説明

ガスバリア性フィルム

【課題】 包装材料や電子デバイス等に使用でき、低湿度から高湿度の広い範囲で酸素バリア機能を持つガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】 樹脂基材層(1)と、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリカルボン酸、及びポリエチレンイミンから選ばれる少なくとも1種の水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)と、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と多価アルコールを主成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオール(A)、及び水酸基と反応する硬化剤とを含有するバリア層(3)とを有するガスバリア性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装材料、電子デバイス等に使用されるガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
外気からの水分・酸素等のガスの侵入を防ぐ目的で、ガスバリア性材料が各方面で使用されている。例えば食品や飲料等の包装に用いられる包装材料は、様々な流通、冷蔵等の保存や加熱殺菌などの処理等から内容物を保護することや、食品長期保存を目的として、酸化を抑えるため外部からの酸素の侵入を防ぐ酸素バリア性や、二酸化炭素バリア性、各種香気成分等に対するバリア性機能が要求されている。また、太陽電池や、液晶、有機または無機エレクトロルミネッセンス(以下「EL」と称す)等の種々のディスプレイ、並びに電子ペーパーなどの電子デバイスは、その内部構造を保護し、外部からの酸素や水蒸気を遮断するための封止材として一般にガラス基板が使用されるが、薄型化や軽量化、あるいはフレキシブルな製品を提供する目的で、プラスチックフィルムを基材とする透明ガスバリア性フィルムの使用が検討されつつある。(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
これらのガスバリア性フィルムは、ガスバリア性を付与するために通常金属蒸着層が設けられている。しかしながらアルミニウム等の金属蒸着層をガスバリア層として設けたフィルムは不透明であり、例えば包装材料としては、内部が視認できないという問題や電子レンジ使用ができないといった問題があった。またシリカやアルミナ等の金属酸化物の蒸着層をガスバリア層として設けたフィルムは、高価な上に柔軟性に乏しくクラック、ピンホールによりバリア性能がばらつく問題点がある。
【0004】
一方、金属蒸着層を使用せずにガスバリア機能を有する素材として、ポリビニルアルコール樹脂やエチレンビニルアルコール共重合体等の水溶性樹脂や水膨潤性樹脂を使用する方法が知られている。しかしながらこれらの樹脂は、酸素バリア性は高いが耐湿性に劣るため、高湿下ではバリア機能が著しく低下するばかりか、べたつきや変形といった問題を有し単体では使用しにくいといった問題があった。
【0005】
一方、ガスバリア性フィルムをラミネート法で作製し、使用する接着剤に酸素バリア機能を付与する方法も知られている。この方法はガスバリア機能を有する素材のフィルムを使用しなくともガスバリアフィルムを製造できる利点を持つ。その一方で接着剤には必須な柔軟な分子構造では一般にガス透過性が高い。そのため、接着能とバリア能とはトレードオフの関係にある事が多く、この解消が技術的な難易度を高めている。
例えば特許文献3や4では、メタキシリレンジアミンから誘導されたエポキシ樹脂硬化物および/またはポリウレタン樹脂硬化物を、酸素バリア性に優れる接着剤として使用している。しかしながら特に食品包装用接着剤には安全性や臭気フリーの観点から、ポリエステル、ポリエーテル、ポリウレタン系材料が使われることが多く、エポキシ樹脂硬化物はこれらの用途には使用しにくい問題点があった。また特許文献3や4の技術では高価なモノマー由来のメタキシリレン骨格を高含有率(少なくとも40質量%、実施例では50質量%以上含有した例が記載されている。)で含む必要があり、包装材料を高価にしてしまう問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−77553号公報
【特許文献2】特開2010−253861号公報
【特許文献3】特開2004−195971号公報
【特許文献4】特開2008−188975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、包装材料や電子デバイス等に使用でき、低湿度から高湿度の広い範囲で酸素バリア機能を持つガスバリア性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリビニルアルコール樹脂やエチレンビニルアルコール共重合体等の水溶性樹脂や水膨潤性樹脂を有するバリア層に、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と多価アルコールを主成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオール(A)、及び水酸基と反応する硬化剤とを含有するバリア層を積層させたガスバリア性フィルムが、高湿下であっても酸素バリア機能を持つことを見出している。
【0009】
前述の通り、ポリビニルアルコール樹脂やエチレンビニルアルコール共重合体等の水溶性樹脂や水膨潤性樹脂は、低湿度下の酸素バリア性に優れるが耐湿性に劣るため、高湿度下での酸素バリア性には劣る。本発明者らは、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と多価アルコールを主成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオールが、特に高湿度下での酸素バリア性に優れることを見出し、前記水溶性樹脂や水膨潤性樹脂と積層させることで、低湿度から高湿度の広い範囲での酸素バリア能に優れるガスバリア性フィルムが得られることを見出した。
【0010】
即ち本発明は、樹脂基材層(1)と、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリカルボン酸、及びポリエチレンイミンから選ばれる少なくとも1種の水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)と、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と多価アルコールを主成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオール(A)、及び水酸基と反応する硬化剤とを含有するバリア層(3)とを有するガスバリア性フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガスバリア性フィルムは、低湿度下では水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)により優れた酸素バリア性が付与される一方、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と多価アルコールを主成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオール(A)、及び水酸基と反応する硬化剤とを含有するバリア層(3)により高湿下であっても酸素バリア機能を維持できるので、包装材料や電子デバイス等に好適に使用できる。
また、前記バリア層(3)は、塗工適性にも優れるので、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリカルボン酸、及びポリエチレンイミンから選ばれる少なくとも1種の水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)との密着に優れる。さらに、前記バリア層(3)は樹脂基材層(1)やシーラント層(4)等の他の任意の層との接着剤の役割も果たすことができるため、樹脂基材層(1)と水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有する層(2)との間にバリア層(3)を設けラミネートして、本発明のガスバリア性フィルムを得ることも可能であるし、水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有する層(2)とシーラント層(4)等の他の層との間にバリア層(3)を設けラミネートして、本発明のガスバリア性フィルムを得ることも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(樹脂基材層(1))
本発明で使用する樹脂基材層は、本発明のガスバリア性フィルムの強度、あるいは保持性を高める目的で使用する。また、本発明のガスバリア性フィルムを包装材料として使用する場合は適度な硬さ、コシ、被印刷適性、被塗工適性を持つ基材であることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリスチレンフイルム、エチレン酢ビ共重合樹脂フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が挙げられる。これらは延伸処理されていてもよい。中でもPETフィルム、延伸処理されたポリアミドフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムが適度な硬さを持ち、被印刷適性、被塗工適性が優れるため特に好ましい。また、フィルム表面には、膜切れやはじきなどの欠陥のない接着層が形成されるように、必要に応じて火炎処理やコロナ放電処理などの各種表面処理を施してもよい。
また、形状としてはフィルム状のものを使用することが多い。厚みはロールへの巻き取り操作を行える観点から250μm以下が好ましい。色調には特に制限はないが、ヘイズ値が10以下の透明性があれば幅広い用途範囲に大きな制限なく使用することができる。
【0013】
(バリア層(2):樹脂)
本発明で使用する水溶性または水膨潤性を有する樹脂とは、具体的には、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリカルボン酸、及びポリエチレンイミン等の低湿度下での酸素バリア性が優れた非ハロゲン含有樹脂が挙げられる。これらの樹脂は一般に湿度50%以下の低湿度下では良好な酸素バリア性を発揮できる。これらの樹脂の形状としては樹脂自体がフィルム形状をしていても良いし、他の樹脂基材(例えば樹脂基材層(1))上に塗工されていても良い。上記樹脂の内、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体は高分子量タイプの材料があるため、フィルム形状で利用することも容易であるため、材料の自由度の点から特に好ましい。
また、これらの樹脂の中には欠点である高湿度化でのガスバリア能の低下を抑えるため、樹脂の架橋等を施した誘導体類も知られているがこれらも同様に本発明に用いることができる。
【0014】
(バリア層(2):厚み)
前記バリア層(2)の適正な厚みは、前記バリア層(2)自体がフィルム形状をしているか、それとも他の樹脂基材(例えば樹脂基材層(1))上に塗工されているかにより異なる。
ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリカルボン酸、及びポリエチレンイミンは水または水系溶媒に溶解させることができるため、いずれも樹脂基材層(1)等へのコーティング処理を行うことができる。この場合、好ましい厚みは0.1μm〜20μmの範囲であり、特に好ましくは0.3〜10μmの範囲である。この範囲より厚みが薄いと本発明のフィルムでの特に低湿度下での酸素バリア能が不足し、これよりも厚いと、塗工後の乾燥性悪くなり均一な塗工面ができなくなったり、基材のカールを引き起こす問題が出る可能性がある。一方、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体は直鎖高分子量タイプのポリマーがあるため、これ自体をフィルムとして取り扱うことができる場合もある。この時の厚みは、10μm〜250μmの範囲が好ましい。この範囲以下であると自立フィルムとして扱うことが困難であり、この範囲以上であるとロール巻き取り等の操作が困難になる問題がある。
【0015】
本発明では、水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)を含有する共押し出しフィルムを用いてもよい。バリア層(2)を含む共押し出しフィルムとしてはポリエチレン(PE)/エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)/PE、ポリプロピレン(PP)/EVOH/PP,ナイロン(NY)/EVOH/NY,NY/EVOH/PE、EVOH/NY/PE等が例示される。これらの共押し出しフィルムを利用することで特に低湿度下での酸素バリア性が付与される効果がある。
【0016】
(バリア層(2):添加剤)
本発明で使用するバリア層(2)には、本発明の効果を損なわない範囲において各種の添加剤を配合してもよい。添加剤としては層状無機化合物、無機充填剤、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等)、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、レべリング剤等が例示できる。
中でも層状無機化合物は好ましく用いられる。その理由は、バリア層(2)を塗工により形成する場合、本層を構成する前記の水溶性または水膨潤性を有する樹脂は水系溶媒(例えば、水単独や、水と水溶性溶媒の混合物)に溶解する。一方、層状無機化合物は水分散性、水膨潤性である材料が多いため、前記樹脂溶液中に均一分散させやすく、加えてその高アスペクト比形状による迷路効果により、バリア層(2)にさらに高いガスバリア能を付与できるためである。これらの層状無機化合物の例として、含水ケイ酸塩(フィロケイ酸塩鉱物等)、カオリナイト族粘土鉱物(ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト、ナクライト等)、アンチゴライト族粘土鉱物(アンチゴライト、クリソタイル等)、スメクタイト族粘土鉱物(モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等)、バーミキュライト族粘土鉱物(バーミキュライト等)、雲母又はマイカ族粘土鉱物(白雲母、金雲母等の雲母、マーガライト、テトラシリリックマイカ、テニオライト等)が挙げられる。これらの鉱物は天然粘土鉱物であっても合成粘土鉱物であってもよい。層状無機化合物は単独でまたは二種以上組み合わせて使用される。
【0017】
(バリア層(3):非晶性ポリエステルポリオール(A))
本発明で使用するバリア層(3)は、非晶性ポリエステルポリオール(A)、及び水酸基と反応する硬化剤とを含有する樹脂組成物からなる層である。
本発明において、非晶性ポリエステルポリオール(A)は、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と多価アルコールを主成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオールである。
【0018】
(オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物)
オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物は、骨格が非対称構造である。従って、得られるポリエステルの分子鎖の回転抑制が生じると推定され、これにより酸素バリア性に優れると推定している。また、この非対称構造に起因して非結晶性を示しガラス転移温度(Tg)が室温以下であることにより生じる十分な基材密着性が付与され、接着力と酸素バリア性に優れると推定される。さらに塗工材料として用いる場合には必須である溶媒溶解性も高いことで取扱い性にも優れる特徴を持つ。
オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物の具体例としては、例えば、オルトフタル酸またはその無水物、ナフタレン2,3−ジカルボン酸またはその無水物、ナフタレン1,2−ジカルボン酸またはその無水物、アントラキノン2,3−ジカルボン酸またはその無水物、及び2,3−アントラセンジカルボン酸またはその無水物等が挙げられる。
【0019】
(多価カルボン酸 その他の成分)
本発明で使用するポリエステルポリオールは、多価カルボン酸成分として前記オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物を必須とするが、本発明の効果を損なわない範囲において、他の多価カルボン酸成分を共重合させてもよい。具体的には、脂肪族多価カルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等を、不飽和結合含有多価カルボン酸としては、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等を、脂環族多価カルボン酸としては1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を、芳香族多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸及びこれらジカルボン酸の無水物あるいはエステル形成性誘導体;p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸及びこれらのジヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体等の多塩基酸を単独であるいは二種以上の混合物で使用することができる。
中でも、コハク酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、イソフタル酸が好ましい。
【0020】
(多価アルコール)
本発明で使用する多価アルコールは、特に限定はなく公知のポリエステルで使用される多価アルコールを使用することができる。具体的には、脂肪族ジオールとしては1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、芳香族多価フェノールとして、ヒドロキノン、レソルシノール、カテコール、ナフタレンジオール、ビフェノール、ビスフェノールA、ヒスフェノールF、テトラメチルビフェノールや、これらの、エチレンオキサイド伸長物、水添化脂環族を例示することができる。また、3官能以上の多官能ポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、または1,3,5−トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸等が挙げられる。
中でも、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、またはシクロヘキサンジメタノール等の脂肪族ジオールが好ましい。酸素原子間の炭素原子数が少ないほど、分子鎖が過剰に柔軟にならずに、酸素透過しにくいと推定されることから、エチレングリコールを使用することが最も好ましい。
【0021】
前記非晶性ポリステルポリオール(A)として、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むジオールを必須成分として重縮合して得た、非晶性ポリエステルポリオール(以下、前記非晶性ポリステルポリオール(A)のうち「オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むジオールを必須成分として重縮合して得た、非晶性ポリエステルポリオール」を、「非晶性ポリエステルポリオール(A−1)」と称す)を使用することが好ましい。
非晶性ポリエステルポリオール(A−1)は、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物の、多価カルボン酸全成分に対する含有率が70〜100%であると、酸素バリア性を特に発揮することができ特に好ましい。
【0022】
前記非晶性ポリエステルポリオール(A)として、前記非晶性ポリエステルポリオール(A−1)の前記必須成分以外に、前記多官能ポリオールを共重合させたポリエステルポリオールも好ましい(以下、前記非晶性ポリステルポリオール(A)のうち「オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのジオールと、3官能以上の多官能ポリオールとを重縮合させて得た非晶性ポリエステルポリオール」を特に「非晶性ポリエステルポリオール(A−2)」と称する)。前記多官能のポリオールを有することで得られるポリエステルポリオール(A−2)は分岐鎖を有し、高い架橋密度を得ることができる。架橋密度を高めることで、酸素等のガスが通過する隙間を減らすことが出来ると推定される。
【0023】
中でも、多官能ポリオールとしては、イソシアヌル環を有するトリオールを用いることが好ましい。イソシアヌル環は高極性であり且つ3官能である。従って系全体を高極性化させることができ、且つ、架橋密度を高めることが可能であり、特に高湿下における酸素バリア性に優れる。
非晶性ポリエステルポリオール(A−2)においてイソシアヌル環を有するポリエステルポリオールの例としては、一般式(1)で表されるイソシアヌル環を有するポリエステルポリオール化合物が挙げられる。
【0024】
【化1】

【0025】
(一般式(1)中、R〜Rは各々独立して、−(CHn1−OH(但しn1は2〜4の整数を表す)、又は一般式(2)
【0026】
【化2】

【0027】
(一般式(2)中、n2は2〜4の整数を表し、n3は1〜5の整数を表し、Xは1,2−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、2,3−ナフチレン基、2,3−アントラキノンジイル基、及び2,3−アントラセンジイル基から成る群から選ばれ、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Yは炭素原子数2〜6のアルキレン基を表す)で表される基を表す。但しR、R及びRの少なくとも1つは前記一般式(2)で表される基である)
【0028】
前記一般式(1)において、R〜Rにおける−(CHn1−で表されるアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状でもよい。n1は、中でも2又は3が好ましく、2が最も好ましい。
【0029】
前記一般式(2)において、n2は2〜4の整数を表し、n3は1〜5の整数を表す。
Xは1,2−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、2,3−ナフチレン基、2,3−アントラキノンジイル基、及び2,3−アントラセンジイル基から成る群から選ばれ、置換基を有していてもよいアリーレン基を表す。Xが置換基によって置換されている場合、1または複数の置換基で置換されていてもよく、該置換基は、X上の、遊離基とは異なる任意の炭素原子に結合している。該置換基としては、クロロ基、ブロモ基、メチル基、エチル基、i−プロピル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、フェニルチオ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フタルイミド基、カルボキシル基、カルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、フェニル基またはナフチル基等が挙げられる。
Xは、中でもヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フタルイミド基、カルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、フェニル基、が好ましくヒドロキシル基、フェノキシ基、シアノ基、ニトロ基、フタルイミド基、フェニル基が最も好ましい。
【0030】
前記一般式(2)において、Yは、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、1,5−ペンチレン基、3−メチル−1,5−ペンチレン基、1,6−ヘキシレン基、メチルペンチレン基、ジメチルブチレン基、等の、炭素原子数2〜6のアルキレン基を表す。Yは、中でも、プロピレン基、エチレン基が好ましくエチレン基が最も好ましい。
【0031】
前記一般式(1)において、R、R及びRの少なくとも1つは前記一般式(2)で表される基である。中でも、R、R及びR全てが前記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
また、R、R及びRのいずれか1つが前記一般式(2)で表される基である化合物と、R、R及びRのいずれか2つが前記一般式(2)で表される基である化合物と、R、R及びRの全てが前記一般式(2)で表される基である化合物の、いずれか2つ以上の化合物が混合物となっていてもよい。
【0032】
前記一般式(1)で表されるイソシアヌル環を有するポリエステルポリオール化合物の原料となるイソシアヌル環を有するトリオールとしては、例えば、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、1,3,5−トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸等のイソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0033】
また、カルボン酸がオルト位に置換された芳香族多価カルボン酸またはその無水物としては、オルトフタル酸またはその無水物、ナフタレン2,3−ジカルボン酸またはその無水物、ナフタレン1,2−ジカルボン酸及びその無水物、アントラキノン2,3−ジカルボン酸及びその無水物、2,3−アントラセンジカルボン酸およびその無水物等が挙げられる。これらの化合物は、芳香環の任意の炭素原子に置換基を有していても良い。該置換基としては、クロロ基、ブロモ基、メチル基、エチル基、i−プロピル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、メチルチオ基、フェニルチオ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、フタルイミド基、カルボキシル基、カルバモイル基、N-エチルカルバモイル基、フェニル基またはナフチル基等が挙げられる。
【0034】
また、多価アルコール成分としては炭素原子数2〜6のアルキレンジオールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、等のジオールを例示することができる。
【0035】
これらに加えて、イソシアヌル環を有するトリオール化合物として1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸、または1,3,5−トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸を使用し、カルボン酸がオルト位に置換された芳香族多価カルボン酸またはその無水物としてオルトフタル酸無水物を使用し、多価アルコールとしてエチレングリコール、又は1,3−ビスヒドロキシエチルベンゼンを使用したイソシアヌル環を有するポリエステルポリオール化合物が、酸素バリア性や接着性に特に優れ好ましい。
【0036】
このような、前記一般式(1)で表されるイソシアヌル環を有するポリエステルポリオール化合物としては、トリオールとして1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸を用い、芳香族多価カルボン酸としてオルトフタル酸無水を用い、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いたポリエステルポリオール (THEI(oPAEG)nと略す)、トリオールとして1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸を用い、芳香族多価カルボン酸としてナフタレン2,3−ジカルボン酸を用い、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いたポリエステルポリオール (THEI(oNAEG)nと略す)、トリオールとして1,3,5−トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸を用い、芳香族多価カルボン酸としてオルトフタル酸無水を用い、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いたポリエステルポリオール (THPI(oPAEG)nと略す)トリオールとして1,3,5−トリス(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌル酸を用い、芳香族多価カルボン酸としてナフタレン2,3−ジカルボン酸無水を用い、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いたポリエステルポリオール( THPI(oNAEG)nと略す。)、等を上げることが出来る。
【0037】
本発明で使用する非晶性ポリエステルポリオール(A)の製造方法は、特に限定はなく公知のポリエステルポリオールの重縮合法で製造することができる。例えば、通常、ジオールやポリオール等の多価アルコールの水酸基と多価カルボン酸のカルボキシ基の当量比(水酸基/カルボキシ基)は、1.02〜1.5が好ましく、1.05〜1.3がより好ましい。具体的には所定量の多価カルボン酸と多価アルコールを、触媒の存在下又は不存在下に150〜250℃程度で、1〜50時間程度、重縮合することによりエステル化又はエステル交換を行う。この際の触媒としては、チタンテトラブトキシド等のチタン系触媒、ジブチルスズオキシド等のスズ系触媒が好ましい。使用する反応原料全重量に対して1〜1000ppm用いられ、より好ましくは10〜100ppmである。1ppmを下回ると触媒としての効果が得られにくく、1000ppmを上回ると後のウレタン化の反応を阻害する傾向がある。触媒は、多価カルボン酸と多価アルコールと共に仕込んでもよいし、無触媒で予備重合を進めた後、添加してもよい。ポリエステルポリオールの製造においては、両末端をほとんど水酸基にし、カルボン酸末端を生成しないようにすることが好ましく、この目的のために、予備重合を行った後に前記の触媒を加えることが好ましい。
【0038】
(バリア層(3) 結晶性ポリエステル)
前記非晶性ポリエステル(A)の他、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含んでいても良い。例えば結晶性ポリエステルを併用することは、酸素バリア性をより高める上で好ましい。
結晶性ポリエステルとしては特に限定はなく公知の結晶性ポリエステルを使用することができる。本発明において結晶性とは、示差熱分析法(DSC)により20℃/minの昇温条件下で、融点に相当する吸熱ピークにおける吸熱量が20J/g以上、より好ましくは30J/g以上であることを指し、結晶性ポリエステル(A)は該結晶性の条件を満たすものである。
【0039】
具体的には、前記結晶性の条件を満たせば特に限定されないが、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを主成分として重縮合して製造される脂肪族の結晶性ポリエステルが特に好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、炭素原子数4〜12の直鎖状脂肪族ジカルボン酸が好ましく、その具体例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸等が挙げられる。これらの中では、脂肪族ジオールとの反応性、固化促進等の観点から、コハク酸、アジピン酸が好ましい。脂肪族の結晶性ポリエステルは、結晶性ポリエステルの中では融点が比較的低いことにより溶融混合処理が容易で、非晶性ポリエステルと均一に混合しやすいため平滑な塗工面を作りやすく、酸素バリア能が安定する傾向にある。
【0040】
脂肪族ジオールとしては、炭素原子数2〜12の直鎖状脂肪族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、2,2−ジエチルプロパンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールであり、より好ましくは、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,6−ヘキサンジオールである。
これらの脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールは、単独で又は2種以上を混合して使用することができ、結晶性ポリエステルも混合物であってもよい。
【0041】
更に、結晶性の条件を満たすものであれば、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジオール、又は芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを重縮合して得られる半芳香族ポリエステルポリオールでもよい。その際、芳香族ジオールとしては、1,3ビスヒドロキシエチルベンゼン、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、4,4 ’ − ジヒドロキシジフェニル、4 , 4 ’ − ヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’− ジヒドロキシジフェニルエタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ヒドロキシジフェニルスルフォン、4 ,4 ’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,6−ジヒドロキシナフタレンおよび1 , 5−ヒドロキシナフタレン等があげられ、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸及びその無水物等が挙げられる。
【0042】
加えて、前述の芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸を重縮合するか、芳香環中に水酸基とカルボン酸の双方を含むモノマーであるp-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸等を重縮合することで得られる全芳香族ポリエステル(液晶ポリマー類)を用いることもできる。
【0043】
前記結晶性ポリエステルの製造方法は、前記非晶性ポリエステルポリオール(A−1)の合成方法と同様に行えばよい。
【0044】
前記結晶性ポリエステルの数平均分子量は、500〜5000であると、塗工適性に優れた非晶性ポリエステルポリオールとの混合液が得られるため特に好ましい。また、本結晶性ポリエステルの末端がアルコールである結晶性ポリエステルポリオールである場合は、結晶ポリエステルポリオールも硬化剤と反応することで、硬化後のバリア層(3)の架橋性成分として取り込まれるため特に好ましく用いられる。
【0045】
一般に結晶性ポリエステルは、分子鎖間の凝集が強いことにより酸素バリア性が高いが、溶媒溶解性に極めて乏しいため、塗工材料として使用しにくい。しかし非晶性ポリエステルポリオールと混合して使用することは可能である。
【0046】
非晶性ポリエステルポリオールと、結晶性ポリエステルとの配合比率は特に限定はないが、塗工適性等の観点から、非晶性ポリエステルポリオール/結晶性ポリエステル=98/2〜50/50(質量%)が好ましく、より好ましくは、95/5〜60/40である。結晶性ポリエステルの比率が50質量%以上では、塗工適性を阻害する恐れがある。
【0047】
(バリア層(3) 硬化剤)
本発明で使用する硬化剤は、前記ポリエステルポリオールの水酸基と反応しうる硬化剤であれば特に限定はなく、ポリイソシアネートやエポキシ化合物等の公知の硬化剤を使用できる。中でも、接着性や耐レトルト性の観点から、ポリイソシアネートを使用することが好ましい。
【0048】
ポリイソシアネート化合物としては芳香族、脂肪族のジイソシアネート、3価以上のポリイソシアネートがあり、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。たとえば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートあるいはこれらのイソシアネート化合物の3量体、およびこれらのイソシアネート化合物の過剰量と、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの低分子活性水素化合物または各種ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類の高分子活性水素化合物などと反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物が挙げられる。
【0049】
イソシアネート化合物としてはブロック化イソシアネートであってもよい。イソシアネートブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノール、クレゾール、キシレノール、レソルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノールなどのフェノール類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなそのオキシム類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレンクロルヒドリン、1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類、t−ブタノール、t−ペンタノール、などの第3級アルコール類、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム、β−プロピロラクタムなどのラクタム類が挙げられ、その他にも芳香族アミン類、イミド類、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物、メルカプタン類、イミン類、尿素類、ジアリール化合物類重亜硫酸ソーダなども挙げられる。ブロック化イソシアネートは上記イソシアネート化合物とイソシアネートブロック化剤とを従来公知の適宜の方法より付加反応させて得られる。
中でも、キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートが好ましく、メタキシリレンジイソシアネート、メタ水素化キシリレンジイソシアネートが最も好ましい。
【0050】
また、エポキシ化合物としてはビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテルおよびそのオリゴマー、オルソフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p−オキシ安息香酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルおよびポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類、トリメリット酸トリグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、1,4−ジグリシジルオキシベンゼン、ジグリシジルプロピレン尿素、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、グリセロールアルキレンオキサイド付加物のトリグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0051】
前記ポリエステルポリオールと前記硬化剤とは、ポリエステルポリオールと硬化剤との割合がポリエステルポリオールの水酸基と硬化剤の反応成分とが1/0.5〜1/5(当量比)となるように配合することが好ましく、より好ましくは1/1〜1/3である。
該範囲を超えて硬化剤成分が過剰な場合、余剰な硬化剤成分が残留することでバリア層(3)からブリードアウトするおそれがあり、一方硬化剤成分が不足のばあいには、他の層との密着性に劣るおそれがある。
【0052】
前記硬化剤は、その種類に応じて選択された公知の硬化剤あるいは促進剤を併用することもできる。例えば接着促進剤としては、加水分解性アルコキシシラン化合物等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系等のカップリング剤、エポキシ樹脂等が挙げられる。シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤は、各種フィルム材料に対する接着剤を向上させる意味でも好ましい。
【0053】
(バリア層(3) その他の成分)
本発明で使用するバリア層(3)には、本発明の効果を損なわない範囲において各種の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、マイカ、タルク、アルミニウムフレーク、ガラスフレークなどの無機充填剤、層状無機化合物、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等)、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、着色剤、フィラー、結晶核剤等が例示できる。層状無機化合物としては、例えば、含水ケイ酸塩( フィロケイ酸塩鉱物等) 、カオリナイト族粘土鉱物( ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイト、ナクライト等) 、アンチゴライト族粘土鉱物( アンチゴライト、クリソタイル等) 、スメクタイト族粘土鉱物( モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイト等) 、バーミキュライト族粘土鉱物( バーミキュライト等) 、雲母又はマイカ族粘土鉱物( 白雲母、金雲母等の雲母、マーガライト、テトラシリリックマイカ、テニオライト等)が挙げられる。これらの鉱物は天然粘土鉱物であっても合成粘土鉱物であってもよい。膨潤性無機層状化合物は単独でまたは二種以上組み合わせて使用される。なかでも結晶性ポリエステルの結晶核剤として機能する各種の添加剤を加えた場合は、高い結晶部の形成を促進することができるため、特に好ましく用いることができる。結晶核剤としては有機系核剤、無機系核剤の何れも用いることができる。
【0054】
また、バリア層(3)の耐酸性を向上させる方法として公知の酸無水物を併用することもできる。酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、コハク酸無水物、ヘット酸無水物、ハイミック酸無水物、マレイン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドラフタル酸無水物、テトラプロムフタル酸無水物、テトラクロルフタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノテトラカルボン酸無水物、2,3,6,7−ナフタリンテトラカルボン酸2無水物、5−(2,5−オキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、スチレン無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0055】
また、必要に応じて、更に酸素捕捉機能を有する化合物等を添加してもよい。酸素捕捉機能を有する化合物としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ビタミンC、ビタミンE、有機燐化合物、没食子酸等の酸素と反応する低分子有機化合物や、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄、銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。
【0056】
また、バリア層(3)の酸素バリア性を向上させる手法として、多価フェノール性化合物を非晶性ポリエステルポリオール(A)中に添加してもよい。これら多価フェノール性化合物は、硬化剤としてイソシアネート系硬化剤を用いた場合、ガスバリア能に有効なベンゼン環骨格と、ウレタン結合を同時にバリア層(3)内に付与することで、酸素バリア性を向上させることができる。好ましく使用される多価フェノール性化合物としてはカテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンを例示することができる。
【0057】
また、前記樹脂基材層(1)や前記水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有する層(2)との接着性を高める目的で、必要に応じてキシレン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂などの粘着付与剤を添加しても良い。これらを添加する場合には、接着剤と硬化剤の総量100重量部に対して0.01〜5重量部の範囲が好ましい。
【0058】
前記バリア層(3)として使用する前記非晶性ポリエステルポリオール(A)、及び水酸基と反応する硬化剤とを含有する樹脂組成物(以下、「バリア層(3)用樹脂組成物」を略す)は、接着性にも優れる。従って、前記樹脂基材層(1)として使用するフィルムや前記水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有する層(2)として使用するフィルムとを貼り合わせる接着剤として使用することができる。硬化後の層はバリア層(3)として機能する。
バリア層(3)用樹脂組成物を接着剤として使用する場合は、溶剤型又は無溶剤型のいずれの形態であってもよい。溶剤型の場合、溶剤はポリエステルポリオール及び硬化剤の製造時に反応媒体として使用され、更に塗装時に希釈剤として使用される。使用できる溶剤としては例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチレンクロリド、エチレンクロリド等のハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホアミド等が挙げられる。これらのうち通常は酢酸エチルやメチルエチルケトンを使用するのが好ましい。
【0059】
(その他の層 シーラント層(4))
本発明のガスバリア性フィルムは、少なくとも、前記樹脂基材層(1)と、前記水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有する層(2)と、前記バリア層(3)とを有することを特徴とするが、目的に応じて、他の層を有していてもよい。
例えば食品包装材料として本発明のガスバリア性フィルムを使用する場合には、ヒートシールにより袋を密閉する等の用途に応じてシーラント層(4)を設けることが好ましい。シーラント層(4)としては、例えば、無延伸ポリプロピレン(以下CPPと略す)や低密度ポリエチレンフィルム(以下LLDPEと略す)等のポリオレフィン系樹脂を使用した無延伸のフィルムが使用される。
【0060】
その他、更に高いバリア機能を付与するために、必要に応じてアルミニウム等の金属、あるいはシリカやアルミナ等の金属酸化物の蒸着層を積層したフィルムの他、ポリ塩化ビニリデンフィルムや、ポリ塩化ビニリデンコートフィルム、メタキシリレンジアミン含有のポリアミドフィルム(ナイロンMXD)等を併用してもよい。
【0061】
(ガスバリア性フィルムの製造方法)
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法については特に限定はないが、前記バリア層(3)用樹脂組成物を接着剤として用いて、前記樹脂基材層(1)として使用するフィルムや、前記水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)として使用するフィルムを、ラミネーションにより他のフィルムと貼り合わせる方法が、最も簡便かつ汎用性が高く好ましい。
この場合、前記樹脂基材層(1)として使用するフィルム、あるいは前記水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有する層(2)として使用するフィルムの一方に前記バリア層(3)用樹脂組成物を塗工後、もう一方のフィルム層と重ねてラミネーションにより貼り合わせることで、本発明のガスバリア性フィルムを得ることができる。
また、前記シーラント層(4)を設ける場合は、前記樹脂基材層(1)と、前記水溶性樹脂を有するバリア層(2)と、前記バリア層(3)と、シーラント層(4)をこの順に有するように積層されたガスバリア性フィルムであることが好ましい。この場合は、前記バリア層(3)用樹脂組成物を接着剤として、前記前記水溶性樹脂を有するバリア層(2)として使用するフィルム、あるいは前記シーラント層(4)として使用するフィルムの一方に前記バリア層(3)用樹脂組成物を塗工後、もう一方のフィルム層と重ねてラミネーションにより貼り合わせることで、本発明のガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0062】
バリア層(2)についてはバリア層(2)を構成する樹脂成分を塗工しても良いし、バリア層(2)自体のフィルムを用いてもよい。バリア層(2)を塗工法により設ける方法としては、グラビアロール塗工の他、リバースグラビア、メイヤーバーコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、ファンテンリバースロールコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター等を例示することができる。
バリア層(2)のうちPVA,エチレンビニルアルコール共重合体については、それ自体が単独フィルム化された形状や、共押し出し多層フィルムの一部の層として用いる場合もあるため、前記バリア層(3)用樹脂組成物を接着剤として用い、樹脂基材層(1)とバリア層(2)とを接着し、ガスバリア性フィルムとしても良い。
【0063】
前記バリア層(3)用樹脂組成物の塗工方法としては特に限定はなく公知の方法で行えばよい。例えば粘度が調整できる溶剤型の場合は、グラビアロール塗工方式等で塗布することが多い。また無溶剤型で、室温での粘度が高くグラビアロール塗工が適さない場合は、加温しながらロールコーターで塗工することもできる。ロールコーターを使用する場合は、前記バリア層(3)用樹脂組成物の粘度が500〜2500mPa・s程度となるように室温〜120℃程度まで加熱した状態で、塗工することが好ましい。
【0064】
前記ラミネーション方法としては、ドライラミネーション、ノンソルベントラミネーション、押出しラミネーション等公知のラミネーションを用いることが可能である。
ドライラミネーション方法は、具体的には、基材フィルムの一方に前記バリア層(3)用樹脂組成物をグラビアロール方式で塗工後、もう一方の基材フィルムを重ねてドライラミネーション(乾式積層法)により貼り合わせる。ラミネートロールの温度は室温〜60℃程度が好ましい。
またノンソルベントラミネーションは基材フィルムに予め室温〜120℃程度に加熱しておいた前記バリア層(3)用樹脂組成物を室温〜120℃程度に加熱したロールコーターなどのロールにより塗布後、直ちにその表面に新たなフィルム材料を貼り合わせることによりラミネートフィルムを得ることができる。ラミネート圧力は、10〜300kg/cm程度が好ましい。
押出しラミネート法の場合には、基材フィルムに接着補助剤(アンカーコート剤)として前記バリア層(3)用樹脂組成物の有機溶剤溶液をグラビアロールなどのロールにより塗布し、室温〜140℃で溶剤の乾燥、硬化反応を行なった後に、押出し機により溶融させたポリマー材料をラミネートすることによりラミネートフィルムを得ることができる。溶融させるポリマー材料としては低密度ポリエチレン樹脂や直線状低密度ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂などのポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0065】
また、本発明のガスバリア性フィルムは、作成後エージングを行うことが好ましい。エージング条件は、硬化剤としてポリイソシアネートを使用する場合であれば、室温〜80℃で、12〜240時間の間であり、この間に、ポリエステルポリオールと硬化剤とが反応し、接着強度が生じる。
【実施例】
【0066】
次に、本発明を、実施例及び比較例により具体的に説明をする。実施例中断りのない限り、「部」「%」は質量規準である。
【0067】
(樹脂基材層(1))
樹脂基材層(1)としては以下の2種のフィルムを用いた。
1.ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製「E−5100」、厚み12μm)以下樹脂基材層(PET)と称する。
2.延伸ナイロンフィルム(ユニチカ(株)製「エンブレム」、厚み14μm)これを実施例では樹脂基材層(NY)と称する。
【0068】
(バリア層(2)用塗工液の製造方法)
(製造例1) バリア層(2−PVA)用塗工液の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入管、環留管を設置した反応容器に、ポリビニルアルコール(数平均分子量4.4万、完全けん化物)7部、及びイオン交換水93部を仕込み、徐々に90℃まで加温し2時間攪拌を継続し均一透明なポリビニルアルコール水溶液を得た。該塗工層を「バリア層(2−PVA)」と称す。
【0069】
(製造例2) バリア層(2−EVOH)用塗工液の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入管、環留管を設置した反応容器に、エチレンビニルアルコール共重合体((株)クラレ製、E105B)33部、及びイオン交換水150部、及び1−プロパノール120部を仕込み、徐々に90℃まで加温し4時間攪拌を継続し、均一透明なエチレンビニルアルコール共重合体の水/1−プロパノール溶液を得た。該塗工層を「バリア層(2−EVOH)」と称す。
【0070】
(バリア層(2−PAA)、(2−PEI)用塗工液)
バリア層(2)用塗工液−3:ポリカルボン酸の25質量%水溶液であるBASF社、SokalanCP13Sを直接用いた。該塗工層を「バリア層(2−PAA)」と称す。
バリア層(2)用塗工液−4:ポリエチレンイミンの30質量%水溶液であるエポミンP−1000、日本触媒(株)製を直接用いた。該塗工層を「バリア層(2−PEI)」と称す。
【0071】
(バリア層(3)用非晶性ポリエステルポリオール(A)の製造方法)
(製造例3) 無水フタル酸とエチレングリコールとからなるポリエステルポリオール「EGoPA600」の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入管、精留管、水分分離器等を備えたポリエステル反応容器に、無水フタル酸148.1部、エチレングリコール84.2部及びチタニウムテトライソプロポキシド0.03部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を205℃に保持した。酸価が1mgKOH/g以下になったところでエステル化反応を終了し、数平均分子量600の非晶性ポリエステルポリオール「EGoPA600」を得た。
【0072】
(製造例4) トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートと無水フタル酸とエチレングリコールとからなるポリエステルポリオール「THEI(oPAEG)」の製造方法
製造例3における無水フタル酸、及びエチレングリコールをトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート261.3部、無水フタル酸296.2部、エチレングリコール129.1部に変えた以外は製造例1と同様にして、数平均分子量645の非晶性ポリエステルポリオール「THEI(oPAEG)」を得た。本ポリエステルはトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートの2箇所の水酸基に、オルトフタル酸、エチレングリコールの繰り返し単位1のエチレングリコール末端重縮合ポリエステルが結合し、1箇所がトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート由来の水酸基が残存した材料である。
【0073】
(比較製造例1) イソフタル酸、セバシン酸とエチレングリコール、ネオペンチルグリコールとからなるポリエステルポリオール「ENiPS800」の製造方法
攪拌機、窒素ガス導入管、精留管、水分分離器等を備えたポリエステル反応容器に、エチレングリコール 16.3部、ネオペンチルグリコール27.3部、イソフタル酸 50.5部、セバシン酸 20.5部、及びチタニウムテトライソプロポキシド0.03部を仕込み、精留管上部温度が100℃を超えないように徐々に加熱して内温を205℃に保持した。酸価が1mgKOH/g以下になったところでエステル化反応を終了し、重量平均分子量800の非晶性ポリエステルポリオールを得た。
【0074】
(硬化剤a)
三井化学製「タケネートD−110NB」(メタキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体)と三井化学製「タケネート500」(メタキシリレンジイソシアネート)を50/50(重量比)の割合で混合し硬化剤aとした。
【0075】
(バリア層(3)用の塗工液の製造方法)
前述の製造例3、4で得られたバリア層(3)用の各非晶性ポリエステルポリオールをメチルエチルケトンで希釈し混合液を得、更に硬化剤aを配合し、バリア層(3)用の塗工液を得た。それぞれの塗工液をバリア層(3)塗工液−1、バリア層(3)塗工液−2と称する。
バリア層(3)塗工液−1の配合は、希釈溶液としてのメチルエチルケトン50部、製造例3で作製した非晶性ポリエステルポリオール(A)である「EGoPA600」を50部、硬化剤aを25部とした。この塗工液から得たバリア層を「バリア層(3−1)」と称する。
また、バリア層(3)塗工液−2の配合は、メチルエチルケトン50部、製造例4で作製した非晶性ポリエステルポリオール(A)である「THEI(oPAEG)」を50部、硬化剤aを35部とした。この塗工液から得たバリア層を「バリア層(3−2)」と称する。
【0076】
(バリア層(3)との比較用非晶性ポリエステルポリオール系塗工液の製造方法)
前述の比較製造例1で得られた非晶性ポリエステルポリオールをメチルエチルケトンで希釈し混合液を得、更に硬化剤aを配合し、比較用バリア層用の塗工液を得た。本塗工液の配合は、希釈溶液としてのメチルエチルケトン50部、比較製造例1で作製した非晶性ポリエステルポリオール「ENiPS800」を50部、硬化剤Aを25部である。この塗工液を比較用バリア塗工液−3と称する。この塗工液から得た比較用バリア層を「バリア層(3−H)」と称する。
【0077】
(シーラント層(4))
シーラント層(4)として以下の2種のフィルムを用いた。
1.無延伸ポリプロピレンフィルム(東レ(株)製「ZK93KM、厚み70μm)これを実施例ではCPPと称する。
2.直鎖状ポリエチレンフィルム(三井化学東セロ(株)製「TUX-HC」、厚み60μm)これを実施例ではLLDPEと称する。
なお、CPPあるいはLLDPEは、シーラント層(4)単独の酸素透過率測定では、使用装置の測定上限である2000cc/m・日・atmをオーバーし実質的に酸素バリア能がないことが明らかとなっている。(参考例7,8)
【0078】
以下実施例1〜9に、本発明の樹脂基材層にバリア層(2)及びバリア層(3)を積層したガスバリア性フィルムの製造法を記した。
【0079】
(実施例1 :樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−1)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
樹脂基材層(1)としての樹脂基材層(PET)上に、バリア層(2−PVA)用塗工液をバーコーター12番で塗工した。これを温度80度℃にセットした熱風乾燥機中で10分間乾燥させ、バリア層(2−PVA)を得た。次に、バリア層(3)塗工液−1をバーコーター8番で塗布し、温度70℃に設定したドライヤーで希釈溶剤を揮発させ乾燥した。次にシーラントフィルムであるCPPを本塗工面上に設置し、ラミネートしたのち、40℃/3日間のエージングを行い、樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−1)/CPPの層を有する、ガスバリア性フィルムを作製した。
【0080】
(実施例2:樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−2)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例1におけるバリア層(3)塗工液−1をバリア層(3)塗工液−2に変更した以外は、実施例1と同様な方法により、樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−2)/CPPの層を有する、ガスバリア性フィルムを作製した。
【0081】
(実施例3:樹脂基材層(PET)/バリア層(2−EVOH)/バリア層(3−1)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例1のバリア層(2−PVA)を、バリア層(2−EVOH)用塗工液をバーコーター10番で塗工を行うことで得たバリア層(2−EVOH)に変更した以外は、実施例1と同様な方法により、樹脂基材層(PET)/バリア層(2−EVOH)/バリア層(3−1)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。
【0082】
(実施例4:樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PAA)/バリア層(3−2)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例2のバリア層(2−PVA)を、バリア層(2−PAA)用塗工液をバーコーター3番で塗工を行うことで得たバリア層(2−PAA)に変更した以外は、実施例2と同様な方法により樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PAA)/バリア層(3−2)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。
【0083】
(実施例5:樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PEI)/バリア層(3−2)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例2のバリア層(2−PVA)を、バリア層(2−PEI)用塗工液をバーコーター3番で塗工を行うことで得たバリア層(2−PEI)に変更した以外は、実施例2と同様な方法により、樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PEI)/バリア層(3−2)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。
【0084】
(実施例6:樹脂基材層(NY)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−2)/LLDPE ガスバリア性フィルムの作製)
樹脂基材層(1)を樹脂基材層(NY)に、シーラント層(4)をLLDPEに変更した以外は、実施例2と同様な方法で、樹脂基材層(NY)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−2)/LLDPE層を有するガスバリア性フィルムを作製した。
【0085】
(実施例7:樹脂基材層(NY)/バリア層(2−PAA)/バリア層(3−2)/LLDPE ガスバリア性フィルムの作製)
樹脂基材層(1)を樹脂基材層(NY)に、シーラントフィルムをLLDPEに変更した以外は、実施例4と同様な方法で、樹脂基材層(NY)/バリア層(2−PAA)/バリア層(3−2)/LLDPE層を有するガスバリア性フィルムを作製した。
【0086】
(実施例8:樹脂基材層(PET)/バリア層(3−2)/バリア層(2−PVA)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
樹脂基材層(1)としての樹脂基材層(PET)上に、バリア層(3)塗工液−2をバーコーター8番で塗工し、温度70℃に設定したドライヤーで希釈溶剤を揮発させ乾燥した。次に、シーラントであるCPPに、バリア層(2−PVA)用塗工液を、バーコーター12番で塗工した。これを温度70度℃にセットした熱風乾燥機中で10分間乾燥させ、CPP上にバリア層(2−PVA)層を製膜した。次に、樹脂基材層(PET)上のバリア層(3−2)層とCPP上のバリア層(2−PVA)層を接触させるように積層しラミネートしたのち、40℃/3日間のエージングを行い、樹脂基材層(PET)/バリア層(3−2)/バリア層(2−PVA)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。
【0087】
(実施例9:樹脂基材層(NY)/バリア層(3−2)/バリア層(2−PAA)/LLDPE ガスバリア性フィルムの作製)
樹脂基材層(1)としての樹脂基材層(NY)上に、バリア層(3)塗工液−2をバーコーター8番で塗工し、温度70℃に設定したドライヤーで希釈溶剤を揮発させ乾燥した。次に、シーラントであるLLDPEにバリア層(2−PAA)用塗工液をバーコーター3番で塗工した。これを温度60度℃にセットした熱風乾燥機中で20分間乾燥させ、LLDPE上にバリア層(2−PAA)層を製膜した。次に、樹脂基材層(NY)上のバリア層(3−2)層とLLDPE上のバリア層(2−PAA)層を接触させるように積層しラミネートしたのち、40℃/3日間のエージングを行い、樹脂基材層(NY)/バリア層(3−2)/バリア層(2−PAA)/LLDPEの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。
【0088】
次に比較例1〜6として、バリア層(3)の代わりに比較用バリア層「バリア層(3−H)」をバリア層(2)に積層した ガスバリア性フィルムの作製法を記した。
【0089】
(比較例1:樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−H)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例1でのバリア層(3)塗工液−1を、比較用バリア塗工液−3に変更した以外は実施例1と同様な方法で、樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−H)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例1及び実施例2との比較に相当する。
【0090】
(比較例2:樹脂基材層(PET)/バリア層(2−EVOH)/バリア層(3−H)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例3でのバリア層(3)塗工液−1を、比較用バリア塗工液−3に変更した以外は実施例3と同様な方法で、樹脂基材層(PET)/バリア層(2−EVOH)/バリア層(3−H)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例3との比較に相当する。
【0091】
(比較例3:樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PAA)/バリア層(3−H)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例4でのバリア層(3)塗工液−1を、比較用バリア塗工液−3に変更した以外は実施例4と同様な方法で、樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PAA)/「リア層(3−H)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例4との比較に相当する。
【0092】
(比較例4:樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PEI)/バリア層(3−H)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例5でのバリア層(3)塗工液−1を、比較用バリア塗工液−3に変更した以外は実施例4と同様な方法で、樹脂基材層(PET)/バリア層(2−PEI)/バリア層(3−H)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例5との比較に相当する。
【0093】
(比較例5:樹脂基材層(NY)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−H)/LLDPE ガスバリア性フィルムの作製)
実施例6でのバリア層(3)塗工液−1を、比較用バリア塗工液−3)に変更した以外は実施例6と同様な方法で、樹脂基材層(NY)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−H)/LLDPEの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例6との比較に相当する。
【0094】
(比較例6:樹脂基材層(NY)/バリア層(2−PAA)/バリア層(3−H)/LLDPE ガスバリア性フィルムの作製)
実施例7でのバリア層(3)塗工液−1を、比較用バリア塗工液−3に変更した以外は実施例6と同様な方法で、樹脂基材層(NY)/バリア層(2−PVA)/バリア層(3−H)/LLDPEの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例7との比較に相当する。
【0095】
次に参考例1〜3としてバリア層(2)を有していない、バリア層(3)のみのガスバリア性フィルムの作製法を記した。また、参考例4〜7は本実施例で使用した樹脂基材層、及びシーラント層(4)それぞれ単独での酸素透過率結果を示した。
【0096】
(参考例1:樹脂基材層(PET)/バリア層(3−1)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例1のうち、バリア層(2−PVA)層の塗工積層を行わない以外は実施例1と同様な方法で、樹脂基材層(PET)/バリア層(3−1)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例1、3との参考例に相当する。
【0097】
(参考例2:樹脂基材層(PET)/バリア層(3−2)/CPP ガスバリア性フィルムの作製)
実施例2のうち、バリア層(2−PVA)層の塗工積層を行わない以外は実施例1と同様な方法で、樹脂基材層(PET)/バリア層(3−2)/CPPの層を有するガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例2、4、5、8との参考例に相当する。
【0098】
(参考例3:樹脂基材層(NY)/バリア層(3−2)/LLDPE ガスバリア性フィルムの作製)
実施例2のうち、バリア層(2−PVA)層の塗工積層を行わない以外は実施例1と同様な方法で、樹脂基材層(NY)/バリア層(3−2)/LLDPEの層を有する ガスバリア性フィルムを作製した。本フィルムは実施例6、7、9との参考例に相当する。
【0099】
(評価方法)
酸素透過率
エージングが終了した酸素バリア性フィルムを、モコン社製酸素透過率測定装置OX−TRAN1/50を用いてJIS−K7126(等圧法)に準じ、23℃0%RH、及び23℃90%RHの雰囲気下で測定した。なおRHとは、湿度を表す。
【0100】
結果を表1〜表3に示す。
【0101】
【表1】


※樹脂基材層(1)/バリア層(A)/バリア層(B)/シーラント層(4)の順に積層していることを示す。
【0102】
【表2】


※樹脂基材層(1)/バリア層(A)/バリア層(B)/シーラント層(4)の順に積層していることを示す。
【0103】
【表3】


※樹脂基材層(1)/バリア層(A)/バリア層(B)/シーラント層(4)の順に積層していることを示す。
【0104】
以上表1に示した、実施例1〜9の水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)と、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と多価アルコールを主成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオール(A)及び水酸基と反応する硬化剤とを含有するバリア層(3)を併用したフィルムでは、湿度0%では酸素透過率が3cc/m・日・atm以下で且つ、湿度90%でも少なくとも40cc/m・日・atm以下、良好なものでは15cc/m・日・atm以下と全湿度範囲で良好な酸素バリア能を示した。
一方、バリア層(3)を持たない各比較例では湿度0%での酸素透過率は低いものの、90%下での酸素透過率が参考例4,5の樹脂基材に近い値を示し、実質的にバリア能を持っていなかった。更に、参考例1〜3のバリア層(2)を持たない例では各実施例に比べて湿度0%下での酸素バリア能が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のフィルムは酸素バリア性を有するので酸素バリア性を所望されるフィルムである、食品包装材用の他、例えば太陽電池用保護フィルムや表示素子用酸素バリア性フィルム、建築材料用フィルム、工業材料用フィルム、等に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材層(1)と、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリカルボン酸、及びポリエチレンイミンから選ばれる少なくとも1種の水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)と、オルト配向芳香族ジカルボン酸またはその無水物と多価アルコールを主成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオール(A)、及び水酸基と反応する硬化剤とを含有するバリア層(3)とを有することを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記バリア層(3)が、オルトフタル酸またはその無水物、ナフタレン2,3−ジカルボン酸またはその無水物、ナフタレン1,2−ジカルボン酸またはその無水物、アントラキノン2,3−ジカルボン酸またはその無水物、及び2,3−アントラセンジカルボン酸またはその無水物から成る群から選ばれる少なくとも1つの多価カルボン酸またはその無水物と、多価アルコールを必須成分として重縮合して得た非晶性ポリエステルポリオール(A−1)を含有する請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記多価アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのジオールである請求項2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記多価アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1つのジオールと、3官能以上の多官能ポリオールとである請求項2又は3に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記バリア層(3)が、一般式(1)で表されるイソシアヌル環を有するポリエステルポリオール化合物(A−4)を含有する請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【化1】


(一般式(1)中、R〜Rは各々独立して、−(CHn1−OH(但しn1は2〜4の整数を表す)、又は一般式(2)
【化2】



(一般式(2)中、n2は2〜4の整数を表し、n3は1〜5の整数を表し、Xは1,2−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、2,3−ナフチレン基、2,3−アントラキノンジイル基、及び2,3−アントラセンジイル基から成る群から選ばれ、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Yは炭素原子数2〜6のアルキレン基を表す)で表される基を表す。但しR、R及びRの少なくとも1つは前記一般式(2)で表される基である)
【請求項6】
前記バリア層(3)が、結晶性ポリエステルを含有する請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記バリア層(3)が、硬化剤としてポリイソシアネートを含む請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
シーラント層(4)を更に有し、前記基材層(1)と、前記水溶性または水膨潤性を有する樹脂を有するバリア層(2)と、前記バリア層(3)と、シーラント層(4)をこの順に有する請求項1〜7のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。

【公開番号】特開2012−200998(P2012−200998A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67731(P2011−67731)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】