説明

ガス抵抗性のフタロシアニン染料

本発明は、式(1)(式中、Pcは、式(2)のフタロシアニンであり、Meは、金属であり、[MePC]は、式(3)の金属フタロシアニン錯体であり、Mは無機または有機陽イオンであり、Rは水素、非置換もしくは置換アルキル、非置換もしくは置換アラルキルまたは非置換もしくは置換アリールであり、かつRは水素、非置換もしくは置換アルキル、非置換もしくは置換アラルキルまたは非置換もしくは置換アリールであり、そしてn及びmは、他から独立して、それぞれ0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8であり、(n+m)の合計が5、6、7もしくは8の数である)の染料およびそれらの混合物、それらの製造方法、ならびに天然、半合成もしくは合成材料の染色もしくはプリントにおけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な金属フタロシアニン錯体染料およびその製造、ならびにそれらの金属フタロシアニン錯体染料を使用する天然、半合成もしくは合成材料を染色もしくはプリントするための方法に関する。
【0002】
染色およびプリントする方法におけるフタロシアニンベースの染料の使用は、長い間知られている。
しかしながら、それらの方法において使用される公知のフタロシアニン染料は、最大の必要条件、特に光に対する堅牢性については、常に完全に満足されるとは限らないことがわかっている。その上、光に対する堅牢性、ガスに対する抵抗性、例えば特にオゾンだけでなく、窒素酸化物(いわゆる「ガス退色」)は、特にインクジェットプリントの場合、とりわけ例えば速乾性の写真用紙のような微孔性材料にプリントする場合は、とりわけこれまでに満足に解決されていない問題である。
【0003】
したがって、光堅牢性およびガス抵抗性の染色をもたらし、そしてあらゆる点で良好な堅牢特性を示す新しいフタロシアニンベースの染料の必要性がある。
【0004】
驚くべきことに、今や本発明による金属フタロシアニン錯体染料が、上述の基準をおおいに満足することが見出された。
【0005】
本発明は、したがって式(1):
【0006】
【化5】

【0007】
(式中、
Pcは、式:
【0008】
【化6】

【0009】
のフタロシアニンであり、
【0010】
Meは、金属であり、
[MePc]は、式:
【0011】
【化7】

【0012】
の金属フタロシアニン錯体であり、
は、無機または有機陽イオンであり、
は、水素、非置換もしくは置換アルキル、非置換もしくは置換アラルキルまたは非置換もしくは置換アリールであり、かつ
は、水素、非置換もしくは置換アルキル、非置換もしくは置換アラルキルまたは非置換もしくは置換アリールであり、そして
nおよびmは、他から独立して、それぞれ0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8であり、
(n+m)の合計が5、6、7もしくは8の数である)
【0013】
の染料、ならびにそれらの染料の混合物に関する。
【0014】
金属Meは、例えばNi、Fe、Co、V=O、Al、Mnまたは、特にCuである。
【0015】
無機陽イオンMは、例えばH、一価または二価の金属陽イオン、特に、Na、K、Li、Ca2+もしくはMg2+のようなアルカリ金属、アルカリ土類金属陽イオン、またはNHもしくはホスホニウムである。
【0016】
有機陽イオンMは、例えば18−クラウン−6/Na(式:
【0017】
【化8】

【0018】
の化合物)、またはN(R、R、R、R)、式中、R〜Rは、それぞれ他から独立して水素、C−C16アルキル、C−C18アラルキル、C−C18アリールもしくはC−Cアルコール、またはプライメン(Primene)81R(登録商標)〔高度に分岐したC12−C14アルキル側鎖を有するか、もしくはC−C14水酸化テトラアルキルアンモニウムから、特に水酸化テトラブチルアンモニウムからの第一級アミン混合物であるローム&ハース社(Rohm&Haas)の市販用製品〕である。
【0019】
有機陽イオンMは、好ましくは式:
【0020】
【化9】

【0021】
のアミンのアンモニウム陽イオン:
【0022】
【化10】

【0023】
であり、式中、R、R、RおよびR10は、それぞれ他から独立して、水素か、あるいは中断されていない、または酸素原子によって中断されたC以上であってもよい、非置換もしくは水酸基かアミノ基で置換された、直線状もしくは分岐状のC−C14アルキルである。
【0024】
適切な有機陽イオンMはまた、以下のアミンから誘導されるものを含む:
【0025】
【化11】

【0026】
モルホリン、アニリン−4−スルホン酸、アニリン−3−スルホン酸、アニリン−2−スルホン酸、NH(CHS(CHOH、NH(C)SOCHCHOSOH、ピペラジン、
【0027】
【化12】

【0028】
(SOにおいて、陽イオンMはまた、n=2以上ではお互いに異なってもよい。
【0029】
としてのアルキルは、直鎖もしくは分岐鎖であってもよく、かつC以上では酸素ラジカル、窒素ラジカルおよび/または硫黄ラジカルにより中断されてもよい。
は、好ましくは、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルまたはドデシルのようなC−C12アルキルである。
【0030】
酸素ラジカルO、窒素ラジカルNもしくは硫黄ラジカルSによって中断されたC−C12アルキルは、例えば−CH−CH−O−CH−CH、−CH−CH−NH−CH−CHもしくは−CH−CH−S−CH−CHのようなCアルキルである。
としてのC−C12アルキルは、非置換または−OH、−NR1112、−OSOHもしくは−SOHにより置換されてもよく、式中、R11およびR12は、それぞれ他から独立して、水素もしくはC−Cアルキルである。
【0031】
アラルキルおよびアリールとしてのRは、例えばC−C25アラルキル、好ましくはC−C12アラルキルまたはC−C24アリール、好ましくはC−C12アリールである。
−C25アラルキルは、例えばベンジル、2−ベンジル−2−プロピル、β−フェニル−エチル、α,α−ジメチルベンジル、ω−フェニル−ブチル、ω,ω−ジメチル−ω−フェニル−ブチル、ω−フェニル−ドデシル、ω−フェニル−オクタデシル、ω−フェニル−イコシルまたはω−フェニル−ドコシルである。
−C12アラルキルは、例えばベンジル、2−ベンジル−2−プロピル、β−フェニル−エチル、9−フルオレニル、α,α−ジメチルベンジル、ω−フェニル−ブチル、ω-フェニル−ドデシルまたはω,ω−ジメチル−ω−フェニル−ブチルである。
−C24アリールは、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、4−ビフェニリル、フェナントリル、2−もしくは9−フルオレニル、アントラキノニルまたはアントリルである。
−C12アリールは、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、4−ビフェニリルまたは2−フルオレニルである。
【0032】
としてのアルキルは、直鎖もしくは分岐鎖であってもよく、かつ酸素ラジカル、窒素ラジカルおよび/または硫黄ラジカルにより中断されてもよい。
は、好ましくは、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルまたはドデシルのようなC−C12アルキルである。
【0033】
酸素ラジカルO、窒素ラジカルNもしくは硫黄ラジカルSによって中断されたC−C12アルキルは、例えば−CH−CH−O−CH−CH、−CH−CH−NH−CH−CHもしくは−CH−CH−S−CH−CHのようなCアルキルである。
としてのC−C12アルキルは、非置換または−OH、−NR1112、−OSOHもしくは−SOHにより置換されてもよく、式中、R11およびR12は、それぞれ他から独立して、水素もしくはC−Cアルキルである。
【0034】
アラルキルおよびアリールとしてのRは、例えばC−C25アラルキル、好ましくはC−C12アラルキルまたはC−C24アリール、好ましくはC−C12アリールである。
−C25アラルキルは、例えばベンジル、2−ベンジル−2−プロピル、β−フェニル−エチル、α,α−ジメチルベンジル、ω−フェニル−ブチル、ω,ω−ジメチル−ω−フェニル−ブチル、ω−フェニル−ドデシル、ω−フェニル−オクタデシル、ω−フェニル−イコシルまたはω−フェニル−ドコシルである。
−C12アラルキルは、例えばベンジル、2−ベンジル−2−プロピル、β−フェニル−エチル、9−フルオレニル、α,α−ジメチルベンジル、ω−フェニル−ブチル、ω−フェニル−ドデシルまたはω,ω−ジメチル−ω−フェニル−ブチルである。
−C24アリールは、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、4−ビフェニリル、フェナントリル、2−もしくは9−フルオレニル、アントラキノニルまたはアントリルである。
−C12アリールは、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、4−ビフェニリルまたは2−フルオレニルである。
【0035】
ラジカルNRは、例えば以下のアミンから誘導される:
【0036】
【化13】

【0037】
(n+m)の合計は、好ましくは6もしくは7、特に7である。
【0038】
(SOは、n個の同一または異なるラジカルSOを意味する。
(SONRは、m個の同一または異なるラジカルSONRを意味する。
【0039】
本発明はまた、本発明による式(1)の染料を製造する方法に関する。
式(1)の染料は、公知の方法に類似の方法、例えば、式:
【0040】
【化14】

【0041】
(式中、Meは金属である)の化合物を、強力なスルホン化試薬(例えばクロロスルホン酸または発煙硫酸/硫酸一水和物)を使用してスルホン化し、次に場合により得られたスルホン酸を、無機または有機陽イオンMを含有する化合物を使用して中和することによって得てもよい。次にスルホン酸またはその塩は、場合により適切な試薬(例えば塩化チオニルまたはオキシ塩化リン)を用いて、対応するスルホクロリドに変換し、次に例えば本明細書に記述されたアンモニアまたはアミンと反応させる。
【0042】
式(1)の染料(式中、m=0でn=7、m=1でn=6、m=2でn=5、m=3でn=4、m=4でn=3、m=5でn=2、m=6でn=1、およびm=7でn=0、ならびにその混合物)が重要である。
【0043】
式(1)の染料の例は、式:
【0044】
【化15】















【0045】
の金属フタロシアニン錯体染料である。
【0046】
[上記、式(100)〜(115)において、線はアルキル鎖を意味する。したがって、例えば、表現:
【0047】
【化16】

【0048】
は、ラジカルNHCHCHCHN(CHCHに対応する。]
【0049】
本発明記載の式(1)の染料は、紙、木材、または半合成もしくは、特に、合成の、例えば繊維材料のような疎水性繊維材料を染色もしくはプリントするために使用してもよい。そのような半合成または合成の疎水性繊維材料を含む混紡織物からなる繊維材料を、本発明記載の染料を使用して染色もしくはプリントしてもよい。
【0050】
プリントのために、通例の増粘剤は、例えば変性され、または変性されていない天然製品(例えばアルギン酸塩、ブリティッシュガム、アラビアゴム、クリスタルガム、ローカストビーン粉、トラガカント、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、でんぷん)あるいは合成製品(例えばポリアクリルアミド、ポリアクリル酸もしくはそれらの共重合体、またはポリビニルアルコール類)を使用するであろう。
【0051】
本発明による染料は、使用中の非常に良好な堅牢特性、特にオゾンと窒素酸化物に対して高度な抵抗性、およびまた光に対して良好な堅牢性を有する前記材料レベルの色合いを付与する。加えて、より高度にスルホンアミド化された、特にヘプタスルホンアミド化された金属フタロシアニン錯体染料は、興味深く、かつ求められている、緑色を帯びたシアンの色合いを有する。
【0052】
本発明による式(1)の染料は、他の染料との、特にnおよびmがそれぞれ他から独立して、0〜4の数であり、かつ(m+n)の合計が1〜4である式(1)の1種以上の染料との混合において使用されてもよい。そのような混合物は、本発明による式(1)の染料を、好ましくは5〜99重量%、特に10〜99重量%、そしてさらに好ましくは20〜99重量%含有する。
【0053】
特に好ましい実施態様において、本発明は、式(1)の少なくとも1種の染料を含むインクに関する。
【0054】
本発明によるインクは、色合いを改良することを目的として、上述の染料に加えて、さらなる染料を含んでもよい。
【0055】
インクは、インクの総量に基づいて、式(1)の少なくとも1種の染料を、好ましくは1〜35重量%、特に1〜30重量%、そしてさらに好ましくは1〜20重量%含有する。
【0056】
好ましいものは、1〜40mPa・s(ミリパスカル秒)の粘度を有する上記のインクで与えられる。
インクは、通常、例えばC−Cアルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールおよびイソブタノール);アミド(例えばジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミド);ケトンまたはケトンアルコール(例えばアセトンおよびジアセトンアルコール);エーテル(例えばテトラヒドロフランおよびジオキサン);窒素含有の複素環化合物(例えばN−メチル−2−ピロリドンおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン);ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール);C−C−アルキレングリコールおよびチオグリコール(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコールおよびジエチレングリコール);さらなるポリオール(例えばグリセリンおよび1,2,6−ヘキサントリオール);ならびに、多価アルコールのC−Cアルキルエーテル{例えば2−メトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エタノールおよび2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エタノール;好ましくはN−メチル−2−ピロリドン、ジエチレングリコール、グリセリン、あるいは特に1,2−プロピレングリコール}を、好ましくはインクの総量に基づいて、1〜40重量%の量で;好ましくは2〜30重量%、特に5〜30重量%そしてさらに特に10〜25重量%の量で、水混和性有機溶媒を含む。
【0057】
インクはまた、可溶化剤、例えばε−カプロカクタムを含んでもよい。
【0058】
インクは、粘度を調整する目的で、とりわけ天然または合成起源の増粘剤を含んでもよい。
【0059】
挙げることができる増粘剤の例は、市販のアルギン酸塩増粘剤、でんぷんエーテルもしくはローカストビーン粉エーテル、特にそれ自身でか、または変性セルロース(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースもしくはヒドロキシプロピルメチルセルロース、特に好ましくはカルボキシメチルセルロース20〜25重量%を伴う)との混合物でのアルギン酸ナトリウムを包含する。言及してもよい合成増粘剤は、例えばポリ(メタ)アクリル酸またはポリ(メタ)アクリルアミドに基づくものである。
【0060】
インクは、例えば、インクの総量に基づいて、そのような増粘剤を0.01〜2重量%、特に0.01〜1重量%、そして好ましくは0.01〜0.5重量%の量で含む。
【0061】
インクはまた、緩衝物質(例えばホウ砂、ホウ酸塩、リン酸塩、ポリリン酸塩またはクエン酸塩)を含んでもよい。挙げることができる例は、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ペンタポリリン酸ナトリウムおよびクエン酸ナトリウムを包含する。それらは、例えば4〜10、特に5〜8のpH値を固定するために、インクの総量に基づいて、特に0.1〜3重量%、好ましくは0.1〜1重量%の量で使用される。
【0062】
さらなる添加剤として、インクは、界面活性剤または保湿剤を含んでもよい。
【0063】
適切な界面活性剤は、市販の陰イオン性または非イオン性の界面活性剤を包含する。本発明によるインクにおける保湿剤として、例えば、好ましくは0.1〜30重量%、特に2〜3重量%の量の、尿素、グリセリン、プロピレングリコールまたは乳酸ナトリウム(有利には50〜60%水溶液の形で)とグリセリンおよび/もしくはプロピレングリコールの混合物を考慮に入れられる。
【0064】
所望ならば、インクは、さらにブチロラクトンもしくはリン酸水素ナトリウムのような酸供与体、防腐剤、菌および/または細菌の増殖阻害物質、消泡剤、金属イオン封鎖剤、乳化剤、不水溶性溶媒、酸化剤または脱気剤を含んでもよい。
【0065】
適切な防腐剤は、特にホルムアルデヒド産生剤(例えば、パラホルムアルデヒドおよびトリオキサン)、特に水性の、約30〜40重量%ホルムアルデヒド溶液である。適切な金属イオン封鎖剤は、例えばニトリロ三酢酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、特にポリメタリン酸ナトリウム、さらに特にヘキサメタリン酸ナトリウムである。適切な乳化剤は、特にアルキレンオキシドと脂肪アルコールの付加化合物、特にオレイルアルコールとエチレンオキシドの付加化合物である。適切な不水溶性溶媒は、高沸点飽和炭化水素、特に約160〜210℃の沸点範囲を有するパラフィン類(ホワイトスピリットと呼ばれる)である。適切な酸化剤は、例えば、芳香族ニトロ化合物、特に芳香族モノ−もしくはジ−ニトロ−カルボン酸またはスルホン酸(アルキレンオキシド付加化合物、特にニトロベンゼンスルホン酸の形態であってもよい)である。そして適切な脱気剤は、例えば、高沸点溶媒、特にテレビン油、高級アルコール、好ましくは、C−C10アルコール、テルペンアルコールあるいは鉱油および/またはシリコーン油、特に鉱油とシリコーン油の混合物の約15〜25重量%、および例えば2−エチル−n−ヘキサノールのようなCアルコールの約75〜85重量%からなる市販処方に基づく脱気剤である。これらは通常、インクの総量に基づいて0.01〜5重量%の量で使用される。
【0066】
インクを、個々の構成物質を所望の量の水中で混合することにより、通例の方法で製造することができる。必要な場合、インクを、微細フィルターを通す濾過によって精製する。
【0067】
本発明によるインクは、例えばプリントに適している。言及してもよい適したプリント方法の例は、従来のプリント、ステンシル印刷、インクジェットプリント法である。
【0068】
本発明によるインクは、特にイメージが作られる基材に対して行われる、小滴の形態で小孔からインクが出る種類の記録システムにおける使用に適している。適切な基材は、例えば織物用繊維材料、紙、またはプラスチックフィルムである。適切な記録システムは、例えば紙の印刷もしくは織物の捺染、または万年筆もしくはボールペンのような筆記用具、および特にインクジェットプリンタにおける使用のための市販のインクジェットプリンタである。
【0069】
インクジェットプリントにおいて、インクの個々の小滴は、ノズルから制御されたあり方法で基材上に噴霧される。そのために、主として、連続インクジェット法およびドロップ・オン・デマンド法が使用される。連続インクジェット法において、小滴は連続的に作られ、プリント用に必要とされない小滴は、収集容器に運ばれて再利用され、一方、ドロップ・オン・デマンド法の小滴は、必要に応じて作られてプリントされる、すなわち、プリント用に必要とされる場合にのみ小滴が作られる。小滴の作成は、例えばピエゾ−インクジェットヘッドを用いて、または熱エネルギー(バブルジェット)を用いて、達成することができる。ピエゾ−インクジェットヘッドを用いてプリントすることが、本発明による方法にとって好ましい。連続インクジェット法を用いてプリントすることが、本発明による方法にとってさらに好ましい。
【0070】
その使用の性質により、例えば粘度またはインクの他の物理的特性、特に課題になっている基材に対する親和性に影響を及ぼすそれらの特性を、適合するように改良することが必要であろう。
【0071】
織物用繊維材料として、特に、窒素含有もしくはヒドロキシ基含有繊維材料、例えばセルロース、絹、ウールもしくは合成ポリアミドの織物用繊維材料を考慮に入れる。
【0072】
式(1)の染料を含む本発明によるインクは、特に紙に記録するのに適し、特に紙印刷における使用に非常に適している。
【0073】
本発明によるインクを用いて印刷できる紙の例として、市販のインクジェット用紙、写真用紙、光沢紙、プラスチック加工紙、例えばキャノン写真用紙、エプソンインクジェット用紙、エプソン写真用紙、エプソン光沢フィルム、HPスペシャルインクジェット用紙、Encad光沢写真用紙、イルフォード写真用紙、ならびに特に、微孔性写真用紙、例えばイルフォードPrintasia光沢写真用紙、キャノン写真用紙Pro−101およびエプソンプレミアム光沢写真用紙を挙げることができる。
【0074】
本発明によるインクを用いて印刷できるプラスチックフィルムは、例えば透明またはくもった/不透明である。適切なプラスチックフィルムは、例えば3M透明フィルムである。
【0075】
したがって、本発明はまた、紙、プラスチックフィルムまたは織物用繊維材料に印刷する方法、特にインクジェットプリント法であって、インクの総量に基づいて、
式(1)の少なくとも1種の染料 1〜35重量%および
水混和性有機溶媒 1〜40重量%
を含む水性インクが使用される方法に関する。
【0076】
本発明によるインクは、保存安定性であり、比較的長期間の保存で沈殿を示さない。
【0077】
本発明によって生産されたプリントは、光に対する良好な堅牢性、および気体、特にオゾンに対する優れた抵抗性によって特徴づけられる。
【0078】
以下の例は、本発明を例証することに役立つ。別段の指示がない限り、温度は摂氏温度を示し、(ここで示された)部は重量部であり、そしてパーセンテージは重量%に関する。重量部はリットルに対するキログラムの比率における容積部に関する。
【0079】
例1a:銅フタロシアニンヘプタスルホン酸
銅フタロシアニン57.6gを、硫酸一水和物200mlに導入した。
30分かけて、発煙硫酸(66%)90mlに添加した後、反応混合物を150℃で160時間維持した。
60℃に冷却後、反応溶液を、さらに例1bに従って処理した。
【0080】
例1b:銅フタロシアニンヘプタスルホクロリド
例1aの反応溶液に対して、60℃に冷却して、塩化チオニル425mlに滴下した。75℃で16時間の後、反応混合物を室温に冷却し、氷水に注いだ。生成物を完全に沈殿させ、濾別し、氷水を用いて洗浄した。真空中で穏やかに乾燥した後、銅フタロシアニンヘプタスルホクロリドを含む生成物30gが得られた。
【0081】
例1c:Cu−Pcヘプタスルホンアミド/スルホン酸
例1bによるCu−Pcヘプタスルホクロリド26.5gを希釈アンモニア水溶液(pH=8)に導入し、アンモニア(12.5%)の適当量を添加することによって、pHを8で一定に持続した。室温で20時間撹拌後、40℃での加熱を、pH8を維持し続けながら、さらに5時間実施した。その次に、回転式蒸発器を使用して反応溶液を400mlに濃縮し、透析して、次に蒸発乾固させた。Cu−Pcヘプタスルホンアミド/スルホン酸を含む、緑色を帯びたシアン染料12.3gが得られた。
【0082】
例1d:銅フタロシアニンヘプタスルホン酸
銅フタロシアニン57.6gを、硫酸一水和物200mlに導入した。
30分かけて発煙硫酸(66%)90mlに添加した後、反応混合物を160℃で24時間維持した。
60℃に冷却後、反応溶液を、さらに例1bに従って処理した。
【0083】
例2:Cu−Pcヘプタスルホタウリド/スルホン酸
タウリン172.5gを、pH10で水に溶解した。得られた溶液に対して、例1bに従って、生成物28.75gを撹拌しながら0℃で添加した。4N水酸化ナトリウム溶液を使用してpHが10で一定に持続しながら1時間撹拌した後、温度を40℃に上昇させた。その温度および一定のpH10で1時間撹拌した後、pHを8に下げて、反応溶液を500mlに濃縮した。濾過後、溶液を透析して、次に蒸発乾固した。緑色を帯びたシアン染料14.7gが得られた。
【0084】
例2におけるタウリンの代わりに、表1に示されるアミンの等量を使用することによって、式(1)の対応する染料が同様に得られた。
【0085】
【表1】



【0086】
例3:プリント用インクの製造およびインクジェットプリント
例1cによる染料6.6gを、水85gに溶解した。ジエチレングリコール5gを添加後、得られたインクをインクジェットプリントカートリッジに入れた。そのシアンインクを使用して写真用紙(例えばキャノン写真用紙Pro PR−101、エプソンプレミアム光沢写真用紙、イルフォード写真用紙またはイルフォードPrintasia光沢写真用紙)にした印刷は、オゾンおよび光に対して優れた抵抗性を有した。
【0087】
例4:プリント用インクの製造およびインクジェットプリント
例3に記載のとおりに進めるが、例2によるの染料7.2gを使用することによって、オゾンおよび光に対して優れた抵抗性を有する写真用紙(例3に類似)のインクジェットプリントが、同様に得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】


(式中、
Pcは、式:
【化2】


のフタロシアニンであり、
Meは、金属であり、
[MePc]は、式:
【化3】


の金属フタロシアニン錯体であり、
は、無機または有機の陽イオンであり、
は、水素、非置換もしくは置換アルキル、非置換もしくは置換アラルキルまたは非置換もしくは置換アリールであり、そして
は、水素、非置換もしくは置換アルキル、非置換もしくは置換アラルキルまたは非置換もしくは置換アリールであり、そして
nおよびmは、独立して他からそれぞれ0、1、2、3、4、5、6、7もしくは8であり、
(n+m)の合計が5、6、7もしくは8の数である。)の染料。
【請求項2】
請求項1記載の式(1)の染料を製造する方法であって、その方法は、式:
【化4】


(式中、Meは金属である)の化合物を、強力なスルホン化試薬(例えばクロロスルホン酸、発煙硫酸/硫酸一水和物)を使用してスルホン化し、次に場合により得られたスルホン酸を、無機または有機の陽イオンMを含有する化合物を使用して中和し、そして次に場合により適切な試薬(例えば塩化チオニルまたはオキシ塩化リン)を用いて、スルホン酸またはその塩を対応するスルホクロリドに変換し、次に例えばアンモニアまたはアミンと反応させることを含む、方法。
【請求項3】
請求項1記載の式(1)の少なくとも1種の染料を含む染料混合物。
【請求項4】
請求項1記載の式(1)の少なくとも1種の染料、ならびに式(1)(式中、nおよびmがそれぞれ他から独立して0〜4の数であり、そして(m+n)の合計が1〜4である)の少なくとも1種の染料を含む染料混合物。
【請求項5】
請求項1記載の式(1)の少なくとも1種の染料 5〜99重量%、好ましくは10〜99重量%を含有する、請求項3または請求項4記載の染料混合物。
【請求項6】
天然、半合成または合成材料、特に繊維材料を染色またはプリントする方法であって、請求項1記載の式(1)の1種以上の染料を前記材料に適用する方法。
【請求項7】
請求項1記載の式(1)の少なくとも1種の染料 1〜35重量%を含有するインク。
【請求項8】
インクジェットプリント方法により、天然、半合成または合成材料をプリントする方法であって、請求項7記載のインクを使用する方法。
【請求項9】
天然、半合成または合成材料が、紙、特に写真用紙、プラスチックフィルムまたは織物用繊維材料である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
紙が微孔性写真用紙である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1記載の式(1)の染料を使用して染色またはプリントされた天然、半合成もしくは合成材料。

【公表番号】特表2009−500482(P2009−500482A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519903(P2008−519903)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063630
【国際公開番号】WO2007/006652
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(396023948)チバ ホールディング インコーポレーテッド (530)
【氏名又は名称原語表記】Ciba Holding Inc.
【Fターム(参考)】