ガスモニタリング装置
【課題】 試料ガス中の共存物質の濃度が変動した場合でも化学剤の濃度を適切に定量可能なガスモニタリング装置を提供する。
【解決手段】 測定対象物質を含む試料ガスを導入する試料導入部3と、試料ガスに含まれ、測定対象物質と共存する所定の共存物質の濃度を測定する共存物質濃度測定手段4と、試料ガスをイオン化するイオン化部と、イオン化部で生成されたイオンの質量を分析する質量分析計と、質量分析計によって検出された信号を解析し、測定対象物質の濃度を算出するデータ処理部7と、データ処理部7によって解析された解析結果を表示する表示部8とを備えたガスモニタリング装置1であって、データ処理部7は、所定の共存物質の濃度に対応して、測定対象物質の濃度を補正する補正手段を備えたことを特徴とするガスモニタリング装置1である。
【解決手段】 測定対象物質を含む試料ガスを導入する試料導入部3と、試料ガスに含まれ、測定対象物質と共存する所定の共存物質の濃度を測定する共存物質濃度測定手段4と、試料ガスをイオン化するイオン化部と、イオン化部で生成されたイオンの質量を分析する質量分析計と、質量分析計によって検出された信号を解析し、測定対象物質の濃度を算出するデータ処理部7と、データ処理部7によって解析された解析結果を表示する表示部8とを備えたガスモニタリング装置1であって、データ処理部7は、所定の共存物質の濃度に対応して、測定対象物質の濃度を補正する補正手段を備えたことを特徴とするガスモニタリング装置1である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスモニタリング装置に関し、特に、質量分析計を用いて試料ガス中の化学物質の濃度をリアルタイムで測定して表示するガスモニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、世界的にテロの脅威が増している。特に、化学兵器剤(以下「化学剤」という)を用いた化学テロは、化学剤の製造が核兵器等に比べて容易である上に、実際に発生するとその被害が甚大であることから、各国で警戒が強化されている。我が国でも、松本サリン事件や地下鉄サリン事件等において化学剤が悪用されており、その対策は焦燥の急である。
【0003】
また、戦時中に旧日本軍によって製造されたと推定される化学兵器が中国や国内に埋設されていることが明らかとなっており、一部では工事等に伴って環境中に漏洩した化学剤による健康被害が報告されている。遺棄化学兵器および兵器内に保持されている化学剤の発掘、回収、無害化処理は、安全かつ速やかに進めることが求められている。
このように、化学剤が実際に使用されたり、漏洩したりした場合には、化学剤の種類および大気中の濃度等の情報をリアルタイムに取得し、住民の避難、汚染者の治療、化学剤の除染等に活用する必要がある。
【0004】
従来、化学剤を探知する方法として、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)や、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)等が広く用いられていた。
しかしながら、これらの方法では、クロマトグラフィーにより試料を分離する工程を含むため、リアルタイムに化学剤を探知するには必ずしも適切とは言えない場合がある。
そこで、化学剤をリアルタイムに検知する装置として、GCやLC等のクロマトグラフィーによる分離部を設けない構成の、質量分析計を用いた化学剤の探知装置が開示されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
一般に、質量分析計は、イオンの質量と電荷の比(m/z)を測定するものであるため、通常、質量分析計のすぐ上流には、試料をイオン化して供給するイオン化部がタンデムに配列されている。イオン化の方法には、電子衝突イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、レーザーイオン化(MALDI)法等の複数の方法が公知である。
【0006】
特許文献1に開示される発明では、試料のイオン化方法として大気圧化学イオン化法を採用している。大気圧化学イオン化法は、大気圧条件下というソフトな条件で化学反応により試料をイオン化させるため、試料のフラグメント化を減らし、試料の分子量情報を与えるイオン(以下「分子量関連イオン」という)を生成しやすいという長所がある。そのため、検出しようとする化学剤の濃度を取得したい場合に特に好適である。一方で、LC/MSにおいて広く適用される電子イオン化(EI)法等の他のイオン化方法は、試料そのものに強いエネルギーを与えるために、相対的に試料がフラグメント化しやすく、化学剤の構造を分析するのに適している。
【0007】
具体的には、大気圧化学イオン化法は、コロナ放電により生成した一次イオンと、試料との化学反応を行わせ、分子量関連イオン等の二次イオンを生成させるものである。代表的な分子量関連イオンとして、試料分子〔M〕にプロトンが付加したイオンである〔(M+H)+〕、または、脱離したイオンである〔(M−H)-〕が挙げられる。このような分子量関連イオンのイオン強度を求めることによって、試料に含まれる検出しようとする化学剤(測定対象物質)の濃度を求めることができる。
【0008】
ここで、図11を参照して、特許文献1に開示される従来の化学剤の探知装置を説明する。
図11は、従来の化学剤の探知装置の構成を示すブロック図である。図11に示すように、化学剤の探知装置100は、試料導入部101、イオン化部102、質量分析部103、制御部104、吸入ポンプ105、計測処理用計算機106および真空ポンプ107を含んで構成される。
【0009】
図11において、まず、試料導入部101に挿入された試料16は、加熱により気化される。次に、気体となった試料16は吸入ポンプ105によってイオン化部102に導かれる。そして、イオン化部102内のコロナ放電領域において、試料16がイオン化される。生成されたイオンは、質量分析計を備えた質量分析部103に導かれ、質量分析される。質量分析された結果のデータは、計測処理用計算機106にて処理され表示される。さらに、計測処理用計算機106は、質量分析の結果のデータが化学剤の特徴を有していた場合には化学剤を検出したと判定する。
真空ポンプ107は、質量分析部103内の差動排気部を減圧したり、質量分析部103に含まれる質量分析計の入ったチャンバー内を高真空状態に保ったりするために用いられる。
制御部104は、操作装置を構成する各機能部のON/OFFの制御や温度/電圧/真空圧力の設定、ステータスモニタ等を行う。
【0010】
また、大気圧化学イオン化法を適用した質量分析法を用いたガスモニタリング装置として、排ガスのモニタリング装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。このような発明によれば、排ガスを大気圧化学イオン化質量分析計に引き込み、排ガス中に含まれるダイオキシン関連化合物の濃度を表示することができる。
【0011】
また、ステンレスの表面処理において、反応室からのガスを質量分析計で分析する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。このような発明によれば、表面処理に影響する反応室の水蒸気分圧を測定することができる。
【特許文献1】特開2004−158296号公報
【特許文献2】特開2004−286648号公報
【特許文献3】特開2000−162189号公報
【特許文献4】特開平10−265839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記したように、特許文献1に開示される大気圧化学イオン化法を適用した質量分析計は、化学剤検出器として非常に有効である。その一方で、大気圧化学イオン化法は、試料を化学反応によってイオン化させるために、そのイオン化工程において、検出しようとする化学剤と共存する物質(以下「共存物質」という)の影響を受けるおそれがあった。
【0013】
換言すると、大気圧化学イオン化法のイオン化部において、検出しようとする化学剤がイオン化される効率(イオン化効率)は、共存物質の濃度に依存するおそれがあった。もし、イオン化効率が共存物質の濃度に依存すれば、実際に質量分析計で観測されるイオン強度や、このイオン強度から最終的に算出される化学剤の濃度も、共存物質の濃度に影響を受けることとなる。
【0014】
しかしながら、化学兵器にも転用されうる化学剤は、国際条約下において取り扱いの規制が厳しく、基礎的なデータさえも取得されていない場合が多い。そのため、前記したような共存物質存在下における化学剤のイオン化効率に関するデータも公知ではない。
従って、化学剤のイオン化効率が共存物質の濃度に依存することによる不具合があったとしても、化学剤に関するデータが充分に取得されていない現時点では、このことは課題とすらなっていなかった。
【0015】
そこで、本発明は、試料ガス中の共存物質の濃度が変動した場合でも化学剤の濃度を適切に定量可能なガスモニタリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明は、測定対象物質を含む試料ガスを導入する試料導入部と、前記試料ガスに含まれ、前記測定対象物質と共存する所定の共存物質の濃度を測定する共存物質濃度測定手段と、前記試料ガスをイオン化するイオン化部と、前記イオン化部で生成されたイオンの質量を分析する質量分析部と、前記質量分析部によって検出された信号を解析し、前記測定対象物質の濃度を算出するデータ処理部と、前記データ処理部によって解析された解析結果を表示する表示部とを備えたガスモニタリング装置であって、前記データ処理部は、前記所定の共存物質の濃度に対応して、前記測定対象物質の濃度を補正する補正手段を備えたことを特徴とするガスモニタリング装置である。
【0017】
このような構成とすることによって、試料ガス中の共存物質の濃度が変動した場合でも化学剤の濃度を適切に定量することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、共存物質の濃度が変動した場合でも化学剤の濃度を適切に定量可能なガスモニタリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施形態のガスモニタリング装置の構成を示すブロック図である。図1において、ガスモニタリング装置1は、化学剤データベース(DB)2と、ガス導入配管3と、湿度計4と、温度計5と、化学剤検出部6と、データ処理部7と、表示部8とを含んで構成される。
なお、図1に示す土壌保管テント22等の構成は、本実施形態に係るガスモニタリング装置1の構成要件ではないため、ここでの説明は省略し、後記する<使用例>において詳細に説明する。
【0021】
<化学剤DB>
化学剤DB2には、様々な化学剤由来の信号に関わる情報が格納されている。化学剤由来の信号に関わる情報は、例えば、検出されたイオン強度に対応する化学剤濃度を示すグラフや、共存物質の濃度に対応するイオン強度の補正率を示すグラフ(共存物質濃度−イオン強度補正率曲線)である。この共存物質濃度−イオン強度補正率曲線には、絶対湿度−イオン強度補正率曲線も含まれる。なお、前記したように、イオン強度は、化学剤のイオン化効率にともなって変動するパラメータである。また、化学剤DB2は、ハードディスク装置等によって実現することができる。
【0022】
また、前記したように、本実施形態で対象とする化学剤には、国際条約下で厳しく制限されているものも含まれている。従って、化学剤DB2に格納される情報も、所定の基準を満たす研究施設であらかじめ測定されたデータに基づいて構築されたものである。
また、「化学剤」には、化学剤そのものだけでなく、化学剤から派生しうる分解物も含む。分解物を検出することができれば、化学剤の存在を証明できるためである。
【0023】
<ガス導入配管>
図1に示すように、ガス導入配管3は、導入した試料ガスを化学剤検出部6に送出するための配管である。図1において、ガス導入配管3の一端は、例えば、検出しようとする化学剤を含んだ土壌保管テント22の排気管25等のガス流路に接続され、土壌保管テント22から排気された試料ガスの性質を特に変化させることなくガス導入配管3に導入することができる。そして、ガス導入配管3の他端は、化学剤検出部6と接続しており、ガス導入配管3に導入された試料ガスは化学剤検出部6へと送出される。
これらの試料ガスの移動は、化学剤検出部6に含まれる吸引ポンプ(図2参照)46によって容易に実現できる。
【0024】
<湿度計>
湿度計4は、ガス導入配管3に導入される試料ガスと同一の試料ガスの湿度を測定するものである。従って、湿度計4は、ガス導入配管3、または、ガス導入配管3が接続した排気管25等のガス流路に設置されていればよい。そして、湿度計4は、電気的にデータ処理部7へと接続されている。通常、湿度計4によって測定される湿度は、測定時の温度における飽和水蒸気量に対する相対湿度(%)である。
そして、測定された相対湿度のデータは、データ処理部7へと送信される。
【0025】
<温度計>
また、温度計5も、湿度計4と同様の構成でガス導入配管3またはガス導入配管3が接続した排気管25等のガス流路に設置され、電気的にデータ処理部7に接続されている。そして、温度計5で測定された温度のデータは、データ処理部7へと送信される。
なお、温度計5は、試料ガスの絶対湿度を、湿度計4の測定値から温度補正して求めるために設けられるものであるから、温度計5は湿度計4と隣接・近接して置かれる。
【0026】
<化学剤検出部>
化学剤検出部6は、試料ガスをイオン化するイオン化部6a(図2参照)と、イオンの質量を分析する質量分析部6b(図3参照)とがタンデムに配列された構成である。
【0027】
図2は、大気圧化学イオン化を行うイオン化部6aの構成を示す縦断面図である。図2に示すように、イオン化部6aは、イオンドリフト部34と、コロナ放電部35と、針電極37と、対向電極39と、排気管36a、36bと、細孔41、42、43とを含んで構成される。
【0028】
ここで、まず、イオン化部6aが試料ガスをイオン化する手順を説明する。
ガス導入配管3から導入された試料ガスは、イオン化部6aのイオンドリフト部34に導入される。このイオンドリフト部34は、ほぼ大気圧状態にある。
イオンドリフト部34に導入された試料ガスの一部は、開口部40を通ってコロナ放電部35に導入され、残りは排気管36aを通してイオン化部6a外に排出される。
コロナ放電部35に導入された試料ガスは、針電極37に高電圧を印加することで針電極37の先端付近に生成されるコロナ放電領域38でイオン化される。このとき、コロナ放電領域38では、針電極37から対向電極39に向かってドリフトするイオンの流れにほぼ対向するような方向に試料ガスが導入される。
生成したイオンは電界により対向電極39の開口部40を通して、イオンドリフト部34に導入される。このとき、対向電極39と第1細孔41の開口する電極との間に電圧を印加することにより、イオンをドリフトさせ、効率よく第1細孔41に導くことができる。
第1細孔41から取り込まれなかったガスは、排気管36a、36bからポンプを介して装置の外部に排気される。
【0029】
なお、コロナ放電部35に導入される試料ガスの流量は測定対象物質を高感度かつ安定に探知するために重要であるので、排気管36bには流量制御部45を設けることが好ましい。
また、イオンドリフト部34、コロナ放電部35、ガス導入配管3等は、試料ガスの吸着を防ぐ観点から、図示しないヒータ等により加熱しておくとよい。
また、ガス導入配管3や排気管36aを通過する試料ガスの流量は、ダイアフラムポンプのような吸引ポンプ46の容量および配管のコンダクタンスにより決定することができるが、ガス導入配管3や排気管36aにも流量制御部45のような制御装置を設けてもよい。
また、吸引ポンプ46を試料ガスの流れから見てイオン生成部(すなわち、図示した構成ではコロナ放電部35)の下流に設けることで、吸引ポンプ46の内部の汚染(試料ガスの吸着等)による測定に対する影響を減らすことができる。
【0030】
そして、前記したイオン化部6aにより生成されたイオンは、第1細孔41、第2細孔42および第3細孔43を介して、質量分析部6bへと送出される。なお、細孔41、42および43の開口する電極は、電源(図示せず)により電圧が印加できるようになっており、差動排気部49a、49b(図3参照)のイオン透過率を向上させると同時に、残留する分子との衝突により、断熱膨張で生成したクラスタイオンの開裂を行うものである。細孔41、42および43の直径は、例えば、直径0.3mm程度であり、細孔41、42および43の開口する電極はヒータ(図示せず)により、100℃ないし300℃程度に加熱されることが好ましい。
【0031】
なお、細孔41、42および43が開口する電極の間は差動排気部49a、49b(後記図3参照)になっており、荒引きポンプ50(後記図3参照)により排気される。
この荒引きポンプ50には、通常、ロータリポンプ、スクロールポンプ、またはメカニカルブースタポンプ等が用いられる。例えば、荒引きポンプ50には、排気速度900リットル/分のスクロールポンプを使用することができる。そして、第2細孔42と第3細孔43間の圧力を、例えば、約100パスカルに設定することが好適である。また、第2細孔42の開口する電極を除去し、差動排気部を第1細孔41と第3細孔43の2つの細孔で構成してもよい。
【0032】
なお、試料ガスをイオン化する方法は、どのようなものであってもよいが、例えば、大気圧化学イオン化法と同様に化学反応によって試料ガスをイオン化する化学イオン化法のように、試料ガスをイオン化する際に共存物質の存在によってイオン化効率が変化する方法であれば、本願発明を好適に使用でき、共存物質の存在によるイオン化効率の変化の影響を適切に除去することができる。
【0033】
<質量分析部>
質量分析部6bは、イオン化された試料ガス(以下「イオンという)の質量を分析する質量分析計を含んで構成される。
図3は、本実施形態の質量分析部6bの一例として、イオントラップ質量分析計を含む質量分析部6bの構成を示す縦断面図である。
【0034】
ここで、質量分析部6bがイオンの質量を分析する手順を説明する。
イオン化部6aにおいて、生成されて第3細孔43を通過したイオンは、質量分析部6bにおいて、真空ポンプ48により排気された真空部44に取り込まれる。真空部44を排気する真空ポンプ48には、例えば、排気速度300リットル/秒のターボ分子ポンプを使用することができる。本実施形態においては、ターボ分子ポンプの背圧側を排気するポンプとして、荒引きポンプ50を兼用する構成としている。
そして、これらのイオンは収束レンズ51により収束される。この収束レンズ51には、通常3枚の電極からなるアインツエルレンズ等が用いられる。イオンはさらにスリット電極52を通過する。第3細孔43を通過したイオンは、収束レンズ51によりスリット電極52の開口部に収束し、通過するが、収束されない中性粒子等はスリット電極52のスリット部分に衝突しイオントラップ質量分析計側に行きにくい構造となっている。スリット電極52を通過したイオンは、多数の開口部を備えた内筒電極53と外筒電極54よりなる二重円筒型偏向器55により偏向かつ収束される。二重円筒型偏向器55では、内筒電極53の開口部から滲みだした外筒電極54の電界を用いて偏向かつ収束している。この詳細は、既に特開平7−85834号公報に開示されているものである。
【0035】
二重円筒型偏向器55を通過したイオンは、リング電極56とエンドキャップ電極57a、57bで構成されるイオントラップ質量分析計に導入される。ゲート電極58はイオントラップ質量分析計へのイオンの入射のタイミングを制御するために設けられている。つば電極59a、59bは、イオンがリング電極56とエンドキャップ電極57a、57bを保持する石英リング60a、60bに到達し、石英リング60a、60bが帯電するのを防止するために設けられている。イオントラップ質量分析計の内部には、ヘリウムガス供給管(図示せず)からヘリウムが供給され、0.1パスカル程度の圧力に保たれている。
【0036】
前記したリング電極56とエンドキャップ電極57a、57bで構成されるイオントラップ質量分析計内に導入されたイオンは、ヘリウムガスと衝突してエネルギーを失い、交流電界により捕捉される。捕捉されたイオンは、リング電極56とエンドキャップ電極57a、57bに印加された高周波電圧を走査することによって、イオンのm/zに応じてイオントラップ質量分析計の外に排出され、イオン取り出しレンズ61を経て検出器62により検出される。検出された信号は増幅器63によって増幅後、データ処理部7にて処理される。
【0037】
このようなイオントラップ質量分析計の長所は、内部(リング電極56とエンドキャップ電極57a、57bとで囲まれた空間)にイオンを捕捉する特性を有するので、探知対象物質の濃度が低く生成されるイオン量が少ない場合でも、イオンの導入時間を長くすることで検出できる点にある。従って、イオン濃度が低い場合でも、イオントラップ質量分析計のところでイオンの高倍率濃縮が可能であり、イオンの前処理(濃縮等)を非常に簡便化できる。
【0038】
なお、質量分析部6bに含まれる質量分析計は、イオンの質量を分析できるものであれば、どのようなものであってもよく、前記したイオントラップ質量分析計に代表される四重極型の質量分析計には限定されない。例えば、従来公知の磁場型、飛行時間型、イオンサイクロトロン型等の質量分析計を適用することができる。
【0039】
図4は、データ処理部7の構成を示すブロック図である。図4に示すように、データ処理部7は、絶対湿度算出部71と、マススペクトル生成部72と、イオン強度補正部73と、化学剤濃度算出部74と、表示処理部75とを含んで構成される。
【0040】
なお、データ処理部7は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなるメモリと、ハードディスク装置等を含んで構成される。前記したデータ処理部7内の各処理部71〜75は、メモリまたはハードディスク装置に格納されたプログラムまたはデータに相当する。そして、CPUがメモリにプログラムを読み出して演算処理を実行することにより、データ処理部7の各処理による処理が実現されるものとする。
【0041】
絶対湿度算出部71は、湿度計4により測定された相対湿度と、温度計5により測定された温度とから、絶対湿度を算出するものである。なお、絶対湿度とは、1m3あたりの空気に含まれる、水蒸気の重さをgで表した値である。
そして、絶対湿度算出部71で算出された絶対湿度は、イオン強度補正部73に出力される。
【0042】
マススペクトル生成部72は、質量分析部6bにより検出された検出信号に基づいて、それぞれのイオンの質量と電荷の比(m/z)におけるイオン強度を、マススペクトルとして生成するものである。
そして、マススペクトル生成部72により生成されたマススペクトルは、イオン強度補正部73に出力される。
【0043】
イオン強度補正部73は、マススペクトルから、検出しようとする化学剤に関連するイオンのイオン強度を抽出し、このイオン強度を測定時の絶対湿度に従って補正するものである。
【0044】
ここで、イオン強度補正部73が、イオン強度をマススペクトルから抽出し、測定時の絶対湿度に従って補正する手順について説明する。
まず、イオン強度補正部73は、マススペクトルにおいて、検出しようとする化学剤に関連するイオンのイオン強度を抽出する。このとき、大気圧化学イオン化法を適用している本実施形態においては、分子量関連イオンのイオン強度であることが好適である。
次に、イオン強度補正部73は、化学剤DB2から、絶対湿度−イオン強度補正率曲線を読み出し、絶対湿度算出部71により算出された絶対湿度に対応するイオン強度の補正率を抽出する。
そして、イオン強度補正部73は、マススペクトルから抽出したイオン強度に対して、補正率を乗算することによって、マススペクトルから抽出したイオン強度を測定時の絶対湿度に従って補正する。
ここで、算出された補正後のイオン強度は、化学剤濃度算出部74に出力される。
【0045】
化学剤濃度算出部74は、前記したイオン強度補正部73により算出された補正後のイオン強度に基づいて、検出しようとする化学剤の濃度を算出するものである。具体的には、補正後のイオン強度を、所定の換算率に従って濃度に変換する。この換算率は、質量分析計の感度等に応じてあらかじめ決定されているものである。
そして、化学剤濃度算出部74により算出された化学剤濃度は、表示処理部75に出力される。
【0046】
表示処理部75は、化学剤濃度算出部74により算出された化学剤濃度を、試料ガス中の共存物質としての水蒸気の量の影響を補正した化学剤の濃度として表示部8(図1参照)に出力する。
なお、表示処理部75に、閾値比較部(図示せず)を設けることによって、補正後の化学剤の濃度を所定の閾値と比較し、閾値を超えた場合には、警報や警戒を促す画面表示等を表示部8に出力させるようにしてもよい。
【0047】
<イオン強度補正方法>
ここで、図5を参照して、本実施形態のガスモニタリング装置1を用いて、イオン強度を補正する方法の一例を説明する。
図5は、化学剤の共存物質が水蒸気である場合に、ガスモニタリング装置1のデータ処理部7が行うイオン強度補正処理を説明するためのフローチャートである。
【0048】
まず、データ処理部7の絶対湿度算出部71は、湿度計4から、相対湿度を取得する(ステップS01)。相対湿度が取得されていない場合には(ステップS01でNo)、ステップS01の処理を再度実行する。相対湿度が取得された場合には(ステップ01でYes)、温度計5から温度を取得する(ステップS02)。温度が取得されていない場合には(ステップS02でNo)、ステップS02の処理を再度実行する。温度が取得された場合には(ステップS02でYes)、次の処理に移行する。
【0049】
そして、データ処理部7の絶対湿度算出部71は、取得された相対湿度と温度とから、絶対湿度を算出する(ステップS03)。
【0050】
次に、データ処理部7のマススペクトル生成部72は、質量分析部6bによる検出信号を取得する(ステップS04)。質量分析部6bによる検出信号が取得されない場合には(ステップS04でNo)、ステップS04の処理を再度実行する。質量分析部6bの検出信号が取得された場合には(ステップS04でYes)、次の処理に移行する。
【0051】
そして、データ処理部7のマススペクトル生成部72は、検出信号からマススペクトルを生成する(ステップS05)。
【0052】
そして、データ処理部7のイオン強度補正部73は、マススペクトルから、検出しようとする化学剤に関連するイオンのイオン強度を抽出する(ステップS06)。前記したように検出しようとする化学剤に関連するイオンは、例えば、分子量関連イオンである。
【0053】
そして、データ処理部7のイオン強度補正部73は、化学剤DB2から、絶対湿度−イオン強度補正率曲線を読み出し(ステップS07)、算出した絶対湿度に対応するイオン強度補正率を抽出する(ステップS08)。
【0054】
そして、データ処理部7のイオン強度補正部73は、マススペクトルから抽出したイオン強度に対してこのイオン強度補正率を乗算することによって、イオン強度を測定時の絶対湿度に従って補正する(ステップS09)。
なお、前記したように、補正後のイオン強度は測定時の絶対湿度における試料ガス中の化学剤の濃度と所定の換算率で対応しているため、補正後のイオン強度が求まれば容易に化学剤の濃度を算出することができる。
【0055】
<使用例>
本実施形態のガスモニタリング装置1の使用形態の一例として、土壌保管テント22から排気される空気中の化学剤の濃度を監視する場合について、図1を参照して説明する。
【0056】
図1に示すように、土壌21は、土壌保管テント22に隔離されている。その理由は、遺棄化学兵器の発掘・回収等の過程で発生する土壌21は、それ自身が化学剤で汚染されている危険性がある上、土壌中に未発見の容器等が含まれている可能性があるため、慎重な管理が求められるためである。
そして、土壌保管テント22内の空気は送気ファン23により常に排気されており、吸気口33から外気がテント内に吸気されている。土壌保管テント22内の圧力はこの吸気と排気とのバランスによって、常に陰圧になるように保たれている。このような構成とすることによって、内部で化学剤のガスが発生した場合に、テント外への漏洩を防止することができる。
【0057】
通常、土壌保管テント22内の空気を外部に排出する排気管25には、活性炭フィルタ等の化学剤除去フィルタ24が設けられており、土壌保管テント22内の作業の過程で化学剤のガスが発生した場合でも外部への漏洩を防ぐことができる。しかしながら、化学剤除去フィルタ24のトラブル(例えば、破過等)に備えて、排気管25をモニタする必要がある。そこで、排気管25に、本実施形態のガスモニタリング装置1のガス導入配管3を接続し、排気管25中のガスをモニタする構成としている。
【0058】
このような構成の使用形態において、検出しようとする化学剤のモニタリングに影響を与えうる共存物質は、おもに、水蒸気である。
例えば、化学剤除去フィルタ24を交換した直後には、水蒸気も化学剤除去フィルタ24に捕集されてしまい、排気管25を流れる試料ガスの湿度が極端に低下する場合がある。そして、化学剤除去フィルタ24を継続して使用していくにつれ、化学剤除去フィルタ24を通過しうる水蒸気量が増加していく。このような水蒸気量の変化は、化学剤の検出に影響を与えるものである。
従って、本使用例においては、化学剤に対して水蒸気が共存物質となる場合を想定して説明する。
【0059】
図6は、マスタードガスのマススペクトル(図示せず)に示される分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示すグラフである。
マスタードガスをモニタする場合、針電極37(図2参照)に正の高電圧を印加して正イオンを生成する正イオン化モードを使用する。
なお、一般的に、正イオン化モードにおける代表的なイオン化反応は以下に示す2通りである。
【0060】
(正のイオン化反応1)
コロナ放電により窒素分子がイオン化され、この窒素分子イオンは大気中の水蒸気をイオン化して一次イオンとしてヒドロニウムイオン〔H3O+〕を生成する。化学剤は、ヒドロニウムイオンとの化学反応により、分子にプロトンが付加した分子量関連イオン〔(M+H)+〕を生成する。
【0061】
(正のイオン化反応2)
コロナ放電により窒素分子がイオン化され、この窒素分子イオンとの反応で直接分子イオン〔M+〕を生成する。
【0062】
ここで、図示しないマススペクトルにおいて、マスタードガスのイオンは、M+を意味するm/z(分子量/価数)=158として観測されたことから、窒素分子イオンからの反応(正のイオン化反応2)が主だと考えられる。
大気中に水蒸気が多いと、窒素分子イオンの電荷はヒドロニウムイオンへと変換されてしまうため、マスタードガスのイオン化反応が起こり難くなる。
従って、マスタードガスのイオン強度の湿度依存性は単調減少の傾向を示す。
【0063】
図7は、2−クロロアセトフェノンのマススペクトル(図示せず)に示される分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示す図である。
2−クロロアセトフェノンをモニタリングする場合も、針電極37に正の高電圧を印加して正イオンを生成する正イオン化モードを使用する。
ここで、図示しないマススペクトルにおいて、プロトン付加した分子量関連イオン〔(M+H)+〕を意味するm/z=155が観測されたことから、2−クロロアセトフェノンのイオン化は正のイオン化反応1である。従って、2−クロロアセトフェノンがイオン化されるためには、まずヒドロニウムイオンが生成されなければならない。
このため、図7に示すように、湿度の増加に伴ってイオン強度が増加している。しかしながら、湿度がさらに増えていくと、ヒドロニウムイオンに水分子が付着する、いわゆるクラスタリング反応が起きる。クラスタのサイズが大きくなるに従いヒドロニウムイオンの反応性が低下するので、湿度が高すぎると2−クロロアセトフェノンのイオン化効率が低下し、イオン強度は徐々に減少する。
このような理由により、2−クロロアセトフェノンのイオン強度は、絶対湿度0.9g付近に極大を持ち、より低湿度側と高湿度側で減少する傾向を示す。
【0064】
また、2−クロロアセトフェノンは、化学剤の中で比較的規制が緩やかな物質であるために、マスタードガスを測定する場合に比較対象(標準物質)として用いられる場合がある。
マスタードガスのモニタリングにおいて、2−クロロアセトフェノンを標準物質として使用することは、絶対湿度が概ね1g(気温20℃の相対湿度で約30%)以上である通常の生活環境においては問題が少ない。湿度の増加に伴い、マスタードガスと2−クロロアセトフェノンのイオン化効率がともに低下するためである。
その一方で、フィルタ交換直後等の極低湿度の試料ガス中では、マスタードガスのイオン化効率が向上する反面、2−クロロアセトフェノンのイオン化効率が低下するので、両者のイオン化効率の間に大きな解離が生じる。そのため、イオン強度や濃度も大きく解離することとなる。
従って、検出しようとする化学剤の濃度を測定するときだけでなく、装置の校正等の際に標準物質の濃度を測定するときにおいても、測定時の絶対湿度に従ってイオン強度を補正することが重要である。
【0065】
また、図8は、ルイサイトの主成分であるルイサイト1のマススペクトル(図示せず)に示される分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示すグラフである。
ルイサイト1をモニタリングする場合、針電極37に負の高電圧を印加して負イオンを生成する負イオン化モードを使用する。
負のイオン化モードにおいては、次に示す負のイオン化反応が行われる。
【0066】
(負のイオン化反応)
コロナ放電により酸素分子がイオン化され、この酸素分子イオンとの反応で直接分子イオン〔M―〕を生成する。
【0067】
図8に示すように、負の大気圧化学イオン化であっても、イオン強度は湿度によって変化する。これは、ルイサイト1検出のためのマーカとしているm/z=187の信号が、ルイサイト1と水蒸気とが気相で反応した加水分解物に由来するイオンであるためと考えられる。
また、負の大気圧化学イオン化においても、一次イオンであるO2-の反応性が、やはり水分子とのクラスタリングにより変化する。
このように、ルイサイト1以外の他の物質であっても、イオン強度が湿度依存性を持つことは十分に考えられる。従って、負のイオン化モードによる濃度測定であっても、測定時の絶対湿度に従ってイオン強度を補正することが重要である。
【0068】
このように、適切な化学剤濃度をモニタリングするためには、イオンの極性(正、負)によらずに、絶対湿度の影響を考慮して、測定値を補正する必要がある。
そして、例えば、図6〜図8で示した分子量関連イオンのイオン強度と絶対湿度との相関を示すデータを取得していれば、本実施形態において化学剤DB2に格納されてイオン強度補正部73の処理に使用される、絶対湿度−イオン強度補正率曲線を容易に作成することができる。
【0069】
なお、前記した使用例においては化学剤の共存物質として水蒸気が想定される場合について説明したが、共存物質は、どのような化学物質であってもかまわない。化学剤と、この化学剤と共存しうる化学物質との相関関係を示すデータを取得し、あらかじめ化学剤DB2に格納しておくことで、共存物質が水蒸気である場合と同様に、本実施形態を実行することができる。
例えば、化学テロの場合には、テロリストの技術力が充分ではなく、化学剤が化学剤製造等の過程で用いられる有機溶剤とともに散布される場合がある。化学剤とともに散布されることが想定される有機溶剤(共存物質)の一つとして、アセトンが挙げられる。
【0070】
このような有機溶剤は、水蒸気と異なり、湿度計4のような専用のセンサを設けて濃度情報を取得することは容易ではない。そこで、質量分析部6bで検出されるイオンのマススペクトルから、化学剤由来のイオンのイオン強度とともに、有機溶剤の濃度を表す指標として有機溶剤由来のイオンのイオン強度を抽出することによって、有機溶剤の濃度を算出することもできる。
また、有機溶剤の濃度を測定するために、例えば、化学反応による発色反応を用いて有機溶剤の濃度を検出するような有機溶剤センサを設けてもよい。
【0071】
<その他の実施形態1>
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されない。
図9は、その他の実施形態1のガスモニタリング装置1の構成を示すブロック図である。
例えば、本発明は、図9に示すように、ガス導入配管3を排気管25等に接続せず、直接大気から試料ガスを導入する構成としてもよい。この場合には、湿度計4と温度計5はガス導入配管3に設置することが好ましい。
このようにガスモニタリング装置1を構成することによって、携帯しやすくなり、例えば、大気中に散布された化学剤を直接検出する場合等に効果的である。
【0072】
<その他の実施形態2>
その他の実施形態2では、測定時の絶対湿度に従ってイオン強度を補正する代わりに、所定の絶対湿度になるように試料ガスの湿度を増加させる加湿器65を備えた構成である。
図10は、その他の実施形態2のガスモニタリング装置1の構成を示すブロック図である。図中の各構成は、前記した実施形態と同じであるので、同じ符号を付して説明を省略する。
図10に示すように、化学剤検出部6に送られる試料ガスの水蒸気濃度を調整する目的で、加湿器65を設け、加湿器65からの水蒸気を水蒸気導入配管66を介してガス導入配管3に導入する。
なお、加湿器65からの水蒸気の導入量は、湿度計4と温度計5の測定結果から算出され制御される。
例えば、化学剤除去フィルタ24の交換直後のように、絶対湿度が1gを下回る状態になった際には、化学剤検出部6に導入される試料ガスの絶対湿度が所定の値(例えば1g)になるように、加湿器65から供給される水蒸気の量や濃度が制御される。
このようにガスモニタリング装置1を構成することによって、例えば、複数回の濃度測定において測定時の大気の絶対湿度が異なっていたとしても、加湿器によって絶対湿度を毎回同一にして濃度測定を行うことができるため、特に補正することなしに適切なイオン強度比(さらには、濃度比)を求めることができる。
なお、試料ガス中の水蒸気濃度の制御は、加湿器によるだけでなく、除湿手段によって行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、化学剤の濃度を迅速かつ適切に把握することができるので、化学剤の環境漏洩モニタリングや化学テロの際に、住民等の安全の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施形態のガスモニタリング装置の構成を示すブロック図である
【図2】大気圧化学イオン化を行うイオン化部の構成を示す縦断面図である。
【図3】本実施形態の質量分析部の一例として、イオントラップ質量分析計を含む質量分析部の構成を示す縦断面図である。
【図4】データ処理部の構成を示すブロック図である。
【図5】イオン強度補正処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】マスタードガスの分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示す図である。
【図7】2−クロロアセトフェノンの分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示す図である。
【図8】ルイサイトの主成分であるルイサイト1の分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示すグラフである。
【図9】その他の実施形態1のガスモニタリング装置の構成を示すブロック図である。
【図10】その他の実施形態2のガスモニタリング装置の構成を示すブロック図である。
【図11】従来の化学剤の探知装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 ガスモニタリング装置
2 化学剤DB
3 ガス導入配管(試料導入部)
4 湿度計(共存物質濃度測定手段)
5 温度計
6 化学剤検出部
6a イオン化部
6b 質量分析部
7 データ処理部
8 表示部
65 加湿器(共存物質濃度可変手段)
71 絶対湿度算出部
72 マススペクトル生成部
73 イオン強度補正部(補正手段)
74 化学剤濃度算出部
75 表示処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスモニタリング装置に関し、特に、質量分析計を用いて試料ガス中の化学物質の濃度をリアルタイムで測定して表示するガスモニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、世界的にテロの脅威が増している。特に、化学兵器剤(以下「化学剤」という)を用いた化学テロは、化学剤の製造が核兵器等に比べて容易である上に、実際に発生するとその被害が甚大であることから、各国で警戒が強化されている。我が国でも、松本サリン事件や地下鉄サリン事件等において化学剤が悪用されており、その対策は焦燥の急である。
【0003】
また、戦時中に旧日本軍によって製造されたと推定される化学兵器が中国や国内に埋設されていることが明らかとなっており、一部では工事等に伴って環境中に漏洩した化学剤による健康被害が報告されている。遺棄化学兵器および兵器内に保持されている化学剤の発掘、回収、無害化処理は、安全かつ速やかに進めることが求められている。
このように、化学剤が実際に使用されたり、漏洩したりした場合には、化学剤の種類および大気中の濃度等の情報をリアルタイムに取得し、住民の避難、汚染者の治療、化学剤の除染等に活用する必要がある。
【0004】
従来、化学剤を探知する方法として、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)や、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)等が広く用いられていた。
しかしながら、これらの方法では、クロマトグラフィーにより試料を分離する工程を含むため、リアルタイムに化学剤を探知するには必ずしも適切とは言えない場合がある。
そこで、化学剤をリアルタイムに検知する装置として、GCやLC等のクロマトグラフィーによる分離部を設けない構成の、質量分析計を用いた化学剤の探知装置が開示されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
一般に、質量分析計は、イオンの質量と電荷の比(m/z)を測定するものであるため、通常、質量分析計のすぐ上流には、試料をイオン化して供給するイオン化部がタンデムに配列されている。イオン化の方法には、電子衝突イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、レーザーイオン化(MALDI)法等の複数の方法が公知である。
【0006】
特許文献1に開示される発明では、試料のイオン化方法として大気圧化学イオン化法を採用している。大気圧化学イオン化法は、大気圧条件下というソフトな条件で化学反応により試料をイオン化させるため、試料のフラグメント化を減らし、試料の分子量情報を与えるイオン(以下「分子量関連イオン」という)を生成しやすいという長所がある。そのため、検出しようとする化学剤の濃度を取得したい場合に特に好適である。一方で、LC/MSにおいて広く適用される電子イオン化(EI)法等の他のイオン化方法は、試料そのものに強いエネルギーを与えるために、相対的に試料がフラグメント化しやすく、化学剤の構造を分析するのに適している。
【0007】
具体的には、大気圧化学イオン化法は、コロナ放電により生成した一次イオンと、試料との化学反応を行わせ、分子量関連イオン等の二次イオンを生成させるものである。代表的な分子量関連イオンとして、試料分子〔M〕にプロトンが付加したイオンである〔(M+H)+〕、または、脱離したイオンである〔(M−H)-〕が挙げられる。このような分子量関連イオンのイオン強度を求めることによって、試料に含まれる検出しようとする化学剤(測定対象物質)の濃度を求めることができる。
【0008】
ここで、図11を参照して、特許文献1に開示される従来の化学剤の探知装置を説明する。
図11は、従来の化学剤の探知装置の構成を示すブロック図である。図11に示すように、化学剤の探知装置100は、試料導入部101、イオン化部102、質量分析部103、制御部104、吸入ポンプ105、計測処理用計算機106および真空ポンプ107を含んで構成される。
【0009】
図11において、まず、試料導入部101に挿入された試料16は、加熱により気化される。次に、気体となった試料16は吸入ポンプ105によってイオン化部102に導かれる。そして、イオン化部102内のコロナ放電領域において、試料16がイオン化される。生成されたイオンは、質量分析計を備えた質量分析部103に導かれ、質量分析される。質量分析された結果のデータは、計測処理用計算機106にて処理され表示される。さらに、計測処理用計算機106は、質量分析の結果のデータが化学剤の特徴を有していた場合には化学剤を検出したと判定する。
真空ポンプ107は、質量分析部103内の差動排気部を減圧したり、質量分析部103に含まれる質量分析計の入ったチャンバー内を高真空状態に保ったりするために用いられる。
制御部104は、操作装置を構成する各機能部のON/OFFの制御や温度/電圧/真空圧力の設定、ステータスモニタ等を行う。
【0010】
また、大気圧化学イオン化法を適用した質量分析法を用いたガスモニタリング装置として、排ガスのモニタリング装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。このような発明によれば、排ガスを大気圧化学イオン化質量分析計に引き込み、排ガス中に含まれるダイオキシン関連化合物の濃度を表示することができる。
【0011】
また、ステンレスの表面処理において、反応室からのガスを質量分析計で分析する方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。このような発明によれば、表面処理に影響する反応室の水蒸気分圧を測定することができる。
【特許文献1】特開2004−158296号公報
【特許文献2】特開2004−286648号公報
【特許文献3】特開2000−162189号公報
【特許文献4】特開平10−265839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記したように、特許文献1に開示される大気圧化学イオン化法を適用した質量分析計は、化学剤検出器として非常に有効である。その一方で、大気圧化学イオン化法は、試料を化学反応によってイオン化させるために、そのイオン化工程において、検出しようとする化学剤と共存する物質(以下「共存物質」という)の影響を受けるおそれがあった。
【0013】
換言すると、大気圧化学イオン化法のイオン化部において、検出しようとする化学剤がイオン化される効率(イオン化効率)は、共存物質の濃度に依存するおそれがあった。もし、イオン化効率が共存物質の濃度に依存すれば、実際に質量分析計で観測されるイオン強度や、このイオン強度から最終的に算出される化学剤の濃度も、共存物質の濃度に影響を受けることとなる。
【0014】
しかしながら、化学兵器にも転用されうる化学剤は、国際条約下において取り扱いの規制が厳しく、基礎的なデータさえも取得されていない場合が多い。そのため、前記したような共存物質存在下における化学剤のイオン化効率に関するデータも公知ではない。
従って、化学剤のイオン化効率が共存物質の濃度に依存することによる不具合があったとしても、化学剤に関するデータが充分に取得されていない現時点では、このことは課題とすらなっていなかった。
【0015】
そこで、本発明は、試料ガス中の共存物質の濃度が変動した場合でも化学剤の濃度を適切に定量可能なガスモニタリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明は、測定対象物質を含む試料ガスを導入する試料導入部と、前記試料ガスに含まれ、前記測定対象物質と共存する所定の共存物質の濃度を測定する共存物質濃度測定手段と、前記試料ガスをイオン化するイオン化部と、前記イオン化部で生成されたイオンの質量を分析する質量分析部と、前記質量分析部によって検出された信号を解析し、前記測定対象物質の濃度を算出するデータ処理部と、前記データ処理部によって解析された解析結果を表示する表示部とを備えたガスモニタリング装置であって、前記データ処理部は、前記所定の共存物質の濃度に対応して、前記測定対象物質の濃度を補正する補正手段を備えたことを特徴とするガスモニタリング装置である。
【0017】
このような構成とすることによって、試料ガス中の共存物質の濃度が変動した場合でも化学剤の濃度を適切に定量することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、共存物質の濃度が変動した場合でも化学剤の濃度を適切に定量可能なガスモニタリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1は、本実施形態のガスモニタリング装置の構成を示すブロック図である。図1において、ガスモニタリング装置1は、化学剤データベース(DB)2と、ガス導入配管3と、湿度計4と、温度計5と、化学剤検出部6と、データ処理部7と、表示部8とを含んで構成される。
なお、図1に示す土壌保管テント22等の構成は、本実施形態に係るガスモニタリング装置1の構成要件ではないため、ここでの説明は省略し、後記する<使用例>において詳細に説明する。
【0021】
<化学剤DB>
化学剤DB2には、様々な化学剤由来の信号に関わる情報が格納されている。化学剤由来の信号に関わる情報は、例えば、検出されたイオン強度に対応する化学剤濃度を示すグラフや、共存物質の濃度に対応するイオン強度の補正率を示すグラフ(共存物質濃度−イオン強度補正率曲線)である。この共存物質濃度−イオン強度補正率曲線には、絶対湿度−イオン強度補正率曲線も含まれる。なお、前記したように、イオン強度は、化学剤のイオン化効率にともなって変動するパラメータである。また、化学剤DB2は、ハードディスク装置等によって実現することができる。
【0022】
また、前記したように、本実施形態で対象とする化学剤には、国際条約下で厳しく制限されているものも含まれている。従って、化学剤DB2に格納される情報も、所定の基準を満たす研究施設であらかじめ測定されたデータに基づいて構築されたものである。
また、「化学剤」には、化学剤そのものだけでなく、化学剤から派生しうる分解物も含む。分解物を検出することができれば、化学剤の存在を証明できるためである。
【0023】
<ガス導入配管>
図1に示すように、ガス導入配管3は、導入した試料ガスを化学剤検出部6に送出するための配管である。図1において、ガス導入配管3の一端は、例えば、検出しようとする化学剤を含んだ土壌保管テント22の排気管25等のガス流路に接続され、土壌保管テント22から排気された試料ガスの性質を特に変化させることなくガス導入配管3に導入することができる。そして、ガス導入配管3の他端は、化学剤検出部6と接続しており、ガス導入配管3に導入された試料ガスは化学剤検出部6へと送出される。
これらの試料ガスの移動は、化学剤検出部6に含まれる吸引ポンプ(図2参照)46によって容易に実現できる。
【0024】
<湿度計>
湿度計4は、ガス導入配管3に導入される試料ガスと同一の試料ガスの湿度を測定するものである。従って、湿度計4は、ガス導入配管3、または、ガス導入配管3が接続した排気管25等のガス流路に設置されていればよい。そして、湿度計4は、電気的にデータ処理部7へと接続されている。通常、湿度計4によって測定される湿度は、測定時の温度における飽和水蒸気量に対する相対湿度(%)である。
そして、測定された相対湿度のデータは、データ処理部7へと送信される。
【0025】
<温度計>
また、温度計5も、湿度計4と同様の構成でガス導入配管3またはガス導入配管3が接続した排気管25等のガス流路に設置され、電気的にデータ処理部7に接続されている。そして、温度計5で測定された温度のデータは、データ処理部7へと送信される。
なお、温度計5は、試料ガスの絶対湿度を、湿度計4の測定値から温度補正して求めるために設けられるものであるから、温度計5は湿度計4と隣接・近接して置かれる。
【0026】
<化学剤検出部>
化学剤検出部6は、試料ガスをイオン化するイオン化部6a(図2参照)と、イオンの質量を分析する質量分析部6b(図3参照)とがタンデムに配列された構成である。
【0027】
図2は、大気圧化学イオン化を行うイオン化部6aの構成を示す縦断面図である。図2に示すように、イオン化部6aは、イオンドリフト部34と、コロナ放電部35と、針電極37と、対向電極39と、排気管36a、36bと、細孔41、42、43とを含んで構成される。
【0028】
ここで、まず、イオン化部6aが試料ガスをイオン化する手順を説明する。
ガス導入配管3から導入された試料ガスは、イオン化部6aのイオンドリフト部34に導入される。このイオンドリフト部34は、ほぼ大気圧状態にある。
イオンドリフト部34に導入された試料ガスの一部は、開口部40を通ってコロナ放電部35に導入され、残りは排気管36aを通してイオン化部6a外に排出される。
コロナ放電部35に導入された試料ガスは、針電極37に高電圧を印加することで針電極37の先端付近に生成されるコロナ放電領域38でイオン化される。このとき、コロナ放電領域38では、針電極37から対向電極39に向かってドリフトするイオンの流れにほぼ対向するような方向に試料ガスが導入される。
生成したイオンは電界により対向電極39の開口部40を通して、イオンドリフト部34に導入される。このとき、対向電極39と第1細孔41の開口する電極との間に電圧を印加することにより、イオンをドリフトさせ、効率よく第1細孔41に導くことができる。
第1細孔41から取り込まれなかったガスは、排気管36a、36bからポンプを介して装置の外部に排気される。
【0029】
なお、コロナ放電部35に導入される試料ガスの流量は測定対象物質を高感度かつ安定に探知するために重要であるので、排気管36bには流量制御部45を設けることが好ましい。
また、イオンドリフト部34、コロナ放電部35、ガス導入配管3等は、試料ガスの吸着を防ぐ観点から、図示しないヒータ等により加熱しておくとよい。
また、ガス導入配管3や排気管36aを通過する試料ガスの流量は、ダイアフラムポンプのような吸引ポンプ46の容量および配管のコンダクタンスにより決定することができるが、ガス導入配管3や排気管36aにも流量制御部45のような制御装置を設けてもよい。
また、吸引ポンプ46を試料ガスの流れから見てイオン生成部(すなわち、図示した構成ではコロナ放電部35)の下流に設けることで、吸引ポンプ46の内部の汚染(試料ガスの吸着等)による測定に対する影響を減らすことができる。
【0030】
そして、前記したイオン化部6aにより生成されたイオンは、第1細孔41、第2細孔42および第3細孔43を介して、質量分析部6bへと送出される。なお、細孔41、42および43の開口する電極は、電源(図示せず)により電圧が印加できるようになっており、差動排気部49a、49b(図3参照)のイオン透過率を向上させると同時に、残留する分子との衝突により、断熱膨張で生成したクラスタイオンの開裂を行うものである。細孔41、42および43の直径は、例えば、直径0.3mm程度であり、細孔41、42および43の開口する電極はヒータ(図示せず)により、100℃ないし300℃程度に加熱されることが好ましい。
【0031】
なお、細孔41、42および43が開口する電極の間は差動排気部49a、49b(後記図3参照)になっており、荒引きポンプ50(後記図3参照)により排気される。
この荒引きポンプ50には、通常、ロータリポンプ、スクロールポンプ、またはメカニカルブースタポンプ等が用いられる。例えば、荒引きポンプ50には、排気速度900リットル/分のスクロールポンプを使用することができる。そして、第2細孔42と第3細孔43間の圧力を、例えば、約100パスカルに設定することが好適である。また、第2細孔42の開口する電極を除去し、差動排気部を第1細孔41と第3細孔43の2つの細孔で構成してもよい。
【0032】
なお、試料ガスをイオン化する方法は、どのようなものであってもよいが、例えば、大気圧化学イオン化法と同様に化学反応によって試料ガスをイオン化する化学イオン化法のように、試料ガスをイオン化する際に共存物質の存在によってイオン化効率が変化する方法であれば、本願発明を好適に使用でき、共存物質の存在によるイオン化効率の変化の影響を適切に除去することができる。
【0033】
<質量分析部>
質量分析部6bは、イオン化された試料ガス(以下「イオンという)の質量を分析する質量分析計を含んで構成される。
図3は、本実施形態の質量分析部6bの一例として、イオントラップ質量分析計を含む質量分析部6bの構成を示す縦断面図である。
【0034】
ここで、質量分析部6bがイオンの質量を分析する手順を説明する。
イオン化部6aにおいて、生成されて第3細孔43を通過したイオンは、質量分析部6bにおいて、真空ポンプ48により排気された真空部44に取り込まれる。真空部44を排気する真空ポンプ48には、例えば、排気速度300リットル/秒のターボ分子ポンプを使用することができる。本実施形態においては、ターボ分子ポンプの背圧側を排気するポンプとして、荒引きポンプ50を兼用する構成としている。
そして、これらのイオンは収束レンズ51により収束される。この収束レンズ51には、通常3枚の電極からなるアインツエルレンズ等が用いられる。イオンはさらにスリット電極52を通過する。第3細孔43を通過したイオンは、収束レンズ51によりスリット電極52の開口部に収束し、通過するが、収束されない中性粒子等はスリット電極52のスリット部分に衝突しイオントラップ質量分析計側に行きにくい構造となっている。スリット電極52を通過したイオンは、多数の開口部を備えた内筒電極53と外筒電極54よりなる二重円筒型偏向器55により偏向かつ収束される。二重円筒型偏向器55では、内筒電極53の開口部から滲みだした外筒電極54の電界を用いて偏向かつ収束している。この詳細は、既に特開平7−85834号公報に開示されているものである。
【0035】
二重円筒型偏向器55を通過したイオンは、リング電極56とエンドキャップ電極57a、57bで構成されるイオントラップ質量分析計に導入される。ゲート電極58はイオントラップ質量分析計へのイオンの入射のタイミングを制御するために設けられている。つば電極59a、59bは、イオンがリング電極56とエンドキャップ電極57a、57bを保持する石英リング60a、60bに到達し、石英リング60a、60bが帯電するのを防止するために設けられている。イオントラップ質量分析計の内部には、ヘリウムガス供給管(図示せず)からヘリウムが供給され、0.1パスカル程度の圧力に保たれている。
【0036】
前記したリング電極56とエンドキャップ電極57a、57bで構成されるイオントラップ質量分析計内に導入されたイオンは、ヘリウムガスと衝突してエネルギーを失い、交流電界により捕捉される。捕捉されたイオンは、リング電極56とエンドキャップ電極57a、57bに印加された高周波電圧を走査することによって、イオンのm/zに応じてイオントラップ質量分析計の外に排出され、イオン取り出しレンズ61を経て検出器62により検出される。検出された信号は増幅器63によって増幅後、データ処理部7にて処理される。
【0037】
このようなイオントラップ質量分析計の長所は、内部(リング電極56とエンドキャップ電極57a、57bとで囲まれた空間)にイオンを捕捉する特性を有するので、探知対象物質の濃度が低く生成されるイオン量が少ない場合でも、イオンの導入時間を長くすることで検出できる点にある。従って、イオン濃度が低い場合でも、イオントラップ質量分析計のところでイオンの高倍率濃縮が可能であり、イオンの前処理(濃縮等)を非常に簡便化できる。
【0038】
なお、質量分析部6bに含まれる質量分析計は、イオンの質量を分析できるものであれば、どのようなものであってもよく、前記したイオントラップ質量分析計に代表される四重極型の質量分析計には限定されない。例えば、従来公知の磁場型、飛行時間型、イオンサイクロトロン型等の質量分析計を適用することができる。
【0039】
図4は、データ処理部7の構成を示すブロック図である。図4に示すように、データ処理部7は、絶対湿度算出部71と、マススペクトル生成部72と、イオン強度補正部73と、化学剤濃度算出部74と、表示処理部75とを含んで構成される。
【0040】
なお、データ処理部7は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなるメモリと、ハードディスク装置等を含んで構成される。前記したデータ処理部7内の各処理部71〜75は、メモリまたはハードディスク装置に格納されたプログラムまたはデータに相当する。そして、CPUがメモリにプログラムを読み出して演算処理を実行することにより、データ処理部7の各処理による処理が実現されるものとする。
【0041】
絶対湿度算出部71は、湿度計4により測定された相対湿度と、温度計5により測定された温度とから、絶対湿度を算出するものである。なお、絶対湿度とは、1m3あたりの空気に含まれる、水蒸気の重さをgで表した値である。
そして、絶対湿度算出部71で算出された絶対湿度は、イオン強度補正部73に出力される。
【0042】
マススペクトル生成部72は、質量分析部6bにより検出された検出信号に基づいて、それぞれのイオンの質量と電荷の比(m/z)におけるイオン強度を、マススペクトルとして生成するものである。
そして、マススペクトル生成部72により生成されたマススペクトルは、イオン強度補正部73に出力される。
【0043】
イオン強度補正部73は、マススペクトルから、検出しようとする化学剤に関連するイオンのイオン強度を抽出し、このイオン強度を測定時の絶対湿度に従って補正するものである。
【0044】
ここで、イオン強度補正部73が、イオン強度をマススペクトルから抽出し、測定時の絶対湿度に従って補正する手順について説明する。
まず、イオン強度補正部73は、マススペクトルにおいて、検出しようとする化学剤に関連するイオンのイオン強度を抽出する。このとき、大気圧化学イオン化法を適用している本実施形態においては、分子量関連イオンのイオン強度であることが好適である。
次に、イオン強度補正部73は、化学剤DB2から、絶対湿度−イオン強度補正率曲線を読み出し、絶対湿度算出部71により算出された絶対湿度に対応するイオン強度の補正率を抽出する。
そして、イオン強度補正部73は、マススペクトルから抽出したイオン強度に対して、補正率を乗算することによって、マススペクトルから抽出したイオン強度を測定時の絶対湿度に従って補正する。
ここで、算出された補正後のイオン強度は、化学剤濃度算出部74に出力される。
【0045】
化学剤濃度算出部74は、前記したイオン強度補正部73により算出された補正後のイオン強度に基づいて、検出しようとする化学剤の濃度を算出するものである。具体的には、補正後のイオン強度を、所定の換算率に従って濃度に変換する。この換算率は、質量分析計の感度等に応じてあらかじめ決定されているものである。
そして、化学剤濃度算出部74により算出された化学剤濃度は、表示処理部75に出力される。
【0046】
表示処理部75は、化学剤濃度算出部74により算出された化学剤濃度を、試料ガス中の共存物質としての水蒸気の量の影響を補正した化学剤の濃度として表示部8(図1参照)に出力する。
なお、表示処理部75に、閾値比較部(図示せず)を設けることによって、補正後の化学剤の濃度を所定の閾値と比較し、閾値を超えた場合には、警報や警戒を促す画面表示等を表示部8に出力させるようにしてもよい。
【0047】
<イオン強度補正方法>
ここで、図5を参照して、本実施形態のガスモニタリング装置1を用いて、イオン強度を補正する方法の一例を説明する。
図5は、化学剤の共存物質が水蒸気である場合に、ガスモニタリング装置1のデータ処理部7が行うイオン強度補正処理を説明するためのフローチャートである。
【0048】
まず、データ処理部7の絶対湿度算出部71は、湿度計4から、相対湿度を取得する(ステップS01)。相対湿度が取得されていない場合には(ステップS01でNo)、ステップS01の処理を再度実行する。相対湿度が取得された場合には(ステップ01でYes)、温度計5から温度を取得する(ステップS02)。温度が取得されていない場合には(ステップS02でNo)、ステップS02の処理を再度実行する。温度が取得された場合には(ステップS02でYes)、次の処理に移行する。
【0049】
そして、データ処理部7の絶対湿度算出部71は、取得された相対湿度と温度とから、絶対湿度を算出する(ステップS03)。
【0050】
次に、データ処理部7のマススペクトル生成部72は、質量分析部6bによる検出信号を取得する(ステップS04)。質量分析部6bによる検出信号が取得されない場合には(ステップS04でNo)、ステップS04の処理を再度実行する。質量分析部6bの検出信号が取得された場合には(ステップS04でYes)、次の処理に移行する。
【0051】
そして、データ処理部7のマススペクトル生成部72は、検出信号からマススペクトルを生成する(ステップS05)。
【0052】
そして、データ処理部7のイオン強度補正部73は、マススペクトルから、検出しようとする化学剤に関連するイオンのイオン強度を抽出する(ステップS06)。前記したように検出しようとする化学剤に関連するイオンは、例えば、分子量関連イオンである。
【0053】
そして、データ処理部7のイオン強度補正部73は、化学剤DB2から、絶対湿度−イオン強度補正率曲線を読み出し(ステップS07)、算出した絶対湿度に対応するイオン強度補正率を抽出する(ステップS08)。
【0054】
そして、データ処理部7のイオン強度補正部73は、マススペクトルから抽出したイオン強度に対してこのイオン強度補正率を乗算することによって、イオン強度を測定時の絶対湿度に従って補正する(ステップS09)。
なお、前記したように、補正後のイオン強度は測定時の絶対湿度における試料ガス中の化学剤の濃度と所定の換算率で対応しているため、補正後のイオン強度が求まれば容易に化学剤の濃度を算出することができる。
【0055】
<使用例>
本実施形態のガスモニタリング装置1の使用形態の一例として、土壌保管テント22から排気される空気中の化学剤の濃度を監視する場合について、図1を参照して説明する。
【0056】
図1に示すように、土壌21は、土壌保管テント22に隔離されている。その理由は、遺棄化学兵器の発掘・回収等の過程で発生する土壌21は、それ自身が化学剤で汚染されている危険性がある上、土壌中に未発見の容器等が含まれている可能性があるため、慎重な管理が求められるためである。
そして、土壌保管テント22内の空気は送気ファン23により常に排気されており、吸気口33から外気がテント内に吸気されている。土壌保管テント22内の圧力はこの吸気と排気とのバランスによって、常に陰圧になるように保たれている。このような構成とすることによって、内部で化学剤のガスが発生した場合に、テント外への漏洩を防止することができる。
【0057】
通常、土壌保管テント22内の空気を外部に排出する排気管25には、活性炭フィルタ等の化学剤除去フィルタ24が設けられており、土壌保管テント22内の作業の過程で化学剤のガスが発生した場合でも外部への漏洩を防ぐことができる。しかしながら、化学剤除去フィルタ24のトラブル(例えば、破過等)に備えて、排気管25をモニタする必要がある。そこで、排気管25に、本実施形態のガスモニタリング装置1のガス導入配管3を接続し、排気管25中のガスをモニタする構成としている。
【0058】
このような構成の使用形態において、検出しようとする化学剤のモニタリングに影響を与えうる共存物質は、おもに、水蒸気である。
例えば、化学剤除去フィルタ24を交換した直後には、水蒸気も化学剤除去フィルタ24に捕集されてしまい、排気管25を流れる試料ガスの湿度が極端に低下する場合がある。そして、化学剤除去フィルタ24を継続して使用していくにつれ、化学剤除去フィルタ24を通過しうる水蒸気量が増加していく。このような水蒸気量の変化は、化学剤の検出に影響を与えるものである。
従って、本使用例においては、化学剤に対して水蒸気が共存物質となる場合を想定して説明する。
【0059】
図6は、マスタードガスのマススペクトル(図示せず)に示される分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示すグラフである。
マスタードガスをモニタする場合、針電極37(図2参照)に正の高電圧を印加して正イオンを生成する正イオン化モードを使用する。
なお、一般的に、正イオン化モードにおける代表的なイオン化反応は以下に示す2通りである。
【0060】
(正のイオン化反応1)
コロナ放電により窒素分子がイオン化され、この窒素分子イオンは大気中の水蒸気をイオン化して一次イオンとしてヒドロニウムイオン〔H3O+〕を生成する。化学剤は、ヒドロニウムイオンとの化学反応により、分子にプロトンが付加した分子量関連イオン〔(M+H)+〕を生成する。
【0061】
(正のイオン化反応2)
コロナ放電により窒素分子がイオン化され、この窒素分子イオンとの反応で直接分子イオン〔M+〕を生成する。
【0062】
ここで、図示しないマススペクトルにおいて、マスタードガスのイオンは、M+を意味するm/z(分子量/価数)=158として観測されたことから、窒素分子イオンからの反応(正のイオン化反応2)が主だと考えられる。
大気中に水蒸気が多いと、窒素分子イオンの電荷はヒドロニウムイオンへと変換されてしまうため、マスタードガスのイオン化反応が起こり難くなる。
従って、マスタードガスのイオン強度の湿度依存性は単調減少の傾向を示す。
【0063】
図7は、2−クロロアセトフェノンのマススペクトル(図示せず)に示される分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示す図である。
2−クロロアセトフェノンをモニタリングする場合も、針電極37に正の高電圧を印加して正イオンを生成する正イオン化モードを使用する。
ここで、図示しないマススペクトルにおいて、プロトン付加した分子量関連イオン〔(M+H)+〕を意味するm/z=155が観測されたことから、2−クロロアセトフェノンのイオン化は正のイオン化反応1である。従って、2−クロロアセトフェノンがイオン化されるためには、まずヒドロニウムイオンが生成されなければならない。
このため、図7に示すように、湿度の増加に伴ってイオン強度が増加している。しかしながら、湿度がさらに増えていくと、ヒドロニウムイオンに水分子が付着する、いわゆるクラスタリング反応が起きる。クラスタのサイズが大きくなるに従いヒドロニウムイオンの反応性が低下するので、湿度が高すぎると2−クロロアセトフェノンのイオン化効率が低下し、イオン強度は徐々に減少する。
このような理由により、2−クロロアセトフェノンのイオン強度は、絶対湿度0.9g付近に極大を持ち、より低湿度側と高湿度側で減少する傾向を示す。
【0064】
また、2−クロロアセトフェノンは、化学剤の中で比較的規制が緩やかな物質であるために、マスタードガスを測定する場合に比較対象(標準物質)として用いられる場合がある。
マスタードガスのモニタリングにおいて、2−クロロアセトフェノンを標準物質として使用することは、絶対湿度が概ね1g(気温20℃の相対湿度で約30%)以上である通常の生活環境においては問題が少ない。湿度の増加に伴い、マスタードガスと2−クロロアセトフェノンのイオン化効率がともに低下するためである。
その一方で、フィルタ交換直後等の極低湿度の試料ガス中では、マスタードガスのイオン化効率が向上する反面、2−クロロアセトフェノンのイオン化効率が低下するので、両者のイオン化効率の間に大きな解離が生じる。そのため、イオン強度や濃度も大きく解離することとなる。
従って、検出しようとする化学剤の濃度を測定するときだけでなく、装置の校正等の際に標準物質の濃度を測定するときにおいても、測定時の絶対湿度に従ってイオン強度を補正することが重要である。
【0065】
また、図8は、ルイサイトの主成分であるルイサイト1のマススペクトル(図示せず)に示される分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示すグラフである。
ルイサイト1をモニタリングする場合、針電極37に負の高電圧を印加して負イオンを生成する負イオン化モードを使用する。
負のイオン化モードにおいては、次に示す負のイオン化反応が行われる。
【0066】
(負のイオン化反応)
コロナ放電により酸素分子がイオン化され、この酸素分子イオンとの反応で直接分子イオン〔M―〕を生成する。
【0067】
図8に示すように、負の大気圧化学イオン化であっても、イオン強度は湿度によって変化する。これは、ルイサイト1検出のためのマーカとしているm/z=187の信号が、ルイサイト1と水蒸気とが気相で反応した加水分解物に由来するイオンであるためと考えられる。
また、負の大気圧化学イオン化においても、一次イオンであるO2-の反応性が、やはり水分子とのクラスタリングにより変化する。
このように、ルイサイト1以外の他の物質であっても、イオン強度が湿度依存性を持つことは十分に考えられる。従って、負のイオン化モードによる濃度測定であっても、測定時の絶対湿度に従ってイオン強度を補正することが重要である。
【0068】
このように、適切な化学剤濃度をモニタリングするためには、イオンの極性(正、負)によらずに、絶対湿度の影響を考慮して、測定値を補正する必要がある。
そして、例えば、図6〜図8で示した分子量関連イオンのイオン強度と絶対湿度との相関を示すデータを取得していれば、本実施形態において化学剤DB2に格納されてイオン強度補正部73の処理に使用される、絶対湿度−イオン強度補正率曲線を容易に作成することができる。
【0069】
なお、前記した使用例においては化学剤の共存物質として水蒸気が想定される場合について説明したが、共存物質は、どのような化学物質であってもかまわない。化学剤と、この化学剤と共存しうる化学物質との相関関係を示すデータを取得し、あらかじめ化学剤DB2に格納しておくことで、共存物質が水蒸気である場合と同様に、本実施形態を実行することができる。
例えば、化学テロの場合には、テロリストの技術力が充分ではなく、化学剤が化学剤製造等の過程で用いられる有機溶剤とともに散布される場合がある。化学剤とともに散布されることが想定される有機溶剤(共存物質)の一つとして、アセトンが挙げられる。
【0070】
このような有機溶剤は、水蒸気と異なり、湿度計4のような専用のセンサを設けて濃度情報を取得することは容易ではない。そこで、質量分析部6bで検出されるイオンのマススペクトルから、化学剤由来のイオンのイオン強度とともに、有機溶剤の濃度を表す指標として有機溶剤由来のイオンのイオン強度を抽出することによって、有機溶剤の濃度を算出することもできる。
また、有機溶剤の濃度を測定するために、例えば、化学反応による発色反応を用いて有機溶剤の濃度を検出するような有機溶剤センサを設けてもよい。
【0071】
<その他の実施形態1>
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されない。
図9は、その他の実施形態1のガスモニタリング装置1の構成を示すブロック図である。
例えば、本発明は、図9に示すように、ガス導入配管3を排気管25等に接続せず、直接大気から試料ガスを導入する構成としてもよい。この場合には、湿度計4と温度計5はガス導入配管3に設置することが好ましい。
このようにガスモニタリング装置1を構成することによって、携帯しやすくなり、例えば、大気中に散布された化学剤を直接検出する場合等に効果的である。
【0072】
<その他の実施形態2>
その他の実施形態2では、測定時の絶対湿度に従ってイオン強度を補正する代わりに、所定の絶対湿度になるように試料ガスの湿度を増加させる加湿器65を備えた構成である。
図10は、その他の実施形態2のガスモニタリング装置1の構成を示すブロック図である。図中の各構成は、前記した実施形態と同じであるので、同じ符号を付して説明を省略する。
図10に示すように、化学剤検出部6に送られる試料ガスの水蒸気濃度を調整する目的で、加湿器65を設け、加湿器65からの水蒸気を水蒸気導入配管66を介してガス導入配管3に導入する。
なお、加湿器65からの水蒸気の導入量は、湿度計4と温度計5の測定結果から算出され制御される。
例えば、化学剤除去フィルタ24の交換直後のように、絶対湿度が1gを下回る状態になった際には、化学剤検出部6に導入される試料ガスの絶対湿度が所定の値(例えば1g)になるように、加湿器65から供給される水蒸気の量や濃度が制御される。
このようにガスモニタリング装置1を構成することによって、例えば、複数回の濃度測定において測定時の大気の絶対湿度が異なっていたとしても、加湿器によって絶対湿度を毎回同一にして濃度測定を行うことができるため、特に補正することなしに適切なイオン強度比(さらには、濃度比)を求めることができる。
なお、試料ガス中の水蒸気濃度の制御は、加湿器によるだけでなく、除湿手段によって行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、化学剤の濃度を迅速かつ適切に把握することができるので、化学剤の環境漏洩モニタリングや化学テロの際に、住民等の安全の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施形態のガスモニタリング装置の構成を示すブロック図である
【図2】大気圧化学イオン化を行うイオン化部の構成を示す縦断面図である。
【図3】本実施形態の質量分析部の一例として、イオントラップ質量分析計を含む質量分析部の構成を示す縦断面図である。
【図4】データ処理部の構成を示すブロック図である。
【図5】イオン強度補正処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】マスタードガスの分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示す図である。
【図7】2−クロロアセトフェノンの分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示す図である。
【図8】ルイサイトの主成分であるルイサイト1の分子量関連イオンのイオン強度と、絶対湿度との相関を示すグラフである。
【図9】その他の実施形態1のガスモニタリング装置の構成を示すブロック図である。
【図10】その他の実施形態2のガスモニタリング装置の構成を示すブロック図である。
【図11】従来の化学剤の探知装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1 ガスモニタリング装置
2 化学剤DB
3 ガス導入配管(試料導入部)
4 湿度計(共存物質濃度測定手段)
5 温度計
6 化学剤検出部
6a イオン化部
6b 質量分析部
7 データ処理部
8 表示部
65 加湿器(共存物質濃度可変手段)
71 絶対湿度算出部
72 マススペクトル生成部
73 イオン強度補正部(補正手段)
74 化学剤濃度算出部
75 表示処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質を含む試料ガスを導入する試料導入部と、
前記試料ガスに含まれ、前記測定対象物質と共存する所定の共存物質の濃度を測定する共存物質濃度測定手段と、
前記試料ガスをイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部で生成されたイオンの質量を分析する質量分析部と、
前記質量分析部によって検出された信号を解析し、前記測定対象物質の濃度を算出するデータ処理部と、
前記データ処理部によって解析された解析結果を表示する表示部とを備えたガスモニタリング装置であって、
前記データ処理部は、前記所定の共存物質の濃度に対応して、前記測定対象物質の濃度を補正する補正手段を備えたことを特徴とするガスモニタリング装置。
【請求項2】
前記共存物質濃度測定手段は、少なくとも前記試料ガスの湿度を測定する湿度計を含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載のガスモニタリング装置。
【請求項3】
前記イオン化部は、大気圧化学イオン化法の原理に基づいて構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスモニタリング装置。
【請求項4】
測定対象物質を含む試料ガスを導入する試料導入部と、
前記試料ガスに含まれ、前記測定対象物質と共存する所定の共存物質の濃度を測定する共存物質濃度測定手段と、
前記試料をイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部で生成されたイオンの質量を分析する質量分析部と、
前記質量分析部によって検出された信号を解析し、前記測定対象物質の濃度を算出するデータ処理部と、
前記データ処理部によって解析された解析結果を表示する表示部と、
前記試料中に含まれる所定の共存物質の濃度を所定の濃度に変化させる共存物質濃度可変手段とを備えたガスモニタリング装置であって、
前記共存物質の濃度を前記所定の濃度に変化させた後に、前記測定対象物質の濃度を測定することを特徴とするガスモニタリング装置。
【請求項5】
前記共存物質濃度可変手段は、前記試料ガスを加湿する加湿器であることを特徴とする請求項4に記載のガスモニタリング装置。
【請求項1】
測定対象物質を含む試料ガスを導入する試料導入部と、
前記試料ガスに含まれ、前記測定対象物質と共存する所定の共存物質の濃度を測定する共存物質濃度測定手段と、
前記試料ガスをイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部で生成されたイオンの質量を分析する質量分析部と、
前記質量分析部によって検出された信号を解析し、前記測定対象物質の濃度を算出するデータ処理部と、
前記データ処理部によって解析された解析結果を表示する表示部とを備えたガスモニタリング装置であって、
前記データ処理部は、前記所定の共存物質の濃度に対応して、前記測定対象物質の濃度を補正する補正手段を備えたことを特徴とするガスモニタリング装置。
【請求項2】
前記共存物質濃度測定手段は、少なくとも前記試料ガスの湿度を測定する湿度計を含んで構成されることを特徴とする請求項1に記載のガスモニタリング装置。
【請求項3】
前記イオン化部は、大気圧化学イオン化法の原理に基づいて構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスモニタリング装置。
【請求項4】
測定対象物質を含む試料ガスを導入する試料導入部と、
前記試料ガスに含まれ、前記測定対象物質と共存する所定の共存物質の濃度を測定する共存物質濃度測定手段と、
前記試料をイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部で生成されたイオンの質量を分析する質量分析部と、
前記質量分析部によって検出された信号を解析し、前記測定対象物質の濃度を算出するデータ処理部と、
前記データ処理部によって解析された解析結果を表示する表示部と、
前記試料中に含まれる所定の共存物質の濃度を所定の濃度に変化させる共存物質濃度可変手段とを備えたガスモニタリング装置であって、
前記共存物質の濃度を前記所定の濃度に変化させた後に、前記測定対象物質の濃度を測定することを特徴とするガスモニタリング装置。
【請求項5】
前記共存物質濃度可変手段は、前記試料ガスを加湿する加湿器であることを特徴とする請求項4に記載のガスモニタリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−322899(P2006−322899A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148515(P2005−148515)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(592083915)警察庁科学警察研究所長 (23)
【Fターム(参考)】
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