説明

オレフィン重合用固体触媒成分の製造方法

【課題】十分に高い重合活性を示し、且つ、CXS成分の含量の少ない重合体を与えるオレフィン重合用固体触媒成分の製造方法、オレフィン重合用固体触媒およびオレフィン重合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子、および一般式(I)で表される内部電子供与体(d)を含むオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法であって、マグネシウム化合物(b)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(P)を2回以上行うことを特徴とするオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。


(I)
[R、R、R、Rは同一または異なってもよく、炭素原子数1〜10のハイドロカルビル基であり、互いに結合していてもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合用固体触媒成分の製造方法、オレフィン重合用固体触媒成分を用いるオレフィン重合用固体触媒の製造方法、およびオレフィン重合用固体触媒を用いるオレフィン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オレフィン重合用触媒成分としてチタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子及び内部電子供与体を含有する固体触媒成分が数多く提案されている。これら固体触媒成分を用いる触媒は、オレフィンの重合において高い重合活性を有するとともに、低分子量成分や無定形成分に代表される低温の有機溶媒に溶出する成分の含量(以後、CXS成分と呼ぶ。)が少ない重合体が得られることが望まれる。内部電子供与体がオレフィン重合用触媒成分の性能に大きく影響を与えるが知られており、内部電子供与体としてマロン酸エステルが有効であることが明らかにされている。
【0003】
特許文献1および2には、チタン、マグネシウム、ハロゲン、および内部電子供与体としてマロン酸エステル化合物を含むオレフィン重合用固体触媒成分が開示されている。
【0004】
特許文献3には、3価のチタン原子、マグネシウム原子、およびハロゲン原子を含有する固体成分から製造されるオレフィン重合用固体触媒成分が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−212319号公報
【特許文献2】特表2000−516987号公報
【特許文献3】特開2004−91513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のオレフィン重合用触媒は重合活性と得られるオレフィン重合体のCXS成分の含量の観点から未だ満足できるものではない。本発明の課題は、十分に高い重合活性を示し、且つ、CXS成分の含量の少ない重合体を与えるオレフィン重合用固体触媒成分の製造方法、オレフィン重合用固体触媒およびオレフィン重合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子、および一般式(I)で表される内部電子供与体(d)を含むオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法であって、マグネシウム化合物(b)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(P)を2回以上行うことを特徴とするオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法である。
【0008】
【化1】

(I)
[R、R、R、Rは同一または異なってもよく、炭素原子数1〜10のハイドロカルビル基であり、互いに結合していてもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよい。]
【0009】
本発明はさらに、チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子および上記一般式(I)で表される内部電子供与体(d)を含むオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法であって、3価のチタン原子、マグネシウム原子、およびハイドロカルビルオキシ基を含有する固体成分(c)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(Q)を2回以上行うことを特徴とするオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法である。
【0010】
本発明はさらにまた、上記のオレフィン重合用固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)と、任意に外部電子供与体(C)とを接触させる工程からなるオレフィン重合用固体触媒の製造方法である。
【0011】
本発明はさらにまた、上記の製造方法によって製造されるオレフィン重合用固体触媒の存在下にオレフィンを重合させる工程からなるオレフィン重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、十分に高い重合活性を示し、且つ、CXS成分の含量の少ない重合体を与えるオレフィン重合用固体触媒成分の製造方法、オレフィン重合用固体触媒の製造方法およびオレフィン重合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の製造方法により製造されるオレフィン重合用固体触媒成分(A)は、チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子、および一般式(I)で表される内部電子供与体(d)を含むオレフィン重合用固体触媒成分(A)である。
【0014】
【化2】

(I)
[R、R、R、Rは同一または異なってもよく、炭素原子数1〜10のハイドロカルビル基であり、互いに結合していてもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよい。]
【0015】
<一般式(I)で表される内部電子供与体(d)>
一般式(I)におけるR、R、RおよびRのハイドロカルビル基としては、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基等が例示でき、これらはハロゲン原子、ハイドロカルビルオキシ基、ニトロ基、スルホニル基、シリル基等で置換されていてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、およびn−オクチル基のような直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、イソアミル基、および2−エチルヘキシル基のような分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、およびシクロオクチル基のような環状アルキル基;ベンジル基およびフェネチル基のようなアラルキル基;フェニル基、トリル基、およびナフチル基のようなアリール基;ビニル基、アリル基、3−ブテニル基、および5−ヘキセニル基のような直鎖状アルケニル基;イソブテニル基、および4−メチル−3−ペンテニル基のような分岐状アルケニル基;2−シクロヘキセニル基、および3−シクロヘキセニル基のような環状アルケニル基を例示することができる。
【0016】
一般式(I)におけるR、およびRのハイドロカルビル基として好ましくは、炭素原子数1〜5の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜2のアルキル基であり、特に好ましくはエチル基である。
【0017】
また一般式(I)におけるR、およびRのハイドロカルビル基として好ましくは、炭素原子数2〜10の直鎖状または分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数2〜6の直鎖状または分岐状アルキル基である。
【0018】
具体的には、ジメチルマロン酸ジメチル、ジメチルマロン酸ジエチル、ジメチルマロン酸ジイソプロピル、ジメチルマロン酸ジノルマルブチル、ジメチルマロン酸ジイソブチル、ジメチルマロン酸エチルメチル、ジメチルマロン酸ジシクロヘキシル、ジメチルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジエチルマロン酸ジメチル、ジエチルマロン酸ジエチル、ジエチルマロン酸ジイソプロピル、ジエチルマロン酸ジノルマルブチル、ジエチルマロン酸ジイソブチル、ジエチルマロン酸エチルメチル、ジエチルマロン酸ジシクロヘキシル、ジエチルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジイソプロピルマロン酸ジメチル、ジイソプロピルマロン酸ジエチル、ジイソプロピルマロン酸ジイソプロピル、ジイソプロピルマロン酸ジノルマルブチル、ジイソプロピルマロン酸ジイソブチル、ジイソプロピルマロン酸エチルメチル、ジイソプロピルマロン酸ジシクロヘキシル、ジイソプロピルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジノルマルブチルマロン酸ジメチル、ジノルマルブチルマロン酸ジエチル、ジノルマルブチルマロン酸ジイソプロピル、ジノルマルブチルマロン酸ジノルマルブチル、ジノルマルブチルマロン酸ジイソブチル、ジノルマルブチルマロン酸エチルメチル、ジノルマルブチルマロン酸ジシクロヘキシル、ジノルマルブチルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジイソブチルマロン酸ジメチル、ジイソブチルマロン酸ジエチル、ジイソブチルマロン酸ジイソプロピル、ジイソブチルマロン酸ジノルマルブチル、ジイソブチルマロン酸ジイソブチル、ジイソブチルマロン酸エチルメチル、ジイソブチルマロン酸ジシクロヘキシル、ジイソブチルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジ−tert−ブチルマロン酸ジメチル、ジ−tert−ブチルマロン酸ジエチル、ジ−tert−ブチルマロン酸ジイソプロピル、ジ−tert−ブチルマロン酸ジノルマルブチル、ジ−tert−ブチルマロン酸ジイソブチル、ジ−tert−ブチルマロン酸エチルメチル、ジ−tert−ブチルマロン酸ジシクロヘキシル、ジ−tert−ブチルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジアミルマロン酸ジメチル、ジアミルマロン酸ジエチル、ジアミルマロン酸ジイソプロピル、ジアミルマロン酸ジノルマルブチル、ジアミルマロン酸ジイソブチル、ジアミルマロン酸エチルメチル、ジアミルマロン酸ジシクロヘキシル、ジアミルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジシクロヘキシルマロン酸ジメチル、ジシクロヘキシルマロン酸ジエチル、ジシクロヘキシルマロン酸ジイソプロピル、ジシクロヘキシルマロン酸ジノルマルブチル、ジシクロヘキシルマロン酸ジイソブチル、ジシクロヘキシルマロン酸エチルメチル、ジシクロヘキシルマロン酸ジシクロヘキシル、ジシクロヘキシルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、エチルノルマルブチルマロン酸ジメチル、エチルノルマルブチルマロン酸ジエチル、エチルノルマルブチルマロン酸ジイソプロピル、エチルノルマルブチルマロン酸ジノルマルブチル、エチルノルマルブチルマロン酸ジイソブチル、エチルノルマルブチルマロン酸エチルメチル、エチルノルマルブチルマロン酸ジシクロヘキシル、エチルノルマルブチルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、エチルイソブチルマロン酸ジメチル、エチルイソブチルマロン酸ジエチル、エチルイソブチルマロン酸ジイソプロピル、エチルイソブチルマロン酸ジノルマルブチル、エチルイソブチルマロン酸ジイソブチル、エチルイソブチルマロン酸エチルメチル、エチルイソブチルマロン酸ジシクロヘキシル、エチルイソブチルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジフェニルマロン酸ジメチル、ジフェニルマロン酸ジエチル、ジフェニルマロン酸ジイソプロピル、ジフェニルマロン酸ジノルマルブチル、ジフェニルマロン酸ジイソブチル、ジフェニルマロン酸エチルメチル、ジフェニルマロン酸ジシクロヘキシル、ジフェニルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、メチルテキシルマロン酸ジメチル、メチルテキシルマロン酸ジエチル、メチルテキシルマロン酸ジイソプロピル、メチルテキシルマロン酸ジノルマルブチル、メチルテキシルマロン酸ジイソブチル、メチルテキシルマロン酸エチルメチル、メチルテキシルマロン酸ジシクロヘキシル、メチルテキシルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、イソブチルイソプロピルマロン酸ジメチル、イソブチルイソプロピルマロン酸ジエチル、イソブチルイソプロピルマロン酸ジイソプロピル、イソブチルイソプロピルマロン酸ジノルマルブチル、イソブチルイソプロピルマロン酸ジイソブチル、イソブチルイソプロピルマロン酸エチルメチル、イソブチルイソプロピルマロン酸ジシクロヘキシル、イソブチルイソプロピルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、エチルフェニルマロン酸ジメチル、エチルフェニルマロン酸ジエチル、エチルフェニルマロン酸ジイソプロピル、エチルフェニルマロン酸ジノルマルブチル、エチルフェニルマロン酸ジイソブチル、エチルフェニルマロン酸エチルメチル、エチルフェニルマロン酸ジシクロヘキシル、エチルフェニルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ベンジルメチルマロン酸ジメチル、ベンジルメチルマロン酸ジエチル、ベンジルメチルマロン酸ジイソプロピル、ベンジルメチルマロン酸ジノルマルブチル、ベンジルメチルマロン酸ジイソブチル、ベンジルメチルマロン酸エチルメチル、ベンジルメチルマロン酸ジシクロヘキシル、ベンジルメチルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジベンジルマロン酸ジメチル、ジベンジルマロン酸ジエチル、ジベンジルマロン酸ジイソプロピル、ジベンジルマロン酸ジノルマルブチル、ジベンジルマロン酸ジイソブチル、ジベンジルマロン酸エチルメチル、ジベンジルマロン酸ジシクロヘキシル、ジベンジルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ジアリルマロン酸ジメチル、ジアリルマロン酸ジエチル、ジアリルマロン酸ジイソプロピル、ジアリルマロン酸ジノルマルブチル、ジアリルマロン酸ジイソブチル、ジアリルマロン酸エチルメチル、ジアリルマロン酸ジシクロヘキシル、ジアリルマロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジメチル、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジエチル、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジイソプロピル、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジノルマルブチル、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジイソブチル、ビス(3−ブテニル)マロン酸エチルメチル、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジシクロヘキシル、ビス(3−ブテニル)マロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジメチル、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジエチル、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジイソプロピル、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジノルマルブチル、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジイソブチル、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸エチルメチル、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジシクロヘキシル、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ビス(2−エチルヘキシル)、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジメチル、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジエチル、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジイソプロピル、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジノルマルブチル、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジイソブチル、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸エチルメチル、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジシクロヘキシル、およびシクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ビス(2−エチルヘキシル)を例示することができる。
【0019】
内部電子供与体(d)として好ましくは、ジエチルマロン酸エステル、ジイソプロピルマロン酸エステル、イソブチルイソプロピルマロン酸エステル、ジイソブチルマロン酸エステル、およびジ−tert−ブチルマロン酸エステルであり、特に好ましくはジエチルマロン酸ジエチル、イソブチルイソプロピルマロン酸ジエチル、およびジイソブチルマロン酸ジエチルである。
【0020】
<他の内部電子供与体(d’)>
本発明により提供されるオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法により得られるオレフィン重合用固体触媒成分(A)は、一般式(I)で表される内部電子供与体(d)に加え、他の内部電子供与体(d’)としてさらに1種類以上の芳香族カルボン酸エステルおよび/または1,3−ジエーテルを含んでいてもよい。
【0021】
他の内部電子供与体(d’)なる芳香族カルボン酸エステルは、芳香族カルボン酸とアルコールとがエステル結合した化合物であれば特に制限されないが、具体的には、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸エチルのような芳香族モノカルボン酸エステル;フタル酸モノエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−プロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジ−n−ヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジフェニルのような芳香族多価カルボン酸エステルを例示することができる。
【0022】
他の内部電子供与体(d’)なる1,3−ジエーテルは、C−O−C−C−C−O−Cの結合を有する化合物であれば特に制限されないが、具体的には、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ビス(シクロヘキシルメチル)−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−3,7−ジメチルオクチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−シクロヘキシルメチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−シクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−シクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、および2−ヘプチル−2−ペンチル−1,3−ジメトキシプロパンのような1,3−ジエーテルを例示することができる。
【0023】
<オレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造時に用いる成分>
本発明により提供されるオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法は、マグネシウム化合物(b)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を接触させる方法である。
また、本発明の別の様態としては、3価のチタン原子、マグネシウム原子、およびハイドロカルビルオキシ基を含有する固体成分(c)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を接触させる方法である。
【0024】
マグネシウム化合物(b)、または固体成分(c)に対して、内部電子供与体(d)、および内部電子供与体前駆体(e)以外の任意の成分を接触させてもよい。
【0025】
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して接触させる、内部電子供与体(d)および内部電子供与体前駆体(e)以外の成分として具体的には、チタン化合物(a)、他の内部電子供与体(d’)、および、ハロゲン化金属化合物(g)を例示することができる。
【0026】
<マグネシウム化合物(b)>
マグネシウム化合物(b)としては、マグネシウム原子を含有した化合物であれば特に制限はないが、マグネシウム原子の他に、ハイドロカルビル基、ハイドロカルビルオキシ基、および/またはハロゲン原子を含有する化合物を例示することができる。
【0027】
マグネシウム化合物(b)に含まれるハイドロカルビル基としては、特に制限はないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、およびn−オクチル基のような直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、イソアミル基、および2−エチルヘキシル基のような分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、およびシクロオクチル基のような環状アルキル基;ベンジル基およびフェネチル基のようなアラルキル基;フェニル基、トリル基、およびナフチル基のようなアリール基;ビニル基、アリル基、3−ブテニル基、および5−ヘキセニル基のような直鎖状アルケニル基;イソブテニル基、および4−メチル−3−ペンテニル基のような分岐状アルケニル基;2−シクロヘキセニル基、および3−シクロヘキセニル基のような環状アルケニル基を例示することができる。
【0028】
マグネシウム化合物(b)に含まれるハイドロカルビルオキシ基としては、特に制限はないが、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、およびn−オクチルオキシ基のような直鎖状アルキルオキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、イソアミルオキシ基、および2−エチルヘキシルオキシ基のような分岐状アルキルオキシ基;シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、およびシクロオクチルオキシ基のような環状アルキルオキシ基;ベンジルオキシ基およびフェネチルオキシ基のようなアラルキルオキシ基;フェノキシ基、ナフチルオキシ基、およびトリルオキシ基のようなアリールオキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基、3−ブテニルオキシ基、および5−ヘキセニルオキシ基のような直鎖状アルケニルオキシ基;イソブテニルオキシ基、および4−メチル−3−ペンテニルオキシ基のような分岐状アルケニルオキシ基;2−シクロヘキセニルオキシ基、および3−シクロヘキセニルオキシ基のような環状アルケニルオキシ基を例示することができる。
【0029】
マグネシウム化合物(b)に含まれるハロゲン原子としてはいかなるハロゲン原子を用いてもよい。
【0030】
具体的には、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジイソプロピルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、ジオクチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウム、ジシクロへキシルマグネシウム、およびブチルオクチルマグネシウムのようなジアルキルマグネシウム化合物;ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム、ジヘキシルオキシマグネシウム、ジオクトキシマグネシウム、およびジシクロヘキシルオキシマグネシウムのようなジアルコキシマグネシウム化合物;メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムクロリド、イソブチルマグネシウムクロリド、t−ブチルマグネシウムクロリド、ヘキシルマグネシウムクロリド、イソブチルマグネシウムクロリド、ベンジルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、イソプロピルマグネシウムブロミド、イソブチルマグネシウムブロミド、t−ブチルマグネシウムブロミド、ヘキシルマグネシウムブロミド、イソブチルマグネシウムブロミド、ベンジルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムヨージド、エチルマグネシウムヨージド、イソプロピルマグネシウムヨージド、イソブチルマグネシウムヨージド、t−ブチルマグネシウムヨージド、ヘキシルマグネシウムヨージド、イソブチルマグネシウムヨージド、ベンジルマグネシウムヨージドのようなアルキルマグネシウムハライド化合物;メトキシマグネシウムクロリド、エトキシマグネシウムクロリド、イソプロポキシマグネシウムクロリド、ブトキシマグネシウムクロリド、およびヘキシルオキシマグネシウムクロリドのようなアルコキシマグネシウムクロリド;フェノキシマグネシウムクロリドのようなアリールオキシマグネシウムクロリド;フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、およびヨウ化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム化合物を例示することができる。
【0031】
さらに、マグネシウム化合物(b)としては、ハイドロカルビル基、ハイドロカルビルオキシ基、およびハロゲン原子の他に、バナジウム原子、クロム原子、マンガン原子、鉄原子、コバルト原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子、ガリウム原子、ジルコニウム原子およびハフニウム原子のような金属原子;炭化水素、アルコール、エーテル、およびアミンのような有機化合物;二酸化炭素のような無機化合物を含む混合物をも例示することができる。
【0032】
マグネシウム化合物(b)はメタノール、エタノール、および2−エチルヘキサノールのようなアルコールまたはクロロベンゼン、トルエン、およびヘキサンのような溶媒に溶解していてもよく、固体状でも良い。
【0033】
マグネシウム化合物(b)は、担体物質に担持されていてもよい。担体物質として特に制限はないが、SiO、Al、MgO、TiO、およびZrOのような多孔質無機酸化物;ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−エチレングリコール−ジメタクリル酸メチル共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、アクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、およびポリプロピレンのような有機多孔質ポリマーが挙げられる。これらのうち好ましくは、多孔質無機酸化物であり、特に好ましくは、SiOである。
【0034】
マグネシウム化合物(b)を有効に固定化する観点から、担体として好ましくは、多孔質担体であり;その担体の細孔分布は、半径20〜200nmなる細孔の細孔容積の、半径3.5〜7500nmなる細孔の細孔容積に対する比率が、好ましくは35%以上であり、より好ましくは40%以上であり;かつ、半径20〜200nmなる細孔の細孔容量が、好ましくは0.3cm/g以上であり、より好ましくは0.4cm/g以上である。
【0035】
マグネシウム化合物(b)として好ましくは、およびハロゲン化マグネシウム化合物(b−1)、ジアルコキシマグネシウム化合物(b−2)である。
【0036】
ハロゲン化マグネシウム化合物(b−1)として好ましくは、塩化マグネシウムである。
【0037】
塩化マグネシウムは市販のものをそのまま用いてもよく、市販のものをアルコールに溶解した後溶媒中に滴下する方法で製造してもよい。
【0038】
ジアルコキシマグネシウム化合物(b−2)として好ましくは炭素原子数1〜20のジアルコキシマグネシウムであり、より好ましくは炭素原子数1〜10のジアルコキシマグネシウムであり、特に好ましくはジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジイソプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウムである。
【0039】
ジアルコキシマグネシウム化合物(b−2)の製造方法としては、例えば、金属マグネシウムとアルコールを触媒の存在下接触させる方法を挙げることができる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、およびオクタノールが挙げられる。触媒としては、ヨウ素、塩素、および臭素のようなハロゲン;ヨウ化マグネシウム、および塩化マグネシウムのようなハロゲン化マグネシウム;1,2−ジブロモエタンのようなα,β−ジハロアルカンが挙げられ、好ましくはヨウ素である。
【0040】
<固体成分(c)>
3価のチタン原子、マグネシウム原子およびハイドロカルビルオキシ基を含有する固体成分(c)としては、3価のチタン原子、マグネシウム原子およびハイドロカルビルオキシ基を有する固体成分である限りいかなるものであってもよい。
【0041】
固体成分(c)に含まれるハイドロカルビルオキシ基としては、マグネシウム化合物(b)に含まれるハイドロカルビルオキシ基と同じものを例示することができる。好ましくは、炭素原子数1〜20のアルキルオキシ基または炭素原子数6〜20のアリールオキシ基であり、より好ましくは炭素原子数1〜20の直鎖状または分岐状アルキルオキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、ペンチルオキシ基である。
【0042】
3価のチタン原子、マグネシウム原子およびハイドロカルビルオキシ基を含有する固体成分(c)は、いかなる製造方法で合成されてもよい。例えば、Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)の存在下に、チタン化合物(c−2)を、有機マグネシウム化合物(c−3)で還元する方法が挙げられる。
【0043】
さらに、Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)の存在下に、チタン化合物(c−2)を、有機マグネシウム化合物(c−3)で還元反応時に、任意のエステル基を有する化合物(c−4)を共存させてもよい。
【0044】
<Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)>
Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)は、ケイ素原子を含有する化合物であれば特に制限はないが、下式(i)から(iii)で表わされる化合物を例示することができる。
Si(OR(4−t)・・・(i)
(RSiO)SiR・・・(ii)
(R10SiO)・・・(iii)
[式中、R、R、R、R、RおよびR10はそれぞれ独立した炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基または水素原子であり、tは0<t≦4を満たす整数であり、uは1〜1000の整数であり;vは2〜1000の整数である]
【0045】
式(i)から(iii)で示すSi−O結合を有するケイ素化合物(c−1)におけるR、R、R、R、RおよびR10のハイドロカルビル基として、マグネシウム化合物(b)に含まれるハイドロカルビル基と同じものを例示することができる。
【0046】
式(i)から(iii)で示すSi−O結合を有するケイ素化合物(c−1)におけるR、R、R、R、RおよびR10は好ましくは、炭素原子数2〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基であり、特に好ましくは炭素原子数2〜18の直鎖状アルキル基である。
【0047】
式(i)から(iii)で示すSi−O結合を有するケイ素化合物(c−1)の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、およびテトラフェノキシシランのようなテトラアルコキシシラン;エチルトリエトキシシラン、およびフェニルトリエトキシシランのようなモノアルキルトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジプロピルジプロポキシシラン、ジイソプロピルジイソプロポキシシラン、ジブチルジブトキシシラン、およびジエチルジシクロペンチルオキシシランのようなジアルキルジアルコキシシラン;トリエチルエトキシシラン、トリメチルシクロヘキシルオキシシラン、およびトリメチルフェノキシシランのようなトリアルキルモノアルコキシシラン;ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、およびヘキサプロピルジシロキサンのようなジシロキサン;オクタエチルトリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルヒドロポリシロキサン、およびフェニルヒドロポリシロキサンのようなポリシロキサンを例示することができる。
【0048】
式(i)から(iii)で示すSi−O結合を有するケイ素化合物(c−1)の中でも、好ましくは式(i)におけるtが1≦t≦4を満たす化合物であり、より好ましくは、tが4であるテトラアルコキシシランであり、最も好ましくはテトラエトキシシランである。
【0049】
<チタン化合物(c−2)>
チタン化合物(c−2)としては、チタン原子を含有する化合物であれば特に制限はないが、下式(iv)で表される化合物を例示することができる。
【0050】
【化3】

(iv)
[ただし、式(iv)において、mは1〜20の整数を表し、R11は炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基を表す。Xはハロゲン原子または炭素原子数1〜20のハイドロカルビルオキシ基を表し、Xは互いに同じであっても異なっていてもよい]
【0051】
式(iv)で示すチタン化合物(c−2)におけるR11の具体例としては、マグネシウム化合物(b)に含まれるハイドロカルビル基と同じものを例示することができ、好ましくは、炭素原子数2〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基であり、特に好ましくは炭素原子数2〜18の直鎖状アルキル基である。
【0052】
式(iv)におけるXのハロゲン原子として、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を例示することができる。特に好ましくは塩素原子である。
【0053】
式(iv)におけるXの炭素原子数1〜20のハイドロカルビルオキシ基は、好ましくは、炭素原子数2〜18の直鎖状アルコキシ基であり、より好ましくは炭素原子数2〜10の直鎖状アルコキシ基であり、特に好ましくは炭素原子数2〜6の直鎖状アルコキシ基である。
【0054】
式(iv)におけるmの値として好ましくは1、2または4である。
【0055】
式(iv)で表されるチタン化合物(c−2)の具体例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、n−ブトキシチタントリクロライド、ジ−n−ブトキシチタンジクロライド、トリ−n−ブトキシチタンクロライド、ジ−n−テトライソプロピルポリチタナート(m=2〜10の範囲の混合物)、テトラ−n−ブチルポリチタナート(m=2〜10の範囲の混合物)、テトラ−n−ヘキシルポリチタナート(m=2〜10の範囲の混合物)、テトラ−n−オクチルポリチタナート(m=2〜10の範囲の混合物)、およびテトラアルコキシチタンに少量の水を反応して得られるテトラアルコキシチタンの縮合物、ならびにこれらの2以上の組合せを例示することができ、より好ましくは、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−n−ブチルチタニウムダイマーまたはテトラ−n−ブチルチタニウムテトラマーを例示することができる。
【0056】
<有機マグネシウム化合物(c−3)>
有機マグネシウム化合物(c−3)は、マグネシウム原子−Cの結合を有する化合物であれば特に制限はないが、下式(v)または(vi)で表わされる化合物を例示することができ、より好ましくは式(v)で表されるグリニャール化合物である。
12MgX・・・(v)
1314Mg・・・(vi)
[R12、R13およびR14は炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基を表し、Xはハロゲン原子を表わす]
【0057】
式(v)および(vi)におけるR12、R13およびR14のハイドロカルビル基は特に制限はないが、マグネシウム化合物(b)に含まれるハイドロカルビル基と同じものを例示することができる。
【0058】
式(v)および(vi)におけるR12、R13およびR14としてより好ましくは、炭素原子数2〜18のアルキル基または炭素原子数6〜18のアリール基であり、特に好ましくは炭素原子数2〜18の直鎖状アルキル基である。
【0059】
式(v)におけるXは特に制限はないが、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を例示することができる。より好ましくは塩素原子である。
【0060】
式(v)で表されるグリニャール化合物として具体的には、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、n−プロピルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、イソブチルマグネシウムクロリド、tert−ブチルマグネシウムクロリド、n−ペンチルマグネシウムクロリド、イソアミルマグネシウムクロリド、シクロペンチルマグネシウムクロリド、n−ヘキシルマグネシウムクロリド、シクロヘキシルマグネシウムクロリド、n−オクチルマグネシウムクロリド、2−エチルヘキシルマグネシウムクロリド、フェニルマグネシウムクロリド、およびベンジルマグネシウムクロリドを例示することができる。好ましくはエチルマグネシウムクロリド、n−プロピルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムクロリド、n−ブチルマグネシウムクロリド、およびイソブチルマグネシウムクロリドであり、特に好ましくはn−ブチルマグネシウムクロリドである。
【0061】
上記グリニャール化合物は、そのままでも、溶媒に溶解していてもよく、より好ましくはエーテル化合物を溶媒として溶解した状態である。
【0062】
上記エーテル化合物は、C−O−Cの結合を有する化合物であれば特に制限はないが、ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、エチルn−ブチルエーテル、およびジイソアミルエーテルのようなジアルキルエーテル;テトラヒドロフランのような環状エーテルを例示することができる。好ましくはジアルキルエーテルであり、より好ましくはジ−n−ブチルエーテルまたはジイソブチルエーテルである。
【0063】
<エステル基を有する化合物(c−4)>
エステル基を有する化合物(c−4)としてはいかなるエステル化合物を用いてもよい。例えば、モノまたは多価のカルボン酸エステルを挙げることができ、より具体的には飽和脂肪族カルボン酸エステル、不飽和脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステル、および芳香族カルボン酸エステルを例示することができる。
【0064】
エステル基を有する化合物(c−4)として具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、および吉草酸エチルのような飽和脂肪族モノカルボン酸エステル;コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、マロン酸ジエチル、およびマロン酸ジブチルのような飽和脂肪族多価カルボン酸エステル;アクリル酸エチル、およびメタクリル酸メチルのような不飽和脂肪族モノカルボン酸エステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、およびイタコン酸ジブチルのような不飽和脂肪族多価カルボン酸エステル;安息香酸エチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、およびアニス酸エチルのような芳香族モノカルボン酸エステル;フタル酸モノエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−プロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジ−n−ヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジシクロヘキシル、およびフタル酸ジフェニルのような芳香族多価カルボン酸エステルを例示することができる。中でも好ましくは、フタル酸エステルのような芳香族ジカルボン酸ジエステルである。
【0065】
還元反応における溶媒として特に制限はないが、グリニャール化合物の溶媒として例示したエーテル化合物のほか、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、およびデカンのような脂肪族炭化水素化合物;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、およびデカリンのような脂環式炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、および1,3,5−トリメチルベンゼンのような芳香族炭化水素化合物;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、およびテトラクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素化合物;クロロベンゼン、クロロメチルベンゼン、およびジクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族炭化水素化合物、ならびに、これらの2種以上の組合せを例示することができる。
【0066】
還元反応における溶媒として好ましくは、脂肪族炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、または、脂環式炭化水素化合物であり、より好ましくは脂肪族炭化水素化合物、または、脂環式炭化水素化合物であり、さらに好ましくは脂肪族炭化水素化合物であり、特に好ましくはヘキサン、または、ヘプタンである。
【0067】
還元反応において、Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)の使用量は、使用されるチタン化合物(c−2)中の総チタン原子1molあたり、ケイ素原子が通常1〜500mol、好ましくは1〜300mol、特に好ましくは3〜100molとなる量である。
【0068】
還元反応において、有機マグネシウム化合物(c−3)の使用量は、使用される有機マグネシウム化合物(c−3)中の総マグネシウム原子1molあたり、上記チタン原子と上記ケイ素原子との和が通常0.1〜10mol、好ましくは0.2〜5.0mol、特に好ましくは0.5〜2.0molとなる量である。
還元反応におけるチタン化合物(c−2)、Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)および有機マグネシウム化合物(c−3)の使用量はまた、得られる固体成分(c)中のマグネシウム原子の量が、該前駆体中のチタン原子1molあたり、1〜51mol、好ましくは2〜31mol、特に好ましくは4〜26molとなるように経験的に決定してもよい。
【0069】
還元反応において、エステル基を有する化合物(c−4)の使用量は、使用されるチタン化合物中の総チタン原子1molあたり、通常0.05〜100mol、好ましくは0.1〜60mol、特に好ましくは0.2〜30molである。
【0070】
還元反応において、Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)、チタン化合物(c−2)および溶媒を含有する溶液中に有機マグネシウム化合物(c−3)を加えるときの温度は、通常−50〜100℃であり、好ましくは−30〜70℃であり、特に好ましくは−25〜50℃の範囲である。有機マグネシウム化合物(c−3)を加えるときの時間は特に限定されず、通常30分〜6時間程度である。良好な形態の触媒を得る観点から、有機マグネシウム化合物(c−3)は連続的に加えられるのが好ましい。該反応をさらに進めるために、5〜120℃での反応を追加してもよい。
【0071】
さらに、担体物質に担持させるため、還元反応時に担体物質を存在させてもよい。担体物質として特に制限はないが、マグネシウム化合物(b)の担体物質と同じものを例示することができる。
【0072】
得られる固体成分(c)は溶媒で洗浄してもよい。溶媒に特に制限はないが、具体的には、還元反応における溶媒の他、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、および2−エチルヘキサノールのようなアルコールを例示することができる。好ましくは脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素であり、より好ましくは芳香族炭化水素であり、特に好ましくはトルエンまたはキシレンである。
【0073】
Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)と、一般式(iv)で表されるチタン化合物(c−2)と、任意にエステル基を有する化合物(c−4)と、有機マグネシウム化合物(c−3)を加えると、有機マグネシウム化合物によるチタン化合物の還元反応が進行するので、該チタン化合物のチタン原子は4価から3価に還元される。本発明においては、実質上全ての4価のチタン原子が3価に還元されるのが好ましい。得られた固体成分(c)は、3価のチタン原子、マグネシウム原子およびハイドロカルビルオキシ基を含有し、一般に非晶性または極めて弱い結晶性を有し、好ましくは非晶性の構造である。
【0074】
<内部電子供与体前駆体(e)>
内部電子供与体前駆体(e)としては、触媒製造中に他の成分と反応して上述の一般式(I)で表される内部電子供与体(d)に変化することのできる化合物であれば特に制限されないが、具体的には、内部電子供与体(d)の酸ハライド、酸無水物、パーフルオロアルキルエステルを例示することができる。好ましくは酸ハライドであり、さらに好ましくは酸クロリドである。
【0075】
より具体的には、ジメチルマロン酸ジフルオリド、ジメチルマロン酸ジクロリド、ジメチルマロン酸ジブロミド、ジメチルマロン酸ジヨージド、ジメチルマロン酸無水物、ジメチルマロン酸ジトリフラート、ジエチルマロン酸ジフルオリド、ジエチルマロン酸ジクロリド、ジエチルマロン酸ジブロミド、ジエチルマロン酸ジヨージド、ジエチルマロン酸無水物、ジエチルマロン酸ジトリフラート、ジイソプロピルマロン酸ジフルオリド、ジイソプロピルマロン酸ジクロリド、ジイソプロピルマロン酸ジブロミド、ジイソプロピルマロン酸ジヨージド、ジイソプロピルマロン酸無水物、ジイソプロピルマロン酸ジトリフラート、ジノルマルブチルマロン酸ジフルオリド、ジノルマルブチルマロン酸ジクロリド、ジノルマルブチルマロン酸ジブロミド、ジノルマルブチルマロン酸ジヨージド、ジノルマルブチルマロン酸無水物、ジノルマルブチルマロン酸ジトリフラート、ジイソブチルマロン酸ジフルオリド、ジイソブチルマロン酸ジクロリド、ジイソブチルマロン酸ジブロミド、ジイソブチルマロン酸ジヨージド、ジイソブチルマロン酸無水物、ジイソブチルマロン酸ジトリフラート、ジ−tert−ブチルマロン酸ジフルオリド、ジ−tert−ブチルマロン酸ジクロリド、ジ−tert−ブチルマロン酸ジブロミド、ジ−tert−ブチルマロン酸ジヨージド、ジ−tert−ブチルマロン酸無水物、ジ−tert−ブチルマロン酸ジトリフラート、ジアミルマロン酸ジフルオリド、ジアミルマロン酸ジクロリド、ジアミルマロン酸ジブロミド、ジアミルマロン酸ジヨージド、ジアミルマロン酸無水物、ジアミルマロン酸ジトリフラート、ジシクロヘキシルマロン酸ジフルオリド、ジシクロヘキシルマロン酸ジクロリド、ジシクロヘキシルマロン酸ジブロミド、ジシクロヘキシルマロン酸ジヨージド、ジシクロヘキシルマロン酸無水物、ジシクロヘキシルマロン酸ジトリフラート、エチルノルマルブチルマロン酸ジフルオリド、エチルノルマルブチルマロン酸ジクロリド、エチルノルマルブチルマロン酸ジブロミド、エチルノルマルブチルマロン酸ジヨージド、エチルノルマルブチルマロン酸無水物、エチルノルマルブチルマロン酸ジトリフラート、エチルイソブチルマロン酸ジフルオリド、エチルイソブチルマロン酸ジクロリド、エチルイソブチルマロン酸ジブロミド、エチルイソブチルマロン酸ジヨージド、エチルイソブチルマロン酸無水物、エチルイソブチルマロン酸ジトリフラート、ジフェニルマロン酸ジフルオリド、ジフェニルマロン酸ジクロリド、ジフェニルマロン酸ジブロミド、ジフェニルマロン酸ジヨージド、ジフェニルマロン酸無水物、ジフェニルマロン酸ジトリフラート、メチルテキシルマロン酸ジフルオリド、メチルテキシルマロン酸ジクロリド、メチルテキシルマロン酸ジブロミド、メチルテキシルマロン酸ジヨージド、メチルテキシルマロン酸無水物、メチルテキシルマロン酸ジトリフラート、イソブチルイソプロピルマロン酸ジフルオリド、イソブチルイソプロピルマロン酸ジクロリド、イソブチルイソプロピルマロン酸ジブロミド、イソブチルイソプロピルマロン酸ジヨージド、イソブチルイソプロピルマロン酸無水物、イソブチルイソプロピルマロン酸ジトリフラート、エチルフェニルマロン酸ジフルオリド、エチルフェニルマロン酸ジクロリド、エチルフェニルマロン酸ジブロミド、エチルフェニルマロン酸ジヨージド、エチルフェニルマロン酸無水物、エチルフェニルマロン酸ジトリフラート、ベンジルメチルマロン酸ジフルオリド、ベンジルメチルマロン酸ジクロリド、ベンジルメチルマロン酸ジブロミド、ベンジルメチルマロン酸ジヨージド、ベンジルメチルマロン酸無水物、ベンジルメチルマロン酸ジトリフラート、ジベンジルマロン酸ジフルオリド、ジベンジルマロン酸ジクロリド、ジベンジルマロン酸ジブロミド、ジベンジルマロン酸ジヨージド、ジベンジルマロン酸無水物、ジベンジルマロン酸ジトリフラート、ジアリルマロン酸ジフルオリド、ジアリルマロン酸ジクロリド、ジアリルマロン酸ジブロミド、ジアリルマロン酸ジヨージド、ジアリルマロン酸無水物、ジアリルマロン酸ジトリフラート、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジフルオリド、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジクロリド、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジブロミド、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジヨージド、ビス(3−ブテニル)マロン酸無水物、ビス(3−ブテニル)マロン酸ジトリフラート、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジフルオリド、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジクロリド、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジブロミド、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジヨージド、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸無水物、ビス(3−クロロプロピル)マロン酸ジトリフラート、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジフルオリド、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジブロミド、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジヨージド、シクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸無水物、およびシクロヘキサン−1,1−ジカルボン酸ジトリフラートを例示することができる。
【0076】
好ましくは、ジエチルマロン酸ジクロリド、イソブチルイソプロピルマロン酸ジクロリド、およびジイソブチルマロン酸ジクロリドである。
【0077】
<チタン化合物(a)>
チタン化合物(a)は、チタン原子を含有した化合物であれば特に制限はないが、具体的には、四塩化チタン、四臭化チタン、および四ヨウ化チタンのようなテトラハロゲン化チタン;テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン、テトラシクロヘキシルオキシチタン、およびテトラフェノキシチタンのようなテトラアルコキシチタン;メトキシチタントリクロリド、エトキシチタントリクロリド、n−プロポキシチタントリクロリド、n−ブトキシチタントリクロリド、およびエトキシチタントリブロミドのようなアルコキシチタントリハライド;ジメトキシチタンジクロリド、ジエトキシチタンジクロリド、ジイソプロポキシチタンジクロリド、ジ−n−プロポキシチタンジクロリド、およびジエトキシチタンジブロミドのようなジハロゲン化ジアルコキシチタン;トリメトキシチタンクロリド、トリエトキシチタンクロリド、トリイソプロポキシチタンクロリド、トリ−n−プロポキシチタンクロリド、およびトリ−n−ブトキシチタンクロリドのようなモノハロゲン化トリアルコキシチタンを例示することができる。好ましくはテトラハロゲン化チタンおよびアルコキシチタントリクロライドであり、より好ましくテトラハロゲン化チタンであり、更に好ましくは四塩化チタンである。これらのチタン化合物(a)は、それぞれ単独で用いてもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
<ハロゲン化金属化合物(g)>
ハロゲン化金属化合物(g)は、第13族または第14族元素のハロゲン化物であり、任意にハイドロカルビル基および/またはハイドロカルビルオキシ基を含んでもよい。
【0079】
第13族元素として具体的には、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、およびタリウムである。第14族元素として具体的には、ケイ素、ゲルマニウム、錫、および鉛である。
【0080】
第13族または第14族元素として好ましくはケイ素、ゲルマニウムまたは錫であり、特に好ましくはケイ素である。
【0081】
ハロゲン化金属化合物(g)に含まれるハロゲン原子は、特に制限されないが、好ましくは塩素原子である。
【0082】
ハロゲン化金属化合物(g)に任意に含まれるハイドロカルビル基として具体的には、マグネシウム化合物(b)に含まれるハイドロカルビル基と同じものを例示することができる。
【0083】
ハロゲン化金属化合物(g)に任意に含まれるハイドロカルビルオキシ基として具体的には、マグネシウム化合物(b)に含まれるハイドロカルビルオキシ基と同じものを例示することができる。
【0084】
ハロゲン化金属化合物(g)として好ましくは、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、トリクロロアルミニウム、テトラクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、ノルマルプロピルトリクロロシラン、またはp−トリルトリクロロシランであり、より好ましくはテトラクロロシランおよびフェニルトリクロロシランである。
【0085】
<オレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法>
本発明により提供されるオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法は、マグネシウム化合物(b)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(P)を2回以上行うことを特徴とする。
また別の様態としては、3価のチタン原子、マグネシウム原子、およびハイドロカルビルオキシ基を含有する固体成分(c)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(Q)を2回以上行うことを特徴とする。
【0086】
工程(P)または工程(Q)を行う回数は、好ましくは2回以上10回以下であり、より好ましくは2回以上5回以下である。
【0087】
上記特徴を有する限り、本発明において用いられるオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法は特に制限されず、他の任意の工程を行うことができる。
【0088】
具体的には、内部電子供与体(d)および内部電子供与体前駆体(e)以外の任意の成分を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程(R);およびマグネシウム化合物(b)または固体成分(c)を、溶媒により洗浄する工程(ω)を例示することができる。
【0089】
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して接触させる、内部電子供与体(d)および内部電子供与体前駆体(e)は、ただ1種類のみを用いてもよく、複数を併用してもよい。
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して接触させる、内部電子供与体(d)および内部電子供与体前駆体(e)以外の成分は、用いなくてもよく、ただ1種類のみを用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0090】
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して接触させる、内部電子供与体(d)、内部電子供与体前駆体(e)、およびその他の成分は、順次別々の工程でマグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に接触させてもよく、あるいは同一の工程で2種以上の組み合わせを同時に接触させてもよい。
【0091】
<接触工程Pおよび接触工程Q>
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(P、Q)においては、内部電子供与体(d)および内部電子供与体前駆体(e)のほか、任意の成分を共存させてもよい。
【0092】
接触工程(P、Q)としてより具体的には、以下の工程を例示することができる。
[工程(β)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して内部電子供与体(d)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
[工程(γ)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して内部電子供与体前駆体(e)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
[工程(βγ)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して内部電子供与体(d)および内部電子供与体前駆体(e)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
[工程(αβ)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対してチタン化合物(a)、および内部電子供与体(d)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
[工程(αγ)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対してチタン化合物(a)、および内部電子供与体前駆体(e)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
[工程(αβγ)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して、内部電子供与体(d)、内部電子供与体前駆体(e)およびチタン化合物(a)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
【0093】
<接触工程(R)>
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して、内部電子供与体(d)および内部電子供与体前駆体(e)以外の成分を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程(R)は、マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)と、内部電子供与体(d)および内部電子供与体前駆体(e)以外の成分が実質的に接触している限り、いかなる様態であってもよい。
【0094】
接触工程(R)としてより具体的には、以下の工程を例示することができる。
[工程(α)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対してチタン化合物(a)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
[工程(δ)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して他の内部電子供与体(d’)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
[工程(ε)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対してハロゲン化金属化合物(g)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
[工程(αε)]
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対してチタン化合物(a)、およびハロゲン化金属化合物(g)を、溶液中で接触させた後に固液分離する工程
【0095】
<接触工程(P、Q、R)の実施方法>
接触工程(P、Q、R)の実施方法は特に制限されないが、公知の方法としては、以下の方法を例示することができる。
[スラリー法]
溶媒中に分散した固体状のマグネシウム化合物(b)または固体成分(c)と、内部電子供与体(d)、内部電子供与体前駆体(e)や、その他の成分とを混合した後に固液分離する方法
[溶液法]
溶媒に溶解したマグネシウム化合物(b)または固体成分(c)と、内部電子供与体(d)、内部電子供与体前駆体(e)や、その他の成分を混合した後に固液分離する方法
【0096】
<スラリー法>
スラリー法において用いる装置に特に制限はないが、公知の装置としては攪拌翼を具備する反応容器や、スプレードライヤーを例示することができる。
【0097】
スラリー法における溶媒は、マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)を完全に溶解させない限り特に制限はないが、具体的にはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、およびデカンのような脂肪族炭化水素化合物;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、およびデカリンのような脂環式炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、および1,3,5−トリメチルベンゼンのような芳香族炭化水素化合物;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、およびテトラクロロエタンのようなハロゲン化炭化水素化合物;クロロベンゼン、クロロメチルベンゼン、およびジクロロベンゼンのようなハロゲン化芳香族炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、エチルn−ブチルエーテル、およびジイソアミルエーテルのようなジアルキルエーテル;テトラヒドロフランのような環状エーテル;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、および2−エチルヘキサノールのようなアルコールを例示することができる。好ましくは芳香族炭化水素化合物およびハロゲン化芳香族炭化水素化合物であり、より好ましくはトルエン、およびクロロベンゼンである。
【0098】
スラリー法において、マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して接触させる成分が液体である場合、当該成分を溶媒として接触工程を行ってもよい。
【0099】
スラリー法においてマグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して接触させる成分の使用量は特に制限されず、接触工程の様態によって経験的に決定される。接触させる成分が低分子である場合、公知の方法においては、使用されるマグネシウム化合物(b)または固体成分(c)中の総マグネシウム原子1molあたり、通常0.1〜1000mmol、好ましくは0.3〜500mmol、特に好ましくは0.5〜300mmolである。
【0100】
スラリー法における接触時間は特に制限されず、接触工程の様態によって経験的に決定される。公知の方法においては通常10分〜12時間であり、好ましくは30分〜10時間であり、より好ましくは1時間〜8時間である。
【0101】
スラリー法における接触温度は特に制限されず、接触工程の様態によって経験的に決定される。公知の方法においては通常−50℃〜200℃であり、好ましくは−20℃〜170℃であり、より好ましくは0℃〜150℃であり、特に好ましくは50℃〜130℃の範囲である。
【0102】
固液分離の方法は特に制限されないが、具体的には、ガラスフィルターにより濾過する方法や、デカンテーション法を例示することができる。
【0103】
<溶液法>
溶液法において用いる装置に特に制限はないが、公知の装置としては攪拌翼を具備する反応容器や、スプレードライヤーを例示することができる。
【0104】
溶液法において、マグネシウム化合物(b)を溶解させる溶媒に特に制限はないが、具体的にはスラリー法における溶媒と同じものを例示することができる。好ましくはアルコール、および脂肪族炭化水素化合物とアルコールとの混合溶媒であり、より好ましくはヘプタンと2−エチルヘキシルアルコールとの混合溶媒である。
【0105】
溶液法において、マグネシウム化合物(b)に接触させる成分は、そのまま用いてもよく、また当該成分を溶媒に溶解させた状態で用いてもよい。溶媒として特に制限はなく、マグネシウム化合物(b)の溶媒と同一であっても異なっていてもよい。具体的には、スラリー法における溶媒と同じものを例示することができる。
【0106】
溶媒法においては、工程実施中途でマグネシウム化合物(b)を主とする固体成分を析出させてもよい。通常は、マグネシウム化合物(b)を主とする固体成分が析出するように、溶媒、接触させる成分、温度、時間が経験的に決定される。
【0107】
固液分離の方法は特に制限されないが、具体的には、ガラスフィルターにより濾過する方法や、デカンテーション法を例示することができる。
【0108】
<洗浄工程(ω)>
マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)を、溶媒により洗浄する工程(ω)における溶媒は、マグネシウム化合物(b)を完全に溶解させない限り特に制限はないが、具体的にはスラリー法における溶媒と同じものを例示することができる。好ましくは脂肪族炭化水素化合物、芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化脂肪族炭化水素化合物、および芳香族炭化水素化合物であり、より好ましくはヘキサン、ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、およびクロロベンゼンであり、特に好ましくはヘキサンおよびトルエンである。
【0109】
洗浄工程(ω)は、マグネシウム化合物(b)と溶媒が接触している限りいかなる様態であってもよいが、マグネシウム化合物(b)と溶媒を効果的に接触させる観点から、通常、スラリー法により行われる。
【0110】
洗浄工程(ω)における洗浄時間は特に制限されず、洗浄工程(ω)の様態によって経験的に決定される。公知の方法においては通常1分未満〜1時間であり、より好ましくは1分〜30分であり、さらに好ましくは5分〜20分である。
【0111】
洗浄工程(ω)における洗浄温度は特に制限されず、洗浄工程(ω)の様態によって経験的に決定される。公知の方法においては通常0℃〜150℃である。
【0112】
洗浄工程(ω)においては、マグネシウム化合物(b)と溶媒を接触させた後、溶媒が除去される。除去の方法は特に制限されないが、公知の方法としてはデカンテーションやろ過を例示することができる。
【0113】
本発明により提供されるオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法においては、マグネシウム化合物(b)または固体成分(c)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(P)を2回以上行う。この他の工程は、行わなくともよく、1回だけ行ってもよく、複数回行ってもよい。工程を行う順序は特に制限されず、いかなる順序で行ってもよい。
【0114】
以下、本発明におけるオレフィン重合用固体触媒成分(A)を製造するに好ましい様態を例示するが、以下の例示によって本発明が制限されるものではない。
【0115】
オレフィン重合用固体触媒成分(A)を製造するある一つの方法は、ジアルコキシマグネシウム(b−2)を用いる方法である。ジアルコキシマグネシウム(b−2)に対して、スラリー法による工程(αβ)、洗浄工程(ω)、スラリー法による工程(αβ)、洗浄工程(ω)を順次行うことで、オレフィン重合用固体触媒成分(A)を得ることができる。
【0116】
オレフィン重合用固体触媒成分(A)を製造するまた別の方法は、3価のチタン原子、マグネシウム原子、およびハロゲン原子を含有する固体成分(c)を用いる方法である。固体成分(c)に対して、スラリー法による工程(γ)、洗浄工程(ω)、スラリー法による工程(αβ)、洗浄工程(ω)、スラリー法による接触工程(α)、洗浄工程(ω)、スラリー法による接触工程(α)、洗浄工程(ω)を順次行うことで、オレフィン重合用固体触媒成分(A)を得ることができる。
【0117】
本発明の固体触媒成分(A)は、公知方法によって有機アルミニウム化合物(B)および任意の外部電子供与体(C)と反応させることにより、オレフィン重合用固体触媒を形成する。
【0118】
本発明で用いられる有機アルミニウム化合物(B)として、米国特許6903041号公報に記載された化合物を例示することができる。中でも、好ましくは、トリアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドとの混合物、または、アルキルアルモキサンであり、さらに好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物またはテトラエチルジアルモキサンである。
【0119】
本発明で任意に用いられる外部電子供与体(C)としては、特開平7−216017公報、特開2006−96936公報、特開2009−173870公報、および特開2010−168545公報に記載の電子供与体を例示することができる。好ましくは酸素含有化合物および窒素含有化合物である。酸素含有化合物として、アルコキシケイ素、エーテル、エステル、およびケトンを例示することができる。中でも、好ましくはアルコキシケイ素またはエーテルである。
【0120】
外部電子供与体(C)としてのアルコキシケイ素は、下式((vii)で表される化合物が好ましい。
15Si(OR164−h・・・(vii)
[式中、R15は炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基、水素原子またはヘテロ原子含有置換基を表し、R16は炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基を表す。hは0≦h<4を満たす整数を表し、R15およびR16が複数存在する場合、それぞれのR15およびR16は同じか又は異なる。]
【0121】
外部電子供与体(C)としてのエーテルは、より好ましくは環状エーテル化合物である。環状エーテル化合物とは、環構造内に少なくともひとつのC−O−Cの結合を有する複素環式化合物であり、更に好ましくは環構造内に少なくともひとつのC−O−C−O−Cの結合を有する環状エーテル化合物である。
【0122】
外部電子供与体(C)は、特に好ましくは、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロブチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、sec−ブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、1,3−ジオキソラン、および1,3−ジオキサンである。
【0123】
外部電子供与体(C)は、1種類を用いても、あるいは2種以上の組合せを用いてもよい。
【0124】
オレフィン重合用固体触媒成分(A)と、有機アルミニウム化合物(B)と、任意に外部電子供与体(C)とを接触させる方法は、オレフィン重合用固体触媒が生成される限り、特に限定されない。接触は溶媒の存在下または不在下で行われる。これらの接触混合物を重合槽に供給してもよいし、これらを別々に重合槽に供給して重合槽中で接触させてもよいし、任意の二成分の接触混合物と残りの成分とを別々に重合槽に供給してもよい。
【0125】
本発明のオレフィン重合体の製造方法で用いられるオレフィンとして、エチレンおよび炭素原子数3以上の1−オレフィンを例示することができる。1−オレフィンとして、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、および1−デセンのような直鎖状モノオレフィン;3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、および4−メチル−1−ペンテンのような分岐鎖状モノオレフィン;ビニルシクロヘキサンのような環状モノオレフィン;ならびに、これらの2種以上の組合せを例示することができる。中でも、好ましくはエチレンもしくはプロピレンの単独重合、または、エチレンもしくはプロピレンを主成分とする複数種のオレフィンの組合せの共重合であり、より好ましくはプロピレンの単独重合である。上記の複数種のオレフィンの組合せは、プロピレン以外の2種類またはそれ以上の種類の1−オレフィンの組合せを含んでいてもよく、共役ジエンや非共役ジエンのような多不飽和結合を有する化合物を含んでいてもよい。
【0126】
本発明のオレフィン重合体の製造方法で製造されるオレフィン重合体は、好ましくはエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、1−ブテン単独重合体、1−ペンテン単独重合体、1−ヘキセン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン共重合体、または、これらを多段重合して得られる共重合体である。
【0127】
本発明にかかるオレフィン重合用固体触媒を形成させるための方法は、以下の工程からなる方法の方が好ましい場合がある:
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)及び有機アルミニウム化合物(B)の存在下、少量のオレフィン(本来の重合(通常、本重合と言われる)で使用されるオレフィンと同一または異なる)を重合させ(生成されるオレフィン重合体の分子量を調節するために水素のような連鎖移動剤を用いてもよいし、外部電子供与体(C)を用いてもよい)、該オレフィンの重合体で表面が覆われた触媒成分を生成させる工程(該重合は通常、予備重合と言われ、したがって該触媒成分は通常、予備重合触媒成分と言われる)
(2)予備重合触媒成分と、有機アルミニウム化合物(B)および外部電子供与体(C)とを接触させる工程。
【0128】
本発明における「固体触媒成分」という用語は、上記の「固体触媒成分」のみならず、「予備重合触媒成分」や「両者の組合せ」をも意味する。
【0129】
予備重合は好ましくは、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン及びトルエンのような不活性炭化水素を溶媒とするスラリー重合である。
【0130】
上記工程(1)で用いられる有機アルミニウム化合物(B)の量は、工程(1)で用いられる固体触媒成分(A)中のチタン原子1mol当たり、通常0.5〜700mol、好ましくは0.8〜500mol、特に好ましくは1〜200molである。
予備重合されるオレフィンの量は、工程(1)で用いられるオレフィン重合用固体触媒成分(A)1g当たり通常0.01〜1000g、好ましくは0.05〜500g、特に好ましくは0.1〜200gである。
【0131】
上記工程(1)のスラリー重合におけるオレフィン重合用固体触媒成分(A)のスラリー濃度は、好ましくは1〜500g−オレフィン重合用固体触媒成分/リットル−溶媒、特に好ましくは3〜300g−オレフィン重合用固体触媒成分/リットル−溶媒である。
予備重合の温度は、好ましくは−20〜100℃、特に好ましくは0〜80℃である。予備重合における気相部のオレフィンの分圧は、好ましくは0.01〜2MPa、特に好ましくは0.1〜1MPaであるが、予備重合の圧力や温度において液状であるオレフィンについては、この限りではない。予備重合の時間は特に制限されず、好ましくは2分間から15時間である
【0132】
予備重合における、オレフィン重合用固体触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物(B)及びオレフィンを重合槽へ供給する方法として、以下の方法(1)および(2)を例示することができる:
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)と有機アルミニウム化合物(B)とを供給した後、オレフィンを供給する方法;および
(2)オレフィン重合用固体触媒成分(A)とオレフィンとを供給した後、有機アルミニウム化合物(B)を供給する方法。
【0133】
予備重合における、オレフィンを重合槽へ供給する方法として、以下の方法(1)および(2)を例示することができる:
(1)重合槽内の圧力を所定の圧力に維持するようにオレフィンを順次供給する方法;および
(2)オレフィンの所定量の全量を一括して供給する方法。
予備重合で用いられる外部電子供与体(C)の量は、オレフィン重合用固体触媒成分(A)中に含まれるチタン原子1molに対して、通常0.01〜400mol、好ましくは0.02〜200mol、特に好ましくは、0.03〜100molであり、有機アルミニウム化合物(B)1molに対して、通常0.003〜5mol、好ましくは0.005〜3mol、特に好ましくは0.01〜2molである。
【0134】
予備重合における、外部電子供与体(C)を重合槽へ供給する方法として、以下の方法(1)および(2)を例示することができる:
(1) 外部電子供与体(C)を単独で供給する方法;および
(2) 外部電子供与体(C)と有機アルミニウム化合物(B)との接触物を供給する方法。
予備重合については、上記特開平11−322833号公報にも記載されている。
本重合時の有機アルミニウム化合物(B)の使用量は、オレフィン重合用固体触媒成分(A)中のチタン原子1molあたり、通常1〜1000mol、特に好ましくは5〜600molである。
本重合時の外部電子供与体(C)の使用量は、オレフィン重合用固体触媒成分(A)中に含まれるチタン原子1molあたり、通常0.1〜2000mol、好ましくは0.3〜1000mol、特に好ましくは0.5〜800molであり、有機アルミニウム化合物(B)1molあたり、通常0.001〜5mol、好ましくは0.005〜3mol、特に好ましくは0.01〜1molである。
【0135】
本重合の温度は、通常−30〜300℃、好ましくは20〜180℃である。重合圧力は特に制限されず、工業的かつ経済的であるという点で、一般に常圧〜10MPa、好ましくは200kPa〜5MPa程度である。重合はバッチ式または連続式であり、重合方法としてプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンおよびオクタンのような不活性炭化水素を溶媒とするスラリー重合法または溶液重合法や、重合温度において液状であるオレフィンを媒体とするバルク重合法や、気相重合法を例示することができる。
【0136】
本重合で得られる重合体の分子量を調節するために、連鎖移動剤(例えば、水素や、ジメチル亜鉛およびジエチル亜鉛のようなアルキル亜鉛)を用いてもよい。
【0137】
本発明によれば、十分に高い重合活性を示し、且つ、CXS成分の含量の少ない重合体を与えるオレフィン重合用固体触媒成分の製造方法、オレフィン重合用固体触媒およびオレフィン重合体の製造方法を得ることが出来る。
【実施例】
【0138】
以下、実施例および比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって特に限定をうけるものではない。
【0139】
<触媒の分析>
固体触媒成分の組成分析についてはそれぞれ次のように実施した。即ち、チタン原子含有量は、固体サンプル約20mgを2規定の希硫酸約30mlで分解、これに過剰となる3重量%過酸化水素水3mlを加え、得られた液状サンプルの410nmの特性吸収を日立製ダブルビーム分光光度計U−2001型を用いて測定し、別途作成しておいた検量線によって求めた。アルコキシ基含有量は、固体サンプル約2gを水100mlで分解後、得られた液状サンプル中のアルコキシ基に対応するアルコール量を、ガスクロマトグラフィー内部標準法を用いて求め、アルコキシ基含有量に換算した。内部電子供与体(d)の含量は、固体触媒成分約300mgをN,N−ジメチルアセトアミド100mlに溶解後、溶液中の内部電子供与体(d)量をガスクロマトグラフィー内部標準法で求めた。
【0140】
<ポリマーの分析>
オレフィン重合体の20℃キシレン可溶成分量(以下CXSと略す)は以下のように測定した。1gの重合体を200mlの沸騰したキシレンに溶解させたのち、50℃まで徐冷し、次いで氷水に浸し撹拌しながら20℃まで冷却し、20℃で3時間放置したのち、析出した重合体を濾別した。濾液中に残存した重合体の重量百分率をCXS(単位=重量%)とした。
上記のオレフィン重合体の極限粘度(以下[η]と略す;単位=dl/g)はテトラリン溶媒、135℃で測定した。
【0141】
[実施例1]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
撹拌機、滴下ロート、温度計を備えた200mlのフラスコを窒素で置換した後、該フラスコに、球状のジエトキシマグネシウム(マグネシウム化合物(b))5gとクロロベンゼン40mlを加えた。四塩化チタン(チタン化合物(a))10mlを加え、およびジエチルマロン酸ジクロリド(内部電子供与体前駆体(e))1.5mlを投入し、110℃にて3時間攪拌した。次いで、攪拌混合物を固液分離し、110℃にてトルエン50mlでの洗浄を3回繰り返し、洗浄後の固体にトルエン40mlを投入した。これに四塩化チタン10ml、およびジイソブチルマロン酸ジエチル(内部電子供与体(d))0.5mlを投入し、110℃で1時間攪拌した。その後、攪拌混合物を固液分離し、110℃にてトルエン50mlでの洗浄を3回繰り返した後、さらに室温にてヘキサン50mlでの洗浄を3回繰り返し、洗浄後の固体を減圧乾燥して固体触媒成分(A)5.22gを得た。該固体触媒成分はジエチルマロン酸ジエチル(内部電子供与体(d))5.4重量%およびジイソブチルマロン酸ジエチル6.3重量%を含んでいた。その他の分析結果は表1に示す。
【0142】
(2)プロピレンの重合
内容積3リットルの撹拌機付きオートクレーブを十分乾燥した後これを真空にした。トリエチルアルミニウム(有機アルミニウム化合物(B))2.63mmol、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン(外部電子供与体(C))0.26mmol、および(1)で合成したオレフィン重合用固体触媒成分(A)5.04mgを加えた。次いで、プロピレン780gと水素0.2MPaを加えた。オートクレーブの温度を80℃に昇温し、80℃で1時間重合を行った。重合反応終了後、未反応モノマーをパージし、246gのプロピレン重合体を得た。触媒単位量当たりの重合体の生成量(重合活性)は48800g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表1に示す。
【0143】
[実施例2]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジエチルマロン酸ジクロリドおよびジイソブチルマロン酸ジエチルの代わりにジエチルマロン酸ジエチルを用いた他は実施例1(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)5.32gを得た。分析結果を表1に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を8.53mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は47800g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表1に示す。
【0144】
[実施例3]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジエチルマロン酸ジクロリドの代わりにジエチルマロン酸ジエチルを用いた他は実施例1(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)5.19gを得た。分析結果を表1に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を4.59mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は51200g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表1に示す。
【0145】
[比較例1]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジイソブチルマロン酸ジエチルを用いなかった他は実施例1(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)4.96gを得た。分析結果を表1に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を7.20mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は35700g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表1に示す。
【0146】
[比較例2]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジエチルマロン酸ジクロリドの代わりにジエチルマロン酸ジエチルを用い、ジイソブチルマロン酸ジエチルを用いなかった他は実施例1(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)5.20gを得た。分析結果を表1に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を5.93mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は43000g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表1に示す。
【0147】
【表1】

【0148】
[実施例4]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
撹拌機、滴下ロート、温度計を備えた100mlのフラスコを窒素で置換した後、該フラスコに、特開2004−182981号公報の実施例1(1)に記載の固体成分(c)スラリーを、該固体成分が8.00gになるように加えた。静置後、スラリー濃度が0.40g−固体成分/ml−溶媒となるようにトルエンを抜き出した。100℃へ昇温し、ジエチルマロン酸ジクロリド(内部電子供与体前駆体(e))1.6mlを加え、同温度で30分攪拌した。その後、攪拌混合物を固液分離し、100℃にてトルエン40mlで3回洗浄し、洗浄後の固体にトルエン15mlを投入した。
【0149】
その後、65℃にて四塩化チタン(チタン化合物(a))16mlおよびジエチルマロン酸ジエチル(内部電子供与体(d))1.6mlを投入し、115℃で3時間攪拌した。その後、攪拌混合物を固液分離し、100℃にてトルエン40mlで3回洗浄し、洗浄後の固体にトルエン15mlを投入した。これに四塩化チタン6.4mlを投入し、110℃で1時間攪拌した。その後、攪拌混合物を固液分離し、100℃にてトルエン40mlで3回洗浄した。これに四塩化チタン6.4mlを投入し、110℃で1時間攪拌した。その後、攪拌混合物を固液分離し、100℃にてトルエン40mlでの洗浄を3回繰り返した後、さらに室温にてヘキサン40mlでの洗浄を3回繰り返し、洗浄後の固体を減圧乾燥して固体触媒成分(A)6.25gを得た。該固体触媒成分は、ジエチルマロン酸ジエチル6.9重量%を含んでいた。その他の分析結果は表2に示す。
【0150】
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を8.85mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は21700g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表2に示す。
【0151】
[実施例5]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジエチルマロン酸ジエチルの代わりにジイソブチルマロン酸ジエチルを用いた他は実施例4(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)7.12gを得た。分析結果を表2に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を7.00mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は28000g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表2に示す。
【0152】
[比較例3]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジエチルマロン酸ジエチルを用いなかった他は実施例4(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)6.78gを得た。分析結果を表2に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を7.37mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は19800g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表2に示す。
【0153】
[比較例4]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジエチルマロン酸ジクロリドを用いなかった他は実施例4(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)8.00gを得た。分析結果を表2に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を6.32mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は20500g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表2に示す。
【0154】
[比較例5]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジエチルマロン酸ジクロリドの代わりにマロン酸ジクロリドを用い、ジエチルマロン酸ジエチルの代わりにn−ブチルマロン酸ジエチルを用い、クロロベンゼンを用いなかった他は実施例4(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)8.37gを得た。分析結果を表2に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を8.72mg用いた他は実施例1(2)と同様に行ったが、重合体はほとんど得られなかった
【0155】
[比較例6]
(1)オレフィン重合用固体触媒成分(A)の合成
ジエチルマロン酸ジクロリドの代わりにフタル酸クロリドを用い、ジエチルマロン酸ジエチルの代わりにフタル酸ジイソブチルを用いた他は実施例4(1)と同様に行ったところ、固体触媒成分(A)6.38gを得た。分析結果を表2に示す。
(2)プロピレンの重合
(1)で得た固体触媒成分(A)を9.81mg用いた他は実施例1(2)と同様に行った。重合活性は13200g−PP/g−固体触媒成分であった。得られた結果を表2に示す。
【0156】
【表2】

−: 得られた重合体量が少なく、分析できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子、および一般式(I)で表される内部電子供与体(d)を含むオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法であって、マグネシウム化合物(b)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(P)を2回以上行うことを特徴とするオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。

(I)
[R、R、R、Rは同一または異なってもよく、炭素原子数1〜10のハイドロカルビル基であり、互いに結合していてもよく、ヘテロ原子を含んでいてもよい。]
【請求項2】
マグネシウム化合物(b)がハロゲン化マグネシウム(b−1)である請求項1に記載のオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。
【請求項3】
マグネシウム化合物(b)がジアルコキシマグネシウム(b−2)である請求項1に記載のオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。
【請求項4】
チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子および上記一般式(I)で表される内部電子供与体(d)を含むオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法であって、3価のチタン原子、マグネシウム原子、およびハイドロカルビルオキシ基を含有する固体成分(c)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(Q)を2回以上行うことを特徴とするオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。
【請求項5】
固体成分(c)が、Si−O結合を有するケイ素化合物(c−1)の存在下、一般式(iv)で表されるチタン化合物(c−2)を、有機マグネシウム化合物(c−3)で還元して得られる請求項4に記載のオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。

(iv)
[式中、mは1〜20の整数を表し;R11は炭素原子数1〜20のハイドロカルビル基を表し;Xはハロゲン原子または炭素原子数1〜20のハイドロカルビルオキシ基をそれぞれ表し、複数のXは同一または異なってもよい。]
【請求項6】
マグネシウム化合物(b)に対して内部電子供与体(d)および/または内部電子供与体前駆体(e)を、溶媒中で接触させた後に固液分離する工程(P)を、チタン化合物(a)の存在下で行う請求項1〜3のいずれかに記載のオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。
【請求項7】
固体成分(c)に対して内部電子供与体前駆体(e)を接触させた後に固液分離する工程(Q)をチタン化合物(a)の不存在下で行い、その後に、内部電子供与体(d)を接触させた後に固液分離する工程(Q)をチタン化合物(a)の存在下で行う請求項4または5に記載のオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。
【請求項8】
一般式(I)のRおよびRが同一または異なってもよくメチル基、またはエチル基であり、かつ、RおよびRが、それぞれ独立に炭素原子数2〜6の直鎖状または分岐状アルキル基である請求項1〜7のいずれかに記載のオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。
【請求項9】
内部電子供与体前駆体(e)が、内部電子供与体(d)の酸ハライドである請求項1〜8のいずれかに記載のオレフィン重合用固体触媒成分(A)の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法によって製造されるオレフィン重合用固体触媒成分(A)と、有機アルミニウム化合物(B)とを接触させる工程からなるオレフィン重合用固体触媒の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法によって製造されるオレフィン重合用固体触媒成分(A)と、有機アルミニウム化合物(B)と、外部電子供与体(C)とを接触させる工程からなるオレフィン重合用固体触媒の製造方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の製造方法によって製造されるオレフィン重合用固体触媒の存在下にオレフィンを重合させる工程からなるオレフィン重合体の製造方法。
【請求項13】
オレフィンが、炭素原子数3〜20のα−オレフィンである請求項12記載のオレフィン重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−158640(P2012−158640A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17652(P2011−17652)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】