説明

カチオン変性水溶性高分子粉体の造粒方法

【課題】カチオン変性水溶性高分子はカチオン変性していない水溶性高分子と比較して水和性が高く、上記の方法では水への溶解時にママコの発生を十分に防ぐためにカチオン変性水溶性高分子粉体の水への溶解時の作業性を改善する方法を提供する。
【解決手段】カチオン変性水溶性高分子に水もしくはカチオン変性水溶性高分子水溶液をバインダーとして添加し、カチオン変性水溶性高分子の水分が1〜13質量%の範囲になるまで加水造粒した後、更に乾式圧縮造粒機にて造粒させることを特徴とするカチオン変性水溶性高分子の造粒方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン変性水溶性高分子に水もしくは、カチオン変性水溶性高分子水溶液をバインダーとして添加し、水分が1〜13質量%の範囲になるまで加水造粒させた後、更に乾式圧縮造粒機にて造粒することを特徴とするカチオン変性水溶性高分子の造粒方法に関するものであり、溶解性向上剤を全く使用することなく水への溶解時に継粉の発生を抑え、かつ溶解時間に時間を要することなく作業性の向上を可能とするカチオン変性水溶性高分子の造粒方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、水溶性高分子化合物としてセルロース、多糖類及びこれらの誘導体は、水に対する分散性が悪いため水中に投入した時継粉(ママコ)になり易く、このため水に溶解する場合には充分撹拌しながら少量ずつ添加しなければならないという欠点がある。従来この欠点を改善する方法として、水溶性高分子化合物にバインダーを添加し造粒する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1には水溶性多糖類の製造方法として、水への溶解性、溶解時の起泡性抑制及び取扱作業時の粉立ち抑制といった作業性の優れる水溶性多糖類の製造方法として、水溶性多糖類の粉体にバインダー液を噴霧しながら造粒する方法で、バインダー液として水溶性多糖類とテトラグリセリンモノオレート等の乳化剤を使用する事を特徴とする水溶性多糖類の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には液状食品増粘食品増粘化剤及びその製造方法として、増粘多糖類の持つ膨潤溶解・増粘効果をできるだけ低減させることなく造粒し速く十分な増粘効果と経時的安定化した増粘性を発揮出来る顆粒状の液状食品増粘化剤を提供する方法として、化工澱粉水溶液をバインダーとして使用し粉末状増粘多糖類を処理して得られる顆粒状増粘多糖類を含有する液状食品増粘化剤、及び流動層造粒装置又はそれに類似する装置にて、粉末状増粘多糖類を造粒する液状食品増粘剤の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には溶解性と流動性を改善した医薬組成物で、より広範囲な難水溶性薬物に適用出来、しかも簡単な製造方法で得られる難水溶性薬物溶解性と流動性が改善された医薬用組成物を提供するとして、難水溶性薬物と流動化剤の混合物を水溶性高分子の水又は含水アルコール溶液で造粒することにより得られる造粒物を含有する医薬組成物が記載されている。
【0006】
特許文献4には造粒コーティング種子及びその製造方法として、種子、特に好光性種子を造粒コーティングするものにおいて、播種時に吸水しやすく、更に吸水により割れやすく、しかも経日によって割れ方が変化しにくく、さらに種子を含有しない球状物の副生が殆ど認められない造粒コーティング種子を提供するとして、モンモリナイト及びベントナイトのいずれか一方もしくは双方よりなる平均粒経30μm以下の粉体とモンモリナイト及びベントナイト以外の粉体よりなる平均粒径10μm以上30μm以下の粉体とからなる造粒材を含有する造粒組成物と、結合剤として25℃での水溶液粘度が50mPa・s以下であるセルロース系水溶性高分子の水溶液とを用いて種子を造粒コーティングする製造法方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、上記の先行文献等に記載された方法により溶解性を調整したカチオン変性水溶性高分子化合物を化粧料等に配合した場合、好ましくない成分の混入が避けられないといった問題がある。また、カチオン変性水溶性高分子はカチオン変性していない水溶性高分子と比較して水和性が高く、上記の方法では水への溶解時に継粉の発生を十分に防ぎきれない。更に、造粒方法によっては、ママコの発生を抑えられても、溶解に時間を要するといった問題もある。
【特許文献1】特開2000−63402号公報(第1−5頁)
【特許文献2】特開2004−147567号公報(第1−8頁)
【特許文献3】特開2005−82503号公報(第1−5頁)
【特許文献4】特開平10−225207号公報(第1−6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した先行技術の有する問題点を解決し、かつ効果的にカチオン変性水溶性高分子粉体の水への溶解時の作業性を改善する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、セルロース、多糖類のカチオン変性誘導体等のカチオン変性水溶性高分子の粉体に水もしくは、カチオン変性水溶性高分子水溶液をバインダーとして添加し粉体の水分が1〜13質量%の範囲になるまで加水造粒させた後、更に乾式圧縮造粒機にて造粒させることにより、溶解性向上剤を全く使用する事無く水への溶解時に継粉の発生を防ぐことができ、かつ溶解時間に時間を要することのないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、カチオン変性水溶性高分子に水もしくはカチオン変性水溶性高分子水溶液をバインダーとして添加し、カチオン変性水溶性高分子の水分が1〜13質量%の範囲になるまで加水造粒した後、更に乾式圧縮造粒機にて造粒することを特徴とするカチオン変性水溶性高分子の造粒方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
水もしくはカチオン変性水溶性高分子水溶液をバインダーとして添加し、粉体の水分が1〜13質量%の範囲迄加水造粒させた後、更に乾式圧縮造粒機にて造粒することにより、水への溶解時に継粉を発生することがなく、かつ溶解時間に時間を要することのないカチオン変性水溶性高分子化合物の水への溶解時の作業性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
加水造粒の対象となるカチオン変性水溶性高分子としては、セルロース又は多糖類のカチオン変性誘導体が挙げられる。セルロース誘導体としては、カチオン変性セルロース、カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース等であり、多糖類及びこれらの誘導体としては、グァーガム、ローカストビーンガム、フェヌグリークガム、タラガム、タマリンドガム、サイリウムシードガム、クインシードガム、カラギーナン、アルギン酸塩、寒天、タラカントガム、アラビアガム、カラヤガム、スターチ、ヒドロシシエチルグァーガム、ヒドロキシエチルスターチ、メチルグァーガム、メチルスターチ、エチルグァーガム、ヒドロキシプロピルグァーガム、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシエチルメチルグァーガム、ヒドロキシエチルメチルスターチ、ヒドキシプロピルメチルグァーガム、アセチル化又はアルキル化スターチ、ヒドロキシプロピルメチルスターチ、デキストリン、デキストラン等のカチオン変性誘導体が例示できる。
【0013】
カチオン変性の方法は特に限定されるものではないが、水溶性高分子に対し任意の第4級アンモニウム塩を反応させる方法が挙げられ、具体的には例えば未変性のフェヌグリークガム、タラガム、ローカストビーンガム、ヒドロキシエチルセルロースの水酸基の一部を、下記化学式(1)で表される第4級窒素含有基で置換することにより得ることができる。

(式中R、Rは各々炭素数1〜3個のアルキル基、Rは炭素数1〜24のアルキル基を示し、Xは陰イオンを示す。nは、n=0又はn=1〜30を示し、n=1〜30の時、(RO)nは炭素数2〜4のアルキレンオキサイドの重合体残基であって、単一のアルキレンオキサイドからなるポリアルキレングリコール鎖及び/又は2種類以上のアルキレンオキサイドからなるポリアルキレングリコール鎖を示す。)
【0014】
本発明ではバインダーとして、水もしくはカチオン変性水溶性高分子の水溶液を用いる。水としては、上水道水、蒸留水、精製水、イオン交換水を挙げることができる。また、アルコール等の水溶性の溶剤や無機塩を本発明の目的を損なわない範囲で含んだものでもよい。カチオン変性水溶性高分子水溶液としては、前記したカチオン変性水溶性高分子の水溶液を挙げることができる。ここで、該水溶液は、造粒対象となるカチオン変性水溶性高分子の水溶液であっても、造粒対象でないカチオン変性水溶性高分子の水溶液であってもよい。
【0015】
加水造粒する際に使用する装置としては、流動化された紛粒体に液体をスプレーし粉体を造粒出来るスプレーノズルを装着した装置が崩壊性、流動性に優れ水への溶解性に優れたポーラスな造粒粒子の製造が可能である点で好ましい。具体的には、フロイント産業株式会社製流動層造粒コーティング装置「フローコーター」、株式会社パウレックで販売しているGlatt社製「グラット流動層プロセッサー」等が好ましく使用できる。また、加水造粒機として、深江パウテック株式会社製高速攪拌型造粒乾燥機「マイクロウェーブ・グラニュレーター・ドライヤー」も使用可能である。
【0016】
本発明は、粉体の水分が1〜13質量%の範囲迄加水造粒させた後、更に乾式圧縮造粒機にて造粒することを特徴とする。乾式圧縮造粒機で造粒する粉体の水分が13%を超えるものである場合には造粒した粉体が硬くなり、芯状の継粉が残ってしまうほか、水に溶解する際の水和時間及び溶解時間が長くなりすぎエネルギーの損失となる。特に好ましくは乾式圧縮造粒機にて造粒させる粉体の水分が5〜12質量%の場合であり、乾式圧縮造粒機にて造粒した造粒粉体の水和時間が適正な範囲内となり、水への溶解時継粉の発生は全く見られず、かつ溶解時間に多くの時間を要しない。また、250μmパスの粒子が少なくなり再度加水造粒機に戻す量を低減できる利点もある。
【0017】
乾式圧縮造粒機としては、圧縮ロールとスクリューを装着し油圧シリンダーの圧縮力を自由に調製出来るタイプの装置が好ましく使用できる。具体的には、フロイント産業株式会社製乾式造粒機「ローラーコンパクター」、株式会社栗本鉄工所製乾式圧縮造粒システム「ローラーコンパクター」、ターボ工業株式会社製ロール式圧縮型造粒機「ローラーコンパクター」、株式会社マツボーから販売されている乾式造粒機「アレキサンダーローラーコンパクター」等が使用可能である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例を比較例と比較して説明するが、本発明は特にこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、カチオン変性水溶性高分子化合物として、溶解性向上剤未添加のカチオン変性ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−10)を使用した。これに水もしくは、カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース2.0%水溶液をスプレーノズルより一定量添加後、熱風温度60〜80℃にて流動層造粒装置にて水分が1〜13質量%になる迄造粒乾燥した粉体を取り出し、その後乾式圧縮造粒機にて造粒した粉体について粗砕機及び整粒機を通し一定の粒度の造粒品を得た。水分が異なる各々のサンプルについて固形分換算で2%水溶液となるようにサンプル量を調整し調整し評価に用いた。
【0019】
〔実施例1〕
カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース粉末10kgに精製水5.0kgを167g/分の添加速度で添加し、熱風温度を60〜80℃に徐々に上げながら造粒乾燥した。風量は8.0m/分から9.5m/分に上げた。流動造粒乾燥装置としてはフロイント産業株式会社製流動層造粒コーティング装置「フローコーター」FLO−30SJ型を使用した。造粒乾燥途中水分を測定し、水分が10質量%となった粉体を、フロイント産業株式会社製乾式造粒機「ローラーコンパクター卓上型TF−Labo」及び整粒機(1000μmのスクリーン使用)を使用し乾式造粒した。造粒条件は
ロール形式:S型
スクリュー形式:B型
ローラー間の隙間:0.35mm
スクリュー回転数:15〜20rpm
ロール圧力:12Mpa
このサンプルを本発明品1とした。
【0020】
〔実施例2〕
実施例1と同条件で流動層造粒コーティング装置「フローコーター」FLO−30SJ型を使用し、造粒乾燥途中水分を測定し、水分が7質量%となった粉体を、フロイント産業株式会社製乾式造粒機「ローラーコンパクター卓上型TF−Labo」及び整粒機(1000μmのスクリーン使用)を使用し乾式造粒した。このサンプルを本発明品2とした。
【0021】
〔実施例3〕
実施例1と同条件で流動層造粒コーティング装置「フローコーター」FLO−30SJ型を使用し、造粒乾燥途中水分を測定し、水分が5質量%となった粉体を、フロイント産業株式会社製乾式造粒機「ローラーコンパクター卓上型TF−Labo」及び整粒機(1000μmのスクリーン使用)を使用し乾式造粒した。このサンプルを本発明品3とした。
【0022】
〔実施例4〕
カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース粉末10kgにカチオン変性ヒドロキシエチルセルロース2%水溶液1.67kgを278g/分の添加速度で添加し、熱風温度を60〜80℃に徐々に上げながら造粒乾燥した。風量は8m/分から15m/分に上げた。流動造粒乾燥装置としては株式会社パウレックで販売しているGlatt社製「グラット流動層プロセッサー」WSG30型を使用した。造粒乾燥途中水分を測定し、水分が7質量%となった粉体を、フロイント産業株式会社製乾式造粒機「ローラーコンパクター卓上型TF−Labo」及び整粒機(1000μmのスクリーン使用)を使用し乾式造粒した。このサンプルを本発明品4とした。
【0023】
〔比較例1〕
カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース粉末10kgに精製水0.8kgを167g/分の添加速度で添加し、株式会社パウレックで販売しているバッチ式加水機「バーチカルグラニュレーター」を使用した。この加水された粉体(水分8質量%)をフロイント産業株式会社製乾式造粒機「ローラーコンパクター卓上型TF−Labo」及び整粒機(1000μmのスクリーン使用)を使用し乾式造粒した。このサンプルを比較品1とした。
【0024】
〔比較例2〕
カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース粉末10kgに精製水5.0kgを167g/分の添加速度で添加し、熱風温度を60〜80℃に徐々に上げながら造粒乾燥した。風量は8.0m/分から9.5m/分に上げた。流動造粒乾燥装置としてはフロイント産業株式会社製流動層造粒コーティング装置「フローコーター」FLO−30SJ型を使用した。造粒乾燥途中水分を測定し水分が、13.5質量%となった粉体を、フロイント産業株式会社製乾式造粒機「ローラーコンパクター卓上型TF−Labo」及び整粒機(1000μmのスクリーン使用)を使用し乾式造粒した。このサンプルを比較品2とした。
【0025】
〔比較例3〕
実施例1〜4に使用したカチオン変性ヒドロキシエチルセルロース(溶解性向上剤未添加品)粉末を比較品3とした。
【0026】
〔比較例4〕
カチオン変性ヒドロキシエチルセルロース粉末を得る際の乾燥工程で、水分含有量が12質量%となった時点で乾燥を停止し、水分を含んだカチオン変性セルロースの粉末を、フロイント産業株式会社製乾式造粒機「ローラーコンパクター卓上型TF−Labo」及び整粒機(1000μmのスクリーン使用)を使用し乾式造粒した。このサンプルを比較品4とした。
【0027】
〔評価方法〕
水分が異なる各々のサンプルについて固形分換算で2%水溶液となるようにサンプル量を調整し、攪拌している20℃の水にサンプルを一気に投入し水和して急激に粘度が上昇する状態を目視にて確認し、投入後からの粘度が上昇するまでの時間を水和時間として測定した。同時に投入時の継粉の発生の有無を確認した。更に水和時間測定後の水溶液において、攪拌を継続し、継粉及び芯状の継粉などが溶解し、均一の水溶液となった時点までの投入時からの時間を溶解時間として測定した。なお、水分はKETT科学研究所社製赤外水分計FD−600を用いて105℃、30分の条件で測定した。
【0028】
〔評価結果〕
本発明品1〜4及び比較品1〜3の水和時間及び継粉発生の有無の測定結果を表1に示す。
【表1】

【0029】
上記評価結果より、カチオン変性水溶性高分子に水もしくはカチオン変性水溶性高分子水溶液をバインダーとして使用し、加水造粒機にて造粒し、粉体の水分が1〜13質量%の範囲になるまで造粒した後、更に乾式圧縮造粒機にて造粒した粉体の場合、水に溶解した時継粉ができにくいことが確認できた。本発明の方法により、溶解性向上剤を使用することなく水への溶解時に継粉の発生を抑制し、かつ溶解時間などの溶解性を向上することができる。この方法で製造したカチオン変性水溶性高分子化合物を含む化粧料組成物を提供することができる。
【0030】
〔実施例6〕
本発明の方法で製造したカチオン変性水溶性高分子化合物を含有する化粧料組成物の具体的なシャンプー処方を表2に示す。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン変性水溶性高分子に水もしくはカチオン変性水溶性高分子水溶液をバインダーとして添加し、水分が1〜13質量%の範囲になるまで加水造粒した後、更に乾式圧縮造粒機にて造粒することを特徴とするカチオン変性水溶性高分子の造粒方法。
【請求項2】
カチオン変性水溶性高分子がセルロース又は多糖類のカチオン変性誘導体である請求項1に記載のカチオン変性水溶性高分子の造粒方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により造粒したカチオン変性水溶性高分子を含有する化粧料組成物。


【公開番号】特開2008−56822(P2008−56822A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236496(P2006−236496)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】