説明

ガスセンサ

【課題】 1本の出力系統を介して外部電子機器に接続しつつ、被検出ガスに基づく出力と、内蔵されるガス検出素子の異常に基づく出力と、を出力可能なガスセンサを提供する。
【解決手段】 水素を検出する基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bと、これら検出素子が異常であるか否かを判定する異常判定部66と、各検出素子の出力のいずれかを選択する出力選択部67と、選択された検出素子の出力を、1本の出力系統を介してECU20に出力する出力回路68と、を備え、出力選択部67は、異常判定部66が正常であると判定した検出素子の正常出力を選択し、出力回路68は、異常判定部66が異常判定をした場合、出力選択部67が選択した検出素子の正常出力と、異常判定された検出素子に対応した異常出力と、を切り替えて出力する水素センサ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1本の出力系統を介してECU(Electronic Control Unit、電子制御装置)などの外部電子機器に接続するガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体高分子膜型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側を燃料極と酸素極で挟み込んで単セルを形成し、この単セルを複数積層して一つの燃料電池スタックを構成している。そして、燃料極には、燃料として水素が供給され、酸素極には酸化剤として空気が供給されて、燃料極で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過して酸素極まで移動し、水素イオンと酸素が電気化学反応を起こして発電する。
【0003】
このような固体高分子膜型燃料電池においては、従来、燃料電池の酸素極側の排出系にガスセンサを備え、このガスセンサによって燃料極側の水素が固体高分子電解質膜を通じて酸素極側に漏洩したことを検知する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−61244号公報(段落0020〜0042、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のガスセンサは、水素濃度に基づく出力と、内蔵されるガス検出素子の異常に基づく出力とを、ECUに出力するために、ECUと2本の出力系統を介して接続していた。
【0005】
そこで、本発明は、1本の出力系統を介して外部電子機器に接続しつつ、被検出ガスに基づく出力と、内蔵されるガス検出素子の異常に基づく出力と、を出力可能なガスセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、請求項1に係る発明は、被検出ガスを検出する複数のガス検出素子と、前記複数のガス検出素子が異常であるか否かを判定する異常判定手段と、前記複数のガス検出素子の出力から1つのガス検出素子の出力を選択する出力選択手段と、前記選択された1つのガス検出素子の出力を、1本の出力系統(出力信号線)を介して外部電子機器に出力する出力手段と、を備え、前記出力選択手段は、前記異常判定手段が正常であると判定した前記ガス検出素子の正常出力を選択し、前記出力手段は、前記異常判定手段が異常判定をした場合、前記出力選択手段が選択したガス検出素子の正常出力と、異常判定された前記ガス検出素子に対応した異常出力と、を切り替えて出力することを特徴とするガスセンサである。
【0007】
このようなガスセンサによれば、出力手段が、正常であるガス検出素子からの被検出ガスの濃度などに基づく正常出力と、異常であるガス検出素子の異常状態に対応した異常出力と、を適宜に切り替えて交互(間欠的)に出力することにより、ガスセンサと1本の出力系統を介して接続する外部電子機器は、正常出力と異常出力とを検知することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記出力手段は、前記正常出力が所定条件を満たす場合、前記異常出力を出力しないことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサである。
【0009】
このようなガスセンサによれば、正常なガスセンサからの正常出力が所定条件を満たす場合、異常出力を出力しないことにより、正常出力を出力することを優先させることができる。なお、後記する実施形態では、「所定条件を満たす場合」を、「基準検出素子50Aで検出された水素濃度が、所定水素濃度以上である場合」として例示する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記出力手段は、異常判定された前記ガス検出素子の異常状態に対応して、前記異常出力を出力する間隔を変更することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスセンサである。
【0011】
このようなガスセンサによれば、異常出力を出力する間隔を変更することにより、外部電子機器は異常状態を好適に検知することができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記出力手段は、異常判定された前記ガス検出素子の異常状態に対応して、前記異常出力の出力値を変更することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガスセンサである。
【0013】
このようなガスセンサによれば、異常出力の出力値を変更することにより、外部電子機器は異常状態を好適に検知することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、1本の出力系統を介して外部電子機器に接続しつつ、被検出ガスに基づく出力と、内蔵されるガス検出素子の異常に基づく出力と、を出力可能なガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の一実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
参照する図面において、図1は、本実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。図2は、水素センサの平面図である。図3は、図2に示す水素センサのIV−IV断面図である。図4は、ガス検出素子の斜視図である。図5は、本実施形態に係る水素センサの検出部および回路部の構成図である。図6は、本実施形態に係る水素センサの動作を説明するフローチャートである。図7は、本実施形態に係る水素センサの出力を示すグラフである。図8は、本実施形態に係る水素センサの出力を示すグラフである。
【0016】
≪燃料電池システム≫
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池システムSは、燃料電池自動車(車両)に搭載されたシステムであって、燃料電池自動車は燃料電池2の発電電力によって走行モータ(図示しない)を駆動させて走行するようになっている。
燃料電池システムSは、動力源となる燃料電池2と、燃料極(アノード)側の入口側配管3および出口側配管5と、酸素極(カソード)側の入口側配管4および出口側配管6と、システムを制御するECU20と、出口側配管6に設けられ水素(被検出ガス)を検出する水素センサ1(ガスセンサ)と、を主に備えている。
【0017】
燃料電池2は、例えば陽イオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜を燃料極と酸素極で挟持した膜電極接合体を、更に一対のセパレータで挟持してなる単セル(図示しない)を多数組積層して構成されたスタックからなる。
【0018】
燃料電池2には、例えば高圧の水素タンク等を備える水素供給装置(図示しない)から燃料極側の入口側配管3を介して燃料として水素が燃料極に供給されるとともに、コンプレッサ11により酸素極側の入口側配管4を介して酸化剤として空気が酸素極に供給される。燃料極の触媒電極上では、触媒反応により水素がイオン化され、生成された水素イオンが適度に加湿された固体高分子電解質膜を拡散・通過して酸素極まで移動する。そして、この水素イオンが移動する間に、電子が走行モータを含む外部回路に取り出され、直流の電気エネルギ(電力)として利用される。また、酸素極には酸素を含む空気が供給されているために、この酸素極において、水素イオン、電子および酸素が、酸素極の触媒の作用により電気化学的に反応して水が生成される。なお、コンプレッサ11は、ECU20により発電要求に対応して適宜に制御される。
そして、燃料極側の出口側配管5および酸素極側の出口側配管6から未反応の反応ガス(例えば、水素や空気等)を含むいわゆるオフガスが排出される。
【0019】
ここで、未反応の水素を含む水素オフガス(アノードオフガス)は、燃料電池2の燃料極側の出口側配管5から水素循環配管12に排出され、エゼクタ13を介して燃料極側の入口側配管3に戻され、再び燃料電池2の燃料極に供給されるようになっている。一方、反応済みの空気中に水分を多量に含んだ空気オフガス(カソードオフガス)は、希釈器16および出口側配管6を介して大気中へ排出される。
【0020】
さらに、燃料電池2の燃料極側の出口側配管5にはパージ弁14を介して水素排出配管15が接続され、この水素排出配管15には希釈器16が接続されている。そして、水素オフガスは、パージ弁14を介して水素排出配管15に排出可能とされ、さらに、水素排出配管15を通って希釈器16に導入可能とされている。希釈器16は、水素排出配管15から取り込んだ水素オフガスを、酸素極側の出口側配管6から排出された空気オフガスによって適宜の倍率で希釈し、希釈ガスとして排出することができるように構成されている。なお、パージ弁14は、ECU20によって開閉制御されている。
【0021】
そして、この希釈器16の下流側の出口側配管6には、水素を検出するガス接触燃焼式の水素センサ1が配置されており、これによりオフガス(空気オフガス、希釈ガス)中の水素濃度が監視されるようになっている。水素センサ1は、オフガスの流通方向が水平方向となるように配置された出口側配管6の鉛直方向上部に配置されている。また、水素センサ1は、燃料電池システムSの運転を制御するECU20(Electronic Control Unit、電子制御装置)の制御部21と1本の出力系統(いわゆる1ピン)で電気的に接続している。
【0022】
ECU20は、CPU、ROM、RAM、各種インタフェイス、電子回路などを含んで構成され、制御部21と、記憶部22とを主に備えている。制御部21は、コンプレッサ11およびパージ弁14と電気的に接続しており、これらを適宜に制御するようになっている。
また、制御部21は1本の出力系統を介して水素センサ1と電気的に接続している。そして、制御部21は、水素センサ1から送られる水素濃度に対応した正常出力と、記憶部22に記憶された水素濃度マップとに基づいて水素濃度を算出し、算出した水素濃度を水素濃度表示モニタ(図示しない)に出力するようになっている。なお、水素濃度マップとは、水素センサ1から送られる正常出力と、水素濃度とが関連付けられたデータである。
【0023】
さらに、制御部21は、水素センサ1から送られる異常出力と、記憶部22に記憶された異常出力マップとに基づいて、水素センサ1がどのような異常状態にあるかを判定するようになっている。そして、制御部21は、水素センサ1が異常である場合、警報装置23(例えば警告灯)を作動させるようになっている。なお、異常出力マップとは、水素センサ1から送られる異常出力と、水素センサ1の異常状態とが関連付けられたデータである。
【0024】
<水素センサの構成>
水素センサ1は、出口側配管6内を流れるオフガス(空気オフガス、希釈ガス)中の水素を検出し、検出した水素の濃度に対応した出力(出力)をECU20の制御部21に出力する機能を有している。また、水素センサ1は、内蔵する基準検出素子50Aおよび常用検出素子50B(ともに特許請求の範囲における「ガス検出素子」に相当)の自己異常判定機能を有しており、異常判定された場合、異常状態に対応した異常出力を制御部21に出力する機能を有している。
【0025】
[水素センサの機械的構成]
水素センサ1の機械的構成について、図2から図4を参照して説明する。
図2および図3に示すように、水素センサ1は、制御基板39を収容した直方体形状のケース30を備えている。ケース30は、例えばポリフェニレンサルファイド製であって、その長手方向両端部にフランジ部31を備えている。フランジ部31にはカラー32が取り付けられており、このカラー32内にボルト33が挿入されることで、フランジ部31は、酸素極側の出口側配管6に設けられた取付座6A(図3参照)に締結されて固定されるようになっている。
【0026】
図3に示すように、ケース30の厚さ方向における下面30aには筒状部34が形成されている。筒状部34の先端は開口しており、水素を含むオフガスを取り込むガス取込部36となっている。筒状部34の内部は、ガス検出室35として機能しており、ガス検出室35内には、基準検出素子50A(ガス検出素子)と、常用検出素子50B(ガス検出素子)とがベース38、38を介して、ケース30の下面30aに配置されている。すなわち、水素センサ1は2つ(複数)のガス検出素子として、基準検出素子50Aと、常用検出素子50Bとを備えている。
【0027】
筒状部34の外周には、シール部材37が設けられ、出口側配管6に貫通して形成された貫通孔6Bに筒状部34が挿通されて水素センサ1が出口側配管6に取り付けられる。シール部材37は、貫通孔6Bと筒状部34とに密着して、これらの間の気密性が確保されている。
【0028】
続いて、ガス検出素子である基準検出素子50Aと常用検出素子50Bについて詳細に説明する。
図4に示すように、基準検出素子50Aと常用検出素子50Bは、それぞれ検出素子51と温度補償素子52との対により構成されている。検出素子51は、周知の素子であって、電気抵抗に対する温度係数が高い白金等を含む金属線のコイル51aが、触媒51bを坦持したアルミナ等の坦体で被覆されて形成されている。触媒51bは、水素などの被検出ガスに対して活性な貴金属などからなる。温度補償素子52は、被検出ガスに対して不活性とされ、例えば検出素子51と同等のコイル52aの表面が、アルミナ等の坦体で被覆されて形成されている。
【0029】
そして、被検出ガスが、触媒51bに接触した際に生じる反応熱により検出素子51が高温になると、検出素子51と温度補償素子52の抵抗値に差が生じるので、この差から水素濃度を検出することができるようになっている。なお、雰囲気温度による電気抵抗値の変化は、温度補償素子52を利用することにより相殺されるようになっている。
【0030】
検出素子51と温度補償素子52は、互いに近接して配置され、基準検出素子50Aと常用検出素子50Bも互いに近接して配置されている。また、検出素子51および温度補償素子52は、ベース38から所定距離離間して設けられ、ベース38に対し同じ高さに位置している。なお、ここでいう近接とは、雰囲気が同じ領域内であることをいい、例えば、被検出ガスである水素の濃度や温度が実質的に同一な領域であることをいう。基準検出素子50Aと常用検出素子50Bにより検出された水素濃度でいえば、各濃度検出値間の偏差が各濃度検出値に対して所定割合以内、例えば±20%以内とされ、より好ましくは、例えば±10%以内とされ、さらに好ましくは、例えば±5%以内なるようにして各素子が配置されている。
【0031】
[水素センサの電気的構成]
次に、制御基板39を含む水素センサ1の電気的構成について、図5を参照して説明する。
図5に示すように、水素センサ1は、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bを含む検出部50と、検出部50から送られた出力を処理してECU20の制御部21に出力する回路部60と、を備えている。
【0032】
基準検出素子50Aと常用検出素子50Bは、それぞれ検出素子51(抵抗値R4)及び温度補償素子52(抵抗値R3)が直列接続されてなる枝辺と、固定抵抗53(抵抗値R1)及び固定抵抗54(抵抗値R2)が直列接続されてなる枝辺とが、水素センサ1の外部の電源71(二次電池など)から供給される電圧に基づいて、所定の基準電圧を印加する回路部60の基準電圧発生回路61に対して並列に接続されることで構成されており、いわゆるブリッジ回路が形成されている。
各ブリッジ回路において、検出素子51と温度補償素子52の接続点PSと、固定抵抗53と固定抵抗54の接続点PRとの間に、これらの接続点PS、PR間の電圧を検出する回路部60の基準検出回路65Aおよび常用検出回路65Bが接続されている。
【0033】
ここで、ガス検出室35(図3参照)内に導入された検査対象ガス中に水素(被検出ガス)が存在しないときには、前記各ブリッジ回路はバランスしてR1×R4=R2×R3の状態にあり、基準検出回路65Aおよび常用検出回路65Bの出力がともにゼロとなる。
一方、水素が存在すると、検出素子51の触媒51bにおいて水素が燃焼することでコイル51aの温度が上昇し、抵抗値R4が増大する。これに対して温度補償素子52においては水素が燃焼せず、抵抗値R3は変化しない。これにより、ブリッジ回路の平衡が破れ、基準検出回路65Aおよび常用検出回路65Bに、水素濃度の増大変化に応じた電圧が印加されるようになっている。
【0034】
基準検出回路65Aおよび常用検出回路65Bは、前記ブリッジ回路から印加された電圧の検出値を、異常判定部66および出力選択部67に、それぞれ出力するようになっている。
【0035】
(異常判定部)
異常判定部66(異常判定手段)は、基準検出素子50Aの検出値(出力)と、常用検出素子50Bの検出値(出力)とを、互いに独立に、その内部に記憶された所定基準値と比較する絶対診断によって(図6、S101、S102参照)、基準検出素子50A、常用検出素子50Bの異常判定(例えば各検出素子の劣化判定)を行うようになっている。そして、異常判定部66は、判定結果を出力選択部67および出力回路68に出力するようになっている。
なお、基準検出素子50Aまたは常用検出素子50Bが異常な状態であるとは、例えば、これらからの検出値と前記所定基準値との差が所定閾値より大きく、基準検出素子50Aまたは常用検出素子50Bが劣化や、短絡していると推定される状態である。一方、基準検出素子50Aまたは常用検出素子50Bが異常でない、つまり正常な状態であるとは、これらからの検出値と前記所定基準値との差が所定閾値以下であり、基準検出素子50Aまたは常用検出素子50Bが正常に作動していると推定される状態である。
【0036】
(出力選択部)
出力選択部67(出力選択手段)は、異常判定部66から入力される判定結果に対応して、基準検出回路65A(基準検出素子50A)または常用検出回路65B(常用検出素子50B)から出力される検出値(1つのガス検出素子の出力)を適宜に選択して出力回路68へ出力するようになっている。
【0037】
具体的に説明すると、(1)出力選択部67は、異常判定部66から、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bのいずれもが正常であることを示す判定結果が入力された場合、常用検出回路65Bから入力された検出値を選択し、出力回路68に出力するようになっている。
【0038】
(2)また、出力選択部67は、異常判定部66から、常用検出素子50Bのみが異常(つまり基準検出素子50Aは正常)であることを示す判定結果が入力された場合、基準検出回路65Aから入力された検出値を選択し、出力回路68へ出力するようになっている。
これとは逆に、基準検出素子50Aのみが異常(つまり常用検出素子50Bは正常)であることを示す判定結果が入力された場合、常用検出回路65Bから入力された検出値を選択し、出力回路68に出力するようになっている。
【0039】
(3)さらに、出力選択部67は、異常判定部66から、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bの両方が異常であることを示す判定結果が入力された場合、基準検出回路65Aおよび常用検出回路65Bから入力された両方の検出値をいずれも選択せず、出力回路68に出力しないように設定されている。
【0040】
(出力回路)
出力回路68(出力手段)は、1本の出力系統を介して、後記する正常出力または異常出力を、ECU20の制御部21に出力する回路である。
【0041】
具体的に説明すると、(1)出力回路68は、異常判定部66から、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bのいずれもが正常であることを示す判定結果が入力された場合、出力選択部67から入力された検出値に基づく正常出力を、制御部21に出力するようになっている。
【0042】
(2)また、出力回路68は、異常判定部66から、基準検出素子50Aまたは常用検出素子50Bが異常であることを示す判定結果が入力された場合、出力選択部67から入力される正常な検出素子の検出値に基づく正常出力と、異常である検出素子の異常状態に対応した異常出力と、を交互に切り替えて出力するようになっている。例えば、図7に示すように、出力回路68は、検出された水素濃度に対応した正常出力を主に連続的に出力しつつ、正常出力に代えて異常出力を間欠的に出力するようになっている。
なお、出力回路68から出力される異常出力の出力値は、制御部21が誤検知しないように、正常出力の予想される出力範囲外の値に設定されている。また、異常出力の出力間隔は、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bの異常状態に対応して変更されるように設定されている。さらに、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bの異常状態に対応して、異常出力の出力値を変更するようにしてもよい。このように異常出力の間隔や出力値を変更すれば、制御部21の誤検知をさらに抑えることができる。
【0043】
(3)さらに、出力回路68は、異常判定部66から、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bの両方が異常であることを示す判定結果が入力された場合、異常出力を出力するようになっている。なお、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bの両方が異常である場合、前記したように出力選択部67から入力はされない。
【0044】
(電圧コントローラ、通電指示部)
電圧コントローラ62Aは、基準検出素子50Aと基準電圧発生回路61との間に設けられている。そして、電圧コントローラ62Aには、通電指示部63から基準検出素子50Aに印加する印加電圧を制御する制御指令が送られるようになっており、電圧コントローラ62Aはこの制御指令に従って、基準検出素子50Aの印加電圧を制御する。
電圧コントローラ62Bは、常用検出素子50Bと基準電圧発生回路61との間に設けられている。そして、電圧コントローラ62Bには、通電指示部63から常用検出素子50Bに印加する印加電圧を制御する制御指令が送られるようになっており、電圧コントローラ62Bはこの制御指令に従って、常用検出素子50Bの印加電圧を制御する。
なお、通電指示部63は、所定のタイミングや、異常判定部66から入力される異常判定の結果に基づいて、各電圧コントローラ62A、62Bの動作を指示するようになっている。
【0045】
<水素センサの動作>
次に、本実施形態に係る水素センサ1の動作について、図6から図8を主に参照して説明する。
【0046】
燃料電池自動車のイグニッションスイッチのONに連動して、水素センサ1が起動すると、図6のフローチャートに示す動作がスタートし、ステップS101に進む。
【0047】
ステップS101において、異常判定部66は、常用検出素子50Bが異常であるか否かを判定する。常用検出素子50Bは異常であると判定された場合(S101・Yes)、処理はステップS102に進む。
一方、常用検出素子50Bは異常でない、つまり、正常であると判定された場合(S101・No)、異常判定部66は常用検出素子50Bが正常であることを示す判定結果を、出力選択部67および出力回路68に出力する。そうすると、出力選択部67は常用検出回路65B(常用検出素子50B)からの検出値を選択して出力回路68に出力する。そして、出力回路68は、この出力を通常出力、つまり正常出力として制御部21に出力する(S105)。その後、処理はリターンに進み、スタートに戻る。したがって、制御部21は、この正常出力に基づいて水素濃度を検知することができる。
【0048】
ステップS102において、異常判定部66は、基準検出素子50Aが異常であるか否かを判定する。
基準検出素子50Aは異常であると判定された場合(S102・Yes)、ステップS106に進む。ステップS106において、異常判定部66は、出力選択部67および出力回路68に、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bが共に異常であることを示す判定結果を出力する。これにより、出力選択部67は、基準検出回路65Aおよび常用検出回路65Bからの入力値を選択せず、出力回路68に出力しない。これと共に、出力回路68は、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bが異常であることを示す異常出力を制御部21に出力する。その後、処理はリターンに進む。なお、異常出力のみが入力された制御部21は、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bが異常であることを検知し、警報装置23を作動させる。
【0049】
一方、基準検出素子50Aは異常でない、つまり、基準検出素子50Aは正常であると判定された場合(S102・No)、基準検出素子50Aは正常であり、常用検出素子50Bは異常であることを示す判定結果が、出力選択部67および出力回路68に、それぞれ出力される。これにより、出力選択部67は、基準検出回路65A(基準検出素子50A)からの検出値を選択し、出力回路68に出力する。そして、処理はステップS103に進む。
【0050】
ステップS103において、出力回路68は、出力選択部67から入力された入力値と、所定水素濃度に対応しその内部に予め設定された所定電圧(閾値)とを比較し、基準検出素子50Aで検出された水素濃度が、所定水素濃度以上であるか否かを判定する。
【0051】
「検出された水素濃度≧所定水素濃度」であると判定された場合(S103・Yes)、ステップS105に進み、出力回路68は常用検出素子50Bが異常であることを示す異常出力を出力せず、出力選択部67および基準検出回路65Aを介して基準検出素子50Aから送られる出力を、制御部21に出力する(図8参照)。
これにより、出力回路68は、常用検出素子50Bが異常であるか否かに係る異常出力よりも、所定濃度以上の水素が検出されているか否かに係る正常出力、すなわち、出口側配管6内を所定濃度以上の水素が流れているか否かという、水素センサ1の本来の機能を優先させることができる。
【0052】
一方、「検出された水素濃度<所定水素濃度」であると判定された場合(S103・No)、ステップS104に進み、出力回路68は、図7に示すように、基準検出素子50Aからの検出値に基づく正常出力と、常用検出素子50Bの異常状態に対応した異常出力とを、交互に切り替えて制御部21に出力する。すなわち、出力回路68は、基準検出素子50Aで検出された水素濃度に対応した正常出力を主に連続的に出力しつつ、正常出力に代えて、常用検出素子50Bが異常状態であることを示す異常出力を、間欠的に出力するようになっている。
【0053】
これにより、制御部21は、基準検出素子50Aからの正常出力に基づいて、出口側配管6内を流れるオフガス中の水素濃度を算出しつつ、異常出力に基づいて、警報装置23を作動させることができる。すなわち、水素センサ1の出力回路68と、ECU20の制御部21とが、1本の出力系統のみで接続されていても、ECU20は、水素センサ1が検出する水素濃度と、水素センサ1の異常状態とを検知することができる。
なお、常用検出素子50Bの異常状態を示す異常出力の出力間隔は、常用検出素子50Bの異常状態に対応して変更してもよいし、さらに、異常状態に対応して、異常出力の出力値を変更するようにしてもよい。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は前記した実施形態には限定されず、適宜変更して実施することができる。
前記した実施形態では、被検出ガスが水素である場合を説明したが、被検出ガスは水素に限定されるものではなく、例えば、一酸化炭素、硫化水素など他のガスであってもよい。また、前記した実施形態では、ガスセンサとして接触燃焼式ガスセンサを示したが、半導体式ガスセンサなど、他の方式のセンサであってもよい。
【0055】
前記した実施形態では、水素センサ1は、複数のガス検出素子として、基準検出素子50Aと常用検出素子50Bとを各一つずつ備える構成としたが、ガス検出素子の数はこれに限定されず、例えば、基準検出素子50Aと常用検出素子50Bとをそれぞれ複数備えてもよい。
【0056】
前記した実施形態では、異常判定部66は、基準検出素子50Aの検出値と常用検出素子50Bの検出値とを互いに独立に所定基準値と比較する絶対診断によって、各基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bの異常判定(劣化診断)を行うとしたが、異常判定方法はこれに限定されず、基準検出素子50Aの検出値と常用検出素子50Bの検出値とを相対的に比較する相対診断によって、基準検出素子50Aおよび常用検出素子50Bの異常判定を行ってもよい。
【0057】
前記した実施形態では、水素センサ1が、燃料電池システムSのオフガスが流通する出口側配管6に設けられた場合を例示したが、水素センサ1の設置位置はこれに限定されない。例えば、燃料電池自動車の場合、その車内に設けられた水素センサであってもよいし、家庭用の据え置き型の燃料電池システムに設けられた水素センサであってもよい。
【0058】
前記した実施形態では、基準検出素子50Aと常用検出素子50Bとが、水素センサ1の長手方向に配置された場合を例示したが、基準検出素子50Aと常用検出素子50Bの配置はこれに限定されず、互いに近接した関係にあり、必要な機能を満たす限り自由に配置してもよい。例えば、各ベース38に配置された基準検出素子50Aと常用検出素子50Bを2段で重ねるよう配置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本実施形態に係る燃料電池システムの構成を示すブロック図である。
【図2】水素センサの平面図である。
【図3】図2に示す水素センサのIV−IV断面図である。
【図4】ガス検出素子の斜視図である。
【図5】本実施形態に係る水素センサの検出部および回路部の構成図である。
【図6】本実施形態に係る水素センサの動作を説明するフローチャートである。
【図7】本実施形態に係る水素センサの出力を示すグラフである。
【図8】本実施形態に係る水素センサの出力を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 水素センサ(ガスセンサ)
20 ECU(外部電子機器)
50A 基準検出素子(ガス検出素子)
50B 常用検出素子(ガス検出素子)
51 検出素子
51a コイル
51b 触媒
52 温度補償素子
66 異常判定部(異常判定手段)
67 出力選択部(出力選択手段)
68 出力回路(出力手段)
S 燃料電池システム



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出ガスを検出する複数のガス検出素子と、
前記複数のガス検出素子が異常であるか否かを判定する異常判定手段と、
前記複数のガス検出素子の出力から1つのガス検出素子の出力を選択する出力選択手段と、
前記選択された1つのガス検出素子の出力を、1本の出力系統を介して外部電子機器に出力する出力手段と、
を備え、
前記出力選択手段は、前記異常判定手段が正常であると判定した前記ガス検出素子の正常出力を選択し、
前記出力手段は、前記異常判定手段が異常判定をした場合、前記出力選択手段が選択したガス検出素子の正常出力と、異常判定された前記ガス検出素子に対応した異常出力と、を切り替えて出力することを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記出力手段は、前記正常出力が所定条件を満たす場合、前記異常出力を出力しないことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記出力手段は、異常判定された前記ガス検出素子の異常状態に対応して、前記異常出力を出力する間隔を変更することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記出力手段は、異常判定された前記ガス検出素子の異常状態に対応して、前記異常出力の出力値を変更することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガスセンサ。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−40755(P2007−40755A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223284(P2005−223284)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】