説明

カーボンナノチューブの製造方法

【課題】 炭素源にショウノウを用いる化学気相成長法によってカーボンナノチューブを製造する好適な方法を提供する。
【解決手段】 触媒金属(例えば鉄及びコバルト)が支持体(例えばゼオライト粉末)に担持された触媒体を用意し、その触媒体の存在下でショウノウを熱分解させる。かかる製造方法は、例えば、気化ゾーン2及び反応ゾーン3を有するリアクター10と、それらのゾーン2,3の温度をそれぞれ調節可能な温度制御手段20とを有する装置1を用いて実施することができる。気化ゾーン2に配置したショウノウ12を気化させてキャリアガスとともに反応ゾーン3に供給し、反応ゾーン3に配置された触媒体14の存在下で熱分解させることによってカーボンナノチューブが生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる化学気相成長法(CVD法)によってカーボンナノチューブを製造する方法に関し、詳しくは、該化学気相成長法における炭素源としてショウノウ(camphor)を使用してカーボンナノチューブを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、導電性、熱伝導性、機械的強度等の優れた特性を持つことから、多くの分野から注目を集めている新素材である。一般にカーボンナノチューブは、炭素又は炭素を含む原料を、必要に応じて触媒の存在下で、高温条件に置くことによって合成される。主な製造方法として、アーク放電法、レーザ蒸発法及び化学気相成長法が知られている。これらのうち化学気相成長法(すなわちCVD法)は、炭素を含む原料(炭素源)を熱分解させてカーボンナノチューブを合成するものであって、設備費用が安価である、反応条件のコントロールが容易である、システムの運転が容易でありスケールアップに適している、等の利点を有する。CVD法における炭素源としては、種々の化合物を使用し得る可能性が指摘されている。しかし実際には、アセチレン、ベンゼン等の化石燃料(典型的には石油)に由来する炭素源を用いた検討が大部分であった。例えば特許文献1には、使用し得る炭素源として数々の炭素化合物が列挙されているが、実施例において実際に使用されている炭素化合物はベンゼンのみである。
【0003】
【特許文献1】特開2004−270088号公報
【非特許文献1】ムクル クマール(Mukul Kumar)他2名,2001年ナノカーボン国際シンポジウム(International Symposium on NanoCarbons, 2001)要旨集,2001年,第244〜245頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、非特許文献1には、フェロセン(触媒)を含むショウノウを炭素源とするCVD法によってカーボンナノチューブが得られることが記載されている。ショウノウは、植物から簡単に得ることができる(すなわち、化石燃料に依存することなく入手可能である)。したがって、CVD法における炭素源としてショウノウを用いることにより、炭素源として石油製品(アセチレン、ベンゼン等)を用いる場合に比べて環境負荷が低減するものと期待される。
【0005】
そこで本発明は、ショウノウを炭素源とするCVD法によるカーボンナノチューブの製造方法であって、生成物たるカーボンナノチューブの構造及び/又は収率の制御をより容易に行い得る製造方法を提供することを目的とする。本発明の他の一つの目的は、単層カーボンナノチューブを純度よく製造することのできるカーボンナノチューブ製造方法を提供することである。本発明の他の一つの目的は、多層カーボンナノチューブを純度よく製造することのできるカーボンナノチューブ製造方法を提供することである。関連する他の一つの目的は、単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとの生成比を調節する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、化学気相成長法(いわゆるCVD法)によってカーボンナノチューブを製造する方法が提供される。その製造方法では、触媒金属が支持体に担持された触媒体を用意する。そして、該触媒体の存在下でショウノウを熱分解させる。
かかる方法によると、あらかじめ用意された触媒体の存在下でショウノウを熱分解させるので、安定した条件でカーボンナノチューブを生成及び成長させることができる。したがって、例えば、ショウノウと触媒とを反応室に並行して導入する場合に比べて、生成物の構造及び/又は収率を容易に制御することができる。
【0007】
ここで、「カーボンナノチューブ」とは、チューブ状の炭素同素体(典型的には、グラファイト構造の円筒型構造物)をいい、特別の形態(長さや直径)に限定されない。いわゆる単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、あるいはチューブ先端が角状のカーボンナノホーンは、ここでいうカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということもある。)の概念に包含される典型例である。
【0008】
上記支持体として使用し得る材料の一好適例としては、ゼオライト、シリカゲル等のような無機多孔体が挙げられる。本発明の製造方法には、このような支持体に、少なくとも鉄(Fe)及びコバルト(Co)を含む触媒金属が担持された触媒体を好適に使用することができる。
上記ショウノウの熱分解は、550℃以上1100℃以下の温度域で行うことが好ましい。熱分解を行う温度(以下、「CVD温度」ということもある。)が上記温度域よりも低すぎると、CNTの効率的な生成が困難となる場合がある。また、CVD温度が上記温度域よりも高すぎると、触媒体の劣化が起こりやすくなる場合がある。
【0009】
ここに開示される方法の一つの好適な態様では、前記触媒体として、触媒金属の質量(金属原子換算)と支持体の質量との合計質量に占める触媒金属の質量の割合が12%以下(典型的には0.1〜12%)、より好ましくは10%以下(典型的には1〜10%)であるものを使用する。触媒金属の質量割合(以下、「触媒濃度」ともいう。)を上記範囲とすることにより、単層CNTと多層CNTとの合計本数に占める単層CNTの本数の割合(以下、「単層CNTの生成割合」ともいう。)の高い生成物を得ることができる。かかる製造方法において、上記ショウノウの熱分解を、(A).850℃以上(典型的には850℃以上1100℃以下)の温度域で行う、及び、(B).20×103Pa(約150Torr)以下の圧力下で行う、の少なくとも一方(好ましくは両方)の条件を満たすように行うことが好ましい。このことによって、単層CNTの生成割合がより高い生成物を得ることができる。
【0010】
ここに開示される方法の一つの好適な態様では、前記触媒体として、触媒金属の質量(金属原子換算)と支持体の質量との合計質量に占める触媒金属の質量の割合が15%以上(例えば15〜70%)、好ましくは20%以上(例えば20〜50%)であるものを使用する。触媒濃度を上記範囲とすることにより、単層CNTと多層CNTとの合計本数に占める多層CNTの本数の割合(以下、「多層CNTの生成割合」ともいう。)の高い生成物を得ることができる。かかる製造方法において、上記ショウノウの熱分解を、(a).950℃以下(典型的には、550℃以上950℃以下)の温度域で行う、及び、(b).40×103Pa(約300Torr)以上の圧力下で行う、の少なくとも一方(好ましくは両方)の条件を満たすように行うことが好ましい。このことによって、多層CNTの生成割合がより高い生成物が得られる、及び、多層CNTの収量が増す、の少なくとも一方の効果が達成され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、熱分解を行う際の温度及び圧力を調節するための具体的な操作方法等の、CVD法に関する一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0012】
本発明のCNT製造方法では、炭素源としてショウノウ(camphor、C1016O)を使用する。使用するショウノウは、天然物に由来(天然ショウノウ)するか合成物(合成ショウノウ)であるかを問わず、これらを併用してもよい。d-体(d-camphor)、dl-体及びl-体のいずれのショウノウも使用可能である。これらの異性体の一種のみを用いてもよく二種以上の異性体の混合物を用いてもよい。入手容易性等の観点から、通常は主としてdl-ショウノウを使用することが好ましい。本発明の製造方法に使用する炭素源は、少なくともショウノウを主成分とするものであればよく、ショウノウ以外の成分を含んでいてもよい。純度90質量%以上のショウノウを炭素源に使用する(すなわち、ショウノウ成分の割合が90質量%以上の炭素源を使用する)ことが好ましい。純度95質量%のショウノウの使用がより好ましい。
【0013】
触媒金属としては、CVD法においてショウノウの熱分解を触媒し得る一種又は二種以上の金属を使用することができる。例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ルテニュウム(Ru)、銅(Cu)等から選択される一種又は二種以上を触媒金属に用いることができる。Fe及びCoの少なくとも一方を触媒金属として使用することが好ましい。Fe及びCoを組み合わせて使用することが特に好ましい。このことによって、触媒金属としてFeを単独で使用した場合に比べて、より品質のよい(例えば、チューブの形状がより整っている、より結晶性が高い、CNTの構成に関与しないカーボンの堆積量がより少ない、のうち一又は二以上を満たす)生成物が得られる。また、触媒金属としてCoを単独で使用した場合に比べて、CNTの生成速度をより高めることができる。
【0014】
かかる触媒金属を保持する支持体(support)としては、CVD温度において安定な材料であれば特に限定なく使用することができる。支持体を構成する材質の好適例として、アルミナ、シリカ、ゼオライト、マグネシア、チタニア、ジルコニア、活性炭等を挙げることができる。触媒金属の担持に適すること及びCNTを効率よく成長させ得ることから、ゼオライト、シリカゲル等の無機多孔体の使用が特に好ましい。例えば、BET比表面積が400〜800m2/g程度のゼオライトを好ましく使用することができる。なかでも高シリカタイプのゼオライトが好ましい。例えば、SiO2/Al23の比率が10以上(Si/Alの比率が5以上)であるゼオライトが好ましく、SiO2/Al23の比率が100以上(Si/Alの比率が50以上)のものがより好ましい。SiO2/Al23の比率が200以上(Si/Alの比率が100以上)のものが更に好ましい。
支持体の形状は特に問わない。例えば、板状、筒状、ハニカム状、粉末状等の形状を有する支持体を使用することができる。通常は、粉状の支持体を用いることが好ましい。例えば、平均粒子径が凡そ0.1〜100μm(より好ましくは凡そ1〜20μm)の粉末状の支持体を好ましく使用することができる。
【0015】
本発明の製造方法には、このような支持体に上記触媒金属が担持された触媒体を使用する。かかる触媒体は、例えば、使用する触媒金属を構成元素として含む化合物であって加熱により該金属の単体を生じ得るもの(該金属の塩等、以下「触媒金属源」ということもある。)を支持体に付与することによって得ることができる。二種以上の触媒金属を有する触媒体の場合には、各触媒金属に対応した触媒金属源を使用してもよく、二種以上の触媒金属を含む触媒金属源を使用してもよい。このような触媒金属源を支持体に付与した後、必要に応じて該触媒体を加熱することによって(非酸化性雰囲気で加熱することが好ましい)、触媒金属が単体又は合金の形態で担持された触媒体を得ることができる。
好ましく使用される触媒金属源としては、対応する触媒金属の酢酸塩(acetate)、硝酸塩(nitrate)、塩化物(chloride)、硫酸塩(sulphate)、アセチルアセトナート、メタロセン(ferrocene, cobaltcene, nickelocene等)、金属フタロシアニン(Fe-phthalocyanine, Co-phthalocyanine, Ni-phthalocyanine等)、Iron penta carbonyl(Fe(CO5))等を例示することができる。
【0016】
なお、本発明でいう「触媒体」の概念には、一種類の触媒金属を単体として有するもの、複数種類の触媒金属をそれぞれ単体として有するもの、複数種類の触媒金属をそれらの合金として有するもの等のほか、一種又は二種以上の触媒金属の少なくとも一部が触媒金属源(例えば、該触媒金属の塩)又はその触媒金属源が部分的に分解して成る化合物の形態で担持されているものが含まれる。
【0017】
触媒体における、触媒金属の質量(金属原子換算)と支持体の質量との合計質量に占める該触媒金属の質量の割合(触媒濃度)は特に限定されない。例えば、触媒濃度が凡そ0.1質量%以上(好ましくは凡そ1質量%以上)の触媒体を使用することができる。上記範囲よりも触媒濃度が低すぎると、CNTの製造効率が低下傾向となることがある。また、製造コスト(材料費)を抑えるという観点からは、触媒濃度を凡そ70質量%以下とすることが好ましく、凡そ50質量%以下とすることがより好ましく、凡そ30質量%以下とすることがさらに好ましい。
触媒金属としてFe及びCoを使用する場合、触媒体に含まれるFe原子とCo原子との比率(金属原子換算のモル比)は、例えば、概ね90:10〜10:90の範囲とすることができる。Fe:Coのモル比を概ね80:20〜30:70の範囲とすることが好ましく、概ね70:30〜50:50の範囲とすることがより好ましい。なお、特に限定するものではないが、使用する触媒体の量は、炭素源(ショウノウ)0.1gに対し、例えば0.001〜0.1g(好ましくは0.005〜0.05g)程度とすることができる。
【0018】
このような構成の触媒体は、従来公知の方法により作製することができる。例えば、適当な溶媒に一種又は二種以上の触媒金属源を溶解させて触媒金属源溶液を調製する。該溶液の調製に用いる触媒金属源の種類及び量は、目的とする触媒体が有する触媒金属の組成比に応じて決定することができる。例えば、Fe及びCoを触媒金属として有する触媒体を製造する場合であって、Fe源として鉄(II)アセテート((CH3COO)2Fe,以下「IA」と表記することもある。)を使用し、Co源としてコバルトアセテートテトラハイドレート((CH3COO)2Co・4HO,以下「CA」と表記することもある。)を使用する場合には、これらの触媒金属源をIA:CA=1:1の質量比で適当な溶媒(例えば水)に溶解させることにより、Fe原子とCo原子とを凡そ1:0.7のモル比で有する触媒源溶液を調製することができる。
【0019】
次いで、このようにして調製した触媒金属源溶液を支持体に含浸させる。例えば、該溶液に粉末状の支持体を加えて分散させる。かかる分散を適切に行うために超音波振動を付与してもよい。このとき加える支持体の量は、目的とする触媒体における触媒濃度(すなわち、支持体と触媒金属との合計質量に占める触媒金属の質量割合)に応じて決定すればよい。その後、必要に応じて加熱条件下で溶媒を除去することによって、支持体に触媒金属源が担持された触媒体を得ることができる。なお、触媒金属源溶液を支持体に付与する方法はこれに限定されない。例えば、該溶液を支持体にスプレーする方法等の、従来公知の方法を特に限定なく採用することができる。また、触媒金属源溶液の調製に使用する溶媒は、使用する触媒金属源をよく溶かすものであれば特に限定されない。溶媒の除去が容易であるという観点からは、常圧で40〜100℃程度の温度域において容易に気化し得る溶媒が好ましい。例えば、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等)、アセトン、テトラヒドロフラン等から選択される一種類の溶媒又は二種以上の混合溶媒を好ましく使用することができる。
【0020】
本発明の製造方法は、従来の一般的な構成のCVD装置を使用して実施することができる。例えば、図1に示すように、長手方向がほぼ水平となるように設置された(すなわち、横型の)筒状のリアクター10内に、炭素源(ショウノウ)12を気化させる気化ゾーン2と、触媒体14を備え該触媒体上でショウノウを熱分解させてCNTを成長させる成長ゾーン3と、が設けられた構成のCNT製造装置1を使用することができる。該装置は、さらに、気化ゾーン2及び成長ゾーン3の温度をそれぞれ調節する温度調節手段20、リアクター10にキャリアガスを供給するガス供給手段30、リアクター10内のガスを排出するガス排出部40等を備えることができる。また、該装置は、リアクター10内のガス圧を調節する圧力調節手段を備えることができる。あるいは、リアクターの外部でショウノウを気化させ、触媒体が配置されたリアクターにショウノウ蒸気及びキャリアガスを供給する構成としてもよい。この場合、ショウノウ蒸気とキャリアガスとの混合気体をリアクターに供給してもよく、ショウノウ蒸気とキャリアガスとをそれぞれリアクターに供給してもよい。
【0021】
キャリアガスとしては非酸化性ガスを使用することが適当である。換言すれば、不活性ガス及び還元性ガスから選択される一種又は二種以上をキャリアガスとして使用することができる。不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N2)ガス、ヘリウム(He)ガス等を例示することができる。還元性ガスとしては、水素(H2)ガス、アンモニア(NH3)ガス等を例示することができる。不活性ガス(例えばArガス)を使用することが好ましい。
かかるキャリアガスをリアクターに供給する際のガス流量は特に限定されず、リアクターの形状(容量等)及び/又は他のCVD条件(気化ゾーンの温度、雰囲気圧力等)に応じて適宜選択することができる。通常は、滞留時間が凡そ2〜10分(好ましくは、例えば4〜5分)程度となるように流量を設定することが適当である。例えば、後述する実施例に使用したリアクターでは、キャリアガスの流量を例えば5〜1000sccm(sccm:標準状態における体積に換算した1分当たりの流量(cm3/分))程度とすることができ、50〜500sccm程度とすることが好ましい。また、触媒体に供給されるガス(ショウノウ蒸気とキャリアガスとの混合ガス)に含まれるショウノウ蒸気の濃度が概ね20〜70体積%(より好ましくは、概ね40〜60体積%)となるようにキャリアガスの流量及び/又はショウノウの気化速度を調節することが好ましい。
【0022】
触媒体の存在下でショウノウを熱分解させる際の雰囲気温度(CVD温度)は、例えば550℃以上1100℃以下の範囲とすることができる。気化ゾーンを備える構成のリアクターにおいて、該気化ゾーンの温度(すなわち、ショウノウを気化させる際の温度)は、例えば凡そ200〜250℃とすることができる。通常は、凡そ200〜225℃で気化させることが好ましい。
ショウノウを熱分解させる際の雰囲気圧力(ガス圧)は、例えば1×103Pa(約7.5Torr)〜200×103Pa(約1500Torr)程度とすることができる。上記範囲よりも圧力が低すぎるとCNTの生成効率が低下しがちとなり、上記範囲よりも圧力が高すぎると設備コストが嵩む。これらの観点から、通常は、雰囲気圧力を10×103Pa〜常圧(約75〜760Torr)程度とすることが好ましい。
【0023】
なお、使用する触媒体には、該触媒体へのショウノウ供給に先立って、該触媒体を事前に加熱する前処理(プレヒート)を施すことができる。このような前処理は、例えば、リアクター内に触媒体を配置し、該リアクターにキャリアガスを流通させつつ該触媒体を適当な温度に加熱することによって好適に実施することができる。触媒体のプレヒートを行う際の加熱温度は凡そ500℃以上とすることが適当である。また、ショウノウの熱分解を行う際の温度(CVD温度)と同程度の温度でプレヒートを行ってもよい。触媒金属の少なくとも一部が触媒金属源又はその触媒金属源が部分的に分解して成る化合物の形態で担持されている形態の触媒体を使用する場合には、このような前処理を施すことが特に好ましい。なお、上記前処理は、支持体に触媒金属を担持(典型的には、触媒金属源の形態で)してから該触媒体にショウノウを供給するまでの間に実施すればよい。例えば、外部で前処理を施した触媒体をリアクター内にセットしてもよく、上述した例のようにリアクター内で触媒体の前処理を行ってもよい。通常は、ショウノウ蒸気の供給(すなわち、CNTの生成)を開始する直前に触媒体の前処理を行うことが好ましい。
【0024】
より好ましい製造条件は、CNTの製造目的によっても異なり得る。以下、主として単層CNTを製造することを目的とする場合に好ましく採用することのできる製造条件(換言すれば、単層CNTの製造方法)、及び、主として多層CNTを製造することを目的とする場合に好ましく採用することのできる製造条件(換言すれば、多層CNTの製造方法)について、それぞれ説明する。
ここで、「主として単層CNTを製造する」とは、CVDによる結果物として、単層CNTと多層CNTとの合計本数に占める単層CNTの本数の割合(すなわち単層CNTの生成割合)が凡そ70%以上(好ましくは凡そ80%以上、より好ましくは凡そ90%以上、特に好ましくは実質的に100%)である生成物を得ることをいう。上記単層CNTの生成割合は、例えば、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)を用いて生成物を観察し、該生成物に含まれる少なくとも50本以上(好ましくは100本以上)のCNTについてそれぞれ単層CNTか多層CNTかを判別することによって把握することができる。「主として多層CNTを製造する場合」の意味についても同様である。
【0025】
[単層CNTの製造方法]
この場合には、触媒濃度が凡そ12質量%以下の触媒体を使用することが好ましい。単層CNT生成割合をより高くするという観点からは、該濃度が凡そ10質量%以下である触媒体を使用することが好ましい。より好ましい触媒濃度は凡そ8質量%以下、さらに好ましくは凡そ6質量%以下である。使用する触媒体の触媒濃度が上記範囲よりも高すぎると、単層CNTの生成割合が低下しがちとなる。触媒濃度の下限は特に限定されないが、単層CNTを効率よく製造する(生成速度を高める及び/又は収率を向上させる)という観点から、通常は、触媒濃度の下限を凡そ0.1質量%以上とすることが好ましく、凡そ0.5質量%以上とすることがより好ましく、凡そ1質量%以上とすることがさらに好ましい。例えば、触媒濃度が凡そ1〜5質量%の範囲にある触媒体を好ましく使用することができる。
【0026】
ショウノウを熱分解させる際の温度(CVD温度)は、例えば凡そ800℃以上とすることができ、凡そ850℃以上とすることが好ましく、凡そ900℃以上とすることがより好ましい。CVD温度の上限は特に限定されないが、通常は凡そ1100℃以下とすることが適当であり、凡そ1000℃以下とすることが好ましい。CVD温度が上記範囲よりも低すぎると、単層CNTの生成割合が低下しがちとなる。例えば、CVD温度を凡そ900〜1000℃(典型的には凡そ950℃)の範囲とすることが好ましい。
【0027】
ショウノウを熱分解させる際のガス圧(雰囲気圧力)は、凡そ60×103Pa(約450Torr)以下とすることが適当であり、凡そ40×103Pa(約300Torr)以下とすることが好ましく、凡そ20×103Pa(約150Torr)以下とすることがより好ましい。雰囲気圧力が上記範囲よりも高すぎると、単層CNTの生成割合が低下傾向となる場合がある。雰囲気圧力の下限は特に限定されないが、単層CNTを効率よく製造するという観点から、通常は、雰囲気圧力を凡そ1×103Pa(約7.5Torr)%以上とすることが適当であり、凡そ2×103Pa(約15Torr)%以上とすることが好ましく、凡そ4×103Pa(約30Torr)%以上とすることがより好ましく、凡そ10×103Pa(約75Torr)以上とすることがさらに好ましい。例えば、雰囲気圧力を凡そ4×103Pa〜40×103Pa(約30〜300Torr)の範囲とすることが好ましい。
【0028】
[多層CNTの製造方法]
この場合には、触媒濃度が凡そ15質量%以上の触媒体を使用することが好ましい。多層CNT生成割合をより高くするという観点からは、触媒濃度が凡そ18質量%以上である触媒体を使用することが好ましく、該濃度が凡そ20質量%以上である触媒体を使用することがより好ましい。使用する触媒体の触媒濃度が上記範囲よりも低すぎると、多層CNTの生成割合が低下しがちとなる(例えば、単層CNTが生成しやすくなる。)。触媒濃度の上限は特に限定されないが、触媒体の価格を抑えるという観点からは、触媒濃度を凡そ70質量%以下(好ましくは凡そ50質量%以下、より好ましくは凡そ30質量%以下)とすることが好ましい。例えば、触媒濃度が凡そ20〜30質量%の範囲にある触媒体を好ましく使用することができる。
【0029】
ショウノウを熱分解させる際の温度(CVD温度)は、例えば凡そ950℃以下とすることができ、凡そ900℃以下とすることが好ましい。より好ましいCVD温度は凡そ850℃以下であり、さらに好ましくは凡そ800℃以下である。CVD温度が上記範囲よりも高すぎると、多層CNTの生成割合が低下しがちとなる。CVD温度の下限は、CNTを生成可能であればよく特に限定されないが、通常は凡そ550℃以上とすることが適当である。多層CNTをより効率よく製造するという観点からはCVD温度を凡そ600℃以上とすることが好ましく、凡そ650℃以上とすることがさらに好ましい。例えば、CVD温度を凡そ600〜800℃の範囲とすることが好ましい。
【0030】
ショウノウを熱分解させる際のガス圧(雰囲気圧力)は、凡そ10×103Pa(約75Torr)よりも高い圧力とすることが適当であり、凡そ40×103Pa(約300Torr)以上とすることが好ましく、凡そ60×103Pa(約450Torr)以上とすることがより好ましい。雰囲気圧力が上記範囲よりも低すぎると、多層CNTの生成割合が低下傾向となる場合がある。多層CNTを効率よく製造するという観点から、雰囲気圧力を凡そ80×103Pa(約600Torr)以上とすることがさらに好ましい。雰囲気圧力の上限は特に限定されないが、装置構成を簡単にするという観点からは、凡そ200×103Pa(約1500Torr)以下とすることが適当であり、凡そ120×103Pa(約900Torr)以下とすることが好ましい。例えば、雰囲気圧力を凡そ80×103Pa〜120×103Pa(約600〜900Torr)の範囲とすることが好ましい。簡単な装置構成を採用し得ること、製造条件の操作及びコントロールが容易であること等の観点から、通常は、雰囲気圧力を常圧(101×103Pa、すなわち約760Torr)前後とすることが特に好ましい。
【0031】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0032】
<炭素源(ショウノウ)の用意>
炭素源としては、島田化学工業株式会社(Shimada Chemicals)製のショウノウ(純度96%)を使用した。
【0033】
<触媒体の用意>
所定量の金属触媒(ここではFe及びCo)を、支持体としてのゼオライトに担持させて、触媒濃度の異なる複数種類の触媒体(Cat−1〜7)を作製した。
【0034】
[Cat−1]
所定量の鉄(II)アセテート(IA)及び所定量のコバルトアセテートテトラハイドレート(CA)を20mLのエタノールに溶解させた。この溶液に1gのゼオライト粉末(東ソー株式会社製品,Y型ゼオライト,商品名「HSZ−390HUA」,カチオンタイプ=H,Si/Al比=200)を添加した。上記IA及びCAの使用量は、この組成物に含まれるゼオライト:IA:CAの質量比が96:2:2となるように調節した。該組成物を超音波で10分間処理し、80℃で24時間乾燥させた後に微粉化した。このようにして触媒体Cat−1を得た。
【0035】
[Cat−2〜7]
上記組成物に含まれるゼオライト:IA:CAの質量比がそれぞれ表1に示す値となるようにIA及びCAの使用量を調節した点以外はCat−1と同様にして、触媒体Cat−2〜7を得た。
なお、表1には、各触媒体に含まれるゼオライトと触媒金属(ここではFe及びCo、いずれも金属原子換算)との合計質量に占める触媒金属の質量(すなわち、各触媒体における金属原子換算の触媒濃度)を併せて示している。これらの触媒体に含まれるFe原子とCo原子とのモル比(濃度比)は、いずれも凡そ1:0.7である。
【0036】
【表1】

【0037】
<製造装置の構成>
以下に示す実施例においてカーボンナノチューブの作製に使用した装置の概略構成につき、図面を参照して説明する。
図1に示すように、カーボンナノチューブ製造装置1は、大まかに言って、リアクター10と、リアクター10内の温度を調節する温度調節手段20と、リアクター10にキャリアガスを供給するガス供給手段30と、リアクター10内のガスを排出するガス排出部40とを備える。
【0038】
リアクター10は、長手方向の一端及び他端が閉塞された石英管(長さ1m、内径26mm)から主として構成されている。この製造装置1の使用時(すなわち、カーボンナノチューブ製造時)には、後述するように、リアクター10内の一端側(上流側)にある気化ゾーン2に炭素源としてのショウノウ12を配置し、他端側(下流側)にある成長ゾーン3に触媒体14を配置する。
リアクター10の長手方向の一端にはガス供給手段30が接続されている。このガス供給手段30は、リアクター10の内部に所定の供給量にてガス(例えば、キャリアガスとしてのアルゴンガス)を供給可能に構成されている。一方、リアクター10の長手方向の他端にはガス排出部40が接続されている。このガス排出部40は、所定の処理液(例えば水)41を貯留する処理槽42と、リアクター10の他端から処理液41中に排ガスを導入可能に設けられた排ガス導入管44と、処理液41を経た排ガスを処理槽42から外部に排出する排ガス導出管46とを備える。排ガス導出管46には、圧力調節手段としての真空ポンプ(図示せず)が連結されている。この真空ポンプを稼動させることによってリアクター10からのガス排出量を制御することができる。そして、該ガス排出量とガス供給手段30からのガス供給量とのバランスによって、リアクター10内の雰囲気圧力(ガス圧)を調節することができる。
【0039】
温度調節手段20は、二つの横型の環状電気炉22,24を含む。該電気炉22,24は水平方向(横方向)に並んで配置されており、それらの内部にリアクター10が、長手方向がほぼ水平となるように保持されている。第一の電気炉22は気化ゾーン2を取り囲み、第二の電気炉24は成長ゾーン3を取り囲んでいる。それらの電気炉22,24にはそれぞれ制御部23,25が連結されており、その制御部23,25からの信号によって電気炉22,24の出力を制御することができる。なお、図1には二つの電気炉22,24を備える温度調節手段を例示しているが、温度調節手段の構成はこれに限定されるものではない。例えば、第一の電気炉22及び第二の電気炉24に換えて、異なる温度に制御可能な二以上の加熱部を有する単一の電気炉を用いてもよい。また、二つ以上の電気炉を備える構成としてもよい。
以下、かかる構成の製造装置を使用してカーボンナノチューブを製造したいくつかの具体例について説明する。
【0040】
<カーボンナノチューブの製造(1)>
[製造例1]
図1に示すように、0.1〜0.5gのショウノウ12を石英ボートに載せて、リアクター10のうち第一の電気炉22に囲まれたゾーン(気化ゾーン2)に配置した。また、凡そ0.02gの触媒体14を石英ボートに載せて、リアクター10のうち第二の電気炉24に囲まれたゾーン(成長ゾーン3)に配置した。本製造例では、触媒体としてCat−1(触媒体中の触媒濃度:1.1質量%)を使用した。ガス供給手段30からリアクター10に適当量のArガス(例えば凡そ75〜150sccm)を供給しつつ、第二の電気炉24に通電して成長ゾーン3を凡そ500〜700℃に加熱し、約30分間その状態を保持した。
【0041】
次いで、Arガスの供給を停止し、排ガス導出管46に連結された真空ポンプを作動させてリアクター10内の雰囲気圧力を凡そ13×103Pa(約100Torr)まで減圧し、第二の電気炉24の出力を調整して成長ゾーン3の温度を凡そ950℃まで上昇させた。また、第一の電気炉22に通電し、気化ゾーン2を200〜225℃に加熱してショウノウ12を揮発させた。気化ゾーン2が適切な温度域まで加熱された後(換言すれば、ショウノウ12の揮発速度が概ね安定した段階で)、ガス供給手段30からリアクター10へのArガス供給を再開した。このときのArガスの流量(供給量)は50〜100sccmの範囲(例えば75sccm前後)とした。また、Arガスの供給量と真空ポンプによる排気量とを調節することによって雰囲気圧力が凡そ13×103Paに維持されるように制御した。これにより、気化ゾーン2で生じたショウノウ蒸気がArガスとともに成長ゾーン3に送り込まれ、成長ゾーン3に配置された触媒体14と接触して熱分解された(CVD反応)。このようにして5分間のCVD反応を行った後、同流量のArガスをリアクター10に供給しつつ、同温度(950℃)で10分間のアニーリングを行った。引き続き、同流量のArガスを供給しながら電気炉22,24を自然に冷却させた。そして、リアクター10内から触媒体14を、生成したCNTとともに回収した。その触媒体14をエタノール中で5分間超音波処理し、マイクログリッド上に滴下することにより、製造例1に係るCNT(サンプル1)を得た。
【0042】
[製造例2〜4]
製造例1で使用した触媒体(Cat−1)に代えて、製造例2ではCat−2(触媒濃度:3.6質量%)を、製造例3ではCat−3(同:5.0質量%)を、そして製造例4ではCat−4(同:6.5質量%)を使用した。その他の点については製造例1と同様にして、製造例2〜4に係るCNT(サンプル2〜4)を得た。
【0043】
[製造例5及び6]
CVD反応時におけるリアクター10内の雰囲気圧力を、製造例5では凡そ2×103Pa(約15Torr)とし、製造例6では凡そ40×103Pa(約300Torr)とした。その他の点については製造例4と同様にして、製造例5及び6に係るCNT(サンプル5)を得た。
【0044】
[製造例7]
CVD反応時における成長ゾーン3の温度を凡そ850℃とした点以外は製造例4と同様にして、製造例7に係るCNT(サンプル7)を得た。
【0045】
[製造例8]
製造例1で使用した触媒体(Cat−1)に代えて、Cat−5(触媒濃度:12質量%)を使用した。その他の点については製造例1と同様にして、製造例8に係るCNT(サンプル8)を得た。
【0046】
[生成物の観察]
このようにして得られたサンプル1〜8について、各サンプルを構成する単層CNTの本数と多層CNTの本数との割合(各タイプのCNTの生成割合)を評価した。評価は、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope、日立株式会社製、型式「HU−12A」)及び高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM;JEOL社製、型式「JEM−2010F」)を使用して、各サンプルに含まれる少なくとも100本以上のCNTについてそれぞれ単層か多層かを判別することにより行った。また、生成物の質量と単層CNTの生成割合とを掛け合わせることによって単層CNTの収量を求めた。それらの結果を表2に示す。なお、表2には、各製造例の大まかな条件を併せて示している。また、表中の「単層CNTの収量」は、サンプル同士の比較における相対値である。
【0047】
【表2】

【0048】
この表に示されるように、触媒濃度が12質量%以下の触媒体を使用した製造例1〜8によると、いずれも、単層CNTの生成割合が70%以上(好ましい例では80%以上、より好ましい例では90%以上、特に好ましい例では実質的に100%)の生成物が得られた。一方、後述する製造例9のように、触媒濃度を18質量%とした点以外は製造例8と同様にして得られたサンプルにおいては、単層CNTの生成割合は20%であった。他の条件が同等である場合には、触媒濃度が少なくなるにつれて単層CNTの生成割合が増し、触媒濃度5質量%以下では実質的に単層CNTのみが生成した。触媒濃度が1.1〜5質量%の範囲では、触媒濃度が高くなるにつれて単層CNTの収量は増加した。雰囲気圧力を低くすると、単層CNTの生成割合は増加傾向にあるが、単層CNTの収量は減る傾向にあった。また、雰囲気圧力を高くすること及びCVD温度を低くすることは、いずれも、単層CNTの生成割合を低下させる傾向にあった。なお、TEM及びHRTEMによる観察結果によれば、いずれの製造例により得られたサンプルにおいても触媒金属はほとんど観察されなかった。
【0049】
<カーボンナノチューブの製造(2)>
[製造例9及び10]
製造例1で使用した触媒体(Cat−1)に代えて、製造例9ではCat−6(触媒体中の触媒濃度:18質量%)を、製造例10ではCat−7(同:22質量%)を使用した。その他の点については製造例1と同様にして、製造例9及び10に係るCNT(サンプル9及び10)を得た。
【0050】
[製造例11]
CVD反応時におけるリアクター10内の雰囲気圧力を凡そ101×103Pa(約760Torr)とした。その他の点については製造例10と同様にして、製造例11に係るCNT(サンプル11)を得た。
【0051】
[製造例12〜17]
CVD反応時における成長ゾーン3の温度をそれぞれ900℃(製造例12)、850℃(製造例13)、800℃(製造例14)、750℃(製造例15)、700℃(製造例16)及び650℃(製造例17)とした。その他の点については製造例11と同様にして、製造例12〜17に係るCNT(サンプル12〜17)を得た。
【0052】
[製造例18]
CVD反応時におけるリアクター10内の雰囲気圧力を凡そ80×103Pa(約600Torr)とした。その他の点については製造例17と同様にして、製造例18に係るCNT(サンプル18)を得た。
【0053】
[製造例19〜21]
CVD反応時における成長ゾーン3の温度をそれぞれ600℃(製造例19)、550℃(製造例20)及び500℃(製造例21)とした。その他の点については製造例11と同様にして、製造例19〜20に係るCNT(サンプル19〜20)を得た。なお、製造例21についてはCNTを得ることができなかった。
【0054】
[生成物の観察]
このようにして得られたサンプル9〜21について、各サンプルを構成する単層CNTと多層CNTとの割合(各タイプのCNTの生成割合)を、上記と同様の手法により評価した。また、生成物の量と多層CNTの生成割合とを掛け合わせることによって多層CNTの収量を求めた。それらの結果を、各製造例の大まかな条件とともに表3に示す。表中の「多層CNTの収量」は、サンプル同士の比較における相対値である。
【0055】
【表3】

【0056】
この表に示されるように、触媒濃度が15質量%以上(ここでは18質量%以上)の触媒体を使用した製造例9〜20によると、いずれも、多層CNTの生成割合が70%以上(好ましい例では80%以上、より好ましい例では90%以上、特に好ましい例では実質的に100%)の生成物が得られた。触媒濃度が高くなると多層CNTの生成割合は増加する傾向にあった。一方、前述した製造例8のように、触媒濃度を12質量%とした点以外は製造例9と同様にして得られたサンプルでは、多層CNTの生成割合は30%であった。他の条件が同等である場合、550〜950℃の範囲ではCVD温度が低くなるにつれて多層CNTの生成割合が増加し、CVD温度800℃以下では実質的に多層CNTのみが生成した。また、雰囲気圧力を高くすると多層CNTの収量は増加し、雰囲気圧力を低くすると収量が減少する傾向にあった。550〜800℃の範囲では、多層CNTの収量が最も多かったのはCVD温度650〜750℃の範囲(特に700℃)であった。好ましい例では、触媒体の質量を100%として、5分間のCVDにより生成した多層CNTの質量が凡そ200%に達した。すなわち、100mgの触媒体に対して凡そ200mgの多層CNTが得られた。該多層CNTの直径は概ね5〜15nmの範囲にあった。
なお、TEM及びHRTEMによる観察結果によれば、いずれの製造例により得られたサンプルにおいても触媒金属はほとんど観察されなかった。
【0057】
製造例9〜21により得られたサンプル(多層CNT)の直径は、大まかに言えば、CVD温度が高くなるにつれて大きくなる傾向にあった。例えば、CVD温度600〜750℃で製造された多層CNTでは、直径の最頻値は6〜9nmの範囲にあった。CVD温度が800℃の場合の最頻値は18nmであり、850℃では24nm、900℃では35nmであった。CVD温度750℃で製造された多層CNTと800℃で製造された多層CNTを比較すると、最も内側の層(最内層)の直径は同程度であって、層の数が増すことによってチューブの径が大きくなっていた。一方、CVD温度850〜950℃では、最内層の直径及びチューブ全体の直径のいずれもがCVD温度の上昇とともに大きくなっていた。なお、CVD温度750℃以下で得られたサンプルには触媒金属はほとんど観察されなかった。また、HRTEMによる観察から、アモルファスカーボンの生成は高度に抑制されており、結晶性の良好なCNTが合成されていることがわかった。
【0058】
<カーボンナノチューブの製造(3)>
CVD温度を900℃とした点以外は製造例3と同様にしてCNTを製造し、上記と同様の手法により生成物を評価したところ、単層CNTの生成割合はほぼ100%であった。また、触媒体の質量を100%として、5分間のCVDにより生成した単層CNTの質量は凡そ30%であった。
得られた単層CNTのラマンスペクトルを観察した。ラマンスペクトルの測定は、ラマン分光測定装置(Jobin Yvon株式会社製の型式「RAMANOR T64000」)を使用して、波長514.5nm(励起エネルギー2.41eV)のアルゴンイオンレーザを使用し、出力20mW、照射スポットサイズ1μm、アクイジション時間(acquisition time)300秒の条件で行った。得られたラマンスペクトルを解析したところ、本製造例により得られた単層CNTのチューブ径は概ね0.86〜1.23nmの範囲にあり、チューブ径の分散が狭いことがわかった。また、1587cm-1に強いピークがみられることから、この生成物が高い結晶性を有することがわかった。
【0059】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書又は図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書又は図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例に使用したカーボンナノチューブ製造装置の概略構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0061】
1:カーボンナノチューブ製造装置
2:気化ゾーン
3:成長ゾーン
10:リアクター
12:炭素源(ショウノウ)
14:触媒体
20:温度調節手段
30:ガス供給手段
40:ガス排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長法によってカーボンナノチューブを製造する方法であって、
触媒金属が支持体に担持された触媒体を用意すること、及び、
該触媒体の存在下でショウノウを熱分解させること、
を包含する、カーボンナノチューブ製造方法。
【請求項2】
前記支持体が無機多孔体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒金属は少なくとも鉄及びコバルトを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱分解を550℃以上1100℃以下の温度域で行う、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記触媒金属の質量(金属原子換算)と前記支持体の質量との合計質量に占める前記触媒金属の質量の割合が12%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱分解を850℃以上の温度域で行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記熱分解を20×103Pa以下の圧力下で行う、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒金属の質量(金属原子換算)と前記支持体の質量との合計質量に占める前記触媒金属の質量の割合が15%以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱分解を950℃以下の温度域で行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱分解を40×103Pa以上の圧力下で行う、請求項8又は9に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−232643(P2006−232643A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52972(P2005−52972)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月25日 カーボン 第43巻 第3号 2005年(インターネットアドレス http://www.sciencedirect.com)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月7日 フラーレン・ナノチューブ研究会発行の「第28回 フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム 講演要旨集」に発表
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】