説明

ガス検知器のダイヤフラムポンプ装置および携帯防爆型ガス検知器

【課題】 省電力化が図られ、しかも、優れた起動性の得られるガス検知器のダイヤフラムポンプ装置および携帯防爆型ガス検知器を提供すること。
【解決手段】 通常駆動状態において駆動用直流モータ(以下、「モータ」という。)が正転方向に駆動されることにより駆動ロッドを介してダイヤフラムが往復動されると共に、モータの停止によってダイヤフラムの歪み量が小さい低歪み位置で停止されるよう構成された、ガス検知器のダイヤフラムポンプ装置において、モータの始動に際して、予備駆動工程と、モータを所定の大きさの正転駆動電圧で正転方向に駆動する通常駆動工程とが行われ、予備駆動工程においては、モータが正転駆動電圧より小さい逆転駆動電圧で逆転方向に駆動され、ダイヤフラムが、通常駆動工程において最初に歪み量が最大となる変形方向とは逆方向に、変形される。携帯防爆型ガス検知器は、上記ダイヤフラムポンプ装置を具えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検知器のダイヤフラムポンプ装置および当該ダイヤフラムポンプ装置を具えた携帯防爆型ガス検知器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば地下の工事現場や坑道、その他の人が立ち入る場所や作業領域などにおいて、その環境の空気中に含有される一酸化炭素ガスや硫化水素ガスなどの危険性ガスの濃度が高いことにより、あるいは、酸素ガス濃度が低いことにより、人に対して危険な状態となることを監視するために、現在までに種々のタイプの携帯型ガス検知器が提案されており、例えば、ガス検知器本体内に、モータ駆動によるダイヤフラムポンプ装置を備えた構成のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなモータ駆動によるダイヤフラムポンプ装置においては、例えば、駆動用モータの出力軸が回転されると、当該出力軸に偏心状態で固定された例えば円形偏心カムが回転されることによって当該円形偏心カムを介して駆動ロッドが直線往復運動され、これにより、ダイヤフラムの中央部が往復動作され、ダイヤフラムによって区画形成されたポンプ室内の圧力が減圧または加圧されることにより、例えば空気の供給または排出が行われる構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−134331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、携帯型ガス検知器は、通常、例えば乾電池などの一次電池または二次電池(蓄電池)が駆動用電源として使用されており、駆動用モータの始動に際して、十分な出力を得ることが困難となる場合があり、ダイヤフラムポンプ装置を確実に起動することができないという問題がある。すなわち、上記構成のダイヤフラムポンプ装置においては、駆動用モータの安定した回転状態を得るためには、駆動用モータの始動に際して、通常、ダイヤフラムの最大抗力(ポンプ室を圧縮するようダイヤフラムを変形させた場合に、ダイヤフラムの歪み量が最大となるときの抗力)より大きなトルクが必要とされるところ、電池駆動による携帯型ガス検知器においては、十分な大きさのモータ駆動電圧を確保することが困難であって、駆動ロッドをダイヤフラムの歪み量が最大となる最大歪み位置を越えて移動させることができずに駆動用モータが停止されてしまうこととなる。
【0006】
また、携帯型ガス検知器が引火による危険性のある環境で使用されるものである場合には、通常、例えば、駆動用電源とセンサや信号処理回路との間に、抵抗やポジスタ等の電流制限素子を挿入するなどして、センサや信号処理回路等での短絡によっても可燃性ガスへの引火を可及的に防止した状態において電力を供給する、いわゆる本質安全防爆の対策を講ずることが必要とされており、ダイヤフラムポンプ装置を確実に駆動させることのできるモータ駆動電圧を確保することが一層困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、省電力化が図られ、しかも、優れた起動性の得られるガス検知器のダイヤフラムポンプ装置、および、当該ダイヤフラムポンプ装置を具えた携帯防爆型ガス検知器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガス検知器のダイヤフラムポンプ装置は、ガスセンサに被検ガスを供給するためのダイヤフラムポンプ装置であって、
駆動用直流モータと、この駆動用直流モータの出力軸に偏心状態で固定された偏心部材と、弾性部材よりなるダイヤフラムと、先端部が偏心部材に連結されると共に基端部がダイヤフラムに固定された駆動ロッドとを具え、通常駆動状態において駆動用直流モータが正転方向に回転駆動されることによりダイヤフラムが往復動されると共に、駆動用直流モータの停止状態においては、ダイヤフラムの歪み量が小さい低歪み位置で停止されるよう構成されてなり、
駆動用直流モータの始動に際して、駆動用直流モータを逆転方向に駆動させる予備駆動工程と、この予備駆動工程により停止した駆動用直流モータをダイヤフラムの最大抗力以下のトルクとなる正転駆動電圧で正転方向に駆動する通常駆動工程とが行われ、予備駆動工程においては、駆動用直流モータが正転駆動電圧より小さい逆転駆動電圧で駆動され、ダイヤフラムが通常駆動工程において最初にダイヤフラムの歪み量が最大となる変形方向とは逆方向に変形されることを特徴とする。
【0009】
本発明のガス検知器のダイヤフラムポンプ装置においては、偏心部材はバランスウェイト部分を有する構成とされていることが好ましい。
【0010】
また、本発明のガス検知器のダイヤフラムポンプ装置においては、予備駆動工程に続く通常駆動工程が継続して行われず、駆動用直流モータが回転されない場合に、再度予備駆動工程およびこれに続いて通常駆動工程が行われる構成とすることができる。
【0011】
本発明の携帯防爆型ガス検知器は、上記ダイヤフラムポンプ装置を具えてなり、
駆動用電源として電池が用いられ、当該電池よりの電力が電流制限手段を介してダイヤフラムポンプ装置に供給される構成とされている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガス検知器のダイヤフラムポンプ装置によれば、駆動用直流モータの始動に際して、駆動用直流モータを逆転方向に回転駆動させる予備駆動工程が行われてダイヤフラムが所定方向に変形されることにより、通常駆動工程実行時においてダイヤフラムの弾性による正転方向の回転に寄与する、いわば補助的な回転エネルギーが得られるので、駆動用直流モータ自体に必要とされるトルクを得るための正転駆動電圧を小さくすることができて省電力化を図ることができると共に、ダイヤフラムの最大抗力以上のトルクを確実に得ることができて優れた起動性を得ることができる。
【0013】
偏心部材がバランスウェイト部分を有するものであることにより、正転方向の回転によるバランスウェイト部分の慣性の作用によって、駆動用直流モータの起動性を一層向上させることができると共に、駆動用直流モータの回転の安定化を図ることができる。
【0014】
上記ダイヤフラムポンプ装置を具えてなる本発明の携帯防爆型のガス検知器によれば、防爆仕様を満足するものとして構成することができ、しかも、ダイヤフラムポンプ装置を確実に駆動することができて所期のガス検知を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のダイヤフラムポンプ装置を具えた携帯防爆型ガス検知器の一例における構成の概略を示すブロック図である。
【図2】本発明のダイヤフラムポンプ装置の一例における構成の概略を示す断面図である。
【図3】図2に示すダイヤフラムポンプ装置におけるヘッド部の構成を示す平面図である。
【図4】図1に示す携帯防爆型ガス検知器における電源回路を構成するモータ駆動制御回路の構成の概略を示すブロック図である。
【図5】本発明に係るモータ駆動方法におけるモータ駆動電圧の制御例を示す図である。
【図6】図2に示すダイヤフラムポンプ装置の一部を拡大して示す動作説明用断面図であって、(A)停止位置にある状態、(B)予備駆動工程において停止された状態、(C)通常駆動工程が行われている過程において駆動ロッドが低歪み位置にある状態、(D)通常駆動工程が行われている過程において駆動ロッドが最大歪み位置にある状態、(E)通常駆動工程が行われている過程において駆動ロッドが最大歪み位置を越えて低歪み位置にある状態を示す。
【図7】駆動用直流モータの動作状態監視動作を説明するための動作フロー図である。
【図8】実験例1におけるモータ起動性確認試験の結果を示すグラフであって、(α)が電流波形、(β)が電圧波形を示す。
【図9】比較実験例1におけるモータ起動性確認試験の結果を示すグラフであって、(α)が電流波形、(β)が電圧波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のダイヤフラムポンプ装置を具えた携帯防爆型ガス検知器の一例における構成の概略を示すブロック図である。
この携帯防爆型ガス検知器(以下、単に「ガス検知器」という)は、例えば乾電池などの一次電池または二次電池(蓄電池)よりなる駆動用電源50と、駆動用電源50からの電流を電流制限素子41によって制限して供給する電源回路40と、ガスセンサ30および当該ガスセンサ30に被検ガスを供給するためのダイヤフラムポンプ装置10よりなるガス検知部35と、検知されたガス濃度を表示する表示部56と、一定以上のガス濃度の検知により警報を発する警報部57と、操作部58と、ガスセンサ30からのガス検知信号に対して適宜の信号処理を行う、例えばオペアンプ31を含む信号処理部と、各構成部材の動作制御を行う共にガス検知信号に基づいてガス濃度を算出するCPU55とを具えている。
駆動用電源50の電源電圧は例えば3.5Vである。
【0017】
ダイヤフラムポンプ装置10は、図2および図3に示すように、ダイヤフラムポンプ20と、駆動用直流モータ11とにより構成されている。
【0018】
ダイヤフラムポンプ20は、例えば略円柱状または円錐台状の内部空間を形成するカップ状のダイヤフラム21と、このダイヤフラム21の開口側に設けられてポンプ室Sを画成するポンプチャンバー22と、ダイヤフラム21の底部側から装着されてダイヤフラム21の開口端縁部を保持固定する矩形枠状の固定用部材23と、逆止弁26を介してポンプチャンバー22に対接されて配置された、ガス吸引部27Aおよびガス吐出部27Bを有するヘッド部25と、ダイヤフラム21の底部中央位置に基端部が埋設固定された、例えば樹脂材料よりなる駆動ロッド15とにより構成されており、固定用部材23、ポンプチャンバー22およびヘッド部25は、4隅がそれぞれ固定用ネジ(図示せず)により一体に固定されている。
【0019】
ダイヤフラム21は、例えばエチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴムなどのゴム材料およびその他の弾性体よりなり、硬度(ショア硬さHS)が例えば70°である(例えば0.5Nの荷重を負荷したときの歪み量(変形量)が1.7mm程度となる変形性(弾性)を有する)ものである。
【0020】
駆動用直流モータ11は、ダイヤフラムポンプ20における固定用部材23に形成された板状部分23Aに対して、出力軸11Aが板状部分23Aをその厚み方向に貫通して突出する状態で、ネジ止めされて固定されており、出力軸11Aの突出部分には、偏心部材13が駆動用直流モータ11の出力軸11Aに対して偏心状態で固定されている。
【0021】
偏心部材13は、例えば樹脂材料よりなり、駆動ロッド15の先端部に形成された円筒状保持部15Aに、ベアリング(玉軸受け)12が介在する状態で、嵌合される円形偏心カム部分13Aと、この円形偏心カム部分13Aと一体に形成されたバランスウェイト部分13Bとを有する。
バランスウェイト部分13Bは、いわば「フライホイール(はずみ車)」として機能し、駆動用直流モータ11の回転安定性が得られることに加え、ポンプ始動性向上効果が得られる。
【0022】
電源回路40は、表示部56および警報部57等に対して動作指令信号を出力するガス検知器本体駆動回路42と、駆動用直流モータ11に対する動作指令信号を出力するモータ駆動制御回路45とを具えている。
【0023】
モータ駆動制御回路45は、図4に示すように、CPU55からの動作指令信号に基づいて、例えば環境条件等に応じて所定の大きさに制御された駆動電圧を駆動用直流モータ11に供給する駆動電圧可変回路46と、各々例えばFETよりなる4つのスイッチ素子SW1,SW2,SW3,SW4からなるブリッジ回路とを備えている。
【0024】
このモータ駆動制御回路45においては、例えば、第1のスイッチ素子SW1および第4のスイッチ素子SW4が共にON状態とされると共に第2のスイッチ素子SW2および第3のスイッチ素子SW3が共にOFF状態とされることにより、駆動用直流モータ11が正転方向に駆動されるよう電力供給(図4において一点鎖線で示す)が行われる。
一方、第1のスイッチ素子SW1および第4のスイッチ素子SW4が共にOFF状態とされると共に第2のスイッチ素子SW2および第3のスイッチ素子SW3が共にON状態とされることにより、駆動用直流モータ11が逆転方向に駆動されるよう電力供給(図4において二点鎖線で示す)が行われる。
【0025】
また、上記ガス検知器は、駆動用直流モータ11が正常に起動したか否かを検出する動作状態監視機構38を備えている。
動作状態監視機構38は、モータ駆動制御回路45を構成する4つのスイッチ素子SW1〜SW4によるブリッジ回路に接続された抵抗RSNS に流れる電流変化を増幅器39によって増幅して検出する構成とされている。
【0026】
以下、上記ガス検知器の動作について説明する。
ガス検知器の電源が投入されると、駆動用電源50からの電力が電流制限素子41を介して供給され、ガス検知器本体駆動制御回路42によって表示部56等の各構成部材が動作状態とされると共にモータ駆動制御回路45によってダイヤフラムポンプ装置10が始動される。
【0027】
ダイヤフラムポンプ装置10の駆動方法について具体的に説明すると、図5に示すように、駆動用直流モータ11の始動に際して、駆動用直流モータ11を逆転方向に回転駆動させる予備駆動工程が行われた後、この予備駆動工程により停止した駆動用直流モータ11を正転方向に回転駆動する通常駆動工程が行われる。
【0028】
すなわち、ダイヤフラムポンプ装置10は、図6(A)に示すように、駆動用直流モータ11の停止状態においては、ダイヤフラム21の歪み量が0または小さい低歪み位置、図示の例においては、駆動ロッド15の位置が、ダイヤフラム21の圧縮変形過程におけるダイヤフラム21の抗力が最大となる最大歪み位置より正転回転方向下流側の低歪み位置で停止された状態とされており、この状態から、予備駆動工程において、駆動用直流モータ11を逆転方向に回転駆動させると、偏心部材13における円形偏心カム部分13Aのカム作用によってポンプ室Sを膨張させる方向にダイヤフラム21が変形されるよう駆動ロッド15が移動され、図6(B)に示すように、ダイヤフラム21の膨張変形過程におけるダイヤフラム21の抗力が最大となる位置に到達する前の位置において停止される。この状態においては、ダイヤフラム21の弾性(保形性)による、ポンプ室Sを圧縮する方向への反力(白抜き矢印で示す)が生じており、当該ダイヤフラム21の反力は、駆動用直流モータ11を正転方向に回転駆動させる際の回転に寄与する、いわば補助的な回転エネルギーTdをもたらすこととなる。
次いで、通常駆動工程において、駆動用直流モータ11を正転方向に回転駆動させると、駆動用直流モータ11自体の正転駆動電圧による回転エネルギー(トルク)Tmに、予備駆動工程により蓄積されたダイヤフラム21の弾性による補助的な回転エネルギーTdが付加された状態において、円形偏心カム部分13Aのカム作用によってポンプ室Sを圧縮させる方向にダイヤフラム21を変形させるよう駆動ロッド15が移動され、ダイヤフラム21の歪み量が0または小さい低歪み位置(図6(C))を十分な勢いをもって通過して、ダイヤフラム21の圧縮変形過程におけるダイヤフラム21の抗力が最大となる最大歪み位置(図6(D))を越え、再び、ポンプ室Sを膨張させる方向にダイヤフラム21を変形させるよう駆動ロッド15が移動され、ダイヤフラム21の歪み量が0または小さい低歪み位置(図6(E))を経て、ダイヤフラム21の膨張変形過程におけるダイヤフラム21の抗力が最大となる位置に至るダイヤフラム21の往復運動が継続して行われ、ダイヤフラムポンプ装置10が安定的に駆動されることとなる。
【0029】
以上のダイヤフラムポンプ装置10の駆動方法において、通常駆動工程において駆動用直流モータ11に印加される正転駆動電圧V2は、ダイヤフラム21の最大抗力以下のトルクとなる大きさ、すなわち、ダイヤフラム21の最大抗力と同等のトルクが得られる駆動電圧V3より小さく設定される。
具体的には例えば、省電力化および起動性向上の観点から、正転駆動電圧V2は、ダイヤフラム21の最大抗力の80〜95%の大きさのトルクを得ることができる大きさとされる。このような数値範囲に設定される理由は、携帯防爆型ガス検知器の構成上の理由から、ダイヤフラム21の最大抗力の95%を超える大きさのトルクが得られる大きさの駆動電圧を供給することが困難であり、一方、80%より小さいトルクしか得られない大きさの駆動電圧では、駆動用直流モータ11を確実に起動させることができないためである。
【0030】
また、予備駆動工程において駆動用直流モータ11に印加される逆転駆動電圧V1は、正転駆動電圧V2より小さく設定され、例えば、正転駆動電圧V2の65〜90%の大きさとされる。このような範囲であることにより、予備駆動工程において十分な大きさの補助的な回転エネルギーTdを得ることができて、優れた起動性を確実に得ることができる。
【0031】
そして、上記ダイヤフラムポンプ装置10においては、動作状態監視機構38によって、ダイヤフラムポンプ装置10が正常に起動されたか否かが監視されており、予備駆動工程に続く通常駆動工程が継続して行われず、駆動用直流モータ11が回転されない場合には、再度予備駆動工程およびこれに続いて通常駆動工程が行われる。
【0032】
駆動用直流モータ11の動作状態の監視動作について具体的に説明すると、図7に示すように、駆動用直流モータ11の始動(S1)に際して、予備駆動工程(S2)およびこれに連続して通常駆動工程(S3)が行われ、通常駆動工程において、駆動用直流モータ11が正常に起動したか否かの判定処理(S4)が動作状態監視機構38によって検出される電流値に基づいて行われる。
【0033】
この判定処理(S4)においては、例えば図8を参照して説明すると、電流変動幅(電流波形(α)の波高値)ΔIが一定の大きさ以上であることが検出されることにより、駆動用直流モータ11が正常に起動されている、換言すれば、駆動ロッド15が圧縮変形過程におけるダイヤフラム21の抗力が最大となる最大歪み位置(D)を越えて回転が継続されていると判断され、被検ガスが吸引されてガスセンサ30に供給される(S5)。
ここに、判定基準となる電流変動幅ΔIの大きさは、駆動用直流モータ11に印加される正転駆動電圧の大きさによっても異なるが、例えば正転駆動電圧が1.185Vである場合には20mAに設定することができる。
一方、電流変動幅(電流波形(α)の波高値)ΔIが一定の大きさより小さい場合には、駆動用直流モータ11を起動することができなかった、換言すれば、駆動ロッド15が圧縮変形過程におけるダイヤフラム21の抗力が最大となる最大歪み位置(D)を越えることができずにロック状態となっていると判断され、次いで、駆動用直流モータ11の起動の失敗がポンプ異常によるものか否かの判定処理(S6)が、駆動用直流モータ11の起動失敗回数に基づいて、行われる。
【0034】
この判定処理(S6)においては、駆動用直流モータ11の起動失敗回数が所定回数以下である場合には、再度、予備駆動工程(S2)およびこれに続いて通常駆動工程(S3)が行われる。一方、駆動用直流モータ11の起動失敗回数が所定回数を超える場合には、ダイヤフラムポンプ装置10自体に異常があるものと判断され(S7)、点検等の注意が促される。ここに、判定基準となる起動失敗回数nは、例えば10回に設定することができる。
【0035】
以上において、駆動ロッド15が正転方向に対してダイヤフラム21の膨張変形過程においてダイヤフラム21の抗力が最大となる位置より正転回転方向下流側の低歪み位置(E)に停止された状態から駆動用直流モータ11を起動させる場合においても、上記と同様のモータ駆動制御が行われる。
【0036】
以上のような駆動方法によってダイヤフラムポンプ装置10が駆動されて被検ガスがガスセンサ30に供給されることにより、検知対象ガスの濃度検知がガスセンサ30により行われ、その検知結果が表示部56に表示されると共にガス濃度が所定の値を超えることが検出された場合には警報部57による警報動作がなされる。
【0037】
而して、上記構成のダイヤフラムポンプ装置10によれば、駆動ロッド15がダイヤフラム21の圧縮変形過程におけるダイヤフラム21の抗力が最大となる最大歪み位置より正転回転方向下流側の低歪み位置に停止されている状態において、駆動用直流モータ11の始動に際して、駆動用直流モータ11を逆転方向に回転駆動させる予備駆動工程が行われてダイヤフラム21がポンプ室Sを膨張させる方向に変形されることにより、通常駆動工程実行時においてダイヤフラム21の弾性による正転方向の回転に寄与する、いわば補助的な回転エネルギーが得られるので、後述する実験例の結果にも示されるように、駆動用直流モータ11自体に必要とされるトルクを得るための正転駆動電圧を小さくすることができて省電力化を図ることができると共に、ダイヤフラム21の最大抗力以上のトルクを確実に得ることができて優れた起動性を得ることができる。
【0038】
偏心部材13がバランスウェイト部分13Bを有することにより、正転方向の回転によるバランスウェイト部分13Bの慣性の作用によって、駆動用直流モータ11の起動性を一層向上させることができると共に、駆動用直流モータ11の回転の安定化を図ることができる。
【0039】
上記ダイヤフラムポンプ装置10を具えてなる携帯防爆型のガス検知器によれば、防爆仕様を満足するものとして構成することができ、しかも、ダイヤフラムポンプ装置10を確実に駆動することができて所期のガス検知を確実に行うことができる。
【0040】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例について説明する。
図2および図3に示す構成に従って、ダイヤフラムポンプ装置を作製した。このダイヤフラムポンプ装置の仕様は次に示す通りである。
【0041】
〔駆動用直流モータ(11)〕
定格電圧:3VDC、
定格負荷:0.196mN・m、
定格回転数:3000rpm±12%、
定格電流:65mA以下、
最大抗力:0.175mN・m
〔ダイヤフラムポンプ(20)〕
ダイヤフラム(21);材質:EPDM(エチレンプロピレンゴム)、硬度(ショア硬さHS)が70°、
偏心部材(13);円形偏心カム部分(13A)の駆動用直流モータの出力軸に対する偏心量d(駆動ロッドのストローク量):0.65mm、バランスウェイト部分(13B)の重量:0.3342g、
最大吐出流量:0.6L/min
【0042】
<実験例1>
上記ダイヤフラムポンプ装置における駆動ロッドをダイヤフラムの圧縮変形過程におけるダイヤフラムの抗力が最大となる最大歪み位置より正転回転方向下流側の低歪み位置で停止させた状態とし、図4に示すモータ駆動制御回路によって、下記条件での予備駆動工程および通常駆動工程を連続して行うモータ駆動制御を行うことにより駆動用直流モータの起動性確認試験を行った。結果を図8に示す。なお、起動性確認試験は25℃の環境下で行った。
予備駆動工程における逆転駆動電圧(V1)は、1.05V(正転駆動電圧(V2)の88.6%の大きさ)、逆転駆動時間が20msecであり、通常駆動工程における正転駆動電圧(V2)が1.185V(ダイヤフラムの最大抗力の82.3%程度のトルクを得ることのできる大きさ)である。
【0043】
図8に示されるように、動作状態監視機構によって検出される電流値の変動幅ΔIは約20mAであり(波形(α))、波形(β)に示されるように、ダイヤフラムポンプ装置を安定して駆動させることができることが確認された。
【0044】
<比較実験例1>
上記実験例1において、予備駆動工程を行わずに、通常駆動工程のみを行うモータ駆動制御により駆動用直流モータを起動させたことの他は、実験例1と同様の駆動用直流モータの起動性確認試験を行った。結果を図9に示す。
【0045】
図9に示されるように、動作状態監視回路によって検出される電流値の変動幅は実質的に0mAであり(波形(α))、波形(β)に示されるように、ダイヤフラムポンプ装置を駆動させることができず、駆動用モータが停止してしまったことが確認された。
【0046】
以上のように、本発明に係る実験例1のモータ駆動制御によれば、ダイヤフラムの最大抗力以下のトルクとなる1.184Vの正転駆動電圧であっても、駆動用直流モータを起動させることができて省電力化を図ることができることが確認された。この理由は、予備駆動工程による逆転方向への回転駆動によって、正転方向回転開始位置が、低歪み位置(停止位置)からダイヤフラムの圧縮変形過程におけるダイヤフラムの抗力が最大となる最大歪み位置までの範囲内の位置に移動され、これにより、正転方向に回転させる際に、駆動用直流モータ自体の正転駆動電圧によるトルクの、ダイヤフラムの最大抗力に相当するトルクに対する不足分を超える大きさのトルクに相当するダイヤフラムの弾性による正転方向の回転に寄与する回転エネルギーを得ることができたためであると考えられる。
一方、比較実験例1の、正転方向に回転させる通常駆動工程のみによるモータ駆動制御では、駆動用直流モータを1.184Vの正転駆動電圧では起動させることができず、このようなモータ駆動制御によって駆動用直流モータを起動させるために必要とされる駆動電圧は、1.440Vであることが確認された。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、逆転駆動電圧、逆転駆動時間、正転駆動電圧およびその他の条件は、目的に応じて適宜に設定することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 ダイヤフラムポンプ装置
11 駆動用直流モータ
11A 出力軸
12 ベアリング(玉軸受け)
13 偏心部材
13A 円形偏心カム部分
13B バランスウェイト部分
15 駆動ロッド
15A 円筒状保持部
20 ダイヤフラムポンプ
21 ダイヤフラム
22 ポンプチャンバー
23 固定用部材
23A 板状部分
25 ヘッド部
26 逆止弁
27A ガス吸引部
27B ガス吐出部
30 ガスセンサ
31 オペアンプ
35 ガス検知部
38 動作状態監視機構
39 増幅器
40 電源回路
41 電流制限素子
42 ガス検知器本体駆動回路
45 モータ駆動制御回路
46 駆動電圧可変回路
50 駆動用電源
55 CPU
56 表示部
57 警報部
58 操作部
S ポンプ室
SW1,SW2,SW3,SW4 スイッチ素子
SNS 抵抗
Ra 回転中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスセンサに被検ガスを供給するためのダイヤフラムポンプ装置であって、
駆動用直流モータと、この駆動用直流モータの出力軸に偏心状態で固定された偏心部材と、弾性部材よりなるダイヤフラムと、先端部が偏心部材に連結されると共に基端部がダイヤフラムに固定された駆動ロッドとを具え、通常駆動状態において駆動用直流モータが正転方向に回転駆動されることによりダイヤフラムが往復動されると共に、駆動用直流モータが停止されることによりダイヤフラムの歪み量が小さい低歪み位置で停止されるよう構成されてなり、
駆動用直流モータの始動に際して、駆動用直流モータを逆転方向に駆動させる予備駆動工程と、この予備駆動工程により停止した駆動用直流モータをダイヤフラムの最大抗力以下のトルクとなる正転駆動電圧で正転方向に駆動する通常駆動工程とが行われ、予備駆動工程においては、駆動用直流モータが正転駆動電圧より小さい逆転駆動電圧で駆動され、ダイヤフラムが通常駆動工程において最初にダイヤフラムの歪み量が最大となる変形方向とは逆方向に変形されることを特徴とするガス検知器のダイヤフラムポンプ装置。
【請求項2】
偏心部材はバランスウェイト部分を有することを特徴とする請求項1に記載のガス検知器のダイヤフラムポンプ装置。
【請求項3】
予備駆動工程に続く通常駆動工程が継続して行われず、駆動用直流モータが回転されない場合に、再度予備駆動工程およびこれに続いて通常駆動工程が行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス検知器のダイヤフラムポンプ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のガス検知器のダイヤフラムポンプ装置を具えてなり、
駆動用電源として電池が用いられ、当該電池よりの電力が電流制限手段を介してダイヤフラムポンプ装置に供給されることを特徴とする携帯防爆型ガス検知器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−38469(P2011−38469A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186314(P2009−186314)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】