説明

カーボン焼結体の表面改質方法及び電磁誘導加熱調理器

【課題】黒鉛粒を高濃度で含有する未硬化のフェノール樹脂との複合体である成形材料を、金型内で加熱・加圧成形によって賦形した成形品を無酸素の高温雰囲気で焼成して誘電加熱を可能とするカーボン凝結体成形品において、ゲート近傍の過度な吐出圧と流路の急変に伴って歪みが成形品内に残留する。この結果、焼成段階で樹脂部分に微細な亀裂が発生し、落球などの衝撃応力による耐性を著しく低下させていた。
【解決手段】この発明に係るカーボン焼結体の表面改質方法は、黒鉛粒にフェノール起源のカーボンを結合材としたカーボン凝結体の鍋状成形品の底面中央にあるゲート相当部分にシリコン化合物を含浸させた後、無酸素雰囲気の1100〜1500℃で加熱処理を行う工程を含んで成るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粒とフェノール樹脂を無酸素雰囲気で焼成処理して成るカーボン凝結体を素材とした成型品の一部にシリコン化合物由来の炭化ケイ素を備えることによって強度を改善するカーボン焼結体の表面改質方法に関する。また、電磁誘導加熱による炊飯器の釜などである電磁誘導加熱調理器(以下、単に調理器という)に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導加熱を応用した調理器具であるコンロや炊飯器は、高周波磁場発生装置である誘導加熱コイルが発生する渦電流によって磁性体金属である鉄やステンレスなどが発熱する電磁誘導加熱を利用するもので、速やかで均一な加熱が得られるという特徴を有する。
【0003】
当該調理器にはアルミニウムや銅などを積層したクラッド材が鍋状の成形品として用いていたが、前記クラッド材は鍋や釜などの形状加工が困難で、さらに表面をフッ素樹脂などの耐熱樹脂塗装面の各積層界面が剥離するなどの不具合もあった。
【0004】
このため、従来の鉄やステンレスなどに代わる電磁誘導加熱の調理器の素材として、適度な導電性と誘電性と優れた熱伝導度を有しているカーボンの凝結体の使用が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、棒柱状に加圧した圧縮体の切削加工物が紹介されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
上述の調理器具の製造方法によれば、コークスなどのカーボン粉粒にフェノールやピッチなどの高炭素含有物である結合材を主体とする混合物によって棒柱状に成型し、これを無酸素雰囲気下の1000〜3000℃で加熱して得た黒鉛化したカーボンの凝結体を得た後、任意の形状に切削加工したものである。
【0007】
しかし、カーボンの焼結体を切削して任意形状を得る手段には、切削の大半を占める容器の中空部分にある素材の廃棄が多く、加工工数も大きい、という課題があった。
【0008】
また、カーボン圧縮体に内在する欠陥を事前に検知することが困難なうえ、切削によって欠陥が露出するなどによって意匠および強度などの諸特性に悪影響を及ぼすことになる。
【0009】
これらの課題を解決する手段として、黒鉛粒とフェノール樹脂原料液やタールピッチなどの結合材との混合物を金型内に注入して加圧するなどして賦型した後、得られた成形品を焼成処理することによって鍋状に成形したカーボンの凝結体を得る手段が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
上記特許文献3によれば、黒鉛粒と結合材を混合した原料が金型内で高い流動状態を得るために、射出温度条件下で溶融するフェノール樹脂などを結合材として多く含有する必要がある。反面、電磁誘導加熱が可能な調理器具として、強度、電気伝導及び熱伝導が優れるカーボン凝結体成形品を得るには、黒鉛粒の混合比の高いことが必要である。しかしながら、フェノール樹脂の含有量を少なくして黒鉛粒の混合比を高くした原料は、粘度が向上して流動性が低下するうえ、黒鉛粒の表面が十分に濡れないために凝集して流動性を喪失する。
【0011】
また、上述の如く結合材であるフェノール樹脂を削減して多量の黒鉛粒を混合したことにより、黒鉛粒の表面に結合材が塗布されない欠陥部位が発生して凝結体の強度が低下する、同様に流動性の低下に伴って密に充填せずに多くの気孔が残留して熱伝導率が低下する、という課題があった。
【0012】
上記課題に対して、フェノール基とアルデヒド基を含む両化合物が重合してフェノール系樹脂の未硬化物を得る反応段階で、界面活性剤の存在下の水中で黒鉛粒を撹拌して分散させることにより、フェノール樹脂の重合に伴って黒鉛粒の表面に未硬化部の塗膜が完全に被覆して球状化した粒状のコンポジット成形原料が提案されている。該成形原料は加圧加熱成形における硬化によって賦形、得られた成形品を無酸素の高温雰囲気下で焼成処理によるフェノール樹脂が炭化し、上述した課題を解消した凝結体を得ることができる(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−75211号公報
【特許文献2】特開平9−70352号公報
【特許文献3】特開2007−044257号公報
【特許文献4】特開2010−059372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、黒鉛粒表面にフェノール樹脂を複素化した成形材料の加熱加圧成形として任意形状に賦型するための射出成形またはトランスファ成形において、鍋状の成形品の安定成形を確保するため、底面中央にゲート位置を設けることが最適である。しかし、反面、金型内に吐出した成形材料がゲートの対面にある壁面に衝突しながら急激に流動方向を変更することを容認する必要があった。
【0015】
この場合、得られた成形品のゲート相当部分近傍では黒鉛粒子が激しく衝突した後に金型内に充填を完了するため、黒鉛粒同士の接点部分に歪みが残留し、これが焼成段階の高温時に前記歪みを解放することによって微細な亀裂を発生し易くする、という課題がある。
【0016】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、カーボン凝結体の強度を改善するカーボン焼結体の表面改質方法及び電磁誘導加熱調理器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係るカーボン焼結体の表面改質方法は、黒鉛粒にフェノール起源のカーボンを結合材としたカーボン凝結体の鍋状成形品の底面中央にあるゲート相当部分にシリコン化合物を含浸させた後、無酸素雰囲気の1100〜1500℃で加熱処理を行う工程を含んで成るものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係るカーボン焼結体の表面改質方法は、黒鉛粒にフェノール起源のカーボンを結合材としたカーボン凝結体の鍋状成形品の底面中央にあるゲート相当部分にシリコン化合物を含浸させた後、無酸素雰囲気の1100〜1500℃で加熱処理を行う工程を含んで成るので、炭化ケイ素(SiC)による補強効果を得て、他の物品の衝突に伴う破壊を来しにくい性状を確保することができた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】比較のために示す図で、一般的な成形用原料で混練のみによる塊状物を破砕したカーボン粉粒物とフェノール樹脂未硬化物とを押出し機などで加圧混練して得た混合物の樹脂付着の概念図。
【図2】実施の形態1を示す図で、フェノール樹脂未硬化物を表面に複素化した成形原料の概念図。
【図3】実施の形態1を示す図で、改質部分である底面中央部における落球強度(破壊高さ)を、実施例1、2と比較例1〜4について比較結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
<概要>
誘電加熱が可能な調理器具に用いるカーボン凝結体は、黒鉛粒を高濃度で含有する未硬化のフェノール樹脂との複合体である成形材料を金型内で加熱・加圧成形によって賦形した成形品を無酸素の高温雰囲気で焼成してカーボン凝結体として誘電加熱を可能とする成形品を確保した。その後、必要に応じて、表面に備える多くの気孔に含浸したアンカー効果を利用して塗装処理、調理具材の密着防止を目的にフッ素樹脂塗膜を形成する。
【0021】
成形に際して、底面部と直交する金型内に成形材料を吐出する場合、ゲート近傍の過度な吐出圧と流路の急変に伴う黒鉛粉粒の充填状態、例えば、黒鉛粒同士が接する部分が歪みとして成形品内に残留する。この結果、焼成段階の加熱に依る硬化に伴う賦形後であっても、Tg(ガラス転移温度)を越えて樹脂の剛性が低い状態の脱型直後では樹脂部分に微細な亀裂の発生を含んだ変形を来して黒鉛粒同士が接して生じた歪みを解放することとなる。
【0022】
ここで発生した微細な亀裂は、その後の900℃以上の無酸素雰囲気下で行う焼成処理を行ったカーボン凝結体における当該部分の衝撃強度を大きく低下させることになり、調理補助器具が受ける応力への耐性が低下して衝撃破壊を招き易いことから、ゲート近傍の限定した部位に補強を行うこと必要があった。
【0023】
本実施の形態は、黒鉛凝結体の成形品が内部に過度な歪みが残留しやすいゲート近傍の領域に、有機ケイ素化合物を塗布・含浸後に無酸素雰囲気下で焼成することにより、優れた強度を備える炭化ケイ素(SiC)を得て、亀裂などの発生部分を補強し、衝撃破壊を招き難い態様を得る。
【0024】
<手段>
金型内に黒鉛粒とフェノール樹脂から成る成形材料を注入後、成形材料を加熱・加圧して硬化させて賦型した成形品を、無酸素状態の高温で第一の焼成処理を行って得たカーボン凝結体に対し、ゲート相当部分近傍にシラン化合物を塗布して含浸させた後、再度に無酸素状態の高温で第二の焼成処理を行うことによって改質した。
【0025】
<作用>
加熱加圧成形によって得た成形品は、結合材のフェノール樹脂が非晶質カーボンとした凝結体として取り出す焼成温度が800℃以下の第一の焼成処理を行った後、ゲート相当部分にシリコン化合物を含浸させた状態で1200℃以上の第二の焼成処理を施すことによって、本実施の形態の調理器具に供するカーボン凝結体とした。
【0026】
ここで用いたシリコン化合物は、シラザンまたはポリシラザンであって、前者は弱酸性の水による加水分解を来してSiOに転化し、後者は大気中の水分と反応してシリカガラスに転化する。
【0027】
一般に、シラザン化合物は基材表面に吸着した水(HO)のほかに、有機官能基と加水分解性基(OR)を併せ持つ有機ケイ素化合物であるシランカップリング剤の加水分解によって生じたシラノール基(Si−OH)と反応し結合することによって高温でも飛散することなく保持され、第二の焼成段階で分解して、わずかに活性基が残留する不純物を含有した非晶質カーボンと反応して優れた強度を備える炭化ケイ素(SiC)を得て、亀裂の発生部分を補強し、衝撃破壊を招き難い態様を得る。
【0028】
<効果(進歩性)>
カーボン凝結体から成る調理器具が過度な歪みの残留や微細な亀裂のゲート近傍に含浸したシリコン化合物は、その後の1200℃以上の焼成温度で非晶質カーボンとの反応生成物である炭化ケイ素(シリコンカーバイト;SiC)による補強効果を得て、他の物品の衝突に伴う破壊を来しにくい性状を確保することができた。
【0029】
シラザン(Silazane)について説明する。ケイ素(Si)と窒素を構成成分とするシラザンは、酸化反応を起こさせると、SiOに転化する。通常は、加水分解反応で、酸化膜に転化させるのだが、高い絶縁性を確保するためには、作製するSiO薄膜に水分が取り込まれてしまうことは避けなければならない。このため、今回開発した技術では、水分を排除した環境下で、加水分解反応を用いずに、オゾンを反応させることで酸化物に転化させることとした。SiO薄膜の作製方法は、まず原料であるシラザンを溶媒に溶解して塗布し、薄膜化した。
【0030】
その後、作製したシラザン薄膜をオゾンと反応させることにより、SiO薄膜を得た。この際、薄膜化する際のコンディション、オゾンとの反応の条件・反応環境などを適切に制御し、段階的な加温プロセスを適用すると、酸化膜の品質が向上し、TFT(Thin Film Transistor、薄膜トランジスタ)のゲート絶縁層として使用するのにも十分耐えうる高品質SiO絶縁膜が得られる。
【0031】
ポリシラザン(Polysilazane)の特徴について述べる。ポリシラザンは、オリゴマーおよびポリマーのシラザン、すなわち2またはそれ以上のモノマーのシラザン単位を有する化合物を包含し、水やアルコールなどの活性水素を有する化合物と反応する。
【0032】
ポリシラザンおよびその誘導体は、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)、Si/SiC合金、Si/炭素合金、Si/窒化ホウ素合金、およびこれらの混合物の調製に、とりわけ有用である。これらのセラミック材料は、極端な環境状態下における硬さ、強さ、構造的安定性、および広範囲にわたる電気特性のために、建築材料、保護被覆、および電子材料として用いられ得る。特に、これらの材料は、複合材料の強化材として有用なセラミック繊維に形成され得る。
【0033】
シラザン化合物は空気中あるいは基材表面に吸着した水(HO)または表面のシラノール基(Si−OH)と反応し結合するが、本実施の形態に用いた二酸化珪素含有被膜は表面にシラノール基が多く存在するため、二酸化珪素含有被膜と有機シラザン化合物からなる撥水層との結合密度が高くなる。
【0034】
シランカップリング剤は、一つの分子中に有機物との反応や相互作用が期待できる有機官能基「Y」と、加水分解性基「OR」の両者を併せ持つ有機ケイ素化合物である。
【0035】
ポリシラザンの組成は、Si−H、N−H、Si−N結合のみから構成される完全な無機ポリマーである。
【0036】
ポリシラザンの分子量、数平均分子量Mnは、500〜2500程度の実質的にオリゴマーで、溶媒を除いた樹脂成分の性状は粘性液体である。
【0037】
ポリシラザンの溶媒について述べる。ポリシラザンは、OH(水酸基)をもつ物質と反応し、加水分解すると同時に、水素、アンモニア、シラン系ガスが発生するため、水やアルコールなどと接触させることはできない。ケトンやエステル類など水を溶解する溶媒も好ましくない。従って、溶解性、安定性、塗膜性状の点からキシレン、ミネラルターペン、高沸点芳香族系溶媒などを主に用いる。
【0038】
ポリシラザンの収率について述べる。ポリシラザン薄膜からシリカ薄膜への転化では、大気中の水分との下記反応が支配的と考えられている。
−(SiHNH)− + 2HO → SiO + NH + 2H
M=45 → M=60
この反応に伴う重量収率は、60/45=133%となり、実測値も同様に極めて高い値となる。この理由は、水素以外の有機成分の離脱がないばかりでなく、窒素1モルに対し、酸素2モルが置き変わるという効率的な反応が起こることによる。
【0039】
低温硬化(シリカ転化)タイプポリシラザンには、無機触媒添加ポリシラザン(L110)と有機触媒添加ポリシラザン(P110)がある。
【0040】
無機触媒添加ポリシラザン(L110)は、脱水素、酸化触媒であるPd化合物を添加することによって、シリカへの転化温度、言い換えればセラミック化の温度を、250℃程度まで低減することが可能である。
【0041】
有機触媒添加ポリシラザン(P110)は、水との反応を促進させるアミン系触媒を添加することにより、常温でシリカへ転化することができる。
【0042】
パーヒドロポリシラザン(Perhydro−polysilazane:PHPS)は、大気中の水分と反応してシリカガラスに転化する。パーヒドロポリシラザンを主成分として、有機溶媒、微量の触媒(常温・低温焼成タイプ)により構成され、これに塩化アンモニウムが簡単なオリゴジメチルシラザンの架橋化を触媒、シランカップリング剤は加水分解によってシラノール(Si−OH)を生成後、シラノール同士が縮合してシロキサン結合(Si−O−Si)を有するシランオリゴマーを形成してシリコーンの性質が強くなるが、一方でシラノール基数が減るために反応性が低下し水に溶け難くなる。縮合反応の速度はpHによって変化し、一般にはpHが3.5〜4の場合に最も遅くなる。
【0043】
また、pHとは別に有機金属等の触媒の存在により反応が加速する場合があり、安定な水溶液を得る場合には水溶液のpHを4付近に制御することが有効である。
【0044】
成形材料を金型内に吐出して得た調理器具である鍋状の成型品の衝撃強度を改善する手段に関し、特に微細な亀裂が発生して強度低下を来すゲート近傍部分である底面中央の改質手段を、以下に詳述する。
【0045】
まず、カーボン凝結体成形原料の製造方法について述べる。ブロックを破砕するなどして得た0.3mm以下の黒鉛粒を水中で均一分散するように撹拌しながら第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤を投入したのち、フェノール類化合物とアルデヒド類化合物を25wt%のフェノール樹脂が付着するように投入した。界面活性剤は保護コロイド性を有して高分子電解質挙動を示し、アニオン性水溶性樹脂とイオンコンプレックスを形成して黒鉛粒を核とする保護コロイドの内部、つまり黒鉛粒の表面でフェノール類化合物とアルデヒド類化合物が反応してフェノール樹脂が球状を成すように形成さる。
【0046】
上述した保護コロイドを形成する第四級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤として、アルキルトリメチル型とアルキルジメチルベンジル型のカチオン活性剤が好ましく、アルキル部分も高純度のラウリル、パルミチル、ステアリルおよびベヘニルなどの、C数が10〜20程度のものが有効である。
【0047】
フェノール樹脂の反応は水温と混合時間を調整して、成形時の金型温度である160℃で溶融せずに軟化状態を呈する態様を備えた未硬化状態とした。また、黒鉛粒への樹脂付着の効率は撹拌速度の調整する必要があり、遅すぎる場合には各粒子が凝集して肥大化し、速すぎる場合は黒鉛粒表面に付着した樹脂が剥離して単独で硬化が進行した球状樹脂を形成するので、黒鉛粒表面における付着量が減少する。
【0048】
フェノール樹脂が半硬化状態に至って、所望する黒鉛粒表面に被覆した複素化状態を形成後、これを濾過して回収したものを低温の温風で乾燥してカーボン凝結体の成形原料を得た。
【0049】
図1は比較のために示す図で、一般的な成形用原料で混練のみによる塊状物を破砕したカーボン粉粒物とフェノール樹脂未硬化物とを押出し機などで加圧混練して得た混合物の樹脂付着の概念図である。図2は実施の形態1を示す図で、フェノール樹脂未硬化物を表面に複素化した成形原料の概念図である。
【0050】
図2に示すように、上述手段によって得られたカーボン凝結体成形原料は、図1に示す一般的な成形用原料で混練のみによる塊状物を破砕したカーボン粉粒物とフェノール樹脂未硬化物とを押出し機などで加圧混練して得た混合物の樹脂付着と比較して、フェノール樹脂の重合過程でカーボンの粉粒が備える鋭角な端面を覆い隠すようにカーボン粉粒1の表面に析出しながらフェノール樹脂の未硬化物2が塗膜を形成して、平滑な面を形成することになる。
【0051】
このため、本実施の形態によるカーボン凝結体成形原料は、成形温度である160℃近傍の加熱下で加圧して金型内に吐出したとき、金型内で溶融することなしに樹脂を保持しながら空隙を埋めるなどして好適な位置に移動しやすい、つまり、流動性に優れるという特徴を有することになる。
【0052】
上述手段によって得た成形品は無酸素雰囲気で750〜800℃まで、フェノール樹脂の分解ガスが成型品の壁内に滞留しないように段階的な昇温の焼成処理を行った。この温度域の焼成処理により、僅かに活性基が残存する不純物を含有した非晶質カーボンを黒鉛粒の結合材とする凝結体が得られた。
【0053】
次に、得られた凝結体の成形品底面中央部分にあるゲート近傍部で、前記成形品のゲートを排除した加工痕にシランカップリング剤(好ましくは、官能基がアミノ基のメトキシまたはエトキシ系のシランカップリング剤)と水(好ましくは、水とエタノールなどの低沸点アルコールとの混合物)の混合物を含浸して室温で乾燥した。
【0054】
この状態は、シランカップリング剤が加水分解によってシラノール(Si−OH)を生成した後、シラノール同士が縮合してシロキサン結合(Si−O−Si)を有するシランオリゴマーを形成する。このとき、成形品の微細な亀裂内で、水およびOH基を有するカップリング剤と、上述の凝結体にあってフェノール樹脂起源の結合材が含む僅かに残存する不純物にある活性基と結合して、固定化された状態を成す。
【0055】
上述した成形品ゲートの加工痕から含浸したシランカップリング剤が乾燥した段階で、シリコン化合物であるシラザンを含浸した。シラザンは、基材表面に吸着した水またはシラノール基(Si−OH)と反応し、二酸化珪素を含有した被膜と有機シラザン化合物からなる撥水層を形成し、さらに高温の雰囲気で気散せずに亀裂内に保持される、という特長を備える。
【0056】
このとき、シランカップリング剤はアミノ基を官能基とするメトキシシラン類が好ましく、弱酸性を呈して加水分解を促進してSiOに転化し、残余の水分と反応してシリカガラスに転化するので、亀裂内での固定化が一層、容易になる。
【0057】
ここで用いたシリコン化合物は、シラザンに代えてポリシラザンでも良い。この場合、水やアルコールなどと接触させると、容易に加水分解する。この反応に伴う重量収率は水素以外の有機成分の離脱が無く、窒素1モルに対して酸素2モルが置換して、収率が130%程度の極めて高い値となる効率的な反応が起こる。
【0058】
また、触媒としてアミン類を添加しても有効であり、含浸を効率化する低粘度化のために、OH基を含有せず、水分の含有が少ないキシレン、ミネラルターペン、高沸点芳香族系溶媒などが、溶解性、安定性、安定した塗膜性状を確保する点から好ましい。
【0059】
次に、1200℃以上の第二の焼成処理を施すことによって、本実施の形態の調理器具に供するカーボン凝結体とした。この第二の焼成処理の段階で二酸化珪素およびシリカガラスが分解することにより、わずかに活性基が残留する不純物が残存した非晶質カーボンと反応して優れた強度を備える炭化ケイ素(SiC)の無定形物を生成、黒鉛との結合を損なわずに高い強度の複合体を形成する。該反応は1100℃〜1500℃の範囲、好ましくは1200〜1300℃で進行し、破壊の開始部分となる亀裂部分を補強して衝撃破壊の耐性が向上する態様が得られる。
【0060】
図3は実施の形態1を示す図で、改質部分である底面中央部における落球強度(破壊高さ)を、実施例1、2と比較例1〜4について比較結果を示す図である。
【0061】
シリコン化合物、焼成条件の表面改質条件を変更した試料を比較例として作製し、これら試料の改質部分である底面中央部における落球強度(破壊高さ)を測定、本実施の形態の有効性を確認した(図3参照)。
【0062】
落球強度は、200gの鋼球を凝結体成形品のゲート位置に相当する底面中央部に落下させて、クラック発生などの破壊に至らない最大高さである落球強度として示した。
【0063】
第一の焼成温度が800℃のカーボン凝結体成形品に、底面中央部のゲート近傍にある加工痕に水とエタノールおよびシランカップリング剤(3−アミノプロピルトリメトキシシラン)の混合物(各、等量)を塗布して室温で乾燥した後、シリコン化合物であるシラザン又はポリシラザンを塗布した。その後、第二の焼成温度が1200℃で加熱処理したものを本実施の形態の表面改質方法である実施例1(シラザンを塗布)および実施例2(ポリシラザンを塗布)とした。
【0064】
これに対し、シリコン化合物を塗布しないもの(比較例1)、第一の焼成温度を800℃以上の900℃としたもの(比較例2)、第二の焼成温度を1100℃以下の1000℃としたもの(比較例3)、第二の焼成温度を1600℃としたもの(比較例4)を比較例とし、変更条件以外は実施例に倣った。
【0065】
上記結果に示した如く、本実施の形態によるカーボン凝結体の表面改質手段は、第一の焼成温度が800℃で、微細な亀裂を含んだカーボン凝結体のゲート近傍部分に、シランカップリング剤が加水分解した状態でシリコン化合物を含浸して乾燥後、1200℃で焼成処理した。この結果、前記亀裂部分は、シラザンの重量収率増加に伴う修復が成されるとともに、その後の焼成処理によって、非晶質カーボンとの反応によって炭化珪素が生成されるので、破壊の開始点となる微細な亀裂を補強して衝撃強度の改善することができる。
【0066】
これに対し、比較例1の何らの表面改質を行っていない調理器具である単にカーボン凝結体成形品の場合は、底面中央にあるゲート近傍で成形材料に起因した残留歪みの解放挙動によって発生した微細な亀裂を含有して成り、前記亀裂が破壊の開始点として作用することに伴い、著しく低い落球衝撃強度を呈した。
【0067】
これに対し、比較例2では、フェノール樹脂由来で官能基を含んだ不純物の多くが飛散してシラノール(Si−OH)が飛散した結果、最終的に炭化ケイ素の生成量が不足したために十分な表面改質の達成が不十分であった。
【0068】
また、比較例3ではシラノールやシリカガラスが炭化ケイ素に転化が十分に行われなかったこと、比較例4では生成した炭化ケイ素の結晶化が進行して黒鉛との解離が進行すること、を主な要因として、十分な表面改質の効果を呈さないことを確認した。
【0069】
なお、本実施例ではシリコン化合物としてシラザン(実施例1)またはポリシラザン(実施例2)を用いたが、これに代えて、脱水素、酸化触媒であるPd(パラジウム)化合物を添加した低温硬化(シリカ転化)型ポリシラザンや、大気中の水分と反応してシリカガラスに転化が容易なパーヒドロポリシラザンを用いても良い。
【0070】
また、シランカップリング剤には、アセトキシ基やハロゲン基を備えた組成物を用いることによって加水分解が促進されるので、適宜、選択すればよい。
【符号の説明】
【0071】
1 カーボン粉粒、2 フェノール樹脂の未硬化物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粒にフェノール起源のカーボンを結合材としたカーボン凝結体の鍋状成形品の底面中央にあるゲート相当部分にシリコン化合物を含浸させた後、無酸素雰囲気の1100〜1500℃で加熱処理を行う工程を含んで成ることを特徴とするカーボン焼結体の表面改質方法。
【請求項2】
前記シリコン化合物を含浸する前記カーボン凝結体が、フェノール樹脂を結合材とした黒鉛粒混合物から成る成形品を800℃以下の無酸素雰囲気で焼成処理を行ったものを用いることを特徴とする請求項1に記載のカーボン焼結体の表面改質方法。
【請求項3】
前記シリコン化合物が、シラザンまたはポリシラザンであることを特徴とする請求項1に記載のカーボン焼結体の表面改質方法。
【請求項4】
前記シリコン化合物の含浸が、シランカップリング剤と水との混合物を含浸、乾燥後にシラザンまたはポリシラザンを含浸させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のカーボン焼結体の表面改質方法。
【請求項5】
前記シリコン化合物の含浸が、微量の低級アルコールを含む水を含浸、乾燥後にシラザンまたはポリシラザンを含浸させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のカーボン焼結体の表面改質方法。
【請求項6】
黒鉛粒にフェノール起源のカーボンを結合材としたカーボン凝結体の鍋状成形品の底面中央にあるゲート相当部分にシリコン化合物由来の炭化ケイ素を含んで成ることを特徴とする電磁誘導加熱調理器。
【請求項7】
前記シリコン化合物由来の炭化ケイ素を含む前記カーボン凝結体が、シラノールおよびシロキサンを含んでフェノール起源のカーボンとともに結合材として残存して成ることを特徴とする請求項6に記載の電磁誘導加熱調理器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−219005(P2012−219005A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89735(P2011−89735)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【特許番号】特許第4932042号(P4932042)
【特許公報発行日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】