説明

ガス捕集袋用積層材および該積層材を用いたガス捕集袋

【課題】搬送用のガス捕集袋に必要とされるVOCガス等保存性能ならびに強度および柔軟性に優れたガス捕集袋用積層材および該積層材を用いたガス捕集袋を提供する。
【解決手段】ガス捕集袋用積層材は、試料ガスを搬送するために用いられるガス捕集袋用積層材であって、エチレン含有量が35〜55モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(A)からなる内層と、エチレン含有量が25〜35モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(B)からなる外層とを積層してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス捕集袋用積層材および該積層材からなるガス捕集袋に関し、さらに詳細には、試料ガスを搬送するために用いられるガス捕集袋用積層材および該積層材を用いたガス捕集袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の車体を構成する部品、建材、家具、合成樹脂製品などから発生する揮発性有機化合物ガスや、化学プラントなどの工場から排出される有害ガス、さらには香水の香り成分などのガス(以下、VOCガス等と総称する。VOCはVolatile Organic Compoundsの略語である。)成分の計測が行われている。これらVOCガス等成分の計測は、たとえばVT−SHED(Variable Temperature Shield Housing for Evaporative Determination)などの計測装置によって行われる(特許文献1)。
【0003】
上記計測装置によるVOCガス等の計測方法は、計測すべきVOCガス等が存在する場所に計測装置を配置し、密閉空間を形成する計測装置の測定室内に計測すべきVOCガス等を収容した後、たとえば規格に定められた時間−温度曲線にしたがって測定室内の温度を変化させ、この間に測定室内に蒸散した成分を計測するというものである。
【0004】
しかし、たとえば大気中のVOCガス等を計測する場合のように、計測装置の測定室内に計測すべきVOCガス等を直に収容することが困難な場合には、採取した試料ガスを計測装置のあるところまで搬送するためのガス捕集袋が必要になる。そのような捕集袋として、ポリエチレンフィルムとアルミ箔とポリエチレンテレフタレート(PET)とを積層した材料を用いた汎用品や、フッ化ビニル樹脂からなるテドラー(登録商標)フィルムなどが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−315868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
搬送用のガス捕集袋の袋体材料には、遠隔地で捕集したVOCガス等を計測装置に搬送するまでのあいだ、収容したガスを逸失せず、その性質を変化させないガスバリア性や、袋体がVOCガス等を吸着しないガス非吸着性などのVOCガス等保存性能が必要とされる。特に近年、有害ガスの規制の強化や計測機器の精度の改良などを受けて、より精度の高いVOCガス等の計測が求められている。そのため、ガス捕集袋の材料はより高いVOCガス等保存性能が必要である。また、搬送時に突刺しや擦過などの外力に耐えうる強度を有し、ガス捕集に支障をきたさない程度の柔軟性を有することも必要である。
【0007】
しかし、高精度計測に必要とされる高いVOCガス等保存性能を有し、かつ強度や柔軟性に優れたガス捕集袋はなく、他の用途に用いられる汎用品で代用しているのが現状である。たとえば、従来のガス捕集袋で内層をポリエチレン層にしたものは、ポリエチレンが有する熱溶着性によって密閉袋を製造することができるものの、ポリエチレンはガスを吸着する傾向があり、またガスバリア性が低く、袋に収容したガスが継続的に外部に流出するため、正確な計測結果が得られない。このようなガス捕集袋では、ガスバリア性を高めるためにアルミ箔を積層しているが、アルミ箔は強度および柔軟性が低いため、さらにその外側にPETなどを積層する必要がある。
【0008】
また、テドラー(登録商標)などのフッ化ビニル樹脂フィルムを用いたものは、比較的ガスを透過しやすい性質であるためガスバリア性が充分とはいえず、樹脂自身からフェノールやジメチルアセトアミドなどが涌き出すため、正確な計測結果が得られない。また、それを低減するため、使用前に約140℃で4時間程度のベーキング処理が必要となる。さらに、太陽光などの光線を透過しやすい性質であるため、収容したVOCガス等が光線によって変質するおそれがある。さらに、柔軟性が低く硬いため扱いづらく、そのためにVOCガス等を捕集するときや搬送時にピンホールなどの破損が生じやすく、接着しにくいため袋体への加工性に劣る。
【0009】
なお、搬送用のガス捕集袋は特許文献1に提案されている圧力吸収用バッグとは異なるものである。特許文献1の圧力吸収バッグは、密閉された大容量の測定室の内圧を一定に保持する目的で測定室の内部に複数個が組み込まれるものであるが、(圧力吸収バッグの表面積)/(測定室の容積)比が小さいため、搬送用ガス捕集袋に求められるような高いVOCガス等保存性能を必要としない。また、搬送時に要求されるような強度や柔軟性も必要としない。したがって、上記圧力吸収用バッグのような、計測装置に備えられるガス収容袋と、搬送を前提としたガス捕集袋とは、VOCガス等保存性能、強度および柔軟性において明確に区別される。
【0010】
要するに、搬送を前提とし、袋内に収容した試料ガスの組成を長時間にわたって保持することができるガス捕集袋はこれまでなく、検討すらされてこなかった。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、搬送用のガス捕集袋に必要とされるVOCガス等保存性能ならびに強度および柔軟性に優れたガス捕集袋用積層材および該積層材を用いたガス捕集袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のガス捕集袋用積層材は、試料ガスを搬送するために用いられるガス捕集袋用積層材であって、エチレン含有量が35〜55モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(A)からなる内層と、エチレン含有量が25〜35モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(B)からなる外層とを積層してなることを特徴としている。
【0013】
また、前記内層の厚さが15〜50μmであり、前記外層の厚さが8〜20μmであることが好ましい。
【0014】
また、前記外層の外側に、ナイロン6、ポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンからなる最外層をさらに積層してなることが好ましい。
【0015】
また、前記外層の外側に、エチレン含有量がエチレンビニルアルコール共重合体(A)と同じか、エチレンビニルアルコール共重合体(A)より低いエチレンビニルアルコール共重合体(C)からなる最外層をさらに積層してなることが好ましい。
【0016】
また、前記外層の少なくとも一方の面にアルミ蒸着層をさらに積層してなることが好ましい。
【0017】
本発明のガス捕集袋は、試料ガスを搬送するために用いられるガス捕集袋であって、ガス捕集袋用積層材を、前記内層がガス捕集袋の内面になるように用いてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明のガス捕集袋用積層材は、ガスバリア性、ガス非吸着性などのVOCガス等保存性能に優れるため、ガス捕集袋に収容された試料ガスの組成は長時間にわたって変化しにくい。また、内層となるエチレンビニルアルコール共重合体(A)は優れた熱溶着性を有するため、加工性に優れる。さらに、積層材は強度および柔軟性に優れるため、扱いやすく破損しにくい。
【0019】
さらに最外層を積層したガス捕集袋用積層材は、搬送時に突刺しや擦過などの外力に耐えることができる強度を有するため、ピンホールなどの破損が生じにくく、かつガス捕集に支障をきたさない程度の柔軟性を有する。また、最外層にエチレンビニルアルコール共重合体(C)を用いた場合、袋体を作製する際に内層面と最外層面を直接熱溶着することが可能となり、ガス捕集袋の作製が容易になる。
【0020】
本発明のガス捕集袋によれば、用いられる積層材がVOCガス等保存性能に優れるため、収容した試料ガスの組成を長時間にわたって保持することができる。また、強度および柔軟性に優れるため、搬送時に突刺しや擦過などの外力に耐えることができる。そのため、ピンホールなどの破損が生じにくく、試料ガスを安全に計測装置まで運ぶことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のガス捕集袋用積層材の第1の実施形態を示した模式断面図である。
【図2】本発明のガス捕集袋用積層材の第2の実施形態を示した模式断面図である。
【図3】本発明のガス捕集袋用積層材の第3の実施形態を示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のガス捕集袋用積層材は、図1に示されるようにエチレン含有量が35〜55モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(A)からなる内層10と、エチレン含有量が25〜35モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(B)からなる外層11とをガス捕集袋の内側から順に積層してなる積層フィルムである。
【0023】
本発明においてエチレンビニルアルコール共重合体(A)、エチレンビニルアルコール共重合体(B)および後述するエチレンビニルアルコール共重合体(C)は、エチレン酢酸ビニル共重合体のけん化物のことをいう。エチレンビニルアルコール共重合体は、ポリエチレンと異なり、高分子鎖にランダムに水酸基を有し、これら水酸基同士が水素結合で引き付けあっていると考えられている。そのため、分子運動が抑制され、高分子鎖間へのVOCガス等の侵入を抑止し、ポリエチレンに比べて良好なガスバリア性とガス非吸着性を有すると考えられる。
【0024】
エチレンビニルアルコール共重合体(A)、(B)および(C)のけん化度は特に限定されるものではないが、好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは98モル%以上であり、最も好ましくは99モル%以上である。けん化度が90モル%未満ではガスバリア性が低下する傾向がある。
【0025】
本発明のガス捕集袋用積層材全体の厚さは特に限定されるものではないが、好ましくは25〜150μmであり、より好ましくは40〜100μmである。厚さが25μm未満ではガス捕集袋として充分な強度を得ることができない傾向があり、150μmを超えると柔軟性が低下するため、扱いにくい傾向がある。
【0026】
本発明のガス捕集袋用積層材の内層はガス捕集袋の内側に位置する層であり、内層の一方の面はガス捕集袋に収容される試料ガスに接し、他方の面は外層に接着する。また、ガス捕集袋の製造時には積層材の内層同士を対向させ、熱溶着させることによって袋の気密性を得る。内層の厚さは特に限定されるものではないが、好ましくは15〜50μmであり、より好ましくは15〜40μmであり、最も好ましくは15〜35μmである。厚さが15μm未満では積層加工が困難になり、熱溶着強度が充分でなくなる傾向があり、50μmを超えると柔軟性を損なう傾向がある。
【0027】
内層は、エチレン含有量が35〜55モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(A)を主として含有し、必要に応じてエチレン酢酸ビニル共重合体およびその部分けん化物や、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機質充填材、顔料などの他の成分を添加することができる。内層中のエチレンビニルアルコール共重合体(A)の含量は特に限定されるものではないが、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、最も好ましくは100重量%である。
【0028】
エチレンビニルアルコール共重合体(A)は、エチレン含有量が35〜55モル%の共重合体である。エチレン含有量は好ましくは40〜50モル%である。エチレン含有量が35モル%未満では熱溶着性が低下し、外層との熱溶着性および袋の気密性が低下する傾向がある。エチレン含有量が55モル%を超えるとガス捕集袋に収容したVOCガス等を吸着しやすくなり、吸着後にVOCガス等が内層の端面に移動し、そこから放散されるため、正確な計測ができなくなる傾向があり、またガスバリア性が低下する傾向がある。
【0029】
本発明のガス捕集袋用積層材の外層は、内層に対してガス捕集袋の外側に位置する層であり、外層の一方の面には内層が接着され、他方の面はガス捕集袋の外側を向く。外層の厚さは特に限定されるものではないが、好ましくは8〜20μmである。厚さが8μm未満では内層の積層加工が困難になり、外層の強度が低下し、充分なガスバリア性を得ることができない傾向があり、20μmを超えると柔軟性を損ない、ピンホールなどの破損が生じやすくなる傾向がある。
【0030】
外層は、エチレン含有量が25〜35モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(B)を主として含有し、必要に応じてエチレン酢酸ビニル共重合体およびその部分けん化物や、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機質充填材、顔料などの他の成分を添加することができる。外層中のエチレンビニルアルコール共重合体(B)の含量は特に限定されるものではないが、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、最も好ましくは100重量%である。
【0031】
エチレンビニルアルコール共重合体(B)は、エチレン含有量が25〜35モル%の共重合体である。エチレン含有量は好ましくは28〜33モル%である。エチレン含有量が25モル%未満ではフィルム化が困難である。エチレン含有量が35モル%を超えるとガスバリア性が低下するため、袋内の試料ガスを袋外に散逸し、袋外からVOCガス等が侵入しやすい傾向があり、またガス非吸着性も低下する傾向がある。
【0032】
また、外層には、いずれか一方の面にアルミ蒸着層を形成することが好ましい。図2はアルミ蒸着層を形成したガス捕集袋用積層材の一例を示した模式断面図であり、ガス捕集袋用積層材1は内層10、外層11および後述する最外層13が積層され、外層11と最外層13の間にはアルミ蒸着層12が形成されている。これによって、ガスバリア性が強化されるだけでなく、VOCガス等が光線によって変質することを防止できる。アルミ蒸着層12の厚さは特に限定されるものではないが、好ましくは300〜800Åであり、より好ましくは400〜600Åである。厚さが300Å未満では所期の性能を確保できない傾向があり、800Åを超えると屈曲によりベースフィルムから剥落しやすくなる。
【0033】
本発明のガス捕集袋用積層材には、内層および外層を保護するため、外層の外側に合成樹脂からなる最外層をさらに積層することができる。図3は最外層を積層したガス捕集袋用積層材の模式断面図であり、ガス捕集袋用積層材1は内層10、外層11および最外層13が順に積層された構造を有する。最外層は、強度に優れ、入手が容易な2軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0034】
最外層の厚さは特に限定されるものではないが、好ましくは5〜50μmであり、より好ましくは10〜40μmであり、最も好ましくは12〜30μmである。厚さが5μm未満では強度が低くなり、搬送時に突刺しや擦過によって破損しやすい傾向があり、50μmを超えると柔軟性を損ない、扱いにくい傾向がある。
【0035】
最外層に用いられる合成樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン6などのポリアミド、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリウレタンなどをあげることができる。これらは単独でまたは組み合わせて使用することができる。なかでも、強度および柔軟性に優れ、入手が容易なPET、ナイロン6およびポリプロピレンが好ましい。また、合成樹脂には必要に応じて酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機質充填材、顔料などの他の成分を添加することができる。最外層中の上記合成樹脂の含量は特に限定されるものではないが、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、最も好ましくは100重量%である。
【0036】
また、最外層にはエチレンビニルアルコール共重合体(C)を用いることができる。これによって、袋体を作製する際に内層面と最外層面を直接熱溶着することが可能となり、ガス捕集袋の作製が容易になる。この最外層に配置するエチレンビニルアルコール共重合体は内層に配置されるものと同じでもかまわないが、そのエチレン含有量はエチレンビニルアルコール共重合体(A)よりも低いことが熱溶着作業性を向上できる点で好ましく、1〜5モル%の範囲内で低いものを使用することがより好ましい。
【0037】
本発明のガス捕集袋用積層材の製造方法、すなわち内層、外層および必要な場合には最外層を積層する方法としては、ドライラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法などの公知の方法を採用することができる。また、接着に際してポリウレタン系またはポリイミド系の接着剤を使用しても良い。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1
内層材料にエバールフィルムEF−HS(商品名、(株)クラレ製、エチレンモル%:47モル%、厚さ:30μm)を使用し、外層材料にエバールフィルムEF−XL(商品名、(株)クラレ製、エチレンモル%:32モル%、厚さ:12μm)を使用し、両者を順次ドライラミネート法によって積層してガス捕集袋用積層材を得た。得られた積層材について以下の試験を行った。
【0040】
(涌き出し量の測定)
得られた積層材を用いて、インパルス型熱シール機によって寸法が350mm×170mm×500mmである袋体を作製し、この袋体に高純度窒素ガスを封入し、24時間後の湧き出し量を、GC/FID(水素炎イオン化検出器を使用したガスクロマトグラフ)で測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(VOCガス濃度保持率)
得られた積層材を用いて、インパルス型熱シール機によって寸法が350mm×170mm×500mmである密閉型ガス捕集袋を作製し、ほぼ等しい濃度(1000ppb)の24種類の成分よりなる標準ガスをこのガス捕集袋に封入した。それを一定時間保存した後、袋内のガス濃度をGC/FIDで測定した。ガスの代表例としてベンゼン、トルエン、メタキシレンおよびスチレンを選び、6時間経過後の残存率を求めた。結果を表1に示す。
【0042】
(引張り試験)
作製した積層材から、長さ200mm、幅10mmの短冊状の試験片を切り出し、この試験片を積層材の流れ方向(以下、MDと略記する。)および積層材の流れ方向と直交する方向(以下、TDと略記する。)の2つの方向について切り出し、JIS K−7127に準拠して引張強度を求めた。結果を表1に示す。
【0043】
(突刺し強度)
後述する実施例3の積層材および比較例2のテドラー(登録商標)フィルムについて、作製した積層材から100mm×100mmの試験片を切り出し、リング状の保持具でクランプ、中心部を鋼製針(太さ1mmφ、先端0.5Rの球形)で突刺した時の抵抗力を求め、これを突刺し強度とした。結果を表1に示す。
【0044】
(耐屈曲試験)
作製した積層材から300mm×210mm(略A4サイズ)の試験片を切り出し、この試験片をゲルボフレックステスター(理学工業(株)製)にセットして所定の屈曲を一定回数繰り返し、それを取り外して発生したピンホール数をカウントした。この試験を様々な屈曲回数について行い、屈曲回数と発生ピンホール数の関係から、最初のピンホールが発生したであろう屈曲回数(以下、Np=1と略記する。)を統計的に求めた。結果を表1に示す。
【0045】
実施例2
実施例1と同じ内層材料を使用し、外層材料にエバールフィルムEF−XL(商品名、(株)クラレ製、エチレンモル%:32モル%、厚さ:15μm)を使用し、さらに最外層材料にボニール(商品名:宇部興産(株)製ナイロン6フィルム、厚さ15μm)を使用し、各々を順次ドライラミネート法によって積層してガス捕集袋用積層材を得た。得られた積層材について実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
実施例3
内層材料にエバールフィルムEF−E(商品名、(株)クラレ製、エチレンモル%:44モル%、厚さ:20μm)を使用したほかは、実施例2と同様の方法によりガス捕集袋用積層材を得た。得られた積層材について実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
実施例4
最外層材料にエバールフィルムEF−E(商品名、(株)クラレ製、エチレンモル%:44モル%、厚さ:30μm)を使用したほかは、実施例2と同様の方法によりガス捕集袋用積層材を得た。得られた積層材について実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
比較例1
内層材料にポリエチレン(東セロ(株)製、厚さ:80μm)を使用し、最外層材料にポリエチレン(東セロ(株)製、厚さ:80μm)を使用したほかは、実施例1と同様の方法によりガス捕集袋用積層材を得た。得られた積層材について実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
比較例2
テドラー(登録商標)フィルム(商品名、Dupont社製、厚さ:50μm)をガス捕集袋用材として使用した。このテドラー(登録商標)フィルムについて実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示されるように、エチレンビニルアルコール共重合体フィルムのメタン換算のガスの湧き出し量は、ポリエチレンやテドラー(登録商標)フィルムよりも1桁低いことがわかる。この結果から、エチレンビニルアルコール共重合体の積層材は高精度分析用のガス捕集袋に適していることがわかる。また、内層と外層にエチレンビニルアルコール共重合体フィルムを使用し、内層にエチレン含有量が44モル%および47モル%のエチレンビニルアルコール共重合体フィルムを使用した実施例1〜4では、測定したすべての成分の濃度保持率が100%であった。一方、テドラー(登録商標)フィルムを用いた比較例2では、測定したすべての成分の濃度保持率が90〜98%であった。これらの結果から、エチレンビニルアルコール共重合体からなる積層材を用いたものは、ガスバリア性およびガス非吸着性に優れることがわかる。
【0052】
また、エチレンビニルアルコール共重合体フィルム2層からなる積層材は、引張強度がMDで3.9、TDで3.0であり、ポリエチレンフィルムの積層材やテドラー(登録商標)フィルムと同等の引張強度を有することがわかる。エチレンビニルアルコール共重合体フィルム3層からなる積層材は、引張強度がMDで5.2〜8.3、TDで3.7〜6.7であり、ポリエチレンフィルムの積層材やテドラー(登録商標)フィルムと比べて引張強度に優れることがわかる。さらに、内層と外層がエチレンビニルアルコール共重合体フィルムで、最外層がナイロン6の積層材(実施例3)は、テドラー(登録商標)フィルムと比べて突刺し強度に優れることがわかる。さらに、耐屈曲性についても、テドラー(登録商標)フィルムは180回であったのに対し、エチレンビニルアルコール共重合体フィルムの積層材は330〜430回であった。これらの結果から、エチレンビニルアルコール共重合体フィルムの積層材は、相対的に薄いため柔軟性に優れ、かつ搬送用のガス捕集袋用積層材として充分な強度を有することがわかる。
【符号の説明】
【0053】
1 ガス捕集袋用積層材
10 内層
11 外層
12 アルミ蒸着層
13 最外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスを搬送するために用いられるガス捕集袋用積層材であって、
エチレン含有量が35〜55モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(A)からなる内層と、
エチレン含有量が25〜35モル%のエチレンビニルアルコール共重合体(B)からなる外層とを積層してなるガス捕集袋用積層材。
【請求項2】
前記内層の厚さが15〜50μmであり、前記外層の厚さが8〜20μmである請求項1記載のガス捕集袋用積層材。
【請求項3】
前記外層の外側に、ナイロン6、ポリエチレンテレフタレートまたはポリプロピレンからなる最外層をさらに積層してなる請求項1または2記載のガス捕集袋用積層材。
【請求項4】
前記外層の外側に、エチレン含有量がエチレンビニルアルコール共重合体(A)と同じか、エチレンビニルアルコール共重合体(A)より低いエチレンビニルアルコール共重合体(C)からなる最外層をさらに積層してなる請求項1または2記載のガス捕集袋用積層材。
【請求項5】
前記外層の少なくとも一方の面にアルミ蒸着層をさらに積層してなる請求項1〜4のいずれかに記載のガス捕集袋用積層材。
【請求項6】
試料ガスを搬送するために用いられるガス捕集袋であって、
請求項1〜5のいずれかに記載のガス捕集袋用積層材を、前記内層がガス捕集袋の内面になるように用いてなるガス捕集袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−84306(P2011−84306A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238209(P2009−238209)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(509286891)株式会社大阪造船ドック (2)
【出願人】(506177028)株式会社ジャプス (2)
【Fターム(参考)】