDNA鎖又はRNA鎖にコードされる遺伝子の発現制御に関与している。シスエレメント結合因子は、シスエレメントに結合して遺伝子の発現を正負に制御する「trans-acting factor」として機能している。
【0064】
mRNAに存在するシスエレメント及びこのシスエレメントに結合するシスエレメント結合因子は、mRNAの安定性やタンパクへの翻訳量を主として負に制御している(“AU-rich elements and associated factors: are there unifying principles?” Nucleic Acids Research, 2005, Vol.33, No.22, p.7138-7150、“AU-rich element-mediated translational control: complexity and multiple activities of trans-activating factors.” Biochemical Society Transactions, 2002, Vol.30, part 6, p.952-958.参照)。代表的なmRNAシスエレメントの一つに、「AUリッチエレメント(AU-Rich Element; ARE)」がある。AREは、アデノシンとウリジンに富む10〜150bps程度の塩基配列であり、mRNAの3´非翻訳領域(3´UTR)に多く存在する。AREは、当初、サイトカインやリンフォカインの3´UTRにおいて「AUUUA」の塩基配列が頻繁に重複して存在する領域として見つかった。AREは、現在では全遺伝子の5〜8%に存在すると推定されており、ホメオスタシスの維持に関与する多くの遺伝子にAREが存在しているものと考えられている(“ARED: human AU-rich element-containing mRNA database reveals an unexpectedly diverse functional repertoire of encoded proteins.” Nucleic Acids Research, 2001, Vol.29, No.1, p.246-254.参照)。
【0065】
(2)デコイ活性
転写因子におとりとして結合し、転写因子がゲノム上の転写制御領域へ結合するのを阻害する活性、あるいは、転写因子がゲノム上の転写制御領域へ結合するのを阻害することによって、標的遺伝子mRNAの転写を阻害し、標的遺伝子産物の発現を抑制する活性。ゲノム上に存在するTATAボックス、CATボックス、Sp1等のプロモーターやエンハンサーなどの転写制御領域は、DNAに存在するシスエレメントである。
【0066】
この活性は、転写因子以外のDNA結合タンパク質又はRNA結合タンパク質におとりとして結合する活性、あるいは、DNA結合タンパク質又はRNA結合タンパク質におとりとして結合することによって、結果として標的遺伝子産物の発現を減少又は上昇させる活性であってもよい。一例として、シスエレメント結合因子におとりとして結合し、mRNAへのシスエレメント結合因子の結合を阻害することによって、mRNAを安定化し、標的遺伝子産物の発現を上昇させる活性が挙げられる。
【0067】
(3)アプタマー活性
オリゴヌクレオチドが作る立体構造によって、特定の分子に特異的に結合し、その分子の機能を阻害または亢進する活性。これまでに、増殖因子や酵素、受容体、膜タンパク質、ウイルスタンパク質などに対し、アプタマー活性を示すオリゴヌクレオチドが知られている。
【0068】
オリゴヌクレオチドの生物的活性又は化学的活性は、各オリゴヌクレオチドプールの存在下及び非存在下において各種のアッセイを行うことにより評価することができる。
【0069】
例えば、オリゴヌクレオチドの活性として、標的遺伝子のmRNAに相補的に結合し、mRNAへの翻訳因子複合体の結合を阻害する活性を評価する場合は、次のようなアッセイを行う。まず、各オリゴヌクレオチドプールの存在下で、標的遺伝子のmRNAとこのmRNAに結合するmRNA結合タンパク質(ここでは、翻訳因子)とを接触させ、mRNAとmRNA結合タンパク質との結合量を測定する。また、各オリゴヌクレオチドプールの非存在下で、標的mRNAとこのmRNAに結合するmRNA結合タンパク質とを接触させ、mRNAとmRNA結合タンパク質との結合量を測定しておく。そして、オリゴヌクレオチドプールの存在下での結合量と非存在下での結合量とを比較して、mRNAとmRNA結合タンパク質との結合を阻害する活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定する。mRNAとmRNA結合タンパク質との結合量は、例えば、mRNAベイトを用いたプルダウンアッセイにより評価することができる。
【0070】
このアッセイにより、標的遺伝子のmRNAに相補的に結合し、mRNAへの翻訳因子複合体の結合を阻害する活性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチドが含まれる目的オリゴヌクレオチドプールを同定することができる。
【0071】
また、例えば、オリゴヌクレオチドの活性として、DNA結合タンパク質又はRNA結合タンパク質におとりとして結合することによって、結果として標的遺伝子産物の発現を上昇させる活性を評価する場合は、次のようなアッセイを行う。まず、各オリゴヌクレオチドプールを導入した細胞について目的タンパク質の発現量を測定する。また、各オリゴヌクレオチドプールを導入していない細胞についてタンパク質の発現量を測定する。そして、オリゴヌクレオチドプールを導入した細胞の発現量と導入していない細胞の発現量とを比較して、標的遺伝子産物の発現を上昇させる活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定する。目的タンパク質の発現量は、例えば、ウェスタンブロットに評価することができる。
【0072】
このアッセイにより、DNA又はRNA結合タンパク質におとりとして結合し、標的遺伝子産物の発現を上昇させる活性を有するデコイオリゴヌクレオチドが含まれる目的オリゴヌクレオチドプールを同定することができる。
【0073】
アッセイは、オリゴヌクレオチドライブラリーLを構成する二以上のオリゴヌクレオチドプールのそれぞれについて行う。この際、16384通りのオリゴヌクレオチドプールを調製し、あらゆる配列のヌクレオチド鎖に対して特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドが必ずいずれかのプールに含まれているオリゴヌクレオチドライブラリーLを調製しておくことにより、所望の活性を示すオリゴヌクレオチドプールを一つ以上同定することができる。
【0074】
(2−4)オリゴヌクレオチドの取得
図3中、符号Sは、手順Sで同定されたオリゴヌクレオチドプールの中から、所望の生物的活性又は化学的活性を示すオリゴヌクレオチドを取得する手順である。
【0075】
手順Sで同定されたオリゴヌクレオチドプールには、4種類又は16種類のオリゴヌクレオチドが含まれている。本手順では、これらのオリゴヌクレオチドの中から所望の活性を示すオリゴヌクレオチド(目的オリゴヌクレオチド)を同定する。
【0076】
目的オリゴヌクレオチドは、手順Sで説明した方法と同様にして合成した4種類又は16種類のオリゴヌクレオチドのそれぞれについて、手順Sで説明した方法と同様にして各種アッセイを行うことにより同定できる。
【0077】
本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法では、手順Sで目的オリゴヌクレオチドプールの同定を行い、さらに本手順で目的オリゴヌクレオチドプールの中から目的オリゴヌクレオチドを同定するという二段階のスクリーニング手順を行う。これにより、本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法では、所望の活性を示すオリゴヌクレオチドを効率良く取得することができる。
【0078】
本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法では、16384通りのオリゴヌクレオチドプールを調製することにより、あらゆる配列のヌクレオチド鎖に対して特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドがいずれか一以上のオリゴヌクレオチドプールに必ず含まれるようにすることができるため、ターゲット配列を特定できないような標的遺伝子についても、アンチセンス活性やデコイ活性等を示すオリゴヌクレオチドを得ることが可能である。
【0079】
なお、本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法において、オリゴヌクレオチドプールは必ずしも16384通りを準備する必要はない。オリゴヌクレオチドプールの数は多いほど、スクリーニングによって目的オリゴヌクレオチドを取得できる確度が高まるが、最少二以上のオリゴヌクレオチドプールを用いればスクリーニングの実施が可能である。
【0080】
3.オリゴヌクレオチド
本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法によって取得されたオリゴヌクレオチドは、上述のアンチセンス活性やデコイ活性等の所望の生物学的活性又は化学的活性を示す。従って、このオリゴヌクレオチドは、例えば、核酸医薬としての開発が可能である。
【0081】
具体的には、アンチセンス活性やデコイ活性を示すオリゴヌクレオチドは、所定の標的遺伝子の発現を増強又は抑制するための核酸医薬として利用することができる。LNAにより合成されたオリゴヌクレオチドは高い耐熱性と優れたヌクレアーゼ耐性を備えるため、取得されたオリゴヌクレオチドは核酸医薬として用いる際に高い安定性を示す。
【0082】
例えば、取得されたオリゴヌクレオチドを用いて標的遺伝子の発現を制御する場合、オリゴヌクレオチドを細胞培養液に添加し細胞内へ取り込ませることによって、細胞内の標的遺伝子mRNAに結合させる。あるいは、取得されたオリゴヌクレオチドをリポフェクションやマイクロインジェクションによって細胞内へ導入することにより、細胞内の標的遺伝子mRNAに結合させる。また、遺伝子発現の制御対象が生体臓器又は生体である場合には、経口経路、直腸経路、鼻腔経路、血管経路などの投与経路によって、又は対象臓器への直接局所投与によって、オリゴヌクレオチドを生体内又は生体臓器内へ導入し、細胞内へ取り込ませる。
【0083】
核酸医薬としての開発のため、取得されたオリゴヌクレオチドの塩基配列や長さ、リボースの化学構造又はホスホジエステル結合の化学構造等は、適宜変更され最適化され得る。塩基配列等の最適化によって、より高い活性を示すオリゴヌクレオチド、あるいは毒性や副作用がより低いオリゴヌクレオチドの開発が可能となる。
【0084】
さらに、オリゴヌクレオチドを発現可能なベクターをトランスフェクトすることによって、オリゴヌクレオチドを細胞内で発現させ、標的遺伝子mRNAに結合させることもできる。ベクターには、大腸菌由来や枯草菌由来、酵母由来のプラスミドや、バクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物ウイルス又はこれらをリポソームと融合させたものなどが用いることができる。発現ベクターの構築は、公知の遺伝子工学的手法により行うことができる。
【0085】
オリゴヌクレオチド若しくはこれを発現可能な発現ベクターは、薬学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって核酸医薬として製造できる。この医薬組成物は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液又は懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。
【0086】
本発明者らは、実施例において詳しく後述するように、塩基配列「CGGAAACA」によって示されるオリゴヌクレオチドが腫瘍壊死因子α(Tumor Necrosis Factor α:TNF‐α) mRNAと、このmRNAに結合することが知られている転写因子RC3H1との結合を阻害する活性を示すことを見出した。
【0087】
従って、このオリゴヌクレオチド若しくはこのオリゴヌクレオチドを発現可能な発現ベクターは、TNF‐αの発現を調整するために利用でき、免疫活性化剤や抗癌剤として用いられ得る。
【0088】
また、塩基配列「ATGAATAAA」によって示されるオリゴヌクレオチドが低密度リポタンパク質受容体(Low- Density Lipoprotein Receptor:LDLR)の発現を上昇させる活性を示すことも見出した。
【0089】
従って、このオリゴヌクレオチド、若しくはこのオリゴヌクレオチドを発現可能な発現ベクターは、LDLR発現増強剤として使用することができる。
【0090】
LDLRは、レセプターを介したエンドサイトーシスによって血漿中のLDLコレステロールを細胞内に取り込む機能を有している。特に、肝臓に発現するLDLRによるLDLコレステロールの細胞内取り込みは、血漿LDLコレステロールのクリアランスに重要な役割を果たしている。LDLコレステロールは、肝臓から末梢組織へのコレステロール運搬を担っている。しかし、血中のLDLコレステロールが正常値を超えて増加した高脂血症の状態では、LDLコレステロールは血管内壁への沈着によって血管傷害を引き起こし、動脈硬化や高血圧症、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症の原因となる。
【0091】
上記オリゴヌクレオチドはLDLRの発現を増強することが可能であるため、このオリゴヌクレオチド等を有効成分とする医薬組成物によれば、特に肝臓へ適用してLDLR発現を増強させることで、血漿LDLコレステロールのクリアランスを高め、高脂血症及び高脂血症関連疾患を予防、改善又は治療することが可能となる。なお、ここでいう「予防」には、疾患を罹患する前段階の予防だけではなく、疾患治療後の再発に対する予防も含まれるものとする。また、高脂血症関連疾患としては、上記の動脈硬化や高血圧症、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症に加え、糖尿病や肥満症、癌が含まれるが、この他の疾患への適用を除外するものではない。
【0092】
LDLRに関しては、その遺伝子多型がアルツハイマー病の発症リスクに関係していることが報告されている(”Function of beta-amyloid in cholesterol transport: a lead to neurotoxicity.” FASEB J., 2002, Oct;16(12):1677-9. Epub 2002 Aug 21.参照)。また、コレステロールレベルの上昇がアルツハイマー病の病態に関与していることも示唆されている(”Genetic study evaluating LDLR polymorphisms and Alzheimer's disease.” Neurobiol Aging., 2008, Jun;29(6):848-55. Epub 2007 Jan 18.参照)。
【0093】
これらのことから、上記オリゴヌクレオチド等を有効成分とする医薬組成物は、LDLRの発現を増強し、血漿LDLコレステロールのレベルをコントロールすることで、アルツハイマー病を予防、改善又は治療に適用できる可能性もある。
【実施例】
【0094】
<実施例1>
1.TNF−α mRNAと転写因子RC3H1との結合阻害活性を有するオリゴヌクレオチドのスクリーニング
本発明に係るスクリーニング方法を用いて、本発明者らにより腫瘍壊死因子α(Tumor Necrosis Factor α:TNF‐α)mRNAに結合することが明らかにされた転写因子RC3H1と、TNF‐α mRNAと、の結合を阻害する活性を示すオリゴヌクレオチドの取得を試みた。
【0095】
(1)基本配列の合成
株式会社ジーンデザインのBNA合成サービスを利用して、以下の2種類の異なる配列の基本配列を有するオリゴヌクレオチドを合成した。
【0096】
【表1】

【0097】
(2)オリゴヌクレオチドプールの調製
基本配列1,2の5´末端及び3´末端にそれぞれA,G,T,Cのいずれかを結合したオリゴヌクレオチド16種類をオリゴヌクレオチドプール1N及び2Nとした。また、基本配列1,2の5´末端及び3´末端にそれぞれa,g,t,cのいずれかを結合したオリゴヌクレオチド16種類をオリゴヌクレオチドプール1n及び2nとした。ここで、「A」はアデニンアナログ、「G」はグアニンアナログ、「T」チミンアナログ、「C」はシトシンアナログを示し、「a」はアデニン、「g」はグアニン、「t」チミン、「c」はシトシンを表す。また、「N」はアデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログを示し、「n」はアデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸を表す。
【0098】
【表2】

【0099】
(3)オリゴヌクレオチドプールの同定
オリゴヌクレオチドプール1N,1n,2N,2nの中から、TNF‐α mRNAとRC3H1との結合を阻害する活性を示すオリゴヌクレオチドプールを同定した。
【0100】
TNF-α mRNAをin vitro translationにより合成した。5´末端にT7 promoter 配列を持つプライマーを用いてPCRによりTNF-α mRNA (GenBank Accession No.NM_000594.2、配列番号1)の5´側末端から869-1652番目の塩基配列を増幅し、MEGAscript T7 キット (Ambion)を用い、添付プロトコールに従ってRNAの合成を行った。合成されたTNF-α mRNAの3´末端にFlag-hydrazideを共有結合させる反応を行い、TNF-α mRNAの3´末端をFlag標識した。標識mRNAをQiagen社のRNeasy Mini Kitを用いて精製した。なお、mRNAのFlag標識は、公知の手法(”Programmable ribozymes for mischarging tRNA with nonnatural amino acids and their applications to translation.” Methods, 2005, Vol,36, No.3, p.239-244参照)に従って行った。
【0101】
精製後のFlag標識TNF-α mRNA(以下「TNF-α mRNA-Flag」という)を、293T細胞から抽出した細胞抽出タンパクと混合し、オリゴヌクレオチドプール1N,1n,2N又は2nを各オリゴヌクレオチドの終濃度が100nMとなるように添加して反応を行った。免疫沈降後、溶出させた試料について、抗RC3H1抗体(Bethyl Laboratories)を用いてウエスタンブロッティングを行った。
【0102】
ウェスタンブロットの結果を「図4」に示す。細胞抽出タンパクを10pmolの TNF-α mRNA-Flag及びオリゴヌクレオチドプール1N又は1nと混合し、抗Flag抗体で免疫沈降させて得た試料(レーン3、4)では、RC3H1が検出された。レーン1には細胞抽出タンパクそのものを、レーン2には細胞抽出タンパクを10pmolの TNF-α mRNA-Flag及びオリゴヌクレオチドの溶媒(水)と混合し、抗Flag抗体で免疫沈降させて得た試料を流している。
【0103】
これに対して、細胞抽出タンパクを10pmolの TNF-α mRNA-Flag及びオリゴヌクレオチドプール2N又は2nと混合し、抗Flag抗体で免疫沈降させて得た試料(レーン5、6)では、RC3H1が検出されず、TNF-α mRNA-FlagへのRC3H1の結合が阻害されていることが明らかになった。
【0104】
(4)オリゴヌクレオチドの取得
オリゴヌクレオチドプール2N,2nの中から、TNF‐α mRNAとRC3H1との結合を阻害する活性を示すオリゴヌクレオチドを取得した。
【0105】
オリゴヌクレオチドプール2N又は2nを構成する16種類のオリゴヌクレオチドについて、上記と同様の手順により、免疫沈降とウェスタンブロットを行った。
【0106】
その結果、オリゴヌクレオチドプール2N,2nのそれぞれから、TNF‐α mRNAとRC3H1との結合阻害活性を示すオリゴヌクレオチドとして以下のオリゴヌクレオチド2N1,2n1が得られた。
【0107】
【表3】

【0108】
本実施例では、オリゴヌクレオチドライブラリーを、最小数のオリゴヌクレオチドプール数である2(オリゴヌクレオチドプール1N及び2N、又は、オリゴヌクレオチドプール1n及び2n)として、スクリーニングの各工程を行った。その結果、目的のTNF‐αmRNAとRC3H1との結合阻害活性を示すオリゴヌクレオチドとして「表3」に示したオリゴヌクレオチドが得られた。
【0109】
この結果から、核酸アナログ7merの基本配列に2つの核酸アナログ又は核酸を結合した9merオリゴヌクレオチドが、所望の活性(ここでは、TNF‐α mRNAとRC3H1との結合阻害活性)を発揮し得ることが明らかにされた。そして、この結果は、7merの核酸アナログの全ての組み合わせである16384(4の7乗)通りのオリゴヌクレオチドプールを調製することにより、あらゆる配列のヌクレオチド鎖に対して特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドが必ず含まれるようなオリゴヌクレオチドライブラリーを構築できることを示しており、このライブラリーを用いればターゲット配列を特定できないような標的遺伝子についても、アンチセンス活性やデコイ活性等の所望の活性を示すオリゴヌクレオチドを得られることを示している。
【0110】
<実施例2>
2.ZFP36L1のLDLR mRNAへの結合を阻害し、LDLRの発現を上昇させる活性を有するオリゴヌクレオチドのスクリーニング
本実施例では、核酸アナログ7merの基本配列に2つの核酸アナログ又は核酸を結合した9merオリゴヌクレオチドが、低密度リポタンパク質受容体(Low- Density Lipoprotein Receptor:LDLR)の発現を上昇させる活性を示すことを明らかにした。
【0111】
(1)基本配列の合成
株式会社ジーンデザインのBNA合成サービスを利用して、以下の配列の基本配列を有するオリゴヌクレオチドを合成した。
【0112】
【表4】

【0113】
(2)オリゴヌクレオチドプールの調製
基本配列3の5´末端及び3´末端にそれぞれA,G,T,Cを結合したオリゴヌクレオチド16種類をオリゴヌクレオチドプール3Nとした。また、基本配列3の5´末端及び3´末端にそれぞれa,g,t,cを結合したオリゴヌクレオチド16種類をオリゴヌクレオチドプール3nとした。
【0114】
【表5】

【0115】
(3)オリゴヌクレオチドプールの活性評価
オリゴヌクレオチドプール3N,3nがLDLRの発現を上昇させる活性を有するかについて評価を行った。
【0116】
Hela細胞を、12-well プレートに1×105 cells / wellで播種し、10%FBS 含有DMEM培地を用いて培養した。培養24時間後、オリゴヌクレオチドプール3N又は3nをリポフェクション(Darmafect 4, Thermo Scientific)によって細胞にトランスフェクトした。オリゴヌクレオチドプール3N,3nは、各オリゴヌクレオチドの終濃度が40nMとなるように希釈して用いた。
【0117】
トランスフェクション24時間後の細胞を回収し、定法によりタンパク抽出を行った。抽出したタンパク5μgをSDS-PAGEにより分離し、メンブレンにブロットした。定法によりウェスタンブロットを行い、LDLRの発現量を評価した。抗LDLR抗体には、Abcam社の抗体(Cat.No.ab52818)を使用した。
【0118】
ウェスタンブロットの結果を「図5」に示す。オリゴヌクレオチドプールのトランスフェクトを行わなかった細胞(レーン1)に比べ、オリゴヌクレオチドプール3N,3nをトランスフェクトした細胞(レーン2,3)では、LDLR発現量の増加が確認された。なお、発現量評価の内部標準には、β-actinを用いた。β-actinの発現量は、トランフェクトの有無によらず、有意な発現量の変化は認められなかった。
【0119】
(4)オリゴヌクレオチドの取得
オリゴヌクレオチドプール3N,3nの中から、LDLRの発現を上昇させる活性を示すオリゴヌクレオチドを取得した。
【0120】
オリゴヌクレオチドプール3N又は3nを構成する16種類のオリゴヌクレオチドについて、上記と同様の手順により、トランスフェクションとウェスタンブロットを行った。
【0121】
その結果、オリゴヌクレオチドプール3N,3nのそれぞれから、LDLRの発現上昇活性を示すオリゴヌクレオチドとして以下のオリゴヌクレオチド3N1,3n1が得られた。
【0122】
【表6】

【0123】
<実施例3>
3.オリゴヌクレオチドの作用機序の解析
本実施例では、実施例2で得られたオリゴヌクレオチド3N1,3n1がLDLRの発現を上昇させるメカニズムについて検討を行った。オリゴヌクレオチド3N1,3n1の作用機序としては、オリゴヌクレオチド3N1,3n1がmRNA結合タンパク質のmRNAへの結合を阻害することによって、結果として標的遺伝子産物の発現を減少又は上昇させていることが考えられる。そこで、本実施例では、LDLR mRNAに結合するmRNA結合タンパク質を同定し、オリゴヌクレオチド3N1,3n1がこのmRNA結合タンパク質のLDLRmRNAへの結合を阻害することを明らかにした。
【0124】
(1)LDLR mRNAに結合するmRNA結合タンパク質の同定
はじめに、LDLR mRNAに結合するmRNA結合タンパク質を同定することを目的として、LDLR mRNA をベイトとした免疫沈降とマススペクトロメーターを用いたプロテオーム解析による網羅的解析を行った。
【0125】
実施例1で説明した方法に従って、LDLR mRNAをin vitro translationにより合成した。5´末端にT7 promoter 配列を持つプライマーを用いてPCRによりLDLR mRNA (配列番号2、GenBank Accession No.NM_000527)の2677-3585bp領域の増幅を行い、MEGAscript T7 キット (Cat.No.1333, Ambion)を用いてRNAの合成を行った。合成されたLDLR mRNAの3´末端にFlag-hydrazideを共有結合させる反応を行い、LDLR mRNAの3´末端をFlag標識した。標識mRNAをQiagen社のRNeasy Mini Kit(Cat.No.74106)を用いて精製した。
【0126】
精製後のFlag標識LDLR mRNA 10pmolを抗Flag抗体ビーズ(Cat.No.F2426, Sigma)と混合、4℃で1時間反応を行った。その後、10%FBS 含有DMEM培地で培養した293T細胞から抽出した細胞抽出タンパク3mgを加えさらに、4℃で1時間反応を行った。非結合タンパク質を洗い流した後、RNA及びRNA結合タンパク質をFlagペプチドで溶出させた。溶出させて得た試料を、リジルエンドペプチダーゼ処理し、公知の手法であるLC-MS/MS法を用い(”A direct nanoflowliquid chromatography-tandem mass spectrometry system for interaction proteomics.” Analytical Chemistry, 2002, Vol.74, No.18, p.4725-4733参照)に従って、解析を行った。マススペクトロメーターには、QSTAR XL(アプライドバイオシステム)を用いた。
【0127】
LC-MS/MSにより「ZFP36L1」及び「ZFP36L2」が同定された。ZFP36L1及びZFP36L2は、ZFP36(別名TTP)とともにARE結合因子の1ファミリー(以下、「ZFP36ファミリー」という)を形成している。ZFP36ファミリーは、AREに結合してmRNAを不安定化し、分解促進に機能していることが報告されている(”Tristetraprolin and its family members can promote the cell-free deadenylation of AU-rich element-containing mRNAs by poly(A) ribonuclease.” Molecular Cell Biology, 2003, Vol.23, No.11, p.3798-812参照)。
【0128】
(2)オリゴヌクレオチド3N1,3n1による結合阻害実験
次に、オリゴヌクレオチド3N1,3n1が、ZFP36L1及びZFP36L2のLDLR mRNAへの結合を阻害し得るかについて検討を行った。
【0129】
LDLR mRNAのmRNAをin vitro translationにより合成し、Flagペプチドによる標識を行った。3´UTRには、LDLR mRNA(配列番号2参照)のうち、5´側末端から2677-3585bpsを用いた。
【0130】
精製後のFlag標識LDLR mRNA(以下「LDLR mRNA -Flag」という)を、293T細胞から抽出した細胞抽出タンパクと混合し、さらにオリゴヌクレオチド3N1又は3n1を終濃度100nMで加えて反応を行った。免疫沈降後、溶出させた試料について、抗ZFP36L1抗体(Cell signaling)を用いてウエスタンブロッティングを行った。
【0131】
ウェスタンブロットの結果を「図6」に示す。ZFP36L1/ ZFP36L2が含まれる細胞抽出タンパクをLDLR mRNA-Flagと混合し、抗Flag抗体で免疫沈降させて得た試料(レーン2)では、ZFP36L1が検出された。なお、レーン1には細胞抽出タンパクそのものを流している。
【0132】
このことは、ZFP36L1がLDLR mRNA-Flag に結合し得ることを示すものである。なお、図示は省略するが、ZFP36L2についても同様の結果が得られている(以下、本実施例について同じ)。
【0133】
オリゴヌクレオチド3N1又は3n1の存在下で、細胞抽出タンパクとLDLR mRNA-Flagとを反応させたレーン3,4では、ZFP36L1の検出シグナルは顕著に低下した。レーン8-13における検出バンドの強度は、レーン2に示したActin 3´UTR-Flagとの反応により得られた検出バンドの強度と同程度以下であった。一方、コントロールLNA4,5を加えて反応を行ったレーン4-7では、ZFP36L1及びZFP36L2の検出シグナルの低下は認められなかった。
【0134】
このことから、オリゴヌクレオチド3N1,3n1が、ZFP36L1及びZFP36L2のLDLR mRNAへの結合を顕著に阻害し得ることが明らかになった。
【0135】
本実施例の結果は、核酸アナログ7merの基本配列に2つの核酸アナログ又は核酸を結合した9merオリゴヌクレオチドが、所望の活性(ここでは、ZFP36L1及びZFP36L2のLDLR mRNAへの結合を阻害することによって、結果としてLDLRの発現を上昇させる活性)を発揮し得ることを明らかにするものである。
【0136】
ZFP36ファミリーは、AREに結合してmRNAを不安定化し、分解促進に機能していることが報告されている。従って、本実施例の結果から、オリゴヌクレオチド3N1,3n1が、ZFP36L1及びZFP36L2のLDLR mRNAへの結合を阻害することによって、ZFP36L1及びZFP36L2のmRNA分解促進機能を阻害して、LDLR mRNAを安定化し翻訳を促進することで、LDLR mRNAの発現を上昇させていることが強く示唆された。そして、このことは、生体内においてLDLR mRNAの発現制御機構にZFP36L1及びZFP36L2が関与していることを初めて明らかにする点で大変意義深いものである。このように、本発明に係るオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法は、取得されたオリゴヌクレオチドを端緒として、生体内における新たな制御機構を解明するためにも寄与し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の核酸アナログからなる7merの基本配列に、アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、を1つ又は2つ結合したオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを、各オリゴヌクレオチドプール間で前記基本配列が互いに異なるようして、二以上準備する手順と、
オリゴヌクレオチドプールの中から、目的オリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定する手順と、
を含む、オリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項2】
前記基本配列の5´末端又は3´末端のいずれかに、
アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、
アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、をそれぞれ結合した4種類のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを二以上準備する請求項1記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項3】
前記基本配列の5´末端及び3´末端に、
アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、
アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、をそれぞれ結合した16種類のオリゴヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドプールを二以上準備する請求項1記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項4】
7つの核酸アナログの全ての組み合わせからなる16384通りの基本配列を準備する手順を含む請求項1〜3記載のいずれか一項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項5】
前記核酸アナログは、オリゴヌクレオチドの配列中に少なくとも1つ含まれることにより、核酸のみからなるオリゴヌクレオチドに比較して、オリゴヌクレオチドの相補鎖に対する結合親和性を増大させるものである請求項4記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項6】
前記核酸アナログとして、ブリッジド核酸又はロックト核酸を用いる請求項5記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチドプールの存在下及び非存在下で、mRNAとこのmRNAに結合するmRNA結合タンパク質とを接触させ、mRNAとmRNA結合タンパク質との結合量を測定することにより、mRNAとmRNA結合タンパク質との結合を阻害する活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定する請求項1記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項8】
前記mRNAは腫瘍壊死因子α mRNAであり、前記mRNA結合タンパク質がRC3H1である請求項7記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項9】
前記オリゴヌクレオチドプールを導入した細胞及び導入していない細胞についてタンパク質の発現量を測定することにより、該タンパク質の発現を増強する活性を示すオリゴヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドプールを同定する請求項1記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項10】
前記タンパク質は低密度リポタンパク質受容体である請求項9記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項11】
同定されたオリゴヌクレオチドプールの中から目的オリゴヌクレオチドを取得する手順を含む請求項1記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法。
【請求項12】
請求項1記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法に供されるオリゴヌクレオチドライブラリーであって、
任意の核酸アナログからなる7merの基本配列に、アデニンアナログ、グアニンアナログ、チミンアナログ又はシトシンアナログから選択されるいずれか一の核酸アナログ、又は、アデニン、グアニン、チミン又はシトシンから選択されるいずれか一の核酸、を1つ又は2つ結合したオリゴヌクレオチドからなる二以上のオリゴヌクレオチドプールから構成され、
各オリゴヌクレオチドプール間で前記基本配列が互いに異なるようにされたオリゴヌクレオチドライブラリー。
【請求項13】
前記基本配列が、7つの核酸アナログの全ての組み合わせからなる16384通りとされている請求項12記載のオリゴヌクレオチドライブラリー。
【請求項14】
請求項8記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法によって得られた塩基配列CGGAAACAで示されるアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
塩基配列CGGAAACAで示されるオリゴヌクレオチド、又は該オリゴヌクレオチドを発現可能な発現ベクターを含有する腫瘍壊死因子α発現調節剤。
【請求項16】
請求項10記載のオリゴヌクレオチドのスクリーニング方法によって得られた塩基配列ATGAATAAAで示されるアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項17】
塩基配列ATGAATAAAで示されるオリゴヌクレオチド、又は該オリゴヌクレオチドを発現可能な発現ベクターを含有する低密度リポタンパク質受容体発現増強剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−24434(P2011−24434A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170891(P2009−170891)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(509207298)株式会社Galaxy Pharma (1)
【Fターム(参考)】