説明

カーボンナノチューブパターンの形成方法

【課題】 機械的強度が強く、下地層や基板との密着性が高く、表面で導電性をもち、さらに下地層や基板との間でも導電性をもつ、カーボンナノチューブパターンを容易に形成する方法を提供する。
【解決手段】 カーボンナノチューブが分散媒に分散したカーボンナノチューブ分散液にて基板表面に所望のパターンを印刷し、分散媒を蒸発させてパターン層を形成するパターニング工程と、パターン層を基板表面に固定するパターン固定工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブパターンの形成方法。パターン固定工程は、感光性有機材料をパターン層内に含浸させる工程と、感光性有機材料が含浸したパターン層を露光する工程と、パターン層表面の感光性有機材料を除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程と、パターン層内部の感光性有機材料を硬化させる工程と、を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを基板表面にパターニングする方法に関する。より詳細には、電子デバイス等の製造に好適なカーボンナノチューブのパターニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平6−252056号公報
【特許文献2】特開2002−234000号公報
【特許文献3】特開2000−090809号公報
【非特許文献1】H.Dai, J.Kong, C.Zhou, N.Franklin, T.Tombler, A.Cassell, S.Fan, M.Chapline, J.Phys.Chem. 103, p.11246-11255(1999)
【非特許文献2】Feng-Yu Chang, SDI '00 Digest, p329 (2000)
【0003】
カーボンナノチューブ(CNT)は炭素原子の六員環で構成されるグラフェンシートを巻いた1次元性を有する筒状の形状をもち、グラフェンシートが1枚の構造のカーボンナノチューブを単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層の場合を多層カーボンナノチューブ(MWNT)と呼ぶ。単層カーボンナノチューブは直径約1nm、多層カーボンナノチューブは数十nm程度であり、従来のカーボンファイバーと呼ばれる物よりも極めて細い。最近、カーボンナノチューブやフラーレンに代表される炭素構造体は、そのサイズや特異な性質のため、様々な分野での応用が期待されている。特に、カーボンナノチューブは、樹脂の強化や伝導性複合材料として添加されたり、電界放出ディスプレイ用エミッタや走査型プローブ顕微鏡の探針として利用されたり、電界効果トランジスタ、電池の電極や水素貯蔵への応用など、実用化に向けて、多くの研究がなされている。
【0004】
このようにカーボンナノチューブは、種々の応用が考えられるが、特に電子材料・電子デバイスとしての応用が注目を浴びている。カーボンナノチューブを使用した電子デバイスを集積化し実用化するには、カーボンナノチューブを所定の位置にパターン化する技術が必須となる。
【0005】
さらに、カーボンナノチューブパターンをデバイスとして用いる際、その上に電極など他の材料層を設ける場合が多く、カーボンナノチューブ層と他の材料層との間の接触部での導電性を損なわないように、層の最表面にカーボンナノチューブを露出させた形状が必要となる。また、電界放出ディスプレイ(FED)の電界放出陰極として用いるには、カーボンナノチューブの先端で効率的に電界集中効果を実現する必要があり、この場合もカーボンナノチューブの先端を露出させることが求められる。
【0006】
さらに、カーボンナノチューブのパターンを配線や電極上に形成する場合は、これらの下地層との導電性を確保する必要があるため、カーボンナノチューブと下地層を確実に密着させることが求められる。
【0007】
また、パターン化したカーボンナノチューブ層を、外界と直接接触する環境下で用いる場合や、折り曲げて使用する場合は、層自体の機械的強度が必要となり、ポリマー層をその上に積層する場合には、そのポリマーを溶解する溶剤に対する耐溶剤性が必要となってくる。
【0008】
カーボンナノチューブを膜として所定のパターンに形成する方法としては、化学気相成長法(CVD法)を用いる技術が知られている。CVD法は、原料として炭素を含むアセチレンガスやメタンガス等を用い、原料ガスの化学分解反応により、カーボンナノチューブを生成する方法である。非特許文献1には、半導体プロセスによって、ポーラスシリコン基板表面にカーボンナノチューブの生成に必要な触媒金属のパターニングを行い、そこに原料ガスを流すことにより、カーボンナノチューブを生成させる技術が開示されている。しかし、この方法はボトムアップ型であり、生産性が低いことが問題であった。
【0009】
特許文献1では、公知のリソグラフィー技術を用いて、カーボンナノチューブをパターン形成する技術が開示されている。具体的には、カーボンナノチューブをレジスト中に分散させて基板に塗布し、リソグラフィー工程を用いて所定のマスクパターンに感光、現像した後、固定材料をカーボンナノチューブ上に付着させることで、基板にカーボンナノチューブを固定し、さらにレジストをリフトオフすることによってカーボンナノチューブと固定材料だけを残す方法が開示されている。この方法は、1度に広い面積にパターン形成することに優れているが、カーボンナノチューブをレジストに分散させてパターニングするので、カーボンナノチューブの陰に隠れて感光しなくなる部位を生じさせないためにカーボンナノチューブの含有量をあまり高くはできず、そのため得られた層中のカーボンナノチューブの密度が低下してしまうという問題点があった。よってカーボンナノチューブ相互の電気的な接触を十分に確保することが困難であり導電性という面では不十分となり、電極や電気回路として用いることは困難である。
【0010】
また、非特許文献2では、カーボンナノチューブを溶剤やバインダーと混合し、スクリーン印刷法によって、パターン形成する技術が開示されている。この方法も、容易に、一度に広い面積にパターンを形成することができ、生産性は高いが、カーボンナノチューブをインク化するためのバインダーを用いるため、得られたパターン層中のカーボンナノチューブの密度が低下してしまうものであり、前記のリソブラフィーを用いた技術と同様に導電性に問題があった。
【0011】
カーボンナノチューブの密度が高いパターン層を成膜する方法として、特許文献2には、転写法を用いた方法が開示されている。この方法では、まず、ろ紙上に吸引ろ過などして層状にしたカーボンナノチューブ層を、バインダーを塗布した基板表面に上下反転して転写する。その後マスクを介して溶剤などでバインダーごとカーボンナノチューブを除去することにより、所定の位置にカーボンナノチューブのパターンを形成する。この方法では緻密なカーボンナノチューブ層を形成することができるが、カーボンナノチューブが絡まりあっているだけで層自体の機械的強度は低く、また、カーボンナノチューブ層と基板とを接着させるためにセルロース系などの樹脂系バインダーを用いているので、カーボンナノチューブと基板との間での導電性が低下してしまうという問題があった。
【0012】
また、カーボンナノチューブのパターン層の表面にカーボンナノチューブを露出させる方法としては、特許文献3には、カーボンナノチューブを分散したレジストを基板に塗布し、リソグラフィー工程を用いてパターニングした後、カーボンナノチューブを残してレジストを選択的にエッチバックすることによりパターン表面からカーボンナノチューブの先端を突出させる方法が開示されている。
【0013】
しかしながら、上記特許文献3に記載の方法によると、パターン形成後のレジストエッチバック工程は酸素ガスを用いたCDE(Chemical Dry Etching) や有機溶剤による表面層エッチングなどによるものであり、それを行うエッチバック工程と、そのためのエッチング装置が必要となる。さらに、ドライエッチングなどを施すことによりカーボンナノチューブ自身もダメージを受けるため、欠陥などが入ることにより導電性が損なわれてしまう。また、特許文献1と同様にレジスト中にカーボンナノチューブを分散して用いるため、パターニングするには、カーボンナノチューブの密度を低くしなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。すなわち、本発明の目的は、機械的強度が強く、下地層や基板との密着性が高く、パターン層の表面で導電性をもち、さらに下地層や基板との間でも導電性をもつ、カーボンナノチューブパターンを容易に形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、下記の手段を採用することにより、上記の課題の解決に成功した。
【0016】
すなわち、本発明は、カーボンナノチューブが分散媒に分散したカーボンナノチューブ分散液にて基板表面に所望のパターンを印刷し、前記分散媒を蒸発させてパターン層を形成するパターニング工程と、前記パターン層を前記基板表面に固定するパターン固定工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブパターンの形成方法である。
【0017】
分散媒を蒸発することによりカーボンナノチューブが密に積層されてなるパターン層を基板表面に形成することができ、このカーボンナノチューブが密に積層されてなるパターン層を固定するパターン固定工程を経ることにより、得られるカーボンナノチューブパターンの機械的強度を高め、下地層や基板との密着性を良好にすることが可能となる。また、カーボンナノチューブが密に積層されるので相互の接触機会が増え、得られるカーボンナノチューブパターンの表面、更に下地層や基板との間でも導電性を発現させることが可能となる。
【0018】
また、本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法は、前記パターン固定工程が、感光性有機材料を前記パターン層内に含浸させる工程と、前記感光性有機材料を含浸させたパターン層を露光する工程と、パターン層表面の感光性有機材料を除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程と、パターン層内部の感光性有機材料を硬化する工程と、を含むことが好ましい。これにより、カーボンナノチューブの先端や側面をパターン層表面に露出させた状態でパターン層を基板表面に固定することができる。
【0019】
ここで、前記感光性有機材料とは、露光することにより何らかの液(現像液)に可溶化あるいは不溶化するものであればよく、特に制限はない。具体的にはポジ型レジストまたはネガ型レジストをあげることができる。
【0020】
感光性有機材料としてポジ型レジストを用いた場合には、ポジ型レジストが含浸したパターン層を基板の表面側(パターン層が形成された側)から露光することが好ましく、このとき、前記パターン固定工程は、ポジ型レジストをパターン層内に含浸させる工程と、ポジ型レジストが含浸したパターン層を基板の表面側から露光する工程と、パターン層表面のポジ型レジストを除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程と、パターン層内部のポジ型レジストを熱硬化させる工程と、を含むことがより好ましい。パターン層を基板の表面側から露光し、そのパターン層を現像液中に浸すことによって、パターン層表面のポジ型レジストを除去することができる。
【0021】
また、感光性有機材料としてネガ型レジストを用いた場合には、基板として透明基板を用い、パターン層を基板の裏面側(パターン層が形成された側の反対側)から露光することが好ましい。このとき、前記パターン固定工程は、ネガ型レジストをパターン層内に含浸させる工程と、ネガ型レジストが含浸したパターン層を透明基板の裏面側から露光する工程と、パターン層表面のネガ型レジストを除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程と、パターン層内部のネガ型レジストを熱硬化させる工程と、を含むことがより好ましい。パターン層を透明基板の裏面側から露光し、そのパターン層を現像液中に浸すことによって、パターン層表面のネガ型レジストを除去することができる。
【0022】
感光性有機材料としてポジ型レジストまたはネガ型レジストを用い、熱硬化処理を行うことによって、有機溶剤に対する耐性や、耐アルカリ性、耐酸性に優れたカーボンナノチューブパターンを形成することができる。
【0023】
カーボンナノチューブの主な製造法として代表的なものは、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法等が挙げられる。一般的なカーボンナノチューブとしては、多層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブ、またそれらを精製したカーボンナノチューブ、精製しないカーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0024】
また、単層カーボンナノチューブの変種であるカーボンナノホーン(一方の端部から他方の端部まで連続的に拡径しているホーン型のもの)、カーボンナノコイル(全体としてスパイラル状をしているコイル型のもの)、カーボンナノビーズ(中心にチューブを有し、これがアモルファスカーボン等からなる球状のビーズを貫通した形状のもの)、カップスタック型カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンやアモルファスカーボンで外周を覆われたカーボンナノチューブ等、厳密にチューブ形状をしていないものも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。
【0025】
また、カーボンナノチューブ中に金属等が内包されている金属内包カーボンナノチューブ、フラーレンまたは金属内包フラーレンがカーボンナノチューブ中に内包されるピーポッドカーボンナノチューブ等、何らかの物質をカーボンナノチューブ中に内包したカーボンナノチューブも、本発明においてカーボンナノチューブとして用いることができる。これらから複数の種類を混合したものなどであってもよい。
【0026】
なお、カーボンナノチューブとしては、多層カーボンナノチューブであることが好ましい。電気伝導性の高い多層カーボンナノチューブであることが、得られるカーボンナノチューブパターンの電気伝導度を高める点で好ましく、また官能基を結合させる場合に、内層のグラフェンシート構造の破壊が少ない点から、カーボンナノチューブの特性を劣化させにくい点で好ましい。
【0027】
さらには、カーボンナノチューブとして、官能基が表面に結合されたカーボンナノチューブ、すなわち、表面に官能基を有するカーボンナノチューブや、架橋剤と架橋反応する官能基を有するカーボンナノチューブであることが好ましい。
【0028】
以上のように、本発明においては、一般的なカーボンナノチューブのほか、その変種や、種々の修飾が為されたカーボンナノチューブ等、いずれの形態のカーボンナノチューブでも、その反応性から見て問題なく使用することができる。したがって、本発明における「カーボンナノチューブ」には、これらのものが全て、その概念に含まれる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法によれば、カーボンナノチューブ分散液にて基板表面に所望のパターンを印刷した後、分散媒を蒸発させて除去することにより、カーボンナノチューブが密に積層されて網目構造をとった状態で存在するパターン層を形成することができる。そのうえで、このパターン層を固定する工程を経るので、カーボンナノチューブが相互に接触し、電気的接続の良好なカーボンナノチューブパターンが形成でき、かつ、機械的強度や耐溶剤性をもち、パターン層の表面や基板との間での導電性をもち、多様な材質の下地層との密着性の高いカーボンナノチューブパターンを容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0031】
1.パターニング工程
本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法におけるパターニング工程は、カーボンナノチューブが分散媒に分散したカーボンナノチューブ分散液にて基板表面に所望のパターンを印刷し、前記分散媒を蒸発させてパターン層を形成する工程であり、通常の印刷技術によるものでよい。具体的には、凸版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、インクジェット法、などが挙げられ、これらに限られるものではないが、この中でも特にスクリーン印刷法が好適である。スクリーン印刷法は、印刷圧が低く、平面、曲面、凹凸のある面など多様な形状のものへの印刷ができ、さらに比較的高い粘性の液体を印刷する方法であるために、基板表面でのはじきなどが発生しにくく、印刷基板として多様な材料を選ぶことができる。
【0032】
このパターニング工程においては、既述のいずれかのカーボンナノチューブが分散媒に分散したカーボンナノチューブ分散液を用いることができる。すなわち、上記の一般的なカーボンナノチューブを分散媒に分散したカーボンナノチューブ分散液にてパターン層を形成することもでき、官能基を有するカーボンナノチューブを分散媒に分散したカーボンナノチューブ分散液にてパターン層を形成することもでき、官能基を有するカーボンナノチューブおよび前記官能基と架橋反応を起こす架橋剤を含む溶液(架橋溶液)をこのカーボンナノチューブ分散液として、パターン層を形成することもできる。カーボンナノチューブを分散させる分散媒は、基本的に揮発性の良いものが好ましい。
【0033】
また、例えば、スクリーン印刷法を用いる場合は、印刷液体として比較的高い粘性の液体が求められるため、上記カーボンナノチューブ分散液には高粘度の分散媒を用いることが望ましい。具体的にはグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリコールエステル、グリコールエーテル、α−テルピネオールなどを挙げることができる。この際、印刷に適した粘度に調液するには、分散するカーボンナノチューブの濃度で調整すればよい。
【0034】
本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法において、カーボンナノチューブ分散液にてパターンが形成される基板は、通常、液体のはじきなどが問題になりやすい平滑な表面をもつ固体、例えば、Siウエハ、ガラス類、金属、ITOなどに加え、プラスチックやポリマー膜などを用いることができる。さらには表面に凹凸のあるもの、例えばすでに配線や電極などが形成された基板や、セラミックスやその他表面の粗い固体など、多様なものを用いることができる。
【0035】
本発明において用いられるカーボンナノチューブの直径としては、0.3nm以上500nm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの直径が、当該範囲を超えると、合成が困難であり、コストの点で好ましくない。カーボンナノチューブの直径のより好ましい上限としては、200nm以下である。
【0036】
一方、一般的にカーボンナノチューブの直径の下限としては、その構造から見て、0.3nm程度であるが、あまりに細すぎると合成時の収率が低くなる点で好ましくない場合もあるため、1nm以上とすることがより好ましく、10nm以上とすることがさらに好ましい。
【0037】
用いられるカーボンナノチューブの長さとしては、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの長さが、当該範囲を超えると、合成が困難、もしくは、合成に特殊な方法が必要となりコストの点で好ましくない。
【0038】
前記カーボンナノチューブ分散液におけるカーボンナノチューブの含有量としては、カーボンナノチューブの長さ・太さ、単層か多層か、有する官能基の種類・量、架橋剤もしくは官能基同士の直接の結合のための添加剤の種類・量、溶剤やその他添加剤の有無・種類・量、等により一概には言えず、分散剤の蒸発除去後、密着性及び導電性の良好なパターン層が形成される程度に高濃度であることが望まれるが、印刷適性が低下するので、あまり高くし過ぎないことが望ましい。
【0039】
また、具体的なカーボンナノチューブの割合としては、既述の如く一概には言えないが、官能基の質量は含めないで、カーボンナノチューブ分散液全量に対し1〜1000g/l程度の範囲から選択され、10〜500g/l程度の範囲が好ましく、30〜100g/l程度の範囲がより好ましい。
【0040】
使用しようとするカーボンナノチューブの純度が高く無い場合には、カーボンナノチューブ分散液の調製前に、予め精製して、純度を高めておくことが望ましい。本発明においてこの純度は、高ければ高いほど好ましいが、具体的には90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。カーボンナノチューブの精製方法に特に制限はなく、従来公知の方法をいずれも採用することができる。純度が低いと、不純物であるアモルファスカーボンやタール等の存在によって、カーボンナノチューブ間の距離が変動してしまい、所望の特性を得られない場合がある。
【0041】
また、前記カーボンナノチューブは、官能基が結合されていることが好ましい。これにより、官能基を有するカーボンナノチューブが分散媒に分散したカーボンナノチューブ分散液は印刷特性を向上させるうえ、その後この分散媒を蒸発させたとき、より均一に積層されたパターン層を形成することができる。
【0042】
ここで、上記のカーボンナノチューブが有する官能基としては、−COOR、−COX、−MgX、−X(以上、Xはハロゲン)、−OR、−NR12、−NCO、−NCS、−COOH、−OH、−NH2、−SH、−SO3H、−R''CH2OH、−CHO、−CN、−COSH、−SR、−SiR’3(以上、R、R1、R2、R’およびR''は、それぞれ独立に、置換または未置換の炭化水素基である。)等の基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。官能基を有するカーボンナノチューブを用いれば、分散媒中への分散性を高めることができるため、パターン印刷する際により好ましい。
【0043】
パターニング工程は、官能基が結合された複数のカーボンナノチューブの前記官能基間を化学結合させる工程(以下、架橋工程と云う。)を含み、前記パターン層は前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成するカーボンナノチューブ構造体により構成されることが好ましい。これにより、パターン層をより強固にすることができると共に、得られるカーボンナノチューブパターンにより確実な導電性を付与することができる。
【0044】
本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法において、この架橋工程は、パターニング工程中分散媒を蒸発させる工程を兼ねることが好ましい。
【0045】
官能基−COOR(Rは、置換または未置換の炭化水素基である。Rは、1価の炭化水素基であって、好ましくは−Cn2n-1、又は−Cn2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数である。より好ましくは、メチル基、又はエチル基である。)が付加したカーボンナノチューブと、ポリオール(中でもグリセリンおよび/またはエチレングリコール)との組み合わせの場合には、加熱による反応(エステル交換反応によるポリエステル化)が行われる。加熱により、エステル化したカーボンナノチューブカルボン酸の−COORと、ポリオールのR’−OH(R’は、置換または未置換の炭化水素基である。好ましくは−Cn2n-1、又は−Cn2n+1から選ばれ、nは1〜10の整数である。中でもより好ましくは、メチル基、又はエチル基である。)とがエステル交換反応する。そして、かかる反応が複数多元的に進行し、カーボンナノチューブが架橋していき、最終的にカーボンナノチューブが相互に接続してネットワーク状となったカーボンナノチューブ構造体が形成される。
【0046】
2.パターン固定工程
本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法におけるパターン固定工程は、分散媒を蒸発させてカーボンナノチューブが密に積層されて形成されたパターン層を基板表面に固定する工程である。
【0047】
ここで、カーボンナノチューブのパターン層を基板表面に固定する方法としては、分散媒を蒸発させてカーボンナノチューブが密に積層されて形成されたパターン層を基板に固定することができれば限定されないが、感光性有機材料を用いる方法、樹脂をパターン層に含浸させてから硬化させる方法、接着剤をパターン層に滴下してしみ込ませてから固定する方法、等が挙げられる。
【0048】
このパターン固定工程は、感光性有機材料を前記パターン層内に含浸させる工程と、前記感光性有機材料が含浸したパターン層を露光する工程と、パターン層表面の感光性有機材料を除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程と、パターン層内部の感光性有機材料を硬化する工程と、を含むことが好ましい。カーボンナノチューブの先端や側面をパターン層表面に露出させた状態でパターン層を基板表面に固定することによりカーボンナノチューブのパターン層と他の材料層との間の接触部での導電性が向上することに加えて、電界放出陰極として用いた場合に、カーボンナノチューブの先端で効率的な電界集中効果が期待できる。
【0049】
前記感光性有機材料として具体的には、ポジ型レジストまたはネガ型レジストをあげることができる。
【0050】
2−1 ポジ型レジストを用いた場合
ここでいうポジ型レジストとは、露光することにより現像液に可溶化するものである。一般的なポジ型レジストを用いたリソグラフィー工程では、レジストが露光されると現像液に可溶となる一方で遮光されたままだと現像液に不溶であることを利用してレジストのパターンを形成する。具体的には、レジストを基板表面に塗布した後、マスクを介して露光し、マスク下で遮光されたレジストを現像で残すことによってマスクと同形のパターンを所定位置に形成する。なお、用いるレジスト材料によっては必要に応じてそれぞれの工程後にレジスト膜を安定化させるための熱処理(ベーク)が行われ、基板表面へのレジストの塗布→プリベーク→露光→現像→ポストベークのプロセスを経ることが多い。また、ある種のレジスト材料によっては、露光後に熱処理を行うポストエクスポージャーベークを行う場合もある。パターン形成後、金属を蒸着するなどして電極などを形成し、不要となったレジストパターンをアセトンなどの溶媒で溶かし去るリフトオフを行う。
【0051】
しかしながら、本発明では一般的なリソグラフィーでのレジストの使用目的とは異なり、前記パターン層自身を保持し、より強固に基板とパターン層とを密着させるとともにカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させるために用いる。さらに、パターン層内部のレジストを通常の熱処理温度(プリベーク温度、ポストエクスポージャーベーク温度、ポストベーク温度)よりも高い温度で加熱して熱硬化(以下、熱硬化ベークと云う)することによって基板とパターン層との密着性及びパターン層の機械的強度をあげ、耐熱性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐酸性を向上させることができる。
【0052】
本発明において、パターン固定工程に用いるポジ型レジストとしては、特に限定されず、従来ポジ型レジストとして用いられている各種材料をそのまま用いることができる。その中でも、ノボラック系、アクリル系、フッ素系、ポリイミド系等の感光性樹脂を好ましく用いることができる。例えば、東京応化工業製OFPR800、長瀬産業製NPR9710、NPR8000、NPR7710等を例示することができる。
【0053】
2−1−1 感光性有機材料をパターン層内に含浸させる工程
パターン層を基板表面に固定する方法として感光性有機材料を用いる方法を採用した場合には、パターン固定工程の第1段階として、例えば、感光性有機材料としてのレジストを、あらかじめ形成されたカーボンナノチューブのパターン層に塗布し、含浸させる。すなわち、カーボンナノチューブが相互に接触して網目構造となった状態、また、カーボンナノチューブと基板とが直接接触した状態にあるカーボンナノチューブ層中に存在するわずかな空隙を、レジストが埋める。このことによってカーボンナノチューブ相互の接触部位以外でカーボンナノチューブ間を結着することができ、パターン層を安定に保持できる。同様に、カーボンナノチューブと基板との接触部位以外でカーボンナノチューブと基板との間を結着でき、カーボンナノチューブと基板との接触を保ったままカーボンナノチューブのパターン層そのものが基板から剥離しにくくする効果ももつ。またこのとき基板表面に電極などの下地層が存在してもよい。
【0054】
ここで、特許文献1のように最初からレジスト中に高濃度のカーボンナノチューブを分散して用いた場合は、それぞれのカーボンナノチューブがレジストによって覆われた状態を密に形成するものであり、カーボンナノチューブ相互の接触が形成されにくい。一方、本発明のように、感光性有機材料としてのレジストを、あらかじめ形成されたカーボンナノチューブのパターン層に塗布し、含浸させた場合、カーボンナノチューブ相互の接触部位が先に形成されたまわりをレジストが埋めるので、より確実にカーボンナノチューブを相互に接触させた状態が実現できる。
【0055】
しかしながら、一部においてカーボンナノチューブ相互の接触部位の間にレジストが流入して接続が損なわれてしまう場合があるため、より確実な導電性を必要とする場合には、既述のパターニング工程において複数のカーボンナノチューブを相互に架橋反応させて、カーボンナノチューブ構造体とする架橋工程を経た後に、当該パターン固定工程の操作を行うことがより望ましい。
【0056】
2−1−2 パターン層を露光する工程
パターン固定工程の第2段階として、前記感光性有機材料が含浸したパターン層を露光する。前記感光性有機材料含浸パターン層を露光する工程において、本発明では、一般的なリソグラフィー工程におけるマスクを用いることなく露光を行うことができる。露光の操作ないし条件(例えば、光源波長、露光強度、露光時間、露光量、露光時の環境条件等)は、使用するレジスト材料に応じて、適宜選択する。市販されているレジスト材料を用いたのであれば、当該レジスト材料の取扱説明書の方法に従えばよい。一般的には、取り扱いの便宜から、紫外光を用いて露光する。例えば、感光性有機材料としてポジ型レジストを用いる場合は、パターンを含む基板の表面全体を露光する。すなわち、パターン領域以外の部分に加え、パターンとして残す部分にも露光する。このとき、パターン領域以外に塗布されたレジスト、及び、パターン層の最表面に存在するレジストが露光される。一方で、パターン層の内部に存在するレジストはそれより表面側にあるカーボンナノチューブによって遮光され、露光されない。
【0057】
2−1−3 カーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程
パターン固定工程の第3段階として、パターン層表面の感光性有機材料を除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる。パターン層を基板ごと現像液に浸すことにより、パターン領域以外に塗布されたレジストと、レジストが含浸したパターン層の最表面に存在したレジストとが現像液に溶解して除去され、パターン層表面にカーボンナノチューブが露出する。その一方で、レジストが含浸したパターン層の内部や、より下層の基板に接する部分のレジストは溶解しないまま残り、パターン層構造を強化するとともに基板との密着性を保つ。この第3段階で行う現像の操作ないし条件(例えば、現像方法、現像液の種類・濃度、現像時間、現像温度、前処理や後処理の内容)は、使用するレジスト材料に応じて、適宜選択する。市販されているレジスト材料を用いたのであれば、当該レジスト材料の取扱説明書の方法に従えばよい。一般的には、取り扱いの便宜から、アルカリ性現像液、例えば、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド系の現像液に所定時間浸漬することにより現像する。このように、本発明は、特にエッチバックなどの工程を必要とせず、通常のリソグラフィーの現像工程を行うのみで、容易にカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させることができる。よって、カーボンナノチューブにダメージを与えることもない。
【0058】
2−1−4 パターン層内部の感光性有機材料を硬化する工程
パターン固定工程の第4段階として、パターン層内部に残った感光性有機材料を硬化する。この工程は用いるレジスト材料に応じた通常の熱処理温度(プリベーク温度、ポストエクスポージャーベーク温度、ポストベーク温度)よりもさらに高温で、レジスト材料が硬化する温度に加熱(熱硬化ベーク)すればよい。熱硬化ベーク時間としては、具体的には1分〜10時間の範囲が好ましく、30分〜2時間の範囲がより好ましい。レジストを熱硬化させることにより機械的強度があがるとともに、さらには、レジストがエタノールやアセトンなどの有機溶媒に不溶となって耐溶剤性があがる効果もある。現像後にポストベークを必要とするレジスト材料を用いる場合は、熱硬化ベーク工程がポストベーク工程を兼ねてもかまわない。
【0059】
2−2 ネガ型レジストを用いた場合
ここでいうネガ型レジストとは、露光することにより現像液に不溶化するものである。感光性有機材料としてネガ型レジストを用いた場合は、基板として透明基板を用い、パターン固定工程では第2段階の露光工程のみを変更するだけで、それ以外の工程はポジ型レジストを用いた場合と同じでよい。ネガ型レジストを用いる場合は、レジストが露光されると現像液に不溶になることを利用する。すなわち、第2段階の露光工程において、透明基板を介して、パターン層の裏面側から露光する。このことによって、露光された側のレジストは現像液中で残り、パターン層と基板とを結着させる役目をはたす一方で、それよりも表面側のレジストは現像液中で溶解して除去され、パターン層表面にカーボンナノチューブが露出したパターンを形成することができる。また、パターン層内部のレジストを熱硬化することによって基板とパターン層との密着性及びパターン層の機械的強度をあげ、耐熱性、耐溶剤性、耐アルカリ性、耐酸性を向上させることができる。
【0060】
本発明において、パターン固定工程に用いるネガ型レジストとしては、特に限定されず、従来ネガ型レジストとして用いられている各種材料をそのまま用いることができる。すなわち、ビスフェノール型やノボラック型のエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂等の感光性樹脂を好ましく用いることができ、例えば、東京応化工業製OMR−83等を例示することができる。
【0061】
以下に、本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法の実施の形態について図面を参照してより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
実施例1に係る本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法を、図1、図2等を参照して説明する。まず、多層カーボンナノチューブ粉末500mg(サイエンスラボラトリー製:純度90%、平均直径30nm、平均長さ3μm)と濃硝酸50mlとを120℃の条件で20時間還流させて、多層カーボンナノチューブの表面に−COOH基を付加した。この反応スキームを図2に示す。なお、図2中カーボンナノチューブ(CNT)の部分は、2本の平行線で表している(反応スキームに関する他の図に関しても同様)。
【0063】
反応液の温度を室温に戻したのち、5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した。回収した沈殿物を純水10mlに分散させて、再び5000rpmの条件で15分間の遠心分離を行い、上澄み液と沈殿物とを分離した(以上で、洗浄操作1回)。この洗浄操作をさらに5回繰り返し、最後に沈殿物を回収した。
【0064】
このようにして得られたカーボンナノチューブカルボン酸1(30mg)を、乳鉢を用いて、グリセリン2(0.5ml)に分散、混合してカーボンナノチューブ分散液6とした。このカーボンナノチューブ分散液6にてスクリーン印刷法によってガラス基板3の表面に長方形のパターン(幅2mm、長さ15mm)を形成した(図1(a))。次に、パターン形成されたカーボンナノチューブ分散層を基板ごと160℃に加熱し、グリセリンを蒸発させ、カーボンナノチューブのみのパターン層7とした(図1(b))。
【0065】
次に、パターン層7上からポジ型レジスト4(長瀬産業製、NPR9710)を3滴滴下し、スピンコートによってパターン層7全体をこのポジ型レジスト4で覆うと共に、パターン層7中にポジ型レジスト4を含浸させた(図1(c))。次いで、ホットプレート上で100℃、2分間加熱(プリベーク)してポジ型レジスト4中の溶媒を蒸発させた。その後、基板の表面側(図1における上方)からポジ型レジスト4の全体を露光(水銀灯、波長436nm、光量12.7mW/cm2、露光時間3秒)し、ホットプレート上で110℃、1分間加熱(ポストエクスポージャーベーク)した後、アルカリ性の現像液(東京応化工業製、NMD−3(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド 2.38質量%))中に15分間浸した。このときアルカリ性の現像液中でパターン層7の最表面のレジストが除去され、パターン層7表面にカーボンナノチューブが露出したパターンが形成された(図1(d))。その後、ホットプレートにより190℃で30分間熱処理(熱硬化ベーク)して熱硬化後のポジ型レジスト4’とした(図1(e))。
【0066】
ここで、図3に、カーボンナノチューブのパターン層へレジストを含浸した後(図1(c)に対応)の、パターン表面のSEM観察写真(倍率5000倍)を示す。また、図5はこのパターン表面の断面写真である。図4に、このレジスト含浸パターン表面を露光・現像した後(図1(d)に対応)の、パターン表面のSEM観察写真(倍率5000倍)を示す。また、図6はこのパターン表面の断面写真である。レジストを含浸させただけではカーボンナノチューブがレジストに埋没している(図3、図5)が、露光・現像することにより表面のレジストが除去されて、カーボンナノチューブがパターン層7表面に露出した様子(図4、図6)が分かる。それぞれのパターンの表面に電極(金、幅2mm、電極間隔5mm)をスパッタリングにより形成して抵抗を測定したところ、前者は導電性をもたなかったのに対して、後者の抵抗値は0.6Ωであり、良好な導電性を示した。また、最終工程(図1(e))後のカーボンナノチューブパターンは、アセトンに不溶であり、キムワイプ(登録商標)ではもちろん、ピンセットで表面を擦っても基板から剥がれることはなかった。
【0067】
(比較例1)
比較のため、本発明におけるレジストによるパターン層の固定工程を施さなかった場合について示す。まず、実施例1と同様に多層カーボンナノチューブ粉末(サイエンスラボラトリー製:純度90%、平均直径30nm、平均長さ3μm)と濃硝酸とを反応させて、多層カーボンナノチューブの表面に−COOH基を付加した。このようにして得られたカーボンナノチューブカルボン酸1(30mg)を、乳鉢を用いて、グリセリン2(0.5ml)に分散、混合した。このカーボンナノチューブ分散液6にてスクリーン印刷法によってガラス基板表面に長方形のパターン(幅2mm、長さ15mm)を形成した。次に、パターン形成されたカーボンナノチューブ分散層を基板ごと160℃に加熱してグリセリンを蒸発させ、カーボンナノチューブのみのパターン層とした。このパターン層の表面をキムワイプ(登録商標)で軽く触れると、簡単に基板表面からふき取られ、その部分のパターンが欠損した。
【実施例2】
【0068】
実施例2に係る本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法を、図1、図7及び図8を参照して説明する。本実施例2では、基板3として可とう性のあるシート、具体的には耐熱性のOHPシート3を用いた。まず、多層カーボンナノチューブ粉末500mg(サイエンスラボラトリー製:純度90%、平均直径30nm、平均長さ3μm)と濃硝酸50mlとを反応させて、多層カーボンナノチューブの表面に−COOH基を付加した。このカーボンナノチューブカルボン酸60mgを、メタノール(和光純薬製)25mlに加えた後、濃硫酸(98質量%、和光純薬製)4mlを加えて、65℃の条件で4時間還流させて、メチルエステル化した。この反応スキームを図7に示す。反応液の温度を室温に戻したのち、ろ過して沈殿物を分離した。沈殿物を、水洗した後回収した。このようにして得られたメチルエステル化カーボンナノチューブ1(30mg)を、乳鉢を用いて、グリセリン2(0.5ml)に分散、混合してカーボンナノチューブ分散液6(架橋溶液)とした。
【0069】
次に、このカーボンナノチューブ分散液6にてスクリーン印刷法によってOHPシート3上にパターン(幅2mm、長さ15mm)を形成した(図1 (a))。更に、パターン形成されたカーボンナノチューブ分散層をOHPシート3ごと180℃に加熱し、グリセリンとメチルエステル化カーボンナノチューブ1の−COOCH3基とを架橋反応させた。この反応スキームを図8に示す。同時に反応に携わらなかったグリセリンを蒸発させ、カーボンナノチューブ構造体から成るパターン層7を形成した(図1(b))。
【0070】
次に、パターン層7上からポジ型レジスト4を3滴滴下し、スピンコートによってパターン層7全体を覆うと共に、パターン層7中にポジ型レジスト4を含浸させた(図1(c))。次いで、実施例1と同様に熱処理(プリベーク)を行い、パターン層7をその表面側から全面露光した後、熱処理(ポストエクスポージャーベーク)を行い、現像液に浸すことによって、カーボンナノチューブのパターン層7の最表面のレジスト4を除去してパターン層7表面にカーボンナノチューブを露出させた(図1(d))。その後、ホットプレートにより190℃で30分間熱処理(熱硬化ベーク)して、熱硬化後のポジ型レジスト4’とした(図1(e))。形成されたカーボンナノチューブパターンは柔軟性のあるOHPシートの曲げにもよく追従し、剥がれることもヒビが入ることもなかった。
【実施例3】
【0071】
実施例3に係る本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法を、図9を参照して説明する。まず、ガラス基板表面にマスクを介したスパッタリング法により、下地層として金電極5(幅4mm、電極間隔2mm)を形成した(図9(a))。また、実施例1と同様にして、多層カーボンナノチューブの表面に−COOH基を付加し、得られたカーボンナノチューブカルボン酸1(30mg)をグリセリン2(0.5ml)に分散、混合してカーボンナノチューブ分散液6とした。次に、このカーボンナノチューブ分散液6にてスクリーン印刷法によってガラス基板3の電極上にパターン(幅4mm、長さ4mm)を形成した(図9(b))。
【0072】
次に、パターン形成されたカーボンナノチューブ分散層を基板ごと160℃に加熱し、グリセリンを蒸発させ、カーボンナノチューブのみのパターン層7を形成した(図9(c))。次に、パターン層7上からポジ型レジスト4を1滴滴下し、スピンコートによってパターン層7全体を覆うと共に、パターン層中にポジ型レジスト4を含浸させた(図9 (d))。次いで、実施例1と同様に加熱して溶媒を蒸発させ(プリベーク)、パターン層7をガラス基板3の表面側から全面露光した後、熱処理(ポストエクスポージャーベーク)を行い、現像液に浸すことによって、パターン層7の最表面のレジストを除去してパターン層7表面にカーボンナノチューブを露出させた(図9(e))。その後、ホットプレートにより190℃で30分間熱処理(熱硬化ベーク)して、熱硬化後のポジ型レジスト4’とした(図9(f))。このようにして得られたカーボンナノチューブパターンは、ガラス基板および金電極上に安定に固定され、電極間の抵抗は0.2Ωであった。
【実施例4】
【0073】
実施例4に係る本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法を、図10を参照して説明する。まず、多層カーボンナノチューブ粉末500mg(サイエンスラボラトリー製:純度90%、平均直径30nm、平均長さ3μm)と濃硝酸50mlとを反応させて、多層カーボンナノチューブの表面に−COOH基を付加した。カーボンナノチューブカルボン酸1を、乳鉢を用いて、グリセリン2に分散、混合してカーボンナノチューブ分散液6とした。次に、このカーボンナノチューブ分散液6にてスクリーン印刷法によって透明なガラス基板3表面にパターン(幅2mm、長さ15mm)を形成した(図10 (a))。
【0074】
次に、パターン形成されたカーボンナノチューブ分散層をガラス基板3ごと180℃に加熱してグリセリンを蒸発させ、カーボンナノチューブから成るパターン層7を形成した(図10(b))。次に、パターン層7上からネガ型レジスト14(東京応化工業製、OMR-83)を3滴滴下し、スピンコートによってパターン層7全体を覆うと共に、パターン層7中にネガ型レジスト14を含浸させた(図10(c))。次いで、110℃で90秒間加熱(プリベーク)して溶媒を蒸発させ、パターン層7を基板の裏面(図10における下側面)から全面露光した後、現像液に浸すことによって、パターン層7の表面のレジストを除去してパターン層7表面にカーボンナノチューブを露出させた(図10(d))。その後、ホットプレートにより190℃で30分間熱処理(ポストベーク兼熱硬化ベーク)して、熱硬化後のネガ型レジスト14’とした(図10(e))。このようにして形成されたカーボンナノチューブパターンの表面をSEM観察した結果、実施例1と同様にカーボンナノチューブがパターン層7表面に露出していた。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、実施例1又は2に係る本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法を示す図であって、工程ごとの断面図である。
【図2】図2は、実施例中におけるカーボンナノチューブカルボン酸の合成の反応スキームである。
【図3】図3は、本発明の実施例1において、カーボンナノチューブのパターン層へポジ型レジストを含浸した後(図1(c)に対応)の表面SEM観察写真である。
【図4】図4は、本発明の実施例1において、ポジ型レジスト含浸パターン表面を露光・現像した後(図1(d)に対応)の表面SEM観察写真である。
【図5】図5は、本発明の実施例1において、カーボンナノチューブのパターン層へポジ型レジストを含浸した後(図1(c)に対応)の断面SEM観察写真である。
【図6】図6は、本発明の実施例1において、ポジ型レジスト含浸パターン表面を露光・現像した後(図1(d)に対応)の断面SEM観察写真である。
【図7】図7は、実施例2におけるエステル化の反応スキームである。
【図8】図8は、実施例2におけるエステル交換反応による架橋の反応スキームである。
【図9】図9は、実施例3に係る本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法を示す図であって、工程ごとの断面図である。
【図10】図10は、実施例4に係る本発明のカーボンナノチューブパターンの形成方法を示す図であって、工程ごとの断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1:カーボンナノチューブ、2:分散媒、3:基板、4:ポジ型レジスト(感光性有機材料)、4’:熱硬化後のポジ型レジスト(熱硬化後の感光性有機材料)、5、5’:電極、6:カーボンナノチューブ分散液、7:パターン層、14:ネガ型レジスト(感光性有機材料)、14’:熱硬化後のネガ型レジスト(熱硬化後の感光性有機材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブが分散媒に分散したカーボンナノチューブ分散液にて基板表面に所望のパターンを印刷し、前記分散媒を蒸発させてパターン層を形成するパターニング工程と、前記パターン層を前記基板表面に固定するパターン固定工程とを含むことを特徴とするカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項2】
前記パターン固定工程が、感光性有機材料を前記パターン層内に含浸させる工程と、前記感光性有機材料が含浸したパターン層を露光する工程と、パターン層表面の感光性有機材料を除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程と、パターン層内部の感光性有機材料を硬化させる工程と、を含むことを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項3】
前記感光性有機材料が、ポジ型レジストであることを特徴とする、請求項2に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項4】
前記パターン固定工程が、前記ポジ型レジストを前記パターン層内に含浸させる工程と、前記ポジ型レジストが含浸したパターン層を前記基板の表面側から露光する工程と、パターン層表面の前記ポジ型レジストを除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程と、パターン層内部の前記ポジ型レジストを熱硬化させる工程と、を含むことを特徴とする、請求項3に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項5】
前記感光性有機材料が、ネガ型レジストであることを特徴とする、請求項2に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項6】
前記基板が透明基板であることを特徴とする、請求項5に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項7】
前記パターン固定工程が、前記ネガ型レジストを前記パターン層内に含浸させる工程と、前記ネガ型レジストが含浸したパターン層を前記透明基板の裏面側から露光する工程と、パターン層表面の前記ネガ型レジストを除去してカーボンナノチューブをパターン層表面に露出させる工程と、パターン層内部の前記ネガ型レジストを熱硬化させる工程と、を含むことを特徴とする、請求項6に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブは、官能基が結合されていることを特徴とする、請求項1に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。
【請求項10】
前記パターニング工程は、官能基が結合された複数のカーボンナノチューブの前記官能基間を化学結合させる工程を含み、前記パターン層は前記複数のカーボンナノチューブが相互に架橋した網目構造を構成するカーボンナノチューブ構造体により構成されることを特徴とする、請求項9に記載のカーボンナノチューブパターンの形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−69848(P2006−69848A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255667(P2004−255667)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】