説明

ガスバリア膜形成用組成物、ガスバリア性積層体及びそれを用いた成形体

【課題】ガスバリア性、密着性、可撓性、耐屈曲性、透明性などの諸特性に優れたガスバリア性を付与させることができるコーティング剤組成物、それを用いてなるガスバリア性積層体、該積層体からなる成形体を提供する。
【解決手段】トリアジンジチオール基を有するオルガノポリシロキサンを必須成分とするガスバリア膜形成用組成物、及びそれを用いてなるガスバリア積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア膜形成用組成物、ガスバリア性積層体及びそれを使用した成形体に関し、更に詳しくは、酸素及び窒素ガス、水蒸気等の透過を阻止するガスバリア性に優れ、更に透明性、防湿性、耐衝撃性、耐熱水性、密着性等に優れたコーティング膜を形成することができるガスバリア膜形成用組成物、それを使用したガスバリア性積層体及び成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸素、窒素、炭酸ガス、水蒸気等の気体の透過度が極めて小さいガスバリア性フィルムは、飲料品や食品用包装容器などの包装用材料、写真用ベースフィルム、磁気テープ用ベースフィルム、製図用フィルム、コンデンサー等の電気機器用フィルム、メンブレンスイッチ、タッチパネル、キーボード、ラベル等の工業用材料などに用いられている。
【0003】
飲料及び食料品包装用途では、フィルムの十分なガスバリア性、透明性、耐屈曲性などフィルム諸物性が高次元で要求され、また工業用途においても、液晶や有機EL等のディスプレイの軽量化、薄膜化、フレキシブル化が進むにつれて、従来のガラス基材に代えてフィルム(プラスチック)基材を用いることが検討されており、これらの用途に用いるためには、ガラス基材と同程度の高度なガスバリア性がフィルムに求められる。
【0004】
一般に、プラスチックフィルムにガスバリア性を付与するためには、〈1〉エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン系共重合体、芳香族系ナイロン等のガスバリア性素材でフィルムを形成する、〈2〉これらガスバリア性素材をポリエステル樹脂フィルムなど、他のフィルム材料にラミネート又はコーティングする、〈3〉アルミ箔をフィルム状材料にラミネートする、〈4〉金属酸化物をフィルム状材料に蒸着する等の方法がとられている。
【0005】
しかしながら、これらのガスバリア性フィルムの内、エチレン−ビニルアルコール共重合体や、芳香族系ナイロン樹脂等のガスバリア性フィルムでは耐湿性に劣り、保管条件の湿度が大きくなるに従いガスバリア性が低下するといった問題がある。また、塩化ビニリデン系共重合体からなるガスバリア性フィルムは、塩素原子を含むため公害の原因となるおそれがある。アルミ箔ラミネートフィルムでは包装された内容物を外から見ることができず、金属酸化物蒸着フィルムは可撓性に劣るため蒸着層にクラックが生じ易く、ガスバリア性の低下を引き起こすという問題があった。
【0006】
こうした問題を解決する方法として、フィルム上にポリシロキサン系重合体を有する被膜層を形成したガスバリア性フィルムが提案され、公知の技術となっている(特許第3119113号公報:特許文献1)。また、ポリシロキサン系重合体と有機高分子化合物のハイブリッドポリマーからなる被膜層を形成し、その上に水系エマルションからなる有機層を設けたガスバリア性フィルムが可撓性や耐屈曲性に優れるものとして提案されている(特開2002−326303号公報:特許文献2)。しかしながら、一般にポリシロキサンは酸素透過性を有し、更に提案された技術ではフィルム基材及び上層に形成されうる樹脂層との接着・密着性が十分であるとは言えず、ガスバリア性、耐屈曲性といった点で改良の余地を残すものであった。
【0007】
【特許文献1】特許第3119113号公報
【特許文献2】特開2002−326303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ガスバリア性、密着性、可撓性、耐屈曲性、透明性などの諸特性に優れたガスバリア性を付与させることができるガスバリア膜形成用組成物を提供することを目的とし、更にはそれを用いてなるガスバリア性積層体、該積層体からなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ガスバリア性発現に有効なトリアジン骨格を有し、かつ樹脂及び金属との接着に有効なチオール基を該骨格中に導入したトリアジンジチオール基を有するオルガノポリシロキサンを用いることで、ガスバリア性、密着性、可撓性に優れたガスバリア層を形成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記に示すガスバリア膜形成用組成物、ガスバリア性積層体、及び該積層体を用いた成形体を提供する。
請求項1:
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)を必須成分として含んでなることを特徴とするガスバリア膜形成用組成物。
請求項2:
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と、極性官能基を有する有機高分子化合物(B)とを含んでなることを特徴とするガスバリア膜形成用組成物。
請求項3:
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と、極性官能基を有する有機高分子化合物(B)との反応物を含んでなることを特徴とするガスバリア膜形成用組成物。
請求項4:
極性官能基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、イソシアナート基、メルカプト基、エポキシ基又はアルコキシシリル基であることを特徴とする請求項2又は3記載のガスバリア膜形成用組成物。
請求項5:
(A)成分と(B)成分との使用割合が、質量比として10〜95:90〜5であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載のガスバリア膜形成用組成物。
請求項6:
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)が、下記シロキサン単位式(1)で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のガスバリア膜形成用組成物。
【化1】

[式中、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R6は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくはアルケニル基、又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基である。但し、R1〜R6のいずれかに少なくとも下記構造式(2)
【化2】

(式中、Mは水素原子及び/又はナトリウム原子であり、Aは2価の有機基であり、一端がトリアジン環と結合し、他端がポリシロキサンのケイ素原子と結合している。)
で表される基を1個以上含み、aは平均0≦a<0.8であり、bは平均0≦b<1であり、cは平均0≦c≦1であり、dは平均0≦d<0.4であり、eは平均0≦e<0.5であり、a+b+c+d=1である。]
請求項7:
構造式(2)において、この中の有機基−A−が、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子及び/又はカルボニル炭素を間に挟んでもよい2価の炭化水素基であることを特徴とする請求項6記載のガスバリア膜形成用組成物。
請求項8:
構造式(2)において、2価の有機基−A−が、−CH2CH2CH2NH−又は−CH2CH2CH2NHCH2CH2NH−であることを特徴とする請求項7記載のガスバリア膜形成用組成物。
請求項9:
基材上に請求項1〜8のいずれか1項記載のガスバリア膜形成用組成物をコーティングしてなることを特徴とするガスバリア層を有するガスバリア性積層体。
請求項10:
ガスバリア層の上に有機系及び/又は無機系高分子物質からなるトップ層を形成することを特徴とする請求項9記載のガスバリア性積層体。
請求項11:
基材とガスバリア層の間に無機系薄膜層を有することを特徴とする請求項9又は10記載のガスバリア性積層体。
請求項12:
基材がフィルム状であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載のガスバリア性積層体。
請求項13:
フィルムの基材が、ポリエステル樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン系共重合体、芳香族系ナイロン樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合体及びそのケン化物から選ばれることを特徴とする請求項12記載のガスバリア性積層体。
請求項14:
請求項9〜13のいずれか1項記載のガスバリア性積層体からなる成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガスバリア膜形成用組成物は、高ガスバリア性、高密着性発現に有効なトリアジンチオール基を有し、かつ極性官能基を有する高分子化合物と強く結合するような反応性シリル基に代表される反応性基を有するオルガノポリシロキサンを必須成分とするため、該コーティング剤を塗布することで形成されるガスバリア層は、基材及び必要に応じて上層に設ける有機・無機樹脂被膜層と加工密着性、接着強度が高く、従って得られる積層体のガスバリア性が高次元で発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のガスバリア膜形成用組成物は、トリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)を必須成分として、極性官能基を有する有機高分子化合物(B)を適宜に含み、(A)成分と(B)成分を含む場合は、両成分を必要に応じて加熱等の処理を行い、反応させた反応物を含むものでもよい。
【0013】
ここで、上記ガスバリア膜形成用組成物は、上記トリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と、極性官能基を有する有機高分子化合物(B)を主要な使用原料として含むものであればよいが、ガスバリア性、耐屈曲性、基材との密着性及び透明性等の特性向上を補助する目的として、シランカップリング剤等のカップリング剤、シリカ及びチタニア等の無機酸化物微粒子、硬化触媒、レベリング剤、界面活性剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤などの無機・有機系各種添加剤を使用原料として含んでもよい。また、これらを溶解する適当な溶剤を使用する場合においても、特に限定しない場合にはこれらの溶剤も含むものとする。
【0014】
このうち、本発明のガスバリア膜形成用組成物の主要原料の1つであるトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサンは、その分子構造内に有するトリアジンジチオール基により基材及び上層に設けられる樹脂層との高密着性を発現させ、またトリアジン骨格とシロキサン樹脂構造による緻密な架橋構造により高いガスバリア性を発現させる。
【0015】
上記オルガノポリシロキサンは、下記式(1)で示される。
【化3】

[式中、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R6は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくはアルケニル基、又は炭素数6〜10のアリール基等の芳香族炭化水素基である。但し、R1〜R6のいずれかに少なくとも下記構造式(2)
【化4】

(式中、Mは水素原子及び/又はナトリウム原子であり、Aは2価の有機基であり、一端がトリアジン環と結合し、他端がポリシロキサンのケイ素原子と結合している。)
で表される基を1個以上含み、aは平均0≦a<0.8であり、bは平均0≦b<1であり、cは平均0≦c≦1であり、dは平均0≦d<0.4であり、eは平均0≦e<0.5であり、a+b+c+d=1である。]
【0016】
上式中で、R1〜R6のアルキル基、アルケニル基、芳香族炭化水素基の置換基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ポリエーテル基、フェニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、(メタ)アクリロキシ基、エポキシ構造含有基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ官能性基、トリアジニルチオール基、パーフルオロアルキル基、ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキサイド)構造含有基で表される基から選択される1種又は2種以上の1価有機基である。
【0017】
上式中で、a,b,c,dはそれぞれ1官能、2官能、3官能、4官能のシロキサン構造の合計モル数を1とした場合の平均モル数を意味し、各シロキサン単位の成分比を示している。eは2〜4官能シロキサン単位のケイ素原子に直接結合した水酸基もしくは加水分解性基のモル数を2〜4官能シロキサン単位式全体のSi−Oユニットのモル数で割った値であり、総Si−Oユニット中のSi−OH及びSi−ORが占める割合を表す。従ってa+b+c+d=1であり、0≦e<(b+c+d)である。
【0018】
オルガノポリシロキサン樹脂中に1官能シロキサン単位(R123SiO1/2)が導入されると一般に分子量が低下するため、その範囲は平均0≦a<0.8、好ましくは平均0≦a<0.4である。2官能シロキサン単位(R45SiO2/2)が導入されると樹脂の分岐度が減少し、樹脂全体のモジュラスが低下するため、樹脂全体の流動性が向上することから、その範囲は平均0≦b<1であり、好ましくは平均0<b<0.8である。3官能シロキサン単位(R6SiO3/2)が導入されると、一般に分岐度が向上して樹脂全体のモジュラスが大きくなり、流動性が低下し、ハンドリングが困難となる可能性があるため、その範囲は平均0≦c≦1であり、好ましくは平均0≦c≦0.6である。4官能シロキサン単位(SiO4/2)が導入されると、一般に樹脂の分岐度が顕著に向上し、樹脂全体のモジュラスが顕著に大きくなり、流動性及び溶解性が大きく低下するため、その範囲は平均0≦d<0.4であり、好ましくはd=0である。加水分解性基を含むシロキサン単位が導入されると、無機基材との反応点が増加するが、その一方で樹脂中に反応活性基が残存することとなり、保存安定性が低下するため、eは平均0≦e<0.5であり、好ましくは平均0≦e<0.3である。
【0019】
上記シロキサン単位式(1)中、ケイ素原子に結合した置換基であるR1〜R6のうち、炭素数1〜20の置換基を有してもよいアルキル基又はアルケニル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、デシル基、ドデシル基等がアルキル基として例示され、また、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等がアルケニル基として挙げられる。また、炭素数6〜10の1価芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、フェニルエチル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。置換基にはヒドロキシル基、カルボキシル基、ポリエーテル基、フェニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、(メタ)アクリロキシ基、エポキシ構造含有基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ官能性基、トリアジニルチオール基、パーフルオロアルキル基、ポリ(ヘキサフルオロプロピレンオキサイド)構造含有基が挙げられる。これらの中でも下記構造式(2)
【化5】

(式中、Mは水素原子及び/又はナトリウム原子であり、Aは2価の有機基であり、一端がトリアジン環と結合し、他端がポリシロキサンのケイ素原子と結合している。)
で表される有機基が、置換基としてはR1〜R6のうちに少なくとも一つは含まれる。
【0020】
ケイ素原子に結合した加水分解性基について、Xは水素原子、又はメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは水素原子、メチル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0021】
上記有機基−A−は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子といったヘテロ原子及び/又はカルボニル炭素を間に挟んでもよい2価の炭化水素基であり、その中でも−CH2CH2CH2NH−,−CH2CH2CH2NHCH2CH2NH−であることが好ましい。
【0022】
本発明のガスバリア膜形成用組成物のもう1つの主要原料である極性官能基を有する有機高分子化合物(B)は、上記トリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)単独で得られるコーティング剤組成物をコーティングしてなるガスバリア膜では耐屈曲性、可撓性等がケースによって不足する場合があるが、有機高分子化合物(B)を加えることによって先の物性を補足・改良できるだけでなく、ガスバリア性、密着性、透明性、柔軟性等を向上させることができる。また、有機高分子化合物(B)は、分子内に有する極性官能基がオルガノポリシロキサン(A)の官能基と反応することでシロキサン−有機ポリマーのハイブリッドポリマーを形成するため、硬度や強度、緻密さを低下させることなく、被膜のガスバリア性、耐屈曲性、可撓性、透明性等を向上させることができる。
【0023】
有機高分子化合物(B)は、基本骨格が炭素、窒素、酸素原子から構成されるものであり、分子内に有する極性官能基の例としては、特に制限されるべきものではなく、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、イソシアナート基、メルカプト基、エポキシ基、アルコキシシリル基などが挙げられる。好ましくは成膜容易性、ガスバリア性向上の観点からヒドロキシル基、アルコキシシリル基、アミノ基である。これらの極性官能基は分子内に1種又は2種以上を有するものであってもよい。
【0024】
上記有機高分子化合物(B)の具体例としてはポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレートの(共)重合体等を水酸基を有する有機高分子化合物として挙げることができ、ポリエチレンイミン等のポリアルキレンイミン類、ポリアリルアミン等のポリアルキルアミン類、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレートのホモポリマーやこれらアミノ基含有(メタ)アクリレートと他の(メタ)アクリレート類や(メタ)アクリル酸とのコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルアミン類等をアミノ基を含有する有機高分子化合物として挙げることができ、(メタ)アクリロキシプロピルアルコキシシラン等のアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートのホモポリマーや、これらアルコキシシリル基含有(メタ)アクリレートと他の(メタ)アクリレート類や(メタ)アクリル酸とのコポリマーをアルコキシシリル基を含有する有機高分子化合物として挙げることができ、ポリアクリルアミド等をアミド基を有する有機高分子化合物として挙げることができ、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸共重合体をカルボキシル基を含有する有機高分子化合物として挙げることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0025】
上記有機高分子化合物(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算数平均分子量は、250〜20万、好ましくは250〜10万、より好ましくは300〜1万の範囲である。数平均分子量が250より小さいと、形成されるガスバリア膜の成膜性、可撓性が不十分となる場合がある。また数平均分子量が20万より大きいと、形成されるガスバリア膜の透明性、可撓性が不十分となる場合がある。但し、本発明に使用することのできる有機高分子化合物(B)の中には上記に規定する数平均分子量では計測できない複雑な構造を持つものも含まれるものであり、ここに規定する数平均分子量によって、本発明からこれらのものを排除するものではない。
【0026】
本発明のガスバリア性膜形成用組成物は、一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と極性官能基を有する有機高分子化合物(B)を必要に応じて反応させることを特徴とする。ここで「反応させる」という表現は、オルガノポリシロキサン(A)が有するアルコキシシリル部分と有機高分子化合物(B)の有する水酸基部分のエステル交換反応、オルガノポリシロキサン(A)の有する官能基A’と該有機官能基A’と反応しうる有機高分子化合物(B)の有機官能基の化学反応のどちらも指す。後者の化学反応としては、エポキシ基とアミノ基の反応、(メタ)アクリル基とアミノ基の反応、(メタ)アクリル基とメルカプト基の反応等が挙げられる。また、「必要に応じて」という表現は、(A)、(B)成分を反応に供しない場合に加え、(A)、(B)成分を反応させることにより直接結合が形成される場合に対して、アミド基を有する高分子化合物を用いた場合のカルボニル−活性水素による水素結合のような非結合性の相互作用が(A)成分と(B)成分で形成される時には、見かけ上反応はしていないため、このような場合を指す。
【0027】
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と極性官能基を有する有機高分子化合物(B)を反応させる条件としては、適宜に有機溶媒を使用し、反応温度は5〜200℃の範囲が好ましく、より好ましくは25〜150℃、更に好ましくは50〜130℃の範囲である。有機溶媒を用いることで両成分を均一に混合させることができ、反応効率を挙げることができる場合がある。また、温度範囲については5℃未満では反応が進行するに十分な熱エネルギーが得られず、反応が進行しない場合があり、200℃を超えると、目的の反応以外の副反応が生じるおそれがあるほか、官能基部分での重合、熱分解が起きるおそれがある。
【0028】
なお、有機溶媒としては、(A)、(B)成分を溶解し得るものが使用されるが、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶媒、ペンタン、へキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の鎖状又は環状エーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒等が例示され、アルコール系溶媒が好ましく、特にメタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0029】
上記一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と極性官能基を有する有機高分子化合物(B)の配合量は、他の添加剤使用の有無により異なるため一義的に規定することはできないが、溶媒を除いたガスバリア膜形成用組成物の構成成分の合計配合量に対して、通常(A)成分の配合量は5〜100質量%、好ましくは10〜95質量%、より好ましくは15〜90質量%の範囲であることが好ましい。配合量が5質量%未満となる場合はガスバリア膜層が耐水性、耐湿性、低温成膜性、透明性、平滑性、耐擦傷性、塗工性、基材との密着性、耐熱性、耐薬品性、耐汚染性に劣ることがある。
【0030】
一方、(B)成分の配合量は、通常0〜95質量%、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜85質量%の範囲である。(B)成分の配合量の下限については、(B)成分が任意成分であるため、0質量%であってよいが、上述してきたように、極性官能基を有する有機高分子化合物(B)を用いることによりガスバリア性、密着性、透明性、柔軟性等の特性を向上させる効果を奏することから、(B)成分の配合量が5質量%未満となる場合には上述したような効果が得られない場合がある。但し、本発明では基材の種類によりクラックの発生、耐水性、耐湿性、透明性、平滑性、耐擦傷性、塗工性、基材との密着性、耐熱性、耐薬品性、耐汚染性に劣ることがある。一方、配合量が95質量%を超える場合にはガスバリア膜が耐水性、耐湿性、低温成膜性、透明性、平滑性、耐擦傷性、塗工性、基材との密着性、耐熱性、耐薬品性、耐汚染性に劣ることがある。
【0031】
上記溶媒の配合量は特に限定されないが、ガスバリア膜形成用組成物の全質量を100質量%とした時に、通常5〜97質量%、好ましくは20〜95質量%、より好ましくは50〜90質量%の範囲である。溶媒の配合量が5質量%未満である場合には、ガスバリア膜形成用組成物の反応安定性に劣ることがあり、また粘度が上昇して均一に塗工できない場合がある。一方、97質量%を超える場合にはガスバリア膜層を形成する際の生産性が劣ることがある他、有効成分が低濃度となりすぎるため、必要な膜厚を確保できない場合がある。
なお、ここでの溶媒は、上記例示した溶媒と同様のものが挙げられる。
【0032】
また、上記一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と極性官能基を有する有機高分子化合物(B)並びに溶媒以外のシランカップリング剤等のカップリング剤、シリカ及びチタニア等の無機酸化物微粒子、硬化触媒、レベリング剤、界面活性剤、可塑剤、消泡剤、増粘剤などの無機・有機系各種添加剤の配合量についてはかかる添加剤の持つ諸特性を十分に発揮でき、かつ上記一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と極性官能基を有する有機高分子化合物(B)並びに溶媒により得られる作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、特に制限されるべきものではない。
【0033】
本発明のガスバリア膜形成用組成物は、ガスバリア性積層体のガスバリア層を形成するために有効に用いられ、この場合、基材上に上記ガスバリア膜形成用組成物をコーティングすることにより、ガスバリア層を形成し得る。
ここで、基材としては、フィルム状のものが用いられ、この基材フィルムとしては、ポリエステル樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン系共重合体、芳香族系ナイロン樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合体及びそのケン化物から選択することができる。
【0034】
上記ガスバリア膜層の乾燥後の厚さは、使用用途や気体バリア性積層体の構造により異なるため一義的に規定することは困難であり、用途に応じて適宜選択されるべきものであるが、例えば食品・飲料品の容器や食品包装用フィルムやラップフィルム等の包装材に利用する場合には、通常0.01〜10μm、好ましくは0.1〜5μmの範囲である。0.01μm未満の場合には被膜が均一にならないと共に、発明の効果であるところの気体バリア性、基材等との密着性、透明性、可撓性、印刷性、耐湿性、耐屈曲性等の要求性能が十分に発現しにくい。一方、ガスバリア膜層の厚さが10μmを超える場合には、膜厚が増えるのに反比例して耐屈曲性が徐々に低下していく傾向にあるため、被膜にクラックが生じやすくなる。
【0035】
次に、本発明のガスバリア性積層体は、上記ガスバリア膜層上に、更に有機系及び/又は無機系高分子物質からなるトップ層を積層してなることを特徴とするものである。ここで有機系トップ層としてはアクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアルキレンワックス、熱硬化性ポリエステル樹脂が挙げられ、無機系トップ層としてはケイ素、チタン、アルミニウムといった金属原子の金属酸化物が挙げられ、他にも有機樹脂と無機樹脂のハイブリッドポリマーからなる複合樹脂トップ層も含まれる。上述したトップ層を更に積層することで、耐屈曲性、ゲルボフレックス性、ラミネート加工時の基材フィルムの伸縮に対するクラック防止を効果的に奏することができる。
【0036】
また、上記トップ層の乾燥後の厚さとしては、使用用途や気体バリア性積層体の構造により異なるため一義的に規定することは困難であり、用途に応じて適宜選択されるべきものであるが、例えば食品・飲料品の容器や食品包装用フィルムやラップフィルム等の包装材に利用する場合には、通常0.1〜20μm、好ましくは0.5〜5μmの範囲である。0.1μm未満の場合には被膜が均一にならないと共に、発明の効果であるところのゲルボフレックス性、耐屈曲性等の要求性能が十分に発現しにくい。一方トップ層の厚さが20μmを超える場合には、ゲルボフレックス性、耐屈曲性等は十分であるが、耐湿性に劣る場合がある。
【0037】
本発明のガスバリア性積層体は、上記ガスバリア膜層と基材の間に、更に無機系薄膜層からなるバリア性薄膜層を積層してなることを特徴とする。かかる無機酸化物からなるバリア性薄膜層としては、例えば化学気相成長法、又は物理気相成長法、あるいはその両方を併用する方法等により無機酸化物の蒸着膜の単層膜あるいは2層以上からなる多層膜又は複合膜を形成して製造できるものである。
【0038】
上記化学気相成長法(chemical vapor deposition,CVD法)としてはプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等が挙げられる。また、物理気相成長法(physical vapor deposition,PVD法)としては真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等が挙げられる。
【0039】
上記において、金属又は無機酸化物の蒸着膜としては、基本的には金属酸化物を蒸着した薄膜であれば使用可能であり、例えばケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウム等の金属の酸化物の蒸着膜を使用することができる。その中でも好ましい金属元素としては材料の入手の容易性、得られるガスバリア性等よりケイ素、アルミニウムを挙げることができる。
【0040】
上記の金属の酸化物の蒸着膜は、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等のように金属酸化物として呼ぶことができ、その表記はSiOx,AlOx,MgOx等のようにMOx(但し、式中Mは金属元素を表し、xの値は金属元素によって与える範囲が異なる。)で表される。上記xの範囲としてはケイ素が0〜2、アルミニウムは0〜1.5、マグネシウムは0〜1、カルシウムは0〜1、カリウムは0〜0.5、スズは0〜2、ナトリウムは0〜0.5、ホウ素は0〜1.5、チタンは0〜2、鉛は0〜1、ジルコニウムは0〜2、イットリウムは0〜1.5の範囲をとることができる。なお、x=0の場合、完全な金属であり、透明では全くなく、使用することができないため、0<xである。また、xの上限は完全に酸化した値である。
【0041】
上記のような無機酸化物薄膜層の膜厚としては、使用する金属又はその酸化物の種類等により異なるが、例えば50〜2,000Å、好ましくは100〜1,000Åの範囲で任意に選択して形成することが望ましい。
また、本発明における無機酸化物薄膜は、使用する金属又はその酸化物としては、1種又は2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した無機酸化物の蒸着膜を構成することもできる。
【0042】
本発明のガスバリア性積層体の製造方法としては、従来公知の種々基材上への各種塗膜形成技術や薄膜積層技術を適宜応用して、所望の特性を有する機能性薄膜を何層にも積層していってもよいし、基材がフィルムである際には、フィルム同士を張り合わせてラミネート化してもよいし、押出ラミネートにより多層化してもよいなど、特に制限されるべきものではない。
なお、各機能層の形成方法が有機系の場合コーティング法、無機系の場合コーティング法及び/又は蒸着法であることが好ましい。
【0043】
以下、代表的な製造方法について簡単に説明する。
本発明の代表的な製造方法としては、基材上に先に説明した気相蒸着法にて無機酸化物薄膜層を形成し、その上層に上記ガスバリア用組成物を塗布後、所定温度で乾燥及び加熱硬化し、更に必要に応じて熟成させてガスバリア膜を形成し、その後ガスバリア膜上に上記有機及び/又は無機系トップ層形成用組成物を塗布し、所定温度で乾燥及び加熱硬化し、必要に応じて熟成してトップ層を形成する方法が、製造時間を短縮でき、ガスバリア膜層とトップ層との密着性や親和性を高める観点からも有利である。
【0044】
基材上にガスバリア用組成物、有機・無機系トップ層用組成物をコーティングする方法としては特に制限されるべきものではなく、従来公知の薄膜コーティング(薄膜塗装・塗布)技術を適宜利用することができるものであり、例えば、ロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ノズルコーティング法、ダイコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、カーテンコーティング法、フローコーティング法、スクリーン印刷、グラビア印刷、曲面印刷などの各種印刷法など、あるいはこれらを組み合わせた方法を採用できる。
【0045】
なお、基材とガスバリア膜の間に設ける無機酸化物層は気相蒸着法で形成され、無機系トップ層も場合によっては蒸着法にて形成されてもよい。
【0046】
本発明のガスバリア性積層体のガスバリア性に関しては、使用用途により要求される基準が異なるほか、基材の種類や全体の積層構造などによっても異なるため、一義的に規定することはできないが、例えば食品や食料品の容器・包装用フィルムとして使用する場合を例にとり説明すると、高湿条件下(20℃,90%RH)での気体透過度が30ml/m2・24hrs・atm以下、好ましくは20ml/m2・24hrs・atm以下、より好ましくは10ml/m2・24hrs・atm以下である。これにより食品や飲料品の容器・包装用のフィルムに求められるガスバリア性の要求基準を満足することができる。
【0047】
また、ゲルボフレックス性に関しては使用用途により要求される基準が異なるほか、基材の種類や全体の積層構造などによっても異なるため一義的に規定することはできないが、例えば食品や食料品の容器・包装用フィルムとして使用する場合を例にとり説明すると、20℃におけるゲルボフレックステスターでの繰り返しひねり回数が50回に達した後の酸素透過度がテスト前の値に対して2倍以下であることが要求されるゲルボフレックス性の基準を満足するものである。
【実施例】
【0048】
以下、合成例、実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。例中、IRは赤外分光法の略である。なお、以下の例において部は質量部を示す。また、得られたガスバリア膜積層体の評価試験は以下の通りである。
酸素透過度:
温度20℃,湿度40%RH及び温度20℃,湿度90%RHの条件で米国、モコン社製の測定機〔機種名:オクストラン〕にて測定した。
ゲルボフレックス試験:
積層体をゲルボフレックステスターにより50回屈曲処理実施後に温度20℃,湿度90%RHの条件で上述した方法により酸素透過度を測定して評価した。
まず、本発明のガスバリア膜形成用組成物の必須成分である一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサンの合成例を以下に説明する。
【0049】
[合成例1]
下記シロキサン単位式(3)で示されるアミノ基含有シリコーンオリゴマー40.0g(アミン当量857)、トリアジントリチオール8.27g、トルエン360gを温度計、水冷コンデンサーを備えた1Lセパラブルフラスコに収め、120℃で4時間加熱撹拌して反応を進行させた。反応の進行と共に、混合物の粘度は増加し、増粘が停止したところで反応終了とした。その後、溶媒を減圧下で留去し、発生した硫化水素も除去した。得られた反応生成物は淡黄濁色のワックス状物質であった。この生成物のIRスペクトルを測定したところ、反応前と比べて、N−H構造に由来する吸収が減少し、新たにトリアジンチオール構造に由来する吸収が観測されたことから、目的とする反応が理想通り進行し、本生成物がトリアジンチオール基とアルケニル基を有する下記単位式(4)で示されるオルガノポリシロキサンであることを確認した。
【0050】
【化6】

【0051】
[合成例2]
下記シロキサン単位式(5)で示されるビニル基、アミノ基含有シリコーンオリゴマー100.0g(アミン当量881)、トリアジントリチオール20.1g、トルエン250gを温度計、水冷コンデンサーを備えた1Lセパラブルフラスコに収め、120℃で4時間加熱撹拌して反応を進行させた。反応の進行と共に、混合物の粘度は増加し、増粘が停止したところで反応終了とした。その後、溶媒を減圧下で留去し、発生した硫化水素も除去した。得られた反応生成物は淡黄濁色のワックス状物質であった。この生成物のIRスペクトルを測定したところ、反応前と比べて、N−H構造に由来する吸収が減少し、新たにトリアジンチオール構造に由来する吸収が観測されたことから、目的とする反応が理想通り進行し、本生成物がトリアジンチオール基とアルケニル基を有する下記単位式(6)で示されるオルガノポリシロキサンであることを確認した。
【0052】
【化7】

【0053】
[合成例3]
下記シロキサン単位式(7)で示されるビニル基、アミノ基含有シリコーンオイル100.0g(アミン当量6,299)、トリアジントリチオール2.8g、トルエン250gを温度計、水冷コンデンサーを備えた1Lセパラブルフラスコに収め、120℃で4時間加熱撹拌して反応を進行させた。反応の進行と共に、混合物の粘度は増加し、増粘が停止したところで反応終了とした。その後、溶媒を減圧下で留去し、発生した硫化水素も除去した。得られた反応生成物は淡黄濁色のワックス状物質であった。この生成物のIRスペクトルを測定したところ、反応前と比べて、N−H構造に由来する吸収が減少し、新たにトリアジンチオール構造に由来する吸収が観測されたことから、目的とする反応が理想通り進行し、本生成物がトリアジンチオール基とアルケニル基を有する下記単位式(8)で示されるオルガノポリシロキサンであることを確認した。
【0054】
【化8】

【0055】
[実施例1]
合成例1で得られたオルガノポリシロキサン10部、ポリビニルアルコール5部、イソプロピルアルコール85部を撹拌混合させ、この中に1質量%酢酸水溶液を1部加えたものを60℃で3時間反応させて、コーティング液(1)を得た。
【0056】
[実施例2]
合成例2で得られたオルガノポリシロキサン10部、ポリビニルアルコール5部、イソプロピルアルコール85部を撹拌混合させ、この中に1質量%酢酸水溶液を1部加えたものを60℃で3時間反応させて、コーティング液(2)を得た。
【0057】
[実施例3]
合成例3で得られたオルガノポリシロキサン10部、ポリビニルアルコール5部、イソプロピルアルコール85部を撹拌混合させ、この中に1質量%酢酸水溶液を1部加えたものを60℃で3時間反応させて、コーティング液(3)を得た。
【0058】
[実施例4]
基材として膜厚15μmのエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化物フィルムを用意し、このフィルム上に実施例1で得られたコーティング液(1)を乾燥後の厚みが1μmになるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、60℃で2日間熟成して、ガスバリア層を形成した。更にこのガスバリア膜層上にアミノ基含有アクリル樹脂の水系エマルションを乾燥後の厚みが1μmになるように塗布し、100℃で20秒間乾燥後、60℃で1日間熟成して、ガスバリア性積層体(1)を得た。
【0059】
[実施例5]
実施例4のコーティング液を実施例2で得られたコーティング液(2)に変更した以外は実施例4と同様の条件でガスバリア性積層体(2)を得た。
【0060】
[実施例6]
実施例4のコーティング液を実施例3で得られたコーティング液(3)に変更した以外は実施例4と同様の条件でガスバリア性積層体(3)を得た。
【0061】
[実施例7]
基材として膜厚15μmのエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化物フィルムを用意し、このフィルム上に膜厚20nmの酸化ケイ素蒸着膜を形成した(蒸着条件:反応ガス混合比;ヘキサメチルジシロキサン:酸素:ヘリウム=1.2:5.0:2.5,単位SLM、到達圧力;5.0×10-5mbar、製膜圧力;7.0×10-2mbar、ライン速度;150m/min、出力;35kW)。更にこの酸化ケイ素蒸着膜上をプラズマ処理して表面活性化した後に実施例1で得られたコーティング液(1)を乾燥後の厚みが1μmになるように塗布し、100℃で10秒乾燥後、60℃で2日間熟成して、ガスバリア層を形成した。更にこのガスバリア膜層上にアミノ基含有アクリル樹脂の水系エマルションを乾燥後の厚みが1μmになるように塗布し、100℃で20秒間乾燥後、60℃で1日間熟成して、ガスバリア性積層体(4)を得た。
【0062】
[実施例8]
実施例7のコーティング液を実施例2で得られたコーティング液(2)に変更した以外は実施例7と同様の条件でガスバリア性積層体(5)を得た。
【0063】
[実施例9]
実施例7のコーティング液を実施例3で得られたコーティング液(3)に変更した以外は実施例7と同様の条件でガスバリア性積層体(6)を得た。
【0064】
[比較例1]
実施例4のコーティング液の主成分をポリビニルアルコールのみに変更した以外は実施例4と同様の条件でガスバリア性積層体(7)を得た。
【0065】
[比較例2]
実施例7のコーティング液の主成分をポリビニルアルコールのみに変更した以外は実施例7と同様の条件でガスバリア性積層体(8)を得た。
【0066】
[実験例]
上記の実施例4〜9及び比較例1,2において製造したガスバリア性積層体(1)〜(8)について上述した方法により酸素透過度の測定、ゲルボフレックステストを行った。酸素透過度の測定結果を表1に、ゲルボフレックステストによる酸素透過度の変化を表2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
以上の結果は、本発明のガスバリア膜形成用組成物、及び該組成物を塗工して形成されるガスバリア層、並びにガスバリア性積層体が良好なガスバリア性を示し、基材との接着性が高いため耐屈曲性、ゲルボフレックス性に優れることを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)を必須成分として含んでなることを特徴とするガスバリア膜形成用組成物。
【請求項2】
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と、極性官能基を有する有機高分子化合物(B)とを含んでなることを特徴とするガスバリア膜形成用組成物。
【請求項3】
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)と、極性官能基を有する有機高分子化合物(B)との反応物を含んでなることを特徴とするガスバリア膜形成用組成物。
【請求項4】
極性官能基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、イソシアナート基、メルカプト基、エポキシ基又はアルコキシシリル基であることを特徴とする請求項2又は3記載のガスバリア膜形成用組成物。
【請求項5】
(A)成分と(B)成分との使用割合が、質量比として10〜95:90〜5であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載のガスバリア膜形成用組成物。
【請求項6】
一分子中にトリアジンチオール基を有するオルガノポリシロキサン(A)が、下記シロキサン単位式(1)で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のガスバリア膜形成用組成物。
【化1】

[式中、Xは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R1〜R6は置換基を有してもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくはアルケニル基、又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基である。但し、R1〜R6のいずれかに少なくとも下記構造式(2)
【化2】

(式中、Mは水素原子及び/又はナトリウム原子であり、Aは2価の有機基であり、一端がトリアジン環と結合し、他端がポリシロキサンのケイ素原子と結合している。)
で表される基を1個以上含み、aは平均0≦a<0.8であり、bは平均0≦b<1であり、cは平均0≦c≦1であり、dは平均0≦d<0.4であり、eは平均0≦e<0.5であり、a+b+c+d=1である。]
【請求項7】
構造式(2)において、この中の有機基−A−が、酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子及び/又はカルボニル炭素を間に挟んでもよい2価の炭化水素基であることを特徴とする請求項6記載のガスバリア膜形成用組成物。
【請求項8】
構造式(2)において、2価の有機基−A−が、−CH2CH2CH2NH−又は−CH2CH2CH2NHCH2CH2NH−であることを特徴とする請求項7記載のガスバリア膜形成用組成物。
【請求項9】
基材上に請求項1〜8のいずれか1項記載のガスバリア膜形成用組成物をコーティングしてなることを特徴とするガスバリア層を有するガスバリア性積層体。
【請求項10】
ガスバリア層の上に有機系及び/又は無機系高分子物質からなるトップ層を形成することを特徴とする請求項9記載のガスバリア性積層体。
【請求項11】
基材とガスバリア層の間に無機系薄膜層を有することを特徴とする請求項9又は10記載のガスバリア性積層体。
【請求項12】
基材がフィルム状であることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載のガスバリア性積層体。
【請求項13】
フィルムの基材が、ポリエステル樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン系共重合体、芳香族系ナイロン樹脂、エチレン−ビニルエステル共重合体及びそのケン化物から選ばれることを特徴とする請求項12記載のガスバリア性積層体。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか1項記載のガスバリア性積層体からなる成形体。

【公開番号】特開2010−111819(P2010−111819A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287379(P2008−287379)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】