説明

オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法及びオーステナイト系ステンレス鋼管

【課題】高温クリープ強度及び耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によるオーステナイトステンレス鋼管の製造方法は、質量%で、C、Si、Mn、Ni、Cr、Nb、B及びNを所定量含有し、残部はFe及び不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼素材を準備する工程と、素材を1190℃以上に加熱する工程(S1)と、加熱された素材に対して熱間加工を実施して素管を製造する工程(S1)と、素管に対して、断面減少率が20%以上となる冷間加工を実施する工程(S3)と、冷間加工された素管を、1230〜1260℃まで加熱し、かつ、700〜1230℃までを1000秒以内で昇温する工程(S3)と、素管を1230℃〜1260℃で2分以上均熱してオーステナイト系ステンレス鋼管とする工程(S3)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法及びオーステナイト系ステンレス鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントや化学工業プラントでは、高効率に発電できる設備が要求される。高効率な発電を得るためには、蒸気を高温高圧化することが有効である。しかしながら、蒸気の高温高圧化により、プラント内のボイラの熱交換機等の温度は上昇する。したがって、これらのプラントに利用される鋼管は、高温強度、特に、高温クリープ強度を求められる。
【0003】
これらの鋼管はさらに、耐水蒸気酸化性を求められる。耐水蒸気酸化性が低い鋼管が高温高圧の水蒸気に曝された場合、その表面に水蒸気酸化スケールが形成される。鋼管表面から剥離した水蒸気酸化スケールは、たとえば、ボイラ内のタービンブレードを傷つけたり、熱交換機の管内に蓄積したりする。したがって、これらのプラントに利用される鋼管は、優れた高温クリープ強度を要求されるだけでなく、優れた耐水蒸気酸化性も要求される。
【0004】
オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼よりも優れた高温クリープ強度及び高温耐食性を有する。しかしながら、従来のオーステナイト系ステンレス鋼管には、耐水蒸気酸化性のさらなる改善が要求されている。
【0005】
そこで、高温クリープ強度及び耐水蒸気酸化性を高めるオーステナイト系ステンレス鋼管が特公平5−69885号公報(特許文献1)及び特開2003−268503号公報(特許文献2)に提案されている。
【0006】
特許文献1では、オーステナイト系ステンレス鋼にTi及びNbを含有する。そして、オーステナイト系ステンレス鋼に対して、1200〜1350℃で軟化処理を実施する。軟化処理後、オーステナイト系ステンレス鋼を500℃/hr以上の冷却速度で冷却する。冷却後、20〜90%の冷間加工を実施する。冷間加工後、軟化処理よりも30℃以上低い温度でオーステナイト系ステンレス鋼を加熱する。以上の工程により製造されたオーステナイト系ステンレス鋼は、細粒組織を有する。そのため、耐水蒸気酸化性に優れると特許文献1には記載されている。また、Ti及びNbの炭化物が微細析出することにより、細粒組織であっても優れたクリープ強度が得られると記載されている。
【0007】
特許文献2では、オーステナイト系ステンレス鋼管内に、Tiを均一に分散析出させ、粒度番号が7以上の細粒組織を得る。熱処理時、オーステナイト系ステンレス鋼管内では、Tiを核としてその周りにNb炭窒化物が析出した複合析出物が均一に分散生成する。これにより、オーステナイト系ステンレス鋼管のクリープ強度及び耐水蒸気酸化性を高めることができると特許文献2には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平5−69885号公報
【特許文献2】特開2003−268503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び特許文献2に開示されたオーステナイト系ステンレス鋼は、いずれも細粒組織とすることにより耐水蒸気酸化性を高める。
【0010】
ところで、米国機械学会(ASME)は、SA213−TP347HやSA213M−TP347Hとして、圧力容器用又はボイラ用のオーステナイト系ステンレス鋼を規格する。これらの規格は、固溶強化による高温クリープ強度を担保する条件として、オーステナイト結晶粒度を粒度番号で7以下とすることを規定する。
【0011】
特許文献1及び2のオーステナイト系ステンレス鋼管は、上述のとおり、細粒組織を有する。つまり、特許文献1及び2は、上述の規格と異なる方法で高温クリープ強度を得ることを提案している。しかしながら、ASMEの規格に適合し、かつ、耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管を提供できる方が好ましい。
【0012】
本発明の目的は、高温クリープ強度及び耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法は、質量%で、C:0.04〜0.08%、Si:0.10〜0.90%、Mn:1.10〜2.20%、Cr:15.00〜22.00%、Ni:8.00〜14.00%、Nb:8×[C(%)]+0.03〜0.85%、B:0.0005〜0.0050%、及び、N:0.0400〜0.1000%を含有し、残部はFe及び不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼素材を準備する工程と、素材を1190℃以上に加熱する工程と、加熱された素材に対して熱間加工を実施して素管を製造する工程と、素管に対して、式(1)で定義される断面減少率が20%以上となる冷間加工を実施する工程と、冷間加工された素管を、1230〜1260℃に加熱し、かつ、700〜1230℃までを1000秒以内で昇温する工程と、素管を1230℃〜1260℃で2分以上均熱してオーステナイト系ステンレス鋼管とする工程とを備える。
断面減少率=100−(冷間加工後の素管の断面積/冷間加工前の素管の断面積)×100(%) (1)
ここで、[C(%)]には、C含有量(質量%)が代入される。
【0014】
本発明による製造方法は、高温クリープ強度及び耐水蒸気酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼管を製造することができる。
【0015】
上記素材はさらに、Feの一部に代えて、Cu:0.80%以下、及び、Mo:0.80%以下の1種以上を含有してもよい。
【0016】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管は、質量%で、C:0.04〜0.08%、Si:0.10〜0.90%、Mn:1.10〜2.20%、Ni:8.00〜14.00%、Cr:15.00〜22.00%、Nb:8×[C]+0.03〜0.85%、B:0.0005〜0.0050%、及び、N:0.0400〜0.1000%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、JIS G0551に規定される方法で測定されるオーステナイト結晶粒の粒度番号において、最大頻度を持つ粒度番号の結晶粒から3以上異なった粒度番号の結晶粒の面積率が20%未満であり、少なくとも最大頻度の粒度番号が4.0以上7.0未満である。
【0017】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管は、優れた耐水蒸気酸化性及び高温クリープ強度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明による製造方法での各製造工程における鋼組織の模式図である。
【図2】図2は、図1と異なる製造方法での各製造工程における鋼組織の模式図である。
【図3】図3は、図1及び図2と異なる製造方法での各製造工程における鋼組織の模式図である。
【図4】図4は、図1〜図3と異なる製造方法での各製造工程における鋼組織の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。なお、元素の含有量の「%」は、質量%を意味する。
【0020】
本発明者は、オーステナイト系ステンレス鋼管の耐水蒸気酸化性及び高温クリープ強度について調査及び検討した。その結果、本発明者は以下の知見を得た。
【0021】
(A)鋼組織が混粒であれば、耐水蒸気酸化性が低下しやすい。混粒とは、JIS G0551に規定される方法で測定されるオーステナイト結晶粒度番号において、最大頻度を持つ粒度番号の結晶粒から3以上異なった粒度番号の結晶粒の面積率が20%以上の鋼組織を意味する。一方、整粒とは、最大頻度を持つ粒度番号の結晶粒から3以上異なった粒度番号の結晶粒の面積率が、20%未満の鋼組織を意味する。以降、鋼組織のうち、最大頻度を持つ粒度番号の結晶粒から3以上異なった粒度番号の結晶粒からなる領域を、「サブ領域」という。また、鋼組織のうち、サブ領域以外の領域を「メイン領域」という。混粒の場合、サブ領域の面積率が20%以上になる。
【0022】
(B)整粒の場合、少なくともメイン領域のオーステナイト結晶粒度番号が7.0未満であれば、高温クリープ強度に優れる。一方、メイン領域のオーステナイト結晶粒度が4.0未満であれば、耐水蒸気酸化性が低い。したがって、優れた高温クリープ強度及び耐水蒸気酸化性を得るために、少なくともメイン領域のオーステナイト結晶粒度番号を4.0以上7.0未満にするのが好ましい。換言すれば、少なくとも最大頻度の粒度番号が4.0以上7.0未満である。
【0023】
混粒では、メイン領域及びサブ領域の一方が、粒度番号の大きい小粒部となり、他方が、粒度番号の小さい大粒部となる。鋼組織が混粒である場合、大粒部において局所的に粗大な水蒸気酸化スケールが生成されやすく、耐水蒸気酸化性が低下する。粗大な水蒸気酸化スケールは剥離しやすい。特に、粒度番号が4.0未満の大粒部が面積率で20%以上であれば、粗大な水蒸気酸化スケールが生成されやすく、耐水蒸気酸化性が低下する。
【0024】
(C)以上より、鋼組織が整粒であり、少なくともメイン領域の粒度番号が4.0以上7.0未満であれば、オーステナイト系ステンレス鋼管は優れた耐水蒸気酸化性及び高温クリープ強度を有する。
【0025】
(D)本発明のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法は次のとおりである。上述の化学組成の素材(スラブ、ビレット又はインゴット)を用いて、熱間加工工程、冷間加工工程及び、熱処理工程の順に実施する。熱間加工工程では、素材を加熱し、加熱された素材に対して熱間加工を実施して素管を製造する。冷間加工工程では、素管を冷間加工して、再結晶の駆動源となる歪みを鋼中に導入する。熱処理工程では、導入された歪みにより再結晶を起こす。各製造工程について次の製造条件を満たせば、上記(C)に示す鋼組織のオーステナイト系ステンレス鋼管が得られる。
【0026】
(E)熱間加工工程では、素材(鋼片又は鋼塊)を1190℃以上に加熱する。素材内にはNb炭化物、Nb窒化物、及び、Nb炭窒化物の1種以上(以下、Nb炭化物等という)が含まれる。加熱温度が1190℃未満である場合、これらのNb炭化物等が固溶しきれず、鋼中に残存する。残存したNb炭化物等は粗大であるため、熱処理工程においてピンニング粒子として作用しにくい。そのため、熱処理により生成された再結晶粒が過度に成長し、鋼組織の結晶粒度番号が4.0未満になったり、鋼組織が混粒になる。
【0027】
(F)冷間加工工程では、冷間加工時の断面減少率を20%以上にする。断面減少率は式(1)で定義される。
断面減少率=100−(冷間加工後の素管の断面積/冷間加工前の素管の断面積)×100(%) (1)
ここで、冷間加工前後の断面積の単位はmmである。
【0028】
冷間加工時の断面減少率が20%未満であれば、鋼中に導入される歪み量が少なすぎる。そのため、熱処理工程において再結晶が十分に起こらない。その結果、鋼組織の結晶粒度番号が4.0未満になったり、鋼組織が混粒になったりする。
【0029】
(G)熱処理工程では、素管を熱処理温度まで加熱し、熱処理温度で均熱する。熱処理温度は1230〜1260℃とする。さらに、素管を加熱するとき、700〜1230℃までの昇温時間を1000秒以内にする。昇温過程において、素管温度が700℃以上になると、鋼中にNb炭化物等が析出する。700〜1230℃までの昇温時間が長すぎれば、析出したNb炭化物等の一部が凝集して粗大化する。そのため、鋼中に粗大なNb炭化物等と微細なNb炭化物等とが混在する。微細なNb炭化物等はピンニング粒子として作用する。そのため、鋼組織のうち微細なNb炭化物等を含む領域では、再結晶が起こったときに結晶粒の成長が抑制され、鋼組織が微細化される。一方、粗大なNb炭化物等はピンニング粒子として作用しにくい。そのため、粗大Nb炭化物等を含む領域の結晶粒は粗大化する。以上の結果、鋼組織が混粒になりやすくなる。
【0030】
700〜1230℃までの昇温時間が1000秒以内であれば、Nb炭化物等の凝集及び粗大化を抑制できる。さらに、均熱時間を2分以上にする。これにより、再結晶の発生と、微細なNb炭化物等のピンニング効果とにより、適切なサイズのオーステナイト結晶粒(粒度番号4.0以上7.0未満)を生成することができ、かつ、鋼組織が整粒になる。
【0031】
以上の知見に基づいて、本発明者らは本発明を完成した。以下、本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管について説明する。
【0032】
[化学組成]
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管は、以下の化学組成を有する。
【0033】
C:0.04〜0.08%
炭素(C)は、オーステナイト系ステンレス鋼の高温引張強度及び高温クリープ強度を高める。Cはさらに、Nbと結合してNb炭化物及び/又はNb炭窒化物を生成し、結晶粒の過度の粗大化を抑制する。一方、Cが過剰に含有されれば、Nb炭化物及び/又はNb炭窒化物が過剰に生成されたり、粗大化する。そのため、結晶粒が過度に微細化したり、鋼組織が混粒になる。その結果、鋼の耐水蒸気酸化性が低下したり、高温クリープ強度が低下する。したがって、C含有量は、0.04〜0.08%である。好ましいC含有量の下限は、0.04%よりも高く、さらに好ましくは、0.05%以上であり、さらに好ましくは、0.06%以上である。好ましいC含有量の上限は、0.08%未満である。
【0034】
Si:0.10〜0.90%
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。一方、Siが過剰に含有されれば、鋼の加工性が低下する。したがって、Si含有量は、0.10〜0.90%である。好ましいSi含有量の下限は、0.10%よりも高く、さらに好ましくは、0.15%以上であり、さらに好ましくは、0.20%である。好ましいSi含有量の上限は、0.90%未満であり、さらに好ましくは、0.80%以下であり、さらに好ましくは0.75%以下である。
【0035】
Mn:1.10〜2.20%
マンガン(Mn)は、鋼中の不純物である硫黄(S)と結合してMnSを形成し、鋼の熱間加工性を高める。一方、Mnが過剰に含有されれば、鋼の靭性が低下する。したがって、Mn含有量は、1.10〜2.20%である。好ましいMn含有量の下限は、1.10%よりも高く、さらに好ましくは、1.10%以上であり、さらに好ましくは、1.20%以上である。好ましいMn含有量の上限は、2.20%未満であり、さらに好ましくは、2.00%以下であり、さらに好ましくは、1.70%以下である。
【0036】
Cr:15.00〜22.00%
クロム(Cr)は、オーステナイト系ステンレス鋼の耐酸化性、耐水蒸気酸化性及び耐食性を高める。一方、Crはフェライトを安定化する元素である。そのため、Crが過剰に含有されれば、オーステナイト組織の安定性が低下する。Crが過剰に含有されれば、オーステナイト組織を安定化するために、高価なNiを多く含有しなければならない。したがって、Cr含有量は、15.00〜22.00%である。好ましいCr含有量は、15.00%よりも高く、さらに好ましくは、16.00%以上であり、さらに好ましくは、17.00%以上である。好ましいCr含有量の上限は、22.00%未満であり、さらに好ましくは、21.00%以下であり、さらに好ましくは、19.00%以下である。
【0037】
Ni:8.00〜14.00%
ニッケル(Ni)は、オーステナイト組織を安定化する。Niはさらに、鋼の耐食性を高める。しかしながら、Niが過剰に含有されれば、鋼の高温クリープ強度が低下する。したがって、Ni含有量は、8.00〜14.00%である。好ましいNi含有量の下限は、8.00%よりも高く、さらに好ましくは、8.25%以上であり、さらに好ましくは、8.50%以上である。好ましいNi含有量の上限は、14.00%未満であり、さらに好ましくは、13.50%以下であり、さらに好ましくは、13.00%以下である。
【0038】
Nb:8×[C(%)]+0.03〜0.85%
ニオブ(Nb)は、C及び/又はNと結合して、Nb炭化物、Nb窒化物、Nb炭窒化物の1種以上(Nb炭化物等)を形成する。Nb炭化物等は、結晶粒の過度の粗大化を抑制し、鋼の耐水蒸気酸化性を高める。Nbはさらに、固溶強化により鋼の高温クリープ強度を高める。一方、Nbが過剰に含有されれば、微細なNb炭化物等が過剰に生成され、固溶したNbが少なくなる。そのため、高温クリープ強度が低下する。この場合、鋼組織が過度に微細化され、粒度番号が7.0以上になる。Nbが過剰に含有されれば、微細なNb炭化物等とともに、粗大なNb炭化物等が生成される場合もある。この場合、鋼組織が混粒になり、耐水蒸気酸化性が低下する場合がある。したがって、Nb含有量は、8×[C(%)]+0.03〜0.85%である。ここで、[C(%)]にはC含有量(質量%)が代入される。好ましいNb含有量の下限は、8×[C(%)]+0.05%以上である。好ましいNb含有量の上限は、0.85%未満であり、さらに好ましくは、0.80%以下であり、さらに好ましくは、0.60%以下である。
【0039】
B:0.0005〜0.0050%
ボロン(B)は、鋼中の炭窒化物中のCと置換して炭窒化物中に含有されたり、B単体で粒界に配置される。このようなBは、粒界クリープを抑制する。したがって、Bは鋼の高温クリープ強度を高める。一方、Bが過剰に含有されれば、鋼の溶接性が低下する。したがって、B含有量は、0.0005〜0.0050%である。好ましいB含有量の下限は、0.0005%よりも高く、さらに好ましくは、0.0007%以上であり、さらに好ましくは、0.0010%以上である。好ましいB含有量の上限は、0.0050%未満であり、さらに好ましくは、0.0040%以下であり、さらに好ましくは、0.0030%以下である。
【0040】
N:0.0400〜0.1000%
窒素(N)は、固溶強化により鋼の強度を高める。Nはさらに、Nbと結合して微細なNb炭窒化物及び/又はNb窒化物を形成し、鋼組織の過度の粗粒化を抑制する。さらに、Nb炭窒化物及び/又はNb窒化物は、鋼を析出強化する。一方、Nが過剰に含有されれば、粗大なNb炭窒化物及び/又はNb窒化物が形成され、鋼組織が粗粒化しやすくなる。鋼組織が過度に粗粒化されれば、鋼の耐水蒸気酸化性が低下する。したがって、N含有量は、0.0400〜0.1000%である。好ましいN含有量の下限は、0.0400%よりも高く、さらに好ましくは、0.0450%以上であり、さらに好ましくは、0.0500%以上である。好ましいN含有量の上限は、0.1000%未満であり、さらに好ましくは、0.0900%以下であり、さらに好ましくは、0.0800%以下である。
【0041】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管の残部は、Fe及び不純物である。不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、あるいは製造過程の環境等から混入される元素であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0042】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管はさらに、Feの一部に代えて、Cu:0.80%以下及びMo:0.80%以下からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、鋼の高温クリープ強度を高める。
【0043】
Cu:0.80%以下
銅(Cu)は選択元素である。Cuは鋼に固溶して、鋼の高温クリープ強度を高める。一方、Cuが過剰に含有されれば、鋼の靭性、延性及び加工性が低下する。したがって、Cu含有量は、0.80%以下である。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。好ましいCu含有量の下限は、0.03%以上であり、さらに好ましくは、0.05%以上である。好ましいCu含有量の上限は、0.80%未満であり、さらに好ましくは、0.70%以下であり、さらに好ましくは、0.50%以下である。
【0044】
Mo:0.80%以下
モリブデン(Mo)は選択元素である。Moは鋼に固溶して、鋼の高温クリープ強度を高める。一方、Moが過剰に含有されれば、シグマ相等の金属間化合物が生成され、鋼の強度及び靭性が低下する。したがって、Mo含有量は、0.80%以下である。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。好ましいMo含有量の下限は、0.03%以上であり、さらに好ましくは、0.05%以上である。好ましいMo含有量の上限は、0.80%未満であり、さらに好ましくは、0.70%以下であり、さらに好ましくは、0.50%以下である。
【0045】
[鋼組織]
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管は、上述の化学組成とともに、次の鋼組織を有する。
【0046】
鋼組織は整粒である。整粒又は混粒の判断は、以下の方法に基づく。オーステナイト系ステンレス鋼管から顕微鏡観察用の試験片を採取する。採取された試験片を用いて、JIS G0551(2005)に規定される結晶粒度の顕微鏡試験方法を実施し、オーステナイト結晶粒度番号を評価する。具体的には、試験片の表面を、周知の腐食液(グリセレジア、カーリング試薬、マーブル試薬等)を用いて腐食し、表面の結晶粒界を現出させる。腐食された表面上の10視野において、各視野の結晶粒度番号を求める。各視野の面積は、1.53mmである。JIS G0551(2005)の7.1.2に規定された結晶粒度標準図との比較により、各視野における結晶粒度番号を評価する。
【0047】
全10視野の総面積のうち、全10視野中の最大頻度を持つ粒度番号の結晶粒から3以上異なった粒度番号の結晶粒の面積率が5%未満である場合、つまり、全10視野の総面積に対するサブ領域の総面積(以下、単にサブ領域の面積率という)が5%未満である場合、サブ領域が発生していないと判断する。この場合、各視野において1つの粒度番号を評価する。具体的には、各視野において最大頻度を持つ粒度番号を、その視野の粒度番号と評価する。そして、10視野で評価した粒度番号の平均を、オーステナイト結晶粒度と定義する。
【0048】
全10視野中の最大頻度を持つ粒度番号の結晶粒から3以上異なった粒度番号の結晶粒の面積率が、全10視野の総面積の5%以上である場合、つまり、サブ領域の面積率が5%以上である場合、その鋼組織は、メイン領域とサブ領域とを含むと判断する。この場合、各視野において、メイン領域の粒度番号と、サブ領域の粒度番号とをそれぞれ評価する。このとき、視野によっては、サブ領域が存在しない場合もある。その場合、その視野の粒度番号は、メイン領域の粒度番号と定義する。10視野のうち、メイン領域の粒度番号の平均を、メイン領域の粒度番号と定義する。そして、10視野中測定されたサブ領域の粒度番号の平均を、サブ領域の粒度番号と定義する。
【0049】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼管では、鋼組織が整粒である。つまり、サブ領域の面積率が20%未満である。さらに、少なくともメイン領域の粒度番号は4.0以上7.0未満である。少なくともメイン領域の粒度番号が7.0未満であれば、鋼組織中の80%よりも大きい領域の粒度番号が7.0未満になる。したがって、高温クリープ強度は十分に得られる。また、メイン領域の粒度番号が4.0以上であるため、優れた耐水蒸気酸化性が得られる。
【0050】
鋼組織が整粒である場合、サブ領域の粒度番号が4.0未満であっても、メイン領域の粒度番号が4.0以上7.0未満であれば、優れた耐水蒸気酸化性が得られる。サブ結晶粒領域の好ましい面積率は、10%以下であり、さらに好ましくは、5%以下である。この場合、耐水蒸気酸化性がさらに優れる。
【0051】
鋼組織が整粒であっても、メイン領域の結晶粒度が7.0以上である場合、高温クリープ強度が低くなる。さらに、メイン領域の結晶粒度が4.0未満である場合、耐水蒸気酸化性が低くなる。
【0052】
さらに、鋼組織が混粒である場合、つまり、サブ領域の面積率が20%以上である場合、メイン領域の結晶粒度番号が4.0以上7.0未満の範囲内であっても、耐水蒸気酸化性又は高温クリープ強度が低くなる。具体的には、サブ領域の結晶粒度番号が4.0未満である場合、耐水蒸気酸化性が低下する。また、サブ領域の粒度番号が7.0以上の場合、高温クリープ強度が低下する。
【0053】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管は、上述の鋼組織を得るために、次に示す製造方法により製造される。
【0054】
[製造方法]
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法では、初めに、素材を準備する(準備工程)。次に、素材に対して熱間加工を実施して素管を製造する(熱間加工工程)。次に、熱間加工後の素管に対して冷間加工を実施する(冷間加工工程)。次に、冷間加工後の素管に対して熱処理を実施する(熱処理工程)。以上の工程により、オーステナイト系ステンレス鋼管を製造する。以下、各製造工程の詳細を説明する。
【0055】
[準備工程]
上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼をアルゴン脱炭法(AOD)、真空酸素脱炭法(VOD)、又は他の精錬法により精錬してもよい。溶鋼から素材を製造する。素材は鋼塊又は鋼片である。鋼片はたとえば、スラブ、ブルーム、ビレット等である。たとえば、連続鋳造法により溶鋼を鋼片にする。又は、造塊法により溶鋼を鋼塊にする。スラブ、ブルーム又は鋼塊を熱間加工して、ビレットを製造してもよい。
【0056】
[熱間加工工程]
準備された素材に対して熱間加工を実施し、素管を製造する。熱間加工工程では初めに、素材を加熱する。このとき、加熱温度は1190℃以上である。準備工程で製造された素材は、内部に粗大なNb炭化物等を含有する。素材を1190℃以上に加熱することにより、Nb炭化物等を固溶する。熱間加工工程での加熱により、Nb炭化物等が固溶されれば、熱処理工程の昇温過程において微細なNb炭化物等が適切量析出する。そのため、鋼組織が整粒になり、かつ、少なくともメイン領域の結晶粒度が4.0以上7.0未満になる。
【0057】
加熱温度が低すぎれば、素材中のNb炭化物等の一部が固溶せずに残存する。この場合、熱処理工程でNb炭窒化物等が十分に析出しない。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼管の結晶流度が4.0未満となる場合が生じる。
【0058】
好ましい加熱温度の下限は、1190℃よりも高く、さらに好ましくは、1200℃以上である。加熱温度が高すぎると、横切疵が発生しやすくなる。したがって、好ましい加熱温度の上限は、1300℃以下であり、さらに好ましくは、1280℃以下である。
【0059】
上述の加熱温度で素材を十分に加熱した後、素材に対して熱間加工を実施して素管を製造する。熱間加工は、熱間圧延でもよいし、熱間鍛造でもよい。熱間押出でもよい。熱間穿孔して素管を製造してもよい。好ましくは、熱間加工は、熱間押出である。好ましくは、熱間加工後の素管を空冷よりも速い温度で冷却する。好ましくは、熱間加工された素管を水冷する。
【0060】
[冷間加工工程]
熱間加工して製造された素管に対して、冷間加工を実施する。冷間加工はたとえば、冷間圧延や冷間引抜である。
【0061】
冷間加工では、式(1)で定義される断面減少率を、20%以上にする。
断面減少率=100−(加工後の素管の断面積/加工前の素管の断面積)×100(%) (1)
【0062】
冷間加工の断面減少率を20%以上にすれば、素管に多くの歪みを導入することができる。導入された歪み(転位)は再結晶の核になる。そのため、熱処理工程において均一な再結晶が起こりやすく、整粒が得られやすい。
【0063】
一方、断面減少率が20%未満であれば、素管に導入される歪みが少なすぎる。そのため、不均一な再結晶が起こり、混粒になりやすい。
【0064】
好ましい断面減少率は、20%よりも高く、さらに好ましくは22%以上であり、さらに好ましくは、25%以上である。一方、断面減少率が高すぎれば、冷間加工設備への負担が大きくなる。したがって、好ましい断面減少率の上限は、80%以下である。
【0065】
[熱処理工程]
冷間加工後の素管に対して、熱処理を実施する。熱処理では、初めに素管を熱処理温度まで加熱する(昇温工程)。次に、素管を熱処理温度で均熱する(均熱工程)。均熱後、素管を空冷よりも速い冷却速度で冷却して、オーステナイト系ステンレス鋼管とする。好ましくは、均熱後の素管を水冷する。以下、昇温工程及び均熱工程について詳述する。
【0066】
[昇温工程]
昇温工程では初めに、素管を熱処理炉に装入する。次に、熱処理炉内で素管を熱処理温度まで加熱する。本発明における熱処理温度は1230〜1260℃である。熱処理温度が1230℃未満であれば、再結晶粒が成長しにくい。そのため、少なくともメイン領域の結晶粒度が7.0以上になる。一方、熱処理温度が1260℃を超えれば、再結晶粒が過度に成長して、少なくともメイン領域の結晶粒度が4.0未満になる。
【0067】
さらに、昇温過程において、700〜1230℃までの昇温時間を1000秒以内とする。昇温過程において、素管温度が700℃以上になると、鋼中にNb炭化物等が析出する。700〜1230℃までの昇温時間が長すぎれば、析出したNb炭化物等の一部が凝集して粗大化する。そのため、鋼中に粗大なNb炭化物等と微細なNb炭化物等とが混在する。微細なNb炭化物等を含む領域の結晶粒は微細化され、粗大なNb炭化物等を含む領域の結晶粒は粗大化する。そのため、鋼組織が混粒になりやすい。また、サブ領域の結晶粒度が4.0未満になりやすい。その結果、耐水蒸気酸化性が低下する。
【0068】
700〜1230℃までの昇温時間が1000秒以内であれば、Nb炭化物等の凝集及び粗大化を抑制できる。そのため、鋼組織が整粒され、少なくともメイン領域の粒度番号が4.0以上7.0未満になる。後述する均熱時間が10分未満である場合、好ましい昇温時間は750秒以下である。この場合、鋼組織内のサブ領域の面積率が5%以下になる。
【0069】
[均熱工程]
昇温工程により熱処理温度(1230〜1260℃)に加熱された素管を、熱処理温度で2分以上均熱する。これにより、再結晶粒を適切なサイズに成長させることができ、結晶粒が過度に微細になるのを抑制できる。均熱時間が2分未満であれば、再結晶粒が大きく成長しにくい。そのため、メイン領域又は全領域の結晶粒度が7.0以上になる。
【0070】
好ましい均熱時間の下限は、2分以上である。好ましい均熱時間の下限は、10分以上である。好ましい均熱時間の上限は、35分以内であり、さらに好ましくは、30分以内である。
【0071】
[製造工程中の鋼組織]
図1は、上述の製造工程中の鋼組織の模式図である。図1中のS1の鋼組織は、熱間加工工程での鋼組織を示す。S2は冷間加工工程での鋼組織を示す。S3は熱処理工程での鋼組織を示す。S4は製造されたオーステナイト系ステンレス鋼管の鋼組織を示す。
【0072】
図1を参照して、熱間加工工程S1において、加熱温度を1190℃以上にする。このとき、素材中の鋼組織では、Nb炭化物等10のほとんどが固溶し、一部がわずかに残存する。つまり、鋼組織は、複数の結晶粒1と、わずかに残存するNb炭化物等10とを含む。
【0073】
続いて、冷間加工工程S2において、20%以上の断面減少率で素管に対して冷間加工を実施する。このとき、結晶粒1内に多くの歪み(転位)11が導入される。続いて、熱間加工工程S3において、素管を1230〜1260℃に加熱し、かつ、700〜1230℃までの昇温時間を1000秒以内とする。そして、均熱時間を2分以上とする。この場合、図1のS3に示すとおり、加熱により適切な量のNb炭化物等10が析出し、ピンニング粒子として作用する。さらに、冷間加工工程で導入された歪みを核として再結晶が起こり、再結晶粒12が形成される。Nb炭化物等及び上述の熱処理温度で2分以上均熱することにより、S4に示すとおり、結晶粒20を含む鋼組織が整粒になり、かつ、少なくともメイン結晶粒領域又は全領域の結晶粒度番号が4.0以上7.0未満になる。
【0074】
[熱間加工工程の加熱温度が低い場合]
熱間加工工程S1の加熱温度が1190℃未満である場合、図2に示すとおり、熱間加工工程S1での素管中には、多くのNb炭化物等10が残存する。この場合、熱処理工程S3の昇温過程において、微細なNb炭化物10等が十分に析出しない。熱間加工工程S1から残存する粗大なNb炭化物等10の一部は、昇温過程において固溶するが、そのほとんどは残存する。粗大なNb炭化物等10はピンニング粒子として作用しない。そのため、熱処理工程S3で生成された再結晶粒12は過度に粗大化する。そのため、S4に示すとおり、オーステナイト系ステンレス鋼管の鋼組織は、4.0未満の結晶粒度を含む混粒になりやすい。そのため、鋼の耐水蒸気酸化性は低い。
【0075】
[冷間加工工程での断面減少率が低い場合]
図3を参照して、冷間加工工程S2での断面減少率が20%未満である場合、冷間加工工程S2で導入される歪み11の量が少なすぎる。そのため、熱処理工程S3で十分な量の再結晶粒12が生成しにくい。この場合、既存の結晶粒1が再結晶粒12と結合してさらに粗大化し、S4に示すように、鋼組織が混粒になりやすく、かつ、一部の結晶粒度が4.0未満になりやすい。そのため、鋼の耐水蒸気酸化性は低い。
【0076】
[熱処理工程での昇温時間が長い場合]
図4を参照して、熱処理工程S3での昇温時間が1000秒を超える場合、加熱中に析出したNb炭化物等10の一部が凝集して粗大化する。そのため、鋼中に粗大なNb炭化物等10と微細なNb炭化物等10とが混在する。さらに、再結晶が進み、多くの再結晶粒12が生成、成長する。そのため、S4に示すとおり、鋼組織が混粒になりやすく、かつ、その一部の結晶粒度が4.0未満になりやすい。そのため、鋼の耐水蒸気酸化性は低い。
【実施例】
【0077】
種々の化学組成を有する素材を用いて、種々の製造条件で複数のオーステナイト系ステンレス鋼管を製造した。そして、製造された各鋼管のオーステナイト結晶粒度番号と、耐水蒸気酸化性とを評価した。
【0078】
[調査方法]
表1に示す化学組成を有する番号1〜18の鋼を電気炉により溶解した。溶鋼をアルゴン脱炭法(AOD)及び真空酸素脱炭法(VOD)により精錬した。精錬された溶鋼をインゴットに製造した。インゴットを熱間鍛造して、直径175mmの丸ビレットを製造した。
【表1】

【0079】
表1中の各元素記号欄(C、Si、Mn、Cr、Ni、Nb、B、N、Cu及びMo)には、各番号の鋼中の対応する元素の含有量(質量%)が記入されている。各番号の化学組成の表1に記載された元素以外の残部は、Fe及び不純物である。表中の「−」は、対応する元素含有量が含有されなかった(不純物レベルであった)ことを示す。
【0080】
表1を参照して、番号1〜8及び13〜18の化学組成は、いずれも本発明の化学組成の範囲内であった。一方、番号9〜12の化学組成は、本発明の化学組成の範囲外であった。
【0081】
番号1〜18の丸ビレットを表1に示す加熱温度(表1中の「熱間加工、加熱温度」欄を参照)で加熱した。加熱された丸ビレットに対して熱間押出を実施して素管を製造した。製造された素管に対して、冷間加工(冷間圧延又は冷間引抜)を実施した。冷間加工時の断面減少率を式(1)を用いて求めた。求めた断面減少率(%)を表1中の「冷間加工、断面減少率」欄に示す。冷間加工後、素管に対して熱処理を実施した。熱処理における700〜1230℃までの昇温時間(秒)、均熱時間(分)及び熱処理温度(℃)は、表1に記載のとおりであった。ただし、番号17の均熱温度は、1220℃であったため、番号17の昇温時間は、700〜1220℃までの昇温時間とした。
【0082】
以上の製造工程により、表1の「管寸法」欄に記載の外径(mm)及び肉厚(mm)のオーステナイト系ステンレス鋼管を製造した。
【0083】
製造された番号1〜18のオーステナイト系ステンレス鋼管に対して、以下の試験を実施した。
【0084】
[結晶粒度の顕微鏡試験]
各番号のオーステナイト系ステンレス鋼管から顕微鏡観察用の試験片を採取した。採取された試験片を用いてJIS G0551(2005)に規定される結晶粒度の顕微鏡試験方法に基づいて、各試験番号の結晶粒度を求めた。具体的には、試験片の表面を、周知の腐食液を用いて腐食し、結晶粒界を現出させた。上述に記載のとおり、腐食された表面上の10視野において、JIS G0551の7.1.2に規定された結晶粒度標準図との比較による評価方法に基づいて、オーステナイト結晶粒度番号を評価した。鋼組織がメイン領域とサブ領域とを含む場合、上述の方法により、メイン領域の粒度番号と、サブ領域の粒度番号とをそれぞれ評価した。さらに、メイン領域の面積率(%)と、サブ領域の面積率(%)とを求めた。
【0085】
[耐水蒸気酸化性試験]
各番号のオーステナイト系ステンレス鋼管を、650℃の水蒸気酸化雰囲気中に500時間曝した。水蒸気酸化雰囲気の溶存酸素濃度は100ppbであった。試験後の鋼管内面の腐食減量(mg/cm)を求めた。
【0086】
[試験結果]
試験結果を表2に示す。
【表2】

【0087】
表2中の「粒度番号」欄には、各番号の鋼組織の結晶粒度番号が記載される。対応する番号の粒度番号欄に上下に2つの結晶粒度が記載される場合、鋼組織がメイン領域とサブ領域とを有することを意味する。この場合、粒度番号欄の上段にメイン領域の粒度番号が記載され、下段にサブ領域の粒度番号が記載される。「面積率」欄には、鋼組織がメイン領域とサブ領域とを含む場合の各領域の面積率(%)が記載される。上段にはメイン領域の面積率が記載され、下段にはサブ領域の面積率が記載される。鋼組織がサブ領域を含まない場合、「面積率」欄には、「−」が記載される。「腐食減量」欄には、耐水蒸気酸化性試験により得られた腐食減量(mg/cm)が記載される。
【0088】
表2を参照して、番号1〜8の化学組成はいずれも本発明の範囲内であった。さらに、番号1〜8の熱間加工工程での加熱温度、冷間加工工程での断面減少率、熱処理工程での昇温時間、熱処理温度及び均熱時間はいずれも、本発明の範囲内であった。そのため、番号1〜8のオーステナイト系ステンレス鋼管の鋼組織は整粒であった。番号2、3、5、6及び8の鋼組織はサブ領域を有さず、粒度番号は高温クリープ強度を担保する4.0以上7.0未満であった。さらに、これらの番号の腐食減量は20mg/cm以下であり、優れた耐水蒸気酸化性を示した。
【0089】
番号1、4及び7の鋼組織はメイン領域とサブ領域とを有したものの、メイン領域の粒度番号は、高温クリープ強度が担保される4.0以上7.0未満の範囲内であった。また、腐食減量は20mg/cm以下であり、優れた耐水蒸気酸化性を示した。なお、番号4では均熱時間が10分未満であり、かつ、昇温時間が本発明の上限(1000秒)であったため、サブ領域の面積率が5%を超えた。一方、番号1〜3は、均熱時間が10分未満であったものの、昇温時間が750秒以下であったため、サブ領域の面積率が5%以下(0%を含む)であった。
【0090】
一方、番号9のC含有量は、本発明のC含有量の上限を超えた。そのため、鋼組織はメイン領域とサブ領域とを含み、メイン領域の粒度番号が7.0以上であった。Nb炭化物等が過剰に析出し、再結晶時に再結晶粒の成長が抑制されたためと考えられる。試験番号10のNb含有量は、本発明のNb含有量の下限未満であった。そのため、粒度番号は4.0未満であった。そのため、腐食減量が20mg/cmを超え、耐水蒸気酸化性が低かった。熱処理工程において、ピンンング粒子となるNb炭化物等の析出が不足し、結晶粒が過度に粗大化したためと考えられる。
【0091】
試験番号11のNb含有量は、本発明のNb含有量の上限を超えた。そのため、粒度番号は7.0以上であった。熱処理工程において、Nb炭化物等が過剰に析出し、結晶粒が微細化されたためと考えられる。試験番号12のN含有量は、本発明のN含有量の上限を超えた。そのため、鋼組織はメイン領域とサブ領域とを含有し、メイン領域の粒度番号は7.0以上であった。Nが過剰に含有されたため、熱処理工程においてNb炭化物等が過剰に析出し、その結果、メイン領域の結晶粒が微細化されたためと考えられる。
【0092】
試験番号13の化学組成は本発明の範囲内であった。しかしながら、熱間加工工程での加熱温度が、本発明の下限未満であった。そのため、試験番号13の鋼組織は混粒であった。つまり、サブ領域の面積率が20%以上になった。さらに、サブ領域の粒度番号が4.0未満となった。そのため、腐食減量が20mg/cmを超え、耐水蒸気酸化性が低かった。図2に示すとおり、熱間加工工程での加熱により素材中のNb炭化物等が固溶しきらず残存し、再結晶時に結晶粒が過度の粗大化したためと考えられる。
【0093】
試験番号14の化学組成は本発明の範囲内であった。しかしながら、冷間加工工程での断面減少率が、本発明の下限未満であった。そのため、試験番号14の鋼組織は混粒であった。さらに、サブ領域の粒度番号は4.0未満であった。そのため、腐食減量が20mg/cmを超え、耐水蒸気酸化性が低かった。図3に示すとおり、冷間加工工程で導入される歪み11の量が少なすぎたため、結晶粒が過度に粗大化したと考えられる。
【0094】
試験番号15の化学組成は本発明の範囲内であった。しかしながら、熱処理工程での700〜1230℃までの昇温時間が本発明の上限を超えた。そのため、試験番号15の鋼組織は混粒であった。さらに、サブ領域の粒度番号は4.0未満であった。そのため、腐食減量が20mg/cmを超え、耐水蒸気酸化性が低かった。図4に示すとおり、熱処理工程における昇温過程において、粗大なNb炭化物等と微細なNb炭化物等が混在し、かつ、昇温過程中においても再結晶が起こり、一部の結晶粒が過度に粗大化したためと考えられる。
【0095】
試験番号16の化学組成は本発明の範囲内であった。しかしながら、熱処理工程での均熱時間が本発明の下限未満であった。そのため、試験番号16の鋼組織は混粒であった。さらに、メイン領域の粒度番号は7.0以上であった。均熱時間が短すぎ、再結晶による結晶成長が不十分だったためと考えられる。
【0096】
試験番号17の化学組成は本発明の範囲内であった。しかしながら、熱処理工程での熱処理温度が本発明の下限未満であった。そのため、試験番号17の粒度番号は7.0以上であった。熱処理温度が低すぎ、再結晶による結晶成長が不十分だったためと考えられる。
【0097】
試験番号18の化学組成は本発明の範囲内であった。しかしながら、熱処理工程での熱処理温度が本発明の上限を超えた。そのため、試験番号18の粒度番号は4.0未満であった。そのため、腐食減量が20mg/cmを超え、耐水蒸気酸化性が低かった。熱処理温度が高すぎたため、再結晶時に結晶粒が過度に粗大化したためと考えられる。
【0098】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、高温クリープ強度及び耐水蒸気酸化性を要求される鋼管の製造方法として広く適用され、特に、発電プラントや化学プラントに利用される圧力容器やボイラ用鋼管の製造方法として、好適である。
【符号の説明】
【0100】
1,20 結晶粒
10 Nb炭化物等
11 歪み
12 再結晶粒
S1 熱間加工工程
S2 冷間加工工程
S3 熱処理工程
S4 オーステナイト系ステンレス鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.04〜0.08%、Si:0.10〜0.90%、Mn:1.10〜2.20%、Cr:15.00〜22.00%、Ni:8.00〜14.00%、Nb:8×[C(%)]+0.03〜0.85%、B:0.0005〜0.0050%、及び、N:0.0400〜0.1000%を含有し、残部はFe及び不純物からなる素材を準備する工程と、
前記素材を1190℃以上に加熱する工程と、
加熱された前記素材に対して熱間加工を実施して素管を製造する工程と、
前記素管に対して、式(1)で定義される断面減少率が20%以上となる冷間加工を実施する工程と、
冷間加工された前記素管を、1230〜1260℃まで加熱し、かつ、700〜1230℃までを1000秒以内で昇温する工程と、
前記素管を1230℃〜1260℃で2分以上均熱してオーステナイト系ステンレス鋼管とする工程とを備える、オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
断面減少率=100−(冷間加工後の素管の断面積/冷間加工前の素管の断面積)×100(%) (1)
ここで、前記[C(%)]には、炭素含有量(質量%)が代入される。
【請求項2】
請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法であって、
前記素材はさらに、前記Feの一部に代えて、Cu:0.80%以下、及び、Mo:0.80%以下の1種以上を含有する、オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法であって、
前記熱間加工を実施する工程では、前記素材を熱間押出して前記素管を製造し、
前記冷間加工を実施する工程では、前記素管を冷間圧延又は冷間抽伸する、オーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法。
【請求項4】
質量%で、C:0.04〜0.08%、Si:0.10〜0.90%、Mn:1.10〜2.20%、Ni:8.00〜14.00%、Cr:15.00〜22.00%、Nb:8×[C(%)]+0.03〜0.85%、B:0.0005〜0.0050%、及び、N:0.0400〜0.1000%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
JIS G0551に規定される方法で測定されるオーステナイト結晶粒の粒度番号のうち、最大頻度を持つ粒度番号の結晶粒から3以上異なった粒度番号の結晶粒の面積率が20%以下であり、前記最大頻度の粒度番号が4.0以上7.0未満である、オーステナイト系ステンレス鋼管。
【請求項5】
請求項4に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管であって、
前記Feの一部に代えて、Cu:0.80%以下、及び、Mo:0.80%以下の1種以上を含有する、オーステナイト系ステンレス鋼管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−255198(P2012−255198A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130131(P2011−130131)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】