説明

オレフィンの製造方法

本発明は石油由来飽和炭化水素からオレフィンを製造する方法を開示する。本発明の方法は、予備加熱した石油由来飽和炭化水素である供給原料を、反応システムの脱水素反応ゾーンにおいて脱水素触媒に接触させ、不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームを得る、上記脱水素反応の変換率が少なくとも20%であるステップと、上記不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームを、上記反応システムのオレフィンクラッキングゾーンにおいてオレフィン分解触媒に接触させ、炭素原子数が減少したオレフィンを含んだ生成物ストリームを得るステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油由来飽和炭化水素からオレフィンを製造する方法に関し、特に炭素数4〜35の飽和炭化水素の混合物を原料として使用することによって、低級オレフィン、特にエチレンおよびプロピレンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチームクラッキング法は、石油由来飽和炭化水素から、例えばエチレン、プロピレン、ブタジエンなどの低級オレフィンを製造するために最も広く使用されている。世界中の約99%のエチレン、および50%を超えるプロピレンが、この方法によって製造されている。スチームクラッキング法の稼動条件は非常に厳しい。例えば分解炉の最高TMT(tube metal temperature)は1125℃に達し、供給原料の放射部の管におけるバルク滞留時間は0.2秒以下になることがある。一方でスチームクラッキングによる生成物は、水素、アルカン、アルケン、ジエン、および炭素数が40まであるいはそれ以上に達するアレーンを含んでおり、特に約15mol%の水素およびメタンを含んでいるので、スチームクラッキングによる生成物に対して圧縮、複雑な熱交換、および精製の処理だけでなく、−160℃以下での低温分離の処理をも行なう必要がある。
【0003】
この状況をふまえて、接触分解、メタンの酸化カップリング、およびメタノールを介して天然ガスからオレフィンを製造するなど、他の方法によって低級オレフィンを製造するために多くの試みがなされてきた。これらの方法のうち、石油由来飽和炭化水素から低級オレフィンを製造するための接触分解法が、比較的低いクラッキング温度により実施可能であり、所望の生成物(低級オレフィン)の選択性向上が可能なため、注目を集めている。
【0004】
石油由来飽和炭化水素を接触分解する方法は、固定層式接触分解法、流動層式接触分解法などを含めた様々な方法により実施できる。現在、流動層式接触分解法(fluidized bed catalytic cracking method; FCC技術)は、主に重油に対して適用され、主生成物として軽油を、副産物として低級炭化水素(主にプロピレン)を製造している(例えば、中国特許第02129551号明細書、中国特許出願公開第1380898号明細書を参照)。一方、固定層式接触分解法は、主にナフサなどの軽い供給原料に対して適用され、この方法によって、石油由来飽和炭化水素のクラッキング稼動条件の厳しさがかなり低減される。しかも所望の生成物(エチレンおよびプロピレン)の収率が上昇する。ナフサに適した、最近開発された接触分解技術は、主に固定層式接触分解技術と関連している(例えば、中国特許第02129551号明細書、中国特許出願公開第1380898号明細書、中国特許第200510028797号明細書、中国特許第03141148号明細書参照)。このような固定層式接触分解反応が、所望の生成物の収率を(熱分解反応とは相対的に)ある程度まで増加させ得るとともに、クラッキング反応温度を(熱分解反応とは相対的に)ある程度まで低下させ得ると考えられている。ただし、反応管内に仕込んだ固体触媒が反応炉内の熱分布を不均一にするかもしれず、高温における石油由来飽和炭化水素のコークス化の結果、触媒の活性が減少するおそれ、または触媒が非活性化するおそれがある。その結果、コークス化を抑制する成分を付加する必要に加えて、希釈用スチームの量を増やす必要が生じるため、効率低下につながる。さらに、固定式接触分解を行なう技術の大規模化の際にも問題が発生する可能性がある。接触分解炉の建設にかかる投資コストは、同規模のスチーム分解炉の建設にかかる投資コストよりはるかに高い。この問題点のために、固定層式接触分解技術は、依然として産業化からはかけ離れたレベルにある。
【0005】
また、従来のスチームクラッキング技術および接触分解技術においては、クラッキング生成物中の水素やメタンなどの小さな分子の量が比較的多い(約15mol%)ので、分離におけるエネルギー消費が大きい。
【0006】
欧州特許出願公開第1318187明細書には、飽和炭化水素をクラッキングするための装置が開示されている。この装置では、飽和炭化水素が分解されて炭素数4〜8の不飽和炭化水素になることによってプロピレン、ブテンなどが得られる。この装置の熱交換体(7)、は必要に応じて分解触媒、不均一化触媒、および/または脱水素触媒を備えていてもよく、あるいは触媒を備えていなくてもよい。この欧州特許明細書には、脱水素反応についての他のいかなる教示もない。
【0007】
米国特許第6,586,649明細書には、炭素数4の不均一化技術を使用することによって、フィッシャー・トロプシュ脱水素原料から、8%のエチレン、35%のプロピレン、および20%の炭素数4の成分を含んだ生成物が得られることが開示されている。この米国特許明細書にもまた、パラフィン脱水素化によって得られるブタンを含んだ供給原料について言及されているが、教示するところはこれだけである。さらに、該米国特許明細書に開示された炭素数4の不均一化反応は、接触分解反応とは異なっているので石油由来飽和炭化水素の処理には適しておらず、応用範囲が限られてしまう。
【0008】
中国特許出願公開第1317467号明細書には、低級アルカンの接触分解を改善するために、炭素数4〜6の低級アルカンの脱水素化による生成物を使用することが開示されている。このプロセスにおいて、接触分解ステップによって処理される原料は、一度も脱水素化されていない低級アルカン、特に接触分解用の供給油である。脱水素化された低級アルカンは単に促進剤として作用するだけであり、したがってその脱水素化の変換率はわずか16.8重量%に達する程度である。また、クラッキングステップでは、アルカンのクラッキングに適したマクロ多孔質ゼオライト触媒が使用される。上記明細書の実施例は、純粋なn型ペンタンに関するもののみであり、脱水素化が行なわれない場合と比較すると、脱水素化の変換率が異なってもエチレンおよびプロピレンの選択性の改善にはほとんど影響しないことがわかる。例えば、上記明細書の実施例によれば、脱水素化の変換率が高くても(例えば、実施例6では14.8重量%)低くても(例えば、実施例5では3.2重量%)、エチレンおよびプロピレンの選択性は同等に改善される結果が得られている(例えば、実施例6では9.89%、実施例5では9.26%)。
【0009】
よって、エネルギー消費および原料消費を顕著に低減させ、かつ低級オレフィンの収率を大きく上昇させる、石油由来飽和炭化水素を原料として使用する方法が、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、石油由来飽和炭化水素を原料として使用することによって、オレフィン、特に低級オレフィン、例えばエチレンおよびプロピレンを製造する、スチームクラッキング技術とは異なる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る、石油由来飽和炭化水素からオレフィンを製造する方法は、以下のステップ:
予備加熱した石油由来飽和炭化水素である供給原料を、反応システムの脱水素反応ゾーンにおいて脱水素触媒に接触させ、不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームを得る、脱水素反応の変換率が少なくとも20%であるステップ1)と、
ステップ1)において得られた上記不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームを、上記反応システムのオレフィンクラッキングゾーンにおいてオレフィン分解触媒に接触させ、炭素原子数が減少したオレフィンを含んだ生成物ストリームを得るステップ2)と、を備えている。
【0012】
本発明の方法に適した上記石油由来飽和炭化水素である供給原料は、炭素数4〜35の飽和炭化水素から選択された炭化水素の混合物、好ましくは炭素数6〜20の飽和炭化水素から選択された炭化水素の混合物を含んでいてもよい。
【0013】
ステップ1)において、上記石油由来飽和炭化水素である供給原料は、希釈剤とともに上記脱水素反応ゾーンに供給され、上記脱水素反応ゾーンにおいて上記脱水素触媒に接触し、上記不飽和炭化水素化合物が得られることが好ましく、ステップ2)において、上記不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームは、希釈剤とともに上記オレフィンクラッキング反応ゾーンへ供給されて、オレフィンクラッキング反応ゾーンにおいて上記オレフィン分解触媒に接触し、炭素原子数が減少したオレフィンが得られることが好ましい。
【0014】
上記希釈剤は、ミキサへ導入されて混合され、次に反応ゾーンへ導入されてもよい。あるいは、希釈剤は、直接混合されて反応ゾーンへ導入されてもよい。好ましくは、上記希釈剤は、水蒸気および水素ガスから選択される。本発明の実施形態によれば、これに限定されないが、上記脱水素反応ゾーンにおける上記希釈剤は、希釈比(水の油に対する比)が0〜20、好ましくは0〜10である。あるいは、さらに、上記オレフィンクラッキング反応ゾーンにおける該希釈剤は、希釈比が0〜1.5、好ましくは0〜5である。
【0015】
ステップ1)において、上記脱水素反応は、通常300℃〜700℃の温度、好ましくは400℃〜600℃の温度において、かつ、0kPa〜1000kPa(G)の圧力、好ましくは0kPa〜300kPa(G)の圧力において実施される。上記石油由来飽和炭化水素である供給原料は、0.5h−1〜10h−1の空間速度、好ましくは1h−1〜5h−1の空間速度を有していてもよい。
【0016】
ステップ1)において、一度の通過における上記脱水素化の変換率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、さらに好ましくは少なくとも30%であって、通常は65%以下、好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下であり、またこれらの範囲の組み合わせであってもよい。
【0017】
ステップ1)において、得られた不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームは、通常、未反応の飽和炭化水素、水素、および4個以下の炭素原子を有する少量の炭化水素を含んでいる。本発明の脱水素反応ゾーンにおいて、石油由来飽和炭化水素は、一般には脱水素反応を起こし、炭素同士の間の分裂反応を起こすことはまれである。そのため、得られた不飽和炭化水素化合物と、供給原料である石油由来飽和炭化水素とは、炭素数がほぼ等しい。
【0018】
不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームをオレフィンクラッキング反応ゾーンに導入する前に、当該ストリームは、好ましくは、脱水素化後のストリームに含まれた炭素数4以下の成分と水素とを分離除去するために、予め気体/液体分離に供される。一方、不飽和炭化水素化合物を含んだ液体の石油由来炭化水素のストリームは、オレフィンクラッキング反応ゾーンに導入され、ステップ2)のオレフィンクラッキング反応が実施される。
【0019】
好ましくは、ステップ2)の上記オレフィンクラッキング反応は、400℃以上、好ましくは500℃以上、好ましくは600℃以下、さらに好ましくは550℃以下の温度において、0.05〜0.5MP(G)、好ましくは0.05〜0.1MP(G)の圧力において、かつ、1.0h−1〜30h−1、好ましくは1.5h−1〜20h−1の空間速度において実施され、これらの範囲の組み合わせにおける温度、圧力、および空間速度において実施されてもよい。好ましい反応温度は500℃〜550℃であり、好ましい反応圧力は1bar〜3barであり、好ましい空間速度は3h−1〜8h−1である。
【0020】
炭素原子数が減少したオレフィンは、炭素数2〜9の1種類以上のオレフィンであってもよく、好ましくは炭素数2〜4の1種類以上のオレフィンであってもよい。
【0021】
所望の生成物が低級オレフィンである場合、オレフィンクラッキング反応は、大きな(炭素原子数>4)オレフィンを分裂させて、小さな(炭素原子数≦4)オレフィンを形成する。
【0022】
本発明に係る方法は、ステップ2)で得られた炭素数2〜9のオレフィンを含んだストリームを分離するステップ3)をさらに備えている。必要に応じて、炭素数5のオレフィン、炭素数6のオレフィン、炭素数7のオレフィン、炭素数8のオレフィン、および/または炭素数9のオレフィンの含有率が高い生成物とともに、炭素数2のオレフィン、炭素数3のオレフィン、および炭素数4のオレフィンの含有率が高い生成物が分離され得る。
【0023】
ステップ3)において、分離ステップは、圧縮、精製、および抽出を含んでいてもよい。本発明のいくつかの実施形態においては、特に限定されないが、オレフィン生成物の組成および比率に応じて分離装置において抽出、精製などを実施することによって、所望の生成物が得られる。このような分離の選択方法は当業者に公知であるので、これ以上の詳細な記載は省略する。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、ステップ3)において、炭素数2〜4のオレフィンを含んだストリームは分離され、炭素数2〜4のオレフィンの含有率が高いストリームと、炭素数4以上の成分を含んだストリームとが生成される。こうすることによって、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエンなどがそれぞれ得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明に係る実施形態の概略的なフローチャートである。
【図2】図2は、本発明に係る別の実施形態の概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願の目的において、明細書および請求項中で使用されている、量または反応条件を示す全ての数字は、実施例中などにおいて特に断らないかぎり、「約」という言葉によって修飾され得ると理解すべきである。したがって、特に断らないかぎり、明細書および請求項中の数値パラメータは概数であって、本発明に対して要求する成果および期待する成果によって変化してもよい。各数値パラメータは、少なくとも記載されている有効数字の桁数を考慮し、通常の四捨五入法を適用することによって解釈すべきである。
【0027】
上述した広い数値範囲およびパラメータは概数であるが、実施例中における具体的な値は可能な限り正確に記載されている。ただし、これらのどの値も、試験測定値に内在する標準偏差によって必然的に引き起こされる誤差を、本質的に含んでいる。
【0028】
本発明において、以下の用語は、特に断らないかぎり以下の意味を有する。
【0029】
(石油由来飽和炭化水素である供給原料)
本発明の方法に適した石油由来飽和炭化水素である供給原料は、炭素数4〜35の炭化水素から選択された炭化水素の混合物を含んでいてもよく、好ましくは炭素数6〜20の炭化水素から選択された炭化水素の混合物を含んでいてもよい。上記石油由来飽和炭化水素である供給原料は、任意の従来の方法によって生成され得る。例えば、該供給原料は、トップド油、ペンタン油、ナフサ、複数種類の直鎖アルカンの混合物、およびこれらの物質の混合物のうちの1つであってもよい。本発明は、ナフサを原料として使用した低級炭化水素の製造に特に適している。
【0030】
(低級オレフィン)
本願において「低級オレフィン」とは、通常、5個未満の炭素原子を有するオレフィンを意味する。例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、およびブタジエンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0031】
(脱水素触媒)
「触媒として効果的な量の脱水素触媒」という用語は、飽和炭化水素化合物の脱水素反応を触媒することができる触媒を指し、その触媒の量が該反応を触媒するために充分な量であることを意味している。この脱水素触媒は、当該技術分野において知られている慣用された脱水素触媒であってもよい。本発明の実施形態によれば、特に限定されないが、脱水素触媒は、担体上に設けられた活性成分と、必要に応じて添加剤成分とを含んでいる。
【0032】
当該活性成分は、好ましくは白金(Pt)、鉛(Pb)、クロム酸化物、ニッケル(Ni)、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0033】
上記添加剤成分は、好ましくはスズ(Sn)、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0034】
上記担体は、好ましくはアルミナ、分子ふるい、カオリン、珪藻土、シリカ、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0035】
本発明の脱水素ステップに適した分子ふるいは、任意の天然の分子ふるいまたは合成の分子ふるいにより構成されていてもよい。こういった分子ふるいの例としては、小さな目の分子ふるい、中間程度の大きさの目の分子ふるい、および大きな目の分子ふるいなどが挙げられる。小さな目の分子ふるいの目の直径は約3Å〜5.0Åであり、CHA構造のゼオライト、ERI構造のゼオライト、LEV構造のゼオライト、およびLTA構造のゼオライトなどが含まれる。小さな目の分子ふるいの例としては、ZK−4、ZK−5、ZK−14、ZK−20、ZK−21、ZK−22、ZSM−2、ゼオライトA、ゼオライトT、ヒドロキシルソーダ沸石、エリオン沸石、斜方沸石、グメリン沸石、斜プチロル沸石、SAPO−34、SAPO−35、SAPO−42、およびALPO−17などが挙げられる。中間程度の大きさの目の分子ふるいの目の直径は、通常、約5Å〜7Åであり、AEL−構造のゼオライト、AFO−構造のゼオライト、EUO−構造のゼオライト、FER−構造のゼオライト、HEU−構造のゼオライト、MEL−構造のゼオライト、MFI−構造のゼオライト、MFS−構造のゼオライト、MTT−構造のゼオライト、MTW−構造のゼオライト、およびTON−構造のゼオライトなどが含まれる。中間程度の大きさの目の分子ふるいの例としては、MCM−22、MCM−36、MCM−49、MCM−56、MCM−68、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−34、ZSM−35、ZSM−38、ZSM−48、ZSM−50、およびZSM−57などが挙げられる。通常、大きな目の分子ふるいの、目の直径は約7Åを超え、BEA−構造のゼオライト、BOG−構造のゼオライト、EMT−構造のゼオライト、FAU−構造のゼオライト、LTL−構造のゼオライト、MAZ−構造のゼオライト、MEI−構造のゼオライト、MOR−構造のゼオライト、OFF−構造のゼオライト、およびVFI−構造のゼオライトなどが含まれる。大きな目の分子ふるいの例としては、マッチー沸石、オフレット沸石、ゼオライトL、ゼオライトX、ゼオライトY、β−ゼオライト、ω−ゼオライト、ETAS−10、ETS−10、ETGS−10、MCM−9、SAPO−37、ZSM−3、ZSM−4、およびZSM−20などが挙げられる。
【0036】
分子ふるい、例えばゼオライトは、ケイ酸塩、金属ケイ酸塩(例えばアルミノケイ酸塩およびガロケイ酸塩)、ならびに、例えば金属アルミノリン酸塩(MeAPO)、アルミノリン酸塩(ALPO)、シリコアルミノリン酸塩(SAPO)、および金属アルミノリンケイ酸塩(MeAPSO)などのALPO系分子ふるいを含んでいてもよい。
【0037】
本発明の実施形態によれば、これに限定されないが、例えばUOP社のDEHシリーズの脱水素触媒が使用され得る。このDEHシリーズの脱水素触媒は、主成分に担体としてアルミナ、活性成分としてPt、アクティブ添加剤としてSn/リチウム(Li)を含んでいる。該脱水素触媒の反応温度は450℃〜500℃であり、反応圧力は0.1MPa〜0.3MPaである。上記触媒の使用については、Journal of Liaoning Chemical Industry, 5, 1992:p.16〜19に記載されている。当該文献は参照によってここに引用する。
【0038】
(脱水素反応ゾーン)
本明細書において使用されている「脱水素反応ゾーン」という用語は、主に反応システムにおいて脱水素反応を実施するために使用されるゾーンを意味する。該ゾーンは、同一反応炉中の1つまたはいくつかのセクションであってもよく、言い換えれば、単一の反応炉(つまり、脱水素反応炉)であってもよい。
【0039】
本発明に適した脱水素反応ゾーンの具体的な形式は、固定床、流動床、または移動床であり、好ましくは固定床または流動床である。
【0040】
脱水素反応ゾーンにおける典型的な生成物は、以下の分布を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
(オレフィン分解触媒)
本明細書において使用されている「触媒として効果的な量のオレフィン分解触媒」という用語は、不飽和炭化水素化合物の分解反応を触媒することができる触媒を指し、その触媒の量が該反応を触媒するために充分な量であることを意味している。
【0043】
オレフィン分解触媒は、修飾された分子ふるい触媒または非修飾の分子ふるい触媒である。
【0044】
適切な分子ふるいは、目の直径が4Å〜7Åの分子ふるいであり、例えば、上記の目の直径を有する1種類以上のSAPOシリーズ、ZSMシリーズ、MCMシリーズなど、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0045】
修飾する有用な元素は、アルカリ土類金属、希土類金属、および固体超酸(例えばジルコニウム(Zr)もしくはNi)、またはこれらの組み合わせのうちの1つであってもよい。
【0046】
本発明の実施形態によれば、これに限定されないが、担体としてシリカ、活性成分としてZSM−5およびZRP、添加剤として例えばモリブデン(Mo)、Ni、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、リン(P)、レニウム(Re)、およびPtなどの元素を有する触媒が使用され、反応温度は400℃〜550℃であり、反応圧力は0.1MPa〜1.0MPaである。当該触媒は、Journal of Petroleum Chemical Industry, vol.34(6), 2005: p.315〜319、およびJournal of Industrial Catalysis, vol.12(10), October 2004: p.5〜7に記載されている。当該記事は参照によってここに引用する。
【0047】
(オレフィンクラッキング反応ゾーン)
本明細書において使用されている「オレフィンクラッキング反応ゾーン」という用語は、主に反応システムにおいてオレフィン分解に使用されるゾーンを意味する。該ゾーンは、同一反応炉中の1つもしくはいくつかのセクション、言い換えれば、単一の反応炉(つまり、オレフィンクラッキング反応炉)であってもよい。本発明の実施形態によれば、これに限定されないが、脱水素反応ゾーンとオレフィンクラッキング反応ゾーンとは同一の反応炉中に存在する。別の実施形態によれば、これに限定されないが、脱水素反応ゾーンとオレフィンクラッキング反応ゾーンとは異なる反応炉中に存在する。
【0048】
本発明に適したオレフィンクラッキング反応ゾーンの具体的な形式は、固定床、流動床、もしくは移動床であり、好ましくは固定床もしくは流動床である。
【0049】
本発明の方法によるオレフィンクラッキングゾーンにおける典型的な生成物は、以下の分布を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
本発明に係る方法は、多種のオレフィンの製造に対して適用でき、所望の生成物に応じて柔軟に調節可能である。
【0052】
本発明の実施形態によれば、これに限定されないが、気体/液体分離は、脱水素ステップの後に実施される。分離された水素ガスのストリームと炭素数が比較的少ない数種類のガス状のストリームとは、熱源として使用してもよい。
【0053】
また、炭素数4以下の成分と水素とが分離除去された液体ストリームは、さらに分離されて、飽和炭化水素の含有率が高いストリームと不飽和炭化水素の含有率が高いストリームとが生成される。この分離によって得られた不飽和炭化水素の含有率が高いストリームは、オレフィンクラッキング反応ゾーンに導入されてオレフィンに変換される。あるいは、さらに、分離によって得られた飽和炭化水素の含有率が高いストリームは、好ましくは原料としてフィードバックされ、石油由来飽和炭化水素である供給原料ともに脱水素反応ゾーンに導入されてもよい。
【0054】
あるいは、本発明の別の実施形態によれば、脱水素後の石油由来飽和炭化水素である供給原料中の未反応の飽和炭化水素化合物は、分離に供さずに、反応ゾーンにおけるコーカス化を抑制ために、オレフィンクラッキング反応の希釈剤として使用されてもよい。
【0055】
本発明の実施形態によれば、これに限定されないが、オレフィンクラッキング反応ゾーンの下流では、得られた炭素数2〜9のオレフィンを含むストリームを分離するために、生成物分離ゾーンがさらに設けられている。
【0056】
好適な実施形態によれば、所望の生成物が低級オレフィンである場合、分離された高級オレフィンは、オレフィンクラッキング反応ゾーンへフィードバックされて、脱水素後の石油由来飽和炭化水素ストリームとともに接触分解に供されてもよい。これらの分離は、任意の慣用されている方法によって実施すればよく、一例としては単純な気体/液体分離法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0057】
上記において、本発明の実施形態をいくつか説明した。当業者であれば容易に理解できるように、これらの実施形態は、特に断らないかぎり組み合わせてもよいし、変形してもよい。
【0058】
(本発明の方法の有利な効果)
1.本発明の方法によれば、石油由来飽和炭化水素を脱水素する温度とオレフィンを変換する温度とは、従来のスチームクラッキング技術および接触分解技術の場合に比べて顕著に低い。そのため、エネルギーが節約できる;高温装置を使用することが少なくなるか、または避けることができ、そうすることによって、投資とメンテナンスコストとを低減できる。
【0059】
2.本発明の方法によれば、脱水素ステップ後、水素ガスおよびメタンは、単純な気体/液体分離法を使って別のストリームから分離除去され得る。さらに、次のオレフィン分解ステップでは、水素およびメタンの発生量ははごくわずかか、あるいは全く発生しない。こうすることによって、例えば所望の低級オレフィン生成物から分離される水素およびメタンなどの炭素数が小さいストリームが減少する。また、炭素数が等しいアルカンとオレフィンとの分離が起こらないため、分離時のエネルギー消費を大幅に低減できる。
【0060】
3.本発明の方法は、所望の生成物にあわせて容易にかつ柔軟に調節可能である。
【実施例】
【0061】
下記の実施例は本発明を説明するものであるが、本発明の権利範囲はこれらの実施例に限定されない。当業者であれば、本発明の精神の範囲内において、種々変更して実施することができることが理解されるであろう。本発明の権利保護範囲は請求項によって規定される。特に断らないかぎり、明細書および実施例における百分率などの割合に関する表現は、重量に基づいて記載され、温度は摂氏で記載され、圧力は絶対圧力に基づいて記載されている。
【0062】
下記の実施例および比較例では、以下に示す組成を有する軽ナフサが使用される。
【0063】
【表3】

【0064】
〔実施例1:本発明の方法〕
図1を参照すると、脱硫黄化および脱ヒ素化後の後の軽ナフサ原料(炭素数5〜10)を、ヒータ(B1)によって475℃、520℃、および580℃の温度まで予備加熱した。続いて、当該軽ナフサ原料を脱水素反応炉(B2)に供給して、アルミナ担体上に設けられたPt−Sn触媒の固定床に0.15MPa(G)の圧力で接触させて触媒脱水素反応させ、水素ガス、未反応アルカン、および反応原料と炭素数が等しいオレフィンを含んだ混合物ストリーム(3)を得た。このストリーム(3)を熱交換分離器(B3)に導入して100℃まで冷却し、水素ガスおよび炭素数の低い(<C)ストリーム(10)を、未反応アルカン、および反応原料と炭素数が等しいオレフィンの液相ストリーム(4)から分離除去した。該ストリーム(4)を過熱された希釈用スチーム(9)と混合して、550℃まで加熱した。混合によって得られたストリーム(5)をオレフィンクラッキング反応炉(B5)に供給して、担体としてZSM−5、および活性成分としてアルカリ土類金属を有する触媒の固定床に0.15MPaの圧力によって接触させた。
【0065】
得られた生成物は表1に示す組成を有している。
【0066】
〔比較例1:接触分解技術〕
同じナフサ原料(炭素数5〜10)を対流部において600℃まで予備加熱し、接触分解反応炉に供給し、ZSM−5分子ふるい上に支持されたP−La触媒を有する固定層式触媒に700℃、750℃、および800℃において接触させて、触媒反応させた。
【0067】
得られた生成物は表1に示す組成を有している。
【0068】
〔比較例2:スチームクラッキング技術〕
同じナフサ原料(炭素数5〜10)を対流部において580℃まで予備加熱し、放射部に供給して、熱的クラッキング反応させた。反応中の放射部の排気口温度は、830℃および850℃であった。
【0069】
得られた生成物は表1に示す組成を有している。
【0070】
【表4】

【0071】
接触分解技術および熱的クラッキング技術と比較すると、本発明は反応温度が低く、水素ガスおよびメタンの含有量が相当少なく、したがって、本発明はエネルギー消費を大幅に低減できることが表1からわかる。
【0072】
本発明の方法では、脱水素率が増加してもメタンおよび水素の収率はあまり変化しなかったが、エチレンおよびプロピレン、特にプロピレンの収率が格段に増加した。当業者であれば理解できるように、石油由来飽和炭化水素からエチレンおよびプロピレンを製造する方法においては、数%の向上であってもかなりの改善といえる。
【0073】
〔実施例2:本発明の方法〕
次に図2を参照すると、脱硫黄化および脱ヒ素化後の軽ナフサ原料(11)を、熱交換体(B7)によって550℃の温度まで予備加熱した。続いて、軽ナフサ原料(11)を脱水素反応炉(B8)へ供給して、アルミナ担体上に設けられたPt−Sn触媒の固定床に0.15MPaの圧力により接触させて触媒脱水素反応させ、水素ガス、未反応アルカン、および反応原料と炭素数が等しいオレフィンを含んだ混合物ストリーム(13)を得た。このストリーム(13)を熱交換分離器(B9)へ導入して100℃まで冷却し、気体/液体分離を実施した。この分離中では、加熱用燃料として気相ストリーム(14)を使用し、液体ストリーム(15)を5Å分子ふるいが搭載された分離カラム(B10)へ供給し、直鎖アルカンを含んだストリーム(16)を分離取得した。このストリーム(16)はフィードバックされて、ストリーム(11)とともに反応原料として使用された。さらに、オレフィンの混合物ストリーム(17)を熱交換体において約500℃まで加熱して、希釈用スチーム(22)と混合し、次にオレフィンクラッキング反応炉(B12)へ供給して、HZSM−5、ZSM−5、およびZRPを活性成分として有する触媒の固定床に0.15MPaの圧力により接触させた。
【0074】
生成物ストリーム(19)を分離器(B13)によって分離して、エチレン6重量%、プロピレン35重量%、および混合物ブタン25重量%を含んだ低級オレフィン生成物ストリーム(20)と、炭素数5以上の高級オレフィン、微量のアルカン、およびアレーンを含んだストリーム(21)とを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油由来飽和炭化水素である供給原料を、反応システムの脱水素反応ゾーンにおいて脱水素触媒に接触させ、不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームを得る、脱水素反応の変換率が少なくとも20%であるステップa)と、
上記不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームを、上記反応システムのオレフィンクラッキングゾーンにおいてオレフィン分解触媒に接触させ、炭素原子数が減少したオレフィンを含んだ生成物ストリームを得るステップb)とを備える、石油由来飽和炭化水素からオレフィンを製造する方法。
【請求項2】
上記不飽和炭化水素化合物を含んだ石油炭化水素のストリームが、オレフィンクラッキング反応ゾーンへの導入に先立って、脱水素化後の当該ストリームから炭素数4以下の成分と水素とを分離除去するために気体/液体分離に供されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記石油由来飽和炭化水素である供給原料が、炭素数4〜35の飽和炭化水素から選択された炭化水素の混合物、好ましくは炭素数6〜20の飽和炭化水素から選択された炭化水素の混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記石油由来飽和炭化水素である供給原料が、トップド油、ペンタン油、ナフサ、複数種類の直鎖アルカンの混合物、およびこれらの物質の混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記ステップa)の脱水素反応が、300℃〜700℃、好ましくは400℃〜600℃の温度において、0.5h−1〜10h−1、好ましくは1h−1〜5h−1の空間速度において、かつ、0kPa〜1000kPa、好ましくは0kPa〜300kPaの圧力において実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記ステップa)の脱水素反応の変換率が、少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、さらに好ましくは少なくとも45%であって、好ましくは70%以下、または好ましくは55%以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記炭素原子数が減少したオレフィンが、炭素数2〜9の1種類以上のオレフィン、好ましくは炭素数2〜4の1種類以上のオレフィンであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
上記ステップb)のオレフィンクラッキング反応が、500℃〜550℃の温度において、1bar〜3barの圧力において、かつ、3h−1〜8h−1の空間速度において実施されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水素ガス、水蒸気、およびこれらの組み合わせからなる群より選択された希釈剤が、上記ステップa)の脱水素反応において、および/または上記ステップb)のオレフィン接触分解反応において使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記ステップb)において得られた、炭素原子数が減少したオレフィンを含んだ上記生成物ストリームを分離して、炭素数2のオレフィン、炭素数3のオレフィンおよび/または炭素数4のオレフィンの含有率が高い生成物、ならびに炭素数5のオレフィン、炭素数6のオレフィン、炭素数7のオレフィン、炭素数8のオレフィン、および/または炭素数9のオレフィンの含有率が高い生成物を得るステップc)をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記脱水素触媒が、アルミナ、分子ふるい、カオリン、珪藻土、シリカ、およびこれらの組み合わせからなる群より選択された担体の上に、Pt、Pb、クロム酸化物、Ni、およびこれらの組み合わせからなる群より選択された活性成分と、必要に応じて、Sn、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびこれらの組み合わせからなる群より選択された添加剤成分とを備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記オレフィン分解触媒が、SAPOシリーズ、ZSMシリーズ、MCMシリーズ、およびこれらの組み合わせの群から選択された、修飾された分子ふるいまたは非修飾の分子ふるいであり、当該分子ふるいの目の直径が4Å〜7Åであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
上記脱水素反応ゾーンおよび/または上記オレフィンクラッキングゾーンが、固定層式または流動層式の形態であって、好ましくは固定層式の形態であることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−533743(P2010−533743A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516352(P2010−516352)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【国際出願番号】PCT/CN2008/001340
【国際公開番号】WO2009/009965
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(503191287)中国石油化工股▲ふん▼有限公司 (35)
【出願人】(510016575)中国石油化工股▲ふん▼有限公司北京化工研究院 (8)
【氏名又は名称原語表記】BEIJING RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL INDUSTRY,CHINA PETROLEUM & CHEMICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.14,BEISANHUAN EAST ROAD,CHAOYANG DISTRICT,BEIJING 100013,CHINA
【Fターム(参考)】