説明

カーボンナノチューブを含むポリマーをベースにした気泡構造と、その製造方法および使用

【課題】【解決手段】カーボンナノチューブを含むポリマーベースの気泡構造、その製造方法と、その使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ(CNT)を含むポリマーの気泡構造と、その製造方法および軽量構造物製造でのその使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマー発泡体に対する関心が高まっている。発泡プラスチックはその微孔質構造によって未加工ポリマーと比べて耐衝撃性、硬度および耐疲労寿命等の機械的特性が優れ、これらの優れた特性によって多くの用途で用いることができる。例えば、超臨界流体を用いた押出し法(いわゆる「直接発泡」)で製造されたポリスチレン発泡体の板は食品包装、断熱材料、家庭での冷蔵(冷蔵庫)の分野で利用されている。
【0003】
軽量材料を得るためのポリマー気泡構造またはポリマー発泡体、特にポリスチレン発泡体の製造方法は周知である(下記文献参照)。
【特許文献1】国際特許第WO2001/89794号公報
【特許文献2】国際特許第WO1998/01501号公報
【特許文献3】国際特許第WO2002/46284号公報
【特許文献4】国際特許第WO2005/019310号公報
【0004】
用いられるポリマーの性質から、これらの材料は一般に電気的および熱的に絶縁体であり、多くの家庭用または工業用の利用分野、例えば包装、絶縁、被覆、構造材料で用いることができる。
断熱材料で用いられる発泡ポリマーの熱伝導率は複数のパラメータすなわちポリマーの固有密度、気泡の大きさ、気泡数、発泡体の密度および気泡内部に保持したい膨張気体の熱伝導率に依存するということは当業者によく知られている。これらのパラメータを管理することで高性能発泡体を得ることができる。一般に、気体は気泡壁を通って拡散する傾向があり、それによって絶縁率が低下する。
【0005】
カーボンナノチューブも公知で、その機械的性質と、その優れた導電性および熱伝導性が利用されており、その電気的、熱的および/または機械的特性を高分子材料の添加剤として使用することが次第に増えている(下記文献参照)。
【特許文献5】国際特許第WO 03/085681号公報
【特許文献6】国際特許第WO 91/03057号公報
【特許文献7】米国特許第US 5744235号明細書
【特許文献8】米国特許第US 5445327号明細書
【特許文献9】米国特許第US 54663230号明細書
【0006】
カーボンナノチューブの用途は多数の分野に及び、電子工学の分野(温度および構造に応じて伝導体、半導体または絶縁体になる)、機械の分野、例えば複合材料の補強材(カーボンナノチューブは鋼より100倍強く、1/6の軽さ)、電気機械の分野(電荷の注入で伸縮できる)で利用されている。
【0007】
例としては電子部品の包装、燃料ラインの製造、静電防止被覆、コーテング、サーミスター、スーパーキャパシター用電極、その他の用途に用いられる高分子材料でのカーボンナノチューブの使用を挙げることができる。これらの組成物は一般に、少なくとも一種の半結晶成分、例えば伝導性添加材、一般にはカーボンブラック(非特許文献1)またはPVDF(特許文献10、11)を含んだポリエチレンをベースにした配合物である。
【0008】
【非特許文献1】J. of Pol. Sci. Part B - Vol. 41, 3094-3101 (2003)
【特許文献10】米国特許第US 20020094441 Al号明細書
【特許文献11】米国特許第 US 6,640,420号明細書
【0009】
従って、ポリマーベースの発泡体のような新規な軽量材料の開発は依然として要望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、カーボンナノチューブを含む新規なポリマー気泡構造を提供することにある。
本発明の新規なポリマー気泡構造が開発されたことで軽量材料の特性範囲が拡がり、極めて多様な特性、特に機械的、流動学的、電気的、熱的な特性を有する材料を得ることができる。
特に、本発明の新規な構造の密度は従来構造と少なくとも等しいか、それより小さく、従来法のポリマー構造の気泡構造より気泡構造が小さいという利点を有する。これ以外の利点は以下の本発明の詳細な説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は、ポリマー構造中に60重量%以下、好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%の比率でカーボンナノチューブを含むポリマー気泡構造にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の構造では、気泡の平均寸法は150ミクロン以下、好ましくは20〜80ミクロンである。
本発明の構造では、気孔率(volume vide)は少なくとも50%、好ましくは50〜99%である。
本発明の構造では、かさ密度(densite apparente)は100kg/m3以下、好ましくは10〜60kg/m3である。
【0013】
本発明の一実施例では、ポリマーは熱可塑性または熱硬化性の(コ)ポリマー、エラストマーおよび樹脂からなる群の中から選択し、好ましくはPVDF、EVA、PEBAおよびPAの中から選択し、さらに好ましくはポリスチレンまたはポリウレタンにする。
本発明の別の実施例の構造は膨張剤の残りを含む。膨張剤は特に、液体または気の有機または無機化合物、分解によって気泡を発生可能な固体化合物、気体化合物、または、これらの混合物からなる群の中から選択する。
本発明構造のさらに別の実施例では気泡壁が孔を有する。
【0014】
本発明の別の対象は、食品包装、絶縁材料、軽量構造用材料、膜の製造、電極の分野での上記構造の使用にある。
【0015】
本発明のさらに別の対象は、(a)CNT/ポリマー複合混合物を製造する段階、(b)膨張剤を導入し、得られた混合物中に溶解させる溶解段階、(c)重合構造中に気泡を形成するために化学的または物理的条件下に上記混合物をおく段階を含むポリマー気泡構造の製造方法にある。
本発明の一実施例では、上記方法で用いる膨張剤を超臨界気体、好ましくは超臨界CO2またはクロロフルオロカーボン(CFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)の中から選択されるフッ素化気体にする。
【0016】
本発明方法の一変形例では上記(c)段階の混合物を減圧して気泡を形成する。
本発明方法の別の変形例では上記(c)段階で得られるポリマーを炭化した後に1000℃以上の温度でグラファイト化する段階を実施する。
【0017】
本発明はカーボンナノチューブを含む気泡ポリマー構造を提供する。本発明で用いられるカーボンナノチューブの縦横比(L/D)は5以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。本発明で一般的に使用されるカーボンナノチューブは管状構造を有し、その直径は100nm以下、好ましくは0.4〜50nmであり、および/または、一般に長さが直径の5倍以上、好ましくは50倍以上、さらに好ましくは直径の100〜100000倍、さらには直径の1000〜10000倍である。
カーボンナノチューブは、塊状または非塊状の互いに結合した芳香環の単一壁、二重壁または多重壁の長い炭素チューブから成るsp2構造のアレトロピックな炭素から成る。ナノチューブが単一チューブで構成される場合を単一壁とよび、2つのチューブから成る場合を二重壁とよび、それ以上の場合を多重壁とよんでいる。ナノチューブの外表面は均一か、テキスチャー構造である。例としては単一壁ナノチューブ、二重壁ナノチューブまたは多重壁ナノチューブ等を挙げることができる。
【0018】
精製や官能化のために上記ナノチューブを化学的または物理的に処理することができる。例えば、新しい特性を付与したり、分散を良くしたり、配合物中の他の成分、例えばポリマーマトリックス、エラストマー、熱硬化性樹脂、油、油脂、水、溶剤ベースの配合物、例えばペイント、接着剤、ニスとの相互作用を良くするための処理がある。
【0019】
カーボンナノチューブは下記文献に記載のような種々の方法で製造できる。
【非特許文献2】C. Journet et al. in Nature (London), 388 (1997) 756(電気アーク法)
【非特許文献3】Hipco(P. Nicolaev st al. Chem. Phys. Lett. 1999、313、91)(CVD気相法)
【非特許文献4】A.G. Rinzler et al., Appl. Phys. A, 1998, 67, 29 (レーザー法)
【0020】
さらに、中空カーボンナノチューブや、炭素化物または炭素以外の物質が充填された管状形状を作る方法もある。例えば下記文献には非塊状の多重壁カーボンナノチューブの製法が記載されている。
【特許文献12】国際特許第WO 86/03455号公報
【特許文献13】国際特許第WO 03/002456号公報
【0021】
本発明のポリマー気泡構造は熱可塑性物質、熱硬化性物質のポリマーおよびコポリマー、例えばアクリルポリマー、メタクリルポリマー等の熱可塑性樹脂の中から選択される一種または複数の(コ)ポリマーポリマーを含む。例としてはスチレンポリマー、ポリオレフィン、ポリウレタン、エチレンコポリマー、例えばアルケマ社から市販のEvataneおよびLotryl、密封用ゴムのようなゴムが挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂の例としては下記の樹脂を挙げることができる:
樹脂
アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合樹脂(ABS)、アクリロニトリル−エチレン/プロピレン−スチレン(AES)、メタアクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)、アクリロニトリル−ブタジエン−メタアクリル酸メチル−スチレン(ABMS)、アクリロニトリル-n-ブチルアクリレート−スチレン(AAS)、
ゴム
変性ポリスチレン、
樹脂
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニール、酢酸セルロース、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリケトン、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、
樹脂
フッ素化、珪素化樹脂、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール。
【0023】
熱硬化性樹脂の例としてはフェノール、尿素、メラミン、キシレン、ジアリルフタレート、エポキシ、アニリン、フラン、ポリウレタン、その他をベースにした樹脂を挙げることができる。
本発明で使用できる熱可塑性エラストマーの例としてはポリオレフィンタイプのエラストマー、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体またはスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体またはその水素化物のようなスチレンタイプ、PVCタイプのエラストマー、ウレタン、ポリエステル、ポリアミド(PA)タイプ、1,2−ポリブタジエンまたはtrans−l,4−ポリブタジエン樹脂のようなポリブタジエンタイプの熱可塑性エラストマー;メチルカルボキシレートポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル(EVA)、エチレン−エチルアクリレートコポリマー、塩素化されたポリエチレンのようなポリエチレンタイプのエラストマー、ポリ弗化ビニリデン(PVDF)のようなフッ素化されたタイプの熱可塑性エラストマー、ポリエーテルエステルおよびポリエーテルアミド、例えばポリエーテルブロックポリアミド(PEBA)タイプ、その他が挙げられる。
【0024】
ポリ(1−ビニルピロリドン−co−酢酸ビニール)、ポリ(1−ビニルピロリドン−co−アクリル酸)、ポリ(1−ビニルピロリドン−co−メタクリル酸ジメチルアミノエチル)、ポリビニル硫酸、ポリ(ソジウムスチレンスルホン酸−co−マレイン酸)、デキストラン、デキストランスルホネート、ゼラチン、ウシ血清アルブミン、ポリ(メタクリル酸メチル−co−アクリル酸エチル)、ポリアリルアミンおよびこれらの組合せも挙げられる。PVDF、EVA、PEBA、PAの中から選択されるポリマーを用いるのが好ましい。
【0025】
ポリマー気泡構造は多孔質体である。ポリマー気泡構造の全気孔率または気孔の全容積は少なくとも50%、好ましくは80%以上、さらに好ましくは92%以上または好ましくは50〜99%である。ポリマー気泡構造の孔または気泡は用途に応じて開いていても閉じていてもよい。
気泡または孔の平均寸法d50は50容積%の気泡の平均直径で定義される。小気泡の平均直径d50は150ミクロン以下、好ましくは100ミクロン以下、さらに好ましくは80ミクロン以下、さらに好ましくは10ミクロン以下である。d50気泡の平均直径は5〜80ミクロン、好ましくは30〜50ミクロンである。
【0026】
多孔度(porosite)値はポリマー気泡構造の幾何学量に対する気孔容積の比で定義される。多孔度値はバルク材料の理論密度である真密度dtrueとアクセス可能またはアクセス不可能な孔を含む材料のかさ密度dbulkに関連づけることができる。真の多孔度と真密度およびかさ密度との間には下記関係式がある:
多孔度=1−(dbulk/dtrue)。
全多孔度は比重びんを用いたかさ密度の測定から得られる。
ポリマー気泡構造のかさ密度は100kg/m3以下、好ましくは10〜60kg/m3である。このかさ密度は比重びんで測定する。
【0027】
ポリマー気泡構造の製造方法(すなわち発泡方法)はポリマー発泡体の分野で周知である。発泡方法は液体または気体の有機化合物または無機化合物またはこれらの混合物からなる群の中から選択される膨張剤を用いる物理的性質を利用する方法にすることができる。膨張剤は炭化水素、クロロフルオロカーボン(CFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)などからなる揮発性有機化合物の群の中から選択するのが好ましい。
【0028】
膨張剤はさらに、気体、特に窒素、ヘリウム、二酸化炭素、超臨界流体から選択できる。特にCO2、炭化水素またはクロロフルオロカーボン(CFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)などの無機化合物の群の中から選択するのが好ましい。
分解によって気泡を発生する化合物から選択した膨張剤を用いた化学的方法を用いた発泡方法にすることもできる。上記の物理的膨張方法と化学的膨張方法の両方の発泡方法を用いることもできる。
【0029】
カーボンナノチューブの使用を含む気泡構造の製造方法は下記の3つの段階に分けることができる:
第1段階はCNT/ポリマーの複合混合物を製造する段階である。この複合混合物は例えばHaakタイプの密閉式ミキサーで溶融して製造できる。得られた混合物を粉砕する。この製造方法は本発明を説明するための実施例で用いたものである。ポリマー、樹脂およびエラストマーをベースとする複合材料の製造方法は全て使用可能である。例えば、単軸または二軸スクリュー押出機、ノズル混合、静的ミキサーなどを挙げることができる。得られた混合物はそのまま用いるか、相溶性または非相溶性のマトリクス中に希釈して用いることができる。この場合、第1の混合物はマスターバッチとよばれる。
【0030】
第2段階は溶解段階である。この溶解段階で膨張剤を導入して混合物中に溶解させる。
第3段階はポリマー相中に気泡を形成する段階であり、膨張剤が気泡形成を行うのに適した化学的または物理的条件下に混合物をおく。
【0031】
膨張剤が超臨界流体、例えばCO2である場合にはCO2を高圧下に導入し、CNT/ポリマー混合物中に飽和濃度に達するまで溶解する。次いで、この混合物を減圧して始点の核生成および気泡成長をさせて、CNT/ポリマー複合気泡構造または発泡体を形成する。
【0032】
得られた微孔質構造は、ポリマー構造中に重量%で0.05%以上、好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0,1〜3%のCNTを含む。コスト上の理由から、構造中に導入するカーボンナノチューブの重量%は60%以下、好ましくは50%以下、さらに好ましくは10〜50%または0.1〜15%にするのが好ましい。
【0033】
上記プロセスの後にポリマーを炭化し、(1000℃以上の)高温でグラファイト化する段階を実施することもできる。この場合、ポリマー中のCNT含有率はポリマーの2重量%以上、好ましくは5〜60重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。この場合には二重の多孔質度を有する軽量炭素含有材料が得られる。すなわち、気泡と同じ直径を有する発泡段階で得られる多孔質度と、ポリマーの除去によって残る気孔に関連する気泡壁に見られる多孔質度である。この第2の多孔質度ははるかに小さく、例えば5ミクロンであり、このCNTにグラファイトのような別の充填材や導電性、熱伝導性または絶縁体の任意タイプの充填材を組み合わせることができる。追加の充填剤に対するCNTの含有率は用途および多孔度に応じて0〜100%で変えることができる。
【0034】
本発明の利点は、得られた軽量材料が、カーボンナノチューブを含まないポリマー気泡材料と比べて、はるかに小さい気泡を有しながら、同等の密度を有することにある。これによって、特に、同じ軽量材料の機械的特性、絶縁特性または導電性を改良することができる。ポリマー中にCNTが存在することによって発泡過程中に核生成が行われ、それによってCNTを含まない発泡体の気泡よりも小さい気泡の形成が促進される、という利点がある。従って、本発明ポリマー構造中の気泡の平均直径d50はCNTを含まない同じかさ密度の発泡体に比べて30%以上小さくなる。
【0035】
本発明のポリマー気泡構造を含む軽量材料の電気絶縁/断熱性または導電性/熱伝導性はカーボンナノチューブの含有率に依存する。当業者は所望の仕様を得るためにCNT含有率を正しく選択することができる。
発泡プロセスでカーボンナノチューブをベースとする組成物を用いることで複合材料の溶融特性が良くなる、という利点もある。この特性は低剪断速度下での粘度で評価できる([図1]参照)。膨張時の粘性力は気泡膨張時のガスに起因する力と対抗する。
【0036】
本発明の単一多孔質度を有する軽量構造は包装材料、絶縁材料、軽量材料、密封材料などの用途で使用できる。
二重多孔質度を有する材料は電池、スーパーキャパシタのようなエネルギー蓄積分野での電極、膜などの製造に適用できる。
本発明構造では発泡プロセスで用いられる膨張剤の残りを含むことができる。気泡中に残るこの膨張剤の存在は一般に最終軽量材料の伝導性に影響を与える。特定の理論に限定されるものではないが、膨張剤が気体の場合、気泡ポリマー構造中に存在するCNTによって膨張剤の拡散が抑えられると考えられる。これによって本発明の最終軽量材料の絶縁または伝導能力にポジティブな影響が与えられる。すなわち、配向したCNTが気泡壁中に存在しても([図4]参照)、膨張気体の拡散を減速させるだけである。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
下記文献に記載の方法に従って得られたカーボンナノチューブを用いる。このナノチューブは直径が10〜30nmで、長さが>0.4μmである。このCNTの特性を生かすために、最終組成物中では分散状態で存在する。
【特許文献14】国際特許第PCT WO 03/002456 A2号
【0038】
比較のための参照膨張気泡構造としてはポリスチレン1450を用いた。このポリスチレン1450はトタルペトロケミカルズ社が製造している。
特に説明の無い限り比率は重量比である。
実施例では、種々のCNT濃度(0.5%および1%のCNT)のポリスチレン混合物を下記の3段階からなる発泡プロセスで試験した。
第1段階は溶融段階である。ポリマーまたは複合材料をオートクレーブ型反応器中に高温(PSでは一般に190〜200℃)でポリマーの分解を避けるために真空下に配置する。真空ポンプは可撓管を介して反応器の入口弁に連結されている。溶融段階の時間は一般に約2時間である。
【0039】
第2段階は溶解化段階である。真空ポンプを停止した後、温度制御を溶解化段階に合わせ、CO2を冷却器を備えたポンプを用いて導入する。使用圧力に合わせ、ポンプの給気を開けると入口弁が開く。ポンプを起動し、オートクレーブ内の圧力を上げる。使用圧力に達すると入口弁は自動的に閉じる。溶解化段階の時間は一般に約17時間である。高圧下のCO2は超臨界状態にあり、使用圧力および温度での飽和濃度に対応する濃度に達するまでポリスチレン中に溶解する。
【0040】
第3段階は複合ポリマーの減圧または発泡の段階である。一般にボルテックスでオートクレーブの冷却を開始させ、温度を周囲温度に合わせる。調節しながら出口弁を開くと圧力およびパイプ形状によって決まる速度で減圧され、それによって核生成が開始し、気泡が成長し、発泡体が形成される。減圧終了時にはオートクレーブの内部をより効果的な方法で冷却できる。直ぐに反応器を開けて発泡体を回収する。
【0041】
ナノチューブの含有率を0〜1%で変えて本発明の種々の気泡構造を上記方法に従って調製した。ポリスチレン構造の特性を調べるために、0%、0.5%、1%のナノチューブを含むポリスチレン構造を選択した。これらの組成物をA、B、Cとする。
【0042】
実施例1
いくつかの混合物では140バールのCO2圧力下で温度を関数として発泡体を製造した。密度および気泡寸法に関して得られた結果は[図1]〜[図3]と[表1]に示してある。
【表1】

【0043】
試験結果
[図1]は粘度変化を剪断速度を関数にして示している。種々のポリスチレン1450/CNT混合物のレオロジー解析から、低剪断速度では粘度が増加することがわかる。この増加は微孔質構造を得るのに有益である。
[図2]、[図3]は発泡体の気泡直径および密度の変化をCNTの含有率(重量%)の関数および発泡プロセスで用いる膨張温度の関数で示している。
[図2]、[図3]のグラフおよび[表1]に示す結果から、0.5重量%のCNTをPS1450に添加したときに、一定の密度を保持したまま、気泡直径が純粋なPS1450に対して平均して51%減少することが明確にわかる。この結果はCNTの核生成効果を明確に示し、気泡数の増加に現れている。
ポリマーマトリクス中のカーボンナノチューブの量を上げても核生成に大きな作用を与えないが、熱伝導性、導電性および機械的剛性を管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】剪断速度を関数とした混合物:CNT/ポリスチレン(トタルペトロケミカルズから市販のラクレーヌ(lacqrene、登録商標)1450)の粘度変化を示す図。
【図2】CNT含有率(%)および発泡プロセスで用いる膨張温度を関数とした気泡直径および発泡体密度の変化を示す図。
【図3】CNT含有率(%)および発泡プロセスで用いる膨張温度を関数とした、気泡直径および発泡体密度の変化を示す図。
【図4】溶融ポリマーを二軸流で伸ばした時のCNTの配向を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを含む気泡ポリマー構造において、ポリマー構造中のカーボンナノチューブの比率が60重量%以下、好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%で、気泡の平均寸法が150ミクロン以下であることを特徴とする気泡ポリマー構造。
【請求項2】
ポリマー構造中のカーボンナノチューブの比率が60重量%以下、好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%であり、気泡の平均寸法が20〜80ミクロンであることを特徴とする気泡ポリマー構造。
【請求項3】
気孔率が少なくとも50%、好ましくは50〜99%である請求項1または2に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項4】
かさ密度が100kg/m3以下、好ましくは10〜60kg/m3である請求項1〜3のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項5】
ポリマーが熱可塑性または熱硬化性の(コ)ポリマー、エラストマーおよび樹脂からなる群の中から選択する請求項1〜4のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項6】
ポリマーがPVDF、EVA、PEBAおよびPAの中から選択されるポリマーである請求項1〜6のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項7】
ポリマーがポリスチレンである請求項1〜5のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項8】
ポリマーがポリウレタンである請求項1〜5のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項9】
膨張剤の残りを含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項10】
膨張剤が液体または気体の有機または無機化合物、分解によって気泡を発生する固体化合物、気体の化合物、または、これらの混合物からなる群の中から選択される請求項9に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項11】
気泡の壁が孔を有する請求項1〜10のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造。
【請求項12】
食品包装、絶縁材料、軽量構造材料、膜の製造、電極の分野での請求項1〜11のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造の使用。
【請求項13】
下記(a)〜(c)の段階を含む請求項1〜11のいずれか一項に記載の気泡ポリマー構造の製造方法:
(a)カーボンナノチューブ(CNT)/ポリマーの複合混合物を製造する段階、(b)複合混合物中に膨張剤を導入し、溶解させる溶解段階、(c)複合混合物を重合構造中に気泡を形成するための化学的または物理的条件下に置く段階。
【請求項14】
膨張剤が超臨界気体、好ましくは超臨界CO2またはクロロフルオロカーボン(CFC)、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ヒドロフルオロカーボン(HFC)の中から選択されるフッ素化気体である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(c)段階の複合混合物を分解して気泡を形成する請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
(c)段階で得られるポリマーを炭化し、その後に1000℃以上の温度でグラファイト化する段階をさらに有する請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−539295(P2008−539295A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508251(P2008−508251)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000821
【国際公開番号】WO2006/114495
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】