説明

カルボン酸系分散剤およびそれを含む蛍光体ペースト組成物

【課題】蛍光体ペースト組成物の分散性を向上させ且つ有機溶媒による酸化を防止することが可能な分散剤およびそれを含む蛍光体ペースト組成物を提供する。
【解決手段】下記化学式1で表されるカルボン酸系分散剤を提供する。また、溶媒と有機バインダーとからなるバインダー溶液および蛍光体を含む蛍光体ペースト組成物であって、下記化学式(1)のカルボキシルカルボン酸系分散剤を含むことを特徴とする、蛍光体ペースト組成物を提供する。


式中、nは1〜20である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸系分散剤およびそれを含む蛍光体ペースト組成物に係り、さらに詳しくは、親水性および疎水性ブロック形態のテール構造を有するカルボン酸系統の分散剤であって、溶媒による酸化を防止し且つ分散性を向上させることが可能なカルボン酸系分散剤、およびそれを含む蛍光体ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の陰極線管(CRT)に代替して、最近は、フラットパネルディスプレイ(FPD)として、例えば液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界発光ディスプレイ(Electro−Luminescence Display)、電界放出ディスプレイ(Field Emission Display)、および蛍光表示管(Vacuum Fluorescent Display)などが開発され、表示装置として広く用いられている。このような各種表示装置は共通して蛍光膜を含むが、表示装置の発光特性はこのような蛍光膜の物性に左右される。
【0003】
SrGaなどの硫化物蛍光体(sulfide phosphor)は、電界放出ディスプレイ、陰極線管ディスプレイに広く用いられている(例えば、非特許文献1)。蛍光体が各種ディスプレイ装置の蛍光膜として使用される場合には、所定の支持体上に蛍光体ペースト組成物を均一に塗布した後、乾燥させて製造される。硫化物蛍光体ペースト組成物は、主に溶媒、バインダーおよび硫化物蛍光体の混合物からなり、蛍光体の分散性を向上させるために分散剤が添加されてもよい。
【非特許文献1】Bacherikov,Yu.Yu;Okhrimenko,O.B.;Toniashik,Z.F.;Lukiyanchuk,E.M.;Kardashev,K.D.“Activation of zinc sulfide luminescence by modifying its surface by organic solvents”,Journal of Applied Spectroscopy,vol.72,no.6:877−82,Nov.−Dec.2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような硫化物蛍光体ペーストは、水分と反応しやすく、硫化物蛍光体ペースト製造の際に使用されるエチルセルロースや、テルピネオール(terpineol)、およびブチルカルビトールアセテート(BCA)等の有機溶媒中で化学的に不安定な傾向がある。硫化物蛍光体ペースト組成物の一部の成分は、エチルセルロースなどに完全に溶解しうる。このため、硫化物蛍光体ペーストは、表示装置の蛍光膜として採用するとき、表示装置の発光特性を劣化させることがある。
【0005】
また、硫化物蛍光体における分散剤の粘度減少効果が不十分な場合、粘度が高くなりすぎることを防ぐために、蛍光体の量を相対的に少なくする必要がある。蛍光体の使用量の増加は、粘度増加の原因になって、蛍光膜の均一な形成を難しくするなど作業性を低下させ、結果的に生産性を低下させる原因となりうる。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、蛍光体ペースト組成物の分散性を向上させ且つ有機溶媒による酸化を防止することが可能なカルボン酸系分散剤を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、分散性に優れ且つ物性が均一な蛍光体ペースト組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の別の目的は、加工性に優れた高輝度の蛍光膜およびこれを含む表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、下記化学式(1)で表されるカルボン酸系分散剤を提供する。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、nは1〜20である。
【0012】
また、本発明は、溶媒と有機バインダーとからなるバインダー溶液および蛍光体を含む蛍光体ペースト組成物であって、下記化学式(1)のカルボン酸系分散剤を含むことを特徴とする、蛍光体ペースト組成物を提供する。
【0013】
【化2】

【0014】
式中、nは1〜20である。
【0015】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、好ましくは、40〜70質量%の蛍光体、前記蛍光体に対して0.1〜3質量%の前記カルボン酸系分散剤、および残部のバインダー溶液を含む。
【0016】
また、本発明は、上述の蛍光体ペースト組成物を用いて製造される蛍光膜を提供する。
【0017】
また、本発明は、上述の蛍光膜を含む陰極線発光ディスプレイ、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、電界放出ディスプレイまたは蛍光表示管などの各種表示装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の分散剤は、蛍光体ペースト組成物に添加される場合、蛍光体ペースト組成物の分散性を向上させ且つ有機溶媒による酸化問題を克服することができるという利点を持つ。本発明の分散剤は、特に硫化物蛍光体ペースト組成物への添加の際にさらに優れた効果を発揮することができる。
【0019】
本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物は分散性が向上し且つ粘度の増加が抑制されるので、多様な蛍光体を用いて、より均一で発光特性が向上した蛍光膜を提供することができる。したがって、本発明によれば、輝度が高く且つ加工性に優れたLCDなどの表示装置を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0021】
本発明の分散剤は、下記化学式(1)に示すように、親水性ブロックおよび疎水性ブロック形態のテール構造を持つカルボン酸系分散剤である。
【0022】
【化3】

【0023】
式中、nは1〜20である。
【0024】
本発明のカルボン酸系分散剤は、蛍光体ペーストの分散性を向上させることができ、蛍光体ペースト組成物の粘度を一定に維持しながら蛍光体の使用量を増加させることができる。したがって、本発明の蛍光体ペースト組成物で製造された蛍光膜または表示装置は、輝度が向上する。
【0025】
本発明のカルボン酸系分散剤は、例えば、下記反応式1で表されるスキームによって合成できる。
【0026】
【化4】

【0027】
本発明のカルボン酸系分散剤は、主に蛍光体ペースト組成物に添加できるが、必ずしも蛍光体ペースト組成物に制限されるものではなく、無機ナノ粒子などを有機溶媒に分散させた分散液に添加できる。
【0028】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、溶媒と有機バインダーとからなるバインダー溶液および蛍光体を含み、上述の化学式(1)のカルボン酸系分散剤を含むことを特徴とする。溶媒、有機バインダーおよび蛍光体は、既存の蛍光体ペースト組成物に使用されるものと同一または類似のものを使用することができる。
【0029】
本発明において、バインダー溶液は、有機バインダーと溶媒とを含む。有機バインダーは、溶媒への溶解後に粘性を与え、蛍光体ペースト組成物の乾燥後には結合力を与える。本発明で使用可能な有機バインダーの例としては、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、アルキル系ポリマーなどが挙げられるが、必ずしもこれらに制限されるものではない。ポリメチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルポリマー、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンカーボネート、エチルセルロースなどが好ましい。例えば、スクリーン印刷の際には、エチルセルロースなどのセルロース系のポリマーが好ましい。
【0030】
溶媒は、特に制限されないが、使用される蛍光体、有機バインダー、および得ようとする蛍光体ペースト組成物の物性などを考慮して、市販の溶媒を単独でまたは2種以上混合して使用することができるが、好ましくは揮発温度150℃以上の溶媒を使用する。
【0031】
本発明で使用可能な溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、テトラヒドロフラン、1,2−ブトキシエタンなどのエーテル化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル、ブチルカルビトールアセテート(BCA;butylcarbitol acetate)などのエステル化合物、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テルピネオール、2−フェノキシエタノールなどのアルコール化合物などを挙げることができる。好ましい混合溶媒の例は、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとの混合溶媒である。このような混合溶媒は、好ましくはテルピネオールとブチルカルビトールアセテートとが質量比1:1〜1:2.5、より好ましくは1:1.7の割合で混合されることが良い。
【0032】
バインダー溶液は、好ましくは、1.5〜5質量%の有機バインダーと残部の溶媒とを含む。有機バインダーが1.5質量%未満の場合、有機バインダーに対して溶媒の量が多くなって、結果的に得られる蛍光膜の品質が低下するおそれがある。一方、有機バインダーが5質量%超で含まれる場合、相対的に溶媒の量が少なくなって、蛍光体ペーストの粘度増加によりペースト内の蛍光体の含量を減少させなければならなくなる場合がある。
【0033】
本発明の蛍光体ペースト組成物に使用される蛍光体としては、従来の蛍光体ペースト組成物に使用される蛍光体であればいずれでも使用することができ、特に使用される蛍光体の種類または組成に制限はない。但し、本発明の蛍光体ペースト組成物は、主に陰極線発光ディスプレイ、液晶ディスプレイ、電界放出ディスプレイ装置などの蛍光膜を形成するために使用される。よって、これを用いて形成される蛍光膜を励起するディスプレイの励起源に応じて適宜選択できる。
【0034】
具体的に、蛍光体としては、表示装置において通常用いられる酸化物固溶体状の市販の赤色蛍光体、緑色蛍光体および青色蛍光体が使用でき、好ましくはバリウム酸化物、マグネシウム酸化物およびアルミニウム酸化物が混合された固溶体状の蛍光体が使用できる。特に、本発明の分散剤は、SrGaなどの硫化物蛍光体を用いた蛍光体ペースト組成物に添加される場合、分散性をさらに向上させることができる。
【0035】
本発明で使用可能な硫化物蛍光体の例としては、SrS:Eu2+、SrGa:Eu2+、SrCaS:Eu2+、ZnS:Ag、CaS:Eu2+、ZnS:Cu,Al3+、ZnS:Ag,Cl、LaS:Eu3+、YS:Eu3+、CaAl:Eu2+、CaAl:Mn2+、BaAl:Eu2+が好ましく挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の蛍光体ペースト組成物には、組成物の物性を害しない範囲内において、分散剤以外に可塑剤、レベリング剤、平滑剤、消泡剤などが添加できる。
【0037】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、好ましくは、40〜70質量%の蛍光体、前記蛍光体に対して0.1〜3質量%のカルボン酸系分散剤、および残部のバインダー溶液を含む。本発明において、分散剤の使用量が0.1質量%未満の場合には、蛍光体使用量を増加させる効果や粘度維持の効果を十分に得ることができないおそれがある。一方、分散剤の添加量が3質量%超の場合には、他の成分の含量が相対的に減少するため、蛍光体ペーストの物性が悪化するおそれがある。
【0038】
本発明では、上述したカルボン酸系分散剤の使用によって蛍光体の含量を40〜70質量%程度に増加させることができる。蛍光体ペースト組成物中の蛍光体の使用量を増加させることによって、前記蛍光体ペースト組成物を用いて製造される蛍光膜の輝度を増加させることができる。
【0039】
本発明の蛍光体ペースト組成物は、例えば、バインダー溶液に分散剤を添加した後、蛍光体の粉末を添加して製造できる。例えば、エチルセルロースなどの有機バインダーを、ブチルカルビトールアセテートとα−テルピネオールとからなる混合溶媒に溶解させた後、分散剤、消泡剤、平滑剤などその他の添加剤を添加してから蛍光体を投入して混合し、3本ローラーなどの混練機を用いて均一に分散させて製造することができる。
【0040】
本発明は、上述した本発明の蛍光体ペースト組成物によって製造される蛍光膜を提供する。このような本発明の蛍光膜は、例えば、本発明の蛍光体ペースト組成物をガラス、透明プラスチックなどの支持体上に所定のパターンで塗布した後、乾燥およびベーキングして焼成することにより製造される。
【0041】
蛍光膜の形成方法としては、例えば、パターンスクリーン印刷、電気泳動法(Electrophoresis)、フォトリソグラフィー、インクジェット法などを使用することができるが、必ずしもこれらの方法に制限されるものではない。
【0042】
このような本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物によって製造される蛍光膜は、さらに蛍光体の含有量を高くすることができるため、輝度が向上し、さらに、粘度増加が相対的に抑えられるため加工性も改善される。
【0043】
本発明に係る蛍光膜は、例えば、陰極発光ディスプレイ、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、電界放出ディスプレイ、蛍光表示管などの各種表示装置の蛍光膜として使用できる。本発明の蛍光膜を形成する表示装置は、発光特性が向上し、物性が均一な特性を実現する。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の好適な具現例を例示した実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのもので、本発明の保護範囲を制限するものではない。
【0045】
<カルボン酸系分散剤の合成>
下記反応式2で表される反応スキームに応じて下記化学式(2)のカルボン酸系分散剤を合成した。
【0046】
【化5】

【0047】
(2)
【0048】
【化6】

【0049】
三口フラスコにNaH(305mmoL、7.32g)を仕込んで室温でTHF(500mL)と混合した後、Ar気体の下で化合物1(30.5mmoL、13g)を滴下した。得られた反応混合物を約4時間攪拌し、化合物2(457.7mmoL、76.4g)を滴下した後、48時間室温で反応させた。溶媒を除去した後、n−へキサンに反応物を注ぎ、残っている固形分をセライトで濾過し、濾液を減圧下で除去した。得られた化合物をカラムクロマトグラフィー(MC(塩化メチレン):MeOH=20:1)によって精製して赤色オイル状の中間生成物(化合物3)を得た(収率78%)。
【0050】
次に、得られた化合物3(23.9mmoL、12.7g)を1NのNaOH(200mL)水溶液中で一晩中還流させた。こうして得られた水溶液を1N HClを用いてpH2程度に合わせた後、CHClで2回(200mL×2)抽出した。有機層をMgSOで乾燥させた後、減圧下で有機溶媒を除去した。カラムクロマトグラフィー(MC:MeOH=20:1)を行って黄色オイル状の化学式(2)のカルボン酸系分散剤(化合物4)を得た(収率88.6%)。得られた分散剤の500MHzH−NMRスペクトルを図1に示した。
【0051】
<実施例1>
蛍光体として市販のSrGa:Eu2+粉末(KX501A 化成オプトニクス社製)を使用した。蛍光体粉末は、使用する前に、大気中で130℃の温度で24時間真空乾燥させた。溶媒としては、α−テルピネオール4.61gとブチルカルビトールアセテート7.68gとの混合溶媒を準備した。有機バインダーとしてのエチルセルロース0.51gを前記混合溶媒に溶解させてバインダー溶液を準備した。こうして得たバインダー溶液に前記蛍光体粉末を加え、前記化学式(2)のカルボン酸系分散剤を加えてミリングすることにより、本発明の蛍光体ペースト組成物を製造した。使用した蛍光体粉末の量は5gであり、分散剤の量は、蛍光体粉末の量に対して1質量%とした。
【0052】
<比較例1>
分散剤を使用しない以外は実施例1と同様にして、蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0053】
<比較例2〜4>
分散剤として、市販されている下記化学式(3)のオレイン酸(Sigma−Aldrich社製、米国)(比較例2)、下記化学式(4)のオレオイルサルコシン(NOF Coporation社製)(比較例3)、および下記化学式(5)のリン酸系分散剤(BYK111、ドイツBYK−Chemie社製)(比較例4)を使用する以外は実施例1と同様にして、比較例2〜4の蛍光体ペースト組成物を製造した。
【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
前記化学式(5)中、Rはオキシエチレンメタクリロイル基であり、nは5である。
【0058】
<蛍光体ペースト組成物の粘度変化の評価>
実施例1の蛍光体ペースト組成物について、せん断速度を増加させながら粘度の変化を測定して図2に示した。この際、せん断速度による粘度の変化は、粘度測定計(AR2000、Thermal Analysis社製、米国)によって、スピンドル14番を用いて温度範囲24.5〜25.5℃で測定時間を30秒として測定した。比較のために、比較例1〜3の蛍光体ペースト組成物に関しても同様に、せん断速度による粘度の変化を測定して図2に共に示した。また、実施例1、比較例1および比較例4の蛍光体ペースト組成物に関しても同様に、せん断速度による粘度の変化を測定して図3に示した。
【0059】
図3を参照すると、本発明に係るカルボン酸系分散剤を使用する実施例1の場合、比較例1および比較例4の蛍光体ペースト組成物に比べて粘度減少効果が著しかった。このような粘度減少効果は、図2に示すように、せん断速度の増加の際に比較例2および比較例3に比べてさらに著しく現われた。なお、図3において、実施例1および比較例1のデータは、それぞれ、図2における実施例1および比較例1と同一の組成の蛍光体ペースト組成物を用いた異なるバッチのデータである。
【0060】
このような結果は、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物の場合、蛍光体の使用量を増加させて蛍光膜の発光特性を改善することができることを示唆する。
【0061】
<蛍光体ペースト組成物の粘弾性(viscoelasticity)特性の評価>
実施例1、比較例1および比較例4の蛍光体ペーストの角周波数(rad/s)に対するtanδ値を図4に示した。実施例1の蛍光体ペースト組成物のtanδは、比較例1および比較例4の蛍光体ペースト組成物のtanδに比べて大きい。動力学的に移動可能なスペース(kinetically movable space)は、よく分散した懸濁液では大きく、凝集した状態の懸濁液では小さい。本発明の分散剤を添加した実施例1では、動力学的に移動可能なスペースが比較例1、比較例4に比べて大きく形成され、蛍光体ペースト組成物の分散性が向上したことを確認することができる。
【0062】
<蛍光体ペースト組成物の発光特性の評価>
実施例1、比較例1、比較例2で得た蛍光体ペーストをフィルムアプリケータ(BYK−Gardner)を用いてガラス支持体上に30μmの厚さにコートした。前記コーティング層を480℃で5℃/minのランプで焼成して蛍光膜に成膜し、この蛍光膜の発光特性を実験した。
【0063】
発光特性の実験は、蛍光発光および減衰測定システム(PEDS;Phosphor of Emission and Decay Measurement System)(ウシオ電機株式会社製のVUVエキシマランプと韓国のMotech vaccum社製の真空チャンバーシステムとを組み立てたもの)を使用した。その実験条件は、真空雰囲気を10〜3Torrとし、光源を146nmの波長とし、測定波長領域を230〜780nmとし、波長の間隔を1nmとした。その実験結果を図5に示した。比較のために、実施例1で使用された蛍光体粉末自体の発光特性も測定して共に表示した。
【0064】
図5に示すように、本発明に係るカルボン酸系分散剤を使用する場合、蛍光体粉末の最大発光強度に比べて発光強度が約5.4%減少した。これと対照的に、分散剤を使用しない比較例1および既存のオレイン酸を使用した比較例2の場合には、蛍光体粉末の最大発光強度に比べて発光強度がそれぞれ10.8%および15.1%減少した。このような結果から、本発明の分散剤を含む蛍光体ペースト組成物が従来の技術による蛍光体ペースト組成物より発光強度が向上することを確認することができた。
【0065】
以上、本発明の好適な実施例を例として説明したが、本発明の技術思想の範囲内において種々変形および修正を加え得ることは当業者には自明なことなので、このような変形および修正も特許請求の範囲に含まれるものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のカルボン酸系分散剤のH−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1、比較例1〜3の蛍光体ペースト組成物のせん断速度による組成物の粘度変化を比較して示したグラフである。
【図3】実施例1、比較例1、比較例4の蛍光体ペースト組成物のせん断速度による組成物の粘度変化を比較して示したグラフである。
【図4】実施例1、比較例1、比較例4の蛍光体ペースト組成物の粘弾性特性を比較して示したグラフである。
【図5】実施例1、比較例1、比較例2の蛍光体ペースト組成物で製造された蛍光膜の発光特性を比較して示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表されるカルボン酸系分散剤:
【化1】

式中、nは1〜20である。
【請求項2】
溶媒と有機バインダーとからなるバインダー溶液および蛍光体を含む蛍光体ペースト組成物であって、下記化学式(1)で表されるカルボン酸系分散剤を含むことを特徴とする、蛍光体ペースト組成物。
【化2】

式中、nは1〜20である。
【請求項3】
蛍光体ペースト組成物の全量に対して、40〜70質量%の前記蛍光体、前記蛍光体100質量%に対して0.1〜3質量%の前記カルボン酸系分散剤、および残部のバインダー溶液を含むことを特徴とする、請求項2に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項4】
前記バインダー溶液が、その全量に対して1.5〜5質量%の有機バインダーと残部の溶媒とを含むことを特徴とする、請求項3に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項5】
前記有機バインダーが、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、セルロース系ポリマー、ビニル系ポリマー、およびアルキル系ポリマーよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1項に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項6】
前記溶媒が、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1,2−ブトキシエタン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ブチルカルビトールアセテート、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テルピネオール、2−フェノキシエタノールよりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1項に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項7】
前記有機バインダーがエチルセルロースであり、前記溶媒がテルピネオールとブチルカルビトールアセテートとの混合溶媒であることを特徴とする、請求項6に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項8】
前記混合溶媒は、テルピネオールとブチルカルビトールアセテートとが質量比1:1〜1:2.5の割合で混合された溶媒であることを特徴とする、請求項7に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項9】
前記蛍光体が、硫化物蛍光体であることを特徴とする、請求項2〜8のいずれか1項に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項10】
前記硫化物蛍光体が、SrS:Eu2+、SrGa:Eu2+、SrCaS:Eu2+、ZnS:Ag、CaS:Eu2+、ZnS:Cu,Al3+、ZnS:Ag,Cl、LaS:Eu3+、YS:Eu3+、CaAl:Eu2+、CaAl:Mn2+、BaAl:Eu2+よりなる群から選択される蛍光体であることを特徴とする、請求項9に記載の蛍光体ペースト組成物。
【請求項11】
請求項2〜10のいずれか1項に記載の蛍光体ペースト組成物によって製造される蛍光膜。
【請求項12】
請求項11に記載の蛍光膜を備える表示装置。
【請求項13】
陰極線発光ディスプレイ、液晶ディスプレイ、電界発光ディスプレイ、電界放出ディスプレイまたは蛍光表示管である、請求項12に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−92066(P2007−92066A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257931(P2006−257931)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】