説明

ガラスブランクの製造方法、磁気録媒体基板の製造方法および磁気記録媒体の製造方法

【課題】溶融ガラスからプレス成形により磁気記録媒体基板用のガラスブランクを作製するガラスブランクの製造方法において、プレス成形直前の溶融ガラス塊の粘度分布を均一化することにより、板厚偏差が小さく、高い平坦度を有するガラスブランクを製造する方法を提供する。
【解決手段】ガラス流出口より流出する溶融ガラス流を空中に垂下させた状態で切断し、溶融ガラス塊を分離、落下させ、平坦なプレス成形面によりプレスして薄板ガラスに成形する際に、分離時の溶融ガラス塊の水平断面における最大径Aに対する鉛直方向の長さBの比B/Aが0.5〜5の範囲内になるようにガラス流出口の口径を定めるとともに、溶融ガラスの流出粘度が500〜1050dPa・sの範囲で一定となるよう溶融ガラスの流出温度を制御するガラスブランクの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスブランクの製造方法、磁気録媒体基板の製造方法および磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス成形工程を経て磁気記録媒体用基板(磁気ディスク基板)を製造するには、特許文献1に記載されているように、プレス成形によって得た円盤状のガラスブランクの主表面をラッピング工程で研削し、基板として要求されるレベルにまで平坦度を高めるとともに板厚偏差を減少させ、さらに、ポリッシング工程により主表面を仕上げる方法(従来法1)がとられている。ポリッシング工程は主表面を平滑かつ欠陥のない面に仕上げるための工程であって、ディスク主表面の平坦度や、板厚の均一性を高めることはできない。
【0003】
磁気ディスク基板の製法には、特許文献2に記載されているように、フロート法、ダウンドロー法などによってシートガラスを成形し、このシートガラスから円盤状のガラスをくりぬき、中心穴あけ加工、内外周加工、主表面のポリッシング加工を施す方法(従来法2)がある。この方法では、平坦度の高いシートガラスが得られるので、平坦度、板厚の均一性を高めるためのラッピング工程は不要である。
【0004】
従来法1は、ガラスの利用率などの面で従来法2より優れているものの、ラッピング工程が不可欠である。そのため、ラッピング装置が必要、工数が多くなる、加工時間が長くなる、加工コストがかさむなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−54965号公報
【特許文献2】特開2003−36528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来法1によりラッピング工程省略可能なガラスブランクを得るには、ガラスブランクの板厚偏差を小さくするとともに、平坦度を高めることが必要である。従来法1では、ガラス流出口から溶融ガラス流を下型プレス成形面上に流出し、下端部をプレス成形面で受けた状態で溶融ガラス流を切断する。溶融ガラス流から分離された溶融ガラス塊は下型と対向する上型とによりプレスされ、薄板状に成形される。
【0007】
下型の温度は、高温のガラスが融着しないよう溶融ガラスの流出温度よりも十分低く維持されている。そのため、溶融ガラスが下型上に流出してからプレス成形を開始するまでの間、ガラス塊は下型に接している面から熱を奪われ、ガラス塊の下面の粘度が局所的に上昇する。その結果、大きな粘度分布、温度分布が生じたガラス塊をプレス成形することになり、プレスによって伸びにくい部分が生じる。またプレス成形後の冷却速度もプレス成形品の部位ごとに異なるため、板厚偏差が増大したり、平坦度が低下してしまう。
【0008】
こうした状況を回避するには、プレス成形開始直前における溶融ガラス塊の粘度分布を均一にすればよい。そのためには、ガラス流出口から空中に垂下する溶融ガラス流を下型などガラスよりも低温の部材で保持せずに切断し、溶融ガラス塊を分離、落下させ、落下中の溶融ガラス塊をプレス成形すればよい。
【0009】
しかし、ガラス流出口から垂下する溶融ガラス流の下端部と上端部とでは、流出時刻に差があるため、下端部の粘度が上端部の粘度よりも高くなる。このような粘度差が溶融ガラス塊における粘度の均一性を低下させる。従来法1では、こうした溶融ガラス塊の粘度分布を大きくする要因は、ガラスと上下型との接触時間のアンバランスにより生じる粘度分布の中に隠れてしまい、問題になることはなかった。
【0010】
本発明は、溶融ガラスからプレス成形により磁気記録媒体基板用のガラスブランクを作製するガラスブランクの製造方法において、プレス成形直前の溶融ガラス塊の粘度分布、すなわち、温度分布を均一化することにより、板厚偏差が小さく、高い平坦度を有する磁気記録媒体基板用のガラスブランクを製造する方法を提供すること、および、前記方法で作製したガラスブランクをラッピング工程を行わずに磁気記録媒体基板に加工する磁気記録媒体基板の製造方法、ならびに、前記方法で作製した基板を用いて磁気記録媒体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
本発明のガラスブランク製造方法は、ガラス流出口より流出する溶融ガラス流を切断して溶融ガラス塊を分離し、溶融ガラス塊を、プレス成形型を用いて円盤もしくは略円盤状の薄板ガラスにプレス成形して磁気記録媒体用基板に加工されるガラスブランクを作製するガラスブランクの製造方法において、ガラス流出口より流出する溶融ガラス流を空中に垂下させた状態で、溶融ガラス流を切断し、溶融ガラス塊を分離、落下させ、落下中の溶融ガラス塊を平坦なプレス成形面によりプレスして薄板ガラスに成形すること、および、分離時の溶融ガラス塊の水平断面における最大径Aに対する鉛直方向の長さBの比B/Aが0.5〜5の範囲内になるようにガラス流出口の口径を定めるとともに、溶融ガラスの流出粘度が500〜1050dPa・sの範囲で一定となるよう溶融ガラスの流出温度を制御することを特徴とする。
【0012】
本発明のガラスブランク製造方法の一実施態様は、溶融ガラス流の切断位置からプレス成形型のプレス成形面の中心までの高低差を1000mm以内とすることが好ましい。
【0013】
本発明のガラスブランク製造方法の他の実施態様は、酸化物基準に換算し、ガラス成分として、モル%表示で、SiOを50〜75%、Alを1〜15%、LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で12〜35%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびにZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、含むガラスからなる薄板状ガラスをプレス成形することが好ましい。
【0014】
本発明のガラスブランク製造方法の他の実施態様は、 ガラス成分に加え、外割りでCe酸化物を0.1〜3.5質量%添加したガラスからなる薄板状ガラスをプレス成形することが好ましい。
【0015】
本発明のガラスブランク製造方法の他の実施態様は、ガラス成分に加え、Sn酸化物及びCe酸化物が添加され、Sn酸化物及びCe酸化物の外割り合計添加量が0.1〜3.5質量%、Sn酸化物とCe酸化物の合計添加量に対するSn酸化物の添加量の質量比(Sn酸化物の添加量/(Sn酸化物の添加量+Ce酸化物の添加量))が0.01〜0.99であるガラスからなる薄板状ガラスをプレス成形することが好ましい。
【0016】
本発明の磁気記録媒体基板の製造方法は、本発明のガラスブランクの製造方法により作製されたガラスブランクの主表面を研磨する研磨工程を少なくとも経て、磁気記録媒体基板を製造することを特徴とする。
【0017】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の磁気記録媒体基板の製造方法により作製された磁気記録媒体基板上に磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を少なくとも経て、磁気記録媒体を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶融ガラスをプレス成形し、板厚偏差が小さく、高い平坦度を有するガラスブランク、すなわち、ラッピング工程を省略しても所要の板厚偏差と平坦度を有する磁気記録媒体基板を得ることを可能にするガラスブランクの製造方法を提供することができる。その結果、基板の製造工程において、ラッピングを省略することができ、磁気記録媒体基板および磁気記録媒体の生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】水平方向から見たときの、ガラス流出口より流出する溶融ガラス流をシアブレードを用いて切断する様子を示したものである。
【図2】溶融ガラス流を切断して溶融ガラス塊を分離する様子を示すものである。
【図3】分離した溶融ガラス塊が落下する様子を示すものである。
【図4】対向するプレス成形面の間に溶融ガラス塊が落下する様子を示すものである。
【図5】溶融ガラス塊のプレス開始の様子を示すプレス成形型および溶融ガラス塊の垂直断面を示したものである。
【図6】プレスによってガラスを薄板状に押し伸ばす過程を示すプレス成形型およびガラスの垂直断面である。
【図7】プレスによって薄板ガラスに成形したときのプレス成形型および薄板ガラスの垂直断面を示すものである。
【図8】プレス成形面を薄板ガラスに追従させながら薄板ガラスを冷却する様子を示すプレス成形型および薄板ガラスの垂直断面図である。
【図9】薄板ガラスをプレス成形面の一方から離型する様子を示す垂直断面図である。
【図10】薄板ガラスをプレス成形型から取り出す様子を示したものである。
【図11】ガラス流出口から垂下する溶融ガラス流をシアブレードにより切断し、溶融ガラス塊を取得する様子を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[ガラスブランクの製造方法]
本実施形態のガラスブランクの製造方法は、ガラス流出口より流出する溶融ガラス流を切断して溶融ガラス塊を分離し、該溶融ガラス塊を、プレス成形型を用いて円盤もしくは略円盤状の薄板ガラスにプレス成形して磁気記録媒体用基板に加工されるガラスブランクを作製するガラスブランクの製造方法において、ガラス流出口より流出する溶融ガラス流を空中に垂下させた状態で、溶融ガラス流を切断し、溶融ガラス塊を分離、落下させ、落下中の溶融ガラス塊を平坦なプレス成形面によりプレスして薄板ガラスに成形すること、および、分離時の溶融ガラス塊の水平断面における最大径Aに対する鉛直方向の長さBの比B/Aが0.5〜5の範囲内になるようにガラス流出口の口径を定めるとともに、溶融ガラスの流出粘度が500〜1050dPa・sの範囲で一定となるよう溶融ガラスの流出温度を制御することを特徴とする。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本実施形態のガラスブランクの製造方法の一形態について説明する。図1は、ガラス流出管1の下端に開口したガラス流出口から流出する溶融ガラス流2を空中に垂下する。溶融ガラス流2の切断は一対のシアブレード3−1、3−2の先端を交差させ、ガラスを剪断して行う。溶融ガラスの流出粘度は、ガラス流出管1の温度を調整することによって、500dPa・s〜1050dPa・sの範囲で一定となるように制御される。
【0022】
図2は、シアブレード3−1、3−2の先端を隙間ができないように交差させて溶融ガラス流2の下部を切断し、溶融ガラス塊4を分離する瞬間の様子を示したものである。図3は、分離した溶融ガラス塊が落下する様子を示したものである。図4は、プレス成形型5、6の垂直断面を示したものである。
【0023】
プレス成形型5は、プレス成形面5−1−aを有するプレス成形型本体5−1、プレス成形型本体5−1の周りに取り付けられ、プレス成形時にプレス成形面同士の間隔が薄板ガラスの板厚と等しくなるようにプレス成形型6と当接してプレス成形面同士の間隔を定め、かつ薄板ガラスの主表面にプレス成形型本体5−1を追従される際にプレス成形型本体5−1をガイドするガイド部材5−2などによって構成される。
【0024】
プレス成形型を構成する材料としては、耐熱性、加工性、耐久性を考慮すると金属または合金が好ましい。中でもプレス成形型として使用する際の耐熱温度が1000℃以上、好ましくは1100℃以上の金属または合金がより好ましい。具体的には、球状黒鉛鋳鉄(FCD)、合金工具鋼(SKD61など)、高速鋼(SKH)、超硬合金、コルモノイ、ステライトなどが好ましい。
【0025】
プレス成形面をガラスに転写してガラスブランクの主表面を成形するため、プレス成形面の表面粗さとガラスブランク主表面の表面粗さとはほぼ同等になる。ガラスブランク主表面の表面粗さは、後述するスクライブ加工とダイヤモンドシートを用いた研削加工を行う上で、0.01〜10μmの範囲とすることが望ましいため、プレス成形面の表面粗さも0.01〜10μmの範囲とすることが好ましい。
【0026】
プレス成形型6は、プレス成形面6−1−aを有するプレス成形型本体6−1、プレス成形型本体6−1の周りに取り付けられ、プレス成形時にプレス成形面同士の間隔が薄板ガラスの板厚と等しくなるようにプレス成形型5と当接してプレス成形面同士の間隔を定め、かつ薄板ガラスの主表面にプレス成形型本体6−1を追従される際にプレス成形型本体6−1をガイドするガイド部材6−2などによって構成される。
【0027】
図4において、溶融ガラス塊4をプレスするため、前進駆動中のプレス成形型5、6の間に溶融ガラス塊4が落下してくる。図5は、プレス成形面5−1−a、6−1−aによる溶融ガラス塊4のプレスが開始された瞬間を示したものである。
【0028】
溶融ガラス塊4の落下距離を調整する。落下距離は溶融ガラス塊の粘度が上昇してプレス成形に適した粘度範囲を逸脱しないよう、また落下速度が大きくなり過ぎてプレスの位置が変動しないようにするため、1000mm以下とすることが好ましく、500mm以下とすることがより好ましく、300mm以下とすることがさらに好ましく、200mm以下とすることが一層好ましい。
【0029】
溶融ガラス塊の表面がプレス成形面に接触すると、プレス成形面に貼り付くように固化する。プレスを進行させると、溶融ガラス塊とプレス成形面とが最初に接触した位置を中心にガラスが均等な厚みで押し広げられ、円盤状もしくは略円盤状の薄板ガラスに成形される。
【0030】
図6は、上記プレスの過程でガラスが押し広げられる様子を示したものである。図7は、ガイド部材5−1の当接面5−1−aとガイド部材6−1の当接面6−1−aを当接させてプレス成形面5−1−aとプレス成形面6−1−aの間隔をガラスブランクの板厚に相当する距離に規定した状態を示している。当接面5−1−aと当接面6−1−aの当接は、プレス成形面5−1−aとプレス成形面6−1−aとの平行状態を維持する働きもする。図5に示すプレス開始から図7に示す型閉めまでの時間を、溶融ガラス塊を薄板化するために0.1秒以内にすることが好ましい。
【0031】
図8では、当接面5−1−aと当接面6−1−aとを当接した状態で、プレス成形面5−1−a、6−1−aとが薄板ガラスの主表面に密着した状態を維持するように、プレス成形型本体5−1、6−1にプレス圧力よりも十分小さい圧力を加えている。この状態でプレス圧力を大きくするとガラスを破損するおそれがある。この状態を数秒間継続し、薄板ガラスを冷却する。
【0032】
次に、図9に示すようにプレス成形型5、6を後退してプレス成形面6−1−aから薄板ガラス4−Bを離型する。次いで、図10に示すようにプレス成形面5−1−aから薄板ガラス4−Bを離型し、取り出す。プレス成形面5−1−aから薄板ガラス4−Bを離型する際には、薄板ガラスの外周方向から力を加えて薄板ガラスを剥がすように離型すると薄板ガラスに大きな力を加えることなく、プレス成形型からの取り出しを行うことができる。
【0033】
ガラスブランクの板厚、直径(長径と短径の相加平均)は、溶融ガラス塊の量、プレス成形時の対向するプレス成形面の間隔を調整することにより適宜設定することができる。ガラスブランクの板厚の設定範囲、長径と短径の相加平均(外径と呼ぶ)の設定範囲は特に限定されないが、作製しようとする磁気記録媒体基板の厚さ、外径に、加工しろを加えた板厚、径を有するガラスブランクを成形する。典型的なガラスブランクの板厚は0.75〜1.1mm、外径は75〜80mm、外径を板厚で割った外径/板厚比は50〜150、真円度は±0.5mm以内である。
【0034】
プレス成形型の温度は、溶融ガラスの融着を防止するため、溶融ガラスの温度よりも十分低く、かつ、薄板ガラスを成形する際にガラスの伸びを阻害しない温度にすればよい。プレス成形の開始とともに、ガラスのプレス成形面と接触した部分の粘度は急上昇するが、ガラス内部の粘度は低い状態にある。プレス成形速度を遅くするとガラス内部の温度低下により粘度が上昇し、ガラスを上記外径/板厚比になるように薄く伸ばすことが困難になる。そのため、ガラスのプレス開始から対向するプレス成形面の間隔をガラスブランクの厚さにするまでの時間を0.1秒以内とすることが好ましく、0.08秒以内にすることがより好ましい。
【0035】
ガラスブランクの板厚偏差を抑え、平坦度を向上するためには、溶融ガラス塊にプレスによって伸びやすい部分と伸びにくい部分とが生じないよう、プレス開始直前における溶融ガラス塊の粘度分布を均一にすることが望まれる。そのためには、ガラス流出口から空中に垂下する溶融ガラス流を切断し、切断箇所より下の溶融ガラスを分離する。ガラス流出口から垂下する溶融ガラス流は断熱性の高い気体、例えば大気によって囲まれているので、従来法1におけるような局所的な温度低下を避けることができる。
【0036】
さらに、溶融ガラスの流出時間差に起因する溶融ガラス塊の粘度分布を減少させるため、分離時の溶融ガラス塊の水平断面における最大径Aに対する鉛直方向の長さBの比B/Aを0.5〜5の範囲で一定となるようガラス流出口の口径と溶融ガラスの流出粘度をコントロールする。
【0037】
図11は、ガラス流出口から垂下する溶融ガラス流をシアブレードにより切断し、溶融ガラス塊を取得する様子を示した模式断面図である。ここで、図11中、符号AおよびBは、各々、溶融ガラス流2から分離した溶融ガラス塊4の水平断面の最大径および鉛直方向の長さを意味する。そして、図11の上段に示す(A)〜(C)は、比率B/Aが略1前後の溶融ガラス塊4が形成される過程を示したものであり、図11の下段に示す(D)〜(F)は、比率B/Aが1よりも十分に小さい溶融ガラス塊4が形成される過程を示したものである。そして、図11中、(A)および(D)は、溶融ガラス流2から溶融ガラス塊4を分離する前の状態を示し、(B)および(E)は、溶融ガラス流2から溶融ガラス塊4を分離している最中の状態を示し、(C)および(F)は、溶融ガラス流2から溶融ガラス塊4を分離した直後の状態を示している。なお、分離時の溶融ガラス塊の水平断面は、通常、表面張力により円になろうとする。このため、溶融ガラス流2の水平断面形状が円の場合、Aは水平断面の直径となり、長円の場合は長径がAとなる。ここで、比B/Aは、ガラス流出管1の内径、溶融ガラス流2の粘性(温度)、溶融ガラス流2の単位時間当たりの流出量を適切に設定することで、0.5〜5の範囲内で調整できる。なお、溶融ガラス流の単位時間あたりの流出量は、ガラス流出管の口径と溶融ガラス流の流出粘度によって調整可能である。
【0038】
比率B/Aが5を超えると、溶融ガラス塊の上端部と下端部の粘度差が増大し、プレス成形によってガラスを均等に押し広げることが困難になる。その結果、ガラスブランクの板厚偏差が増加し、平坦度も低下する。
【0039】
比率B/Aが0.5未満であると、ガラス流出口の口径が大きくなって溶融ガラス流が太くなる。その結果、溶融ガラスを切断する際に生じるシアマークと呼ばれる切断痕が大きくなり、シアマークを除去するための加工量が増大してしまう。溶融ガラス流を次々に切断して溶融ガラス塊を取得する場合、切断部位はガラス塊の上部と下部にできるが、下部の切断部は上部の切断が行われるまでの間に周りの高温のガラスから熱をもらって粘度が低下し、シアマークが消失するが、上部切断部は溶融ガラス塊の分離からプレス成形までの時間が短いため、こうした再加熱による粘度の低下はおこらない。そのため、比率B/Aを小さくしすぎると、溶融ガラス塊の粘度分布が大きくなってしまう。また、ガラス流出口の口径を過剰に大きくすると、溶融ガラスの流出をコントロールすることが困難になってしまう。
【0040】
このように、比率B/Aは溶融ガラス塊の粘度分布に関係し、溶融ガラス塊の粘度分布はガラスブランクの板厚偏差と平坦度に影響を与えるため、比率B/Aをガラスブランクの板厚偏差と平坦度に関連付けて調整してもよい。
【0041】
なお、比率B/Aの好ましい下限は0.8、より好ましい下限は0.9、さらに好ましい下限は0.95、一層好ましい下限は1.0である。一方、比率B/Aの好ましい上限は4.5、より好ましい上限は4、さらに好ましい上限は3.5、一層好ましい上限は3、より一層好ましい上限は2.5、さらに一層好ましい上限は2である。
【0042】
ガラス流出口の口径は、分離直後の溶融ガラス塊の水平断面における最大径A、および、ガラス流出口に垂下可能な溶融ガラスの質量に影響を与える。したがって、比率B/Aを上記範囲に調整可能なようにガラス流出口の口径を定める。
【0043】
溶融ガラスの流出粘度が500dPa・s未満になると、比率B/Aが上記範囲にある溶融ガラス塊を取得するために必要な溶融ガラス流を垂下することが難しくなる。一方、溶融ガラスの流出粘度が1050dPa・sを超えると均一な板厚を有する薄板ガラスのプレス成形が困難になる。したがって、溶融ガラスの流出粘度を500〜1050dPa・sの範囲とし、一定の直径、板厚、板厚偏差、平坦度のガラスブランクを安定して生産可能にするため、上記流出粘度を溶融ガラスの温度を制御して一定にする。
【0044】
このようにして、薄板化可能な粘度であって、粘度分布が均一な溶融ガラス塊を取得し、この溶融ガラス塊を落下させ、互いに平行に対向する平坦なプレス成形面を備えるプレス成形型を用いて薄板ガラスに成形する。
【0045】
プレス成形面が平坦面からなる一対のプレス成形型を用い、プレス成形面が平行になるようにプレス成形型を対向させて、粘度分布を均一化した溶融ガラス塊をプレス成形することにより、板厚偏差が10μm以内、平坦度が10μm以内のガラスブランクを作製することができる。
【0046】
溶融ガラス塊の落下のタイミングとプレスのタイミングとがずれると、溶融ガラス塊がプレスされる位置が変動する。プレス成形面間の空間に溶融ガラス塊が落下する際のスピードは秒速数メートルに達するため、タイミングのずれによる時間差はプレス位置が変動する原因となる。プレス成形面が平坦面でないと、プレス位置の変動によってガラスブランクの主表面形状も変動し、所要の形状精度を有するガラスブランクを安定して生産することが難しくなる。
【0047】
本実施形態のガラスブランクの製造方法の好ましい態様によれば、対向する一対のプレス成形面を平坦面とし、成形しようとするガラスブランクの主表面よりも広くすることにより、プレス位置が変動しても所要の形状精度を有するガラスブランクを安定して生産することができる。なお、ガラスブランクの平坦度の好ましい範囲は8μm以内、より好ましい範囲は6μm以内、さらに好ましい範囲は4μm以内である。
【0048】
溶融ガラスの流出粘度を所定範囲内で一定化するため、溶融ガラスの温度を制御するが、溶融ガラスの温度制御は、ガラス流出管の加熱度合いを調整することにより行うことができる。例えば、白金などの金属もしくは合金製の流出管を用いる場合は、流出管に電流を流すことによりジュール熱を発生させ、電流を制御することにより、ガラス流出管の中を流れる溶融ガラスの温度を制御する。あるいは、高周波コイルをガラス流出管の周りに配置して、ガラス流出管を高周波誘導加熱し、コイルに流す高周波電流を制御して、ガラス流出管の中を流れる溶融ガラスの温度を制御する。
【0049】
ガラスブランクの板厚偏差を低減し、平坦度を向上させる上から、溶融ガラスの流出粘度の好ましい範囲は600〜900dPa・sである。
【0050】
プレス成形型を構成する材料としては、耐熱性、加工性、耐久性を考慮すると金属または合金が好ましい。中でもプレス成形型として使用する際の耐熱温度が1000℃以上、好ましくは1100℃以上の金属または合金がより好ましい。具体的には、球状黒鉛鋳鉄(FCD)、合金工具鋼(SKD61など)、高速鋼(SKH)、超硬合金、コルモノイ、ステライトなどが好ましい。
【0051】
上記材料の耐熱温度は1250℃程度である。プレス成形型の熱劣化を抑制し、ガラスの失透を回避するには、液相温度が1250℃以下のガラスを使用することが望ましい。
【0052】
板厚偏差が小さく、平坦度の優れたガラスブランクを成形するとともに、ガラス溶融性、耐失透性、磁気記録媒体基板として求められる化学的耐久性、剛性、高熱膨張特性等を実現する上から、好ましいガラスは、酸化物基準に換算し、モル%表示にて、
SiOを50〜75%、
Alを1〜15%、
LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で12〜35%、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびに、
ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%含むガラスである。
【0053】
SiOは、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラス安定性、化学的耐久性、特に耐酸性を向上させる働きをする必須成分である。SiOの含有量が50%未満だと上記働きを十分得ることができず、75%を超えるとガラス中に未溶解物が生じたり、清澄時のガラスの粘性が高くなりすぎて泡切れが不十分になる。従って、SiOの含有量は50〜75%であることが好ましい。SiOの含有量のより好ましい範囲は60〜75%である。
【0054】
Alもガラスのネットワーク形成に寄与し、ガラス安定性、化学的耐久性を向上させる働きをするとともに、化学強化する場合は、化学強化時のイオン交換速度を増加させる働きもする。Alの含有量が1%未満であると前記効果が得られにくくなり、Alの含有量が15%を超えるとガラスの溶融性が低下し、未溶解物が生じやすくなる。また、熱膨張係数が低下し、ヤング率も低下する。したがって、Alの含有量は1〜15%であることが好ましい。Alの含有量の好ましい範囲は5〜14%である。
【0055】
LiO、NaO及びKOは、ガラスの溶融性および成形性を向上させる働きをする。また、熱膨張係数を増加させる働きもする。LiO、NaO及びKOの含有量が12%未満であると上記働きを十分得ることができず、35%を超えると化学的耐久性、特に耐酸性が低下したり、ガラスの熱的安定性が低下する。また、ガラス転移温度が低下し、耐熱性も低下する。したがって、LiO、NaO及びKOの含有量は12〜35%であることが好ましい。LiO、NaO及びKOの含有量のより好ましい範囲は15〜25%である。なお、LiO、NaO及びKOのうち、ガラス転移温度を低下させる働きが最も大きいものはLiOである。
【0056】
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOは、ガラスの溶融性、成形性、ヤング率を向上させる働きをする。また、熱膨張係数、ヤング率を増加させる働きもする。しかし、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量が20%を超えると化学的耐久性やガラスの熱的安定性が低下する。したがって、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量は0〜20%であることが好ましい。MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合計含有量のより好ましい範囲は1〜6%である。
【0057】
ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOは、化学的耐久性、特に耐アルカリ性を改善し、ガラス転移温度を高めて耐熱性を改善し、ヤング率や破壊靭性を高める働きをする。しかし、ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOの合計含有量が10%を越えるとガラスの溶融性が低下し、ガラス中にガラス原料の未溶解物が残ってしまう。したがって、ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOの合計含有量は、0〜10%であることが好ましい。ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOの合計含有量のより好ましい範囲は1〜9%である。
【0058】
上記ガラスを含め、溶融ガラスの泡切れを促進する上で、ガラス成分に加え、外割りでCe酸化物を0.1〜3.5質量%添加したガラスを用いてガラスブランクを成形することが好ましい。
【0059】
流出した溶融ガラスからの放熱は、殆んど熱輻射によるものと考えられる。Ceは高温のガラス中で発光し、熱輻射を助長する作用を有する。その結果、ガラスの熱エネルギーが散逸しやすくなり、流出時間の差による溶融ガラス流の上流と下流の温度差が大きくなりやすい。
【0060】
このように温度差がつきやすいガラスであっても、本実施形態のガラスブランクの製造方法によれば、ガラス流出口の口径を選択した上で、溶融ガラスの流出温度を制御することにより、板厚偏差が小さく、平坦度の優れたガラスブランクを作製することができる。
【0061】
なお、Ce酸化物の添加によるガラスの清澄効果を一層高めるためには、ガラス成分に加え、Sn酸化物及びCe酸化物を添加し、Sn酸化物及びCe酸化物の外割り合計添加量を0.1〜3.5質量%、Sn酸化物とCe酸化物の合計添加量に対するSn酸化物の添加量の質量比(Sn酸化物の添加量/(Sn酸化物の添加量+Ce酸化物の添加量))を0.01〜0.99とすることが望ましい。
【0062】
上記各ガラスは、ガラス原料を溶解し、得られた溶融ガラスを清澄、均質化した後に急冷する、すなわち、溶融ガラスを流出、成形することにより得られる。溶融ガラスを清澄する工程は比較的高温で行われ、均質化の工程は比較的低温で行われる。清澄工程では、ガラス中に積極的に泡を発生させて、ガラス中に含まれる微小な泡を取り込んで大きな泡にすることで浮上しやすくする。一方、流出に向けてガラスの温度を低下させた状態では、ガラス中にガスとして存在する酸素をガラス成分として取り込むことにより泡を消すことが望ましい。Sn、Ceともガスを放出したり、取り込む作用があるが、Snは主として高温状態(1400〜16000C程度の温度域)で酸素を積極的に放出して清澄を促進させる働きが強く、Ceは低温状態(1200〜14000C程度の温度域)で酸素を取り込んでガラス成分として定着させる働きが強い。このように異なる温度領域において優れた清澄作用を示すSnとCeを共存させることにより、Sb、As、Fが制限されたガラスでも十分な泡切れが可能になる。
【0063】
[磁気記録媒体基板の製造方法]
本実施形態の磁気記録媒体基板の製造方法は、本実施形態のガラスブランクの製造方法により作製されたガラスブランクの主表面を研磨する研磨工程を少なくとも経て、磁気記録媒体基板を製造することを特徴とする。
【0064】
まず、プレス成形して得られたガラスブランクに対してスクライブが行われる。スクライブとは、成形されたガラスブランクを所定のサイズのリング形状とするために、ガラスブランクの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子からなるスクライバにより2つの同心円(内側同心円および外側同心円)状の切断線(線状のキズ)を設けることをいう。2つの同心円の形状にスクライブされたガラスブランクは、部分的に加熱され、ガラスの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分が除去される。これにより、真円形状のディスク状ガラスとなる。
【0065】
ガラスブランクの主表面の粗さが0.01μm以下であるため、スクライバを用いて好適に切断線を設けることができる。なお、ガラスブランクの主表面の粗さが1μmを越える場合、スクライバが表面凹凸に追従せず、切断線を一様に設けることはできないので、主表面を平滑化してからスクライブを行う。
【0066】
次に、スクライブしたガラスの形状加工が行われる。形状加工は、チャンファリング(外周端部および内周端部の面取り)を含む。チャンファリングでは、リング形状のガラスの外周端部および内周端部に、ダイヤモンド砥石により面取りが施される。
【0067】
次にディスク状ガラスの端面研磨が行われる。端面研磨では、ガラスの内周側端面及び外周側端面をブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含むスラリーが用いられる。端面研磨を行うことにより、ガラスの端面での塵等が付着した汚染、ダメージあるいはキズ等の損傷の除去を行うことにより、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0068】
次に、ディスク状ガラスの主表面に第1研磨が施される。第1研磨は、主表面に残留したキズ、歪みの除去を目的とする。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜10μm程度である。取り代の大きい研削工程を行わずに済むため、ガラスには、研削工程に起因するキズ、歪み等は生じない。よって、第1研磨工程における取り代は少なくて済む。
【0069】
第1研磨工程、及び後述する第2研磨工程では、両面研磨装置が用いられる。両面研磨装置は、研磨パッドを用い、ディスク状ガラスと研磨パッドとを相対的に移動させて研磨を行う装置である。両面研磨装置はそれぞれ所定の回転比率で回転駆動されるインターナルギア及び太陽ギアを有する研磨用キャリア装着部と、この研磨用キャリア装着部を挟んで互いに逆回転駆動される上定盤及び下定盤とを有する。上定盤および下定盤のディスク状ガラスと対向する面には、それぞれ後述する研磨パッドが貼り付けられている。インターナルギアおよび太陽ギアに噛合するように装着した研磨用キャリアは遊星歯車運動をして、太陽ギアの周囲を自転しながら公転する。
【0070】
研磨用キャリアにはそれぞれ複数のディスク状ガラスが保持されている。上定盤は上下方向に移動可能であって、ディスク状ガラスの表裏の主表面に研磨パッドを加圧する。そして研磨砥粒(研磨材)を含有するスラリー(研磨液)を供給しつつ、研磨用キャリアの遊星歯車運動と、上定盤および下定盤が互いに逆回転することにより、ディスク状ガラスと研磨パッドとは相対的に移動して、ディスク状ガラスの表裏の主表面が研磨される。なお、第1研磨工程では、研磨パッドとして例えば硬質樹脂ポリッシャ、研磨材としては例えば酸化セリウム砥粒、が用いられる。
【0071】
次に、第1研磨後のディスク状ガラスは化学強化される。化学強化液として、ガラスがLiO、NaOを含む場合、例えば硝酸カリウム(60%)と硝酸ナトリウム(40%)の混合液等を用いることができる。化学強化では、化学強化液が、例えば300℃〜400℃に加熱され、洗浄したガラスが、例えば200℃〜300℃に予熱された後、ガラスが化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬される。この浸漬の際には、ガラスの両主表面全体が化学強化されるように、複数のガラスが端面で保持されるように、ホルダに収納した状態で行うことが好ましい。LiOフリーガラスの場合は、化学強化液を硝酸カリウムの溶融塩とすることが好ましい。
【0072】
このように、ガラスを化学強化液に浸漬することによって、ガラスの表層のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換され、約50〜200μmの厚さの圧縮応力層が形成される。これにより、ガラスが強化されて良好な耐衝撃性が備わるようになる。なお、化学強化処理されたガラスは洗浄される。例えば、硫酸で洗浄された後に、純水、IPA(イソプロピルアルコール)等で洗浄される。
【0073】
次に、化学強化されて十分に洗浄されたガラスに第2研磨が施される。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。第2研磨は、主表面を鏡面状に仕上げることを目的とする。第2研磨工程では、第1研磨工程と同様に、両面研磨装置を用いてディスク状ガラスに対する研磨が行われるが、使用する研磨液(スラリー)に含有される研磨砥粒、および研磨パッドの組成が異なる。第2研磨工程では、第1研磨工程よりも、使用する研磨砥粒の粒径を小さくし、研磨パッドの硬さを柔らかくする。例えば、第2研磨工程では、研磨パッドとして例えば軟質発砲樹脂ポリッシャ、研磨材としては例えば、第1研磨工程で用いる酸化セリウム砥粒よりも微細な酸化セリウム砥粒、が用いられる。
【0074】
第2研磨工程で研磨されたディスク状ガラスは、再度洗浄される。洗浄では、中性洗剤、純水、IPAが用いられる。第2研磨により、主表面の平坦度が4μm以下であり、主表面の粗さが0.2nm以下の磁気ディスク用ガラス基板が得られる。この後、磁気ディスク用ガラス基板に、磁性層等の各層が成膜されて、磁気ディスクが作製される。
【0075】
なお、化学強化工程は、第1研磨工程と第2研磨工程との間に行われるが、この順番に限定されない。第1研磨工程の後に第2研磨工程が行われる限り、化学強化工程は、適宜配置することができる。例えば、第1研磨工程→第2研磨工程→化学強化工程(以下、工程順序1)の順でもよい。但し、工程順序1では、化学強化工程により生じうる表面凹凸が除去されないことになるため、第1研磨工程→化学強化工程→第2研磨工程の工程順序が、より好ましい。
【0076】
[磁気記録媒体の製造方法]
本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、本実施形態の磁気記録媒体基板の製造方法により作製された磁気記録媒体基板上に磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を少なくとも経て、磁気記録媒体を製造することを特徴とする。
【0077】
前述の方法で作製した磁気記録媒体基板(磁気ディスク用ガラス基板)の主表面上に、磁性層等の層を成膜して、磁気記録媒体基板(磁気ディスク)を作製する。例えば、基板主表面側から、付着層、軟磁性層、非磁性下地層、垂直磁気記録層、保護層および潤滑層を順次積層する。付着層には、例えばCr合金等が用いられ、ガラス基板との接着層として機能する。軟磁性層には、例えばCoTaZr合金等が用いられ、非磁性下地層には、例えばグラニュラー非磁性層等が用いられ、垂直磁気記録層には、例えばグラニュラー磁性層等が用いられる。また、保護層には、水素カーボンからなる材料が用いられ、潤滑層には、例えばフッ素系樹脂等が用いられる。
【0078】
より具体的には、ガラス基板に対して、インライン型スパッタリング装置を用いて、ガラス基板の両主表面に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、CoCrSiO2の非磁性グラニュラー下地層、CoCrPt−SiO2・TiO2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を順次成膜する。さらに、成膜された最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層を成膜して磁気記録媒体(磁気ディスク)を得る。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限られるものではない。
【0080】
(実施例1)
表1に示す5種のガラス(No.1〜No.4)が得られるように酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、十分混合して調合原料とした。この原料をガラス溶解炉内の溶融槽内に投入し、加熱、溶融し、得られた溶融ガラスを溶融槽から清澄槽へと流して清澄槽内で脱泡を行い、さらに作業槽へと流して作業槽内で攪拌、均質化し、作業槽の底部に取り付けたガラス流出管から流出した。溶融槽、清澄槽、作業槽、ガラス流出パイプはそれぞれ温度制御され、各工程においてガラスの温度、粘度が最適状態に保たれる。
【0081】
ガラス流出管より流出する溶融ガラスを鋳型に鋳込み成形した。得られたガラスを試料として、ガラス転移温度、液相温度を測定した。ガラス転移温度と液相温度の測定方法を以下に示す。
(1)ガラス転移温度Tg
各ガラスのガラス転移温度Tgを、熱機械分析装置(TMA)を用いて測定した。
(2)液相温度
白金ルツボにガラス試料を入れ、所定温度にて2時間保持し、炉から取り出し冷却後、結晶析出の有無を顕微鏡により観察し、結晶の認められない最低温度を液相温度(L.T.)とした。
各ガラスのガラス転移温度と液相温度を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
これらの4種のガラスを使用して順次、ガラスブランクを作製した。ガラスブランクの作製は、図1〜図10に示す方法による。
【0084】
溶融ガラスの流出粘度は600〜900dPa・sの範囲で一定となるように調整し、ガラス流出口の口径をφ13mm〜φ17mmの範囲で調整し、分離時の溶融ガラス塊の比率B/Aの値を4.5、3、2、1となるようにして、それぞれの比率でプレス成形を行った。比率B/Aは、分離時の溶融ガラス塊を高速度カメラで撮影し、画像上のサイズから求める。プレス成形型本体5−1、6−1、ガイド部材5−1、6−1は、鋳鉄(FCD)製とした。
【0085】
溶融ガラス塊が分離してからプレスされるまでの落下距離が200mm以内となるようにプレス成形型の高さを調整した。プレス開始から型閉めまでの時間を0.1秒以内とし、プレス圧力を6.7MPa程度とした。次いで圧力を下げて数秒程度、両プレス成形面をガラスに密着した状態を保ち、ガラスを冷却させる。次にプレス圧力を解除し、プレス成形型を後退させ、ガラスブランクを離型し、取り出す。なお、上記一連の工程において、冷却媒体を用いてプレス成形型を冷却し、温度上昇を抑制するようにしてもよい。
【0086】
得られたガラスブランクの直径(長径と短径の相加平均)、板厚、板厚偏差、平坦度を三次元測定器、マイクロメータを用いて測定した。得られたガラスブランクの直径は70〜78mm、板厚は0.90mm、板厚偏差は10μm以下、平坦度は4μm以下であった。比率B/Aが1〜3の範囲では、長径/短径比が1〜1.1の範囲に収まる。
【0087】
(比較例)
比率B/Aが5を超えると、板厚偏差、平坦度が悪化した。また比率B/Aが0.5よりも小さくなると、板厚偏差、平坦度が急激に悪化した。ガラスブランクはアニールされ歪が低減、除去される。
【0088】
(実施例2)
実施例1において作製したガラスブランクを用い、磁気ディスク基板の外周となる部分と中心孔になる部分にスクライブ加工を施した。こうした加工で、外側および外側に2つの同心円状の溝を形成する。次いで、スクライブ加工した部分を部分的に加熱して、ガラスの熱膨張の差異により、スクライブ加工した溝に沿ってクラックを発生させ、外側同心円の外側部分と内側部分とが除去される。これにより、真円形状のディスク状ガラスとなる。この加工によってシアマークの痕跡が完全に除去される。
【0089】
次に、ディスク状ガラスをチャンファリングなどにより形状加工を施し、さらに端面研磨を行った。次に、ディスク状ガラスの主表面に第1研磨を施した後、ガラスを化学強化液に浸漬して化学強化する。化学強化後、十分に洗浄したガラスに対し、第2研磨を施した。第2研磨工程後、ディスク状ガラスを再度洗浄して磁気ディスク用ガラス基板を作製した。基板の外径は65mm、中心孔径は20mm、厚さは0.8mmで、主表面の平坦度が4μm以下、主表面の粗さが0.2nm以下であり、ラッピング工程なしに所望形状の磁気記録媒体基板を得ることができた。
【0090】
(実施例3)
実施例2において作製した磁気記録媒体基板(磁気ディスク用ガラス基板)の両主表面上に、インライン型スパッタリング装置を用いて、順に、CrTiの付着層、CoTaZr/Ru/CoTaZrの軟磁性層、CoCrSiO2の非磁性グラニュラー下地層、CoCrPt−SiO2・TiO2のグラニュラー磁性層、水素化カーボン保護膜を成膜し、最上層にディップ法によりパーフルオロポリエーテル潤滑層を成膜して磁気記録媒体(磁気ディスク)を得た。このようにして得た磁気ディスクをハードディスクドライブに組み込み、動作確認をしたところ所期の性能を得ることができた。
【符号の説明】
【0091】
1 ガラス流出管
2 溶融ガラス流
3−1、3−2 シアブレード
4 溶融ガラス塊
5、6 プレス成形型
5−1、5−2 プレス成形型本体
6−1、6−2 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス流出口より流出する溶融ガラス流を切断して溶融ガラス塊を分離し、上記溶融ガラス塊を、プレス成形型を用いて円盤もしくは略円盤状の薄板ガラスにプレス成形して磁気記録媒体用基板に加工されるガラスブランクを作製するガラスブランクの製造方法において、
上記ガラス流出口より流出する上記溶融ガラス流を空中に垂下させた状態で、上記溶融ガラス流を切断し、上記溶融ガラス塊を分離、落下させ、落下中の上記溶融ガラス塊を平坦なプレス成形面によりプレスして上記薄板ガラスに成形すること、
および、分離時の上記溶融ガラス塊の水平断面における最大径Aに対する鉛直方向の長さBの比B/Aが0.5〜5の範囲内になるように上記ガラス流出口の口径を定めるとともに、上記溶融ガラスの流出粘度が500〜1050dPa・sの範囲で一定となるよう上記溶融ガラスの流出温度を制御することを特徴とするガラスブランクの製造方法。
【請求項2】
前記溶融ガラス流の切断位置から前記プレス成形型のプレス成形面の中心までの高低差を1000mm以内とすることを特徴とする請求項1に記載のガラスブランクの製造方法。
【請求項3】
酸化物基準に換算し、ガラス成分として、モル%表示で、
SiOを50〜75%、
Alを1〜15%、
LiO、NaO及びKOから選択される少なくとも1種の成分を合計で12〜35%、
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜20%、ならびに
ZrO、TiO、La、Y、Ta、Nb及びHfOから選択される少なくとも1種の成分を合計で0〜10%、
含むガラスからなる前記薄板状ガラスをプレス成形することを特徴とする請求項1または2に記載のガラスブランクの製造方法。
【請求項4】
前記ガラス成分に加え、外割りでCe酸化物を0.1〜3.5質量%添加したガラスからなる前記薄板状ガラスをプレス成形することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスブランクの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス成分に加え、Sn酸化物及びCe酸化物が添加され、上記Sn酸化物及び上記Ce酸化物の外割り合計添加量が0.1〜3.5質量%、上記Sn酸化物と上記Ce酸化物の合計添加量に対する上記Sn酸化物の添加量の質量比(Sn酸化物の添加量/(Sn酸化物の添加量+Ce酸化物の添加量))が0.01〜0.99であるガラスからなる前記薄板状ガラスをプレス成形することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラスブランクの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラスブランクの製造方法により作製されたガラスブランクの主表面を研磨する研磨工程を少なくとも経て、磁気記録媒体基板を製造することを特徴とする磁気記録媒体基板の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の磁気記録媒体基板の製造方法により作製された磁気記録媒体基板上に磁気記録層を形成する磁気記録層形成工程を少なくとも経て、磁気記録媒体を製造することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−213551(P2011−213551A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83811(P2010−83811)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】