カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の治療への応用
本発明の主題は、最も一般的な側面において、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤であるインフェスチン若しくはそのドメインの、又はインフェスチン同族体に基づく修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の、治療への適用であって、これらは三次元的な動脈又は静脈血栓の形成若しくは安定化又はその両者を、いわゆる内因性凝固経路の活性化に関わるタンパク質に干渉することにより予防する。特に、本発明は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤若しくはそのフラグメント又は修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の、動脈内血栓形成に関連する状態又は疾患、即ち脳卒中又は心筋梗塞、炎症、補体の活性化、線維素溶解、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、関節炎、膵炎、又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的キニン生成に関連する疾患の治療又は予防における使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、最も一般的な側面において、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤であるインフェスチン若しくはそのドメインの、又はインフェスチン同族体に基づく修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の、治療への適用であって、これらは、三次元的な動脈又は静脈血栓の形成及び/又は安定化を、いわゆる内因性凝固系路の活性化に関与するタンパク質に干渉することにより予防する。特に、本発明は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤若しくはそのフラグメント又は修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の、動脈血栓形成に関連する状態又は疾患、即ち脳卒中又は心筋梗塞、炎症、補体の活性化、線維素溶解、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、関節炎、膵炎、又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的キニン生成に関連する疾患の治療又は予防における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管壁が傷害を受けるとそれが引き金となって、血小板の急速な粘着および凝集が起り、続いて血漿凝固系の活性化及びフィブリン含有血栓の形成が起り、これにより損傷部位が閉塞される。これらの事象は、外傷後の失血を制限するために重要なことであるが、損傷した血管を閉塞することで生命維持に重要な臓器の虚血及び梗塞を引き起こす可能性もある。このウォーターフォールモデルにおいて、血液凝固は、限定されたタンパク質分解による酵素前駆体の活性化を含み、ついにはトロンビンの生成となる一連の反応により進行し、トロンビンが血漿フィブリノゲンをフィブリンに変え、血小板を活性化させる。さらに、コラーゲン又はフィブリンに接着した血小板は、凝固プロテアーゼ複合体の構築と活性化を増幅するそれらの外表面上の凝固促進リン脂質(主にホスファチジルセリン)の曝露を介して、そして血小板受容体と凝固因子間の直接の相互作用により、トロンビン生成を数桁の大きさで促進する。
【0003】
凝固については2つの収束する経路が存在しており、それらは、血管系の外因性(血管壁)か内因性(血中)の成分のいずれかによって引き起こされる。「外因性」経路は、血漿第VII因子(FVII)と、血管内腔表面には存在しないが、血管の内皮下層で強く発現し、組織の損傷によって接近可能なまたは遊離される必須凝固補因子である、内在性膜タンパク質の組織因子(TF)との複合体により開始される。循環するマイクロパーティフル中で発現するTFは、活性化された血小板の表面上での持続的なトロンビン生成により、血栓増幅にも関与している可能性がある。
【0004】
「内因性」又は接触活性化経路は、第XII因子(FXII、ハーゲマン因子)が、高分子量キニノーゲンと血漿カリクレインを含む反応において負電荷を帯びた表面と接触する状態になる場合に始まる。FXIIはグリコサミノグリカン及びコラーゲンなどの内皮細胞下のマトリックスの高分子構成物、スルファチド、ヌクレオチドならびに他の可溶性のポリアニオン又はガラス及びポリマーなど非生理的物質で活性化され得る。最も強力な接触活性化剤の1つはカオリンであり、この反応は主要な血液凝固試験である活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)についての基本メカニズムとして用いられており、これは「内因的」経路を経る凝固能を測定するものである。血小板によって増幅された反応で、活性化されたFXIIは次いでFXIをFXIaに活性化し、引き続いてFXIaは第IX因子を活性化する。FVIIIa(FVIIIaは微量のFXa及び/又はトロンビンで予め活性化されている)及びFIXaの複合体(テナーゼ複合体)は、引き続いてFXを活性化する(図1、「左側」を参照)。インビトロにおける血液凝固誘導のその高い効力にも拘わらず、このFXIIを契機とする内因性凝固経路の(病理)生理的意義は、FXII、及び高分子のキニノーゲン及び血漿カリクレインの遺伝的欠損が出血性の合併症と関連していない事実から疑問視されている。TFやFVIIのような外因性経路の構成因子が欠損しているヒト及びマウスが、重度の出血に罹るという観察と共に、このことから、インビボでの出血を止めるためには、もっぱら外因性のカスケードが必要であるという最近の仮説が導かれている(非特許文献1)。
【0005】
病的な状況では、凝固カスケードは不適切に活性化される可能性があり、その結果止血血栓が血管の内側に形成される。それにより、血管は閉塞され、遠隔器官への血液の供給が制限され得る。この過程は血栓塞栓症として知られ、高い死亡率に繋がっている。更に、血液と接触する状態になる人工器官を用いることは、内因性の凝固カスケードを活性化させるので、厳しく制限されている。これらの人工器官表面を適切にコーティングすることにより、ある場合には上記の問題を回避することができるが、他の場合は、器官の機能に障害が生ずる可能性がある。そのような人工器官の例としては、血液透析器、心肺バイパス回路、心臓弁、血管ステント及び留置カテーテルである。このような人工器官を使用する場合、へパリンのような抗凝固剤を投与して、その表面にフィブリンが形成するのを予防する。しかし、ある患者はへパリンに対して忍容性がなく、へパリン起因性血小板減少症(HIT)の原因となり、その結果血小板の凝集、及び致死的な血栓症を起こす可能性がある。その上、臨床で使用されている全ての抗凝固剤について固有の問題点は、重篤な出血イベントの危険性の増大である。従って、これらの合併症と無関係で、これらの疾患の患者に使用することが出来る、又は出血の危険性を増大しないで血栓症を予防することができる優れた治療コンセプトとして、新しいタイプの抗凝固剤に対する強い必要性が存在する(非特許文献2)。
【0006】
国際公開第2006/066878号において、抗FXII/FXIIa抗体の使用又はFXII/FXIIa阻害剤の使用が提案されている。可能性のある阻害剤として、抗トロンビンIII(ATIII)、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、C1阻害剤、アプロチニン、アルファ−1・プロテアーゼ阻害剤、抗疼痛剤([(S)−1−カルボキシ−2−フェニルエチル]−カルバモイル−L−アルギニン−L−バリン−アルギナール)、Z−プロリン−プロリンアルデヒド−ジメチルアセテート、DX88(Dyax Inc.,300 Technology Square, Cambridge, MA 02139, USA; 非特許文献3で引用)、ロイペプチン、Fmoc−Ala−Pyr−CNのようなプロリル・オリゴペプチダーゼ阻害剤、トウモロコシトリプシン阻害剤、ウシ膵トリプシン阻害剤変異体、エコチン、コガネガレイ抗凝固タンパク質、セイヨウカボチャイソインヒビターを含むセイヨウカボチャトリプシン阻害剤V及びハマダリン(非特許文献4によって公開されている)などが提案されている。
【0007】
治療薬としての理想的なFXII/FXIIaの阻害剤は、−FXII/FXIIaに対して高い阻害効果を示す一方で−、出血の危険性を増大させないことであり、非免疫原性であること、そして可能な限り投与を少なくすべきで、理想的にはただ1回だけにすることである。Z−プロリン−プロリンアルデヒド−ジメチルアセテートのような低分子阻害剤は、極めて短い投与後半減期しか持たないので、反復注射を必要とするか、または経口的に利用できる徐放形態を開発し、その場合、たえず長期間にわたって与えなければならなくなる。C1阻害剤のようなヒト血漿タンパク質は、一見、比較的高いFXII/FXIIa阻害活性を有し、その一方出血の危険性を増大させず、ヒトタンパク質であるため免疫原性がなく、そしてまたかなり長い血漿半減期を有しており、全ての要求を満たしているようである。
【0008】
驚くべきことに、インビボモデルの血栓形成において、ヒトFXII/FXIIa阻害剤の第1候補としてのC1阻害剤が、塞栓形成の予防に有効に使用できないことが今回発見された。提案されていたもう1つのヒト血漿由来のFXII/FXIIa阻害剤、即ちATIII阻害剤は、FXII/FXIIa阻害剤として用いることにより出血の危険性が増大するので、少なくとも2番目の要求を満してないことになる(非特許文献5)。
【0009】
従って、今でもなお、血栓及び同様の疾患の治療及び/又は予防のための改良された薬物治療に対する必要性が存在していることは明らかである。従って、このような必要性を充足させることが、本発明の目的である。
【0010】
50年以上の間、凝固第XII因子の欠損は、増強した特発性の又は損傷に関連した出血の合併症に関連していないことが知られている(非特許文献6)。確かに、aPTT(内因性凝固経路に焦点を当てた臨床的凝固試験)で測定される病理的な値によって直ちに検出されるけれども、FXIIを欠損しているヒトは、大きな外科手術の間でさえ異常出血を起こすことはない(非特許文献7)。その反対に、FXII欠損は静脈の血栓症の危険性の増大に関連している(非特許文献8、非特許文献9)。この考えを支持する研究と症例報告は、FXII欠損症の発端症例である、肺塞栓症で死亡したジョン・ハーゲマン氏に言及する。FXII欠損症は血栓症の危険の増大と関連しているという仮説は、最近の幾つかの症例報告を再評価することにより、FXII欠損症を血栓症と関連付けている原報告に疑問を投げかけている(非特許文献10)。殆どの症例で、これらの著者は、第XII因子の欠損と共に先天的又は後天的な血栓形成促進性の危険因子を併発しているが、この危険因子は、FXIIとは独立に血栓性イベントに関与している可能性があることを認めた。特性が十分に解明された患者を用いた最大の疫学研究(非特許文献11)及びFXII欠損症家族の研究(非特許文献12)は、FXII欠損症と血栓形成促進又は抗血栓性の危険との相関がないことを示した。
【0011】
驚くべきことに、そして当業者に一般に信じられていたこととは逆に、第XII因子誘導の内因性凝固経路は、インビボでは動脈血栓形成に関与しているが、正常な組織特異的な止血に対しては必要とされないことが発見されている(非特許文献13;特許文献1)。意外なことに、これらの結果は、第XII因子を病的な血栓形成の過程の中心的な立場に置くことになる(図1)。従って、FXIIの活性化又はFXIIaの活性を干渉又は遮断することが出来る物質は、病的な動脈血栓形成とその臨床的結果を遮断するのに適している可能性がある。
【0012】
最近、新規なFXII/FXIIa阻害剤が昆虫から発見された:吸血性昆虫サシガメの中腸からのインフェスチン・ドメイン3〜4(インフェスチン3〜4)及びインフェスチン・ドメイン4(インフェスチン−4)(非特許文献14及び15)。これらのタンパク質は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の強力なFXIIa阻害剤であり、第III因子による活性化部分トロンボプラスチン時間を約3倍持続させるものとして知られている。
【0013】
これらの阻害剤は、病原的な血栓形成を遮断するための治療適用に関してまだ評価されていない。更に、これらの異種の阻害剤の、ヒトにおける免疫原性を減少させる試みも、そしてそれらのインビボでの半減期を延長させる試みもなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2006/066878
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Mackman, N, 2004, Role of tissure factor in hemostasis, thrombnosis, and vascular development, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 24, 1015-1022。
【非特許文献2】Renne T, et al., 2005, Defective thrombus formation in mice lacking factor XII. J. Exp. Med. 202: 271-281。
【非特許文献3】Williams A and Baird LG., 2003. DX-88 and HAE: a developmental perspective, Transfus Apheresis Sci. 29:255-258。
【非特許文献4】Isawa H, et al., 2002, A mosquito salivary protein inhibits activation of the plasma contact system by binding to factor XII and high molecular weight kininogen, J. Biol. Chem. 277:27651-27658。
【非特許文献5】Warren BL et al., 2001, Caring for the critically ill patient. High-dose antithrombin III in severe sepsis: a randomized controlled trial, JAMA 286:1869-1878。
【非特許文献6】Ratnoff OD & Colopy JE, 1955, A familial hemorrhagic trait associated with a deficiency of a clot-promoting fraction of plasma, J. Clin. Invest. 34: 602-613。
【非特許文献7】Colman RW, Hemostasis and Thrombosis. Basic principles & clinical practice(eds. Colman RW, Hirsch J, Mader VJ, Clowes AW, & George J),103-122 (Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2001。
【非特許文献8】Kuhli C et al., 2004, Factor XII deficiency: a thrombophilic risk factor for retinal vein occlusion, Am. J. Ophthalmol. 137: 459-464。
【非特許文献9】Halbmayer WM et al., 1993, Factor XII (Hageman factor) deficiency:a risk factor for development of thromboembolism. Incidence of FXII deficiency in patients after recurrent venous or arterial thromboembolism and myocardial infarction, Wien. Med. Wochenschr. 143:43-50。
【非特許文献10】Girolami A et al., 2004, The occasional venous thromboses seen in patients with severe (homozygous) FXII deficiency are probably due to associated risk factors: A study of prevalence in 21 patients and review of the literature, J. Thromb. Thrombolysis 17:139-143。
【非特許文献11】Koster T et al., 1994, John Hageman's factor and deep-vein thrombosis: Leiden thrombophilia Study, Br. J. Haematol. 87:422-424。
【非特許文献12】Zeerleder S et al., 1999, Reevaluation of the incidence of thromboembolic complications in congenital factor XII deficiency - a study on 73 subjects from 14 Swiss families, Thromb. Haemost. 82:1240-1246。
【非特許文献13】Kleinshcnitz C et al., 2006, Targeting coagulation factor XII provides protection from pathological thrombosis in cerebral ischemia without interfering with hemostasis, J. Exp. Med. 203:513-518。
【非特許文献14】Canpos ITN et al., 2002, Infestin, a thrombin inhibitior present in Triatoma infestans nidgut, a Chagas' disease vector: gene cloning, expression and characterization of the inhibitor. Insect Biochem. Mol. Biol. 32:991-997。
【非特許文献15】Campos ITN et al., 2004, Identification and characterization of a novel factor XIIa inhibitor in the hematophagous insect, Triatoma infestans (Hemiptera: Reduviidae). FEBS Lett. 577:512-516。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
驚くべきことに、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤のドメイン、インフェスチン−4は、マウスを病原的血栓形成から防護することと、一方、これらの動物で出血の危険の増大が観察されないことが発見された。血漿中の半減期を延長させるために、インフェスチン−4を哺乳動物の細胞内でヒトアルブミンとの融合体として発現させ、その培養細胞の上清から精製した。その精製阻害因子をマウスに注射し、FeCl3を用いて血栓形成の誘発を行った。rHA−インフェスチン−4で処置をしたマウスの100%が防護されたが、一方、大多数の未処置対照マウスでは血管の閉塞が発生した。これに関連する出血の危険性がないことは、テイルクリップ試験で実証した。インフェスチン−4処置マウス並びに未処置対照マウスとも、止血までの時間及び失血は同程度であることを示した。従って、無視出来る程度の出血の危険しか伴わないインビボでの血栓症に対する防護は、マウスにおいて遺伝子組み換えインフェスチン−4で実証された。この側面におけるインフェスチン3〜4は、インフェスチン−4の条件の下に含まれるが、好ましい化合物は、インフェスチン−4又はインフェスチン−4が多く含まれるインフェスチン3〜4の混合物である。
【0017】
rHA−インフェスチン−4は、また、その内因性の経路を特異的に阻害する潜在能力を、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を測定することによってインビトロで試験したが、aPTTは内因性経路を有効に阻害する物質を入れたことに一致して、確かに延長された。対照的に、因子VIIa/組織因子で始まる凝固の外因性経路の活性化の試験であるプロトロンビン時間(PT)は、殆ど影響されなかった。FXII活性の減少も、FXII欠損のヒトの血漿に基づいて直接証明された。従って、本発明の主題は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤であるインフェスチン又はそのフラグメント、好ましくはドメイン3〜4、最も好ましくはドメイン4、又はそれらのフラグメントを薬剤としての使用であり、とりわけ、aPTTを延長させ(PTは本質的に影響されずに)、それによって三次元的な動脈又は静脈の血栓の形成及び/又は安定化を出血の危険性を伴わずに予防する、血栓疾患に対する薬剤を製造するための使用である。個々の阻害剤は、これにより、内因性凝固経路、特にFXIIaの活性を阻害し、動脈及び静脈血栓の三次元的な形成及び/又は安定化を阻害する機能を有し得る。
【0018】
従って、本発明によれば、更に、動脈の血栓形成に関連する状態又は疾患、即ち脳卒中又は心筋梗塞を治療又は予防するための、物質それぞれの薬剤が提供される。FXIIaの多様なエフェクター機能のために、この物質それぞれの薬剤は、補体の活性化、線維素溶解、炎症、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、関節炎、膵炎又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的キニン生成に関連する疾患に更なる治療効果を有する。
【0019】
修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤
インフェスチン−4の様な異種の阻害剤をヒトに治療的投与すると、免疫応答を起こす可能性がある。従って、本発明の別の目的は、免疫原性がより少ないが、なお強力なカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を同定することである。驚くべきことに、1つの関連するヒトカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤(セリン・プロテアーゼ阻害剤カザールタイプ1、SPINK−1)を、推定される酵素接触部位をインフェスチン−4の対応する領域で置換する方法で修飾することにより、高度に活性なFXIIa阻害剤が生成され、この阻害剤が、特に血栓性の事象を治療又は予防する物質を製造するために用いることが出来ることが発見された。これらの結果に基づいて、任意の天然のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を、FXIIa特異的になる方法で修飾することが可能である。その実施例を以下の章に記載する。
【0020】
ヒトでの治療に使用するための強力なFXIIa阻害剤を産生する目的で、本発明者らは、昆虫由来のタンパク質よりヒト患者において免疫原性が小さい筈の、インフェスチン−4に相同性の高いヒトタンパク質を探索した。インフェスチン−4と最も類似性の高いタンパク質は、膵臓に発現するカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤(膵分泌トリプシン阻害剤PSTIとしても知られている)であるSPINK−1であることが発見された。インフェスチン−4とSPINK−1の類似性は図2に概説してある。
【0021】
野生型SPINK−1の配列に基いて、インフェスチン−4に対する相同性が更に高いSPINK−1配列を有する、種々の突然変異体を産生させている。インフェスチンの構造データが入手できなかったので、トロンビンとの複合体になっているベネズエラサシガメ(Rhodnius prolixus)由来の関連阻害剤(PDB:1TBQ)を分析した。ベネズエラサシガメ阻害剤は2つのカザール・ドメインを有し、そのN末端はトロンビンの触媒能残基と相互作用する。従って、そのN末端のドメインをインフェスチン−4との比較の基準として用いた。図3はベネズエラサシガメ阻害剤のトロンビンとの接触部位及びSPINK−1のキモトリプシンとの接触部位を示す。両タイプのカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の共通特性は、N末端領域における接触部位の蓄積である。この領域がその阻害の特異性を伝達するものと仮定して、数種のSPINK−1の突然変異体を産生した。K−1と命名した第1の突然変異体については、SPINK−1のアミノ末端部分の推定プロテアーゼ接触部位を、インフェスチン−4のそれで置換した。更なる突然変異体K2及びK3でのアミノ酸の交換は、SPINK−1を変えてインフェスチン−4配列により近付けた。図4は、これらの突然変異体のアミノ酸配列と、SPINK−1の野生型配列への変化の程度を示す。成熟したSPINK−1の野生型タンパク質、3種の突然変異体及びインフェスチン−4のアミノ酸配列は、配列番号1〜5に提示してある。用語「増加したそれぞれの増加相同性を有するSPINK−1突然変異体」は、インフェスチン−4と同一の20を超えるアミノ酸、又は同一アミノ酸の代わりの保存的置換を意味する同一の代わりの保存的置換を有していることを意味する。これらの突然変異体は、欧州特許第0352089−A2号、国際公開第88/03171A号及び欧州特許第0278112−A2号に記載されている、ヒト膵臓分泌のトリプシン阻害剤とは異なる突然変異体である。
【0022】
SPINK−1突然変異体を発現させ、精製した。この突然変異体については、インビトロで内因性経路を特異的に阻害する潜在的能力を、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を測定することにより試験したが、その結果は、内因性経路を阻害可能な物質の場合に予期されるように延長させた。対照的に、第VIIa因子/組織因子で始まる凝固の外因性経路の活性化の試験であるプロトロンビン時間(PT)は、本質的に影響されなかった。
【0023】
従って、本発明の別の実施態様は、修飾形態の哺乳類カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤であるSPINK−1、インフェスチン類似体又はそのフラグメント、又は好ましくはインフェスチン・ドメイン−4若しくはそのフラグメント及びその類似体の、薬剤としての使用、とりわけ血栓性疾患に対する薬剤を製造するための使用である。これらの適応症における作用様式は、延長されているaPTT(PTは本質的に影響されずに)によって測定することが出来るFXII/FXIIa活性の阻害である。このようにして、三次元的動脈又は静脈血栓の形成及び/又は安定化を予防する。それぞれの阻害剤は、この結果、三次元的動脈又は静脈血栓の形成及び/又は安定化の阻害に関する限り、内因性凝固経路、特にFXIIaの活性の阻害剤として機能する可能性がある。
【0024】
従って、本発明によれば、更に動脈の血栓形成に関連する状態又は疾患、即ち脳卒中又は心筋梗塞、補体の活性化、線維素溶解、炎症、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、がん(トルソー症候群)、関節炎、膵炎又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的キニン生成に関連する疾患を治療又は予防するための、ヒトにおける免疫原性の危険性の減少した物質が提供される。
【0025】
本発明の、他の特に好ましいタンパク質は、上述したように、ヒト膵臓プロテアーゼ阻害剤SPINK−1由来の突然変異体であり、この場合、このような突然変異体は、FXIIa活性を阻害する能力に関してインフェスチン−4タンパク質との相同性を増大させるように変化しているという特徴を有する。このような突然変異体は、活性化部分トロンボプラスチン時間をインビトロで延長させるという特徴を有する。
【0026】
インフェスチン−4、修飾哺乳類カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤及び延長した半減期を有する修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤
本発明の別の側面は、インフェスチン−4及び修飾した半減期を有するインフェスチン類似体又はそのフラグメントに基づく修飾哺乳類カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤である。本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は比較的小さなタンパク質なので、他の小さなタンパク質に関して報告されているように迅速な腎クリアランスが期待され得る(Werle M. and Bernkop-Schnurch A., 2006, ペプチド及びタンパク質薬剤の血漿半減期を改善する戦略(Strategies to improve plasma half-life time of
peptide and protein drugs), Amino Acids 30:351-367)。ポリペプチド系化合物の短い血漿半減を対処する1つの方法は、勿論、繰り返しそれを注射するか又は連続注入によるかである。好ましくは、そのポリペプチド自体の固有の血漿半減期を増大させることである。従って、本発明の別の側面は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を半減期延長タンパク質(HLEP)に融合させることである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書で用いる「半減期増強ポリペプチド(HLEP)(half-life enhanced polypeptide)」は、アルブミン、アルブミンファミリーのメンバー、免疫グロブリンGの定常領域及びそのフラグメント、並びに生理的条件下でアルブミン、アルブミンファミリーのメンバー及び免疫グロブリン定常領域の部分に結合能力を有するポリペプチドから選択される。
【0028】
半減期増強ポリペプチド(HELP)の具体的な例として、アルブミン及び免疫グロブリン、並びにそれらのフラグメント又は誘導体が発表されている。
【0029】
Balanceら(国際公開第01/79271号)には、多数の異なった治療ポリペプチドの融合ポリペプチドが記載されており、それらは、ヒト血清アルブミンと融合した場合、インビボで増大した機能的半減期及び延長した保存期間を有すると予測される。治療用タンパク質は、直接又はペプチド系のリンカーを介してアルブミン部分に融合することができ、C−及びN−末端での融合が公開されている。
【0030】
ヒト血清アルブミン(HSA)及びヒトアルブミン(HA)という用語は、本出願においては、互換性のある用語として用いられる。用語「アルブミン」と「血清アルブミン」はより範囲が広く、ヒト血清アルブミン(及びそのフラグメント及び変異体)並びに他の種からのアルブミン(及びそのフラグメント及び変異体)を包含する。
【0031】
本明細書で用いられる「アルブミン」は、アルブミンポリペプチド若しくはアミノ酸配列、又はアルブミンの1つ若しくはそれ以上の機能的活性(例えば、生物活性)を有するアルブミンのフラグメント若しくは変異体を集合的に称する。特に、「アルブミン」は、ヒトアルブミン又はそのフラグメント、特に本明細書で配列番号6に示したようなヒトアルブミンの成熟形態若しくは他の脊椎動物由来アルブミン又はそのフラグメント、これらの分子の類似体又は変異体若しくはそれらのフラグメントを称する。
【0032】
アルブミン融合タンパク質のアルブミン部分は、上記したHAの配列の全長を含んでよく、又は治療的な活性を安定化又は延長することのできる、1つ若しくはそれ以上のフラグメントを含んでもよい。このようなフラグメントは、10以上のアミノ酸長であるか、HA配列由来の約15、20、25、30、50かそれ以上の連続したアミノ酸を含むか、又はHAの特異ドメインの一部若しくは全てを含んでよい。
【0033】
本発明のアルブミン融合タンパク質のアルブミン部分は正常HAの変異体であってもよい。この融合タンパク質の治療ポリペプチド部分も、また、本明細書に記載されるように対応する治療用ポリペプチドの変異体であってもよい。用語「変異体」は、保存的か非保存的かを問わず、挿入、欠失及び置換を含み、この場合、そのような変更は、実質的に治療用ポリペプチドの治療活性を与える活性部位又は活性ドメインを変化させない。
【0034】
特に、本発明のアルブミン融合タンパク質は、ヒトアルブミン及びヒトアルブミンのフラグメントの天然に存在する多型変異体を含んでよい。このアルブミンは何れの脊椎動物、特に何れの哺乳動物、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジ又はブタから由来したものでもよい。非哺乳動物アルブミンとしてはニワトリ及びサケ由来のものが挙げられるが、それらに限定されない。アルブミンが連結したポリペプチドのアルブミン部分は、治療用ポリペプチド部分とは別の動物に由来するものでもよい。
【0035】
一般的に言えることは、アルブミンのフラグメント又は変異体は、少なくとも20、好ましくは少なくとも40、最も好ましくは70以上のアミノ酸長になる。アルブミンの変異体は、好ましくは、少なくともアルブミンの全ドメイン又は該ドメインのフラグメント、例えば、ドメイン1(配列番号6のアミノ酸1〜194)、2(配列番号6のアミノ酸195〜387)、3(配列番号6のアミノ酸388〜585)、1+2(配列番号6のアミノ酸1〜387)、2+3(配列番号6のアミノ酸195〜585)、又は1+3(配列番号6のアミノ酸1〜195+配列番号6のアミノ酸388〜585)から成るか、又は代わりにそれらを含むことができる。各ドメインは、それ自体、リジン106からグルタミン酸119、グルタミン酸292からバリン315及びグルタミン酸492からアラニン511の残基を含む、柔軟性のサブドメイン間リンカー領域を伴う、2つの相同的サブドメイン、即ち1〜105、120〜194、195〜291、316〜387、388〜491及び512〜585から出来ている。
【0036】
本発明のアルブミン融合タンパク質のアルブミン部分は、HAの少なくとも1つのサブドメイン若しくはドメイン、又はその保存的修飾を含んでよい。アルブミンに加えて、アルブミンファミリーの別のメンバーであるアルファフェトプロテインも、結合した治療用ポリペプチドの半減期をインビボで延長させることが特許請求されている(国際公開第2005/024044号)。タンパク質のアルブミンファミリーは、進化論的に血清輸送タンパク質に関連しており、アルブミン、アルファフェトプロテイン(AFP;Beattie & Dugaiczyk,1982, クローン化したcDNAの部分配列から演繹したヒトアルファフェトプロテインの構造と進化(Structure and evolution of human alpha-fetoprotein deduced from partial sequence of cloned cDNA), Gene 20:415-422)、アファミン(AFM;Lichenstein et al., 1994, アファミンはアルブミン、アルファフェトプロテイン及びビタミンD−結合タンパク質遺伝子ファミリーの新しいメンバーである(Afamine is a new member of the albumin, alpha-fetoprotein, and vitamin D-binding protein gene family), J. Biol. Chem. 269:18149-18154)及びビタミンD−結合タンパク質(DBP;Cooke & David, 1985, 血清ビタミンD−結合タンパク質はアルブミン及びアルファフェトプロテイン遺伝子ファミリーの第3のメンバーである(Serum vitamin D-binding protein is a third member of the albumin and alpha fetoprotein gene family), J. Clin. Invest. 76:2420-2424)から成る。それらの遺伝子は、ヒト、マウス及びラットにおける同じ染色体領域にマッピングされる、構造的及び機能的な類似性を有する多重遺伝子クラスターの典型である。アルブミンファミリーのメンバーの構造的な類似性は、それらのHLEPとしての利用可能性を示唆する。従って、本発明の別の目的は、この様なアルブミンファミリーのメンバー、そのフラグメント及び変異体のHLEPとしての使用である。用語「変異体」は、保存的か非保存的かを問わず、挿入、欠失及び置換を含み、この場合、そのような変更が実質的に治療用ポリペプチドの治療活性を与える活性部位又は活性ドメインを変化させない。
【0037】
アルブミンファミリーのメンバーは、全長のそれぞれのAFP、AFM及びDBPのタンパク質を含んでもよく、治療活性を安定化又は延長させることが可能な、それらの1つ又はそれ以上のフラグメントを含んでもよい。そのようなフラグメントは、10以上のアミノ酸長でもよく、それぞれのタンパク質の配列の約15、20、25、30、50かそれ以上の連続したアミノ酸を含んでもよく、又はそれぞれのタンパク質の特定のドメインの一部又は全部を含んでもよい。
【0038】
本発明のアルブミンファミリーメンバーの融合タンパク質は、天然に存在するAFP、AFM及びDBPの多型変異体を含んでもよい。これらのタンパク質は、何れの脊椎動物、特に何れの哺乳類、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジ又はブタ由来のものでもよい。非哺乳動物のアルブミンファミリーのメンバーは、ニワトリ及びサケ由来のものを含むが、これらに限定されない。
【0039】
IgG及び抗原結合ドメインを除いたIgGフラグメントも、また、HLEPとして利用することができる。治療用ポリペプチド部分は、好ましくは切断することさえ出来る抗体のヒンジ領域又はペプチド系のリンカーを介して、IgG又はIgGフラグメントに連結している。幾つかの特許及び特許出願には、治療用タンパク質のインビボの半減期を延長させるための、治療用タンパク質の免疫グロブリンの定常領域との融合を記載している。米国特許出願公開第2004/0087778号及び国際公開第2005/001025号には、Fcドメイン又は免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分と、ペプチドの半減期を延長させる生物活性を有するペプチドとの融合タンパク質であって、そうでないとインビボで速やかに分解される融合タンパク質が記載されている。Fc−IFN−β融合タンパク質は、強化された生物活性、延長された循環半減期、及びより大きい溶解性を達成したことが記載されている(国際公開第2006/000448号)。延長した血清半減期及び増大したインビボの効力を有するFc−EPOタンパク質(国際公開第2005/063808号)、並びにFcのG−CSFとの融合(国際公開第2003/076567号)、グルカゴン様ペプチド−1(国際公開第2005/000892号)、凝固因子(国際公開第2004/101740号)、及びインターロイキン−10(米国特許第6,403,077号)が開示されており、これらは全て半減期を延長する特性を有する。
【0040】
従って、本発明の別の実施態様は、そのような免疫グロブリン配列、好ましくはFcフラグメント及びその変異体のHLEPとしての使用である。インフェスチン−4類似のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤、及びSPINK−1突然変異体の様にFXIIaに対する増強した阻害特異性を有する修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は、HLEPとしてFcドメイン又は免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分と融合することが出来、そして大腸菌、酵母菌、昆虫、植物、又は脊椎動物の細胞又はトランスジェニック動物で発現させることが出来る。典型例として、SPINK−K2−Fc融合タンパク質を配列番号25に示す。
【0041】
本発明は、特に、インフェスチン−4の様なカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤及びSPINK−1突然変異体又はそのフラグメントや変異体の様な修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を、生成された融合タンパク質がHLEPと連結していない対応するカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤と比較して、延長されたインビボ半減期を有するように、HLEP又はそのフラグメント又は変異体のN−又はC−末端と連結することを含む融合タンパク質に関する。介入する(intervening)ペプチド系のリンカーを、治療用ポリペプチドとHLEPの間に導入してよい。HLEPが治療用ポリペプチドの特異的な活性を、例えば立体障害によって干渉する場合は、切断可能なリンカーを導入することが出来る。リンカー切断に好ましい酵素は、内因性凝固経路の凝固プロテアーゼ、即ちFXIIa、FXIa、FIXa、FVIIIa又はFXaであり、ここで、最も好ましい切断酵素はFXIIaである。
【0042】
カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤ファミリーは、多数のセリン・プロテアーゼ阻害剤ファミリーの1つである。異なった種からの多くのタンパク質が発表されている(Laskowski M and Kato I., 1980, タンパク質分解酵素のタンパク質阻害剤(Protein inhibitors of proteinases), Ann. Rev. Biochem. 49:593-626)。
【0043】
上記定義の中の「インフェスチン−4及び修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤」は、天然のアミノ酸配列又は配列番号2〜5若しくは21〜24を有するポリペプチドを含む。しかし、その定義は、また、僅かに修飾したアミノ酸配列、例えば末端アミノ酸の欠失又は付加を含む修飾したN−末端又はC−末端を有するポリペプチドを、これらのポリペプチドが実質的にそれぞれのカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の活性を保持する限り含む。上記定義の中の「カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤」は、また、個体によって異なって存在し、発生する天然の対立遺伝子の変異体も含む。上記定義の中の「カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤」は、更に、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の変異体を含む。このような変異体は、野生型の配列とは1つ又はそれ以上のアミノ酸残基が異なったものである。このような差異の例は 1つ又はそれ以上のアミノ酸残基(例えば、1〜10アミノ酸残基)によるN−及び/又はC−末端の切断、又はN−及び/又はC−末端での1つ又はそれ以上の余分なアミノ酸残基の付加、並びに保存的アミノ酸置換、即ち類似した特性を有するアミノ酸群、例えば(1)小さいアミノ酸、(2)酸性アミノ酸、(3)極性アミノ酸、(4)塩基性アミノ酸、(5)疎水性アミノ酸、(6)芳香族アミノ酸の範囲内で行われる置換を含んでもよい。そのような保存的置換の例を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明は、更に、本出願に記載されるように、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤をコードするポリヌクレオチドに関する。用語「ポリヌクレオチド」は、一般的に、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを意味するが、これらは未修飾のRNA若しくはDNA、又は修飾RNA若しくはDNAでもよい。このポリヌクレオチドは、単鎖又は二重鎖DNA、単鎖又は二重鎖RNAでもよい。本明細書の中で用いる、用語「ポリヌクレオチド」は、また、1つ又はそれ以上の修飾塩基及び/又はイノシンのような通常にはない塩基を含むDNA又はRNAも含む。様々な修飾が、当業者に知られている多くの有用な目的に資するDNA及びRNAでなされてよいことは、よく理解されるであろう。用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書の中で用いられるように、ポリヌクレオチドの、そのような化学的、酵素的、又は代謝的に修飾した形態、並びにウイルスや細胞(例えば単純な及び複雑な細胞を含む)に特徴的な、DNA及びRNAの化学的形態を包含する。
【0046】
当業者には当然のことながら、遺伝子コードの縮重のために、あるポリペプチドが、異なったポリヌクレオチドによってコード化され得る。これらの「変異体」は、本発明に包含される。
【0047】
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは単離されたポリヌクレオチドである。用語「単離された」ポリヌクレオチドは、例えば、これらに限定されないが、実質的に他の核酸配列、例えば他の染色体又は染色体外DNA及びRNAなどから遊離したポリヌクレオチドを意味する。単離されたポリヌクレオチドは、宿主細胞から精製されたものでもよい。単離されたポリヌクレオチドを得るのに、当業者に知られている従来の核酸精製法を使用することができる。この用語は、また、遺伝子組み換えポリヌクレオチド及び化学的に合成されたポリヌクレオチドも含む。
【0048】
本発明の更なる別の側面は、本発明に従うポリヌクレオチドを含むプラスミド又はベクターである。好ましくは、このプラスミド又はベクターは、発現ベクターである。格別の実施態様においては、このベクターはヒト遺伝子治療に用いる導入ベクターである。
【0049】
本発明の尚更なる別の側面は、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のプラスミド若しくはベクターを含む宿主細胞である。
【0050】
本発明の宿主細胞は、本発明の一部であるカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を産生する方法に使用することが出来る。この方法は:
−カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤が発現する条件下で本発明の宿主細胞を培養すること;及び
−場合により、その培養液からカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を回収すること;
を含む。
【0051】
提案ポリペプチドの発現
本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤及び修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は、細菌、酵母、植物、動物(昆虫を含む)又はヒト細胞株のような、原核又は真核の宿主細胞において、又はトランスジェニック動物において組み換え分子として産生することが出来る。場合により、ポリペプチドは宿主細胞から分泌させる。
【0052】
動物又はヒト細胞株における発現
好適な宿主細胞における高レベルでの遺伝子組み換えタンパク質の産生は、当業者に既知の方法に従って、上述の修飾cDNAを、種々の発現システムに増強することが出来る組み換え発現ベクター中の適した調節要素と共に効率的な転写ユニット内に組み立てることを必要とする。効率的な転写調節要素は、ウイルスの天然の宿主としての動物細胞を有するウイルスから又は動物細胞の染色体DNAから誘導することができる。好ましくは、シミアンウイルス40、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、若しくはラウス肉腫ウイルスの長端末反復から誘導されたプロモーター−エンハンサーの組み合わせ、又はベータアクチン若しくはGRP78のように動物細胞において強く構成的に転写された遺伝子を含むプロモーター−エンハンサーの組み合わせを用いることが出来る。cDNAから転写された安定した高レベルのmRNAを得るために、その転写ユニットは、3’−近位部に転写終結−ポリアデニル化配列をコード化するDNA領域を含む必要がある。好ましくは、この配列は、シミアンウイルス40の初期転写領域、ウサギベータグロビン遺伝子、又はヒト組織プラスミノーゲン活性化因子遺伝子由来のものである。
【0053】
次いで、cDNAは、治療用ポリペプチドの発現のための好適な宿主細胞内にトランスフェクションされる。使用できる細胞株の例は、サルCOS細胞、マウスL細胞、マウスC127細胞、ハムスターBHK−21細胞、ヒト胎児腎臓293細胞及びハムスターCHO細胞である。
【0054】
対応するcDNAをコード化する組み換え発現ベクターは、幾つかの異なった方法で導入することが出来る。例えば組み換え発現ベクターは、種々の動物ウイルスに基づくベクターから作出することが出来る。これらの例は、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、及び好ましくはウシ乳頭腫ウイルスに基づくベクターである。
【0055】
対応するDNAをコード化する転写ユニットも、組み換えDNAをそれらのゲノム内に組み込んでいる特定の細胞のクローンの単離を容易にするために、これらの細胞の中で優性選択マーカーとして機能することが出来る、別の組み換え遺伝子と共に動物細胞内に導入することが出来る。この種の優性選択マーカーの例は、ゲネチシン(G418)への耐性を与えるTn5アミノグリコシド・ホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンへの耐性を与えるハイグロマイシン・ホスホトランスフェラーゼ、及びピューロマイシンへの耐性を与えるピューロマイシン・アセチルトランスフェラーゼである。このような選択マーカーをコード化する組み換え発現ベクターは、所望のタンパク質のcDNAをコード化するものと同じベクター上に存在してもよいし、又は宿主細胞のゲノムに同時に導入され、組み込まれて、その結果、しばしば異なる転写ユニット間の物理的に緊密な連結をもたらす、別のベクター上にコード化されてもよい。
【0056】
所望のタンパク質のcDNAと一緒に使用することができる他のタイプの選択マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)をコード化する種々の転写ユニットに基づいている。このタイプの遺伝子を、内因性dhfr活性を欠く細胞、好ましくはCHO−細胞(DUKX−B11、DG−44)に導入した後、これらをヌクレオシド欠乏培地で生育させることが可能になる。このような培地の例は、ヒポキサンチン、チミジン及びグリシンを除いた、HamのF12培地である。これらのdhfr遺伝子は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤のcDNA転写ユニットと一緒に上述のタイプのCHO−細胞に、同一又は別のベクターに連結させて導入し、このようにして、組み換えタンパク質を産生するdhfr陽性の細胞株を作出することが出来る。
【0057】
上述の細胞株を細胞毒性のあるdhfr阻害剤であるメトトレキセートの存在下で生育させた場合、メトトレキセート耐性の新しい細胞株が発生することになる。これらの細胞株は、連結したdhfrと所望のタンパク質の転写ユニットの数の増幅によって、組み換えタンパク質を増大した比率で産生する可能性がある。これらの細胞株を高濃度のメトトレキセート(1−10000nM)中で増幅させた場合、所望のタンパク質を非常に高い比率で産生する新しい細胞株を得ることが出来る。
【0058】
所望のタンパク質を産生する上記細胞株は、懸濁培養又は種々の固形支持体上で大規模に増殖させることが出来る。これらの支持体の例は、デキストラン若しくはコラーゲンマトリックスに基づくマイクロキャリア、又は中空繊維若しくは種々のセラミック物質の形態の固体支持体である。細胞懸濁培養で又はマイクロキャリア上で増殖させる場合、上記細胞株の培養は、バッチ培養として、又は長期間にわたって調整済みの培地の連続生産を伴う潅流培養としてのいずれでも行なうことが出来る。従って、本発明によれば、上記細胞株は、所望の組み換えタンパク質を生産する工業プロセスの開発によく適している。
【0059】
上記タイプの分泌細胞を培地に蓄積する組み換えタンパク質は、細胞培養培地中の所望のタンパク質と他の物質の間の、サイズ、電荷、疎水性、溶解性、特異的親和性等における差を利用する方法を含んで、種々の生化学的及びクロマトグラフィー的方法によって濃縮し及び精製することが出来る。
【0060】
このような精製法の例は、固体の支持体上に固定化されたモノクローナル抗体又は結合タンパク質への、組み換えタンパク質の吸着である。脱着後、そのタンパク質を、上記の特性に基づく種々のクロマトグラフィー的技術によって更に精製することができる。
【0061】
酵母の発現システムにおける発現
本発明の実施において、宿主として有用であると見込まれている酵母の典型的な属は、ピチア(Pichia)(以前はハンセヌラとして分類されていた)、サッカロミセス(Saccharomyces)、クリベロミセス(Kluyveronyces)、アスペルギルス(Aspergillus)、カンジダ(Candida)、トルロプシス(Torulopsis)、トルラスポラ(Torulaspora)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、シテロミセス(Citeromyces)、パキソレン(Pachysolen)、ザイゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)、デバロミセス(Debaromyces)、トリコデルマ(Trichoderma)、セファロスポリウム(Cephalosporium)、フミコラ(Humicola)、ムコール(Mucor)、ニューロスポラ(Neurospora)、ヤロウィア(Yarrowia)、メチニコウィア(Metschunikowia)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、ロイコスポリジウム(Leucosporidium)、ボツリアスクス(Botryoascus)、スポリジオボルス(Sporidiobolus)、エンドマイコプシス(Endomycopsis)などである。属としては、サッカロミセス(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、クリベロミセス(Kluyveronyces)、ピチア(Pichia)、及びトルラスポラ(Torulaspora)から成る群から選択されたものが含まれる。サッカロミセス種(Saccharomyces spp)の例としては、S.セレビシエ(S. cerevisiae)、S.イタリクス(S. italicus)及びS.ルーキシイ(S. rouxii)がある。
【0062】
S.セレビシエ(S. cerevisiae)に好適なプロモーター遺伝子は、PGKI遺伝子、GAL1又はGAL10遺伝子、CYCI、PHO5、TRPI、ADHI、ADH2、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、グルコキナーゼ、アルファ−接合因子フェロモン、PRBI、GUT2、GPDIプロモーター、及び5’調節領域と他のプロモーターの5’調節領域との、又はその上流の活性化部位とのハイブリッドを含むハイブリッドプロモーターに関連するものを含む(例えば、欧州特許出願公開第258067−A号のプロモーター)。
【0063】
シゾサッカロミセス・ポンべ(Schizosaccharomyces pombe)に用いるのに便利な調節可能なプロモーターは、Maundrell(Maundrell K, 1990, 分裂酵母のnmt1。チアミンにより完全抑制される高度転写遺伝子(A highly transcribed gene completely repressed by thiamine), J. Biol. Chem. 265:10857-10864)によって記載されたnmt遺伝子由来のチアミン−抑制プロモーター、及び Hoffman及びWinston(Hoffman CS and Winston F.,
1990, シゾサッカロミセス ポンベのfbp1遺伝子の発現を構成する突然変異株の単離と特性解析(Isolation and characterization of mutants constitutive for expression of the fbp1 gene of Schizosaccharomyces pombe), Genetics 124:807-816)によって記載されたグルコース−抑制jbpl遺伝子プロモーターである。
【0064】
転写終了のシグナルは、適切な転写終了のシグナルとポリアデニル化を含む真核遺伝子の3’フランキング配列でよい。好適な3’フランキング配列は、例えば用いた発現制御配列に天然に連結した遺伝子のものであってよく、即ちプロモーターに対応してよい。あるいは、それらは異なっていてもよく、その場合は、場合により、S.セレビシエ(S. cerevisiae)ADHI遺伝子の終了シグナルが用いられる。
【0065】
細菌の発現システムにおける発現
細菌における本発明の修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の産生のための典型的な発現システムは、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、カウロバクター・クレセンツス(Caulobacter crescentus)、及び最も重要なものとして、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli )BL21、及びE.コリ(E. coli )K12、並びにそれらの派生菌を含む。便利なプロモーターとしては、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター、ラムダファージ、プロモーターPL、L−アラビノース誘導のaraBADプロモーター、L−ラムノース誘導のrhaPプロモーター、及び無水テトラサイクリン誘導のtetAプロモーター/オペレーターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0066】
1つの実施態様において、本発明のインフェスチン及び修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤をコード化するポリヌクレオチドを、本発明のタンパク質の原核細胞の特定のコンパートメントへの局在化を指令する、及び/又は原核細胞からの本発明のタンパク質の分泌を指令する、シグナル配列に融合することが出来る。例えば、E.コリ(E. coli)において、ぺリプラズム腔へのタンパク質の発現を指令することを望むことが出来る。細菌のぺリプラズム腔へのポリペプチドの発現を指令するために、本発明のタンパク質を融合することのできるシグナル配列又はタンパク質(又はそのフラグメント)の例としては、pelBシグナル配列、マルトース結合タンパク質シグナル配列、ompAシグナル配列、ペリプラズム性E.コリ(E. coli)の熱に不安定なエンテロトキシンB−サブユニット、及びアルカリ・ホスファターゼのシグナル配列が挙げられるが、それらに限定されない。いくつかのベクターは、pMALシリーズのベクター(New England Biolabs)のような、タンパク質の局在化を指令する融合タンパク質の構築用として、市販されている。
【0067】
植物細胞における発現
本発明の修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の発現の典型的な植物系には、タバコ、バレイショ、コメ、メイズ、ダイズ、アルファルファ、トマト、レタス及びマメ科植物が含まれる(MaJKC et al., 2003, 植物における遺伝子組み換え薬用タンパク質の生産(The production of recombinant pharmaceutical proteins in plants), Nat. Rev. Genet. 4:794-805に要約されている)。植物系における組み換えタンパク質の発現を、好適な調節因子によって、果実、種子、葉又は塊茎のような特定の器官又は組織に対して指令することができる。代わりに、タンパク質を根から分泌させることができる。細胞の中で、タンパク質を、特定のコンパートメント、例えば小胞体、タンパク粒、又は色素体などに標的化することができる。その場所で、生産物はより高いレベルに蓄積するか、又は特別な形態の翻訳後修飾を受けることができる。
【0068】
トランスジェニック発現
大規模なトランスジェニック発現システム(概説のためにはPollock DP., 1999, トランスジェニック抗体の産生の方法としてのトランスジェニックミルク(Transgenic milk as a method for the production of recombinant antibodies), J. Immunol Methods 231:147-157を参照)の典型的な例としては、ウサギ(Chrenek P et al., 2007, 数世代の遺伝子組み換えウサギのミルクにおける組み換えヒト第VIII因子の発現(Expression of recombinant humen factor VIII in milk of several generations of transgenic rabbits), Transgenic Res. 2007 Jan 31)、ヤギ(Lazaris A et al., 2006, ヤギにおける核移植を用いた遺伝子導入(Transgenesis using nuclear transfer in goats), Methods Mol Biol. 348:213-26.)、ブタ及びウシが挙げられる。
【0069】
精製及び治療用処方
本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は、好ましくは80%を越える純度、より好ましくは95%を越える純度、特に好ましくは薬学的純度の状態、即ち含有する高分子、特に他のタンパク質及び核酸に関して99.9%を越える純度であり、そして感染性及び発熱性物質が存在しない状態に精製される。好ましくは、単離された又は精製された本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は、他のポリペプチドを実質的に含まない。
【0070】
本発明は、本明細書に記載したそのような阻害剤の医学における使用;そしてまた、そのような阻害剤の薬剤の製造における使用を提供する。従って、本発明の別の側面に従えば、第XII因子の活性化又は第XIIaの活性を阻害するのに適した、且つ、三次元的な動脈又は静脈の血栓の形成及び/又は安定化を予防する、この阻害剤を含む薬剤が提供される。
【0071】
本発明で記載された治療用ポリペプチドは、治療に用いるための薬剤に製剤化することが出来る。精製されたタンパク質は、従来の生理的に適合性を有する緩衝水溶液に溶解することが出来、場合によりそれに薬学的添加剤を加えて薬剤を提供することが出来る。
【0072】
そのような薬剤担体及び添加剤並びに好適な薬剤は、当技術分野ではよく知られている(例えば、「ペプチドとタンパク質の医薬品製剤の開発(Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins)」, Frokjaer et al., Taylor & Francis(2000)又は「医薬品添加剤ハンドブック(Handbook of Pharmaceutical Excipients)」, 3rd edition, Kibbe et al., Pharmaceutical Press(2000)を参照)。特に本発明のポリペプチドを含む薬剤組成物は、凍結乾燥された又は安定した可溶形態に製剤化することが出来る。ポリペプチドは、当技術分野で既知の様々な手法で凍結乾燥することが出来る。凍結乾燥製剤は、使用前に、注射用滅菌水又は滅菌生理食塩水のような、1種又はそれ以上の薬学的に許容される希釈剤の添加によって再構成される。
【0073】
本組成物の製剤は、任意の薬学的に適した投与手段によって個体に送達される。種々の送達システムが知られており、任意の好都合な経路によって組成物を投与するために用いることが出来る。優先的には、本発明の組成物は全身投与される。全身的使用のためには、本発明の治療用タンパク質は、従来の方法に従って、非経口的(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、脳内、肺内、鼻腔内、又は経皮)又は腸管経由(例えば、経口、経膣又は直腸)の送達用に製剤化される。最も優先的な投与経路は静脈内投与である。本製剤は、注入により又はボーラス注入により連続的に投与することが出来る。幾つかの処方は、徐放システムを包含する。
【0074】
経口投与のための錠剤及びカプセル剤は、結合剤、賦形剤、滑沢剤及び湿潤剤などのような、従来の添加剤を含有することが出来る。経口液体製剤は、水性又は油性の懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤などの形態であってもよく、又は使用のために水又は他の適したビヒクルを用いて再構成するための乾燥製品として提供されてもよい。このような液体製剤は、懸濁化剤、乳化剤、非水性ビヒクル及び保存剤のような、従来の添加剤を含有することが出来る。
【0075】
局所塗布に好適な製剤は、水性又は油性の懸濁剤、液剤、乳剤、ゲル剤、又は好ましくは乳剤性軟膏の形態でよい。スプレー適用に有用な製剤は、スプレー可能な液剤又はドライパウダーの形態でよい。
【0076】
本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤ポリペプチドは、治療的に有効な用量で患者に投与される。ここで、治療的に有効な用量とは、治療的に有効な投与量、所望の効果、即ち治療中の状態や適応症の重症度又は拡散を、忍容出来ない有害副作用を起こす用量に到達することなく、予防又は軽減することをもたらすのに十分な用量を意味する。的確な投与量は多くの要因、例えば適応症、製剤、投与の様式に依存しており、それぞれの適応症ごとに前臨床及び臨床試験において決定されなければならない。
【0077】
本発明の薬剤組成物は、単独で又は他の治療薬と併用して投与してもよい。これらの薬剤は、同一の薬剤品の一部として組み込まれていてもよい。
【0078】
本発明の種々の生産物は、薬剤として有用である。従って、本発明は、本明細書に記載されるようなカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤ポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のプラスミド又はベクターを含む、薬剤組成物に関する。
【0079】
本発明の修飾DNAも、また、ヒトの遺伝子治療に使用するための導入ベクターに組み込むことができる。
【0080】
本発明の性質、利点、及び更なる特徴は、以下の行なった実験及びその結果の詳細な記載を、以下に説明する添付する図面と併せて考慮すると、明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】Coleman(Coleman RW., 2006, 止血と血栓は同じコインの両面か?(Are hemostasis and thrombosis two sides of the same coin ?), J. Exp. Med. 203:493-495)により論じられた病的血栓モデルの図である。
【図2】インフェスチン−4(I4)とSPINK−1(SP)の間のアミノ酸配列の類似性を示す図である、*:同一;|:類似アミノ酸
【図3】R.プロリクス(R. prolixus)阻害因子のトロンビンとの接触部位は#で、SPINK−1のキモトリプシンとの接触部位は+で示す。
【図4】インフェスチン−4、SPINK1及び3種のSPINK1突然変異体(K1〜K3)のアミノ酸配列を示す;インフェスチン−4の配列に関して、*は同一の;|は類似のアミノ酸であることを表す。配列I4の下線部分は、突然変異体K1を産出するためにSPINK−1の15のアミノ酸を置き換えるのに用いた。突然変異体K2及びK3は、K1配列での更なる点変異(下線付きアミノ酸)により産出された。
【図5】インビトロのrHA−インフェスチン−4のaPTTに関する効果及びマウス血漿におけるFXII活性を示す図である。
【図6】100及び200mg/kg(静脈注射)のrHA−インフェスチン−4をマウスに(投与前及び)投与後4.5時間までのpPTTの延長を示す図である。
【図7】100及び200mg/kg(静脈注射)のrHA−インフェスチン−4をマウスに(投与前及び)投与後4.5時間までのFXIIの阻害を示す図である。
【図8】100mg/kg静脈内注射後のマウス血漿中のrHA−インフェスチン−4の経時的変化(平均;n=1〜2/時点)を示す図である。
【図9】マウスにおける(His)6−インフェスチン及びrHA−インフェスチン−4の薬物動態比較を示す図である。
【図10】rHA−インフェスチン−4の止血までの時間に対する効果(n=10〜15/群、平均±標準偏差)を示す図である。
【図11】rHA−インフェスチン−4の総失血に対する効果(n=10〜15/群、平均±標準偏差)を示す図である。
【図12】rHA−インフェスチン−4の止血までの時間に対する効果(n=10〜15/群、個別データ)を示す図である。
【図13】rHA−インフェスチン−4の総失血に対する効果(n=10〜15/群、個別データ)を示す図である。
【0082】
〔実施例1〕
インフェスチン−4、SPINK−1及び修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤のクローニング
SPINK−1アミノ酸配列を、哺乳動物細胞発現に最適化し、好適な制限部位を含めて、cDNA配列に逆翻訳した。天然のSPINK−1シグナルペプチドを含んで、産生しようとするSPINK分子のヌクレオチド配列(図4を参照)を、3つのセグメントに分け、そのそれぞれをオーバーラップオリゴヌクレオチド(Medigenomix、Martinsried、Germany)によりカスタム合成した。セグメント2及び3の2つの変異体を産生させそれぞれ以下のように組み立てた。
【0083】
S1+S2wt+S3wtで、野生型SPINK−1を生じた;
S1+S2K1+S3wtで、野生型SPINK−K1を生じた;
S1+S2K1+S3K3で、野生型SPINK−K3を生じた。
これらのセグメントのヌクレオチド配列は、配列番号7〜11として示してある(S1:配列番号7;S2wt:配列番号8; S2K1:配列番号9;S3wt:配列番号10;S3K3:配列番号11)。
【0084】
セグメントの組み立ては、以下の様に行った。MedigenomixからクローニングベクターpCR2.1(Introgen)で入手したセグメントを、それぞれ制限エンドヌクレアーゼEcoRI/NarI(S1)、NarI/Kpnl(S2wt及びS2K1)及びKpnl/BarnH1(S3及びS3K3)で切断し、アガロースゲルから単離し、そして以下の組み合わせ:
【0085】
a)S1:EcoRI/NarI+S2wt:NarI/Kpnl+S3wt:Kpnl/BamH1;
b)S1:EcoRI/NarI+S2K1:NarI/Kpnl+S3wt:Kpnl/BamH1;
c)S1:EcoRI/NarI+S2K1:NarI/Kpnl+S3K3:Kpnl/BamH1;
において、EcoRI/BamH1消化発現ベクターpIRESpuro3(BD Bioscience)中にライゲート、それぞれプラスミドp1171(a)、p1172(b)及びp1174(c)を得た。
【0086】
SPINK−K2配列を生成させるために、プラスミドp1174を、市販の突然変異生成キット(QuickChange XL Site Directed Mutagenesis Kit, Stratagene)を用いた位置指定突然変異誘発反応に、製造業者のプロトコルに従って、オリゴヌクレオチドWe2450及びWe2451を用いて付した。得られたプラスミドをp1173と名付けた。
【0087】
インフェスチン−4配列を、p1174(SPINK−K3のN−末端)及びオーバーラップオリゴヌクレオチド(Medigenomix、Martinsried、Germany)によりカスタム合成したC−末端部分(フラグメント14C、配列番号14)のコード配列から組み立てた。先ず、SPINK−K3のN−末端のコード配列を含むEcoRI/BamH1フラグメントをp1174から単離し、EcoRI/BamH1で線状化したpIRESpuro3にクローニングした。引き続いて、得られたプラスミドをBamH1及びNotIで消化し、14Cフラグメント(Medigenomixから供給された)のコード配列を含むpCR2.1ベクターから単離したBgIII/NotIフラグメントを挿入した。得られたp1288と名付けたプラスミドは、今やインフェクチン−4のコード配列を含んだものである。
【0088】
精製の目的で、インフェスチン−4にヘキサヒスチジンタグを結合する発現ベクターを構築した。この目的のために、市販の突然変異誘発キット(QuickChange XL Site Directed Mutagenesis Kit、Stragene)を用い、キット製造業者によって記述された条件下で、p1288をテンプレートとし、オリゴヌクレオチドWe2973及びWe2974(配列番号26及び27)を変異プライマーとして用いて、挿入突然変異誘発を行った。得られたプラスミドをp1481と名付けた。これは、8アミノ酸グリシン/セリンのリンカーのC−末端延長及び6ヒスチジン残基の伸長を伴うインフェスチン−4配列をコードするものであった(配列番号28)。
【0089】
〔実施例2〕
アルブミン融合構築物のクローニング
先ず、pIRE−Spuro3(BD BioSciences)のEcoRI部位にクローニングしたヒトアルブミンcDNA配列を、オリゴヌクレオチドWe2467及びWe2468(配列番号15及び16)を用いて市販の突然変異誘発キット(QuickChange XL Site Directed Mutagenesis Kit、Stragene)を用いた位置指定突然変異誘発により突然変異誘発を行い、終止コドンを除き、SPINKとインフェスチン−4配列を挿入するためにグリシン/セリン・リンカーの最初の部分とBamH1制限部位を導入した。得られたプラスミドをp1192と名付けた。このSPINKコード配列(シグナルペプチド無し)をPCRにより、p1171、p1172、p1173、及びp1174をテンプレートとして用い、グリシン/セリン・リンカーの残りの部分及びBamH1部位を5’末端にNoTI部位を3’末端に導入したWe2470及びWe2473(配列番号17及び18)をプライマーに用いて増幅した。PCRフラグメントを、BamH1/Notlで消化し、精製し、そしてp1192に挿入し、そしてBamH1/Notlで切断した。得られたアルブミン融合プラスミドp1187は、アルブミンに融合した野生型SPINK−1を、p1188はアルブミンに融合したSPINK−K1を、p1189はアルブミンに融合したSPINK−K2を、そしてp1190はアルブミンに融合したSPINK−K3を含んでいた。同様に、インフェスチン−4アルブミン発現プラスミドも構築したが、p1288には、代わりにWe2473及びWe2623(配列番号18及び19)を用いた。得られた発現プラスミドをp1290と名付けた。コード化されたタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号20、21、22、23及び24に示す。
【0090】
〔実施例3〕
哺乳動物細胞培養におけるHisタグのついたインフェスチン−4及びインフェスチン−4とSPINKアルブミンの融合タンパク質のトランスフェクション及び発現
発現プラスミドをE.コリTOP10(Invitrogen)で増殖させ、標準プロトコル(Quiagen)を用いて精製した。HEK−293細胞にリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を用いてトランスフェクトし、無血清培地(Invitrogen 293 Express)中、4μg/mlのピューロマイシンの存在下で増殖させた。トランスフェクションした細胞集団を、T型フラスコを通してローラーボトル又は小規模の培養槽内に広げ、そこから培養上清を精製のために取得した。HEK−293細胞における発現収率は、アルブミン融合タンパク質について6〜15μg/mLであり、His−タグ付きインフェスチン−4について約0.5〜1μg/mLであった。
【0091】
〔実施例4〕
酵母におけるHisタグ付きのインフェスチン−4及びインフェスチン−4アルブミン融合タンパク質の発現
Hisタグ付きのインフェスチン−4及びインフェスチン−4アルブミン融合タンパク質のコード配列を、Introgen, MoBiTec又はNovozyme Biopharmaに記載されているようにして、S.セレビシエ(S. cerevisiae)の発現に適した発現ベクター中に移した。振とう培養フラスコ内で標準増殖培地を用いた発現の結果、発現収率は、クマジー染色後のSDS−PAGE分析から推定して、アルブミン融合タンパク質について、30〜50μg/mLの間であり、Hisタグ付きのインフェスチン−4について、約1〜5μg/mLであった。
【0092】
〔実施例5〕
カザール阻害剤−アルブミン融合タンパク質の精製
0.2μmの目でろ過した細胞培養上清(25L)を、限外ろ過(10kDaの除去サイズ)により1Lの容量に濃縮し、引き続いて40mMのTris/HCl、pH7.5緩衝液に対して透析ろ過を行い、再度0.2μmでろ過を行った。この粗製の濃縮液を、更にPOROS 50 PI(26×750)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーで精製した。カラムを、40mMのTris/HCl、pH7.5緩衝液で平衡化した。サンプルをローディングした後、15カラムボリューム(CV)の洗浄工程を行った。生産物を、35CVにわたって、40mMのTris/HCl、1200mMの塩化ナトリウム、pH7.5緩衝液までの線形グラジエントで溶離した。融合タンパク質含有画分をプールし、限外ろ過により濃縮した。生理食塩液に対する透析ろ過の結果、約15mg/mLの濃度を有する約90%の純度の生産物が得られた。
【0093】
Hisタグ付きのインフェスチン−4の精製と検出は、精製にNi−NTA樹脂を含み、そしてHisタグ付きタンパク質の検出にPentaHis抗体を含む、市販のキット(例えば、His-Tag Purification and Detection Kit; Qiagen, Hilden, Germany)を用いることによって達成することが出来る。
【0094】
〔実施例6〕
カザール阻害剤−アルブミン融合タンパク質の生化学的特性解析
同一性/純度の測定:
タンパク質の同一性/純度は、標準の手順(NOVEX)を用いるSDS−PAGE(8〜16%)により測定した。染色はクマジー青で行った。
【0095】
タンパク質濃度:
アルブミン融合タンパク質のタンパク質濃度は、アルブミンに特異的なELISAを用いて測定したが、この主要な性能は当業者には公知である。簡潔にいえば、緩衝液A(Sigma C-3041)で1:14000に希釈したウェル当たり120μLの捕捉抗体(ウサギ抗ヒトアルブミンIgG、DAKO A0001)を有するマイクロプレートを、周囲温度で一夜インキュベートした。プレートを緩衝液B(Sigma T-9039)で3回洗浄した後、各ウェルを緩衝液C(Sigma T-8793)(200μL)と室温で更に1時間インキュベートした。更なる緩衝液Bによる3回の洗浄工程の後、緩衝液Bでの試験サンプルの連続希釈液、並びに緩衝液BでのN Protein Standard SL(Dade Behring, 0.5〜100ng/mL)の連続希釈液(ウェル当たり容量:100μL)を、周囲温度で1時間インキュベートした。3回の緩衝液Bによる洗浄工程の後、検出抗体(ウサギ抗ヒトアルブミン、DAKO P0356、ぺルオキシダーゼ標識)の緩衝液Bでの1:12500希釈液(100μL)を各ウェルに加え、周囲温度で更に1時間インキュベートした。緩衝液Bによる3回の洗浄工程の後、基質溶液(TMB, Dade Behring, OUVF)(各ウェル当たり100μL)を加え、周囲温度で30分間遮光下でインキュベートした。停止液(Dade Behring, OSFA)(100μL)を添加して、サンプルを適したマイクロプレートリーダーで波長450nmで測定するために調製した。次いで、試験サンプルの濃度を、基準としてN Protein Standardの標準曲線を使用して算出した。
【0096】
活性化部分トロンボプラスチン時間の測定
活性化部分トロンボプラスチン時間を、標準ヒト血漿(SHP, Dade Behring)中で測定した。この場合、異なる量のそれぞれの阻害剤をイミダゾール緩衝液に加えて、全容量を200μLにした。この溶液(50μL)をPathromtin SL(Dade Behring)(50μL)に加え、37℃で120秒間インキュベートした。引き続いて、塩化カルシウム液(25mM、50μL)を加えて反応を開始した。
【0097】
手順は、製造業者に示唆された条件に従って、BCT(Behring Coagulation Timer)で行なった。
【0098】
プロトロンビン時間の測定
プロトロンビン時間を標準ヒト血漿(Dade Behring)で測定し、活性化試薬はThromborel S(Dade Behring)を用いた。15秒のインキュベーション時間の後に、Thromborel S(100μL)をサンプル(上記、50μL)に加えた。手順は、製造業者に示唆された条件に従って、BCT(Behring Coagulation Timer)で行なった。
【0099】
結果:
【表2】
【0100】
これらの実験により、カザールタイプ阻害剤は、殆ど一定のPT値によって表わされるように、外因性経路に殆ど影響を与えないで内因性経路を阻害出来ることが実証される。
【0101】
〔実施例7〕
インフェスチン−4アルブミン融合体は、マウスの動脈血栓症モデルにおいて血管閉塞を予防するのに高度に有効である
動脈血栓からマウスを強力に防護するために必要とされる用量を推定するために、予備的なインビトロでのスパイキング(spiking)実験を行なった。rHA−インフェスチン−4のマウスの血漿へのスパイキングは、FXII活性の低下及びaPTTの延長をもたらしたが、PTは実質的に無変化のままであった。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
マウス血漿中にインビトロでスパイキングした後、極めて著明なFXII阻害が認められたので、マウスにrHA−インフェスチン−4を静脈内投与し、aPTT及びFXII活性の経時変化を調べた(図6及び7)。更に、表5で特定した時点でのrHA−インフェスチン−4の血漿レベルを測定した。
【0105】
【表5】
【0106】
これらの実験は、400mgのrHA−インフェスチン−4を単回静脈内注射することにより、少なくとも1時間はpPTTが延長され、FXII活性が減少することを示した。従って、単回の注射は、マウスをFeCl3モデルの血栓症における血管の閉塞から防護できる筈である。それ故に、動物を400mgのrHA−インフェスチン−4の静脈内注射で処置して、血管の閉塞率並びに閉塞発現までの時間を測定した。
【0107】
動物に、t=0で最大400mg/kgの用量の単回静脈内注射で、rHA−インフェスチン−4を投与した。動脈血栓症の評価のために、腹部動脈を深麻酔下で露出させた。超音波血流プローブを血管の周囲に設置して、ベースライン血流を測定した。血栓症を起こさせるために、10%の塩化第二鉄溶液を飽和させた0.5mm2のろ紙片を腹部動脈の血流プローブの下流に設置した。3分の曝露時間後、ろ紙を除去し、そして血流を60分間モニターして血栓の発生を測定した。
【0108】
表6は、ビヒクルのみで処理した動物の82%が血栓症を示したことを示す。対照的に、rHAインフェスチン−4で処置した10匹のマウスのいずれも血栓症を起こさなかった。この効果は用量依存的であり、閉塞の頻度の減少とは逆に、閉塞の発現までの時間は増加した。
【0109】
【表6】
【0110】
FXIIノックアウト動物は同様に血栓症から防護されたものの、並行して止血欠損は認められなかったので、400mg/kgまでのインフェスチン−4で静脈内投与処理したマウスにおいて、同様の方法で止血を解析した。この目的のために、動物を、Narcorenにより約60mg/kgの単回静脈内注射により麻酔した。rHA−インフェスチン−4を、その動物に損傷操作を行う15分前に、即ち、抗血栓効果を評価する実験と同一の時点及び投与量で注射した。
【0111】
止血は、止血までの時間及び止血の発生までの失血を測定して定量化し、30分の観察期間の最後に検閲を行った。失血の全量は尾端を水に漬けるために用いた生理食塩水中に存在するHGBを測定して計算した。動物のHGBは、それに応じて、考慮に入れた。尾端の切断は、深麻酔下で、外科用メス型ナイフで行い、約3mmの尾端を切除した。損傷操作と同時に、尾端は、予め温めておいた生理食塩水に浸漬した。この生理食塩水は、また、観察期間中水浴を用いて、マウスの生理的体温に維持した。出血をモニターする観察時間は30分とした。全ての試験薬物は、観察時期(尾部切断)の開始15分前に投与した。
【0112】
観察時間内の、全ての重要な止血のパラメーター、即ち止血までの時間及び失血は、この2つの処置群とビヒクル対照群の間に、明らかな差を示さなかった(表7、8、図10〜13)。
【0113】
【表7】
【0114】
【表8】
【0115】
インフェスチン−4単体、即ちアルブミンと融合していないもの(例えば、実施例1、Hisタグ付きインフェスチン−4参照)の血栓症防護の潜在能力を試験した。400mg/kgのrHA−インフェスチン−4とほぼ等モルの用量を、マウスに静脈内注射で、血栓症誘発の15分前に1回投与した。血栓症の誘発及び評価は、rHA−インフェスチン−4で記載されたものと同一の方法で行った。急速な排泄を克服するために、インフェスチン−4を連続注入又は反復注射により適用したが、これは循環から急速にクリアランスされる、又は薬物動態学的な理由とは異なる作用機序による活性を失う化合物の高血漿中レベルを達成する、標準的な手順である。
【0116】
その結果は、rHA−インフェスチン−4で処置されたマウス群は、FXIIノックアウトマウス群の結果(他の場所で示した)に一致して、血栓症も出血の危険性も示さないことを示している。
【0117】
〔実施例8〕
ラットFeCl3動脈モデルの血栓症における、市販のFXII(a)阻害剤Berinert(登録商標)PのaPTT、PT及び血管閉塞に対する効果
市販のFXII(a)阻害剤Berinert(登録商標)P(C1エステラーゼ阻害剤)のFXII(a)に対する潜在阻害能力の適切性を評価するために、幾つかのインビトロ及びインビボ実験を行った。
【0118】
本実験の目的は、pPTT及びPT、並びにラット血漿中のFXII活性に対する効果を測定し、またラットFeCl3動脈血栓症モデルにおける抗血栓効果の潜在能力を評価することであった。
【0119】
ラットを麻酔し、血液サンプルを眼窩後で採取し、第XII因子の活性を測定するために、標準手順に従って血漿に処理した。この血漿サンプルにBerinert(登録商標)Pをスパイキングし、直接FXII活性を試験した。
【0120】
Berinert(登録商標)Pのスパイキングを、インビトロでのFXII活性に対する効果を試験するために行った。高濃度で、実質的なFXII阻害が認められた(表9)。
【0121】
【表9】
【0122】
FXIIの有意な阻害が達成されたので、インビボ実験を行った。血栓症の潜在予防能力を測定するために、ラットを1200U/kgの用量でBerinert(登録商標)Pを用いた静脈内注射で処置した。この用量は、血漿中濃度が10〜15U/mLになるように選ばれた。動脈血栓症の評価のために、頸動脈及び頸静脈を深麻酔下で露出した。薬物投与のために、頸静脈にカニューレを挿入した。血流をモニターするために、超音波流量プローブを頸動脈周囲に設置した。血栓症を開始させるために、35%の塩化第二鉄溶液を飽和させた2.5mm2のろ紙片を頸動脈の流量プローブの下流に設置した。3分間の曝露後ろ紙を除去し、血栓閉塞の発生を測定するために血流を60分間モニターした。aPTT、PT及びFXII活性を観察期間の最後に測定した。
【0123】
35%塩化第二鉄溶液での3分間の処理の結果、血栓閉塞は100%の比率で発生した(表10)。高用量のBerinert(登録商標)PでaPTTが増大及び中程度のFXII阻害がもたらされたが、閉塞率に対しては陽性効果が認められなかった。
【0124】
【表10】
【0125】
要約:
高濃度のBerinert(登録商標)Pは、著明なFXIIの阻害をインビトロでもたらした。しかし、FeCl3動脈血栓症モデルにおいては、高用量のBerinert(登録商標)Pでも効果がなかった。このBerinert(登録商標)Pの用量は、高用量の適用が高いタンパク質負荷と非生理的な注射容量になりかねないため、技術的な限界に近いものであった。
【0126】
〔実施例9〕
マウスにおける(His)6−インフェスチン及びrHA−インフェスチン−4の薬物動態の比較
Hisタグ付きインフェスチン−4((His)6−インフェスチン−4)又はインフェスチン−4アルブミン融合体(rHA−インフェスチン−4)製剤を、合計28匹のNMRIマウスに静脈内投与した。用量は、それぞれ(His)6−インフェスチン−4に関しては20mg/kg体重、rHA−インフェスチン−4に関しては200mg/kg体重であった。これらの投与量は、2つのタンパク質、即ちインフェスチン−4の活性成分と等量に対応している。
【0127】
血液サンプルを、試験物質の投与の5分後から適切な間隔で採取した。引き続いて、インフェスチン−4抗原の含量を、インフェスチン−4に特異的なELISAアッセイにより定量した。処置群の平均値を計算に用いた。各タンパク質の半減期は、排泄のベータ相の時点を用いて、式:t1/2=ln2/k(ここで、kは回帰直線の傾きである)を用いて計算した。結果を図9に示す(n=1〜4/時点;平均)
【0128】
rHA−インフェスチン−4について計算された消失半減期は3時間であったが、(His)6−インフェスチン−4に対して計算された消失半減期は0.3時間であった。従って、rHA−インフェスチン−4に対しては、(His)6−インフェスチン−4に比較して10倍の、消失半減期の明白な増大が示された。
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、最も一般的な側面において、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤であるインフェスチン若しくはそのドメインの、又はインフェスチン同族体に基づく修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の、治療への適用であって、これらは、三次元的な動脈又は静脈血栓の形成及び/又は安定化を、いわゆる内因性凝固系路の活性化に関与するタンパク質に干渉することにより予防する。特に、本発明は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤若しくはそのフラグメント又は修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の、動脈血栓形成に関連する状態又は疾患、即ち脳卒中又は心筋梗塞、炎症、補体の活性化、線維素溶解、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、関節炎、膵炎、又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的キニン生成に関連する疾患の治療又は予防における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管壁が傷害を受けるとそれが引き金となって、血小板の急速な粘着および凝集が起り、続いて血漿凝固系の活性化及びフィブリン含有血栓の形成が起り、これにより損傷部位が閉塞される。これらの事象は、外傷後の失血を制限するために重要なことであるが、損傷した血管を閉塞することで生命維持に重要な臓器の虚血及び梗塞を引き起こす可能性もある。このウォーターフォールモデルにおいて、血液凝固は、限定されたタンパク質分解による酵素前駆体の活性化を含み、ついにはトロンビンの生成となる一連の反応により進行し、トロンビンが血漿フィブリノゲンをフィブリンに変え、血小板を活性化させる。さらに、コラーゲン又はフィブリンに接着した血小板は、凝固プロテアーゼ複合体の構築と活性化を増幅するそれらの外表面上の凝固促進リン脂質(主にホスファチジルセリン)の曝露を介して、そして血小板受容体と凝固因子間の直接の相互作用により、トロンビン生成を数桁の大きさで促進する。
【0003】
凝固については2つの収束する経路が存在しており、それらは、血管系の外因性(血管壁)か内因性(血中)の成分のいずれかによって引き起こされる。「外因性」経路は、血漿第VII因子(FVII)と、血管内腔表面には存在しないが、血管の内皮下層で強く発現し、組織の損傷によって接近可能なまたは遊離される必須凝固補因子である、内在性膜タンパク質の組織因子(TF)との複合体により開始される。循環するマイクロパーティフル中で発現するTFは、活性化された血小板の表面上での持続的なトロンビン生成により、血栓増幅にも関与している可能性がある。
【0004】
「内因性」又は接触活性化経路は、第XII因子(FXII、ハーゲマン因子)が、高分子量キニノーゲンと血漿カリクレインを含む反応において負電荷を帯びた表面と接触する状態になる場合に始まる。FXIIはグリコサミノグリカン及びコラーゲンなどの内皮細胞下のマトリックスの高分子構成物、スルファチド、ヌクレオチドならびに他の可溶性のポリアニオン又はガラス及びポリマーなど非生理的物質で活性化され得る。最も強力な接触活性化剤の1つはカオリンであり、この反応は主要な血液凝固試験である活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)についての基本メカニズムとして用いられており、これは「内因的」経路を経る凝固能を測定するものである。血小板によって増幅された反応で、活性化されたFXIIは次いでFXIをFXIaに活性化し、引き続いてFXIaは第IX因子を活性化する。FVIIIa(FVIIIaは微量のFXa及び/又はトロンビンで予め活性化されている)及びFIXaの複合体(テナーゼ複合体)は、引き続いてFXを活性化する(図1、「左側」を参照)。インビトロにおける血液凝固誘導のその高い効力にも拘わらず、このFXIIを契機とする内因性凝固経路の(病理)生理的意義は、FXII、及び高分子のキニノーゲン及び血漿カリクレインの遺伝的欠損が出血性の合併症と関連していない事実から疑問視されている。TFやFVIIのような外因性経路の構成因子が欠損しているヒト及びマウスが、重度の出血に罹るという観察と共に、このことから、インビボでの出血を止めるためには、もっぱら外因性のカスケードが必要であるという最近の仮説が導かれている(非特許文献1)。
【0005】
病的な状況では、凝固カスケードは不適切に活性化される可能性があり、その結果止血血栓が血管の内側に形成される。それにより、血管は閉塞され、遠隔器官への血液の供給が制限され得る。この過程は血栓塞栓症として知られ、高い死亡率に繋がっている。更に、血液と接触する状態になる人工器官を用いることは、内因性の凝固カスケードを活性化させるので、厳しく制限されている。これらの人工器官表面を適切にコーティングすることにより、ある場合には上記の問題を回避することができるが、他の場合は、器官の機能に障害が生ずる可能性がある。そのような人工器官の例としては、血液透析器、心肺バイパス回路、心臓弁、血管ステント及び留置カテーテルである。このような人工器官を使用する場合、へパリンのような抗凝固剤を投与して、その表面にフィブリンが形成するのを予防する。しかし、ある患者はへパリンに対して忍容性がなく、へパリン起因性血小板減少症(HIT)の原因となり、その結果血小板の凝集、及び致死的な血栓症を起こす可能性がある。その上、臨床で使用されている全ての抗凝固剤について固有の問題点は、重篤な出血イベントの危険性の増大である。従って、これらの合併症と無関係で、これらの疾患の患者に使用することが出来る、又は出血の危険性を増大しないで血栓症を予防することができる優れた治療コンセプトとして、新しいタイプの抗凝固剤に対する強い必要性が存在する(非特許文献2)。
【0006】
国際公開第2006/066878号において、抗FXII/FXIIa抗体の使用又はFXII/FXIIa阻害剤の使用が提案されている。可能性のある阻害剤として、抗トロンビンIII(ATIII)、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、C1阻害剤、アプロチニン、アルファ−1・プロテアーゼ阻害剤、抗疼痛剤([(S)−1−カルボキシ−2−フェニルエチル]−カルバモイル−L−アルギニン−L−バリン−アルギナール)、Z−プロリン−プロリンアルデヒド−ジメチルアセテート、DX88(Dyax Inc.,300 Technology Square, Cambridge, MA 02139, USA; 非特許文献3で引用)、ロイペプチン、Fmoc−Ala−Pyr−CNのようなプロリル・オリゴペプチダーゼ阻害剤、トウモロコシトリプシン阻害剤、ウシ膵トリプシン阻害剤変異体、エコチン、コガネガレイ抗凝固タンパク質、セイヨウカボチャイソインヒビターを含むセイヨウカボチャトリプシン阻害剤V及びハマダリン(非特許文献4によって公開されている)などが提案されている。
【0007】
治療薬としての理想的なFXII/FXIIaの阻害剤は、−FXII/FXIIaに対して高い阻害効果を示す一方で−、出血の危険性を増大させないことであり、非免疫原性であること、そして可能な限り投与を少なくすべきで、理想的にはただ1回だけにすることである。Z−プロリン−プロリンアルデヒド−ジメチルアセテートのような低分子阻害剤は、極めて短い投与後半減期しか持たないので、反復注射を必要とするか、または経口的に利用できる徐放形態を開発し、その場合、たえず長期間にわたって与えなければならなくなる。C1阻害剤のようなヒト血漿タンパク質は、一見、比較的高いFXII/FXIIa阻害活性を有し、その一方出血の危険性を増大させず、ヒトタンパク質であるため免疫原性がなく、そしてまたかなり長い血漿半減期を有しており、全ての要求を満たしているようである。
【0008】
驚くべきことに、インビボモデルの血栓形成において、ヒトFXII/FXIIa阻害剤の第1候補としてのC1阻害剤が、塞栓形成の予防に有効に使用できないことが今回発見された。提案されていたもう1つのヒト血漿由来のFXII/FXIIa阻害剤、即ちATIII阻害剤は、FXII/FXIIa阻害剤として用いることにより出血の危険性が増大するので、少なくとも2番目の要求を満してないことになる(非特許文献5)。
【0009】
従って、今でもなお、血栓及び同様の疾患の治療及び/又は予防のための改良された薬物治療に対する必要性が存在していることは明らかである。従って、このような必要性を充足させることが、本発明の目的である。
【0010】
50年以上の間、凝固第XII因子の欠損は、増強した特発性の又は損傷に関連した出血の合併症に関連していないことが知られている(非特許文献6)。確かに、aPTT(内因性凝固経路に焦点を当てた臨床的凝固試験)で測定される病理的な値によって直ちに検出されるけれども、FXIIを欠損しているヒトは、大きな外科手術の間でさえ異常出血を起こすことはない(非特許文献7)。その反対に、FXII欠損は静脈の血栓症の危険性の増大に関連している(非特許文献8、非特許文献9)。この考えを支持する研究と症例報告は、FXII欠損症の発端症例である、肺塞栓症で死亡したジョン・ハーゲマン氏に言及する。FXII欠損症は血栓症の危険の増大と関連しているという仮説は、最近の幾つかの症例報告を再評価することにより、FXII欠損症を血栓症と関連付けている原報告に疑問を投げかけている(非特許文献10)。殆どの症例で、これらの著者は、第XII因子の欠損と共に先天的又は後天的な血栓形成促進性の危険因子を併発しているが、この危険因子は、FXIIとは独立に血栓性イベントに関与している可能性があることを認めた。特性が十分に解明された患者を用いた最大の疫学研究(非特許文献11)及びFXII欠損症家族の研究(非特許文献12)は、FXII欠損症と血栓形成促進又は抗血栓性の危険との相関がないことを示した。
【0011】
驚くべきことに、そして当業者に一般に信じられていたこととは逆に、第XII因子誘導の内因性凝固経路は、インビボでは動脈血栓形成に関与しているが、正常な組織特異的な止血に対しては必要とされないことが発見されている(非特許文献13;特許文献1)。意外なことに、これらの結果は、第XII因子を病的な血栓形成の過程の中心的な立場に置くことになる(図1)。従って、FXIIの活性化又はFXIIaの活性を干渉又は遮断することが出来る物質は、病的な動脈血栓形成とその臨床的結果を遮断するのに適している可能性がある。
【0012】
最近、新規なFXII/FXIIa阻害剤が昆虫から発見された:吸血性昆虫サシガメの中腸からのインフェスチン・ドメイン3〜4(インフェスチン3〜4)及びインフェスチン・ドメイン4(インフェスチン−4)(非特許文献14及び15)。これらのタンパク質は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の強力なFXIIa阻害剤であり、第III因子による活性化部分トロンボプラスチン時間を約3倍持続させるものとして知られている。
【0013】
これらの阻害剤は、病原的な血栓形成を遮断するための治療適用に関してまだ評価されていない。更に、これらの異種の阻害剤の、ヒトにおける免疫原性を減少させる試みも、そしてそれらのインビボでの半減期を延長させる試みもなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO2006/066878
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Mackman, N, 2004, Role of tissure factor in hemostasis, thrombnosis, and vascular development, Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 24, 1015-1022。
【非特許文献2】Renne T, et al., 2005, Defective thrombus formation in mice lacking factor XII. J. Exp. Med. 202: 271-281。
【非特許文献3】Williams A and Baird LG., 2003. DX-88 and HAE: a developmental perspective, Transfus Apheresis Sci. 29:255-258。
【非特許文献4】Isawa H, et al., 2002, A mosquito salivary protein inhibits activation of the plasma contact system by binding to factor XII and high molecular weight kininogen, J. Biol. Chem. 277:27651-27658。
【非特許文献5】Warren BL et al., 2001, Caring for the critically ill patient. High-dose antithrombin III in severe sepsis: a randomized controlled trial, JAMA 286:1869-1878。
【非特許文献6】Ratnoff OD & Colopy JE, 1955, A familial hemorrhagic trait associated with a deficiency of a clot-promoting fraction of plasma, J. Clin. Invest. 34: 602-613。
【非特許文献7】Colman RW, Hemostasis and Thrombosis. Basic principles & clinical practice(eds. Colman RW, Hirsch J, Mader VJ, Clowes AW, & George J),103-122 (Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2001。
【非特許文献8】Kuhli C et al., 2004, Factor XII deficiency: a thrombophilic risk factor for retinal vein occlusion, Am. J. Ophthalmol. 137: 459-464。
【非特許文献9】Halbmayer WM et al., 1993, Factor XII (Hageman factor) deficiency:a risk factor for development of thromboembolism. Incidence of FXII deficiency in patients after recurrent venous or arterial thromboembolism and myocardial infarction, Wien. Med. Wochenschr. 143:43-50。
【非特許文献10】Girolami A et al., 2004, The occasional venous thromboses seen in patients with severe (homozygous) FXII deficiency are probably due to associated risk factors: A study of prevalence in 21 patients and review of the literature, J. Thromb. Thrombolysis 17:139-143。
【非特許文献11】Koster T et al., 1994, John Hageman's factor and deep-vein thrombosis: Leiden thrombophilia Study, Br. J. Haematol. 87:422-424。
【非特許文献12】Zeerleder S et al., 1999, Reevaluation of the incidence of thromboembolic complications in congenital factor XII deficiency - a study on 73 subjects from 14 Swiss families, Thromb. Haemost. 82:1240-1246。
【非特許文献13】Kleinshcnitz C et al., 2006, Targeting coagulation factor XII provides protection from pathological thrombosis in cerebral ischemia without interfering with hemostasis, J. Exp. Med. 203:513-518。
【非特許文献14】Canpos ITN et al., 2002, Infestin, a thrombin inhibitior present in Triatoma infestans nidgut, a Chagas' disease vector: gene cloning, expression and characterization of the inhibitor. Insect Biochem. Mol. Biol. 32:991-997。
【非特許文献15】Campos ITN et al., 2004, Identification and characterization of a novel factor XIIa inhibitor in the hematophagous insect, Triatoma infestans (Hemiptera: Reduviidae). FEBS Lett. 577:512-516。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
驚くべきことに、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤のドメイン、インフェスチン−4は、マウスを病原的血栓形成から防護することと、一方、これらの動物で出血の危険の増大が観察されないことが発見された。血漿中の半減期を延長させるために、インフェスチン−4を哺乳動物の細胞内でヒトアルブミンとの融合体として発現させ、その培養細胞の上清から精製した。その精製阻害因子をマウスに注射し、FeCl3を用いて血栓形成の誘発を行った。rHA−インフェスチン−4で処置をしたマウスの100%が防護されたが、一方、大多数の未処置対照マウスでは血管の閉塞が発生した。これに関連する出血の危険性がないことは、テイルクリップ試験で実証した。インフェスチン−4処置マウス並びに未処置対照マウスとも、止血までの時間及び失血は同程度であることを示した。従って、無視出来る程度の出血の危険しか伴わないインビボでの血栓症に対する防護は、マウスにおいて遺伝子組み換えインフェスチン−4で実証された。この側面におけるインフェスチン3〜4は、インフェスチン−4の条件の下に含まれるが、好ましい化合物は、インフェスチン−4又はインフェスチン−4が多く含まれるインフェスチン3〜4の混合物である。
【0017】
rHA−インフェスチン−4は、また、その内因性の経路を特異的に阻害する潜在能力を、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を測定することによってインビトロで試験したが、aPTTは内因性経路を有効に阻害する物質を入れたことに一致して、確かに延長された。対照的に、因子VIIa/組織因子で始まる凝固の外因性経路の活性化の試験であるプロトロンビン時間(PT)は、殆ど影響されなかった。FXII活性の減少も、FXII欠損のヒトの血漿に基づいて直接証明された。従って、本発明の主題は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤であるインフェスチン又はそのフラグメント、好ましくはドメイン3〜4、最も好ましくはドメイン4、又はそれらのフラグメントを薬剤としての使用であり、とりわけ、aPTTを延長させ(PTは本質的に影響されずに)、それによって三次元的な動脈又は静脈の血栓の形成及び/又は安定化を出血の危険性を伴わずに予防する、血栓疾患に対する薬剤を製造するための使用である。個々の阻害剤は、これにより、内因性凝固経路、特にFXIIaの活性を阻害し、動脈及び静脈血栓の三次元的な形成及び/又は安定化を阻害する機能を有し得る。
【0018】
従って、本発明によれば、更に、動脈の血栓形成に関連する状態又は疾患、即ち脳卒中又は心筋梗塞を治療又は予防するための、物質それぞれの薬剤が提供される。FXIIaの多様なエフェクター機能のために、この物質それぞれの薬剤は、補体の活性化、線維素溶解、炎症、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、関節炎、膵炎又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的キニン生成に関連する疾患に更なる治療効果を有する。
【0019】
修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤
インフェスチン−4の様な異種の阻害剤をヒトに治療的投与すると、免疫応答を起こす可能性がある。従って、本発明の別の目的は、免疫原性がより少ないが、なお強力なカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を同定することである。驚くべきことに、1つの関連するヒトカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤(セリン・プロテアーゼ阻害剤カザールタイプ1、SPINK−1)を、推定される酵素接触部位をインフェスチン−4の対応する領域で置換する方法で修飾することにより、高度に活性なFXIIa阻害剤が生成され、この阻害剤が、特に血栓性の事象を治療又は予防する物質を製造するために用いることが出来ることが発見された。これらの結果に基づいて、任意の天然のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を、FXIIa特異的になる方法で修飾することが可能である。その実施例を以下の章に記載する。
【0020】
ヒトでの治療に使用するための強力なFXIIa阻害剤を産生する目的で、本発明者らは、昆虫由来のタンパク質よりヒト患者において免疫原性が小さい筈の、インフェスチン−4に相同性の高いヒトタンパク質を探索した。インフェスチン−4と最も類似性の高いタンパク質は、膵臓に発現するカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤(膵分泌トリプシン阻害剤PSTIとしても知られている)であるSPINK−1であることが発見された。インフェスチン−4とSPINK−1の類似性は図2に概説してある。
【0021】
野生型SPINK−1の配列に基いて、インフェスチン−4に対する相同性が更に高いSPINK−1配列を有する、種々の突然変異体を産生させている。インフェスチンの構造データが入手できなかったので、トロンビンとの複合体になっているベネズエラサシガメ(Rhodnius prolixus)由来の関連阻害剤(PDB:1TBQ)を分析した。ベネズエラサシガメ阻害剤は2つのカザール・ドメインを有し、そのN末端はトロンビンの触媒能残基と相互作用する。従って、そのN末端のドメインをインフェスチン−4との比較の基準として用いた。図3はベネズエラサシガメ阻害剤のトロンビンとの接触部位及びSPINK−1のキモトリプシンとの接触部位を示す。両タイプのカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の共通特性は、N末端領域における接触部位の蓄積である。この領域がその阻害の特異性を伝達するものと仮定して、数種のSPINK−1の突然変異体を産生した。K−1と命名した第1の突然変異体については、SPINK−1のアミノ末端部分の推定プロテアーゼ接触部位を、インフェスチン−4のそれで置換した。更なる突然変異体K2及びK3でのアミノ酸の交換は、SPINK−1を変えてインフェスチン−4配列により近付けた。図4は、これらの突然変異体のアミノ酸配列と、SPINK−1の野生型配列への変化の程度を示す。成熟したSPINK−1の野生型タンパク質、3種の突然変異体及びインフェスチン−4のアミノ酸配列は、配列番号1〜5に提示してある。用語「増加したそれぞれの増加相同性を有するSPINK−1突然変異体」は、インフェスチン−4と同一の20を超えるアミノ酸、又は同一アミノ酸の代わりの保存的置換を意味する同一の代わりの保存的置換を有していることを意味する。これらの突然変異体は、欧州特許第0352089−A2号、国際公開第88/03171A号及び欧州特許第0278112−A2号に記載されている、ヒト膵臓分泌のトリプシン阻害剤とは異なる突然変異体である。
【0022】
SPINK−1突然変異体を発現させ、精製した。この突然変異体については、インビトロで内因性経路を特異的に阻害する潜在的能力を、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を測定することにより試験したが、その結果は、内因性経路を阻害可能な物質の場合に予期されるように延長させた。対照的に、第VIIa因子/組織因子で始まる凝固の外因性経路の活性化の試験であるプロトロンビン時間(PT)は、本質的に影響されなかった。
【0023】
従って、本発明の別の実施態様は、修飾形態の哺乳類カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤であるSPINK−1、インフェスチン類似体又はそのフラグメント、又は好ましくはインフェスチン・ドメイン−4若しくはそのフラグメント及びその類似体の、薬剤としての使用、とりわけ血栓性疾患に対する薬剤を製造するための使用である。これらの適応症における作用様式は、延長されているaPTT(PTは本質的に影響されずに)によって測定することが出来るFXII/FXIIa活性の阻害である。このようにして、三次元的動脈又は静脈血栓の形成及び/又は安定化を予防する。それぞれの阻害剤は、この結果、三次元的動脈又は静脈血栓の形成及び/又は安定化の阻害に関する限り、内因性凝固経路、特にFXIIaの活性の阻害剤として機能する可能性がある。
【0024】
従って、本発明によれば、更に動脈の血栓形成に関連する状態又は疾患、即ち脳卒中又は心筋梗塞、補体の活性化、線維素溶解、炎症、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、がん(トルソー症候群)、関節炎、膵炎又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的キニン生成に関連する疾患を治療又は予防するための、ヒトにおける免疫原性の危険性の減少した物質が提供される。
【0025】
本発明の、他の特に好ましいタンパク質は、上述したように、ヒト膵臓プロテアーゼ阻害剤SPINK−1由来の突然変異体であり、この場合、このような突然変異体は、FXIIa活性を阻害する能力に関してインフェスチン−4タンパク質との相同性を増大させるように変化しているという特徴を有する。このような突然変異体は、活性化部分トロンボプラスチン時間をインビトロで延長させるという特徴を有する。
【0026】
インフェスチン−4、修飾哺乳類カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤及び延長した半減期を有する修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤
本発明の別の側面は、インフェスチン−4及び修飾した半減期を有するインフェスチン類似体又はそのフラグメントに基づく修飾哺乳類カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤である。本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は比較的小さなタンパク質なので、他の小さなタンパク質に関して報告されているように迅速な腎クリアランスが期待され得る(Werle M. and Bernkop-Schnurch A., 2006, ペプチド及びタンパク質薬剤の血漿半減期を改善する戦略(Strategies to improve plasma half-life time of
peptide and protein drugs), Amino Acids 30:351-367)。ポリペプチド系化合物の短い血漿半減を対処する1つの方法は、勿論、繰り返しそれを注射するか又は連続注入によるかである。好ましくは、そのポリペプチド自体の固有の血漿半減期を増大させることである。従って、本発明の別の側面は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を半減期延長タンパク質(HLEP)に融合させることである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書で用いる「半減期増強ポリペプチド(HLEP)(half-life enhanced polypeptide)」は、アルブミン、アルブミンファミリーのメンバー、免疫グロブリンGの定常領域及びそのフラグメント、並びに生理的条件下でアルブミン、アルブミンファミリーのメンバー及び免疫グロブリン定常領域の部分に結合能力を有するポリペプチドから選択される。
【0028】
半減期増強ポリペプチド(HELP)の具体的な例として、アルブミン及び免疫グロブリン、並びにそれらのフラグメント又は誘導体が発表されている。
【0029】
Balanceら(国際公開第01/79271号)には、多数の異なった治療ポリペプチドの融合ポリペプチドが記載されており、それらは、ヒト血清アルブミンと融合した場合、インビボで増大した機能的半減期及び延長した保存期間を有すると予測される。治療用タンパク質は、直接又はペプチド系のリンカーを介してアルブミン部分に融合することができ、C−及びN−末端での融合が公開されている。
【0030】
ヒト血清アルブミン(HSA)及びヒトアルブミン(HA)という用語は、本出願においては、互換性のある用語として用いられる。用語「アルブミン」と「血清アルブミン」はより範囲が広く、ヒト血清アルブミン(及びそのフラグメント及び変異体)並びに他の種からのアルブミン(及びそのフラグメント及び変異体)を包含する。
【0031】
本明細書で用いられる「アルブミン」は、アルブミンポリペプチド若しくはアミノ酸配列、又はアルブミンの1つ若しくはそれ以上の機能的活性(例えば、生物活性)を有するアルブミンのフラグメント若しくは変異体を集合的に称する。特に、「アルブミン」は、ヒトアルブミン又はそのフラグメント、特に本明細書で配列番号6に示したようなヒトアルブミンの成熟形態若しくは他の脊椎動物由来アルブミン又はそのフラグメント、これらの分子の類似体又は変異体若しくはそれらのフラグメントを称する。
【0032】
アルブミン融合タンパク質のアルブミン部分は、上記したHAの配列の全長を含んでよく、又は治療的な活性を安定化又は延長することのできる、1つ若しくはそれ以上のフラグメントを含んでもよい。このようなフラグメントは、10以上のアミノ酸長であるか、HA配列由来の約15、20、25、30、50かそれ以上の連続したアミノ酸を含むか、又はHAの特異ドメインの一部若しくは全てを含んでよい。
【0033】
本発明のアルブミン融合タンパク質のアルブミン部分は正常HAの変異体であってもよい。この融合タンパク質の治療ポリペプチド部分も、また、本明細書に記載されるように対応する治療用ポリペプチドの変異体であってもよい。用語「変異体」は、保存的か非保存的かを問わず、挿入、欠失及び置換を含み、この場合、そのような変更は、実質的に治療用ポリペプチドの治療活性を与える活性部位又は活性ドメインを変化させない。
【0034】
特に、本発明のアルブミン融合タンパク質は、ヒトアルブミン及びヒトアルブミンのフラグメントの天然に存在する多型変異体を含んでよい。このアルブミンは何れの脊椎動物、特に何れの哺乳動物、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジ又はブタから由来したものでもよい。非哺乳動物アルブミンとしてはニワトリ及びサケ由来のものが挙げられるが、それらに限定されない。アルブミンが連結したポリペプチドのアルブミン部分は、治療用ポリペプチド部分とは別の動物に由来するものでもよい。
【0035】
一般的に言えることは、アルブミンのフラグメント又は変異体は、少なくとも20、好ましくは少なくとも40、最も好ましくは70以上のアミノ酸長になる。アルブミンの変異体は、好ましくは、少なくともアルブミンの全ドメイン又は該ドメインのフラグメント、例えば、ドメイン1(配列番号6のアミノ酸1〜194)、2(配列番号6のアミノ酸195〜387)、3(配列番号6のアミノ酸388〜585)、1+2(配列番号6のアミノ酸1〜387)、2+3(配列番号6のアミノ酸195〜585)、又は1+3(配列番号6のアミノ酸1〜195+配列番号6のアミノ酸388〜585)から成るか、又は代わりにそれらを含むことができる。各ドメインは、それ自体、リジン106からグルタミン酸119、グルタミン酸292からバリン315及びグルタミン酸492からアラニン511の残基を含む、柔軟性のサブドメイン間リンカー領域を伴う、2つの相同的サブドメイン、即ち1〜105、120〜194、195〜291、316〜387、388〜491及び512〜585から出来ている。
【0036】
本発明のアルブミン融合タンパク質のアルブミン部分は、HAの少なくとも1つのサブドメイン若しくはドメイン、又はその保存的修飾を含んでよい。アルブミンに加えて、アルブミンファミリーの別のメンバーであるアルファフェトプロテインも、結合した治療用ポリペプチドの半減期をインビボで延長させることが特許請求されている(国際公開第2005/024044号)。タンパク質のアルブミンファミリーは、進化論的に血清輸送タンパク質に関連しており、アルブミン、アルファフェトプロテイン(AFP;Beattie & Dugaiczyk,1982, クローン化したcDNAの部分配列から演繹したヒトアルファフェトプロテインの構造と進化(Structure and evolution of human alpha-fetoprotein deduced from partial sequence of cloned cDNA), Gene 20:415-422)、アファミン(AFM;Lichenstein et al., 1994, アファミンはアルブミン、アルファフェトプロテイン及びビタミンD−結合タンパク質遺伝子ファミリーの新しいメンバーである(Afamine is a new member of the albumin, alpha-fetoprotein, and vitamin D-binding protein gene family), J. Biol. Chem. 269:18149-18154)及びビタミンD−結合タンパク質(DBP;Cooke & David, 1985, 血清ビタミンD−結合タンパク質はアルブミン及びアルファフェトプロテイン遺伝子ファミリーの第3のメンバーである(Serum vitamin D-binding protein is a third member of the albumin and alpha fetoprotein gene family), J. Clin. Invest. 76:2420-2424)から成る。それらの遺伝子は、ヒト、マウス及びラットにおける同じ染色体領域にマッピングされる、構造的及び機能的な類似性を有する多重遺伝子クラスターの典型である。アルブミンファミリーのメンバーの構造的な類似性は、それらのHLEPとしての利用可能性を示唆する。従って、本発明の別の目的は、この様なアルブミンファミリーのメンバー、そのフラグメント及び変異体のHLEPとしての使用である。用語「変異体」は、保存的か非保存的かを問わず、挿入、欠失及び置換を含み、この場合、そのような変更が実質的に治療用ポリペプチドの治療活性を与える活性部位又は活性ドメインを変化させない。
【0037】
アルブミンファミリーのメンバーは、全長のそれぞれのAFP、AFM及びDBPのタンパク質を含んでもよく、治療活性を安定化又は延長させることが可能な、それらの1つ又はそれ以上のフラグメントを含んでもよい。そのようなフラグメントは、10以上のアミノ酸長でもよく、それぞれのタンパク質の配列の約15、20、25、30、50かそれ以上の連続したアミノ酸を含んでもよく、又はそれぞれのタンパク質の特定のドメインの一部又は全部を含んでもよい。
【0038】
本発明のアルブミンファミリーメンバーの融合タンパク質は、天然に存在するAFP、AFM及びDBPの多型変異体を含んでもよい。これらのタンパク質は、何れの脊椎動物、特に何れの哺乳類、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジ又はブタ由来のものでもよい。非哺乳動物のアルブミンファミリーのメンバーは、ニワトリ及びサケ由来のものを含むが、これらに限定されない。
【0039】
IgG及び抗原結合ドメインを除いたIgGフラグメントも、また、HLEPとして利用することができる。治療用ポリペプチド部分は、好ましくは切断することさえ出来る抗体のヒンジ領域又はペプチド系のリンカーを介して、IgG又はIgGフラグメントに連結している。幾つかの特許及び特許出願には、治療用タンパク質のインビボの半減期を延長させるための、治療用タンパク質の免疫グロブリンの定常領域との融合を記載している。米国特許出願公開第2004/0087778号及び国際公開第2005/001025号には、Fcドメイン又は免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分と、ペプチドの半減期を延長させる生物活性を有するペプチドとの融合タンパク質であって、そうでないとインビボで速やかに分解される融合タンパク質が記載されている。Fc−IFN−β融合タンパク質は、強化された生物活性、延長された循環半減期、及びより大きい溶解性を達成したことが記載されている(国際公開第2006/000448号)。延長した血清半減期及び増大したインビボの効力を有するFc−EPOタンパク質(国際公開第2005/063808号)、並びにFcのG−CSFとの融合(国際公開第2003/076567号)、グルカゴン様ペプチド−1(国際公開第2005/000892号)、凝固因子(国際公開第2004/101740号)、及びインターロイキン−10(米国特許第6,403,077号)が開示されており、これらは全て半減期を延長する特性を有する。
【0040】
従って、本発明の別の実施態様は、そのような免疫グロブリン配列、好ましくはFcフラグメント及びその変異体のHLEPとしての使用である。インフェスチン−4類似のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤、及びSPINK−1突然変異体の様にFXIIaに対する増強した阻害特異性を有する修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は、HLEPとしてFcドメイン又は免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部分と融合することが出来、そして大腸菌、酵母菌、昆虫、植物、又は脊椎動物の細胞又はトランスジェニック動物で発現させることが出来る。典型例として、SPINK−K2−Fc融合タンパク質を配列番号25に示す。
【0041】
本発明は、特に、インフェスチン−4の様なカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤及びSPINK−1突然変異体又はそのフラグメントや変異体の様な修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を、生成された融合タンパク質がHLEPと連結していない対応するカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤と比較して、延長されたインビボ半減期を有するように、HLEP又はそのフラグメント又は変異体のN−又はC−末端と連結することを含む融合タンパク質に関する。介入する(intervening)ペプチド系のリンカーを、治療用ポリペプチドとHLEPの間に導入してよい。HLEPが治療用ポリペプチドの特異的な活性を、例えば立体障害によって干渉する場合は、切断可能なリンカーを導入することが出来る。リンカー切断に好ましい酵素は、内因性凝固経路の凝固プロテアーゼ、即ちFXIIa、FXIa、FIXa、FVIIIa又はFXaであり、ここで、最も好ましい切断酵素はFXIIaである。
【0042】
カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤ファミリーは、多数のセリン・プロテアーゼ阻害剤ファミリーの1つである。異なった種からの多くのタンパク質が発表されている(Laskowski M and Kato I., 1980, タンパク質分解酵素のタンパク質阻害剤(Protein inhibitors of proteinases), Ann. Rev. Biochem. 49:593-626)。
【0043】
上記定義の中の「インフェスチン−4及び修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤」は、天然のアミノ酸配列又は配列番号2〜5若しくは21〜24を有するポリペプチドを含む。しかし、その定義は、また、僅かに修飾したアミノ酸配列、例えば末端アミノ酸の欠失又は付加を含む修飾したN−末端又はC−末端を有するポリペプチドを、これらのポリペプチドが実質的にそれぞれのカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の活性を保持する限り含む。上記定義の中の「カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤」は、また、個体によって異なって存在し、発生する天然の対立遺伝子の変異体も含む。上記定義の中の「カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤」は、更に、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の変異体を含む。このような変異体は、野生型の配列とは1つ又はそれ以上のアミノ酸残基が異なったものである。このような差異の例は 1つ又はそれ以上のアミノ酸残基(例えば、1〜10アミノ酸残基)によるN−及び/又はC−末端の切断、又はN−及び/又はC−末端での1つ又はそれ以上の余分なアミノ酸残基の付加、並びに保存的アミノ酸置換、即ち類似した特性を有するアミノ酸群、例えば(1)小さいアミノ酸、(2)酸性アミノ酸、(3)極性アミノ酸、(4)塩基性アミノ酸、(5)疎水性アミノ酸、(6)芳香族アミノ酸の範囲内で行われる置換を含んでもよい。そのような保存的置換の例を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明は、更に、本出願に記載されるように、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤をコードするポリヌクレオチドに関する。用語「ポリヌクレオチド」は、一般的に、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを意味するが、これらは未修飾のRNA若しくはDNA、又は修飾RNA若しくはDNAでもよい。このポリヌクレオチドは、単鎖又は二重鎖DNA、単鎖又は二重鎖RNAでもよい。本明細書の中で用いる、用語「ポリヌクレオチド」は、また、1つ又はそれ以上の修飾塩基及び/又はイノシンのような通常にはない塩基を含むDNA又はRNAも含む。様々な修飾が、当業者に知られている多くの有用な目的に資するDNA及びRNAでなされてよいことは、よく理解されるであろう。用語「ポリヌクレオチド」は、本明細書の中で用いられるように、ポリヌクレオチドの、そのような化学的、酵素的、又は代謝的に修飾した形態、並びにウイルスや細胞(例えば単純な及び複雑な細胞を含む)に特徴的な、DNA及びRNAの化学的形態を包含する。
【0046】
当業者には当然のことながら、遺伝子コードの縮重のために、あるポリペプチドが、異なったポリヌクレオチドによってコード化され得る。これらの「変異体」は、本発明に包含される。
【0047】
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは単離されたポリヌクレオチドである。用語「単離された」ポリヌクレオチドは、例えば、これらに限定されないが、実質的に他の核酸配列、例えば他の染色体又は染色体外DNA及びRNAなどから遊離したポリヌクレオチドを意味する。単離されたポリヌクレオチドは、宿主細胞から精製されたものでもよい。単離されたポリヌクレオチドを得るのに、当業者に知られている従来の核酸精製法を使用することができる。この用語は、また、遺伝子組み換えポリヌクレオチド及び化学的に合成されたポリヌクレオチドも含む。
【0048】
本発明の更なる別の側面は、本発明に従うポリヌクレオチドを含むプラスミド又はベクターである。好ましくは、このプラスミド又はベクターは、発現ベクターである。格別の実施態様においては、このベクターはヒト遺伝子治療に用いる導入ベクターである。
【0049】
本発明の尚更なる別の側面は、本発明のポリヌクレオチド又は本発明のプラスミド若しくはベクターを含む宿主細胞である。
【0050】
本発明の宿主細胞は、本発明の一部であるカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を産生する方法に使用することが出来る。この方法は:
−カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤が発現する条件下で本発明の宿主細胞を培養すること;及び
−場合により、その培養液からカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤を回収すること;
を含む。
【0051】
提案ポリペプチドの発現
本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤及び修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は、細菌、酵母、植物、動物(昆虫を含む)又はヒト細胞株のような、原核又は真核の宿主細胞において、又はトランスジェニック動物において組み換え分子として産生することが出来る。場合により、ポリペプチドは宿主細胞から分泌させる。
【0052】
動物又はヒト細胞株における発現
好適な宿主細胞における高レベルでの遺伝子組み換えタンパク質の産生は、当業者に既知の方法に従って、上述の修飾cDNAを、種々の発現システムに増強することが出来る組み換え発現ベクター中の適した調節要素と共に効率的な転写ユニット内に組み立てることを必要とする。効率的な転写調節要素は、ウイルスの天然の宿主としての動物細胞を有するウイルスから又は動物細胞の染色体DNAから誘導することができる。好ましくは、シミアンウイルス40、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、若しくはラウス肉腫ウイルスの長端末反復から誘導されたプロモーター−エンハンサーの組み合わせ、又はベータアクチン若しくはGRP78のように動物細胞において強く構成的に転写された遺伝子を含むプロモーター−エンハンサーの組み合わせを用いることが出来る。cDNAから転写された安定した高レベルのmRNAを得るために、その転写ユニットは、3’−近位部に転写終結−ポリアデニル化配列をコード化するDNA領域を含む必要がある。好ましくは、この配列は、シミアンウイルス40の初期転写領域、ウサギベータグロビン遺伝子、又はヒト組織プラスミノーゲン活性化因子遺伝子由来のものである。
【0053】
次いで、cDNAは、治療用ポリペプチドの発現のための好適な宿主細胞内にトランスフェクションされる。使用できる細胞株の例は、サルCOS細胞、マウスL細胞、マウスC127細胞、ハムスターBHK−21細胞、ヒト胎児腎臓293細胞及びハムスターCHO細胞である。
【0054】
対応するcDNAをコード化する組み換え発現ベクターは、幾つかの異なった方法で導入することが出来る。例えば組み換え発現ベクターは、種々の動物ウイルスに基づくベクターから作出することが出来る。これらの例は、バキュロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、及び好ましくはウシ乳頭腫ウイルスに基づくベクターである。
【0055】
対応するDNAをコード化する転写ユニットも、組み換えDNAをそれらのゲノム内に組み込んでいる特定の細胞のクローンの単離を容易にするために、これらの細胞の中で優性選択マーカーとして機能することが出来る、別の組み換え遺伝子と共に動物細胞内に導入することが出来る。この種の優性選択マーカーの例は、ゲネチシン(G418)への耐性を与えるTn5アミノグリコシド・ホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンへの耐性を与えるハイグロマイシン・ホスホトランスフェラーゼ、及びピューロマイシンへの耐性を与えるピューロマイシン・アセチルトランスフェラーゼである。このような選択マーカーをコード化する組み換え発現ベクターは、所望のタンパク質のcDNAをコード化するものと同じベクター上に存在してもよいし、又は宿主細胞のゲノムに同時に導入され、組み込まれて、その結果、しばしば異なる転写ユニット間の物理的に緊密な連結をもたらす、別のベクター上にコード化されてもよい。
【0056】
所望のタンパク質のcDNAと一緒に使用することができる他のタイプの選択マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)をコード化する種々の転写ユニットに基づいている。このタイプの遺伝子を、内因性dhfr活性を欠く細胞、好ましくはCHO−細胞(DUKX−B11、DG−44)に導入した後、これらをヌクレオシド欠乏培地で生育させることが可能になる。このような培地の例は、ヒポキサンチン、チミジン及びグリシンを除いた、HamのF12培地である。これらのdhfr遺伝子は、カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤のcDNA転写ユニットと一緒に上述のタイプのCHO−細胞に、同一又は別のベクターに連結させて導入し、このようにして、組み換えタンパク質を産生するdhfr陽性の細胞株を作出することが出来る。
【0057】
上述の細胞株を細胞毒性のあるdhfr阻害剤であるメトトレキセートの存在下で生育させた場合、メトトレキセート耐性の新しい細胞株が発生することになる。これらの細胞株は、連結したdhfrと所望のタンパク質の転写ユニットの数の増幅によって、組み換えタンパク質を増大した比率で産生する可能性がある。これらの細胞株を高濃度のメトトレキセート(1−10000nM)中で増幅させた場合、所望のタンパク質を非常に高い比率で産生する新しい細胞株を得ることが出来る。
【0058】
所望のタンパク質を産生する上記細胞株は、懸濁培養又は種々の固形支持体上で大規模に増殖させることが出来る。これらの支持体の例は、デキストラン若しくはコラーゲンマトリックスに基づくマイクロキャリア、又は中空繊維若しくは種々のセラミック物質の形態の固体支持体である。細胞懸濁培養で又はマイクロキャリア上で増殖させる場合、上記細胞株の培養は、バッチ培養として、又は長期間にわたって調整済みの培地の連続生産を伴う潅流培養としてのいずれでも行なうことが出来る。従って、本発明によれば、上記細胞株は、所望の組み換えタンパク質を生産する工業プロセスの開発によく適している。
【0059】
上記タイプの分泌細胞を培地に蓄積する組み換えタンパク質は、細胞培養培地中の所望のタンパク質と他の物質の間の、サイズ、電荷、疎水性、溶解性、特異的親和性等における差を利用する方法を含んで、種々の生化学的及びクロマトグラフィー的方法によって濃縮し及び精製することが出来る。
【0060】
このような精製法の例は、固体の支持体上に固定化されたモノクローナル抗体又は結合タンパク質への、組み換えタンパク質の吸着である。脱着後、そのタンパク質を、上記の特性に基づく種々のクロマトグラフィー的技術によって更に精製することができる。
【0061】
酵母の発現システムにおける発現
本発明の実施において、宿主として有用であると見込まれている酵母の典型的な属は、ピチア(Pichia)(以前はハンセヌラとして分類されていた)、サッカロミセス(Saccharomyces)、クリベロミセス(Kluyveronyces)、アスペルギルス(Aspergillus)、カンジダ(Candida)、トルロプシス(Torulopsis)、トルラスポラ(Torulaspora)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、シテロミセス(Citeromyces)、パキソレン(Pachysolen)、ザイゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)、デバロミセス(Debaromyces)、トリコデルマ(Trichoderma)、セファロスポリウム(Cephalosporium)、フミコラ(Humicola)、ムコール(Mucor)、ニューロスポラ(Neurospora)、ヤロウィア(Yarrowia)、メチニコウィア(Metschunikowia)、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)、ロイコスポリジウム(Leucosporidium)、ボツリアスクス(Botryoascus)、スポリジオボルス(Sporidiobolus)、エンドマイコプシス(Endomycopsis)などである。属としては、サッカロミセス(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)、クリベロミセス(Kluyveronyces)、ピチア(Pichia)、及びトルラスポラ(Torulaspora)から成る群から選択されたものが含まれる。サッカロミセス種(Saccharomyces spp)の例としては、S.セレビシエ(S. cerevisiae)、S.イタリクス(S. italicus)及びS.ルーキシイ(S. rouxii)がある。
【0062】
S.セレビシエ(S. cerevisiae)に好適なプロモーター遺伝子は、PGKI遺伝子、GAL1又はGAL10遺伝子、CYCI、PHO5、TRPI、ADHI、ADH2、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、グルコキナーゼ、アルファ−接合因子フェロモン、PRBI、GUT2、GPDIプロモーター、及び5’調節領域と他のプロモーターの5’調節領域との、又はその上流の活性化部位とのハイブリッドを含むハイブリッドプロモーターに関連するものを含む(例えば、欧州特許出願公開第258067−A号のプロモーター)。
【0063】
シゾサッカロミセス・ポンべ(Schizosaccharomyces pombe)に用いるのに便利な調節可能なプロモーターは、Maundrell(Maundrell K, 1990, 分裂酵母のnmt1。チアミンにより完全抑制される高度転写遺伝子(A highly transcribed gene completely repressed by thiamine), J. Biol. Chem. 265:10857-10864)によって記載されたnmt遺伝子由来のチアミン−抑制プロモーター、及び Hoffman及びWinston(Hoffman CS and Winston F.,
1990, シゾサッカロミセス ポンベのfbp1遺伝子の発現を構成する突然変異株の単離と特性解析(Isolation and characterization of mutants constitutive for expression of the fbp1 gene of Schizosaccharomyces pombe), Genetics 124:807-816)によって記載されたグルコース−抑制jbpl遺伝子プロモーターである。
【0064】
転写終了のシグナルは、適切な転写終了のシグナルとポリアデニル化を含む真核遺伝子の3’フランキング配列でよい。好適な3’フランキング配列は、例えば用いた発現制御配列に天然に連結した遺伝子のものであってよく、即ちプロモーターに対応してよい。あるいは、それらは異なっていてもよく、その場合は、場合により、S.セレビシエ(S. cerevisiae)ADHI遺伝子の終了シグナルが用いられる。
【0065】
細菌の発現システムにおける発現
細菌における本発明の修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の産生のための典型的な発現システムは、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、カウロバクター・クレセンツス(Caulobacter crescentus)、及び最も重要なものとして、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli )BL21、及びE.コリ(E. coli )K12、並びにそれらの派生菌を含む。便利なプロモーターとしては、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター、ラムダファージ、プロモーターPL、L−アラビノース誘導のaraBADプロモーター、L−ラムノース誘導のrhaPプロモーター、及び無水テトラサイクリン誘導のtetAプロモーター/オペレーターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0066】
1つの実施態様において、本発明のインフェスチン及び修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤をコード化するポリヌクレオチドを、本発明のタンパク質の原核細胞の特定のコンパートメントへの局在化を指令する、及び/又は原核細胞からの本発明のタンパク質の分泌を指令する、シグナル配列に融合することが出来る。例えば、E.コリ(E. coli)において、ぺリプラズム腔へのタンパク質の発現を指令することを望むことが出来る。細菌のぺリプラズム腔へのポリペプチドの発現を指令するために、本発明のタンパク質を融合することのできるシグナル配列又はタンパク質(又はそのフラグメント)の例としては、pelBシグナル配列、マルトース結合タンパク質シグナル配列、ompAシグナル配列、ペリプラズム性E.コリ(E. coli)の熱に不安定なエンテロトキシンB−サブユニット、及びアルカリ・ホスファターゼのシグナル配列が挙げられるが、それらに限定されない。いくつかのベクターは、pMALシリーズのベクター(New England Biolabs)のような、タンパク質の局在化を指令する融合タンパク質の構築用として、市販されている。
【0067】
植物細胞における発現
本発明の修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤の発現の典型的な植物系には、タバコ、バレイショ、コメ、メイズ、ダイズ、アルファルファ、トマト、レタス及びマメ科植物が含まれる(MaJKC et al., 2003, 植物における遺伝子組み換え薬用タンパク質の生産(The production of recombinant pharmaceutical proteins in plants), Nat. Rev. Genet. 4:794-805に要約されている)。植物系における組み換えタンパク質の発現を、好適な調節因子によって、果実、種子、葉又は塊茎のような特定の器官又は組織に対して指令することができる。代わりに、タンパク質を根から分泌させることができる。細胞の中で、タンパク質を、特定のコンパートメント、例えば小胞体、タンパク粒、又は色素体などに標的化することができる。その場所で、生産物はより高いレベルに蓄積するか、又は特別な形態の翻訳後修飾を受けることができる。
【0068】
トランスジェニック発現
大規模なトランスジェニック発現システム(概説のためにはPollock DP., 1999, トランスジェニック抗体の産生の方法としてのトランスジェニックミルク(Transgenic milk as a method for the production of recombinant antibodies), J. Immunol Methods 231:147-157を参照)の典型的な例としては、ウサギ(Chrenek P et al., 2007, 数世代の遺伝子組み換えウサギのミルクにおける組み換えヒト第VIII因子の発現(Expression of recombinant humen factor VIII in milk of several generations of transgenic rabbits), Transgenic Res. 2007 Jan 31)、ヤギ(Lazaris A et al., 2006, ヤギにおける核移植を用いた遺伝子導入(Transgenesis using nuclear transfer in goats), Methods Mol Biol. 348:213-26.)、ブタ及びウシが挙げられる。
【0069】
精製及び治療用処方
本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は、好ましくは80%を越える純度、より好ましくは95%を越える純度、特に好ましくは薬学的純度の状態、即ち含有する高分子、特に他のタンパク質及び核酸に関して99.9%を越える純度であり、そして感染性及び発熱性物質が存在しない状態に精製される。好ましくは、単離された又は精製された本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤は、他のポリペプチドを実質的に含まない。
【0070】
本発明は、本明細書に記載したそのような阻害剤の医学における使用;そしてまた、そのような阻害剤の薬剤の製造における使用を提供する。従って、本発明の別の側面に従えば、第XII因子の活性化又は第XIIaの活性を阻害するのに適した、且つ、三次元的な動脈又は静脈の血栓の形成及び/又は安定化を予防する、この阻害剤を含む薬剤が提供される。
【0071】
本発明で記載された治療用ポリペプチドは、治療に用いるための薬剤に製剤化することが出来る。精製されたタンパク質は、従来の生理的に適合性を有する緩衝水溶液に溶解することが出来、場合によりそれに薬学的添加剤を加えて薬剤を提供することが出来る。
【0072】
そのような薬剤担体及び添加剤並びに好適な薬剤は、当技術分野ではよく知られている(例えば、「ペプチドとタンパク質の医薬品製剤の開発(Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins)」, Frokjaer et al., Taylor & Francis(2000)又は「医薬品添加剤ハンドブック(Handbook of Pharmaceutical Excipients)」, 3rd edition, Kibbe et al., Pharmaceutical Press(2000)を参照)。特に本発明のポリペプチドを含む薬剤組成物は、凍結乾燥された又は安定した可溶形態に製剤化することが出来る。ポリペプチドは、当技術分野で既知の様々な手法で凍結乾燥することが出来る。凍結乾燥製剤は、使用前に、注射用滅菌水又は滅菌生理食塩水のような、1種又はそれ以上の薬学的に許容される希釈剤の添加によって再構成される。
【0073】
本組成物の製剤は、任意の薬学的に適した投与手段によって個体に送達される。種々の送達システムが知られており、任意の好都合な経路によって組成物を投与するために用いることが出来る。優先的には、本発明の組成物は全身投与される。全身的使用のためには、本発明の治療用タンパク質は、従来の方法に従って、非経口的(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、脳内、肺内、鼻腔内、又は経皮)又は腸管経由(例えば、経口、経膣又は直腸)の送達用に製剤化される。最も優先的な投与経路は静脈内投与である。本製剤は、注入により又はボーラス注入により連続的に投与することが出来る。幾つかの処方は、徐放システムを包含する。
【0074】
経口投与のための錠剤及びカプセル剤は、結合剤、賦形剤、滑沢剤及び湿潤剤などのような、従来の添加剤を含有することが出来る。経口液体製剤は、水性又は油性の懸濁剤、液剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤などの形態であってもよく、又は使用のために水又は他の適したビヒクルを用いて再構成するための乾燥製品として提供されてもよい。このような液体製剤は、懸濁化剤、乳化剤、非水性ビヒクル及び保存剤のような、従来の添加剤を含有することが出来る。
【0075】
局所塗布に好適な製剤は、水性又は油性の懸濁剤、液剤、乳剤、ゲル剤、又は好ましくは乳剤性軟膏の形態でよい。スプレー適用に有用な製剤は、スプレー可能な液剤又はドライパウダーの形態でよい。
【0076】
本発明のカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤ポリペプチドは、治療的に有効な用量で患者に投与される。ここで、治療的に有効な用量とは、治療的に有効な投与量、所望の効果、即ち治療中の状態や適応症の重症度又は拡散を、忍容出来ない有害副作用を起こす用量に到達することなく、予防又は軽減することをもたらすのに十分な用量を意味する。的確な投与量は多くの要因、例えば適応症、製剤、投与の様式に依存しており、それぞれの適応症ごとに前臨床及び臨床試験において決定されなければならない。
【0077】
本発明の薬剤組成物は、単独で又は他の治療薬と併用して投与してもよい。これらの薬剤は、同一の薬剤品の一部として組み込まれていてもよい。
【0078】
本発明の種々の生産物は、薬剤として有用である。従って、本発明は、本明細書に記載されるようなカザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤ポリペプチド、本発明のポリヌクレオチド、又は本発明のプラスミド又はベクターを含む、薬剤組成物に関する。
【0079】
本発明の修飾DNAも、また、ヒトの遺伝子治療に使用するための導入ベクターに組み込むことができる。
【0080】
本発明の性質、利点、及び更なる特徴は、以下の行なった実験及びその結果の詳細な記載を、以下に説明する添付する図面と併せて考慮すると、明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】Coleman(Coleman RW., 2006, 止血と血栓は同じコインの両面か?(Are hemostasis and thrombosis two sides of the same coin ?), J. Exp. Med. 203:493-495)により論じられた病的血栓モデルの図である。
【図2】インフェスチン−4(I4)とSPINK−1(SP)の間のアミノ酸配列の類似性を示す図である、*:同一;|:類似アミノ酸
【図3】R.プロリクス(R. prolixus)阻害因子のトロンビンとの接触部位は#で、SPINK−1のキモトリプシンとの接触部位は+で示す。
【図4】インフェスチン−4、SPINK1及び3種のSPINK1突然変異体(K1〜K3)のアミノ酸配列を示す;インフェスチン−4の配列に関して、*は同一の;|は類似のアミノ酸であることを表す。配列I4の下線部分は、突然変異体K1を産出するためにSPINK−1の15のアミノ酸を置き換えるのに用いた。突然変異体K2及びK3は、K1配列での更なる点変異(下線付きアミノ酸)により産出された。
【図5】インビトロのrHA−インフェスチン−4のaPTTに関する効果及びマウス血漿におけるFXII活性を示す図である。
【図6】100及び200mg/kg(静脈注射)のrHA−インフェスチン−4をマウスに(投与前及び)投与後4.5時間までのpPTTの延長を示す図である。
【図7】100及び200mg/kg(静脈注射)のrHA−インフェスチン−4をマウスに(投与前及び)投与後4.5時間までのFXIIの阻害を示す図である。
【図8】100mg/kg静脈内注射後のマウス血漿中のrHA−インフェスチン−4の経時的変化(平均;n=1〜2/時点)を示す図である。
【図9】マウスにおける(His)6−インフェスチン及びrHA−インフェスチン−4の薬物動態比較を示す図である。
【図10】rHA−インフェスチン−4の止血までの時間に対する効果(n=10〜15/群、平均±標準偏差)を示す図である。
【図11】rHA−インフェスチン−4の総失血に対する効果(n=10〜15/群、平均±標準偏差)を示す図である。
【図12】rHA−インフェスチン−4の止血までの時間に対する効果(n=10〜15/群、個別データ)を示す図である。
【図13】rHA−インフェスチン−4の総失血に対する効果(n=10〜15/群、個別データ)を示す図である。
【0082】
〔実施例1〕
インフェスチン−4、SPINK−1及び修飾カザールタイプ・セリン・プロテアーゼ阻害剤のクローニング
SPINK−1アミノ酸配列を、哺乳動物細胞発現に最適化し、好適な制限部位を含めて、cDNA配列に逆翻訳した。天然のSPINK−1シグナルペプチドを含んで、産生しようとするSPINK分子のヌクレオチド配列(図4を参照)を、3つのセグメントに分け、そのそれぞれをオーバーラップオリゴヌクレオチド(Medigenomix、Martinsried、Germany)によりカスタム合成した。セグメント2及び3の2つの変異体を産生させそれぞれ以下のように組み立てた。
【0083】
S1+S2wt+S3wtで、野生型SPINK−1を生じた;
S1+S2K1+S3wtで、野生型SPINK−K1を生じた;
S1+S2K1+S3K3で、野生型SPINK−K3を生じた。
これらのセグメントのヌクレオチド配列は、配列番号7〜11として示してある(S1:配列番号7;S2wt:配列番号8; S2K1:配列番号9;S3wt:配列番号10;S3K3:配列番号11)。
【0084】
セグメントの組み立ては、以下の様に行った。MedigenomixからクローニングベクターpCR2.1(Introgen)で入手したセグメントを、それぞれ制限エンドヌクレアーゼEcoRI/NarI(S1)、NarI/Kpnl(S2wt及びS2K1)及びKpnl/BarnH1(S3及びS3K3)で切断し、アガロースゲルから単離し、そして以下の組み合わせ:
【0085】
a)S1:EcoRI/NarI+S2wt:NarI/Kpnl+S3wt:Kpnl/BamH1;
b)S1:EcoRI/NarI+S2K1:NarI/Kpnl+S3wt:Kpnl/BamH1;
c)S1:EcoRI/NarI+S2K1:NarI/Kpnl+S3K3:Kpnl/BamH1;
において、EcoRI/BamH1消化発現ベクターpIRESpuro3(BD Bioscience)中にライゲート、それぞれプラスミドp1171(a)、p1172(b)及びp1174(c)を得た。
【0086】
SPINK−K2配列を生成させるために、プラスミドp1174を、市販の突然変異生成キット(QuickChange XL Site Directed Mutagenesis Kit, Stratagene)を用いた位置指定突然変異誘発反応に、製造業者のプロトコルに従って、オリゴヌクレオチドWe2450及びWe2451を用いて付した。得られたプラスミドをp1173と名付けた。
【0087】
インフェスチン−4配列を、p1174(SPINK−K3のN−末端)及びオーバーラップオリゴヌクレオチド(Medigenomix、Martinsried、Germany)によりカスタム合成したC−末端部分(フラグメント14C、配列番号14)のコード配列から組み立てた。先ず、SPINK−K3のN−末端のコード配列を含むEcoRI/BamH1フラグメントをp1174から単離し、EcoRI/BamH1で線状化したpIRESpuro3にクローニングした。引き続いて、得られたプラスミドをBamH1及びNotIで消化し、14Cフラグメント(Medigenomixから供給された)のコード配列を含むpCR2.1ベクターから単離したBgIII/NotIフラグメントを挿入した。得られたp1288と名付けたプラスミドは、今やインフェクチン−4のコード配列を含んだものである。
【0088】
精製の目的で、インフェスチン−4にヘキサヒスチジンタグを結合する発現ベクターを構築した。この目的のために、市販の突然変異誘発キット(QuickChange XL Site Directed Mutagenesis Kit、Stragene)を用い、キット製造業者によって記述された条件下で、p1288をテンプレートとし、オリゴヌクレオチドWe2973及びWe2974(配列番号26及び27)を変異プライマーとして用いて、挿入突然変異誘発を行った。得られたプラスミドをp1481と名付けた。これは、8アミノ酸グリシン/セリンのリンカーのC−末端延長及び6ヒスチジン残基の伸長を伴うインフェスチン−4配列をコードするものであった(配列番号28)。
【0089】
〔実施例2〕
アルブミン融合構築物のクローニング
先ず、pIRE−Spuro3(BD BioSciences)のEcoRI部位にクローニングしたヒトアルブミンcDNA配列を、オリゴヌクレオチドWe2467及びWe2468(配列番号15及び16)を用いて市販の突然変異誘発キット(QuickChange XL Site Directed Mutagenesis Kit、Stragene)を用いた位置指定突然変異誘発により突然変異誘発を行い、終止コドンを除き、SPINKとインフェスチン−4配列を挿入するためにグリシン/セリン・リンカーの最初の部分とBamH1制限部位を導入した。得られたプラスミドをp1192と名付けた。このSPINKコード配列(シグナルペプチド無し)をPCRにより、p1171、p1172、p1173、及びp1174をテンプレートとして用い、グリシン/セリン・リンカーの残りの部分及びBamH1部位を5’末端にNoTI部位を3’末端に導入したWe2470及びWe2473(配列番号17及び18)をプライマーに用いて増幅した。PCRフラグメントを、BamH1/Notlで消化し、精製し、そしてp1192に挿入し、そしてBamH1/Notlで切断した。得られたアルブミン融合プラスミドp1187は、アルブミンに融合した野生型SPINK−1を、p1188はアルブミンに融合したSPINK−K1を、p1189はアルブミンに融合したSPINK−K2を、そしてp1190はアルブミンに融合したSPINK−K3を含んでいた。同様に、インフェスチン−4アルブミン発現プラスミドも構築したが、p1288には、代わりにWe2473及びWe2623(配列番号18及び19)を用いた。得られた発現プラスミドをp1290と名付けた。コード化されたタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号20、21、22、23及び24に示す。
【0090】
〔実施例3〕
哺乳動物細胞培養におけるHisタグのついたインフェスチン−4及びインフェスチン−4とSPINKアルブミンの融合タンパク質のトランスフェクション及び発現
発現プラスミドをE.コリTOP10(Invitrogen)で増殖させ、標準プロトコル(Quiagen)を用いて精製した。HEK−293細胞にリポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を用いてトランスフェクトし、無血清培地(Invitrogen 293 Express)中、4μg/mlのピューロマイシンの存在下で増殖させた。トランスフェクションした細胞集団を、T型フラスコを通してローラーボトル又は小規模の培養槽内に広げ、そこから培養上清を精製のために取得した。HEK−293細胞における発現収率は、アルブミン融合タンパク質について6〜15μg/mLであり、His−タグ付きインフェスチン−4について約0.5〜1μg/mLであった。
【0091】
〔実施例4〕
酵母におけるHisタグ付きのインフェスチン−4及びインフェスチン−4アルブミン融合タンパク質の発現
Hisタグ付きのインフェスチン−4及びインフェスチン−4アルブミン融合タンパク質のコード配列を、Introgen, MoBiTec又はNovozyme Biopharmaに記載されているようにして、S.セレビシエ(S. cerevisiae)の発現に適した発現ベクター中に移した。振とう培養フラスコ内で標準増殖培地を用いた発現の結果、発現収率は、クマジー染色後のSDS−PAGE分析から推定して、アルブミン融合タンパク質について、30〜50μg/mLの間であり、Hisタグ付きのインフェスチン−4について、約1〜5μg/mLであった。
【0092】
〔実施例5〕
カザール阻害剤−アルブミン融合タンパク質の精製
0.2μmの目でろ過した細胞培養上清(25L)を、限外ろ過(10kDaの除去サイズ)により1Lの容量に濃縮し、引き続いて40mMのTris/HCl、pH7.5緩衝液に対して透析ろ過を行い、再度0.2μmでろ過を行った。この粗製の濃縮液を、更にPOROS 50 PI(26×750)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィーで精製した。カラムを、40mMのTris/HCl、pH7.5緩衝液で平衡化した。サンプルをローディングした後、15カラムボリューム(CV)の洗浄工程を行った。生産物を、35CVにわたって、40mMのTris/HCl、1200mMの塩化ナトリウム、pH7.5緩衝液までの線形グラジエントで溶離した。融合タンパク質含有画分をプールし、限外ろ過により濃縮した。生理食塩液に対する透析ろ過の結果、約15mg/mLの濃度を有する約90%の純度の生産物が得られた。
【0093】
Hisタグ付きのインフェスチン−4の精製と検出は、精製にNi−NTA樹脂を含み、そしてHisタグ付きタンパク質の検出にPentaHis抗体を含む、市販のキット(例えば、His-Tag Purification and Detection Kit; Qiagen, Hilden, Germany)を用いることによって達成することが出来る。
【0094】
〔実施例6〕
カザール阻害剤−アルブミン融合タンパク質の生化学的特性解析
同一性/純度の測定:
タンパク質の同一性/純度は、標準の手順(NOVEX)を用いるSDS−PAGE(8〜16%)により測定した。染色はクマジー青で行った。
【0095】
タンパク質濃度:
アルブミン融合タンパク質のタンパク質濃度は、アルブミンに特異的なELISAを用いて測定したが、この主要な性能は当業者には公知である。簡潔にいえば、緩衝液A(Sigma C-3041)で1:14000に希釈したウェル当たり120μLの捕捉抗体(ウサギ抗ヒトアルブミンIgG、DAKO A0001)を有するマイクロプレートを、周囲温度で一夜インキュベートした。プレートを緩衝液B(Sigma T-9039)で3回洗浄した後、各ウェルを緩衝液C(Sigma T-8793)(200μL)と室温で更に1時間インキュベートした。更なる緩衝液Bによる3回の洗浄工程の後、緩衝液Bでの試験サンプルの連続希釈液、並びに緩衝液BでのN Protein Standard SL(Dade Behring, 0.5〜100ng/mL)の連続希釈液(ウェル当たり容量:100μL)を、周囲温度で1時間インキュベートした。3回の緩衝液Bによる洗浄工程の後、検出抗体(ウサギ抗ヒトアルブミン、DAKO P0356、ぺルオキシダーゼ標識)の緩衝液Bでの1:12500希釈液(100μL)を各ウェルに加え、周囲温度で更に1時間インキュベートした。緩衝液Bによる3回の洗浄工程の後、基質溶液(TMB, Dade Behring, OUVF)(各ウェル当たり100μL)を加え、周囲温度で30分間遮光下でインキュベートした。停止液(Dade Behring, OSFA)(100μL)を添加して、サンプルを適したマイクロプレートリーダーで波長450nmで測定するために調製した。次いで、試験サンプルの濃度を、基準としてN Protein Standardの標準曲線を使用して算出した。
【0096】
活性化部分トロンボプラスチン時間の測定
活性化部分トロンボプラスチン時間を、標準ヒト血漿(SHP, Dade Behring)中で測定した。この場合、異なる量のそれぞれの阻害剤をイミダゾール緩衝液に加えて、全容量を200μLにした。この溶液(50μL)をPathromtin SL(Dade Behring)(50μL)に加え、37℃で120秒間インキュベートした。引き続いて、塩化カルシウム液(25mM、50μL)を加えて反応を開始した。
【0097】
手順は、製造業者に示唆された条件に従って、BCT(Behring Coagulation Timer)で行なった。
【0098】
プロトロンビン時間の測定
プロトロンビン時間を標準ヒト血漿(Dade Behring)で測定し、活性化試薬はThromborel S(Dade Behring)を用いた。15秒のインキュベーション時間の後に、Thromborel S(100μL)をサンプル(上記、50μL)に加えた。手順は、製造業者に示唆された条件に従って、BCT(Behring Coagulation Timer)で行なった。
【0099】
結果:
【表2】
【0100】
これらの実験により、カザールタイプ阻害剤は、殆ど一定のPT値によって表わされるように、外因性経路に殆ど影響を与えないで内因性経路を阻害出来ることが実証される。
【0101】
〔実施例7〕
インフェスチン−4アルブミン融合体は、マウスの動脈血栓症モデルにおいて血管閉塞を予防するのに高度に有効である
動脈血栓からマウスを強力に防護するために必要とされる用量を推定するために、予備的なインビトロでのスパイキング(spiking)実験を行なった。rHA−インフェスチン−4のマウスの血漿へのスパイキングは、FXII活性の低下及びaPTTの延長をもたらしたが、PTは実質的に無変化のままであった。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
マウス血漿中にインビトロでスパイキングした後、極めて著明なFXII阻害が認められたので、マウスにrHA−インフェスチン−4を静脈内投与し、aPTT及びFXII活性の経時変化を調べた(図6及び7)。更に、表5で特定した時点でのrHA−インフェスチン−4の血漿レベルを測定した。
【0105】
【表5】
【0106】
これらの実験は、400mgのrHA−インフェスチン−4を単回静脈内注射することにより、少なくとも1時間はpPTTが延長され、FXII活性が減少することを示した。従って、単回の注射は、マウスをFeCl3モデルの血栓症における血管の閉塞から防護できる筈である。それ故に、動物を400mgのrHA−インフェスチン−4の静脈内注射で処置して、血管の閉塞率並びに閉塞発現までの時間を測定した。
【0107】
動物に、t=0で最大400mg/kgの用量の単回静脈内注射で、rHA−インフェスチン−4を投与した。動脈血栓症の評価のために、腹部動脈を深麻酔下で露出させた。超音波血流プローブを血管の周囲に設置して、ベースライン血流を測定した。血栓症を起こさせるために、10%の塩化第二鉄溶液を飽和させた0.5mm2のろ紙片を腹部動脈の血流プローブの下流に設置した。3分の曝露時間後、ろ紙を除去し、そして血流を60分間モニターして血栓の発生を測定した。
【0108】
表6は、ビヒクルのみで処理した動物の82%が血栓症を示したことを示す。対照的に、rHAインフェスチン−4で処置した10匹のマウスのいずれも血栓症を起こさなかった。この効果は用量依存的であり、閉塞の頻度の減少とは逆に、閉塞の発現までの時間は増加した。
【0109】
【表6】
【0110】
FXIIノックアウト動物は同様に血栓症から防護されたものの、並行して止血欠損は認められなかったので、400mg/kgまでのインフェスチン−4で静脈内投与処理したマウスにおいて、同様の方法で止血を解析した。この目的のために、動物を、Narcorenにより約60mg/kgの単回静脈内注射により麻酔した。rHA−インフェスチン−4を、その動物に損傷操作を行う15分前に、即ち、抗血栓効果を評価する実験と同一の時点及び投与量で注射した。
【0111】
止血は、止血までの時間及び止血の発生までの失血を測定して定量化し、30分の観察期間の最後に検閲を行った。失血の全量は尾端を水に漬けるために用いた生理食塩水中に存在するHGBを測定して計算した。動物のHGBは、それに応じて、考慮に入れた。尾端の切断は、深麻酔下で、外科用メス型ナイフで行い、約3mmの尾端を切除した。損傷操作と同時に、尾端は、予め温めておいた生理食塩水に浸漬した。この生理食塩水は、また、観察期間中水浴を用いて、マウスの生理的体温に維持した。出血をモニターする観察時間は30分とした。全ての試験薬物は、観察時期(尾部切断)の開始15分前に投与した。
【0112】
観察時間内の、全ての重要な止血のパラメーター、即ち止血までの時間及び失血は、この2つの処置群とビヒクル対照群の間に、明らかな差を示さなかった(表7、8、図10〜13)。
【0113】
【表7】
【0114】
【表8】
【0115】
インフェスチン−4単体、即ちアルブミンと融合していないもの(例えば、実施例1、Hisタグ付きインフェスチン−4参照)の血栓症防護の潜在能力を試験した。400mg/kgのrHA−インフェスチン−4とほぼ等モルの用量を、マウスに静脈内注射で、血栓症誘発の15分前に1回投与した。血栓症の誘発及び評価は、rHA−インフェスチン−4で記載されたものと同一の方法で行った。急速な排泄を克服するために、インフェスチン−4を連続注入又は反復注射により適用したが、これは循環から急速にクリアランスされる、又は薬物動態学的な理由とは異なる作用機序による活性を失う化合物の高血漿中レベルを達成する、標準的な手順である。
【0116】
その結果は、rHA−インフェスチン−4で処置されたマウス群は、FXIIノックアウトマウス群の結果(他の場所で示した)に一致して、血栓症も出血の危険性も示さないことを示している。
【0117】
〔実施例8〕
ラットFeCl3動脈モデルの血栓症における、市販のFXII(a)阻害剤Berinert(登録商標)PのaPTT、PT及び血管閉塞に対する効果
市販のFXII(a)阻害剤Berinert(登録商標)P(C1エステラーゼ阻害剤)のFXII(a)に対する潜在阻害能力の適切性を評価するために、幾つかのインビトロ及びインビボ実験を行った。
【0118】
本実験の目的は、pPTT及びPT、並びにラット血漿中のFXII活性に対する効果を測定し、またラットFeCl3動脈血栓症モデルにおける抗血栓効果の潜在能力を評価することであった。
【0119】
ラットを麻酔し、血液サンプルを眼窩後で採取し、第XII因子の活性を測定するために、標準手順に従って血漿に処理した。この血漿サンプルにBerinert(登録商標)Pをスパイキングし、直接FXII活性を試験した。
【0120】
Berinert(登録商標)Pのスパイキングを、インビトロでのFXII活性に対する効果を試験するために行った。高濃度で、実質的なFXII阻害が認められた(表9)。
【0121】
【表9】
【0122】
FXIIの有意な阻害が達成されたので、インビボ実験を行った。血栓症の潜在予防能力を測定するために、ラットを1200U/kgの用量でBerinert(登録商標)Pを用いた静脈内注射で処置した。この用量は、血漿中濃度が10〜15U/mLになるように選ばれた。動脈血栓症の評価のために、頸動脈及び頸静脈を深麻酔下で露出した。薬物投与のために、頸静脈にカニューレを挿入した。血流をモニターするために、超音波流量プローブを頸動脈周囲に設置した。血栓症を開始させるために、35%の塩化第二鉄溶液を飽和させた2.5mm2のろ紙片を頸動脈の流量プローブの下流に設置した。3分間の曝露後ろ紙を除去し、血栓閉塞の発生を測定するために血流を60分間モニターした。aPTT、PT及びFXII活性を観察期間の最後に測定した。
【0123】
35%塩化第二鉄溶液での3分間の処理の結果、血栓閉塞は100%の比率で発生した(表10)。高用量のBerinert(登録商標)PでaPTTが増大及び中程度のFXII阻害がもたらされたが、閉塞率に対しては陽性効果が認められなかった。
【0124】
【表10】
【0125】
要約:
高濃度のBerinert(登録商標)Pは、著明なFXIIの阻害をインビトロでもたらした。しかし、FeCl3動脈血栓症モデルにおいては、高用量のBerinert(登録商標)Pでも効果がなかった。このBerinert(登録商標)Pの用量は、高用量の適用が高いタンパク質負荷と非生理的な注射容量になりかねないため、技術的な限界に近いものであった。
【0126】
〔実施例9〕
マウスにおける(His)6−インフェスチン及びrHA−インフェスチン−4の薬物動態の比較
Hisタグ付きインフェスチン−4((His)6−インフェスチン−4)又はインフェスチン−4アルブミン融合体(rHA−インフェスチン−4)製剤を、合計28匹のNMRIマウスに静脈内投与した。用量は、それぞれ(His)6−インフェスチン−4に関しては20mg/kg体重、rHA−インフェスチン−4に関しては200mg/kg体重であった。これらの投与量は、2つのタンパク質、即ちインフェスチン−4の活性成分と等量に対応している。
【0127】
血液サンプルを、試験物質の投与の5分後から適切な間隔で採取した。引き続いて、インフェスチン−4抗原の含量を、インフェスチン−4に特異的なELISAアッセイにより定量した。処置群の平均値を計算に用いた。各タンパク質の半減期は、排泄のベータ相の時点を用いて、式:t1/2=ln2/k(ここで、kは回帰直線の傾きである)を用いて計算した。結果を図9に示す(n=1〜4/時点;平均)
【0128】
rHA−インフェスチン−4について計算された消失半減期は3時間であったが、(His)6−インフェスチン−4に対して計算された消失半減期は0.3時間であった。従って、rHA−インフェスチン−4に対しては、(His)6−インフェスチン−4に比較して10倍の、消失半減期の明白な増大が示された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インフェスチン−4に対する相同性を増大させるために突然変異をさせた阻害剤であり、且つ、三次元的な動脈又は静脈血栓の形成及び/又は安定化を予防するのに適した、SPINK−1由来の突然変異カザール阻害剤。
【請求項2】
阻害されるプロテアーゼとの接触部位が、カザールタイプ阻害剤であるインフェスチンのドメイン4由来のものである、請求項1に記載の突然変異カザール阻害剤。
【請求項3】
修飾カザール阻害剤配列内の追加のアミノ酸の位置がインフェスチンのドメイン4由来のものである、請求項2に記載の突然変異カザール阻害剤。
【請求項4】
SPINK K1、K2及びK3(配列番号2、3及び4)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の突然変異カザール阻害剤。
【請求項5】
阻害剤を半減期を増強させるポリペプチドに連結する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の突然変異カザール阻害剤、及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメント、好ましくはインフェスチン3〜4、又はより好ましくはインフェスチン4。
【請求項6】
半減期を増強させるポリペプチドがヒトアルブミンタンパク質ファミリーのメンバー、即ちアルブミン、アファミン、アルファ−フェトプロテイン又はビタミンD結合タンパク質由来のものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項7】
半減期を増強させるポリペプチドが、ヒトアルブミン、又はその突然変異体、ドメイン若しくは一部であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項8】
半減期を増強させるポリペプチドが免疫グロブリン又はその一部であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項9】
免疫グロブリン部分がIgG Fc部分であることを特徴とする、請求項8に記載の阻害剤。
【請求項10】
半減期を増強させるポリペプチドがリンカー、好ましくは切断可能なリンカーを介してカザール阻害剤部分に連結していることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項11】
リンカーが内因性凝固経路の凝固プロテアーゼにより切断可能であることを特徴とする、請求項10に記載の阻害剤。
【請求項12】
リンカーがFXIIaにより切断可能であることを特徴とする、請求項11に記載の阻害剤。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤を含む、又はインフェスチン若しくはそのフラグメントを含む薬剤。
【請求項14】
薬剤として使用するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメント。
【請求項15】
動脈血栓形成に関連する状態又は疾患の治療若しくは予防する薬剤を製造するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメントの使用。
【請求項16】
動脈血栓症、脳卒中、心筋梗塞、炎症、補体活性化、線維素溶解、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、関節炎、膵炎、又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的なキニン形成に関係する疾患を治療又は予防する薬剤を製造するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメントの使用。
【請求項17】
動脈血栓形成に関連する状態又は疾患の治療における請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメント、好ましくはインフェスチン3〜4、又はインフェスチン4の効能を増大させる方法であって、ここで、該阻害剤を半減期を増強するポリペプチドに連結する、方法。
【請求項18】
真核細胞、細菌、酵母、植物若しくは昆虫細胞において組み換え体手段を介して、又はトランスジェニック動物において、請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメントを生産する方法。
【請求項1】
インフェスチン−4に対する相同性を増大させるために突然変異をさせた阻害剤であり、且つ、三次元的な動脈又は静脈血栓の形成及び/又は安定化を予防するのに適した、SPINK−1由来の突然変異カザール阻害剤。
【請求項2】
阻害されるプロテアーゼとの接触部位が、カザールタイプ阻害剤であるインフェスチンのドメイン4由来のものである、請求項1に記載の突然変異カザール阻害剤。
【請求項3】
修飾カザール阻害剤配列内の追加のアミノ酸の位置がインフェスチンのドメイン4由来のものである、請求項2に記載の突然変異カザール阻害剤。
【請求項4】
SPINK K1、K2及びK3(配列番号2、3及び4)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の突然変異カザール阻害剤。
【請求項5】
阻害剤を半減期を増強させるポリペプチドに連結する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の突然変異カザール阻害剤、及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメント、好ましくはインフェスチン3〜4、又はより好ましくはインフェスチン4。
【請求項6】
半減期を増強させるポリペプチドがヒトアルブミンタンパク質ファミリーのメンバー、即ちアルブミン、アファミン、アルファ−フェトプロテイン又はビタミンD結合タンパク質由来のものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項7】
半減期を増強させるポリペプチドが、ヒトアルブミン、又はその突然変異体、ドメイン若しくは一部であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項8】
半減期を増強させるポリペプチドが免疫グロブリン又はその一部であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項9】
免疫グロブリン部分がIgG Fc部分であることを特徴とする、請求項8に記載の阻害剤。
【請求項10】
半減期を増強させるポリペプチドがリンカー、好ましくは切断可能なリンカーを介してカザール阻害剤部分に連結していることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項11】
リンカーが内因性凝固経路の凝固プロテアーゼにより切断可能であることを特徴とする、請求項10に記載の阻害剤。
【請求項12】
リンカーがFXIIaにより切断可能であることを特徴とする、請求項11に記載の阻害剤。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤を含む、又はインフェスチン若しくはそのフラグメントを含む薬剤。
【請求項14】
薬剤として使用するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメント。
【請求項15】
動脈血栓形成に関連する状態又は疾患の治療若しくは予防する薬剤を製造するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメントの使用。
【請求項16】
動脈血栓症、脳卒中、心筋梗塞、炎症、補体活性化、線維素溶解、血管新生、及び/又は低浸透圧ショック、遺伝性血管性浮腫を含む浮腫、細菌感染、関節炎、膵炎、又は関節痛風、播種性血管内凝固症候群(DIC)及び敗血症などの病的なキニン形成に関係する疾患を治療又は予防する薬剤を製造するための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメントの使用。
【請求項17】
動脈血栓形成に関連する状態又は疾患の治療における請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメント、好ましくはインフェスチン3〜4、又はインフェスチン4の効能を増大させる方法であって、ここで、該阻害剤を半減期を増強するポリペプチドに連結する、方法。
【請求項18】
真核細胞、細菌、酵母、植物若しくは昆虫細胞において組み換え体手段を介して、又はトランスジェニック動物において、請求項1〜12のいずれか1項に記載の阻害剤及び/又はインフェスチン若しくはそのフラグメントを生産する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−518039(P2010−518039A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548630(P2009−548630)
【出願日】平成20年2月11日(2008.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001009
【国際公開番号】WO2008/098720
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(597070264)ツェー・エス・エル・ベーリング・ゲー・エム・ベー・ハー (32)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月11日(2008.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001009
【国際公開番号】WO2008/098720
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(597070264)ツェー・エス・エル・ベーリング・ゲー・エム・ベー・ハー (32)
【Fターム(参考)】
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