説明

ガイドワイヤ及びその製造方法

【課題】血管等の管状器官内に、カテーテル等のチューブを挿入する際に用いられるガイドワイヤ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】このガイドワイヤ10は、先端部に縮径部22を有する芯線20と、該芯線20の先端部外周に装着されたコイル30と、それらの外周に被覆された樹脂層40とを備え、コイル30は、両端部に線材間に隙間を有する粗巻き部分34を有し、中間部に線材間に隙間のない密着巻き部分36を有している。そして、ガイドワイヤ10を製造する際には、芯線20の先端部外周にコイル30を固定してなるコイル付き芯線20Aを、その基端側から押し出し成形ダイに挿入して引き抜き成形することにより、芯線20及びコイル30の外周に樹脂層40を被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、血管、尿管、胆管、気管等の人体の管状器官内に、カテーテル等のチューブを挿入する際に用いられるガイドワイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血管、尿管、胆管、気管などの人体の管状器官における検査・治療のため、チューブ状のカテーテルを挿入して造影剤や制癌剤等の薬剤を投与したり、カテーテルを通して鉗子等によって組織の一部を採取したりすることが行われている。このカテーテルの挿入に際しては、管状器官内に比較的細くて柔軟なガイドワイヤを挿入し、その先端を目的箇所に到達させた後、このガイドワイヤの外周に沿ってカテーテルを挿入するようになっている。
【0003】
従来のこの種のガイドワイヤとして、下記特許文献1には、基部と末端部とを有しフレキシブルで放射線透過性の金属ワイヤ製のコイルを具備し、基部はワイヤが当接して巻かれて形成され、末端部はワイヤが互いに離間して巻かれて形成されており、基部及び末端部の間には、基部が伸びてしまうことを防止すると共に、トルク伝達性を高めるためにロウ付け部(ブレーズ)が形成されたガイドワイヤが開示されている。
【0004】
また、ガイドワイヤは、管状器官内壁の損傷防止や、生体適合性、滑り性等の向上の観点から、その外周に樹脂層を被覆したものが用いられることが多い。また、ガイドワイヤの先端部は、管状器官に最初に挿入される部分となることから、柔軟であることが要求される。このため、芯線の先端部に縮径部を設け、この縮径部外周にコイルを装着すると共に、全体を樹脂層で被覆したガイドワイヤが知られている。
【0005】
図5にはこのようなガイドワイヤの一例が示されており、同図(a)は同ガイドワイヤの製造に用いられるコイル付き芯線の説明図、(b)は同ガイドワイヤの樹脂層を断面にして示す説明図である。同図(a)に示すように、このガイドワイヤの芯線20は、先端部に縮径部22を有し、この縮径部22に、コイル30bが、その基端部及び先端部をロウ付けされて装着されている。コイル30bは、全体が線材32間に隙間を有する粗巻きコイルからなっている。そして、このコイル付き芯線の外周に、その基端側から引き抜き成形により樹脂層40を被覆することにより、同図(b)に示すようなガイドワイヤ60を製造している。
【0006】
図6には同様なガイドワイヤの他の例が示されており、同図(a)は同ガイドワイヤの製造に用いられるコイル付き芯線の説明図、(b)は同ガイドワイヤの樹脂層を断面にして示す説明図である。同図(a)に示すように、このガイドワイヤにおいても、芯線20の先端部に縮径部22が設けられ、この縮径部22にコイル30cが装着されている。そして、コイル30cは、先端側が線材32間に隙間を有する粗巻き部分をなし、基端側が線材32間に隙間のない密着巻き部分をなしている。そして、このコイル付き芯線の外周に、その基端側から引き抜き成形により樹脂層40を被覆することにより、同図(b)に示すようなガイドワイヤ61を製造している。
【特許文献1】特表平10−506295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1のガイドワイヤの場合、コイルの基部と末端部との間にロウ付け部(ブレーズ)が形成されているため、その部分でガイドワイヤが硬くなり、キンク(折れ曲がり)しやすくなる可能性があった。
【0008】
また、図5に示したガイドワイヤ60においては、同図(a)に示すコイル付き芯線の外周に引き抜き成形によって樹脂層40を被覆する際に、同図(b)に示すように、コイル30bの線材32が先端側に寄ってしまい、その状態で樹脂膜40が被覆されるため、ガイドワイヤ60の最先端部が硬くなってしまう可能性があった。
【0009】
また、図6に示したガイドワイヤ61においては、同図(a)に示すコイル付き芯線の外周に引き抜き成形によって樹脂層40を被覆する際に、同図(b)に示すように、コイル30cの基端側の密着巻き部分の線材32が開き先端側に寄ってしまい、その状態で樹脂層40が被覆され、その後コイル30cの密着巻き部分の線材32の復元力によって、ガイドワイヤ61の先端部に反りや曲がりが発生してしまうことがあった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、先端部の柔軟性を確保できると共にキンクを抑制し、更に引き抜き成形時における変形を防止できる、ガイドワイヤ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1は、先端部に縮径部を有する芯線と、該芯線の縮径部先端に先端を固定され、該芯線の縮径部基端側に基端を固定されて、前記芯線の先端部外周に装着されたコイルと、前記芯線及び前記コイルの外周に被覆された樹脂層とを備えたガイドワイヤにおいて、
前記コイルは、両端部に線材間に隙間を有する粗巻き部分を有し、中間部に線材間に隙間のない密着巻き部分を有することを特徴とするガイドワイヤを提供するものである。
【0012】
上記発明によれば、コイルの両端部に粗巻き部分を設けたことにより、ガイドワイヤの先端部に柔軟性を付与できる。また、引用文献1のように、コイル途中にロウ付け部が設けられていないので、ガイドワイヤ先端部のキンクを抑制することができる。更に、コイルの両端部の粗巻き部分に樹脂層が食い込むので、樹脂層がコイルに対してしっかりと固定され、樹脂層上に更に親水性樹脂膜をコーティングする際や、使用時において、樹脂層がずれたりすることが防止される。
【0013】
また、芯線及びコイルの外周に樹脂層を引き抜き成形によって被覆する場合、芯線の基端側から押し出し成形ダイに挿入すると、引き抜きダイの通過抵抗によってコイルが先端側に圧縮されるが、本発明では、コイルの両端部に粗巻き部分を設けたことにより、基端側のピッチが更に開くことで、密着巻き部分が開きにくく、コイルの復元力を弱めることができるので、樹脂層の被覆後にガイドワイヤ先端部が反ったり曲がったりすることを防止できる。
【0014】
本発明の第2は、前記第1の発明において、前記コイルの中間部の密着巻き部分は、初張力を有しているガイドワイヤを提供するものである。
【0015】
上記発明によれば、コイルの中間部の密着巻き部分が開きにくくなるので、被覆した後におけるコイルの復元力が小さくなり、ガイドワイヤ先端部の反りや曲がりの発生をより確実に防止できる。また、密着巻き部分は直線性(真っ直ぐになる性質)が高いので、芯線が変形するのを防止することができる。
【0016】
本発明の第3は、両端部に線材間に隙間を有する粗巻き部分を有し、中間部に線材間に隙間のない密着巻き部分を有するコイルの先端を、先端部に縮径部を有する芯線の縮径部先端に固定すると共に、前記コイルの基端を前記芯線の縮径部の基端側に固定し、こうして得られたコイル付き芯線を、その基端側から押し出し成形ダイに挿入して引き抜き成形することにより、前記芯線及び前記コイルの外周に樹脂層を被覆することを特徴とするガイドワイヤの製造方法を提供するものである。
【0017】
上記発明によれば、コイル付き芯線を、その基端側から押し出し成形ダイに挿入して引き抜くと、芯線の基端部側から溶融樹脂が被着していき、更に芯線の先端部に至ると、コイルの外周にも基端側から先端側に向けて溶融樹脂が被着していく。芯線の先端部のコイル外周が押し出し成形ダイを通過するときに、コイル外周を先端側にしごく外力が作用する。
【0018】
このため、コイルの線材が先端側に移動して先端側ほどコイルピッチが詰まる傾向が生じるが、本発明においては、コイル両端部に粗巻き部分が設けられているので、コイル基端側の粗巻き部分がやや開き、コイル先端側の粗巻き部分がやや詰まることにより、密着巻き部分はそれほど開かない状態に保たれる。
【0019】
その結果、樹脂層が被覆された後のコイルの復元力が弱くなり、被覆後にガイドワイヤ先端部が反ったり曲がったりすることを防止できる。また、樹脂層がコイル両端部の粗巻き部分に食い込むので、樹脂層とコイルとがしっかりと固着され、樹脂層がコイルに対して軸方向にずれたりすることを防止できる。
【0020】
本発明の第4は、前記第3の発明において、前記コイル先端部の粗巻き部分における線材間の隙間が、前記コイル基端部の粗巻き部分における線材間の隙間よりも大きくなるように形成されているガイドワイヤの製造方法を提供するものである。
【0021】
上記発明によれば、コイル先端部の粗巻き部分の線材間の隙間が、コイル基端部の粗巻き部分の線材間の隙間よりも大きいので、押し出し成形ダイによる引き抜き成形の際に、コイル基端側の粗巻き部分がやや開き、コイル先端側の粗巻き部分がやや詰まることにより、コイル先端部の粗巻き部分の線材間の隙間と、コイル基端部の粗巻き部分の線材間の隙間とが近づくことになる。その結果、最終的に得られるガイドワイヤのコイルにおける先端部の隙間と基端部の隙間とが、より近づくこととなり、ガイドワイヤの先端部に比較的均一な柔軟性を付与することができる。
【0022】
また、コイル先端部の粗巻き部分の線材間の隙間を確保しやすくなり、その柔軟性を維持しやすくなる。更に、コイル基端側の粗巻き部分の線材間の隙間を適度に確保することができ、そこに入り込む樹脂層に対する一体性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガイドワイヤによれば、コイルの両端部に粗巻き部分を設けたことにより、ガイドワイヤの先端部に柔軟性を付与できる。また、コイルには引用文献1のようなろう材が設けられていないので、コイルのキンクを抑制することができる。
【0024】
更に、コイルの両端部の粗巻き部分に樹脂層が食い込むので、樹脂層がコイルに対してしっかりと固定され、樹脂層上に更に親水性樹脂膜をコーティングする際や、使用時において、樹脂層がずれたりすることが防止される。
【0025】
また、本発明のガイドワイヤの製造方法によれば、コイル両端部に粗巻き部分が設けられているので、引き抜き成形による樹脂被覆時に、コイル基端側の粗巻き部分がやや開き、コイル先端側の粗巻き部分がやや詰まり、密着巻き部分はそれほど開かない状態に保たれるので、コイル先端部の柔軟性を維持できると共に、被覆後のガイドワイヤ先端部の変形を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明のガイドワイヤの一実施形態について説明する。
【0027】
この実施形態におけるガイドワイヤ10は、図1(a),(b)に示すように、先端部に縮径部22を有する芯線20と、該芯線20の先端部外周に装着されたコイル30と、前記芯線20及び前記コイル30の外周に被覆された樹脂層40とを備えている。
【0028】
図1(b)に示すように、芯線20の基部は一定径で伸びており、それに連設された先端部の縮径部22は、先端に向かって次第に縮径されたテーパ部22aと、該テーパ部22aの先端から一定径で線状に伸びる細径部22bとを有している。なお、縮径部22は、全体が先端に向かって次第に縮径する先細テーパ形状としてもよいし、先端に向かって段階的に縮径させて、段状をなす構造としてもよく、特に限定されない。
【0029】
芯線20の材質としては、例えば、ステンレス、ニッケル、タングステン、ピアノ線、リン青銅、Ni−Ti系、Cu−Al−Ni系、Cu−Zn−Al系等の超弾性合金等が用いられるが、特にプッシュアビリティに優れたステンレスが好ましい。芯線20の線径は、特に限定されないが、例えば、肝臓癌等への抗癌剤注入や、冠動脈疾患などの治療用途の場合、0.2〜0.8mmが好ましく、0.3〜0.5mmがより好ましい。芯線20の縮径部22の長さは、特に限定されないが、一般的には100〜600mmが好ましく、200〜450mmがより好ましい。
【0030】
上記芯線20の先端部外周に装着されるコイル30は、所定径の金属製の線材32を巻回して形成されている。このコイル30は、その軸方向の両端部に、隣り合う線材32,32間に隙間を設けた粗巻き部分34,34を有している。また、同コイルの30の軸方向中間部には、隣り合う線材32,32間に隙間のない密着巻き部分36を有している。なお、コイル30は、一本の線材32を密着きしたり開き巻きしたりすることにより、両粗巻き部分34,34と密着巻き部分36とが連続した一本の線材で形成されることが好ましいが、2本以上の線材を並列させて密着巻きしたり開き巻きしたりして形成することもできる。
【0031】
また、この実施形態の場合、前記密着巻き部分36においては、初張力(コイルに荷重が付加されていないときでも、隣り合う線材32,32どうしを互いに密着させようとする力)が作用するようになっている。
【0032】
そして、図1(b)に示すように、コイル30は、その内周に芯線20の縮径部22が挿通されて、基端側の粗巻き部分34がテーパ部22a外周に配置され、ロウ材からなる接合部38を介して、縮径部22の基端側に固定されている。一方、コイル30の先端側の粗巻き部分34は細径部22bの先端外周に配置され、ロウ材からなる丸い頭部39を介して、縮径部22の先端に固定されている。
【0033】
図1(a)に示すように、この実施形態のコイル30は、基端側の粗巻き部分34の線材32,32間の隙間C1が、先端側の粗巻き部分34の線材32,32間の隙間C2よりも大きくなっている。ただし、図2に示すように、樹脂層40が被覆される前の、芯線20の先端部にコイル30が固定されてなるコイル付き芯線20Aの状態では、両粗巻き部分34,34の、線材32,32間の隙間C1,C2は同じ大きさとなっており、コイル30両端の粗巻き部分34,34の、線材32,32間の隙間C1,C2の差異は、後述する樹脂層40の被覆工程時に生じるようになっている。
【0034】
コイル30を形成する線材32としては、例えば、タングステン、金、白金、白金合金、ステンレス、Ni−Ti系、Cu−Al−Ni系、Cu−Zn−Al系等の超弾性合金などが使用できるが、放射線不透過性を有する金属線材、又は放射線不透過性を有する金属が複合された線材が好ましく使用される。この実施形態では、線材32として、タングステン線材の外周に金メッキを施したものが用いられている。
【0035】
また、線材32の線径は、例えば、肝臓癌等への抗癌剤注入や、冠動脈疾患などの治療用途の場合、0.03〜0.09mmが好ましく、0.04〜0.07mmがより好ましい。更に、コイル30の外径は、例えば上記用途の場合、0.15〜0.40mmが好ましく、0.20〜0.35mmがより好ましい。更にまた、コイル30の長さは、20〜400mmが好ましく、25〜150mmが更に好ましい。
【0036】
更に、粗巻き部分34の線材32,32間の隙間C1,C2は、樹脂層40被覆前のコイル付き芯線20A(図2参照)の状態で、0.005〜0.1mmであることが好ましく、0.006〜0.008mmであることが更に好ましい。
【0037】
この隙間C1,C2が0.005mmよりも小さいと、後述する樹脂層40被覆時において、コイル30の先端側に外力が作用したときに、先端側の粗巻き部分34の隣接する線材32,32どうしがくっつき合いやすくなり、ガイドワイヤの先端部の柔軟性が損なわれる可能性がある。
【0038】
一方、隙間C1,C2が0.1mmよりも大きいと、粗巻き部分34の柔軟性が向上するが、その分だけ、両粗巻き部分34,34と密着巻き部分36との硬さの差が大きくなるので、キンクしやすくなり好ましくない。
【0039】
上記芯線20及びコイル30の外周を被覆する樹脂層40としては、例えば、ポリウレタン、ナイロンエラストマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、これらの樹脂を2種類以上混合したものなどが好ましく用いられる。更に、樹脂層40の外周には、滑り性、血栓付着防止性を付与するため、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体等の親水性樹脂がコーティングされていることが好ましい。
【0040】
次に、上記実施形態のガイドワイヤ10を製造するための、本発明のガイドワイヤの製造方法の一実施形態について説明する。
【0041】
このガイドワイヤの製造方法は、図2に示すように、芯線20の先端部にコイル30を固定してコイル付き芯線20Aを作成した後、例えば、図3に示す引き抜き成形装置50によって、コイル付き芯線20Aの外周に樹脂層40を引き抜き成形することによりなされるものである。
【0042】
引き抜き成形装置50は、コイル付き芯線20A(図2参照)の外周に溶融樹脂Pを被着させる押し出し成形ダイ52(以下、「ダイ52」という)と、このダイ52に溶融樹脂Pを供給する押出機54と、前記ダイ52の下流側に配置され、コイル付き芯線20Aの外周に被着された溶融樹脂Pを冷却固化させて樹脂層40とする冷却槽56と、該冷却槽56の下流側に配置され、コイル付き芯線20Aを所定速度でダイ52から引き抜く、引き取り装置58とを有している。この実施形態の場合、冷却槽56としては水槽が用いられ、引き取り装置58としては一対のローラが用いられている。
【0043】
そして、本発明の製造方法に際しては、まず、芯線20の先端部の縮径部先端(細径部22bの先端)に、コイル30の先端側の粗巻き部分34を、ロウ材よりなる頭部39を介して固定する。それと共に、芯線20の先端部の縮径部基端側(テーパ部22aの途中部分)に、コイル30の基端側の粗巻き部分34を、同じくロウ材からなる接合部38を介して固定する。その結果、芯線20の先端部にコイル30が固定された、コイル芯線20Aが形成される。
【0044】
押出機54内のスクリュー54aにより、溶融樹脂Pをダイ52の溶融樹脂槽52a内に供給しつつ、上記で得られたコイル付き芯線20Aを、その基端部から引き抜き成形装置50のダイ52に導入して、その内部の溶融樹脂槽52aに通すと共に、同溶融樹脂槽52aから引き出して、コイル付き芯線20Aの基端部を引き取り装置58に挟持させて、所定速度でダイ52から引き抜く。その結果、芯線20及びコイル30の外周に、その基端部側から溶融樹脂Pが被着されていく。
【0045】
そして、芯線20の先端部のコイル外周がダイ52を通過する際に、コイル30の両粗巻き部分34の、線材32,32間の隙間C1,C2に溶融樹脂Pが入り込むと共に、コイル外周を先端側にしごく外力が作用する。それにより、コイル30の各線材32に、コイル先端へ向かって押圧する力が作用し、コイル30の線材32が先端側に移動して、コイル先端側ほど隙間が詰まる傾向となる。
【0046】
このとき、本発明においては、コイル30の両端部に粗巻き部分34,34が設けられているので、コイル30の先端側ほど線材32、32間の隙間が詰まっても、コイル30の基端側の粗巻き部分34がやや開き、コイル30の先端側の粗巻き部分34がやや詰まることにより、密着巻き部分36の線材32,32間はそれほど開かない状態に保たれる。その結果、樹脂層40が被覆された後のコイル30の復元力が比較的弱くなり、被覆後にガイドワイヤ10の先端部が反ったり曲がったりすることを防止して、図1(a),(b)に示す、先端部が真っ直ぐに伸びたガイドワイヤ10を製造することができる。
【0047】
また、コイル30の先端側にも、線材32間の隙間C2が形成されるので、ガイドワイヤ10の先端部の柔軟性を維持することができる。なお、樹脂層40を被覆した後のコイル30の基端側の線材32間の隙間C1は0.005〜0.1mmが好ましく、先端側の線材32間の隙間C2は0.01〜0.1mmが好ましい。
【0048】
更に、図1(b)に示すように、樹脂層40が、コイル30の両端部の粗巻き部分34の線材32間の隙間C1,C2に食い込むので、樹脂層40とコイル30とがしっかりと固着され、樹脂層40がコイル30に対して軸方向にずれることを防止できる。
【0049】
また、この実施形態のコイル30は、密着巻き部分36に初張力を有しているので、上記の引き抜き成形時に、密着巻き部分36の線材32間に隙間が生じにくくなっており、樹脂層40を被覆した後のコイル30の残留応力を小さくして、ガイドワイヤ10の先端部の反りや曲りを、より効果的に防止することができる。
【0050】
こうして得られたガイドワイヤ10は、例えば、周知のセルディンガー法において、カテーテル等の医療用チューブを図示しない管状器官の目的箇所にまでガイドする際等に用いることができる。
【0051】
すなわち、穿刺針等や鞘状のシース等を介し皮膚を通して、管状器官内にガイドワイヤ10を挿入していき、その先端部を管状器官内の目的箇所まで到達させる。その後、ガイドワイヤ10の外周に沿って、カテーテルを移動させることにより、カテーテルを目的箇所に留置することができる。その後、ガイドワイヤ10を引き抜くことにより、カテーテルを介して、薬剤の投与等の治療行為を施すことができる。
【0052】
そして、本発明のガイドワイヤ10においては、コイル30の両端部に粗巻き部分34,34を設けたことにより、ガイドワイヤ10の先端部に柔軟性を付与することできるので、上記のように、管状器官内にガイドワイヤ10を挿入していくときに、その内壁を損傷することを防止することができる。
【0053】
また、このガイドワイヤ10は、コイル30の途中部分にロウ付け部等が存在しないので、ガイドワイヤ10の先端部でのキンクを抑制することができる。例えば、管状器官が曲がりくねっていたとしても、ガイドワイヤ10をスムーズに挿入することができる。
【0054】
更に、このガイドワイヤ10においては、芯線20及びコイル30外周に樹脂層40が被覆されるときに、コイル両端の粗巻き部分34,34の線材32,32間に樹脂層40が食い込むので(図1(b)参照)、樹脂層40をコイル30に対してしっかりと固定させることができ、同樹脂層40上に親水性樹脂膜をコーティングする際に、樹脂層40が膨潤してコイル30から遊離して軸方向にずれたり、ガイドワイヤ10の先端部に反りや曲がりが発生したりすることを防止できる。
【0055】
また、この実施形態のガイドワイヤ10では、コイル30の中間部の密着巻き部分36は初張力を有しているので、密着巻き部分36が開きにくくなる。その結果、樹脂層40を被覆した後におけるコイル30の復元力が小さくなり、ガイドワイヤ先端部の反りや曲がりの発生をより確実に防止できる。また、密着巻き部分36は直線性(真っ直ぐになる性質)が高いので、芯線20が変形するのを防止することができる。
【0056】
更に、図1(b)に示すように、この実施形態では、コイル30の基端側の開き部分34が、芯線20の縮径部22のテーパ部22a途中に配置されると共に、密着巻き部分36が、芯線20の縮径部22の細径部22b外周に配置されるように、コイル30が芯線20の先端部に固定されている。
【0057】
すなわち、柔軟性の高い粗巻き部分34が、次第に縮径し剛性が低くなるテーパ部22aに配置されていると共に、柔軟性の低い密着巻き部分36が、テーパ部22aよりも細く剛性が低い細径部22bに配置されているので、コイル30の中間部から基端部までの硬さをほぼ均一の適度な硬さにすることができる。
【0058】
その結果、ガイドワイヤ10を管状器官内に挿入する際に、コイル30の先端部の柔軟性によって損傷を確実に防止すると共に、一旦管状器官内に挿入された後は、ガイドワイヤ10の適度な硬さによって、ガイドワイヤ10のプッシュアビリティを向上させることができ、ガイドワイヤ10を挿入しやすくなる。
【0059】
図4には、本発明のガイドワイヤの他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0060】
このガイドワイヤにおいては、用いられるコイル30aの形状が、前記実施形態と比べて異なっている。すなわち、このコイル30aは、樹脂層40を被覆する前の、コイル付き芯線20Aの状態において、図4(a)に示すように、コイル先端側の粗巻き部分34における線材32間の隙間C2が、コイル基端側の粗巻き部分34における線材32間の隙間C1よりも大きく形成されている。
【0061】
このようなコイル30aを用いて、前述した引き抜き成形装置50による引き抜き成形を行うと、コイル基端側の粗巻き部分34がやや開き、コイル先端側の粗巻き部分34がやや詰まることにより、コイル先端の粗巻き部分34の線材32間の隙間C2と、コイル基端部の粗巻き部分34の線材32間の隙間C1とが近づくことになる。
【0062】
その結果、図4(b)に示すように、最終的に得られるガイドワイヤ10aの、コイル30における先端部の隙間と基端部の隙間とがより近づくこととなり(この実施形態では、隙間C1,C2はほぼ同じ大きさとなる)、ガイドワイヤ10aの先端部の柔軟性をより高めることができる。
【0063】
なお、上記各実施形態においては、コイル30,30aの両端部に粗巻き部分34が設けられ、中間部は1つの密着巻き部分36をなしているが、中間部の密着巻き部分36が、別の粗巻き部分によって分割された複数の密着巻き部分で構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のガイドワイヤの一実施形態を示しており、(a)は樹脂層を断面にして示す説明図、(b)は全体を断面にして示す説明図である。
【図2】同ガイドワイヤの製造に用いられるコイル付き芯線の説明図である。
【図3】本発明のガイドワイヤの製造装置の一例を示す説明図である。
【図4】本発明のガイドワイヤの他の実施形態を示しており、(a)は同ガイドワイヤの製造に用いられるコイル付き芯線の説明図、(b)は同ガイドワイヤの樹脂層を断面にして示す説明図である。
【図5】従来のガイドワイヤの一例を示しており、(a)は同ガイドワイヤの製造に用いられるコイル付き芯線の説明図、(b)は同ガイドワイヤの樹脂層を断面にして示す説明図である。
【図6】従来のガイドワイヤの更に他の例を示しており、(a)は同ガイドワイヤの製造に用いられるコイル付き芯線の説明図、(b)は同ガイドワイヤの樹脂層を断面にして示す説明図である。
【符号の説明】
【0065】
10,10a ガイドワイヤ
20 芯線
20A コイル付き芯線
22 縮径部
30,30a コイル
32 線材
34 粗巻き部分
36 密着巻き部分
40 樹脂層
50 引き抜き成形装置
52 押し出し成形ダイ(ダイ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に縮径部を有する芯線と、該芯線の縮径部先端に先端を固定され、該芯線の縮径部基端側に基端を固定されて、前記芯線の先端部外周に装着されたコイルと、前記芯線及び前記コイルの外周に被覆された樹脂層とを備えたガイドワイヤにおいて、
前記コイルは、両端部に線材間に隙間を有する粗巻き部分を有し、中間部に線材間に隙間のない密着巻き部分を有することを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
前記コイルの中間部の密着巻き部分は、初張力を有している請求項1記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
両端部に線材間に隙間を有する粗巻き部分を有し、中間部に線材間に隙間のない密着巻き部分を有するコイルの先端を、先端部に縮径部を有する芯線の縮径部先端に固定すると共に、前記コイルの基端を前記芯線の縮径部の基端側に固定し、こうして得られたコイル付き芯線を、その基端側から押し出し成形ダイに挿入して引き抜き成形することにより、前記芯線及び前記コイルの外周に樹脂層を被覆することを特徴とするガイドワイヤの製造方法。
【請求項4】
前記コイル先端部の粗巻き部分における線材間の隙間が、前記コイル基端部の粗巻き部分における線材間の隙間よりも大きくなるように形成されている請求項3記載のガイドワイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−222(P2010−222A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161401(P2008−161401)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(599140507)株式会社パイオラックスメディカルデバイス (37)
【Fターム(参考)】