説明

ガイドローラ

【課題】安価に製作可能でありながら、所定のテープ案内性能を長期に亘って安定的に維持可能なガイドローラを提供する。
【解決手段】軸2に回転可能に支持され、走行する磁気テープが外径面に接触することによって回転するローラ体6を備えるガイドローラ1である。ローラ体6は、焼結金属製の外筒部7と、外筒部7をインサートして含油樹脂で射出成形された樹脂部8とを備える。樹脂部8には、軸2、および規制部としての上下フランジ3,4との摺動面が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガイドローラに関し、特に、ビデオテープレコーダやデータストリーマ等の情報記録再生装置に組み込まれるガイドローラ用のローラ体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビデオテープレコーダやデータストリーマ等、磁気テープを情報記録媒体とした情報記録再生装置は、データの記録再生時に転送される磁気テープを案内するためのガイドローラを備える。ガイドローラとしては、軸(固定軸)に外嵌された筒状のローラ体と、ローラ体の軸方向両側に設けられ、ローラ体の軸方向移動を規制するフランジ等の規制部とを主要な構成部材として備えるものが公知である。ローラ体は、いわゆる転がり軸受で構成される場合と、すべり軸受で構成される場合とがあるが、転がり軸受は、部品点数が多く、組み立て工数が嵩むために低コスト化には限度がある。そのため、近年ではすべり軸受で構成したローラ体を具備するガイドローラが多用される傾向にある。
【0003】
すべり軸受で構成されたローラ体として、例えば特開2002−295471号公報(特許文献1)に開示されたものがある。同文献に開示されたローラ体は、圧入等の嵌め合いによって結合一体化された内径部と外径部とを備え、内径部又は外径部の何れか一方が焼結金属で形成され、他方が樹脂で形成された複合構造をなすものである。かかる構成のローラ体は設計自由度が高いという利点があり、特に内径部を樹脂で形成した場合には、これを金属で形成する場合に比べて摺動特性が高まるため、軸との摺動接触に伴う摩耗が生じ難くなるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−295471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、互いに異なる材料で形成した内径部と外径部とを圧入によって結合一体化した場合、両者の結合強度が使用時の温度変化等に伴って低下したり、圧入時の残留応力によって内外径面の精度低下が生じたりするおそれがある。特に、この種のローラ体においては、回転に伴って樹脂で形成された側にクリープが生じるため、内径部と外径部とを圧入固定した場合には両者間の結合強度が低下し易い。従って、所定の回転性能(磁気テープの案内性能)を安定的に維持するのが困難である。
【0006】
また、特許文献1のガイドローラは、その構成上、回転軸に対する摺動特性は比較的良好であるものの、フランジ(規制部)に対する摺動特性については何ら考慮されていない。よって、フランジ(規制部)との摺動接触に伴って摩耗が生じ、磁気テープの案内性能が低下する可能性がある。
【0007】
本発明の課題は、安価に製作可能でありながら、所定のテープ案内性能を長期間安定的に維持可能なガイドローラ用ローラ体を提供し、もって低コストかつ信頼性に富むガイドローラを提供可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、軸に回転可能に支持され、走行する磁気テープが外径面に接触することによって回転するローラ体を備えるガイドローラであって、ローラ体の軸方向移動を規制する規制部との摺動面を有するものにおいて、ローラ体が、焼結金属製の外筒部と、外筒部をインサートして含油樹脂で射出成形された樹脂部とを備え、樹脂部に、軸および規制部との摺動面を設けたことを特徴とするガイドローラを提供する。
【0009】
上記のように、外筒部をインサート部品として樹脂部を射出成形すれば、樹脂部の製作と、外筒部と樹脂部の結合とを一工程で完了することができる。そのため、従来に比べて製作工程を簡略化することができ、ローラ体の低コスト化が図られる。また、従来のように、個別に製作した外筒部と内筒部(本発明でいう樹脂部に相当)とを圧入によって結合一体化する場合には、ハンドリング性や組み付け性を考慮して内筒部を比較的厚肉に形成する必要があるが、樹脂部をインサート成形する本発明の構成では、ハンドリング性や組み付け性を考慮する必要がない。そのため、樹脂部を薄肉化することができ、使用時の温度変化等に伴う樹脂部の寸法変動量を極小化することが可能となる。これにより、軸との嵌め合い態様が使用時においても変化せず、所定の回転性能が安定的に維持される。
【0010】
また、インサート部品とされる外筒部が、焼結金属の多孔質体で形成されるので、射出された含油樹脂は、外筒部の表面開孔に入り込んでいわゆるアンカー効果を発揮する。そのため、使用時の温度変化や樹脂部のクリープに起因して外筒部と樹脂部間の結合強度が低下し、磁気テープの案内性能に悪影響が及ぶような事態も効果的に回避される。
【0011】
さらに、含油樹脂で成形された樹脂部に軸および規制部との摺動面が設けられるので、繰り返しの摺動接触に起因した樹脂部の摩耗を効果的に抑制することができる。このように、樹脂部を含油樹脂で形成すれば、本発明に係るガイドローラには、潤滑グリースや潤滑油等の油脂分を別途使用する必要がなくなる。そのため、磁気テープへの油脂分の付着懸念が解消されて、情報の記録精度や再生精度が低下するような事態を防止することが可能となる。
【0012】
上記構成のローラ体において、外筒部のうち、樹脂部の被着領域の表面開孔率は、20〜50%の範囲に設定するのが望ましく、さらに、樹脂部の被着領域に開口した個々の細孔は、開口径A1を0.1mm≦A1≦0.4mmに設定すると共に、深さdを0.003mm≦d≦0.5mmに設定するのが望ましい。このような構成とすることにより、アンカー効果が適切に発現されるため、外筒部に対する樹脂部の結合強度が向上し、両者が分離するような事態を防止することができる。なお、本発明でいう「表面開孔率」とは、単位面積当たりに占める各細孔の開口面積の総和(総面積)の比率をいう。
【0013】
磁気テープへの攻撃性、並びに磁気テープの滑り性を考慮すると、外筒部のうち、磁気テープとの接触部には、以下示す表面状態の粗面を設けるのが望ましい。詳述すると、上記の粗面は、JISB0601に規定の表面粗さRmaxを4μm≦Rmax≦7μmに設定すると共に、表面開孔率を10%以下に設定し、かつ、上記粗面内に開口した個々の細孔の開口径A2を、A2≦0.1mmに設定する。
【0014】
磁気テープとの接触部に設けるべき上記の粗面は、外筒部の成形時に施すサイジング加工によって形成することができる。サイジング加工とは、圧粉体を焼結して得られる焼結体の寸法や形状を矯正するための加工であり、焼結金属製の部材を製作する上で必須の加工工程である。従って、このようにすれば、所定の粗面を得るために別途の加工を施す必要がなくなり、ガイドローラの製作コストを低廉化することができる。
【0015】
ところで、ローラ体の樹脂部の摺動特性を高めるためには、含油樹脂(樹脂材料)中の潤滑油の配合割合を高めるのが有効であるが、潤滑油の配合割合が大きくなるほど樹脂部の成形精度が低下するおそれが高まる。また、含油樹脂で形成される樹脂部は、軸や規制部と摺動して少しずつ摩耗することによって摺動界面に潤滑油を滲み出させるのであるが、潤滑油の滲み出し具合を制御するのは困難であり、潤滑油が滲み出たあとには微細な空孔が形成される。そのため、潤滑油の配合割合を大きくすると、使用時間が長くなるにつれて樹脂部の空孔率が大きくなり、樹脂部の強度が低下する可能性が高くなる。
【0016】
これらの問題は、樹脂部の形成材料として用いる含油樹脂を、ベース樹脂に、潤滑油および多孔質シリカを配合したもの、あるいは、ベース樹脂に、潤滑油が含浸された多孔質シリカを配合したものとすることで効果的に防止可能である。このとき、多孔質シリカは、連続孔を有する球状多孔質シリカとするのが望ましく、この球状多孔質シリカは、平均粒子径が0.5〜100μmのものを用いるのが特に望ましい。
【0017】
含油樹脂材料に多孔質シリカを配合した場合、具体的には以下示す作用効果が得られる。
(1)樹脂部の摺動特性を高めるために含油量を多くしても、潤滑油の一部が多孔質シリカに保持されるので、単に多量の潤滑油を配合した樹脂材料で樹脂部を形成する場合に比べ、樹脂部の寸法精度や形状精度が悪くなる等の不具合が生じ難くなる。
(2)多孔質シリカ内に保持された潤滑油が徐々に滲み出すことによって、相手材との摺動界面の潤滑が図られるので、良好な潤滑状態が長期間維持される。
(3)ベース樹脂と潤滑油の相溶性の問題から、混練することが困難であった材料同士の組み合わせでも混練することが可能となり、材料選択の自由度が向上する。
(4)特に球状多孔質シリカは摺動界面のせん断力で破壊するため、摺動する相手材が軟質であっても相手材を傷つけるおそれがなくなる。よって、ガイドローラの長寿命化を図ることができる。
(5)樹脂材料に種々の特性を付与するための充填材を配合する場合、潤滑油と充填材とをそれぞれ単体で配合して混練すると、充填材とベース樹脂の界面に潤滑油が局在化するため、充填材を配合することによる特性付与効果を有効に享受することができない可能性がある。これに対し、多孔質シリカ(特に球状多孔質シリカ)を配合すれば、充填材とベース樹脂との界面に潤滑油が存在し難くなる。そのため、充填材を配合することによる特性付与効果を有効に享受することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上より、本発明によれば、安価に製作可能でありながら、所定のテープ案内性能を長期に亘って安定的に維持可能なガイドローラ用ローラ体を提供することができる。これにより、低コストかつ信頼性に富むガイドローラを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るガイドローラの一実施形態を概念的に示す断面図である。
【図2】図1中のA部拡大断面図である。
【図3】図1中のB部拡大断面図である。
【図4】比較試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るガイドローラ1の一実施形態を概念的に示す断面図である。このガイドローラ1は、円柱状又は円筒状の軸2にローラ体6が回転可能に支持されたものであり、ローラ体6の軸方向両側には、ローラ体6の軸方向移動を規制する規制部としての上フランジ3および下フランジ4が圧入等の手段で軸2に取り付けられている。下フランジ4よりも基端側(図1中では下側)には、図示しない支持ベースに当該ガイドローラ1を取り付けるための手段、並びにローラ体6および下フランジ4の軸方向位置を調整するための手段として機能するガイドスクリュー5が、圧入等の手段で軸2に取り付けられている。
【0022】
上フランジ3および下フランジ4は、ステンレス鋼等の金属、焼結金属、あるいは樹脂等で形成される。図示は省略するが、上下フランジ3,4のうち、ローラ体6と軸方向で対向する面には、摺動特性や耐摩耗性を向上するための被膜を形成しても良い。
【0023】
ローラ体6は、外筒部7と樹脂部8とを備え、全体として略円筒状に形成される。樹脂部8は、ローラ体6のうち、軸2と摺動する内径面と、上下フランジ3,4と摺動する両端面(厳密には端面の一部領域)とに設けられる。すなわち、軸2および上下フランジ3,4との摺動面が樹脂部8に設けられる。外筒部7は、銅やステンレス鋼等の金属粉末を主成分とした原料粉を圧粉→焼結→サイジングすることによって得られる焼結金属の多孔質体であり、樹脂部8は、外筒部7をインサート部品として含油樹脂で射出成形される。
【0024】
このように、外筒部7をインサート部品として樹脂部8を射出成形すれば、樹脂部8の製作と、外筒部7と樹脂部8の結合とを一工程で完了することができる。そのため、従来に比べて製作工程を簡略化することができ、ローラ体6の低コスト化が図られる。また、従来のように、個別に製作した外筒部と内筒部(本発明でいう樹脂部8に相当)とを圧入によって結合一体化する場合には、ハンドリング性や組み付け性を考慮して内筒部を比較的厚肉に形成する必要があるが、樹脂部8をインサート成形すれば、ハンドリング性や組み付け性を考慮する必要がない。そのため、樹脂部8を薄肉化することができ、使用時の温度変化等に伴う樹脂部8の寸法変動量を極小化することが可能となる。これにより、軸2との嵌め合い態様が使用時においても変化せず、所定の回転性能が安定的に維持される。
【0025】
また、インサート部品とされる外筒部7が焼結金属の多孔質体で形成されるので、インサート成形時に射出された樹脂材料は、外筒部7の表面開孔に入り込んでいわゆるアンカー効果を発揮する。そのため、使用時の温度変化や樹脂部8のクリープに起因して外筒部7と樹脂部8間の結合強度が低下し、磁気テープの案内性能に悪影響が及ぶような事態も効果的に回避される。
【0026】
樹脂部8の形成に用いる樹脂材料は、主に、ベース樹脂に潤滑油を配合(混練)して生成される、いわゆる含油樹脂である。このように含油樹脂で成形された樹脂部8に軸2および上下フランジ3,4との摺動面が設けられるので、繰り返しの摺動接触に起因した樹脂部8の摩耗を効果的に抑制することができる。また、樹脂部8を含油樹脂で形成しておけば、このローラ体6を構成部品としたガイドローラ1には、潤滑グリースや潤滑油等の油脂分を別途使用する必要がなくなる。そのため、磁気テープへの油脂分の付着懸念が解消されて、情報の記録および再生精度が低下するような事態を防止することが可能となる。
【0027】
上記のベース樹脂は、射出成形可能な熱可塑性樹脂であれば特段の限定はない。使用可能な樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレン樹脂、変性ポリエチレン樹脂、水架橋ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、単体で用いても良いし、複数組み合わせて用いても良い。ただし、ベース樹脂は、所定の耐摩耗性を具備するものを用いるのが望ましい。
【0028】
上記のベース樹脂に配合する潤滑油は、選択するベース樹脂との相溶性に問題がなく、射出成形温度で変性が生じない耐熱性を具備するものであれば特段の限定はない。例えば、スピンドル油、タービン油、マシン油、ダイナモ油等の鉱油、ポリブチレン、ポリαオレフィン、アルキルナフタレン、脂環式化合物等の炭化水素系合成油、エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、ポリフェニルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、フッ素化油等の非炭化水素系合成油等の中から選択することができる。
【0029】
樹脂部8の形成に用いる樹脂材料には、種々の特性を付与するための各種充填材を配合することもできる。充填材としては、例えば、ガラス繊維や炭素繊維等の強化材、離型剤、帯電防止剤、耐候性改良剤、酸化防止剤、着色剤、導電性付与剤等が使用可能である。
【0030】
外筒部7の表面のうち、樹脂部8の被着領域、ここでは内周面7aおよび両端面7b,7cは、表面開孔率ρ1が20〜50%の範囲内(20%≦ρ1≦50%)に設定される。また、図2に示すように、上記各面7a〜7cに開口した細孔(表面開孔)SPaは、開口径A1が0.1〜0.4mmの範囲内(0.1mm≦A1≦0.4mm)に設定されると共に、深さdが0.003〜0.5mmの範囲内(0.003mm≦d≦0.5mm)、さらに望ましくは、0.003mm≦d≦0.3mmに設定される。このような数値設定をしたのは以下の理由による。
【0031】
上記の何れかが下限値を下回る場合(ρ1<20%,A1<0.1mm,d<0.003mmの何れかの条件を満たす場合)には、十分なアンカー効果を得ることが難しくなって外筒部7と樹脂部8との間に必要十分な結合強度を確保できないおそれがある。また、上記の何れかが上限値を上回る場合(ρ1>50%,A1>0.4mm,d>0.5mmの何れかの条件を満たす場合)には、十分なアンカー効果を得ることはできるものの、樹脂部8のうち、表面開孔内に樹脂材料が入り込んだ領域で成形収縮量が大きくなるため、必要とされる形状(面)精度を確保できないおそれがある。
【0032】
ここでいう細孔SPaの開口径A1(さらに、後述する粗面9に開口した細孔SPbの開口径A2)とは、細孔SPa,SPbの開口寸法が最大となる任意の二点間距離を言う。また、ここでいう表面開孔率ρ1(さらに、後述する粗面9の表面開孔率ρ2)とは、任意の面の単位面積当たりに占める各細孔の開口面積の総和の比率であり、ここでは、以下示す測定機具を用いて以下の測定条件で算出した。
(a)測定機具
金属顕微鏡:ニコン株式会社製 ECLIPSE ME60
デジタルカメラ:ニコン株式会社製 DXM1200
写真撮影ソフト:ニコン株式会社製 ACT−1 Ver.1
画像処理ソフト:イノテック株式会社製 QUICK GRAIN
(b)測定条件
写真撮影時のシャッタースピード:0.5秒
2値化しきい値:235
【0033】
また、ローラ体6の表面のうち、磁気テープと接触する外筒部7の外径面7dには、磁気テープへの攻撃性や滑り性を考慮して粗面9が設けられる。この粗面9は、表面粗さRmaxが4〜7μmの範囲内(4μm≦Rmax≦7μm)に設定される。Rmax<4μmの場合、磁気テープとローラ体6との間で滑りが発生し易くなるため、本来的なガイドローラの機能が損なわれるおそれがあり、一方、Rmax>7μmの場合、磁気テープを傷つけるおそれがあるからである。なお、粗面9の表面粗さは、株式会社小坂製作所製 表面粗さ測定機サーフコーダSEF−3400を用いて測定した。なお、測定条件は、フィルター:2CR、カットオフ:0.8、測定距離:4mmである。
【0034】
さらに、粗面9の形成領域は、表面開孔率ρ2が10%以下(ρ2≦10%)に設定され、かつ、図3に示す粗面9に開口した細孔SPbは、開口径A2が0.1mm以下(A2≦0.1mm)に設定される。ρ2>10%、あるいはA2>0.1mmの場合、磁気テープが粗面9(ローラ体6の外径面)との接触時に傷つくおそれがあり、またこの場合に磁気テープと粗面9とが長期間接触していると、磁気テープに凹凸痕が残って情報の記録再生精度に悪影響が及ぶ可能性があるからである。
【0035】
上記の粗面9は、焼結金属製とされる外筒部7のサイジング加工工程において形成することができる。サイジング加工とは、圧粉体を焼結することによって得られる焼結体の寸法や形状を矯正するための加工であり、焼結金属製の部材を製作する上で必須の加工工程である。従って、このようにすれば、所定の粗面9を得るために別途の加工を施す必要がなくなり、ローラ体6の製作コストを低廉化することができる。
【0036】
以上、本発明の一実施形態に係るローラ体6、およびこれを組み込んだガイドローラ1について説明を行ったが、ローラ体6には種々の変更を加えることが可能である。例えば、ローラ体6を構成する樹脂部8を、ベース樹脂および潤滑油に加えて、多孔質シリカを配合した樹脂材料(必要に応じて上記の各種充填材も配合可)で射出成形することもできる。
【0037】
軸2および上下フランジ3,4との摺動面が設けられる樹脂部8の摺動特性を高めるためには、含油樹脂(樹脂材料)中の潤滑油の配合割合を高めるのが有効であるが、潤滑油の配合割合が大きくなるにつれて樹脂部8の成形精度が低下する可能性が高くなる。また、含油樹脂で形成された樹脂部8は、軸2やフランジ3,4と摺動して少しずつ摩耗することによって摺動界面に潤滑油を滲み出させるのであるが、潤滑油の滲み出し具合を制御するのは困難であり、潤滑油が滲み出たあとには微細な空孔が形成される。そのため、潤滑油の配合割合が大きいと、使用時間が長くなるにつれて樹脂部8の空孔率が大きくなって樹脂部8の強度が低下する可能性が高くなる。
【0038】
これに対し、樹脂部8の形成材料を、上記のように、ベース樹脂および潤滑油に加えて多孔質シリカを配合したものとすれば、潤滑油の一部が多孔質シリカに保持される。そのため、上記問題が生じるのを効果的に防止しつつ、樹脂部8の摺動特性をより一層、かつ効率的に高めることができる。このとき、多孔質シリカは、連続孔を有する球状多孔質シリカとするのが望ましく、この球状多孔質シリカは、平均粒子径が0.5〜100μmのものを用いるのが望ましい。
【0039】
多孔質シリカは、連続孔を有し、潤滑油を含浸・保持できるものであれば使用可能であり、望ましくは非晶質の二酸化ケイ素を主成分とする粉末である。例えば、一次粒子径が15nm以上の微粒子の集合体である沈降性シリカ、あるいはアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を含有したケイ酸アルカリ水溶液を有機溶媒中で乳化し、炭酸ガスでゲル化させることで得られる粒子径が3〜8nmの一次微粒子の集合体である真球状多孔質シリカ等を挙げることができる。粒子径が3〜8nmの一次微粒子が集合して真球状シリカ粒子を形成した多孔質シリカは、連続孔を有し、また、摺動界面のせん断力で破壊する性質があるため特に望ましい。
【0040】
真球状シリカ粒子は、平均粒子径が0.5μm未満のものではハンドリング性が悪いことに加えて、潤滑油の含浸量(保持量)が不十分である。また、平均粒子径が100μmを超える真球状シリカ粒子は、樹脂材料中での分散性が悪いことに加えて、混練時にかかるせん断力によって集合体が破壊される可能性がある。従って、真球状シリカ粒子は、平均粒子径が0.5〜100μmのものを用いるのが望ましく、取り扱い性や摺動特性の向上効果を考慮すると、平均粒子径が1〜20μmのものを用いるのが一層望ましい。なお、このような真球状多孔質シリカとしては、旭硝子株式会社製サンスフェア(登録商標)や、鈴木油脂工業株式会社製ゴッドボール(登録商標)を例示できる。また、多孔質シリカとしては、株式会社東海化学工業所製マイクロイドを例示できる。
【0041】
粒子径が3〜8nmの一次微粒子が集合した真球状シリカ粒子は、比表面積が200〜900(好ましくは300〜800)m2/g、細孔容積が1〜3.5ml/g、細孔径が5〜30(好ましくは20〜30)nm、および吸油量が150〜400(好ましくは300〜400)ml/100gの特性を有するものが望ましい。また、水に浸漬したのち再度乾燥しても、上記の細孔容積および吸油量が浸漬前の90%以上を保つものが望ましい。ここで、比表面積および細孔容積は窒素吸着法により、吸油量はJIS K5101に準じて測定した値である。また、上記真球状シリカ粒子の内部と外表面はシラノール基(Si−OH)で覆われていることが、潤滑油の保持機能上望ましい。さらに、多孔質シリカは、母材に適した有機系、無機系などの表面処理を行うことができる。
【0042】
なお、多孔質シリカとしては、その粒子形状が球状あるいは真球状以外のものであっても使用可能である。例えば、平均粒子径、比表面積、吸油量等が上記真球状シリカ粒子の範囲内であれば非球状多孔質シリカであっても使用できる。但し、摺動相手材(ここでは、軸2や上下フランジ3,4)に対する攻撃性やベース樹脂との混練性を考慮すると、球状あるいは真球状の粒子が望ましい。ここで、「球状」とは、長径に対する短径の比が0.8〜1.0の球をいい、「真球状」とは、球状よりも真球に近い球をいう。
【0043】
このように、ベース樹脂および潤滑油に加えて多孔質シリカを配合した樹脂材料で樹脂部8を射出成形する場合、各々の配合割合は、例えば、多孔質シリカを1〜20vol%、潤滑油を5〜40vol%、残部をベース樹脂とすることができる。多孔質シリカの配合割合が1vol%未満であると、保油体としての効果が少なくなり、20vol%を超えると、ベース樹脂の配合割合が少なくなって樹脂部8の強度低下が顕著になる可能性がある。保油体としての効果や強度面を考慮すると、多孔質シリカの配合割合は2〜15vol%とするのが望ましい。また、潤滑油の配合割合が5vol%未満であると潤滑効果が少なくなり、40vol%を超えると、上記同様ベース樹脂の配合割合が少なくなって樹脂部8の強度低下が顕著となる。
【0044】
また、ローラ体6を構成する樹脂部8は、ベース樹脂に、潤滑油が含浸された多孔質シリカを配合した樹脂材料を用いて射出成形することもできる。この場合には、ベース樹脂と潤滑油の相溶性の問題から、混練することが困難であった材料同士の組み合わせでも混練することが可能となり、材料選択の自由度が向上するというメリットがある。
【0045】
樹脂部8の形成用樹脂材料中に多孔質シリカ(特に球状多孔質シリカ)を配合せずに樹脂材料中に補強材等の充填材を配合する場合、潤滑油と充填材とをそれぞれ単体で配合して混練すると、充填材とベース樹脂の界面に潤滑油が局在化するため、充填材を配合することによる特性付与効果を十分に享受できない可能性がある。これに対し、上記のように、樹脂部8の形成用樹脂材料中に多孔質シリカ(特に球状多孔質シリカ)を配合すれば、充填材とベース樹脂との界面に潤滑油が存在し難くなる。そのため、充填材を配合することによる特性付与効果を有効に享受することができる。
【実施例】
【0046】
以上で説明した本発明の有用性を実証するため、比較試験を行った。比較試験における検証項目は、軸支されたローラ体を10000rpmで回転させた場合の回転トルクおよびトルク変動である。以下、比較試験に用いたガイドローラの詳細を示す。なお、比較試験に用いたガイドローラは、何れも、図1に示すような軸2、上下フランジ3,4およびガイドスクリュー5を具備するものとし、ローラ体の構成のみをそれぞれ異ならせた。従って、以下ではローラ体の具体的構成についてのみ詳述する。
(1)実施品
内径φ1mm×外径φ9mm×全長12.7mmの焼結金属製外筒部の内径面および両端面に、含油樹脂で厚み250μmの樹脂部をインサート成形したもの。外筒部のうち、樹脂部が被着する内径面および両端面の表面開孔率を30%に設定し、内径面および両端面に開口した細孔の開口径はφ0.1〜0.4mmに設定した。
(2)比較品1
上記の実施品と同寸法の外筒部の内径面および両端面に、含油樹脂で厚み250μmの樹脂部をインサート成形したもの。ただし、外筒部の内径面および両端面の表面開孔率を上記の実施品とは異ならせており、具体的には15%である。
(3)比較品2
内径φ6mm×外径φ9mm×全長12.7mmの円筒状部材の内周に、転がり軸受を軸方向に離隔した2箇所に装着したもの。
(4)比較品3
内径φ7.5mm×外径φ9mm×全長12.7mmの焼結金属製外筒部の内周に、内径φ1.5mm×外径φ7.6mm×全長13.7mmの含油樹脂製内筒部を圧入したもの。
(5)比較品4
オイレス工業株式会社製の樹脂製すべり軸受「ルーテックE」を、内径φ1.5mm×外径φ9mm×全長12.7mmに加工したもの。
【0047】
比較試験の試験結果を図4に示す。なお、同図中に示す「トルク変動」は、転がり軸受を用いた比較品2を基準(○)とし、これに比較してやや劣るが実用上問題がない場合(微小なトルク変動が生じた場合)には“△”を、大きなトルク変動が生じた場合(実用上問題がある場合)には“×”を付したものである。また、図4に示す試験結果には、「製造コスト」も併せて掲載している。「製造コスト」の欄に付した○/△/×は、それぞれ、安価、やや高価、高価を示している。
【0048】
図4からも明らかなように、回転トルクについては、転がり軸受でローラ体を構成した比較品2が最も優れ、以下、実施品、比較品3、比較品4の順であった。なお、比較品1については、試験中に、インサート成形した樹脂部が部分的に外筒部から分離してしまったため、回転トルクを測定することができなかった。この結果から、外筒部7のうち、樹脂部8が被着する領域の表面状態を上述のように設定した本発明の有用性が実証される。また、トルク変動については、比較品2、実施品、比較品3、比較品4、比較品1の順に変動量が大きくなった。これはすなわち、摺動面の摩耗の進行具合が、本発明の構成を採用した実施品で最も遅いことを意味する。従って、本発明の構成を採用すれば、所定のテープ案内性能を長期間に亘って安定的に維持することができる。また、コストについては、転がり軸受でローラ体を構成した比較品2が最も高コストであり、比較品3が比較品2に続いて高コストである。以下、基本的構成を同じくした実施品および比較品1が続き、最も安価なものは比較品4である。
【0049】
以上の比較試験結果およびコスト検証結果から明らかなように、本発明によれば、安価に製作可能でありながら、所定のテープ案内性能を長期に亘って安定的に維持可能なガイドローラを提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 ガイドローラ
2 軸
3 上フランジ(規制部)
4 下フランジ(規制部)
6 ローラ体
7 外筒部
8 樹脂部
9 粗面
SPa、SPb 細孔
d 細孔の深さ
A1、A2 細孔の開口径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸に回転可能に支持され、走行する磁気テープが外径面に接触することによって回転するローラ体を備えるガイドローラであって、前記ローラ体の軸方向移動を規制する規制部との摺動面を有するものにおいて、
前記ローラ体が、焼結金属製の外筒部と、該外筒部をインサートして含油樹脂で射出成形された樹脂部とを備え、樹脂部に、軸および規制部との摺動面を設けたことを特徴とするガイドローラ。
【請求項2】
前記ローラ体の外筒部のうち、樹脂部の被着領域の表面開孔率が20〜50%に設定され、かつ、前記領域に開口した個々の細孔は、開口径A1が0.1mm≦A1≦0.4mmに設定されると共に、深さdが0.003mm≦d≦0.5mmに設定された請求項1に記載のガイドローラ。
【請求項3】
前記ローラ体の外筒部のうち、磁気テープとの接触部に粗面が設けられ、この粗面は、表面粗さRmaxが4μm≦Rmax≦7μmに設定されると共に、表面開孔率が10%以下に設定され、かつ、前記粗面に開口した個々の細孔の開口径A2が、A2≦0.1mmに設定された請求項1又は2に記載のガイドローラ。
【請求項4】
前記粗面をサイジング加工で形成した請求項3に記載のガイドローラ。
【請求項5】
含油樹脂は、ベース樹脂に、潤滑油および多孔質シリカを配合したものである請求項1〜4の何れか一項に記載のガイドローラ。
【請求項6】
含油樹脂は、ベース樹脂に、潤滑油が含浸された多孔質シリカを配合したものである請求項1〜4の何れか一項に記載のガイドローラ。
【請求項7】
多孔質シリカが、連続孔を有する球状多孔質シリカである請求項5又は6に記載のガイドローラ。
【請求項8】
球状多孔質シリカの平均粒子径が0.5〜100μmである請求項7に記載のガイドローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−69465(P2011−69465A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222653(P2009−222653)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】