説明

カーボンナノチューブの作製方法

【課題】 カーボンナノチューブを高速成長せしめる従来の方法では、成長速度がガスの供給方法に強く依存しているため、長さや直径が揃ったカーボンナノチューブを再現性よく成長せしめることは困難である。
【解決手段】 反応室に炭素含有の原料ガスを導入し、熱CVD法によってカーボンナノチューブを基板表面に気相成長させる際に、この原料ガスの存在下で、カーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで所定の基板昇温速度で基板を急速加熱して所定時間保持することで、基板表面にカーボンナノチューブを成長せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの作製方法に関し、特に、基板に対して垂直方向に揃った配向性を有する良質のカーボンナノチューブを高速成長せしめるカーボンナノチューブの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブは、電子放出電圧が低くて化学的安全性を有することから、例えば、このカーボンナノチューブを電界電子放出型表示装置(FED:Field Emission Display)の電子放出源に利用することが考えられている。
【0003】
カーボンナノチューブの作製方法としては、例えば、カーボンナノチューブを成長せしめる際に触媒として作用するFeやNiなどの遷移金属を成長面に形成したガラスやシリコン製の基板を用い、反応室に炭素含有の原料ガスを導入し、熱CVD法によってカーボンナノチューブを基板表面に気相成長せしめることが知られている(特許文献1)。このカーボンナノチューブの作製方法では、カーボンナノチューブの成長速度が遅く、生産性を向上させることができないという問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、シリコン基板表面に所定の膜厚でFeを成膜した基板を用い、この基板を電気炉内に設置し、大気圧であってヘリウムガス雰囲気中で基板を所定温度まで加熱した後、ヘリウムガスの供給量を低下させると同時に、原料ガスであるアセチレンガスを供給することで、カーボンナノチューブを高速成長せしめることが提案されている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開平2004−26532号公報(例えば、特許請求の範囲の記載参照)。
【非特許文献1】応用物理 第73巻 第5号 「熱CVD法を用いたブラシ状多層カーボンナノチューブの成長方法」(615〜619頁参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなカーボンナノチューブを高速成長せしめる方法では、カーボンナノチューブの成長初期における成長速度がガスの供給方法に強く依存している。つまり、原料ガスの供給開始やヘリウムガスの供給停止のタイミングが変わると、成長させたカーボンナノチューブの長さや直径などが変化する。この場合、長さや直径が揃ったカーボンナノチューブを再現性よく成長せしめることは困難である。
【0006】
そこで、上記点に鑑み、本発明の課題は、長さや直径が揃ったカーボンナノチューブを再現性よく高速成長せしめることができるようにしたカーボンナノチューブの作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載のカーボンナノチューブの作製方法は、反応室に炭素含有の原料ガスを導入し、熱CVD法によってカーボンナノチューブを基板表面に気相成長させる際に、この原料ガスの存在下で、カーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで所定の基板昇温速度で基板を急速加熱して保持することで、基板表面にカーボンナノチューブを成長せしめることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、反応室内に基板を設置した後、この反応室に原料ガスを導入しつつ、所定の基板昇温速度で基板を急速加熱する。基板がカーボンナノチューブが成長し得る成長温度に到達するとその状態で保持する。これにより、基板表面に、この基板に対して垂直方向に揃った配向性を有する良質のカーボンナノチューブが、例えば5μ/sec以上の速度で高速成長する。この場合、原料ガスの存在下で急速加熱することとしたため、原料ガスなどの供給方法に依存せず、再現性よくカーボンナノチューブを高速成長せしめることができる。
【0009】
また、請求項2記載のカーボンナノチューブの作製方法は、反応室に炭素含有の原料ガスを導入し、熱CVD法によってカーボンナノチューブを基板表面に気相成長させる際に、この原料ガスの存在下で、前記原料ガスが分解しない温度まで基板を加熱した後、カーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで所定の基板昇温速度で基板を急速加熱して所定時間保持することで、基板表面にカーボンナノチューブを成長せしめることを特徴とする。これにより、基板を加熱する装置の能力上、カーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで基板を急速に加熱できない場合であっても、二段階で昇温することで再現性よくカーボンナノチューブを高速成長せしめることができる。
【0010】
この場合、前記基板昇温速度を、5℃/sec以上とすることが好ましい。5℃/secより遅い基板昇温速度では、基板表面にアモルファスカーボンが堆積してしまう。
【0011】
前記原料ガスとして、炭化水素またはアルコールを用いればよい。
【0012】
また、前記原料ガスに、H、N若しくは希ガスまたはこれの混合ガスを混合し、原料ガスを希釈するようにすれば、カーボンナノチューブの成長の際にアモルファスカーボンが析出すること、また、反応管内にすすが付くことが防止できてよい。
【0013】
前記基板として、カーボンナノチューブの成長面に触媒として作用するFeを積層したシリコン基板、または、カーボンナノチューブの成長面に熱酸化SiO膜及び触媒として作用するFeを順次積層したシリコン基板を用いることが好ましい。
【0014】
反応室内の圧力が380〜760Torrの範囲に保持されるようにするのがよい。圧力が低すぎると、カーボンナノチューブの成長速度が遅く、また、圧力が高すぎると、アモルファスカーボンが析出し易くなる。
【0015】
また、基板を急速に加熱するために、前記反応室として、赤外線イメージ炉を用いればよい。
【0016】
カーボンナノチューブの成長速度が5μm/sec以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明のカーボンナノチューブの作製方法は、長さや直径が揃ったカーボンナノチューブを再現性よく高速成長せしめることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1及び図2を参照して説明すれば、1は、本発明のカーボンナノチューブの作製方法を実施する赤外線イメージ炉である。赤外線イメージ炉1は、ロータリーポンプなどの真空排気手段(図示せず)が接続された金属製の炉体11を有し、この炉体11は、冷却手段をそれぞれ有する上下一対の上炉体11aと下炉体11bとから構成されている。上炉体11a及び下炉体11bの相互に向かい合う面には、相互に重ね合わせたときに略円筒形状の空間が形成されるように断面略楕円形状のくぼみ部12a、12bがそれぞれ形成されている。
【0019】
各くぼみ部12a、12bの曲率は、後述する赤外線ランプからの光が基板に集光するように設定され、その外表面には、光反射率を高めるために、例えば金の反射層Rが形成されている。各くぼみ部12a、12bによって区画された空間内には、反応室である例えば透明な石英製の反応管13が配置され、反応管13内には、基板Sの載置を可能とする基板ホルダー14が設けられている。
【0020】
くぼみ部12aと反応管13との間には、反応管13の外周に沿って発熱体である複数本の赤外線ランプ15が設けられている。この赤外線ランプ15は、例えば透明な石英管にタングステンフィラメントを封入した棒状のものであり、放射波長は約1.15μmにピークを有する。この赤外線イメージ炉1によって、基板ホルダー14に載置された基板Sを高速高温加熱及び高速冷却することができる。
【0021】
また、熱CVD法によってカーボンナノチューブを基板S表面に気相成長させる際に、反応管13に炭素含有の原料ガスやこの原料ガスを希釈する希釈ガスが導入できるように、例えばマスフローコントローラを設けたガス導入手段(図示せず)が炉体11に設けられている。炭素含有の原料ガスとしては、炭化水素またはアルコールが用いられる。原料ガスに混合される希釈ガスとしては、H、Nガス若しくはHe、Arなどの希ガスまたはこれらの混合ガスが用いられる。希釈ガスを用いるのは、原料ガスの濃度が高いと、成長の際にアモルファスカーボンが析出し、また、反応管13内にすすが付くため、これらを防止するためである。
【0022】
基板ホルダー14に載置される基板Sとしては、カーボンナノチューブの成長面に触媒として作用するFeを、例えばEB蒸着法によって成膜したシリコン基板、または、カーボンナノチューブの成長面に熱酸化SiO膜及び触媒として作用するFeを順次積層したシリコン基板を用いる。
【0023】
そして、本発明のカーボンナノチューブの作製方法では、先ず、反応管13内の基板ホルダー14に上記基板Sを載置した後、真空排気手段を作動して所定圧力まで一旦真空排気する。次いで、原料ガスと希釈ガスとをそれぞれ導入し、原料ガスの存在下で赤外線ランプ15を作動させて基板Sを急速加熱する。この場合、原料ガス及び希釈ガスの流量は、反応管の容積や断面形状により異なるが、マスフローコントローラの作動を制御して基板Sの周辺に各ガスが滞留しない程度、好ましくは、100〜1000cc/minの範囲になるように設定する。
【0024】
その際、反応管13内の圧力は、真空排気手段の作動を制御して380〜760Torrの範囲になるように設定することが好ましい。圧力が低すぎると、カーボンナノチューブの成長速度が遅く、また、圧力が高すぎると、アモルファスカーボンが析出し易くなる。
【0025】
カーボンナノチューブが成長し得る成長温度は、分解温度の低いアルコールを原料ガスとした場合、400〜600℃の範囲であり、分解温度の高い炭化水素を原料ガスとした場合、600〜850℃とする。温度が低いと、カーボンナノチューブの成長速度が遅く、また、温度が高いと、アモルファスカーボンが多く析出して反応管にすすが付着してしまう。そして、これらの成長温度まで、5℃/sec以上の基板昇温速度で基板Sを急速加熱し、所定時間保持する。5℃/secより遅い速度では、基板表面にアモルファスカーボンが堆積してしまう。
【0026】
これにより、基板S表面に、この基板Sに対して垂直方向に揃った配向性を有する良質のカーボンナノチューブが、例えば5μm/sec以上の速度で高速成長する。この場合、原料ガスの存在下で急速加熱することとしたため、原料ガスなどの供給方法に依存せず、再現性よくカーボンナノチューブを高速成長せしめることができる。
【0027】
尚、本実施の形態では、赤外線イメージ炉1を用いたものについて説明したが、これに限定されるものではなく、基板Sを急速に加熱し得るものであればよい。
【0028】
また、本実施の形態では、基板Sを常温からカーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで急速加熱するものついて説明したが、基板を加熱する装置の能力上、カーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで基板Sを急速に加熱できない場合、原料ガスが分解しない温度まで基板Sを加熱した後、カーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで、所定の基板昇温速度で基板Sを急速に加熱して保持するようにしてもよい。
【実施例1】
【0029】
本実施例では、基板Sとして、基板S表面にEB蒸着法により5nmの膜厚でFeを成膜したSi(100)を用い、図1及び図2に示す赤外線イメージ炉1を用いてカーボンナノチューブを触媒として作用するFe膜上に成長せしめた。
【0030】
上記基板Sを基板ホルダー14に載置した後、真空排気手段を作動して反応管13内の圧力が8×10−2Torrに到達するまで真空排気した。次いで、上記圧力に到達すると、ガス導入手段を介して原料ガス及び希釈ガスを反応管内に導入した。この場合、原料ガスとしてアセチレンを用い、100cc/minの流量に設定すると共に、希釈ガスとしてNを用い、900cc/minの流量に設定し、反応管13内の圧力が760Torrに保持されるようにした。
【0031】
この原料ガスの存在下で、赤外線ランプ15を作動して、上記基板Sを20℃から700℃まで60secで昇温させた。次いで、基板S温度が700℃に到達すると、この状態で1sec間保持した。その後、真空排気しつつ基板S温度を降温させた。
(比較例1)
【0032】
本比較例1では、上記実施例1と同じ基板Sを用い、同条件で同一の原料ガス及び希釈ガスを反応管13内に導入した。この原料ガスの存在下で、赤外線ランプ15を作動して、上記基板Sを20℃から700℃まで600secで昇温させた。次いで、基板S温度が700℃に到達すると、この状態で1sec間保持した。その後、真空排気しつつ基板S温度を降温させた。
【0033】
図3は、上記実施例1の条件でカーボンナノチューブを成長せしめた場合の断面に対するSEM写真である。図4は、上記比較例1の条件でカーボンナノチューブを成長せしめた場合の断面に対するSEM写真である。これらによれば、比較例1では、基板昇温時間を長くしたことで、基板S表面にアモルファスカーボンが堆積してしまい、カーボンナノチューブは成長しなかった。それに対して、基板Sに対して垂直方向に揃った配向性を有する良質のカーボンナノチューブが20μm程度成長している。これにより、10μm/sec以上の高速でカーボンナノチューブを成長させることができたことが判る。
【実施例2】
【0034】
本実施例では、基板Sとして、基板S表面にEB蒸着法により5nmの膜厚でFeを成膜したSi(100)を用い、図1及び図2に示す赤外線イメージ炉1を用いてカーボンナノチューブを触媒として作用するFe膜上に成長せしめた。
【0035】
先ず、上記基板Sを基板ホルダー14に載置した後、真空排気手段を作動して反応管13内の圧力が8×10−2Torrに到達するまで真空排気した。次いで、上記圧力に到達すると、ガス導入手段を介して原料ガス及び希釈ガスを反応管13内に導入した。この場合、原料ガスとしてアセチレンを用い、100cc/minの流量に設定すると共に、希釈ガスとしてNを用い、900cc/minの流量に設定し、反応管内の圧力が760Torrに保持されるようにした。
【0036】
この原料ガスの存在下で、赤外線ランプ15を作動して、上記基板Sを20℃からアセチレンが分解しない400℃まで30secで一旦昇温させた。次いで、赤外線ランプ15の作動を制御して基板昇温速度を変更して400℃から750℃まで10secで昇温させた。次いで、基板S温度が750℃に到達すると、この状態で10sec間保持した。その後、真空排気しつつ基板S温度を降温させた。
【0037】
図5は、上記実施例1の条件でカーボンナノチューブを成長せしめた場合の断面に対するSEM写真である。これによれば、基板Sに対して垂直方向に揃った配向性を有する良質のカーボンナノチューブが100μm程度成長している。これにより、10μm/sec程度の高速でカーボンナノチューブを成長させることができたことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のカーボンナノチューブの作製方法を実施する赤外線イメージ炉を説明する図。
【図2】本発明のカーボンナノチューブの作製方法を実施する赤外線イメージ炉を説明する図。
【図3】実施例1の条件で作製したカーボンナノチューブの断面に対するSEM写真。
【図4】比較例1の条件で作製したカーボンナノチューブの断面に対するSEM写真。
【図5】実施例2の条件で作製したカーボンナノチューブの断面に対するSEM写真。
【符号の説明】
【0039】
1 赤外線イメージ炉
11a、11b 炉体
12a、12b くぼみ部
13 反応管
14 基板ホルダー
15 赤外線ランプ
S 基板
R 反射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室に炭素含有の原料ガスを導入し、熱CVD法によってカーボンナノチューブを基板表面に気相成長させる際に、この原料ガスの存在下で、カーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで所定の基板昇温速度で基板を急速加熱して所定時間保持することで、基板表面にカーボンナノチューブを成長せしめることを特徴とするカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項2】
反応室に炭素含有の原料ガスを導入し、熱CVD法によってカーボンナノチューブを基板表面に気相成長させる際に、この原料ガスの存在下で、前記原料ガスが分解しない温度まで基板を加熱した後、カーボンナノチューブが成長し得る成長温度まで所定の基板昇温速度で基板を急速加熱して所定時間保持することで、基板表面にカーボンナノチューブを成長せしめることを特徴とするカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項3】
前記基板昇温速度を、5℃/sec以上とすることを特徴とする請求項1または請求項2記載のカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項4】
前記原料ガスとして、炭化水素またはアルコールを用いることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項5】
前記原料ガスに、H、N若しくは希ガスまたはこれの混合ガスを混合し、原料ガスを希釈することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項6】
前記基板として、カーボンナノチューブの成長面に触媒として作用するFeを積層したシリコン基板、または、カーボンナノチューブの成長面に熱酸化SiO膜及び触媒として作用するFeを順次積層したシリコン基板を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項7】
反応室内の圧力が380〜760Torrの範囲に保持されるようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項8】
前記反応室として、赤外線イメージ炉を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のカーボンナノチューブの作製方法。
【請求項9】
カーボンナノチューブの成長速度が5μm/sec以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のカーボンナノチューブの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−62882(P2006−62882A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243755(P2004−243755)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】