説明

カルシウム含有水への散気装置及び散気方法

【課題】 飛灰を脱塩処理後、セメントキルンにスラリーとして添加して原料化するにあたり、スラリー輸送用配管及び散気装置におけるスケールの成長を防止し、安定して飛灰をセメント原料として有効利用することなどを可能とする。
【解決手段】 槽2内でカルシウム含有水Wに散気を行う散気装置であって、回転軸3を介して散気ガスGを送り、回転軸3に放射状に取り付けた円筒形散気ノズル5の円筒側面に形成した隙間より散気する。散気ノズルは、スプリング式とすることができ、放射状に取り付けられた散気ノズル5は、槽2内の流体抵抗によって撓み、回転軸3は2方向に回転可能とすることが好ましい。散気ノズル5を、槽2の下側30%の高さ範囲に設置し、槽2内に、粒状媒体を備えることが好適である。回転軸3にさらに撹拌翼4を装着したり、撹拌翼4と散気ノズル5を別々の回転軸に取り付けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置内におけるスケールの成長を防止し、スラリー化した飛灰をセメント原料として有効利用することなどを可能としたカルシウム含有水への散気装置及び散気方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却設備等から発生する飛灰は、該飛灰に含まれる塩素がセメント原料として利用する際の障害となるため、水洗により脱塩処理を行った後、セメントキルンにスラリーとして添加されている。
【0003】
しかし、この飛灰溶解スラリーには、消石灰等のカルシウム成分が多く含まれているため、スラリー輸送用配管等にスケールが成長し、配管等に付着したスケールを定期的に除去する必要があり、飛灰の原料化装置の稼働率を下げる大きな要因となっている。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、 飛灰を溶解した水を収容した飛灰無害化槽に、中和用の炭酸ガスを含む排ガスを吹き出しノズルから吹き込むにあたって、排ガスの吹き出しノズルに炭酸カルシウムのスケールが付着してノズルが閉塞することを防止するため、中和によって生成された炭酸カルシウムを濃縮した上、種晶として種晶戻し配管より飛灰無害化槽へ再循環させる技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、飛灰溶解スラリーに炭酸ガスを吹き込むことにより、スラリーに溶解したカルシウム成分を析出させる方法がスケールの成長防止に有効であることが記載され、炭酸ガスを吹き込むため、弾性を有するゴムからなり、ガスの吹き込み前には平面形状を呈し、ガスが吹き込まれると外側に膨出することにより、表面に付着したスケールを除去することが可能な散気板が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−108038号公報
【特許文献2】国際公開WO2004/030839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の飛灰の排ガス中和方法においては、炭酸カルシウムのスケールによるノズルの閉塞を防止できたとしても、炭酸カルシウムを濃縮した上、種晶として種晶戻し配管より飛灰無害化槽へ再循環させる設備が必要になるという問題があった。
【0008】
一方、特許文献2に記載のカルシウム含有粉体の処理方法及び装置においては、上記構造を有する散気板を用いたとしても、例えば、当初弾性を有していたゴムが硬化することにより散気板が析出物で頻繁に閉塞してしまうため、スラリー輸送用配管等の掃除に代えて、散気装置を掃除する手間が増加する結果となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、焼却設備等から発生する飛灰を、水洗により脱塩処理を行った後、セメントキルンにスラリーとして添加して原料化するにあたり、スラリー輸送用配管、及びスラリーに溶解したカルシウム成分を析出させる散気装置におけるスケールの成長を防止し、安定して飛灰をセメント原料として有効利用することなどを可能とするカルシウム含有水への散気装置及び散気方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、槽内でカルシウム含有水に散気を行う装置であって、回転軸を介して散気ガスを送り、該回転軸に放射状に取り付けた円筒形散気ノズルの円筒側面に形成した隙間より散気を行うことを特徴とする。
【0011】
そして、本発明によれば、回転軸に放射状に取り付けた円筒形散気ノズルの円筒側面に形成した隙間よりカルシウム含有水に散気を行うため、隙間が散気ガスの圧力によって拡げられること、及び散気ノズルの断面が円形となっていることにより、析出物による散気ノズルの閉塞を効果的に防止することができる。
【0012】
前記カルシウム含有水への散気装置において、前記散気ノズルをスプリング式とし、隣接するばね部材の間隙より散気ガスを槽内に吹き込むことにより、析出物による散気ノズルの閉塞をより効果的に防止することができる。
【0013】
前記放射状に取り付けられた散気ノズルを、前記槽内の流体抵抗によって撓むように構成し、前記回転軸を2方向に回転可能とすることができる。これによって、定期的に散気ノズルを反転させることができ、散気ノズルに付着したスケールを落下させることができる。
【0014】
前記散気ノズルを、前記槽の下側30%の高さ範囲に設置することにより、槽内の低い領域に存在する粗粒子をスケールの掻き落としに利用することができる。
【0015】
また、前記槽内に、粒状媒体を備えることにより、スケールの掻き落としに利用することのできる粗粒子をカルシウム含有水中に含まない場合でも、媒体を利用してスケールを掻き落とし、散気ノズルにおけるスケールの成長を防止することができる。
【0016】
前記散気ノズルの回転軸に、さらに撹拌翼を装着し、カルシウム含有水の散気及び攪拌を行うことを特徴とする。撹拌翼によってカルシウム含有水を撹拌し、散気ノズルから供給された気体と、カルシウム含有水との反応を促進することができる。
【0017】
前記カルシウム含有水への散気装置において、前記撹拌翼と前記散気ノズルを、互いに異なる回転軸に装着し、前記散気ノズルの回転速度又は/及び回転方向を可変とすることができる。これによって、装置の散気性能及び撹拌性能を調整することができる。
【0018】
さらに、本発明は、カルシウム含有水への散気方法であって、前記散気装置を用いて、カルシウム含有水に炭酸ガスを含む燃焼ガスを散気しながら撹拌することを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、カルシウム含有水に炭酸ガスを吹き込みながら撹拌することにより、カルシウム含有水に溶解したカルシウム成分が析出し、輸送用配管等のスケールの成長防止に有効であるとともに、散気装置が析出物で閉塞する問題も解消することができるため、例えば、飛灰を水洗して得られたスラリーをセメント原料として有効利用する際に好適である。
【0020】
前記カルシウム含有水が、焼却飛灰を含むスラリーであり、該スラリーのpHを8.5以上、11.5以下とすることができる。これによって、スラリーに溶存するカルシウム成分の量を低減し、スケールの析出量を減少させることができる。
【0021】
前記カルシウム含有水への散気方法において、前記散気ノズルに、散気ガス逆流防止装置を取り付け、該カルシウム含有水への散気装置の停止時には、該散気ノズルに前記散気ガス以外のガス、例えば、空気を導入することにより、カルシウム含有水の散気を停止している間に散気ノズルの中にカルシウム含有水等が入り込まないようにすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明にかかるカルシウム含有水への散気装置及び散気方法によれば、水洗により脱塩処理を行った飛灰含有スラリーをセメントキルンに原料として添加するにあたり、スラリー輸送用配管、及びスラリーに溶解したカルシウム成分を析出させる散気装置におけるスケールの成長を防止することができ、安定して飛灰をセメント原料として有効利用することなどが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明にかかるカルシウム含有水への散気装置の一実施の形態を示し、この散気装置1は、カルシウム含有水Wを収容する円筒状の溶解槽2と、溶解槽2の中心部で回転する回転軸3と、回転軸3に放射状に装着され、カルシウム含有水Wを撹拌する撹拌翼4と、撹拌翼4の下方において回転軸3に放射状に装着され、カルシウム含有水Wに散気する回転式散気ノズル5と、回転軸3を回転させるためのモータ6と、カルシウム含有水Wの供給管10及び排出管11等で構成される。
【0024】
溶解槽2は、円筒状に形成され、その中心部を鉛直方向に回転軸3が延設される。溶解槽2の上面には、カルシウム含有水Wを溶解槽2に供給するための供給管10が設けられ、溶解槽2の下部には、溶解槽2からカルシウム含有水Wを排出するための排出管11が設けられる。
【0025】
回転軸3には、プーリ7、ベルト8及びプーリ9を介してモータ6の駆動力が伝達され、回転軸3が溶解槽2の内部で回転し、これに伴い、撹拌翼4と回転式散気ノズル5とが回転する。また、回転軸3の内部には、散気ガスGの流路が形成され、回転軸3を介して散気ガスGが回転式散気ノズル5に供給される。
【0026】
撹拌翼4は、溶解槽2内のカルシウム含有水Wを撹拌するために設けられ、回転軸3に3枚放射状に取り付けられている。
【0027】
回転式散気ノズル(以下、「散気ノズル」と略称する)5は、溶解槽2内のカルシウム含有水Wに散気するために設けられ、撹拌翼4の下方において、回転軸3に放射状に8本取り付けられている。この散気ノズル5は、図2及び図3に示すように、スプリング式ノズルと呼ばれるものであって、巻回されたばね部材5aの各々には、図4に示すように、突起5bが設けられ、この突起5bによって隣接するばね部材5a間に隙間が形成される。そして、図2に示すように、開口部5cから導入された散気ガスGが、ばね部材5aの隙間から図1の溶解槽2内のカルシウム含有水Wに放出される。
【0028】
次に、上記構成を有する散気装置1の動作について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0029】
モータ6を運転し、モータ6の動力をプーリ7、ベルト8及びプーリ9を介して回転軸3に伝達し、回転軸3を回転させる。同時に、図示しない散気ガス供給装置から回転軸3の内部に散気ガスGを供給する。
【0030】
図示しない供給装置から、供給管10を介して溶解槽2内にカルシウム含有水Wを供給する。回転軸3の回転に伴い撹拌翼4及び散気ノズル5が回転し、撹拌翼4によって溶解槽2内のカルシウム含有水Wが撹拌される。また、散気ノズル5に回転軸3を介して供給された散気ガスGが溶解槽2内のカルシウム含有水Wに散気される。これによって、溶解槽2内において、カルシウム含有水Wに散気ガスGが散気されながら、カルシウム含有水Wが撹拌され、カルシウム含有水Wと散気ガスGの反応が促進される。
【0031】
また、散気ノズル5にスプリング式ノズルを用いているため、隣接するばね部材5aの間隙から散気ガスGを槽内に吹き込むことができ、ばね部材5aの間隙が散気ガスGの圧力によって拡げられること、ばね部材5aの断面が円形となっていること、及び散気ノズル5全体が流体抵抗により回転方向とは反対側に撓むことなどにより、析出物による散気ノズル5の閉塞をより効果的に防止することができる。
【0032】
尚、上記実施の形態において、回転軸3を2方向に回転可能とすることにより、定期的に散気ノズル5を反転させることができ、散気ノズル5に付着したスケールを落下させることができる。
【0033】
また、上記実施の形態においては、撹拌翼4及び散気ノズル5を同一の回転軸3に装着したが、撹拌翼4及び散気ノズル5を互いに異なる回転軸に装着し、これらの回転軸の回転速度及び回転方向を可変とし、所望の散気性能を発揮させることもできる。
【0034】
さらに、溶解槽2内に散気ノズル5への付着物を摩擦して削ぎ落とすための粒状物等の媒体を投入してもよく、特に、粗い粒子を含有しないカルシウム含有水を取り扱う場合には効果的である。
【0035】
図5は、上記図2乃至図4に示した散気ノズル5に代えて用いることのできるスリット式の散気ノズル15を示す。この散気ノズル15は、図1に示した回転軸3に放射状に複数本取り付けることができ、図5に示すように、右端部に開口部15dを備え、左端部が閉じられた円筒状の本体15aには、上下のスリット15bと、左右のスリット15cとが形成される。そして、同図に示すように、開口部15dから導入された散気ガスGが、上下スリット15bと、左右スリット15cから図1の溶解槽2内のカルシウム含有水Wに放出される。
【0036】
この散気ノズル15により、散気ノズル5を使用した場合と同様に、上下スリット15bと、左右スリット15cから散気ガスGを槽内に吹き込むことができ、上下スリット15b及び左右スリット15cが散気ガスGの圧力によって拡げられること、本体15aの断面が円形となっていること、及び散気ノズル15全体が流体抵抗により回転方向とは反対側に撓むことなどにより、析出物による散気ノズル15の閉塞を効果的に防止することができる。
【0037】
尚、上記実施の形態においては、撹拌翼4と散気ノズル5(15)とを回転軸3に装着した散気装置1について説明したが、回転軸3に散気ノズル5(15)のみを装着した散気装置とすることも可能である。
【0038】
また、上記実施の形態においては、カルシウム含有水に散気する場合について説明したが、カルシウム含有水と粉体とが共存するカルシウム含有スラリに本発明にかかる散気装置及び散気方法を用いて散気を行うことができることはもちろんである。
【実施例】
【0039】
次に、図1乃至図4に示した散気装置1を用いたカルシウム含有水への散気方法の実施例として、炭酸ガスを含む燃焼排ガスを散気ガスとして、焼却飛灰を含むスラリーに吹き込むことにより、スラリーに溶解したカルシウム成分を析出させる場合を例にとって説明する。
【0040】
図示しない散気ガス供給装置から回転軸3の内部に散気ガスGを供給し、モータ6を運転して回転軸3を回転させる。飛灰と水とを混合してスラリー化し、供給管10から溶解槽2へ供給する。回転軸3の回転により、撹拌翼4及び散気ノズル5が回転し、溶解槽2内のスラリーSに散気ガスGを吹き込みながら撹拌する。
【0041】
上述のようにして、スラリーSに吹き込まれた散気ガスGには、炭酸ガスが含まれているため、スラリーSに溶解したカルシウム成分が炭酸カルシウムとして析出する。散気ガスGとの反応が完了したスラリーSは、排出管11より排出される。尚、この際、溶解槽2内のスラリーSに溶存するカルシウム成分の量を低減し、スケールの析出量を減少させるため、溶解槽2内のスラリーSのpHを8.5以上、11.5以下に調整することが好ましい。
【0042】
上記操作によって、飛灰に含まれる塩素が水洗により脱塩され、脱塩後のスラリー固形分をセメントキルンに添加してセメント原料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明にかかるカルシウム含有水への散気装置の一実施の形態を示す一部断面図である。
【図2】図1の散気装置のスプリング式散気ノズルを示す断面図である。
【図3】図2のスプリング式ノズルのばね部材を示す斜視図である。
【図4】図2のスプリング式ノズルのばね部材に形成された突起を示す斜視図である。
【図5】図1のカルシウム含有水への散気装置に用いることのできるスリット式散気ノズルを示す図であって、(a)は正面図、(b)は上面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 カルシウム含有水への散気装置
2 溶解槽
3 回転軸
4 撹拌翼
5 散気ノズル
5a ばね部材
5b 突起
5c 開口部
6 モータ
7 プーリ
8 ベルト
9 プーリ
10 供給管
11 排出管
15 散気ノズル
15a 本体
15b 上下スリット
15c 左右スリット
15d 開口部
G 散気ガス
S スラリー
W カルシウム含有水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内でカルシウム含有水に散気を行うカルシウム含有水への散気装置であって、回転軸を介して散気ガスを送り、該回転軸に放射状に取り付けた円筒形散気ノズルの円筒側面に形成した隙間より散気を行うことを特徴とするカルシウム含有水への散気装置。
【請求項2】
前記散気ノズルは、スプリング式であることを特徴とする請求項1に記載のカルシウム含有水への散気装置。
【請求項3】
前記放射状に取り付けられた散気ノズルは、前記槽内の流体抵抗によって撓むように構成され、前記回転軸は2方向に回転可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカルシウム含有水への散気装置。
【請求項4】
前記散気ノズルを、前記槽の下側30%の高さ範囲に設置したことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のカルシウム含有水への散気装置。
【請求項5】
前記槽内に、粒状媒体を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載カルシウム含有水への散気装置。
【請求項6】
前記散気ノズルの回転軸に、さらに撹拌翼を装着し、カルシウム含有水の散気及び攪拌を行うことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のカルシウム含有水への散気装置。
【請求項7】
前記撹拌翼と前記散気ノズルを、互いに異なる回転軸に装着し、前記散気ノズルの回転速度又は/及び回転方向を可変としたことを特徴とする請求項6に記載のカルシウム含有水への散気装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の散気装置を用いて、カルシウム含有水に炭酸ガスを含む燃焼ガスを散気しながら撹拌することを特徴とするカルシウム含有水への散気方法。
【請求項9】
前記カルシウム含有水が、焼却飛灰を含むスラリーであり、該スラリーのpHを8.5以上、11.5以下とすることを特徴とする請求項8に記載のカルシウム含有水への散気方法。
【請求項10】
前記散気ノズルに、散気ガス逆流防止装置を取り付け、該カルシウム含有水への散気装置の停止時には、該散気ノズルに前記散気ガス以外のガスを導入することを特徴とする請求項8又は9に記載のカルシウム含有水への散気方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−7598(P2007−7598A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193645(P2005−193645)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】