説明

ガス分析装置

【課題】吸着燃焼式のガスセンサを用いたガス分析装置において、センサ抵抗RS とリファ抵抗RR の温度を精度良く制御して、低濃度の検出やガス種同定の能力を向上させる。
【解決手段】ブリッジ電圧VB に対してリファ抵抗RR に直列に接続された固定抵抗(温度測定用抵抗)R2 の端子間電圧V2 を計装アンプap2で検出する。分圧回路3によりブリッジ電圧VB の分圧電圧(分圧抵抗R4 の端子間電圧)と固定抵抗R2 の端子間電圧V2 の差V1 を計装アンプap1で検出する。電圧V2 を電圧V1 で割り算し、温度に対応するデータを得る。マイクロコントローラ2により、ガス計測時に実時間で温度に対応するデータを検出し、ブリッジ電圧VB を制御する。センサ抵抗RS に直列に接続された固定抵抗R1 を温度測定用抵抗として同様な処理をしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着燃焼式ガスセンサを用いてガス種、ガス濃度等を検出するガス検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸着燃焼式ガスセンサとして、例えば特開2008−185333号公報(特許文献1)に開示されたものがあり、この種の吸着燃焼式ガスセンサは、例えば図11に示す構造をしている。この図11に示す吸着燃焼式ガスセンサは、シリコン基板を異方性エッチングして形成されたダイヤフラムの上に、2つの白金抵抗を形成し、この白金抵抗をそれぞれAl23で被覆し、片方のAl23には触媒を塗布し、もう一方のAl23はそのままにしたものからなる。
【0003】
以下、両方の白金抵抗を区別する際に、触媒の有る方の白金抵抗を「センサ抵抗」と称し、触媒の無い方の白金抵抗を「リファ抵抗」と称する。まず、吸着燃焼式センサの原理について説明する。なお、以下の説明で抵抗を示す記号とその抵抗値を同じ表記で示す。図12はこのセンサを測定に使うための原理的回路図である。この回路は2つの電流源と、センサ抵抗RS とリファ抵抗RR からなり、センサ抵抗RS とリファ抵抗RR の各抵抗値RS ,RR は、RS =RR となるように作られる。
【0004】
可燃ガスが無い状態の下で、このセンサ抵抗RS とリファ抵抗RR (各白金抵抗)に同じ電圧をかけた場合、このセンサ抵抗RS とリファ抵抗RR はそれぞれヒータとなり、
S =RS ×I12
R =RR ×I22
という電力が供給され、2つのヒータは発熱する。また、I1 =I2 であれば、どちらの白金抵抗も同じ発熱をして、同じ温度、すなわち同じ抵抗値になる。ここで、VS とVR を測定して、それぞれを流れる電流と割り算すれば、抵抗値RS =VS ÷I1 と、RR =VR ÷I2 とを求めることができる。
【0005】
上記のように、白金抵抗は外部から供給した電力で発熱するヒータとして働く。このヒータの作用によってセンサ抵抗やリファ抵抗は温度が上昇する。リファ抵抗には触媒が無いので、可燃ガスとの特別な作用が生じず、リファ抵抗の温度は可燃ガスの有無にかかわらない。一方、可燃ガスがあったとき、触媒が機能する条件が整えてあれば、センサ抵抗において触媒上に吸着した可燃ガスが燃焼し、そのぶんだけ更に温度上昇する。従って、燃焼温度によるセンサ抵抗とリファ抵抗との温度差により可燃性ガスを検知することができる。
【0006】
ヒータとして使用する白金抵抗は、その温度と抵抗値が比例するという特徴により温度センサとしても機能する。例えば、センサ抵抗の抵抗値RS を基準値RS0と抵抗偏差ΔRS に分けて
S =RS0+ΔRS
と表したとき、抵抗偏差ΔRS は基準状態からの温度差に比例する。なお、センサ抵抗とリファ抵抗の周辺は、一方に触媒が薄く塗布されることを除いて同一になるように作られており、リファ抵抗についても同様のことが言える。
【0007】
このような吸着燃焼式ガスセンサを用いてガス濃度の測定に使う具体的な回路として、例えば図13乃至図15に示すものがある。これらの回路は2つの固定抵抗R1 ,R 2とセンサ抵抗RS 及びリファ抵抗RR からなるブリッジ回路を有している。
【0008】
図13の回路は、センサ抵抗RS とリファ抵抗RR をブリッジ電圧VB に対して並列に接続したものであり、固定抵抗R1 とセンサ抵抗RS の接続点の電圧であるセンサ電圧VS と、固定抵抗R2 とリファ抵抗RR の接続点の電圧であるリファ電圧VR との差分を計装アンプ10で検出するものである。図14の回路は、センサ抵抗RS とリファ抵抗RR をブリッジ電圧VB に対して直列に接続したものであり、センサ抵抗RS とリファ抵抗RR の接続点の電圧VS と、固定抵抗R1 と固定抵抗R2 の接続点の電圧VR との差分を計装アンプ10で検出するものである。図15の回路は、図13の回路にブリッジ電圧VB を制御する回路を付加したものであり、ブリッジ電圧VB を分圧する可変抵抗RT を有している。そして、可変抵抗RT の抵抗の比率を設定し、電圧VT とVS が一致するようにブリッジ電圧VB に対してフィードバックをかけるものである。なお、これら3つの回路はそれぞれ異なるが、ガス濃度が薄い時に、燃焼量とセンサ出力が比例するという点は同じである。
【0009】
次に、図16は可燃ガスを導入してセンサ抵抗とリファ抵抗に電流を供給したときの時間経過と温度変化を示す図であり、この図16に基づいて可燃ガスを導入した場合について説明する。まず、リファ抵抗の温度が図16のようにある時刻まで上昇してそれ以降は一定になるように、電流を制御するものとする。リファ抵抗の周辺には触媒が無いため、この特性は可燃ガスの有無や濃度に依らず変わらない。一方、センサ抵抗の方は、可燃ガスが触媒上で燃焼するので、センサ抵抗の温度は、ガス燃焼による発熱のぶんだけ上昇する。この温度上昇はセンサ抵抗を大きくするため、電気的にガスの燃焼を検知することができる。
【0010】
このセンサ抵抗におけるガスの燃焼の種類には2通りがある。ガスが吸着しながら燃焼する定常状態のときは、リファ抵抗とセンサ抵抗との間に生じる温度差が、ガス濃度に比例したものとなるような燃焼が生じる。これは「接触燃焼」と呼ばれる。過渡的には、「吸着燃焼」と呼ばれる燃焼も存在する。これは、ガスが燃焼しない低い温度にて触媒上に吸着したガスが、燃焼温度に達した時に生じる燃焼であり、触媒表面上のガス吸着量が定常的な値に落ち着いたら終了するものである。
【0011】
ここで、揮発性有機化合物(VOC、Volatile Organic Compounds)(トルエン、ベンゼン、フロン類、ジクロロメタンなど。洗浄剤や溶剤として使われる。)を検出することは、シックハウス症候群の対策に特に有用である。このVOCガスでは、上記吸着燃焼と接触燃焼という二つの現象を観察でき、特に吸着燃焼の検出は、シックハウス症候群の対策に特に有用である。この吸着燃焼を利用することで第1に重要なことは、低濃度のガスに対する感度が高いという性質である。すなわち、吸着燃焼の直前の燃焼開始温度よりも低い温度では、接触燃焼をしている時の表面上のガス吸着に比べて、触媒表面上でガス吸着濃縮が高い。そのため、より低い濃度でもガスの検出が可能になる。また、吸着燃焼が生じる温度は、ガス種によって決まっているため、吸着燃焼開始温度によって、ガス種を同定することができる。ガス種が同定できれば、そのガスに特化した対策につなげることができる。また、吸着燃焼の大きさ(程度)は燃焼前のガス吸着量と定常状態(接触燃焼時)での表面上のガス吸着量の差に比例することから、吸着燃焼と接触燃焼の比率からもガス種を同定するための情報を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−185333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
吸着燃焼式ガスセンサではセンサ抵抗とリファ抵抗の温度を制御する必要があり、例えば以下のような方法が考えられる。第1の温度制御は、例えば図14の回路によって行うものである。センサ抵抗RS とリファ抵抗RR は、前もって「電圧−温度」特性を測定しておく。ガスの測定の際に必要な温度を得るには、その電圧−温度特性から必要な温度に対応する電圧を求め、その電圧の印加により温度を制御する。しかし、この方法では、白金抵抗の温度は室温をはじめとした外乱の影響を受けるため、本当の温度は何度なのか判らないという問題点がある。
【0014】
第2の方法は、図15の回路によって行うものである。センサが決められた温度になったとしたら、センサ抵抗RS がある値になるため、固定抵抗R1 とセンサ抵抗RS の比率も決まった値となる。そこで、前記のように、可変抵抗RT によって、抵抗の比率を設定し、電圧VT とVS が一致するようにアナログ回路によってフィードバックをかける。しかし、この方法では、定常状態の温度は保証できるが、過渡状態のセンタの温度を知ることができない。また、温度制御をするには温度を設定するたびに可変抵抗RT を設定し直す必要がある。通常の可変抵抗は手動で抵抗値を設定するため、温度を自在に制御することはできない。デジタル式の可変抵抗ならばマイクロコントローラによって抵抗値を設定できるが、通常のDA変換器等に比べて分解能が悪いという問題がある。
【0015】
本発明は、吸着燃焼式のガスセンサを用いたガス分析装置において、センサ抵抗及びリファ抵抗の温度を実時間で検出して温度を制御し、低濃度ガスの検出やガス種同定の能力向上を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1のガス分析装置は、接触燃焼式センサのセンサ抵抗、リファ抵抗、2つの固定抵抗によりブリッジ回路を構成し、該ブリッジ回路のブリッジ電圧を制御して、該ブリッジ回路のセンサ抵抗側のセンサ電圧とリファ抵抗側のリファ電圧の差分であるセンサ出力をサンプリングして、該サンプリングしたセンサ出力に応じて、ガスを分析するガス分析装置において、前記ブリッジ回路の前記ブリッジ電圧に対して前記リファ抵抗と直列に接続された固定抵抗または前記センサ抵抗と直列に接続された固定抵抗の一方を温度測定用抵抗とし、該温度測定用抵抗の端子間電圧を取得する電圧取得回路と、前記電圧取得回路で取得した前記温度測定用抵抗の端子間電圧に基づいて該温度測定用抵抗に直列に接続された前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を検出する温度検出手段と、を備え、前記温度検出手段により前記温度測定用抵抗に直列に接続された前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を実時間で検出して、該検出したリファ抵抗またはセンサ抵抗の温度に応じて前記ブリッジ電圧を制御することを特徴とする。
【0017】
請求項2のガス分析装置は、請求項1に記載のガス分析装置であって、前記ブリッジ回路に供給するブリッジ電圧を分圧する分圧回路を備え、前記温度検出手段は、該分圧回路で分圧した分圧電圧と前記温度測定用抵抗の端子間電圧との差と、この端子間電圧との比に基づいて前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を検出することを特徴とする。
【0018】
請求項3のガス分析装置は、請求項1に記載のガス分析装置であって、前記ブリッジ回路に供給するブリッジ電圧を分圧する分圧回路を備え、前記温度検出手段は、該分圧回路で分圧した分圧電圧と前記温度測定用抵抗の端子間電圧との差の積分値が、前記前記温度測定用抵抗の端子間電圧だけ変化するのに要する積分時間に基づいて前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1のガス分析装置によれば、リファ抵抗またはセンサ抵抗と、このリファ抵抗またはセンサ抵抗と直列に接続された前記温度測定用抵抗には同じ電流が流れる。抵抗の電位差は、その抵抗を流れる電流の大きさに比例するため、温度測定用抵抗の両端の電位差を測定することはリファ抵抗またはセンサ抵抗に流れる電流を求めることと同じである。リファ抵抗またはセンサ抵抗の端子間電圧も測定できる。リファ抵抗と直列に接続された固定抵抗を温度測定用抵抗とした場合、こうして得られたリファの電流とリファの電圧を割り算すれば、リファ抵抗の値を実時間で求めることができる。また、センサ抵抗と直列に接続された固定抵抗を温度測定用抵抗とした場合、こうして得られたセンサの電流とセンサの電圧を割り算すれば、センサ抵抗の値を実時間で求めることができる。白金抵抗を使っているので、これはリファ抵抗またはセンサ抵抗の温度を実時間で検出することである。一方、このガス分析装置にはブリッジ電圧を制御する回路も含まれる。したがって、測定した温度によりブリッジ電圧を実時間で制御することができ、リファ抵抗及びセンサ抵抗の実際の温度を精度良く制御することができる。したがって、低濃度の検出やガス種同定の能力を向上させることができ、特に、VOCを検出してシックハウス症候群の対策に有用である。
【0020】
請求項2のガス分析装置によれば、請求項1の効果に加えて、分圧回路で分圧した分圧電圧と前記温度測定用抵抗の端子間電圧との差として、リファ抵抗またはセンサ抵抗の規準状態からの差を求めているので、さらに精度を上げることができる。
【0021】
請求項3のガス分析装置によれば、請求項1の効果に加えて、分圧回路で分圧した分圧電圧と前記温度測定用抵抗の端子間電圧との差の積分値が、前記前記温度測定用抵抗の端子間電圧だけ変化するのに要する積分時間に基づいて前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を検出するので、上記分圧電圧と上記端子間電圧との割り算をするための例えばA/D変換器を不要にすることができ、構成が簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の実施形態のガス分析装置のセンサ回路図である。
【図2】実施例1のフローチャートである。
【図3】実施例2のフローチャートである。
【図4】実施例3のADコンバータを示す図である。
【図5】実施例3のフローチャートである。
【図6】実施例4の温度測定回路の具体的回路を示す図である。
【図7】実施例4のタイミングチャートである。
【図8】実施例4のフローチャートである。
【図9】実施形態における図1の回路に電圧制御に関する具体的回路を付加した回路図である。
【図10】実施形態における電圧制御によるセンサ抵抗とリファ抵抗に対する制御電圧の変化を経過時間とリファ抵抗の温度とで示す図である。
【図11】本発明に係る吸着燃焼式ガスセンサの構造を示す図である。
【図12】吸着燃焼式ガスセンサを測定に使うための原理的回路図である。
【図13】センサ抵抗とリファ抵抗をブリッジ電圧に対して並列に接続した回路図である。
【図14】センサ抵抗とリファ抵抗をブリッジ電圧に対して直列に接続した回路図である。
【図15】図13の回路にブリッジ電圧を制御する回路を付加した回路図である。
【図16】可燃ガスを導入してセンサ抵抗とリファ抵抗に電流を供給したときの時間経過と温度変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は実施形態のガス分析装置のセンサ回路図であり、センサ抵抗RS 、リファ抵抗RR は前記図11に示したものと同様な構造であり、センサ抵抗RS 、リファ抵抗RR は、固定抵抗R1 及び固定抵抗R2 と共にブリッジ回路を構成している。また、温度検出手段としての温度検出回路1とマイクロコントローラ2を備えている。センサ抵抗RS と固定抵抗R1 の接続点が計装アンプ10の非反転入力端子に接続され、リファ抵抗RR と固定抵抗R2 の接続点が計装アンプ10の反転入力端子に接続されている。そして、計装アンプ10の出力Vout がデジタルデータに変換され、そのデータを計測データとしてガス種の判定、ガス濃度の判定等に使用される。
【0024】
ブリッジ電圧VB は、第1の計装アンプap1の非反転入力端子に供給され、反転入力端子にリファ電圧VR が供給される。この第1の計装アンプap1の出力電圧V1 は、ブリッジ電圧VB に対してリファ抵抗RR と直列に接続された固定抵抗R2 の端子間電圧となる。この実施形態はこの固定抵抗R2 を「温度測定用抵抗」としている。また、第2の計装アンプap2の非反転入力端子にリファ電圧VR が供給され、反転入力端子に分圧抵抗R3 ,R4 の接続点が接続されている。分圧抵抗R3 ,R4 はブリッジ電圧VB を分圧する分圧回路3を構成しており、抵抗値R3 =抵抗値R4 に設定されている。計装アンプap1の出力電圧V1 と計装アンプap2の出力電圧V2 が温度測定回路1に入力される。計装アンプap1,ap2は電圧取得回路4を構成している。また、リファ電圧VR が温度測定回路1に入力される。以上の回路の電圧及び抵抗には以下の関係が成立する。
【0025】
【数1】

【0026】
温度測定回路1は、以下の各実施例1乃至実施例4に対応する回路であり、入力されるリファ電圧VR 、計装アンプap1の出力電圧V1 及び計装アンプap2の出力電圧V2 に基づいてリファ抵抗RR の温度に対応するデータをマイクロコントローラ2に出力する。そして、マイクロコントローラ2はリファ抵抗RR の温度に応じてブリッジ電圧VB の電圧制御を行う。
【0027】
以上の構成において、センサ抵抗RS の両端の電位差はセンサ電圧VS である。また、リファ抵抗RR の両端の電位差はリファ電圧VR である。一方、リファ抵抗RR に流れる電流は固定抵抗R2 にも流れる。したがって、固定抵抗R2 の両端の電位差はリファ抵抗RR に流れる電流に比例する。計装アンプap1の出力電圧V1 は固定抵抗R2 の両端の電位差に比例する。この条件の下で、温度測定回路1及びマイクロコントローラ2は図2に示す実施例1のフローチャートのように計算する。ステップS11で、リファ電圧VR をアナログ/デジタル変換してデジタルデータDR とし、ステップS12で、計装アンプap1の出力電圧V1 をアナログ/デジタル変換してデジタルデータD1 とする。ステップS13で、デジタルデータDR をデジタルデータD1 とで割り算し、その結果をデジタルデータDRRとし、ステップS14で
α×(DRR−β)
を計算して温度データTとする。αとβは、温度を得るための適切な定数である。
【0028】
以上の処理により、リファ抵抗RR =RR0+ΔRR の抵抗偏差ΔRR に比例した出力、すなわち温度Tを得ることができる。
【0029】
上記実施例1で説明したように、計装アンプap1の出力電圧V1 は固定抵抗R2 の両端の電位差に比例する。一方、計装アンプap2の出力電圧V2 はリファ抵抗RR の基準状態からのずれに比例する。この条件の下で、温度測定回路1及びマイクロコントローラ2は図3に示す実施例2のフローチャートのように計算する。ステップS21で、計装アンプap2の出力電圧V2 をアナログ/デジタル変換してデジタルデータD2 とし、ステップS22で、計装アンプap1の出力電圧V1 をアナログ/デジタル変換してデジタルデータD1 とする。そして、ステップS23で、
α×D2 ÷D1
を計算して温度データTとする。
【0030】
実施例1との違いは、回路の内部でリファ抵抗RR の規準状態からの差を求めていることである。これによって、精度を上げることができる。なぜなら、第1実施例の場合は、DR としてRR0+ΔRR に比例した値を求めていたところ、この第2実施例ではD2 として抵抗偏差ΔRR に比例した値を求めているからである。また、処理ステップを1つ省くことができる。
【0031】
上記実施例2で説明したように、計装アンプap1の出力電圧V1 と計装アンプap2の出力電圧V2 の割り算によって抵抗偏差ΔRR を求めることができる。そこで、実施例3として、温度測定回路1内に図4に示すADコンバータ11を用いる。そして、出力電圧V1 をADコンバータ11のVref 端子に入力し、出力電圧V2 をADコンバータ11のVin端子に入力する。なお、このADコンバータ11はVref の変化に対応できるように構成されたものである。このようにしてADコンバータ11でAD変換を行うということは、Vref とVinの比率を求めることであるため、この処理によって、マイクロコントローラ1は温度Tを得ることができる。この実施例3によれば、割り算という処理が不要である。すなわち、図5に示すフローチャートのステップS31のように、AD変換値を温度Tに換算するだけであり、マイクロコントローラ2への負担を最小限にすることができる。
【0032】
実施例4では、計装アンプap1の出力電圧V1 と計装アンプap2の出力電圧V2 の割り算を積分器と比較回路により行い、抵抗偏差ΔRR を求める。図6は実施例4の温度測定回路1の具体的回路を示す図、図7は同回路のタイミングチャートを示している。図示のように、計装アンプap2の出力電圧V2 を積分器12の積分する電圧としてこの積分器12に入力する。一方、計装アンプap1の出力電圧V1 を比較回路13で積分結果を比較する比較電圧Vref として入力設定する。比較電圧Vref にはバイアス電圧Vbiがかけられ、比較器ap3の非反転入力端子にはVref +Vbiが入力され、比較器ap4の非反転入力端子にはVbiが入力される。比較器ap3,ap4の反転入力端子には積分器12の出力VI が入力される。比較器ap3の出力はカウンタ14のカウント開始を指示するタイミング信号T1 として入力され、比較器ap4の出力はカウンタ14のカウント停止を指示するタイミング信号T2 として入力される。
【0033】
以上の構成により、積分器12はリセット信号(reset)により出力電圧V2 の積分を開始する。カウンタ14はタイミング信号T1 (開始信号)によりクロック信号(clock)のカウントを開始し、タイミング信号T2 (停止信号)によりカウントを停止する。図7に示すように、積分器12の出力VI はリセット信号の時点から変化し、その値がVref +Vbiに達すると比較器ap3からカウント開始信号(立ち上がり)が出力され、カウンタ14がカウントを開始する。そして、積分器12の出力VI がVbiに達すると比較器ap4からカウント停止信号(立ち上がり)が出力され、カウンタ14がカウントを停止する。
【0034】
カウンタ14の出力は、タイミング信号T1 とT2 の時間差ΔTとなる。この時間差ΔTが「積分時間」に相当する。積分の式から、
ref =γ×ΔT×V2
である。したがって、
ΔT=Vref ÷(γ×V2 )=γ×V1 ÷V2 =σ×ΔRR
である。すなわち、この時間差ΔTは抵抗偏差ΔRR に比例、すなわち温度Tに比例するため、ΔTをマイクロコントローラ2が読み取ることで温度Tを得ることができる。ただし、γ、σ は適切な定数である。
【0035】
図8は実施例4のフローチャートであり、ステップS41でカウンタ14と積分器12をリセットし、ステップS42でタイミング信号T1 によりカウントを開始し、ステップS43でタイミング信号T2 によりカウントを停止する。そして、ステップS44で、
α×ΔT
を計算して温度データTとする。
【0036】
この実施例4の特徴的な点は、積分器と比較回路によって割り算を実施することである。この実施例4と実施例2あるいは実施例3と比べると以下の特徴がある。実施例3に比べて積分器と比較回路とカウンタを必要とするが、その変わりにA/D変換器を不要にすることができる。また、時間を測ることだけでA/D変換が実施できる。時間測定の機能は、機能の少ないマイクロコントローラにも備えられている機能であり、実施が容易である。時間差ΔTの長さが温度に比例するため、マイクロコントローラ2が無くても処理ができる。もちろん、マイクロコントローラがあってもかまわないし、マイクロコントローラへの負担は最小限である。
【0037】
以上のように、実施例1では、直接に温度に比例する情報を得ることができた。もしも非線形性が混じると、その後の処理に工夫が必要であるが、線形の出力を得ることが出来れば、その後の処理も簡単になる。実施例2乃至実施例4では、信号を処理する途中の計装アンプap2の出力電圧V2 はブリッジ回路において抵抗偏差による電圧を得ているが、V2 には非線形性が含まれている。一方、計装アンプap1の出力電圧V1 にも非線形性が含まれている。両者の非線形性が共通であるため、割り算の結果として線形の出力を得ることが出来る。
【0038】
ブリッジ回路に供給する電圧の設定について図9に示す。この図は図1の回路に電圧制御に関する具体的回路を付加した回路図である。マイクロコントローラ2は温度Tに基づいてブリッジ電圧を設定する所定のデータをDA変換回路5に入力し、DA変換回路5の出力はオペアンプap5の反転入力端子に入力される。計装アンプap6の非反転入力端子には電圧Vaが入力され、反転入力端子には電圧Vbが入力される。この電圧Va,Vbは以下の各接続例に応じて選択設定される。計装アンプap6の出力はオペアンプap5の非反転入力端子に入力される。オペアンプap5の出力によりトランジスタTrを介してバイアス電圧VB を制御する。
【0039】
制御の方式として、以下の3つの方式を説明する。接続1は、オペアンプap5の作用によって、DA変換の結果とVB の電位差を0[V]にするように制御するものである。言い換えればマイクロコントローラからの出力によってVB を制御するものである。これは、従来同様の制御方法である。接続2は、オペアンプap5の作用によって、DA変換の結果とVB の電位差を0[V]にするように制御するものである。言い換えればマイクロコントローラからの出力によってリファに供給する電圧を制御するものである。この時、リファ抵抗による発熱のエネルギーは、P=V2 /RR であり、白金抵抗の特性が温度によって抵抗値が上昇することを考えると、温度上昇(下降)時には発熱が減少(増加)するため、温度を一定にさせる特性を持った制御方法である。接続3は、オペアンプap5の作用によって、リファと直列につながる固定抵抗の両端の電位と、DA変換の結果の電位差を0[V]にするように制御するものである。言い換えればマイクロコントローラからの出力によってリファに供給する電流を制御するものである。この時、リファ抵抗による発熱のエネルギーは、P=RR 2 であり、白金抵抗の特性が温度によって抵抗値が上昇することを考えると、温度上昇(下降)時には発熱が増加(減少)するため、燃焼といった付加的な発熱を検出しやすい特性をもった制御方法である。
【0040】
ガス種の測定、ガス濃度の測定は計装アンプ10の出力によるが、制御方式として「接続3」を選ぶことによって、測定を簡単にすることができる。すなわち、この接続ならばリファ抵抗に流れる電流の値は制御されていて、マイクロコントローラ2にはその値は判っているため、A/D変換するべきは電圧のみであり、電圧さえ測定できればあとはマイクロコントローラ2内部でソフトウエアによって割り算をすればよいからである。また、「接続2」の場合も同様に、リファ抵抗に加わる電圧の値は制御されるため、マイクロコントローラ2にはその値は判っているため、測定時には電流のみを求めて同様の処理をすればよい。
【0041】
図10はマイクロコントローラ2による抵抗RR の温度制御を示す図である。この図は1サイクルを示しており、1サイクルは予備燃焼工程と、ガス吸着工程と、サンプリング工程からなる。予備燃焼工程では、リファ抵抗RR の温度を所定温度まで昇温させ、センサ抵抗RS の余分なガス成分、水分等を焼き飛ばす。ガス吸着工程では、リファ抵抗RR の温度を所定温度で所定時間だけ保ち、計測ガスを吸着させる。そして、サンプリング工程で、リファ抵抗RR (センサ抵抗RS )の温度を昇温させ、吸着燃焼によるガス種の計測を行う。
【0042】
以上のように、本発明のシステムにおいては、ガスの計測を行う時に、現在のリファ抵抗の温度を実時間で測定して、リファ抵抗とセンサ抵抗の温度を制御するので、燃焼が開始したことを検知した時にそれが何度なのかを正しく検知できるため、ガス種同定の確度を高めることができる。なお、燃焼が開始したことは計装アンプの出力により検出できる。従来のシステムでは、温度については、例えば「電圧を供給して何ms通電する」という管理であった。そのため、もしも同じ時間だけ経過していたとしても、室温が変われば温度が変わっていたが、本発明では温度を正確に制御することができる。
【0043】
ガスを測定するには、センサ抵抗を決められた温度に設定しなくてはならないが、本発明のシステムによれば、温度測定用の回路と制御回路を持っているため、低温の時には大電力を供給し、高温の時には電力をカットするといった、きめ細かな制御が可能となる。これにより、ガス種や濃度の測定時の温度上昇に必要な時間を短縮できる。特に、サンプリング工程での「測定するときの温度」と、吸着工程での「表面吸着を促す温度」の2つの温度を行き来させる際に、温度が判っているという利点が働いて、最適な時間で測定ができる。もしも温度が判っていなければ、「温度を下げるのに充分な時間」を採るといった制御方法を採用せざるを得ないが本発明によれば、このようなことはない。
【0044】
ガス濃度が濃くて計装アンプから大きな信号が得られた時は、測定の回数を減らし、ガス濃度が低くて信号が小さい時には、回数を増やしてノイズの影響を減らすといった測定が行える。これは、低濃度の時のガス測定の感度を高めることに繋がる。
【0045】
以上の実施形態では、リファ抵抗の温度を検出するようにしているが、このリファ抵抗の出力は可燃ガスの有無に影響されないので、正確に温度管理を行うことができる。しかし、検出する温度はリファ抵抗だけに限るものではなく、センサ抵抗の温度を検出するようにしても構わない。センサ抵抗の温度が検出される場合も、同様な効果が得られる。
【0046】
センサ抵抗の温度が検出されるならば、触媒上で燃焼があった場合でもセンサ抵抗の温度は制御されて、高すぎる温度にはならない。この特性は、燃焼開始温度がガス種に固有なことを利用したガス種判別に特に有効である。触媒に燃焼開始温度の異なる2種類のガスが吸着していた場合、もしもセンサ抵抗の温度が管理されないなら燃焼温度が低いほうのガスの燃焼に伴って触媒の温度が上昇して燃焼温度が高いもう一方のガスも同時に燃えてしまうことがあるが、センサ抵抗の温度が制御されるなら燃焼温度が低いほうのガスが燃焼してももう一方のガスが燃焼しないからである。
【0047】
また、図1の回路を元に、リファ抵抗RR と固定抵抗R2 を外し、センサ抵抗を含んだRS とR1 の直列回路と2つの固定抵抗R3 とR4 の直列回路の回路によるブリッジ回路を残し、ブリッジ電圧VB の制御とセンサ抵抗の抵抗値測定ができる回路を作れば、ブリッジ電圧VB とセンサ抵抗の温度の関係を測定することができる。前もって様々なガス雰囲気中におけるブリッジ電圧VB とセンサ抵抗の温度の関係をデータベースにまとめてあれば、リファ抵抗無しの構成でガス検知をすることができる。リファ抵抗が不要であれば、省エネルギーな測定が可能になる。
【0048】
また、センサ抵抗及びリファ抵抗の寿命、すなわちセンサの寿命は温度によるものであるが、本発明のように、温度を常に管理することができれば、高すぎる温度を避けることができ、センサの寿命を長くすることができる。また、温度の上下の際に過度の電圧を加えないように制御して温度上昇(下降)に係る時間も管理することで、センサへの熱ストレスを低減し、センサの寿命を長くできる。
【符号の説明】
【0049】
1 温度測定回路(温度検出手段)
2 マイクロコントローラ(温度検出手段)
3 分圧回路
4 電圧取得回路
11 ADコンバータ
12 積分器
13 比較回路
S センサ抵抗
R リファ抵抗
1 ,R2 固定抵抗
3 ,R4 分圧抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触燃焼式センサのセンサ抵抗、リファ抵抗、2つの固定抵抗によりブリッジ回路を構成し、該ブリッジ回路のブリッジ電圧を制御して、該ブリッジ回路のセンサ抵抗側のセンサ電圧とリファ抵抗側のリファ電圧の差分であるセンサ出力をサンプリングして、該サンプリングしたセンサ出力に応じて、ガスを分析するガス分析装置において、
前記ブリッジ回路の前記ブリッジ電圧に対して前記リファ抵抗と直列に接続された固定抵抗または前記センサ抵抗と直列に接続された固定抵抗の一方を温度測定用抵抗とし、該温度測定用抵抗の端子間電圧を取得する電圧取得回路と、前記電圧取得回路で取得した前記温度測定用抵抗の端子間電圧に基づいて該温度測定用抵抗に直列に接続された前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を検出する温度検出手段と、を備え、
前記温度検出手段により前記温度測定用抵抗に直列に接続された前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を実時間で検出して、該検出したリファ抵抗またはセンサ抵抗の温度に応じて前記ブリッジ電圧を制御することを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記ブリッジ回路に供給するブリッジ電圧を分圧する分圧回路を備え、前記温度検出手段は、該分圧回路で分圧した分圧電圧と前記温度測定用抵抗の端子間電圧との差と、この端子間電圧との比に基づいて前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を検出することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記ブリッジ回路に供給するブリッジ電圧を分圧する分圧回路を備え、前記温度検出手段は、該分圧回路で分圧した分圧電圧と前記温度測定用抵抗の端子間電圧との差(V2 )の積分値(VI)が、前記前記温度測定用抵抗の端子間電圧(V1 )だけ変化するのに要する積分時間(ΔT)に基づいて前記リファ抵抗または前記センサ抵抗の温度を検出することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−257347(P2011−257347A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133926(P2010−133926)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年1月16日 沼津工業高等専門学校主催の「沼津工業高等専門学校専攻科 2009年度研究発表会」において文書をもって発表
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】