説明

カルボニル化プロセス

水酸化アンモニウム水溶液で処理されたシリカ:アルミナのモル比が少なくとも10:1のモルデナイトである触媒の存在下でメタノール及びその反応性誘導体から選択される少なくとも1つのカルボニル化可能な反応物質を一酸化炭素でカルボニル化することにより、酢酸及び酢酸メチルから選択される少なくとも1つのカルボニル化生成物を製造するプロセス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上されたモルデナイトカルボニル化触媒の存在下で一酸化炭素を用いてメタノール及び/又はその反応性誘導体をカルボニル化して酢酸及び/又は酢酸メチルを製造するプロセスに関する。特に、本発明は、カルボニル化触媒活性の向上したモルデナイト触媒存在下で一酸化炭素を用いてメタノール及び/又はその反応性誘導体をカルボニル化して酢酸及び/又は酢酸メチルを製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、石油化学産業において触媒として広く応用されているミクロ多孔性結晶構造体である。ゼオライトのミクロ細孔を介した分子の輸送は拡散により起こり、反応速度に影響を与えると考えられている。しかし、ミクロ細孔ネットワークは拡散を制限し、活性部位へのアクセスを妨げ、反応速度を制限する。ミクロ細孔構造体にメソ多孔性を導入することにより触媒の有効性を向上させようという試みが行われてきた。メソ細孔は、ミクロ細孔へのアクセスを向上させることで拡散速度を速め、触媒性能を向上させた。
【0003】
ゼオライト中のメソ多孔度を上げる効果的な方法がゼオライト骨格からのケイ素の選択的抽出であることが示され、これは当該技術分野で脱ケイ素(desilication)と呼ばれる。モルデナイトのメソ多孔度(mesoporosity)を上げるための脱ケイ素の使用は、例えば国際公開第2008/147190号パンフレット(特許文献1)に記載されている。国際公開第2008/147190号パンフレット(特許文献1)では、骨格のSi/Al原子比が少なくとも15である脱アルミニウムされていないモルデナイトを、ケイ素の除去によりメソ多孔性を生じさせるために水酸化ナトリウム等のアルカリ処理に供することで、メソ多孔性モルデナイトが調製される。
【0004】
米国特許第5,118,482号明細書(特許文献2)は、ゼオライトを再アルミニウム化することでシリカアルミナ比を低下させるプロセスであって、ゼオライトを約25℃より高い温度で塩基性水溶液に接触させることで非骨格アルミニウムを含む骨格欠損ゼオライトの骨格アルミニウム含有量を増加させる、プロセスを記載している。
【0005】
モルデナイト等のゼオライトは、炭化水素の水素化分解、アルキル交換反応等の炭化水素変換反応を触媒することが知られている。例えば、米国特許第3,619,412号明細書(特許文献3)は、モルデナイトと非晶性シリカ−アルミナとの混合物からなる支持体にフッ素化合物の溶液を含浸し、乾燥させ、1又は複数の水素化金属(hydrogenative metal)を含む溶液で処理することによる、水素化分解触媒の調製を記載している。米国特許第4,039,479号明細書(特許文献4)は、NaOとしてのナトリウム含有量が5wt%未満のモルデナイトを少なくともpH約9.5でアンモニア性水溶液により処理し、アルミナ等の非ゼオライト耐熱無機酸化物と、焼成条件で前記酸化物に変換可能なアルミニウム塩等の金属塩との均質な混合物中で焼成することによる、複合触媒の製造方法を記載している。ゼオライトと耐熱無機酸化物との混合物中に金属塩を含めると、それから作製された複合触媒の特にアルキル芳香族炭化水素のアルキル交換反応に関する活性が有意に向上することが見出されたと言われている。
【0006】
一酸化炭素を用いてメタノール及び/又はその反応性誘導体をカルボニル化することにより酢酸及び/又は酢酸メチルを製造するためのカルボニル化プロセスは公知である。そのようなプロセスは通常、ロジウム、イリジウム等のVIII属金属触媒を使用する。モルデナイトもカルボニル化反応を触媒することが知られている。例えば、欧州特許出願公開第1985362号A明細書(特許文献5)には、モルデナイト触媒存在下でジメチルエーテルをカルボニル化するプロセスが記載されている。欧州特許出願公開第1985362号A明細書(特許文献5)では、銀及び/又は銅並びに少量の白金を担持させたモルデナイト触媒を用いることで触媒活性を向上させることができることが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/147190号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5,118,482号明細書
【特許文献3】米国特許第3,619,412号明細書
【特許文献4】米国特許第4,039,479号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1985362号A明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
メタノール及び/又はその反応性誘導体のカルボニル化におけるモルデナイトの触媒性能を向上させる代替的方法、特に助触媒金属の使用が回避又は軽減される方法を見出すことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
今回、モルデナイトを水酸化アンモニウムの水溶液で処理することでカルボニル化反応におけるモルデナイトの触媒活性を向上させることができることを見出した。
【0010】
したがって、本発明は、酢酸及び酢酸メチルから選択される少なくとも1つのカルボニル化生成物を製造するプロセスであって、メタノール及びその反応性誘導体から選択される少なくとも1つのカルボニル化可能な反応物質を触媒存在下で一酸化炭素を用いてカルボニル化することを含み、前記触媒が、水酸化アンモニウム水溶液で処理されたシリカ:アルミナのモル比が少なくとも10:1のモルデナイトである、プロセスを提供する。
【0011】
本発明のカルボニル化プロセスにおいて使用するための触媒は、水酸化アンモニウム水溶液を用いて処理されたモルデナイトである。
【0012】
メタノール及び/又はその反応性誘導体のカルボニル化において、水酸化アンモニウム水溶液で処理されたモルデナイトの触媒活性が未処理モルデナイトのカルボニル化反応における触媒活性と比べて有意に向上していることを見出した。この発見は予想とは反していた。水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物で処理されたモルデナイトの触媒活性が向上するのは、塩基処理が脱ケイ素によるメソ多孔度の有意な増加を誘導するためである。しかし、今回、モルデナイトを水酸化ナトリウムで処理しても、顕著な脱ケイ素は起こらず、メソ細孔の容積変化はあったとしてもほとんどないことが見出された。したがって、モルデナイトを水酸化アンモニウムで処理しても触媒活性は変化しないことが予想され、更に、水酸化アンモニウムで処理したモルデナイトが同じモルデナイトをアルカリ金属水酸化物で処理した場合よりも高い触媒活性を有することは予想されなかった。驚くべきことに、水酸化アンモニウム水溶液で処理したモルデナイトは、水酸化ナトリウム水溶液で処理したモルデナイトよりも優れた触媒活性を示すことが見出された。
【0013】
モルデナイトの構造は周知であり、例えばThe Atlas of Zeolite Framework Types (C. Baerlocher, W. M. Meier, D. H. Olson, 5th ed. Elsevier, Amsterdam, 2001)に記載されている。ウェブベースのバージョン(http://www.iza−structure.org/databases/)は、モルデナイトを含むゼオライトのトポロジー的及び構造的詳細の概要である。
【0014】
モルデナイトは天然のゼオライトであるが、合成することもでき、商業的に入手することもできる。市販されているモルデナイトの形態には、ナトリウム型、酸型、及びアンモニウム型が含まれる。水酸化アンモニウム水溶液で処理されるモルデナイトは、任意の型のモルデナイトであってよいが、好ましくはH型(酸型)又はアンモニウム型である。
【0015】
水酸化アンモニウム水溶液で処理される前に、モルデナイトは、脱アルミニウムモルデナイトを生成するために脱アルミニウムされたモルデナイトであってよい。脱アルミニウムモルデナイトとは、骨格からアルミニウムが除去されたモルデナイトを意味する。脱アルミニウム法は当該技術分野で公知であり、例えばスチーム及び/又は酸浸出による処理が含まれる。好適な脱アルミニウム方法は、例えば、スチームと鉱酸に交互に接触させることでモルデナイトを脱アルミニウムするプロセスを記載している米国特許第3,551,353号に記載されている。
【0016】
好ましくは、水酸化アンモニウム水溶液で処理されるモルデナイトは脱アルミニウムモルデナイトである。
【0017】
処理されるモルデナイトのシリカ:アルミナ比は少なくとも10:1、例えば10〜250:1であり得る。好ましくは、モルデナイトのシリカ:アルミナ比は10〜100:1、例えば、15〜60:1、例えば30〜50:1である。
【0018】
好ましくは、モルデナイトは、pH11以上の水酸化アンモニウム水溶液で処理される。水酸化アンモニウム溶液のpHは、溶液中に含まれるアンモニアの濃度に依存する。好ましくは、アンモニアは、pHが11以上、例えばpHが11〜14となるのに十分な濃度で溶液中に存在する。典型的には、アンモニアの濃度が15〜25wt%のアンモニア水溶液が使用され得る。
【0019】
水酸化アンモニウム溶液を用いた処理が行われる温度及び時間は変わり得る。しかし、処理が液相で行われる場合、処理に選択される温度は、溶液中で水酸化アンモニウムの有効濃度が維持されるような温度であるべきである。好ましくは、温度は70〜100℃、例えば80〜90℃であり得る。しかし、それより低い温度、例えば50℃以下も使用され得る。全ての処理レベルで、必要な処理時間は温度に依存する。低温での処理は、高温で行われる処理よりも長い時間を必要とする。
【0020】
処理時間は、使用される温度、水酸化アンモニウムの濃度、並びに処理されるモルデナイトの物理的及び化学的性質、特にシリカ:アルミナのモル比に依存する。しかし、シリカ:アルミナのモル比が15〜60:1、例えば30〜50:1のモルデナイトを、温度70〜90℃で水酸化アンモニウム溶液(15〜25wt%アンモニア)を用いて数時間、例えば少なくとも5時間、例えば5〜24時間処理することで効果的な処理を行うことができることが分かっている。
【0021】
水酸化アンモニウム溶液での処理後、好ましくは、モルデナイトをろ過し、水で洗浄して余分な水酸化アンモニウムを除去した後、乾燥させる。このアンモニウムモルデナイトを、本発明のプロセスにおける触媒として使用してもよく、あるいは、例えば焼成等の熱処理法によって、H型に変換してもよく、変換することが好ましい。
【0022】
シリカ:アルミナ比が15〜60:1、例えば30〜50:1のH型又はNH型のモルデナイトの水酸化アンモニウム溶液を用いた処理は、温度が50〜100℃、好ましくは80〜90℃、水酸化アンモニウム溶液のpHが11〜14、時間が5〜24時間、好ましくは5〜10時間の条件下で有利に行うことができる。
【0023】
その後、例えば氷水混合物中に容器を浸漬することで、反応液を急冷し、その後、ろ過し、脱イオン水で洗浄する。ろ過及び洗浄後、モルデナイトを乾燥させ、焼成する。乾燥は典型的には約110℃で行われる。焼成は、アンモニウムイオンの分解及びH型のモルデナイトの形成が起こるのに十分な温度で行われ得る。好ましくは、焼成は、少なくとも400℃、例えば400〜600℃、例えば450〜550℃の温度で行われ、静止空気下でも行われ得る。
【0024】
水酸化アンモニウム水溶液を用いてモルデナイトを処理しても、処理前のモルデナイトのシリカ:アルミナ比が本質的に変化せずに維持されることが見出された。したがって、モルデナイトのシリカ:アルミナのモル比を低下させることなく、カルボニル化プロセスにおける触媒活性を向上させることができる。
【0025】
本発明のプロセスにおける触媒として使用するための処理されたモルデナイトのシリカ:アルミナ比は、少なくとも10:1、例えば10〜250:1、好ましくは15〜100:1、例えば25〜60:1、例えば30〜50:1である。
【0026】
したがって、本発明は更に、シリカ:アルミナ比が少なくとも10:1のモルデナイトである触媒の使用であって、モルデナイトが、酢酸及び酢酸メチルから選択される少なくとも1つのカルボニル化生成物の製造プロセスにおける触媒活性を向上させるために水酸化アンモニウム水溶液で処理されており、プロセスが、メタノール及びその反応性誘導体から選択される少なくとも1つのカルボニル化可能な反応物質を一酸化炭素でカルボニル化することを含む、使用を提供する。
【0027】
本発明のプロセスに使用するための触媒は、アンモニウム型であるか好ましくはH型である処理されたモルデナイトであり得る。典型的には、H型のモルデナイトを水酸化アンモニウム溶液で処理すると水素イオンがアンモニウムイオンと交換される。アンモニウム型のモルデナイトは、アンモニウムイオンを熱分解し且つH型のモルデナイトを形成させる焼成等の熱処理により、H型に変換することができる。焼成は、少なくとも400℃、例えば400〜600℃、例えば450〜550℃の温度で行われ得る。
【0028】
触媒は、粉末、ペレット、又はその他の形態の押出物等の任意の好適な形態で本発明のプロセスに使用され得る。
【0029】
触媒をバインダー材料と組み合わせてもよい。任意の好適なバインダーが使用され得る。特に有用なバインダーは、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ケイ酸マグネシウム、及びケイ酸マグネシウムアルミニウム、好ましくは、アルミナ又はシリカ−アルミナから選択される群の1又は複数等の無機酸化物材料である。好適なアルミナの例としては、ベーマイト型のアルミナ及びガンマアルミナが含まれる。
【0030】
好ましくは、バインダーは、無機酸化物が高温で安定であるような、特に触媒の焼成に使用され得る温度、例えば少なくとも400℃の温度、例えば400〜550℃の温度で安定であるような、耐熱(refractory)無機酸化物である。
【0031】
好適なバインダーは、メソ多孔性であり得、例えばメソ多孔度(mesoporosity)が1〜500m/gの無機酸化物であり得る。メソ多孔度とは、窒素BETにより測定されるメソ細孔(mesopore)の全表面積及びバインダーの外部表面積の合計を意味する。メソ細孔とは、直径が2〜50ナノメートルの細孔である。
【0032】
好ましくは、メソ多孔性バインダーは更に、低いミクロ多孔度(microporosity)、例えば1〜100m/g、好ましくは1〜10m/gのミクロ多孔度を有する。ミクロ多孔度とは、窒素BETにより測定されるミクロ細孔(micropore)の全表面積とバインダーの外部表面積の合計を意味する。ミクロ細孔とは、直径が2ナノメートル未満の細孔である。
【0033】
好ましくは、バインダーは、触媒の10〜80重量%、好ましくは触媒の20〜65重量%、より好ましくは触媒の35〜65重量%の量で存在し得る。
【0034】
好ましくは、本発明のプロセスに使用するための触媒は、シリカ、アルミナ、及びシリカ−アルミナの1又は複数から選択される耐熱無機酸化物であるバインダーと組み合わされてよく、この無機酸化物はメソ多孔性であり、好ましくはメソ多孔度が50〜500m2/gの無機酸化物である。
【0035】
本発明のプロセスでは、メタノール及び/又はその反応性誘導体が一酸化炭素でカルボニル化される。メタノールの代替物として又はメタノールに加えて使用され得るメタノールの反応性誘導体としては、酢酸メチル及びジメチルエーテルが含まれる。メタノールとその反応性誘導体の混合物、例えばメタノールと酢酸メチルの混合物が使用されてもよい。ジメチルエーテルがカルボニル化可能な反応物質である場合、炭酸ジメチル等の任意の好適なジメチルエーテル源からその場(in−situ)でジメチルエーテルが生成されてもよい。例えば、液体炭酸ジメチルをガンマアルミナと接触させて炭酸ジメチルをジメチルエーテル及び二酸化炭素に分解してもよい。
【0036】
使用されるカルボニル化可能な反応物質の性質に応じて、プロセスは、含水条件化で行われてもよく、実質的無水条件下で行われてもよい。好ましくは、カルボニル化可能な反応物質として酢酸メチルが用いられる場合、プロセスは水の存在下で行われる。水は、酢酸メチル:水のモル比が50:1〜2:1でフィード中に存在し得る。カルボニル化可能な反応物質がジメチルエーテルである場合、水がカルボニル化プロセスを阻害することが分かっているので、これらの反応物質を使用する場合、プロセスを実質的無水条件下で行うことが好ましい。「実質的無水(substantially anhydrous)」とは、プロセス中、水が可能な限り少なく保たれていることを意味する。そのために、反応物質であるジメチルエーテル及び一酸化炭素(及び触媒)を、プロセスに導入する前に乾燥させることが好ましい。しかし、少量の水は、酢酸メチル生成物の形成に悪影響を与えず、許容され得る。好ましくは、水は、反応器へのカルボニル化可能な反応物質のガス状フィード中に、ジメチルエーテルの量に対して2.5wt%未満、例えば0.5wt%未満の量で存在し得る。
【0037】
一酸化炭素が主要成分である混合ガスを使用することが望ましいが、使用される一酸化炭素の純度は特に重要とは見なされない。窒素、希ガス等の不純物が少量存在しても許容され得る。一酸化炭素を水素との混合物として使用してもよい。好ましくはCO:H比は、モルベースで1:3〜15:1、例えば1:1〜10:1である。例えば、炭化水素(合成ガス)の改質又は部分的酸化により生成される一酸化炭素と水素の混合物も本発明のプロセスに使用され得る。
【0038】
本発明のプロセスは、好ましくは、メタノール蒸気及び/又はジメチルエーテル蒸気並びに一酸化炭素ガスを、必要に応じて水素存在下で、所望の温度及び圧力に維持した触媒の固定床又は流動床を通過させることで行われる。
【0039】
好ましくは、プロセスは、100〜400℃、例えば150〜350℃の温度で行われ得る。
【0040】
プロセスは、1〜100barg、例えば10〜100bargの圧力で行われ得る。
【0041】
一酸化炭素とカルボニル化可能な反応物質のモル比は好ましくは1:1〜99:1、例えば1:1〜60:1である。
【0042】
プロセス中に水素が存在してもよく、水素は少なくとも0.1barg、例えば1〜30bargの分圧で存在し得る。
【0043】
ガス空間速度(GHSV)は好ましくは500〜40,000h−1、例えば2000〜10,000h−1である。
【0044】
プロセス中で使用する前に、例えば窒素、一酸化炭素、又は水素流下で少なくとも1時間高温に触媒を曝すことで、触媒を活性化する。
【0045】
所望であれば、カルボニル化可能な反応物質を触媒床の直前にアルミナ床又はコランダム床に接触させてもよい。
【0046】
好ましくは、本発明のプロセスは、ヨウ化物等のハロゲン化物の実質的行非存在下でわれる。実質的とは、フィードガス及び触媒のハロゲン化物含有量、例えばヨウ化物含有量が、500ppm未満、好ましくは100ppm未満であることを意味する。
【0047】
プロセスは、固定床、流動床、又は移動床プロセスとして行われ得る。
【0048】
プロセスは、連続プロセス又はバッチプロセスとして行われ得、好ましくは連続プロセスとして行われ得る。
【0049】
プロセス生成物は酢酸及び/又は酢酸メチルである。カルボニル化可能な反応物質がメタノールである場合、カルボニル化生成物は酢酸であるが、カルボニル化の程度に応じて酢酸メチルも生成し得る。
【0050】
カルボニル化可能な反応物質がジメチルエーテルである場合、プロセスの主要生成物は酢酸メチルであるが、少量の酢酸も生成し得る。
【0051】
プロセスによって生成した酢酸は、蒸気の形態で回収し、その後液体に凝縮することができる。酢酸はその後、蒸留等の従来技術を用いて精製することができる。
【0052】
酢酸メチルがプロセスの生成物である場合、少なくとも一部は、カルボニル化反応生成物から回収されてそのまま売られてもよく、且つ/又はカルボニル化反応器にリサイクルされてもよく、且つ/又は少なくとも一部は、回収されてそのまま別の化学的プロセスのフィードストックとして使用されてもよく、且つ/又はその少なくとも一部は、酸触媒存在下での反応蒸留等の公知の技術を用いて酢酸へと加水分解されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、H−モルデナイト及び水酸化ナトリウム又は水酸化アンモニウムで処理したH−モルデナイトをジメチルエーテルのカルボニル化における触媒として用いた、time on stream(時間)に対するカルボニル化生成物のアセチル体(酢酸及び酢酸メチル)の空時収量(STY)(g/l/h)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例1】
【0055】
触媒調製
触媒A
触媒Aは、BASF社製のシリカ:アルミナ比が40.5のH−モルデナイトである。
【0056】
触媒B:水酸化ナトリウムで処理した触媒A
アルカリ溶液(1.5LのNaOH水溶液、0.2M)を激しく撹拌しながら65℃に加熱した。系が平衡に達した後、50gの触媒Aを添加し、30分間連続撹拌した。30分後、撹拌しながら氷冷した水中で懸濁液を冷却した。次いで、混合物を減圧下でろ過し、3リットルの脱イオン水で洗浄し、空気乾燥器中で110℃にて一晩乾燥させた。この塩基処理されたモルデナイトを、NHNO水溶液(モルデナイト1g当たり10ml、1M)を用いて80℃で1時間交換した。交換は3回行った。各交換ステップ後に、NH−モルデナイトを脱イオン水で洗浄した。湿潤NH−モルデナイトを110℃で乾燥させ、その後、以下の焼成法Iを用いてH型のモルデナイトに変換した。
【0057】
触媒C:水酸化アンモニウムで処理した触媒A
100mlのステンレス鋼オートクレーブ中で5gの担持触媒Aにアンモニア溶液(90mlのNH水溶液、25wt%、pH13.5)を添加した。次いで、オートクレーブを密封し、ロータリーオーブン中で温度85℃に8時間維持した。氷冷した水中でオートクレーブを冷却し、懸濁液を減圧下でろ過し、0.5Lの脱イオン水で洗浄し、110℃で乾燥させた。得られたNH−モルデナイトを焼成法Iを用いて焼成してH型のモルデナイトを得た。
【0058】
焼成法I
焼成は、静止空気下で、モルデナイトを3℃/分で90℃に加熱して2時間維持し、1℃/分で110℃に加熱して2時間維持し、3℃/分で500℃に加熱して3時間維持した後、室温に冷却することにより行った。
【0059】
特徴解析
触媒A〜Cの特定の物理化学的特性を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
以下の分析技術を用いて3種類のモルデナイト触媒の特性を決定した。データ分析用ソフトウェアTristar 3000 v6.01を備えたMicromeritics Tristar 3000装置を用いて77KでN吸着を行った。分析前に、サンプルを60℃で30分間、その後120℃で16時間、減圧下で脱ガスした。BET表面積は、発表されているモデルに基づき、相対圧p/p=0.01〜0.05でのデータポイントから導き出した[S. Brunauer, P.H. Emmett, E. Teller, J. Am. Chem. Soc. 60 (1938) 309]。Tプロット法を用いて、推定厚さ(fitted thickness)範囲を0.35〜0.5nmとして、ミクロ細孔容積及び外部表面積を求めた[B.C. Lippens, J.H. de Boer, J. Catal. 4 (1965) 319]。全細孔容積(1点吸着法による全細孔容積を用いて求めた;p/p>0.98)からミクロ細孔容積を引くことにより、メソ細孔容積を計算した。
【0062】
セバーン・サイエンス社(Severn Science Limited)の炉中で充填した石英U字管からなる特注の装置を用いてアンモニアの昇温脱離(NH−TPD)を行った。滴定法を用いて定量的アンモニア分析を行った。30ml/分の窒素流下、100℃で30分かけてサンプル(50mg)を調製した。次いで、1%アンモニアを含む窒素をサンプルに1時間通した。その後、30ml/分の窒素流をサンプルに1.5時間通して、物理吸着したアンモニアをパージした。その後、ランプ速度5℃/分でサンプルを800℃まで加熱した。0.02Mの塩酸を充填したMettler Toledo T50自動滴定器を用いて連続的にpH5に維持された0.25%ホウ酸溶液を用いて、脱離したアンモニアを捕捉した。
【0063】
モルデナイト中の骨格外アルミニウムの%を固体27Al NMRにより求めた。骨格外アルミニウムとは、モルデナイトの結晶構造の骨格中に配置されていないが、モルデナイト中の別の場所、例えば細孔及びチャネル中に配置されているアルミニウムを指す。
【0064】
シリカ:アルミナのモル比を誘導結合プラズマ原子発光分光分析(ICP−OES)により決定した。
【0065】
カルボニル化反応
触媒A〜Cのそれぞれを用いて一連のカルボニル化反応を行った。
【0066】
カルボニル化方法Iに記載の方法に従って、使用前に各触媒を焼成した。反応器に充填する前に、各触媒0.75gを33mmのダイセット中で空気プレスを用いて12トンで圧縮し、破砕し、250〜500ミクロンの粒径画分へとふるい分けた。ハステロイ製の反応管に0.6mlの触媒及び0.2gのガンマアルミナ予備床(pre−bed)を詰めた。電気加熱ジャケットを用いて、触媒を含む反応管部分を加熱した。反応器及び加熱ジャケット自体は、予備床の温度を維持する加熱されているキャビネット中に置いた。加熱されているキャビネットは典型的には130℃に維持した。カルボニル化反応の開始前に、反応器を大気圧、窒素流下で130℃に加熱した。温度130℃で、80モル%の一酸化炭素及び20モル%の水素を含むガスを流量(GHSV)5000/時間で反応器に導入し、反応器を20bargに加圧し、温度300℃に加熱し、これらの条件下で2時間維持した。次いで、76モル%の一酸化炭素、19モル%の水素、及び5モル%のジメチルエーテルを含むガスフィードとなるように調整された流量で液体炭酸ジメチルをフィードすることによりカルボニル化反応を開始させた。反応は、300℃、20bar、及びガス空間速度(GHSV)5000h−1の条件下で100時間続けた。一定のオフガス流を取り、130℃で大気圧に下げ、ガスクロマトグラフィーにかけてアセチル体生成物(酢酸及び酢酸メチル)について分析した。カルボニル化反応の結果を図1に示す。
【0067】
図1は、NaOH又はNHOHで処理したモルデナイトの触媒活性が未処理モルデナイトよりもはるかに高いことを明確に示している。NaOH処理モルデナイトは、未処理モルデナイトよりも活性が4倍高く、NHOH処理モルデナイトは未処理モルデナイトよりも活性が8倍高かった。NHOH処理モルデナイトはNaOH処理モルデナイトよりも2倍活性であることが見出された。
【実施例2】
【0068】
(i)触媒D:バインダーと組み合わせた触媒A
以下のように触媒Aをアルミナバインダーと組み合わせることで触媒Dを調製した。30gの触媒A及び15gのアルミナ(サソール社(Sasol)製、Pural SCF)をビュッヒ社製の粉末乾燥フラスコ中で一緒に穏やかにミリングして自由流動粉末(free flowing powder)を生成した。周囲温度、周囲圧力でローターエバポレーターを用いて速度100rpmにて1時間粉末をブレンドし、その後、静止空気雰囲気下で500℃にて3時間焼成した。
【0069】
(ii)触媒E:バインダーと組み合わせた触媒C
上記の触媒Dに記載した方法に従って、20gの触媒Cを10gのアルミナバインダー(サソール社製、Pural SCF)と組み合わせることで触媒Eを調製した。
【0070】
触媒D及びEを用いたカルボニル化反応
触媒D及び触媒Eを用いて、一酸化炭素によるジメチルエーテルのカルボニル化反応を行った。
【0071】
反応器に充填する前に、各触媒を13mmのダイセット中で空気プレスを用いて10トンで圧縮し、破砕し、125〜160ミクロンの粒径画分へとふるい分けた。
【0072】
国際公開第2005063372号に記載されている種類の16個の同一の反応器からなる加圧流反応器(pressure flow reactor)ユニット中でカルボニル化反応を行った。各反応器の内径は9.2mmであり、各反応器の中央に直径3.2mmの管を嵌合させ、その中に熱電対を配置した。
【0073】
125〜160μmのふるい分級物のコランダム床10cmを各反応器中に配置した。乾燥質量ベースで(触媒を30℃/分のランプ速度で室温から600℃に加熱することにより測定される触媒の燃焼による消失により決定される)1.948g(約3ml)の触媒を3mlのコランダムで希釈してコランダム床の上に配置した。希釈された触媒を、粒径125〜160ミクロンのコランダム床11cmで覆った。ペレットサイズ125〜160ミクロンの1gのガンマアルミナ(BASF社製、SAS 250)をコランダムの上に深さ2cmで置いた。
【0074】
一酸化炭素:水素のモル比が4:1のガスフィードを反応器1個当たり12L/hの流量で用いて反応器を反応圧70barまで加圧した。次いで、反応器を1℃/分で220℃まで加熱し、その温度で滞留時間3時間維持した。次いで、温度を1℃/分で300℃に上げ、再度、滞留時間を3時間とした。次いで、ガスフィードを、モル比が70.8:17.7:6:5:0.5の一酸化炭素、水素、ジメチルエーテル、アルゴン、及び酢酸メチルの混合物に変え、総流量を反応器1個当たり12L/h、ジメチルエーテル蒸気の供給量を反応器1個当たり0.72L/h、酢酸メチル蒸気の供給量を反応器1個当たり0.06L/hとした。16個の反応器の出口間における圧力のぶれを等しくするために0〜150ml/分の可変流量で窒素を導入した。各反応器の出口流を定期的にガスクロマトグラフィーにかけ、反応物質及びカルボニル化生成物の濃度を決定した。反応は、300℃、70bar、ガス空間速度(GHSV)4000/hの条件下で263時間続けた。
【0075】
ガスクロマトグラフィー分析から、アセチル体生成物の空時収量(STY)を、生成した酢酸メチルと酢酸の和に相当する酢酸のモル等量として計算し、触媒1リットル当たり、1時間当たりの酢酸のグラム数で表した。アセチル体生成物は主に酢酸メチルであった。結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2の結果は、水酸化アンモニウム処理されている触媒Eが未処理触媒Dよりも触媒活性が高く且つ安定であることを明確に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸及び酢酸メチルから選択される少なくとも1つのカルボニル化生成物を製造するプロセスであって、メタノール及びその反応性誘導体から選択される少なくとも1つのカルボニル化可能な反応物質を触媒存在下で一酸化炭素を用いてカルボニル化することを含み、前記触媒が、水酸化アンモニウム水溶液で処理されたシリカ:アルミナのモル比が少なくとも10:1のモルデナイトである、プロセス。
【請求項2】
前記触媒のシリカ:アルミナのモル比が25〜60:1である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記触媒が、水酸化アンモニウム水溶液を用いた処理前に脱アルミニウムされたモルデナイトである、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記触媒が、アンモニア濃度が15〜25重量%の水酸化アンモニウム水溶液で処理されたモルデナイトである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記触媒が、温度70〜100℃で水酸化アンモニウム水溶液を用いて処理されたモルデナイトである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記触媒がH−モルデナイトである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記触媒がバインダーと組み合わされている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記バインダーが耐熱無機酸化物である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項9】
前記耐熱無機酸化物が、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ケイ酸マグネシウム、及びケイ酸マグネシウムアルミニウムの少なくとも1つからなる群から選択される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記バインダーのメソ多孔度が1〜500m/gである、請求項7〜9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記カルボニル化可能な反応物質が、ジメチルエーテルである反応性誘導体である、請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記カルボニル化可能な反応物質のフィード中に、前記フィード中のジメチルエーテルの量に対して2.5wt%未満の量で水が存在する、請求項12に記載のプロセス。
【請求項13】
前記プロセスが水素存在下で行われる、請求項1〜12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記カルボニル化生成物が酢酸メチルであり、前記酢酸メチルの少なくとも一部が酢酸へと加水分解される、請求項1〜13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
酢酸及び酢酸メチルから選択される少なくとも1つのカルボニル化生成物を製造するプロセスにおける触媒活性を向上させるために水酸化アンモニウム水溶液で処理されたシリカ:アルミナ比が少なくとも10:1のモルデナイトである触媒の使用であって、前記プロセスが、メタノール及びその反応性誘導体から選択される少なくとも1つのカルボニル化可能な反応物質を一酸化炭素でカルボニル化することを含む、使用。

【図1】
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【公表番号】特表2012−526787(P2012−526787A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510355(P2012−510355)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000917
【国際公開番号】WO2010/130973
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(591001798)ビーピー ケミカルズ リミテッド  (66)
【氏名又は名称原語表記】BP CHEMICALS LIMITED
【Fターム(参考)】