説明

オーロラカイネースA及びオーロラカイネースB遺伝子選択的発現抑制剤

【課題】オーロラカイネースA及びBの遺伝子塩基配列に結合するピロール−イミダゾールポリアミドを用いたオーロラカイネースA及びB遺伝子発現抑制剤、制癌剤を含むオーロラカイネースA及びB関連疾患の治療剤等を提供する。
【解決手段】N−メチルピロール単位、N−メチルイミダゾール単位及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、ヒトオーロラカイネースAプロモーターの塩基配列−100〜−70の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含んでなる薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーロラカイネースA及びオーロラカイネースB(以下、それぞれAURKA及びAURKBとも言う)遺伝子発現抑制剤、オーラカイネースA及びオーロラカイネースB関連疾患の治療薬及び制癌剤に関する。より詳細には特定の構造を有するピロールイミダゾールポリアミド(以下、PIPとも言う)を含んでなる薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞分裂は多くのタンパク質のリン酸化によって進行し、サイクリンB−CDK1をはじめとする“分裂期キナーゼ”と総称される、一群のセリン/スレオニンキナーゼがその主要な役割を担っている。オーロラカイネースは分裂期キナーゼの一つであり、これまでにA、B、C3つのサブタイプが存在することが明らかにされている。このうちのAとBは酵母からヒト等の高等真核生物まで高度に保存されており、分裂期の様々なイベントの分子制御に関連して極めて重要な役割を担っている。加えて、近年、ヒトの多くの悪性腫瘍でオーロラキナーゼの過剰発現が報告されており、発癌あるいは腫瘍性増殖・悪性形質の維持に対する密接な関与が指摘されている。
【0003】
ヒトオーロラキナーゼA(以下hAURKAとも言う)及びヒトオーロラキナーゼB(以下hAURKBとも言う)は細胞周期依存性にその発現量が調節され、分裂期にそれぞれ双極中心体と染色体上に局在し、紡錘糸の形成、相同染色体の中心線への整列、紡錘糸のセントロメアとの付着等の、細胞分裂の主要なイベントの制御に極めて重要な役割を担っている。従って、PIPのDNA結合を介してhAURKA及びhAURKBの発現量を制御すれば、特異的にヒト癌細胞の腫瘍性増殖を抑制できる可能性が大きく、分子標的抗癌剤としての効果と臨床応用が期待できる。
【0004】
また、AURKAのRNA干渉(以下RNAiとも言う)による阻害作用により、G2/Mでの細胞周期停止がHeLa癌細胞で報告され(非特許文献1)、AURKBの阻害作用によって細胞死の誘導が報告されている(非特許文献2)。
【0005】
これまで、オーロラ遺伝子産物のりん酸化阻害剤として主にAURKBを阻害するAZD1152、MK0457、主にAURKAを阻害するVX−680等が開発され、癌患者を対象とする臨床試験が開始されている。しかし、これらの化合物は、タンパク質産物におけるリン酸化酵素活性を示すATP結合部位への競争阻害剤であり、転写翻訳には影響しない。低分子干渉RNA(以下「siRNA」とも言う)による治療法の開発も転写後の翻訳を阻害するものであり、転写を調節するオーロラ遺伝子発現抑制剤の開発は報告されていない(非特許文献3)。
【0006】
オーロラ遺伝子ファミリーは、その酵素活性部位の化学構造がファミリー間で類似しているため、それぞれの遺伝子産物を特異的に標的とする酵素活性阻害剤の開発が困難である。一方、オーロラ遺伝子自体を阻害することができればこの様な問題は解決できる。更に、癌腫には、AURKAを主に高発現する癌腫、AURKBを高発現する癌腫等がある。従って、このような当該オーロラ遺伝子の発現様式の特性を考慮して、種々の癌において癌腫に応じたオーロラ遺伝子を阻害することにより、より高い抗癌効果を生むことが期待される。また、AURKAの発現によりp53の活性が減少したり、スピンドルチェックポイントの活性化がおこる。このことにより、細胞死が誘導されにくい状態もしくは、Paclitaxel(Taxol)やnocodazoleなどの薬剤が効きにくい状態が生じると考えられている。AURKAの発現抑制により、AURKB阻害による細胞死(アポトーシス)の導入や他の細胞死を誘導する薬剤の効果を増強させることが考えられる。また、AURKAの発現抑制は、Paclitaxel(Taxol)やnocodazole等の薬剤効果の増強を促すことも容易に考えられる。
【0007】
なお、SiRNAによる治療法は、上記の酵素阻害剤の欠点を補うものであるが、核酸分解酵素の影響を受けやすく生体外および生体内で不安定である。また、薬剤を膜などで包んで患部に到達するまで吸収・分解されないようにする技術、即ち、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が必須であり、標的細胞への薬剤移行にも問題がある。更に、マイクロRNAなどの他の生体制御機構への影響も懸念される。
【0008】
ピロールイミダゾールポリアミドは抗生物質であるduocarmycin−Aとdistamycin−AがDNAを塩基特異的に認識する事を基に、Dervanらにより見出された化学合成物質である(特許文献4、非特許文献4、非特許文献5)。PIPは二本鎖DNAを塩基配列特異的に認識し、DNA二重螺旋構造のマイナーグルーブに結合する事から、標的遺伝子の発現を特異的に制御する事が可能である(非特許文献6)。また、PIPは、これまでの遺伝子発現制御薬であるアンチセンス・リボザイム・siRNA等と異なり、生体内において核酸分解酵素によって分解されず、核酸への結合能が高い事から、新規の分子標的治療薬として、抗癌剤等への臨床応用が期待されるところである。
【0009】
逆遺伝学による遺伝子機能の不活性化の手法は、ある特定の遺伝子の機能を解析するために用いられるものであるが、一方でウイルス感染、癌、及び遺伝子の異常発現に基づくその他の疾病の治療にも大きな可能性を開いている。すなわち、遺伝子機能の不活性化を、相同的組換えによりDNAレベルで、又はアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドやリボザイムによりRNAレベルで実施することができることが知られている。しかし、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドやリボザイムの手法は、ターゲットとする配列に制約があり、組織、細胞への移行が悪く、リボヌクレアーゼにより分解されやすいという課題があった。
【0010】
一方、アンチセンス試薬やリボザイムのような(デオキシ)リボヌクレオチド試薬とは異なり、ピロールイミダゾールポリアミド類が、DNAの塩基配列を特異的に認識し、特定遺伝子の発現を細胞外からコントロールすることができることが報告されている。
【0011】
ピロールイミダゾールポリアミドは一群の合成小分子であり、芳香族環であるN−メチルピロール単位(以下Pyとも言う)及びN−メチルイミダゾール単位(以下Imとも言う)から構成されている(特許文献4、非特許文献4)。Py及びImは連続してカップリングし折りたたむことによりγ−アミノ酪酸の存在下でU字型のコンフォメーションを採ることができる。本発明に係るピロールイミダゾールポリアミドにおいて、N−メチルピロール単位(Py)、N−メチルイミダゾール単位(Im)及びγ−アミノ酪酸単位(γリンカーとも言う)は互いにアミド結合(−C(=O)−NH−)で連結されており、その一般構造及び製造方法は公知である(特許文献1〜3)。
【0012】
このような合成ポリアミドは二重らせんDNAの副溝(マイナーグルーブ)中の特定の塩基対に高い親和性と特異性を以って結合することができる。塩基対の特異的認識はPyとImとの1対1の対形成に依存している。即ち、DNAの副溝内でのU字型コンフォメーションにおいて、Py/Im対はC−G塩基対を標的とし、Im/PyはG−C塩基対を標的とし、そしてPy/PyはA−T塩基対及びT−A塩基対の両方を標的とする(非特許文献4)。最近の研究によればA−T縮合はPy/Py対の一つのピロール環を3−ヒドロキシピロール(Hp)で置換した結果としてHp/Pyが優先的にT/A対に結合することによって克服することができることがわかっている。
【0013】
一般的には転写の開始が遺伝子制御の重要なポイントであると考えられている。転写の開始には遺伝子プロモーター領域において特異的な認識配列に結合する転写因子をいくつか必要とする。副溝中のポリアミドは、もし転写因子が遺伝子発現において重要であれば、転写因子の結合を遮断して遺伝子の調節に干渉する可能性がある。この仮説はin vitro及びin vivoの実験で証明されている。ジンクフィンガーの認識部位(TFIIIAの結合部位)の内部に結合した8員環Py−Imポリアミドは5SRNA遺伝子の転写を阻害した。ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)プロモーター中の転写因子配列に隣接する塩基対に結合するポリアミド類は、ヒト細胞におけるHIV−1複製を阻害する。これらの配列にはTATAボックス、リンパ系エンハンサー因子LEF−1配列、及びETS−1配列が包含される。これとは対照的に、ポリアミドはまた、リプレッサー因子を遮断することによって、又は生来の転写因子を置換することによって、遺伝子発現を活性化する。ヒトサイトメガロウイルス(CMV)UL122仲介初期タンパク質2(IE86)は、プロモーターにRNAポリメラーゼIIを補充することを遮断し、その関連遺伝子の転写を抑制する。合成ポリアミドはIE86の抑制を遮断しその対応遺伝子の発現を開放することができる。Mappらにより設計されたポリアミドは人工転写因子として作用し、遺伝子転写反応を仲介する。
【0014】
【特許文献1】特許第3045706号
【特許文献2】特開2001−136974
【特許文献3】WO03/000683 A1
【特許文献4】WO98/49142 A1
【非特許文献1】Du et al: Proc Natl Acad Sci U S A.2004;101(24):8975-8980.
【非特許文献2】Kallio et al: Curr Biol. 2002;12(11):900-905
【非特許文献3】Malumbres et al: Curr Opin Genet Dev. 2007;17(1):60-65.
【非特許文献4】Sugiyama et al: Proc Natl Acad Sci U S A. 1996;93:14405-14410
【非特許文献5】Dervan: Bioorg Med Chem.2001;9:2215-35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
先に述べたアンチセンスオリゴデオキシヌクレオチドやリボザイムの手法は、ターゲットとする配列に制約があり、組織、細胞への移行が悪く、リボヌクレアーゼにより分解されやすいという課題があった。これまでに、オーロラカイネースA及びBの遺伝子塩基配列に結合するピロール−イミダゾールポリアミドを用いたオーロラカイネースA及びB遺伝子発現抑制剤又はオーロラカイネースA及びB関連疾患の治療薬についての報告はない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、ヒトオーロラカイネースA及びヒトオーロラカイネースB(hAURKA及びhAURKB)のプロモーターの特定の領域に特異的に結合してヒトオーロラカイネースA及びB遺伝子の発現を阻害することができるピロールイミダゾールポリアミドの開発とその薬理効果について鋭意研究した。そこで、本発明者らは、ヒトオーロラカイネースA及びB遺伝子の発現を阻害することができ、且つ治療薬として役立ち得る化合物を得るべく、オーロラカイネースA及びBプロモーターの様々な断片を標的とするポリアミド類のうち、オーロラカイネースAについては、プロモーター領域の−100〜−70の領域のうち、E4TF1結合領域を含む領域、好ましくは、−89〜−79の領域、より好ましくは−89〜−83の領域に結合する化合物が、ヒトオーロラカイネースA遺伝子プロモーターの活性を有意に阻害し、オーロラカイネースBについては、プロモーター領域の−44〜−17の領域のうち、CCAATボックス及びE2F/DPファミリータンパク質結合領域を含む領域、好ましくは−31〜−17の領域、より好ましくは、−25〜−18の領域に結合する化合物が、ヒトオーロラカイネースB遺伝子プロモーターの活性を有意に阻害し、ヒト子宮頸癌由来細胞であるHeLa細胞においてヒトオーロラカイネースA及びB遺伝子の発現をダウンレギュレートすることを見出し、本発明をなすに至った。
【0017】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)N−メチルピロール単位、N−メチルイミダゾール単位及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、ヒトオーロラカイネースAプロモーターの塩基配列−100〜−70(配列番号2)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域(以下標的領域と言う)の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含んでなる薬剤。
(2)更にβアラニン単位を含む上記(1)に記載の薬剤。
(3)ヒトオーロラカイネースA遺伝子発現抑制のための上記(1)又は(2)に記載の薬剤。
(4)ヒトオーロラカイネースA関連疾患の治療のための上記(1)又は(2)に記載の薬剤。
(5)制癌剤として用いるための上記(4)に記載の薬剤。
(6)前記標的領域がヒトオーロラカイネースAプロモーターの塩基配列−89〜−79(配列番号3)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の薬剤。
(7)前記標的領域がヒトオーロラカイネースAプロモーターの塩基配列−89〜−83(配列番号4)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の薬剤。
(8)前記ピロールイミダゾールポリアミドが下式で表される上記(1)〜(7)のいずれか一項記載の薬剤。
【化1】


(9)下式で表されるピロールイミダゾールポリアミド。
【化2】


(10)N−メチルピロール単位、N−メチルイミダゾール単位及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、ヒトオーロラカイネースBプロモーターの塩基配列−44〜−17(配列番号6)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域(以下標的領域と言う)の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含んでなる薬剤。
(11)更にβアラニン単位を含む上記(10)に記載の薬剤。
(12)ヒトオーロラカイネースB遺伝子発現抑制のための上記(10)又は(11)に記載の薬剤。
(13)ヒトオーロラカイネースB遺伝子関連疾患の治療のための上記(10)又は(11)に記載の薬剤。
(14)制癌剤として用いるための上記(13)に記載の薬剤。
(15)前記標的領域がヒトオーロラカイネースBプロモーターの塩基配列−31〜−17(配列番号7)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である上記(10)〜(14)のいずれか一項に記載の薬剤。
(16)前記標的領域がヒトオーロラカイネースBプロモーターの塩基配列−25〜−18(配列番号8)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である上記
(10)〜(15)のいずれか一項に記載の薬剤。
(17)前記ピロールイミダゾールポリアミドが下式で表される上記(10)〜(16)のいずれか一項記載の薬剤。
【化3】


(18)下式で表されるピロールイミダゾールポリアミド。
【化4】


(19)上記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の薬剤及び上記(10)〜(17)のいずれか一項に記載の薬剤、並びに薬剤として許容される担体を含む、医薬組成物。
(20)上記(9)及び上記(18)に記載のピロールイミダゾールポリアミド、並びに薬剤として許容される担体を含む薬剤。
(21)前記ピロールイミダゾールポリアミドの末端のカルボキシル基がアミドを形成している上記(1)〜(7)のいずれか一項記載の薬剤。
(22)前記アミドがメチルアミノプロピルアミン又はN、N−ジメチルアミノプロピルアミンとのアミドである上記(21)に記載の薬剤。
(23)前記ピロールイミダゾールポリアミドの末端のカルボキシル基がアミドを形成している上記(10)〜(16)のいずれか一項記載の薬剤。
(24)前記アミドがメチルアミノプロピルアミン又はN、N−ジメチルアミノプロピルアミンとのアミドである上記(24)に記載のオーロラカイネースB遺伝子発現抑制剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、遺伝子発現を特異的に抑制することができるので化学療法剤のような副作用がなく、また化合物であるのでリボヌクレアーゼにより分解されるという欠点もない、オーロラカイネースA及びオーロラカイネースB遺伝子発現抑制のための薬剤、オーロラカイネースA及びオーロラカイネースB遺伝子関連疾患の治療のための薬剤及び制癌剤を得ることができる。さらに、本発明によれば、この遺伝子を用いた基礎実験の試薬を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係るピロールイミダゾールポリアミドにおいて、N−メチルピロール単位、N−メチルイミダゾール単位及びγ−アミノ酪酸単位(γリンカーとも言う)は互いにアミド結合(−C(=O)−NH−)で連結されており、その一般構造及び製造方法は公知である(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0020】
例えば、ピロールイミダゾールポリアミドはFmoc(9−フルオレニルメトキシカルボニル)を用いた固相法(固相Fmoc法)による自動合成法によって製造することができる(特許文献3)。固相Fmoc法によれば、ピロールイミダゾールポリアミドの末端をカルボン酸残基として固体担体から切り出すことができるので、種々の官能基を分子末端に導入してピロールイミダゾールポリアミドの誘導体を作成することもできる。例えば、デュオカルマイシン、ピロロベンゾジアゼピン、ブレオマイシン、エンジイン化合物、ナイトロジェンマスタード、これらの誘導体等、DNAに対してアルキル化能を有する化合物を必要に応じて導入することもできる。固相Fmoc法は市販のタンパク(ペプチド)合成機を用いる自動合成法であるため、天然に存在するタンパク質や非天然タンパク質とピロールイミダゾールポリアミドとの共役体(コンジュゲート)を合成することもできる。また、Fmoc法はt−BOC法に比べて反応条件が緩和であるため、タンパク質以外の有機化合物(酸性条件下で不安定な官能基を有する化合物をも含む)の導入も可能である。例えば、ピロールイミダゾールポリアミドとDNAやRNA(又はそれらの誘導体)との共役体を自動的に合成することも可能である。
【0021】
上記公知のFmoc法等によれば、末端にカルボキシル基を有するピロールイミダゾールポリアミドを合成することができる。その具体例としては、例えば、末端にβ−アラニン残基(β−アミノプロピオン酸残基)やγ−アミノ酪酸残基を有するピロールイミダゾールポリアミド等が挙げられる。末端にβ−アラニン残基又はγ−アミノ酪酸残基を有するピロールイミダゾールポリアミドは、例えば、それぞれFmocでアミノ基を保護した、アミノピロールカルボン酸、アミノイミダゾールカルボン酸、β−アラニン又はγ−アミノ酪酸を担持した固相担体を用い、ペプチド合成機を使用して固相Fmoc法により合成することができる。
【0022】
アミノピロールカルボン酸の具体例としては、例えば、4−アミノ−2−ピロールカルボン酸、4−アミノ−1−メチル−2−ピロールカルボン酸、4−アミノ−1−エチル−2−ピロールカルボン酸、4−アミノ−1−プロピル−2−ピロールカルボン酸、4−アミノ−1−ブチル−2−ピロールカルボン酸等が挙げられる。アミノイミダゾールカルボン酸の具体例としては、例えば、4−アミノ−2−イミダゾールカルボン酸、4−アミノ−1−メチル−2−イミダゾールカルボン酸、4−アミノ−1−エチル−2−イミダゾールカルボン酸、4−アミノ−1−プロピル−2−イミダゾールカルボン酸、4−アミノ−1−ブチル−2−イミダゾールカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
固相Fmoc法によれば、例えば、ピロールイミダゾールポリアミドとFITC(フルオレセインイソチオシアネート)との共役体を合成することもできる。FITCは従来から抗体の蛍光標識試薬として知られているので、得られる共役体は、当該ピロールイミダゾールポリアミドが特定のDNA配列を認識することを証明するために用いることができる。
【0024】
本発明のオーロラカイネースA遺伝子発現抑制剤は、N−メチルピロール単位(Py)、N−メチルイミダゾール単位(Im)及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、ヒトオーロラカイネースAプロモーターの塩基配列−100〜−70(配列番号2)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域(以下標的領域と言う)の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含む。
本発明のオーロラカイネースB遺伝子発現抑制剤は、N−メチルピロール単位(Py)、N−メチルイミダゾール単位(Im)及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、ヒトオーロラカイネースBプロモーターの塩基配列−44〜−17(配列番号6)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域(以下標的領域と言う)の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含む。
【0025】
通常DNAの螺旋の骨格は2種類の溝をつくり、広くて深い溝を主溝(メジャーグルーブ)、狭くて浅い溝を副溝(マイナーグルーブ)と呼んでいる。ここで上記ピロールイミダゾールポリアミドは、特定の塩基対がつくる副溝(マイナーグルーブ)に高い親和性と特異性を以って非共役結合的に結合することができる。この時の結合は、副溝のC−G塩基対に対してはピロールイミダゾールポリアミドのPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応している。そして、ピロールイミダゾールポリアミド分子中のγ−アミノ酪酸単位の部位で分子が折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとる。
【0026】
副溝の塩基対とピロールイミダゾールポリアミドのPyとImの対が上述のように対応していないと、副溝とピロールイミダゾールポリアミドとの結合が不十分となる。このように、副溝の塩基対とPy−Im対が上述のように対応していないピロールイミダゾールポリアミドを本願ではミスマッチ又はミスマッチポリアミドと呼ぶ。
【0027】
ヒトオーロラカイネースA及びヒトオーロラカイネースB遺伝子調節領域の塩基配列は図1、3及び配列番号1、5に示す通りである(Journal of Biological Chemistry,2002;277:10719−10726;及びBiochemistry Biophysics Research Communication 2004;316:930−936)。
本発明のピロールイミダゾールポリアミドPIP−A:No.47及びPIP−B:No.48(以下それぞれPIP−A及びPIP−Bとも言う)は下記に示す通りである。
PIP−A:No.47
【化5】


PIP−B:No.48
【0028】
【化6】


PIP−A:No.47は、分子式C65842513、分子量1422.66を有し、その標的配列はヒトオーロラカイネースA調節領域の−100〜−70(配列番号2)の領域のうち、E4TF1結合領域を含む−89〜−79(配列番号3)の領域であり、より具体的にはaccactt(−89〜−83)(配列番号4)の7塩基に結合することにより、ヒトオーロラカイネースA遺伝子の発現を抑制する。
【0029】
PIP−B:No.48は、分子式C78972815、分子量1665.76を有し、その標的配列はヒトオーロラカイネースB遺伝子調節領域の−44〜−17(配列番号6)の領域のうち、E2F/DPファミリー結合領域を含む−31〜−17(配列番号7)の領域であり、より具体的にはagatttga(−25〜−18)(配列番号8)の8塩基に結合することにより、ヒトオーロラカイネースB遺伝子の発現を抑制する。
【0030】
本発明者らはヒトオーロラカイネースA遺伝子及びヒトオーロラカイネースB遺伝子プロモーターの特定の領域を標的とするPy−Imポリアミド類を合成した。これらのポリアミドは核内に48時間以上特に消失することもなく安定に滞留した。アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムと比較して、ポリアミドはよりすぐれた透過性(低濃度、トランスフェクション媒体不要)とより高い安定性を培養HeLa細胞において示した。ポリアミドの高い透過性と安定性は遺伝子治療法のための真核細胞の核への理想的な薬剤アプローチを提供するものである。
【0031】
最近までPy−Imポリアミドの開発はプロモーター配列における転写因子−DNA複合体の構造的特性に基づいていた。TATAボックス含有プロモーター中の配列を標的とする効率的な方法は、TATAボックスに隣接する塩基対に結合するよう設計することであろう。TATAボックスはほとんどのタンパク質コード遺伝子において転写開始部位の上流25〜35塩基対に位置している。転写介在因子D(TAFIID)はTATAボックスに特異的に結合するTATAボックス結合タンパク質(TBP)を含んでおり、コアプロモーターにおける他の転写関与因子を採用してプレ開始コンプレックス(PIC)を形成する。PICは遺伝子転写を開始してアクチベータ又はサプレッサと相互作用して遺伝子発現を調節する。TBPも二重らせんDNAの副溝(マイナーグルーブ)に結合するので(Lee et al:Cell.1991 Dec 20;67(6):1241−50、Starr et al:Cell.1991;67:1231−40、Courey et al:Cell.1988;55:887−98)、合成ポリアミドはTATA結合タンパク質の結合部位を競合的に占有し、遺伝子転写に干渉する。様々なプロモーターで設計したポリアミドの成功例のうちで、TATAボックスを標的とするものが常に機能することが知られている。ところが、AURKAおよびAURKBのプロモータ領域にはTATAボックスの特異的配列が無く、その代わりにCCAATボックスとcell cycle dependent element(CDE)とcell cycle−gene homology region(CHR)と呼ばれる細胞周期調節蛋白特にG2期特異的に発現する遺伝子に共通の配列を有する。このCDE−CHR領域を有することは、細胞周期G2期に特異的な発現をすることが予測されたが、この領域に変異を導入する実験により、G1−S期の発現抑制をこの領域特にCHR領域が担当していることが示唆された。この領域においてDP−1、DP−2、E2F−1やE2F−4といった転写因子は二重らせんDNAの副溝(マイナーグルーブ)に結合することが解っており、これらの転写因子との結合により細胞周期特異的にAurora遺伝子の発現が制御されている。このことよりTATA結合たんぱく質の結合阻害と同様にCDE−CHR領域への転写因子蛋白の結合部位を競合的に占有するPy−Imポリアミドの開発により、遺伝子転写を干渉する化合物の合成が可能と考えられる。(Liu et al.1996 NucleicAcidRes 24:2905−10,Kimura et al.2004 BBRC 316:930−36)
【0032】
hAURKAプロモーター領域にある転写開始部位の上流には、配列cttccgg(配列番号9からなる正の調節エレメント(PRE)が存在する。このエレメントに、E4TF1タンパク質が結合することにより、hAURKAの転写を正に制御することが分かっている(Tanaka et al:J.Biol.Chem.2002;277(12):10719−26)。
一方、hAURKBプロモーター領域にある転写開始部位の上流には、細胞周期依存性因子(cell cycle dependent element;以下、「CDR」とも言う)及び細胞周期遺伝子相同領域(cell cycle gene homology element;以下「CHR」とも言う)が存在し、CDR及びCHRは、細胞周期依存性のプロモーター活性を制御することが分かっている。CDEには、E2F/DFファミリータンパク質が結合する。オーロラBタンパク質のmRNAの発現は、CDR/CHRによって制御されている(Kimura M et al:Biochem.Biophys.Res.Commun.2004;319(3):930−936)。
【0033】
E4TF1遺伝子は、転写因子であるGA結合タンパク質のβサブユニットを指令する。従って、本発明のPIP−Aが二本鎖DNAを塩基配列特異的に認識し、DNA二重螺旋構造の副溝(マイナーグルーブ)に結合することにより、E4TF1タンパク質のhAURKA遺伝子への結合が阻害されると、結果としてhAURKA遺伝子の転写が阻害される。本発明のPIP−Aは、当該標的二本鎖DNAに特異的に結合した。さらに、G2/M期において顕著にAURKAmRNAの発現量は減少した。
【0034】
CDR/CHR配列は、AURKBのmRNAレベルを調節する調節配列であり、当該配列には、E2F/DFファミリータンパク質が結合する。E2Fタンパク質は、細胞周期と腫瘍抑制タンパク質の活動抑制において決定的な役割を果たし、小DNA腫瘍ウイルスの形質転換タンパク質の標的でもある。E2Fタンパク質は、このファミリーのほとんどのタンパク質で見られる進化的に保存された領域をいくつか含んでいる。従って、本発明のPIP−Bは、この様な保存領域に非特異的に結合することを防ぐため、CDE配列から上流に4塩基ずらしてPIP−Bを設計した。
【0035】
PIP−Aも、非特異結合を防ぐために上流に4塩基ずらして設計した。4塩基ずらしても上述の通りPIP−Aは二本鎖DNAの標的部位への結合及びAURKAmRNAの発現量の減少が見られた。
【0036】
本発明のPIP−Bは、PIP−Aと同様に二本鎖DNAを塩基配列特異的に認識し、DNA二重螺旋構造の副溝(マイナーグルーブ)に結合することにより、E2F/DFファミリータンパク質のhAURKB遺伝子の結合を阻害し、結果としてhAURKB遺伝子の転写が阻害される。本発明のPIP−Bは、当該標的二本鎖DNAに特異的に結合した。さらに、G2/M期において顕著にAURKBmRNAの発現量は減少した。
【0037】
プロモーター領域における転写因子の調節以外に、他の因子も遺伝子発現に影響を与えている可能性もある。これらの因子はクロマチンパッキング、ポリアデニレーション、スプライシング、mRNA安定性、翻訳開始等を包含するものである(Berger et al:Mol Cell.2001;5:263−8、McKeown Annu Rev Cell Biol.1992;8:133−55、Decker et al:Trends Biochem Sci.1994;19:336−40、Kozak Annu Rev Cell Biol.1992;8:197−225)。合成ポリアミドはヌクレオソームの位置関係から標的部位に接近することができ、特異的配列を標的とすることによりクロマチンの縮合・脱縮合構造に影響を与えている可能性がある(Gottesfeld et al:J Mol Biol.2002;321:249−63;Gottesfeld et al:J Mol Biol.2001;309:615−29。)。ピロールイミダゾールポリアミドがヘテロクロマチン褐色サテライトを開き、GAFの結合を可能とし、その結果drosophila melanogasterにおける表現型の変化を引き起こしているということが証明されている。ピロールイミダゾールポリアミドは容易に合成し、興味のある配列を標的とするように設計することができるので、ゲノムの機能研究や最終的にはhAURKA及びhAURKB遺伝子阻害や活性化のような遺伝子治療に有用である。
本発明に係るPy−Imポリアミドは転写開始領域からは遠位の上流において設計することができ、これがhAURKA及びhAURKB遺伝子の発現に対する阻害効果を示す。従って、本発明のPIP−A及びPIP−BはヒトオーロラカイネースA及びヒトオーロラカイネースB遺伝子発現抑制のための薬剤として使用することができる。
【0038】
本発明のPIP−A及びPIP−Bを同時に用いた場合に互いに干渉作用は示さず、hAURKAmRNA及びhAURKBmRNAの両方の発現阻害を示した。従って、hAURKA及びhAURKB遺伝子選択的発現抑制剤である本発明の化合物を同時に使用することによって、hAURKA及びhAURKB遺伝子の両方を阻害することができる点で有利である。
【0039】
本発明のPIP−A及びPIP−Bは、各々HeLa細胞のmRNAの発現を顕著に抑制した。また、PIP−A及びPIP−Bの細胞の核内への移動が観察された。従って、ドラックデリバリーシステム等の手法を用いなくても、本発明のPIP−A及びPIP−Bは細胞の核内に移行するため薬剤として有利である。当該有利な効果は、本発明のPIP−A及びPIP−BをヒトオーロラカイネースA及びヒトオーロラカイネースB関連疾患の治療に用いるために有利である。
【0040】
また、本発明のPIP−A及びPIP−Bは、それぞれ細胞増殖に影響を及ぼす。本発明のPIP−A及びPIP−Bは、各々HeLa細胞の細胞増殖を抑制し、少なくとも周知の抗癌剤であるシスプラチンと同程度又はそれ以上の細胞増殖抑制効果が観察された。また、PIP−A及びPIP−Bを併用することによってPIP−A及びPIP−Bを別々に用いる場合と比べて更に顕著に協奏的に細胞増殖抑制効果を発揮した。
【0041】
本発明のPIP−A及びPIP−Bは、HeLa細胞だけでなく、T98G細胞を含む種々の癌細胞の増殖を阻害した。また、正常細胞の増殖阻害はより高い濃度のPIP−A及びPIP−Bで処理しなければ阻害されなかった。従って、本発明のPIP−A及びPIP−Bそれぞれによる処理により、正常細胞増殖阻害を導くことなく、癌細胞のみの増殖を阻害することができる。従って、本発明のPIP−A及びPIP−Bは、癌に対する治療薬として、正常細胞に影響を与えることなく、癌細胞の増殖を阻害できる点で有利である。
【0042】
本発明のPIP−A及びPIP−Bは、各々アポトーシスを誘導した。
【0043】
また、癌、非限定的に挙げると、特に甲状腺癌、前立腺癌、乳癌、甲状腺肉腫、上皮卵巣癌、精巣性胚細胞腫瘍、膀胱癌、神経膠腫、結腸癌、肺癌、小細胞肺癌、骨髄性白血病、頭頸部扁平上皮癌、非小細胞肺癌、大腸癌等を始めとするヒトの癌種でAuroraA及びAuroraBタンパク質の過剰発現が報告されている。従って、本発明のhAURKA及びhAURKB遺伝子発現抑制剤は、種々の癌に対する治療薬として有効であると合理的に考えることができる。
【0044】
更に、本発明のhAURKA及びhAURKB遺伝子発現抑制剤は、同時に使用した場合であっても、互いに干渉作用は示さず、両遺伝子を同時に抑制することができるという相乗効果を示す。このような効果は、上述したような種々の癌に対する治療薬として更に有効であると合理的に考えることができる。
【実施例】
【0045】
1.ヒトオーロラカイネースA及びヒトオーロラカイネースBプロモーターに対応するPy−Imポリアミドの合成
【0046】
(1)ヒトオーロラカイネースA及びヒトオーロラカイネースBプロモーターに対応するPy−Imポリアミドの設計
I.材料及び方法
Py−Imポリアミドとして、ヒトオーロラカイネースAプロモーターの−89〜−83又はヒトオーロラカイネースBプロモーターの−25〜−18の塩基対に結合するように、上記のようなPIP−A:No.47及びPIP−B:No.48を設計した。
【0047】
(2)Fmoc法を用いたPy−Imポリアミドのマシンアシスト(機械補助)自動合成
ピロールイミダゾールポリアミドのマシンアシスト自動合成を、連続フローペプチド合成機Pioneer(商標)(アプライドバイオシステムズ)を用いて0.1mmolスケール(200mgのFmoc−β−アラニン−CLEAR酸レジン、0.50meq/g、Peptide Institute、Inc.)で実施した。自動固相合成はDMF洗浄、Fmoc基の20%ピペリジン/DMFによる除去、メタノール洗浄、HATU及びDIEA(それぞれ4当量)の存在下でのモノマーとの60分間のカップリング、メタノール洗浄、必要に応じて無水酢酸/ピリジンによる保護、及び最終的なDMF洗浄からなっている。Py−Imポリアミドは一般に中程度の収率(10−30%)で得られた。
【0048】
FITCカップリング:4倍過剰のフルオレセイン(0.40mmol)及びDIEA(HATUなし)をDMFに溶解したものをカラムを通して60分間フラッシュした。
一般的手順:Fmoc−β−アラニン−Wang樹脂のFmoc基を除去した後、樹脂をメタノールで連続的に洗浄した。カップリング工程をFmocアミノ酸で実施し、次いでメタノールでの洗浄を行った。これらの工程を全配列が導入されるまで何度も繰返した。カップリング工程を終えた後、必要に応じてN末端アミノ基を保護するか又はFITCでカップリングし、DMFで洗浄し、反応容器を取りはずした。
【0049】
カルボン酸としての分解:合成ポリアミドを冷エチルエーテル沈澱により分解工程(91%TFA−3%/TIS−3%DMS−3%水の混合物5ml/樹脂0.1mmol)の後に単離した。
アミンとしての分解:合成ポリアミドを冷エチルエーテル沈澱により分解工程(N、N−ジメチルアミノプロピルアミン5mL/樹脂0.1mmol、50℃、一晩)の後に単離した。
精製:最終精製は、10mL/minの流速の分析用RP−HPLCで、緩衝液A(0.1%TFA/水又は0.1%AcOH/水)中B(アセトニトリル)の直線勾配を用いて、350nmのUV検出により行った。PIP−A:No.47及びPIP−B:No.48のRP−HPLCのチャートを図6及び7にそれぞれ示す。
【0050】
2.PIP−A及びPIP−BのIn vitroでの生物学的機能解析
【0051】
(1)ゲルシフトアッセイ(Electromobility Shift Assay (EMSA))
I.材料及び方法
オリゴヌクレオチドを合成し、アニーリングして、hAURKA及びhAURKBプロモーターの塩基対に対応する4種の二本鎖オリゴヌクレオチドとした。一方の一本鎖オリゴヌクレオチドをFITCで標識し、相補的配列の一本鎖オリゴヌクレオチドとハイブリダイゼーションして二本鎖DNA作成した。具体的な二本鎖ヌクレオチドの塩基配列は、AURKAオリゴDNA(マッチ)のセンスプライマー(5’−FITC−GTTGGCTCCACCACTTCCGGGT−3’)(配列番号9)及びアンチセンスプライマー(5’−ACCCGGAAGTGGTGGAGCCAAC−3’)(配列番号10)、2塩基変異を有するAURKAオリゴDNA(ミスマッチ−1)のセンスプライマー(5’−FITC−GTTGGCTCCACCGATTCCGGGT−3’)(配列番号11)及びアンチセンスプライマー(5’−ACCCGGAATCGGTGGAGCCAAC−3’)(配列番号12)、AURKBオリゴDNA(マッチ)のセンスプライマー(5’−FITC−GGCGGGAGATTTGAAAAGTCCT−3’)(配列番号13)及びアンチセンスプライマー(5’−AGGACTTTTCAAATCTCCCGCC−3’)(配列番号14)、2塩基変異を有するAURKBオリゴDNA(ミスマッチ−1)のセンスプライマー(5’−FITC−GGCGGGAGACCTGAAAAGTCCT−3’)(配列番号15)及びアンチセンスプライマー(5’−AGGACTTTTCAGGTCTCCCGCC−3’)(配列番号16)を作成した。また、AURKAオリゴDNA(ミスマッチ−2)としては、AURKBオリゴDNAである配列番号13及び配列番号14のオリゴDNAを使用し、AURKBオリゴDNA(ミスマッチ−2)としては、AURKAオリゴDNAである配列番号9及び配列番号13を使用した。37℃で15分間、結合緩衝液(40mM Tris、pH7。9、250mM NaCl、25mM EDTA、25mM DTT、100mM KCl)中でポリアミド又はミスマッチポリアミドとともにインキュベートした。得られた複合体を20%ポリアクリルアミドゲルにより電気泳動し、蛍光標識二本鎖オリゴヌクレオチドの移動度を蛍光イメージ解析機(Fuji LAS 3000等)で解析した。
【0052】
II.結果
合成ポリアミドの二本鎖オリゴヌクレオチドへの結合
ゲルシフトアッセイによりPIP−A:No.47及びPIP−B:No.48の標的配列への結合を検討した。それぞれのピロールイミダゾールポリアミドの標的配列を含む22塩基のセンス、アンチセンスのオリゴヌクレオチドを作成し、これをアニーリングさせて標的部位の二本鎖DNAを作成し、これとそれぞれのピロールイミダゾールポリアミドとをインキュベートした。これらをポリアクリルアミドゲルで電気泳動してピロールイミダゾールと標的配列との結合性を検討した。PIP−A及びPIP−Bとともに二本鎖DNA(DS)にピロールイミダゾールポリアミド(Py−Im)を加えると、DSのみのレーンと比べ泳動度が低下し、高分子化したことが示唆され、DSとPy−Imとの結合が証明された。結果を図8及び9に示す。
【0053】
(2)ビアコアアッセイ
I.材料及び方法
Biacore2000(GEヘルスケア)は、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)を測定原理としており、生体内でのタンパク質、核酸、糖鎖など分子間の相互作用を、ラジオアイソトープや蛍光物質などによる標識無しにin vitroで再構成し、リアルタイムで観察できる装置であり、本装置を用いて分子間の相互作用を数値化して評価することが可能である。
【0054】
ストレプトアビジンを予め固定化したセンサーチップ(Sensor Chip SA,BR−1000−31)を使用し、ヘアピンビオチン化DNAプローブ(1本鎖DNAが相補配列を含み、ハイブリダイゼーションすることで2本鎖部分を含むパリンドロームDNAを形成)1μMを固定した後、ピロールイミダゾールポリアミド(Py−Im)を添加して、2本鎖DNAとの結合性の変化を2分子間の結合・解離に伴うセンサーチップ表面での微量な質量変化をSPRシグナルとして検出し、経時的に測定した。なお、具体的なヘアピンビオチン化DNAプローブの塩基配列は、AURKAオリゴDNA(マッチ)(5’−Biotin−GTTGGCTCCACCACTTCCGGGT−TTTT−ACCCGGAAGTGGTGGAGCCAAC−3’)(配列番号17)、2塩基変異を有するAURKAオリゴDNA(ミスマッチ−1)(5’−Biotin−GTTGGCTCCACCGATTCCGGGT−TTTT−ACCCGGAATCGGTGGAGCCAAC−3’)(配列番号18)である。また、AURKBオリゴDNA(マッチ)(5’−Biotin−GTTGGCTCCACCGATTCCGGGT−TTTT−ACCCGGAATCGGTGGAGCCAAC−3’)(配列番号19)、2塩基変異を有するAURKBオリゴDNA(ミスマッチ−1)5’−Biotin−GGCGGGAGACCTGAAAAGTCCT−TTTT−AGGACTTTTCAGGTCTCCCGCC−3’)(配列番号20)である。AURKAオリゴDNA(ミスマッチ−2)は、AURKBオリゴDNA(マッチ)(配列番号19)を、AURKBオリゴDNA(ミスマッチ−2)は、AURKAオリゴDNA(マッチ)(配列番号17)を用いた。0nMから1μMの濃度のPy−Imを添加し、20μl/secの流量でセンサーグラムと呼ぶグラフとして表示し、レスポンス(RU)値を経時的に測定することで、平衡状態における2分子間の親和性(解離定数:KDあるいは親和定数:KA)および結合・解離反応の速さに関する情報、すなわち結合速度定数(ka)、および解離速度定数(kd)を測定し分子間結合を解析した。得られた濃度依存性センサーグラムをLangmuir double molecular interaction model with mass transportを使用して、解析しセンサーチップに固定されたDNAプローブと添加したピロールイミダゾールポリアミドの結合能、乖離能をKD、KA、kd、ka値として算定した。
【0055】
II.結果
本発明のPIP−A:No.47は、AURKAオリゴDNA(マッチ)と結合速度定数ka(1/Ms)3.84E+05、解離速度定数kd(1/s)5.11E−04、親和定数KA(1/M)7.51E+08解離定数KD(M)1.33E−09、2塩基変異を有するAURKAオリゴDNA(ミスマッチ−1)と結合速度定数ka(1/Ms)4.42E+03、解離速度定数kd(1/s)3.17E−03、親和定数KA(1/M)1.39E+06解離定数KD(M)7.17E−07が得られ結合特異性に539倍の差を認めた。PIP−B:No.48は、AURKBオリゴDNA(マッチ)と結合速度定数ka(1/Ms)5.47E+05、解離速度定数kd(1/s)2.68E−04、親和定数KA(1/M)2.04E+09解離定数KD(M)4.90E−10、2塩基変異を有するAURKBオリゴDNA(ミスマッチ−1)と結合速度定数ka(1/Ms)5.41E+03、解離速度定数kd(1/s)2.19E−03、親和定数KA(1・M)2.47E+06解離定数KD(M)4.05E−07が得られ結合特異性に826倍の差を認めた。以上よりPIP−AおよびPIP−Bは、結合部位と同様の配列を有するオリゴDNAに特異的に結合することが分かった。また、本発明のPIP−A:No.47は、AURKAオリゴDNA(ミスマッチ−2)と結合速度定数ka(1/Ms)1.72E+03、解離速度定数kd(1/s)3.59E−03、親和定数KA(1/M)4.79E+05解離定数KD(M)2.09E−06であった。PIP−B:No.48は、AURKBオリゴDNA(ミスマッチ−2)と結合速度定数ka(1/Ms)3.40E+03、解離速度定数kd(1/s)4.64E−03、親和定数KA(1/M)7.33E+05解離定数KD(M)1.36E−06であった。結果を図10〜15に示す。
【0056】
3.In vitroにおけるFITC−標識PIPの分布
【0057】
I.材料及び方法
イ)外来刺激に対する細胞死の誘導が遅いアポトーシス低感受性のHeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞)を、6ウェルプレートの各ウェルに30000細胞となるよう播種し、2mlの10%子牛血清(Invitrogen)及び1%PSGを含むDulbecco変性Eagle培地(DMEM)にて培養した。
ロ)培養HeLaにおけるFITC−標識ポリアミド類のインキュベーション
HeLa細胞を24時間培養後、FITC標識PIP(PIP−A 及び PIP−B)を10μMの濃度で培地に直接添加した。経時的に観察し、6時間、12時間、24時間で核をFITC及びHoechst33342によって30分間染色し、HeLa細胞を蛍光顕微鏡を用いて、×200の倍率で観察した。
【0058】
II.結果
FITC標識をしたPIPは、HeLa細胞の核に特異的に取り込まれた。FITC標識をしたPIP添加後6時間でほぼ全ての細胞の核が、蛍光強度は不均一であるがFITCの蛍光を示し、細胞質での蛍光は、培地同様でバックグランドレベルであった。添加後6時間でFITCの蛍光強度はほぼ全ての細胞で均一化していた。また、添加後12時間で、全ての細胞の核内にFITCの蛍光が認められ、その強度の濃縮が認められた。さらに、24時間でFITCの蛍光強度が減弱しない事より、PIP−A及びPIP−Bが細胞核内で非常に安定であることが示唆された。結果を図16〜24に示す。
【0059】
4.PIP−A及びPIP−Bによるプロモーターに対するノックダウン効果の同定及びランダム培養細胞におけるmRNA発現とAURKA及びAURKBタンパク質の発現の同定
【0060】
(1)リアルタイムPCRアッセイ(mRNA発現の測定)
I.材料及び方法
HeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞)を、100000細胞となるよう播種し、10%子牛血清(Invitrogen)下で1%PSGを含むDulbecco変性Eagle培地(DMEM)にて6時間培養後、培地を交換し、10μMのPIP−A、PIP−Bおよび5μMずつのPIP−AとPIP−B両方を含む10%子牛血清添加培地もしくはPIPを含まない同様の培地で6時間培養し、細胞を回収し、RNAをRNeasy Mini Kit(Quiagen)を使用し抽出、リアルタイムPCRアッセイに供した。
リアルタイムPCRアッセイは、TAKARA DICE real time systemを利用し、PrimeScriptTM RT Enzyme Mix Iにより逆転写反応を行い、SYBR Premix Ex Taqを使用し、TAKARA Perfect Real Time Primerより購入したAURKA、AURKBおよびGAPDHプライマーを利用し、(初期変性)95℃、10秒(PCR反応:40サイクル)95℃、5秒 60℃、30秒(融解曲線分析)の反応系によって行った。具体的なプライマーの塩基配列は、AURKAセンスプライマー(5’−GGATCTCTGGAGCCTTGGAGTTC−3’)(配列番号21;タカラバイオ、HA038310−F)、AURKAアンチセンスプライマー(5’−TGGCTGGGATTATGCTTCAACA−3’)(配列番号22;タカラバイオ、HA038310−R)、AURKBセンスプライマー(5’−TCATGAGCCGCTCCAATGTC−3’)(配列番号23;タカラバイオ、HA089596−F)、AURKBアンチセンスプライマー(5’−AAGATGTCGGGTGTCCCACTG−3’)(配列番号24;タカラバイオ、HA089596−R)、GAPDHセンスプライマー(5’−GCACCGTCAAGGCTGAGAAC−3)(配列番号25;HA067812−F)及びGAPDHアンチセンスプライマー(5’−TGGTGAAGACGCCAGTGGA−3’)(配列番号26;HA06812−R)を用いた。増幅産物の生成量モニターは、インターカレーター法により蛍光強度として検出され、指数関数的にシグナルが上昇する閾値と増幅曲線が交わる点Ct値を算出した。AURKAとAURKBのCt値をGAPDHのCt値と比較することで相対的なAURKA及びAURKBのmRNAの発現量を算定した。
【0061】
II.結果
相対的AURKAmRNA発現量は、通常の12時間の培養では1.9であったが、PIP−A10μM添加で0.9に低下し、PIP−AとPIP−Bをそれぞれ5μM添加すると0.8、ミスマッチとしてのPIP−B10μM添加では1.7であった。相対的AURKBmRNA発現量は、通常の12時間の培養で2.1であったが、PIP−B10μM添加で1.0に低下し、PIP−AとPIP−Bをそれぞれ5μM添加すると1.1、ミスマッチとしてのPIP−A10μM添加では1.9であった。このことより、PIP−Aは単独でもPIP−Bと同時に投与してもAURKA遺伝子のmRNA発現量を抑制したが、PIP−BはAURKA遺伝子のmRNA発現量に影響を及ぼさなかった。同様にPIP−Bは単独でもPIP−Aと同時に投与してもAURKB遺伝子のmRNA発現量を抑制したが、PIP−AはAURKB遺伝子のmRNA発現量に影響を及ぼさなかった。PIP−AとPIP−BがそれぞれAURKAとAURKBのmRNA発現量を特異的に且つ独立して抑制することが示された。また、PIP−AとPIP−Bの併用投与によっても発現抑制効果が保たれる事が示された。各群においてTurkey−Kramer法による多重比較検定の結果は、危険率P<0.05で有意差ありと判定した。結果を図25及び26に示す。
【0062】
(2)ルシフェラーゼアッセイ(プロモーター活性の測定)
I.材料及び方法
【0063】
ヒトAURKA遺伝子上流のプロモータ領域1.8Kb(配列番号27)とヒトAURKB遺伝子上流のプロモータ領域約2.4Kb(配列番号28)を含むDNAフラグメントをpGL3ベクター(プロメガ)にそれぞれ挿入した。それぞれのpGL3挿入ベクターをHeLa細胞にトランスフェクションし、プロモータアクティビティを相対的ルシフェラーゼによる発光強度として検出した、測定はTK vectorとのデュアルルシフェラーゼアッセイシステム(プロメガ)を利用し、データの補正を行った。それぞれのアッセイを6回測定し、平均値とSD値で示した。通常の培養系での発光とPIP−A、PIP−Bを10μm 1μM添加後の発光強度を比較した。各群においてTurkey−Kramer法による多重比較検定を行った。
II.結果
ヒトAURKA遺伝子上流のプロモータ領域1.8Kb(配列番号27)を含むDNAフラグメントを挿入したpGL3ベクターによるHeLa細胞での発光活性は、PIP−Aの添加により濃度依存性に有意に低下した。このことによりPIP−Aの添加により、AURKAプロモーターの調整下での発現ベクターからのルシフェラーゼ発現が抑制され、発光強度の低下が起こったと確認された。
ヒトAURKAB遺伝子上流のプロモータ領域2.4Kb(配列番号28)を含むDNAフラグメントを挿入したpGL3ベクターによるHeLa細胞での発光活性は、PIP−Bの添加により濃度依存性に有意に低下した。このことによりPIP−Bの添加により、AURKBプロモーターの調整下での発現ベクターからのルシフェラーゼ発現が抑制され、発光強度の低下が起こったと確認された。
各群においてTurkey−Kramer法による多重比較検定の結果は、危険率P<0.05で有意差ありと判定した。結果を図27及び28に示す。
【0064】
(3)ウエスタンブロッティング(タンパク質の測定)
I.材料及び方法
HeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞)を、100000細胞となるよう播種し、10%子牛血清(Invitrogen)下で1%PSGを含むDulbecco変性Eagle培地(DMEM)にて6時間培養後、培地を交換し、10μMのPIP−A、PIP−Bおよび5μMずつのPIP−AとPIP−B両方を含む10%子牛血清添加培地もしくはPIPを含まない同様の培地(1%DMSO含有)で12時間培養し、細胞を蛋白分解酵素阻害剤を含む、細胞溶解液内に回収した。SDS−PAGE法により、質量で分離後、通常のウェスタンブロットを行った。抗AURKA、抗AURKBマウスモノクローナル抗体(ABCAM社)を使用した。
コントロールとしてAnti beta−Actin(Rabbit)ELISA/WB(Rockland,Inc.)ベータアクチンに対する抗体を用いた。ウェスタン・ブロッティングでのバンドの濃淡をLAS4000にて測定し、各Polyamideのノックダウン効果を評価した。
【0065】
II.結果
AURKA及びAURKBの蛋白合成を、トータル12時間のランダム(非同調)培養にて検討した。PIP−A及びPIP−Bで処理した細胞群では、PIP化合物で非処理の対照細胞群(1% DMSO含有)に比べて、PIP化合物の濃度依存性に、AURKA或いはAURKBの蛋白合成が有意に低下している事が示された。また、両PIP化合物のAURKA或いはAURKBの蛋白合成に対するノックダウン効果は、特に(終濃度で)10μMのPIP化合物で処理した際に最も著しい事が示された。加えて、PIP−AとPIP−Bを合計10μMで併用処理(各5μM)した際には、何れもAURKA及びAURKBの蛋白合成の有意な低下を認めた。一方、ミスマッチとしてのPIP−B及びPIP−Aは、それぞれAURKA或いはAURKBの蛋白合成量に何らの影響を及ぼさなかった。
また、コントロールとして用いたbeta−Actinの蛋白合成量は、PIP非処理群/処理群で変化がなく、常に一定していた。これらの結果は、定量的real−time PCR assayによるmRNAの発現量解析の結果と完全に一致している。また、以上の結果は、両PIP化合物が、AURKA或いはAURKBのプロモーター活性を抑制し、その結果、それぞれのmRNAの発現量と蛋白合成量を、特異的に且つ互いに独立して抑制する事を示している。結果を図29に示す。
【0066】
5.細胞増殖阻害アッセイ
【0067】
(1)HeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞)を用いた増殖阻害アッセイ
I.材料及び方法
細胞を用いて細胞増殖抑制試験を行った。HeLa細胞を、3000細胞となるよう96穴マイクロタイタープレートに播種し、100μlの培地、10%子牛血清(Invitrogen)下で1%PSGを含むDulbecco変性Eagle培地(DMEM)にて6時間培養後、培地を交換し、0μMから20μM(0μM、0.01μM、0.1μM、0.5μM、1μM、10μM、20μM)のPIP−A、PIP−Bおよび等量のPIP−AとPIP−B混合物を含む10%子牛血清添加培地で48時間培養し、生細胞数測定試薬SF(Nacalai Tesque,Inc.)を10μlずつ添加し、1時間呈色反応を行い、ARVOマイクロタイタープレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。なお、当該実験は水溶性ホルマザンを用いたmodified MTT assay(WST−8TM:Nacalai Tesque,Inc.)で施行した。
【0068】
II.結果
PIP−A単独では、濃度依存性に生細胞数の減少が見られた。20μMではIC−50に達しなかったが、生細胞数は60%以下であった。PIP−B単独では、濃度依存性に生細胞数の減少が見られ、そのIC−50値は12.41μMであった。PIP−AとPIP−Bの等量混合物でも、同様に濃度依存性の生細胞数の減少が認められ、そのIC−50値は6.45μMであった。このことより、PIP−AとPIP−Bの等量混合物、PIP−B単独、PIP−A単独の順に細胞増殖抑制が強く、PIP−AとPIP−Bの両方を同時に発現抑制することが相乗的に腫瘍細胞増殖を抑制することが示唆された。結果を図30に示す。
【0069】
(2)種々の細胞を用いた細胞増殖アッセイ
I.材料及び方法
【0070】
上記5.(1)HeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞)を用いた増殖阻害アッセイに記載されている実験方法によって、HeLa、T98G、A549、A2780、HCT116、MCF7、T47D、MRC5、HUVEC細胞を用いて、増殖抑制効果が最も高かったPIP−AとPIP−Bの等量混合物、0μMから100μM(0μM、0.01μM、0.1μM、0.5μM、1μM、10μM、20μM、100μM)を用いて実施した。
【0071】
II.結果
全ての細胞でPIP−AとPIP−Bの等量混合物の添加により、濃度依存性に増殖抑制効果が得られた。A2780、HeLa、A549、T98G、HCT116、MCF7、T47D、MRC5、HUVECの順で、増殖抑制効果が高くみとめられ、IC−50値は、A2780、HeLa、A549では5〜10μMの間、T98G、HCT116、MCF7では10〜20μMの間、T47D、MRC5は、20〜100μMの間、HUVECは100μM以上であった。このことより、癌細胞由来の腫瘍細胞株A2780、HeLa、A549、T98G、HCT116、MCF7、T47Dで強い増殖抑制が認められ、正常細胞由来のMRC5、HUVECでは増殖抑制が弱い傾向が認められた。結果を図31に示す。
【0072】
6.アポトーシス検出アッセイ
【0073】
アポトーシスの初期段階では、細胞膜の完全性は保たれているが、膜のリン脂質の非対称性が失われる。それに伴い、細胞膜の内側に局在する陰性荷電リン脂質のフォスファチジルセリン(PS)が細胞表面に露出し、Ca2+依存性のリン脂質結合タンパクであるAnnexinVはPSに選択的に結合する。このことより、蛍光標識したAnnexinVを用いることでアポトーシスに陥った細胞を検出することができる。この際、細胞をヨウ化プロピジウム(PI)または7−アミノ−アクチノマイシンD(7−AAD)などのDNA特異的な細胞生死判定用の色素で染色すると、細胞膜構造が破壊される後期のアポトーシス細胞に取り込まれ、この色素がDNAと結合することより、前期および後期のアポトーシスを区別して検出することが出来る。PIP−AとPIP−B、PIP−AとPIP−Bの等量混合物を培地に添加し、HeLa細胞を用いてアポトーシスの誘導の有無をAnnexinV−FITCおよびPIによるアポトーシスの検出キット(Calbiochem)を用い確認した。AnnexinV−FITCによるアポトーシスの検出は蛍光顕微鏡による形態的評価とフローサイトメトリー(FACScan(登録商標):Becton−Dickinson(BD))を用いた定量的評価の両方を行った.
【0074】
I.材料及び方法
(1)AnnexinV−FITC
HeLa細胞を用い、非処理群として1%DMSO、PIP−A(10μM)、PIP−B(10μM)およびPIP−A(5μM)とPIP−B(5μM)の等量混合物を添加後48時間の培養細胞をAnnexinV−FITCおよびPIで処理し、蛍光顕微鏡で観察した。
(2)フローサイトメトリーによるアポトーシス検出アッセイ投与後
HeLa細胞を用い、非処理群として1%DMSO、PIP−A(10μM)、PIP−B(10μM)およびPIP−A(5μM)とPIP−B(5μM)の等量混合物を添加後48時間の培養細胞をAnnexinV−FITCおよびPIで処理し、40000個の細胞をフローサイトメトリーにより解析した。
【0075】
II.結果
(1)AnnexinV−FITC
視野中に、非処理群では、FITCおよびPIの蛍光色を発する細胞はほとんど認められなかった。PIP−A(10μM)、PIP−B(10μM)およびPIP−A(5μM)とPIP−B(5μM)の等量混合物でFITCおよびPIの発色が認められたことより、PIP−AとPIP−Bの等量混合物、PIP−B、PIP−Aの順でアポトーシスが強く誘導されると考えられた。(2)にフローサイトメトリーによる定量的解析を示す。
(2)フローサイトメトリーによるアポトーシス検出アッセイ投与後
非処理群では前期アポトーシス1.40%、後期アポトーシス4.76%が認められた。PIP−Aでは、前期アポトーシス3.83%、後期アポトーシス4.91%が認められた。PIP−Bでは、前期アポトーシス14.32%、後期アポトーシス9.07%が認められた。PIP−AとPIP−Bの等量混合物(5μM)では、前期アポトーシス33.66%、後期アポトーシス5.65%が認められた。前記アポトーシスの誘導は、PIP−AとPIP−Bの等量混合物、PIP−B、PIP−Aの順で強く誘導された。前記アポトーシスの誘導は、PIP−B、PIP−AとPIP−Bの等量混合物、PIP−Aの順で強く誘導されたが、PIP−A、PIP−AとPIP−Bの等量混合物と非処理群に差は認めず、PIP−Bで誘導が亢進する傾向が見られた。
このことより、PIP−Bによるものに比べPIP−A単独でのアポトーシス誘導は顕著でなかった。このことは、AURKAの阻害ではアポトーシスの誘導は見られずAURKB阻害では強くアポトーシスが認められるとする複数の報告と合致した。また、PIP−AとPIP−Bの等量混合物でアポトーシスの誘導が、AURKB単独より、より強く誘導されたことより、AURKAの阻害によるアポトーシスの誘導増強の現象と同様の所見が得られた。つまり、本発明のAURKAおよびAURKBの併用による抗癌効果の増強および本発明の化合物を使用することで他の薬剤との併用による抗腫瘍効果の増強、もしくはその判定に使用できるものと考えられた。結果を図32に示す。
【0076】
7.統計解析
結果は平均値±標準偏差(SD)で表現した。平均値間の差の有意性は、ANOVA 及びTurkey−Kramer法による多重比較検定により評価した。少なくとも0.05未満のp値を有意であると判定した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のhAURKA遺伝子発現抑制剤及びhAURKB遺伝子発現抑制剤はそれぞれhAURKA及びhAURKB遺伝子関連疾患の治療薬及び制癌剤として利用可能である。またこの遺伝子を用いた基礎実験の試薬としての利用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】ヒトオーロラカイネースAプロモーターの構造を示す。
【図2】本発明のピロールイミダゾールポリアミド−A(PIP−A:No.47)とその結合部位を示す。
【図3】ヒトオーロラカイネースBプロモーターの構造を示す。
【図4】細胞周期依存性因子(CDR)及び細胞周期遺伝子相同領域(CHR)の構造を示す。CDR及びCHRともに他の酵素に同じ塩基配列を有することがわかる。
【図5】本発明のピロールイミダゾールポリアミド−B(PIP−B:No.48)とその結合部位を示す。
【図6】PIP−AのHPLCの結果を示す。
【図7】PIP−BのHPLCの結果を示す。
【図8】PIP−Aのゲルシフトアッセイ(EMSA)の結果を示す。レーン−1:一本鎖オリゴDNA、レーン−2:「マッチ」二本鎖オリゴDNA(AURKAオリゴDNA)、レーン−3:「ミスマッチ−1」二本鎖オリゴDNA(2塩基変異AURKAオリゴDNA)、レーン−4:「マッチ」二本鎖オリゴDNAとPIP−A、レーン−5:「ミスマッチ−1」二本鎖オリゴDNAとPIP−A、レーン−6:「ミスマッチ−2」二本鎖オリゴDNA(AURKBオリゴDNA)とPIP−Aの結果を示す。
【図9】PIP−Bのゲルシフトアッセイの結果を示す。レーン1:一本鎖オリゴDNA、レーン−2:「マッチ」二本鎖オリゴDNA(AURKBオリゴDNA)、レーン−3:「ミスマッチ−1」二本鎖オリゴDNA(2塩基変異AURKBオリゴDNA)、レーン4:「マッチ」二本鎖オリゴDNAとPIP−B、レーン−5:「ミスマッチ−1」二本鎖オリゴDNAとPIP−B、レーン−6:「ミスマッチ−2」二本鎖オリゴDNA(AURKAオリゴDNA)とPIP−Bの結果を示す。PIP−A及びPIP−Bともに特異的に標的塩基配列と結合することを示す。
【図10】ビアコアアッセイの結果を示す。PIP−Aが特異的にAURKA標的オリゴDNA(マッチオリゴ)と結合したことを示す。
【図11】ビアコアアッセイの結果を示す。PIP−Aが2塩基変異を有するミスマッチ−1オリゴDNAとは、AURKA標的オリゴDNA(マッチオリゴDNA)との結合と比べて結合が有意に低下したことを示す。
【図12】ビアコアアッセイの結果を示す。PIP−Aが互い違いのAURKB標的オリゴDNA=ミスマッチ−2オリゴDNAとは、AURKA標的オリゴDNA(マッチオリゴDNA)及びミスマッチ−1オリゴDNAとの結合と比べて結合が更に低下したことを示す。
【図13】ビアコアアッセイの結果を示す。PIP−Bが特異的にAURKB標的オリゴDNA(マッチオリゴDNA)と結合することを示す。
【図14】ビアコアアッセイの結果を示す。PIP−Bが2塩基変異を有するミスマッチ−1オリゴDNAとは、AURKB標的オリゴDNA(マッチオリゴDNA)との結合と比べて結合が有意に低下したことを示す。
【図15】ビアコアアッセイの結果を示す。PIP−Bが互い違いのAURKA標的オリゴDNA=ミスマッチ−2オリゴDNAとは、AURKB標的オリゴDNA(マッチオリゴDNA)及びミスマッチ−1オリゴDNAとの結合と比べて結合が更に低下したことを示す。
【図16】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−Aを10μM添加し、6時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図17】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−Bを10μM添加し、6時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図18】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−A及びFITC−PIP−Bを各々5μM添加し、6時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図19】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−Aを10μM添加し、12時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図20】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−Bを10μM添加し、12時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図21】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−A及びFITC−PIP−Bを各々5μM添加し、12時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図22】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−Aを10μM添加し、24時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図23】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−Bを10μM添加し、24時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図24】FITC−標識PIPの分布を示す。FITC−PIP−A及びFITC−PIP−Bを各々5μM添加し、24時間培養した際の細胞内での分布を図に示す。それぞれ、(a)明視野(b)FITC、(c)Hoechst33342、(d)Merge(重ね合わせ)の結果を示す。
【図25】リアルタイムPCRアッセイによって測定した相対的AURKAmRNA発現量を示す。通常の12時間培養時のAURKAmRNA発現量に比べて、PIP−Aは濃度依存性にその発現量を抑制する事が示された。各相対的mRNA値は、内部標準として用いたGAPDHのmRNA発現量で補正した値であり、平均値±標準偏差(SD):n=6で表現した。また、Turkey−Kramer法にて多重比較解析を行った。
【図26】リアルタイムPCRアッセイによって測定した相対的AURKBmRNA発現量を示す。通常の12時間培養時のAURKBmRNA発現量に比べて、PIP−Bは濃度依存性にその発現量を抑制する事が示された。各相対的mRNA値は、内部標準として用いたGAPDHのmRNA発現量で補正した値であり、平均値±標準偏差(SD):n=6で表現した。また、Turkey−Kramer法にて多重比較解析を行った。
【図27】ルシフェラーゼアッセイによって測定した相対的AURKAプロモーター活性を示す。通常の12時間培養時のAURKAプロモーター活性に比べて、PIP−Aは濃度依存性にその活性を抑制する事が示された。各相対的プロモーター活性値は、内部標準として用いたTKvectorの発光量で補正した値であり、平均値±標準偏差(SD):n=6で表現した。また、Turkey−Kramer法にて多重比較解析を行った。
【図28】ルシフェラーゼアッセイによって測定した相対的AURKBプロモーター活性を示す。通常の12時間培養時のAURKBプロモーター活性に比べて、PIP−Bは濃度依存性にその活性を抑制する事が示された。各相対的プロモーター活性値は、内部標準として用いたTKvectorの発光量で補正した値であり、平均値±標準偏差(SD):n=6で表現した。また、Turkey−Kramer法にて多重比較解析を行った。
【図29】AURKA抗体によるウエスタンブロッティングの結果を示す。HeLa細胞(100000個/ウェル)におけるPIP−A(10μM、1μM及び0.1μM)がAURKAタンパク質発現に及ぼす効果を観察した結果である。PIP−Aの添加によりAURKAタンパク質の発現は濃度依存性に低下した。PIP−A及びPIP−B各々5μlずつを同時に添加した場合にも、AURKAタンパク質の発現は低下した。AURKB抗体によるウエスタンブロッティングの結果を示す。HeLa細胞(100000個/ウェル)におけるPIP−B(10μM、1μM及び0.1μM)がAURKBタンパク質発現に及ぼす効果を観察した結果である。PIP−Bの添加によりAURKBタンパク質の発現は濃度依存性に低下した。PIP−A及びPIP−B各々5μlずつを同時に添加した場合にも、AURKBタンパク質の発現は低下した。
【図30】HeLa細胞を用いた細胞増殖阻害アッセイの結果を示す。PIP−A、PIP−B並びにPIP−AとPIP−B等量混合物はHeLa細胞の増殖をそれぞれ濃度依存性に阻害した。特にPIP−AとPIP−Bの等量併用処理は、単独処理よりも強い増殖抑制効果を示した。
【図31】種々の細胞におけるPIP−AとPIP−B等量併用処理の効果についての細胞増殖アッセイの結果を示す。PIP−AとPIP−B等量併用処理は、広いスペクトラムで多種類のヒト腫瘍細胞由来のセルラインの増殖を抑制した。一方、この併用処理に対して、ヒト正常細胞由来のセルラインは著明な抵抗性を示した。この結果はPIP−AとPIP−Bの併用処理の腫瘍細胞株に対する選択性を示唆する結果と考えられる。
【図32−1】アポトーシス検出アッセイの結果を示す。PIP−A(10μM)、PIP−B(10μM)PIP−A及びPIP−B(各5μM)の添加により細胞は様々な程度でアポトーシスを起こした。特にPIP−AとPIP−Bの等量混合物で処理した細胞群にて、著明な早期アポトーシスの惹起が認められた。
【図32−2】アポトーシス検出アッセイの結果を示す。PIP−A(10μM)、PIP−B(10μM)PIP−A及びPIP−B(各5μM)の添加により細胞は様々な程度でアポトーシスを起こした。特にPIP−AとPIP−Bの等量混合物で処理した細胞群にて、著明な早期アポトーシスの惹起が認められた。
【配列表フリーテキスト】
【0079】
配列番号9 センスプライマー
配列番号10 アンチセンスプライマー
配列番号11 センスプライマー
配列番号12 アンチセンスプライマー
配列番号13 センスプライマー
配列番号14 アンチセンスプライマー
配列番号15 センスプライマー
配列番号16 アンチセンスプライマー
配列番号17 プライマー
配列番号18 プライマー
配列番号19 プライマー
配列番号20 プライマー
配列番号21 プライマー
配列番号22 プライマー
配列番号23 プライマー
配列番号24 プライマー
配列番号25 プライマー
配列番号26 プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−メチルピロール単位(以下Pyとも言う)、N−メチルイミダゾール単位(以下Imとも言う)及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、ヒトオーロラカイネースA(以下hAURKAとも言う)プロモーターの塩基配列−100〜−70(配列番号2)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域(以下標的領域と言う)の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含んでなる薬剤。
【請求項2】
更にβアラニン単位を含む請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
ヒトオーロラカイネースA遺伝子発現抑制のための請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項4】
ヒトオーロラカイネースA関連疾患の治療のための請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項5】
制癌剤として用いるための請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
前記標的領域がヒトオーロラカイネースAプロモーターの塩基配列−89〜−79(配列番号3)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項7】
前記標的領域がヒトオーロラカイネースAプロモーターの塩基配列−89〜−83(配列番号4)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項8】
前記ピロールイミダゾールポリアミドが下式で表される請求項1〜7のいずれか一項記載の薬剤。
【化1】

【請求項9】
下式で表されるピロールイミダゾールポリアミド。
【化2】

【請求項10】
N−メチルピロール単位(以下Pyとも言う)、N−メチルイミダゾール単位(以下Imとも言う)及びγ−アミノ酪酸単位を含むピロールイミダゾールポリアミドであって、ヒトオーロラカイネースB(以下hAURKBとも言う)プロモーターの塩基配列−44〜−17(配列番号6)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域(以下標的領域と言う)の副溝内において、前記γ−アミノ酪酸単位の部位で折りたたまれてU字型のコンフォメーションをとることができ、C−G塩基対に対してはPy/Im対が、G−C塩基対に対してはIm/Py対が、A−T塩基対及びT−A塩基対に対してはいずれもPy/Py対がそれぞれ対応する、上記ピロールイミダゾールポリアミドを含んでなる薬剤。
【請求項11】
更にβアラニン単位を含む請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
ヒトオーロラカイネースB遺伝子発現抑制のための請求項10又は11に記載の薬剤。
【請求項13】
ヒトオーロラカイネースB遺伝子関連疾患の治療のための請求項10又は11に記載の薬剤。
【請求項14】
制癌剤として用いるための請求項13に記載の薬剤。
【請求項15】
前記標的領域がヒトオーロラカイネースBプロモーターの塩基配列−31〜−17(配列番号7)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である請求項10〜14のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項16】
前記標的領域がヒトオーロラカイネースBプロモーターの塩基配列−25〜−18(配列番号8)の一部又は全部とこれに対する相補鎖を含む二重らせん領域である請求項10〜15のいずれか一項に記載の薬剤。
【請求項17】
前記ピロールイミダゾールポリアミドが下式で表される請求項10〜16のいずれか一項記載の薬剤。
【化3】

【請求項18】
下式で表されるピロールイミダゾールポリアミド。
【化4】

【請求項19】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の薬剤及び請求項10〜17のいずれか一項に記載の薬剤、並びに薬剤として許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項20】
請求項9及び請求項18に記載のピロールイミダゾールポリアミド、並びに薬剤として許容される担体を含む薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32−1】
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【図32−2】
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【公開番号】特開2011−26203(P2011−26203A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303138(P2007−303138)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】