説明

オレフィンオキサイドの製造方法

【課題】従来のオレフィンオキサイドの製造方法では、過酸化水素と生成物であるオレフィンオキサイドとは混合物として得られ、該混合物における過酸化水素の含有量を低減するために、該混合物を蒸留して過酸化水素とオレフィンオキサイドとを分離する必要があった。
【解決手段】溶剤及びチタンシリケート触媒の存在下、過酸化水素とオレフィンとを反応させる反応工程と、
前記反応工程で得られた反応溶液に、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を混合する工程と
を含むことを特徴とするオレフィンオキサイドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィンオキサイドの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィンオキサイドの1種であるプロピレンオキサイドの製造方法としては、例えば、エポキシ化触媒を保持している反応領域に、プロピレン及び過酸化水素を供給し、前記反応領域にて未反応のプロピレン及び過酸化水素、並びに、生成物であるプロピレンオキサイドの混合物を得、次いで、該混合物を蒸留領域に供給し、プロピレン及びプロピレンオキサイドを含む塔頂留分と、過酸化水素を含む塔底留分とに分離する方法が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-525073号公報([請求項1]、[実施例])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記に示したように、従来のオレフィンオキサイドの製造方法では、過酸化水素と生成物であるオレフィンオキサイドとは混合物として得られ、該混合物における過酸化水素の含有量を低減するために、該混合物を蒸発領域にて蒸留して過酸化水素とオレフィンオキサイドとを分離する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは、過酸化水素とオレフィンオキサイドとの混合物から、蒸留することなく、過酸化水素の含有量が低減されたオレフィンオキサイドを製造する方法を見出すべく、鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。すなわち、本発明は、
<1> 溶剤及びチタンシリケート触媒の存在下、過酸化水素とオレフィンとを反応させる反応工程と、
前記反応工程で得られた反応溶液に、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を混合する工程と
を含むことを特徴とするオレフィンオキサイドの製造方法;
【0006】
<2> 還元剤が硫化ナトリウムであることを特徴とする<1>記載の製造方法;
<3> 還元剤がヒドラジンの水和物又はヒドラジンの水溶液であることを特徴とする<1>記載の製造方法;
<4> オレフィンがプロピレンであり、オレフィンオキサイドがプロピレンオキサイドであることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか記載の製造方法;
<5> 溶剤がアセトニトリル及び水の混合溶媒であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか記載の製造方法;
<6> チタンシリケート触媒は、ケイ素と窒素とのモル比(Si/N比)が5〜20のTi−MWW前駆体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の製造方法;
【0007】
<7> 溶剤及びチタンシリケート触媒を収容した反応槽に、過酸化水素とオレフィンとを連続的に受け入れて、該反応槽にて反応させ、得られた反応溶液を連続的に以下の分解槽に供給する工程と、
前記工程で得られた反応溶液、並びに、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を、分解槽に連続的に供給し、オレフィンオキサイドを含む溶液を連続的に取得する工程と
を含むことを特徴とするオレフィンオキサイドの製造方法;
<8> 過酸化水素及びオレフィンオキサイドを含む溶液に、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を混合させて、過酸化水素を分解する工程を含むことを特徴とするオレフィンオキサイドを含む溶液における過酸化水素を低減する方法;
等である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、蒸留することなく、過酸化水素の含有量が低減されたオレフィンオキサイドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】オレフィンオキサイド製造装置の一実施態様。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、溶剤及びチタンシリケート触媒の存在下、過酸化水素とオレフィンとを反応させる反応工程を含む。
本発明でいうオレフィンは、分子内に炭素・炭素二重結合を有し、該炭素・炭素二重結合には、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のヒドロカルビル基または水素原子が結合した化合物を意味する。
ヒドロカルビル基の置換基としては、水酸基、ハロゲン原子、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。ヒドロカルビル基としては、飽和のヒドロカルビル基が例示され、飽和のヒドロカルビル基としてはアルキル基が例示される。
オレフィンの具体例としては、炭素数2〜10のアルケン、炭素数4〜10のシクロアルケン等が挙げられる。
炭素数2〜10のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、2−ブテン、イソブテン、2−ペンテン、3−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、2−ノネン、3−ノネン、2−デセン及び3−デセン等が例示される。
炭素数4〜10のシクロアルケンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロへキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン等が例示される。
より好ましいオレフィンは、プロピレンである。
【0011】
プロピレンは、例えば、熱分解、重質油接触分解、あるいはメタノール接触改質により製造されものなどが挙げられる。当該プロピレンは、精製プロピレン、精製工程を経ない粗プロピレン等を用いることができる。
このように、本発明には粗プロピレンをオレフィンとして用いることができるが、好ましいプロピレンの純度としては、例えば、90体積%以上、好ましくは、95体積%以上の範囲である。粗プロピレンに含まれる不純物としては、例えば、プロパン、シクロプロパン、メチルアセチレン、プロパジエン、ブタジエン、ブタン類(n−ブタン、イソブタン)、ブテン類(1−ブテン、2−ブテン)、エチレン、エタン、メタン、水素等を挙げることができる。
【0012】
反応工程に用いられるオレフィンの量は、その種類や反応条件等によって調整することができるが、反応工程に用いられる溶剤の合計量100重量部に対して、少なくとも0.01重量部であることが好ましく、少なくとも0.1重量部であることがより好ましい。
【0013】
本発明に用いられるオレフィンの形状は、ガス状であっても、液状であってもよい。ここで、液状としては、オレフィン単独で液状であるものの他、有機溶媒もしくは有機溶媒と水との混合溶媒に、オレフィンが溶解された混合液であるものを含む。また、ガス状としては、例えば、ガス状のオレフィン、例えば、窒素ガス、水素ガス等の他のガス成分とガス状のオレフィンとの混合ガス等を挙げることができる。
【0014】
オレフィンオキサイドとは、オレフィンの炭素・炭素二重結合がオキシラニル基に置き換わったオキシラン化合物であり、例えば、エチレンオキサイド(オキシラン)、プロピレンオキサイド(1−メチルオキシラン)、1−エチルオキシラン、1−プロピルオキシラン、1−ブチルオキシラン、1−ペンチルオキシラン、1−ヘキシルオキシラン、1−ヘプチルオキシラン、1−オクチルオキシラン、1−メチル−2−エチルオキシラン、1−メチル−2−メチルオキシラン等の炭素数2〜10のオキシラン化合物等を挙げることができる。例えば、オレフィンとしてプロピレンを用いる場合、得られるオレフィンオキサイドはプロピレンオキサイドである。
【0015】
本発明で用いられるチタンシリケート触媒は、実質的に4配位Tiを持つチタノシリケートを意味し、200nm〜400nmの波長領域における紫外可視吸収スペクトルが、210nm〜230nmの波長領域で最大の吸収ピークが現れるものを表す(例えば、Chemical Communications 1026−1027,(2002) 図2(d)、(e)参照)。上記紫外可視吸収スペクトルは、拡散反射装置を付属した紫外可視分光光度計を用いて、拡散反射法にて測定することができる。
【0016】
本発明におけるチタノシリケート触媒は、酸素10員環以上の細孔を有すると反応原料と細孔内の活性点との接触阻害が抑制する傾向や、細孔内における物質の移動の制限が低減される傾向があることから好ましい。
本明細書において、細孔とは、Si−O結合及び/又はTi−O結合によって環構造が構成される入口を有する孔を意味する。上記細孔は、サイドポケットと呼ばれるハーフカップ状の細孔であってもよい。
上記「酸素10員環以上」とは、(a)細孔において最も細い場所の断面または(b)細孔入口における環構造をみたとき、該断面又は該細孔入口が酸素原子数10以上を有するSi−O結合及び/又はTi−O結合によって構成された環構造であることを意味する。
チタノシリケート触媒が酸素10員環以上の細孔を有することは、一般にX線回折パターンの解析により確認されるが、既知の構造であれば、そのX線回折パターンと対比させることで簡便に確認できる。
【0017】
本発明に好適なチタノシリケート触媒としては、例えば、下記1〜7に記載のチタノシリケート等が挙げられる。
1. 酸素10員環の細孔を有する結晶性チタノシリケート:
IZA(国際ゼオライト学会)の構造コードでMFI構造を有するTS−1(例えば、米国特許第4410501号)、MEL構造を有するTS−2(例えば、Journal of Catalysis 130, 440−446, (1991))、MRE構造を有するTi−ZSM−48(例えば、Zeolites 15, 164−170, (1995))、FER構造を有するTi−FER(例えば、Journal of Materials Chemistry 8, 1685−1686 (1998))等。
【0018】
2. 酸素12員環の細孔を有する結晶性チタノシリケート:
BEA構造を有するTi−Beta(例えば、Journal of Catalysis 199,41−47,(2001))、MTW構造を有するTi−ZSM−12(例えば、Zeolites 15, 236−242, (1995))、MOR構造を有するTi−MOR(例えば、The Journal of Physical Chemistry B 102, 9297−9303, (1998))、ISV構造を有するTi−ITQ−7(例えば、Chemical Communications 761−762,(2000))、MSE構造を有するTi−MCM−68(例えば、Chemical Communications 6224−6226, (2008))、MWW構造を有するTi−MWW(例えば、Chemistry Letters 774−775, (2000))等。
【0019】
3. 酸素14員環の細孔を有する結晶性チタノシリケート:
DON構造を有するTi−UTD−1(例えば、Studies in Surface Science and Catalysis 15, 519−525, (1995))等。
4. 酸素10員環の細孔を有する層状チタノシリケート:
Ti−ITQ−6(例えば、Angewandte Chemie International Edition 39, 1499−1501, (2000))等。
5. 酸素12員環の細孔を有する層状チタノシリケート:
Ti−MWW前駆体(例えば、ヨーロッパ公開特許1731515A1)、Ti−YNU−1(例えば、Angewandte Chemie International Edition 43, 236−240, (2004))、Ti−MCM−36(例えば、Catalysis Letters 113, 160−164, (2007))、Ti−MCM−56(例えば、Microporous and Mesoporous Materials 113, 435−444,(2008))等
【0020】
6. メソポーラスチタノシリケート:
Ti−MCM−41(例えば、Microporous Materials 10, 259−271, (1997))、Ti−MCM−48(例えば、Chemical Communications 145−146, (1996))、Ti−SBA−15(例えば、Chemistry of Materials 14, 1657−1664, (2002))等
7. シリル化チタノシリケート:
シリル化したTi−MWW等、上記1〜6記載のチタノシリケートをシリル化した化合物
【0021】
上記層状チタノシリケートとは、例えば、結晶性チタノシリケートの層状前駆体、結晶性チタノシリケートの層間を拡張したチタノシリケート等、層状構造を有するチタノシリケートの総称である。層状構造であることは、電子顕微鏡あるいはX線回折パターンの測定により確認することができる。
【0022】
上記層状前駆体とは、脱水縮合等の処理を行うことにより結晶性チタノシリケートを形成するチタノシリケートを意味する。層状チタノシリケートが酸素12員環以上の細孔を有することは、対応する結晶性チタノシリケートの構造から容易に判断できる。
【0023】
上記メソポーラスチタノシリケートは、規則性メソ細孔を有するチタノシリケートの総称である。規則性メソ孔とは、メソ孔が規則的に繰り返し配列された構造を意味する。
メソ細孔とは、細孔径2nm〜10nmの細孔を意味する。
【0024】
上記シリル化チタノシリケートは、シリル化剤で上記1〜4記載のチタノシリケートを処理することにより得られる。上記シリル化剤として、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン等が挙げられる(例えば、ヨーロッパ公開特許EP1488853A1)。
【0025】
チタノシリケート触媒は、過酸化水素と接触したものが好ましい。接触に供する過酸化水素濃度としては、例えば、0.0001〜50重量%の範囲等を挙げることができる。
【0026】
チタノシリケート触媒としては、例えば、酸素12員環以上の細孔を有するチタノシリケート等が好ましく、かかるチタノシリケートは結晶であっても層状チタノシリケートであってもよい。酸素12員環以上の細孔を有するチタノシリケートとしては、例えば、Ti−MWW、Ti−MWW前駆体等を挙げることができる。
Ti−MWW前駆体とは、これを焼成することによりMWW(IZA(国際ゼオライト学会)の構造コード)構造を有する結晶性チタノシリケートを与えるものの総称であり、Ti−MWW前駆体を焼成して得られる結晶性チタノシリケートとは、テトラケイ酸塩中のSiの一部がTiに同形置換されたものの総称である(触媒の事典(朝倉書店)2000年11月1日発行)の「チタノシリケート」の項の記載を参照)。TiのSiとの同形置換は、例えば、紫外可視吸収スペクトル(拡散反射装置(HARRICK製 Praying Mantis)を付属した紫外可視分光光度計(日本分光製(V−7100))で測定されたもの)で210nm〜230nmにピークを持つことにより容易に確認できる。
【0027】
Ti−MWW前駆体の製造方法としては、例えば、ホウ素化合物、チタン化合物、ケイ素化合物及び構造規定剤から直接水熱合成した層状化合物(as−synthesizedサンプルとも称される)を還流条件下、強酸水溶液と接触させ、構造規定剤を除き、ケイ素と窒素のモル比(Si/N比)を21以上に調整して合成する方法(例えば、特開2005−262164号公報を参照)、
Ti−MWW、ピペリジンなどの構造規定剤および水を混合して得られる化合物を水熱処理後、水洗する方法(Catalysis Today、117(2006)199−205)、
構造規定剤、ホウ素化合物、ケイ素化合物および水を含有する混合物を加熱して得られる層状ボロシリケートを、好ましくは酸等と接触させ構造規定剤を除いた後、焼成してB−MWWを得て、得られたB−MWWを酸等によりホウ素を除去した後、構造規定剤、チタン化合物、水を加えて得られる混合物を加熱して層状化合物を得て、これを6M硝酸と接触させ、構造規定剤を除いて得られるもの(例えば、Chemical Communication 1026-1027,(2002))、
などを挙げることができる。
【0028】
Ti−MWW前駆体の他の製造方法としては、下記に示す値のX線回折パターンを有するチタノシリケートと、MWW構造を有するゼオライトを形成可能な構造規定剤とを接触させる方法で得ることができる。
X線回折パターン
(格子面間隔d/Å)
12.4±0.8
10.8±0.3
9.0 ±0.3
6.0 ±0.3
3.9 ±0.1
3.4 ±0.1
これらのX線回折パターンは、銅K−α放射線を使用した一般的なX線回折装置を用いて測定することができる。
【0029】
前記に示すX線回折パターンを有するチタノシリケートとしては、例えば、公開特許公報2005−262164号に記載されたもの、Ti−YNU−1(例えば、アンゲバンテヒミー・インターナショナルエディション(Angewandte Chemie International Edition) 43, 236-240, (2004)に記載されたもの)、結晶性チタノシリケート、IZA(国際ゼオライト学会)の構造コードで、MWW構造を有する結晶性チタノシリケートであるTi−MWW(例えば、公開特許公報2003−327425号に記載されたもの)、同じくIZAの構造コードでMSE構造を有する結晶性チタノシリケートであるTi−MCM−68(例えば、公開特許公報2008−50186号に記載されたもの)等を挙げることができる。
【0030】
本発明に用いられる構造規定剤としては、例えば、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウム塩(例えば、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヒドロキシド、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムイオダイド等)、オクチルトリメチルアンモニウム塩(例えば、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルトリメチルアンモニウムブロマイド等)(例えば、Chemistry Letters 916-917 (2007)参照)等を挙げることができる。これらの内、好ましい構造規定剤は、ピペリジン、ヘキサメチレンイミンである。これらの構造規定剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を任意の割合で混合して用いても構わない。
用いる構造規定剤の量は、チタノシリケート1重量部に対し、例えば、0.001重量部〜100重量部であり、好ましくは0.1重量部〜10重量部の範囲である。
【0031】
上記に示す値のX線回折パターンを有するチタノシリケートと、MWW構造を有するゼオライトを形成可能な構造規定剤とを接触は、オートクレーブ等の密閉容器に入れ、加熱しつつ加圧する方法であってもよいし、大気下、ガラス製フラスコ中で撹拌しながら、あるいは撹拌せずに混合する方法で実施することができる。その温度としては0℃から250℃が好ましく、さらに50℃から200℃が特に好ましい温度範囲である。かかる接触の際の圧力としては、例えば、ゲージ圧力で0〜10MPa程度である。接触後、得られ
たTi-MWW前駆体は、通常、ろ過により分離される。必要によりさらに水等を用いて、洗浄し、Si/N比が5〜20の範囲のTi-MWW前駆体が得られる。洗浄は、必要により洗浄液の量等もしくは洗浄濾液のpH等を見ながら適宜調整して行えばよい。
【0032】
本発明のチタノシリケート触媒として好ましいものとしては、ケイ素と窒素のモル比(Si/N比)が5〜20の範囲、好ましくは、8.5〜8.6の範囲を有するTi−MWW前駆体を挙げることができる。
ここで、Ti−MWW前駆体におけるSi/N比は、まず、Ti−MWW前駆体をアルカリ融解、硝酸溶解を行った後、ICP発光分析法にて、Ti−MWW前駆体におけるSi(ケイ素)の含有量を求め(同時に、Ti(チタン)及びB(ホウ素)の含有量も測定することができる)、別途、Ti−MWW前駆体を酸素循環燃焼させて、TCD検出方式(本明細書の実施例ではスミグラフ NCH−22F型(住化分析センター製)を用いた。)によってN(窒素)の含有量を測定し、これらの結果から、ケイ素と窒素のモル比(Si/N比)を求めることができる。
【0033】
Ti−MWWは、前記Ti−MWW前駆体を450〜600℃の温度で焼成することにより紫外可視吸収スペクトルで210nm〜230nmにピークを持つTi−MWWを得ることができる。
【0034】
かくして得られるTi-MWWのSi/N比は10〜20の範囲であり、好ましくは、Si/N比が10〜16の範囲である。Ti-MWWは、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤を用いてさらにシリル化してもよい。
【0035】
本発明のチタノシリケート触媒は、水蒸気吸着法により測定した比表面積値(SHO)と窒素吸着法により測定した比表面積値(SN)との比(SHO/SN)が、例えば、0.7〜1.5、好ましくは、0.8〜1.3の範囲のものを挙げることができる。窒素吸着による比表面積値(SN)は、試料を150℃で脱気した後、例えば、「BELSORP-mini」(日本ベル(株)製)を用いて、窒素吸着法により測定し、BET法により算出される。
水蒸気吸着による比表面積値(SHO)は、試料を150℃で脱気した後、例えば、「BELSORP-aqua3」(日本ベル(株)製)を用いて、298Kの吸着温度にて水蒸気吸着法により測定し、BET法により算出される。
【0036】
本発明の反応工程において、チタノシリケート触媒の量は、反応の種類に応じて適宜選択することができ、反応工程に用いられる溶剤の合計量100重量部に対して、下限が、例えば、0.01重量部、好ましくは0.1重量部、より好ましくは0.5重量部を挙げることができ、上限としては、例えば、20重量部、好ましくは10重量部、より好ましくは8重量部が挙げられる。
【0037】
反応工程で用いられる過酸化水素は、市販品を用いてもよいし、後述するように、酸素及び水素を貴金属触媒の存在下、過酸化水素を発生させてもよい。また、過酸化水素は、例えば、水、アセトニトリルなどの後述する溶剤に溶解させた状態で反応工程に供給してもよい。
反応工程において、過酸化水素の濃度は、例えば、0.0001重量%〜100重量%範囲等を挙げることができ、好ましくは、0.001重量%〜5重量%の範囲等が挙げられる。オレフィンに対する過酸化水素の量としては、例えば、オレフィン:過酸化水素の=1000:1〜1:1000(モル比)の範囲等を挙げることができる。
【0038】
過酸化水素を酸素及び水素から製造する際には、貴金属触媒を用いる。ここで貴金属触媒とは、例えば、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、金等の貴金属、またはそれらの合金もしくは混合物等を含むものである。好ましい貴金属としては、例えば、パラジウム、白金、金等が挙げられ、さらにより好ましい貴金属はパラジウムである。パラジウムとしては、例えば、パラジウムコロイドを用いてもよい(例えば、特開2002-294301号公報、実施例1等参照)。好ましい貴金属はパラジウム化合物である。なお、該貴金属触媒として、パラジウム化合物を用いる場合、更に白金、金、ロジウム、イリジウム、オスミウム等のパラジウム以外の金属も添加混合して用いることができる。好ましいパラジウム以外の金属としては、金、白金が挙げられる。
【0039】
該パラジウム化合物として、例えば、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム等の4価のパラジウム化合物類;塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロ(ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジブロモテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)等の2価パラジウム化合物類が例示される。
【0040】
貴金属は、担体、好ましくは上記チタンシリケート触媒に担持して使用されることが好ましい。貴金属は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア等の酸化物;ニオブ酸、ジルコニウム酸、タングステン酸、チタン酸等の水化物;炭素;あるいはそれらの混合物に担持して使用することもできるが、好ましくは、上記チタンシリケート触媒に担持したものか、チタノシリケート以外に貴金属を担持させた場合、貴金属を担持した担体を上記チタノシリケート触媒と混合し、当該混合物を触媒として使用することができる。
【0041】
貴金属触媒の調製方法としては、例えば、貴金属を担体上に担持した後、還元する方法が知られている。貴金属化合物の担持は、含浸法等の従来公知の方法を用いることができる。
還元方法として、還元ガスを用いる場合には、適当な充填管に固体状の貴金属化合物担持物を充填し、該充填管に還元性ガスを注入する還元処理等を例示することができる。還元性ガスは、水素、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等、あるいはこれらから選ばれる2種以上の混合ガスが例示される。中でも、水素が好ましい。また、還元性ガスは、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン又は水蒸気(スチーム)等、あるいはこれらから選ばれる2種以上を混合した希釈ガスで希釈してもよい。
【0042】
上記貴金属触媒は、貴金属を、例えば、0.01〜20重量%の範囲等を挙げることができ、好ましくは0.1〜5重量%の範囲等が挙げられる。貴金属の使用量は、チタノシリケート触媒1重量部に対し、例えば、0.00001重量部以上を挙げることができ、好ましくは0.0001重量部以上、より好ましくは、0.001重量部以上である。該貴金属の使用量は、チタノシリケート触媒1重量部に対し、例えば、100重量部以下を挙げることができ、好ましくは、20重量部以下、より好ましくは、5重量部以下等が挙げられる。
【0043】
反応工程に用いられる溶剤としては、例えば、水、有機溶媒あるいはその両者の混合物等が挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、アルコール溶媒、ケトン溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エステル溶媒およびそれらの混合物が挙げられる。
アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびt−ブタノール等の炭素数1〜8の脂肪族アルコール;例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等の炭素数2〜8のグリコール等が挙げられる。好ましいアルコール溶剤としては、例えば、炭素数1〜4の1価アルコール等を挙げることができ、より好ましくはt−ブタノール等が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン等の炭素数5〜10の脂肪族炭化水素が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6〜15の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0044】
ニトリル溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ブチロニトリル等の炭素数2〜4のアルキルニトリルおよびベンゾニトリル等を挙げることができ、好ましくはアセトニトリル等が挙げられる。
反応工程に用いられる溶剤としては、触媒活性、選択性の観点から、炭素数1〜4の1価アルコール、アセトニトリル等が好ましい。
アセトニトリルとしては、例えば、アクリロニトリルの製造工程で副生する粗アセトニトリル、精製アセトニトリル等を挙げることができる。
粗アセトニトリルに含まれるアセトニトリル以外の不純物としては、例えば、水、アセトン、アクリロニトリル、オキサゾール、アリルアルコール、プロピオニトリル、青酸、アンモニア、銅、鉄等が挙げられる。銅及び鉄は1重量%以下の微量であることが好ましい。アセトニトリルの純度としては、例えば、95重量%以上を挙げることができ、好ましくは99重量%以上、より好ましくは、99.9重量%以上の精製アセトニトリルが挙げられる。
【0045】
溶剤は水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。好ましい混合溶媒における水と有機溶媒の重量比は、例えば、0:100〜50:50の範囲等を挙げることができ、好ましくは10:90〜40:60の範囲等が挙げられる。
溶媒の供給量としては、オレフィン供給量1重量部に対し、例えば、0.02〜70重量部の範囲等を挙げることができ、好ましくは、0.2〜20重量部、より好ましくは、1〜10重量部の範囲等が挙げられる。
【0046】
反応工程における反応温度の下限としては、例えば、0℃を挙げることができ、好ましくは40℃が挙げられる。反応工程における反応温度の上限としては、例えば、200℃を挙げることができ、好ましくは150℃が挙げられる。
反応工程における反応圧力(ゲージ圧)の下限としては、例えば、0.1MPaの加圧下を挙げることができ、好ましくは1MPaの加圧下を挙げることができ、より好ましくは20MPaの加圧下を挙げることができ、さらにより好ましくは10MPaの加圧下を挙げることができる。
【0047】
反応工程において、酸素と水素から過酸化水素を発生させて使用する場合は、酸素及び水素を連続的に供給ながら、連続的に過酸化水素を発生させることが好ましい。
反応工程において、酸素と水素から過酸化水素を発生させて使用する場合、反応槽に供給する酸素と水素との分圧比は、例えば、酸素:水素=1:50〜50:1の範囲等を挙げることができ、好ましくは、酸素:水素=1:10〜10:1の範囲等が挙げられる。酸素:水素=1:50よりも酸素の分圧が高いとオキシラン化合物の生成速度が向上する傾向があることから好ましく、酸素:水素=50:1よりも酸素の分圧が低いとオレフィンの炭素・炭素二重結合が水素原子で還元された副生物の生成が低減され、オキシラン化合物への選択性が向上する傾向があることから好ましい。
【0048】
また、酸素と水素との混合ガスは、希釈ガス共存下で取り扱うことが好ましい。希釈に用いるガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素、メタン、エタン、プロパン等を挙げることができる。好ましくは、窒素、プロパンであり、より好ましくは窒素である。
【0049】
酸素、水素、オレフィン及び希釈ガスを混合して取り扱う場合、その混合比率について、オレフィンがプロピレン、希釈ガスが窒素ガスの場合を例として説明すると、水素及びプロピレンの合計濃度が4.9体積%以下、酸素濃度は9体積%以下の場合、または、水素及びプロピレンの合計濃度が50体積%以上、酸素濃度が50体積%以下の場合が好ましい。
【0050】
酸素として、酸素ガスのほか、酸素を含む空気を用いてもよい。酸素ガスとしては、例えば、安価な圧力スウィング法で製造した酸素ガス、深冷分離等で製造した高純度酸素ガス等を挙げることができる。
反応工程において、酸素と水素から過酸化水素を連続的に発生させて使用する場合、反応槽における酸素の供給量は、反応槽における供給オレフィン1モルに対して、例えば、0.005〜10モルの範囲、好ましくは、0.05〜5モルの範囲等を挙げることができる。
【0051】
水素としては、例えば、炭化水素を水蒸気改質して得られたもの等を挙げることができる。水素の純度としては、例えば、80体積%以上を挙げることができ、好ましくは、90体積以上が挙げられる。
反応工程において、酸素と水素から過酸化水素を連続的に発生させて使用する場合、反応槽における水素の供給量は、反応槽における供給オレフィン1モルに対して、例えば、0.005〜10モルの範囲、好ましくは、0.05〜5モルの範囲等を挙げることができる。
【0052】
反応工程において、酸素と水素から過酸化水素を連続的に発生させて使用する場合、反応槽に緩衝剤を存在させることにより、触媒活性の減少を防止したり、触媒活性をさらに増大させたり、酸素及び水素の利用効率を向上させる傾向があることから好ましい。ここで、緩衝剤とは、反応工程における反応混合物(以下、「反応工程の反応溶液」と記すことがある)の水素イオン濃度に対して緩衝作用を与える塩を意味する。
【0053】
上記緩衝剤は、反応工程の反応溶液に溶解させることが好ましい。また、反応工程において、酸素と水素から過酸化水素を連続的に発生させて使用する場合は、予め貴金属錯体に含ませておいてもよい。例えば、Pdテトラアンミンクロリド等のアンミン錯体等を担体上に含浸法等によって担持した後、還元し、アンモニウムイオンを残存させ、反応工程の反応溶液に緩衝剤を発生させる方法等が挙げられる。緩衝剤の添加量は、反応工程に用いられる溶媒における該緩衝剤の溶解度以下であり、好ましくは溶剤1kgあたり、例えば、0.001mmol〜100mmolの範囲を挙げることができる。
【0054】
上記緩衝剤としては、1)硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸2水素イオン、ピロリン酸水素イオン、ピロリン酸イオン、ハロゲンイオン、硝酸イオン、水酸化物イオンおよびC−C10カルボン酸イオンからなる群より選ばれるアニオンと、2)アンモニウム、C−C20アルキルアンモニウム、C−C20アルキルアリールアンモニウム、アルカリ金属およびアルカリ土類金属からなる群より選ばれるカチオンとからなる緩衝剤が例示される。
炭素数1〜10のカルボン酸イオンとしては、例えば、酢酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、吉草酸イオン、カプロン酸イオン、カプリル酸イオン、カプリン酸イオン、安息香酸イオン等が挙げられる。
アルキルアンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ−n−プロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウムが挙げられ、アルカリ金属およびアルカリ土類金属カチオンとしては、例えば、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、ルビジウムカチオン、セシウムカチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、バリウムカチオン等が挙げられる。
【0055】
好ましい緩衝剤としては、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、ピロリン酸水素アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩および酢酸アンモニウム等の炭素数1〜10のカルボン酸のアンモニウム塩が挙げられ、好ましいアンモニウム塩としては、例えば、リン酸2水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム等が挙げられる。
【0056】
酸素と水素から過酸化水素を連続的に発生させて使用する場合、キノイド化合物を反応工程の反応溶液に存在させてもよい。このようなキノイド化合物の存在は、オキシラン化合物への選択性をさらに増大させる傾向がある。
キノイド化合物としては、例えば、式(1)

(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子を表すか、又は、RとRと、若しくは、RとRとが、互いに結合して、R、R、RおよびRのそれぞれが結合している炭素原子とともに、置換基を有していてもよいベンゼン環若しくは置換基を有していてもよいナフタレン環を形成していてもよい。XおよびYはそれぞれ独立に、酸素原子もしくはNH基を表す。)
で表される化合物が挙げられる。
【0057】
式(1)で表される化合物としては、例えば
1)式(1)において、R、R、RおよびRが、水素原子であり、XおよびYが共に酸素原子であるキノン化合物(1A)、
2)式(1)において、R、R、RおよびRが、水素原子であり、Xが酸素原子であり、YがNH基であるキノンイミン化合物(1B)、
3)式(1)において、R、R、RおよびRが、水素原子であり、XおよびYがNH基であるキノンジイミン化合物(1C)が挙げられる。
【0058】
式(1)で表される化合物の他の例示として、式(2)

(式中、XおよびYは式(1)において定義されたとおりであり、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシル基もしくはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基)を表す。)
で表されるアントラキノン化合物等を挙げることができる。
【0059】
式(1)で表される化合物におけるXおよびYは、ともに酸素原子が好ましい。
式(1)で表される化合物としては、例えば、ベンゾキノン、ナフトキノン等のキノン化合物、例えば、アントラキノン、例えば、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、2−メチルアントラキノン、2−ブチルアントラキノン、2−t−アミルアントラキノン、2−イソプロピルアントラキノン、2−s−ブチルアントラキノンまたは2−s−アミルアントラキノン等の2−アルキルアントラキノン化合物、例えば、1,3−ジエチルアントラキノン、2,3−ジメチルアントラキノン、1,4−ジメチルアントラキノン、2,7−ジメチルアントラキノン等のポリアルキルアントラキノン化合物、例えば、2,6−ジヒドロキシアントラキノン等のポリヒドロキシアントラキノン化合物、例えば、ナフトキノン、1,4−フェナントラキノン等のp−キノイド化合物、例えば、1,2−、3,4−および9,10−フェナントラキノン等のo−キノイド化合物等があげられる。
【0060】
好ましい式(1)で表される化合物としては、例えば、アントラキノン、2−アルキルアントラキノン化合物(式(2)において、XおよびYが酸素原子を表し、Rがアルキル基を表し、Rが水素を表し、RおよびRが水素原子を表す。)等があげられる。
【0061】
反応工程におけるキノイド化合物の使用量としては、反応工程の反応溶液に含まれる溶剤1kgあたり、例えば、0.001mmol〜500mmolの範囲等を挙げることができ、好ましくは、例えば、0.01mmol〜50mmolの範囲等が挙げられる。
【0062】
反応工程においては、アンモニウム、アルキルアンモニウムまたはアルキルアリールアンモニウムからなる塩を反応工程の反応溶液に加えることも可能である。
【0063】
キノイド化合物は、キノイド化合物のジヒドロ体を反応工程の反応溶液で酸素等を用いて酸化させることにより調製することもできる。例えばヒドロキノンや、9,10−アントラセンジオール等のキノイド化合物のジヒドロ体を反応工程の反応溶液に添加し、当該反応溶液内で酸素により酸化してキノイド化合物を発生させて使用してもよい。
キノイド化合物のジヒドロ体としては、例えば、式(1)で表される化合物のジヒドロ体である式(3)

(式中、R、R、R、R、XおよびYは、前記と同じ意味を表す。)
で表される化合物、
【0064】
例えば、式(2)で表される化合物のジヒドロ体である式(4)

(式中、X、Y、R、R、RおよびRは前記と同じ意味を表す。)
等を挙げることができる。
式(3)および式(4)における好ましいXおよびYとしては、酸素原子である。
好ましいキノイド化合物のジヒドロ体としては、上述の好ましいキノイド化合物に対応するジヒドロ体が挙げられる。
【0065】
本発明の反応工程は連続的に行ってもよい。例えば、溶剤及びチタンシリケート触媒、必要に応じて緩衝剤、キノイド化合物等を反応槽に収容されており、さらに、該反応槽に過酸化水素とオレフィンとを連続的に供給して、該反応槽にて反応させ、得られた反応溶液を連続的に、後述する分解槽に供給する工程等を挙げることができる。
過酸化水素が前述のように酸素及び水素から製造される場合、反応槽には貴金属触媒がさらに収容されており、該反応槽に酸素及び水素を連続的に供給して、該反応槽内において過酸化水素を連続的に発生させながら、過酸化水素及びオレフィンオキサイドを含む反応溶液を連続的に得る。また、酸素、水素及びオレフィンは、必要に応じて希釈ガスとともに混合した混合ガスとして連続的に供給してもよい。
反応槽には、攪拌翼等の混合手段が具備されていることが好ましい。混合手段が具備されていると、過酸化水素とチタンシリケート触媒とが効率的に混合する傾向がある。
【0066】
具体的な反応槽の実施態様は、例えば、図1の(3)で表される反応槽(以下、反応槽(3)と記すことがある)を挙げることができる。すなわち、反応槽(3)は、内部にパドル翼を有し、酸素、水素及びオレフィンを含む混合ガスを反応槽(3)に連続的に受け入れる管(5)、並びに、反応溶液を反応槽(3)から、後述する分解槽(4)に連続的に供給する管(8)等が接続されており、反応槽(3)から管(6)に反応溶液が連続的に供給される。
【0067】
前記反応工程に用いられる反応槽は複数の反応槽で行われてもよい。具体的な反応槽の実施態様は、例えば、図1の(1)〜(3)で表される反応槽(それぞれ、反応槽(1)、反応槽(2)、反応槽(3)と記すことがある)を挙げることができる。
すなわち、反応槽(1)は、内部にパドル翼を有し、酸素、水素及びオレフィンを含む混合ガスを反応槽(1)に連続的に受け入れる管(5)並びに反応槽(1)から反応槽(2)に反応溶液を連続的に供給する管(6)が接続されており、反応槽(1)で反応工程を行い、得られた反応溶液は、反応槽(2)に接続された管(6)を経由して、反応槽(2)に連続的に供給される。
また、反応槽(2)は、内部にパドル翼を有し、酸素、水素及びオレフィンを含む混合ガスを反応槽(2)に連続的に受け入れる管(5)並びに反応槽(1)から反応槽(2)に反応溶液を連続的に供給する管(7)が接続されており、反応槽(2)で反応工程を行い、得られた反応溶液は、前記反応槽(3)に接続された管(7)を経由して、反応槽(3)に連続的に供給される。
【0068】
反応槽から分解槽に反応溶液を供給する際に、反応溶液はチタノシリケート触媒及び貴金属触媒を除去して分解槽に供給することが好ましい。具体的には、反応槽における上記触媒成分をほとんど含有しない反応溶液の上澄み液を供給する方法、反応槽から分解槽に反応溶液を連続的に供給する管またはその前後にフィルターなどで上記触媒成分を分離する方法等を挙げることができる。
反応槽を複数用いる場合、反応槽から別の反応槽に反応溶液を供給する際に、同様に、反応溶液はチタノシリケート触媒及び貴金属触媒を除去して別の反応槽に供給することが好ましい。
【0069】
本発明は前記反応工程で得られた反応溶液に、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を混合する工程(以下、分解工程と記すことがある)をさらに含む。
分解工程は反応工程の後に行う。分解工程に用いられる反応溶液には生成したオレフィンオキサイドが含まれていてもよい。本発明の分解工程は、オレフィンオキサイドの存在下に分解工程を行ってもオレフィンオキサイドの分解はほとんどなく、過酸化水素を分解することができる。また、本発明の分解工程において、酸素はほとんど発生することがない。
【0070】
分解工程に用いられる硫化物は、例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化アンモニウム、硫化水素ナトリウム、硫化亜鉛等のS2−の塩であり、好ましくは、硫化ナトリウムである。硫化物は無水物でも、結晶水を含有したものであってもよい。
硫化物の使用量としては、例えば、反応工程で得られた反応溶液に含まれる過酸化水素1モルに対し、0.01〜10モルの範囲等を挙げることができ、好ましくは、例えば、0.1〜1モルの範囲等を挙げることができる。
【0071】
分解工程に用いられるヒドラジンの形態としては、例えば、水溶液、水和物(水和ヒドラジン)、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、塩酸塩等を挙げることができる。
ヒドラジンの使用量としては、例えば、反応工程で得られた反応溶液に含まれる過酸化水素1モルに対し、0.01〜20モルの範囲等を挙げることができ、好ましくは、例えば、0.2〜2モルの範囲等を挙げることができる。
【0072】
分解工程には、前記反応溶液がそのまま用いられることもできるが、この反応溶液にさらに、溶剤を加えることで、該反応溶液を希釈してもよい。このように反応溶液を希釈することにより、還元剤の溶解量を増加させることができる。
かかる溶剤としては、前記の反応工程の溶剤と同じものが例示され、好ましくは、反応工程の反応溶液に含まれる溶剤をそのまま希釈に用いる。
溶剤の使用量としては、分解工程における反応用液に含まれる過酸化水素の良によって異なり、例えば、還元剤1重量部に対し、例えば、1〜1000000重量部の範囲等を挙げることができ、好ましくは、10〜500000重量部の範囲、より好ましくは、100〜10000重量部の範囲等が挙げられる。
【0073】
分解工程における反応温度の下限としては、例えば、0℃を挙げることができ、好ましくは20℃が挙げられる。分解工程における反応温度の上限としては、例えば、200℃を挙げることができ、好ましくは150℃が挙げられる。
分解工程における圧力(ゲージ圧)としては、前記の反応工程の圧力と同じでもよいし、反応工程後に減圧し、常圧または減圧下で行ってもよい。好ましくは、反応工程と同じ圧力のまま行う。
【0074】
本発明の分解工程は連続的に行ってもよい。具体的には、反応工程の反応溶液、並びに、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を、分解槽に連続的に混合させ、オレフィンオキサイドを含む溶液を連続的に取得する工程等を挙げることができる。
反応溶液に含まれる過酸化水素の含有量を低減するため、分解槽における該反応溶液の滞留時間としては、少なくとも0.1時間であり、好ましくは、0.5〜5時間の範囲等を挙げることができる。
【0075】
具体的な反応槽の実施態様は、例えば、図1の(4)で表される分解槽(以下、分解槽(4)と記すことがある)を挙げることができる。すなわち、分解槽(4)は、内部にパドル翼を有し、還元剤を連続的に受け入れる管(9)、反応槽(3)から反応溶液を連続的に受け入れる管(8)を有しており、分解槽(4)で過酸化水素を分解し、得られた、過酸化水素の低減したオレフィンオキサイドを含む溶液を管(10)から連続的に過酸化水素の低減したオレフィンオキサイドを含む溶液を取得することができる。
分解槽には、貴金属触媒及びチタンシリケート触媒は、収容されない。分解槽において、過酸化水素は分解されるが、オレフィンオキサイドはほとんど分解されることはない。
【0076】
反応工程に用いられる反応槽及び分解工程に用いられる分解槽としては、例えば、流通式固定床反応装置、流通式スラリー完全混合装置等を挙げることができる。
反応工程において、流通式スラリー完全混合装置を反応槽として用いる場合、チタノシリケート触媒及び貴金属触媒は、該反応槽内あるいは該反応槽外に設置されたフィルターにより濾過し、再び、反応槽内に供することが好ましい。具体的には、例えば、反応槽内の触媒のうち一部を連続的あるいは間欠的に抜き出し、必要に応じて触媒の再生処理を行い、その後、当該触媒を反応槽に供する方法、例えば、反応槽内の触媒のうち一部が連続的あるいは間欠的に排出され、排出された触媒に相当する分量の新しいチタノシリケート触媒と貴金属触媒とを反応槽に追加する方法等が挙げられる。
反応工程において、流通式固定床反応装置が反応槽として用いられる場合、例えば、オレフィンオキサイドの生産性が低下した触媒を含む反応槽は、触媒を再生するための反応槽として、触媒の再生処理を行い、反応と再生とを交互に繰り返しながら行う方法等を挙げることができる。その際、触媒は、型剤等により成型されたものを用いることが好ましい。
【0077】
分解工程の生成物は、蒸留等の分離操作を行うことによりオレフィンオキサイドを得ることができる。例えば、分解工程後、気液分離塔、溶媒分離塔、粗プロピレンオキサイド分離塔、プロパン分離塔、溶媒精製塔を通して、粗プロピレンオキサイド、主として水素/酸素/窒素よりなるガス成分、回収プロピレン、回収溶媒および回収キノン化合物に分離される。回収プロピレン、回収溶媒および回収キノン化合物は、反応工程に再び供し、リサイクル使用することが望ましい。回収プロピレンに、例えば、プロパン、シクロプロパン、メチルアセチレン、プロパジエン、ブタジエン、ブタン類、ブテン類、エチレン、エタン、メタンまたは水素等の不純物を含んでいる場合、必要により分離精製してリサイクルしてもよい。
【0078】
従来、未反応のプロピレン及び過酸化水素、並びに、生成物であるプロピレンオキサイドの混合物を蒸留領域に供給し、プロピレン及びプロピレンオキサイド等を含む塔頂留分と、過酸化水素等を含む塔底留分とに分離した後、通常、塔底留分は過酸化水素を分解する分解触媒を保持している分解領域に供給して、過酸化水素を該分解領域で分解していたが、本発明の製造方法によれば、該混合物を蒸留することなく、該混合物に含まれる過酸化水素を分解することが可能である。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【0080】
(実施例1)
(チタノシリケート触媒の調製)
オートクレーブにピペリジン899g、純水2402gに、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)112g、ホウ酸565g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)410gを、室温下(約25℃)、Air雰囲気下撹拌しながら溶解させ、さらに1.5時間攪拌した後、該オートクレーブを密閉した。続いて、オートクレーブの内の溶解物を撹拌しながら8時間かけて昇温した後、さらに、160℃で120時間保持して、懸濁溶液を得た。
得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH10付近になるまでケーキを水洗した。得られたケーキを50℃で乾燥し、水を含む白色粉末を得た。得られた粉末15gに2Nの硝酸750mLを加え、20時間、還流下に加熱し、次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、50℃で十分乾燥して11gの白色粉末を得た。この白色粉末を銅K-α放射線を使用したX線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した結果、Ti−MWW前駆体であることを確認した。また、該粉末をICP発光分析したところ、該粉末のチタン含量は1.65重量%であった。
また、室温下、該粉末2.28gと、0.1重量%の過酸化水素を含む水/アセトニトリル=20/80(重量比)の溶液約80mlとを混合して1時間攪拌し、ろ過して得られた粉末をシリケート触媒として用いた。
【0081】
(実施例1:(1)で表される反応槽での反応工程、過酸化水素供給)
ジャケットを具備する内容積300mlのオートクレーブに、重量比が水/アセトニトリル=30/70であるアセトニトリル水を131gと前記チタノシリケート触媒2.28gを仕込んだ後、オートクレーブ内の圧力を窒素にて絶対圧4MPaに、オートクレーブ内の混合物の温度を50℃に調整した。当該オートクレーブに窒素ガスを143L(標準状態)/Hr、アントラキノン0.7ミリモル/kgと燐酸二水素アンモニウム0.7ミリモル/kgと過酸化水素を3.1重量%とを含有するアセトニトリル水(水/アセトニトリルの重量比は30/70である)を132g/Hr、プロピレン(液状)を36g/Hrで連続的に供給した。反応中、反応温度は50℃、反応圧力は4MPaになるように制御した。チタノシリケート触媒は焼結フィルターによりろ過しながら、常圧に戻した後、気液分離し、液成分とガス成分を連続的に抜き出した。4時間後、液成分及びガス成分を同時にサンプリングし、各々をガスクロマトグラフィーにより分析して、液成分及びガス成分の各々に含まれるプロピレンオキサイドを測定した。液成分に含まれる過酸化水素の含有量は過マンガン酸カリウム滴定により測定した。
プロピレンオキサイドの生成量は100mmol/hrであった。液成分中には過酸化水素が1530重量ppm残存した。
【0082】
(実施例2:(1)で表される反応槽での反応工程、過酸化水素発生)
ジャケットを具備する内容積300mlのオートクレーブに、重量比が水/アセトニトリル=30/70であるアセトニトリル水を131gと前記チタノシリケート触媒2.28g、パラジウムを1重量%担持した活性炭触媒0.20gを仕込んだ後、オートクレーブ内の圧力を窒素にて絶対圧4MPaに、オートクレーブ内の混合物の温度を50℃に調整した。当該オートクレーブに水素3.6体積%、酸素2.1体積%、窒素94.3体積%の組成である混合ガスを146L(標準状態)/Hr、アントラキノン0.7mmol/kgと燐酸水素二アンモニウム3mmol/kgとを含有するアセトニトリル水(水/アセトニトリルの重量比は30/70である)を90g/Hr、プロピレン(液体)を36g/Hrで連続的に供給した。反応中、反応温度は50℃、反応圧力は4MPaになるように制御した。前記活性炭触媒及びチタノシリケート触媒は焼結フィルターによりろ過しながら、常圧に戻した後、気液分離し、液成分とガス成分を連続的に抜き出した。6時間後、液成分及びガス成分を同時にサンプリングし、各々をガスクロマトグラフィーにより分析して、液成分及びガス成分の各々に含まれるプロピレンオキサイドを測定した。液成分に含まれる過酸化水素の含有量は過マンガン酸カリウム滴定により測定した。
プロピレンオキサイドの生成量は50mmol/hrであった。液成分中には過酸化水素が760重量ppm残存した。
【0083】
(実施例3:反応槽での反応工程、(2)又は(3)で表される反応槽での反応工程、過酸化水素発生)
ジャケットを具備する内容積300mlのオートクレーブに、重量比が水/アセトニトリル=30/70であるアセトニトリル水を131gと前記チタノシリケート触媒2.28g、パラジウムを1重量%担持した活性炭触媒0.198gを仕込んだ後、オートクレーブ内の圧力を窒素にて絶対圧4MPaに、オートクレーブ内の混合物の温度を50℃に調整した。当該オートクレーブに水素3.6体積%、酸素2.1体積%、窒素94.3体積%の組成である混合ガスを146L(標準状態)/Hr、アントラキノン0.7mmol/kgと燐酸ニ水素アンモニウム0.7ミリモル/kgとプロピレンオキサイド10重量%とを含有するアセトニトリル水(水/アセトニトリルの重量比は30/70である)を90g/Hr、プロピレン(液体)を36g/Hrで連続的に供給した。反応中、反応温度は50℃、反応圧力は4MPaになるように制御した。前記活性炭触媒及びチタノシリケート触媒は焼結フィルターによりろ過しながら、常圧に戻した後、気液分離し、液成分とガス成分を連続的に抜き出した。6時間後、液成分及びガス成分を同時にサンプリングし、各々をガスクロマトグラフィーにより分析して、液成分及びガス成分の各々に含まれるプロピレンオキサイドを測定した。液成分に含まれる過酸化水素の含有量は過マンガン酸カリウム滴定により測定した。
プロピレンオキサイドの生成量は36mmol/hrであった。液成分中には過酸化水素が980重量ppm残存した。
【0084】
(実施例4)
(過酸化水素及びプロピレンオキサイドを含む反応溶液の調製)
反応工程の反応溶液として、プロピレンオキサイド10重量%、プロピレングリコール0.007重量%、過酸化水素1414ppm、キノン化合物としてアントラキノン、0.7mmol/kg(アセトニトリル水溶液基準)、緩衝剤として燐酸二水素アンモニウム((NHHPO)3mmol/kg(アセトニトリル水溶液基準)を含むアセトニトリル水溶液(アセトニトリル/水=7/3)100gを調製した。
(分解工程:(4)で表される分解槽での分解工程)
前記アセトニトリル水溶液を70℃に調製した後、硫化ナトリウム9水和物(NaS・9HO、NASと記すことがある)0.17g(前記アセトニトリル水溶液に含まれる過酸化水素1モルに対して0.25モル)を加えて、70℃にて攪拌した。過酸化水素(H)及びプロピレンオキサイド(PO)のそれぞれについて、硫化ナトリウムを混合した直後を100とした場合の保持率と、プロピレンオキサイドが加水分解されたプロピレングリコール(PG)の濃度とを攪拌時間の経過とともにまとめた結果を表1に記載した。また、表1には、硫化ナトリウムを混合することなく、攪拌した場合も併せて示した。
表1からも明らかなように、Hは2時間で10%まで低減されるが、POはほとんど保持され、PGもほとんど増加しないことがわかる。
【0085】
【表1】

【0086】
(実施例5)
(過酸化水素及びプロピレンオキサイドを含む反応溶液の調製)
反応工程の反応溶液として、過酸化水素1273ppm、キノン化合物としてアントラキノン、0.7mmol/kg(アセトニトリル水溶液基準)、緩衝剤としてリン酸水素二アンモニウム((NHHPO)3mmol/kg(アセトニトリル水溶液基準)を含むアセトニトリル水溶液(アセトニトリル/水=7/3)100gを調製した。
(分解工程:(4)で表される分解槽での分解工程)
前記アセトニトリル水溶液を70℃に調製した後、ヒドラジン1水和物(NHNH・HO、NNと記すことがある)0.073g(前記アセトニトリル水溶液に含まれる過酸化水素1モルに対して0.50モル)を加えて、70℃にて攪拌した。過酸化水素(H)をヒドラジンと混合した直後を100とした場合の保持率について、攪拌時間の経過とともにまとめた結果を表2に記載した。
【0087】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の製造方法によれば、蒸留することなく、過酸化水素の含有量が低減されたオレフィンオキサイドを提供することができる。
【符号の説明】
【0089】
(1)〜(3):反応槽
(4):分解槽
(5):酸素、水素、オレフィン及び希釈ガスの混合ガス供給する管。
(6):反応槽(2)に反応槽(1)から反応溶液を供給する管
(7):反応槽(3)に反応槽(2)から反応溶液を供給する管
(8):分解槽(4)に反応槽(3)から反応溶液を供給する管
(9):還元剤を供給する管
(10):オレフィンオキサイドを含む溶液を取得する管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤及びチタンシリケート触媒の存在下、過酸化水素とオレフィンとを反応させる反応工程と、
前記反応工程で得られた反応溶液に、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を混合する工程と
を含むことを特徴とするオレフィンオキサイドの製造方法。
【請求項2】
還元剤が硫化ナトリウムであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
還元剤がヒドラジンの水和物又はヒドラジンの水溶液であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
オレフィンがプロピレンであり、オレフィンオキサイドがプロピレンオキサイドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。
【請求項5】
溶剤がアセトニトリル及び水の混合溶媒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
チタンシリケート触媒は、ケイ素と窒素とのモル比(Si/N比)が5〜20のTi−MWW前駆体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
溶剤及びチタンシリケート触媒を収容した反応槽に、過酸化水素とオレフィンとを連続的に受け入れて、該反応槽にて反応させ、得られた反応溶液を連続的に以下の分解槽に供給する工程と、
前記工程で得られた反応溶液、並びに、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を、分解槽に連続的に供給し、オレフィンオキサイドを含む溶液を連続的に取得する工程と
を含むことを特徴とするオレフィンオキサイドの製造方法。
【請求項8】
過酸化水素及びオレフィンオキサイドを含む溶液に、硫化物及びヒドラジンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む還元剤を混合させて、過酸化水素を分解する工程を含むことを特徴とするオレフィンオキサイドを含む溶液における過酸化水素を低減する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−246423(P2011−246423A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124101(P2010−124101)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】