説明

ガスセンサ、反応性ガス漏洩検知器および検知方法

【課題】簡易な原理に基づき、使い切りで、コンパクトかつ安価な反応性ガス漏洩検知用ガスセンサおよび該ガスセンサを備えた反応性ガス漏洩検知器を提供するとともに、簡易であるが信頼性の高い、反応性ガス漏洩検知方法を提供する。
【解決手段】反応性ガスとの接触により反応し切断され得る信号線部材を備えたことを特徴とするガスセンサ、該ガスセンサと該ガスセンサ内の信号線部材の切断の有無を検出する手段とを備えた反応性ガス漏洩検知器、ならびに該ガスセンサを用いて、漏洩した反応性ガスを、該ガスセンサの信号線部材に接触させ、該信号線部材を反応させて切断し、該信号線部材の切断を検出することにより反応性ガスの漏洩を検知する反応性ガスの漏洩検知方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性ガスの漏洩検知に好適なガスセンサ、該ガスセンサを備えた反応性ガス漏洩検知器、および該ガスセンサを用いた反応性ガスの漏洩検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス漏洩検知器(サンプリング機能を含めたガスセンサを中心とするガスモニターおよび警告システム)は、有毒ガスの漏洩が懸念される場所で広く用いられてきた。たとえば、半導体製造工場や液晶製造工場などでは、クリーンルームなどの外気と遮断された構造の場所に設置される成膜装置やエッチング装置などに反応性の高い有毒ガスを用いることが多いため、これらのガス供給システムの要所要所にガス漏洩検知器を設置し、ガス供給システムやクリーンルーム内の有毒ガス漏洩の有無についての監視を常時行なっている。
【0003】
従来、このようなガス漏洩検知器のガスセンサとしては、定電位電解方式やテープ(試験紙)光電光度法方式などの原理に基づくガスセンサ、陽イオン放出型ガスセンサなどが提案されており、その感度および精度の高さから定電位電解型ガスセンサが現在のところ一般的に用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
しかし、これら従来のガスセンサおよびこれを備えたガス漏洩検知器は、有毒ガスの検知という目的のため、人体に対するそのガスの毒性の許容濃度以下の低濃度で検知するよう設計されており、高感度かつ高精度である一方で、ガスセンサおよびガス漏洩検知器全体の構造が複雑で高価な上に、定期的にガスセンサの交換や検知器のメンテナンスが必要で煩雑であるという問題点がある。
【0005】
また、ガスセンサ自体が大きく、漏洩の可能性のある場所に直接ガスセンサを設置できなかったり、ガス拡散によるガスセンサへの漏洩ガスの到達に時間がかかったりする場合があり、これらの場合には、吸引ポンプでガスサンプリングし、漏洩ガスをガスセンサに導くサンプリングシステムが別途必要となり、さらなる装置の大型化や高コスト化につながる。
【0006】
さらに、サンプリングシステムを設けた場合でも、広範囲または多点数の検知を行なうには、検知したい複数の箇所まで複数のサンプリングチューブを導く必要があり、確実に各ポイントのサンプリングを行なうためにサンプリング用ポンプを複数使用したり、切り替えバルブにより時間を区切ってサンプリングするシステムを使用したりする必要がある。しかも、このような対策をしてもひとつのガス漏洩検知器で複数のポイントをモニターするには限界がある。
【0007】
一方、多数のガス漏洩検知器を用いたとしても、人体に有毒ガスが触れる可能性がないような場合、つまり毒性ガスの人体への許容濃度以下での検知が必要ない場合にも、上記と同じ原理のガスセンサを備えたガス漏洩検知器を用いていては、設備の大型化、複雑化および高コスト化を避けることはできない。とくに、ガス漏洩による火災の危険性などの状況把握やガス漏洩箇所の特定をするには、多数のガス漏洩検知器、多数のガス漏洩検知器とガス供給システム等を組み合わせた複雑なシステムが必要であり、設備の大型化、複雑化および高コスト化の問題はより顕著となる(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−333164号公報
【特許文献2】特開平6−102136号公報
【特許文献3】特開2000−81200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決し、漏洩した反応性ガスとの接触により信号線部材が反応性ガスと反応し切断されたことを検出することにより、反応性ガスの漏洩を検知するという簡易な原理に基づき、使い切りで、コンパクトかつ安価なガスセンサおよび該ガスセンサを備えた反応性ガス漏洩検知器を提供することを課題としている。
【0009】
また、本発明は、簡易であるが信頼性の高い、反応性ガス漏洩検知方法を提供することを課題としている。
すなわち、本発明は、人体に有毒ガスが触れる可能性がないような場合、あるいは既存の有毒ガス漏洩検知器と併用しこれを補助する場合を想定し、装置単独で漏洩ガスの人体への毒性上の許容濃度以下で検知することを必ずしも必要とせず、反応性ガスによる事故やトラブルを未然に防ぐために、反応性ガスと他の部材との接触による燃焼開始の下限濃度に至る前や、反応性ガスの燃焼範囲の下限でガスの漏洩を検知できる、簡易でコンパクトかつ安価な反応性ガス漏洩検知装置、ならびに該装置を使用した反応性ガス漏洩検知方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
具体的には、本発明は、以下の事項に関する。
(1) 反応性ガスとの接触により反応し切断され得る信号線部材を備えたことを特徴とするガスセンサ。
【0011】
(2) 開口部を有する略筒状の保護カバー部材と、該保護カバー部材の長手方向の両端に取り付けられた端子部材と、該保護カバー部材と両端子部材とによって形成された空間内に位置し、該保護カバー部材と接触しないように両端子部材を直接または導線部材を介して接続している前記信号線部材とを備えたことを特徴とする、上記(1)に記載のガスセンサ。
【0012】
(3) 前記信号線部材が、フィラメント状、薄膜状、網状、筒状、網の筒状から選ばれるいずれかの形状であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のガスセンサ。
【0013】
(4) 前記信号線部材が、フィラメント状の部材であって複数本が並列して構成されていることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載のガスセンサ。
(5) 前記信号線部材が、金属および/または炭素を含有してなることを特徴とする、上記(1)に記載のガスセンサ。
【0014】
(6) 前記信号線部材が、タングステン、モリブデン、チタン、鉄、鉛、スズ、マグネシウム、カーボンスチール、銅、タンタル、黄銅、アルミニウムから選ばれるいずれかの材料を含有してなることを特徴とする、上記(1)に記載のガスセンサ。
【0015】
(7) 前記反応性ガスが、酸化性ガス、酸性ガス、塩基性ガス、可燃性ガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、上記(1)に記載のガスセンサ。
(8) 前記酸化性ガスが、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素およびインターハロゲンから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、上記(7)に記載のガスセンサ。
【0016】
(9) 前記酸性ガスが、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、ならびに、大気中の水分と反応してフッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素を生じるガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、上記(7)に記載のガスセンサ

【0017】
(10) 前記塩基性ガスが、アンモニアであることを特徴とする、上記(7)に記載のガスセンサ。
(11) 上記(1)〜(10)のいずれかに記載されたガスセンサと、該ガスセンサ内の信号線部材の切断の有無を検出する手段とを備えたことを特徴とする、反応性ガス漏洩検知器。
【0018】
(12) 上記(1)〜(6)のいずれかに記載されたガスセンサを用いて、漏洩した反応性ガスを、該ガスセンサの信号線部材に接触させ、該信号線部材を反応させて切断し、該信号線部材の切断を検出することにより反応性ガスの漏洩を検知することを特徴とする、反応性ガスの漏洩検知方法。
【0019】
(13) 前記反応性ガスが、酸化性ガス、酸性ガス、塩基性ガス、可燃性ガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、上記(12)に記載の反応性ガスの漏洩検知方法。
【0020】
(14) 前記酸化性ガスが、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素およびインターハロゲンから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、上記(13)に記載の反応性ガスの漏洩検知方法。
【0021】
(15) 前記酸性ガスが、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、ならびに、大気中の水分と反応してフッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素を生じるガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、上記(13)に記載の反応性ガスの漏洩検知方法。
【0022】
(16) 前記塩基性ガスが、アンモニアであることを特徴とする、上記(13)に記載の反応性ガスの漏洩検知方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガスセンサは、使い切りでコンパクトかつ安価であるが、使用する信号線部材の材質、形状などを適宜選択することによって、反応性ガスと他の部材との接触による燃焼開始の下限濃度に至る前や、反応性ガスの燃焼範囲の下限でガスの漏洩を検知できるようにセンサ感度を調整し、反応性ガス漏洩による事故やトラブルを未然に防ぐことができる。したがって、本発明のガスセンサは、人体に有毒ガスが触れる可能性がないような場合、あるいは既存の有毒ガス漏洩検知器と併用しこれを補助する目的の場合に、好適に用いることができる。
【0024】
さらに、本発明のガスセンサは、構造が簡略化されていることから、ガスセンサの形状を微小なものから長大なものまで比較的自由に設計でき、従来、スペースが小さくガスセンサを設置できなかった箇所や検知しにくい箇所のガス漏洩についても検知が可能である。
【0025】
また、本発明の反応性ガス漏洩検知器によれば、具備するガスセンサ自体が安価であることに加え、ガス漏洩の検知原理がガスセンサ内部の信号線部材切断の有無を検出するという簡易なものであるため、検出手段も単純なものでよく、広範囲または多点数の検知を行なう場合でも設備の大型化、複雑化および高コスト化を回避できる。
【0026】
また、本発明の反応性ガスの検知方法は、漏洩した反応性ガス自身でガスセンサ内部の信号線部材を切断し、漏洩を検知するものであるため、簡易でありながら、高い信頼性を
持って反応性ガスの漏洩を確実に検知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のガスセンサは、反応性ガスとの接触により反応し切断され得る信号線部材を備えたことを特徴としている。すなわち、漏洩した反応性ガス自身が信号線部材と反応しこれを切断し、該信号線部材の切断を検出することによって、反応性ガスの漏洩を検知するという原理に基づいている。
【0028】
本発明のガスセンサで、検知し得る反応性ガスとしては、酸化性ガス、酸性ガス、塩基性ガス、可燃性ガスなどが挙げられる。これらのガスは、有毒ガスでもあるが、人体に触れない箇所で漏洩した場合でも、火災や爆発などの事故の危険が危惧される。これらは単独でも、2種以上が混合した状態でも、本発明のガスセンサの検知対象となる。
【0029】
より具体的には、上記酸化性ガスとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン、またはインターハロゲンが例示される。これらは単独でも、2種以上が混合した状態でも、本発明のガスセンサの検知対象となる。なお、ここで、インターハロゲンとしては、三フッ化塩素、三フッ化臭素が主として挙げられるが、該例示に限る必要はない。
【0030】
また、上記酸性ガスとしては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素などのハロゲン化水素のほか、大気中の水分と反応してフッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素などのハロゲン化水素を生じるガスが例示される。これらは単独でも、2種以上が混合した状態でも、本発明のガスセンサの検知対象となる。
【0031】
大気中の水分と反応してハロゲン化水素を生じるガスとは、具体的には、四フッ化珪素、四フッ化砒素、五フッ化砒素、三フッ化リン、五フッ化リン、三フッ化ホウ素、四フッ化硫黄、六フッ化タングステン、六フッ化モリブデン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、四塩化珪素、三フッ化砒素、五フッ化砒素、三塩化リン、五フッ化リン、塩化ホスホリル、三塩化ホウ素、四塩化ゲルマニウム、四塩化錫、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、六塩化タングステン、六塩化モリブデン、または四臭化ホウ素が主として例示されるが、該例示に限る必要はない。
【0032】
また、上記塩基性ガスとしては、アンモニアなどが例示されるが、これに限定されるものではない。
また、上記可燃性ガスとしては、硫化水素などが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0033】
なお、可燃性ガスの漏洩検知に該ガスセンサを使用する場合には、その感度を、少なくとも検知対象可燃性ガスの燃焼下限値のうち、もっとも低い燃焼下限値の1/4以下に調整することが望ましく、さらに、誤作動を生じない範囲で可能な限り高感度、つまり可燃性ガスを低濃度で検知できるように調整することが望ましい。
【0034】
本発明のガスセンサに用いられる信号線部材は、上述した各反応性ガスと接触したときに反応し切断され得るものであることから、各反応性ガスに応じて個別に選定される材料を含有してなる。なお、ここで、反応性ガスと信号線部材との反応とは、広義の酸化還元反応を意味し、反応生成物が揮散するかあるいは物理的に脆弱であるため、反応後の信号部材が切断される。したがって、信号線部材の材質を検知しようとする反応性ガスとの反応性に応じて選定することによって、感度を調整することができるが、信号線部材の材料としては、通常は金属および/または炭素を主成分として含有するものが挙げられる。
【0035】
たとえば、検知しようとする反応性ガスがフッ素、三フッ化塩素であれば、タングステン、モリブデン、チタン、鉄、鉛、スズなどを含有する材料を信号線部材として使用することができ、これらのうちでは、フッ素、三フッ化塩素との反応性の点から、タングステン、モリブデン、チタンが好ましく、タングステンがより好ましい。
【0036】
たとえば、検知しようとする反応性ガスが塩化水素であれば、マグネシウム、タングステン、カーボンスチール、銅、タンタルなどを含有する材料を信号線部材として使用することができ、これらのうちでは、塩化水素との反応性の点から、マグネシウム、タングステン、カーボンスチールが好ましく、マグネシウムがより好ましい。
【0037】
たとえば、検知しようとする反応性ガスがアンモニアであれば、銅、黄銅、アルミニウムなどを含有する材料を信号線部材として使用することができ、これらのうちでは、アンモニアとの反応性の点から、銅、黄銅が好ましく、銅がより好ましい。
【0038】
これらの信号線部材の材質と反応性ガスの組み合わせは表1に例示するが、これに限定されるものではない。
【0039】
【表1】

【0040】
以下、本発明の好ましい実施態様について、必要に応じて図面を参照しながら説明する。
本発明のガスセンサの基本構造の好ましい一例を図1に示す。
【0041】
図1中、10は全体でガスセンサを示しており、該ガスセンサ10は、開口部を有する略筒状の保護カバー部材2と、該保護カバー部材2の長手方向の両端に取り付けられた端子部材4と、該保護カバー部材2と2つの端子部材4とによって形成された空間内に位置し、該保護カバー部材2と接触しないように2つの端子部材4を導線部材3を介して接続している信号線部材1とを備えている。なお、図1では、信号線部材1は、導線部材3を介して2つの端子部材4を接続しているが、導線部材3を介さず直接に2つの端子部材4を接続してもよい。このガスセンサ10は、再利用できない使い切りであるため、使用後は交換の必要がある。この交換を容易にするため、図1のフィラメント状の信号線部材1を結線した導線部材3の先の両端はヒューズの両端のような簡単な構造の端子部材4からなっており、端子部材4は電極キャップでもよく、導線部材3と接続し得る導線をガスセンサ内部と外部とで連通するように把持した構造の絶縁体製部材であってもよい。
【0042】
図1で、信号線部材1は、単数のフィラメント状の部材により構成されているが、フィ
ラメント状部材が単数の場合は、経時劣化などによる誤作動を引き起こす可能性があるため、図2(a)に示すように複数のフィラメント状部材により構成されること、より具体的には、該フィラメント状部材が複数本並列して構成されることが望ましい。なお、以下、図2〜図7において、図1と同じ構成部材には同じ参照番号を付して、説明を省略する。さらに、本明細書では、信号線部材1について、反応性ガスとの反応により切断するという発明の本質を表すために信号「線」部材という表現を用いているが、漏洩ガスと反応して切断されうる形状であれば、必ずしもフィラメント状に限定されることはなく、図2(b)〜(e)に示すように、薄膜状、網状、筒状、網の筒状等の形状であってもよい。これらの形状や太さを適宜選択することにより、ガスセンサとしての感度を調整することができる。
【0043】
例えば、100%(v/v)フッ素が、信号線部材であるタングステン製の直径0.2mmのフィラメントと接触した場合には、フッ素とタングステンとが瞬時に反応して、六フッ化タングステンとなり、揮散して、フィラメントを切断する。そして、窒素等で希釈されシリンダーとして販売されている20%(v/v)フッ素でも、信号線部材のタングステン製フィラメントと直接接触すれば、そのフィラメントを直ちに切断する。しかし、フィラメントを鉄や亜鉛、鉛とした場合は感度が低下し、フッ素に対し耐食性のあるアルミ、銅、ニッケルなどを用いた場合はかなり感度が落ちるか、充分な太さがある場合は切断には至らない。よって、信号線部材の形状や太さに加えて、信号線部材の構成物質の構成比を合金として変化させることにより、高反応性ガスの検知感度をある程度自由かつ正確に設定することができる。
【0044】
また、図1で、保護カバー部材2は、信号線部材1に、検知しようとする反応性ガス以外の何かが誤って触れるなどの物理的要因で、信号線部材1が切断されるのを防ぐために設けられており、漏洩した反応性ガスが信号線部材1に接触するように開口部を有している。
【0045】
保護カバー部材2は、外部から信号線部材1の切断を視認できるよう、透明性を有する材料から構成されていることが望ましい。たとえば、ガラス製や、PTFEなど透明性を有したフッ素系樹脂製などの保護カバー部材が挙げられる。これらのうちでは、ガラス製の保護カバー部材が望ましい。
【0046】
透明塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂なども保護カバー部材2の材料として用いることはできるが、漏洩ガスがフッ素や三フッ化塩素など酸化性の強いガスの場合には、これらの材料で構成された保護カバー部材が、燃焼し、類焼を引き起こす危険性があるので、漏洩ガスの種類によっては利用を避けることが望ましい。
【0047】
さらに、本発明のガスセンサでは、信号線部材1に漏洩した反応性ガスが直接接触することが不可欠であるので、保護カバー部材2には開口部が設けられている。なお、保護カバー部材2内のガスの通気性、置換性を向上させるために、開口部は複数設けられることが好ましく、さらに複数の開口部を設ける場合には、略筒状の保護カバー部材の長軸対象位置に設けられることがより好ましい。保護カバー部材2の開口部の形状、位置、および数は、図1に示したものに限定されず、種々の例が挙げられる。これらの例を図3(a)〜(d)に示す。また、保護カバー部材2全体の形状は、該保護カバー部材の長手方向の両端に2つの端子部材が取り付けられたときに、空間を形成しうるように、略筒状であればよく、円筒状であっても、四角形の中空断面形状を有する筒状などの多角形の中空断面形状を有する筒状であってもよい。また、保護カバー部材の厚みは、ガスセンサ全体の大きさや強度を勘案して適宜決定できる。
【0048】
次に、このガスセンサと、該ガスセンサ内の信号線部材の切断の有無を検出する手段と
を備えた反応性ガス漏洩検知器の概念図の一例を図4に、回路図の一例を図5に示す。
図4中、20は全体で反応性ガス漏洩検知器を示す。該反応性ガス漏洩検知器20は、電源13と2つのガスセンサ10を有しており、ガスセンサ10はリレーバリア11に接続され、高電圧を負荷しても、ガスセンサ10内部の信号線部材には低電圧の負荷しか掛からないように構成されている。このように構成することにより、漏洩した反応性ガスが引火するなどの危険を回避あるいは低減できる。リレーバリア11は、リレー類によって制御されたシーケンサ15に接続されており、該シーケンサ15の制御によって、パイロットランプ、ブザー、検知ランプ、メンテランプ(メンテナンスランプ)などが独立にあるいは重畳的に稼動する。さらに外部装置に警報が出力され、反応性ガスの漏洩に応じて、外部装置を停止させるなどの措置をとることができるように構成されている。
【0049】
なお、リレーバリアは本質的な防爆対策とはならないので、可燃性ガスの漏洩検知に該ガスセンサを使用する場合には、その感度を、少なくとも検知対象可燃性ガスの燃焼下限値のうち、もっとも低い燃焼下限値の1/4以下に調整することが望ましく、さらに、誤作動を生じない範囲で可能な限り高感度、つまり可燃性ガスを低濃度で検知できるように調整することが望ましい。
【0050】
また、図4の概念図では、ガスセンサ内の信号線部材の切断の有無を検出する手段としては、シーケンサ15やこれに連動するブザー、検知ランプなどが挙げられているが、該信号線部材の切断が検出できる限り他のどのような公知の手段でもよい。
【0051】
図5の回路図においても、ガスセンサ10はリレーバリアに接続されており、ガスセンサ10には低電圧の負荷しか掛からないように構成されている。漏洩した反応性ガスとの接触により、ガスセンサ10内部の信号線部材(たとえばフィラメント)が切断すると、リレーバリアが作動して、リレー1に信号が流れる。リレー1は、ガスセンサ10が稼動するまではON状態であるが、ガスセンサ10の稼動に連動して送られるリレーバリアからの信号により、OFFとなり、リレー1がOFFとなることによって、NC接点R1およびR2がONとなり、ブザーが稼動し、異常を知らせる(ガスセンサ10内部の信号線部材の切断を検出する)。またこれと同時に、NO接点R1およびR3がOFFとなり、検知ランプ(レッドランプ)が点灯し、異常を知らせる(ガスセンサ10内部の信号線部材の切断を検出する)。これらを解除するには、ブザー停止PB(プッシュボタン)およびリセットPB(プッシュボタン)をそれぞれ押して、リレー2およびリレー3を稼動させる。また、リレー3に接続された他のNO接点R3により、外部装置に異常を伝えることができる。なお、ガスセンサ10が稼動した場合には、ガスセンサ10は使いきりであるため、これを交換する必要があるが、交換時にはメンテナンススイッチを入れ、バイパスする。
【0052】
また、本発明のガスセンサを複数個並列あるいは直列に配列し、ひとつのモニター警報部に出力することにより複数のサンプリングポイントを同時に監視することもできる。ただし、この場合は漏洩箇所をモニター部では特定できない。この場合のガスセンサ配列の例を図6(a)〜(c)に示す。
【0053】
また、図7(a)に示すように、配管内部に長尺なガスセンサを設置した場合には、配管のどの位置で漏洩があっても漏洩を検知できるシステムを構成できる。具体的には、たとえば、ガスシリンダー21とバルブ22を備えたシリンダーキャビネット23から供給され、ガス二重配管24を介して集合バルブボックス25に送られるガス供給装置において、ガス二重配管24の内管26と外管27の間隙部に、ガスセンサ10を配管の長さに合わせ、長いフィラメント製の信号線部材と長いPFA(フッ素樹脂)製保護カバーとを有する長尺なガスセンサとして構成することにより、配管のどの位置で漏洩があっても漏洩をモニター部29に伝えることによって、検知できるシステムを構成できる。ただし、この場合にも漏洩箇所をモニター部29では特定できない。
【0054】
これに対して、図7(b)は図7(a)の点線で囲んだ部分の構成を変えた例であるが、この図7(b)に示すように、互いに位置をずらして配置された複数のガスセンサ10を用い、信号線部材の切断の有無をモニター部29で個々に検出すれば、ガス二重配管24の漏洩箇所(範囲)の特定も可能である。
【0055】
なお、本発明のガスセンサが稼動した場合には、ガス配管の破損や腐食によるガスの漏洩が考えられるため、配管の点検およびメンテナンスと共に、該ガスセンサを交換する。この場合でも、本発明ではガスセンサ自体の構成が簡略で安価であるため、煩雑な手間は掛からず、コスト的にも有利である。
【0056】
上述したように、本発明のガスセンサを用いたガス漏洩検知のシステムにおいて、ガスセンサは、例えば反応性ガスのシリンダーのバルブ付近、シリンダーキャビネット内、除害装置筐体内、除害装置の中間・出口のガスモニター部、排気ダクトの中、ドラフトのガス吸引部、ガス二重配管の内管と外管の間隙部などに設置することができる。
【0057】
このようなガスセンサを用いて、漏洩した反応性ガスを、該ガスセンサの信号線部材に接触させ、該信号線部材を反応させて切断し、該信号線部材の切断を検出することにより反応性ガスの漏洩を検知する方法が実現できる。より具体的には、漏洩した反応性ガスを、該ガスセンサの保護カバー部材に設けられた開口部を通じて信号線部材に接触させ、該信号線部材を切断させることにより反応性ガスの漏洩を検知する反応性ガスの漏洩検知方法が提供される。ガスセンサ内の信号線部材の切断の有無を検出する手段としては、上述したように、シーケンサやこれに連動するブザー、検知ランプなどが挙げられるが、該信号線部材の切断が検出できる限り他のどのような公知の手段でもよい。
【0058】
該反応性ガスの漏洩検知方法は、ガスセンサに使用する信号線部材の材質、形状、太さなどを検知しようとする反応性ガスの性質と反応性の強さにより適宜調整することにより、その感度を調整できることから、簡易でありながらも、高い信頼性を持って反応性ガスの漏洩を検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、本発明のガスセンサの一例を示す概略側面図である。
【図2】図2は、本発明のガスセンサを構成する信号線部材の形状の例を示す概略側面図である。
【図3】図3は、本発明のガスセンサを構成する保護カバー部材の形状の例を示す概略側面図である。
【図4】図4は、本発明の反応性ガス漏洩検知器の一例を示す概念図である。
【図5】図5は、本発明の反応性ガス漏洩検知器の一例の回路図である。
【図6】図6は、本発明のガスセンサの配列構成の一例を示す概略図である。
【図7】図7は、本発明のガスセンサの使用状態の一例を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 :信号線部材
2 :保護カバー部材
3 :導線部材
4 :端子部材
10:ガスセンサ
11:リレーバリア
13:電源
15:シーケンサ
20:反応性ガス漏洩検知器
21:ガスシリンダー
22:バルブ
23:シリンダーキャビネット
24:ガス二重配管
25:集合バルブボックス
26:内管
27:外管
29:モニター部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性ガスとの接触により反応し切断され得る信号線部材を備えたことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
開口部を有する略筒状の保護カバー部材と、該保護カバー部材の長手方向の両端に取り付けられた端子部材と、該保護カバー部材と両端子部材とによって形成された空間内に位置し、該保護カバー部材と接触しないように両端子部材を直接または導線部材を介して接続している前記信号線部材とを備えたことを特徴とする、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記信号線部材が、フィラメント状、薄膜状、網状、筒状、網の筒状から選ばれるいずれかの形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記信号線部材が、フィラメント状の部材であって複数本が並列して構成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記信号線部材が、金属および/または炭素を含有してなることを特徴とする、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記信号線部材が、タングステン、モリブデン、チタン、鉄、鉛、スズ、マグネシウム、カーボンスチール、銅、タンタル、黄銅、アルミニウムから選ばれるいずれかの材料を含有してなることを特徴とする、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記反応性ガスが、酸化性ガス、酸性ガス、塩基性ガス、可燃性ガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記酸化性ガスが、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素およびインターハロゲンから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、請求項7に記載のガスセンサ。
【請求項9】
前記酸性ガスが、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、ならびに、大気中の水分と反応してフッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素を生じるガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、請求項7に記載のガスセンサ。
【請求項10】
前記塩基性ガスが、アンモニアであることを特徴とする、請求項7に記載のガスセンサ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載されたガスセンサと、該ガスセンサ内の信号線部材の切断の有無を検出する手段とを備えたことを特徴とする、反応性ガス漏洩検知器。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれかに記載されたガスセンサを用いて、漏洩した反応性ガスを、該ガスセンサの信号線部材に接触させ、該信号線部材を反応させて切断し、該信号線部材の切断を検出することにより反応性ガスの漏洩を検知することを特徴とする、反応性ガスの漏洩検知方法。
【請求項13】
前記反応性ガスが、酸化性ガス、酸性ガス、塩基性ガス、可燃性ガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、請求項12に記載の反応性ガスの漏洩検知方法。
【請求項14】
前記酸化性ガスが、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素およびインターハロゲンから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、請求項13に記載の反応性ガスの漏洩検
知方法。
【請求項15】
前記酸性ガスが、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、ならびに、大気中の水分と反応してフッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素を生じるガスから選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする、請求項13に記載の反応性ガスの漏洩検知方法。
【請求項16】
前記塩基性ガスが、アンモニアであることを特徴とする、請求項13に記載の反応性ガスの漏洩検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−178377(P2007−178377A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379637(P2005−379637)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】