説明

カシューノボラック樹脂、その製造方法、およびエポキシ樹脂用硬化剤

【課題】本発明は、より優れた耐熱性と強度を有するカシューノボラック樹脂、その製造方法、および前記カシューノボラック樹脂を含むエポキシ樹脂用硬化剤を提供することを目的とする。
【解決手段】弱酸性触媒の存在下、カシューナット殻液、必要により他のフェノール樹脂、およびアルデヒド類とを反応して得られる、数平均分子量が2000以上で、かつ150℃の溶融粘度が500mPa・s以下であるカシューノボラック樹脂。カシューナット殻液などにアルデヒド類を逐次的に添加する際、系内の水分を除去しつつ反応すると好ましい。このカシューノボラック樹脂はエポキシ樹脂用硬化剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカシューナット殻液単独か、またはカシューナット殻液とカシューナット殻液以外のフェノール類にアルデヒド類を反応させて得られる、数平均分子量が2000以上という高分子量で、かつ溶融粘度が低いカシューノボラック樹脂、その製造方法、および前記カシューノボラック樹脂を含むエポキシ樹脂用硬化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ノボラック型フェノール樹脂は、一般にフェノール類とアルデヒド類とを付加縮合して製造される。
このようなノボラック型フェノール樹脂は耐熱性に優れることから、エポキシ樹脂用硬化剤などとして使用されているが、最近、ますます耐熱性に優れる硬化剤が求められるようになりつつある。
また、フェノール樹脂で硬化したエポキシ樹脂硬化物は、硬化時の残存内部応力によるクラックの発生や塗膜の割れ(脆さ)の問題が解決されていないという問題点がある。
従来、ノボラック型フェノール樹脂の耐熱性を向上させる方法として、高温でも揮発性成分をできるだけ少なくする目的で、ノボラック型フェノール樹脂を高分子量化するか、またはノボラック型フェノール樹脂中の低分子量成分を低減する方法が提案されている。
例えば、3官能性フェノール類とアルデヒド類とをリン酸触媒存在下に反応して得られるノボラック樹脂を、さらに無触媒下でアルデヒド類と反応することで、未反応フェノールの少ない数平均分子量5000以上の高分子量のノボラック樹脂を得ている(特許文献1)。
一方、エポキシ樹脂硬化物の脆さを解決するために、ゴム成分やゴム変性エポキシ樹脂を配合する方法が提案されている(特許文献2、特許文献3)。
また、カシューナット殻液によるフェノール樹脂の変性方法として、pH1〜4になるような酸性触媒の存在下、フェノール類およびカシューナット殻液とアルデヒド類とを反応させる方法が提案されている(特許文献4)。
【0003】
しかし、このような方法は、いずれも下記のような問題があった。
特許文献1の方法は、無触媒下でアルデヒドと反応する際、高温高圧の条件下で反応させており、特殊な製造設備が必要となる。このため、工業的に有利な方法であるとはいえない。加えて3官能のフェノールを使用していることから、この樹脂によるエポキシ硬化物の脆さは改善されない。
特許文献2および3の方法では、ゴム成分あるいはゴム変性エポキシを配合することで、硬化物の内部応力が緩和されるため、脆さは改善されるものの、耐熱性が不十分となる。
特許文献4の方法は、カシュー変性ノボラック樹脂が得られるものの、数平均分子量が低いことから、エポキシ樹脂硬化物の脆さを解決することができない。
【0004】
【特許文献1】特開2005−75936号公報
【特許文献2】特開昭63−199218号公報
【特許文献3】特開2004−244441号公報
【特許文献4】特開2007−2032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するために鋭意研究された結果、完成されたものであり、より優れた耐熱性と強度とを有するカシューノボラック樹脂、その製造方法、および前記カシューノボラック樹脂を含むエポキシ樹脂用硬化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
1.弱酸性触媒の存在下、カシューナット殻液とアルデヒド類とを反応して得られる、数平均分子量が2000以上で、かつ150℃の溶融粘度が500mPa・s以下であることを特徴とするカシューノボラック樹脂、
2.弱酸性触媒の存在下、カシューナット殻液、フェノール類およびアルデヒド類を反応して得られる、数平均分子量が2000以上で、かつ150℃の溶融粘度が500mPa・s以下であることを特徴とするカシューノボラック樹脂、
3.弱酸性触媒存在下、カシューナット殻液にアルデヒド類を逐次的に添加すると共に、系内の水分を除去しつつ反応することを特徴とするカシューノボラック樹脂の製造方法、
4.弱酸性触媒存在下、カシューナット殻液とフェノール類にアルデヒド類を逐次的に添加すると共に、系内の水分を除去しつつ反応することを特徴とするカシューノボラック樹脂の製造方法、
5.上記1または2に記載のカシューノボラック樹脂を含むエポキシ樹脂用硬化剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、より優れた耐熱性と強度を有するカシューノボラック樹脂、その製造方法、および前記カシューノボラック樹脂を含むエポキシ樹脂用硬化剤を提供することができる。
その結果、本発明のカシューノボラック樹脂をエポキシ樹脂の硬化剤として使用すると、エポキシ樹脂硬化物に対して良好な耐熱性、耐湿性、機械的特性、電気絶縁性、金属との接着性などを与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のカシューノボラック樹脂は、弱酸性触媒存在下でカシューナット殻液とアルデヒド類とを反応することにより得られる。
カシューナット殻液とは一般的にカルドールやカルダノールからなるものを指すが、カルドール、またはカルダノール単独で使用してもよい。
【0009】
カシューナット殻液と反応させるアルデヒド類としては、カシューフェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類であれば使用可能である。例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、パラホルムアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、グリオキザール、クロトンアルデヒド、グルタルアルデヒドなどを、単独もしくは2種以上混合して使用することができる。これらのうち、ホルムアルデヒドが実用上好ましい。
このようなアルデヒド類の逐次的添加手段としては、公知のプランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプなどの高圧ポンプや、回転容積型の一軸偏心ネジポンプ、およびチューブポンプなどのスラリーポンプが挙げられる。
【0010】
本発明においては、カシューノボラック樹脂を高分子量であっても、低溶融粘度のものとするために、フェノール類のオルソ−オルソ結合を形成させることが重要である。オルソ−オルソ結合を形成させるには反応系を弱酸性とすることが必要であり、本発明では、上記反応に使用する触媒の種類は弱酸性触媒とする。
このような弱酸性触媒としては、例えば二価金属(Ca、Mg、Znなど)の酢酸塩類、ホウ酸、二価金属(Ca、Mg、Znなど)ホウ酸塩などが挙げられ、前記触媒を単独もしくは2種以上混合して使用する事ができる。
【0011】
本発明においては、カシューナット殻液に加えて、低分子量成分が多くならない範囲で通常のフェノール類を併用して使用することができる。なお、カシューナット殻液もフェノール類の一種であるが、本発明では、カシューナット殻液を除くフェノール類を「通常のフェノール類」と呼ぶ。
本発明に使用できる通常のフェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール、エチルフェノール、キシレノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、フェニルフェノール、シクロヘキシルフェノール、トリメチルフェノール、ビスフェノールA、カテコール、レゾシノール、ハイドロキノン、ナフトール、ピロガロール、バニリン、キシレノールなどが挙げられ、これらを単独又は2種以上混合して使用することができる。これらのうち、フェノールやクレゾール類が実用上好ましい。
【0012】
本発明において、上記アルデヒド類の使用量は、カシューナット殻液を含めたフェノール類1モルに対して0.5〜1.5モル、好ましくは0.6〜1.2モル程度の割合で用いるのが望ましい。
アルデヒド類が0.5モルより少ないと樹脂の低分子量成分の割合が多くなり、樹脂の耐熱性が低下するため好ましくなく、一方アルデヒド類が1.5モルより多いとゲル化の危険性があるので好ましくない。
また、弱酸性触媒の配合量は、カシューナット殻液を含めたフェノール類100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部、更に好ましくは0.2〜5質量部の割合で用いるのが良い。
一般的なノボラック樹脂を製造するときに使用する触媒として、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸などがあるが、これらを使用すると反応系のpHが低くなり、低分子量成分が十分に低減しないまま高分子量化が先に進んでしまうため分子量分布が広くなり、目的の樹脂が得られなくなる。
【0013】
本発明の反応はカシューナット殻液を含めたフェノール類と弱酸性触媒の存在下、アルデヒド類を逐次的に添加すると共に発生する縮合水を除去しながら行うことが好ましい。縮合水を系内に留まらせておくと、フェノール類とアルデヒド類とを効率よく縮合反応させられなくなる。その際、反応温度を130〜180℃の範囲で行うことが好ましい。反応温度を130〜180℃の範囲とすると、前記反応の進行が早く進み、かつ未反応のアルデヒドやメチロール基が残存しにくくなる。
本発明では、反応の際、有機溶剤を用いることも可能である。その場合、反応温度を上記の範囲とするために、沸点が80〜180℃の範囲のものが好ましい。
この溶剤の沸点が80℃未満では、反応温度を130℃以上にするためには、その使用量が少量に限定されてしまうため好ましくなく、一方、沸点が180℃を超えると、最終的に有機溶剤が樹脂中に残存する可能性が生じるため好ましくない。
沸点が80〜180℃の範囲の有機溶剤としては、例えばプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、1,4−ジオキサン等のエーテル類等が単独で、若しくは二種以上を併用して使用することができる。
【0014】
有機溶剤を使用する場合も、反応により生じる縮合水を除去する必要があるため、共沸により蒸留することが好ましい。
系外に排出された共沸混合物は、公知の手段で水分を分離した後、有機溶媒は系内に還流させればよい。
【0015】
こうして、アルデヒド類の添加が終了した後、さらに、通常0.5〜2時間程度、反応を継続させる。その後、脱水して縮合水をさらに除去し、また必要に応じて水または有機溶剤で洗浄を行い、残存触媒と未反応モノマーとを除去しても良い。
また一方で、未反応フェノールの除去手段としては、公知の手段、たとえば減圧蒸留法や水蒸気蒸留法などが例示される。
減圧蒸留或いは水蒸気蒸留を行って未反応フェノール類を除去する場合、蒸留温度は180℃以下が好ましい。180℃以上でも未反応フェノール類は除去できるが、除去効率はほとんど変わらず、かえってエネルギーコストがかかるため好ましくない。また本発明の製造方法では未反応フェノール類の除去工程の前の段階で既に低分子化合物が十分低減されているため、未反応フェノール類を除去できるだけの条件があればよく、そのためには180℃以上の温度は必要ない。
未反応フェノール類を主に効率良く除去するためには、180℃以下の温度で、かつ真空度を6666Paabs(50mmHgabs)以下にすることが望ましい。その結果、揮発性成分である低分子成分を可及的に低減することができる。
【0016】
以上のようにして、本発明方法では、高分子量で低溶融粘度のカシューノボラック樹脂が製造される。
このカシューノボラック樹脂の数平均分子量は、高温での揮発成分を少なくするためには2000以上とすることが好ましい。数平均分子量が2000より低くなると、樹脂の溶融粘度は低くなるものの高温での揮発成分が多くなるため好ましくない。
本発明の場合、カシューノボラック樹脂の数平均分子量が2000以上であるにもかかわらず、150℃における溶融粘度は500mPa・s以下となる。その結果、本発明のカシューノボラック樹脂を用いて、たとえば、無機フィラーともに成型品を作製する場合、溶融粘度が低い樹脂ほど、無機物の含有率を上げることができ、無機物の含有率が高くなることで、ますます成型品の耐熱性を向上させることができる。さらに樹脂の分子量が高いことから、成型品の靭性を向上させることができる。
【0017】
次に、本発明をエポキシ樹脂の硬化剤として使用する発明について説明する。
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として、本発明のカシューノボラック樹脂を使用したものである。
このエポキシ樹脂としては特に限定されず、公知のエポキシ樹脂が使用できる。
エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂等の二価のフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール変性型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂等の三価以上のフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂、有機リン化合物で変性されたエポキシ樹脂などが挙げられる。またこれらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
【0018】
この場合のカシューノボラック樹脂とエポキシ樹脂の混合割合はカシューノボラック樹脂1.0当量に対し、エポキシ樹脂を0.8〜1.2当量の範囲が好ましい。また必要に応じてノボラック樹脂と併用して使用することができる。
本発明のエポキシ樹脂用硬化剤には、硬化反応を促進する目的で、硬化促進剤を適宜使用することもできる。
このような硬化促進剤としては、特に限定されず公知のものを使用すれば良く、例えば、イミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第2、または第3級アミン系化合物、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられ、これらは単独でもしくは2種以上を併用して使用することができる。
上記のうち、イミダゾール系化合物としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、4、5−ジフェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2−ウンデシルイミダゾリン、2−ヘプタデシルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾール、2、4−ジメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾリン、2−イソプロピルイミダゾリン、2、4−ジメチルイミダゾリン、2−フェニル−4−メチルイミダゾリン等が挙げられる。
これらイミダゾール系化合物は、マスク剤によりマスクされていてもよい。
マスク化剤としては、アクリロニトリル、フェニレンジイソシアネート、トルイジンイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、メチレンビスフェニルイソシアネート、メラミンアクリレート等が挙げられる。
有機リン系化合物としては、エチルホスフィン、プロピルホスフィン、ブチルホスフィン、フェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン/トリフェニルボラン錯体、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等が挙げられる。
第2級アミン系化合物としては、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジベンジルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−アルキルアリールアミン、ピペラジン、ジアリルアミン、チアゾリン、チオモルホリン等が挙げられる。
第3級アミン系化合物としては、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
その添加量は、エポキシ樹脂に対して、0.1〜10質量%程度とする。
【0019】
また、本発明のエポキシ樹脂用硬化剤には、必要に応じて、充填剤、改質剤として使用される熱硬化性および熱可塑性樹脂、顔料、シランカップリング剤、離型剤等の種々の配合剤を、目的に応じて添加することができる。
【0020】
前記充填剤としては、特に限定されず公知のものを使用すれば良く、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。このうち、溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め、且つ成形材料の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いる方が好ましい。更に球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。
その充填率は適用用途や所望特性によって、望ましい範囲が異なるが、例えば、半導体封止材用途に使用する場合は、線膨張係数や難燃性を鑑みれば、高い方が好ましく、硬化剤組成物全体量に対して65重量%以上添加することが好ましく、特に好ましくは85重量%以上とする。また、導電ペーストや導電フィルムなどの用途に使用する場合は、銀粉や銅粉等の導電性充填剤を用いることができる。
【0021】
前記改質剤として使用される熱硬化性および熱可塑性樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用すれば良く、例えば、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で使用できる。
【0022】
以上の通り、本発明のカシューノボラック樹脂は、カシューナット殻液とアルデヒド類を弱酸性触媒存在下で反応させて得られるもので、高分子量でありながら溶融粘度が低く、また長鎖アルキル基を側鎖に持つことから非極性物質との相溶性、および耐湿性に優れるという特徴を有する。さらに揮発成分が非常に少ないため耐熱性も良好である。
以下に、実施例などを掲げて、本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
以下にカシューノボラック樹脂の合成実施例を示す。ここで、部および%は質量基準である。また、得られた樹脂の分析方法は以下の通りである。
(1)GPC
カラム構成は昭和電工社製KF−801+KF−802+KF−802+KF−803で行い、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1ml/分で測定した。数平均分子量はポリスチレン換算で算出した。
(2)溶融粘度
リサーチ・イクウィップ社製ICI粘度計で測定した。
(3)加熱減量
SII社製SSC/5200を使用して空気雰囲気中、昇温速度10℃/分で加熱し、400℃に達したときの減量を測定した。
実施例1
【0024】
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、カシューナット殻液(カシュー株式会社製 CX−1000)100部、酢酸亜鉛0.5部を仕込み、内温を130℃にして、37%ホルマリン22部を2時間かけて滴下した。ホルマリン滴下または縮合により発生する水を除去するため、溜出する物質は全て系外に排出した。滴下終了後、同温度で1時間反応させた後、数回水洗およびメタノール洗浄を行い、触媒と未反応モノマーを除去した。次いで170℃、6666Paabs(50mmHgabs)の減圧下で溜出分を除去した。得られた樹脂をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPC)で測定したところ、数平均分子量3300のカシューノボラック樹脂を得た。
この樹脂は常温で高粘稠の液体であり、150℃の溶融粘度は225mPa・sであった。また400℃での加熱減量は1.4%であった。
実施例2
【0025】
触媒にホウ酸1部を使用した以外は実施例1と同様に行い、数平均分子量2700のカシューノボラック樹脂を得た。この樹脂は常温で高粘稠の液体であり、150℃の溶融粘度は180mPa・sであった。また400℃での加熱減量は1.5%であった。
実施例3
【0026】
フェノール類としてカシューナット殻液75部およびフェノール25部、37%ホルマリンを35部使用した以外は実施例1と同様に行い、数平均分子量2100のノボラック樹脂を得た。この樹脂は常温で高粘稠の液体であり、150℃の溶融粘度は330mPa・sであった。また400℃での加熱減量は7.4%であった。
比較例1
【0027】
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、フェノール100部、37%ホルマリン69部、酢酸亜鉛0.5部を仕込み100℃で5時間反応させた。次いで170℃、を6666Paabs(50mmHgabs)の減圧下で水蒸気蒸留を行い、未反応モノマーを除去し、数平均分子量が1100のノボラック樹脂を得た。この樹脂は軟化点89℃の固体であり、150℃の溶融粘度は2000mPa・s以上であった。また400℃での加熱減量は10.8%であった。
比較例2
【0028】
フェノール類としてカシューナット殻液100部、37%ホルマリンを22部、触媒としてシュウ酸0.5部使用した以外は比較例1と同様に行ったが、反応途中でゲル化した。
比較例3
【0029】
フェノール類としてカシューナット殻液100部、37%ホルマリンを15部使用した以外は比較例1と同様に行い、数平均分子量が1430のカシューノボラック樹脂を得た。この樹脂は常温で高粘稠の液体であり、150℃の溶融粘度は110mPa・sであった。また400℃での加熱減量は19.1%であった。
比較例4
【0030】
フェノール類としてカシューナット殻液100部、37%ホルマリンを12部、触媒としてシュウ酸0.5部を使用した以外は比較例1と同様に行い、数平均分子量が1310のカシューノボラック樹脂を得た。この樹脂は常温で高粘稠の液体であり、150℃の溶融粘度は100mPa・sであった。また400℃での加熱減量は18.7%であった。
【0031】
実施例1〜3、比較例1〜4で得られたノボラック樹脂の特性値を表1に示す。
【表1】

【0032】
表1より、本発明のカシューノボラック樹脂の400℃加熱減量は、1.4〜7.4%を示し、比較例に比べて桁違いに低い値であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のカシューノボラック樹脂をエポキシ樹脂用硬化剤として使用すると、その硬化物は良好な耐熱性、耐湿性、可とう性、機械的特性、電気絶縁性、金属との接着性などを有する。そのため、電子部品の封止材用樹脂組成物、プリント基板用樹脂組成物、プリント基板および樹脂付き銅箔に使用する層間絶縁材料用樹脂組成物、導電ペースト(導電性充填剤含有)、塗料、接着剤、および複合材料等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱酸性触媒の存在下、カシューナット殻液とアルデヒド類とを反応して得られる、数平均分子量が2000以上で、かつ150℃の溶融粘度が500mPa・s以下であることを特徴とするカシューノボラック樹脂。
【請求項2】
弱酸性触媒の存在下、カシューナット殻液、カシューナット殻液以外のフェノール類およびアルデヒド類を反応して得られる、数平均分子量が2000以上で、かつ150℃の溶融粘度が500mPa・s以下であることを特徴とするカシューノボラック樹脂。
【請求項3】
弱酸性触媒存在下、カシューナット殻液にアルデヒド類を逐次的に添加すると共に、系内の水分を除去しつつ反応することを特徴とするカシューノボラック樹脂の製造方法。
【請求項4】
弱酸性触媒存在下、カシューナット殻液とカシューナット殻液以外のフェノール類にアルデヒド類を逐次的に添加すると共に、系内の水分を除去しつつ反応することを特徴とするカシューノボラック樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のカシューノボラック樹脂を含むエポキシ樹脂用硬化剤。

【公開番号】特開2009−132774(P2009−132774A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308689(P2007−308689)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000187068)昭和高分子株式会社 (224)
【Fターム(参考)】