説明

カンジダトロピカリス細胞及びその使用

【課題】本発明の課題は、十分な量で、特に細胞を取り囲む媒体中で、発酵によりω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを提供するための手段を見出すことであった。
【解決手段】上記課題は、カンジダ トロピカリス細胞、特に株ATCC20336からのカンジダ トロピカリス細胞であって、その野生型に比較して、以下のA)、B)群を含む2つの群から選択されるイントロン不含の核酸配列によりコードされる少なくとも1つの酵素の減少した活性を有することを特徴とする細胞、その使用及びω−ヒドロキシカルボン酸及びω−ヒドロキシカルボン酸エステルの製造方法により解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子エンジニアリングされたカンジダ トロピカリス(Candida tropicalis)細胞、その使用及びω−ヒドロキシカルボン酸及びω−ヒドロキシカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカン類からジカルボン酸を形成するためのその能力のために、カンジダ トロピカリス(Candida tropicalis)は良く特性決定された子嚢菌である。
【0003】
WO91/006660は、POX4及び/又はPOX5遺伝子の中断を介してβ−酸化において完全に阻害され、かつ、α,ω−ジカルボン酸の増加した収率を達成するカンジダ トロピカリス細胞を説明する。
【0004】
WO00/020566は、カンジダ トロピカリスからのシトクロムP450モノオキシゲナーゼ及びNADPHシトクロムP450オキシドレダクターゼ、及び、ω−ヒドロキシル化、ω−酸化におけるこの最初の工程に影響を及ぼすためのその使用を説明する。
【0005】
WO03/089610は、ω−酸化の第2工程、アルデヒドへの脂肪アルコールの変換を触媒作用するカンジダ トロピカリスからの酵素、及び、ジカルボン酸の改善された製造のためのその使用を説明する。
【0006】
これまでの説明されている細胞及び方法は、ω−ヒドロキシカルボン酸又はそのエステルの製造のために適さず、というのも、ω−ヒドロキシカルボン酸は、短期間生存する中間生成物としてだけ常に存在し、かつ、すぐさま更に代謝されるからである。
【0007】
ω−ヒドロキシカルボン酸及びそのエステルは、ポリマーの前駆体として経済的に重要な化合物であり、かつ、これは本発明の商業的な利用性の基礎を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO91/006660
【特許文献2】WO00/020566
【特許文献3】WO03/089610
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、十分な量で、特に細胞を取り囲む媒体中で、発酵によりω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを提供するための手段を見出すことであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
意外なことに、以下説明する細胞はこの課題の解決に寄与することが見出された。
【0011】
本発明の主題は、したがって、請求項1に記載の細胞である。
【0012】
本発明の他の主題は、本発明の方法による細胞の使用及び本発明による細胞を使用するω−ヒドロキシカルボン酸及びω−ヒドロキシカルボン酸エステルの製造方法である。
【0013】
本発明の利点は、ω−ヒドロキシカルボン酸及びこの相応するエステルへのこの使用する出発材料の穏和な変換、及び、この使用する出発材料に対するこの方法の高い特異性及び関連した高い収率である。
【0014】
本発明の主題の1つは、カンジダ トロピカリス細胞、特に株ATCC20336からのカンジダ トロピカリス細胞であって、その野生型に比較して、以下のA)、B)群を含む2つの群から選択されるイントロン不含の核酸配列によりコードされる少なくとも1つの酵素の減少した活性を有することを特徴とする細胞である;
A)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号63、配列番号65及び配列番号67、特に配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49及び配列番号51、極めて特に配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、及び配列番号27、
B)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号63、配列番号65及び配列番号67、特に配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49及び配列番号51、極めて特に配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、及び配列番号27の配列の1つに対して少なくとも80%、特に好ましくは少なくとも90%、より一層好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%同一である配列。
【0015】
この関連において、本発明により好ましい核酸配列群は群A)である。
【0016】
細胞の「野生型」は好ましくは、本発明の関連において、本発明による細胞が要素(例えば次のものを含有する遺伝子;相応する酵素をコードする前述の核酸配列又はこの相応する遺伝子中に含有されるプロモーター、これは前述の核酸配列と機能的に連結している)の操作に由来して得られ、前述の核酸配列番号によりコードされる酵素の活性に影響を有する出発株を意味する。例えば、この株ATCC20336における配列番号1によりコードされる酵素の活性が、相応する遺伝子の中断(interruption)により減少している場合には、この変化しておらず、かつ、相応する操作のために使用される株ATCC20336が「野生型」として考えられるべきである。
【0017】
「遺伝子」との用語は、本発明に関連して、DNA領域をコードするか又はmRNAに転写されたもの、「構造的遺伝子」だけでなく、さらにプロモーター、可能なイントロン、エンハンサー及び他の調節配列、及びターミネーターの領域を意味する。
【0018】
「酵素の活性」との用語は、常に、本発明に関連して、全体的な細胞により、12−ヒドロキシドデカン酸から1,12−ドデカン二酸への反応を触媒作用する酵素活性を意味する。この活性は好ましくは以下の方法により決定される:
単一コロニーから出発して、YM培地(0.3%酵母エキス、0.3%麦芽エキス、0.5%ペプトン及び1.0%(w/w)グルコース)10mlを有する100mlのエルレンマイヤーフラスコを30℃で90rpmで24時間培養させた。次いで、この培養物から出発して、10mlを製造培地(1lにつき:25gグルコース、7.6gNH4Cl、1.5gNa2SO4、300mlの1mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、20mgZnSO4×7H2O、20mgMnSO4×4H2O、20mgニコチン酸、20mgピリドキシン、8mgチアミン、及び6mgパントテナート)100mlを有する1リットルのエルレンマイヤーフラスコ中へと接種した。これを24時間30℃で培養する。
【0019】
24時間後に、12−ヒドロキシドデカン酸をこの細胞懸濁物に、この濃度が0.5g/lより大きくならないように添加する。グルコース又はグリセロールもまた補助基質として、この補助基質の濃度が0.2g/lを下回らないように添加する。0h、0.5h、1h後、及び次いで24hの培養時間まで各時間毎に、試料(1ml)を12−ヒドロキシドデカン酸、12−オキソ−ドデカン酸及び1,12−ドデカン二酸及びこの相応するメチルエステルの測定のために取り出し、この細胞カウントをチェックする。各測定後に、このpHを6NのNaOH又は4NのH2SO4を用いて5.0〜6.5の間に維持する。培養の間に、細胞成長を「コロニー形成単位」(CFU)をチェックすることより確認する。12−ヒドロキシドデカン酸の減少及び1,12−ドデカン二酸又はこの相応するメチルエステルの製造をLC−MSにより確認する。このために、培養液500μlをpH1に調整し、次いで同じ体積のジエチルエーテル又はエチルアセタートで抽出し、LC−MSにより分析する。
【0020】
脱気機、オートサンプラー及びカラム炉を有するHP1100 HPLC(Agilent Technologies, Waldbronn, ドイツ国)からなる測定システムを、質量選択四重検出器MSD(Agilent Technologies, Waldbronn, ドイツ国)に連結する。クロマトグラフィによる分離を、逆相の、例えば125×2mmのLuna C18(2)カラム(Phenomenex, Aschaffenburg, ドイツ国)で40℃で達成する。勾配溶出を0.3ml/分の流れで実施する(A:水中の0.02%ギ酸、B:アセトニトリル中の0.02%ギ酸)。又は、この有機抽出物をGC−FIDにより分析する(Perkin Elmer, Rodgau-Juegescheim, ドイツ国)。クロマトグラフィによる分離をメチルポリシロキサン(5%フェニル)相で、例えばElite 5で、30m、0.25mm ID、0.25μm FD(Perkin Elmer, Rodgau-Juegescheim, ドイツ国)で行う。測定前に、メチル化試薬、例えばトリメチルスルホニウムヒドロキシド「TMSH」(Macherey-Nagel GmbH&Co. KG, Dueren, ドイツ国)を遊離酸に添加し、注射してこれらを相応するメチルエステルに変換する。
【0021】
1,12−ドデカン二酸の測定された濃度及びサンプリング時間での細胞数の計算により、12−ヒドロキシドデカン酸からの1,12−ドデカン二酸の比製造速度、及びしたがって上記で定義されたとおりの細胞中の「酵素活性」を決定することが可能である。「野生型に比較して減少した活性」との表現は、野生型活性に対して有利には少なくとも50%、特に有利には少なくとも90%、より有利には少なくとも99.9%、より一層有利には少なくとも99.99%、最も有利には少なくとも99.999%減少した活性を意味する。
【0022】
野生型に比較した本発明による細胞の活性における減少は、可能な限り同じ細胞数/−濃度を使用しながらこの活性を測定するための上記の方法により決定され、この細胞は同じ条件、例えば培地、ガス処理(gassing)、撹拌で成長している。
【0023】
上述の配列に対する「ヌクレオチド同一性」は公知方法を使用して決定されることができる。一般的に、特殊な要求を考慮してアルゴリズムを用いる特殊なコンピュータープログラムを使用する。同一性の決定のための好ましい方法は、まず、比較すべき配列間の最大の一致を明らかにする。同一性の決定のためのコンピュータープログラムは、限定はされないものの、次のものを含むGCGソフトウェアパッケージを含む:
−GAP(Deveroy, J. et al., Nucleic Acid Research 12 (1984),387頁, Genetics Computer Group University of Wisconsin, Medicine (Wi)、及び
−BLASTP、BLASTN及びFASTA(Altschul, S.et al., Journal of Molecular Biology 215 (1990),403-410頁。このBLASTプログラムは、the National Center for Biotechnology Information (NCBI)から、及び他の供給源から得ることができる(BLASTマニュアル, Altschul S. et al., NCBI NLM NIH Bethesda ND 22894; Altschul S. et al.、上述)。
【0024】
既知のSmith-Watermanアルゴリズムもまたヌクレオチド同一性の決定のために使用されることができる。
【0025】
「ヌクレオチド同一性」の決定のために好ましいパラメーターは、BLASTNプログラム(Altschul,S. et al., Journal of Molecular Biology 215 (1990),403-410頁)を使用する場合には、次のとおりである:
期待閾値:10
ワードサイズ:28
マッチスコア:1
ミスマッチスコア:−2
ギャップコスト:リニア。
【0026】
上述のパラメーターは、ヌクレオチド配列比較においてデフォルトパラメーターである。
【0027】
このGAPプログラムもまた上述のパラメーターを用いた使用に適している。
【0028】
上述のアルゴリズム手段による80%の同一性は、本発明との関連において、80%の同一性である。同じことはより高い同一性にも当てはまる。
【0029】
「イントロン不含核酸配列によりコードされる」との用語は、ここに記載の配列を用いた配列比較において比較すべき核酸配列から前もって任意のイントロンを精製すべきことを明らかにする。
【0030】
全ての記載のパーセンテージ(%)は、他に記載がなければ質量パーセンテージである。
【0031】
微生物において酵素活性を低下させる方法はこの分野の当業者に知られている。
【0032】
特に、分子生物学における技術がこのために使用されることができる。当業者は改変及びタンパク質発現の減少及びこれに関連する酵素活性における減少に関する指示を、特にカンジダ トロピカリスのために、とりわけ特定した遺伝子を中断するために、WO91/006660;WO03/100013;Picataggio et al. Mol Cell Biol. 1991 Sep;11 (9):4333-9;Rohrer et al. Appi Microbiol Biotechnol. 1992 Feb; 36(5):650-4;Picataggio et al. Biotechnology (N Y). 1992 Aug; 10(8):894-8;Ueda et al. Biochim Biophys Acta. 2003 Mar 17; 1631(2):160-8;Ko et al. Appi Environ Microbiol. 2006 Jun;72(6);4207-13;Hara et al. Arch Microbiol. 2001 Nov;176(5) :364-9; Kanayama et al. J Bacteriol. 1998 Feb;180(3):690-8に見出すことができる。
【0033】
本発明により好ましい細胞は、酵素活性における減少が、前述の核酸配列群A)及びB)から選択されている配列の1つを含む少なくとも1つの遺伝子の改変により達成されることを特徴とし、この改変は、この遺伝子中への外来DNAの挿入、この遺伝子の少なくとも一部の欠失、この遺伝子配列中の点突然変異、及びこの遺伝子をRNA干渉の影響下におくこと、又は、この遺伝子部分、特にプロモーター領域の外来DNAでの交換を含む群、有利にはこれらからなる群から選択されている。
【0034】
外来DNAは、この文脈において、この遺伝子に対して(この生物に対してでない)「外来」である任意のDNA配列を意味し、すなわち、この文脈においては、カンジダ トロピカリス内因性DNA配列ですら「外来」遺伝子として機能する。
【0035】
この文脈において、遺伝子が選択マーカー遺伝子の挿入により中断されることが好ましく、したがって、この外来DNAは選択マーカー遺伝子であり、この挿入は好ましくは遺伝子座中への相同性組み換えにより実施されている。
【0036】
この文脈において、この選択マーカー遺伝子が更なる機能性でもって拡張されている場合が有利である可能性があり、これは遺伝子からの引き続く除去を再度可能にし、これは例えばCre/loxPシステムを用いて、Flippase認識ターゲット(FRT)を用いて、又は、相同性組み換えにより達成されることができる。
【0037】
本発明により好ましい細胞は、これらがそのβ−酸化において少なくとも部分的に、好ましくは完全に遮断されることを特徴とし、というのも、これにより基質の流出を妨げ、したがってより高い力価が可能になるからである。
【0038】
そのβ−酸化において部分的に遮断されたカンジダ トロピカリス細胞の例は、EP0499622において株H41、H41B、H51、H45、H43、H53、H534、H534B及びH435として説明され、ここから本発明による好ましいカンジダ トロピカリス細胞が得られる。
【0039】
β−酸化について遮断された他のカンジダ トロピカリス細胞は、例えばWO03/100013に説明されている。
【0040】
この文脈において、β−酸化が遺伝子POX2、POX4、又はPOX5の少なくとも1つの誘導された機能障害により引き起こされる細胞が好ましい。
【0041】
したがって、この文脈において、本発明により好ましいカンジダ トロピカリス細胞が、ATCC20962及びカンジダ トロピカリスHDC100(US2004/0014198に説明)を含む群から選択される株に由来することを特徴とする細胞が好ましい。
【0042】
本発明による細胞の、ω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルの製造のための使用もまた、本発明が対峙する課題の解決に寄与する。
【0043】
特に、ω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルであって6〜24個、好ましくは8〜18個、特に好ましくは10〜16個の炭素原子のカルボン酸の鎖長を有し、これが好ましくは線状、飽和かつ非置換であり、かつ、1〜4個、特に1又は2個の炭素原子のエステルのアルコール成分の鎖長を有するものの製造のための本発明による細胞の使用が有利である。この文脈において、ω−ヒドロキシカルボン酸については12−ヒドロキシドデカン酸が、ω−ヒドロキシカルボン酸エステルについては12−ヒドロキシドデカン酸メチルエステルが好ましい。
【0044】
好ましい使用は本発明により、上述のとおりの本発明による好ましい細胞が使用されることにより特徴付けられる。
【0045】
本発明が対峙する課題を解決するための他の寄与は、以下の工程を含む上述のとおりの本発明によるC.トロピカリス細胞の製造方法により為される:
I)C.トロピカリス(C. tropicaiis)細胞、好ましくは、少なくとも部分的に、好ましくは完全に、そのβ−酸化が遮断されている細胞を提供する工程、及び
II)上述の核酸配列群A)及びB)から選択されるイントロン不含核酸配列の1つを含有する少なくとも1つの遺伝子を、この遺伝子中への外来DNA、特に選択マーカー遺伝子をコードするDNAの挿入、この遺伝子の少なくとも一部の欠失、この遺伝子配列中の点突然変異、及び、この遺伝子をRNA干渉の影響下におくこと、又は、この遺伝子部分、特にプロモーター領域の外来DNAでの交換により、改変する工程。
【0046】
本発明が対峙する課題を解決するための別の寄与は、ω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステル、特にω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルであって6〜24個、好ましくは8〜18個、とりわけ好ましくは10〜16個の炭素原子のカルボン酸の鎖長を有し、これが好ましくは線状、飽和かつ非置換であり、かつ、1〜4個、特に1又は2個の炭素原子のエステルのアルコール成分の鎖長を有するもの、とりわけ12−ヒドロキシドデカノン酸又は12−ヒドロキシドデカノン酸メチルエステルの製造方法であって、
A)本発明による前述の細胞と、カルボン酸又はカルボン酸エステル、特にカルボン酸又はカルボン酸エステルであって6〜24個、好ましくは8〜18個、とりわけ好ましくは10〜16個の炭素原子のカルボン酸の鎖長を有し、これが好ましくは線状、飽和かつ非置換であり、かつ、1〜4個の炭素原子のエステルのアルコール成分の鎖長を有するもの、とりわけドデカノン酸又はドデカノン酸メチルエステルを含有する媒体とを接触させる工程、
B)この細胞がこのカルボン酸又はカルボン酸エステルから相応するω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを形成できる条件下で細胞を培養する工程、及び
C)場合により、この形成されたω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを単離する工程を含む製造方法。
【0047】
本発明により好ましい方法は、本発明により好ましいものとして上述した細胞を使用する。
【0048】
したがって、例えば以下の工程を含む12−ヒドロキシドデカン酸又は12−ヒドロキシドデカン酸メチルエステルの製造方法は、極めて特に好ましい:
A)そのβ−酸化において少なくとも部分的に遮断された株ATTC20336のカンジダ トロピカリス細胞であって、その野生型に比較して、前述の核酸配列群A)及びB)から選択されたイントロン不含核酸配列によりコードされた少なくとも1つの酵素の減少した活性を有する細胞と、ドデカノン酸又はドデカノン酸メチルエステルを含有する媒体とを接触させる工程、
この場合に、この酵素の活性の減少は、前述の核酸配列群A)及びB)から選択される核酸配列の1つを含む遺伝子の改変により達成され、
この場合に、この改変はこの遺伝子中への選択マーカー遺伝子の挿入からなり、
B)この細胞がこのカルボン酸又はカルボン酸エステルから相応するω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを形成できる条件下で細胞を培養する工程、及び
C)場合により、この形成されたω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを単離する工程。
【0049】
カンジダ トロピカリスのための適した培養条件はこの分野の当業者に知られている。特に工程b)のために適した条件は、カンジダ トロピカリスを用いたジカルボン酸の製造のための生物変換方法からこの分野の当業者に知られているようなものである。
【0050】
これら培養条件は、例えばWO00/017380及WO00/015828に記載されている。
【0051】
形成されたω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルの単離方法はこの分野の当業者に知られている。これらは水溶液からの長鎖カルボン酸の単離のための標準的な方法であり、例えば蒸留又は抽出であり、例えばWO2009/077461にも見出されることができる。
【0052】
本発明による方法により獲得されたω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを、ポリマー、特にポリエステルの製造のために使用することが有利である。更に、ラクトンも、このω−ヒドロキシカルボン酸から製造されることができ、かつ、次いで例えば再度ポリエステルの製造のために使用されることができる。
【0053】
他の有利な使用は、ポリマーとしてポリアミドを獲得するために、ω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルをω−アミノカルボン酸又はω−アミノカルボン酸エステルに変換することである。このω−アミノカルボン酸又はω−アミノカルボン酸エステルは相応するラクタムに最初に変換されることもでき、これは次いで再度アニオン的に、又は酸性触媒作用によってもポリアミドに変換されることができる。
【0054】
第1反応工程において、このω−ヒドロキシカルボン酸又は相応するエステルをω−オキソ−カルボン酸又はこの相応するエステルに変換し、次いでこのオキソ基のアミン化を、例えば還元的アミン化の過程において実施することが特に極めて好ましい。
【0055】
この文脈において、12−ヒドロキシドデカン酸又は12−ヒドロキシドデカン酸メチルエステルの、ポリマー、特にポリアミド12の製造のための使用が特に好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号63、配列番号65及び配列番号67
B)配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、配列番号31、配列番号33、配列番号35、配列番号37、配列番号39、配列番号41、配列番号43、配列番号45、配列番号47、配列番号49、配列番号51、配列番号53、配列番号55、配列番号57、配列番号59、配列番号61、配列番号63、配列番号65及び配列番号67の配列の1つに対して少なくとも80%同一である配列
からなる2つの群A)及びB)から選択されるイントロン不含の核酸配列によりコードされる酵素の少なくとも1の、野生型に比較して減少した活性を有することを特徴とするカンジダ トロピカリス(Candida tropicalis)細胞。
【請求項2】
この酵素活性における低下が請求項1記載の核酸配列の1つを含有する遺伝子の改変により達成され、この改変が、この遺伝子中への外来DNAの挿入、この遺伝子の少なくとも一部の欠失、この遺伝子配列中の点突然変異、この遺伝子をRNA干渉の影響下におくこと、及び、この遺伝子部分、特にプロモーター領域の外来DNAでの交換を含む群から選択されていることを特徴とする請求項1記載のカンジダ トロピカリス細胞。
【請求項3】
外来DNAが選択マーカー遺伝子であることを特徴とする請求項2記載のカンジダ トロピカリス細胞。
【請求項4】
この細胞がそのβ−酸化において少なくとも部分的に遮断されることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載のカンジダ トロピカリス細胞。
【請求項5】
カンジダ トロピカリス細胞が、カンジダ トロピカリスH41、カンジダ トロピカリスH41B、カンジダ トロピカリスH51、カンジダ トロピカリスH45、カンジダ トロピカリスH43、カンジダ トロピカリスH53、カンジダ トロピカリスH534、カンジダ トロピカリス534B、カンジダ トロピカリスH435、カンジダ トロピカリスATCC20962及びカンジダ トロピカリスHDC100を含む群、特にカンジダ トロピカリスATCC20962及びカンジダ トロピカリスHDC100からなる群から選択される株に由来することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載のカンジダ トロピカリス細胞。
【請求項6】
ω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルの製造のための請求項1から5までのいずれか1項記載の細胞の使用。
【請求項7】
I)C.トロピカリス(C. tropicaiis)細胞を提供する工程、及び
II)請求項1に記載の核酸配列群A)及びB)から選択される配列の1つを含有する少なくとも1つの遺伝子を、この遺伝子中への外来DNA、特に選択マーカー遺伝子をコードするDNAの挿入、この遺伝子の少なくとも一部の欠失、この遺伝子配列中の点突然変異、この遺伝子をRNA干渉の影響下におくこと、及び、この遺伝子部分、特にプロモーター領域の外来DNAでの交換により、改変する工程
を含む請求項1から5までのいずれか1項記載のC.トロピカリス細胞の製造方法。
【請求項8】
ω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステル、特にω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルであって6〜24個の炭素原子のカルボン酸鎖長及び1〜4個の炭素原子のエステルのアルコール成分鎖長を有するもの、特に12−ヒドロキシドデカノン酸又は12−ヒドロキシドデカノン酸メチルエステルの製造方法であって、
a)請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞と、カルボン酸又はカルボン酸エステルを含有する媒体とを接触させる工程、
b)この細胞がこのカルボン酸又はカルボン酸エステルから相応するω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを形成できる条件下で細胞を培養する工程、及び
c)場合により、この形成されたω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルを単離する工程を含む製造方法。
【請求項9】
請求項5に記載のそのβ−酸化において少なくとも部分的に遮断されている細胞を使用することを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
ポリマーの製造のための、請求項8又は9に記載の方法により得られるω−ヒドロキシカルボン酸又はω−ヒドロキシカルボン酸エステルの使用。

【公開番号】特開2011−101643(P2011−101643A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−253092(P2010−253092)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】