説明

カーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法

【課題】成形材料の充填直後に生じる黒鉛粒子相互が激しく接して形成する歪みを抑制し、安定した流動を確保して品質を安定化できるとともに、金型の摩耗などの損傷を抑制でき、その結果成形時に発生していた注入口近傍でのクラック発生や脱型時の成形品の表面層剥離を抑制できるカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明に係るカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法は、カーボン粉粒にフェノール樹脂未硬化物を混合した成形材料を、炊飯釜の底面中央部にゲートを設けて金型内に充填させて成形品を得るカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法であって、成形品の底面中央部相当の位置に、成形材料を誘導するための円錐状突起を形成し、且つ円錐状突起の頂部から射出するゲートの出口にピンを配した金型を用いて射出成形によって得た成形品を、無酸素雰囲気の高温で焼成処理して得るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施の形態は、電磁誘導加熱が可能な炊飯釜などの調理器具に使用するカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法に関する。さらに詳しくは、カーボン粉粒と高炭素含有物質のフェノール樹脂を含む混合物の射出による金型面への衝突を緩和して成形し、得られた成形品を無酸素の高温雰囲気下で炭化させる焼成処理を施すことによって、得たカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱コイルの渦電流による電磁誘導加熱を利用したコンロや炊飯器は、磁性金属にアルミニウムや銅などの高熱伝導金属を積層したクラッド材の成形品が主流である。しかし、クラッド材は、鍋や釜などの形状に加工することが困難であるうえ、フッ素樹脂などの耐熱樹脂塗装面との界面で剥離し易いという課題があった。
【0003】
このため、従来の電磁誘導加熱の素材に代えて、優れた導電性と伝導度を有するカーボン凝結体を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、棒柱状のカーボン圧縮体切削加工物である炊飯釜が調理器具として有効であることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
上述の調理器具の製造方法によれば、コークスなどのカーボン粉粒にフェノールやピッチなどの高炭素含有物である結合材を主体とする混合物を成型し、これを無酸素雰囲気下の1000〜3000℃で加熱して得たカーボン凝結体を任意形状に切削加工したものである。しかし、カーボン焼結体を切削加工して任意形状の加工は、切削の大半を占める容器の凹状を成す中空部分にある素材の廃棄が多く、加工工数も大きい、という課題があった。また、カーボン凝結体が内在する欠陥の事前検知が困難なうえ、切削時に露出して意匠性や強度などの諸特性に悪影響を及ぼすことにもなる。
【0006】
これらの課題を解決する手段として、カーボンの粉粒とフェノール樹脂の原料液やタールピッチなどの結合材との混合物である成形材料を金型内に注入して加圧して賦型した後、得られた成形品を焼成処理することにより、鍋状に成形されたカーボン凝結体を得る手段が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかし、電磁誘導加熱が可能な調理器具として使用するうえで必要な強度、電気伝導及び熱伝導に優れた特性を備えたカーボン凝結体成形品を得るには、成形材料のフェノール樹脂含有量を少なくすることが必須である。その反面、カーボン粉粒表面への樹脂付着量が不足して、流動先端部が合流するウエルド部分の強度が著しく低下する、という課題があった。
【0008】
従って、成形材料の金型内における流動は、炊飯釜がウエルド部分を備えないような流動の態様を成すことが肝要であり、成形材料の金型内における流動は、底面中央部分から炊飯釜の開口端部であるフランジ部に向かう態様を得ることが必須となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−75211号公報
【特許文献2】特開平9−70352号公報
【特許文献3】特開2007−44257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の如く、ウエルド形成を回避するために、例えば、炊飯釜底部中央相当に設けたゲートから吐出された成形材料は、炊飯釜の内壁面を構成する内型表面に衝突した後、全方向に均等な拡散を呈して金型内を充填する。このとき、ゲート直下の内型表面は、衝突した成形材料が含む黒鉛粒子によって摩耗を来し、平滑性を損なうほか、黒鉛粗粒や気泡が残留して成形品表面が粗面を成し、粒子の当接部に過度な残留歪みの残留と衝突に伴う乱流時に気泡を巻込みと不均質な粒子配向、などによる安定した表面性状の確保が困難となる。
【0011】
つまり、金型の粗化や黒鉛粗粒の残留による光沢不足、残留気泡が焼成時に膨張したことに伴う亀裂や鱗片状の表面層剥離、黒鉛粒子の残留歪みの解放に伴う不均一な寸法変化による亀裂、などの不具合が発生する。
【0012】
特に、ゲート直下の内型の特定域では金型温度よりも低温の溶融状態にある成形材料がゲート近傍の限定した内型表面に連続して衝突するので、金型表面が他の部位より冷却される。この結果、最後に吐出して当該位置に滞留した成形材料は、その温度が周辺位置のものに比較して明確に低く、さらに、金型の温度低下の影響を受けることになるので、硬化の進行が遅延する。
【0013】
つまり、ゲート直下領域が未硬化状態であって、周辺領域の成形材料の硬化が先行することに伴う収縮挙動に伴う引張応力を受けた後、さらなる硬化に伴う収縮を来すことになる。この場合、これら応力はクラックの発生のほか、内部応力として残留した場合には外観上の不具合として検出されずとも、焼成段階でフェノール樹脂の軟化温度以上で残存応力の解放挙動として微細クラックが内在することになる。この結果、炊飯釜の底面中央部に衝撃応力が付加すると、前記微細クラックを開始点とした亀裂が容易に発生して破壊されることになる。
【0014】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、成形材料の充填直後に生じる黒鉛粒子相互が激しく接して形成する歪みを抑制し、安定した流動を確保して品質を安定化できるとともに、金型の摩耗などの損傷を抑制でき、その結果成形時に発生していた注入口近傍でのクラック発生や脱型時の成形品の表面層剥離を抑制できるカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係るカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法は、カーボン粉粒に結合材として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂未硬化物を混合した成形材料を、炊飯釜の底面中央部にゲートを設けて金型内に充填させて成形品を得るカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法であって、
成形品の底面中央部相当の位置に、成形材料を誘導するための円錐状突起を形成し、且つ円錐状突起の頂部から射出するゲートの出口にピンを配した金型を用いて射出成形によって得た成形品を、無酸素雰囲気の高温で焼成処理して得るものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係るカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法は、ゲート出口にピンを配したので、成形材料が流動抵抗を受けてピンの方向に湾曲して吐出をするので、成形品の円錐状突起の円筒状を成す部位の金型壁面に接触して吐出時の流速を大きく減衰し、内部を埋めるようにして金型内の炊飯釜底面相当部分に到達する。その結果、成形材料の充填直後に生じる黒鉛粒子相互が激しく接して形成する歪みを抑制するとともに、安定した流動を確保して品質を安定化できるとともに、金型の摩耗などの損傷を抑制、成形材料が到達する金型面を拡大した効果に係る金型温度の均一化により、成形時に発生していた注入口近傍でのクラック発生や脱型時の成形品の表面層剥離を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1を示す図で、成形材料におけるフェノール樹脂の被覆状態に関する概念を示す模式図。
【図2】実施の形態1を示す図で、成形材料におけるフェノール樹脂の被覆状態に関する概念を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
<概要>
先ず、本実施の形態のカーボン凝結体の製造方法(射出対面への直接衝突を回避する射出成形ゲートの構造)の概要を説明する。黒鉛粉粒とフェノール樹脂との混合物から成る成形材料を用いて射出成形した成形品を、無酸素雰囲気下の高温で焼成処理を施す炊飯釜の製造に関し、射出成形がウエルド部分(ウエルド部分とは、成形材料の流動先端部が合流する部分)を形成せずに、射出時の材料や金型の温度変化の影響を抑制した流動軌跡を備えて安定品質を確保するうえで、ゲートの位置を金型の底面中央に設けることが必須となる。反面、ゲートの位置を金型の底面中央に設けると、炊飯釜の内面を形成する内型に成形材料が局所に載置することに伴って、密度や気泡残留などの局部的な態様の変化を抑止する必要があった。本実施の形態は、射出速度を抑制するゲートおよびその近傍の形状を最適化して、上記課題を解消する手段に関する。
【0019】
電磁誘導加熱による発熱効率の高いカーボン素材を用いた炊飯釜を得るには、黒鉛粉粒を主体として高炭素含有の熱硬化性樹脂(フェノール樹脂)を結合材とする成形材料を用いることが必須である。しかし、この成形材料は、極めて粘度が高いことから、射出成形による成形品を得る際に、金型内の流動を制御することが困難である。
【0020】
この成形材料を用いた射出成形には、金型の成形品に到達するまでのスプルーからランナー部分に高い圧力を保持して高速射出することが必要となる。従って、炊飯釜の底面部分から充填することが最終充填位置に未充填部分の生成、充填後期で成形材料が金型内圧力を均一にする成形材料の移動に伴う壁内クラックや残留歪みの生成を抑制することが必要となる。
【0021】
このため、金型内を偏在すること無しに安定した流動の態様を備えて側壁全周に同時到達するには、成形品である炊飯釜の底面からゲート断面積が小さいピンゲートを用いて成形品壁部に射出する手段が最も好ましい。
【0022】
当該態様の射出成形におけるゲート位置を外型の底面中央部分に、ピンゲートを設けて成形材料を射出することが必須であるが、相対する内型壁面に成形材料が衝突して金型の損傷(摩耗)が著しくなるほか、気泡の巻込みやゲート直下に不均一な形状で蓄積する成形材料による流動の安定性を欠如することもあった。
【0023】
本実施の形態は、ピンゲートの構造に関し、相対する壁面への局部的な部分に集中した衝突を緩和するために、成形品底面に成形材料を誘導するための円錐状突起を設け、その頂部から射出するゲートの出口にピンを配したものである。
【0024】
射出された成形材料は、円錐状突起に流入する際に、ゲート出口にある突起によって受けた抵抗によってピンの方向に湾曲する。その結果、円錐状突起の壁面に衝突して、円錐状突起内部を充填して(満たして)流動速度を大きく減衰する。これによって、内型壁面への衝突を緩和して成形品の底面中央部から金型を充填することにより、上述の不具合を抑止できる。
【0025】
つまり、カーボン粉粒に結合材として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂未硬化物を混合した成形材料を、炊飯釜の底面中央部にゲートを設けて金型内を充填させる成型方法において、ゲート直下の特定域に吐出した成形材料が集中して衝突しないようにするため、ゲートと成形金型との中間位置に円錐状突起を設けて流速の低下と落下位置の拡大を図る。そのために必要な円錐状突起に相応する金型が具備する空隙内に成形材料を充填するために、ゲート開口部の一部にピンを配した金型構造としたことに特徴をおく。
【0026】
また、円錐状突起に設けたピンが、ゲートを通過する成形材料の流れの前後に突き出た三角形状を備えた板状の構造とした。それにより、当該部位での流動抵抗が偏在し易くなり、吐出した成形材料が、ピンを備えた位置方向に曲折して円錐状突起の壁面に衝突し、ゲート直径の2〜5倍の直径で、これとほぼ同じ長さの円錐状突起を成す空隙内を充填するので、流速が大きく低下して金型壁面に到達するようにした。
【0027】
成形材料を金型内に射出したことに伴うゲート近傍での高速流動に伴う配向と射出圧を受けた応力が残留する。本実施の形態は、充填直後に生じる黒鉛粒子相互が激しく接して形成する歪みを抑制するとともに、安定流動を確保して品質を安定化できた。また、金型の摩耗などの損傷を抑制できるとともに、成形時に発生していた注入口近傍でのクラック発生や脱型時の成形品の表面層剥離を抑制できた。
【0028】
本発明によれば、ゲート出口にピンを配したので、成形材料が流動抵抗を受けてピンの方向に湾曲して吐出をするので、円錐状突起の円筒状を成す部位の壁面に接触して吐出時の流速を大きく減衰し、円錐状突起の内部を埋めるように金型内の炊飯釜底面相当部分に到達する。この結果、成形材料は、流速低下による円錐状突起内部の滞留時間延長と接触機会の増加によって金型からの伝熱を受けて温度が上昇し易くなるとともに、ゲート直下の材料が到達する領域を拡大することになる。
【0029】
つまり、金型の熱吸収領域が拡大するので成形材料の到達領域がそれ以外の領域に比較して硬化に要する温度条件の悪化が減少し、反応の遅延を抑制することができる。
【0030】
また、円錐状突起の上端にあるゲートを通過する成形材料が、三角錐形状を成すピンの流動後部で減圧状態を形成して流動方向を引き込む流れを形成するので、ゲートに設けたピン側に、効率的に曲折して前記円錐状突起の壁面に衝突するように制御できる。
【0031】
つまり、円錐状突起のゲート直後が、ゲート直径の2〜5倍の直径を成し、この直径とほぼ同じ長さの円筒状を成す部位を設けて成るので、通常の射出速度で吐出された成形材料が曲折して壁面で受け止めることができる態様を得ることが出来る。
【0032】
一方、成形材料は、500μm以下の粒径の塊状物を破砕して得た黒鉛の表面にフェノール樹脂が全面に被覆した態様を備えて成るので、安定した流動挙動を呈すると共に、ゲートに設けたピンが衝突や摩擦による損傷を受けることが少ない、という効果が得られる。
【0033】
射出成形によって鍋状の成型品を得る手段に関し、カーボン粉粒と結合材であるフェノール樹脂との混合物が原料である成形材料を用いた炊飯釜の成形品を、無酸素雰囲気下で焼成処理を施して得られる電磁誘導加熱調理器の製造方法であって、炊飯釜の底部に設けた円錐状突起を設け、その頂部に三角錐形状を成すピンを具備したゲートを配した本実施の形態による金型の有効性を、以下に詳述する。
【0034】
ここで用いる成形材料は、無酸素状態の高温(3000℃)で石油コークスを焼成処理した塊状物を粉砕した0.1mm以下のカーボン粉粒に、水で希釈したフェノール、第四級アンモニウム塩型カチオン活性剤を界面活性剤として加え、任意温度に加温しながらカーボン粉粒が均一分散するように撹拌しながらホルムアルデヒドを添加して重合させる。
【0035】
フェノールとホルムアルデヒドとが、粒子の表面を被覆する半硬化のフェノール樹脂が20wt%の被覆量になるように添加した。反応時の温度と時間を調整、カーボン粉粒物の表面に被覆したフェノール樹脂が低い溶融粘度と融点を備える重合度を呈する半硬化状態で好適な流動性を備える。これを、40℃以下の低温で減圧吸引しながら乾燥処理を行うことによって、素原料Aが得られる。
【0036】
しかし、素原料Aに多くの微粉末が含まれる場合には、出成形機のスクリューの溝で好適な抵抗を醸し出し難い態様を成す。そのうえ、融点の120℃に対する射出成形機各部の設定温度の指標となる反応開始温度である85℃のほうが十分に低いことから、同機スクリュー内で溶融できずに固着して硬化して計量不能に至ることもある。このような場合は、素原料Aに、10wt%のエタノールなどの溶媒で希釈した低融点未硬化フェノール樹脂を吹き付けながら混練するなどして均一被覆を行い、成形温度で溶融する低融点半硬化フェノール樹脂を混合して計量可能な態様を備えた成形材料とすることが好ましい。
【0037】
次に、該成形用原料をシリンダー温度が60℃、ノズル温度が110℃、金型温度が165℃の射出成形条件にて金型外周面に設けたゲート部から射出して加圧し、5分間の硬化時間を加圧保持後に脱型して、成形品を得る。
【0038】
得られた成形品は、無酸素状態で1000℃の雰囲気下に放置してフェノール樹脂を炭化させることによって、カーボン凝結体成形品を得る。焼成処理時の分解ガスが当該成形品から円滑に放散するように、フェノール樹脂の分解が活発になって急激な重量減少を来す350℃、500℃及び800℃の近傍では、緩い温度上昇または保持を行うようにした。即ち、300℃迄を0.5℃/minで昇温後に5時間保持後、さらに450℃迄を5℃/hrで昇温、500℃迄を1℃/hrで昇温(到達)後に5時間保持、750℃迄を5℃/hrで昇温、800℃迄を2℃/hrで昇温(到達)後に3時間の保持、その後、0.5℃/minで1000℃に昇温(到達)させて2時間の保持を行った後、0.5℃/minで室温近傍まで冷却する。
【0039】
次に、鍋状を成す凝結体成形品の外面には耐摩耗性と耐熱性に優れるシリコーン樹脂を、内面には調理具材の密着防止を目的にフッ素樹脂を、吹付け塗装した。表面に吹付けた塗料(フッ素樹脂)は、凝結体の気孔に容易に含浸するように低粘度物を選択することが好ましく、この結果、アンカー効果に伴う強靱な塗膜密着性を備える。
【0040】
以上の製造手段によって得た炊飯器の内釜における強度のうち、底面部におけるカーボン凝結体の衝撃強度が極度の低下を来す現象を回避するために用いた金型構造について、図1、図2を用いて、以下に詳述する。
【0041】
図1、図2は実施の形態1を示す図で、図1は成形材料におけるフェノール樹脂の被覆状態に関する概念を示す模式図、図2は成形材料におけるフェノール樹脂の被覆状態に関する概念を示す模式図である。
【0042】
図1は、スプルーからゲート2を通過して円錐状突起3を経てキャビティ(内型と外型と間の空間で、成形後に炊飯釜4となる部分)を充填する成形材料の充填態様を示している。成形品として得る炊飯釜4の底面中央部に相当する位置に円錐状突起3を設けたキャビティと、射出成形機に接続したスプルーと成形材料の流路であるランナー1との境界にゲート2を設けた形状を成している。円錐状突起3は、その空隙内を充填することにより、炊飯釜4内面を成す内型表面部分に直接的な衝突を防止するとともに、流速を抑制してゲート2直下で乱流などの流動の乱れを抑止する機能を付与する。
【0043】
ゲート2の形状は、図2に示すように、ランナー1の直径の約1/2以下の約2mmに縮減した形状を成している。これは、金型開放時にランナー1とキャビティの接続を解除するための切断を行う際に、円錐状突起3がゲート2直後の直径を2〜5倍に拡大して、製品(炊飯釜4)に過度な引っ張り応力の伝播を来して最も温度が高い内層部分に亀裂を発生させることを抑止するとともに、容易な切断を可能とする目的を有する。
【0044】
このため、射出された成形材料は、極めて高速(20km/hrに相当)でゲート2から吐出されて、内型表面部分に衝突することになる。このため、円錐状突起3の下部位置ではランナー1の2倍以上に拡大した構造を備えて成ることから、吐出速度が大きく減衰(0.5km/hrに相当)することができる。
【0045】
上記機能の発現には、吐出した成形材料が円錐状突起3を成す金型内壁に到達して、円錐状突起3相当部分を充填することが肝要である。そのため、ゲート2の出口部分に、ゲート2を通過する成形材料の流れの前後に突出した三角形状を備えた板であるピン5を配した。
【0046】
ゲート2部分に設けたピン5は、成形材料の流れに抵抗として作用して吐出速度を減衰させる作用を来たし、ピン5の方向に大きく曲折して吐出した成形材料が円錐状突起3を成す金型内壁に衝突して外部分に成形材料が滞留するので、流速を大きく減衰させることができた。
【0047】
この結果、金型表面に対する黒鉛粉粒の衝突を緩和して成形材料の気泡を巻込むことによる成形品のフクレや亀裂発生、流路の急速な変更に伴う歪みの残留、金型の摩耗損傷、を軽減することができた。
【0048】
成形材料の射出完了の後、160℃で保温された金型内で硬化させた後に取り出す際に、円錐状突起3の部分からゲートを切除することによって成形品が得られるので、これを800〜1200℃の無酸素状態の高温で焼成処理を行った後、内面と外面の塗装を行うことによって、誘電加熱が可能な炊飯釜4を得ることができた。
【0049】
本実施の形態で示した炊飯釜4は、黒鉛の粉粒をフェノール樹脂との混合物を成形材料として用いたが、これに代えてシロキサン含有物の籾殻薫蒸炭を混入したことによってシリコーンカーバイトを生成して、本実施の形態よりも有意に高い強度とを備えた成形品が得られるので、自動車のブレーキパッドなどへの適用を可能となる。
【0050】
本実施の形態によれば、ゲート2出口にピン5を配したので、成形材料が流動抵抗を受けてピン5の方向に湾曲して吐出をするので、円錐状突起3の円筒状を成す部位の壁面に接触して吐出時の流速を大きく減衰し、円錐状突起3の内部を埋めるように金型内の炊飯釜4底面相当部分に到達する。この結果、成形材料は、流速低下による円錐状突起3内部の滞留時間延長と接触機会の増加によって金型からの伝熱を受けて温度が上昇し易くなるとともに、ゲート2直下の特定領域を拡大することになる。
【0051】
これは、内型への衝突緩和とともに、金型の熱吸収領域が拡大するので、成形材料の到達領域がそれ以外の領域に比較して硬化に要する温度条件の悪化が減少し、反応の遅延を抑制することができる。
【0052】
また、円錐状突起3の上端にあるゲート2を通過する成形材料が、三角錐形状を成すピン5の流動後部で減圧状態を形成して流動方向を引き込む流れを形成するので、効率的にゲート2に設けたピン5側に曲折して円錐状突起3の壁面に衝突するように制御できる。
【0053】
つまり、円錐状突起3のゲート2直後が、ゲート2の直径の2〜5倍の直径を成し、この直径とほぼ同じ長さの円筒状を成す部位を設けて成るので、通常の射出速度で吐出された成形材料が曲折して壁面で受け止めることができる態様を得ることが出来る。
【0054】
一方、成形材料は、500μm以下の粒径の塊状物を破砕して得た黒鉛を含んで成るので、安定した流動挙動を呈すると共に、ゲート2に設けたピン5が衝突や摩擦による損傷を受けることが少ない、という効果が得られる。
【0055】
尚、成形材料として、コンポジットを含んで成るものを用いてもよい。また、成形材料が、コンパウンドを併用して成るものでもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 ランナー、2 ゲート、3 円錐状突起、4 炊飯釜、5 ピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粉粒に結合材として熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂未硬化物を混合した成形材料を、炊飯釜の底面中央部にゲートを設けて金型内に充填させて成形品を得るカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法であって、
前記成形品の底面中央部相当の位置に、前記成形材料を誘導するための円錐状突起を形成し、且つ前記円錐状突起の頂部から射出するゲートの出口にピンを配した金型を用いて射出成形によって得た前記成形品を、無酸素雰囲気の高温で焼成処理して得ることを特徴とするカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法。
【請求項2】
前記ゲートの出口に設けた前記ピンが、前記ゲートを通過する前記成形材料の流れの前後に突き出た三角形状を備えた板であることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法。
【請求項3】
前記円錐状突起が、前記ゲート直後に前記ゲートの直径の2〜5倍の直径を成す部位を設けて成ることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法。
【請求項4】
前記成形材料がコンポジットを含んで成ることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法。
【請求項5】
前記成形材料がコンパウンドを併用して成ることを特徴とする請求項1に記載のカーボン凝結体から成る成形炊飯釜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−234792(P2011−234792A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106571(P2010−106571)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】