説明

ガス製造方法

【課題】バイオマスなどを利用した炭素質材料から水性ガス化反応により水素を製造することができ、しかも低温で水素を発生させることができる、ガス製造方法を提供する。
【解決手段】0.1〜10質量%の金属を含む炭素質材料(ただし、竹炭を除く)を充填した反応容器内に水蒸気を導入し、反応容器内の前記炭素質材料をマイクロ波加熱することにより、水素を含むガスを製造する。これにより、従来の水性ガス化反応よりも低温で水素を発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を含むガスの製造方法に関し、詳細には従来の水性ガス化反応よりも低温で水素を製造することができるガス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、水素化(水素添加)、水素化分解、水素化精製など多くの化学プロセスの中で重要な役割を演じる材料であり、また、クリーンエネルギーとして利用が期待されている。水素の製造方法としては、水の電気分解、石炭コークスを高温で水蒸気と反応(水性ガス化反応)させてHとCOの混合ガスを製造し、COをHOと反応(シフト反応)させるとさらに水素が得られるので、以前はこの方法により水素が製造された。その後、天然ガス(CH)、精油所ガス、粗製ガソリン(ナフサ)などの石油系原料を用いて水素が製造されるようになった。しかし、石油系原料の枯渇や価格上昇によっては、石炭を原料とする方法が復活する可能性がある。
【0003】
C+HO→CO+H ・・・ 水性ガス化反応(吸熱)
CO+HO→CO+H ・・・ COシフト反応(発熱)
【0004】
また、循環型社会の構築に相応しい廃棄物を利用した水素の製造検討も行われている。特許文献1〜2にはバイオマスを利用して、水性ガス化反応によりHとCOを製造する提案がなされている。
【0005】
ところで、発電所、工場、自動車等の人間の社会的活動に伴って大気中に排出される二酸化炭素は地球温暖化の主たる原因であることが知られており、近年、この二酸化炭素の排出量を削減することが地球環境の保護の大きな課題となっている。これに対し、従来から二酸化炭素削減対策として、二酸化炭素の削減技術、固定化技術の研究が行われているが、最近バイオマス燃料に注目が集まってきている。
【0006】
バイオマス燃料は、原料や性状等多種多様な形態が検討されているが、実際に実用化されているのは、固形燃料や液体燃料が中心である。また、バイオマス利用は、米国ではDOEが中心、欧州ではスウエーデン、デンマークなど北欧が積極的である。我国では一部発電に利用されているものもあるが、いずれも小規模(数千〜数万kW程度)である。
【0007】
特許文献1には、有機物を主体とする廃棄物の一部を部分酸化して得られる熱量を水性ガス化反応に利用し、残りの廃棄物を約800〜1000℃に加熱し、水蒸気によりガス化してHとCO濃度の高いガスを製造する方法が提案されている。この方法によれば、他の燃料を用いることなくHとCO濃度の高いガスを製造することができる。
【0008】
特許文献2には、ごみからチャーを製造し、更に、ごみ焼却設備における廃熱を利用して蒸気を製造し、チャーをシャフト炉に充填して800〜1000℃に加熱すると共に、蒸気をシャフト炉に供給して水性ガス化反応によりHとCOからなる燃料用改質ガスを製造する方法が提案されている。これにより、COを含まない改質ガスを得ることができ、化石燃料の代替となる高カロリーでクリーンな燃料となることが記載されている。
【特許文献1】特開平5−287282号公報
【特許文献2】特開2001−192675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献に記載された方法は、高温・高圧下での水性ガス化反応を、古紙を部分酸化して得た熱量、或いは、ごみから製造したチャーと焼却設備の廃熱利用で得た蒸気を利用して行うものであるため、省エネルギーの方法ではなかった。このため、地球環境に悪影響を与えず、短時間かつ低温で水素を製造できる方法の出現が望まれていた。
【0010】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、バイオマスなどを利用した炭素質材料から水性ガス化反応により水素を製造することができ、しかも低温で水素を発生させることができる、ガス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討した結果、バイオマス炭化物等の炭素質材料と水蒸気との接触反応をマイクロ波による加熱状態で行わせるに当たり、触媒作用のある金属を担持、混合等することによって、低温で水素含有ガスが発生することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)金属を含む炭素質材料(ただし、竹炭を除く)をマイクロ波で加熱し、水蒸気と反応させて水素を含むガスを製造することを特徴とするガス製造方法。
(2)金属を含む炭素質材料が、金属を担持させた炭素質材料及び金属を混合した炭素質材料から選択される少なくとも一種の材料である前記(1)に記載のガス製造方法。
(3)炭素質材料が、バイオマスの炭化物である前記(1)又は(2)に記載のガス製造方法。
(4)金属の炭素質材料に対する比率が、0.1〜10質量%である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のガス製造方法。
(5)金属が、鉄、銀、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、金、銅、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、コバルト、亜鉛、ジルコニウム及びセリウムから選択される少なくとも一種の金属である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のガス製造方法。
(6)金属を含む炭素質材料(ただし、竹炭を除く)を充填した反応容器内に水蒸気を導入し、反応容器内の前記炭素質材料をマイクロ波で加熱することにより、水素を含むガスを製造することを特徴とするガス製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガス製造方法によれば、金属を含む炭素質材料にマイクロ波を照射し、マイクロ波による加熱状態で水性ガス化反応を行わせるので、マイクロ波効果と触媒効果により、コークスを高温で水蒸気と反応させる従来の水性ガス化反応に比べて、低温かつ低エネルギーで水素を製造することができる。しかも、バイオマス炭化物などの固体炭素質材料を使用することができるので、地球環境の保護にも貢献できる。発生した水素は、燃料などとして直接利用できるほか、メタノールやジメチルエーテル合成原料などとして利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においてガス製造原料として用いられる炭素質材料は、特に限定されるものではなく、炭素質を多量に含むものであれば良い。具体例としては、石炭、コークス、活性炭、各種バイオマスの炭化物、などが挙げられる。中でも、バイオマスの炭化物は化石燃料系の炭化物に比べて水素ガス発生量が多く、好ましい材料である。前記のバイオマスの炭化物としては、稲わら、麦わら、バガス等の草類系バイオマス;木材、間伐材、伐採木、剪定枝、おがくず、樹皮、チップ、端材、流木、笹、木質建築廃材など木質系バイオマス;モミ殻、稲藁、麦藁、バガス、アブラヤシ(パーム油の原料)のヤシ殻などの農作物系バイオマス;食品工場や外食産業から出る食品残渣などの食物系バイオマス;下水汚泥、ごみなど、の炭化物を挙げることができる。
【0015】
上記の炭素質材料の大きさは特に限定されないが、約0.1〜5mm程度のものが取扱性の点より好ましく、また、触媒活性を高めることができる点より多孔質で表面積の大きいものが好ましい。
【0016】
本発明で用いるところの金属を含む炭素質材料としては、金属を担持させた炭素質材料及び金属を混合した炭素質材料から選択される少なくとも一種の材料が挙げられる。前記の金属としては、鉄、銀、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、金、銅、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、コバルト、亜鉛、ジルコニウム及びセリウムから選択される少なくとも一種の金属が好ましい。
【0017】
また、上記の金属を担持させた炭素質材料において、担持させる金属の種類や量は、マイクロ波による触媒活性を高めることができるように適宜選択すれば良く、これにより低温にて水素を発生させることが可能となる。金属の担持量は、炭素質材料に対する質量比で、0.1〜10質量%の範囲が好ましく、少なすぎる場合はガス発生量が少なくなり、多すぎる場合は過熱によって反応が不安定になると共に、経済性にも劣るものとなる。
【0018】
バイオマス炭化物に金属を担持させる場合は、公知の方法に従って実施すれば良い。例えば、生バイオマスと上記の金属を含む金属化合物(塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩等)を混合後、炭化する方法、或いは、バイオマス炭化物を上記の金属化合物(同上)を溶解させた溶液に浸漬した後、乾燥する方法等が挙げられる。
【0019】
また、反応に供する材料として、バイオマス炭化物と上記の金属との混合物を用いることもできる。この場合、金属のバイオマス炭化物に対する比率は、0.1〜10質量%の範囲が好ましく、少なすぎる場合はガス発生量が減少し、多すぎる場合は反応が不安定になる。金属を担持させたバイオマス炭化物を用いた場合は、水素の発生に伴って炭素が失われていくことで金属の脱落が生じ触媒機能が損なわれるおそれがあるが、バイオマス炭化物と金属とを混合した場合は、金属が脱落するおそれがなく耐久性の良い材料になりうる。更に、金属とバイオマス炭化物を比重差で分離することができるので、反応後の触媒回収も容易である。
【0020】
本発明のガス製造方法では、金属を含む炭素質材料にマイクロ波を照射して加熱し、これと水蒸気を反応させて、下記する反応により、水素と一酸化炭素を含むガスを製造する。この方法によれば、ヒーター等の加熱手段と異なり、マイクロ波によって炭素質材料の表面が活性化されるので、従来よりも格段に低い温度で水素を発生させることが可能となる。
【0021】
C+HO→CO+H 水性ガス化反応(吸熱)
CO+HO→CO+H COシフト反応(発熱)
【0022】
ガスを製造する場合は、例えば、金属を含む炭素質材料を、ポリエチレンやテフロン(登録商標)などのプラスチック製、陶器製、石英ガラス製などマイクロ波透過性の反応容器内に充填し、これらの炭素質材料を収容した反応容器内に水蒸気を導入し、反応容器内の固体炭素材をマイクロ波で加熱することにより、水素含有ガスを発生させることができる。勿論これ以外の方法であっても構わない。
【0023】
本発明では、上記の炭素質材料に照射するマイクロ波の出力や周波数、照射方法は、特に限定されるものではなく、反応温度が所定の範囲に保持できるよう電気的に制御すればよい。出力が低すぎる場合はガス化反応の進行が遅くなり、出力が高すぎる場合はマイクロ波の利用率が悪くなる。マイクロ波の周波数は、通常、1GHz〜300GHzである。1GHz未満又は300GHzを超える周波数範囲では、反応促進効果が不十分となる。
【0024】
マイクロ波の照射方法は連続照射、間欠照射のいずれの方法であってもよい。照射時間及び照射停止時間は、反応に供する炭素質材料の種類に応じて適宜に決定することができる。
【0025】
ガス化反応における反応温度は、使用する炭素質材料の種類及び担持させる金属の種類や量によっても異なるが、通常120℃以上であり、好ましくは150〜700℃、より好ましくは200〜450℃である。反応温度が低すぎる場合はガス発生量が少なくなり、一方、反応温度が高すぎる場合はエネルギー的に不利となる。
【0026】
ガス化反応における反応圧力は、常圧、加圧の何れでもかまわないが、通常0.1MPa(常圧)〜30MPaであり、好ましくは0.1MPa(常圧)〜20MPaである。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
反応容器、水蒸気発生装置、窒素ボンベ、マイクロ波制御装置、温度制御装置、インピンジャー、生成ガスサンプリングパックを用意した。反応容器には、ガス流量計、圧力計、及び調整弁を設けた。
【0029】
表1に示す4種類の炭素質材料を用意し、表1に示す量を反応容器に充填し、これをマイクロ波反応装置内に設置した。窒素ボンベより装置内に窒素を供給し、装置内を窒素雰囲気にした。0.5L/minの流速で窒素ガスを流しながら、水蒸気発生装置で発生させた水蒸気を0.0607mol/minの速度で反応容器内に供給し、周波数2.45GHzのマイクロ波を反応容器に連続照射しながら所定の温度まで昇温させた後、10〜40分間保持し、水性ガス化反応を行った。反応中は、温度制御装置とマイクロ波制御装置によりマイクロ波の出力を制御した。
【0030】
反応生成ガスは、反応容器の上部に設けられたガス出口から連続的に排出させ、インピンジャーで余剰水を凝縮させ乾ガスとした後、ガスをサンプリングし、TCDガスクロマトグラフィーで分析した。生成ガス量は、ガス毎に作成した検量線を用いて求めた。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果より、炭素質材料を水蒸気と反応させることにより、炭素質材料から水素ガスと一酸化炭素ガスが発生するが、Pdを担持させた炭素質材料を用いた場合は、水性ガス化反応の理論温度よりも低温で水素が発生することがわかった。
【0033】
また、Pdを担持させた材料同士を比較すると、やしがら活性炭を用いた場合は、石炭系活性炭(非バイオマスの炭化物)を用いた場合に比べて生成ガスのH/CO比が高く、水素リッチのガスを生成可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のガス製造方法によれば、低温かつ低エネルギーで水素を製造することが可能になるので、得られた水素は、燃料分野では自動車や燃料電池等の燃料、水素ステーション備蓄用として、ファインケミカル分野では各種化合物の原料として、幅広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含む炭素質材料(ただし、竹炭を除く)をマイクロ波で加熱し、水蒸気と反応させて水素を含むガスを製造することを特徴とするガス製造方法。
【請求項2】
金属を含む炭素質材料が、金属を担持させた炭素質材料及び金属を混合した炭素質材料から選択される少なくとも一種の材料である請求項1に記載のガス製造方法。
【請求項3】
炭素質材料が、バイオマスの炭化物である請求項1又は2に記載のガス製造方法。
【請求項4】
金属の炭素質材料に対する比率が、0.1〜10質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のガス製造方法。
【請求項5】
金属が、鉄、銀、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、金、銅、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、マンガン、コバルト、亜鉛、ジルコニウム及びセリウムから選択される少なくとも一種の金属である請求項1〜4のいずれかに記載のガス製造方法。
【請求項6】
金属を含む炭素質材料(ただし、竹炭を除く)を充填した反応容器内に水蒸気を導入し、反応容器内の前記炭素質材料をマイクロ波で加熱することにより、水素を含むガスを製造することを特徴とするガス製造方法。

【公開番号】特開2007−146115(P2007−146115A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239938(P2006−239938)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】