説明

オートテンショナ

【課題】摩擦部材の周方向へのずれを阻止することによって周方向に関して摩擦抵抗を均一に発生させ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させる。
【解決手段】4つの摩擦部材6は夫々、第1摩擦面6a及び前記第2摩擦面6bに接触していると共に、周方向に関する4つの突起20間において、2つの突起20の周方向の端面に接触する。摩擦部材6は、4つの突起20によって周方向へずれることが阻止されており、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bそれぞれとの間に、均一に摩擦抵抗を発生させる。従って、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト駆動機構の伝動ベルトの張力を自動的に適度に保つためのオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のオートテンショナは、例えば特許第3732446号公報に開示されているように、捻りコイルバネの軸芯方向に対して外側に向かって上昇するように傾斜された固定プレートと傾斜部との間で、バネ支持体の芯部の周囲に、捻りコイルバネの半径方向に分割された形状で複数の摩擦部材が配置されており、摩擦部材の外周を取り囲むように環状摩擦部が配置されている。よって、揺動アームに付与された捻りコイルバネの軸芯方向の伸張復元力により、摩擦部材は半径方向に外側に広がろうとし、環状摩擦部に押し当てられるため、伸張復元力が二方向の付勢力に分散される。そして、各付勢力によりそれぞれ独立して、固定プレート及び環状摩擦部との間に摩擦抵抗を発生させることができるため、伝動ベルトからの激しい衝撃・振動を分散させ、効率よく減衰させることができる。
【特許文献1】特許第3732446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のように、複数の摩擦部が捻りコイルバネの半径方向に分割された形状で配置された構造であると、摩擦部は隙間を介して互いに接触せずに配置されているため、伝動ベルトからの激しい衝撃・振動によって周方向に関して摩擦部の位置にずれが生じ、当初の摩擦部材の均一な配置が崩れてしまう可能性がある。従って、摩擦部材と固定プレート及び環状摩擦部との間に均一に摩擦抵抗を発生させることが不可能となり、伝動ベルトからの衝撃・振動の効率的な減衰を妨げることとなる。
【0004】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、摩擦部材の周方向へのずれを阻止することによって周方向に関して摩擦抵抗を均一に発生させ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることのできるオートテンショナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載のオートテンショナは、ハウジングと、前記ハウジングに対して相対的に揺動自在に設置されていると共にテンションプーリを回動自在に支持する揺動アームと、前記ハウジングと前記揺動アームとの間に垂直方向に圧縮されて介挿された捻りコイルバネとを有するオートテンショナであって、前記捻りコイルバネが伸張する側に設けられていると共に、前記捻りコイルバネの軸を中心に周方向に配置されるように前記ハウジング及び前記揺動アームのいずれかに固定された複数の突起部と、周方向に関する前記複数の突起部間において、2つの前記突起部の周方向の端面に接触するように夫々配置された複数の摩擦部材と、前記摩擦部材が前記捻りコイルバネの軸芯方向の伸張復元力の方向に移動するのを抑制する抑制手段とを備えており、前記摩擦部材が、前記伸張復元力により前記揺動アームとの間に摩擦抵抗を発生させることを特徴としている。
【0006】
上記の構成によると、各摩擦部材は2つの突起部の周方向の端面に接触するため、摩擦部材の周方向へのずれを阻止することが可能となり、摩擦部材の安定した配列を維持することができる。従って、均一に摩擦抵抗を発生させることができ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることができる。
【0007】
請求項2に記載のオートテンショナは、前記複数の突起部の周方向の端面は、周方向に関して隣接した前記突起部との距離が、前記軸芯方向に関して前記捻りバネから離れるに従って大きくなるようにテーパ面になっていることを特徴としている。
【0008】
上記の構成によると、抑制手段を備えていること、及び、各摩擦部材が、2つの突起部の周方向の端面、即ちテーパ面に接触していることによって、摩擦部が軸芯方向へずれるのを阻止することが可能となる。従って、摩擦部材の安定した配列を維持することができる。
【0009】
請求項3に記載のオートテンショナは、前記複数の摩擦部材は、前記複数の突起部における、前記軸芯方向に関して前記捻りバネに近い方の先端付近で互いに連結されるように、環状になっていることを特徴としている。
【0010】
上記の構成によると、複数の摩擦部材が互いに連結され一体化されているため、摩擦部材が軸芯方向に関して捻りバネから離れる方向へずれるのを確実に阻止することが可能となる。従って、摩擦部材の安定した配列を維持することができる。
【0011】
請求項4に記載のオートテンショナは、前記ハウジングが、前記捻りコイルバネ内を軸芯方向に貫通した軸部を含んでおり、前記揺動アームが、前記軸部の外周を取り囲むように配置されると共に環状の第1摩擦面を外周に備えた内方摩擦部と、前記内方摩擦部の外周を取り囲むように配置されると共に環状の第2摩擦面を内周に備えた外方摩擦部とを含んでおり、前記摩擦部材は、前記第1摩擦面及び前記第2摩擦面に接触していることを特徴としている。
【0012】
上記の構成によると、摩擦部材は、第1摩擦面及び第2摩擦面との間にそれぞれ摩擦抵抗を発生させることができるため、摩擦面が1面のみである場合に比べて、少ない摺動面積で同等の摩擦力を確保することが可能である。従って、オートテンショナの省スペース化において効果的である。また、摩擦面が1面のみである場合に比べて、第1摩擦面及び第2摩擦面の傾斜角度が大きくても同等の摩擦力を確保することが可能である。従って、摩擦部材の磨耗によるテンショナの高さ変化を起こりにくくすることが可能である。
【0013】
請求項5に記載のオートテンショナは、前記複数の突起部は、前記捻りコイルバネの軸を中心に周方向に線対称または点対称となる位置に配置されるように前記ハウジング及び前記揺動アームのいずれかに固定されていることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によると、摩擦部材が周方向に均一に配置されていると共に、各摩擦部材は2つの突起部の周方向の端面に接触するため、摩擦部材の周方向へのずれを阻止することが可能となり、摩擦部材のより安定した配列を維持することができる。従って、より均一に摩擦抵抗を発生させることができ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることができる。
【0015】
請求項6に記載のオートテンショナは、前記第1摩擦面及び前記第2摩擦面は、前記軸芯方向に対して0〜30°の角度で、前記第1摩擦面から前記第2摩擦面までの距離が前記捻りバネから離れるに従って大きくなる方向に傾斜していることを特徴としている。
【0016】
上記のように、第1摩擦面及び第2摩擦面の傾斜角度を0〜30°の範囲内にすることによって、より効果的に摩擦力を発生させ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることができる。
【0017】
請求項7に記載のオートテンショナは、前記摩擦部材は、ポリアセタール、ポリアミド、そしてポリエステルから成る少なくとも一種の熱可塑性樹脂によって構成されることを特徴としている。
【0018】
上記のように、摩擦部材が、ポリアセタール、ポリアミド、そしてポリエステルから成る少なくとも一種の熱可塑性樹脂によって構成されることによって、より効果的に摩擦力を発生させ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることができる。
【0019】
請求項8に記載のオートテンショナは、前記摩擦部材の材質は、ポリアミド46又はポリアミド6T75〜90質量%にポリテトラフルオロエチレン10〜25質量%を添加したものであることを特徴としている。
【0020】
上記の構成のように、摩擦部材の材質が、ポリアミド46又はポリアミド6T75〜90質量%にポリテトラフルオロエチレン10〜25質量%を添加したものであることによって、摩擦部材の摩擦係数の変動(変動係数)が小さくなると共に、相手材である内方摩擦部及び外方摩擦部の損傷が起きにくくなる。
【0021】
請求項9に記載のオートテンショナは、前記摩擦部材の材質には、安息香酸エステル系可塑剤がさらに含まれていることを特徴としている。
【0022】
上記の構成のように、摩擦部材の材質に、安息香酸エステル系可塑剤がさらに含まれていることによって、相手材である内方摩擦部及び外方摩擦部の損傷がほとんど起きなくなる。
【0023】
請求項10に記載のオートテンショナは、前記抑制手段は、周方向に関する前記複数の突起部間において、2つの前記突起部の周方向の端面に、摩擦部材が夫々固定されている構成であることを特徴としている。
【0024】
上記の構成によると、周方向に関する複数の突起部間において、2つの突起部の周方向の端面に、摩擦部材が夫々固定されていることによって、抑制手段を追加的に設置する必要がなく、オートテンショナの簡素化と製造コスト削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態の一例を図1〜図5を参照しながら説明する。尚、図1のようにハウジング30が下方に位置する配置状態でオートテンショナ1を見た場合、図面上方をオートテンショナの上方、図面下方をオートテンショナ1の下方と定義する。
図1及び図2を参照すると、オートテンショナ1は、捻りコイルバネ5と、ハウジング30と、捻りコイルバネ5の軸芯方向上方においてハウジング30に固定された4つの突起20と、捻りコイルバネ5の軸を中心にハウジング30に対して揺動自在に設けられた揺動アーム2と、揺動アーム2の揺動に伴って揺動アーム2との間に摩擦抵抗を発生させる4つの摩擦部材6とを含んでいる。尚、本実施形態においては、ハウジング30が揺動アーム2の下方に位置しており、捻りコイルバネ5の軸芯方向が鉛直方向となっている場合について説明するが、オートテンショナ1が配置される方向はこれに限定されるものではない。
【0026】
ハウジング30は、捻りコイルバネ5の下端から1巻き分程度の長さまでを収容するバネ収容体10と、図示しないねじによってバネ収容体10に固定された、バネ収容体10と同心でほぼ円筒形状の支持体9とを有する。
【0027】
バネ収容体10は、捻りコイルバネ5の下端部から中部よりもやや低い位置にかけて、捻りコイルバネ5内にその軸芯方向に挿入された内周壁部10cを有している。バネ収容体10のその他の部分は、カップ部10aと称される部分となっている。カップ部10aは、図1に示す断面においてほぼL字形状を有しており、内周壁部10cの下端に連続し且つ内周壁部10cの下端から径方向の外側に向かって延在した円環状の底壁部と、底壁部の外周端に連続し且つ底壁部の外周端から上方に向かって延在した筒状の外周壁部とからなる。外周壁部の上端部は、捻りコイルバネ5の上端とほぼ同じ高さにある。捻りコイルバネ5は、その下端から1巻き分が底壁部の上面である螺旋形状の固定面10bに圧接しつつ固定されている。同様に、捻りコイルバネ5は、その上端から1巻き分が揺動アーム2の下面である螺旋形状の固定面2cに圧接しつつ固定されている。つまり、捻りコイルバネ5は、揺動アーム2とハウジング30との間に挟まれて圧縮された状態となっている。
【0028】
また支持体9は、捻りコイルバネ5内を軸芯方向に貫通し、内周壁部10c内に収容されていると共にねじによって内周壁部10cに固定された筒状の軸部9aと、軸部9aにおける内周壁部10c内に収容されていない方の先端から、捻りコイルバネ5の軸芯に対して径方向の外側へ延在する円環状の突起支持板9bとを有する。
【0029】
また、4つの突起20は、図2に示すように、軸部9aの周りにおいて、捻りコイルバネ5の軸を中心に周方向に等間隔に、言い換えれば、線対称または点対称となる位置、に配置されるように、突起支持板9bにおける捻りコイルバネ5と対向する面に固定されている。
【0030】
また、上記の揺動アーム2には、ブッシュ8を介して軸部9aに対向するボス部2aと、捻りコイルバネ5の上端付近を固定するための固定部2bと、固定部2bから上方へ延在し、軸部9aの外周を取り囲むように4つの突起20と軸部9aの外周との間に配置され、環状の第1摩擦面6aを外周に備えた内方摩擦部2eと、固定部2bから上方へ延在し、4つの突起20を取り囲むように配置され、環状の第2摩擦面6bを内周に備えた外方摩擦部2dとが形成されている。固定部2bは、捻りコイルバネ5の上端部から突起20の下端付近の高さまで設けられており、底部に捻りコイルバネ5が固定される固定面2cを有する。そして、揺動アーム2の外側端には、伝動ベルトが巻回されたテンションプーリ4を回転自在に軸支するアーム3が接続されている。尚、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bは、いずれか一方がテーパ面であればよいが、両方がテーパ面であることが望ましい。
【0031】
捻りコイルバネ5の両端付近がバネ収容体10と揺動アーム2とに固定されることで、揺動アーム2が揺動したときに捻りコイルバネ5の周方向の付勢力(捻り復元力)が存在する。この捻り復元力により、揺動アーム2およびテンションプーリ4をその揺動方向の一側に向けて付勢して、伝動ベルトにテンションを付与することができ、伝動ベルトの張力の緊張・弛緩の変動に応じたテンションプーリ4の動きを許容する。
【0032】
また、捻りコイルバネ5は、圧縮された状態で固定面10b及び固定面2cに固定されカップ部10a及び固定部2b内に収容されており、フリーの状態では、収容された状態の時に比べて伸張する。このため、捻りコイルバネ5の軸芯方向の付勢力(伸張復元力)により、揺動アーム2は、バネ収容体10に対して上方に付勢されている。
【0033】
また、4つの摩擦部材6は、固定部2bと突起支持板9bとの間で、図2に示すように、周方向に関する突起20の間において、2つの突起20の周方向の端面に接触すると共に、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bに接触するように夫々配置されている。この摩擦部材6は、突起支持板9bによって、捻りコイルバネ5の軸芯方向の伸張復元力の方向に移動するのを抑制されている。尚、摩擦部材6には、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド9Tを含むポリアミド、ポリアセタノール、またはポリエステル等の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0034】
ここで、摩擦部材6に用いられる熱可塑性樹脂に関して行った実験について説明する。ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド66、ポリアミド9Tの各ペレット80〜93質量%に、表1に示す所定量(7〜20質量%)の一次粒子径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉体に、分散助剤(ステアリン酸カルシウム12ヒドロキシステアリン酸カルシウム、あるいはステアリン酸マグネシウム)の所定量を室温でドライブレンドした後、このブレンド物を二軸押出機(日本製鋼所社製:TEX44α2)の主フィーダに投入し、押出条件(温度300〜320℃、回転数150rpm、吐出量20kg/時間)で所定の試験片を成形し、得られた試験片(外径50mm、内径15mm、厚さ3mmの中抜き円盤体)を用いてスラスト試験に用いた。
さらに、上記のポリアミドペレット、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉体に、分散助剤(ステアリン酸カルシウム12ヒドロキシステリン酸カルシウム、あるいはステアリン酸マグネシウム)の所定量、所定量の安息香酸エステル系可塑剤(大日本インキ化学工業(株)製:商品名「PB−3A」)を添加し、同様の方法で試験片を成形し、スラスト試験に用いた。
【0035】
上記試験片をスラスト摩擦磨耗試験機(オリエンテック社製)を用いてJIS−7218に準拠して摩擦係数を測定し、変動係数(標準偏差/平均値)を求めた。測定条件としては、荷重450N、滑り速度0.1m/S、相手材A2017(アルミニウム)、試験時間1時間、そして雰囲気温度95℃であった。
【0036】
試験後の相手材表面の損傷状態を目視で確認し3段階に分類したものを表1に示す。◎は損傷ほとんどなし、○は損傷あまりなし、△はやや損傷あり、×は多くの損傷が見られる場合である。
【0037】
【表1】

【0038】
従って、摩擦部材6に用いられる熱可塑性樹脂のなかでも、ポリアミド46又はポリアミド6T75〜90質量%にポリテトラフルオロエチレンを10〜25重量%添加したもの(PTFE10〜20重量%)が、摩擦部材の摩擦係数の変動(変動係数)が小さくなり、また相手材の損傷も起きにくい点で好ましい。ポリアミド46又はポリアミド6T(Tはテレフタル酸成分)は芳香族ジカルボン酸とジアミンを重縮合して得られる芳香族ポリアミドであって、融点が290度を越えるものである。
さらに、ポリアミド46又はポリアミド6T75〜90重量%にポリテトラフルオロエチレンを10〜25重量%、そして安息香酸エステル系可塑剤5〜8重量%を添加した場合には、相手材の損傷がほとんど見られなくなった。
【0039】
また、安息香酸エステル系可塑剤の他の具体的としては、例えばエチレングリコール安息香酸エステル、ジエチレングリコールジ安息香酸エステル、トリエチレングリコールジ安息香酸エステル、ポリエチレングリコールジ安息香酸エステル、プロピレングリコールジ安息香酸エステル、ジプロピレングリコールジ安息香酸エステル、トリプロピレングリコールジ安息香酸エステル、1,3−ブタンジオールジ安息香酸エステル、1,4−ブタンジオールジ安息香酸エステル、1,6−ヘキサンジオールジ安息香酸エステル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ安息香酸エステル、1,8−オクタンジオールジ安息香酸エステル等が挙げられる。これらは、一種単独で、または二種以上を併用して用いることができる。
【0040】
上記のオートテンショナ1の動作について説明する。
【0041】
上記のオートテンショナ1は、例えば、自動車用エンジンのベルトシステムに用いられる。ハウジング30がエンジンブロック等に固定され、テンションプーリ4に伝動ベルトが掛け渡される。
【0042】
上述したオートテンショナ1の揺動アーム2には、捻りコイルバネ5の一端がバネ収容体10に支持され他端が揺動アーム2に固定されることにより、捻り復元力が付与されている。図1において、伝動ベルトが回転し、緊張・弛緩して張力が変動すると、それに応じてテンションプーリ4は回転軸を移動させるため、揺動アーム2は揺動する。すると、揺動アーム2は、揺動した位置を復元するように、捻りコイルバネ5の捻り復元力により捻りコイルバネ5の巻回方向に付勢される。
【0043】
また、揺動アーム2は、捻りコイルバネ5の軸芯方向に伸張復元力が付与されている。この伸張復元力により、摩擦部材6は突起支持板9bに押し当てられるため、摩擦部材6に付与される捻りコイルバネ5の伸張復元力は、内方摩擦部2eの第1摩擦面6aに対する付勢力N1と、外方摩擦部2dの第2摩擦面6bに対する付勢力N2との二方向に分散される。
【0044】
ここで、図3に示すように、捻りコイルバネ5の伸張復元力Pが、第1摩擦面6aに垂直な付勢力N1と第2摩擦面6bに垂直な付勢力N2との二方向に分散されるものとする。伝動ベルトに何らかの振動・衝撃が付与されると、伸張復元力の方向にさらに移動しようとする揺動アーム2と、突起支持板9bに押し当てられ伸張復元力の方向に移動するのを抑制される摩擦部材6との間、より具体的には、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bと摩擦部材6との間、に摩擦が生じる。尚、摩擦部材6は、周方向に関する突起20の間において、2つの突起20の周方向の端面に接触するように夫々配置されているため、周方向へずれることがない。従って、均一に摩擦抵抗を発生させることが可能である。
【0045】
このとき、第1摩擦面6aの伸長復元力Pに対する傾斜角度をθ1とし、第2摩擦面6bの伸長復元力Pに対する傾斜角度をθ2とし、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bの動摩擦係数をμとすると、第1摩擦面6aでは、第1摩擦面6aに沿って捻りコイルバネ5から離れる方向に摩擦力μN1が働き、第2摩擦面6bでは、第2摩擦面6bに沿って捻りコイルバネ5から離れる方向に摩擦力μN2が働く。このとき、摩擦部材6に働く力の関係は、捻りコイルバネ5の伸張復元力Pと同じ方向において(1)式のように、伸張復元力Pと垂直な方向において(2)式のようになる。
【0046】
(数1)P=μN1cosθ1+μN2cosθ2+N1sinθ1+N2sinθ2・・・(1)
【0047】
(数2)N1cosθ1+μN2sinθ2=N2cosθ2+μN1sinθ1・・・(2)
【0048】
また、θ1を1°にし、θ2を1°から50°まで変化させたときの摩擦部材6の平均面圧を、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bそれぞれにおいて求めたグラフを図4に示す。図5は、同様にθ1を1°にし、θ2を1°から50°まで変化させたときの摩擦部材6のダンピング力の変化を示したグラフである。ここで図4及び図5を参照すると、どちらのグラフにおいても、θ2の角度が1°から30°付近までのときは平均面圧及びダンピング力の値が大きく変化しているのに比べて、30°付近から50°までのときは平均面圧及びダンピング力の値の変化量が少なくなっている。従って、第1摩擦面6aの伸長復元力Pに対する傾斜角度θ1、及び、第2摩擦面6bの伸長復元力Pに対する傾斜角度θ2は、30°を上限値にすることが効果的である。
【0049】
以上説明したオートテンショナ1によれば、次のような効果が得られる。
【0050】
各摩擦部材6は2つの突起20の周方向の端面に接触するため、摩擦部材6の周方向へのずれを阻止することが可能となり、摩擦部材6の安定した配列を維持することができる。従って、均一に摩擦抵抗を発生させることができ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることができる。また、摩擦部材6は、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bとの間にそれぞれ摩擦抵抗を発生させることができるため、摩擦面が1面のみである場合に比べて、少ない摺動面積で同等の摩擦力を確保することが可能である。従って、オートテンショナ1の省スペース化において効果的である。また、摩擦面が1面のみである場合に比べて、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bの傾斜角度が大きくても同等の摩擦力を確保することが可能である。従って、摩擦部材6の磨耗によるテンショナ1の高さ変化を起こりにくくすることが可能である。
【0051】
また、4つの突起20は、捻りコイルバネ5の軸を中心に周方向に線対称または点対称となる位置に配置されるようにハウジング30の突起支持板9bに固定されていると共に、各摩擦部材6は2つの突起部の周方向の端面に接触するため、摩擦部材6の周方向へのずれを阻止することが可能となり、摩擦部材6のより安定した配列を維持することができる。従って、より均一に摩擦抵抗を発生させることができ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることができる。
【0052】
さらに、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bの傾斜角度を0〜30°の範囲内に設定することによって、より効果的に摩擦力を発生させ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることができる。また、摩擦部材6は、ポリアセタール、ポリアミド、そしてポリエステルから成る少なくとも一種の熱可塑性樹脂によって構成されているため、より効果的に摩擦力を発生させ、伝動ベルトからの衝撃・振動を効率よく減衰させることができる。
【0053】
また、摩擦部材6が、ポリアミド46又はポリアミド6T80〜90質量%にポリテトラフルオロエチレン10〜20質量%を添加したものであることによって、摩擦部材6の摩擦係数の変動(変動係数)が小さくなると共に、相手材である内方摩擦部2e及び外方摩擦部2dの損傷が起きにくくなる。
【0054】
さらに、周方向に関する4つの突起20間において、2つの突起20の周方向の端面に、摩擦部材6が夫々固定されていることによって、抑制手段を追加的に設置する必要がなく、オートテンショナ1の簡素化と製造コスト削減が可能となる。
【0055】
次に図6を参照し、前記実施形態に変更を加えた第1の変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0056】
図6に示すように、伸長復元力Pに対する傾斜角度が0°である第1摩擦面56aを備えた内方摩擦部52eと、傾斜した第2摩擦面56bを備えた外方摩擦部52dとを有する揺動アーム52を備えたオートテンショナ61であってもよい。揺動アーム52はさらに、ブッシュ8を介して軸部9aに設置されるボス部52aと、底部に捻りコイルバネ5が固定される固定面52cを有する固定部52bと、を備える。また、オートテンショナ61は、固定部52bと突起支持板9bとの間で、周方向に関する突起20の間において、2つの突起20の周方向の端面に接触すると共に、第1摩擦面56a及び第2摩擦面56bに接触するように夫々配置された4つの摩擦部材56を備える。
【0057】
この時、捻りコイルバネ5の伸張復元力Pが、第1摩擦面6aに垂直な付勢力N3と第2摩擦面6bに垂直な付勢力N4との二方向に分散されるものとし、第2摩擦面6bの伸長復元力Pに対する傾斜角度をθ4とし、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bの動摩擦係数をμとすると、第1摩擦面6aでは、第1摩擦面6aに沿って捻りコイルバネ5から離れる方向に摩擦力μN3が働き、第2摩擦面6bでは、第2摩擦面6bに沿って捻りコイルバネ5から離れる方向に摩擦力μN4が働く。この時、摩擦部材6に働く力の関係は、捻りコイルバネ5の伸張復元力Pと同じ方向において(3)式のように、伸張復元力Pと垂直な方向において(4)式のようになる。
【0058】
(数3)P=μN3+μN4cosθ4+N4sinθ4・・・(3)
【0059】
(数4)N3+μN4sinθ4=N4cosθ4・・・(4)
【0060】
次に図7〜図9を参照し、前記実施形態に変更を加えた第2の変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。図7は図1のII−II線で切った断面に、図8は図1のVIII−VIII線で切った断面に、それぞれ対応している。図1においてVIII−VIII線はII−II線よりも捻りコイルバネ5に近い位置にあり、突起20の先端、即ち、捻りコイルバネ5に最も近い部分よりも、僅かに捻りコイルバネ5から遠い位置にある。また、図9は、図7のIX−IX線で切った断面図である。
【0061】
図7〜図9に示すように、4つの突起20の代わりに、4つの突起120であって、4つの摩擦部材6の代わりに、4つの摩擦部材106であってもよい。
【0062】
4つの突起120は、4つの突起20と同様、軸部9aの周りにおいて、捻り捻りコイルバネ5の軸を中心に周方向に等間隔に、言い換えれば、線対称または点対称となる位置、に配置されるように、突起支持板9bにおける捻りコイルバネ5と対向する面に固定されている。ただし、4つの突起120の周方向の端面120aは、周方向に関して隣接した突起120との距離が、捻りコイルバネ5の軸芯方向に関して捻りコイルバネ5から離れるに従って大きくなるようにテーパ面になっている。つまり、図7に示す断面における隣接した2つの突起120間の距離をW1とし、図8に示す断面、即ち、図7の断面よりも捻りコイルバネ5に近い位置での断面における隣接した2つの突起120間の距離をW2とすると、W2はW1よりも小さくなっている。
【0063】
また、4つの摩擦部材106は、4つの摩擦部材6と同様に、固定部2bと突起支持板9bとの間で、周方向に関する突起120の間において、2つの突起120の端面120aに接触すると共に、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bに接触している。
【0064】
このように、4つの摩擦部材106が、固定部2bと突起支持板9bとの間で、4つの突起120のテーパ面120aに接触していることによって、摩擦部材106が捻りコイルバネ5の軸芯方向へずれるのを阻止することが可能となる。従って、摩擦部材106の安定した配列を維持することができる。
【0065】
次に図10を参照し、前記実施形態に変更を加えた第3の変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。また、図10は、図7のIX−IX線で切った断面に対応している。
【0066】
図10に示すように、4つの摩擦部材6の代わりに、1つの摩擦部材206であってもよい。摩擦部材206は、4つの摩擦部材6と同様に、固定部2bと突起支持板9bとの間で、周方向に関する突起20の間において、2つの突起20の端面に接触すると共に、第1摩擦面6a及び第2摩擦面6bに接触した4つの基部206aを有している。さらに摩擦部材206は、基部206aそれぞれにおける固定部2bに近い方の端部に一体的に接続されていると共に、4つの突起20と固定部2bとの間で、4つの突起20における固定部2bに対向する面に当接するように延在した環状部206bを有している。即ち、摩擦部材206は、4つの摩擦部材6が、4つの突起20における固定部2bに対向する面に当接しつつ互いに連結されるように、環状になったものであると言える。
【0067】
このように、摩擦部材206の4つの基部206aが互いに連結され一体化されているため、摩擦部材206が軸芯方向に関して捻りコイルバネ5から離れる方向へずれるのを確実に阻止することが可能となる。従って、摩擦部材206の安定した配列を維持することができる。
【0068】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこのような構成に限られない。
【0069】
例えば、上記の実施形態は、突起20が突起支持板9bに固定された構成であるが、代わりに固定部2bに固定されていてもよい。この時、摩擦部材6が捻りコイルバネ5の軸芯方向の伸張復元力の方向に移動するのを抑制するために、同様に突起支持板9bを設置してもよいし、突起支持板9bを設置せずに、周方向に関する4つの突起20間において、2つの突起20の周方向の端面に、摩擦部材6が夫々固定されるように構成されていてもよい。また、摩擦部材6及び突起20はそれぞれ4つ設けられている構成であるが、これらの個数は限定されない。ただし製造コスト面から、それぞれ2〜6個程度であることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係るオートテンショナの断面図である。
【図2】図1のII−II線矢視断面図である。
【図3】オートテンショナの摩擦部材付近の断面図である。
【図4】傾斜角度θ2に対する平均面圧を示したグラフである。
【図5】傾斜角度θ2に対するダンピング力を示したグラフである。
【図6】別の変更形態に係るオートテンショナの断面図である。
【図7】図1のII−II線断面に対応する図である。
【図8】図1のVIII−VIII線断面に対応する図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】図7のIX−IX線断面に対応する図である。
【符号の説明】
【0071】
1 オートテンショナ
2 揺動アーム
5 捻りコイルバネ
6 摩擦部材
20 突起
30 ハウジング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングに対して相対的に揺動自在に設置されていると共にテンションプーリを回動自在に支持する揺動アームと、前記ハウジングと前記揺動アームとの間に垂直方向に圧縮されて介挿された捻りコイルバネとを有するオートテンショナであって、
前記捻りコイルバネが伸張する側に設けられていると共に、前記捻りコイルバネの軸を中心に周方向に配置されるように前記ハウジング及び前記揺動アームのいずれかに固定された複数の突起部と、
周方向に関する前記複数の突起部間において、2つの前記突起部の周方向の端面に接触するように夫々配置された複数の摩擦部材と、
前記摩擦部材が前記捻りコイルバネの軸芯方向の伸張復元力の方向に移動するのを抑制する抑制手段とを備えており、
前記摩擦部材が、前記伸張復元力により前記揺動アームとの間に摩擦抵抗を発生させることを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記複数の突起部の周方向の端面は、周方向に関して隣接した前記突起部との距離が、前記軸芯方向に関して前記捻りバネから離れるに従って大きくなるようにテーパ面になっていることを特徴とする請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記複数の摩擦部材は、前記複数の突起部における、前記軸芯方向に関して前記捻りバネに近い方の先端付近で互いに連結されるように、環状になっていることを特徴とする請求項2に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記ハウジングが、前記捻りコイルバネ内を軸芯方向に貫通した軸部を含んでおり、
前記揺動アームが、前記軸部の外周を取り囲むように配置されると共に環状の第1摩擦面を外周に備えた内方摩擦部と、前記内方摩擦部の外周を取り囲むように配置されると共に環状の第2摩擦面を内周に備えた外方摩擦部とを含んでおり、
前記摩擦部材は、前記第1摩擦面及び前記第2摩擦面に接触していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項5】
前記複数の突起部は、前記捻りコイルバネの軸を中心に周方向に線対称または点対称となる位置に配置されるように前記ハウジング及び前記揺動アームのいずれかに固定されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項6】
前記第1摩擦面及び前記第2摩擦面は、前記軸芯方向に対して0〜30°の角度で、前記第1摩擦面から前記第2摩擦面までの距離が前記捻りバネから離れるに従って大きくなる方向に傾斜していることを特徴とする請求項4に記載のオートテンショナ。
【請求項7】
前記摩擦部材は、ポリアセタール、ポリアミド、そしてポリエステルから成る少なくとも一種の熱可塑性樹脂によって構成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のオートテンショナ。
【請求項8】
前記摩擦部材の材質は、ポリアミド46又はポリアミド6T75〜90質量%にポリテトラフルオロエチレン10〜25質量%を添加したものであることを特徴とする請求項7に記載のオートテンショナ。
【請求項9】
前記摩擦部材の材質には、安息香酸エステル系可塑剤がさらに含まれていることを特徴とする請求項8に記載のオートテンショナ。
【請求項10】
前記抑制手段は、周方向に関する前記複数の突起部間において、2つの前記突起部の周方向の端面に、摩擦部材が夫々固定されている構成であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のオートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−257570(P2009−257570A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243708(P2008−243708)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(508031379)
【Fターム(参考)】