説明

カーボンブラック、高減衰積層体用ゴム組成物および高減衰積層体

【課題】減衰性が高く、せん断弾性率にも優れる高減衰積層体ならびにこの積層体を実現することができる加工性に優れた高減衰積層体用ゴム組成物およびこのゴム組成物に用いるカーボンブラックの提供。
【解決手段】窒素吸着比表面積が150〜250m2/gであり、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差が25m2/g以下であり、かつ、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比[(D50)/(Dst)]が0.62以下であるカーボンブラック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンブラック、高減衰積層体用ゴム組成物および高減衰積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、振動エネルギーの吸収装置として、防振装置、除振装置、免震装置等が急速に普及しつつある。そして、このような装置においては、振動エネルギー減衰性能を有するゴム組成物が使用されている。
【0003】
例えば、橋梁の支承やビルの免震装置に用いられる免震用積層ゴムには、減衰性(振動をより多くの熱に変換して振動エネルギーを減衰させる)が高いことや、所望のせん断弾性率が発現することが要求されている。
【0004】
このような免震用積層ゴムに用いられるゴム組成物として、本出願人は、特許文献1において「ジエン系ゴム100質量部と、窒素吸着比表面積が150〜300m2/g、かつ、DBP吸収量が115cm3/100g以下、かつ、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差が5〜34m2/gであるカーボンブラック50〜90質量部とを含有する高減衰支承用ゴム組成物。」を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−246655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者は、上記特許文献1に記載の高減衰支承用ゴム組成物について、更なる減衰性の向上を達成すべくカーボンブラックの種類や配合量を検討したところ、減衰性を向上させることができても、未加硫時の粘度が上昇して加工性が劣ったり、加硫後のせん断弾性率が低下したりする場合があることが明らかとなった。
そこで、本発明は、減衰性が高く、せん断弾性率にも優れる高減衰積層体ならびにこの積層体を実現することができる加工性に優れた高減衰積層体用ゴム組成物およびこのゴム組成物に用いるカーボンブラックの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、窒素吸着比表面積および窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差ならびに凝集体分布の半値幅とストークス径との比が所定の範囲にあるカーボンブラックを用いることにより、減衰性が高く、せん断弾性率にも優れる高減衰積層体ならびにこの積層体を実現することができる加工性に優れた高減衰積層体用ゴム組成物が得られることを知見し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(5)を提供する。
【0008】
(1)窒素吸着比表面積が150〜250m2/gであり、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差が25m2/g以下であり、かつ、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比[(D50)/(Dst)]が0.62以下であるカーボンブラック。
【0009】
(2)ジエン系ゴム100質量部と上記(1)に記載のカーボンブラック50〜90質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。
【0010】
(3)更に、石油樹脂を含有する上記(2)に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【0011】
(4)上記石油樹脂の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して5〜45質量部である上記(3)に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【0012】
(5)上記(2)〜(4)のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体。
【発明の効果】
【0013】
以下に説明するように、本発明によれば、減衰性が高く、せん断弾性率にも優れる高減衰積層体ならびにこの積層体を実現することができる加工性に優れた高減衰積層体用ゴム組成物およびこのゴム組成物に用いるカーボンブラックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の高減衰積層体の実施態様の一例を表す高減衰積層体の断面概略図である。
【図2】図2は、ラップシェア型せん断試験用試料の模式的な側面図である。
【図3】図3は、ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシス曲線の一例を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明のカーボンブラックは、窒素吸着比表面積が150〜250m2/gであり、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差が25m2/g以下であり、かつ、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比[(D50)/(Dst)]が0.62以下であるカーボンブラックである。
【0016】
(窒素吸着比表面積)
窒素吸着比表面積とは、窒素吸着法による比表面積をいい、通常、この値が大きいほどカーボンブラックの粒径が小さくなる傾向がある。
また、窒素吸着比表面積は、JIS K6217−2:2001に記載の「窒素吸着法−単点法」により測定した値を用いる。
【0017】
本発明においては、窒素吸着比表面積は、150〜250m2/gであり、175〜225m2/gが好ましく、185〜215m2/gがより好ましい。
窒素吸着比表面積がこの範囲であると、後述する本発明の高減衰積層体用ゴム組成物の加工性と、後述する本発明の高減衰積層体の減衰性とのバランスが良好となる。
【0018】
(窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差)
窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差とは、カーボンブラック表面の凹凸の程度を表し、この値が小さいほどカーボンブラックの凹凸が少ないといえる。
また、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差は、窒素吸着比表面積からCTAB吸着比表面積を引いた値、即ち、(窒素吸着比表面積)−(CTAB吸着比表面積)で求められる値である。
ここで、CTAB吸着比表面積は、JIS K6217−3:2001に記載の「比表面積の求め方−CTAB吸着法」により測定した値を用いる。
【0019】
本発明においては、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差は、25m2/g以下であり、21〜24m2/gであるのが好ましい。
窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差がこの範囲にあると、比較的凹凸が少ないカーボンブラックを用いることになり、カーボンブラックが後述するジエン系ゴムに必要以上の拘束を受けないため、カーボンブラックの分散性が高くなると考えられる。そのため、カーボンブラックの分散性の低下に伴うせん断弾性率の低下を抑制でき、所望のせん断弾性率を得ることができる。
【0020】
(凝集体分布の半値幅とストークス径との比)
凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比[(D50)/(Dst)]は、製造されるカーボンブラックの分布の程度を表し、この値が小さいほど凝集体分布がシャープとなる。
ここで、ストークス径(Dst)とは、カーボンブラックを遠心沈降させ、光学的に得た凝集体のストークス相当径の分布曲線における最大頻度のストークス相当径をいう。
また、半値幅(D50)とは、ストークス相当径最大頻度の50%の頻度が得られる位置の分布曲線の幅をいう。
本発明においては、次のように測定した。まず、カーボンブラックを水に加え、カーボンブラック濃度を0.05質量%にした後、超音波で充分に分散させた試料溶液を調製した。次いで、スピン液(蒸留水)10mLを回転ディスク(回転数:8000rpm)に加えた後、上記試料溶液を0.2ml注入し、遠心沈降を開始させ、光電沈降法により吸光度を測定した。その結果から、凝集体分布曲線を作成し、凝集体分布の半値幅(D1/2)およびストークス径(Dst)を算出した。なお、吸光度の測定には、Disk Centrifuge Photo sedimentometer(Joice Loebl社製)を使用した。
【0021】
本発明においては、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比[(D50)/(Dst)]は、0.62以下であり、0.62〜0.55であるのが好ましく、0.60〜0.57であるのがより好ましい。
凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比[(D50)/(Dst)]がこの範囲にあると、凝集体分布のシャープ化され、これによりカーボンブラックの分散性が良好となり、後述する本発明の高減衰積層体用ゴム組成物の加工性も良好となる。
【0022】
本発明のカーボンブラックは、後述する本発明の高減衰積層体のせん断弾性率の低下を抑制できる理由から、DBP吸収量が、115cm3/100g以下であるのが好ましく、95〜113cm3/100gがより好ましく、100〜110cm3/100gが更に好ましい。
ここで、DBP吸収量とは、カーボンブラックがフタル酸ジブチル(DBP)を吸収する能力の尺度であり、この値が小さいほどカーボンブラックのストラクチャーが小さくなる傾向がある。
また、DBP吸収量は、JIS K6217−4:2008に記載の「オイル吸収量の求め方」により測定した値を用いる。
【0023】
本発明のカーボンブラックの製造方法は特に限定されず、燃焼条件、高温燃焼ガス流速、原料油の導入条件、反応停止時間等を適宜制御することによって製造することができる。具体的には、例えば、原料炭化水素をカーボンブラックに転化させる反応帯域において、焼成ガスを均一にして、高温(1600℃以上)かつ短時間(100m秒以内)で熱分解反応させる方法等が挙げられる。
【0024】
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、ジエン系ゴム100質量部と、上述した本発明のカーボンブラック50〜90質量部とを含有する高減衰積層体用のゴム組成物である。
以下、本発明の組成物に用いられる各成分について説明する。
【0025】
<ジエン系ゴム>
本発明の組成物に用いられるジエン系ゴムは、特に限定されず、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。
これらのジエン系ゴムの平均分子量、単量体構成モル比、ハロゲン化率等は特に限定されず、用いられる用途に応じて任意に設定できる。
【0026】
これらのうち、本発明の組成物の加工性が良好となり、本発明の高減衰積層体の減衰性も良好となる理由から、天然ゴム(NR)が好ましい。
また、本発明の高減衰積層体の減衰性、せん断弾性率の温度依存性を低減させることができる理由から、ブタジエンゴム(BR)が好ましい。
【0027】
本発明においては、上記ジエン系ゴムをそれぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
2種以上を併用する場合の上記ジエン系ゴムの好適な組み合わせとしては、ゴム成分同士の相溶性、加工性、グリーン強度および加硫物性に優れ、また、後述する本発明の高減衰積層体の温度依存性と減衰性を確保できる理由から、例えば、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)との併用系、イソプレンゴム(IR)とブタジエンゴム(BR)との併用系、天然ゴム(NR)とイソプレンゴム(IR)とブタジエンゴム(BR)との併用系が好適に挙げられる。中でも、この特性がより優れる点で、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)との併用系がより好ましい。これらの混合比率は特に限定されない。
【0028】
<カーボンブラック>
本発明の組成物に用いられるカーボンブラックは、上述した本発明のカーボンブラックである。
上記カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して50〜90質量部であり、60〜80質量部であるのが好ましく、65〜75質量部であるのがより好ましい。
上記カーボンブラックの含有量がこの範囲であると、上述した本発明のカーボンブラックにおいて説明した効果、すなわち、本発明の組成物の加工性が良好となり、また、後述する本発明の高減衰積層体の減衰性が高く、せん断弾性率も良好となる。
【0029】
<石油樹脂>
本発明の組成物は、更に、石油樹脂を含有するのが好ましい。
上記石油樹脂としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体等を使用することができる。
このような石油樹脂を含有することにより、加硫後の引張強さや切断時伸び等の物性が良好となり、また、後述する本発明の高減衰積層体の減衰性がより高くなる。
また、このような石油樹脂は、後述する石英とカオリナイトとの凝集体と組み合わせて用いると高減衰性および優れたせん断弾性率を安定して発揮できる。
【0030】
C5系の脂肪族不飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、ナフサの熱分解により得られるC5留分中に含まれる、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンのようなオレフィン系炭化水素;2−メチル−1,3−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエンのようなジオレフィン系炭化水素;等が挙げられる。
これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0031】
C9系の芳香族不飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、ナフサの熱分解により得られるC9留分中に含まれる、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエンのようなビニル置換芳香族炭化水素等が挙げられる。
これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC9系の芳香族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC9系の芳香族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0032】
また、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、この共重合体の軟化点が高くなる点で、C9系の芳香族不飽和炭化水素ユニットが60モル%以上であるものが好ましく、90モル%以上であるものがより好ましい。
C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、適当な触媒の存在下で、共重合可能である。
【0033】
本発明においては、上記石油樹脂は、ジエン系ゴムの物性に対し、その分子量および二重結合の反応性が影響を与えるので、軟化点(JIS K2207)が100℃以上のものが好ましく、120℃以上のものがより好ましい。
【0034】
また、本発明においては、上記石油樹脂の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜45質量部であるのが好ましく、10〜45質量部であるのがより好ましい。
石油樹脂の含有量がこの範囲であると、高減衰性を維持しつつ、温度依存性が小さく、長期の繰り返しせん断変形に対する安定性を悪化させることのないバランスの取れた高減衰積層体を得ることができる。
【0035】
更に、本発明においては、後述する無機充填剤と上記石油樹脂との質量比(無機充填剤/石油樹脂)は、上記質量部の範囲において、1/0.2〜1/3.5であるのが好ましく、1/1〜1/3.0であるのがより好ましく、1/1〜1/2.5であるのが更に好ましい。
質量比がこの範囲であると、高減衰性、繰り返しせん断変形に対する安定性に優れる高減衰積層体を得ることができる。
【0036】
<シリカ>
本発明の組成物は、更に、シリカを含有するのが好ましい態様の1つである。
シリカは、従来公知のものを用いることができ、その具体例としては、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等を挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、シリカは、平均凝集粒径が、5〜50μmのものが好ましく、5〜30μmのものがより好ましい。
【0037】
本発明においては、上記シリカの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜35質量部であるのが好ましく、10〜30質量部であるのがより好ましい。
シリカの含有量がこの範囲であると、減衰性およびせん断弾性率が優れた高減衰積層体を得ることができる。
【0038】
<無機充填剤>
本発明の組成物は、更に、無機充填剤を含有するのが好ましい態様の1つである。
上記無機充填剤には、上述したカーボンブラックおよびシリカは含まれない。
使用される無機充填剤としては、例えば、T−クレー、カオリンクレー、ろう石クレー、セリサイトクレー、焼成クレー等のソフトクレー;けいそう土;重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、石英とカオリナイトとの凝集体;等が挙げられる。
これらのうち、後述する本発明の高減衰積層体の減衰性および繰り返しせん断変形に対する物性の安定性を特に高く保つことができるという理由から、T−クレー、カオリンクレー、石英とカオリナイトとの凝集体が好ましい。
【0039】
ここで、上記石英とカオリナイトとの凝集体は、従来公知のものを使用することができる。中でも、塊状石英と板状のカオリナイトとの天然結合物であることが好ましい。
市販品としては、具体的には、例えば、シリチン(シリチンZ86、シリチンV85、シリチンN82、シリチン85、シリチンN87、(いずれもホフマンミネラル社製))等が好適に挙げられる。なお、人工的に製造された同様の構造を有するものを用いることもできる。
本発明の組成物は、上述したように、上記石英とカオリナイトとの凝集体を含む場合、特に、減衰性およびせん断弾性率の安定性改善効果に優れ、上記石油樹脂と組み合わせて用いると、減衰性およびせん断弾性率をより安定して発揮できる。
【0040】
また、上記石英とカオリナイトとの凝集体を構成する石英とカオリナイトの質量比(石英/カオリナイト)は特に限定されないが、後述する本発明の高減衰積層体が繰り返しせん断変形されても、より高い減衰性およびより優れたせん断弾性率を安定して発揮できるという理由から、石英とカオリナイトの質量比は、12/1〜1/1であるのが好ましく、9/1〜2/1であるのがより好ましい。
【0041】
更に、上記石英とカオリナイトとの凝集体は、石英とカオリナイトとの他に、例えば、酸化鉄、リン成分、硫黄成分を含むことができる。このような凝集体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明においては、上記無機充填剤の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、5〜55質量部が好ましく、10〜50質量部がより好ましく、15〜40質量部が更に好ましい。
無機充填剤の含有量がこの範囲であると、高い減衰性を維持しつつ、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率を安定な高減衰積層体を得ることができる。
【0043】
また、本発明においては、上記シリカと上記無機充填剤との合計量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、20〜75質量部であるのが好ましく、30〜65質量部がより好ましい。
シリカと無機充填剤との合計量がこのような範囲である場合、減衰性がより高くなり、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性およびせん断弾性率がより安定なものとなる、バランスの優れた高減衰積層体が得られる。
【0044】
更に、本発明においては、上記シリカと上記無機充填剤の質量比は、1/1〜1/2.5であるのが好ましく、1/1〜1/2.0であるのがより好ましい。シリカと無機充填剤との質量比がこの範囲の場合、本発明の組成物の加工性がより良好となる。
【0045】
<添加剤>
本発明の組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、加硫助剤、難燃剤、耐候剤、耐熱剤等が挙げられる。
加硫剤としては、具体的には、例えば、硫黄;TMTDなどの有機含硫黄化合物;ジクミルペルオキシドなどの有機過酸化物;等が挙げられる。
加硫促進剤としては、具体的には、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)などのスルフェンアミド類;メルカプトベンゾチアゾールなどのチアゾール類;テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム類;ステアリン酸;等が挙げられる。
老化防止剤としては、具体的には、例えば、TMDQなどのケトン・アミン縮合物;DNPDなどのアミン類;スチレン化フェノールなどのモノフェノール類;等が挙げられる。
可塑剤としては、具体的には、例えば、フタル酸誘導体(例えば、DBP、DOP等)、セバシン酸誘導体(例えば、DBS等)のモノエステル類等が挙げられる。
軟化剤としては、具体的には、例えば、パラフィン系オイル(プロセスオイル)等が挙げられる。
【0046】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述した各成分を配合した未加硫ゴム組成物を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等)を用いて、混練等により調製できる。
【0047】
本発明の高減衰積層体は、上述した本発明の組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体であり、橋梁の支承やビルの基礎免震等に用いられる構造体である。
【0048】
図1に、本発明の高減衰積層体の実施態様の一例を表す高減衰積層体の断面概略図を示す。図1において、符号1は高減衰積層体(免震積層体)を表し、符号2は硬質板を表し、符号3は本発明の高減衰積層体用ゴム組成物を表す。
【0049】
図1に一例として示すように、本発明の高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と、硬質板2(例えば、一般構造用鋼板、冷間圧延鋼板等)とが交互に積層されて構成される。
また、この高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と硬質板2との間に接着層を設けて構成してもよく、また、接着層を設けずに直接加硫して構成してもよい。
【0050】
図1においては、本発明の高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と、硬質板2とを交互に積層させた状態が図示されているが、高減衰積層体用ゴム組成物3は2層以上を積層させた構造としてもよい。
また、図1においては、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3について6層、硬質板2について7層の合計13層の例を示してあるが、本発明の高減衰積層体1の本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と硬質板2との積層数はこれに限定されず、用いられる用途、要求される特性等に応じて、任意に設定できる。
更に、本発明の高減衰構造体1の大きさ、全体の厚さ、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3の層の厚さ、硬質板の厚さ等についても、用いられる用途、要求される特性等に応じて、任意に設定できる。
【0051】
本発明の高減衰積層体を製造するには、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物をシート状に成形した後に加硫して、シート状のゴム組成物を得た後、接着剤を含む層を設けて硬質板と交互に積層させてもよいし、また、あらかじめ未加硫の本発明の高減衰積層体用ゴム組成物をシート状に成形し、硬質板と交互に積層した後、加熱して加硫・接着を同時に行ってもよい。
【0052】
本発明の高減衰積層体は、上述した本発明の組成物を用いているため、減衰性が高く、せん断弾性率にも優れるという効果を有する。
具体的には、後述するラップシェアせん断試験により測定する減衰性能の指標となる等価減衰定数(Heq)が0.18以上となり、同様に測定するせん断弾性率(Geq)が0.84以上となる。
【0053】
等価減衰定数(Heq)およびせん断弾性率(Geq)は、ラップシェアせん断試験により測定される。
図2は、ラップシェア型せん断試験用試料の模式的な側面図である。図2において、符号4はラップシェア型せん断試験用試料を表し、符号5は圧延した未加硫ゴム組成物を表し、符号6は鋼板を表す。
未加硫ゴム組成物5は、幅25mm×長さ25mm×厚さ5mmのサイズに圧延された、本発明の組成物の未加硫ゴム組成物である。鋼板6は、表面がサンドブラストされ、金属接着剤が塗布された鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚さ20mm)である。
ラップシェア型せん断試験用試料4は、未加硫ゴム組成物5と鋼板6とを、図2に示されるように配置(積層)した後に、130℃で120分プレス加硫して得られる。
【0054】
ラップシェアせん断試験は、加振機(サギノミヤ社製)、入力信号発振機、出力信号処理機を用いて、以下に示す条件で行われる。
上記のように作製されたラップシェア型せん断試験用試料を用いて、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度23℃で、175%歪みを10回加えたときの各1回のせん断特性値の平均を求める。
具体的には、上記ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシス曲線が示すXmaxおよびQmaxを用い、等価減衰定数(Heq)およびせん断弾性率(Geq)を下記式(1)、(2)に従って算出する。図3に、ラップシェア型せん断試験にて得られたヒステリシス曲線の一例を示す。
【0055】
【数1】

【0056】
式(1)中、△Wはヒステリシスループの面積(図3中、斜線部分)である。
式(2)中、Keqは下記式(3)で表され、Hは高減衰積層体中に積層されるゴム層の合計の厚みを表し、Aはゴム層の断面積である。
【0057】
【数2】

【0058】
高減衰積層体は、振動エネルギーの吸収装置として用いられればその用途、適用条件等は、特に限定されない。中でも、上述の優れた特性を有するため、建築用の振動エネルギーの吸収装置として用いられるのが好ましく、例えば、各種の免震、除振、防振等の振動エネルギーの吸収装置(より具体的には、例えば、道路橋の支承や、橋梁、ビルの基礎免震、戸建免震用途)に好適に用いられる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に従ってより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(カーボンブラック1〜4の製造)
カーボンブラック製造プラントを用い、下記第1表に示す原料油量(kg/h)、燃料油量(kg/h)および総空気量(Nm3/h)等の条件を調整し、下記第1表に示す窒素吸着比表面積(NSA)[m2/g]、CTAB吸着比表面積(CTAB)[m2/g]、DBP吸収量[cm3/100g]、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差[m2/g]、および、凝集体分布の半値幅(D50)[mm]とストークス径(Dst)[mm]との比[(D50)/(Dst)]となるようにカーボンブラック1〜4を製造した。
なお、カーボンブラック1、3および4については、新日化カーボン(株)に製造を依頼することで入手可能であり、カーボンブラック2については、新日化カーボン社製の「ニテロン#415UD」という商品名で入手可能である。
【0061】
【表1】

【0062】
(実施例1〜3、比較例1〜5:ラップシェア型せん断試験用試料の作製)
まず、下記第2表に示す組成(単位は質量部)になるように、各化合物を配合してB型バンバリーミキサーにて5分間混練し、未加硫ゴム組成物を調製した。
次に、調製した未加硫ゴム組成物を幅25mm×長さ25mm×厚さ5mmのサイズに圧延した。
圧延後の未加硫ゴム組成物(図2中の5)と、表面をサンドブラストして金属接着剤を塗布した鋼板(幅25mm×長さ100mm×厚さ20mm、図2中の6)とを、図2のラップシェア型せん断試験用試料4の側面図に示すように配置(積層)した後に、130℃で120分プレス加硫してラップシェア型せん断試験用試料を作製した。
【0063】
<ムーニー粘度>
得られた未加硫のゴム組成物について、JIS K6300−1:2001に準じて、L形ロータを使用し、予熱時間1分、試験温度125℃の条件で、ムーニー粘度を測定した。結果を第2表に示す。
ここで、125℃におけるムーニー粘度は、100以下であれば加工性に優れていると判断できるが、量産時における加工性の観点からは90以下であるのが好ましい。
【0064】
<引張物性>
得られた未加硫ゴム組成物を148℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で45分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製した。このシートからJIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251-2004に準拠して行い、引張強さ(TB)[MPa]、切断時伸び(EB)[%]、100%モジュラス(M100)[MPa]および300%モジュラス(M300)[MPa]を室温にて測定した。結果を第2表に示す。
【0065】
<ラップシェアせん断試験>
上記ラップシェア型せん断試験用試料に対して、加振機(サギノミヤ社製)、入力信号発振機、出力信号処理機を用い、ラップシェアせん断試験を行った。なお、各実施例で使用したラップシェア型せん断試験用試料の数は10個であった。
具体的には、上記ラップシェア型せん断試験用試料に対し、2軸せん断試験機による変形周波数0.5Hz、測定温度23℃で、175%歪みを10回加えたときの各1回のせん断特性値の平均を求めた。
このラップシェアせん断試験によって得られたヒステリシス曲線が示すXmaxおよびQmaxを用い、上記式(1)および(2)に従って平均せん断特性値(Geq、Heq)を求めた。結果を第2表に示す。
ここで、せん断弾性率(Geq)は、高い値が望ましいが、0.84以上であるのが好ましく、0.90以上であるのがより好ましい。
また、等価減衰定数(Heq)は、高い値が望ましいが、0.18以上であるのが好ましく、0.19以上であるのがより好ましい。
【0066】
【表2】

【0067】
上述したカーボンブラック1〜4以外の第2表中の各成分は、以下のものを使用した。
・天然ゴム:STR20、SIAM INDO RUBBER社製
・ブタジエンゴム:NipolBR1220、日本ゼオン社製
・シリカ:ニプシールAQ、東ソー・シリカ社製
・クレー:SUPREX CLAY、ケンタッキーテネシークレイカンパニー社製
・酸化亜鉛:亜鉛華3号、正同化学工業社製
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸YR、日本油脂社製
・石油樹脂:ハイレジン#120S(軟化点120℃、東邦化学社製)
・老化防止剤:6C、精工化学社製
・ワックス:サンノック、大内新興化学工業社製
・オイル:アロマオイル(AO−MIX、三共油化社製)
・硫黄:粉末イオウ、細井化学工業社製
・加硫促進剤:ノクセラーCZ、大内新興化学工業社製
【0068】
第1表および第2表から明らかなように、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差、および、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比が所定の範囲にないカーボンブラック2を用いた場合は、減衰性およびせん断弾性率を向上させる観点からその配合量を増やした場合はムーニー粘度が高く加工性に劣ることが分かった(比較例1〜3参照)。
また、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比が所定の範囲にないカーボンブラック3を用いて調製したゴム組成物(比較例4)は、加工性は優れるが、減衰性が低く、せん断弾性率が低くなることが分かった。
また、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差、および、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比が所定の範囲にないカーボンブラック4を用いて調製したゴム組成物(比較例5)は、加工性は優れるがせん断弾性率が低くなることが分かった。
これに対し、窒素吸着比表面積、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差、および、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比が所定の範囲となるカーボンブラック1を用いて調製したゴム組成物(実施例1〜3)は、加工性に優れ、減衰性が高く、せん断弾性率にも優れることが分かった。
【符号の説明】
【0069】
1 高減衰積層体(免震積層体)
2 硬質板
3 本発明の高減衰積層体用ゴム組成物
4 ラップシェア型せん断試験用試料
5 圧延した未加硫ゴム組成物
6 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着比表面積が150〜250m2/gであり、窒素吸着比表面積とCTAB吸着比表面積との差が25m2/g以下であり、かつ、凝集体分布の半値幅(D50)とストークス径(Dst)との比[(D50)/(Dst)]が0.62以下であるカーボンブラック。
【請求項2】
ジエン系ゴム100質量部と請求項1に記載のカーボンブラック50〜90質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項3】
更に、石油樹脂を含有する請求項2に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項4】
前記石油樹脂の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して5〜45質量部である請求項3に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−285560(P2010−285560A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141400(P2009−141400)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】