ガス識別装置
【課題】接触燃焼式のガスセンサを用いて性質の似たガスでも識別することができるガス識別装置を提供する。
【解決手段】触媒の異なる複数のRu、Pd、Pt触媒ガスセンサが備えられている。センサ出力取得部21Cが、センサの低温時に当該センサに吸着した可燃ガスが燃焼しているときの出力を第1燃焼値とし、低温時にセンサ素子に吸着した分の可燃ガスの燃焼が終了した後の出力を第2燃焼値として得る。ガス種分別部が、各ガスセンサの出力によって吸着性の低いガスと判定するとPd及びPt触媒ガスセンサの第2燃焼値Pd−C、Pt−CとRu触媒ガスセンサの第2燃焼値Ru−Cの第1比から水素かプロパンを識別し、吸着性の高いガスと判別すると各ガスセンサの第1燃焼値Ru−A、Pd−A、Pt−A及び第2燃焼値Ru−C、Pd−C、Pt−Cの第2比からエタノールか、トルエンか、キシレンかを識別する。
【解決手段】触媒の異なる複数のRu、Pd、Pt触媒ガスセンサが備えられている。センサ出力取得部21Cが、センサの低温時に当該センサに吸着した可燃ガスが燃焼しているときの出力を第1燃焼値とし、低温時にセンサ素子に吸着した分の可燃ガスの燃焼が終了した後の出力を第2燃焼値として得る。ガス種分別部が、各ガスセンサの出力によって吸着性の低いガスと判定するとPd及びPt触媒ガスセンサの第2燃焼値Pd−C、Pt−CとRu触媒ガスセンサの第2燃焼値Ru−Cの第1比から水素かプロパンを識別し、吸着性の高いガスと判別すると各ガスセンサの第1燃焼値Ru−A、Pd−A、Pt−A及び第2燃焼値Ru−C、Pd−C、Pt−Cの第2比からエタノールか、トルエンか、キシレンかを識別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス識別装置に係り、特に、複数種のガスを識別するガス識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述した従来のガス識別装置として例えば特許文献1に記載されたガス種分別機能付きガスセンサが提案されている。このガス種分別機能付きガスセンサは、接触燃焼式のガスセンサを有している。そして、センサ応答波形の時間経過を3つの領域に分け、ピークの有無によるパターン分けによってガス種識別を行っているが、性質の似たガス、例えばメタノールとプロパノールではピークパターンは同じになり識別ができない可能性があり使用が限定される、という問題があった。
【0003】
また、特許文献2に記載されたガスの識別検知方法のように半導体式ガスセンサを用いて複数種のガスを識別するものは提案されているが、接触燃焼式のガスセンサを用いて複数種のガスを識別するものはなかった。
【特許文献1】特開2002−323468号公報
【特許文献2】特開2004−12193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記のような問題点に着目し、接触燃焼式のガスセンサを用いて性質の似たガスでも識別することができるガス識別装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の発明は、可燃ガスと接触燃焼しない低温及び可燃ガスと接触燃焼する高温に順次温度が制御される接触燃焼式のセンサ素子と互いに異なる触媒とを有する複数のガスセンサと、前記センサ素子の前記低温時に前記触媒に吸着した可燃ガスが燃焼しているときの前記ガスセンサの出力を第1燃焼値とし、前記センサ素子の前記低温時に前記触媒に吸着した分の可燃ガスの燃焼が終了した後の前記ガスセンサの出力を第2燃焼値として得る燃焼値取得手段と、を備え、複数種のガスを識別するガス識別装置において、前記燃焼値取得手段が取得した前記燃焼値から同じ触媒のガスセンサの前記第1燃焼値及び前記第2燃焼値の第1比を演算する第1比演算手段と、前記燃焼値取得手段が取得した前記燃焼値から一つのガスセンサの前記第2燃焼値及び他のガスセンサの前記第2燃焼値の第2比を演算する第2比演算手段と、を設けると共に、前記第1比演算手段が演算した前記第1比が予め測定した複数種のガスを供給したときの各ガスセンサの出力から定めた吸着判定値を超えていれば吸着性の高いガスであると判定し、前記吸着判定値以下であれば吸着性の低いガスであると判定する第1識別手段と、前記第1識別手段が前記吸着性の高いガスであると判定したとき、予め測定した前記第1比及び前記ガス種の関係に基づいて前記第1比演算手段が演算した前記第1比からガスを識別する第2識別手段と、前記第1識別手段が前記吸着性の低いガスであると判定したとき、予め測定した前記第2比及び前記ガス種の関係に基づいて前記第2比演算手段が演算した前記第2比からガスを識別する第3識別手段と、を備えたことを特徴とするガス識別装置に存する。
【0006】
請求項2記載の発明は、前記複数のガスセンサの触媒の各々が、ルテニウム、パラジウム及び白金から成り、そして、前記第2識別手段が、前記第1比演算手段により演算された前記ルテニウムを触媒とする前記ガスセンサの前記第1比が第1閾値以上であればエタノールと判定し、そして、前記第1閾値未満であればトルエン又はキシレンと判定するものであることを特徴とする請求項1に記載のガス識別装置に存する。
【0007】
請求項3記載の発明は、前記複数のガスセンサの触媒の各々が、ルテニウム、パラジウム及び白金から成り、そして、前記第3識別手段が、前記第2比演算手段により演算された前記パラジウム及び/又は前記白金を触媒とするガスセンサの前記第2燃焼値と、前記ルテニウムを触媒とするガスセンサの前記第2燃焼値と、の前記第2比が第4閾値以上であれば水素と判定し、そして、前記第4閾値未満であればプロパンと判定するものであることを特徴とする請求項1に記載のガス識別装置に存する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように請求項1記載の発明によれば、複数の接触燃焼式のガスセンサを用いて吸着性の高いガス同士、吸着性の低いガス同士を識別することができるので、接触燃焼式のガスセンサを用いて性質の似たガスでも識別することができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、複数の接触燃焼式のガスセンサを用いて吸着性の高いガス同士のうちエタノールと、トルエン又はキシレンとを識別することができる。
【0010】
請求項3記載の発明によれば、複数の接触燃焼式のガスセンサを用いて吸着性の低いガス同士のうち水素と、プロパンとを識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明のガス識別装置の一実施の形態を示すブロック図である。図2は、図1に示すRu触媒ガスセンサ、Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの詳細な回路図である。図3(A)〜(C)は、図1に示すRu触媒ガスセンサ、Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの平面図、背面図及びAA−AA線断面図である。
【0012】
同図に示すように、ガス識別装置は、Ru触媒ガスセンサ11と、Pd触媒ガスセンサ12と、Pt触媒ガスセンサ13と、コントローラ20と、駆動電源30と、ガス検知出力部40とを備えている。
【0013】
上記ガスセンサ11、12、13はそれぞれ、図2に示すように、可燃性ガスと接触燃焼する接触燃焼式のガス検知素子(センサ素子)8及び比較素子9を有している。ガス検知素子8は、図3に示すように、白金から成るPtヒータ10sと、このPtヒータ10s上に設けられた、可燃ガスの接触燃焼を促進する触媒層11s(触媒)とで構成されている。比較素子9は、Ptヒータ10rと、このPtヒータ10r上に設けられた、可燃ガスの接触燃焼を起こさないアルミナ(Al2O3)層11rとで構成されている。
【0014】
図3(A)及び(B)に示すように、可燃性ガスセンサ1は、シリコン(Si)ウエハ41の上に、(酸化)SiO2膜48c、(窒化)SiN膜48b及び(酸化ハフニウム)HfO2膜48aからなる絶縁薄膜が生膜され、その上に、ガス検知素子8としてPtヒータ10s及び触媒層11s、比較素子9としてPtヒータ10r及びAl2O3層11rが形成されている。また、図3(C)に示すように、Siウエハ41を異方性エッチングして凹部46及び47を形成して、それぞれ薄膜ダイヤフラムDs及びDrを形成することにより熱容量を小さくしている。
【0015】
上記ガス検知素子8のPtヒータ10sと、比較素子9のPtヒータ10rとは、可燃性ガスのない空気中では等しい抵抗値になるように設けられている。また、Ru触媒ガスセンサ11は上記触媒層11sとしてルテニウム(以下Ru)を用い、Pd触媒ガスセンサ12は上記触媒層11sとしてパラジウム(以下Pd)を用い、Pt触媒ガスセンサ13は上記触媒層11sとして白金(以下Pt)を用いている。これにより、Ru、Pd、Ptを各々触媒とした複数のガスセンサ11、12、13を用いてガスの識別を行うことができる。
【0016】
上述したガス検知素子8及び比較素子9は、図2に示すように、抵抗12、13と共にブリッジ回路14を構成している。このブリッジ回路14の端子aと端子bとの間には、ヒータ駆動回路21Aからパルス状のセンサ駆動電圧が供給される。
【0017】
以上の構成によれば、ブリッジ回路14は可燃性ガスのない空気中では平衡状態となり、c、d間に電位差が生じない。これに対して、可燃性ガスを含む空気中では可燃性ガスとの燃焼熱によりガス検知素子8のPtヒータ10sの抵抗値が増加するため不平衡状態となり、c、d間に電位差が生じる。この電位差は可燃性ガスの濃度に比例した値である。そして、ブリッジ回路14の端子c、端子d間に接続されたセンサ出力検出器16が、上記電位差を増幅してセンサ出力V1として出力する。
【0018】
また、ブリッジ回路14に供給されるセンサ駆動電圧は、所定の周期で低電圧、高電圧を繰り返し出力する信号であり、高電圧時間が400msで低電圧時間が10秒である。このセンサ駆動電圧の高電圧時間中にガス検知素子8及び比較素子9が高温に制御されガス検知素子8が可燃ガスと接触燃焼する。一方、低電圧時間中にガス検知素子8及び比較素子9が低温に制御されガス検知素子8は可燃ガスと接触燃焼しない。
【0019】
また、上述したコントローラ20は、ヒータ駆動回路21Aと、補正部21Bと、センサ出力取得部21Cと、ガス種分別部21Dと、メモリ21Eと、を備えている。ヒータ駆動回路21Aは、上述したように駆動電源30の供給電圧からパルス状のセンサ駆動電圧を作ってブリッジ回路14に供給する回路である。本実施形態においてヒータ駆動回路21Aは、センサ駆動電圧の高電圧時にRu触媒ガスセンサ11が450°C、Pd触媒ガスセンサ12が400°C、Pt触媒ガスセンサ13が400°Cになり、低電圧時にガスセンサ11、12、13が200°Cとなるようなセンサ駆動電圧を供給する。この温度は一例で適宜調整可能である。
【0020】
補正部21Bは、ガスセンサ11、12、13の出力の温度補正などを行うものである。センサ出力取得部21Cは、補正部21Bによって補正されたガスセンサ11、12、13の出力を取得してガス種分別部21Dに供給するものである。ガス種分別部21Dは、上記ガスセンサ11、12、13の出力に基づいてガスの識別を行うものである。ガス種分別部21Dによる識別結果は、ガス検知出力部40によって外部の装置などに送られる。また、メモリ21Eには、後述する各種閾値などが格納されている。
【0021】
ところで、エタノールなどの吸着性の高い可燃性ガスは、センサ駆動電圧が低電圧のときに触媒層11s表面に吸着した分がセンサ駆動電圧が高電圧になったとき瞬間的に燃焼する。一方、吸着性の低い水素等の一般的な可燃ガスは、触媒層11s表面への吸着量が少ないので、センサ駆動電圧が高電圧になったときの出力が小さく、ピーク状の出力とならない。
【0022】
従って、このピークの有無により吸着性の高いガスと吸着性の低いガスとの識別を行うことができる。また、吸着性の高いガスは、触媒を変えることによりガスセンサ11、12、13の出力のピーク値が変化する。これに対して吸着性の低いガスは、触媒を変えることによりガスセンサ11、12、13の出力の定常値が変化する。本実施形態は、上記ピーク値を第1燃焼値、上記定常値を第2燃焼値として取得し、各ガスセンサの第1燃焼値、第2燃焼値の違いを利用して、ガス種や異性体の同定と定量を行う。
【0023】
次に、本願発明者らは、供給ガスと、ガスセンサ11、12、13の出力との関係を調べた。結果を図4〜図8に示す。図4(A)〜(C)は、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを各々100ppm、供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力を示すグラフである。図5(A)〜(C)は、トルエン、p−キシレンを各々100ppm供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力を示すグラフである。図6(A)〜(C)は、トルエン、エタノールを各々100ppm供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力をそれぞれ示すグラフである。図7(A)〜(C)は、トルエンを100ppm、プロパンを1000ppm供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力を示すグラフである。図8(A)〜(C)は、水素、プロパンを各々1000ppmに供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力を示すグラフである。
【0024】
図4に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、キシレンに対する出力が小さく、特にo−キシレンに対する出力が小さく、どの異性体にもピーク状の出力は現れないことが分かった。Rd触媒ガスセンサ12は、ピーク状の出力は現れるが、異性体による差はないことが分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、ピーク状の出力が現れ、そのピーク値が異性体によって異なることが分かった。このことから、キシレンの異性体、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを識別できることが分かる。
【0025】
また、図5に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、トルエンとp−キシレンとでは出力に差がないことが分かった。Pd触媒ガスセンサ12は、ピーク状の出力が現れ、ピーク値はp−キシレンの方が大きく、定常値は逆にトルエンの方が大きいことが分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、ピーク値、定常値ともトルエンの方が大きいことが分かった。このことから、p−キシレンとトルエンとを識別することができることが分かる。
【0026】
また、図6に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、トルエンではピークが無いのに対してエタノールではピークが現れることが分かった。Pd触媒ガスセンサ12は、トルエン、エタノールともピーク状の出力が現れたが、ピーク値と定常値との比がトルエンの方が大きいと分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、トルエン、エタノールともピーク状の出力が現れたが、ピーク値と定常値との比がエタノールの方が大きかった。このことから、トルエンとエタノールを識別することができる。
【0027】
また、図7に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、トルエン、プロパンともにピーク状の出力が現れないことが分かった。Pd触媒ガスセンサ12は、トルエンでピーク状の出力が現れたのに対してプロパンではピーク状の出力が現れないことが分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、Pd触媒ガスセンサ12と同様の傾向であるが、プロパンではPd触媒ガスセンサ12の出力に比べて著しく小さな値となることが分かった。このことから、トルエンとプロパンを識別することができる。
【0028】
また、図8に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、水素、プロパン共にほぼ同じ出力を示すことが分かった。Pd触媒ガスセンサ12は、水素の定常値がプロパンの約2倍であることが分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、水素での出力に比べてプロパンでの出力が著しく小さな値となることが分かった。このことから、水素とプロパンとを識別することができる。
【0029】
上述したガス種による各ガスセンサ11、12、13の出力の違いを利用してコントローラ20が行うガス種識別動作について図9のフローチャートを参照して以下説明する。まず、電源投入に応じてコントローラ20内のヒータ駆動回路21Aが、センサ駆動電圧をブリッジ回路14に供給する。
【0030】
次に、上記コントローラ20内のセンサ出力取得部21Cは、センサ駆動電圧が低電圧から高電圧になった直後に各ガスセンサ11、12、13の出力に現れるピーク値(即ち低電圧から高電圧になってから一定時間(例えば50ms)経過する間のセンサ出力V1のピーク値)を第1燃焼値Ru−A、Pd−A、Pt−Aとして取得する(ステップS1)。また、センサ出力取得部21Cは、センサ駆動電圧が高電圧から低電圧になる直前のピーク終了後の定常値を第2燃焼値Ru−C、Pd−C、Pt−Aとして取得する(ステップS2)。以上のステップS1及びS2から明らかなようにセンサ出力取得部21Cが請求項中の燃焼値取得手段に相当する。
【0031】
次に、コントローラ20内のガス種分別部21Dは、Pd触媒ガスセンサ12の第1燃焼値Pd−A及び第2燃焼値Pd−Cの第1比(Pd−A/Pd−C)を演算する(ステップS3)。このステップS3から明らかなように、ガス種分別部21Dが請求項中の第1比演算手段に相当する。そして、ガス種分別部21Dは、第1識別手段として働き、ステップS3で演算した第1比(Pd−A/Pd−C)が吸着判定値である「2」よりも小さければ(ステップS4でY)、Rd触媒ガスセンサ12の出力にピークがないと判定し吸着性の低い水素かプロパンであると判定する(ステップS5)。なお、上述した吸着判定値は、予め計測したキシレン、トルエン、エタノール、プロパン、水素を供給したときの各Pd触媒ガスセンサ12の出力から定めた値である。また、上記「2」は吸着判定値の一例であり、吸着性の高いガスか低いガスかを判定できれば別の値でもよい。
【0032】
次に、ガス種分別部21Dは、Pd触媒ガスセンサ12の第2燃焼値Pd−C及びRu触媒ガスセンサ11の第2燃焼値Ru−Cの第2比(Pd−C/Ru−C)と、Pt触媒ガスセンサ13の第2燃焼値Pt−C及びRu触媒ガスセンサ11の第2燃焼値Ru−Cの第2比(Pt−C/Ru−C)とを演算する(ステップS6)。このように比を演算することによりガス濃度による変動を相殺することができ、第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)はガス濃度に依存して変動しない値となる。そして、図8に示すように、水素であれば第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)が大きく、プロパンであれば第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)が小さい。
【0033】
以上のことに着目し、ガス種分別部21Dは、第3識別手段として働き、第2比(Pd−C/Ru−C)と水素判定値X1とを比較して、第2比(Pt−C/Ru−C)と水素判定値X2とを比較する。なお、上述した水素判定値X1は、予め測定した水素、プロパンを供給したときのRu触媒ガスセンサ11、Pd触媒ガスセンサ12の第2燃焼値Ru−C、Pd−Cから定めた値であり、水素判定値X2は、予め測定した水素、プロパンを供給したときのRu触媒ガスセンサ11、Pt触媒ガスセンサ13の第2燃焼値Ru−C、Pt−Cから定めた値である。このことから明らかなように、水素判定値X1、X2は各々請求項中の第4閾値に相当する。
【0034】
そして、ガス種分別部21Dは、第2比(Pd−C/Ru−C)が水素判定値X1より大きく、かつ第2比(Pt−C/Ru−C)が水素判定値X2より大きければ(ステップS7でY)、水素と判定して(ステップS8)、ガス濃度を演算した後(ステップS9)ステップS1に戻る。これに対して、ガス種分別部21Dは、第2比(Pd−C/Ru−C)が水素判定値X1以下であり、かつ第2比(Pt−C/Ru−C)が水素判定値X2以下であれば(ステップS7でN)、プロパンと判定して(ステップS10)、上記ステップS9に進む。これにより、吸着性の低いガス同士のうち水素とプロパンとを識別することができる。
【0035】
一方、ガス種分別部21Dは、ステップS3で演算した第1比(Pd−A/Pd−C)が吸着判定値である「2」以上であれば(ステップS4でN)、Pd触媒ガスセンサ12の出力にピークが現れていると判定し吸着性の高いエタノールかトルエンかキシレンであると判定する(ステップS11)。
【0036】
次に、ガス種分別部21Dは、Ru触媒ガスセンサ11の第1燃焼値Ru−A及び第2燃焼値Ru−Cの第1比(Ru−A/Ru−C)を演算する(ステップS12)。そして、図6に示すように、エタノールであればピークが現れて第1比(Ru−A/Ru−C)が大きく、図4及び図5に示すように、トルエン、キシレンであれば第1比(Ru-A/Ru−C)が小さい。
【0037】
以上のことに着目し、ガス種分別部21Dは、第2識別手段として働き、第1比(Ru−A/Ru−C)と第1閾値である「2」とを比較する。なお、上述した第1閾値は、予め測定したエタノール、トルエン、キシレンを供給したときのRu触媒ガスセンサ11の出力から定めた値である。また、上記「2」は第1閾値の一例であり、エタノールか、トルエン又はキシレンかを識別できる値であれば別の値でもよい。
【0038】
そして、ガス種分別部21Dは、第1比(Ru−A/Ru−C)が「2」以上であれば(ステップS13でY)、ピークがありエタノールと判定した後(ステップS14)、ステップS1に戻る。これに対して、ガス種分別部21Dは、第1比(Ru−A/Ru−C)が「2」より小さければ(ステップS13でN)、ピークがなくトルエンかキシレンであると判定する(ステップS15)。これにより、吸着性の高いガス同士のうちエタノールと、トルエン又はキシレンとを識別することができる。
【0039】
その後、ガス種分別部21Dは、Pd触媒ガスセンサ12の第1燃焼値Pd−A及び第2燃焼値Pd−Cの第1比(Pd−A/Pd−C)と、Pt触媒ガスセンサ13の第1燃焼値Pt−A及び第2燃焼値Pt−Cの第1比(Pt−A/Pt−C)とを演算する(ステップ16)。図5に示すように、トルエンであれば第1比(Pd−A/Pd−C)と第1(Pt−A/Pt−C)とがほぼ等しくなるのに対して、キシレンは第1比(Pd−A/Pd−C)と第1(Pt−A/Pt−C)とが等しくならない。
【0040】
以上のことに着目して、ガス種分別部21Dは、第2識別手段として働き、第1比(Pd−A/Pd−C)と第1(Pt−A/Pt−C)とがほぼ等しければ(ステップS17でY)、トルエンと判定した後(ステップS18)、ステップS9に進む。一方、等しくなければ(ステップS17でN)、キシレンと判定する(ステップS19)。これにより、吸着性の高いガス同士のうちトルエンとキシレンとを識別することができる。
【0041】
また、図4(C)に示すように、o−キシレンであれば第1比(Pt−A/Pt−C)が最も大きくなり、m−キシレンであれば第1比(Pt−A/Pt−C)が2番目に大きくなり、p−キシレンであれば第1比(Pt−A/Pt−C)が最も小さくなる。
【0042】
以上のことに着目して、ガス種分別部21Dは、第2識別手段として働き、ステップS16で求めた第1比(Pt−A/Pt−C)が第2閾値である「5」以上であれば(ステップS20でY)、o−キシレンと判定した後(ステップS21)、ステップS9に進む。また、ガス種分別部21Dは、ステップS16で求めた第1比(Pt−A/Pt−C)が第2閾値である「5」未満であり第3閾値である「4」以上であれば(ステップS22でY)、m−キシレンであると判定した後(ステップS23)、ステップS9に進む。
【0043】
また、ガス種分別部21Dは、ステップS16で求めた第1比(Pt−A/Pt−C)が第3閾値である「4」未満であれば(ステップS22でN)、p−キシレンであると判定した後(ステップS24)、ステップS9に進む。これにより、キシレンのうちo−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを識別することができる。なお、上述した第2閾値及び第3閾値は、予め測定したo−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを供給したときのPt触媒ガスセンサ13の出力から定めた値である。また、上記「5」は第2閾値の一例であり、「4」は第3閾値の一例であり、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを識別できる値であれば別の値でもよい。
【0044】
上述したガス識別装置によれば、ガス種分別部21Dが、センサ出力取得部21Cによって取得されたPd触媒ガスセンサ12の第1燃焼値Pd−A及び第2燃焼値Pd−Cから第1比(Pd−A/Pd−C)を演算し、演算した第1比(Pd−A/Pd−C)が吸着判定値よりも小さければ吸着性の低い水素かプロパンと判定し、吸着判定値以上であれば吸着性の高いエタノール、トルエン、キシレンであると判定する。
【0045】
そして、吸着性の高いエタノール、トルエン、キシレンであると判定すると、ガス種分別部21Dが、センサ出力取得部21Cによって取得された各ガスセンサ11、12、13の第1燃焼値Ru-A、Pd-A、Pt-A及び第2燃焼値Ru−C、Pd−C、Pt−Cから第1比(Ru−A/Ru−C)、(Pd−A/Pd−C)、(Pt−A/Pt−C)を演算し、これら演算した第1比(Ru−A/Ru−C)、(Pd−A/Pd−C)、(Pt−A/Pt−C)からエタノール、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンかを識別する。
【0046】
一方、吸着性の低い水素かプロパンであると判定すると、ガス種分別部21Dが、センサ出力取得部21Cによって取得されたPd触媒ガスセンサ12の第2燃焼値Ru−C、Pd−C、Pt−Cから第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)を演算し、これら第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)から水素かプロパンを識別する。従って、複数の接触燃焼式のガスセンサ11、12、13を用いて吸着性の高いガス同士、吸着性の低いガス同士を識別することができるので、接触燃焼式のガスセンサ11、12、13を用いて性質の似たガスでも識別することができる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、ステップ7では第2比(Pd−C/Ru−C)及び水素判定値X1と、第2比(Pt−C/Ru−C)及び水素判定値X2と、の両者を比較していたが、本発明はこれに限ったものではない。例えば、第2比(Pd−C/Ru−C)及び水素判定値X1と、第2比(Pt−C/Ru−C)及び水素判定値X2と、のいずれか一方のみを比較するだけでもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、触媒としてRu、Pd、Ptを用いていたが、本発明はこれに限ったものではない。各種ガスが識別できれば別の触媒であってもよい。
【0049】
また、上述したようなガス種の識別の他に、ガスセンサ11、12、13の出力のピークとこのピークが現れる時間や、ピーク幅に基づいてガス種の識別を行うことも考えられる。このガス種の識別について、図10を参照して以下説明する。図10は、エタノールを供給したときのPd触媒ガスセンサ12の出力とPt触媒ガスセンサ13の出力を示すグラフである。
【0050】
図10に示すように、Pt触媒ガスセンサ13のピークは、Pd触媒ガスセンサ12のピークの2倍となることが分かった。また、Pt触媒ガスセンサ13のピークは、Pd触媒ガスセンサ12のピークに比べて20msec早く検出され、ピーク幅もPd触媒ガスセンサ12の出力に比べてシャープであることが分かった。このような各ガスセンサ11、12、13毎にピークとこのピークが現れる時間や、ピーク幅が異なることを利用して、ガス種の識別を求めることも考えられる。
【0051】
また、ガスセンサ11、12、13の温度を変化させたときの出力に基づいてガス種の識別を行うことも考えられる。このガス種の識別について、図11を参照して以下説明する。図11は、Pd触媒ガスセンサ11、Pt触媒ガスセンサ13の高電圧時の温度を250〜450°Cの間で50°Cずつ変化させ、100ppmのエタノールを供給したときのPd触媒ガスセンサ11、Pt触媒ガスセンサ13の第2燃焼値を示すグラフである。
【0052】
図11に示すように、第2燃焼値の大きさは250°C以下では、Pt触媒ガスセンサ13に比べてPd触媒ガスセンサ12の方が大きいことがわかった。さらに、Pd触媒ガスセンサ12では350°Cで変極点があるのに対して、Pt触媒ガスセンサ13には変極点がないことが分かった。この違いは触媒によってエタノールの酸化反応における活性化エネルギーが異なるためと考えられる。つまり、この違いは触媒の違いによって起こったものだと考えられる。このように各ガスセンサ11、12、13毎にガスセンサ11、12、13の温度を変化させたときの出力が異なることを利用して、ガス種の識別を行うことも考えられる。
【0053】
また、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のガス識別装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示すRu触媒ガスセンサ、Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの詳細な回路図である。
【図3】(A)〜(C)は、図1に示すRu触媒ガスセンサ、Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの平面図、背面図及びA−A線断面図である。
【図4】o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを各々100ppm、供給したときの各ガスセンサの出力を示すグラフである。
【図5】トルエン、p−キシレンを各々100ppm供給したときの各ガスセンサの出力を示すグラフである。
【図6】トルエン、エタノールを各々100ppm供給したときの各ガスセンサの出力をそれぞれ示すグラフである。
【図7】トルエンを100ppm、プロパンを1000ppm供給したときの各ガスセンサの出力を示すグラフである。
【図8】(A)〜(C)は、水素、プロパンを各々1000ppmに供給したときの各ガスセンサの出力を示すグラフである。
【図9】図1に示すガス識別装置を構成するコントローラの処理手順を示すフローチャートである。
【図10】エタノールを供給したときのPd触媒ガスセンサの出力とPtガス触媒センサの出力を示すグラフである。
【図11】Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの高電圧時の温度を250〜450°Cの間で50°Cずつ変化させ、100ppmのエタノールを供給したときのPd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの第2燃焼値を示すグラフである
【符号の説明】
【0055】
8 ガス検知素子(センサ素子)
11s 触媒層(触媒)
21C センサ出力取得部(燃焼値取得手段)
21D ガス種分別部(第1比演算手段、第2比演算手段、第1識別手段、第2識別手段、第3識別手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス識別装置に係り、特に、複数種のガスを識別するガス識別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上述した従来のガス識別装置として例えば特許文献1に記載されたガス種分別機能付きガスセンサが提案されている。このガス種分別機能付きガスセンサは、接触燃焼式のガスセンサを有している。そして、センサ応答波形の時間経過を3つの領域に分け、ピークの有無によるパターン分けによってガス種識別を行っているが、性質の似たガス、例えばメタノールとプロパノールではピークパターンは同じになり識別ができない可能性があり使用が限定される、という問題があった。
【0003】
また、特許文献2に記載されたガスの識別検知方法のように半導体式ガスセンサを用いて複数種のガスを識別するものは提案されているが、接触燃焼式のガスセンサを用いて複数種のガスを識別するものはなかった。
【特許文献1】特開2002−323468号公報
【特許文献2】特開2004−12193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記のような問題点に着目し、接触燃焼式のガスセンサを用いて性質の似たガスでも識別することができるガス識別装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の発明は、可燃ガスと接触燃焼しない低温及び可燃ガスと接触燃焼する高温に順次温度が制御される接触燃焼式のセンサ素子と互いに異なる触媒とを有する複数のガスセンサと、前記センサ素子の前記低温時に前記触媒に吸着した可燃ガスが燃焼しているときの前記ガスセンサの出力を第1燃焼値とし、前記センサ素子の前記低温時に前記触媒に吸着した分の可燃ガスの燃焼が終了した後の前記ガスセンサの出力を第2燃焼値として得る燃焼値取得手段と、を備え、複数種のガスを識別するガス識別装置において、前記燃焼値取得手段が取得した前記燃焼値から同じ触媒のガスセンサの前記第1燃焼値及び前記第2燃焼値の第1比を演算する第1比演算手段と、前記燃焼値取得手段が取得した前記燃焼値から一つのガスセンサの前記第2燃焼値及び他のガスセンサの前記第2燃焼値の第2比を演算する第2比演算手段と、を設けると共に、前記第1比演算手段が演算した前記第1比が予め測定した複数種のガスを供給したときの各ガスセンサの出力から定めた吸着判定値を超えていれば吸着性の高いガスであると判定し、前記吸着判定値以下であれば吸着性の低いガスであると判定する第1識別手段と、前記第1識別手段が前記吸着性の高いガスであると判定したとき、予め測定した前記第1比及び前記ガス種の関係に基づいて前記第1比演算手段が演算した前記第1比からガスを識別する第2識別手段と、前記第1識別手段が前記吸着性の低いガスであると判定したとき、予め測定した前記第2比及び前記ガス種の関係に基づいて前記第2比演算手段が演算した前記第2比からガスを識別する第3識別手段と、を備えたことを特徴とするガス識別装置に存する。
【0006】
請求項2記載の発明は、前記複数のガスセンサの触媒の各々が、ルテニウム、パラジウム及び白金から成り、そして、前記第2識別手段が、前記第1比演算手段により演算された前記ルテニウムを触媒とする前記ガスセンサの前記第1比が第1閾値以上であればエタノールと判定し、そして、前記第1閾値未満であればトルエン又はキシレンと判定するものであることを特徴とする請求項1に記載のガス識別装置に存する。
【0007】
請求項3記載の発明は、前記複数のガスセンサの触媒の各々が、ルテニウム、パラジウム及び白金から成り、そして、前記第3識別手段が、前記第2比演算手段により演算された前記パラジウム及び/又は前記白金を触媒とするガスセンサの前記第2燃焼値と、前記ルテニウムを触媒とするガスセンサの前記第2燃焼値と、の前記第2比が第4閾値以上であれば水素と判定し、そして、前記第4閾値未満であればプロパンと判定するものであることを特徴とする請求項1に記載のガス識別装置に存する。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように請求項1記載の発明によれば、複数の接触燃焼式のガスセンサを用いて吸着性の高いガス同士、吸着性の低いガス同士を識別することができるので、接触燃焼式のガスセンサを用いて性質の似たガスでも識別することができる。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、複数の接触燃焼式のガスセンサを用いて吸着性の高いガス同士のうちエタノールと、トルエン又はキシレンとを識別することができる。
【0010】
請求項3記載の発明によれば、複数の接触燃焼式のガスセンサを用いて吸着性の低いガス同士のうち水素と、プロパンとを識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明のガス識別装置の一実施の形態を示すブロック図である。図2は、図1に示すRu触媒ガスセンサ、Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの詳細な回路図である。図3(A)〜(C)は、図1に示すRu触媒ガスセンサ、Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの平面図、背面図及びAA−AA線断面図である。
【0012】
同図に示すように、ガス識別装置は、Ru触媒ガスセンサ11と、Pd触媒ガスセンサ12と、Pt触媒ガスセンサ13と、コントローラ20と、駆動電源30と、ガス検知出力部40とを備えている。
【0013】
上記ガスセンサ11、12、13はそれぞれ、図2に示すように、可燃性ガスと接触燃焼する接触燃焼式のガス検知素子(センサ素子)8及び比較素子9を有している。ガス検知素子8は、図3に示すように、白金から成るPtヒータ10sと、このPtヒータ10s上に設けられた、可燃ガスの接触燃焼を促進する触媒層11s(触媒)とで構成されている。比較素子9は、Ptヒータ10rと、このPtヒータ10r上に設けられた、可燃ガスの接触燃焼を起こさないアルミナ(Al2O3)層11rとで構成されている。
【0014】
図3(A)及び(B)に示すように、可燃性ガスセンサ1は、シリコン(Si)ウエハ41の上に、(酸化)SiO2膜48c、(窒化)SiN膜48b及び(酸化ハフニウム)HfO2膜48aからなる絶縁薄膜が生膜され、その上に、ガス検知素子8としてPtヒータ10s及び触媒層11s、比較素子9としてPtヒータ10r及びAl2O3層11rが形成されている。また、図3(C)に示すように、Siウエハ41を異方性エッチングして凹部46及び47を形成して、それぞれ薄膜ダイヤフラムDs及びDrを形成することにより熱容量を小さくしている。
【0015】
上記ガス検知素子8のPtヒータ10sと、比較素子9のPtヒータ10rとは、可燃性ガスのない空気中では等しい抵抗値になるように設けられている。また、Ru触媒ガスセンサ11は上記触媒層11sとしてルテニウム(以下Ru)を用い、Pd触媒ガスセンサ12は上記触媒層11sとしてパラジウム(以下Pd)を用い、Pt触媒ガスセンサ13は上記触媒層11sとして白金(以下Pt)を用いている。これにより、Ru、Pd、Ptを各々触媒とした複数のガスセンサ11、12、13を用いてガスの識別を行うことができる。
【0016】
上述したガス検知素子8及び比較素子9は、図2に示すように、抵抗12、13と共にブリッジ回路14を構成している。このブリッジ回路14の端子aと端子bとの間には、ヒータ駆動回路21Aからパルス状のセンサ駆動電圧が供給される。
【0017】
以上の構成によれば、ブリッジ回路14は可燃性ガスのない空気中では平衡状態となり、c、d間に電位差が生じない。これに対して、可燃性ガスを含む空気中では可燃性ガスとの燃焼熱によりガス検知素子8のPtヒータ10sの抵抗値が増加するため不平衡状態となり、c、d間に電位差が生じる。この電位差は可燃性ガスの濃度に比例した値である。そして、ブリッジ回路14の端子c、端子d間に接続されたセンサ出力検出器16が、上記電位差を増幅してセンサ出力V1として出力する。
【0018】
また、ブリッジ回路14に供給されるセンサ駆動電圧は、所定の周期で低電圧、高電圧を繰り返し出力する信号であり、高電圧時間が400msで低電圧時間が10秒である。このセンサ駆動電圧の高電圧時間中にガス検知素子8及び比較素子9が高温に制御されガス検知素子8が可燃ガスと接触燃焼する。一方、低電圧時間中にガス検知素子8及び比較素子9が低温に制御されガス検知素子8は可燃ガスと接触燃焼しない。
【0019】
また、上述したコントローラ20は、ヒータ駆動回路21Aと、補正部21Bと、センサ出力取得部21Cと、ガス種分別部21Dと、メモリ21Eと、を備えている。ヒータ駆動回路21Aは、上述したように駆動電源30の供給電圧からパルス状のセンサ駆動電圧を作ってブリッジ回路14に供給する回路である。本実施形態においてヒータ駆動回路21Aは、センサ駆動電圧の高電圧時にRu触媒ガスセンサ11が450°C、Pd触媒ガスセンサ12が400°C、Pt触媒ガスセンサ13が400°Cになり、低電圧時にガスセンサ11、12、13が200°Cとなるようなセンサ駆動電圧を供給する。この温度は一例で適宜調整可能である。
【0020】
補正部21Bは、ガスセンサ11、12、13の出力の温度補正などを行うものである。センサ出力取得部21Cは、補正部21Bによって補正されたガスセンサ11、12、13の出力を取得してガス種分別部21Dに供給するものである。ガス種分別部21Dは、上記ガスセンサ11、12、13の出力に基づいてガスの識別を行うものである。ガス種分別部21Dによる識別結果は、ガス検知出力部40によって外部の装置などに送られる。また、メモリ21Eには、後述する各種閾値などが格納されている。
【0021】
ところで、エタノールなどの吸着性の高い可燃性ガスは、センサ駆動電圧が低電圧のときに触媒層11s表面に吸着した分がセンサ駆動電圧が高電圧になったとき瞬間的に燃焼する。一方、吸着性の低い水素等の一般的な可燃ガスは、触媒層11s表面への吸着量が少ないので、センサ駆動電圧が高電圧になったときの出力が小さく、ピーク状の出力とならない。
【0022】
従って、このピークの有無により吸着性の高いガスと吸着性の低いガスとの識別を行うことができる。また、吸着性の高いガスは、触媒を変えることによりガスセンサ11、12、13の出力のピーク値が変化する。これに対して吸着性の低いガスは、触媒を変えることによりガスセンサ11、12、13の出力の定常値が変化する。本実施形態は、上記ピーク値を第1燃焼値、上記定常値を第2燃焼値として取得し、各ガスセンサの第1燃焼値、第2燃焼値の違いを利用して、ガス種や異性体の同定と定量を行う。
【0023】
次に、本願発明者らは、供給ガスと、ガスセンサ11、12、13の出力との関係を調べた。結果を図4〜図8に示す。図4(A)〜(C)は、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを各々100ppm、供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力を示すグラフである。図5(A)〜(C)は、トルエン、p−キシレンを各々100ppm供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力を示すグラフである。図6(A)〜(C)は、トルエン、エタノールを各々100ppm供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力をそれぞれ示すグラフである。図7(A)〜(C)は、トルエンを100ppm、プロパンを1000ppm供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力を示すグラフである。図8(A)〜(C)は、水素、プロパンを各々1000ppmに供給したときの各ガスセンサ11、12、13の出力を示すグラフである。
【0024】
図4に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、キシレンに対する出力が小さく、特にo−キシレンに対する出力が小さく、どの異性体にもピーク状の出力は現れないことが分かった。Rd触媒ガスセンサ12は、ピーク状の出力は現れるが、異性体による差はないことが分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、ピーク状の出力が現れ、そのピーク値が異性体によって異なることが分かった。このことから、キシレンの異性体、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを識別できることが分かる。
【0025】
また、図5に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、トルエンとp−キシレンとでは出力に差がないことが分かった。Pd触媒ガスセンサ12は、ピーク状の出力が現れ、ピーク値はp−キシレンの方が大きく、定常値は逆にトルエンの方が大きいことが分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、ピーク値、定常値ともトルエンの方が大きいことが分かった。このことから、p−キシレンとトルエンとを識別することができることが分かる。
【0026】
また、図6に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、トルエンではピークが無いのに対してエタノールではピークが現れることが分かった。Pd触媒ガスセンサ12は、トルエン、エタノールともピーク状の出力が現れたが、ピーク値と定常値との比がトルエンの方が大きいと分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、トルエン、エタノールともピーク状の出力が現れたが、ピーク値と定常値との比がエタノールの方が大きかった。このことから、トルエンとエタノールを識別することができる。
【0027】
また、図7に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、トルエン、プロパンともにピーク状の出力が現れないことが分かった。Pd触媒ガスセンサ12は、トルエンでピーク状の出力が現れたのに対してプロパンではピーク状の出力が現れないことが分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、Pd触媒ガスセンサ12と同様の傾向であるが、プロパンではPd触媒ガスセンサ12の出力に比べて著しく小さな値となることが分かった。このことから、トルエンとプロパンを識別することができる。
【0028】
また、図8に示すように、Ru触媒ガスセンサ11は、水素、プロパン共にほぼ同じ出力を示すことが分かった。Pd触媒ガスセンサ12は、水素の定常値がプロパンの約2倍であることが分かった。Pt触媒ガスセンサ13は、水素での出力に比べてプロパンでの出力が著しく小さな値となることが分かった。このことから、水素とプロパンとを識別することができる。
【0029】
上述したガス種による各ガスセンサ11、12、13の出力の違いを利用してコントローラ20が行うガス種識別動作について図9のフローチャートを参照して以下説明する。まず、電源投入に応じてコントローラ20内のヒータ駆動回路21Aが、センサ駆動電圧をブリッジ回路14に供給する。
【0030】
次に、上記コントローラ20内のセンサ出力取得部21Cは、センサ駆動電圧が低電圧から高電圧になった直後に各ガスセンサ11、12、13の出力に現れるピーク値(即ち低電圧から高電圧になってから一定時間(例えば50ms)経過する間のセンサ出力V1のピーク値)を第1燃焼値Ru−A、Pd−A、Pt−Aとして取得する(ステップS1)。また、センサ出力取得部21Cは、センサ駆動電圧が高電圧から低電圧になる直前のピーク終了後の定常値を第2燃焼値Ru−C、Pd−C、Pt−Aとして取得する(ステップS2)。以上のステップS1及びS2から明らかなようにセンサ出力取得部21Cが請求項中の燃焼値取得手段に相当する。
【0031】
次に、コントローラ20内のガス種分別部21Dは、Pd触媒ガスセンサ12の第1燃焼値Pd−A及び第2燃焼値Pd−Cの第1比(Pd−A/Pd−C)を演算する(ステップS3)。このステップS3から明らかなように、ガス種分別部21Dが請求項中の第1比演算手段に相当する。そして、ガス種分別部21Dは、第1識別手段として働き、ステップS3で演算した第1比(Pd−A/Pd−C)が吸着判定値である「2」よりも小さければ(ステップS4でY)、Rd触媒ガスセンサ12の出力にピークがないと判定し吸着性の低い水素かプロパンであると判定する(ステップS5)。なお、上述した吸着判定値は、予め計測したキシレン、トルエン、エタノール、プロパン、水素を供給したときの各Pd触媒ガスセンサ12の出力から定めた値である。また、上記「2」は吸着判定値の一例であり、吸着性の高いガスか低いガスかを判定できれば別の値でもよい。
【0032】
次に、ガス種分別部21Dは、Pd触媒ガスセンサ12の第2燃焼値Pd−C及びRu触媒ガスセンサ11の第2燃焼値Ru−Cの第2比(Pd−C/Ru−C)と、Pt触媒ガスセンサ13の第2燃焼値Pt−C及びRu触媒ガスセンサ11の第2燃焼値Ru−Cの第2比(Pt−C/Ru−C)とを演算する(ステップS6)。このように比を演算することによりガス濃度による変動を相殺することができ、第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)はガス濃度に依存して変動しない値となる。そして、図8に示すように、水素であれば第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)が大きく、プロパンであれば第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)が小さい。
【0033】
以上のことに着目し、ガス種分別部21Dは、第3識別手段として働き、第2比(Pd−C/Ru−C)と水素判定値X1とを比較して、第2比(Pt−C/Ru−C)と水素判定値X2とを比較する。なお、上述した水素判定値X1は、予め測定した水素、プロパンを供給したときのRu触媒ガスセンサ11、Pd触媒ガスセンサ12の第2燃焼値Ru−C、Pd−Cから定めた値であり、水素判定値X2は、予め測定した水素、プロパンを供給したときのRu触媒ガスセンサ11、Pt触媒ガスセンサ13の第2燃焼値Ru−C、Pt−Cから定めた値である。このことから明らかなように、水素判定値X1、X2は各々請求項中の第4閾値に相当する。
【0034】
そして、ガス種分別部21Dは、第2比(Pd−C/Ru−C)が水素判定値X1より大きく、かつ第2比(Pt−C/Ru−C)が水素判定値X2より大きければ(ステップS7でY)、水素と判定して(ステップS8)、ガス濃度を演算した後(ステップS9)ステップS1に戻る。これに対して、ガス種分別部21Dは、第2比(Pd−C/Ru−C)が水素判定値X1以下であり、かつ第2比(Pt−C/Ru−C)が水素判定値X2以下であれば(ステップS7でN)、プロパンと判定して(ステップS10)、上記ステップS9に進む。これにより、吸着性の低いガス同士のうち水素とプロパンとを識別することができる。
【0035】
一方、ガス種分別部21Dは、ステップS3で演算した第1比(Pd−A/Pd−C)が吸着判定値である「2」以上であれば(ステップS4でN)、Pd触媒ガスセンサ12の出力にピークが現れていると判定し吸着性の高いエタノールかトルエンかキシレンであると判定する(ステップS11)。
【0036】
次に、ガス種分別部21Dは、Ru触媒ガスセンサ11の第1燃焼値Ru−A及び第2燃焼値Ru−Cの第1比(Ru−A/Ru−C)を演算する(ステップS12)。そして、図6に示すように、エタノールであればピークが現れて第1比(Ru−A/Ru−C)が大きく、図4及び図5に示すように、トルエン、キシレンであれば第1比(Ru-A/Ru−C)が小さい。
【0037】
以上のことに着目し、ガス種分別部21Dは、第2識別手段として働き、第1比(Ru−A/Ru−C)と第1閾値である「2」とを比較する。なお、上述した第1閾値は、予め測定したエタノール、トルエン、キシレンを供給したときのRu触媒ガスセンサ11の出力から定めた値である。また、上記「2」は第1閾値の一例であり、エタノールか、トルエン又はキシレンかを識別できる値であれば別の値でもよい。
【0038】
そして、ガス種分別部21Dは、第1比(Ru−A/Ru−C)が「2」以上であれば(ステップS13でY)、ピークがありエタノールと判定した後(ステップS14)、ステップS1に戻る。これに対して、ガス種分別部21Dは、第1比(Ru−A/Ru−C)が「2」より小さければ(ステップS13でN)、ピークがなくトルエンかキシレンであると判定する(ステップS15)。これにより、吸着性の高いガス同士のうちエタノールと、トルエン又はキシレンとを識別することができる。
【0039】
その後、ガス種分別部21Dは、Pd触媒ガスセンサ12の第1燃焼値Pd−A及び第2燃焼値Pd−Cの第1比(Pd−A/Pd−C)と、Pt触媒ガスセンサ13の第1燃焼値Pt−A及び第2燃焼値Pt−Cの第1比(Pt−A/Pt−C)とを演算する(ステップ16)。図5に示すように、トルエンであれば第1比(Pd−A/Pd−C)と第1(Pt−A/Pt−C)とがほぼ等しくなるのに対して、キシレンは第1比(Pd−A/Pd−C)と第1(Pt−A/Pt−C)とが等しくならない。
【0040】
以上のことに着目して、ガス種分別部21Dは、第2識別手段として働き、第1比(Pd−A/Pd−C)と第1(Pt−A/Pt−C)とがほぼ等しければ(ステップS17でY)、トルエンと判定した後(ステップS18)、ステップS9に進む。一方、等しくなければ(ステップS17でN)、キシレンと判定する(ステップS19)。これにより、吸着性の高いガス同士のうちトルエンとキシレンとを識別することができる。
【0041】
また、図4(C)に示すように、o−キシレンであれば第1比(Pt−A/Pt−C)が最も大きくなり、m−キシレンであれば第1比(Pt−A/Pt−C)が2番目に大きくなり、p−キシレンであれば第1比(Pt−A/Pt−C)が最も小さくなる。
【0042】
以上のことに着目して、ガス種分別部21Dは、第2識別手段として働き、ステップS16で求めた第1比(Pt−A/Pt−C)が第2閾値である「5」以上であれば(ステップS20でY)、o−キシレンと判定した後(ステップS21)、ステップS9に進む。また、ガス種分別部21Dは、ステップS16で求めた第1比(Pt−A/Pt−C)が第2閾値である「5」未満であり第3閾値である「4」以上であれば(ステップS22でY)、m−キシレンであると判定した後(ステップS23)、ステップS9に進む。
【0043】
また、ガス種分別部21Dは、ステップS16で求めた第1比(Pt−A/Pt−C)が第3閾値である「4」未満であれば(ステップS22でN)、p−キシレンであると判定した後(ステップS24)、ステップS9に進む。これにより、キシレンのうちo−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを識別することができる。なお、上述した第2閾値及び第3閾値は、予め測定したo−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを供給したときのPt触媒ガスセンサ13の出力から定めた値である。また、上記「5」は第2閾値の一例であり、「4」は第3閾値の一例であり、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを識別できる値であれば別の値でもよい。
【0044】
上述したガス識別装置によれば、ガス種分別部21Dが、センサ出力取得部21Cによって取得されたPd触媒ガスセンサ12の第1燃焼値Pd−A及び第2燃焼値Pd−Cから第1比(Pd−A/Pd−C)を演算し、演算した第1比(Pd−A/Pd−C)が吸着判定値よりも小さければ吸着性の低い水素かプロパンと判定し、吸着判定値以上であれば吸着性の高いエタノール、トルエン、キシレンであると判定する。
【0045】
そして、吸着性の高いエタノール、トルエン、キシレンであると判定すると、ガス種分別部21Dが、センサ出力取得部21Cによって取得された各ガスセンサ11、12、13の第1燃焼値Ru-A、Pd-A、Pt-A及び第2燃焼値Ru−C、Pd−C、Pt−Cから第1比(Ru−A/Ru−C)、(Pd−A/Pd−C)、(Pt−A/Pt−C)を演算し、これら演算した第1比(Ru−A/Ru−C)、(Pd−A/Pd−C)、(Pt−A/Pt−C)からエタノール、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンかを識別する。
【0046】
一方、吸着性の低い水素かプロパンであると判定すると、ガス種分別部21Dが、センサ出力取得部21Cによって取得されたPd触媒ガスセンサ12の第2燃焼値Ru−C、Pd−C、Pt−Cから第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)を演算し、これら第2比(Pd−C/Ru−C)、(Pt−C/Ru−C)から水素かプロパンを識別する。従って、複数の接触燃焼式のガスセンサ11、12、13を用いて吸着性の高いガス同士、吸着性の低いガス同士を識別することができるので、接触燃焼式のガスセンサ11、12、13を用いて性質の似たガスでも識別することができる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、ステップ7では第2比(Pd−C/Ru−C)及び水素判定値X1と、第2比(Pt−C/Ru−C)及び水素判定値X2と、の両者を比較していたが、本発明はこれに限ったものではない。例えば、第2比(Pd−C/Ru−C)及び水素判定値X1と、第2比(Pt−C/Ru−C)及び水素判定値X2と、のいずれか一方のみを比較するだけでもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、触媒としてRu、Pd、Ptを用いていたが、本発明はこれに限ったものではない。各種ガスが識別できれば別の触媒であってもよい。
【0049】
また、上述したようなガス種の識別の他に、ガスセンサ11、12、13の出力のピークとこのピークが現れる時間や、ピーク幅に基づいてガス種の識別を行うことも考えられる。このガス種の識別について、図10を参照して以下説明する。図10は、エタノールを供給したときのPd触媒ガスセンサ12の出力とPt触媒ガスセンサ13の出力を示すグラフである。
【0050】
図10に示すように、Pt触媒ガスセンサ13のピークは、Pd触媒ガスセンサ12のピークの2倍となることが分かった。また、Pt触媒ガスセンサ13のピークは、Pd触媒ガスセンサ12のピークに比べて20msec早く検出され、ピーク幅もPd触媒ガスセンサ12の出力に比べてシャープであることが分かった。このような各ガスセンサ11、12、13毎にピークとこのピークが現れる時間や、ピーク幅が異なることを利用して、ガス種の識別を求めることも考えられる。
【0051】
また、ガスセンサ11、12、13の温度を変化させたときの出力に基づいてガス種の識別を行うことも考えられる。このガス種の識別について、図11を参照して以下説明する。図11は、Pd触媒ガスセンサ11、Pt触媒ガスセンサ13の高電圧時の温度を250〜450°Cの間で50°Cずつ変化させ、100ppmのエタノールを供給したときのPd触媒ガスセンサ11、Pt触媒ガスセンサ13の第2燃焼値を示すグラフである。
【0052】
図11に示すように、第2燃焼値の大きさは250°C以下では、Pt触媒ガスセンサ13に比べてPd触媒ガスセンサ12の方が大きいことがわかった。さらに、Pd触媒ガスセンサ12では350°Cで変極点があるのに対して、Pt触媒ガスセンサ13には変極点がないことが分かった。この違いは触媒によってエタノールの酸化反応における活性化エネルギーが異なるためと考えられる。つまり、この違いは触媒の違いによって起こったものだと考えられる。このように各ガスセンサ11、12、13毎にガスセンサ11、12、13の温度を変化させたときの出力が異なることを利用して、ガス種の識別を行うことも考えられる。
【0053】
また、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のガス識別装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示すRu触媒ガスセンサ、Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの詳細な回路図である。
【図3】(A)〜(C)は、図1に示すRu触媒ガスセンサ、Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの平面図、背面図及びA−A線断面図である。
【図4】o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンを各々100ppm、供給したときの各ガスセンサの出力を示すグラフである。
【図5】トルエン、p−キシレンを各々100ppm供給したときの各ガスセンサの出力を示すグラフである。
【図6】トルエン、エタノールを各々100ppm供給したときの各ガスセンサの出力をそれぞれ示すグラフである。
【図7】トルエンを100ppm、プロパンを1000ppm供給したときの各ガスセンサの出力を示すグラフである。
【図8】(A)〜(C)は、水素、プロパンを各々1000ppmに供給したときの各ガスセンサの出力を示すグラフである。
【図9】図1に示すガス識別装置を構成するコントローラの処理手順を示すフローチャートである。
【図10】エタノールを供給したときのPd触媒ガスセンサの出力とPtガス触媒センサの出力を示すグラフである。
【図11】Pd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの高電圧時の温度を250〜450°Cの間で50°Cずつ変化させ、100ppmのエタノールを供給したときのPd触媒ガスセンサ、Pt触媒ガスセンサの第2燃焼値を示すグラフである
【符号の説明】
【0055】
8 ガス検知素子(センサ素子)
11s 触媒層(触媒)
21C センサ出力取得部(燃焼値取得手段)
21D ガス種分別部(第1比演算手段、第2比演算手段、第1識別手段、第2識別手段、第3識別手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃ガスと接触燃焼しない低温及び可燃ガスと接触燃焼する高温に順次温度が制御される接触燃焼式のセンサ素子と互いに異なる触媒とを有する複数のガスセンサと、前記センサ素子の前記低温時に前記触媒に吸着した可燃ガスが燃焼しているときの前記ガスセンサの出力を第1燃焼値とし、前記センサ素子の前記低温時に前記触媒に吸着した分の可燃ガスの燃焼が終了した後の前記ガスセンサの出力を第2燃焼値として得る燃焼値取得手段と、を備え、複数種のガスを識別するガス識別装置において、
前記燃焼値取得手段が取得した前記燃焼値から同じ触媒のガスセンサの前記第1燃焼値及び前記第2燃焼値の第1比を演算する第1比演算手段と、
前記燃焼値取得手段が取得した前記燃焼値から一つのガスセンサの前記第2燃焼値及び他のガスセンサの前記第2燃焼値の第2比を演算する第2比演算手段と、
を設けると共に、
前記第1比演算手段が演算した前記第1比が予め測定した複数種のガスを供給したときの各ガスセンサの出力から定めた吸着判定値を超えていれば吸着性の高いガスであると判定し、前記吸着判定値以下であれば吸着性の低いガスであると判定する第1識別手段と、
前記第1識別手段が前記吸着性の高いガスであると判定したとき、予め測定した前記第1比及び前記ガス種の関係に基づいて前記第1比演算手段が演算した前記第1比からガスを識別する第2識別手段と、
前記第1識別手段が前記吸着性の低いガスであると判定したとき、予め測定した前記第2比及び前記ガス種の関係に基づいて前記第2比演算手段が演算した前記第2比からガスを識別する第3識別手段と、
を備えたことを特徴とするガス識別装置。
【請求項2】
前記複数のガスセンサの触媒の各々が、ルテニウム、パラジウム及び白金から成り、そして、
前記第2識別手段が、前記第1比演算手段により演算された前記ルテニウムを触媒とする前記ガスセンサの前記第1比が第1閾値以上であればエタノールと判定し、そして、前記第1閾値未満であればトルエン又はキシレンと判定するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のガス識別装置。
【請求項3】
前記複数のガスセンサの触媒の各々が、ルテニウム、パラジウム及び白金から成り、そして、
前記第3識別手段が、前記第2比演算手段により演算された前記パラジウム及び/又は前記白金を触媒とするガスセンサの前記第2燃焼値と、前記ルテニウムを触媒とするガスセンサの前記第2燃焼値と、の前記第2比が第4閾値以上であれば水素と判定し、そして、前記第4閾値未満であればプロパンと判定するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のガス識別装置。
【請求項1】
可燃ガスと接触燃焼しない低温及び可燃ガスと接触燃焼する高温に順次温度が制御される接触燃焼式のセンサ素子と互いに異なる触媒とを有する複数のガスセンサと、前記センサ素子の前記低温時に前記触媒に吸着した可燃ガスが燃焼しているときの前記ガスセンサの出力を第1燃焼値とし、前記センサ素子の前記低温時に前記触媒に吸着した分の可燃ガスの燃焼が終了した後の前記ガスセンサの出力を第2燃焼値として得る燃焼値取得手段と、を備え、複数種のガスを識別するガス識別装置において、
前記燃焼値取得手段が取得した前記燃焼値から同じ触媒のガスセンサの前記第1燃焼値及び前記第2燃焼値の第1比を演算する第1比演算手段と、
前記燃焼値取得手段が取得した前記燃焼値から一つのガスセンサの前記第2燃焼値及び他のガスセンサの前記第2燃焼値の第2比を演算する第2比演算手段と、
を設けると共に、
前記第1比演算手段が演算した前記第1比が予め測定した複数種のガスを供給したときの各ガスセンサの出力から定めた吸着判定値を超えていれば吸着性の高いガスであると判定し、前記吸着判定値以下であれば吸着性の低いガスであると判定する第1識別手段と、
前記第1識別手段が前記吸着性の高いガスであると判定したとき、予め測定した前記第1比及び前記ガス種の関係に基づいて前記第1比演算手段が演算した前記第1比からガスを識別する第2識別手段と、
前記第1識別手段が前記吸着性の低いガスであると判定したとき、予め測定した前記第2比及び前記ガス種の関係に基づいて前記第2比演算手段が演算した前記第2比からガスを識別する第3識別手段と、
を備えたことを特徴とするガス識別装置。
【請求項2】
前記複数のガスセンサの触媒の各々が、ルテニウム、パラジウム及び白金から成り、そして、
前記第2識別手段が、前記第1比演算手段により演算された前記ルテニウムを触媒とする前記ガスセンサの前記第1比が第1閾値以上であればエタノールと判定し、そして、前記第1閾値未満であればトルエン又はキシレンと判定するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のガス識別装置。
【請求項3】
前記複数のガスセンサの触媒の各々が、ルテニウム、パラジウム及び白金から成り、そして、
前記第3識別手段が、前記第2比演算手段により演算された前記パラジウム及び/又は前記白金を触媒とするガスセンサの前記第2燃焼値と、前記ルテニウムを触媒とするガスセンサの前記第2燃焼値と、の前記第2比が第4閾値以上であれば水素と判定し、そして、前記第4閾値未満であればプロパンと判定するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のガス識別装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−185333(P2008−185333A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16267(P2007−16267)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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