説明

オレフィン炭化水素小分子用の熱水的に安定したAg−ゼオライト炭化水素トラップ

独特の蒸気処理レジメンによって加熱された、Ag−ゼオライトを含む炭化水素トラップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒化炭化水素トラップ材料及びこれを製造する方法に関する。より特定的には、本発明は、炭化水素吸着特性を高めるために、その上に交換した状態で銀を有するゼオライトを含む材料に関する。新規な蒸気処理レジメン(蒸気処理処方)がAg−ゼオライトの安定性を高める。
【0002】
なお、本願は、仮出願U.S.Serial No.60/741,336(出願日:2005年12月1日)に対して、優先権を主張している。
【背景技術】
【0003】
炭化水素(「HC」)、一酸化炭素(「CO」)及び酸化窒素(「NOx」)等の有害成分を、無害の成分(水、二酸化炭素及び窒素)に変換する、内燃エンジン排気ガスの処理は、当然この技術分野では公知である。このような変換は、エンジン排気ガス(排ガス)を、1種以上の触媒と接触させることにより達成され、触媒は通常、酸化触媒と還元触媒、又はいわゆる3元触媒(3元触媒は、HCとCOの水と二酸化炭素への酸化、及びNOxの窒素への還元を、実質的に同時に行うことができる。)を含む。
【0004】
エンジン排気ガスからの汚染物質の排出について、かつてない程に厳しくなった政府の規制に適合する上で、一貫して問題になっていることは、触媒、特に酸化触媒が、適切な高変換効率を達成するためには、高温、通常200℃以上又は250℃以上を必要とすることである。従って、エンジンの初期スタートの期間、及びエンジンが冷めている状態の他の期間(これらの期間は、「冷間操作期間(cold operation period)」と称される)では、汚染物質、特に炭化水素の変換は、(変換があったとしても)低効率である。従って、所定の操作期間の間に大気中に排出される、(大半は炭化水素を含む)酸化可能な汚染物の非常に多くの割合が、冷間操作期間の間に排出されるものである。この問題を改善するために、この技術では、炭化水素トラップ材料を触媒と結合して使用することの有利性に着目している。ここで、この炭化水素トラップ材料は、所定のゼオラライト等のもので、(酸化触媒が比較的効力を発揮できない)低温で炭化水素を吸着し、及び(酸化触媒の変換効率が、冷間操作期間の間よりも高くなる)より高い温度でのみ炭化水素を脱着させるものである。
【0005】
このような従来技術の問題の一つは、このようなゼオライト材料が、触媒が許容し得る高い変換効率を達成できる程充分に熱せられる前に、炭化水素を脱着させる傾向を有しており、そして従って、炭化水素を触媒に放出することである。すなわち、ゼオライトを含む従来技術では、一定期間炭化水素を吸着し、これにより状態を改良するが、この一方で、冷間操作期間の後、非常に速く脱着を開始し、これにより触媒が十分に加熱される前に炭化水素が放出されており、このために達成される利益が制限されていた。従って、炭化水素を吸着するか、又は捕捉し、及び炭化水素を維持し、そして炭化水素を酸化するために使用される触媒が、放出温度(この放出温度は、従来達成可能であった温度よりも高いものである)に達するまで炭化水素を放出しない組成物を有することが望ましい。
【0006】
同一出願人による特許文献1(U.S.Pat.No.6,171,556)(公開日、2001年1月9日)は、炭化水素と他の汚染物質を含むエンジン排気ガス流を、少なくとも冷間操作期間の間、処理する方法を開示している。同文献の発明では、吸着剤が分子篩材料を含んで良いと提案しており、分子篩材料は、例えば、フュージャサイト、菱沸石、シリカライト、ゼオライトX、ゼオライトY、超安定ゼオライトY、オフレタイト、及びベータゼオライトからなる群から選ばれる分子篩材料である。特に、Fe/ベータゼオライト等のイオン交換ベータゼオライト(又は好ましくはH/ベータゼオライト)が使用されて良い。ゼオライト、好ましくはベータゼオライトは、シリカ/アルミナモル割合が、少なくとも25/1(有用な範囲は約25/1〜1000/1である)であって良い。特許文献1(U.S.6,171,556)は、参照により、全てここに導入される。
【0007】
特許文献1(U.S.6,171,556)に記載されているように、好ましいゼオライトは、ZSM、Y及びベータゼオライトを含み、ベータゼオライトが特に好ましい。最も好ましくは、吸着材料は、処理によりゼオライトからブレンステッド酸サイトが除去され、及び相対ブレンステッド酸性(relative Bronsted acidity)が1.0未満、好ましくは0.5未満のゼオライトである。このことは、ゼオライトを有機又は無機酸で浸出させることによって達成される。ゼオライトは、この代わりに又は追加的に、蒸気温度を1時間当たり100〜600℃上昇させて、350〜900℃の蒸気で処理可能である。蒸気処理は、相対ブレンステッド酸性を低減させ、及び排気ガス流中で炭化水素吸着のための適用(塗布:application)に使用される場合、ゼオライトの耐性を増加させることがわかった。このようなゼオライトを使用することにより、エンジンテストの間のコークスの形成が著しく低減されることがわかった。特許文献1(U.S.6,171,556)に開示された材料は、大きな炭化水素分子(例えば、>C4)を効果的に吸着させることがわかった。
【0008】
ゼオライトが銀、銅、又は他の材料等のカチオンとイオン交換される各従来技術の他の困難性は、ゼオライト粒子上でイオン交換された、又は分散された銀等の金属イオンから、無機酸化物担体材料上に分散した白金族金属等の触媒成分を分離する必要があることである。このことは、酸化担体の、白金又は白金とロジウム等の触媒金属での含浸と、金属カチオンをゼオライトとイオン交換する操作とが別々にされる、追加的な製造工程と別個の操作を必要とする。仕上げられた炭化水素トラップ/触媒材料を提供するために、イオン交換されたゼオライト粒子と、別個に製造された白金族金属−含浸担体材料粒子とは、次に相互に混合されるか、又は担体の別個の部分に設けられる。
【0009】
同一出願人による特許文献2(U.S.Pat.No.6,074,973)(公開日、2000年6月13日)には、触媒化された炭化水素トラップ材料が公開されており、この触媒化された炭化水素トラップ材料では、銀とパラジウムの両方が、ゼオライト粒子上及び耐化性金属酸化物粒子上に分散されている。同文献の発明の一実施の形態では、銀の大部分はゼオライト粒子上に分散されており、そしてパラジウムの大部分は耐化性金属酸化物粒子上に分散されており、銀は少量のみ金属酸化物粒子上に分散されており、そしてパラジウムは少量のみゼオライト粒子上に分散されている。この発明の触媒化された炭化水素トラップ材料は、耐化性金属酸化物粒子とゼオライト粒子とを、水中に分散又は溶解させた状態の溶解性パラジウム成分及び溶解性銀成分と一緒に、全てを結合させて、パラジウム成分と銀成分のゼオライトと金属酸化物粒子への含浸を行うという方法によって製造されている。得られたスラリーは、次にハニカム型の基体等の適切な基体上に沈殿させて良く、そして高温で焼いて、か焼された触媒化された炭化水素トラップ材料が得られている。特許文献2(U.S.6,074,973)に記載された方法によって形成されたAg−ZSM−5材料は、小さな炭化水素分子(炭化水素小分子)を吸着することができることがわかった。特許文献2(U.S.6,074,973)の全体が、参照によりここに導入される。
【0010】
特許文献2(U.S.6,074,973)に従えば、以下の工程を含む、触媒化された炭化水素トラップ材料を製造する方法が提供される。水、水溶性銀成分、水溶性パラジウム成分、粒子状耐火性無機酸化物固体、及び粒子状ゼオライト固体(ゼオライト固体は、SiのAlにたいする原子割合が少なくとも10であり、そして孔径が少なくとも4オングストロームである。)が結合されて、固体の水性スラリーが形成される。ゼオライトは、1種以上の、ZSM−5、ベータ、Y、MCM−22及びEU−1ゼオライト、例えば、1種以上のZSM−5、ベータ及びYゼオライトを含んで良い。何れの場合でも、得られたスラリーは、パラジウム成分の少なくとも一部と銀成分の少なくとも一部が、無機酸化物固体とゼオライト固体、それぞれに分散されるのに十分な時間、維持される。任意に、パラジウム成分の搭載量(loading)が、ゼオライト固体上よりも、無機酸化物固体上に多くて良く、そして銀成分の搭載量(loading)が、無機酸化物固体上よりも、ゼオライト固体上に多くて良い。スラリーは次に、脱水(排水)されて、脱水固体を形成し、そして脱水された固体は加熱(例えば、空気中で少なくとも約500℃で)される。この加熱は、対イオン、すなわち、製造に使用された金属塩の硝酸塩イオン又は酢酸塩イオン等のアニオンを分解し、そして炭化水素トラップ材料を乾燥固体混合物として製造するのに必要とされる時間、少なくとも行われる。
【0011】
NGK Insulatorの特許文献3(日本国特許文献(公開)8−10566(1996))が、1994年7月5日に出願された特許文献4(日本国特許出願6−153650)に基づいて、及び「A Catalyst−Adsorbent For Puriffication Of Exhaust Gases And An Exhaust Gas Purification Method」という表題で1996年1月16日に公開されている。この文献(以降、「‘650出願」と称する)の要約は、触媒−吸着剤(触媒−吸着剤では、内燃エンジン排気ガス中のCO、HC及びNOxを低減させるのに有効な触媒材料が、冷間排出スタートアップの間の炭化水素を捕捉する吸着剤材料と結合されている。)を開示している。出願‘650の吸着剤材料は、主にゼオライト(ゼオライトは、シリカ−アルミナ割合が40以上であることが好ましく、これらは、ZSM−5及びベータゼオライトを含んでいる。)の粒子を含んでいる。ゼオライト吸着剤は、任意に、金属イオンを、その中に分散した状態で有していて良く、電気的に負のイオンの存在は、HC吸着容量を増加させるとされている。このようなイオンは、銀、パラジウム、白金、金、ニッケル、銅、亜鉛、コバルト、鉄、マンガン、バナジウム、チタニウム、及びアルミニウムを含む。‘650出願は、金属カチオンが、イオン交換又は含浸の何れの方法によってでも、ゼオライトに施されて良いことを開示している。‘650出願では、ゼオライト中に、元素周期表のIB族の元素(銅、銀、金)の少なくとも1種のイオンが存在すると、たとえ水が存在していても、炭化水素の吸着容量が高くなると記載している。銅と銀が好ましく、そしてゼオライト中に交換された銀イオンが、高温でHCを吸着するのに特に望ましいと記載されており、このことが‘650出願のいくつかの実施例に示されている。ゼオライトのイオン含有量は、ゼオライト中のアルミニウム原子に対して、20%を超え、及び好ましくは40%を超えるべきであると記載されている。‘650出願の実施例95は、第1の被覆層における、セリア−安定化アルミナ上のパラジウム、第2の被覆層における銀−及び銅−交換ZSM−5を開示している。表6は、銀のみで交換されたZSM−5を示している。‘650出願は、低温点火特性を最大限に改良するために、パラジウム表面被覆層(この層内では、パラジウムだけが粒子上に担持された唯一の貴金属である。)を形成することが好ましいことを開示している。更に‘650出願は、基体の上に吸着剤ゼオライト材料を含む第1の被覆層を形成することが望ましく、この上に、パラジウム触媒粒子のみを含む触媒材料を含む第2の被覆物(被膜)を設けることが望ましいと記載している。このことは、触媒化されたトラップ材料の優れた耐性(耐久力)と低温点火特性を提供すると記載されている。
【0012】
【特許文献1】U.S.6,171,556
【特許文献2】U.S.6,074,973
【特許文献3】日本国特許文献(公開)8−10566(1996)
【特許文献4】日本国特許出願6−153650
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
小さな炭化水素分子(炭化水素小分子)を捕捉するための炭化水素トラップの開発が試みられている。冷間スタートへの適用のために、数年に渡り、多くの材料が炭化水素トラップとして使用するために試験されてきた。この材料は、耐水性であり、熱水に対して安定である必要があり、そして炭化水素の吸着と脱着のために適正な温度範囲を有している必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の要約
本発明に従い、冷間スタートに適用するために、熱水的に安定なAg−ゼオライト炭化水素トラップを製造する方法が提供される。通常、この方法は、ゼオライトを銀カチオンで交換又は含浸させ、次に高温蒸気処理することを含む。任意に、ゼオライトの第1の温和(mild)な蒸気処理を、ゼオライトに銀を含める前に行って良い。本発明によって形成されたAg−ゼオライトは、熱水的な安定性が改良されており、そして炭化水素分子(小分子を含む)を捕捉するのに効果的である。
【0015】
図面の簡単な説明
図1は、本発明の新規な蒸気レジメン(steam regimen)で形成したAg−ゼオライトと、異なる方法で形成したAg−ゼオライトのIRによる特性を比較した一対のプロットである。
【0016】
図2及び2Aは、それぞれ、従来技術の炭化水素トラップの場合と、本発明の方法によって形成された銀ゼオライトを使用した場合の、エチレン吸着のグラフ比較である。
【0017】
図3は、本発明に従う一実施の形態の、炭化水素トラップ要素の概略的な斜視図である。
【0018】
図4は、図3に関し、端部における正面図であり、図3の要素のガス流流路の幾つかが拡大して示されている。
【0019】
図5は、内燃エンジンの排気ガス路に設けられた、本発明の一実施の形態に従う炭化水素トラップ要素の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明に従うAg−ゼオライトと、このAg−ゼオライトの製造方法は、内燃エンジンの冷間操作期間の間に、エンジン排気ガス流から放出される有害物質の量を最小限にするのに特に適切である。このようなエンジンは、炭化水素燃料によって燃料補給され、そしてその排気ガス(排出ガス)中に、種々の有害汚染物質を放出することが知られている。このような燃料中の炭化水素は、通常、ガソリン又はディーゼル燃料を含むが、しかし、しばしば、エタノール、メタノールを含むアルコールも含む。上述したこれら燃料の混合物も使用可能である。従って、このようなエンジンからの排気ガス流は、炭化水素、NOx、及び一酸化炭素等の汚染物質を含み、これら汚染物質は、州及び/又は合衆国政府の排気ガス基準を満たすようにするために、排気ガスを大気中に放出する前に除去しなければならない。これら汚染物質、特に炭化水素の放出を制御する上での問題は、エンジン操作の冷間スタート期間の間に最も著しくなる。冷間スタート期間の間、エンジンは冷めていて(すなわち、標準操作温度未満)、そしてこの間、汚染物質を無害な物質に変換するために使用される環境触媒(environmental catalyst)は、その操作温度未満である。本発明は、炭化水素吸着剤及びこの炭化水素吸着剤を製造する方法、及びこの炭化水素吸着剤を、エンジン操作の冷間操作期間の間及び後の未燃焼炭化水素の放出を低減するために使用する方法を提供する。
【0021】
本発明の炭化水素トラップ材料として使用可能なゼオライトは、特に制限されるものではなく、そして多くの天然及び合成アルミノシリケート分子篩を含むことができる。天然分子篩の例(本発明は、この例に制限されない。)は、フォージャサイト(faujasite)、クリノプチロライト、モルデナイト、菱沸石、及びフェリエライト(ferrierite)を含む。合成ゼオライト、(すなわち)使用可能なクラスの分子篩は、ゼオライトX、ゼオライトY、超安定ゼオライトY、ZSM−5、オファタイト、ベータゼオライト、及びこれらに類似するものを含むが、本発明はこれらに限定されるものではない。通常、使用される分子篩材料は、平均ミクロ孔径が、少なくとも3.5オングストロームである。代表例では、アルミノシリケート分子篩は、シリカのアルミナに対する割合が、25/1未満であり、そしてより特定的には、本発明のアルミノシリケート篩は、本発明の蒸気レジメン(蒸気レジメンについては、後に詳述する。)の後、シリカのアルミナに対するモル割合が20未満である。本発明のゼオライトの枠内でシリカに対するアルミナの割合は、炭化水素を捕捉する時、吸着材料に形成されるコークスの量が低くなるためには十分に高く、そして、炭化水素の捕捉を改良する、銀のための交換サイトの効果的な数を提供するためには、十分に低いおのである。蒸気処理後の、本発明の銀交換されたゼオライトは、操作の間、改良された熱水的安定性も示す。
【0022】
本発明の銀ゼオライトは、銀イオン交換又は銀塩含浸と、これに続く高温での蒸気処理を含む以下の工程を含む。任意に、銀交換又は含浸の前に、第1の温和な蒸気処理を行うことができる。本発明に従い、第1の蒸気処理は、温度範囲が約375から600℃未満(更に、400から550℃が例示される)の比較的温和な条件で行われる。通常、蒸気濃度は、約5〜50%の範囲で変動し、5〜30%の範囲及び約10%が例示され、空気で調節することが有用であるとわかった。蒸気処理の継続時間は、ゼオライトを処理するのに効果的な時間であり、そして典型的には、約0.5〜6時間、及び好ましくは約1〜4時間である。蒸気処理は、シリカのアルミナに対する割合を大きく増加させない。しかしながら、この温和な蒸気処理は、ゼオライトの骨格からアルミナの少なくとも一部を除去することにより、ゼオライトの酸性を低減させると信じられている。従来技術と異なり、ゼオライトは大きく脱アルミナされることがなく、ゼオライト内に十分な交換容量を維持し、そしてイオン交換の間、ゼオライトの、銀の適切な搭載レベルを効果的に提供することが重要である。第1の温和な蒸気処理の前に、ゼオライトがH+又はNH4+カチオンで交換され、ゼオライトのナトリウム含有量が低減されることが好ましい。
【0023】
温和な蒸気処理に続き、ゼオライトは次に、この技術分野では公知の方法で、銀カチオンと交換される。通常、水性スラリー中で蒸気処理されたゼオライトは、硝酸銀、酢酸銀等の水溶性銀塩と接触され、この接触は、ゼオライトに適切なレベルの銀を搭載するために十分な時間行われる。通常、交換されたゼオライトの銀含有量は、銀と捕捉ゼオライトの合計質量に対して、約1〜約15質量%Agである。Agとして、約4〜約8質量%の銀レベルも例示される。銀のゼオライトへの交換は、1工程又は複数工程で行うことができ、各交換の後、銀交換されたゼオライト固体は、濾過により液体から分離され、濾過されたケーキ(塊)は、脱イオン水で洗浄され、そして濡れた状態のケーキが典型的には、約80〜120℃の温度で乾燥される。
【0024】
本発明に従えば、温和な条件で蒸気処理されたゼオライトの銀交換に続き、銀交換されたゼオライトは、上述した温和な蒸気処理操作の間に使用した温度よりも高い温度で再度蒸気処理される。通常、この第2の蒸気処理では、銀イオン交換したゼオライトは、約600〜900℃、好ましくは約700℃〜850℃で処理される。約800℃の蒸気温度も例示される。蒸気濃度は、約5〜100%であり、5〜50%が好ましく、そして10%蒸気濃度(空気で調節)が例示される。蒸気処理は、大気圧で行われることが好ましい。蒸気処理の継続時間は、通常、約0.5〜16時間の範囲であり、約1〜8時間及び約4時間が例示される。第2の蒸気処理の前に、ゼオライトが銀で交換されることに関し、この比較的厳しい蒸気処理は、如何なる意味においてでも、シリカのアルミナに対する割合を増加させない。しかしながら、ゼオライトの骨格から、交換された銀を含まないアルミニウムの一部を除去することによりゼオライトの酸性を低減させると信じられている。この第2の蒸気処理は、ゼオライトの熱水的な安定性を改良することがわかった。本発明の方法によって処理されたゼオライトは、図1のIRによって特性化され、このことについては、以下の実施例で詳細に説明する。
【0025】
第1の温和な蒸気処理を省略し、そして銀とのイオン交換を直接行い、次に高温蒸気処理を行うことにより、同一の方法を簡略化(単純化)することができる。更に、Ag+イオン交換手順は、Ag+塩溶液含浸又は初期湿潤(incipient wetness)によって替えることができ、次に高温蒸気処理を行うことができる。
【0026】
本発明の銀含有ゼオライトは、プラチナ、パラジウム、及びロジウムの1種以上を含む酸化触媒と結合させることができる。通常、銀含有ゼオライト及び酸化触媒は、別々に製造され、そして基体上の単一の被覆物中で相互に親密に混合された粒子の状態で使用するか、又は相互に重ねて被覆された、別々のゼオライト及び触媒層を有する状態で使用するかのいずれにおいてでも使用可能である。更に、出願人が同一の、上述したU.S.Patent No.6,074,973に記載されているように、耐火性無機酸化物担体と粒子状ゼオライトの混合物も、銀とパラジウムで一緒に処理されて良い。更に、本発明の銀含有ゼオライトを、出願人が同一の,U.S.Patent No.6,171,556に記載されているような、公知の他の炭化水素吸着剤と使用することも可能である。炭化水素吸着剤は、親密に混合した層、又は別々の層として担体基体に施すことができる。
【0027】
本発明の炭化水素吸着剤材料は、分子篩、好ましくは上述のように蒸気処理されたAg−ゼオライト、及びワッシュコートバインダーとも称されるバインダーを含む組成物である。典型例ではスラリーの処方物中に使用するための、ワッシュコートバインダーは、アルミナ、シリカ、セリア、及びジルコニアのゾル;無機及び有機塩及びアルミニウム、シリコン、セリウム、及びジルコニウムの(硝酸塩、ニトリル、ハロゲン化物、サルフェート、及びアセテート等の)ものの加水分解生成物;アルミニウム、シリコン、セリウム、ジルコニウムの水酸化物及び上記成分の全ての混合物を含むが、本発明はこれらに限定されるものではない。シリカに加水分解する有機シリケート(テトラエチルオルトシリケートを含む。)もバインダーとして有用である。
【0028】
Ag−ゼオライトとバインダーの相対割合は、約1〜20質量%の範囲、及び好ましくは約5〜約15質量%の範囲が可能である。好ましい複合体(composite)は、約90質量%のAg−ゼオライトと約10質量%のシリカゾルを含む。シリカゾルは、実質的にアルミナを有していないことが好ましい。
【0029】
吸着剤材料は、それ自体公知の方法で、固体モノリス担体に析出(沈殿)させて良い。吸着剤を、吸着剤用に構造的な担体を提供する不活性担体材料上に、析出状態の薄いフィルム又は被覆物(被膜)として施すことが、通常最も便利である。不活性担体材料は、セラミック又は金属性材料等如何なる耐火性材料でも可能である。この代わりに、この技術分野では公知なように、吸着材料をペレット又はビーズの状態で、流路キャニスター内に設け、吸着床を形成し、吸着床を通って排気ガスが流れるようにしても良い。更に他の実施の形態では、吸着剤材料を押出成形して良く、又は他にモノリス状態に形成して良く、そして排気ガス流内に配置して良い。
【0030】
組成物の吸着剤成分の量は、所定の要因(この要因は、吸着されるべき特定の炭化水素、特定のゼオライトとバインダーの組合せと濃度、炭化水素を含む流れの条件及びこれらに類似するものを含む)に基いて変化可能である。典型例では、吸着剤組成物は、ハニカム等のモノリスを被覆するのに使用するための、固体の百分率が5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%の水性スラリーである。結果として得られるモノリスは、吸着剤材料で被覆されていることが好ましく、そして被覆量は、ゼオライト吸着剤化合物に対して、好ましくは0.3〜3.0g/in3、及びより好ましくは0.5〜2.5g/in3である。
【0031】
通常、吸着剤領域は、エンジン出口に過度に接近して設けられるべきでない。この理由は、吸着剤材料が排気ガスの高温度を被り、吸着剤領域の下流に設けられた触媒が効果的な操作温度に達する前に、吸着剤材料が捕捉していた炭化水素が早期に脱着されるからである。例えば、炭化水素トラップが、通常の自動車排気系のアンダーフロア(床下)に配置された場合、炭化水素は、短い期間でしか効果的に吸着を行わず、そして下流に設けられた酸化触媒が所望の反応温度に達する前に脱着する。しかしながら、排気管に配置されたトラップは、炭化水素を効果的に維持すると考えられる。当然、トラップは、炭化水素変換触媒の上流に配置し、炭化水素が最終的に脱着された時、これらが無害の物質に変換されるようにしなければならない。従って、吸着剤領域は、エンジン排気系(engine exhaust system)内の箇所において、炭化水素変換触媒の上流であるが、しかし、可能な限りエンジンから遠い箇所に設けられる(エンジンから遠い箇所に設けることにより、排気ガスは、吸着剤領域に入る前に幾分かは冷却される)ことが好ましい。吸着剤領域をこのように配置することで、及びここで説明するように第1と第2の触媒領域の間で熱交換を行なうことにより、初期冷間スタート操作の間の、吸着剤材料による吸着炭化水素の保持(期間)が延長される。
【0032】
図3は、触媒化炭化水素トラップ要素10を示している。触媒化炭化水素トラップ要素10は、外側表面12及び複数の微細な平行ガス流路16を有しており、平行ガス流路16は、入口表面14から、出口表面14’まで延びている。図4に示したように、ガス流路16は、複数の壁18によって規定されている。ガス流路16を規定している壁18はその表面に、薄い、乾燥した及びか焼したワッシュコート20を有している。ワッシュコート20は、本発明の触媒化された炭化水素捕捉材料を含んでいる。従って、ワッシュコート20は、銀を含んだゼオライト、例えば、ZSM−5及び/又はベータを含み、任意に所定量のパラジウムを、広い表面積を有する担体(例えば、ガンマアルミナ)上に分散した状態で含む。使用する場合、触媒トラップ要素10は、適切な容器(通常ステンレススチール)内に配置され、そしてこの技術分野の当業者にとって公知の方法で、内燃エンジンの排気路に挿入され、これにより、排気ガスがトラップ要素10の入口表面14から出口表面14’へとガス流路16を流れる。
【0033】
図5は、要素10の代表的な使用環境を概略的に示している。図示したガソリン燃料のエンジン等の内燃エンジン22は、排気ガスパイプ24を有している。エンジン22から、直接的に排出された排気ガスは、排気ガスパイプ24の第1の区域を流れ、ステンレススチール製のキャニスター26(キャニスター26は、排気ガスパイプ24に挿入(連結)されている。)内に含まれている要素10で捕捉される。排気ガスは、トラップ要素10のガス流流路16(図3及び4参照)中を、(上述した処理のためにワッシュコート20と接触した状態で)流れる。トラップ要素10から排出された排気ガスは、排気ガスパイプ25の第2の区域に排出され、そして触媒要素28に案内される。触媒要素28は、如何なる公知の、又は適切な酸化触媒又は三元変換触媒(酸化触媒又は三元変換触媒は、触媒化ワッシュコートを含む)を、トラップ要素10に類似したモノリスに分散した状態で含んで良い。従って、触媒要素28の触媒材料は、触媒要素28(触媒要素28は、ステンレススチールキャニスター30内に、公知の方法で収納されている。)のガス流流路を規定している壁に被覆される。触媒要素28からの排気ガスは、大気に排出される。
【0034】
本発明について、特定の実施の形態を用いて説明を行ったが、本明細書の記載から、開示した実施の形態の変形例が、この技術分野の当業者によって行われ得る。このような変形例は、請求の範囲に含まれるものと理解される。
【実施例】
【0035】
実施例1
以下のNH4+状態のゼオライト30グラム:フェリエライト(ferrierite)、モルデナイト、ZSM−5、及びベータ;を空気中10%の蒸気を使用し、500℃で4時間、蒸気処理した。10グラムの蒸気化ゼオライト試料を、銀を使用して以下に説明する実施例2に記載した手順に従い、イオン交換した。
【0036】
実施例2
17グラムのAg硝酸塩を、ブレーカー内で、室温で攪拌しながら、500mlの脱イオン水に溶解した。透明な(澄んだ)溶液が得られた後、実施例1のNH4状態のゼオライト粉23グラムを、銀硝酸塩溶液に徐々に加えた。この懸濁液を室温で一晩(又は5時間、室温で)攪拌した。攪拌を止め、固体を沈殿(安定化)させた。頂部の浮遊物を排出し、そして濾過により固体を分離した。フィルターケーキ(濾過塊)を脱イオン水で3回洗浄(各回につき200mlの水)した。この濡れた状態のケーキを炉内で100℃で乾燥した。各ゼオライト試料は、4〜5質量%のAgを含んでいた。
【0037】
実施例3
2グラムの各Ag+イオン交換ゼオライトを800℃で4時間、空気中10%の蒸気下に蒸気処理した。
【0038】
実施例4
実施例1〜3(8.4%Ag)で形成されたフェリエライト試料を、IRで特性化(キャラクタライズ)を行い、そして蒸気処理を行っていないが、しかし400℃で4時間か焼した銀交換したフェリエライト(8.4%Ag)の特性化と比較した。か焼の前に、実施例2の手順を使用して、比較試料をAg+で2回交換した。図1に比較結果を示す。図示のように、本発明に従い蒸気化された試料は、酸サイトの量が減少している。
【0039】
実施例5
図2及び図2Aは、FTP75(Feferal Test Protocol 75)の冷間スタート期間の間での、エチレンの捕捉におけるベータゼオライト材料とAg交換したフェリエライトを比較している。図2及び図2Aは両方とも、X軸は経過時間(run time)(秒)を表し、左側Y軸は、エチレン濃度(ppm)を表し、及び右側Y軸は車両速度(mph)を表している。図2のHC吸着剤は、搭載量が2g/in3のベータゼオライト(Si/Al=300)だけでできている。一方、図2AのHC吸着剤は、搭載量が等しく1g/in3の、ベータゼオライト底部層及び(本発明に従い形成された)Ag−フェリエライト頂部層からできている。両方の場合において、Pd層及びRh層が、HC吸着剤層の頂部に被覆されており、コンボキャットデザインを完成させている。図2及び図2Aは、同一のPd層及びRh層を分けている。2個の触媒を800℃/50時間、燃料カットエンジン条件(ラムダ1で25秒、5秒燃料カット)下で単独(密接結合触媒なし)で熟成させた。次に吸着剤を、密接結合触媒(close-couple catalyst)を上流に有した状態で、フロア(床)位置下でFTP75のために評価した。質量スペックデータを、別個のランの中間床(入口からHCトラップ)及び排気管(tailpipe)で収集し、そして吸着特性を比較した。ベータゼオライトだけを含む(Ag捕捉センター無し)HCトラップ層を表している図2では、中間床と排気管は、類似したエチレン吸着プロフィールを示しており、ベータゼオライトによるエチレン吸着が無いことを示している(中間床と排気管データが同一のランで集められた場合には、2つの曲線は、完全にオーバーラップすると考えられる。)。追加的なAg−フェリエライトの層を含むHCトラップ層を表す図2Aでは、大きなエチレン吸着が観察された。このことは、熱水熟成の後、Ag−フェリエライトが高い捕捉容量を有することを裏付けている。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の新規な蒸気レジメンで形成したAg−ゼオライトと、異なる方法で形成したAg−ゼオライトのIRによる特性を比較した一対のプロットである。
【図2】図2は、従来技術の炭化水素トラップの場合と、本発明の方法によって形成された銀ゼオライトを使用した場合の、エチレン吸着のグラフ比較である。
【図2A】図2Aは、従来技術の炭化水素トラップの場合と、本発明の方法によって形成された銀ゼオライトを使用した場合の、エチレン吸着のグラフ比較である。
【図3】本発明に従う一実施の形態の、炭化水素トラップ要素の概略的な斜視図である。
【図4】図4は、図3に関し、端部における正面図であり、図3の要素のガス流流路の幾つかが示されている。
【図5】内燃エンジンの排気ガス路に設けられた、本発明の一実施の形態に従う炭化水素トラップ要素の外観図である。
【符号の説明】
【0041】
10 トラップ要素
12 外側表面
14 入口表面
14’ 出口表面
16 平行ガス流路
18 壁
20 ワッシュコート
22 内燃エンジン
24 排気ガスパイプ
26 キャニスター
28 触媒要素
30 キャニスター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水的に安定したゼオライト炭化水素トラップを製造する方法であって、
ゼオライトを銀で交換又は浸漬する工程、そして次に銀ゼオライトを、少なくとも600℃の高温で蒸気処理する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ゼオライトは、平均孔径が少なくとも3.5オングストロームである、天然又は合成ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
銀交換又は浸漬の前に、前記ゼオライトを、600℃未満の温度の、軽度の蒸気処理条件で蒸気処理する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記銀ゼオライトが、約1〜約15質量%の銀を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1の方法によって形成された炭化水素トラップ材料。
【請求項6】
前記銀ゼオライトが、約1〜約15質量%の銀を含むことを特徴とする請求項5に記載の炭化水素トラップ材料。
【請求項7】
前記炭化水素トラップ材料が、流路モノリス担体の流路内で被覆化されていることを特徴とする請求項6に記載の炭化水素トラップ材料。
【請求項8】
内燃エンジンからの排気ガスを処理する方法であって、
排気ガスを、請求項1に記載の方法によって形成された炭化水素トラップ材料と接触させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記銀ゼオライトが、約1〜約15質量%の銀を含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記炭化水素トラップ材料が、流路モノリス担体の流路内で被覆化されており、そして前記排気ガスを前記炭化水素トラップ材料と接触させる工程を行った後、前記排気ガスを酸化触媒と接触させる工程が行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−518162(P2009−518162A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543469(P2008−543469)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際出願番号】PCT/US2006/045871
【国際公開番号】WO2007/064808
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(507276151)ビーエーエスエフ、カタリスツ、エルエルシー (47)
【Fターム(参考)】