説明

カーボン繊維の切断・加工方法及びその装置

【課題】 カーボン繊維の所望の位置を切断・加工でき、且つ、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断できる方法及びその装置を提供する
【解決手段】 カーボン繊維3を載置台4に載置し、電子ビームのカーボン繊維への衝突エネルギーと強度とをカーボン繊維に損傷が生じない程度の所定の条件の電子ビームを走査部7によりカーボン繊維3の所望の位置に照射し、所定の圧力の酸化性ガスを導入部9から真空槽2に導入し、電子ビームが照射されている部位の炭素原子のみを酸化性ガスと化学的に反応させ、一酸化炭素或いは二酸化炭素ガスとして蒸発させることによって、カーボン繊維を切断・加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン繊維の切断・加工方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マリモカーボン(特許文献1参照)、カーボンナノフィラメント(特許文献2参照)、或いは、カーボンナノチューブといった炭素原子から成るナノ(nm)オーダーの特異な構造を有するカーボン繊維は、その特異な構造に基づく効果を生かした種々の応用が始まっており、例えば、水素吸着剤、電気二重層キャパシタの分極性電極、電子銃、或いは、原子間力顕微鏡の探針等へ応用され始めている。
【特許文献1】特願2004−153129号
【特許文献2】特開2004−277241号公報
【特許文献3】特願2003−368356号の文段落〔0010〕参照
【特許文献4】特願2005−007682号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、これらのカーボン繊維の構造は様々であるが、いずれも単層グラファイト層で構成されており、グラファイト層のグラファイト・エッジは、水素吸着位置として作用し、また、電気二重層キャパシタの分極性電極として用いた場合に電気二重層の形成される位置として作用する(特許文献3参照)。従って、カーボン繊維の水素吸着能力や電気二重層コンデンサの蓄電容量を向上するために、グラファイト・エッジを高密度に有するカーボン繊維が求められている。
例えば、マリモカーボンは、粒径が500nm以下の酸化ダイヤモンドを核としてカーボンナノチューブが放射状に成長した、径がμmオーダーの球状の微粒子、すなわちマリモ状のカーボン繊維であるが、カーボンナノチューブが核の回りに極めて高密度に成長しており、これらのカーボンナノチューブの先端にグラファイト・エッジがあるため、マリモカーボンを分極性電極として用いた電気二重層キャパシタは、活性炭を分極性電極に用いた従来の電気二重層キャパシタよりも蓄電容量が大きいことが見出され(特許文献4参照)注目を集めている。
【0004】
しかしながら、マリモカーボンのカーボンナノチューブは、先端が開口しているものもあれば、シームレスに閉じられているものもあり、先端が閉じているカーボンナノチューブはグラファイト・エッジを有さないので水素吸着位置や電気二重層の形成位置として作用しない。
このため、水素吸着能力や電気二重層コンデンサの蓄電容量をさらに向上するために、グラファイト・エッジをさらに高密度に有するカーボン繊維の合成方法が研究されているが、一方、従来のカーボン繊維を加工してグラファイト・エッジを増やすことも一つの方法である。例えば、マリモカーボンのカーボンナノチューブの先端部分を切断できれば、全てのカーボンナノチューブがグラファイト・エッジを有することになり、水素吸着能力や電気二重層コンデンサの蓄電容量を飛躍的に向上することができる。
【0005】
しかしながら、カーボン繊維、例えばカーボンナノチューブは、カーボンからなるナノオーダーの構造体であり、この構造体を所望の位置で切断でき、且つ、切断後においてもこのカーボン構造体の構造に基づく特性を失わないように切断できる方法は、従来知られていない。
例えば、粉体のマリモカーボンのカーボンナノチューブを切断しようとした場合、カーボンナノチューブの長さは数μm、径は数十nmであるから、機械的に切断することはもちろん不可能であり、また、微細な光束のレーザー光を使用した場合には、光束が照射された部位のみならず、カーボンナノチューブ全体が瞬時に加熱されてしまうために、カーボンナノチューブ全体が蒸発してしまうか、蒸発しないまでも構造が変形し、切断後においてもカーボン繊維の構造に基づく特性を保持することは困難である。
このように、従来、カーボン繊維を切断し、切断後においてもカーボン繊維の構造に基づく特性を失わないように切断する方法はなかった。
【0006】
また、カーボンナノチューブは、半導体又は金属の電気的特性を示すため、nmスケールの電子回路の配線材料や能動素子材料として従来から期待されてきたが、配線、或いは能動素子として機能させるためにはその形状を所望の形状に精密に加工できることが必要不可欠である。
しかしながら、カーボンナノチューブの所望の位置を切断でき、且つ、カーボンナノチューブの特性を損なわずに切断できる方法がないため、未だに実現されていない。
【0007】
また、従来から、カーボンナノチューブは径が極めて小さいために、電子銃の電子放出端や原子間力顕微鏡の探針に用いれば、極めて高効率の電子銃や原子間力顕微鏡が実現すると期待されてきた。しかしながら、電子銃や原子間力顕微鏡の探針に用いるためには、電子銃の電子放出端や探針の曲率が極めて大きいことが要求されるが、先端が閉じたカーボンナノチューブの曲率では十分ではなく、先端が開口したカーボンナノチューブが求められる。しかしながら、先端が開口したカーボンナノチューブを再現性良く製造することは難しい。一方、先端が閉じたカーボンナノチューブであっても、カーボンナノチューブの軸に垂直な断面が得られ、且つ、切断後においてもカーボンナノチューブの構造に基づく特性が保持されるように切断できれば、極めて高効率な電子銃や探針が得られる。
しかしながら、垂直な断面が得られるように切断でき、且つ、カーボンナノチューブの特性を損なわずに切断できる方法がないため、未だに実現されていない。
【0008】
上記説明から理解されるようにカーボン繊維は、既存の材料にはない優れた潜在能力を有しているが、この潜在能力を発揮できる有用な材料や部品とするためには、ナノオーダーのカーボン構造体であるカーボン繊維の所望の位置を切断・加工でき、且つ、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断又は加工できる方法が必要不可欠である。しかしながら、従来そのような方法は知られていないという課題がある。
【0009】
それ故、本発明は、ナノオーダーのカーボン構造体であるカーボン繊維の所望の位置を切断又は加工でき、且つ、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断又は加工し得る方法を提供し、また、その装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のカーボン繊維の切断・加工方法は、所定の圧力の酸化性ガス雰囲気中で、所定の条件の電子ビームをカーボン繊維に照射して、カーボン繊維と酸化性ガスとの酸化反応によりカーボン繊維を切断又は加工するもので、酸化性雰囲気の圧力を、電子ビームが照射されている部位のカーボン繊維と酸化性ガスとが酸化反応を生ずる圧力とし、電子ビームを、カーボン繊維へ衝突する際の上記電子ビームのエネルギーが該カーボン繊維に損傷を与えない条件としたことを特徴とする。
電子ビームの照射は、スポット照射、ライン走査照射又は領域照射であればよい。酸化性ガスは、酸素ガス、亜酸化窒素ガス又は空気であればよい。また、本発明の方法によって切断・加工できるカーボン繊維は、例えば、マリモカーボン、カーボンナノフィラメント又はカーボンナノチューブである。
【0011】
酸化性ガスの所定の圧力は26〜2600Paが好ましく、電子ビームの所定の条件は電子ビームの出射端とカーボン繊維との距離が30〜50cmでビーム径が10〜30nmの場合には、電子銃の加速電圧が3〜30kV、照射電流量が10〜100nAが好ましい。
【0012】
この方法の作用は以下のように考えられる。
本発明の方法に於ける所定の条件の酸化性ガスの圧力は電子ビームが照射されている部位のカーボン繊維と酸化性ガスとが酸化反応を生ずる圧力である。また、本発明の方法に於ける電子ビームの所定の条件は、電子ビームがカーボン繊維へ衝突する際の電子ビームの運動エネルギーがカーボン繊維に損傷を与えない条件の電子ビームであり、例えば、走査型電子顕微鏡の試料室にカーボン繊維を真空(13Pa以下)で保持してカーボン繊維像を観測した際に、観測によってカーボン繊維に蒸発、溶解、変形等の損傷が生じない範囲の、カーボン繊維に電子が衝突する際に有している運動エネルギー及びその電子の個数である。
このため、電子ビームが照射されている部位のカーボン繊維は損傷を生ずるほど励起されてはいないが、二次電子を放出する程度には励起されており、二次電子を放出できる励起状態は炭素原子と酸化性ガスとの酸化反応が自発的に生ずる励起状態でもあるためと考えられる。すなわち、電子ビームが照射されている部位の炭素原子のみが酸化性ガスと化学的に反応し、一酸化炭素或いは二酸化炭素ガスとなって蒸発することによって、カーボン繊維が切断・加工される。この切断・加工は化学反応による切断・加工であるため、機械的切断・加工や熱的切断・加工と異なり、切断箇所以外の部位に損傷を与えることが極めて少なく、このため、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断・加工できるものと考えられる。
【0013】
また、本発明の方法は電子ビームを用いるので、昨今の走査型電子顕微鏡の電子ビーム走査技術に見られるように、ビーム径は数十nm以下に絞ることができ、照射位置は数十nmの精度で制御でき、また、スポット照射やライン走査照射ができるので、カーボン繊維の所望の位置を電子ビーム径の切代で切断・加工することができる。また領域走査照射を利用すれば、走査領域の形状にカーボン繊維を切断・加工することができる。
【0014】
本発明のカーボン繊維の切断・加工装置は、真空槽と、真空槽内に配設したカーボン繊維を載置する載置台と、載置台に載置するカーボン繊維に電子ビームを照射する電子銃と、電子銃の電子ビームを走査する走査部と、真空槽の真空度を制御する排気部と、真空槽に酸化性ガスを導入するガス導入部と、から成ることを特徴とする。
上記構成に加え、さらに、カーボン繊維に電子ビームを照射して発生する二次電子及び/又は反射電子の強度を検出する検出器と、検出器の出力を画像に構成する画像構成部を有していても良い。
【0015】
この装置によれば、カーボン繊維を載置台に載置し、酸化性ガス導入部から酸化性ガスを真空槽に導入し、酸化性ガスの圧力を排気部により上記方法で説明した所定の圧力に制御し、上記方法で説明した所定の条件の電子ビームを走査部によりカーボン繊維の所望の位置に照射することによって、カーボン繊維の所望の位置を、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断・加工することができる。
またさらに、カーボン繊維に電子ビームを照射して発生する二次電子及び/又は反射電子の強度を検出する検出器と、検出器の出力を画像に構成する画像構成部を有する場合には、載置台に載置したカーボン繊維を、真空状態で二次電子像又は反射電子像として観測し、この観測から切断・加工箇所を決定し、切断・加工箇所の座標データにより走査部を駆動することにより、決定した切断・加工箇所に電子ビームを照射しても良い。
この場合には、極めて精密な切断・加工が可能になり、例えば、カーボンナノチューブを所望の長さに切断・加工することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカーボン繊維の切断・加工方法及びその装置によれば、カーボン繊維の所望の位置を切断することが可能で、且つ、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断・加工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のカーボン繊維の切断・加工方法及びカーボン繊維の切断・加工装置を図面に基づいて詳細に説明する。
初めに本発明のカーボン繊維の切断・加工装置を説明する。
図1は本発明のカーボン繊維の切断・加工装置の構成を示す図である。本発明のカーボン繊維の切断・加工装置1は、真空槽2と、真空槽2内に配設した、カーボン繊維3を載置する載置台4と、載置台4に載置するカーボン繊維3に電子ビーム5を照射する電子銃6と、電子銃6の電子ビームを走査する走査部7と、真空槽2の真空度を制御する排気部8と、真空槽2に酸化性ガスを導入するガス導入部9とから構成される。
上記構成に加え、カーボン繊維3に電子ビーム5を照射して発生する二次電子及び/又は反射電子の強度を検出する検出器10と、検出器10の出力を画像に構成する画像構成部11を有していても良い。
【0018】
カーボン繊維の切断・加工装置1を動作するには、カーボン繊維3を載置台4に載置し、酸化性ガス導入部9から酸化性ガスを真空槽2に導入し、酸化性ガスの圧力を排気部8により所定の圧力に制御して、所定の条件の電子ビーム5を走査部7によりカーボン繊維3の所望の位置に照射することによって、カーボン繊維3の所望の位置を、カーボン繊維3の構造に基づく特性を損なうことなく切断・加工する。
【0019】
またさらに、カーボン繊維の切断・加工装置1が、カーボン繊維3に電子ビーム5を照射して発生する二次電子及び/又は反射電子の強度を検出する検出器10と、検出器10の出力を画像に構成する画像構成部11を備える場合には、載置台4に載置したカーボン繊維3を、真空状態で二次電子像又は反射電子像として観測し、この観測から切断・加工箇所を決定し、切断・加工箇所の座標データにより走査部7を駆動することで、決定した切断・加工箇所に電子ビームを照射しても良い。
この場合には、極めて精密な切断・加工が可能になり、例えば、カーボンナノチューブを所望の長さに切断・加工することができる。
【0020】
酸化性ガス雰囲気の所定の圧力の設定は、電子ビームが照射されている部位のカーボン繊維と酸化性ガスとが酸化反応を生ずる圧力で、例えば、約26Paから約2600Paの範囲に設定することが好ましい。約26Pa以下であると酸化反応が実質的に生じず、また、電子ビームの出射端とカーボン繊維との距離が30〜50cmの場合に約2600Paを超えると、酸化性ガスによる電子ビームの散乱が大きくなり、必要とする電子ビームの加速電圧が極めて大きくなり実質的に困難である。
所定の条件の電子ビームの設定は、電子ビームがカーボン繊維へ衝突する際の運動エネルギーが、カーボン繊維に損傷を与えない条件の電子ビームで、酸化性ガス雰囲気の圧力が約26〜約2600Paであり、電子ビームの出射端とカーボン繊維との距離が30〜50cmであり、所定のビーム径が10〜30nmの場合には、電子銃の加速電圧が3〜30kV、照射電流量が10〜100nAに設定すれば好ましい。
もちろん、電子ビームの出射端とカーボン繊維との距離やビーム径が異なれば、電子銃の所定の加速電圧、照射電流及び酸化性ガスの所定の圧力は変化する。
【0021】
電子ビームが照射されている部位のカーボン繊維は損傷を生ずるほど励起されてはいないが、二次電子を放出する程度には励起されており、二次電子を放出できる励起状態は炭素原子と酸化性ガスとの酸化反応が自発的に生ずる励起状態でもある。すなわち、電子ビームが照射されている部位の炭素原子のみが酸化性ガスと化学的に反応し、一酸化炭素或いは二酸化炭素ガスとなって蒸発することによって、カーボン繊維が切断・加工される。この切断・加工は化学反応による切断・加工であるため、機械的切断・加工や熱的切断・加工と異なり、切断箇所以外の部位に損傷を与えることが極めて少なく、このため、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断・加工することが可能である。
【0022】
また、電子ビームの照射モードは、スポット照射、ライン走査照射又は領域照射であればよい。スポット照射やライン走査照射を用いれば、カーボン繊維の所望の位置を電子ビーム径の切代で切断・加工できる。また領域走査照射を用いれば、走査領域の形状にカーボン繊維を・加工できる。
また、切断・加工できるカーボン繊維は、例えば、マリモカーボン、カーボンナノフィラメント又はカーボンナノチューブである。
【0023】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
図1に示した本発明の装置を用いて本発明の方法によりマリモカーボンのカーボンナノチューブを切断した。
酸化性ガスは酸素ガスを1700Paの圧力で用いた。電子線の径は約20nm、加速電圧は15kV、照射電流(電子銃から放出される電子の単位時間あたりの数を電流に換算した値)は約10nAである。同一の箇所をライン走査(line scan)で照射し、走査速度は約1μm/secであり、走査回数は、約100回である。
【0024】
図2は本発明の方法による、マリモカーボンの切断前後の走査電子顕微鏡像を示す図であり、(a)は切断前、(b)は切断後を示す。図2(b)中の白線は電子ビームが通過した位置、すなわち切断面を示す。
図2(b)に見られる切断後のマリモカーボンは溶融や変形が全く見られず、同(a)に見られる切断前のマリモカーボンと比べて右半分が無いだけであることがわかる。また、切断面は電子ビームの通過する面に沿って、あたかもリンゴを鋭利なナイフで切断したように、スッパリと切断されていることがわかる。
このことから、本発明の方法は、照射電子によって励起された炭素原子と酸化性ガスとの化学反応による切断であるため、機械的切断や熱的切断とは異なり、切断部位以外の部位に損傷を与えることが極めて少なく、このため、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断できることがわかる。
【0025】
図3は図2(b)に示した切断後のマリモカーボンの高倍率の走査電子顕微鏡像を示す図である。図において、曲がりくねった像は、マリモカーボンの酸化ダイヤモンドから放射状に成長したカーボンナノチューブである。また、矢印で示した箇所は、カーボンナノチューブの切断箇所を示す。
この図から、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの軸にほぼ垂直に切断され、且つ、カーボンナノチューブの構造変化がほとんど無いことがわかる。
このことから、本発明の方法によれば、例えば、カーボンナノチューブをその構造に基づく特性を損なうことなしに所望の長さに切断できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
上記説明から理解されるように、本発明のカーボン繊維の切断・加工方法及びその装置によれば、カーボン繊維の所望の位置を切断でき、且つ、カーボン繊維の構造に基づく特性を損なうことなく切断し得るので、例えば、マリモカーボンのカーボンナノチューブを切断して、マリモカーボンのグラファイト・エッジを飛躍的に増加させることにより、マリモカーボンを分極性電極とした電気二重層キャパシタの蓄電容量を飛躍的に向上させることができる。
また、カーボンナノチューブの所望の位置の切断に本発明の方法を用いれば、カーボンナノチューブを所望の長さに切断できるので、カーボンナノチューブをnmオーダーの電子回路の配線材料や、能動素子材料として使用できるようになる。
また、本発明の方法を用いれば、カーボンナノチューブの軸に垂直な切断面を形成することができるので、カーボンナノチューブを高性能な電子銃や原子間力顕微鏡の探針として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のカーボン繊維の切断・加工装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の方法による、マリモカーボンの切断前後の走査電子顕微鏡像を示す図で、(a)は切断前、(b)は切断後を示す。
【図3】切断後のマリモカーボンの高倍率の走査電子顕微鏡像を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 カーボン繊維の切断・加工装置
2 真空槽
3 カーボン繊維
4 載置台
5 電子ビーム
6 電子銃
7 走査部
8 排気部
9 ガス導入部
10 検出器
11 画像構成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の圧力の酸化性ガス雰囲気中で、所定の条件の電子ビームをカーボン繊維に照射して、上記カーボン繊維と上記酸化性ガスとの酸化反応により上記カーボン繊維を切断又は加工するカーボン繊維の切断・加工方法であって、
上記酸化性雰囲気の所定の圧力を、上記電子ビームが照射されている部位のカーボン繊維と上記酸化性ガスとが酸化反応を生ずる圧力とし、
上記所定の条件の電子ビームを、カーボン繊維へ衝突する際の上記電子ビームのエネルギーが該カーボン繊維に損傷を与えない条件の電子ビームとしたことを特徴とする、カーボン繊維の切断・加工方法。
【請求項2】
前記電子ビームの照射は、スポット照射、ライン走査照射又は領域照射であることを特徴とする、請求項1に記載のカーボン繊維の切断・加工方法。
【請求項3】
前記酸化性ガスは、酸素ガス、亜酸化窒素ガス又は空気であることを特徴とする、請求項1に記載のカーボン繊維の切断・加工方法。
【請求項4】
前記カーボン繊維は、マリモカーボン、カーボンナノフィラメント又はカーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1に記載のカーボン繊維の切断・加工方法。
【請求項5】
前記酸化性ガスの所定の圧力は26〜2600Paであり、前記電子ビームの所定の条件は、前記電子ビームの出射端と前記カーボン繊維との距離が30〜50cmでビーム径が10〜30nmの場合に、電子銃の加速電圧が3〜30kVで照射電流量が10〜100nAであることを特徴とする、請求項1に記載のカーボン繊維の切断・加工方法。
【請求項6】
真空槽と、
この真空槽内に配設したカーボン繊維を載置する載置台と、この載置台に載置するカーボン繊維に電子ビームを照射する電子銃と、
この電子銃の電子ビームを走査する走査部と、
上記真空槽の真空度を制御する排気部と、
上記真空槽に酸化性ガスを導入するガス導入部と、
から成ることを特徴とする、カーボン繊維の切断・加工装置。
【請求項7】
請求項7の構成に加え、前記カーボン繊維に電子ビームを照射して発生する二次電子及び/又は反射電子の強度を検出する検出器と、
この検出器の出力を画像に構成する画像構成部を有することを特徴とする、請求項6に記載のカーボン繊維の切断・加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−272374(P2006−272374A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92897(P2005−92897)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】