説明

カルコパイライト型太陽電池

【課題】 高い変換効率を有すると共に優れたフレキシブル性を有する太陽電池を実現する。
【解決手段】 基板1としてマイカ基板又は集成マイカ基板を用いる。マイカ及び集成マイカは、高い絶縁性及び耐熱温度を有しているから、気相セレン化処理において最適な処理温度でセレン化することができ、高い変換効率を得ることができる。しかも、優れたフレキシブル性能を有しているから量産性にも対応することができる。一方、マイカ及び集成マイカの表面は、大きな表面粗度を有するため、そのままカルコパイライト系の光吸収層6を形成したのでは、リークを誘発し高い変換効率を得ることができない。そこで、本発明では、マイカ基板1とモリブデン電極5との間に厚さが2μm以上20μm以下のセラミックス系の材料を含む中間層と、厚さが3000Å以上8000Å以下のバインダ層4を介在させる。これら中間層2及びバインダ層4を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルコパイライト化合物の光吸収層を有する太陽電池に関し、特に基板素材に柔軟性を有するマイカまたはマイカを含んだ材料を用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光を受光し電気エネルギーに変換する太陽電池は、半導体の厚さによりバルク系と薄膜系とに分類されている。このうち薄膜系の太陽電池は、半導体層が数10μm〜数μm以下の厚さを持つ太陽電池であり、Si薄膜系と化合物薄膜系に分類されている。そして化合物薄膜系には、II−VI 族化合物、カルコパイライト型等の種類があり、これまでいくつか製品化されてきた。この中で、カルコパイライト型の太陽電池は、使用されている物質から、別名CIGS(Cu(InGa)Se)系薄膜太陽電池、CIGS太陽電池或いはI−III−VI族系と称されている。
【0003】
カルコパイライト型太陽電池は、カルコパイライト化合物を光吸収層として形成された太陽電池であり、高効率、光劣化(経年変化)がない、耐放射線特性に優れ、光吸収波長領域が広く、光吸収係数が高い等の特徴を有し、現在量産に向けた研究が行われている。
【0004】
一般的なカルコパイライト型太陽電池の断面構造を図1に示す。図1に示すように、カルコパイライト型太陽電池は、ガラス基板上に形成された下部電極薄膜と、銅・インジウム・ガリウム・セレンを含む光吸収層薄膜と、光吸収層薄膜の上側に形成されたバッファ層薄膜と、上部電極薄膜とから構成されている。このカルコパイライト型太陽電池に太陽光等の光が照射されると、電子(−)と正孔(+)の対が発生し、電子(−)と正孔(+)はp型半導体とn型半導体との接合面で、電子(−)がn型半導体へ正孔(+)がp型半導体に集まり、その結果、n型半導体とp型半導体との間に起電力が発生する。この状態で電極に導線を接続することにより、電流を外部に取り出すことができる。
【0005】
図2及び図3に、カルコパイライト型太陽電池を製造する工程を示す。初めに、ソーダライムガラス等のガラス基板に下部電極となるMo(モリブデン)電極をスパッタリングによって成膜する。次に図3(a)に示すように、Mo電極をレーザー照射等によって分割する(第1のスクライブ)。第1のスクライブの後、削り屑を水等で洗浄し、銅(Cu)、インジウム(In)及びガリウム(Ga)をスパッタリング等で付着させ、プリカーサを形成する。このプリカーサを炉に投入し、HSeガスの雰囲気中でアニールすることにより、カルコパイライト型の光吸収層薄膜が形成される。このアニール工程は、通常気相セレン化もしくは単にセレン化と称されている。
【0006】
次に、CdS、ZnOやInS等のn型バッファ層を光吸収層上に積層する。バッファ層は、一般的なプロセスとしては、スパッタリングやCBD(ケミカル・バス・デポジション)等の方法によって形成される。次に図3(b)に示すように、レーザー照射や金属針等によりバッファ層及びプリカーサを分割する(第2のスクライブ)。
【0007】
その後図3(c)に示すように、上部電極となるZnOAl等の透明電極(TCO)をスパッタリング等で形成する。最後に図3(d)に示すように、レーザー照射や金属針等によりTCO、バッファ層及びプリカーサを分割する(第3のスクライブ)ことにより、CIGS系薄膜太陽電池が完成する。
【0008】
ここで得られる太陽電池はセルと称せられるものであるが、実際に使用する際には、複数のセルをパッケージングし、モジュール(パネル)として加工する。セルは、各スクライブ工程により、複数の直列段を形成する太陽電池に分割されており、この直列段数を変更することにより、セルの電圧を任意に設計変更することが可能となる。
【0009】
このような従来のカルコパイライト型太陽電池は、その基板材料としてガラス基板が用いられてきた。この理由は、ガラス基板が絶縁性であること、入手が容易であること、価格が比較的安価であること、Mo電極層(下部電極薄膜)との密着性が高いこと、及び表面が平滑であることに基づいている。さらに、ガラス中に含まれているナトリウム成分が、光吸収層(p層)に拡散することにより、エネルギー変換効率が高くなることも挙げられる。その反面、ガラスは融点が低く、セレン化工程でアニール温度を高く設定できないため、結果的にエネルギー変換効率が低く抑えられてしまうこと、基板が厚く質量がかさむため製造設備が大がかりになり、製造後の取り扱いも不便であること、ほとんど変形しないためロール・トウ・ロールプロセス等の大量生産工程が適用できないこと等の欠点があった。
【0010】
これらの課題を解決するために、高分子フィルム基板を用いたカルコパイライト型太陽電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、ステンレス基板の上側及び下側表面に酸化シリコン又はフッカ鉄の層を形成した基体を用い、その上にカルコパイライト型太陽電池構造体を形成する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、カルコパイライト系基板材料として、ガラス、アルミナ、マイカ、ポリイミド、モリブデン、タングステン、ニッケル、グラファイト、ステンレススチールを列挙した技術も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平5−259494号公報
【特許文献2】特開2001−339081号公報
【特許文献3】特開2000−58893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のカルコパイライト型太陽電池の基板材料としてガラス以外の素材を用いているもののうち、特許文献1に記載の高分子フィルムを用いているものについては、特性上例えばポリイミドの場合、260℃以上の高温で処理することができなかった。従って、気相セレン化のような500℃を超える高温プロセスを用いることができず、結果として、変換効率の高い電池を製造することができなかった。
【0012】
また、特許文献2に記載のステンレス基板の上下に酸化シリコン又はフッカ鉄の層(保護層)を形成する技術では、気相セレン化工程で、HSeガスの攻撃性からステンレス基板を保護するのに十分ではなく、腐食したステンレス基板からMo電極層(裏面電極薄膜)が剥離する等の不具合があった。また、保護層が剥がれてしまい、導電性のステンレス基板が露出してしまうため、金属針によるスクライブ工程を導入することができなかった。
【0013】
さらに、特許文献3に記載の技術では、様々な基板材料が提示されているが、その実施の形態に完結した実施例として記載されている技術は全てガラス基板を用いたものであり、提示された基板材料の各々について当業者が実施できる程度に詳細に開示されていない。例えば、各実施例中では、基板を385℃から495℃の間でアニールしているが、これはソーダ石灰ガラスに合わせたものであり、他に列挙されている基板材料を用いて同一のプロセスで作成できるか否か不明である。
【0014】
このように、従来の技術では、絶縁性の高さ、入手が容易にできること、価格が比較的安価であること、Mo電極層(下部電極薄膜)との密着性が良好であること、表面が平滑であること、融点が600℃以上であること、薄く軽量であること、フレキシブル性に富むことの要件を満たす基板材料が用いられていないのが実情である。
【0015】
そこで、本発明者らは先に、優れたフレキシブル性を有し、ロール・トウ・ロルプロセスの大量生産工程に適合すると共に高い変換効率が得られる太陽電池として、基板にマイカ又はマイカを含む材料を選定してフレキシブル性を確保し、更にマイカ又はマイカを含む材料を基板とした場合の問題点、即ち表面平滑性を実現するため基板の表面にセラミックス材料からなる中間層を設け、この中間層の上にバインダを介してカルコパイライト型の光吸収層を形成する提案を行った。
【0016】
また、本発明者らはマイカを含む材料を基板とした場合の問題点として、基板からカリウム(K)が光吸収層に拡散することで、変換効率が低下するとの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため本発明に係るカルコパイライト型太陽電池は、マイカ又はマイカを含む材料からなる基板と、前記基板上に形成される厚さが2μm以上20μm以下のセラミックス系の材料を含む中間層と、前記中間層上に積層される厚さが3000Å以上8000Å以下の窒化チタン(TiN)や窒化タンタル(TaN)などの窒化物系のバインダ層と、前記バインダ層上に形成される下部電極層と、前記下部層上に形成されるカルコパイライト化合物からなるp型の光吸収層と、前記光吸収層上に形成されるn型のバッファ層と、前記バッファ層上に形成される透明電極層とを備える。
【0018】
本発明では、基板として、マイカ又はマイカを主成分とする材料の基板を用いる。マイカは、1012〜1016Ωの高い絶縁性を有すると共に、耐熱温度が800〜1000℃と高く、しかも、酸やアルカリ及びHSeガスに対する耐性も高い特性を有している。従って、最適な温度で気相セレン化処理を行うことができるので、高い変換効率を得ることができる。すなわち、CIGS太陽電池の製造工程において、ソーダライムガラス基板で使用される500℃程度の比較的低い処理温度でセレン化処理を行ったのでは、Gaが光吸収層の下部電極薄膜側に未結晶の状態で偏析するためバンドギャップが小さく、電流密度が低下してしまう。これに対して、600℃以上700℃以下の温度で気相セレン化の熱処理を行うと、光吸収層中にGaが均一に拡散し、しかも未結晶の状態が解消されるためバンドギャップが拡大し、結果的に開放電圧(Voc)が向上する。従って、基板材料としてマイカ又はマイカを主体とする材料を用いることにより、高い変換効率の太陽電池を実現することができる。さらに、マイカ及び集成マイカは、高いフレキシブル性を有しているから、ロール・トウ・ロールの製造工程で生産できるため、量産性の要求に対しても適合することができる。
【0019】
しかしながら、マイカ又はマイカを主体とする材料である集成マイカ基板の表面は平滑ではなく、数10μmの範囲において5〜6μmの最大表面粗度が存在することが判明した。このような大きな表面粗度を有する基板を用いたのでは、表面被覆性が不完全なものとなり、リークを誘発し、太陽電池の開放電圧(Voc)が低下する傾向があり、十分な変換効率が得られない不具合が生じてしまう。この課題を解決するため、本発明では、マイカ又は集成マイカ基板と金属電極との間に、基板表面を平坦化又は平滑化するための厚膜の中間層を形成する。この中間層を形成することにより、基板上に形成される太陽電池を構成する各種の層間の整合性を確保することができ、変換効率が低下する不具合を解消することができる。
【0020】
前記中間層の厚さは、マイカ或いは集成マイカの表面を平坦化する観点より2μm以上であることが望ましく、基板のフレキシブル性を確保する観点より20μm以下に設定する。一方、厚膜の中間層を形成する場合、スパッタリング等の真空処理により酸化膜や窒化膜を形成したのでは、膜形成に長時間かかるだけでなく、太陽電池を曲げたり湾曲させた場合酸化膜や窒化膜に割れが発生するだけでなく、フレキシブル性も低下する不具合が生じてしまう。そこで、本発明では、厚膜の中間層は、例えば刷毛による塗布、スプレー塗布、シルク印刷、スピンコーティング等の非真空処理により形成する。これらの非真空処理による膜形成技術を利用することにより、所望の厚さの中間層を容易に形成することができる。
【0021】
さらに、本発明では、マイカ又は集成マイカの基板上に形成した中間層とその上側に形成されるモリブデン電極との間に、TiN及びTaN等の窒化物系化合物のバインダ層を設ける。このバインダ層は、不純物の拡散を抑制するバリヤ効果を有すると共にモリブデン等との間において高い密着性を有する。このバインダ層の厚さを3000Å以上8000Å以下とするのは、3000Å未満ではマイカ基板から光吸収層へのカリウムの拡散が従来のガラス基板以下にならず、また8000Åを超えるとフレキシブル性が悪くなるとともに剥離しやすくなるからである。
【0022】
本発明による太陽電池の好適実施例は、基板を、マイカの粉体と樹脂とが混合され、圧延工程及び焼成工程経て製造される集成マイカで構成した。集成マイカは、樹脂が混合されているため純粋のマイカ基板よりも耐熱性は低いが、600〜800℃の耐熱温度を有しており、気相セレン化処理の最適温度である600〜700℃において処理することができる。しかも、高いフレキシブル性を有しているので、ロール・トウ・ロールプロセスに適している。しかも、ガラス基板よりもコストが大幅に安価である。従って、基板として集成マイカを用いることにより、大量生産に適合すると共に高い変換効率を有する太陽電池を一層安価な製造コストで製造することができる。
【0023】
尚、中間層の表面に、SiNもしくはSiOのシリコン系の平滑層を設けてもよい。これによりセラミック系材料からなる中間層の表面を平滑にし、バインダ層との密着度を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、マイカ基板又は集成マイカ基板を所定厚みのセラミック系材料(中間層)でコーティングし、この中間層の上に所定厚みの窒化物系バインダ層を介してカルコパイライト光吸収層を設けたので、基板からの不純物(特にカリウム)を光吸収層に拡散することなく、軽量でフレキシブル性に富み、且つ変換効率の高いカルコパイライト型太陽電池を得ることができる。
【0025】
また、窒化物系バインダは比較的高価であるが、安価なセラミック系材料を中間層として用いることでバインダ層の厚さを薄くすることができ、従来のガラス基板を用いたカルコパイライト型太陽電池よりも安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
実施例の説明に先立って、集成マイカ基板の表面形状について説明する。図4(A)及び(B)は、集成マイカ基板の任意の2箇所の表面形状の測定結果を示す。図4において、横軸は集成マイカ基板の横方向の位置を示し、縦軸は高さ方向の位置を示す。集成マイカ基板の特徴として最大高低差が非常に急峻に変化している(アスペクト比が大きい)。図4から明らかなように、横方向に数10μmの範囲において5〜6μmの最大高低差が存在する。この原因は、集成マイカの製法に起因しているものと解され、粉砕したマイカを樹脂中に混合しているため、粉砕マイカ片が表面に存在することになり、アスペクト比を極めて大きくしているものと解される。尚、集成マイカ基板の表面粗度は、測定した2カ所について、それぞれRa=1.6μm及びRa=0.8μmであった。このような表面状態の場合、基板上にMo等の電極を直接成膜し、その上に光吸収層を形成しても、表面被覆が不完全な状態となり、リークを誘発し太陽電池としての機能が著しく低下する。具体的には、太陽電池の開放電圧(Voc)が低下し、変換効率が低下してしまう。
【0027】
次に、集成マイカ基板表面に中間層の材料であるセラミック系の塗料を8μmの厚さにコーティングした後の表面形状の測定結果を図5(A)及び(B)に示す。 図5は、任意の2箇所の測定結果を示す。図5から明らかなように、基板が本来有している大きなうねりが測定されたが、集成マイカ基板の表面形状測定で観測された数μmの範囲で生じている5〜6μmの最大高低差は消滅している。従って、図4及び図5に示す測定結果より、中間層の厚さは、2μm以上あればよく、好ましく5μmあれは良い。
【0028】
図6は本発明による太陽電池の一例の構成を示す断面図である。本例では、基板として集成マイカ基板1を用いる。集成マイカは、粉体状のマイカを樹脂と共に混合し、圧延及び焼成を経て製造される高絶縁性材料である。集成マイカの耐熱温度は600〜800℃程度であり、従来の太陽電池で用いられているソーダライムガラスの耐熱温度(500〜550℃)よりも高温に耐えることができる。また、気相セレン化処理における最適な処理温度は600〜700℃であるから、カルコパイライト型光吸収層を形成する際にも最適温度で形成することができる。しかも、集成マイカは高いフレキシブル性を有するので、ロール・トウ・ロールで生産する場合にも好適である。
【0029】
集成マイカ基板1上に厚膜の中間層2を形成する。この中間層2は、集成マイカ基板表面を平坦化ないし平滑化するものであり、2〜20μmの厚さに形成する。この中間層2はセラミック系の材料で構成する。一例として、チタンが39重量%、酸素が28.8重量%、ケイ素が25.7重量%、炭素が2.7重量%、アルミニウムが1.6重量%の塗料を用いる。また、厚膜の中間層2の形成方法として、例えば刷毛によるコーティング、スプレー塗布、シルク印刷、スピンコーティング等により塗膜を形成し、乾燥及び焼成工程を経て形成される。この中間層の厚さは、集成マイカの表面を平坦化するためには2μm以上の厚さが必要であり、太陽電池を形成したときのフレキシブル性を確保するためには20μm以下とする。中間層の形成に用いられるセラミック材料系の塗料は、ゾルゲルプロセスで製造された無機樹脂を基体とし、ケイ素と酸素がイオン結合により強力に結び付き、1200℃程度の耐熱温度を有している。従って、後述するカルコパイライト型光吸収層を形成するための気相セレン処理の理想的な処理温度においても十分な耐熱性を備えている。
【0030】
セラミック系材料を基板表面にコーティングすることで、開放電圧(Voc)を高く、フィルファクター(FF)値を良くすることができ、結果的に変換効率が高くなる。この理由は、従来にあっては集成マイカ基板表面の急激な高低差変化に、表面平滑層とバインダ層が追従できない、即ち、深い谷の部分に酸化膜や窒化膜入り込めないため表面の平滑性を改善できないからである。
【0031】
尚、スパッタリングを多く行うことにより、酸化膜(窒化膜)を厚く形成して表面を平滑にすることも考えられるが、この場合には、太陽電池を曲げたときに酸化膜(窒化膜)が割れ、下部電極層や光吸収層を傷つけてしまうおそれがあるので、集成マイカ基板の利点であるフレキシブル性をスポイルしてしまう。更にスパッタリング自体コストがかかるので、量産には向かない。
【0032】
次いで中間層2上に表面平滑層3を形成する。この表面平滑層3として、SiNやSiOを用いることができ、スパッタリング等のドライプロセスにより形成する。Si系の材料を用いる理由として、中間層2の表面を一層平滑な面とすることができ、並びに下地のセラミック系材料の中間層と後述するバインダ層との密着性を高めることができることが挙げられる。この表面平滑層3は、必要に応じて形成し、省略することも可能である。
【0033】
表面平滑層3上に、バインダ層4を形成する。このバインダ層4は、下地のマイカ基板及び中間層からの不純物ないし組成物の拡散を防止すると共に、この上に形成されるモリブデンやタングステン等の金属電極5とマイカ基板構造体(マイカ基板1及び中間層2を含む)との間の密着性を改善するために形成する。このバインダ層4の材料として、TiNやTaN等の窒化物系化合物が好適である。このバインダ層4の厚さは、実験結果によれば、バリヤ性を確保するためには3000Å以上必要でありバリヤ性と密着性を両立させるためには厚ければよいが10000Åを超えると剥離が生じやすくなるため8000Å以下とすべきである。
【0034】
バインダ層4上には、従来のカルコパイライト型太陽電池と同様に各層を形成する。すなわち、初めに、下部電極となるモリブデン(Mo)電極5をスパッタリングにより形成し、Mo電極5をレーザーの照射によって分割する(第1のスクライブ)。
【0035】
次に、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)をスパッタリング等により付着させてプリカーサを形成した後、このプリカーサを炉内に配置し、HSeガスの雰囲気中でアニールする気相セレン化処理によりカルコパイライト系の光吸収層6を形成する。尚、必要な場合、気相セレン化処理に先立ってアルカリ金属であるナトリウム(Na)を添加する工程を行うこともできる。光吸収層中にNaを拡散させることにより、光吸収層の粒(グレイン)が成長することにより、エネルギー変換効率が高くなるためである。
【0036】
光吸収層6はp型半導体層であり、この光吸収層上には、CdS、ZnOやInS等のn型半導体層として機能するn型バッファ層7をスパッタリング又はCBD(ケミカル・バス・デポジション)等の方法により例えば数100Åの厚さに形成する。尚、このn型バッファ層7上には、必要に応じて高抵抗層8を数100Åの厚さに形成することができる。その後、レーザー照射や金属針により光吸収層及びバッファ層を分割する(第2のスクライブ)。
【0037】
その後、上部電極となるZnOAl等の透明電極(TCO)9をスパッタリングやCBD等により形成し、その上に反射防止膜10を形成する。さらに、レーザー照型光吸収層射や金属針等により反射防止膜、透明電極、バインダ層及び光吸収層を分割する(第3のスクライブ)。最後に、下部電極層5及び上部電極層9に引き出し電極11及び12を形成することにより、カルコパイライト系薄膜太陽電池が完成する。
【0038】
尚、モリブデン電極5の形成工程以降の工程について、CBD等のウェットプロセスをドライプロセスに置き換えることにより、集成マイカ基板をロールから供給し太陽電池を形成する「ロール・トウ・ロール・プロセス」を導入することが可能になる。尚、ロール・トウ・ロール・プロセスを導入する際には、セラミック系材料の中間層を形成する工程を、予め集成マイカ基板に行ってもよく、或いは、ロール・トウ・ロール・プロセスの中に組み込むことも可能である。
【0039】
図7はバインダ層の膜厚変化による変換効率を示すグラフであり、このグラフから、バインダ層が無い状態では中間層を備えた太陽電池の方が中間層を備えない場合と比較して、変換効率が4%程度高く、バインダ層が1000Åの状態では、中間層を備えた太陽電池の方が、中間層を備えない場合と比較して変換効率が7%弱高いことが分かる。
【0040】
このことより、中間層の存在により、バインダ層の効果が高められていると言える。また、中間層がある場合には、バインダ層の効果が膜厚が薄い段階で現れる。したがって、中間層がある場合にはバインダ層を薄くすることが可能となる。
【0041】
バインダ層の膜厚依存性について更に検証した結果を図8に示す。図8は集成マイカ基板上に中間層であるセラミック系材料の塗膜を形成し、Mo電極との間にバインダ層を形成した場合に、気相セレン化処理後にSIMS(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)法により拡散した不純物の数を測定したものであり、(a)は検出カウント数をリニアスケールで示したグラフ、(b)は(a)の検出カウント数を対数表示したグラフである。
【0042】
図8(a)のグラフからは、太陽電池の変換効率に影響を与えている不純物元素はカリウム(K)であることとカリウム(K)の拡散はバインダ層の厚さに依存することが分かる。また(b)のグラフからは、カリウム(K)の濃度をガラス基板を用いた場合よりも低レベルにするにはバインダ層の厚さを300nm(3000Å)以上にする必要があることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】従来のカルコパイライト型太陽電池の構造を示す断面図
【図2】従来のカルコパイライト型太陽電池の一連の製造工程を示す図
【図3】製造工程のうちの要部を説明した図
【図4】集成マイカ基板の表面形状を示すグラフ
【図5】(A)及び(B)は集成マイカ基板表面に厚膜の中間層を形成した後の表面形状を示す線図
【図6】本発明による太陽電池の一例の構成を示す断面図
【図7】バインダ層の膜厚変化による変換効率を示すグラフ
【図8】(a)は光吸収層に拡散した元素の種類と検出カウント数をバインダ層の有無及びバインダ層の厚さ毎に示したグラフ(b)は(a)の検出カウント数を対数表示したグラフ
【符号の説明】
【0044】
1…集成マイカ基板
2…中間層
3…表面平滑層
4…バインダ層
5…金属下部電極層
6…光吸収層
7…n型バッファ層
8…高抵抗層
9…透明電極層
10…反射防止膜
11,12…引き出し電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイカ又はマイカを含む材料からなる基板と、
前記基板上に形成される厚さが2μm以上20μm以下のセラミックス系の材料を含む中間層と、
前記中間層上に積層される厚さが3000Å以上8000Å以下の窒化物系のバインダ層と、
前記バインダ層上に形成される下部電極層と、
前記下部層上に形成されるカルコパイライト化合物からなるp型の光吸収層と、
前記光吸収層上に形成されるn型のバッファ層と、
前記バッファ層上に形成される透明電極層とを備えることを特徴とするカルコパイライト型太陽電池。
【請求項2】
請求項1に記載のカルコパイライト型太陽電池において、前記バインダ層は、窒化チタン(TiN)または窒化タンタル(TaN)を含む膜によって形成されていることを特徴とするカルコパイライト型太陽電池。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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