説明

オレフィン重合体の製造方法

【課題】触媒の存在下にオレフィンを気相重合反応させるオレフィン重合体製造プロセスにおいて、簡易な設備で効果的に粉体状オレフィン重合体を抜き出すことができる。
【解決手段】特定のB工程による抜き出しを常時一定量行いつつA工程による反応器からの抜き出しを行い、かつ、特定のA工程による抜出量を調整することで反応器内部の粉体状オレフィン重合体の保有量が一定になるよう、反応器からの粉体状オレフィン重合体の抜き出しを行う。本発明における、触媒の存在下にオレフィンを気相重合反応させるオレフィン重合体製造プロセスにおいては、流動床反応器によりエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンなど炭素数2-20のオレフィン類を、単独重合または複数を組合わせて重合が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィン重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、触媒の存在下にオレフィンを気相重合反応させるオレフィン重合体製造プロセスにおいて、流動床反応器で製造された粉体を効率的に抜き出すことの出来る特徴を有するオレフィン重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不飽和二重結合を有する炭素数2〜24程度のオレフィン重合体は、さまざまな用途に用いられる有用な物質であり、流動床反応器で触媒を用いて気相重合させ製造されることが多い。一般的に、流動床反応器では粉体状オレフィン重合体が製造され、反応器から抜き出されて後段の工程に送られる。反応器からの粉体状オレフィン重合体の抜き出し方法についてはこれまでさまざまな方法が提案されてきたが、不適切な抜き出し方法を用いた場合問題が発生する可能性がある。
【0003】
このようなオレフィン重合体製造プロセスにおいて、製造された粉体状オレフィン重合体の抜き出し方法として、例えば、流動床反応器の特定の2つの区間のそれぞれに、少なくとも1個の抜き出し工程を設け、オレフィン重合体パウダーと共に塊化物をも効率よく抜き出すことができるオレフィンの重合方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法は配管と遮断弁を用いて反応器と下流の受け容器の圧力差で抜き出す方法であり、連続的に抜き出してもよいが間欠的に抜き出すのが好ましいと記載されている。しかし、間欠抜き出しに関する詳細は記載されているが、連続的な抜き出しを行う場合の設備の詳細や、抜き出し配管の詳細な使用方法についての具体的記述はされていない。
【0004】
間欠抜き出しのみで抜き出す一般的な方法では、抜き出し後に弁を閉としてから抜き出し配管内部に残留した粉体を洗い流すために粉体を含まないガスを毎回投入する必要があるが、このような間欠抜き出しを行った場合における配管洗浄ガスの供給方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では、反応ガスの一部を洗浄に用いている。そのため、洗浄に使用したガスは下流側受け容器へ入ることになり、その結果下流側へのガスの流量が増加しこのガスの処理(反応器へのリサイクル、もしくは外部抜き出し)負荷が増加することが問題となる。洗浄ガスを削減すると抜き出し配管の洗浄が不完全になり、配管の閉塞を引き起こすおそれがある。
【0005】
また、抜き出した重合体粉末を下流側に配設した流動床反応器に連続的に導入するように、ロータリーバルブを用いた抜き出し方法が挙げられる(特許文献3参照)。この方法はパウダーを連続的に抜き出すことが出来るため反応器その他の脈動が少ない点や、反応器からのパウダーに同伴して抜けるガス量が少ない点で優れている。しかしこの場合、ロータリーバルブの破損などのトラブルの可能性が付きまとう。すなわちロータリーバルブは、例えば、塊が噛みこむなど想定外の負担がかかった場合などにケーシングと回転体の隙間が維持できずに接触して停止する可能性があり、接触し停止した場合には接触部分の金属が磨耗し金属粉となって製品に混入することが多い。金属粉が混入した製品は著しく価値が低くなり、正規の製品としての扱いができなくなる。従ってこのようなトラブルが発生した場合、金属粉が混入した可能性を有する相当な量の製品が価値を失うことになる。このようなリスクを避けるためにロータリーバルブのクリアランスを広く取り接触の可能性を下げることも行われるが、その場合広げたクリアランスからガスのリークが発生し、下流側へ流れるガスの増加を引き起こす。
【0006】
他の抜き出し方法としては、反応器からの抜き出し配管の途中にコントロール弁を用いて調整を行う方法も知られている。この方法は、塊化物を吸込むことでコントロール弁が閉塞する問題がある。この問題の解決方法として、塊化物を吸い込まないよう反応器内部にグリッドの設置を行って連続で抜き出している(特許文献4参照)。しかし、この方法では、もし反応器内部のグリッドに塊が引っかかり流れが無くなった場合、外部からグリッドを清掃することができず、反応器を開放し塊を除去するまでその配管を使用することが出来なくなる問題がある。
【0007】
以上のごとく、これらの方法はいずれも何らかの問題を抱えており、より簡便な方法でその解決が求められてきた。
【0008】
【特許文献1】特開2001−139605号公報(第1頁〜第5頁)
【特許文献2】特開2005−068207号公報(第1頁〜第6頁)
【特許文献3】特開2000−344804号公報(第1頁〜第9頁)
【特許文献4】特表2002―530441号公報(第1頁〜第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かかる状況において、本発明は、触媒の存在下にオレフィンを気相重合反応させるオレフィン重合体製造プロセスにおいて、流動床反応器で生成した粉体状オレフィン重合体を簡易な設備で効果的に抜き出すことができるオレフィン重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、触媒の存在下にオレフィンを気相重合反応させるオレフィン重合体の製造プロセスにおいて、流動床反応器で製造された粉体状オレフィン重合体の反応器からの抜き出しに際し、下記A工程およびB工程を含む抜き出し方法であって、B工程による抜き出しを常時一定量行いつつA工程による反応器からの抜き出しを行い、かつ、A工程による抜出量を調整することで反応器内部の粉体状オレフィン重合体の保有量が一定になるよう、反応器からの粉体状オレフィン重合体の抜き出しを行うことを特徴とするオレフィン重合体の製造方法に係るものである。
A工程:流動床反応器の分散板から垂直上方向へH1(m)の位置に設けた遮断弁を有する配管を用い、遮断弁を全開、全閉することで反応器と下流の受け容器の圧力差で間欠的に抜き出す工程であり、遮断弁の開時間と弁を開ける周期を変化させることにより抜き出し量を調整することのできる間欠抜き出し工程
B工程:流動床反応器の分散板から垂直上方向へH2(m)の位置に設けた配管を用い、流動床反応器で製造される粉体状オレフィン重合体の時間あたりの生産量を100%としたとき、反応器における粉体状オレフィン重合体生産量の10〜90%の範囲内の一定の量を、弁などで調整することなく反応器と下流の受け容器の圧力差で一定量を連続的に抜き出すことができるよう設計された配管を用いて反応器から粉体状オレフィン重合体を連続的に抜き出すことができる抜き出し工程、
但し、流動床反応器の流動床の高さをH3(m)としたとき、H1、H2およびH3は、式(1)および式(2)の関係を満足する。
1<H2≦H3 (m) (1)
0≦H1≦1.1(m) (2)
【発明の効果】
【0011】
本発明により、触媒の存在下にオレフィンを気相重合反応させるオレフィン重合体製造プロセスにおいて、反応器で生成した粉体状オレフィン重合体を抜き出す工程としてA工程およびB工程を併用して粉体の抜き出しを行うと、併用しない場合に比較してA工程の遮断弁の開閉頻度を約40%削減、ガスの抜け量も約25%減少させることができるという優れた効果を有する、簡易な設備で効果的に粉体状オレフィン重合体を抜き出すことができるオレフィン重合体の製造方法の提供が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における、触媒の存在下にオレフィンを気相重合反応させるオレフィン重合体製造プロセスにおいては、流動床反応器によりエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンなど炭素数2-20のオレフィン類を、単独重合または複数を組合わせて重合が行われる。流動床反応器における圧力は0.1−50MPaGで反応させることが可能であるが、一般的に1−3MPaGで反応させることが多い。
【0013】
触媒は、チーグラーナッタ触媒もしくはメタロセン触媒が用いられ、必要に応じてアルキルアルミが投入される。重合温度は一般的に10−200℃の範囲内であるが、40−100℃程度が好ましい。製造されたオレフィン重合体粉体は、抜き出し配管径よりも小さい粒径を持つものであればよいが、あまりにも粒径が小さすぎる場合他の部分で問題を引き起こすことがあるため、そのような問題を起こさない一般的な粒径、たとえば100μm〜3000μmの範囲の粒径を持つオレフィン重合体粉体であることが好ましい。
【0014】
以下、本発明の製造工程の1例の概略を示すフロー図(図1)に基づいて、詳細に説明する。図1に示したオレフィン重合体の製造工程は、流動床反応器1、循環ガス熱交換器2、循環ガスコンプレッサー3、ガス分散板4、間欠抜き出し工程(A工程)5、連続抜き出し工程(B工程)6、触媒供給配管7、原料供給配管8、下流側受け容器9、製品抜き出し配管10等を含むように構成されている。次工程には図示していないが生成したオレフィン重合体を処理する乾燥機、混練造粒機等がある。
【0015】
A工程は、流動床反応器1から下流側受け容器9まで、粉体状オレフィン重合体を反応器内部で発生した塊化物と共に反応器と下流の受け容器の圧力差で間欠的に抜き出す際に使用される工程である。この工程は反応器の出口付近に遮断弁を設け、この遮断弁を開閉することにより抜き出しを開始または停止することができる。遮断弁は、ボール状の回転体を回転させることで閉止を行う形状のものであって、かつ、高作動頻度に耐えうるものを用いることが好ましい。しかし、そのような弁を用いても弁の破損の可能性が無くなるわけではない。そのような用途に用いられる弁は作動回数の過多が原因となって破損することが多いため、作動回数を減らすように運転することで弁の寿命を延ばすことができる。しかし同じ抜き出し量を維持したまま、間欠作動する弁の作動頻度を削減しようとすると、1回あたりの弁の開時間を延ばして抜き出し量を増加させる必要が出てくる。差圧を用いた粉体抜き出しでは、反応器から下流側受け容器へガス同伴で抜けるため、1回あたりの弁開時間を延ばすことで反応器からの抜き出しに伴う反応器の圧力変動、保有量変動や下流側受け容器の圧力変動が大きくなる。特に反応器の圧力変動は反応器でのオレフィン重合反応速度へ与える影響が大きく、運転を乱す可能性が高くなるため、反応器の圧力変動は極力避けるよう運転する必要がある。以上のような理由から、変動を許容範囲に抑えつつ弁作動頻度を削減するのは限界があるといえる。また、弁の破損に伴う抜き出しラインの機能不全以外にも、塊を吸い込むことによる配管閉塞の可能性もある。そのためA工程の抜き出し配管を2本以上設置しておくことにより、弁の破損や閉塞に対して好適に対処できる。例えば、配管を2本以上設置することで、もし配管が閉塞しても一方のA工程の配管を用いて運転を継続しながら、閉塞したA工程の配管の詰りを除去することが可能になる。A工程の配管を2本以上設置したとき、1本を予備として待機させておくことも可能である。しかし予備待機させていた場合、予備待機の形態にもよるが抜き出し開始まで必要な弁操作が多くなることが多い。そのため、抜き出し再開まで時間を要してしまうことで抜き出し配管の閉塞が反応器保有量の乱れに発展しかねない問題がある。そのため好ましくは2本以上のA工程の配管を有するときは、開閉頻度を1:1の比率もしくは、任意の比率で2本以上常時A工程の配管を開閉し運用しておくことが好ましい。A工程の2本を常時間欠的に運用しておくことで、もし1本のA工程配管が閉塞したとしても、もう1本でのA工程配管での抜き出し量を調整することで、A工程配管閉塞による反応器への影響を最小限に食い止めて運転を継続できるメリットがある。
【0016】
A工程に用いられる配管は、オレフィン重合体の塊化物を吸い込む可能性を考慮し配管径は25mm〜200mm程度であることが好ましい。この配管は間欠抜き出しに用いるため、遮断弁の前後に粉体を含有しない清浄なガスの投入口を設置し、粉体抜き出し完了時は清浄なガスを投入して抜き出し配管、弁内部のオレフィン重合体の粉体を下流側受け容器に押し出し、内部への滞留を防止する必要がある。このときの洗浄ガスには、粉体を含有しない清浄なモノマーガス、もしくは粉体を含有しない清浄な反応ガスの一部や不活性ガスを用いることができるが、粉体を含有しない清浄な反応ガスの一部を用いるのが好ましい。
【0017】
またA工程の配管内部における抜き出しを行っている間のガスの流速は、最も遅い部分であっても50m/s以上の速度で流れるように設計された配管を用いることが好ましい。一般的に、粉体を気体で搬送する際は搬送するためのガスの流速は最低でも10m/s以上であることが好ましいとされているが、反応器からの抜き出しを行うための配管の場合は小型の塊が混入することがあり、10m/sでは配管に入った塊を搬送しきれず閉塞を引き起こす懸念があるからである。特に配管の内径に近い大きさの塊は、配管内部に引っかかりながら流れることがあるため、一般的な粉体搬送時のガス流速である10m/s程度の速度では、このような塊を搬送することは困難であるためかなりの流速が必要とされる。
【0018】
反応器と下流の受け容器の圧力差で抜き出しを行う場合、配管が上流から下流まで同一径ならば、圧力損失により下流に行くに従い圧力が低下、ガス体積が増加し流速が早くなるため、最も流速が遅くなるのは反応器付近の配管となる場合が多い。従って最も流速の遅い反応器付近の配管の流速を50m/s以上まで高めるためには、抜き出し配管の反応器付近の部分の配管径を変えずに抜き出し量を増加させる必要がある。反応器と下流の容器の圧力が一定ならば差圧が一定であるため、このような配管で反応器付近の配管流速を上げるには抜き出し量を増加させる必要がある。そのために抜き出し配管を短く設計する、下流に行くに従い段階的に配管径を増加させるなどして、圧力損失を低下させ流量を増加させる方法が採用される。現実的には機器配置の関係上、配管長さの調整には限界があり、また下流側の配管口径を何段階にも拡大させる設計等はコストアップ要因となる。このような場合、配管長さはおおよそ20−70m程度として閉塞しやすい水平部を持たないようにして、運転条件から導き出される必要な抜き出し量からおおよその配管径を決定したうえで、配管は下流に行くに従い1−2段のサイズアップにとどめるよう設置し、反応器出口部分の配管内部におけるガス流速を50m/s〜120m/s程度、好ましくは50〜90m/s程度になるよう決定するのが好ましい。こうすることで経済的に目的を達成しかつ配管の振動や減肉といった問題を効果的に防止できるようになる。もちろん適切な間隔で配管サポートを設置する、減肉しにくい適切な材質、閉塞しにくい適切な形状の配管を使用する他に、配管内部での凹凸となる弁やノズルを極力少なくする、配管内部における段差を少なくするなど、塊化物の発生を未然に防止しトラブルが発生しにくくなるよう配管設計を行う必要があるのは言うまでもない。
【0019】
A工程における間欠抜き出し配管は、反応器におけるオレフィン重合体生産量の0〜100%に対応できる抜き出し能力を持った配管であることが好ましい。スタート時等の低負荷運転を行う場合、A工程のみを用いて抜き出しを行い、塊化物を発生させる危険性が高い運転不安定時に優先的に塊化物の抜き出しを行うことができる。A工程の配管はB工程にくらべ大口径であり反応器における取出し位置も低いことから安定的に塊化物排出が可能である上に、弁開時間やそのサイクルを調整することで比較的自由に低負荷運転に対して対応が可能であるので、負荷変動に追従しやすい利点がある。
【0020】
一方、高負荷安定運転時においては、反応器内部で塊を発生させる危険性も低下するので、反応器から粉体に同伴し抜けていくガスを削減してエネルギーロスを減少させるために、生産量が増加し十分に系が安定したところからB工程による粉体状オレフィン重合体の抜き出しを開始するのが好ましい。
【0021】
B工程は、流動床反応器からの粉体状オレフィン重合体を反応器と下流の受け容器の圧力差で連続的に抜き出す際に使用する工程である。B工程に用いられる配管は反応器の出口付近には、緊急用の遮断弁を設けるが、あくまでも緊急用の遮断弁であり通常は全開にして粉体状オレフィン重合体は連続的に抜き出される。B工程に用いられる遮断弁はボール弁のように全開時に内部凹凸が少なく、弁内部の流れがスムーズなものを用いことが好ましい。通常運転において、B工程は緊急遮断弁を常時全開とし、反応器と下流側受け容器の差圧が配管の圧力損失と等しくなる流量にして常時抜き出しを行う。また、B工程に用いられる配管も、可能性は低いが重合活性のある粉体を取り扱う関係上閉塞する危険が0にはならないため、2本以上設置し最低でも1本は予備として待機させておくことが好ましい。B工程配管を2本以上設置することでもしB工程に用いている配管が閉塞しても、予備のB工程配管を用いて運転を継続しながら、閉塞したB工程配管を遮断弁で遮断した上で配管の詰まり除去を行うことができる利点があるからである。
【0022】
B工程に用いられる配管は、B工程による抜き出し量(同時に複数のB工程配管を用いて抜き出しを行う場合はその合計)が生産量の10〜90%となるように設計するのが好ましい。B工程による抜き出しは、遮断弁を全開にして流量を調整せずに行うので、前述したように抜き出し量は配管径と長さで決定され、抜き出し量の調整を行う手段を持たない。そのため、好ましくはB工程による抜き出し量合計が反応器における最大生産量の50〜70%となるように、適切な長さ、適切な直径のB工程配管を設置する必要がある。しかし、B工程に用いられる配管径が10mm以下では抜き出し量が非常に小さくなり、一般的な流動床反応器の生産能力から考えると非効率的であり、また抜き出し配管内面の汚れ付着による有効配管径の減少も発生しやすくなるので、14mm以上、好ましくは25mm以上の内径を有する配管を用いることが好ましい。B工程に用いられる配管についても、塊化物を吸い込む可能性を考慮しA工程の配管と同様に抜き出し時における配管内部の最も遅い部分のガス流速が50m/s以上になるように配管長さを決定することにより、塊化物を吸い込んだとしてもスムーズに排出できるようすることができる。
【0023】
このようにして設計されたB工程を用いて、B工程による抜き出し量(同時に複数の配管を用いて抜き出しを行う場合はその合計)が反応器生産量の一部を抜き出す場合、もし反応器内部で塊化物が発生したとしてもA工程による抜き出しによって反応器からの塊化物を速やかに排出することができる。もちろん、反応器内部での塊化物の発生量がほとんどない場合は、A工程による抜き出しをさらに削減することが可能である。しかし、A工程による抜き出しをさらに削減していった場合、A工程の作動頻度が減小するので反応器保有量の調整が困難となる。
【0024】
B工程による抜き出し量は生産量の安定性や反応器内部での塊の発生量といったプロセス上の特性を十分考慮した上で決定される。B工程における抜き出し量は、反応器における生産量の90%程度を上限とし、A工程による抜き出しを10%程度残しておくことを目安にして設計することにより好適に対応することができる。逆に、生産量に対するB工程の抜き出しの比率が少なすぎると、B工程により得られる連続抜き出しの効果が少なくなりB工程を設けた利点が小さくなる。したがって、B工程による抜き出し配管を設計する際は、少なくとも反応器での最大生産量の10%以上を抜き出すことができるようにB工程の配管を設計することが好ましい。
【0025】
B工程においても、遮断弁の前後に清浄なガスの投入口を設置し、粉体抜き出しが終了したときに粉体を含まない洗浄ガスを投入し、抜き出し配管内部の粉体を下流側受け容器に押し出して、配管内部への滞留を防止することができる。このB工程に用いられる洗浄ガスは、間欠抜き出しのA工程に用いられる洗浄ガスと違って投入量が少なくてよい。粉体を連続で抜き出しているB工程では、抜き出しが停止される頻度、すなわち、内部の洗浄を必要とされる頻度自体が少なく、低負荷時や異常時などの、B工程の配管を使用停止するタイミングでしか配管の洗浄を必要としないからである。
【0026】
反応器におけるB工程の抜き出し位置は、A工程の抜き出し位置よりも上部に設けることが好ましい。反応器内部で発生した塊化物は、その重さのため流動床の下部に集まる傾向があり、反応器内部では分散板から分散板上方向1m付近までの範囲に塊化物の存在確率が高いことが経験的に知られている。したがってB工程における反応器の取り出し位置の決定にあたっては、この範囲を避け極力塊化物を吸い込みにくい部分から抜き出すことで粉体を安定的に抜き出すというB工程の目的を達成することができる。
【0027】
したがって、塊化物の多い反応器の下部近傍部分からの抜き出しは、A工程による間欠抜き出しを行い、B工程は塊化物の存在確率が十分低くなる反応器の上部、特に分散板から1mよりも上の部分に設けるのが好ましい。
【0028】
具体的には、反応器の分散板から垂直上方向へのA工程の位置をH1(m)、B工程の位置をH2(m)、流動床の高さをH3(m)としたとき、式(1)および式(2)の関係を満足するようにA工程およびB工程を設けるのが好ましい。
1<H2≦H3 (m) (1)
0≦H1≦1.1(m) (2)
【0029】
B工程の抜き出し位置を高く設けることにより、B工程の抜き出しよる吸込ガス削減効果も発生する。従ってA工程のみの抜き出しよりもA工程とB工程を併用した方が下流へ流れるガスを削減できる利点もある。
【0030】
また、反応器の粉体保有量の調整は、A工程の弁の開閉頻度や1回の開時間を調整することで行われる。好適には、A工程の抜き出し量を反応器の保有量を目標に対して一定になるように、コンピューターにより自動的に、もしくは手動設定により遮断弁の開閉頻度や1回の開時間を制御することにより行われる。反応器の保有量の検出は一般的に用いられている方法のなかで信頼性の高い方法を使用することができる。このときの用いる保有量の指標としては、反応器内部のベッド保持高さ、もしくは、反応器の各種測定値をから得られる反応器に保持されている重合体の重量のいずれか、もしくは両方を目標値となるよう調整することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例に限定されることがないのはもとよりのことである。
実施例1
図2に示したA工程およびB工程をそれぞれ2基有するオレフィン重合体の製造装置を用い、2.0MPaGにおいて、触媒、原料としてエチレンおよび1−ブテン、水素の混合ガスを流動床反応器に約20000m3/hの速度で供給し、約13t/hの速度で重合させた。
流動床反応器の直径は3.8mであり反応器の温度は85℃、反応器が保有する流動床の高さは約16mであり保有量は約48tであった。遮断弁としてボール弁および2.5インチ(65mm)内径の配管よりなるA工程を2基、それぞれ反応器下部のガス分散板上H1=1.1m(A工程)、反応器下部のガス分散板上H'1=0.1m(A工程−2)に設けた。配管の長さはそれぞれ約30m、配管出口部分1mはそれぞれ4インチ(内径約100mm)に拡大された配管を使用し下流側受け容器まで設置した。遮断弁の全閉、全開を行い2本の配管を用いて間欠抜き出しを行った。
B工程の配管は内径1インチ(約25mm)、遮断弁としてボール弁を有し、反応器の分散板上高さ約4m(H2=H'2)に設置した。B工程は長さ約30m、反応器から約25mの地点で内径1.5インチに拡大、さらに配管出口部分1mは1.5インチから内径4インチとなるよう2段階に拡大して下流側受け容器まで急激な曲がり部分をもたないように設置した。このときもう1基1.5インチの配管を有するB工程-2を閉塞時の予備待機として使用した。下流側受け容器の圧力は0.1−0.2MPaGであった。
【0032】
このような設備でB工程の1インチ配管の遮断弁を全開とし、B工程による粉体状オレフィン重合体の反応器からの抜き出しを開始した。B工程の抜き出しを行ったまま、反応器の保有量を一定にするようA工程およびA工程−2の弁の開時間、開閉頻度を調整し抜き出し量を調整した。すなわち、A工程の抜き出し弁開時間8秒に設定し、その後清浄なガスでA工程の配管中の粉体を洗浄し、A工程の配管洗浄が完了した後、同様にA工程−2の弁を14秒開にし、A工程−2の配管洗浄を行うサイクルを繰り返すよう設定しして調整ところ、A工程の弁が1時間あたり平均24回、A工程−2の弁が1時間あたり平均24回作動するよう設定したところで反応器の保有量を一定にすることができた。その結果、B工程の配管では約7t/hの速度で粉体が連続的に、A工程の配管では合計で約6t/hの速度で間欠的に、それぞれ粉体が抜き出されていることが確認できた。
このときのB工程における粉体の抜き出し量は反応器の生産量の約54%であり、A工程における粉体の抜き出し量は生産量の約46%であった。また、A工程の弁の開閉頻度はB工程を用いない場合と比較してA工程、A工程−2の2基合計で約59%まで作動頻度が削減された。またこの間、弁の作動に異常は見られなかった。
【0033】
抜き出しを行っている際のA工程およびA工程−2の配管内部におけるガスの流速をこのときの運転データから計算で求めたところ、最も遅い反応器出口部分の配管で約89m/sの速度であった。また連続で抜き出しを行っているB工程の配管内部におけるガスの流速を実際の運転データから計算で求めたところ、最も遅い反応器出口部分の配管で約59m/sの速度であった。このA工程とB工程の併用を行った際におけるガスの抜け量合計量は約3.1t/hとなった。これはA工程のみでの抜き出しを実施した場合の約75%であった。反応器の保有量の変動は目標値48tに対して±0.5t範囲内での振れであり、また反応器の圧力変動は2.0MPAG±0.02程度の範囲内で振れが見られたが運転上問題は見られなかった。
また、B工程を使用した状態で1日以上運転を行った。この間、直径50mm、厚さ5mm程度の重さ10g程度の塊や100g程度の小型の塊が1日に2−3個程度確認されたが、A工程、B工程の配管ともに閉塞も発生することなく、反応器の保有量も安定した状態で問題なく抜き出しを実施することができた。A工程による粉体の抜き出しが減少することに伴う反応器からの塊化物の排出低下については、反応器内部に設置された塊検知器を監視した結果、塊検出頻度の増加も見られず反応器内部に異常に塊化物が滞留するなどの現象は確認されなかった。抜き出し中はA工程、B工程の配管は、共に若干の振動が見られたものの問題になるほどではなかった。またB工程での抜き出しを行っている間、触媒の供給量、反応器温度は一定であったが、B工程の抜き出し開始に伴う生産量変動などの現象は発生せず、反応が低下するなどの異常は見られなかった。またどちらの配管も、使用後に内部点検を行ったが減肉などの異常は確認されなかった。
【0034】
比較例1
実施例1に示したオレフィン重合体の製造装置により、B工程の抜き出しを閉止して調整した以外は実施例1と同一の条件で運転した。B工程の使用を停止し、A工程、A工程−2の2本の配管の遮断弁を全閉、全開し間欠で抜き出しを行い、反応器の保有量を一定にするよう弁の開時間、開閉頻度を変化させて抜き出し量を調整した。調整の結果、A工程の抜き出し弁開時間8秒、その後清浄なガスでA工程の配管の粉体を洗浄、同様にA工程−2の弁を17秒開にし、A工程−2の配管の洗浄を行うよう設定した。弁の開閉回数をA工程の弁が1時間あたり平均20回、A工程−2の弁が1時間あたり平均60回作動するよう設定したところで反応器の保有量を一定にすることができた。このときのA工程における抜き出し量の合計は反応器の生産量の100%であり約13t/hであった。A工程における反応器からのガスの抜け量は約4.1t/hであった。この間、直径50mm、厚さ5mm程度の重さ10g程度の塊や100g程度の小型の塊が1日に2−3個程度確認されたが、A工程の配管の閉塞も発生することなく、また反応器の保有量も安定した状態で問題なく反応器からの抜き出しを実施することができた。また抜き出し中はA工程の配管に若干の振動が見られたものの問題になるほどではなかった。配管使用後に内部点検を行ったが減肉などの異常は確認されなかった。反応器の保有量の変動は目標値48tに対して±0.5tの範囲内での振れであり、また反応器の圧力変動は2.0MPAG±0.02程度の範囲の振れがみられたが運転上問題は見られなかった。この間特に反応に異常は見られなかった。しかし保有量、圧力ともに、B工程抜き出しを併用した場合と比べ変動の幅は同程度であったが、間欠抜き出しのみでは抜き出し回数が多くなるため、抜き出しに伴う短い周期の振れ回数が多くなる傾向が見られた。
【0035】
以上、実施例1および比較例1の結果から、A工程およびB工程を併用して粉体の抜き出しを行うと、併用しない場合に比較してA工程の遮断弁の開閉頻度を約40%削減、ガスの抜け量も約25%減少させることができ、設備の保守および省エネルギーの観点から有用であることが分った。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の製造工程の概略を示すフロー図である。
【図2】実施例1で用いた、A工程およびB工程を各2基有する本発明の製造工程の概略を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0037】
1…流動床反応器、2…熱交換器、3…循環ガスコンプレッサー、4…ガス分散板、5−1…間欠抜き出し工程(A工程)、5−2…間欠抜き出し工程(A工程−2)6−1…連続抜き出し工程(B工程)、6−2…連続抜き出し工程(B工程−2)、7…触媒供給配管、8…原料供給配管、9…下流側受け容器、10…製品抜き出し配管、H1…間欠抜き出し工程(A工程)のガス分散板から上部垂直方向への距離、H'1…間欠抜き出し工程(A工程−2)のガス分散板から上部垂直方向への距離、
2…連続抜き出し工程(B工程)のガス分散板から上部垂直方向への距離、H'2…連続抜き出し工程(B工程−2)のガス分散板から上部垂直方向への距離、H3…流動床高さ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下にオレフィンを気相重合反応させるオレフィン重合体の製造プロセスにおいて、流動床反応器で製造された粉体状オレフィン重合体の反応器からの抜き出しに際し、下記A工程およびB工程を含む抜き出し方法であって、B工程による抜き出しを常時一定量行いつつA工程による反応器からの抜き出しを行い、かつ、A工程による抜出量を調整することで反応器内部の粉体状オレフィン重合体の保有量が一定になるよう、反応器からの粉体状オレフィン重合体の抜き出しを行うことを特徴とするオレフィン重合体の製造方法。
A工程:流動床反応器の分散板から垂直上方向へH1(m)の位置に設けた遮断弁を有する配管を用い、遮断弁を全開、全閉することで反応器と下流の受け容器の圧力差で間欠的に抜き出す工程であり、遮断弁の開時間と弁を開ける周期を変化させることにより抜き出し量を調整することのできる間欠抜き出し工程
B工程:流動床反応器の分散板から垂直上方向へH2(m)の位置に設けた配管を用い、流動床反応器で製造される粉体状オレフィン重合体の時間あたりの生産量を100%としたとき、反応器における粉体状オレフィン重合体生産量の10〜90%の範囲内の一定の量を、弁などで調整することなく反応器と下流の受け容器の圧力差で一定量を連続的に抜き出すことができるよう設計された配管を用いて反応器から粉体状オレフィン重合体を連続的に抜き出すことができる抜き出し工程
但し、流動床反応器の流動床の高さをH3(m)としたとき、H1、H2およびH3は、式(1)および式(2)の関係を満足する。
1<H2≦H3(m) (1)
0≦H1≦1.1(m) (2)
【請求項2】
前記A工程およびB工程を1または2以上有することを特徴とする請求項1記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項3】
前記A工程およびB工程において、抜き出しを行っている際のA工程およびB工程の配管内部のガス流速が50m/s以下の流速となる部分を有しないように設計されていることを特徴とする請求項1または2記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記A工程およびB工程の配管が、配管の途中で少なくとも1個所以上径が拡大されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のオレフィン重合体の製造方法。
【請求項5】
前記B工程に用いられる配管の径が内径25mm以上であり、かつA工程に、B工程の配管径より太いサイズの配管を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のオレフィン重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−143929(P2008−143929A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329131(P2006−329131)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】