説明

ガスバリア性フィルムおよびその製造方法

【課題】SiOを蒸着材料としたガスバリア性フィルムにおいて、反応ガスを導入しなくても、黄色を呈さず高い透明性を備えながら、優れたガスバリア性を有するガスバリア性フィルムおよびその製造方法の提供。
【解決手段】 基材フィルムの少なくとも一方の面に、SiOx蒸着材料を用い、反応ガスを導入しない雰囲気下でエレクトロンビーム蒸着方法によりSiOx膜を形成し、前記SiOx蒸着材料が結晶質のSiOの回折パターンを有するものであり、かつ、前記SiOx蒸着材料の真密度に対する嵩密度が70%以上80%未満であるガスバリア性フィルムの製造方法。該製造方法を用いて形成したことを特徴とするガスバリア性フィルムであって、前記SiOx膜の膜厚が200nm以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたガスバリア性および透明性を兼ね備えたガスバリア性フィルムおよびその製造方法に関するものである。本発明のガスバリア性フィルムは、食品や医薬品の包装材料をはじめ、ディスプレイなどの表示媒体の保護膜などに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品の包装材料に要求される性能に、内容物の劣化の原因となる酸素、水蒸気の透過を防ぐガスバリア性が挙げられる。そのため、安全性に優れたアルミニウム箔やポリエチレンテレフタレートなどの高分子樹脂フィルムにアルミニウムを蒸着したガスバリア性フィルムが用いられてきた。しかし、これらのアルミニウム箔やアルミニウムを蒸着したフィルムでは、金属を用いているため透明性に欠き内容物を確認することができない点や、金属探知機、電子レンジ加熱の利用不可、廃棄時の環境負荷などの問題があった。
【0003】
これら問題点を解決するため提案されたのが、無機酸化物を蒸着した透明蒸着フィルムである。蒸着材料の無機酸化物としては、Al2O3、SiO、MgO等が挙げられる。これらを用いた透明蒸着フィルムは、ガスバリア性に加えて透明性を有することが知られている。
【0004】
しかし、SiOを蒸着したSiOx蒸着フィルムは黄色を呈してしまい、包装材料や表示媒体の保護膜として用いた場合に正しい色の把握が困難なものとなってしまう(特許文献1および2参照)。
【特許文献1】特開平3−100164号公報
【特許文献2】特開平4−337067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のSiO蒸着材料を用いて、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを基材フィルムとして例えば厚さ300nmのSiOxを蒸着したガスバリア性フィルムの水蒸気透過度と透明性を評価した場合、1.4 g/m2/day程度のバリア性を持つのに対し、光線透過率は45%と低く、高ガスバリア性と透明性維持の両立が困難である。
【0006】
SiOを蒸着したSiOx蒸着フィルムにおいて、酸化度合いを示すxの値が特に透明性とバリア性に影響することが知られている。蒸着したSiOx蒸着フィルムにおいてはこの限りではないが、存在するSiOxでは、SiO(黒色)、Si3O4(褐色)、Si2O3(黄色)SiO2(無色)があり、酸化度合いによって色が異なっている。つまりxの値が大きくなるほど透明になるため、SiOを蒸着材料とした透明ガスバリア性フィルムを作成するには酸素を導入して蒸発させたSiOと反応させることで基材フィルム上にSiOxとして成膜する必要があり、酸素分圧のコントロールなどに問題があった。
【0007】
したがって本発明の目的は、SiOxを蒸着材料としたガスバリア性フィルムにおいて、反応ガスを導入しなくても、黄色を呈さず高い透明性を備えながら、優れたガスバリア性を有するガスバリア性フィルムおよびその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、請求項1に記載の発明は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、SiOx蒸着材料を用い、反応ガスを導入しない雰囲気下でエレクトロンビーム(EB)蒸着方法によりSiOx膜を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、
前記SiOx蒸着材料が結晶質のSiOの回折パターンを有するものであり、
かつ、前記SiOx蒸着材料の真密度に対する嵩密度が70%以上80%未満である、
ことを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の製造方法を用いて製造されたガスバリア性フィルムであって、
前記SiOx膜の膜厚が200nm以下であることを特徴とするガスバリア性フィルムである。
請求項3に記載の発明は、波長範囲350〜800nmにおける光線透過率が73%以上であり、水蒸気透過度が2.0g/m/day以下であることを特徴とする請求項2に記載のガスバリア性フィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、SiOxを蒸着材料としたガスバリア性フィルムにおいて、反応ガスを導入しなくても、黄色を呈さず高い透明性を備えながら、優れたガスバリア性を有するガスバリア性フィルムおよびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
SiOをはじめとする無機酸化物の蒸着方式には、アルミニウム蒸着と同様の真空蒸着方式やスパッタリング方式などの物理的蒸着(PVD)とプラズマCVD方式などの化学的蒸着(CVD)が知られている。基材フィルムが高分子樹脂フィルムである場合や、コストダウンのため巻取りで連続蒸着を行う必要があることを考慮すると真空蒸着方式が適しており、またSiOの融点は1700℃とアルミニウムと比較して高融点であるため、効率よくSiOx蒸着材料を蒸発させるには真空蒸着方式のうち電子銃を用いたエレクトロンビーム(EB)方式が好ましい。また、この方式によれば抵抗加熱方式で必要な蒸着の前段階としての坩堝や蒸着材料の加熱を省くことが可能となり、蒸着材料を局部的かつ急速に加熱することができ生産性を高めることも期待できる。
【0011】
本発明で使用される基材フィルムは、高分子樹脂フィルムが挙げられ、これは透明でSiOx蒸着膜を保持できれば特に限定されない。例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン系樹脂、ナイロン−6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂などである。これら高分子樹脂フィルムの厚さは特に制限を受けないが、3〜200μmの厚さで用いることができ、特に12〜30μmの厚さが好ましい。
【0012】
本発明で使用するSiOx蒸着材料の形状としては、粉状、粒状であるとEB照射時に蒸着材料粒子が飛散(スプラッシュ)しやすく基材フィルムに衝突して貫通孔(ピンホール)を生じさせてしまう。また、型に入れて成型するだけではハンドリング性が悪く、また蒸着中に材料が割れた場合、その割れ目からスプラッシュが発生しやすいので好ましくない。そこで、成型と同時に焼結、もしくは成型後に焼結することによって蒸着材料の形状を保つことができ、嵩密度、粒径などの材料特性を変化させることでスプラッシュの抑制をも期待することができる。また、ハンドリング性に優れるので大量生産することも可能である。
【0013】
本発明で使用するSiOx蒸着材料は、結晶質のSiOの回折パターンを有する必要がある。SiOの回折パターンは、SiOx蒸着材料中に結晶質であるSiOが混在している有無を判断するために行われる。SiO蒸着材料中にSiOが混在していることで、反応ガスを導入することなくSiOx膜を形成することができるためである。
【0014】
蒸着材料の成型法としては、流し込み法、ラバープレス法などの成型のみを行う方法と、ホットプレス法、熱間静水圧加圧法(HIP法)など成型と同時に加圧焼結を行う方法があり、後者の方法を用いると緻密化の起こる温度が下がり異常粒成長のない均一な粒径からなる高密度な焼結体を得ることができるが、本発明では特に限定しない。焼結時の雰囲気としては真空雰囲気、窒素雰囲気、大気雰囲気などがあるが、本発明では特に限定しない。
【0015】
本発明で使用されるSiOx蒸着材料は、真密度に対する嵩密度が70%以上80%未満である必要がある。該嵩密度は、大小異なる粒径の粒子を組み合わせたり、非晶質のSiO2粒子を含むシリカゾルを混合することによって調整できる。嵩密度が小さすぎるとSiOx蒸着材料のサイズが大きくなり、坩堝のサイズが限定されることが考えられ、また、嵩密度が大きすぎるとEB照射時の熱衝撃によって材料の割れを招く恐れがある。したがって、本発明でのSiOx蒸着材料の真密度に対する嵩密度は、上記のように規定する必要がある。
なお、本発明でいう真密度に対する嵩密度とは、アルキメデス法により測定された値である。
【0016】
CVD法により作成したSiOx蒸着フィルムは、透明かつ高バリアの特性を有しているが、真空蒸着法により作成したものついては、xの値が1に近づくにつれてバリア性は上がるものの黄色を呈して透明性が下がり、またxの値が2に近づくにつれて透明性はあがるもののバリア性が悪くなってしまうという相反する関係がある。これは、蒸着法の原理が加熱されて蒸発したSiOxが基材フィルム上に物理的に堆積するためであり、その結果堆積時の隙間がバリア性能を決定する因子となる。そのため、xの値が小さいとフィルム上のSiOxの原子間ネットワークが密になってバリア性が発現し、反対にxの値が大きいと原子間ネットワークが疎になりバリア性が発現しないと推察される。本発明では、SiO蒸着材料に嵩密度調整剤として混ぜ込んだSiO2のO成分が結果としてxの値を大きくさせ、反応ガスを導入せずに透明性を得るというものである。
【0017】
ガスバリア性にはSiOx膜の膜厚の寄与する部分が大きく、薄すぎると基材フィルム全体に成膜されないなどの理由でバリア性が発現しない。また膜厚を極度に厚くすると蒸着膜表面に割れ(クラック)が生じバリア性の低下や、カールが大きくなりハンドリング性が悪くなる。したがって、これらの点を考慮してSiOx膜の膜厚は300nm以下が好ましく、200nm以下がさらに好ましく、特に10〜200nmがより好ましい。
【0018】
本発明におけるガスバリア性フィルムは、波長範囲350〜800nmにおける光線透過率が73%以上であり、水蒸気透過度が2.0g/m/day以下である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0020】
<実施例1>
電子ビーム加熱方式のバッチ式真空蒸着装置を用いて、嵩密度調整剤としてSiO2を混ぜ込み、真密度に対する嵩密度の割合が71%であるSiOx蒸着材料を電子ビーム加熱によって蒸発させ、成膜中の圧力が1.0×10−3Paにおいて厚さ189mのSiOx膜を成膜した。ただし、このときの蒸着条件は以下の通りである。
加速電圧:5.9kV
エミッション電流:0.15 A
基材フィルム:PETフィルム 厚さ25μm(東レ社製T60)
【0021】
<実施例2>
電子ビーム加熱方式のバッチ式真空蒸着装置を用いて、嵩密度調整剤としてSiO2を混ぜ込み、真密度に対する嵩密度の割合が78%であるSiOx蒸着材料を電子ビーム加熱によって蒸発させ、成膜中の圧力が1.0×10−3Paにおいて厚さ192nmのSiOx膜を成膜した。SiOxの蒸着条件は、実施例1と同様とする。
【0022】
<実施例3>
電子ビーム加熱方式のバッチ式真空蒸着装置を用いて、嵩密度調整剤としてSiO2を混ぜ込み、真密度に対する嵩密度の割合が78%であるSiOx蒸着材料を電子ビーム加熱によって蒸発させ、成膜中の圧力が1.0×10−3Paにおいて厚さ62nmのSiOx膜を成膜した。SiOxの蒸着条件は、実施例1と同様とする。
【0023】
<比較例1>
電子ビーム加熱方式のバッチ式真空蒸着装置を用いて、嵩密度調整剤としてSiO2を混ぜ込み、真密度に対する嵩密度の割合が78%であるSiOx蒸着材料を電子ビーム加熱によって蒸発させ、成膜中の圧力が1.0×10−3Paにおいて厚さ310nmのSiOx膜を成膜した。SiOxの蒸着条件は、実施例1と同様とする。
【0024】
<比較例2>
電子ビーム加熱方式のバッチ式真空蒸着装置を用いて、嵩密度調整剤としてSiO2を混ぜ込み真密度に対する嵩密度の割合が80%であるSiOx蒸着材料を電子ビーム加熱によって蒸発させ、成膜中の圧力が1.0×10−3Paにおいて厚さ228nmのSiOx膜を成膜した。SiOxの蒸着条件は、実施例1と同様とする。
【0025】
<比較例3>
電子ビーム加熱方式のバッチ式真空蒸着装置を用いて、市販されている真密度に対する嵩密度の割合が72%であるSiOx蒸着材料を電子ビーム加熱によって蒸発させ、成膜中の圧力が1.0×10−3Paにおいて厚さ197nmのSiOx膜を成膜した。SiOxの蒸着条件は、実施例1と同様とする。
【0026】
<比較例4>
電子ビーム加熱方式のバッチ式真空蒸着装置を用いて、市販されている真密度に対する嵩密度の割合が72%であるSiOx蒸着材料を電子ビーム加熱によって蒸発させ、成膜中の圧力が1.0×10−3Paにおいて厚さ44nmのSiOx膜を成膜した。SiOxの蒸着条件は、実施例1と同様とする。
【0027】
以下に実施例、比較例で作成したSiOx膜の評価方法を示す。
光線透過率・・・分光光度計U-4000(日立製作所製、測定波長350nm)を用いて測定した。
水蒸気透過度・・・JISZ0208法に基づき、40℃、90%の条件でカップ法により測定した。
膜厚・・・蛍光X線分析装置(リガク社製)を用いて、事前に同様のサンプルをTEMにて測定し得た検量線の結果からSiOxの膜厚を求めた。
結晶構造・・・X線回折装置RINT−ULTIMA3(リガク社製)を用いて測定した。
色・・・目視による判断。
結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
光線透過率:25μm厚のPETフィルムを含めた波長350nmにおける光線透過率[%]
波長範囲350〜800nmにおいて350nmで最も低い光線透過率を示す(図1)
【0030】
表1に示す通り、水蒸気バリア性に関しては実施例1〜3および比較例1、2、4においてほぼ同等な値を示し、中でも実施例1〜3では光線透過率が波長350〜800nmの範囲で73%以上と高く、水蒸気バリア性と透明性を両立させることができた。しかし、比較例2では光線透過率が20%以下と低い結果となり、また比較例4では膜厚が薄いにも関わらず他のサンプルとほぼ同じ性質を得たが、光線透過率が52.8%と薄黄色を呈したため高ガスバリア性と透明性維持の両立が困難であった。
【0031】
実施例2では、真密度に対する嵩密度の割合が78%のとき、水蒸気透過度が1.8g/m2/dayでありながら光線透過率が73.9%と高い透明性を示すことができたが、比較例2では、真密度に対する嵩密度の割合が80%のとき、水蒸気透過度が2.0g/m2/dayでありながら光線透過率は14.8%と低い結果となった。また、SiO2回折パターンを含まない比較例3では、真密度に対する嵩密度の割合が72%のとき水蒸気透過度が1.3g/m2/dayであるのに対し、光線透過率が15.6%と低い結果となった。
【0032】
実施例2と比較例1を比べると、比較例1ではSiOx厚310nmのとき膜厚が増加した分水蒸気透過度が1.8g/m2/dayから1.6g/m2/dayと水蒸気バリア性が上がり、光線透過率も73.9%から72.6%と高い透明性を維持したが、カールが強くなりハンドリング性が悪くなったため、膜厚は200nm以下が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、反応ガスを用いた場合に必要な酸素分圧のコントロール操作が不要で、高い光線透過率を持ち、かつ水蒸気の透過を抑えバリア性を備えた均一な透明ガスバリア性フィルムを提供することが可能となる。本発明のガスバリア性フィルムは、食品や医薬品の包装材料をはじめ、ディスプレイなどの表示媒体の保護膜などに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例および比較例で測定された光線透過率のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、SiOx蒸着材料を用い、反応ガスを導入しない雰囲気下でエレクトロンビーム(EB)蒸着方法によりSiOx膜を形成するガスバリア性フィルムの製造方法であって、
前記SiOx蒸着材料が結晶質のSiOの回折パターンを有するものであり、
かつ、前記SiOx蒸着材料の真密度に対する嵩密度が70%以上80%未満である、
ことを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法を用いて製造されたガスバリア性フィルムであって、
前記SiOx膜の膜厚が200nm以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項3】
波長範囲350〜800nmにおける光線透過率が73%以上であり、水蒸気透過度が2.0g/m/day以下であることを特徴とする請求項2に記載のガスバリア性フィルム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−62602(P2009−62602A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233678(P2007−233678)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】