説明

ガスケット

【課題】 より確実に増厚部の面圧を均等にすることができるガスケットを提供する。
【解決手段】 ガスケット10の基板には、燃焼室孔1が開口し、この燃焼室孔1を囲むようにして第1増厚部5が形成される。第1増厚部5は、燃焼室孔1の端縁全周に、当該燃焼室孔1の端部を上側に折り返して形成されている。第1増厚部5の基板平端部に連続する部分を下側基板部分11、下側基板部分11に連続し、折り返して下側基板部分11に重ねられる部分を折返し部分12と呼ぶときに、下側基板部分11の重ね合わせ面に、周方向に延びる凹部11aを形成する。この状態で、第1増厚部5に締付け荷重がかかると、締付け荷重が大きい部分では下側基板部分11が変形して板厚が薄くなり、自然に面圧の大きさに応じた板厚の抑揚が発生し、面圧が均等化される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスケットに関するものであり、特に増厚部の構造に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を構成するシリンダブロックの接合面とシリンダヘッドの接合面との間に介装されるガスケットとしては、特許文献1に示すようなものが知られている。
特許文献1に示すガスケットは、薄肉金属板からなる基板に、複数の燃焼室孔が開口すると共に、この燃焼室孔の外周側にボルト孔が開口している。また、燃焼室孔の周囲には、ビード及び増厚部が形成される。ビードは、板厚方向に弾性変形する部材よりなり、燃焼ガス圧をシールする。増厚部は、基板の他の部分よりも板厚が厚く形成された部分であり、ビードの圧縮変形量を規制する。また、上記ボルト孔に挿入したボルトによりガスケットを接合面へ締結する際には、増厚部にはボルトの締付け荷重が集中して高面圧となり、これにより燃焼ガス圧のシールがなされる。
【0003】
しかしながら、ボルトによる締付け荷重は増厚部全体に均等にかからず、特にボルトの締付け位置近傍では締付け位置から離れた部分に比べて大きな締付け荷重がかかる。このため、第1増厚部全体の板厚を同じに形成してしまうと第1増厚部全体で面圧が不均一になり、これにより燃焼室の真円度が損なわれ、パワーロスやオイル消費の増大を招くおそれがある。これに対し、特許文献1に示すガスケットでは、隣接する燃焼室孔間では上記板厚部の板厚を増厚部の他の部分よりも厚くするなど、増厚部の板厚に変化をつけることで、面圧の均一化を図っている。
【特許文献1】特開平4−307178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、面圧の高くなるところを予測し、予め板厚に変化をつける必要があることから、実際の面圧分布とはずれを生じていた。
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、より確実に増厚部の面圧を均等にすることができるガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1によるガスケットは、薄肉金属板からなる基板に、他の部分よりも板厚の厚い増厚部を形成したガスケットにおいて、前記増厚部内部に、当該増厚部の延設方向に沿って連続的又は断続的に空洞を形成したことを特徴とする。
本発明の請求項2によるガスケットは、請求項1において、前記基板に燃焼室孔が開口し、前記増厚部は、前記燃焼室孔周囲の基板部分に、1以上の増厚板を重ねて燃焼室孔周囲に形成され、前記1以上の増厚板及び当該増厚板と重なる基板部分の互いに重なり合う重ね合わせ面のうちの少なくとも一つに、前記燃焼室孔の周方向に沿って連続的又は断続的に凹部を形成することで、前記空洞を形成したことを特徴とする。
【0006】
本発明の請求項3によるガスケットは、薄肉金属板からなる基板に、他の部分よりも板厚の厚い増厚部を形成したガスケットにおいて、前記基板に燃焼室孔が開口し、前記増厚部は、前記燃焼室孔周囲の基板部分に、1以上の増厚板を重ねて燃焼室孔周囲に形成され、前記1以上の増厚板及び当該増厚板と重なる基板部分のうちの少なくとも一つを板厚方向に屈曲することで、前記燃焼室孔の周方向に沿って連続的又は断続的に凹部を形成したことを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項4によるガスケットは、請求項2において、前記凹部を形成した部材の裏面に第2の凹部を形成し、前記凹部と前記第2の凹部とは、板厚方向から見てずれていることを特徴とする。
凹部を形成した重ね合わせ面の裏面にも、当該凹部と板厚方向から見てずらして第2のう凹部を形成することで、当該凹部を形成した部材が荷重の大きさに応じて潰れやすくなる。
【0008】
本発明の請求項5によるガスケットは、請求項2又は4において、前記凹部は、前記増厚部と重なる基板部分に形成されており、当該基板部分は、当該凹部以外の部分が、基板の平坦部よりも板厚方向に突出して形成されていることを特徴とする。
このように、突出させることで、凹部以外の部分に荷重が集中しやすくなると共に、荷重がかかった場合に突出させずに平坦部にそのまま凹部を形成する場合に比べて、突出部分の肉が凹部に逃げやすくなるため、前記増厚部と重なる基板部分が荷重の大きさに応じて潰れやすくなる。
【0009】
本発明の請求項6によるガスケットは、請求項2〜5のいずれかにおいて、前記増厚板を、前記基板に連続する前記薄肉金属板から構成し、当該薄肉金属板を前記燃焼室孔周囲で折り返して前記基板に重ねることで、前記増厚部を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、増厚部の面圧を均等にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態のガスケット10を示す平面図である。先ず、その構成について説明する。
本実施形態のガスケット10は、内燃機関のシリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面間に介装されるガスケットの一例である。このガスケット10は、薄肉金属板が基板として用いられる。薄肉金属板としては、薄肉のステンレス鋼板、軟鋼板、アルミニウム板等を例示できるが、本実施形態では、安価なガスケットを提供するために軟鋼板を使用している。
【0012】
図1に示すように、基板には、燃焼室孔1、冷却液孔4、ボルト孔2及びオイル孔3が開口している。
燃焼室孔1は、基板の略中央部に長手方向に複数並んで形成されており、内燃機関の接合面に開口して複数の燃焼ガスを爆発させる燃焼室(ボア)に対応する位置にそれぞれ形成されている。
【0013】
冷却液孔4は、接合面に開口している冷却液孔に対応する位置に燃焼室孔1の外周に沿って複数開口している。また、ボルト孔2は、シリンダブロック及びシリンダヘッドにガスケット10を締結固定するボルトが挿通される位置に対応して形成される。同様に、オイル孔3は、潤滑油を通すために必要な所定の位置に対応して、ボルト孔2に近接しかつ当該ボルト孔2よりも基板の外周側に開口している。
【0014】
上記各孔の周囲には、各孔を通る燃焼ガス、冷却液、潤滑油等が接合面間に漏れるのを防止すべく第1〜第3シールラインSL1〜SL3が設定される。
第1シールラインSL1は、燃焼室孔1の周囲に形成される第1増厚部5(後述する)の外周を囲むようにして無端環状に設定される。なお、隣接する燃焼室孔1,1間では、夫々の第1シールラインSL1,SL1が合流し、1本のシールラインに統合されている。
【0015】
第2シールラインSL2は、冷却液孔4の外周側に沿って当該複数の冷却液孔4を連続する1つの領域として囲むようにして設定される。
第3シールラインSL3は、オイル孔3及び当該オイル孔3に近接形成されたボルト孔2を囲むようにして設定されている。この第3シールラインSL3は、第2シールラインSL2の外周側に配置されると共に、冷却液孔4とボルト孔2とが近接している部分では第2シールラインSL2に合流し、1本のシールラインに統合されている。
【0016】
上記第1〜第3シールラインSL1〜SL3に沿ってビードが夫々形成される。
ビードは、図2に示すように、金属ビードaと、弾性シール材b,cと、の合成から構成される。
金属ビードaは、板厚方向の一方に向けて凸状となるように基板を屈曲して形成されている。金属ビードaの形状は、本発明において限定されず種々の形状を採用しうるが、図2の切断面に示すのは、アーチ状のフルビードである。この金属ビードaのビード高さは、増厚部(後述する)よりも高くなるように設定されており、増厚部により形成される板厚方向の隙間高さまで弾性変形することによって必要なシール圧を発生可能となっている。
【0017】
弾性シール材b,cは、金属ビードaの凸部表面側及び凸部裏面側の凹部にモールド成形で形成され、金属ビードaと共に板厚方向に弾性変形して必要なシール圧を発生する。弾性シール材b,cの材料としては、例えば、フッ素ゴム、NBR、シリコーンゴム等の弾性を有するゴム材料や樹脂材料を用いることができ、流動性を有すると共に耐熱性、耐油性、耐水性を有するものを好適に用いることができる。
【0018】
具体的な形状を説明すると、凸部表面側に弾性シール材bが基板の平坦面と略平行に形成され、その高さはフルビードの高さと略同等とされている。また、凹部側には、基板の平坦面と略同一になるように弾性シール材cが充填されている。なお、金属ビードaの高さは、第1増厚部5の高さの1.1〜1.3倍の範囲の高さが好ましい。もっとも、第1増厚部5で規制されるゴムビードの最大圧縮変形量が圧縮破壊を起こす量(例えば40%以上)よりも小さく且つ目的とするバネ力が発揮可能であれば、上記範囲に限定されない。弾性シール材b,cは、金属ビードaの幅よりも広い幅で当該金属ビードaに沿って形成される。
【0019】
図1に戻り、基板には、他の部分よりも板厚を増した第1〜第3増厚部5,6,7が形成される。
第1増厚部5は、燃焼室孔1の端縁全周に、当該燃焼室孔1の端部を上側に折り返して形成されている。すなわち、この上側に折り返された円環状の折返し部分12が、本発明の増厚板に相当し、折返し部分12が重ねられる円環状の下側基板部分11と共に、第1増厚部5を形成している。この第1増厚部5により、これに沿って形成される第1シールラインSL1のビードの圧縮変形量を規制すると共に、接合面との間に生じる面圧により燃焼ガス圧をシールする。
【0020】
第1増厚部5の構造は、本発明の特徴部分であるので具体的に説明する。本実施形態では、折返し部分12は上下面共に平坦であるが、下側基板部分11は、型付けを施すことで、上下両面に夫々、周方向に延びる溝状の凹部11aが幅方向に所定の間隔をおいて複数形成されており、幅方向に沿う断面が凹凸状(波状)となっている。また、この凹部11aは、下側基板部分11の内周側から外周側に向かって上面、下面と交互に、すなわち板厚方向から見てずらして形成されており、このため凹部11aの裏面は凹部11aではなく、接合面又は折返し部分12の重ね合わせ面と接する凸部11bとなっている。なお、下側基板部分11の折返し部分12と重なり合う上面側の凸部11bは、裏面に形成される凹部11aの深さ分だけ、第1増厚部5以外の基板の平坦部よりも突出して形成されている。
【0021】
第2増厚部6は、ボルト孔2の端縁全周に、当該ボルト孔2の端部を上側に折り返して形成されている。これにより、他の増厚部5,7との間又は他の第2増厚部6との間に形成されるビードの圧縮変形量を規制する。なお、図示しないが、第2増厚部6は、基板の上下両面を平坦のまま折り返して形成されている。
第3増厚部7は、オイル孔3の周囲の第3シールラインSL3の外周側のボア中心から最も離れた基板外周端部に、当該外周端部を上側に折り返して形成される。これにより、第2増厚部6と第3増厚部7との間に形成される第3シールラインSL3のビードの圧縮変形量を規制する。なお、第3増厚部7も、第2増厚部6と同様に、基板の上下両面を平坦のまま折り返して形成されている。
【0022】
なお、上記3種類の増厚部は、第1増厚部の板厚≧第3増厚部の板厚>第2増厚部の板厚の関係となるように形成されている。このような関係の板厚とするために、例えば、第2及び第3増厚部6,7について、基板を折り返した後、鍛造又はプレス等の塑性加工によりその板厚を薄くしている。また、上記増厚部5,6,7とビードは、上述のように増厚部により形成される板厚方向隙間高さよりも、ビードの方が高くなるように形成される。
【0023】
次に、本発明の作用及び効果について説明する。
上記構成のガスケット10を、エンジンを構成するシリンダブロックの接合面とシリンダヘッドの接合面との間に、ボルト孔2を貫通する締付けボルトで締め付けて装着する。
このとき、ボルトの締付け荷重のほとんどを増厚部5,6,7で受ける。中でも、板厚が最も厚い第1増厚部5は、締付け荷重が集中し、シール部分のうちで最も面圧が高くなる。この締付け荷重により、第1増厚部5の下側基板部分11は、下方の接合面及び上方の折返し部分12に挟まれて、凹凸形状を平坦にするような板厚方向への圧縮力を受ける。このとき、接合面や折返し部分12に接する凸部11bは、平坦にする場合よりも接触面積が小さいため面圧が集中する共に、凸部11bの裏面は凹部11aとなり、当該凸部11bに連続する部分は裏面側で接合面や重ね合わせ面と接する凸部11bを形成しているため、両面側から異なる位置で押されることで平坦状に潰れやすい構造となっている。また、上面側に形成された凸部11bが基板平坦部よりも板厚方向に突出することで、当該凸部11bに荷重がかかりやすくなり、また荷重がかかったときに、基板の平端部に連続して凹部を形成する場合に比べて凸部11bの肉が凹部11aに逃げやすい構造となるため、潰れやすくなっている。一方、折返し部分12は、上方の接合面及び下方の下側基板部分11に挟まれて、下側基板部分11の凹部11aに対向する部分が当該凹部11aとの間の板厚方向隙間(空洞)に潜り込むように、変形する。
【0024】
このように、締付け荷重により折返し部分12や下側基板部分11が変形することで、接合面や折返し部分12と下側基板部分11の凹部11bとの間に形成された板厚方向隙間が減じ、この減じた分T1だけ、第1増厚部5の板厚も当初(締付け荷重が0の場合)の板厚T0から減少する。この変形の度合いは、当該変形が生じる部位における面圧の大きさに応じたものとなり、面圧が大きくなる部分で変形が大きく、最大で下側基板部分11が完全に平坦となるほど変形するのに対し、面圧が小さい部分では変形が小さく、下側基板部分11の凹凸形状が僅かに撓む程度である。この結果、板厚が各部における面圧の大きさに応じた厚さとなり、面圧の大きい部分ほど板厚が薄く、最大で凹部11aに形成した板厚方向隙間分板厚が薄くなる。
【0025】
以上により、第1増厚部5では、一般的に締付け位置であるボルト孔2近傍の方が、ボルト孔2から離れた部分(例えば、隣接する燃焼室孔1,1の間)よりも面圧が大きくなることから、板厚もボルト孔2近傍で薄く、ボルト孔2から離れた部分でそれよりも厚くなり、締付けた際の面圧に応じて自然に板厚に抑揚(変化)が発生する。このように、第1増厚部5の板厚が薄くなると、締付け荷重はそれよりも板厚の厚い部分に集中するようになるため当該薄い部分で受ける荷重が低減し、第1増厚部5の面圧は、ボルト孔2近傍とそれよりも離れた部分とに関わらず均等になる。このように面圧を均等にすることで、燃焼室の真円度を向上させることができ、燃焼室の真円度が損なわれることによるパワーロスやオイル消費の増大を防止できる。また、一部の面圧が過度に大きくなることによる接合面の陥没の発生等も防止できる。すなわち、面圧が大きくなる部分を予測して当該部分を予め薄くしておく従来の方法に比べると、本実施形態では、上記のように第1増厚部5全体に面圧の大きさに応じて板厚が薄くなる変形をするような加工を施し、実際の荷重のかかり具合により自然に抑揚を生じさせているので、より確実に面圧を均等化することができる。
【0026】
以上のようにして、第1増厚部5では、最大の締付け荷重を受け、このとき発生する均等な高面圧により最もシール圧の高い燃焼室での爆発燃焼圧を十分にシールする。
同様に、その他の増厚部6,7でも、第1増厚部5よりも小さい締付け荷重を受ける。このとき、各シールラインSL1,SL2,SL3に沿って形成されたビードは、増厚部により形成される板厚方向隙間の高さまで弾性シール材及び金属ビードが圧縮変形し、その弾性反発力によりに所定のシール圧を発生してシールする。
【0027】
また、夫々の増厚部の高さは、上記のように第1増厚部の板厚≧第3増厚部の板厚>第2増厚部の板厚の関係に設定され、第3増厚部7の板厚が第2増厚6より大きい。このため、第3増厚部7で受ける荷重は比較的大きく、接合面の外周側部分は、第3増厚部7に押されて接合面間が開く方向にわずかに撓む状態となる。このように予め口開き状態にしておくことで、エンジンの始動直後に燃焼室とエンジン外周側部分で熱膨張差が生じてもそれ以上に接合面間が開くのを防止できるので、シール漏れやシールの劣化を抑制できる。
【0028】
以上、実施形態について説明したが、本発明の適用はこれに限定されない。
例えば、第1増厚部5は、図2に示すように周方向に連続的に凹部11aを形成したものに限られず、例えば図3に示すように周方向に断続的に凹部11aを形成してもよい。図3の第1増厚部5は、円環状の型を用いた型付けにより形成されたものであり、下側基板部分11の上下面には夫々、平面視で円環状の凹部11aが周方向に沿って複数形成されている。また、凹部11aは円環の中心が板厚方向から見て上下面でずれるように形成されている。このため、一部では、凹部11aの裏面に当該裏面側で接合面や重ね合わせ面に接する円柱状の凸部11bが形成され、また当該凸部11bに連続して当該凹部11aの形成面側で接合面等に接する別の凸部11bが、当該凹部11aの周囲に形成され、下側基板部分11が潰れやすい形状にされている。この状態で締付け荷重がかかると、下側基板部分11自体が変形して凹部11aに肉が逃げると共に、折返し部分12が凹部11a側に潜り込むように変形する。これらの変形により、締付け荷重の大きいところでは第1増厚部5の板厚が薄くなることで面圧を均等化し、燃焼室の真円度を確保することができる。なお、図2のように形成させると、より面圧の大きさに応じて潰れやすくなる。
【0029】
また、本発明は下側基板部分11の上下両面に凹部を形成したものに限られず、例えば図4に示すように下側基板部分11の上面、すなわち折返し部分12との重ね合わせ面にのみ凹部を形成してもよい。図4の第1増厚部5は、底面が菱形の四角錘状の凸型を用いた型付けにより形成されたものであり、下側基板部分11の上面に、上記底面を折返し部分12側に向けたいわゆる逆四角錘状の凹部11aが、幅方向及び周方向に複数形成されている。この状態で締付け荷重がかかると、折返し部分12と接する下側基板部分の凸部11bが、折返し部分12に押されることで板厚方向隙間で倒れるように変形すると共に、折返し部分12も板厚方向隙間に潜り込むように変形する。これらの変形により、締付け荷重の大きいところでは第1増厚部5の板厚が薄くなることで面圧を均等化し、燃焼室の真円度を確保することができる。なお、凹部をこのように形成する場合、下側基板部分11の凸部11bが逃げる位置を確保し、また凸部11bが潰れ易くなるように、凹部11aと折返し部分12との間の板厚方向隙間を、図2や図3の場合よりも大きく形成することが好ましい。この点、図4に示すように逆四角錘状にすると、重ね合わせ部分に近くなるほど大きな板厚方向隙間が形成されるので好ましい。
【0030】
さらに、本発明は凹部とこれに対向する接合面や重ね合わせ面との間に形成される板厚方向隙間は空隙とする場合に限定されず、図5に示すようにこの板厚方向隙間に弾性体を充填してもよい。図5の第1増厚部5は、下側基板部分11の上下両面に夫々、周方向に連続する溝状の凹部11aが複数形成されている。また、下面の外周側に形成された凹部11aは、金属ビードaの凹部に繋がっており、このため当該金属ビードaの凹部に充填される弾性シール材cが、下側基板部分11下面の凹部11aにも充填されている。これにより、下側基板部分11の下面が滑らかになるので接合面に接したときに凹凸の一部に面圧が集中するのを防止でき、また第1増厚部5のシール作用が向上する。
【0031】
また、上記の例では、第1増厚部5の幅方向の一部に凹部11aを形成しているが、凹部11aを第1増厚部5の幅と同幅に形成してもよい(図示せず)。この場合には、周方向に沿う断面が凹凸状(波状)となるように、凹部を周方向に断続的に形成させる。
また、下側基板部分11に凹凸を形成した場合についても述べたが、折返し部分12(すなわち、増厚板の方)に同様の凹凸を、下側基板部分11に形成するのに代えて又は下側基板部分11に形成するのと併せて形成してもよい。
【0032】
また、第1増厚部5を折り返して形成する場合のみ説明したが、例えば、燃焼室孔1周縁の基板端部を挟み込むようにしてグロメットを装着することで、第1増厚部5を形成してもよい。この場合、グロメットが本発明の増厚板に相当し、少なくともグロメット及び基板の重ね合わせ面のいずれかに凹部を形成する。さらに、例えば図7に示すように基板10′,10′及び副板13を積層させてガスケット10を形成する場合には、第1増厚部5を構成する副板13の折返し部13aの上下両面に凹部11aを形成したり(同図(a)参照)、当該折返し部13aの重ね合わせ面の一方に凹部11aを形成したり(同図(b)参照)。
【0033】
また、図2〜図5に示すように、シールラインに沿って金属ビード及び弾性シール材を形成したガスケット10に限らず、図7に示すようにシールラインに沿って金属ビードのみを形成したガスケット10にも本発明を適用可能である。
また、上記の例では凹部11aを周方向全周にわたって形成しているが、周方向の一部に、連続的又は断続的に形成してもよい。このほか、図3や図4の場合には第1増厚部の全周に凹部11aを同等の周方向間隔で形成するが、これに限られず特に高面圧となることが予測される部分の周囲に重点的に密な間隔で凹部11aを配置してもよい。
【0034】
また、上記実施形態では増厚部の板厚を第1増厚部の板厚≧第3増厚部の板厚>第2増厚部の板厚の関係としたが、この関係に限定されず、例えば第1増厚部の板厚>第2増厚部の板厚≧第3増厚部の板厚などとしてもよいのは勿論である。
さらに、上記実施形態では第1増厚部5にのみ本発明を適用しているが、ボルト孔2周縁に形成する第2増厚部6に本発明を適用してもよい。例えば上記のように増厚部を第1増厚部の板厚>第2増厚部の板厚≧第3増厚部の板厚となるように形成した場合には、接合面が第1増厚部5から第2増厚部6にかけて板厚方向にわずかに傾くことで、第2増厚部7のうち基板外周側(燃焼室から離隔した側)で受ける荷重の方が燃焼室孔1側より大きくなる。従って、本発明を適用することで、燃焼室孔1から遠い側の板厚が薄くなり、面圧が均等化され比較的剛性の弱い外周側の接合面が陥没するのを防止することができる。
【0035】
また、上記実施形態では、凹部を他の部分よりも薄肉とすることで形成していたが、これに限定されず、例えば、増厚板または増厚板と重なる基板部分のいずれか又は双方を板厚方向に屈曲することで、当該屈曲させた部材に凹部を形成させてもよい。このような凹部を形成したガスケットの例を図6及び図7(c),(d)に示す。
図6のガスケット10は、下側基板部分11及び折返し部分12を板厚方向上側に凸状となるように屈曲してなる曲げ部14が周方向に沿って連続的に形成され、これにより接合面と接する下側基板部分11の面に凹部14aが形成され、折返し部分12の上面に凸部14bが形成されている。この曲げ部14は、板厚方向荷重により変形し、面圧に応じた高さとなるものであり、これにより第1増厚部5に自然に面圧に応じた抑揚が生じる。
【0036】
また、図7(c)及び(d)のガスケットは、副板13に向かって凸状となるように基板10′,10′を屈曲してなる曲げ部15が周方向に連続的に形成され、基板10′,10′の副板13に向く面に凸部15aが形成され、接合面に向く面に凹部15bが形成されている。なお、同図(c)は曲げ部15を2条形成したものであり、第1増厚部5が幅広な場合にも対応できる。これらの曲げ部15も同様に、板厚方向荷重により変形し、面圧に応じた高さとなるものであり、これにより第1増厚部5に自然に面圧に応じた抑揚が生じる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施形態のガスケットを示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面の紙面左側半分を示す図である。
【図3】本発明に係る他のガスケットを示す断面図である(図1のA−A線断面の一部)。
【図4】本発明に係る他のガスケットを示す断面図である(図1のA−A線断面の一部)。
【図5】本発明に係る他のガスケットを示す断面図である(図1のA−A線断面の一部)。
【図6】本発明に係る他のガスケットを示す断面図である(図1のA−A線断面の一部)。
【図7】(a)〜(d)は本発明を積層型のガスケットに適用した場合を説明する。
【符号の説明】
【0038】
1 燃焼室孔、2 ボルト孔、3 オイル孔、4 冷却液孔、10 ガスケット、10′ 基板,11 下側基板部分、11a 凹部、11b 凸部、12 折返し部分、13a 副板,14,15 曲げ部、14a,15a 凹部、14b,15b 凸部、a 金属ビード、b,c 弾性シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉金属板からなる基板に、他の部分よりも板厚の厚い増厚部を形成したガスケットにおいて、
前記増厚部内部に、当該増厚部の延設方向に沿って連続的又は断続的に空洞を形成したことを特徴とするガスケット。
【請求項2】
前記基板に燃焼室孔が開口し、
前記増厚部は、前記燃焼室孔周囲の基板部分に、1以上の増厚板を重ねて燃焼室孔周囲に形成され、
前記1以上の増厚板及び当該増厚板と重なる基板部分の互いに重なり合う重ね合わせ面のうちの少なくとも一つに、前記燃焼室孔の周方向に沿って連続的又は断続的に凹部を形成することで、前記空洞を形成したことを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
薄肉金属板からなる基板に、他の部分よりも板厚の厚い増厚部を形成したガスケットにおいて、
前記基板に燃焼室孔が開口し、
前記増厚部は、前記燃焼室孔周囲の基板部分に、1以上の増厚板を重ねて燃焼室孔周囲に形成され、
前記1以上の増厚板及び当該増厚板と重なる基板部分のうちの少なくとも一つを板厚方向に屈曲することで、前記燃焼室孔の周方向に沿って連続的又は断続的に凹部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のガスケット。
【請求項4】
前記凹部を形成した部材の裏面に第2の凹部を形成し、
前記凹部と前記第2の凹部とは、板厚方向から見てずれていることを特徴とする請求項2に記載のガスケット。
【請求項5】
前記凹部は、前記増厚部と重なる基板部分に形成されており、当該基板部分は、当該凹部以外の部分が、基板の平坦部よりも板厚方向に突出して形成されていることを特徴とする請求項2又は4に記載のガスケット。
【請求項6】
前記増厚板を、前記基板に連続する前記薄肉金属板から構成し、
当該薄肉金属板を前記燃焼室孔周囲で折り返して前記基板に重ねることで、前記増厚部を形成したことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−120719(P2007−120719A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317091(P2005−317091)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000230261)日本メタルガスケット株式会社 (27)
【Fターム(参考)】