説明

ガスワイピングノズルおよびガスワイピング方法、溶融金属めっき装置、溶融金属のめっき方法

【課題】帯状体の表面に付着した付着物を除去するのに用いられるガスワイピングノズルと、当該ガスワイピングノズルを用いたガスワイピング方法と、溶融金属めっき槽から引き上げられる金属帯の表裏面にガスを噴き付け、金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去する溶融金属めっき装置と、当該溶融金属めっき装置を用いた溶融金属のめっき方法を提供する。
【解決手段】外周面111の少なくとも一部が曲面である筒状または柱状の胴部11と、該胴部外周面の曲面と一定間隔を保って開口し、前記曲面の接線方向にワイピングガスGを噴出可能な噴出口12を備えるガスワイピングノズル1を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対的に移動する帯状体の表面に付着した付着物を噴出ガスで除去するのに用いられるガスワイピングノズルと、当該ガスワイピングノズルを用いて相対的に移動する帯状体の表面に付着した付着物を除去するガスワイピング方法と、溶融金属めっき槽から連続的に引き上げられる金属帯に対し、溶融金属めっき槽上方で金属帯を挟んで対向配置した一対のガスワイピングノズルから金属帯の表裏面に対してガスを噴き付け、金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去する溶融金属めっき装置と、当該溶融金属めっき装置を用いて金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去する溶融金属のめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のガスワイピングノズル(以下、ノズルと略すこともある)は、帯状体の表面に付着したゴミ、汚れ、水滴等の噴出ガスによる除去や、過剰に付着した塗料、インク、接着剤、樹脂等の液状部材の噴出ガスによる除去に用いることが可能なガス噴出ノズルであり、特に、溶融金属めっきにおいて、金属帯の表面に付着した過剰の溶融金属を噴出ガスで除去するのに用いることが可能なガス噴出ノズルである。以下、その背景技術について、溶融金属めっきに用いられるガスワイピングノズルにより説明する。
【0003】
金属帯の溶融金属めっきでは、連続した金属帯を、溶融金属からなるめっき浴中に引き込み、シンクロールで方向転換した後、めっき浴から引上げて、当該金属帯表面に溶融金属を付着させる。その後、付着した溶融金属が凝固する前に、一対のガスワイピングノズル間に金属帯を通し、過剰に付着した溶融金属を、窒素等のワイピングガスを噴き付けて除去し、金属帯表面に所定厚みの溶融金属めっきを形成する。
【0004】
かかる溶融金属のガスワイピングでは、ワイピングガスにより除去された溶融金属の大部分は金属帯を伝ってめっき浴に戻るものの、一部は金属帯表面から離脱して、雰囲気中に飛散することが知られている。これはスプラッシュと呼ばれる現象であり、飛散した溶融金属は、金属帯上に再付着したり、ノズルのガス噴出口を目詰まりさせたり、酸化してめっき浴に戻り、めっき浴を汚染するので問題になる。したがって、スプラッシュは可能な限り発生させないようにするのが好ましい。
【0005】
スプラッシュの発生を抑制する方法としては、例えば、特許文献1のように、ワイピングガスを金属帯の表面に対して、角度をつけて直線的に噴き付ける方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−2756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5は、矢印Aの方向に移動する金属帯T表面に付着した過剰の溶融金属を、従来のガスワイピングノズルで除去する様子を説明する模式図である。特許文献1では、ノズル5Aのように、金属帯T表面に対して垂直にワイピングガスを噴き付けるより、ノズル5Bのように、金属帯T表面に対して角度をつけてワイピングガスを噴き付けるのほうが、スプラッシュSの発生を抑制できるとしている。しかし、かかるノズル配置にしたとしても、ワイピングガスが金属帯T表面に対して角度をつけて直線的に噴き付けられる限り、ワイピングガスは金属帯T表面の溶融金属を叩くので、スプラッシュSの発生を完全に防ぐことはできない。
【0008】
また、スプラッシュSの発生を抑制するのに、ノズルをノズル5Cのように金属帯Tの近くに配置し、金属帯T表面と平行に近い角度でワイピングガスを噴出させる方法も考えられる。かかるノズル配置にすれば、ワイピングガスは金属帯T表面の溶融金属を叩きにくくなり、スプラッシュSの発生が抑制され、金属帯Tに付着した過剰の溶融金属の多くが、金属帯を伝ってめっき浴(不図示)に戻ることが期待できる。
【0009】
しかし現実的には、直線的にガスを噴き付ける従来のノズルを用いる限り、金属帯T表面に対するワイピングガスの噴出角度θを小さくするのは困難である。すなわち、かかるノズル配置では、図5中の破線で示されるように、金属帯Tがたなびいて振動したときに、金属帯T表面がノズルに触れてめっき付着量が不均一になる恐れがあり、金属帯Tから飛散したスプラッシュがノズルのガス噴出口に付着して、ノズル目詰まりを発生する恐れもある。
【0010】
また、従来のノズルを用いた直線的なガスの噴き付けでは、金属帯T表面でガス流が乱れ、溶融金属の挙動が不安定になり、めっき付着量にばらつきを生じる恐れがある。さらに、ノズル5Bとノズル5B´のように、金属帯Tの両面からガスを噴き付けた場合、両面からの直線的なガス流がぶつかって干渉し合うので、ワイピングガスの状態が乱れ、めっき付着量にばらつきを生じる恐れもある。
【0011】
本発明は、上記従来の技術の問題点を解決するために考案されたものであり、相対的に移動する帯状体の表面に付着した付着物を噴出ガスで除去するのに用いられるガスワイピングノズルと、当該ガスワイピングノズルを用いて相対的に移動する帯状体の表面に付着した付着物を除去するガスワイピング方法と、溶融金属めっき槽から連続的に引き上げられる金属帯に対し、溶融金属めっき槽上方で金属帯を挟んで対向配置した一対のガスワイピングノズルから金属帯の表裏面に対してガスを噴き付け、金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去する溶融金属めっき装置と、当該溶融金属めっき装置を用いて金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去する溶融金属のめっき方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガスワイピングノズルは、相対的に移動する帯状体の表面に付着した付着物の一部あるいは全てを噴出ガスで除去するのに用いられるガスワイピングノズルであって、外周面の少なくとも一部が曲面からなる筒状または柱状の胴部と、該胴部外周面の曲面と一定間隔を保って開口し、前記曲面の接線方向にワイピングガスを噴出可能な噴出口を備えることを特徴としている。
【0013】
かかる構成のガスワイピングノズルでは、噴出口から噴出したワイピングガスの少なくとも一部は、コアンダ効果により胴部外周面の曲面に沿って向きを変えながら流れるようになる。かかる作用により、帯状体にノズルのガス噴出口を接近させずに、帯状体の表面に対して略平行の低角度にしてワイピングガスを噴き付けられるので、帯状体表面から付着物が飛散するのを抑制することができる。なお、ここでいう略平行とは、平行から数度ずれた程度までの位置関係を示すものである。そして、かかる構成のガスワイピングノズルでは、胴部外周面の曲面に沿った曲線的なガス流を形成できるので、帯状体表面のガス流は帯状体表面と平行または略平行の安定したガス流になり、帯状体表面に付着した流動性を有する付着物を、安定して均一な厚みに薄膜化することもできる。
【0014】
そして、本発明のガスワイピングノズルでは、前記胴部外周面の少なくとも一部を、所定の曲率を有する円柱の外周面あるいは楕円柱の外周面にするのが好ましく、前記噴出口はスリット状にするのが好ましい。かかる構成にすることで、噴出口から噴出したワイピングガスが、コアンダ効果により、胴部外周面の曲面に沿って流れ易くなるので、帯状体表面の付着物に対して、平行または略平行の低角度でより安定したガス流を噴き付けることができる。
【0015】
さらに、本発明のガスワイピングノズルは、相対的に移動する帯状体を挟み込むよう、一対にして対向配置させることもできる。かかる配置にすることで、帯状体両面に付着した付着物の除去を同時に行うことが可能なガスワイピングノズルにすることができる。本発明のガスワイピングノズルでは、噴出口から噴出したワイピングガスが、コアンダ効果により、胴部外周面の曲面に沿って流れの向きを変えるので、帯状体と近接した胴部表面部分に帯状体の表面と略平行のガス流が形成され、ガスワイピングノズルを一対にして対向配置させても、ガスワイピングノズルから噴出するワイピングガスがぶつかって干渉する可能性が小さくなる。これにより、帯状体表面から付着物が飛散するのを抑制できるのと同時に、ガスワイピングノズル間に安定したガス流を形成できるので、帯状体両面に付着した付着物を、均一な厚みに薄膜化することができる。
【0016】
また、本発明のガスワイピング方法は、上記のガスワイピングノズルを用い、前記帯状体に対してワイピングガスを噴き付け、前記帯状体の表面に付着した付着物を除去することを特徴としており、前記一対にして対向配置したガスワイピングノズルの間に、前記帯状体の移動方向と平行または略平行のワイピングガス流を形成し、該ワイピングガス流により前記帯状体の表面に付着した付着物を除去することも特徴としている。かかるガスワイピング方法によれば、互いのガスワイピングノズルから噴出したワイピングガスがぶつかって干渉する可能性が小さくなる。これにより、帯状体表面から付着物が飛散するのを抑制できるのと同時に、ガスワイピングノズル間に安定したガス流を形成でき、帯状体両面に付着した付着物を、均一な厚みに薄膜化することができる。そして、帯状体の表面に付着した付着物は、帯状体の表面に沿い帯状体の長手方向に除去されるようになるので、帯状体の反対面に付着物が回り込むことも防止できる。前記胴部が円筒外周面状の曲面を有する場合、帯状体表面に対するワイピングガスの噴出角度は、コアンダ効果により効果的なワイピング効果が得られる15度以上25度以下にするのが好ましい。
【0017】
また、本発明の溶融金属めっき装置は、溶融金属めっき槽から連続的に引き上げられる金属帯に対し、溶融金属めっき槽上方で金属帯を挟んで対向配置した一対のガスワイピングノズルから金属帯の表裏面に対してガスを噴き付け、該金属帯に過剰に付着した溶融金属を除去する溶融金属めっき装置であって、前記一対のガスワイピングノズルの各々は、外周面の少なくとも一部が曲面である筒状または柱状の胴部と、該胴部外周面の曲面と一定間隔を保って開口して前記曲面の接線方向にガスを噴出可能な噴出口を備えることを特徴としている。
【0018】
そして、本発明の溶融金属めっき装置では、前記ガスワイピングノズルの胴部外周面の少なくとも一部を、所定の曲率を有する円柱の外周面あるいは楕円柱の外周面にするのが好ましく、前記噴出口はスリット状にするのが好ましい。かかる構成にすることで、噴出口から噴出したワイピングガスが、コアンダ効果により、胴部外周面の曲面に沿って流れ易くなるので、金属帯に過剰に付着した溶融金属に対して平行または略平行の安定したガスが噴き付けることが可能な、溶融金属めっき装置にすることができる。
【0019】
さらに、本発明の溶融金属のめっき方法は、上記溶融金属めっき装置を用いて前記金属帯に対してワイピングガスを噴き付け、前記金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去することを特徴としており、前記一対のガスワイピングノズルの間に、前記金属帯の移動方向と平行または略平行にワイピングガス流を形成し、該ワイピングガス流により前記金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去することを特徴としている。かかる溶融金属のめっき方法によれば、互いのガスワイピングノズルから噴出したワイピングガスは、ぶつかって干渉する可能性が小さくなる。これにより、金属帯に過剰に付着した溶融金属が飛散するのを抑制できるのと同時に、ガスワイピングノズル間に安定したガス流を形成でき、金属帯に付着した溶融金属を、均一な厚みに薄膜化することができる。そして、金属帯に過剰に付着した溶融金属は、金属帯の表面に沿い金属帯の長手方向に除去されるようになるので、金属帯の反対面に付着物が回り込むのを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
上記説明のように、本発明のガスワイピングノズルによれば、従来技術に問題としていた、帯状体(金属帯)からの付着物(溶融金属)の飛散(スプラッシュ)を大幅に抑制することができ、流動性を有する付着物(溶融金属)の厚み均一化あるいは薄膜化ができる。なお、上記ガスワイピングノズルおよびガスワイピング方法、溶融金属めっき装置、溶融金属のめっき方法の好ましい態様およびその効果については、以下詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施態様のガスワイピングノズルの概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1のガスワイピングノズルの断面図である。
【図3】本発明の第2実施態様のガスワイピングノズルの概略構成を示す断面図である。
【図4】本発明の第3実施態様のガスワイピング方法を説明する図である。
【図5】従来技術の問題点を説明する図である。
【図6】本発明の第1実施態様のガスワイピングノズルについて他の胴部の例を示す断面図である。
【図7】本発明の第4の実施様態の溶融金属めっき装置の概略構成を示す模式図である。
【図8】実験例において銅箔片に作用するワイピング力を評価する装置の概略構成を示す模式図である。
【図9】実験例1において銅箔片に作用する力とワイピングガスの噴出角度の関係を示すグラフである。
【図10】実験例2において銅箔片に作用する力とワイピングガス流量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明にかかるガスワイピングノズルおよびガスワイピング方法、溶融金属めっき装置、溶融金属のめっき方法について、その各種態様に基づき図面を参照しつつ説明する。
【0023】
[第1実施態様]
本発明の第1実施態様について、図1と図2を用いて説明する。図1は第1実施態様のガスワイピングノズルの概略構成を示す斜視図、図2は図1のガスワイピングノズルの断面図である。
【0024】
図1に示すように、本実施態様のガスワイピングノズル1は、両端面が塞がれた円筒状の胴部11と、外部からノズル1にワイピングガスを導入するガス導入管14と、ワイピングガスGを噴出するスリット状の噴出口12を形成して胴部11に固定されたスリット板13と、胴部11とスリット板13の端面の隙間からワイピングガスが漏れないように封止した封止部15とを備える。かかるガスワイピングノズル1は、帯状体Tの表面に対して胴部11の外周面を対向するようにして配され、帯状体Tの表面に付着した付着物(図示せず)を除去するのに用いられる。
【0025】
図1のガスワイピングノズル1における封止部15は、胴部11およびスリット板13の端面から樹脂や金属を充填するか、あるいは、胴部11およびスリット板13の端面を溶接して形成することができ、端面からワイピングガスが漏れない構造にすればよい。他にも、胴部11およびスリット板13の端面に板状部材を貼り付けて、端面からワイピングガスが漏れないような構造にしてもよい。
【0026】
図2に、本実施様態である図1のガスワイピングノズル1の断面図およびガスワイピングノズル1中のワイピングガスGの流れを示す。ワイピングガスGは、円筒状の胴部11の内部に貫通して設けられたガス導入管14を通して胴部11の内部に導入され、貫通孔16を通して胴部11内部から排出され、胴部11とスリット板13との間に形成されたスリット部17を通して、噴出口12からガスワイピングノズル1の外部に噴出される。
【0027】
本実施様態のガスワイピングノズル1では、ワイピングガスGは噴出口12から噴出され、コアンダ効果により、円筒状の胴部11の外周面111に沿って向きを変えながら流れ、帯状体Tの表面と略平行の安定したガス流を形成する。かかるガス流が形成されることで、帯状体T上に付着した付着物は、均一に除去されるようになるのとともに、付着物が除去される際に、ワイピングガスが帯状体Tの表面を叩きにくくなるので、帯状体T表面から付着物が飛散してスプラッシュが発生するのを抑制することができる。
【0028】
また、本実施態様のガスワイピングノズル1では、ワイピングガスが噴出される噴出口12を、帯状体Tに接近させずに、帯状体Tの表面と平行または略平行のガス流を形成できるので、スプラッシュが発生しても、飛散物により噴出口12が目詰まりするのを防止することもできる。
【0029】
さらに、噴出口12から噴出されたワイピングガスGは、コアンダ効果により、周囲のガスを巻き込みながら、円筒状の胴部11の外周面111に沿ったガス流を形成する。したがって、噴出口12から噴出されたガス流以上の気流が帯状体Tに作用するようになるので、帯状体Tの表面に付着した付着物を、少ない導入ガスでも効率よく除去することができる。
【0030】
そして、円筒状の胴部11の外周面111に沿って流れ、帯状体Tの表面に付着した付着物を除去したワイピングガスの一部は、その後も円筒状の胴部11の外周面111に沿って流れる。これにより、付着物を除去する際、帯状体T表面からからスプラッシュが発生しても、その一部は円筒状の胴部11の外周面111に沿って、帯状体Tから離れるようにして飛散するので、スプラッシュが帯状体Tに再付着するのが抑制される。
【0031】
また、本実施態様において、ワイピングガスGが噴出される噴出口12は、コアンダ効果によりワイピングガスGが円筒状の胴部11の外周面111に沿って流れやすくなるよう、胴部11における円筒外周面111の接線方向にスリット状にして開口している。
【0032】
胴部11に対するスリット板13の取付け位置を変えたり、スリット板13の長さを変えることで、帯状体Tの表面に付着した付着物に作用するワイピング力を調整することができる。また、胴部11と帯状体Tとの距離を変えることによっても、ワイピング力を調整することができる。
【0033】
本実施態様のガスワイピングノズル1は、円筒状の胴部11を備えたものであるが、胴部11の形状は必ずしも円筒状に拘るものではない。すなわち、本発明のガスワイピングノズルは、噴出口12から噴出されたワイピングガスGが、コアンダ効果により、胴部11の外周面111に沿って流れの向きを変え、帯状体Tの表面と平行または略平行のガス流を形成し、帯状体Tに付着した付着物に作用して付着物を除去できるような胴部11の形状であればよく、かかる作用が得られる外周面111の形状、たとえば、楕円のような2次曲線を端面に含む、筒状の外周面111であってもよい。
【0034】
そして、かかる曲面はワイピングガスGの流れの向きを変えられるよう、胴部11の外周面111の少なくとも一部にだけあればよく、ワイピングガスGの流れの向きを変えるのに関与しない胴部11の外周面111部分は、平面や凹凸面であっても良い。
【0035】
たとえば、図6のように、ワイピングガスGを噴出する噴出口12付近のみ円筒面状外周面部分1111にして、帯状体Tに近接する外周面部分を帯状体Tと平行する平面状外周面部分1112としてもよい。かかる外周面111にすることで、ワイピングガスGが帯状体T表面と略平行に流れる距離が長くなるので、ワイピング力の大きいガスワイピングノズル1にすることができる。
【0036】
また、ワイピングガスGが流れる胴部11の外周面111は、鏡面に加工した平滑面であってもよいが、コアンダ効果の発現を妨げない程度に、溝や凹部が形成された面であってもよい。
【0037】
[第2実施態様]
本発明の第2実施態様について、図3を参照しながら説明する。図3は、第2実施態様のガスワイピングノズル2の概略構成を示す断面図である。なお、第1実施態様のガスワイピングノズル1と同一の構成要素については図2と同一符号を付し、説明を省略する。
【0038】
図3のガスワイピングノズル2は、楕円柱状の胴部21と、胴部21の外周面111との間に、ワイピングガスGを噴出する噴出口12を開口して、胴部21に固定されたスリット板23と、外部からノズル2にワイピングガスを導入するガス導入管24と、胴部21とスリット板23の端面の隙間からワイピングガスが漏れないように封止した封止部(不図示)とを備えている。
【0039】
図3のガスワイピングノズル2は、ノズル内部のワイピングガスGの流れ方が、第1実施態様のガスワイピングノズル1と異なる。すなわち、本実施態様のガスワイピングノズル2は、スリット板23を貫通して設けられたガス導入管24を通して、胴部21とスリット板23との間に形成されたスリット部27にワイピングガスGが導入され、スリット部27を通して噴出口12からガスワイピングノズル2の外部にワイピングガスGを噴出するものである。
【0040】
本実施態様のガスワイピングノズル2は柱状の胴部を用いているので、第1実施態様のガスワイピングノズル1のように胴部内にワイピングガスを通さずにワイピングガスGを噴出する構造になっており、比較的簡単な構成にしてガスワイピングノズルを形成することができる。
【0041】
また、本実施態様のガスワイピングノズル2は、楕円柱状の胴部21を用いており、ガスワイピングノズル2と帯状体Tの相対的な移動方向に、胴部21の端面である楕円の長軸を配することで、ワイピングガスGが帯状体Tに作用する距離を長くでき、ワイピング力の大きいガスワイピングノズルにすることができる。
【0042】
[第3実施態様]
本発明の第3実施様態について、図4を参照しながら説明する。図4は、第1実施様態の2個のガスワイピングノズル1を一対にして、帯状体Tの表裏面に付着した着物を同時に除去する、ガスワイピングノズルを説明する図である。
【0043】
図4では、2個のガスワイピングノズル1が帯状体Tを挟んで一対にして対向配置されていて、これらガスワイピングノズル1は連結部材41によって連結されている。ガスワイピングノズル1それぞれについて、配置およびガス噴出条件を任意に設定することもできるが、ガスワイピングノズル1と帯状体Tとの間隔、ガス流量、噴出口12から噴出するワイピングガスの噴出角度を同じ条件にして、2個のガスワイピングノズル1が、帯状体Tを対称軸に、一対にして対称に配置されるのが好ましい。かかる構成にすることにより、2個のガスワイピングノズル1から噴出されたガス流が互いに干渉することがなく、帯状体Tの表裏面に対して平行または略平行で安定したガス流を形成することができる。
【0044】
そして、図4のガスワイピングノズルは、2個のガスワイピングノズル1の配置、およびガス噴射条件を選択することで、2個のガスワイピングノズル1間に、帯状体Tと平行または略平行のワイピングガス流を形成することができる。かかるガス流は、帯状体Tの表面から過剰な付着物が飛散するスプラッシュの発生を抑制できるだけでなく、ガスワイピングノズル1と帯状体Tとの相対的移動方向と、ワイピングガスGの流れの方向とが、平行または略平行になるので、帯状体Tを安定してノズル間に配置することができ、帯状体Tが振動するのを抑えることができる。振動により破断しやすい帯状体、例えば、厚みが1mm未満の箔やフィルムの帯状体には、上記のガスワイピングノズルを用いたガスワイピング方法は大変好ましいものである。
【0045】
[第4実施態様]
本発明の第4実施態様について、図7を参照しながら説明する。図7は、第1実施態様の2個のガスワイピングノズル1を一対にして、金属帯T表面に付着した過剰の溶融金属を除去する、溶融金属めっき装置7を説明する模式図である。
【0046】
溶融金属めっき装置7では、めっき槽71にめっき浴である溶融金属72が貯留され、連続した金属帯Tは溶融金属72中に矢印A´の向きに引き込まれ、溶融金属72中に配設されたシンクロール73で方向転換された後、溶融金属72から矢印Aの方向(鉛直方向)に引き上げられて表面に溶融金属72が付着される。その後、付着した溶融金属72が凝固する前に、金属帯Tを、一対にして配設された2個のガスワイピングノズル1間に通し、金属帯Tの移動方向と平行または略平行に形成されたガス流により、金属帯T表面に過剰に付着した溶融金属72が除去され、金属帯T表面に所定厚みの溶融金属めっきが形成される。
【0047】
ワイピングガスGは、ガスボンベ等のワイピングガス源74からガス配管を介してガスワイピングノズル1に供給される。ここで、ワイピングガスGのガス流量は、ワイピングガス源74から排出されるワイピングガスGの流量を調整するガス圧調整弁76と、ガス圧調整弁76で調整されたワイピングガスGを分岐して、2個のガスワイピングノズル1に供給される流量を調整する2個のガス圧調整弁77で調整される。これらガス圧調整弁76,77の開度を調整することで、金属帯T表面に付着した溶融金属72を除去する量を調整することができ、2個のガス圧調整弁77の開度を調整することで、金属帯Tの表裏について除去する溶融金属72の量のバランスを調整することができる。
【0048】
また、ワイピングガスGは、溶融金属72の融点と同等もしくはそれ以上の温度に加熱されて、ガスワイピングノズル1から噴出させるのが好ましい。その際、ワイピングガスGを加熱する加熱機構は、ガス圧調整弁76,77が熱の影響を受けにくくするよう、ガス圧調整弁76,77の下流に設けるのがよい。
【0049】
(実験例1)
円筒状の胴部11を有する、図4に示した2個のガスワイピングノズル1を一対にして、本発明のワイピングノズル1のワイピング力の評価を行った。図8に評価に用いた装置の概略構成を示す。2個のガスワイピングノズル1は同じ仕様のノズルであり、胴部11の外径は20mm、胴部11の軸方向の長さは8mm、噴出口12の形状は6mm×0.1mmのスリット状とし、胴部外周面に鏡面加工を施したガスワイピングノズル1を用いた。2個のガスワイピングノズル1は、垂直に垂らした銅箔片T´(幅2mm,厚み0.1mm,長さ200mm)を軸に、対称にして連結部材41に取付けられており、2個のガスワイピングノズル1は胴部11の間隔が1mmになるよう配設した。2個のガスワイピングノズル1は、連結部材41への取り付けを調整することで、銅箔片T´表面に対して噴出口12から噴出されるワイピンガスGの噴出角度θを変えることができる。ワイピングガスGには窒素ガスを用い、2個のガスワイピングノズル1から40L/minのワイピングガスGが噴出されるよう、不図示のガス圧調整弁によりガス流量を調整した。
【0050】
銅箔片T´の上端は、接着部82を介して秤量計81に接続されていて、2個のガスワイピングノズル1からワイピングガスGが噴出して銅箔片T´にワイピング力が作用すると、銅箔片T´はその力により引き下げられ、秤量計81の示す値(荷重)が大きくなる。本実験では、かかる荷重により、本発明のガスワイピングノズル1のガスワイピング力を比較・評価した。
【0051】
図9に、秤量計81が示した荷重の噴出角度θ依存性を示す。ワイピングガス流量を10〜50L/minの間で変えて評価を行ったところ、いずれの場合においても、噴出角度θが15〜25度の間で荷重が最大になった。したがって、円筒状の胴部11を有するガスワイピングノズル1の場合、ワイピングガスGを15度以上25度以下の範囲の噴出角度θで噴出させるのが、帯状体表面の付着物あるいは金属帯表面に付着した過剰の溶融金属を除去するのに好ましいことがわかった。
【0052】
(実験例2)
図4に示した円筒状の胴部11を有するガスワイピングノズル1(以下、円筒ノズルと略す)と、図6に示した円筒面状外周面部分1111と平面状外周面部分1112を有するガスワイピングノズル1(以下、長円筒ノズルと略す)について、実験例1と同様の評価装置を用いてガスワイピング力の比較・評価を行った。円筒ノズルは、実験例1と同じガスワイピングノズルを用いた。長円筒ノズルは、胴部11の端面方向から見て、外径20mmの円筒面状外周面部分1111に長さ20mmの平面状外周面部分1112を有するガスワイピングノズルとした。長円筒ノズルの他の形状パラメータは、円筒ノズルと同じとし、銅箔片T´表面に対する噴出口12から噴出するワイピングガスGの噴出角度θは、いずれのノズルについても20度に設定した。円筒ノズルおよび長円筒ノズルは、それぞれ2個一対にして評価に供した。
【0053】
図10に、円筒ノズルおよび長円筒ノズルについて、ガス流量に対する秤量計81が示す荷重を示す。円筒ノズルと比較して、長円筒ノズルのほうが荷重の値が大きく、ワイピング力が大きいことがわかった。これは、長円筒ノズルが有する平面状外周面部分1112の効果により、ワイピングガスGが銅箔片T´表面と略平行に流れる距離が長くなり、ワイピング力が大きくなったためと考えられる。
【符号の説明】
【0054】
1,2:ガスワイピングノズル
11,21:胴部
111:外周面
1111:円筒面状外周面部分
1112:平面状外周面部分
12:噴出口
13,23:スリット板
14,24:ガス導入管
15:封止部
16:貫通孔
17,27:スリット部
41:連結部材
5A、5B,5C:従来技術のガスワイピングノズル
7:溶融金属めっき装置
71:めっき槽
72:溶融金属
73:シンクロール
74:ワイピングガス源
75:ガス配管
76,77:ガス圧調整弁
81:秤量計
82:接着部
A,A´:帯状体(金属帯)の移動方向
G:ワイピングガス
S:スプラッシュ
T:帯状体(金属帯)
T´:銅箔片
θ:帯状体T表面に対するワイピングガスGの噴出角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に移動する帯状体の表面に付着した付着物の一部あるいは全てを噴出ガスで除去するのに用いられるガスワイピングノズルであって、外周面の少なくとも一部が曲面からなる筒状または柱状の胴部と、該胴部外周面の曲面と一定間隔を保って開口し、前記曲面の接線方向にワイピングガスを噴出可能な噴出口を備えることを特徴とするガスワイピングノズル。
【請求項2】
前記胴部外周面の少なくとも一部が、所定の曲率を有する円柱の外周面あるいは楕円柱の外周面からなることを特徴とする請求項1に記載のガスワイピングノズル。
【請求項3】
前記噴出口がスリット状であることを特徴とする請求項1または2に記載のガスワイピングノズル。
【請求項4】
相対的に移動する帯状体を挟み込むよう、一対にして対向配置されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガスワイピングノズル。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれかに記載のガスワイピングノズルを用いて、前記帯状体に対してワイピングガスを噴き付け、前記帯状体の表面に付着した付着物を除去することを特徴とするガスワイピング方法。
【請求項6】
請求項4に記載された一対のガスワイピングノズルの間に、前記帯状体の移動方向と平行または略平行のワイピングガス流を形成し、該ワイピングガス流により前記帯状体の表面に付着した付着物を除去することを特徴とするガスワイピング方法。
【請求項7】
前記胴部が円筒外周面状の曲面を有し、前記帯状体表面に対するワイピングガスの噴出角度を、15度以上25度以下にすることを特徴とする請求項5または6に記載のガスワイピング方法。
【請求項8】
溶融金属めっき槽から連続的に引き上げられる金属帯に対し、溶融金属めっき槽上方で金属帯を挟んで対向配置した一対のガスワイピングノズルから金属帯の表裏面に対してガスを噴き付け、該金属帯に過剰に付着した溶融金属を除去する溶融金属めっき装置において、前記一対のガスワイピングノズルの各々は、外周面の少なくとも一部が曲面である筒状または柱状の胴部と、該胴部外周面の曲面と一定間隔を保って開口して前記曲面の接線方向にガスを噴出可能な噴出口を備えることを特徴とする溶融金属めっき装置。
【請求項9】
前記ガスワイピングノズルの胴部外周面の少なくとも一部が、所定の曲率を有する円柱の外周面あるいは楕円柱の外周面からなることを特徴とする請求項8に記載の溶融金属めっき装置。
【請求項10】
前記ガスワイピングノズルにおける前記噴出口がスリット状であることを特徴とする請求項8または9に記載の溶融金属めっき装置。
【請求項11】
請求項8に記載の溶融金属めっき装置を用いて前記金属帯に対してワイピングガスを噴き付け、前記金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去することを特徴とする溶融金属のめっき方法。
【請求項12】
前記一対のガスワイピングノズルの間に、前記金属帯の移動方向と平行または略平行にワイピングガス流を形成し、該ワイピングガス流により前記金属帯に付着した過剰の溶融金属を除去することを特徴とする請求項11に記載の溶融金属のめっき方法。
【請求項13】
前記金属帯表面に対する前記噴出口から噴出されるワイピングガスの噴出角度を、15度以上25度以下にすることを特徴とする請求項11または12に記載の溶融金属のめっき方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−207299(P2012−207299A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130916(P2011−130916)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】