説明

ガス分析装置

【課題】測定領域の上流側に位置する装置において所定の時刻に発生し、測定領域を流通する目的ガスの濃度等の時間変化を測定する際に、測定領域やその近傍の吸着ガスによる影響を排除し、目的ガスの濃度等の時間変化をリアルタイムで決定する。
【解決手段】予め測定領域13の下流側で吸引しつつ測定領域13の上流側で所定時刻に発生する目的ガスの濃度等を、測定領域13に所定波長の光を入射し、測定領域13を通過した光を検出することにより測定する装置において、目的ガスの発生前に参照範囲設定部23が使用者に設定させた参照範囲内の時系列データに基づいて、ベースライン演算部24がベースラインを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定領域を流れる目的ガスの濃度もしくは分圧の時間変化を測定するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分析装置は、所定領域を流れる目的ガスによる光吸収を利用して、その濃度もしくは分圧(以降、濃度等とする)の時間変化を測定するものであり、半導体製造装置の配管や煙道、自動車の排ガス管など、幅広い場所に取り付けて用いられる。例えば、半導体製造過程で水分が混入すると、製造した半導体の動作信頼性が低下することから、プラズマ処理などの製造工程で生じる水分ガスの濃度等の時間変化を測定するために、半導体製造装置の配管に取り付けて用いられている。
【0003】
一般的なガス分析装置の測定部1の概略構成を図1により説明する。
まず、光源部11からの所定波長の光を、窓材12を通じて目的ガスが流通する測定領域13に導入する。測定領域13を目的ガスが流れると、それにより光が吸収され、その光吸収量は目的ガスの濃度等に依存する。従って、目的ガスにより吸収された後の光を検出部14で検出することにより、当該測定領域13における目的ガスの濃度等を求めることができる。なお、ミラー15は光源からの光を多重反射させることにより光路長を長くし、目的ガスによる光吸収量を増加させるためのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-101064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス分析装置を用いて測定領域を流れる目的ガスによる光吸収量を測定すると、目的ガスが流通していない時にも光吸収が検出されることがある。これは、測定領域やその近傍に吸着しているガスが徐々に脱離して光を吸収するためである。従って、測定領域を流通する目的ガスの濃度等を正確に測定するためには、この吸着ガスの脱離による影響を排除する必要がある。
【0006】
吸着ガスには、例えば大気に開放されていた配管系を閉じて最初に使用する際に発生する水蒸気や、一旦測定を終了した後、再度測定を開始する際に発生する、前の測定の際に配管内に吸着したガス(同種又は異種の目的ガス)といったようなものが挙げられる。
【0007】
従来、これら吸着ガスの影響は、測定前に長時間の真空引きを行い、吸着ガスを予めほとんど脱離させておくことにより排除していた。しかし、この方法では測定開始までに長時間(10時間以上に及ぶ場合がある)待たねばならないという問題があった。
これに対し、吸着ガスが完全に脱離する前に目的ガスを流して測定を行い、測定終了後に吸着ガスの脱離による光吸収の部分(ベースライン)を差し引く補正を行うという方法もある(例えば、特許文献1)。しかし、このような方法では、目的ガスが流れた後でないとベースラインが分からないため、目的ガスの濃度等をリアルタイムで決定することができない。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、測定領域やその近傍に吸着しているガスが脱離して光吸収することによる影響を排除し、目的ガスの濃度等の時間変化をリアルタイムで決定することができるガス分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るガス分析装置は、予め測定領域の下流側で吸引しつつ測定領域の上流側で所定時刻に発生する目的ガスの濃度を、前記測定領域に所定波長の光を入射し、前記測定領域を通過した光を検出することにより測定する装置であって、
前記測定領域を通過した光の強度又はそれに対応する量のデータを測定データとして順次記憶する記憶部と、
前記測定データを時系列で表示する表示部と、
測定開始から前記所定の時刻までの間の前記測定データに基づきベースラインを作成して、前記目的ガスの発生前に前記所定の時刻以降のベースラインを推定するベースライン演算部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
上記の光の強度に対応する量とは、光の吸収量、又は所定の演算により光強度から求められる濃度等の量をさす。
【0011】
本発明に係るガス分析装置では、目的ガスが発生する前に、ベースライン演算部がベースラインを作成する。従って、その後、目的ガスが測定領域を流通する間、リアルタイムでベースライン補正を行い、目的ガスの濃度等を決定することができる。
【0012】
前記ガス分析装置には、さらに、前記表示部に時系列表示された、測定開始から前記所定の時刻までの間の前記測定データの一部又は全部を、前記ベースライン作成のための参照範囲として使用者に設定させる参照範囲設定部を設け、ベースライン演算部が前記参照範囲内の前記測定データに基づきベースラインを作成するようにすることが望ましい。これにより、使用者が測定データの時間変化を確認して適切な参照範囲を設定し、ベースライン演算部がより正確なベースラインを作成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る装置を用いれば、目的ガスの発生前にベースラインを推定し、目的ガスが測定領域を流通する間、リアルタイムでベースライン補正を行い、目的ガスの濃度等を決定することができる。
また、本発明に係る装置を用いれば、吸着ガスの影響を低減すべく、測定開始前に吸着ガスを脱離させるための長時間の真空引きを行うことなく測定を開始することができる。繰り返し測定を行う場合も同様に、前の測定の際に配管内に吸着したガスを脱離させる長時間の真空引きを行う必要がなく、効率的に測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ガス分析装置の測定部の概略構成図。
【図2】本発明に係るガス分析装置の一実施例を説明する概略構成図。
【図3】合計分圧の時間変化の一例を示すグラフ。
【図4】参照範囲を設定する方法の一例を説明する図。
【図5】ベースラインを用いて、合計分圧を吸着ガスの分圧と目的ガスの分圧とに分離する一例を説明する図。
【図6】目的ガスの濃度の時間変化を表示する一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るガス分析装置の実施例を、図2により説明する。なお、図1と同じ部分については、同一の符号を付して、説明を省略する。
【0016】
本実施例に係るガス分析装置は、測定部1と分析部2からなる。測定部1の上流側には図示しない半導体製造装置が接続されており、下流側には図示しない真空ポンプが設けられている。本ガス分析装置は両者を接続する配管に設けられ、半導体製造装置で所定の処理を行う際に発生する所定のガスが配管中の測定領域13を流通する際にその濃度を測定する。そのため、本ガス分析装置の動作を制御する後述の分析部2はその半導体製造装置の制御部と接続され、連動して動作する。
【0017】
測定部1は、図1で示した構成に加え、測定領域13のガスの温度を検出する温度センサ16、測定領域13の圧力を検出する圧力センサ17を備えている。ただし、これらは必須ではなく、他の手段により測定領域内のガスの温度や測定領域13内の圧力を決定することができる場合には、これらを取り付けなくても良い。分析部2には、使用者が測定条件の設定などを行うための入力部30、測定データの表示等を行う表示部40が接続されている。
【0018】
分析部2は、光源部11、検出部14、温度センサ16、圧力センサ17の動作を制御するとともに、これらから出力された信号を処理して測定データ(光強度又はそれに対応する量のデータ)を作成する制御・処理部21と、制御・処理部21から測定データを受信して時系列で保存する記憶部22と、制御・処理部21により記憶部22から読み出され、表示部40に時系列表示された測定データの一部又は全部を使用者に参照範囲として設定させる参照範囲設定部23と、参照範囲内の測定データに基づきベースラインを作成するベースライン演算部24と、からなる。分析部2は、例えば、専用のプログラムを搭載したコンピュータにより一体的に構成することができる。
【0019】
本実施例におけるガス分析装置の動作を説明する。
まず、制御・処理部21は、半導体製造装置より、処理スケジュールに関するデータを受け取る。このデータには、該半導体製造装置による処理開始時刻、真空ポンプの作動開始時刻、及び、所定の測定目的ガスが発生する時刻が含まれる。制御・処理部21は、それらの時刻を表示部40に表示する。
【0020】
続いて、制御・処理部21は表示部40に測定条件入力画面を表示し、使用者に入力部30から測定条件を設定させる。測定条件は、例えば、光源部11から測定領域13に入射する光の波長、強度、測定時間、検出部14の検出感度である。使用者による測定条件の入力が完了すると、制御・処理部21は光源部11、検出部14、温度センサ16、圧力センサ17を動作させて、測定を開始する。
【0021】
上記の通り、本実施例では全体の処理スケジュールが半導体製造装置の制御部により制御されており、本ガス分析装置において測定を開始する前に、配管の下流に設けられた真空ポンプにより真空引きが開始される。従って、上流において目的ガスが発生し、測定領域13を流通するまでの間も、吸着ガスは徐々に脱離して入射光を吸収し、真空ポンプにより吸引される。
【0022】
測定を開始すると、検出部14、温度センサ16、圧力センサ17から出力された信号が、順次制御・処理部21に入力される。制御・処理部21は入力信号のA/D変換等の処理を行って、透過光強度I(ν)、測定領域13内のガスの温度T及び圧力Ptotalを得る。
【0023】
ここで、Lambert-Beerの法則に基づいて、測定領域13内に入射した光を吸収するガス(吸着ガス及び目的ガス)の分圧Ppartialを算出する方法について説明する。
Lambert-Beerの法則によれば、以下の式が成り立つ。
Ln(I0(ν)/I(ν))=c×L×S(T)×K(Ptotal, T, ν)
I0(ν)は入射光の周波数νにおいて吸着ガス及び目的ガスが存在しない場合に測定領域13を透過する光強度、I(ν)は入射光の周波数νにおける、測定領域13内の吸着ガス及び目的ガスによる光吸収後の透過光強度、cは吸着ガス分子及び目的ガス分子の数密度の合計、Lは測定領域13内での入射光の光路長、S(T)は所定の吸収線強度で温度Tの関数、K(ν)は入射光の周波数ν、測定領域13内のガスの温度T及び圧力Ptotalに依存する吸収特性関数である。
【0024】
数密度cと分圧Ppartialの関係は次式で表される。
Ppartial=c×k×T
ここで、kはボルツマン定数である。
これらのうち、I0(ν)は測定開始前に予備実験等を行って求めておく。
【0025】
以上の式により、制御・処理部21はガスの分圧を算出し、順次、記憶部22に送信する。記憶部22は、制御・処理部21から受信した分圧を順次保存する。この分圧は、目的ガスの分圧と吸着ガスの分圧の合計であるため、以降、合計分圧とする。
【0026】
制御・処理部21は、記憶部22に保存された合計分圧を読み出し、その時間変化を表示部40に表示する。図3に、合計分圧の時間変化の一例を示す。
合計分圧は、目的ガスが測定領域を流通していない間は徐々に減少する変化を示す。これは、吸着ガスが徐々に配管から脱離して下流側の真空ポンプにより吸引されるためである。所定の時刻に半導体製造装置において目的ガスが発生し、測定領域を流通すると、吸着ガスの分圧に目的ガスの分圧が合計される。
【0027】
半導体製造装置において目的ガスが発生する所定の時刻よりも前に、制御・処理部21は、参照範囲設定部23に、ベースライン補正に使用する参照範囲を設定する操作を使用者に促す画面を表示部40に表示させる。これを受けて使用者は、入力部30を操作し、表示部40に表示されている合計分圧の時間変化の一部又は全部を選択して参照範囲を設定する。
【0028】
使用者が参照範囲を設定すると、ベースライン演算部24はベースラインを作成して記憶部22に保存する。ベースラインは、例えば、多項式近似や指数関数近似を行うことにより作成する。
図4は、使用者がA-B間を参照範囲として設定した場合の例である。図中の実線部は既に測定された部分、破線部はベースライン演算部24が目的ガスの発生前にベースラインを推定した部分である。
【0029】
ベースライン演算部24は、ベースラインを作成すると、記憶部22から測定済みの合計分圧とベースラインを読み出し、ベースラインを差し引いた補正後の分圧を記憶部22に保存する。そして、目的ガスの分圧と吸着ガスの分圧を分離して表示部40に表示する。図5にその一例を示す。目的ガスが測定領域を流通してピークが発生(時間C-D)すると、リアルタイムで目的ガスの分圧の変化を確認することができる。
このとき、ベースライン演算部24が所定の演算を行って目的ガスの分圧から濃度を算出し、目的ガスの濃度の時間変化を表示部40に表示するように構成してもよい。図6にその一例を示す。
【0030】
上記の実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜変更や修正を行うことが可能である。例えば、ベースライン演算部24が一定時間内に測定領域を流通した目的ガスの量を算出するように構成しても良い。
そのほか、リアルタイムで測定した目的ガスの濃度等を上流側の装置近傍に設けた別の表示部に表示してもよい。これにより、上流側の装置内でのトラブルにより想定外の量の目的ガスが発生した場合、即座にその異常を把握することができる。
【0031】
本発明に係るガス分析装置を用いれば、測定領域13及びその近傍において離脱した吸着ガスの光吸収の影響だけでなく、光源部11や検出部14を収納する収納部内において徐々に脱離し、測定領域13への入射光や測定領域13からの透過光を吸収する吸着ガスの影響も排除することもできる。具体的には、参照範囲からベースラインを作成する際に、測定領域内の吸着ガスの分圧に相当するベースラインと、収納部内の吸着ガスの分圧に相当するベースラインとを重ね合わせて吸着ガスの影響を排除する。
これは、より高精度な測定を行うために、収納部の内部を窒素ガスに置換してから測定を開始する場合などに有効である。これにより、従来のように、収納部内の吸着ガスを完全に脱離させなくても、ベースライン補正を行って収納部内の吸着ガスの影響を排除することができるため、効率よく測定を開始することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…測定部
2…分析部
11…光源部
12…窓材
13…測定領域
14…検出部
15…ミラー
16…温度センサ
17…圧力センサ
21…制御・処理部
22…記憶部
23…参照範囲設定部
24…ベースライン演算部
30…入力部
40…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め測定領域の下流側で吸引しつつ測定領域の上流側で所定時刻に発生する目的ガスの濃度を、前記測定領域に所定波長の光を入射し、前記測定領域を通過した光を検出することにより測定する装置であって、
a) 前記測定領域を通過した光の強度又はそれに対応する量のデータを測定データとして順次記憶する記憶部と、
b) 前記測定データを時系列で表示する表示部と、
c) 測定開始から前記所定の時刻までの間の前記測定データに基づきベースラインを作成して、前記目的ガスの発生前に前記所定の時刻以降のベースラインを推定するベースライン演算部と
を備えることを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記表示部に時系列表示された、測定開始から前記所定の時間までの間の前記測定データの一部又は全部を、前記ベースライン作成の参照範囲として使用者に設定させる参照範囲設定部を備え、ベースライン演算部が前記参照範囲内の前記測定データに基づきベースラインを作成することを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−15434(P2013−15434A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148895(P2011−148895)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】