説明

カーボンナノチューブ集合体の製造方法

【課題】二次加工することなく、低温でカーボンナノチューブ集合体を製造するためのカーボンナノチューブ集合体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】有機ケイ素ポリマーを、空気、オゾン、酸素、塩素ガス、臭素ガス、及びアンモニアガスのうちいずれか1以上の酸化性ガス雰囲気中、50〜400℃の温度で焼成し有機ケイ素ポリマーの不融化物を得る第1工程と、前記有機ケイ素ポリマーの不融化物を焼成し炭化ケイ素を得る第2工程と、前記炭化ケイ素に、1100nm以下の波長のレーザー光を照射しながら、真空度1.01×10〜1.33×10−8Pa中、500〜1700℃の温度で焼成しカーボンナノチューブの集合体を得る第3工程とを備えたことを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次加工することなく、低温でカーボンナノチューブ集合体を製造することができるカーボンナノチューブ集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTという)は、その内部に種々の物質を格納できる空間を有すること、又その直径やチューブ側面におけるグラファイトシートのねじれかたの違いによって異なる金属的性質や半導体的性質をもつことから、新規機能性を発現する可能性のある物質の開発研究分野において、重要な物質群として捉えられている。
【0003】
CNTは、比表面積が1000m/gを超え、従来の活性炭よりはるかに大きい。そのため、リチウム二次電池や電気二重層キャパシタの電極材料として用いることにより、大幅な充電容量の向上が期待されている。また、CNTの先端が1〜10nmと極めて小さいという特徴を生かして、FED(電界放射型ディスプレイ)のエミッター材料への応用が期待されている。従来から提案されているフィールドエミッターは、電子を放出させる急峻な円錐形状を、シリコンに特殊なエッチングを行って形成したり、金属を斜めから廻転させながら堆積させることにより形成している。このような特殊な形成方法では、人工的な微細加工を用いているため、急峻な円錐状の先端サイズを20〜30nm以下にすることは不可能である。電子を放出させることができる電圧は、先端が急峻であればあるほど低くなるが、従来の20〜30nmサイズのフィールドエミッターでは、電子を放出させる為には高い電圧を印加する必要がある。CNTを用いれば、低電圧で駆動する高輝度のFEDが実現できる可能性も考えられる。
【0004】
ところが、カーボンナノチューブ類は、煤状の形態で得られることが一般的であり、それを回収・精製する工程を含めて、二次加工を施したものが利用されている。例えば、煤状等のCNTをバインダーと共に混合し、ダイコーター等のシート成形機を用いてシート状に加工することが行われている。このような方法では、シートの一定容積中のCNTの量が少なく、目的の性能が得られなかったり、加工できる形状に制限があるなど利用範囲を広げることができないという問題がある。
【0005】
近年、非特許文献1及び2に示すように、炭化ケイ素の単結晶粒子表面にCNTを析出させる技術が報告されている。この方法は、SiC結晶を真空下で加熱することにより、共有結合性金属炭化物であるSiCを分解し、さらにそこからSi原子を除去すること
によって、表面にCNTを析出させている。
【0006】
【非特許文献1】M.Kusunoki, M. Rokkaku and T. Suzuki: Appl. Phys. Lett., 71, pp.2626 (1997)
【非特許文献2】田中 一義;カーボンナノチューブ ナノデバイスへの挑戦,p89-98(2001, 化学同人)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの方法においては、共有結合性金属炭化物の分解には、2000℃を超える高温を必要とするという問題点がある。分解温度を下げることが出来れば、例えば、半導体分野で最も広く利用されているシリコン基板上でのカーボンナノチューブの製造が可能となり、FEDや高速半導体スイッチ等へ広く利用できる。
【0008】
そこで本発明は、二次加工することなく、低温でカーボンナノチューブ集合体を製造するためのカーボンナノチューブ集合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ケイ素にレーザー光を照射しながら焼成することにより、二次加工することなく、低温でカーボンナノチューブ集合体を製造できることを見出した。すなわち、本発明は、炭化ケイ素にレーザー光を照射しながら焼成することによってカーボンナノチューブ集合体を得る工程を備えたことを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、二次加工することなく、低温でカーボンナノチューブ集合体を製造するためのカーボンナノチューブ集合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
カーボンナノチューブ集合体とは、炭化ケイ素表面上に形成されるカーボンナノチューブ及びその集合物をいい、本発明に係るカーボンナノチューブ集合体の製造方法は、有機ケイ素ポリマーを不融化し不融化物を得る第1工程と、前記有機ケイ素ポリマーの不融化物を焼成することによって炭化ケイ素を得る第2工程と、前記炭化ケイ素にレーザー光を照射しながら焼成することによってカーボンナノチューブを得る第3工程とを備えていることが好ましい。
【0012】
本発明に係るカーボンナノチューブ集合体の製造方法において、第1工程は、有機ケイ素ポリマーを不融化し、不融化物とする工程である。その第1工程において用いられる有機ケイ素ポリマーとしては、例えば、主鎖が−Si−CH−構造単位のみからなるポリマー、主鎖が−Si−CH−Si−O−構造単位からなるポリマー、及び主鎖が−Si−O−構造単位のみからなるポリマー等が挙げられる。これらの有機ケイ素ポリマーを少なくとも1種類以上含む混合物が使用できる。
【0013】
主鎖が−Si−CH−構造単位のみからなるポリマーとしては、例えば、ポリシルメチレン、ポリシルエチレン、ポリシルトリメチレン、ポリシルフェニレン、及びポリシルアリレン等のポリカルボシラン類が挙げられる。
【0014】
主鎖が−Si−CH−Si−O−構造単位からなるポリマーとしては、例えば、ポリ(シルメチレンシロキサン)、ポリ(エチレンシロキサン)、ポリ(シルフェニレンシロキサン)、ポリ(シルアリレンシロキサン)、及びポリ(シルキシリレンシロキサン)等が挙げられる。
【0015】
主鎖が−Si−O−構造単位のみからなるポリマーとしては、例えば、ポリ(メチレンオキシシロキサン)、ポリ(エチレンオキシシロキサン)、ポリ(フェニレンオキシシロキサン)、及びポリ(ジフェニレンオキシシロキサン)等のポリシラン類が挙げられる。
【0016】
有機ケイ素ポリマーは、−M−C−(ここでMは金属元素)又は−M−O−の構造単位を有する金属元素を有していてもよい。この金属元素は、触媒等として機能し、第3工程においてCNTの形態や生成速度を制御、促進することができる。従来のCNTの製造方法であるアーク放電法においても、CNTを合成する際に、触媒の存在は非常に重要であることは良く知られている。アーク放電法の場合は、原料となる炭素粉末に触媒となる金属を混合して反応させることによって、生成するCNTを制御するが、本発明に係るカーボンナノチューブ集合体の製造方法においては、CNTは、炭化ケイ素から形成されるので、炭化ケイ素の前駆体となる有機ケイ素ポリマー中に金属元素を含ませている。
【0017】
金属元素の存在位置は、有機ケイ素ポリマーの主鎖中でも、架橋点としてでもよい。このような金属元素としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、チタン、ジルコニウム、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金、イットリウム、又はランタン・セリウム等の希土類を用いることができ、これらを組み合わせて用いてもよい。鉄−ニッケル、コバルト−ニッケル、ルテニウム−パラジウム、ロジウム−パラジウム、ロジウム−白金、ニッケル−イットリウム、ニッケル−ランタン、鉄−モリブデン、又はコバルト−モリブデンなどの組み合わせで用いると、CNTの生成に効果的である。
【0018】
上述のような金属元素を含む有機ケイ素ポリマーは、例えば、有機ケイ素系ポリマーを合成する段階で、触媒として作用する上記の金属元素が含まれる種々の触媒化合物を添加することにより得ることができる。例えば、上記希土類等の金属元素のアルコキシド、アセチルアセトナート、ハロゲン化物、金属錯体、カルボニル、又はジピボロイルメタネート錯体等を添加することにより得ることができる。添加量は、多すぎても触媒の効果が飽和するので、高コスト化になり好ましくなく、少なすぎると、触媒の効果が低下するので好ましくない。したがって、有機ケイ素ポリマー中のSiと金属元素との比(Si:M)は、2:1〜200:1、さらに好ましくは20:1〜200:1の範囲内であることが好ましい。
【0019】
本発明において用いられる有機ケイ素ポリマーの形状は、特に限定されるものではないが、炭化ケイ素にした状態で可とう性を有し、汎用性が高いことから、シート状のものを用いるのが好ましいが、比表面積を大きくする場合は、繊維状、又はそれを使った織物状にしてもよい。有機ケイ素ポリマーは、その性状から、溶融したり、各種有機溶媒に溶解させたりすることが容易であるので、それによりシート状等の様々な形状に加工することができる。
【0020】
有機ケイ素ポリマーをシート状にする方法としては、例えば、基板に有機ケイ素ポリマーをコーティングし、それを基板から剥離してシートとする方法がある。コーティングする場合は、有機ケイ素ポリマーをそのまま使ってもよいが、適切な溶媒で希釈して用いてもよい。溶媒としては、例えば、ベンゼン、ヘキサン、エーテル、テトラヒドロフラン、又はジオキサンなどの有機ケイ素ポリマーを溶解するものを用いることができる。有機ケイ素ポリマーを基板にコーティングする方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、ロールコート法、メニスカスコート法、バーコート法、又は流延法などの方法を用いることができる。
【0021】
上記のようなコーティング方法をバッチ法を用いて行う場合、基板は、有機ケイ素ポリマーを焼成するときに除去する必要があるので、低温で溶融する物質、昇華性の高い物質、又は溶媒に可溶な物質などを用いたりする必要がある。例えば、スズ、亜鉛、若しくはインジウムなどの低融点金属の板状基板、NaCl、若しくはKClなどの溶媒に可溶な無機結晶、又はショウノウ、パラジクロロベンゼン、若しくはナフタレンなどの昇華性の高い有機化合物基板を用いることができる。
【0022】
上記のようなコーティング方法を連続法を用いて行う場合、不融化も連続して行う必要があるため、低温領域においては、剥離性の良好なテフロン等の樹脂製の基板を用いる。高温領域においては、耐熱性を必要とするため、ステンレス等の薄いシートやメッシュが移動するメッシュベルト式炉を用いることができる。
【0023】
有機ケイ素ポリマーを繊維状とする方法としては、通常用いられる合成繊維紡糸装置により紡糸することができる。所定組成の有機ケイ素ポリマーを調製し、ミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去する。所定の粘度になる温度で、原料となる有機ケイ素ポリマーを加熱溶融して紡糸し、原糸を作製する。紡糸する際の有機ケイ素ポリマーの温度は、原料の組成により異なるが、50〜400℃の温度範囲が好ましい。繊維状とすることによって、比表面積を大きくすることができる。繊維状に加工して製造した有機ケイ素ポリマーは、数十本から数千本の繊維束に加工することもできる。
【0024】
有機ケイ素ポリマーを織物状とする方法としては、上述の繊維状物を織ることによって織物状とすることができる。繊維状物は、平織り、朱子織、又はそれらの積層体、若しくは3次元織物等に加工することができる。織物は、表面積が大きく溶液やガスの透過性も良好なので、そのような目的に好適に利用できる。繊維状の炭化ケイ素表面にカーボンナノチューブ集合体を形成した後に、その炭化ケイ素繊維を加工することで、カーボンナノチューブ集合体を有する炭化ケイ素繊維で構成された織物を形成することもできる。
【0025】
有機ケイ素ポリマーの不融化は、後述する第2工程の焼成の際に、有機ケイ素ポリマーが溶融するのを防止するために、少なくとも有機ケイ素ポリマーの表面を不融化させることにより行う。前記有機ケイ素ポリマーを不融化する方法としては、例えば、有機ケイ素ポリマーを酸化性ガス雰囲気中で焼成し、表面に不融性の酸化被膜を形成し不融化する方法がある。酸化性ガスは、空気、オゾン、酸素、塩素ガス、臭素ガス、及びアンモニアガスのうちいずれか1以上とすることが好ましい。不融化の際の焼成温度は、50〜400℃とすることが好ましい。加熱を50℃未満で行っても有機ケイ素ポリマーの表面に酸化被膜を形成することができず、400℃を超える温度では酸化が進みすぎる。加熱時間は、数分から30時間の範囲が適当である。
【0026】
その他の不融化の方法としては、酸化雰囲気、又は非酸化雰囲気で、低温加熱しながら有機ケイ素ポリマーにγ線、又は電子線を照射する方法が挙げられる。γ線又は電子線を照射することにより、有機ケイ素ポリマーを重合させ、不融化することができる。γ線又は電子線照射による方法は、酸化性ガス雰囲気中で焼成する方法ではできないような低融点の有機ケイ素ポリマーを不融化できる。有機ケイ素ポリマーは、その組成により、融点が50℃以下になる場合もある。そのような場合でも、γ線、又は電子線照射であれば、高温状態とする必要がないので、有機ケイ素ポリマーを融解させることなく、不融化を行うことができる。
【0027】
本発明に係る第2工程は、前記有機ケイ素ポリマーの不融化物を焼成し炭化ケイ素を得る工程であり、真空、不活性ガス、又は還元性ガス雰囲気中で、500〜2000℃、好ましくは800〜1500℃の温度範囲で、前記前記有機ケイ素ポリマーの不融化物を焼成することが好ましい。焼成することにより、炭化ケイ素を得ることができる。一般的には、有機ケイ素ポリマーの不融化物は、熱重合反応と、熱分解反応とにより易揮発性成分を500〜700℃で放出する。700℃から無機化が激しくなり、約800℃でほぼ無機化を完了させることができ、炭化ケイ素を生成できる。更に必要に応じて、800〜2000℃の範囲で焼成することで、結晶性を向上させることもできる。不融化物の焼成は、張力下、又は無張力下で行うことができる。
【0028】
本発明に係る第3工程は、前記炭化ケイ素にレーザー光を照射しながら焼成する工程である。第3工程において、レーザー光は、物質の化学結合に短時間で、しかも選択的に作用するので、反応(焼成)温度を低くすることができる。レーザー光の波長は、1100nm以下が好ましい。本発明に利用するレーザー光としては、波長が短いほど好ましいが、あまり短波長すぎると、レーザー光がガス等により吸収されレーザーエネルギーの利用効率が低下してしまう。そのため、さらに好ましくは300nm〜100nmである。波長の短い光は、その作用が強く反応温度の低減に効果的である。これに該当するレーザーとしては、ルビーレーザー、ガラスレーザー、YAGレーザー、GaAs、及びInGaAsPなどの半導体レーザー、色素レーザー、He−Neレーザー、アルゴンレーザー、及びエキシマレーザー等である。その中でも、波長が短く化学結合への作用の大きなアルゴンレーザー、又はエキシマレーザー、特にエキシマレーザーが好ましい。
【0029】
第3工程においては、レーザー光を化学結合に作用させて炭化ケイ素中のケイ素を除去することにより、CNTを生成させる。ケイ素は、レーザー光を照射することにより炭化ケイ素中に含まれる酸素と結合して、一酸化ケイ素として除去されると考えられる。そして、ケイ素が除去された炭化ケイ素表面の残った炭素からCNTが生成すると考えられる。そのため、一酸化ケイ素の蒸気圧を制御することで、CNTの生成を制御できる。真空度が低い場合は、一酸化ケイ素の蒸気圧を高くする必要があるので、温度を高くする必要がある。一方、真空度が高い場合は、蒸気圧は高くなるので、温度は、低くても構わないが、CNTの生成速度を考えると、温度は、高い方が好ましい。したがって、本発明に係る第3工程においては、真空中で焼成することが好ましく、真空度は、1.01×10〜1.33×10−8Paの範囲であることが好ましく、1.33×10−1〜1.33×10−8Paの範囲であることがより好ましい。焼成温度は、500〜1700℃の範囲であることが好ましく、500〜1500℃の範囲であることがより好ましく、500〜1000℃の範囲がさらに好ましい。
【0030】
図1に炭化ケイ素の広い面積にレーザー光を照射させる場合の装置の概念図を示す。本装置は、レーザー光が照射される炭化ケイ素シート10が収容される真空容器12と、レーザー発振器14とを備えている。炭化ケイ素シート10は、ローラ16の回転によって巻き取られることによって、縦方向(図1のy方向)に移動可能に設置されており、炭化ケイ素シート10の裏面側には、炭化ケイ素シート10を加熱可能なヒータ18が設けられている。レーザー発振器14と真空容器12の間には、レーザー透過窓から構成された照射部20が設置されており、レーザー発振器14から発振されたレーザー光22は、図示しない一対のレンズなどによって整形され、照射部20を通って、炭化ケイ素シート10に照射される。照射部20を幅方向に角度を変化させることによって、レーザー光22の炭化ケイ素シート10の照射位置を幅方向(図1のx方向)に移動させることができる。したがって、炭化ケイ素シート10を縦方向に移動させながら、照射部20の幅方向の角度を変化させることによって、炭化ケイ素シート10の広い面積に亘ってレーザー光を照射させて、カーボンナノチューブ集合体を生成することができる。なお、炭化ケイ素シート10の裏面側からもレーザー光を照射させるように構成してもよい。
【0031】
本発明に係るカーボンナノチューブ集合体の製造方法においては、炭化ケイ素の表面にレーザー光を照射しながら焼成することにより、炭化ケイ素の表面にカーボンナノチューブ集合体を形成することができる。炭化ケイ素の表面に形成されたカーボンナノチューブ集合体の高さ、即ち、CNT層の厚みは、炭化ケイ素中の金属元素の種類や濃度、焼成時の真空度、焼成温度、焼成時間、雰囲気の酸素濃度、レーザーの波長、エネルギー密度、及び照射時間などを調整することにより任意の厚みに制御できる。
【0032】
CNT層の厚みは、目的によって選択できる。FEDのようにCNTの先端が重要な場合は、10nm程度でFEDの効果を発揮できる。一方、キャパシタのように充電容量が電極物質の体積に比例する場合は、CNT層の厚みは厚い方が好ましい。ただし、厚みが増すとCNTが炭化ケイ素表面から剥離するおそれがある。したがって、CNT層の厚みは、10nm〜1000nmが好ましい。
【0033】
本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法によれば、例えば図2に示すような炭化ケイ素シート30を得ることができる。この炭化ケイ素シート30は、図3にA−A断面が簡略的に示されているように、シート状炭化ケイ素30の表面にカーボンナノチューブ集合体31が直接形成されている。また、図4に示すように、カーボンナノチューブ集合体33を繊維状炭化ケイ素34の表面に直接得ることもでき、このカーボンナノチューブ集合体33を有する繊維状炭化ケイ素34を織物状に成形することができる。
【0034】
本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法によれば、炭化ケイ素表面に直接CNTを形成するので、煤状のCNTを回収してシート状物へ付着させる等の二次加工を要する場合に比べて、単位面積当たりのCNTの量を多くすることができ、CNTの性質を生かした種々の分野へ適用が可能となる。また、炭化ケイ素にレーザー光を照射しながら焼成することにより、焼成のみの場合よりも、低温でカーボンナノチューブ集合体を製造できる。従来よりも低温で製造できるようになることから、これまで困難であった産業分野へCNTを適用することが可能となる。例えば、従来、基板としてソーダガラスを用いそこで反応を行うしかなかったものが、プラスチック製基板上での反応も可能となる。従って、本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造方法は、エレクトロニクス分野、エネルギー分野など幅広い分野において極めて有用である。
【実施例】
【0035】
次に、本発明に係るカーボンナノチューブ集合体の製造方法の実施例を説明する。
【0036】
(参考例)
最初に、原料化合物として用いる有機ケイ素ポリマーであるポリカルボシランを参考例として製造した。すなわち、5リットルの三口フラスコに無水キシレン2.5リットルとナトリウム400gとを入れ、窒素ガス気流下でキシレンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まず、メタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。
【0037】
他方、ジフェニルジクロロシラン759gとホウ酸124gを窒素ガス雰囲気下、n−ブチルエーテル中で、100〜120℃の温度で加熱し、生成した白色樹脂を、更に真空中400℃で1時間加熱することによって530gのポリボロジフェニルシロキサンを得た。
【0038】
次に、上記ポリジメチルシラン250gに上記のポリボロジフェニルシロキサン8.27gを添加混合し、還流管を備えた2リットルの石英管中、窒素気流下で350℃まで加熱し6時間重合し、出発原料の有機ケイ素ポリマーであるポリカルボシランを得た。
【0039】
上記ポリカルボシラン40gとビス・アセチルアセトネート白金32.3gとを採取し、この混合物にキシレン400mlを加えて均一相からなる混合溶液とし、窒素ガス雰囲気下で、130℃で1時間撹拌しながら還流反応を行った。還流反応終了後、更に温度を230℃まで上昇させて溶媒のキシレンを留出させたのち、230℃で1時間重合を行い、白金を含む有機ケイ素ポリマーである白金含有ポリカルボシランを得た。このポリマー中のSi:Pt=約8:1であった。
【0040】
(実施例1)
参考例として得られた白金含有ポリカルボシラン1gをキシレン10gに溶解し、この溶液を10mm×10mm×5mmtのNaCl基板上に塗布した。これを空気中で室温から7.5℃/時の昇温速度で昇温し、175℃で2時間保持して不融化した。この不融化したシートを剥離するために、基板を水に溶かして除去した。得られた不融化シートを窒素気流中で800℃まで12時間で昇温し、800℃で1時間保持して焼成した。得られたシートの厚みは30μmであった。このシートを真空度1×10−3Torrにおいて、ArFエキシマレーザー(発振波長:193nm)を1000mJ/cmで照射しながら、800℃で2時間加熱処理を行うことによって、実施例1に係るカーボンナノチューブ集合体を得た。外観は、黒色で、処理前後での大きな変化は認められなかった。生成したCNT層の厚みは、約100nmであった。
【0041】
(実施例2)
参考例として得られた白金含有ポリカルボシラン1gをキシレン10gに溶解し、この溶液を10mm×10mm×5mmtのNaCl基板上に塗布した。これを空気中で室温から7.5℃/時の昇温速度で昇温し、175℃で2時間保持して不融化した。この不融化したシートを剥離するために、基板を水に溶かして除去した。得られた不融化シートを窒素気流中で800℃まで12時間で昇温し、800℃で1時間保持して焼成した。得られたシートの厚みは30μmであった。このシートを真空度1×10−3Torrにおいて、ArFエキシマレーザー(発振波長:193nm)を1000mJ/cmで照射しながら、1000℃で2時間加熱処理を行うことによって、実施例2に係るカーボンナノチューブ集合体を得た。外観は、黒色で、処理前後での大きな変化は認められなかった。生成したCNT層の厚みは、約150nmであった。
【0042】
(実施例3)
参考例として得られた白金含有ポリカルボシラン1gをキシレン10gに溶解し、この溶液を10mm×10mm×5mmtのNaCl基板上に塗布した。これを空気中で室温から7.5℃/時の昇温速度で昇温し、175℃で2時間保持して不融化した。この不融化したシートを剥離するために、基板を水に溶かして除去した。得られた不融化シートを窒素気流中で800℃まで12時間で昇温し、800℃で1時間保持して焼成した。得られたシートの厚みは30μmであった。このシートを真空度1×10−3Torrにおいて、KrFエキシマレーザー(発振波長:248nm)を1000mJ/cmで照射しながら、800℃で2時間加熱処理を行うことによって、実施例3に係るカーボンナノチューブ集合体を得た。外観は、黒色で、処理前後での大きな変化は認められなかった。生成したCNT層の厚みは、約70nmであった。
【0043】
(比較例1)
参考例として得られた白金含有ポリカルボシラン1gをキシレン10gに溶解し、この溶液を10mm×10mm×5mmtのNaCl基板上に塗布した。これを空気中で室温から7.5℃/時の昇温速度で昇温し、175℃で2時間保持して不融化した。この不融化したシートを剥離するために、基板を水に溶かして除去した。得られた不融化シートを窒素気流中で1200℃まで12時間で昇温し、1200℃で1時間保持して焼成した。得られたシートの厚みは30μmであった。このシートを真空度1×10−3Torrにおいて、1000℃で2時間加熱処理を行ったがCNTは生成しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】炭化ケイ素の広い面積にレーザー光を照射させる場合の装置の概念図である。
【図2】炭化ケイ素シートの平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】織物状とした繊維状炭化ケイ素の平面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 炭化ケイ素シート
12 真空容器
14 レーザー発振器
16 ローラ
18 ヒータ
20 照射部
22 レーザー光
30 炭化ケイ素シート
31 カーボンナノチューブ集合体
32 シート状炭化ケイ素
33 カーボンナノチューブ集合体
34 繊維状炭化ケイ素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素にレーザー光を照射しながら焼成することによってカーボンナノチューブ集合体を得る工程を備えたことを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項2】
有機ケイ素ポリマーを不融化し不融化物を得る第1工程と、
前記有機ケイ素ポリマーの不融化物を焼成することによって炭化ケイ素を得る第2工程と、
前記炭化ケイ素にレーザー光を照射しながら焼成することによってカーボンナノチューブ集合体を得る第3工程と
を備えたことを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項3】
有機ケイ素ポリマーは、シート状、繊維状、又は織物状であることを特徴とする請求項2記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程は、空気、オゾン、酸素、塩素ガス、臭素ガス、及びアンモニアガスのうちいずれか1以上の酸化性ガス雰囲気中、50〜400℃の温度において焼成することにより有機ケイ素ポリマーを不融化することを特徴とする請求項2又は3記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程は、真空、不活性ガス、又は還元性ガス雰囲気中、500〜2000℃の温度において前記有機ケイ素ポリマーの不融化物の焼成を行うことを特徴とする請求項2乃至4いずれか記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の工程又は前記第3工程は、真空度1.01×10〜1.33×10−8Pa中、500〜1700℃の温度において前記炭化ケイ素を焼成することを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の工程又は前記第3工程は、レーザー光が1100nm以下の波長であることを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の工程又は前記第3工程は、レーザー光が、エキシマレーザーであることを特徴とする請求項1乃至7いずれか記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−7212(P2009−7212A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171503(P2007−171503)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】