説明

ガス濃度算出装置およびガス濃度計測モジュール

【課題】測定環境が変動しても、ガス濃度をより精度よく算出するガス濃度算出装置を提供する。
【解決手段】ガス濃度計測モジュール2は、サンプルガス50が導入される昇温側導入空間11を形成する昇温側ガスセル10と、サンプルガス50が導入される常温側導入空間61を形成する常温側ガスセル60と、赤外光源21と、昇温側導入空間11を通った赤外光を受光する参照光受光素子31と、常温側導入空間61を通った赤外光を受光する信号光受光素子32と、昇温側導入空間11内のサンプルガス50の濃度と、常温側導入空間61内のサンプルガス50の濃度とを、互いに異なる濃度に変換する濃度変換手段と、を備える。算出回路3は、ガス濃度計測モジュール2の参照光受光素子31が受光した光のエネルギー値と信号光受光素子32が受光した赤外光のエネルギー値との比に基づき、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NDIR(非分散型赤外線吸収)法を利用してガスの濃度算出を行うガス濃度算出装置およびガス濃度計測モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、二酸化炭素などのガスの濃度を算出するガス濃度算出装置が空調システムの分野などで導入されている。このガス濃度算出装置での算出結果に基づいて換気のON/OFFなどを制御することにより、空調システムを効率よく作動させ、消費電力の低減を図ることが行われている。このようなガス濃度算出装置にはNDIR(非分散型赤外線吸収)法が用いられており、NDIR(非分散型赤外線吸収)法とは、赤外光が対象ガス中を通る際の減衰に基づいてガスの濃度を算出する手法である。
【0003】
NDIR(非分散型赤外線吸収)法を用いたガス濃度算出装置として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。このガス濃度算出装置は、単一光源からの光をガスセル内に照射し、ガスセル内を通った光を第1の検出器と第2の検出器によって検出している。第1の検出器は、被測定ガス領域と、測定ガス室内に封入された不活性ガス領域と、からなる光路を通過した光を検出している。第2の検出器は、被測定ガス領域と、比較ガス室内に封入された被測定ガスと同種のガス領域と、からなる光路を通過した光を検出している。また、照射光量の増減を第2の検出器で検出し、第1の検出器の出力を校正することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、シリンダ内のサンプルガス濃度を検出するガス濃度算出装置が記載されている。ここでは、シリンダ内を往復動するピストンのヘッドに反射鏡を設けると共に、シリンダのヘッドにはシリンダ内に向けて光源と検出器とを配置する。このような構成により、光源から発せられ且つピストン上の反射鏡で反射された光が検出器で受光される。ピストンの往復動に伴って、反射鏡を経由する光源から検出器までの光路長が変化するため、検出器に受光されるエネルギーが変化する。そして、検出器から出力される出力値の変化に基づいて、サンプルガスの濃度が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−256242号公報
【特許文献2】特開平5−180760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1に記載されたガス濃度算出装置は、被測定ガスと同種のガスが封入された比較ガス室などを別途配置する必要がある。また、複数の被測定ガスを検出対象とする場合、被測定ガス毎に複数の比較ガス室が必要になる。またガスによっては比較ガス室に充填することが困難な場合もある。
【0007】
また、引用文献2に記載されたガス濃度算出装置では、光路長を変化させるために、ピストンの往復動を用いているため、同時に異なる光路長の光を検出することは原理的に不可能である。また、ピストンの作動による振動等の影響により、ピストンが光路長方向に移動し、光路長が変化することによる測定誤差が発生してしまうといった問題がある。
【0008】
そこで本発明は、多種多様なガス濃度をより精度よく算出することができるガス濃度算出装置およびガス濃度計測モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るガス濃度算出装置は、ガス濃度計測モジュールおよびガス濃度算出モジュールを備え、対象ガスの濃度を算出するガス濃度算出装置であって、前記ガス濃度計測モジュールは、前記対象ガスが導入される第1の導入空間を形成する第1のガスセルと、前記対象ガスが導入される第2の導入空間を形成する第2のガスセルと、前記第1のガスセルおよび第2のガスセルの一端に配置された光源と、前記第1のガスセルの他端に配置され、前記光源から放射されて前記第1の導入空間を通った光を受光する参照光受光手段と、前記第2のガスセルの他端に配置され、前記光源から放射されて前記第2の導入空間を通った光を受光する信号光受光手段と、前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換する濃度変換手段と、を備え、前記ガス濃度算出モジュールは、前記ガス濃度計測モジュールの前記信号光受光手段が受光した前記光のエネルギー値と前記参照光受光手段が受光した前記光のエネルギー値との比に基づき、前記対象ガスの前記濃度を算出する、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るガス濃度計測モジュールは、対象ガスの濃度を算出するガス濃度算出装置におけるガス濃度計測モジュールであって、前記対象ガスが導入される第1の導入空間を形成する第1のガスセルと、前記対象ガスが導入される第2の導入空間を形成する第2のガスセルと、前記第1のガスセルおよび第2のガスセルの一端に配置された光源と、前記第1のガスセルの他端に配置され、前記光源から放射されて前記第1の導入空間を通った光を受光する参照光受光手段と、前記第2のガスセルの他端に配置され、前記光源から放射されて前記第2の導入空間を通った光を受光する信号光受光手段と、前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換する濃度変換手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明では、参照光受光手段は、第1の導入空間を通った光を受光する。信号光受光手段は、第2の導入空間を通った光を受光する。また、濃度変換手段により、第1の導入空間内の対象ガスの濃度と、第2の導入空間内の対象ガスの濃度とは、互いに異なる濃度に変換される。このため、信号光受光手段および参照光受光手段によって、対象ガスの濃度が異なる導入空間内を通った光、即ち、対象ガスによる吸収量が異なる光を同時に測定することができる。
【0012】
また、この発明では、引用文献1に記載されたガス濃度算出装置のように、被測定ガスと同種ではあるが飽和状態のため異なる変化特性を示すガスが封入された比較ガス室などを用いることなく、吸収量の異なる光を測定することができる構成である。特に、この発明では、第1のガスセルと第2のガスセルに同じ対象ガスを導入して互いに異なる濃度に変換したものであり、引用文献1のように、最初から異なる変化特性のガス(比較ガス室内のガス)を用意したものではない。そのため、光源の光量や温度等に変動があった場合であっても、第1のガスセルおよび第2のガスセル内の対象ガスは温度が異なるものの同じガスであるため、信号光受光手段および参照光受光手段における測定値の変化特性が同じとなる。このように、信号光受光手段および参照光受光手段における測定値の変化特性が同じであるため、これらの測定値に基づいて、光源の光量や温度等による測定値の変動を容易に相殺することができ、ガス濃度をより精度よく算出することが可能となる。
【0013】
また、この発明では、光路長を変化させるために振動等を伴わず、当該振動による位置ずれや付加的なノイズなどが無いので、ガス濃度計測モジュールの光検出精度の低下を防止できる。
【0014】
また、前記濃度変換手段は、前記第1のガスセルに付設された第1のヒータを備え、前記第1のヒータによって、前記第1の導入空間内の前記対象ガスを昇温することにより、前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換する、ことが好ましい。
【0015】
この発明では、第1のヒータによって、第1の導入空間内の対象ガスを昇温することにより、第1の導入空間内の対象ガスは、第2の導入空間内の対象ガスと比較して濃度が低くなる。このように、熱を加えることによって対象ガスが膨張することを利用して、第1の導入空間内の対象ガスの濃度と、第2の導入空間内の対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に容易に変換することができる。
【0016】
また、前記濃度変換手段は、前記第1のガスセルに付設された第1のヒータと、前記第2のガスセルに付設された第2のヒータとを備え、前記第1の導入空間内の前記対象ガスと前記第2の導入空間内の前記対象ガスとを異なる温度に昇温することにより、前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換する、ことが好ましい。
【0017】
この発明では、第1のヒータと第2のヒータによって、第1の導入空間内の対象ガスと第2の導入空間内の対象ガスとを異なる温度に昇温することにより、第1の導入空間内の対象ガスと、第2の導入空間内の対象ガスとが、互いに異なる濃度となる。このように、熱を加えることによって対象ガスが膨張することを利用して、第1の導入空間内の対象ガスの濃度と、第2の導入空間内の対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に容易に変換することができる。
【0018】
また、前記ガス濃度計測モジュールは、前記第1のガスセルと、前記第2のガスセルと、の間に配置された断熱部材を更に備えることが好ましい。
【0019】
この発明では、断熱部材を備えることにより、第1のガスセルと第2のガスセルとの間での熱の伝わりが防止され、対象ガスを効率よく昇温することができるとともに、第1のガスセル内の対象ガスと第2のガスセル内の対象ガスとの温度差をより確実に保つことができる。
【0020】
また、前記濃度変換手段は、前記光源から放射された光に対して不活性な不活性ガスを前記第1の導入空間内に導入する不活性ガス供給部を更に備え、前記不活性ガス供給部から前記第1の導入空間内に前記不活性ガスを導入することにより、前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換することが好ましい。
【0021】
この発明では、第1の導入空間内に不活性ガスを導入したので、第1の導入空間内の対象ガスは、第2の導入空間内の対象ガスと比較して濃度が低くなる。このように、不活性ガスを第1の導入空間内に導入することで、第1の導入空間内の対象ガスの濃度と、第2の導入空間内の対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に容易に変換することができる。また、不活性ガスは、光源から放射された光に対して不活性であるため、光源の光量や温度等に変動があった場合であっても、参照光受光手段における測定値の変化特性に影響を与えない。このため、光源の光量や温度等に変動があった場合であっても、第1のガスセルおよび第2のガスセル内の対象ガスは濃度が異なるものの同じガスであるため、信号光受光手段および参照光受光手段における測定値の変化特性が同じとなる。よって、光源の光量や温度等による測定値の変動を容易に相殺して、ガス濃度をより精度よく算出することが可能となる。
【0022】
また、前記不活性ガスは、アルゴン、キセノン、窒素の少なくともいずれかを含むものであることが好ましい。
【0023】
この発明では、アルゴン、キセノン、窒素を光が通るときに減衰しない現象を用いて、対象ガスの特性を変化させることなく、希釈を行うことができる。
【0024】
また、前記光源と前記受光手段との間の光路上に配置され、所定波長の光のみを通過させるバンドパスフィルタを更に備えることが好ましい。
【0025】
この発明では、バンドパスフィルタにより信号光受光手段および参照光受光手段がそれぞれ受光する光を同一波長とすることができ、信号光受光手段および参照光受光手段がそれぞれ受光する光の波長が異なることによる光検出精度の低下を防止できる。
【0026】
また、前記光源は、赤外線を放射するものであることが好ましい。
【0027】
この発明では、赤外線が対象ガスを通るときにエネルギーが減衰する現象を用いて、対象ガスの濃度を算出することができる。
【0028】
また、前記対象ガスは二酸化炭素であることが好ましい。
【0029】
この発明では、光が二酸化炭素を通るときにエネルギーが減衰する現象を用いて、対象ガスの濃度を算出することができる。
【0030】
また、前記対象ガスの前記濃度と前記比との相関関係を示すデータベースまたは近似式を予め格納する格納手段を更に備え、前記ガス濃度算出モジュールは、前記データベースまたは前記近似式に基づき、前記比に相応する前記濃度を算出する、ことが好ましい。
【0031】
この発明では、予め用意したデータベースまたは近似式に基づき、対象ガスの濃度を精度よく算出することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、測定環境が変動しても、ガス濃度をより精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施形態に係るガス濃度算出装置を示す概略断面図である。
【図2】濃度と比の相関関係を示すデータベースを表す図である。
【図3】濃度と比の相関関係を示すグラフを表す図である。
【図4】ガス濃度算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】第2の実施形態に係るガス濃度算出装置を示す概略断面図である。
【図6】第3の実施形態に係るガス濃度算出装置を示す概略断面図である。
【図7】濃度と比の相関関係を示すデータベースを表す図である。
【図8】濃度と比の相関関係を示すグラフを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るガス濃度算出装置およびガス濃度計測モジュールの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0035】
[第1の実施形態]
(ガス濃度算出装置1の全体構成)
まず、第1の実施形態に係るガス濃度算出装置1の全体構成について説明する。図1は、ガス濃度算出装置を示す概略断面図である。ガス濃度算出装置1は、赤外光源21(特許請求の範囲の「光源」に相当)からの赤外光を受光し、そのエネルギーを測定するガス濃度計測モジュール2と、ガス濃度計測モジュール2による測定結果に基づいてガス濃度を算出する算出回路3(特許請求の範囲の「ガス濃度算出モジュール」に相当)と、算出回路3がガス濃度を算出する際の情報を格納している格納部4(特許請求の範囲の「格納手段」に相当)とを含んで構成され、対象ガスの濃度を算出するものである。算出回路3によって算出されたガス濃度は、図示しない制御装置などに出力され、例えば空調システムなどの制御に利用される。なお、本実施形態では、ガス濃度計測モジュール2に導入されるサンプルガス中の二酸化炭素を濃度算出の対象ガスとした場合の例について説明する。
【0036】
ガス濃度計測モジュール2は、内部にサンプルガス50が導入される昇温側導入空間11(特許請求の範囲の「第1の導入空間」に相当)を形成する昇温側ガスセル10(特許請求の範囲の「第1のガスセル」に相当)と、内部にサンプルガス50がそのまま導入される常温側導入空間61(特許請求の範囲の「第2の導入空間」に相当)を形成する常温側ガスセル60(特許請求の範囲の「第2のガスセル」に相当)と、昇温側ガスセル10および常温側ガスセル60の一端に配置された光源部20と、昇温側ガスセル10および常温側ガスセル60の他端に配置されて光源部20から放射された光を受光する受光部30(特許請求の範囲の「信号光受光手段および参照光受光手段」に相当)と、を含んで構成される。
【0037】
また、ガス濃度計測モジュール2は、昇温側ガスセル10に付設されたヒータ15(特許請求の範囲の「第1のヒータ、濃度変換手段」に相当)と、昇温側ガスセル10と常温側ガスセル60との間に配置された断熱部材70とを、更に備える。ヒータ15は、昇温側導入空間11内のサンプルガス50を昇温させる。なお、第1の実施形態では、昇温側導入空間11に導入されるサンプルガス50(常温:例えば、25度)を、ヒータ15によって10度昇温し、昇温後サンプルガス51を得るものとする。従って、昇温側導入空間11内の昇温後サンプルガス51は、二酸化炭素の濃度を測定しようとするサンプルガス50と同じガスである常温側導入空間61内のサンプルガス50よりも10度高い温度となる。
【0038】
昇温側ガスセル10は、昇温側ガスセル10の一端側において、昇温側導入空間11内にサンプルガス50を導入するためのガス導入部12が設けれ、昇温側ガスセル10の他端側において、昇温側導入空間11内の昇温後サンプルガス51を外部へ排出するためのガス排出部13が設けられている。また、常温側ガスセル60には、常温側ガスセル60の一端側において、常温側導入空間61内にサンプルガス50を導入するためのガス導入部62が設けれ、常温側ガスセル60の他端側に、常温側導入空間61内に導入されたサンプルガス50を外部へ排出するためのガス排出部63が設けられている。
【0039】
なお、図示はしないが、ガス導入部12およびガス導入部62は、サンプルガス50を導入するための同一の導入管に接続されており、昇温側ガスセル10および常温側ガスセル60内に同じサンプルガス50が導入される。なお、図1において、昇温側ガスセル10および常温側ガスセル60内の点は、ガスの分子を示すものであり、点の密度が濃い部分は密度が薄い部分と比較してガスの濃度が濃いものとする。また、後述の図5,図6についても、図1と同様に、ガスセル内の点によってガスの濃度を示すものとする。
【0040】
光源部20は、昇温側ガスセル10および常温側ガスセル60に結合される筐体25と、筐体25内に配置された赤外光源21と、筐体25において赤外光源21と対向する部位に形成されて赤外光源21が放射する赤外光を筐体25の外部へ導くための開口部26と、開口部26を覆う窓部材23と、を含んで構成される。赤外光源21から放射された赤外光は、窓部材23を通って昇温側ガスセル10内および常温側ガスセル60内に導入される。ここで、赤外光源21は、4.2μm〜4.3μmの波長域の光を放射するものを用いる。また、窓部材23は、赤外線に対して高い透過性を有する材料によって構成されている。
【0041】
受光部30は、基板35上に配置された参照光受光素子31(特許請求の範囲の「参照光受光手段」に相当)および信号光受光素子32(特許請求の範囲の「信号光受光手段」に相当)と、参照光受光素子31および信号光受光素子32を覆うキャップ36と、キャップ36から参照光受光素子31と信号光受光素子32の間の領域に延びる仕切壁37と、キャップ36における参照光受光素子31および信号光受光素子32と対向する部位にそれぞれ形成された開口部38と、開口部38を覆うバンドパスフィルタ39と、を含んで構成される。参照光受光素子31および信号光受光素子32は、受光した赤外光のエネルギー値を、算出回路3へ出力する。バンドパスフィルタ39は、4.2μm〜4.3μmの波長域の光のみが透過するものを用いる。また、参照光受光素子31は、昇温側ガスセル10の他端と対向し、信号光受光素子32は、常温側ガスセル60の他端と対向している。
【0042】
また、図示はしないが、バンドパスフィルタ39を図1に示した位置に設けない場合には、図1の窓部材23の場所にバンドパスフィルタを設けても良い。つまり、バンドパスフィルタの配置場所は、光源部20と受光部30との間の光路上に配置されるのであれば、特に限定はしない。
【0043】
以上の構成により、赤外光源21から放射された赤外光のうち、参照光受光素子31に入射する赤外光は、昇温側導入空間11内において10度昇温された昇温後サンプルガス51を通る。信号光受光素子32に入射する赤外光は、常温側導入空間61内のサンプルガス50を通る。この様に、参照光受光素子31によって受光される赤外光は、信号光受光素子32によって受光される赤外光と比較して、熱膨張によって濃度が低くなった昇温後サンプルガス51を通る。即ち、参照光受光素子31および信号光受光素子32は、サンプルガス50(50,51)の濃度が異なることにより、サンプルガス50(50,51)中の二酸化炭素によって吸収される量が異なる赤外光を同時に受光することができる。なお、昇温後サンプルガス51はサンプルガス50に対して濃度が低く、赤外光が通った場合に、二酸化炭素による吸収量が少ない。そのため、参照光受光素子31は、信号光受光素子32と比較して、高いエネルギー値の赤外光を受光する。
【0044】
(格納部4の格納情報)
次に、格納部4が格納する情報について説明する。格納部4には、二酸化炭素の濃度と、参照光受光素子31および信号光受光素子32が受光する赤外光のエネルギー値の比と、の相関関係を示す近似式が予め格納されている。
【0045】
一般に、光源からの赤外線エネルギー値をI、受光手段に到達する赤外線エネルギー値をI、光源から受光手段までの光路長さをl、対象ガスの濃度をC、吸収係数をμとすると、ランバート・ベールの法則により、以下の式(1)に示す関係が成り立つ。
I=Iexp(−μ・C・l)…(1)
【0046】
上記関係に基づき、ランバート・ベールの法則を用いて、昇温側導入空間11および常温側導入空間61に導入されるサンプルガス50内の二酸化炭素の濃度C毎に、参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aと、信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bとを予め算出する。
【0047】
まず、信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bを算出する場合には、既知のI,μ,C,lを上記式(1)に代入し、Iを求めることにより、エネルギー値Bを算出する。ここで、上記式(1)において、濃度Cは、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度を表すものである。
【0048】
次に、参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aについても、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度C毎に、上記式(1)を用いて算出する。このとき、参照光受光素子31が受光する赤外光は、昇温後サンプルガス51を通る。従って、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cから、昇温後サンプルガス51中の二酸化炭素の濃度C1を算出する。算出した濃度C1と、既知のI,μ,lを上記式(1)に代入し、Iを求めることにより、エネルギー値Aを算出する。これにより、二酸化炭素の濃度Cのサンプルガス50を昇温側導入空間11内に導入した場合において、参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aを、式(1)を用いて算出することができる。なお、昇温後サンプルガス51は、サンプルガス50よりも10度高い温度となっている。従って、例えば、気体の状態方程式PV=nRTを用いることにより、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cから、昇温後サンプルガス51中の二酸化炭素の濃度C1を計算によって求めることができる。または、濃度Cと濃度C1とを個別に測定した後に、式(1)をそれぞれ用いてエネルギー値A,Bを求めてもよい。
【0049】
更に、エネルギー値Bとエネルギー値Aの比(B/A)を算出する。これらの算出した値と、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度とを対応付け、図2に示すように、二酸化炭素の濃度とエネルギー値の比の相関関係を示すデータベースを作成する。更に、図2に示すデータベースより、図3に示す二酸化炭素の濃度とエネルギー値の比の相関関係を示すグラフを求め、エネルギー値の比(B/A)と二酸化炭素の濃度との近似式(例えば、濃度=f(比))を算出する。算出した近似式は、格納部4に格納しておく。
【0050】
なお、図2のデータベースでは、データベース作成の便宜上、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度がゼロppmの時のエネルギー値A,Bが1となるように規格化してある。
【0051】
参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aと信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bの比と、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度とが対応していることにより、算出した近似式を用いて、参照光受光素子31および信号光受光素子32が実際に受光した光のエネルギー値の比に基づいて、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0052】
(二酸化炭素の濃度算出処理)
次に、参照光受光素子31および信号光受光素子32が受光した光のエネルギー値より、算出回路3が、二酸化炭素の濃度を算出する処理の流れについて説明する。なお、算出回路3は、CPU等を含んで構成された回路である。図4は、二酸化炭素濃度算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
ステップS101において算出回路3は、参照光受光素子31で受光された光のエネルギー値Aと信号光受光素子32で受光された光のエネルギー値Bとを取得する。
【0054】
次に、ステップS102において算出回路3は、取得したエネルギー値Bとエネルギー値Aの比(B/A)を算出する。ステップS103において算出回路3は、格納部4に格納された近似式を用いて、ステップS102で算出した比(B/A)から二酸化炭素の濃度を算出する。近似式を用いて濃度を算出することにより、算出処理を容易に行うことができる。
【0055】
ステップS104において算出回路3は、算出された二酸化炭素の濃度を示す信号を、図示しない制御装置などに出力する。二酸化炭素の濃度を示す信号は、例えば、制御装置において空調の制御等に利用される。
【0056】
(第1の実施形態の作用・効果)
第1の実施形態において、参照光受光素子31は、昇温側導入空間11を通った赤外光を受光する。信号光受光素子32は、常温側導入空間61を通った赤外光を受光する。また、ヒータ15により、昇温側導入空間11内に導入されるサンプルガス50の温度を所定の温度に昇温して昇温後サンプルガス51を得る。これにより、昇温後サンプルガス51内の二酸化炭素の濃度と、常温側導入空間61内のサンプルガス50内の二酸化炭素の濃度とは、互いに異なる濃度となる。このため、参照光受光素子31および信号光受光素子32によって、二酸化炭素の濃度が異なる導入空間(昇温側導入空間11,常温側導入空間61)内を通った赤外光、即ち、二酸化炭素による吸収量が異なる赤外光を同時に測定することができる。
【0057】
また、ガス濃度算出装置1は、引用文献1に記載されたガス濃度算出装置のように、被測定ガスと同種ではあるが飽和状態のため異なる変化特性を示すガスが封入された比較ガス室などを用いることなく、吸収量の異なる赤外光を測定することができる構成である。特に、昇温側ガスセル10と常温側ガスセル60に同じサンプルガス50を導入して互いに異なる濃度に変換したものであり、引用文献1のように、最初から異なる変化特性のガス(比較ガス室内のガス)を用意したものではない。そのため、赤外光源21の光量や温度等に変動があった場合であっても、昇温後サンプルガス51とサンプルガス50とは温度が異なるものの同じガスであるため、参照光受光素子31および信号光受光素子32における測定値の変化特性が同じとなる。このように、参照光受光素子31および信号光受光素子32における測定値の変化特性が同じであるため、これらの測定値に基づいて、赤外光源21の光量や温度等による測定値の変動を容易に相殺することができ、ガス濃度をより精度よく算出することが可能となる。
【0058】
また、光路長を変化させるために振動等を伴わず、当該振動による位置ずれや付加的なノイズなどが無いので、ガス濃度計測モジュールの光検出精度の低下を防止できる。
【0059】
また、ガス濃度算出装置1は、ヒータ15によって、昇温側導入空間11に導入されたサンプルガス50を昇温して昇温後サンプルガス51を得ることにより、昇温側導入空間11内の昇温後サンプルガス51は、常温側導入空間61内のサンプルガス50と比較して濃度が低くなる。このように、熱を加えることによって気体が膨張することを利用して、昇温側導入空間11内の昇温後サンプルガス51中の二酸化炭素の濃度と、常温側導入空間61内のサンプルガス50中の二酸化炭素の濃度とを、互いに異なる濃度に容易に変換することができる。
【0060】
また、断熱部材70を備えることにより、昇温側ガスセル10と常温側ガスセル60との間での熱の伝わりが防止され、サンプルガス50を効率よく昇温することができる。また、昇温後サンプルガス51と常温側ガスセル60内のサンプルガス50の温度差をより確実に保つことができる。
【0061】
また、バンドパスフィルタ39により、参照光受光素子31および信号光受光素子32がそれぞれ受光する光を同一波長とすることができ、参照光受光素子31および信号光受光素子32がそれぞれ受光する光の波長が異なることによる光検出精度の低下を防止できる。
【0062】
また、赤外光源21が赤外線を放射することにより、赤外線がサンプルガス50および昇温後サンプルガス51を通るときに二酸化炭素によってエネルギーが減衰する現象を用いて、サンプルガス50および昇温後サンプルガス51中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0063】
また、赤外光がサンプルガス50および昇温後サンプルガス51中の二酸化炭素を通るときにエネルギーが減衰する現象を用いて、サンプルガス50および昇温後サンプルガス51中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0064】
また、予め、格納部4内に近似式を格納しておくことにより、近似式に基づいて対象ガスの濃度を精度よく算出することができる。
【0065】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、参照光受光素子31に入射する赤外光が通るサンプルガス50と、信号光受光素子32に入射する赤外光が通るサンプルガス50と、を個別のヒータによって昇温させるものである。
【0066】
(ガス濃度算出装置1Aの全体構成)
まず、第2の実施形態に係るガス濃度算出装置1Aの全体構成について説明する。図5は、ガス濃度算出装置を示す概略断面図である。ガス濃度算出装置1Aは、赤外光源21(特許請求の範囲の「光源」に相当)からの赤外光を受光し、そのエネルギーを測定するガス濃度計測モジュール2Aと、ガス濃度計測モジュール2Aによる測定結果に基づいてガス濃度を算出する算出回路3(特許請求の範囲の「ガス濃度算出モジュール」に相当)と、算出回路3がガス濃度を算出する際の情報を格納している格納部4(特許請求の範囲の「格納手段」に相当)とを含んで構成され、対象ガスの濃度を算出するものである。算出回路3によって算出されたガス濃度は、図示しない制御装置などに出力され、例えば空調システムなどの制御に利用される。なお、本実施形態では、ガス濃度計測モジュール2Aに導入されるサンプルガス中の二酸化炭素を濃度算出の対象ガスとした場合の例について説明する。
【0067】
ガス濃度計測モジュール2Aは、内部にサンプルガス50が導入される高温側導入空間11A(特許請求の範囲の「第1の導入空間」に相当)を形成する高温側ガスセル10A(特許請求の範囲の「第1のガスセル」に相当)と、内部にサンプルガス50が導入される低温側導入空間61A(特許請求の範囲の「第2の導入空間」に相当)を形成する低温側ガスセル60A(特許請求の範囲の「第2のガスセル」に相当)と、高温側ガスセル10Aおよび低温側ガスセル60Aの一端に配置された光源部20と、高温側ガスセル10Aおよび低温側ガスセル60Aの他端に配置されて光源部20から放射された光を受光する受光部30(特許請求の範囲の「信号光受光手段および参照光受光手段」に相当)とを含んで構成される。なお、図示はしないが、ガス導入部12およびガス導入部62は、サンプルガス50を導入するための同一の導入管に接続されており、高温側ガスセル10Aおよび低温側ガスセル60A内に同じサンプルガス50が導入される。
【0068】
また、ガス濃度計測モジュール2Aは、高温側ガスセル10Aに付設された高温側ヒータ15A(特許請求の範囲の「第1のヒータ、濃度変換手段」に相当)と、低温側ガスセル60Aに付設された低温側ヒータ65A(特許請求の範囲の「第2のヒータ、濃度変換手段」に相当)と、高温側ガスセル10Aと低温側ガスセル60Aとの間に配置された断熱部材70とを、更に備える。高温側ヒータ15Aは、高温側ガスセル10Aの高温側導入空間11A内に導入されたサンプルガス50を第1の所定温度まで昇温させる。これにより、常温状態のサンプルガス50から、第1の所定温度の高温サンプルガス51Aを得ることができる。また、低温側ヒータ65Aは、低温側ガスセル60Aの低温側導入空間61A内に導入されたサンプルガス50を、第1の所定温度よりも低い第2の所定温度まで昇温させる。これにより、常温状態のサンプルガス50から、第2の所定温度の低温サンプルガス52Aを得ることができる。なお、第2の実施形態では、高温側導入空間11A内の高温サンプルガス51Aが、低温側導入空間61A内の低温サンプルガス52Aに対して10度高い温度となるように、高温側ヒータ15Aと低温側ヒータ65Aとが制御されているものとする。
【0069】
高温側ガスセル10Aは、高温側ガスセル10Aの一端側に、高温側導入空間11A内にサンプルガス50を導入するためのガス導入部12が設けれ、高温側ガスセル10Aの他端側に、高温側導入空間11Aの高温サンプルガス51Aを外部へ排出するためのガス排出部13が設けられている。また、低温側ガスセル60Aには、低温側ガスセル60Aの一端側に、低温側導入空間61A内にサンプルガス50を導入するためのガス導入部62が設けられ、低温側ガスセル60Aの他端側に、低温側導入空間61A内の低温サンプルガス52Aを外部へ排出するためのガス排出部63が設けられている。
【0070】
なお、光源部20および受光部30の構成は、第1の実施形態と同様であるため、同一番号を付して説明を省略する。
【0071】
以上の構成により、赤外光源21から放射された赤外光のうち、参照光受光素子31に入射する赤外光は、高温側導入空間11A内において第1の所定温度に昇温された高温サンプルガス51Aを通る。信号光受光素子32に入射する赤外光は、低温側導入空間61A内において第2の所定温度に昇温された低温サンプルガス52Aを通る。即ち、参照光受光素子31によって受光される赤外光は、信号光受光素子32によって受光される赤外光と比較して、熱膨張によってより濃度が低くなった高温サンプルガス51Aを通る。従って、参照光受光素子31および信号光受光素子32は、サンプルガス50(51A,52A)の濃度が異なることにより、サンプルガス50(51A,52A)中の二酸化炭素によって吸収量が異なる赤外光を同時に受光することができる。なお、高温サンプルガス51Aは、低温サンプルガス52Aよりも温度が高く、濃度が低いため、二酸化炭素による赤外光の吸収量が少ない。そのため、参照光受光素子31は、信号光受光素子32と比較して、高いエネルギー値の赤外光を受光する。
【0072】
(格納部4の格納情報)
次に、格納部4が格納する情報について説明する。格納部4には、二酸化炭素の濃度と、参照光受光素子31および信号光受光素子32が受光する赤外光のエネルギー値の比と、の相関関係を示す近似式が予め格納されている。
【0073】
なお、高温側導入空間11Aおよび低温側導入空間61A内に導入されるサンプルガス50は常温(例えば、25度)とし、低温サンプルガス52Aは、低温側ヒータ65Aによって常温よりも10度高い第2の所定温度(例えば、35度)に昇温されており、また、高温サンプルガス51Aは、高温側ヒータ15Aによって低温サンプルガス52Aよりも10度高い第1の所定温度(例えば、45度)に昇温されているものとする。
【0074】
なお、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、以下の式(1)に示すランバート・ベールの法則を用いて、高温側導入空間11Aおよび低温側導入空間61Aに導入されるサンプルガス50内の二酸化炭素の濃度C毎に、参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aと、信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bとを予め算出する。
I=Iexp(−μ・C・l)…(1)
【0075】
まず、信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bを算出する場合について説明する。信号光受光素子32が受光する赤外光は、サンプルガス50よりも濃度が低い低温サンプルガス52A中を通る。そのため、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cから、低温サンプルガス52A中の二酸化炭素の濃度C2を算出する。ここでは、低温サンプルガス52Aは、サンプルガス50(常温)よりも10度高い温度となっている。従って、第1の実施形態と同様に、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cから、低温サンプルガス52A中の二酸化炭素の濃度C2を計算によって求める。または、濃度C2を別途測定してもよい。
【0076】
算出または測定した濃度C2と、既知のI,μ,lを上記式(1)に代入し、Iを求めることにより、エネルギー値Bを算出する。これにより、二酸化炭素の濃度Cのサンプルガス50を低温側導入空間61A内に導入した場合において、信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bを、式(1)を用いて算出することができる。
【0077】
次に、参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aを算出する場合には、エネルギー値Bを算出した場合と同様に、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cから、高温サンプルガス51A中の二酸化炭素の濃度C3を算出する。または、濃度C3を別途測定してもよい。算出または測定した濃度C3と、既知のI,μ,lを上記式(1)に代入し、Iを求めることにより、エネルギー値Aを算出する。
【0078】
更に、エネルギー値Aとエネルギー値Bの比(B/A)を算出する。そして、第1の実施形態と同様に、これらの算出した値と、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cとを対応付け、図2に示すような、二酸化炭素の濃度とエネルギー値の比の相関関係を示すデータベースを作成する。更に、図2に示すデータベースより、図3に示すような二酸化炭素の濃度とエネルギー値の比の相関関係を示すグラフを求め、エネルギー値の比(B/A)と二酸化炭素の濃度との近似式(例えば、濃度=f(比))を算出する。算出した近似式は、格納部4に格納しておく。
【0079】
参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aと信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bの比と、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度とが対応していることにより、算出した近似式を用いて、参照光受光素子31および信号光受光素子32が実際に受光した光のエネルギー値の比に基づいて、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0080】
(二酸化炭素の濃度算出処理)
参照光受光素子31および信号光受光素子32が受光した光のエネルギー値より、算出回路3が、二酸化炭素の濃度を算出する処理については、第1の実施形態において図4を用いて説明した処理と同様であるため、説明を省略する。
【0081】
(第2の実施形態の作用・効果)
第2の実施形態では、参照光受光素子31は、高温側導入空間11Aを通った赤外光を受光する。信号光受光素子32は、低温側導入空間61Aを通った赤外光を受光する。また、低温側ヒータ65Aにより、低温側導入空間61A内に導入されるサンプルガス50を第2の所定温度に昇温して低温サンプルガス52Aを得る。また、高温側ヒータ15Aにより、高温側導入空間11A内に導入されるサンプルガス50を第2の所定温度よりも高い第1の所定温度に昇温して高温サンプルガス51Aを得る。これにより、高温サンプルガス51A内の二酸化炭素の濃度と、低温サンプルガス52A内のサンプルガス50内の二酸化炭素の濃度とは、互いに異なる濃度となる。このため、参照光受光素子31および信号光受光素子32によって、二酸化炭素の濃度が異なる導入空間(高温側導入空間11A,低温側導入空間61A)内を通った赤外光、即ち、二酸化炭素による吸収量が異なる赤外光を同時に測定することができる。
【0082】
また、ガス濃度算出装置1Aは、引用文献1に記載されたガス濃度算出装置のように、被測定ガスと同種ではあるが飽和状態のため異なる変化特性を示すガスが封入された比較ガス室などを用いることなく、吸収量の異なる赤外光を測定することができる構成である。特に、高温側ガスセル10Aと低温側ガスセル60Aに同じサンプルガス50を導入して互いに異なる濃度に変換したものであり、引用文献1のように、最初から異なる変化特性のガス(比較ガス室内のガス)を用意したものではない。そのため、赤外光源21の光量や温度等に変動があった場合であっても、高温サンプルガス51Aと低温サンプルガス52Aとは温度が異なるものの同じガスであるため、参照光受光素子31および信号光受光素子32における測定値の変化特性が同じとなる。このように、参照光受光素子31および信号光受光素子32における測定値の変化特性が同じであるため、これらの測定値に基づいて、赤外光源21の光量や温度等による測定値の変動を容易に相殺することができ、ガス濃度をより精度よく算出することが可能となる。
【0083】
また、光路長を変化させるために振動等を伴わず、当該振動による位置ずれや付加的なノイズなどが無いので、ガス濃度計測モジュールの光検出精度の低下を防止できる。
【0084】
また、ガス濃度算出装置1Aは、高温側ヒータ15Aおよび低温側ヒータ65Aによって、サンプルガス50を異なる温度に昇温することにより、高温サンプルガス51Aと低温サンプルガス52Aとが異なる濃度となる。このように、熱を加えることによって気体が膨張することを利用して、高温側導入空間11A内の高温サンプルガス51A中の二酸化炭素の濃度と、低温側導入空間61A内の低温サンプルガス52A中の二酸化炭素の濃度とを、互いに異なる濃度に容易に変換することができる。
【0085】
また、断熱部材70を備えることにより、高温側ガスセル10Aと低温側ガスセル60Aとの間での熱の伝わりが防止され、サンプルガス50を効率よく昇温することができる。また、高温サンプルガス51Aと低温サンプルガス52Aの温度差をより確実に保つことができる。
【0086】
また、バンドパスフィルタ39により、参照光受光素子31および信号光受光素子32がそれぞれ受光する光を同一波長とすることができ、参照光受光素子31および信号光受光素子32がそれぞれ受光する光の波長が異なることによる光検出精度の低下を防止できる。
【0087】
また、赤外光源21が赤外線を放射することにより、赤外線が高温サンプルガス51Aおよび低温サンプルガス52Aを通るときに二酸化炭素によってエネルギーが減衰する現象を用いて、高温サンプルガス51Aおよび低温サンプルガス52A中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0088】
また、赤外光が高温サンプルガス51Aおよび低温サンプルガス52A中の二酸化炭素を通るときにエネルギーが減衰する現象を用いて、高温サンプルガス51Aおよび低温サンプルガス52A中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0089】
また、予め、格納部4内に近似式を格納しておくことにより、近似式に基づいて対象ガスの濃度を精度よく算出することができる。
【0090】
なお、第2の実施形態において、低温側導入空間61A内に導入されたサンプルガス50を、低温側ヒータ65Aによって常温よりも高い第2の所定温度に昇温するものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、低温側ヒータ65Aを、低温側導入空間61A内に導入されたサンプルガス50を、常温(例えば、25度)に保つために用いることもできる。
【0091】
[第3の実施形態]
第3の実施形態は、希釈ガスを用いてサンプルガス50を希釈することにより、参照光受光素子31に入射する赤外光と信号光受光素子32に入射する赤外光とを異なる濃度のサンプルガス中を通るようにしたものである。
【0092】
(ガス濃度算出装置1Bの全体構成)
まず、第3の実施形態に係るガス濃度算出装置1Bの全体構成について説明する。図6は、ガス濃度算出装置を示す概略断面図である。ガス濃度算出装置1Bは、赤外光源21(特許請求の範囲の「光源」に相当)からの赤外光を受光し、そのエネルギーを測定するガス濃度計測モジュール2Bと、ガス濃度計測モジュール2Bによる測定結果に基づいてガス濃度を算出する算出回路3(特許請求の範囲の「ガス濃度算出モジュール」に相当)と、算出回路3がガス濃度を算出する際の情報を格納している格納部4(特許請求の範囲の「格納手段」に相当)とを含んで構成され、対象ガスの濃度を算出するものである。算出回路3によって算出されたガス濃度は、図示しない制御装置などに出力され、例えば空調システムなどの制御に利用される。なお、本実施形態では、ガス濃度計測モジュール2Bに導入されるサンプルガス中の二酸化炭素を濃度算出の対象ガスとした場合の例について説明する。
【0093】
ガス濃度計測モジュール2Bは、内部にサンプルガス50が導入される希釈側導入空間11B(特許請求の範囲の「第1の導入空間」に相当)を形成する希釈側ガスセル10B(特許請求の範囲の「第1のガスセル」に相当)と、内部にサンプルガス50がそのまま導入される非希釈側導入空間61B(特許請求の範囲の「第2の導入空間」に相当)を形成する非希釈側ガスセル60B(特許請求の範囲の「第2のガスセル」に相当)と、希釈側導入空間11Bに希釈ガス(特許請求の範囲の「不活性ガス」に相当)を導入する希釈ガス供給部80(特許請求の範囲の「不活性ガス導入部、濃度変換手段」に相当)と、希釈側ガスセル10Bおよび非希釈側ガスセル60Bの一端に配置された光源部20と、希釈側ガスセル10Bおよび非希釈側ガスセル60Bの他端に配置されて光源部20から放射された光を受光する受光部30(特許請求の範囲の「信号光受光手段および参照光受光手段」に相当)と、を含んで構成される。なお、図示はしないが、ガス導入部12およびガス導入部62は、サンプルガス50を導入するための同一の導入管に接続されており、希釈側ガスセル10Bおよび非希釈側ガスセル60B内に同じサンプルガス50が導入される。
【0094】
希釈側ガスセル10Bは、希釈側ガスセル10Bの一端側において、希釈側導入空間11B内にサンプルガス50を導入するためのガス導入部12が設けられ、更に、ガス導入部12の近傍に希釈ガス導入部14が設けられている。希釈ガス供給部90から供給される希釈ガスは、希釈ガス導入部14を通って希釈側導入空間11B内に導入される。希釈側導入空間11B内に希釈ガスを導入することによって、サンプルガス50が希釈されて希釈後サンプルガス51Bを得る。また、希釈側ガスセル10Bは、希釈側ガスセル10Bの他端側において、希釈側導入空間11B内の希釈後サンプルガス51Bを外部へ排出するためのガス排出部13が設けられている。
【0095】
なお、第3の実施形態において、サンプルガス50を希釈率20%で希釈して希釈後サンプルガス51Bを得るものとする。また、希釈ガスは、赤外光に対して不活性なガスが用いられ、例えば、アルゴン、キセノン、窒素などを用いることができる。
【0096】
非希釈側ガスセル60Bには、非希釈側ガスセル60Bの一端側において、非希釈側導入空間61B内にサンプルガス50を導入するためのガス導入部62が設けられ、非希釈側ガスセル60Bの他端側に、非希釈側導入空間61B内に導入されたサンプルガス50を外部へ排出するためのガス排出部63が設けられている。
【0097】
光源部20は、希釈側ガスセル10Bおよび非希釈側ガスセル60Bに結合される筐体25と、筐体25内に配置された赤外光源21と、筐体25において赤外光源21と対向する部位に形成されて赤外光源21が放射する赤外光を筐体25の外部へ導くための開口部26と、開口部26を覆う窓部材23と、を含んで構成される。赤外光源21から放射された赤外光は、窓部材23を通って希釈側ガスセル10B内および非希釈側ガスセル60B内に導入される。ここで、赤外光源21は、4.2μm〜4.3μmの波長域の光を放射するものを用いる。また、窓部材23は、赤外線に対して高い透過性を有する材料によって構成されている。
【0098】
受光部30は、基盤35上に配置された参照光受光素子31(特許請求の範囲の「参照光受光手段」に相当)および信号光受光素子32(特許請求の範囲の「信号光受光手段」に相当)と、参照光受光素子31および信号光受光素子32を覆うキャップ36と、キャップ36から参照光受光素子31と信号光受光素子32の間の領域に延びる仕切壁37と、キャップ36における参照光受光素子31および信号光受光素子32と対向する部位にそれぞれ形成された開口部38と、開口部38を覆うバンドパスフィルタ39と、を含んで構成される。参照光受光素子31および信号光受光素子32は、受光した赤外光のエネルギー値を、算出回路3へ出力する。バンドパスフィルタ39は、4.2μm〜4.3μmの波長域の光のみが透過するものを用いる。また、参照光受光素子31は、希釈側導入空間11Bの他端と対向し、信号光受光素子32は、非希釈側ガスセル60Bの他端と対向している。
【0099】
また、図示はしないが、バンドパスフィルタ39を図6に示した位置に設けない場合には、図6の窓部材23の場所にバンドパスフィルタを設けても良い。つまり、バンドパスフィルタの配置場所は、光源部20と受光部30との間の光路上に配置されるのであれば、特に限定はしない。
【0100】
以上の構成により、赤外光源21から放射された赤外光のうち、参照光受光素子31に入射する赤外光は、希釈側導入空間11B内において希釈された希釈後サンプルガス51Bを通る。信号光受光素子32に入射する赤外光は、非希釈側導入空間61B内のサンプルガス50を通る。この様に、参照光受光素子31によって受光される赤外光は、信号光受光素子32によって受光される赤外光と比較して、希釈ガスによって濃度が希釈された希釈後サンプルガス51Bを通る。即ち、参照光受光素子31および信号光受光素子32は、サンプルガス50(50,51B)の濃度が異なることにより、サンプルガス50(50,51B)中の二酸化炭素によって吸収される量が異なる赤外光を同時に受光することができる。なお、希釈後サンプルガス51Bはサンプルガス50に対して濃度が低く、赤外光が通った場合に、二酸化炭素による吸収量が少ない。そのため、参照光受光素子31は、信号光受光素子32と比較して、高いエネルギー値の赤外光を受光する。
【0101】
(格納部4の格納情報)
次に、格納部4が格納する情報について説明する。格納部4には、二酸化炭素の濃度と、参照光受光素子31および信号光受光素子32が受光する赤外光のエネルギー値の比と、の相関関係を示す近似式が予め格納されている。
【0102】
一般に、光源からの赤外線エネルギー値をI、受光手段に到達する赤外線エネルギー値をI、光源から受光手段までの光路長さをl、対象ガスの濃度をC、吸収係数をμとすると、ランバート・ベールの法則により、以下の式(1)に示す関係が成り立つ。
I=Iexp(−μ・C・l)…(1)
【0103】
上記関係に基づき、ランバート・ベールの法則を用いて、希釈側導入空間11Bおよび非希釈側導入空間61Bに導入されるサンプルガス50内の二酸化炭素の濃度C毎に、参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aと、信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bとを予め算出する。
【0104】
信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bを算出する場合には、既知のI,μ,C,lを上記式(1)に代入し、Iを求めることにより、エネルギー値Bを算出する。ここで、上記式(1)において、濃度Cは、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度を表すものである。
【0105】
次に、参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aについても、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度C毎に、上記式(1)を用いて算出する。このとき、参照光受光素子31が受光する赤外光は、希釈後サンプルガス51Bを通る。従って、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cから、希釈後サンプルガス51B中の二酸化炭素の濃度C4を算出する。算出した濃度C4と、既知のI,μ,lを上記式(1)に代入し、Iを求めることにより、エネルギー値Aを算出する。これにより、二酸化炭素の濃度Cのサンプルガス50を希釈側導入空間11B内に導入した場合において、参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aを、式(1)を用いて算出することができる。なお、第3の実施形態において、希釈後サンプルガス51Bは、サンプルガス50を希釈率20%で希釈したものである。そのため、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cも希釈率20%で希釈される。このように、希釈率を用いることにより、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度Cから、希釈後サンプルガス51B中の二酸化炭素の濃度C4を計算によって求めることができる。
【0106】
更に、エネルギー値Bとエネルギー値Aの比(B/A)を算出する。これらの算出した値と、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度とを対応付け、図7に示すように、二酸化炭素の濃度とエネルギー値の比の相関関係を示すデータベースを作成する。更に、図7に示すデータベースより、図8に示す二酸化炭素の濃度とエネルギー値の比の相関関係を示すグラフを求め、エネルギー値の比(B/A)と二酸化炭素の濃度との近似式(例えば、濃度=f(比))を算出する。算出した近似式は、格納部4に格納しておく。
【0107】
なお、図7のデータベースでは、データベース作成の便宜上、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度がゼロppmの時のエネルギー値A,Bが1となるように規格化してある。
【0108】
参照光受光素子31が受光するエネルギー値Aと信号光受光素子32が受光するエネルギー値Bの比と、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度とが対応していることにより、算出した近似式を用いて、参照光受光素子31および信号光受光素子32が実際に受光した光のエネルギー値の比に基づいて、サンプルガス50中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0109】
(二酸化炭素の濃度算出処理)
次に、参照光受光素子31および信号光受光素子32が受光した光のエネルギー値より、算出回路3が、二酸化炭素の濃度を算出する処理の流れについて説明する。なお、算出回路3は、CPU等を含んで構成された回路である。図4は、二酸化炭素濃度算出処理の流れを示すフローチャートである。
【0110】
ステップS101において算出回路3は、参照光受光素子31で受光された光のエネルギー値Aと信号光受光素子32で受光された光のエネルギー値Bとを取得する。
【0111】
次に、ステップS102において算出回路3は、取得したエネルギー値Bとエネルギー値Aの比(B/A)を算出する。ステップS103において算出回路3は、格納部4に格納された近似式を用いて、ステップS102で算出した比(B/A)から二酸化炭素の濃度を算出する。近似式を用いて濃度を算出することにより、算出処理を容易に行うことができる。
【0112】
ステップS104において算出回路3は、算出された二酸化炭素の濃度を示す信号を、図示しない制御装置などに出力する。二酸化炭素の濃度を示す信号は、例えば、制御装置において空調の制御等に利用される。
【0113】
(第3の実施形態の作用・効果)
第3の実施形態では、参照光受光素子31は、希釈側導入空間11Bを通った赤外光を受光する。信号光受光素子32は、非希釈側導入空間61Bを通った赤外光を受光する。また、希釈ガス導入部14より希釈ガスを希釈側導入空間11B内に導入してサンプルガス50を希釈し、希釈後サンプルガス51Bを得る。これにより、希釈後サンプルガス51B内の二酸化炭素の濃度と、非希釈側導入空間61B内のサンプルガス50内の二酸化炭素の濃度とは、互いに異なる濃度となる。このため、参照光受光素子31および信号光受光素子32によって、二酸化炭素の濃度が異なる導入空間(希釈側導入空間11B,非希釈側導入空間61B)内を通った赤外光、即ち、二酸化炭素による吸収量が異なる赤外光を同時に測定することができる。
【0114】
また、ガス濃度算出装置1Bは、引用文献1に記載されたガス濃度算出装置のように、被測定ガスと同種ではあるが飽和状態のため異なる変化特性を示すガスが封入された比較ガス室などを用いることなく、吸収量の異なる赤外光を測定することができる構成である。特に、希釈側ガスセル10Bと非希釈側ガスセル60Bに同じサンプルガス50を導入して互いに異なる濃度に変換したものであり、引用文献1のように、最初から異なる変化特性のガス(比較ガス室内のガス)を用意したものではない。そのため、赤外光源21の光量や温度等に変動があった場合であっても、希釈後サンプルガス51Bとサンプルガス50とは濃度が異なるものの同じガスであるため、参照光受光素子31および信号光受光素子32における測定値の変化特性が同じとなる。このように、参照光受光素子31および信号光受光素子32における測定値の変化特性が同じであるため、これらの測定値に基づいて、赤外光源21の光量や温度等による測定値の変動を容易に相殺することができ、ガス濃度をより精度よく算出することが可能となる。
【0115】
なお、希釈ガスは、赤外光源21から放射された赤外光に対して不活性であるため、光源の光量や温度等に変動があった場合であっても、参照光受光素子31における測定値の変化特性に影響を与えない。
【0116】
また、光路長を変化させるために振動等を伴わず、当該振動による位置ずれや付加的なノイズなどが無いので、ガス濃度計測モジュールの光検出精度の低下を防止できる。
【0117】
また、希釈側導入空間11B内に希釈ガスを導入したので、希釈側導入空間11B内の希釈後サンプルガス51Bは、非希釈側導入空間61B内のサンプルガス50と比較して二酸化炭素の濃度が低くなる。このように、希釈ガスを希釈側導入空間11B内に導入することで、希釈側導入空間11B内の希釈後サンプルガス51B中の二酸化炭素の濃度と、非希釈側導入空間61B内のサンプルガス50中の二酸化炭素の濃度とを、互いに異なる濃度に容易に変換することができる。
【0118】
また、希釈ガスとして、アルゴン、キセノン、窒素を用いることにより、これらのガス中を赤外光が通るときに減衰しない現象を用いて、サンプルガス50の特性を変化させることなく、希釈を行うことができる。
【0119】
また、バンドパスフィルタ39により、参照光受光素子31および信号光受光素子32がそれぞれ受光する光を同一波長とすることができ、参照光受光素子31および信号光受光素子32がそれぞれ受光する光の波長が異なることによる光検出精度の低下を防止できる。
【0120】
また、赤外光源21が赤外線を放射することにより、赤外線がサンプルガス50および希釈後サンプルガス51Bを通るときに二酸化炭素によってエネルギーが減衰する現象を用いて、サンプルガス50および希釈後サンプルガス51B中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0121】
また、赤外光がサンプルガス50および希釈後サンプルガス51B中の二酸化炭素を通るときにエネルギーが減衰する現象を用いて、サンプルガス50および希釈後サンプルガス51B中の二酸化炭素の濃度を算出することができる。
【0122】
また、予め、格納部4内に近似式を格納しておくことにより、近似式に基づいて対象ガスの濃度を精度よく算出することができる。
【0123】
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではない。
【0124】
例えば、図4のステップS103において、算出回路3は近似式を用いて二酸化炭素の濃度を算出するものとしたが、近似式を用いずに二酸化炭素の濃度を算出してもよい。この場合、予め、図2,図7に示すデータベースをテーブル化したものを格納部4に格納しておく。算出回路3は、取得したエネルギー値Aとエネルギー値Bを、格納部4に格納されたテーブルと比較し、該テーブルより濃度を直接算出してもよい。この場合には、図2,図7に示すデータベースよりエネルギーの比(B/A)と二酸化炭素の濃度との間の近似式を算出するまでもなく、テーブルを用いて濃度を算出することができる。
【0125】
なお、上記各実施形態では、ガス濃度算出装置1,1A,1Bによって二酸化炭素の濃度を算出する場合について説明したが、これ以外のガスの濃度を算出可能であることはいうまでもない。また、濃度を測定しようとするガスに応じて、光源やバンドパスフィルタの種類や希釈ガスの種類などを適宜変更することにより、ガスの濃度を算出することができる。また、第1,第2の実施形態におけるヒータによって昇温する温度や、第3の実施形態におけるサンプルガス50を希釈する希釈率などは、濃度を測定しようとするガスの測定レンジや精度などから適宜最適化を行うことができる。
【0126】
また、ガス濃度算出装置1,1A,1Bで算出されたガスの濃度は、空調の制御以外にも、ガスの濃度を算出する様々な機器に適用することができる。
【0127】
また、第1の実施形態および第2の実施形態では、ヒータ(15,15A,65A)を用いてサンプルガス50を昇温し、サンプルガス50の濃度を変換するものとしたが、これ以外にも例えばサンプルガス50をクーラーによって冷却して濃度を変換してもよい。
【符号の説明】
【0128】
1,1A,1B…ガス濃度算出装置、2…ガス濃度計測モジュール、3…算出回路、4…格納部、10…昇温側ガスセル,10A…高温側ガスセル、10B…希釈側ガスセル、11…昇温側導入空間、11A…高温側導入空間、11B…希釈側導入空間、15…ヒータ,15A…高温側ヒータ、20…光源部、21…赤外光源、30…受光部、31…参照光受光素子、32…信号光受光素子、39…バンドパスフィルタ、60…常温側ガスセル、60A…低温側ガスセル、60B…非希釈側ガスセル、61…常温側導入空間、61A…低温側導入空間、61B…非希釈側導入空間、65A…低温側ヒータ、70…断熱部材、80…希釈ガス供給部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス濃度計測モジュールおよびガス濃度算出モジュールを備え、対象ガスの濃度を算出するガス濃度算出装置であって、
前記ガス濃度計測モジュールは、
前記対象ガスが導入される第1の導入空間を形成する第1のガスセルと、
前記対象ガスが導入される第2の導入空間を形成する第2のガスセルと、
前記第1のガスセルおよび第2のガスセルの一端に配置された光源と、
前記第1のガスセルの他端に配置され、前記光源から放射されて前記第1の導入空間を通った光を受光する参照光受光手段と、
前記第2のガスセルの他端に配置され、前記光源から放射されて前記第2の導入空間を通った光を受光する信号光受光手段と、
前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換する濃度変換手段と、
を備え、
前記ガス濃度算出モジュールは、前記ガス濃度計測モジュールの前記信号光受光手段が受光した前記光のエネルギー値と前記参照光受光手段が受光した前記光のエネルギー値との比に基づき、前記対象ガスの前記濃度を算出する、
ことを特徴とするガス濃度算出装置。
【請求項2】
前記濃度変換手段は、
前記第1のガスセルに付設された第1のヒータを備え、前記第1のヒータによって、前記第1の導入空間内の前記対象ガスを昇温することにより、前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換する、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス濃度算出装置。
【請求項3】
前記濃度変換手段は、
前記第1のガスセルに付設された第1のヒータと、前記第2のガスセルに付設された第2のヒータとを備え、前記第1の導入空間内の前記対象ガスと前記第2の導入空間内の前記対象ガスとを異なる温度に昇温することにより、前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換する、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス濃度算出装置。
【請求項4】
前記ガス濃度計測モジュールは、前記第1のガスセルと、前記第2のガスセルと、の間に配置された断熱部材を更に備えることを特徴とする請求項2または3に記載のガス濃度算出装置。
【請求項5】
前記濃度変換手段は、前記光源から放射された光に対して不活性な不活性ガスを前記第1の導入空間内に導入する不活性ガス供給部を更に備え、
前記不活性ガス供給部から前記第1の導入空間内に前記不活性ガスを導入することにより、前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換することを特徴とする請求項1に記載のガス濃度算出装置。
【請求項6】
前記不活性ガスは、アルゴン、キセノン、窒素、酸素、水素の少なくともいずれかを含むものであることを特徴とする請求項5に記載のガス濃度算出装置。
【請求項7】
前記光源と前記受光手段との間の光路上に配置され、所定波長の光のみを通過させるバンドパスフィルタを更に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のガス濃度算出装置。
【請求項8】
前記光源は、赤外線を放射するものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のガス濃度算出装置。
【請求項9】
前記対象ガスは二酸化炭素であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のガス濃度算出装置。
【請求項10】
前記対象ガスの前記濃度と前記比との相関関係を示すデータベースまたは近似式を予め格納する格納手段を更に備え、
前記ガス濃度算出モジュールは、前記データベースまたは前記近似式に基づき、前記比に相応する前記濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のガス濃度算出装置。
【請求項11】
対象ガスの濃度を算出するガス濃度算出装置におけるガス濃度計測モジュールであって、
前記対象ガスが導入される第1の導入空間を形成する第1のガスセルと、
前記対象ガスが導入される第2の導入空間を形成する第2のガスセルと、
前記第1のガスセルおよび第2のガスセルの一端に配置された光源と、
前記第1のガスセルの他端に配置され、前記光源から放射されて前記第1の導入空間を通った光を受光する参照光受光手段と、
前記第2のガスセルの他端に配置され、前記光源から放射されて前記第2の導入空間を通った光を受光する信号光受光手段と、
前記第1の導入空間内の前記対象ガスの濃度と、前記第2の導入空間内の前記対象ガスの濃度とを、互いに異なる濃度に変換する濃度変換手段と、
を備えることを特徴とするガス濃度計測モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−169636(P2011−169636A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31505(P2010−31505)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】