説明

ガスボンベ用ICタグ取り付け治具

【課題】安定した通信性能を備え容易に周波数特性を変えることができる金属ボンベ用のICタグ取り付け治具を提供することとした。
【解決手段】ガスボンベの口部を囲繞しつつ口部に固定される固定部と固定部から延在する筐体を有し、筐体はインレットまたは誘電体板を収容するための複数のスロットを備え、スロットは内壁に複数のスペーサが形成されていることを特徴とするガスボンベ用ICタグ取り付け治具であり、前記スロットの延びる方向は、ガスボンベ口部円周の接線方向と同じである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスを収容する金属製ガスボンベにICタグを取り付けるための取り付け治具に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素ガス、窒素ガス、炭酸ガス、アセチレンガス、水素ガス又はプロパンガス等のガスが充填されたガスボンベには、高圧ガス保安法等の法規制により、容器検査等を定期的に行うことが定められている。このようなガスボンベに対しては、内容物の種類と容積、耐圧、製造年月日、製造者、製造番号等のガスボンベに関する各種情報を管理しておくことが要求される。
【0003】
これまでは、管理者が金属製ガスボンベに刻印された製造番号を目視で確認・照合することでガスボンベの管理がなされていたため、非常に不便であり多大な手間もかかり、管理効率が極めて悪かった。
【0004】
このような問題を解決するために、ガスボンベを構成するネックリングの溝部分に無線ICタグを配置することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。金属製ガスボンベ本体を加工してICタグを埋め込む構造にすることは、高圧ガス保安法上問題があるので、その代わりに、金属性ネックリングに溝部を形成して、その中に無線ICタグを埋設するというものである。
【0005】
特許文献1に開示されている無線ICタグの取り付け構造では、金属製ネックリングに対して溝部を機械的に加工する必要がるので、コストが高いという問題がある。また、現在流通しているガスボンベには、そのまま適用することができず、ガスボンベを一旦回収した上でネックリングに溝加工を施し、その後ガスボンベを元に戻すということになるので、簡単に設置できるというものでもない。さらにまた、無線ICタグが金属製のネックリング内に埋設されているために、無線ICタグの通信電波強度が大幅に低下するので、外部端末との通信が不安定になるという問題もある。
【0006】
また、ガスボンベに対して無線ICを紐で吊るしたりガスボンベの表面に貼り付けたりする技術も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、無線ICタグを紐で添付したり貼り付ける方法では、取り付けが容易である反面、無線ICタグの紛失や故意・過失での取替え事故が簡単に発生してしまうという問題がある。したがって、特許文献2の方法では、ガスボンベと無線ICタグとを1対1で連関するというタグ本来の特定・同定機能が損なわれやすいということになる。
【0007】
さらに別の取り付け構造として、リング状の部材を使用するもので、リング内側の周壁がガスボンベのネックリングに密着固定するかもしくはネジ部に螺合するようにし、リングの内部もしくはリングから延在する張り出し部分を設け、当該部位にインレットを埋設するようにしたものが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。これは、ICタグがガスボンベのネックリングに対し容易にかつ強固に取り付け可能であって、電波強度も低下せず外部端末と通信することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−181296号公報
【特許文献2】特開平05−288299号公報
【特許文献3】特開2009−288299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記いずれのICタグ取り付け構造であっても、ICタグがボンベの金属に近接した状態で通信が行われるため、通信性能(通信距離)にばらつきが大きいという問題がある。
また、ICタグ本来の通信周波数の周辺で共振する周波数を可変にできるのが望ましいが、上記に記載の構造では、アンテナデザインや筐体自体の再設計等が必要で多大な労力と時間を必要とするという問題がある。
そこで、本発明は、安定した通信性能を備えるとともに容易に周波数特性を変えることができる金属ガスボンベ用のICタグ取り付け治具を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するための請求項1に記載の発明は、ガスボンベの口部を囲繞しつつ口部に固定される固定部と固定部から延在する筐体を有し、筐体はインレットまたは誘電体板を収容するための複数のスロットを備え、スロットは内壁に複数のスペーサが形成されていることを特徴とするガスボンベ用ICタグ取り付け治具としたものである。
【0011】
スロットにインレットを挿入する筐体構成としたことで、インレットの交換が容易となり同時に金属ボンベとインレットの距離を長く設定することができる。また、誘電体板もスロットに挿入できるので通信に使用する共振周波数のチューニングが可能となる。
また、スロット内面にスペーサを設けることでインレットと筺体の接触面積が少なくなり、周波数のチューニング性能を引き出しつつ誘電体板の通信距離に与える影響を低減できる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記スロットの延びる方向は、ガスボンベ口部円周の接線方向と同じであることを特徴とする請求項1に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具としたものである。
【0013】
かかる構成とすると、スロットに挿入するインレットは短手方向から挿入し、インレットの長手方向がガスボンベの口部円周に巻きつく状態で配置されることとなる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記スロットは、ガスボンベ口部方向に整列していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具としたものである。
【0015】
請求項4に記載の発明は、前記誘電体板は、インレットとガスボンベ口部の間にあるスロットに収容されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具としたものである。
【0016】
上記の構成とすることで、通信周波数のチューニングが容易且つ効率的になされる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記インレットと誘電体板とを誘電体板をガスボンベ口部側にして一つのスロットに収容したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具としたものである。
【0018】
上記発明は、誘電体板の装着態様の別の一例を特定するものである。
【0019】
請求項6に記載の発明は、前記スペーサの延びる方向とインレットに形成されたアンテ
ナの長手方向が垂直であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具としたものである。
【0020】
長手方向に対して垂直に延びることで、インレットと筐体が直接接する面積を小さくすることができるからである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ICタグを金属ボンベから一定距離離れた位置に設置する構成としたことで金属の影響を受けにくくなるので通信性能が安定化する。
また、誘電体板をスロットに挿入するようにして、インレット自体を交換可能としたことで、筺体やインレットの構成を根本的に変えることなしに共振周波数のチューニングと変更が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)インレットを収容して金属ボンベに取り付けるための取り付け治具の外観斜視図である。(b)インレットの外観斜視図である。
【図2】(a)金属ボンベに取り付け治具を装着した様子を説明する正面模式図である。(b)〜(d)はスロットにインレット及び誘電体板を収容した様子を説明する正面視の図である。
【図3】スロットにインレット及び誘電体板を挿入したときの周波数特性測定結果を説明する図である。縦軸は最小動作電力。横軸は周波数である。実線:インレットのみ、破線:インレットと誘電体板を別のスロットに挿入、一点鎖線:インレットと誘電体板を同じスロットに挿入。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図面を参照しながら説明する。
【0024】
本発明になる取り付け治具1の外観斜視図を図1(a)に示すが、当該治具自体は筐体2(以下、本体部と記す。)と支持体3(以下、固定部と記す。)からなる。
また、インレット5をスロット4収容した状態で該治具をガスボンベ口部に装着したときの正面視の様子を図2(a)に、スロット4に挿入されるインレット5(ICタグ)の斜視図を図1(b)に示した。図中の矢印9(→)はインレット5がスロット4に挿入される方向を示している。
【0025】
取り付け治具1は、インレット5を収容するスロット4と誘電体板を収容可能なスロット4を供える本体部2と、本体底部から延在する固定部3を備え、固定部3は金属ボンベの口部が貫通し口部を囲繞する形状をなしている。固定部3の内周壁は金属ボンベ口部に形成されたネジと螺合するようにしても良いし、単に口部に貫通させて上から保護キャップ14で押えて使用する形態でもよい。
【0026】
スロット4の内壁にはスペーサ15を形成する。スペーサ15の伸びる方向はインレット5に形成した放射部(アンテナ)7の長手方向と垂直になるようにする。スペーサ15とその向きはインレット5と筐体間の接触面積を少なくし、取り付け治具を組成する誘電体の影響を受けにくくするためである。従って、スペーサの形状は、リブのような細長いものでも、アイランドのような点状物でも構わない。
【0027】
本体2に設けられたスロット4は、一番外側のスロットとガスボンベ口部間を結ぶ直線上に複数個配置される筐体構造とする。複数のスロットのうちいずれか1つにインレット5が入り、残りのいずれかに誘電体板17が挿入される。誘電体板17は必ずしも不可欠ではないが、収容される場合にはインレット5から見て、金属ボンベ側に挿入する。同じ
スロット4にインレット5と誘電体板17を、誘電体板17を内側にして挿入しても構わない(図2(c))。
【0028】
インレット5及び誘電体板17を納める本体2を金属ボンベに固定する固定部3は、図1(a)から推測できるように、少なくともインレットと金属口部を結ぶ線上には存在しない構造にするのが好ましく、存在する場合には固定部体積の10%以下に抑えるのが望ましい。挿入したインレットと金属の間に固定部3が存在すると、インレットが筐体の影響を受けやすくなり通信性能にバラつきが生じてしまうため、空間を持たせ、前記線上には筐体本体のみであることが望ましい。
【0029】
誘電体板17の誘電率と厚みは、通信周波数をシフトさせるシフト量に対応して種々の値のものが使用できる。誘電体17側にスペーサ15を形成することもできる。例えば、ポリプロピレン(PP、誘電率2.0〜2.3)のような低誘電のものから青色ガラス(誘電率7.3)のような高誘電率のものまで、加工可能な材料が用いられ、その厚さは1mm、大きさはインレットサイズ以上が望ましい。また材料は、筐体と同じでも構わない。
【0030】
次に、取り付け治具の製造方法につき説明する。
【0031】
取り付け治具は、充填用金型を使用し射出成型法にて製造する。
すなわち、取り付け治具と同一の形状を内部空間として有する金属塊を想定し、これを上金型と下金型とに、内容物が取り外しできるように上下一対に分割した2枚構成の金型を製造する。上下一対の金型を対抗させて型締めしてできる内部空間が取り付け治具の形状をなすものである。金型は内部空間に樹脂を注入するための注入口を備えている。
【0032】
実際には、注入口から、内部空間内に加熱溶融した充填樹脂を注入し、成型された樹脂物を得る。成型後、冷却してから上金型を外し、成型された治具を下金型から取り出す。これにより、取り付け治具が形成される。尚、本体部2と固定部3を別々に成型加工して、それらを適切な手段で接合させても構わない。
【0033】
充填用樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、芳香族系ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)、ポリフタルアミド(PPA)、液晶ポリマ(LCP)などの有機高分子材料が使用できる。また、1種の樹脂又は、複数種の樹脂の混合樹脂を用いても構わない。
【0034】
次に、本発明になる取り付け冶具1に収容されるインレット5の製法の(b)に示すように、インレットは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)またはPEN(ポリエチレンナフタレート)により形成された可撓性を有する基材上に、所定のアンテナ回路とICチップを備えたものである。基材の厚さは、例えば、100μm〜500μmの範囲から適宜選択されるが150μm程度が好ましい。
【0035】
インレット基材の表面には、アンテナ回路が形成されている。アンテナ回路は、基板上に概略図2(b)で示すような回路パターンであって2つの部分からなっている。該回路パターンは、整合ループ回路6と当該ループ回路とは電気的に接続していない放射素子部(アンテナ)7からなっている。整合ループ回路と放射素子部(アンテナ)7は電磁的に結合するように適切なクリアランスを保って形成されている。
【0036】
アンテナ回路は、例えば、基板の表面に形成されたアルミニウムの薄膜をエッチング等によりパターニングすることで形成される。その中で、枠状の整合ループ回路6は1辺の
中央部8で分離しており、両側の回路パターン端部は略円形状に面積が拡大され、端子部が形成されている。
【0037】
上記端子部の中央部に対応する基板の部位では、エポキシ樹脂と金属微粒子を主成分とする異方導電性ペーストが塗布され、その上部から図示しないベアICチップが載置され加圧された状態で過熱されることでICチップの電極とアンテナ端子部との電気的接続が図られている。ICチップと端子部の接続は、異方導電性ペースト以外にワイヤーボンディング、フリップチップ接続等があるが、ベアチップを使用するのかモジュールタイプのICチップを使用するのかなど接続端子数や許容面積に依存して適宜選択することができる。
【0038】
また、放射素子部(アンテナ)7は、図1(b)に示すような細長い板状形状で構わないが、整合ループ回路6と該放射素子部(アンテナ)7の間の位置にメアンダライン、スパイラルインダクタ等のインダクタンス成分を形成して設置しても構わない。
【0039】
最終的に、上記のアンテナ基材をコア基材として、カバー材、アンテナ基材、カバー材(図示せず)の積層構成としてから加圧しながら適切な温度で熱ラミネートすることによりICタグを得ることができる。
【実施例】
【0040】
図2(a)、(b)で示すような形状の取り付け治具1を、ポリプロピレン樹脂を使用して射出成型法にて製造した。本体部2は3個のスロット4(開口部高さ13mm、厚み空間3mm、インレット挿入深さ130mm)を有し、内壁にはスペーサ15を所定数形成したものである。インレットとガスボンベ口部表面までの距離は5cmとなるように、固定部の長さを設定した。隣接するスロット間の離間距離は3mmである。
インレット5は厚さ1mmのPET基材上に、整合ループ回路6と直線状の放射部(アンテナ)7を厚さ10μmで線幅が概ね1mmとなるようにアルミニウム箔をエッチングして形成した。整合ループ回路6と放射部7のクリアランスは1mmである。
整合ループ回路に接続したICチップの複素インピーダンスは周波数950MHzで20−j183Ω(jは虚数単位)であった。
また、スロットに挿入する通信周波数制御用の誘電体材料として、厚さ500μmのポリプロピレン樹脂を使用した。
【0041】
次に、インレットを金属ボンベから見て一番外側のスロットに挿入して、インレットの最小動作電力を通信周波数の関数として測定した(ケース1)。通信の共振周波数が変化するかどうかを調べるために、インレットの内側のスロットにポリプロピレ板を接するように挿入して最小動作電力を測定した(ケース2)比較のために、ポリプロピレン板を内側にしてインレットと重ねたものをスロットに挿入し同様な測定を行った(ケース3)。
【0042】
図3に、ケース1、ケース2、ケース3の場合の結果を、実線、破線、一点鎖線でそれぞれ示した。
この結果から、誘電体板17の有無で、通信の周波数特性が容易に変動させられることが分かった。誘電体とインレットを直接接触させると、共振の周波数特性が劣化するが、隙間を設けることで通信性能が確保できることが分かった。
誘電体板を介在させることで通信周波数のチューニングが可能で、且つその誘電体板にインレットが直接接しない構成となるようにスペーサを備えることが通信性能確保の上で効果的である。ケース内にもスペーサを設けることで、図3(c)のように誘電板を介在させなくても、ケース本体の影響による通信性能劣化の防止に効果的である。
【符号の説明】
【0043】
1、取り付け治具
2、本体(ケース)
3、固定部(支持部)
4、スロット
5、インレット
6、整合回路
7、放射素子部(アンテナ)
8、ICチップ
9、挿入方向
11、本体部
12、固定部
13、金属ボンベ
14、保護キャップ
15、スペーサ
17、誘電体板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスボンベの口部を囲繞しつつ口部に固定される固定部と固定部から延在する筐体を有し、筐体はインレットまたは誘電体板を収容するための複数のスロットを備え、スロットは内壁に複数のリブ状または点状のスペーサが形成されていることを特徴とするガスボンベ用ICタグ取り付け治具。
【請求項2】
前記スロットの延びる方向は、ガスボンベ口部円周の接線方向と同じであることを特徴とする請求項1に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具。
【請求項3】
前記スロットは、ガスボンベ口部方向に整列していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具。
【請求項4】
前記誘電体板は、インレットとガスボンベ口部の間にあるスロットに収容されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具。
【請求項5】
前記インレットと誘電体板とを誘電体板をガスボンベ口部側にして一つのスロットに収容したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具。
【請求項6】
前記スペーサの延びる方向は、インレットに形成されたアンテナの長手方向対して垂直であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガスボンベ用ICタグ取り付け治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−247340(P2011−247340A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120409(P2010−120409)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】